JP3614127B2 - ハイブリッド車両駆動装置の制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハイブリッド車両駆動装置の制御装置に関し、詳細には、エンジン駆動輪及び非エンジン駆動輪のそれぞれについて電気モータが設けられる形式のハイブリッド車両の動力伝達系統において、特にトルクコンバータを備える場合に、電気モータによる低速走行状態から駆動力源をエンジン(内燃機関)に切り換える際の制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のハイブリッド車両駆動装置では、エンジン及び電気モータと、変速機との連結は、遊星ギアや電磁クラッチ等を介して行われていた(特開2000−245013号公報参照)。このような駆動装置では、エンジン及び電気モータと、変速機とを必要に応じて切り離し、駆動力の伝達を途中で遮断することが可能である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
これに対して、エンジン及び電気モータと、変速機とをトルクコンバータを介して連結するものにおいては、エンジン及び電気モータを変速機から物理的に切り離すことができない。このため、それらを駆動すれば、トルクコンバータを介して駆動力が駆動輪に必ず伝達されてしまう。
【0004】
ところで、近年、ハイブリッド車両として、2つの電気モータを備え、一方がエンジン駆動輪を駆動する駆動装置を構成し、他方が非エンジン駆動輪を駆動する駆動装置を構成する形式のものが提案されている。ここで、本出願人は、このような車両の動力伝達系統においてトルクコンバータを採用することを提案している。しかしながら、この場合に、電気モータによる低速走行状態(このとき、非エンジン駆動輪により車両を推進する。)からエンジンによる走行状態に移行する際に駆動力源を単に切り換えただけでは、上記の理由により駆動力が突発的に変化して、不意な加速や減速といった車両挙動が生じてしまう。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジン駆動輪及び非エンジン駆動輪のそれぞれについて電気モータが設けられるハイブリッド車両駆動装置において、エンジン駆動輪に駆動力が常時伝達される状態にある場合に、電気モータによる低速走行状態からエンジンによる走行状態への滑らかな駆動力源の切換えを実現することにある。
【0006】
また、本発明は、このような駆動力源の切換えを最適なタイミングで実施することで、ハイブリッド車両の安定した、かつ効率の高い走行を実現することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1に記載の発明では、(A)内燃機関と、この内燃機関のクランク軸と接続された出力軸を備える第1電気モータとを含んで構成され、第1駆動輪を駆動力が常時伝達される状態で駆動する第1駆動装置と、(B)第2電気モータを含んで構成され、第1駆動装置とは機械的に独立した第2駆動輪を駆動する第2駆動装置と、を備えるハイブリッド車両駆動装置の制御装置を構成し、所定の走行条件において、内燃機関及び第1電気モータを停止する一方で第2電気モータを作動させて走行し、かかる走行状態にあるときに所定の機関起動要求が発生した場合には、第1電気モータを起動するとともに、第1電気モータによる第1駆動輪の駆動力を増加させながら第2電気モータによる第2駆動輪の駆動力を減少させ、第1電気モータの起動後、所定の機関起動条件が成立したことをもって内燃機関を起動することとした。
【0008】
請求項2に記載の発明では、第1駆動装置と第1駆動輪とをトルクコンバータを介して連結して、第1駆動装置が第1駆動輪を駆動力が常時伝達される状態で駆動することとした。
請求項3に記載の発明では、第1駆動装置において、第1電気モータの出力軸を内燃機関のクランク軸中心線上に配置して、内燃機関のクランク軸と第1電気モータの出力軸とを一体に結合することとした。
【0009】
請求項4に記載の発明では、所定の走行条件に車速が所定値よりも低いことを含めることとした。
請求項5に記載の発明では、機関起動要求を、第2電気モータのバッテリの残容量が所定量よりも少なくなったときに発生させることとした。
請求項6に記載の発明では、機関起動要求を、第2電気モータの温度が所定値以上となったときに発生させることとした。
【0010】
請求項7に記載の発明では、機関起動要求を、機関冷却水の温度が所定値よりも低くなったときに発生させることとした。
請求項8に記載の発明では、機関起動要求を、自動変速機(無段変速機を含む概念とし、請求項9においても同様とする。)の油温が所定値よりも低くなったときに発生させることとした。
【0011】
請求項9に記載の発明では、機関起動要求を、自動変速機の油圧が所定値よりも低くなったときに発生させることとした。
請求項10に記載の発明では、所定の走行条件に車速が所定値よりも低いことを含めるとともに、機関起動要求を、車速が前記所定値以上となったときに発生させることとした。
【0012】
請求項11に記載の発明では、機関起動要求の発生に基づく第1電気モータの起動後、第1駆動輪の駆動力を増加させながら第2駆動輪の駆動力を減少させる際に、第1及び第2駆動輪の総駆動力を、運転状態に応じた目標駆動力に一致させることとした。
請求項12に記載の発明では、機関起動条件に内燃機関の吸気負圧が所定値以上となったことを含めることとした。
【0013】
請求項13に記載の発明では、機関起動条件に内燃機関が自立回転可能な所定の回転速度以上となったことを含めることとした。
請求項14に記載の発明では、(A)内燃機関と、この内燃機関のクランク軸と接続された出力軸を備える第1電気モータとを含んで構成され、第1駆動輪を駆動力が常時伝達される状態で駆動する第1駆動装置と、(B)第2電気モータを含んで構成され、第1駆動装置とは機械的に独立した第2駆動輪を駆動する第2駆動装置と、を備えるハイブリッド車両駆動装置の制御装置において、(イ)運転状態に基づいて第1及び第2の駆動輪の総駆動力を算出する総駆動力算出手段と、(ロ)総駆動力算出手段により算出された総駆動力のうち第1及び第2駆動輪のそれぞれに配分される駆動力の比率である駆動力配分率を制御する駆動力配分率制御手段と、(ハ)内燃機関及び第1電気モータを停止する一方で第2電気モータを作動させて走行するべき所定の走行条件が成立しているか否かを判定する走行条件判定手段と、(ニ)駆動力配分率制御手段により制御される第1駆動輪の駆動力配分率に相当する駆動力が得られるように第1駆動装置を制御する第1駆動装置制御手段と、設けた。そして、駆動力配分率制御手段において、走行条件判定手段による判定結果に基づいて上記所定の走行状態にあるときに所定の機関起動要求が発生した場合に、第1駆動輪の駆動力配分率を増加させながら第2駆動輪の駆動力配分率を減少させることとし、また、第1駆動装置制御手段において、機関起動要求の発生により第1電気モータを起動するとともに、かかる起動後、所定の機関起動条件が成立したことをもって内燃機関を起動することとした。
【0014】
【発明の効果】
請求項1に係る発明によれば、第2電気モータによるモータ走行状態から内燃機関による走行状態に移行する際に、駆動力源を即座に切り換えるのではなく、まず、第1駆動輪と第2駆動輪との間で駆動力の配分を変化させ、第1駆動輪の駆動力がある程度上昇した状態で(このとき、第1電気モータがトルクを出力している。)内燃機関を起動する、という過程を経ることになる。このため、請求項2に係る発明のように動力伝達系統においてトルクコンバータを備える場合など、第1駆動輪に駆動力が常時伝達される状態にあっても、内燃機関の起動に伴う駆動力変化が小さく抑えられるので、駆動力源の切換えを滑らかに行うことが可能となる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、内燃機関のクランク軸と第1電気モータの出力軸とを一体に結合したことで、第1電気モータのトルクを第1駆動輪に効率良く伝達するとともに、レイアウトの簡素化が図れる。
請求項4に係る発明によれば、低車速時に第2電気モータによるモータ走行とすることで、他の慣性要素(例えば、内燃機関のクランク軸)の影響を受けずに効率良く走行できる。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、第2電気モータのバッテリの残容量に基づいて機関起動要求を発生させることで、バッテリの残容量が不足する前に駆動力源を切り換えることが可能であるので、駆動装置全体として安定した出力を提供できる。
請求項6に係る発明によれば、第2電気モータの温度に基づいて機関起動要求を発生させることで、第2電気モータの過剰な加熱を防止できるので、第2電気モータの故障を防止できる。
【0017】
請求項7に係る発明によれば、機関冷却水の温度に基づいて機関起動要求を発生させることで、潤滑油を常に適正温度に保持できるので、良好な潤滑状態を維持して、内燃機関を速やかに起動できる。
請求項8に係る発明によれば、自動変速機の油温に基づいて機関起動要求を発生させることで、変速機の潤滑状態を良好に維持できるので、変速機から受ける抵抗を小さく抑えることができる。
【0018】
請求項9に係る発明によれば、自動変速機の油圧に基づいて機関起動要求を発生させ、油圧ポンプを適時に作動させることで、変速機の油圧を常に適正圧力に保持できる。
請求項10に係る発明によれば、請求項4の効果が得られることに加え、第2電気モータとして比較的小型のものを使用した場合であっても、駆動力源を内燃機関に切り換えて高速で走行できる。
【0019】
請求項11に係る発明によれば、第1及び第2駆動輪の総駆動力を目標駆動力に保持しながら各駆動輪の駆動力の配分を変化させることで、運転者の意図する走行を実現できる。
請求項12に係る発明によれば、吸気負圧が充分に発達した状態で内燃機関を起動し、機関出力のオーバーシュートを抑制できるので、第1電気モータによるトルク吸収作用も相まって、切換時の駆動力変化を小さく抑えることができる。
【0020】
請求項13に係る発明によれば、自立回転可能な回転速度にある状態で内燃機関を起動することで、起動が速やかに行われるので、駆動力源の切換えを円滑に達成できる。
請求項14に係る発明によれば、第2電気モータによるモータ走行状態から内燃機関による走行状態に移行する際に、第1駆動輪の駆動力がある程度上昇した状態で内燃機関を起動させることで、内燃機関の起動に伴う駆動力変化が小さく抑えられるので、駆動力源の切換えを滑らかに達成できる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両駆動装置の概略的な構成図である。同図において、向かって左側の車輪9,9が前輪であり、その逆の右側の車輪7,7が後輪である。
【0022】
本車両では、内燃機関(以下、「エンジン」という。)1のクランク軸の出力側に、発電機としての機能を兼ね備える電気モータ(第1電気モータ;以下、「モータジェネレータ」という。)2を直結し、さらに、エンジン1及びモータジェネレータ2に対して、ハイドロマチック・トルクコンバータ(以下、「トルクコンバータ」という。)3及び自動変速機(無段変速機であってもよく、以下、「変速機」という。)4を接続している。そして、変速機4の出力側に接続された動力伝達軸(プロペラシャフト)5により、後輪側差動装置6を介して第1駆動輪としてのエンジン駆動輪(ここでは、後輪7,7)の車輪駆動軸8,8が駆動されるようにしている。
【0023】
ここで、モータジェネレータ2は、エンジン1のアシスト装置としての機能を有するものであり、エンジン1の起動時には、クランキング運転を行うための起動手段として用いられる。
一方、第2駆動輪としての非エンジン駆動輪である前輪9,9については、第2電気モータとしてのモータジェネレータ10が設けられている。モータジェネレータ10の出力側に接続された動力伝達軸(比較的小型のプロペラシャフト)11及び前輪側差動装置12を介して、モータジェネレータ10により発生されたトルクが前輪9,9の車輪駆動軸13,13に伝達され、もって前輪側からも駆動力が得られるようにしている。
【0024】
モータジェネレータ10は、その電力源を構成するバッテリ14に、インバータ15bを介して接続されている。モータジェネレータ10からトルクが得られている状態では、バッテリ14の放電電力がインバータ15bによって三相交流電力に変換されて、モータジェネレータ10に供給される。また、減速運転時には、モータジェネレータ10を発電機として機能させ、制動エネルギーを回生して発電を行い、バッテリ14の充電のために使用することが可能である。
【0025】
一方、モータジェネレータ2は、バッテリ14に、インバータ15aを介して接続されている。そして、モータジェネレータ2からトルクが得られている状態では、バッテリ14の放電電力がインバータ15aによって三相交流電力に変換されて、モータジェネレータ2に供給される。
ここで、後輪駆動軸8,8と前輪駆動軸13,13との間には物理的な結合がなく、前後の駆動軸に対してそれぞれ無関係にトルクを伝達することが可能となっている。すなわち、後輪駆動軸8,8へは、エンジン1及びモータジェネレータ2により、前輪駆動軸13,13へは、モータジェネレータ10により、それぞれトルクが伝達される。
【0026】
通常走行モードでは、後輪7,7のみを駆動輪としてFR方式により車両を推進する。そして、運転者の選択などに基づいて4輪駆動状態とする場合には、モータジェネレータ10から前輪駆動軸13,13にトルクが伝達されることにより、前後両輪を駆動輪として4WD方式を成立させることが可能である。
また、本実施形態に係るハイブリッド車両駆動装置では、所定の低速走行モード(例えば、車速が時速20km未満のとき)において、前輪9,9のみを駆動輪とし、モータジェネレータ10のみにより車両を推進することとする。このとき、変速機4のワンウェイクラッチ機構が空回りして、エンジン1及びモータジェネレータ2の出力軸は静止状態にある。本実施形態では、このような低速走行モードでの運転中に所定の機関起動要求が発生した場合に、駆動力源をモータジェネレータ10からエンジン1に切り換える。以下に、この切換えに係る制御について説明する。
【0027】
まず、制御系統の構成について大まかに説明する。エンジン1、モータジェネレータ2及び10の統合コントローラとしてのハイブリッドコントロールモジュール(以下、「HCM」と略す。)21は、通信ライン61を介して、エンジンコントロールモジュール(以下、「ECM」と略す。)31、モータジェネレータ2及び10の制御装置(モータコントローラ;以下、「M/C」と略す。)32及び33に接続されている。
【0028】
HCM21は、運転状態を含む各種制御情報に基づいて所定の演算を行い、その結果に応じてECM31、M/C32及び33に制御指令を送信する。HCM21への入力情報には、アクセル開度センサ41により検出されるアクセル開度APO、車速センサ42により検出される車速V、電圧センサ43により検出されるバッテリ14の開放端電圧OCV(バッテリ14の充電状態を推定するために使用される。)、温度センサ44により検出されるモータジェネレータ10の温度Tm、水温センサ45により検出されるエンジン冷却水温度Tw、温度センサ46により検出される変速機4の油温To、圧力センサ47により検出される変速機4の油圧Po、圧力センサ48により検出されるエンジン1の吸気圧力Pi、及び回転速度センサ49より検出されるエンジン回転数Neが含まれる。ここで、エンジン回転数Neは、エンジン1とモータジェネレータ2とが直結されていることから、モータジェネレータ2の回転数(本実施形態の説明において、「モータ回転数」という。)と等しい。
【0029】
次に、図2のタイムチャートを参照して、本実施形態に係る駆動力源の切換制御について概念的に説明する。
図2では、駆動装置全体で発生する駆動力である目標総駆動力が一定である低速走行の場合を示している。このような走行状態において、所定の機関起動要求が発生したことをHCM21が検知すると、HCM21は、駆動力源をエンジン1に切り換えるに当たって、前輪9,9の駆動力配分率が100%の状態から、駆動力配分率を後輪7,7へ徐々に移行していき、最終的には、後輪7,7の駆動力配分率が100%の状態とする。ここで、前輪9,9の駆動力(以下、「前輪駆動力」という。)を減少させるには、モータジェネレータ10が発生するトルクを減少させるために、モータジェネレータ10への通電をしかるべく制御すればよいことは、明らかである。
【0030】
一方、後輪7,7の駆動力(以下、「後輪駆動力」という。)の増加に際しては、HCM21は、ECM31及びM/C32に対して、エンジン1及びモータジェネレータ2が以下に述べるようにトルクを発生するように、制御指令を発生する。
図3は、駆動力源の切換えにおいて後輪駆動力を増加させる際のモータジェネレータ2のトルク(以下、「MG1トルク」という。)、エンジン1のトルク(以下、「エンジントルク」という。)及びエンジン回転数(前述の通り、モータ回転数と等しい。)の変化を示している。
【0031】
HCM21は、モータジェネレータ10による低速走行時に、時刻t1において所定の機関起動要求を検出すると、まず、エンジン1を停止させたままでモータジェネレータ2を起動する。
ここで、機関起動要求は、(1)バッテリ14の充電状態が所定レベル未満に低下したこと(換言すれば、残容量が所定量を下回ったこと)、(2)モータジェネレータ10の温度Toが所定値以上となり、モータジェネレータ2について作動制限をかけるべきこと、(3)エンジン冷却水温度Twが所定値未満に低下したこと、(4)変速機4の油温Toが所定値未満に低下したこと、及び(5)変速機4の油圧Poが所定値未満に低下したことのうち、少なくとも1つが検出されたときに発生される。
【0032】
そして、モータジェネレータ2は、その起動後、エンジン1の共振による不快な振動の発生を防止するべく、トルクを瞬時に立ち上げる。例えば、エンジン1の共振周波数が200〜400rpmの回転数域に存在するならば、このようなトルク制御により、時刻t4までの短い時間のうちに、エンジン回転数を450rpm付近にまで一気に上昇させる。
【0033】
モータジェネレータ2によりトルクが出力されることにより、エンジン回転数が上昇するとともに、後輪駆動力が発生する。ここで、エンジン回転数と駆動力との関係は、補正係数等を除いた理論式として下式(1)で示される。なお、Fを駆動力、Neをエンジン回転数、Ctをトルクコンバータ3のトルク容量、Rtをトルク比、Rgをギア伝達比、及びrをタイヤ動半径とする。
【0034】
F=Ne^2×Ct×Rt×Rg/r ・・・(1)
その後、前輪駆動力を徐々に減少させながら、後輪駆動力を徐々に増加させていき、エンジン回転数の上昇に伴ってエンジン1の吸気負圧が充分に発達する時刻t5を待って、その後の時刻t3においてエンジン1を点火起動する。ここで、図3では、吸気負圧の充分な発達が、後輪7,7の駆動力配分率が100%となる時刻t2後に完了するものとして表示されている。しかしながら、吸気負圧の発達は、エンジン1の吸気系統の容量や、モータジェネレータ2によるエンジン回転数の引き上げ方にも依存する。従って、構成次第では、後輪7,7の駆動力配分率が100%となる前に吸気負圧が充分に発達することも想定される。その場合には、その時点で、すなわち、前輪9,9からも駆動力が得られている状態でエンジン1を起動することとしてもよい。
【0035】
なお、吸気負圧の充分な発達に要する時間(以下、「負圧発達時間」という。)に関して、Dレンジ・アイドルストップ直後の走行を想定し、この条件でのものを最大負圧発達時間とするとよい。例えば、負圧発達時間は、モータジェネレータ2の起動から1.2秒ほどとなる。
このようにエンジン1の起動時期を設定することで、起動に伴ってエンジン1から突発的に過大なトルクが発生することを防止できる。このとき、エンジントルクに多少のオーバーシュートは生じ得るものの、その分は、モータジェネレータ2を回転数制御して回生発電運転することにより相殺できるので、エンジン1への駆動力源の切換えを非常に滑らかに達成することが可能である。なお、エンジントルクの増加に呼応してモータトルクを減少させ、後輪駆動力を一定に維持する。
【0036】
図4は、吸気負圧が充分に発達した後にエンジン1を起動することの効果を示したものであり、そのようにエンジン1を起動した場合に発生するトルクを曲線Aで示している。また、比較のために、吸気負圧が不充分な状態でエンジン1を起動した場合のものを曲線Bで示している。
吸気負圧が不充分な状態でエンジン1を起動すると、筒内に空気が過剰に存在することとため、エンジン1から過大なトルクが発生し、大幅なオーバーシュートを生じてしまう。これをモータジェネレータ2の回転数制御により相殺することは、極めて高い制御精度が要求されるために困難である。
【0037】
図5は、以上のように駆動力源を切り換えるための制御の流れを示したフロチャートである。
ステップ(以下、「S」と略す。)1では、アクセル開度APO及び車速Vを読み込み、これらに基づいて目標総駆動力を算出する。目標総駆動力は、前輪駆動力及び後輪駆動力の和に相当する。
【0038】
S2では、現在、モータジェネレータ10のみによるモータ走行中であるか否かを判定する。前述の通り、この条件には、車速Vが時速20kmよりも低いときが該当する。モータ走行中であると判定した場合は、S3へ進む。一方、モータ走行中でない(すなわち、エンジン1を作動している)と判定した場合は、本ルーチンをそのままリターンし、エンジン1により目標総駆動力を得るべく、 しかるべきエンジン制御を行う。
【0039】
S3では、エンジン走行切換要求(機関起動要求)が発生したか否かを判定する。これが発生したと判定した場合は、S4へ進んで、駆動力源の切換えのための制御に移行する。その一方で、未だ発生していないと判定した場合は、本ルーチンをリターンして、モータジェネレータ10による低速走行を継続する。
S4では、エンジン1を起動するに当たり、まず、モータジェネレータ2を起動する。そして、後輪駆動力を増加させながら、前輪駆動力を減少させる。本実施形態では、最終的に、後輪駆動力を目標総駆動力とし、前輪駆動力をゼロとする。
【0040】
S5では、エンジン1の吸気圧力Piを直接検出するか、又はモータジェネレータ2の起動からの経過時間をカウントするなどして、エンジン1の吸気負圧が充分に発達したことが検出された後に、エンジン1を点火起動する。そして、エンジントルクの増加に応じてMG1トルクを減少させ、MG1トルクをゼロとして駆動力源の切換えを完了する。
【0041】
なお、以上では、エンジン1の起動時期を吸気負圧に基づいて設定したが、これに代えて、エンジン1が自立回転可能な回転速度に達したことをもって起動することとしてもよい。モータジェネレータ2によるトルク吸収作用が充分に得られれば、エンジントルクにある程度大きなオーバーシュートが生じたとしても、これを相殺することが可能だからである。
【0042】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。先の第1実施形態では、目標総駆動力を一定とする場合を例に説明したが、ここでは、加速要求が発生して、目標総駆動力が増加する場合について説明する。
まず、図6のタイムチャートを参照して、本実施形態に係る駆動力源の切換制御について概念的に説明する。
【0043】
モータジェネレータ10のみによる低速走行中に、時刻t1においてアクセルが踏み込まれ、アクセル開度APOが増加すると、それに応じて目標総駆動力が増加されて、車両が加速する。そして、時刻t2において車速Vが所定値(ここでは、時速20km)に達すると、モータジェネレータ10の出力限界となり、駆動力源をエンジン1に切り換えるべく機関起動要求が発生する。
【0044】
ここで、モータジェネレータ10の出力限界に達するまでは、モータジェネレータ10により、若干のマージンを確保しながらも基本的には最大トルクを発生するように、モータジェネレータ10への通電を制御する。
そして、時刻t2において出力限界に達して機関起動要求が発生すると、エンジン1を起動することとなるが、その際には、まず、エンジン1を停止させたままでモータジェネレータ2を起動する。ここで、モータジェネレータ10の発生可能なトルクは、回転速度により制限されるが、前輪9,9の駆動力配分率が減少されるため、モータジェネレータ10の出力可能な範囲内でトルクを発生して、要求される前輪駆動力を得ることが可能である。
【0045】
その後、エンジン1の吸気負圧が充分に発達した後の時刻t3において、エンジン1を点火起動する。
エンジン1の起動後は、前輪駆動力を減少させるとともに、後輪駆動力を増加させ、モータジェネレータ10のトルクがゼロとなる時刻t4において駆動力源の切換えが完了する。
【0046】
図7は、後輪駆動力を上記のように増加させる際のMG1トルク、エンジントルク及びモータジェネレータ10の回転数(以下、「モータ回転数」という。)の変化を示している。
時刻t1においてアクセルが踏み込まれると、モータジェネレータ10が回転数を上げ、車両を加速させる。
【0047】
そして、時刻t2においてモータジェネレータ10が出力限界に達すると、機関起動要求が発生する。ここで、モータ回転数が車速Vに比例するため、モータジェネレータ10は、これがトルクを発生しているか、あるいは、電流制御によりトルクを発生せずに回転する状態に置かれているかに拘わらず、時刻t2後も車速Vの上昇に伴って回転数を上げる。
【0048】
モータジェネレータ2は、エンジン1の共振を防止するべく、トルクを瞬時に立ち上げ、起動(時刻t2)から時刻t5までの短い時間のうちに、エンジン回転数を所定値にまで引き上げる。
そして、時刻t6においてエンジン1の吸気負圧が充分に発達したことが検出されると、(多少の余裕をもって)時刻t3においてエンジン1を点火起動する。ここで、エンジン1の起動に伴って発生する若干のオーバーシュートがモータジェネレータ2を回転数制御して回生発電運転することにより相殺されて、後輪駆動力が一定とされることは、前述同様である。
【0049】
さらに、時刻t3以降、エンジントルクを増加させるとともに、モータジェネレータ10のトルクを減少させて、これを最終的にゼロとすることで、駆動力源の切換えが完了する。
以上のように、本発明によれば、エンジン1への駆動力源の切換えに際して、まず、モータジェネレータ2を起動してエンジン駆動輪(後輪7,7)の駆動力をある程度上昇させ、さらに、エンジン1の吸気負圧が充分に発達した状態でエンジン1を起動するので、エンジン1の起動に伴う駆動力の突発的な増加を防止して、不意な加速等の車両挙動を抑え、駆動力源の切換えを滑らかに行うことが可能となる。
【0050】
なお、以上の実施形態の説明では、モータジェネレータ2をエンジン1のクランク軸の出力側に直結する構成としているが、これに限られるものではなく、例えば、モータジェネレータ2を任意の場所に取り付けて、ベルト又はチェーン等の巻掛媒体により、所定の変速比をもってエンジン1のクランク軸と接続してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両駆動装置の構成図
【図2】同上駆動装置の制御装置による駆動力源の切換制御の概念図
【図3】同上切換制御における後輪駆動力の変化を与えるためのMG1トルク及びエンジントルクの制御を示す概念図
【図4】エンジントルクのオーバーシュートの抑制に関する説明図
【図5】上記切換制御のフローチャート
【図6】本発明の他の実施形態に係る駆動力源の切換制御の概念図
【図7】同上切換制御における後輪駆動力の変化を与えるためのMG1トルク及びエンジントルクの制御を示す概念図
【符号の説明】
1…エンジン
2…モータジェネレータ
3…トルクコンバータ
4…自動変速機
5…動力伝達軸
6…後輪側差動装置
7…後輪
8…後輪駆動軸
9…前輪
10…モータジェネレータ
11…動力伝達軸
12…前輪側差動装置
13…前輪駆動軸
14…バッテリ
15a,15b…インバータ
21…ハイブリッドコントロールモジュール
31…エンジンコントロールモジュール
32…モータコントローラ
33…モータコントローラ
Claims (14)
- 内燃機関と、該内燃機関のクランク軸と接続された出力軸を備える第1電気モータとを含んで構成され、第1駆動輪を駆動力が常時伝達される状態で駆動する第1駆動装置と、
第2電気モータを含んで構成され、前記第1駆動装置とは機械的に独立した第2駆動輪を駆動する第2駆動装置と、を備えるハイブリッド車両駆動装置の制御装置であって、
所定の走行条件において、前記内燃機関及び第1電気モータを停止する一方で前記第2電気モータを作動させて走行し、
かかる走行状態にあるときに所定の機関起動要求が発生した場合には、前記第1電気モータを起動するとともに、前記第1電気モータによる前記第1駆動輪の駆動力を増加させながら前記第2電気モータによる前記第2駆動輪の駆動力を減少させ、前記第1電気モータの起動後、所定の機関起動条件が成立したことをもって前記内燃機関を起動することを特徴とするハイブリッド車両駆動装置の制御装置。 - 前記第1駆動装置と前記第1駆動輪とがトルクコンバータを介して連結された請求項1に記載のハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
- 前記第1駆動装置において、前記内燃機関のクランク軸と前記第1電気モータの出力軸とが一体に結合された請求項1又は2に記載のハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
- 前記所定の走行条件として、車速が所定値よりも低いことを含む請求項1〜3のいずれか1つに記載のハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
- 前記機関起動要求を、前記第2電気モータのバッテリの残容量が所定量よりも少なくなったときに発生させる請求項1〜4のいずれか1つに記載のハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
- 前記機関起動要求を、前記第2電気モータの温度が所定値以上となったときに発生させる請求項1〜5のいずれか1つに記載のハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
- 前記機関起動要求を、機関冷却水の温度が所定値よりも低くなったときに発生させる請求項1〜6のいずれか1つに記載のハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
- 前記機関起動要求を、自動変速機の油温が所定値よりも低くなったときに発生させる請求項1〜7のいずれか1つに記載のハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
- 前記機関起動要求を、自動変速機の油圧が所定値よりも低くなったときに発生させる請求項1〜8のいずれか1つに記載のハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
- 前記所定の走行条件として、車速が所定値よりも低いことを含み、前記機関起動要求を、車速が前記所定値以上となったときに発生させる請求項1〜3のいずれか1つに記載のハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
- 前記機関起動要求の発生に基づく前記第1電気モータの起動後、前記第1駆動輪の駆動力を増加させながら前記第2駆動輪の駆動力を減少させる際に、前記第1及び第2駆動輪の総駆動力を、運転状態に応じた目標駆動力に一致させる請求項1〜10のいずれか1つに記載のハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
- 前記機関起動条件として、前記内燃機関の吸気負圧が所定値以上となったことを含む請求項1〜11のいずれか1つに記載のハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
- 前記機関起動条件として、前記内燃機関が自立回転可能な所定の回転速度以上となったことを含む請求項1〜11のいずれか1つに記載のハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
- 内燃機関と、該内燃機関のクランク軸と接続された出力軸を備える第1電気モータとを含んで構成され、第1駆動輪を駆動力が常時伝達される状態で駆動する第1駆動装置と、
第2電気モータを含んで構成され、前記第1駆動装置とは機械的に独立した第2駆動輪を駆動する第2駆動装置と、を備えるハイブリッド車両駆動装置の制御装置において、
運転状態に基づいて前記第1及び第2の駆動輪の総駆動力を算出する総駆動力算出手段と、
前記総駆動力算出手段により算出された総駆動力のうち前記第1及び第2駆動輪のそれぞれに配分される駆動力の比率である駆動力配分率を制御する駆動力配分率制御手段と、
前記内燃機関及び第1電気モータを停止する一方で前記第2電気モータを作動させて走行するべき所定の走行条件が成立しているか否かを判定する走行条件判定手段と、
前記駆動力配分率制御手段により制御される前記第1駆動輪の駆動力配分率に相当する駆動力が得られるように前記第1駆動装置を制御する第1駆動装置制御手段と、を設け、
前記駆動力配分率制御手段が、前記走行条件判定手段による判定結果に基づいて前記所定の走行状態にあるときに所定の機関起動要求が発生した場合に、前記第1駆動輪の駆動力配分率を増加させながら前記第2駆動輪の駆動力配分率を減少させ、また、
前記第1駆動装置制御手段が、前記機関起動要求の発生により前記第1電気モータを起動するとともに、かかる起動後、所定の機関起動条件が成立したことをもって前記内燃機関を起動することを特徴とするハイブリッド車両駆動装置の制御装置。
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