JP3614816B2 - 磁性素子およびそれを用いた電源 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、産業用や民生用の電子機器に対して直流安定化電力を供給するスイッチング電源装置などに用いられる、小型、薄型かつ低損失の磁性素子、およびその磁性素子を用いた電源に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器の小型化、薄型化、高性能化、省エネルギー化などに伴い、これらに用いられる磁性素子も、これまでより小型、薄型で、かつ低損失なものが強く求められている。磁性素子に生じる損失には、鉄損と銅損との2種類が主に考えられる。銅損は、主として磁性素子に含まれるコイルの直流抵抗成分に応じてもたらされる損失であり、鉄損は、主として磁性素子に含まれる磁性体およびコイルに発生する渦電流に応じてもたらされる損失である。したがって、磁性素子の損失を低減しようとすれば、これらコイルの抵抗による損失と、渦電流による損失との、双方の低減を考慮する必要がある。
【0003】
以下、従来の磁性素子の構成例について説明する。
【0004】
まず、均等幅の導線からなるコイルを持つ磁性素子の、コイル中心軸から半径方向の断面図を図13に示す。図13の例では、平板状に形成されたコイル24の両面に、素子のインダクタンスを増加するために平板状の磁性体21が積層されている。磁性素子を、このような構成にすることにより、小型かつ薄型の磁性素子を簡便に高精度に実現することができる。また、さらに素子のインダクタンスを増加させるために、図13のように、磁心22や外足23に相当する部分に磁性体を埋め込んでもよい。このような構成は、例えば、特開2001−85421号公報などに開示されている。
【0005】
次に、コイルの導線幅を変化させた磁性素子(特開平11−40438号公報に開示)の、コイル中心軸から半径方向の断面図を図14および図15に示す。図13の例とはコイル24の形状が異なり、コイルの導線幅を、その部分を鎖交する磁束の強さに応じて変えることによって、高周波領域における抵抗損失の低減が図られている。また、この磁性素子では、渦電流による損失を同時に低減させることができる。コイルを鎖交する磁束によってコイルに渦電流が発生するため、鎖交する磁束の強い領域(コイル最内周付近および最外周付近)におけるコイル導線幅を相対的に狭くすることにより、渦電流の発生を低減できるからである。図14の例では、コイル最内周から数ターン、および最外周のコイルの導線幅が狭められている。図15の例では、コイル最内周から数ターンおよび最外周から数ターンのコイルの導線幅が狭められている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記したような均等幅の導線からなるコイルを持つ磁性素子では、磁心から漏れた磁束の多くが、最内周付近のコイルを通るため、渦電流による損失が発生するという問題があった。特に小型、薄型を目指した磁性素子では、コイル導線の必要な幅の確保や、インダクタンス、直流抵抗、直流重畳特性などの特性維持のために、コイル中心部分に十分な断面積を確保することが難しい。そのため、中心部分を通れない磁束が、外側に漏れる程度がより強くなってしまう。また、コイル中心部分に置かれる磁性体に低透磁率の素材を用いた場合や、ギャップを設けた場合などにおいても、漏れ磁束の量は増大する。このような漏れ磁束を原因とした渦電流による損失は、小型化、薄型化に対応するためにコイルの導線幅が広がれば広がるほど大きくなる。また、渦電流による損失は、コイルに流れる電流が高周波になるほど大きくなる。そのため、小型、薄型を目指した磁性素子を、高周波スイッチングを行う電源などに用いる場合、とりわけ損失が増え、全体の効率が低下することになる。
【0007】
一方、特開平11−40438号公報に記載の磁性素子において、コイルを鎖交する磁束の強さのみを考慮してコイルの導線幅を変化させており、上記のような渦電流による損失の低減を図ることができる。しかし、この方法では周長の長い外周部分のコイルの導線幅をも狭くすることから、渦電流による損失を低減させることはできるが、全体の直流抵抗が増加してしまうという問題があった。特に、電源装置などの、主に直流電流を流す用途で用いる磁性素子の場合、この直流抵抗の増加が損失の大きな要因となり、低損失の磁性素子を得るといった目的を達成することが難しくなる。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明の磁性素子は、コイルを含む磁性素子であって、前記コイルの最外周の導線幅が、最内周の導線幅よりも広く、前記コイルの導線が、互いに並列接続している複数の分割導線を含み、前記並列接続している分割導線の数が、コイル外周の導線ほど多いことを特徴とする。
本発明の別の磁性素子は、コイルを含む磁性素子であって、前記コイルの最外周の導線幅が、最内周の導線幅よりも広く、前記コイルが、平角銅線を用いて構成されていることを特徴とする。
本発明のさらに別の磁性素子は、コイルを含む磁性素子であって、前記コイルの最外周の導線幅が、最内周の導線幅よりも広く、前記コイルが、ソレノイド状のコイルを用いて構成されていることを特徴とする。
本発明のさらに別の磁性素子は、コイルを含む磁性素子であって、前記コイルの導線が、互いに並列接続している複数の分割導線を含み、前記並列接続している分割導線の数が、コイル外周の導線ほど多いことを特徴とする。
【0009】
上記の磁性素子において、コイル最外周の導線幅が、コイルの導線の中で最大であることが好ましい。コイルの導線のうち、最外周の周長が最も長いため、最外周の導線幅を最大とすることでコイルの抵抗による損失をより効果的に低減させることができる。
【0010】
上記いずれかの磁性素子において、コイルの導線幅が、最内周から最外周にかけて次第に変化しているものであってもよいし、段階的に変化しているものであっても構わない。
【0011】
本発明の磁性素子は、コイルを含む磁性素子であって、上記コイルの導線が、互いに並列接続している複数の分割導線を含むことを特徴としている。また、最外周の導線幅が最内周の導線幅よりも広いことを特徴とするコイルの導線が、互いに並列接続している複数の分割導線を含むことが好ましい。ここで分割導線とは、コイルの導線を、スリットなどを設けることで複数に分割したそれぞれの部分のことであり、複数の分割導線が並列接続することで、コイルの導線を形成している。並列接続している分割導線同士は、コイルの同じ周を構成していることになる。例えば、図4あるいは図5における8がこの分割導線に相当し、並列接続することで導線7を形成している。このように、コイルの導線を分割することにより、渦電流による損失の低減と、抵抗による損失の低減とを同時に行うことができる。また、並列接続している分割導線に、ねじりを加えるなどで螺旋状にすることで、渦電流による損失の低減をさらに図ることができる。
【0012】
上記いずれかの磁性素子において、コイル最外周の導線が、互いに並列接続している複数の分割導線を含むことが好ましい。また、コイル最内周の導線が、互いに並列接続している複数の分割導線を含むことが好ましい。コイル最外周および最内周においてコイルを鎖交する磁束が強いため、このような構造を含むことで、渦電流による損失をより低減させることができる。また、コイルの抵抗を低減させる目的などで、コイル最外周の導線幅を大きくした場合に特に効果的となる。
【0013】
上記いずれかの磁性素子において、並列接続している分割導線の数が、コイル外周の導線ほど多いことが好ましい。
【0014】
上記いずれかの磁性素子において、並列接続している分割導線の幅が、互いに等しいことが好ましい。
【0015】
上記いずれかの磁性素子において、分割導線間の空隙の幅が、導線間の空隙の幅以下であることが好ましい。
【0016】
上記いずれかの磁性素子において、コイルが平板状であることが好ましい。平板状であれば、磁性素子を小型、薄型にすることができる。
【0017】
上記いずれかの磁性素子において、コイルが、少なくとも1層の、プリント基板上に形成されたコイルパターンを用いて構成されていることが好ましい。また、上記の磁性素子において、コイルパターンが、渦巻状のスリットを用いて得たコイルパターンであることが好ましい。
【0018】
上記いずれかの磁性素子において、コイルが、平角銅線を用いて構成されていることが好ましい。また、上記の磁性素子において、コイルが、平角銅線を、磁心となる磁性体の周りに巻回したものであることが好ましい。
【0019】
上記いずれかの磁性素子において、コイルが、ソレノイド状のコイルを用いて構成されていることが好ましい。
【0020】
上記いずれかの磁性素子において、複数のコイルを含み、上記コイルが互いに磁気的に結合していることが好ましい。
【0021】
上記いずれかの磁性素子において、コイルの面方向に、第1の磁性体を積層した構造であることが好ましい。また、第1の磁性体が、平板状であることが好ましい。上記いずれかの磁性素子において、コイルの中心および外周の少なくとも一方に、第2の磁性体を配置した構造を含むことが好ましい。なお、第1の磁性体と第2の磁性体は、同一の材料を用いたものであっても構わないし、必要に応じて一体化されていてもよい。
【0022】
本発明の電源は、上記いずれかの磁性素子を含むことを特徴としている。
【0023】
上記した磁性素子は、最内周付近のコイルで多く発生する渦電流による損失を低減しつつ、コイルの有する直流抵抗による損失も同時に低減可能とすることができる。その結果、小型、薄型、かつ低損失な磁性素子を提供することができる。また、これらの磁性素子を用いることで、小型で高効率の電源を提供することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明における実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
(実施の形態1)
本発明における実施の形態1について図1〜図3を用いて説明する。
【0026】
図1〜図3は、本実施の形態における磁性素子の例を示す、コイル中心軸から半径方向の断面図である。コイル4の両面に平板状の磁性体1が積層され、コイル最内周内側の中心部にあたる磁心2、およびコイル最外周外側の外周部にあたる外足3には磁性体が配置されている。コイル4は互いに接続された上下2層から成り立っており、合計14ターンとなっている。図13〜図15に示す従来例とは、コイル4以外は同じ構成となっている。
【0027】
図1〜図3に示すように、コイル4は、従来例とは異なり、内周から外周に進むにつれて各周におけるコイルの導線幅が次第に広くなり、最内周の導線幅よりも最外周の導線幅が広くなった構造を特徴としている。
【0028】
言い換えれば、各周におけるコイルの導線幅を、最内周から順に、W1、W2、…、Wn−1、Wn、…、Wp(n:2〜pの整数、Wn>0、Wp:コイル最外周の導線幅)とするとき、Wn−1≦Wn、かつW1<Wpという関係が成り立てばよいことを意味している。また、このとき、部分的にWn−1≦Wnの不等号の向きが逆転していても、その差がもたらす直流抵抗値の増加分がわずかであって、全体として内周の導線幅が狭く外周の導線幅が広い傾向をもつコイルであれば構わない。
【0029】
また、なかでも、コイル最外周の導線幅Wpが、コイルの他の周の導線幅と比較して最大であることが好ましい。コイルの導線のうち、最外周の周長が最も長いためである。
【0030】
本実施の形態における磁性素子は、コイル4が、このような特徴を持つものであればよい。このような特徴を持つコイルであれば、図14および図15に示したような従来例とは異なり、渦電流による損失の低減と、直流抵抗による損失の低減とを同時に図ることができる。
【0031】
例えば、上記の構造を実現するために、図1の例では、各周におけるコイルの導線が、中心軸からの半径に比例した幅を持つように設計されている。これは、図2に示すように半径の2乗に比例した導線幅を持つコイルであってもよいし、図3に示すように3段階に分けられた導線幅を持つコイルであっても構わない。このようにコイルの導線幅は、最内周から最外周方向に対して、段階的に増加していても一律に増加していても構わない。
【0032】
コイルとしては、特に限定されないが、平板状に形成されたものであることが、小型、薄型化のために好ましい。平板状に形成されたコイルとしては、例えば、プリント基板上にあるコイルパターンなどを用いることができる。このようなコイルパターンは、渦巻状のスリットを用いて得ることができる。
【0033】
その他、コイルとして、通常の平角銅線や丸銅線をコイル状にしたものを用いることも可能であり、エッチングやメッキ成長などの、コイルの導線幅を任意に制御できるプロセスによって得たコイルを用いることもできる。
【0034】
なお、コイル4のターン数は、図1〜図3に示す14に限定されるものではない。必要な磁気特性に応じて任意に設定することができる。
【0035】
また、図1〜図3ではコイル4は上下2層の構造になっているが、単層であっても、それぞれのコイル層が接続されていれば3層以上の複数層であっても構わない。層の数は必要な磁気特性に応じて任意に設定することができる。また、接続の方法は直列であっても並列であっても構わない。
【0036】
コイル4のみでも磁性素子として成立するが、図1〜図3に示すようにコイル4の両面に磁性体1を積層することが好ましく、また、磁心2および外足3の部分にも磁性体が配置されることが好ましい。磁性体1は、所望の磁路を確保できるものであれば、形状は限定されないが、小型、薄型の磁性素子のためには、図1〜図3に示すような平板状が好ましい。
【0037】
磁性体1としては、特に限定されないが、なかでもフェライトを用いることが好ましい。また、磁心2および外足3に配置される磁性体としては、特に限定されないが、圧粉磁心材のようなコンポジット磁性材料を用いることが好ましい。第1の磁性体と第2の磁性体は、同一の材料を用いたものであっても構わないし、必要に応じて一体化されていてもよい。
【0038】
本実施の形態における図1〜図3に示す磁性素子と、従来例である図13〜図15に示す磁性素子との特性比較の結果を下記の表1に示す。特性として、インダクタンスと、渦電流による損失を反映するパラメーターである交流抵抗と、直流抵抗とを、有限要素法を用いて算出した。交流抵抗は、1MHz時のものを用いた。図1〜図3にあたるものが、実施例1〜実施例3であり、図13〜図15にあたるものが、比較例1〜比較例3である。また、実施例4として、図1にあたるコイルの、最内周と最外周の間で一部導線幅の変化を逆転させたもの(最内周から数えて3周目と4周目のコイル幅を逆転:上記のWn−1≧Wnの状態にあたる)を用いた。
【0039】
有限要素法に基づく特性解析は、下記の表2および表3に示すパラメーターにて行った。表2に、実施例および比較例として用いたコイルの各周の導線幅を示す。表2における「2T」、「3T」などはそれぞれコイルの最内周から数えて2ターン目(2周目)、3ターン目(3周目)であることを意味している。表2に示す各コイルのターン数は7であるが、これを直列接続で2層積層させ、それぞれターン数が14のモデルとした。また、表3に示すように、実施例および比較例に用いるコイルとして、同一の最内径、最外径、厚み、材質のものを想定し、磁性体もすべて同じ材質のものを想定した。なお、表3の磁性体材料を示す欄において、「A部」とは、図1〜図3に示す磁性体1および図13〜図15に示す磁性体21に相当する部分のことであり、「B部」とは、図1〜図3に示す磁心2、外足3、および、図13〜図15に示す磁心22、外足23に相当する部分のことである。
【0040】
また、各実施例および比較例において、図1〜図3および図13〜図15に示すそれぞれの断面図を中心軸に対して一回転させたモデルを用いた。
【0041】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
表1の結果によれば、実施例および比較例ともに、インダクタンスはすべてほぼ同一であると言える。しかし内周に比べて周長の長い外周部分の導線幅が相対的に広がっている実施例1では、全周にわたって等幅の導線を用いている比較例1に比べ、渦電流による損失低減と直流抵抗による損失低減とが同時に実現できていることがわかる。実施例2および実施例3では、実施例1に比べるとわずかに直流抵抗が上昇しているものの、特に交流抵抗が大きく減少していることがわかる。また、交流抵抗を減らすためにコイルの外周の導線幅を狭くした構造である比較例2および比較例3と比べても、交流抵抗がさらに大きく減少しており、かつ直流抵抗の低減効果も十分大きいと言える。
【0045】
また、一部コイルの導線幅の変化が逆転した構造である実施例4においても、比較例に対して、交流抵抗および直流抵抗の双方の低減が実現できていることがわかる。
【0046】
上記の実施例および比較例では、コイル両面に平板状の磁性体を積層し、磁心および外足にも磁性体が存在する場合を示したが、その他、コイルを鎖交する磁束がより大きい場合においても、渦電流による損失の低減と直流抵抗による損失の低減という両方の効果を得ることができ、相乗的な損失の低減を図ることができる。鎖交磁束が大きい場合としては、コイルのみが存在する場合、コイル両面に磁性体を積層してあるが、磁心が空芯である場合、磁心または外足に透磁率の高い磁性体を用いているが、ギャップが存在する場合、その他、ギャップはないものの、コイル両面の磁性体よりも透磁率の低い材料で磁心または外足を構成してある場合などが考えられる。
【0047】
なお、上記の実施例および比較例では、全体の形が円盤状のモデルを考えて比較したが、その他、円形、楕円形および四角形など、コイルを形成する上で可能な形であれば、どのようなものであっても同様の効果を得ることができる。
【0048】
さらに、中心から見て全方向の導線が上記した特徴を持つコイルであることが最も好ましいが、磁性素子の形状などにより上記した特徴が部分的に満たされない場合でも本発明の効果を得ることができる。
【0049】
(実施の形態2)
以下、本発明における実施の形態2について、図面を参照しながら説明する。
【0050】
図4〜図6は、本実施の形態における磁性素子の例を示す模式図である。図4〜図6に示すように、本実施の形態の磁性素子は、磁心2を中心に渦巻状のコイル4が配置されており、コイル4の導線7が、並列接続している複数の分割導線8に分けられた分割構造を含んでいることを特徴としている。
【0051】
ここで分割導線とは、コイルの導線を、スリットなどを設けることで複数に分割したそれぞれの部分のことである。図4〜図6に示すように、複数の分割導線8が並列接続することで、導線7を形成しており、並列接続している分割導線8同士は、コイルの同じ周を構成していることになる。このような分割構造にするためには、導線にスリットなどを設ければよい。また、逆に独立した複数の導線を、分割導線として並列接続させ、その集合体をひとつの大きな導線として機能させても構わない。さらに、並列接続している分割導線に、ねじりを加えるなどで螺旋状にすることで、渦電流による損失の低減をより図ることができる。
【0052】
なお、このように分割構造を設けた部分のコイルの導線幅は、磁束と直交する分割導線の幅の和とすることができる。
【0053】
上記したような分割構造を含むコイルを用いることで、直流抵抗による損失を増加させることなく、渦電流による損失を同時に低減させた磁性素子を得ることができる。
【0054】
例えば、図6に示すように、導線幅が等幅であるコイルの最外周および最内周に対して本発明の分割構造を与えた場合、図13に示す従来例の等幅導線コイルに比べて渦電流による損失を効果的に低減させることができる。
【0055】
また図6の例では、図14および図15に示す従来例のように、鎖交磁束の強度に応じてコイルの導線幅を減少させるのではなく、分割構造を設けることにより渦電流による損失を低減させている。そのため、コイルの最内周、最外周の導線幅を等価的に最低必要なだけ確保することができ、従来例で見られた、導線幅の減少によって直流抵抗値が大きくなるデメリットを克服することが可能となる。
【0056】
この場合、分割構造は、コイルを鎖交する磁束がコイル最外周および最内周において特に強いため、コイルの最内周または最外周に、あるいは必要に応じて最内周および最外周に同時に設ければよい。また、それぞれの周の一周すべてにわたって分割構造を設けることが好ましいが、少なくとも周の一部に分割構造を設ければ、本発明の効果を得ることができる。
【0057】
また必要に応じて、コイルの最外周から2周まで、最内周から2周までの導線に対して分割構造を設けることもできる。
【0058】
さらにこのような分割構造は、実施の形態1で示したコイルと同様の、外周ほど導線幅が広くなったコイルに対して導入することもできる。その例を図4および図5に示す。図4および図5に示す例では、外周ほど導線幅が広くなったコイル4に分割構造が設けられている。コイルをこのような構成にすることで、渦電流および直流抵抗による両損失を、より効果的に低減させることができる。
【0059】
分割構造は、全周にわたって設けても、一部分に設けても、どちらでも構わない。なかでもコイルを鎖交する磁束の大きい最内周や、コイルの導線幅が相対的に広くなっているコイル4の外周部分に分割構造を設けることがより効果的である。また特に、最外周に設けることが好ましい。最外周が最も周長が長く、抵抗による損失を低減させるために導線幅を広くとる必要があることと、コイルを鎖交する磁束が大きいため、分割構造を導入する効果が大きいからである。また、外周になるにつれてコイルの導線幅が広くなるため、図5に示すように外周ほど分割導線8の数が多いことが好ましい。
【0060】
また、その他、上記した以外の導線幅の傾向を持つコイルに対しても、同様の効果を得ることができる。
【0061】
本実施の形態において、分割導線8の幅は、それぞれ互いに等しいことが好ましい。互いに等しい場合に、最も本発明の効果を得ることができる。
【0062】
また、分割導線8が部分的に導通していても何ら問題はないため、分割導線間の空隙5の幅を、導線間の空隙6の幅以下にすることが好ましい。このような構造を用いた場合、コイルの断面積の減少を最小限に押さえることができ、分割構造の存在による直流抵抗の増加を低減させることができる。
【0063】
図4〜図6にはコイル4の磁心にのみ磁性体が示されているが、実施の形態1におけるコイルと同様に、コイル外周部や、コイルの面方向に磁性体を設ければ特性をより向上させることができる。その他、コイルを鎖交する磁束がより大きい場合においても、渦電流による損失の低減と直流抵抗による損失の低減という両方の効果を得ることができ、相乗的な損失の低減を図ることができる。なお実施の形態1と同様に、本発明の効果はコイルの形状に左右されないため、コイルを形成する上で可能な形であれば、どのような形状であっても構わない。
【0064】
(実施の形態3)
以下、本発明における実施の形態3について、図面を参照しながら説明する。
【0065】
図7は、本実施の形態におけるチョークコイルの例を示す断面図である。図7に示すように、チョークコイルは、磁心2の周囲にコイル4を巻回した構造を含む磁性素子の1種である。
【0066】
このときコイル4が、実施の形態1および2と同様のコイルであれば、渦電流による損失と直流抵抗による損失との双方が低減された、低損失のチョークコイルとすることができる。チョークコイルの場合、なかでも直流抵抗による損失の低減が重要であり、本発明におけるコイル4を用いる効果がとりわけ大きくなる。
【0067】
なぜなら、チョークコイルは一般に、電気回路中の整流、平滑部分に用いられるため、流れる電流は直流重畳された電流であり、負荷が極端に軽い場合を除けば、直流成分の占める割合が高くなる。そのためコイルに流れる電流の実効値を考えた場合、交流成分の割合は少なく、直流成分が大半を占めており、コイルで発生する損失も直流抵抗損失が支配的になるからである。
【0068】
このように損失を低減したコイルは、素子の発熱も抑制できるため、一般的に高価とされている耐熱性の高い絶縁材料や、高効率な放熱手段を用いる必要がないため、小型、薄型の機器を安価に提供することが可能となる。
【0069】
また、本実施の形態における磁性素子において、コイルが平角銅線を用いて構成されていることが好ましい。平角銅線を用いた場合、コイル導線の断面積が大きいため、平板状のコイルでは流せないような大電流に対応させることができるからである。平角銅線により構成されたコイルを有するチョークコイルの例を、図8に示す。磁心2のまわりに平角銅線を用いて構成されたコイル4が巻回された構造をしている。
【0070】
図8に示す構造は、例えば、図9に示すような方法を用いて得ることができる。図9に示すように、幅を徐々に、あるいは段階的に変化させた平角銅線9を磁心2の周囲に巻回すればよい。このとき、磁心2にもっとも近い部分の銅線の幅が狭く、磁心2から離れるにつれて幅を太くした平角銅線9を用いれば、本実施の形態における磁性素子を得ることができる。
【0071】
なお、巻回する際には平角銅線9と磁心2とを絶縁させるために、両者の間に絶縁物を配置しても構わない。絶縁物としては例えば、磁心2となる磁性体の周囲をカバーするボビンなどを用いることができる。絶縁物の材料としては、樹脂など、絶縁物として一般的に用いられているものを用いることができる。
【0072】
また、本実施の形態において、磁性素子の損失が大きく低減されているため、磁心となる磁性体には、金属圧粉材料などの透磁率の低い材料から、フェライトなどの透磁率の高い材料まで、様々な磁性材料を用いることができる。また、磁心がギャップを有していても構わない。
【0073】
(実施の形態4)
以下、本発明における実施の形態4について、図面を参照しながら説明する。
【0074】
図10は、本実施の形態におけるトランスの例を示す断面図である。図10に示すように、トランスは、複数のコイル4が磁気的に結合している構造を含む磁性素子の1種である。
【0075】
スイッチング電源などの電子機器にこのようなトランスを用いた場合、コイル4には整流素子やスイッチ素子などが接続されることになり、直流重畳された電流成分が多く流れることになる。
【0076】
このとき、実施の形態1および2と同様なコイルが少なくとも1つ含まれていれば、実施の形態1〜3と同様に、低損失な磁性素子を実現することができる。
【0077】
(実施の形態5)
以下、本発明における実施の形態5について、図面を参照しながら説明する。
【0078】
図11は、本実施の形態における磁性素子の例を示す断面図である。図11に示す磁性素子において、コイル4としてソレノイド型コイルを用いたことが大きな特徴となっている。
【0079】
このようにソレノイド型のコイルを用いた場合であっても、磁心2からの漏れ磁束は、コイル中心軸に平行する成分が主体であるため、鎖交磁束の強度はコイル中心軸から半径方向の距離によって決まるといえる。したがってコイル4を、実施の形態1〜4と同様の形態を持ったソレノイド型コイルにすることにより、渦電流による損失と直流抵抗による損失とを同時に効果的に低減することができる。その結果、小型、薄型かつ低損失な磁性素子を実現することができる。
【0080】
(実施の形態6)
以下、本発明における実施の形態6について、図面を参照しながら説明する。
【0081】
図12は、本発明における磁性素子を用いて構成された電源の例を示す断面図である。
【0082】
図12に示すように、本発明における磁性素子10を、直流出力の平滑チョークとして、またはトランスなどとして用いれば、渦電流による損失と直流抵抗による損失とを同時に、効果的に低減することができる。その結果、小型、薄型かつ低損失な電源を実現することができる。
【0083】
さらに、この磁性素子を、コンデンサ12、電源制御IC11、スイッチング素子、整流素子などと一体化して立体的に配置することで電源そのものをより小型化することができる。このような電源は、高さ、大きさ、底面積、発熱などの制約の多い負荷の近傍に配置することが可能であり、耐ノイズ性能の向上やパターンの配線が短くなることによる損失低減効果、コンデンサ電極を利用したシールド効果などの相乗効果も期待することができる。
【0084】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、渦電流による損失の低減と、直流抵抗による損失の低減とを同時に達成することのできる、低損失な磁性素子を提供することができる。また、その磁性素子を用いることで、低損失の電源を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における磁性素子の例を示す断面図
【図2】本発明における磁性素子の例を示す断面図
【図3】本発明における磁性素子の例を示す断面図
【図4】本発明における磁性素子に用いられるコイルの例を示す模式図
【図5】本発明における磁性素子に用いられるコイルの例を示す模式図
【図6】本発明における磁性素子に用いられるコイルの例を示す模式図
【図7】本発明における磁性素子の例を示す断面図
【図8】本発明における磁性素子の例を示す模式図
【図9】本発明における磁性素子の製造方法例を示す模式図
【図10】本発明における磁性素子の例を示す断面図
【図11】本発明における磁性素子の例を示す断面図
【図12】本発明における電源の例を示す断面図
【図13】従来における磁性素子の例を示す断面図
【図14】従来における磁性素子の例を示す断面図
【図15】従来における磁性素子の例を示す断面図
【符号の説明】
1、21 磁性体
2、22 磁心
3、23 外足
4、24 コイル
5 分割導線間の空隙
6 導線間の空隙
7 導線
8 分割導線
9 平角銅線
10 磁性素子
11 電源制御IC
12 コンデンサ
Claims (20)
- コイルを含む磁性素子であって、前記コイルの最外周の導線幅が、最内周の導線幅よりも広く、
前記コイルの導線が、互いに並列接続している複数の分割導線を含み、
前記並列接続している分割導線の数が、コイル外周の導線ほど多いことを特徴とする磁性素子。 - コイルを含む磁性素子であって、前記コイルの最外周の導線幅が、最内周の導線幅よりも広く、
前記コイルが、平角銅線を用いて構成されていることを特徴とする磁性素子。 - コイルを含む磁性素子であって、前記コイルの最外周の導線幅が、最内周の導線幅よりも広く、
前記コイルが、ソレノイド状のコイルを用いて構成されていることを特徴とする磁性素子。 - 最外周の導線幅が、コイルの導線の中で最大である請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁性素子。
- コイルの導線幅が、最内周から最外周にかけて次第に広くなっている請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁性素子。
- コイルの導線幅が、最内周から最外周にかけて段階的に広くなっている請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁性素子。
- コイルを含む磁性素子であって、前記コイルの導線が、互いに並列接続している複数の分割導線を含み、
前記並列接続している分割導線の数が、コイル外周の導線ほど多いことを特徴とする磁性素子。 - コイル最外周の導線が、互いに並列接続している複数の分割導線を含む請求項7に記載の磁性素子。
- コイル最内周の導線が、互いに並列接続している複数の分割導線を含む請求項7または8に記載の磁性素子。
- 並列接続している分割導線の幅が、互いに等しい請求項7〜9のいずれか一項に記載の磁性素子。
- コイルの、分割導線間の空隙の幅が、導線間の空隙の幅以下であることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載の磁性素子。
- コイルが、平板状である請求項1〜11のいずれか一項に記載の磁性素子。
- コイルが、少なくとも1層の、プリント基板上に形成されたコイルパターンを用いて構成されている請求項1〜12のいずれか一項に記載の磁性素子。
- コイルパターンが、渦巻状のスリットを用いて得たコイルパターンであることを特徴とする請求項13に記載の磁性素子。
- コイルが、平角銅線を、磁心となる磁性体の周りに巻回して得た構造を含むことを特徴とする請求項2に記載の磁性素子。
- 複数のコイルを含み、前記コイルが互いに磁気的に結合している請求項1〜15のいずれか一項に記載の磁性素子。
- コイルの面方向に、第1の磁性体を積層した構造を含む請求項1〜16のいずれか一項に記載の磁性素子。
- 第1の磁性体が、平板状である請求項17に記載の磁性素子。
- コイルの中心および外周の少なくとも一方に、第2の磁性体を配置した請求項1〜18のいずれか一項に記載の磁性素子。
- 請求項1〜19のいずれか一項に記載の磁性素子を含むことを特徴とする電源。
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