JP3613694B2 - 空気調和方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、壁、床、天井等によって区画され、かつ人間が存在する空間の空調に適した空気調和システムを用いた空気調和方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
壁、床、天井等によって区画された室を冷房する場合、従来から次のような方法が実施されている。
【0003】
(1)空気式冷房
この方法は、従来から一般的な方法である。すなわち図12に示したように、室R内に、室温より低い温度に調整された空調空気を、例えば室Rの下方に設定した給気部101から室R内に給気する。それと共に、室R内の冷房負荷によって暖められた空気を、例えば天井部などに設定した排気部102から排気すことにより、室Rの雰囲気の温度を所定の温度にするものである。このような空気式冷房は、広く一般に採用されている。なお本願でいう排気には、還気として再び室Rに戻すものも含む。
【0004】
(2)放射冷房
この方法は、物体間の温度差により生ずる放射熱移動を利用して冷房を行うものである。室温より表面温度の低い物体を室内に設置することにより、人に対して冷放射を行い、人の皮膚温度を下げて涼感を与えるようにしたものである。このような放射冷房は、表面積が大きく室内にわたって放射部分が露出している程効果が大きいので、例えば図13に示したように、室温より表面温度の低い物体としては板状の物体111を採用し、これを室Rの天井の一部又は全部として設けることが一般的である。
このような放射冷房は、人に直接涼感を与えることができるため、快適性が高く、いわゆる冷房病の予防にも効果があるといわれている。そのため高品位の空調が要求される病院や図書館で採用されている。また室内の壁や床、及び什器の表面温度を下げ、対流による室内空気の温度上昇を抑える効果もある。
【0005】
(3)空気式冷房+放射冷房
これは前記空気式冷房と放射冷房を組み合わせた方式であり、各々長所を同時に実現するため、例えば図14に示したように、室R内の床面近くに給気を吹き出すための吹き出しユニット121を設置すると共に、天井に室温より表面温度の低い板状の物体として板状の放射板122を、天井パネルの一部又は全部として設けたものである。但し、空気式冷房に必要な排気口123も、放射板122と同レベルや天井に設けてある。
【0006】
また特開平2−13749号公報には、放射温調源と気流温調源を併設し、運転の立ち上がり時には、放射温調源よりも気流温調源の熱量を大きくし、定常運転時には、逆に気流温調源よりも放射温調源の熱量を大きくするように熱量の制御を行うことが提案されている。
【0007】
さらに特開平8−178372号公報には、輻射パネルと躯体との間に空気チャンバを設け、この空気チャンバから室内に空気を送風し、一方輻射パネルには送風するための複数の通気孔を設け、天井と床にチャンバを形成するように前記輻射パネルを設置することが開示されており、冷房時には外気を外調機で空調した後、天井部のチャンバから給気し、床部のチャンバから排気する、暖房時には外気を外調機で空調した後、床部のチャンバから給気し、天井部のチャンバから排気することが提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記(1)の空気式冷房の場合には、給気のみによって室R全体の冷房を行うため給気温度が低く、また給気風量も相応した量が必要となるため給気のコールドドラフトによって在室者への不快感やいわゆる冷房病が問題となっている。またエネルギーの消費も大きい。
【0009】
これに対し前記(2)の放射冷房は、既述したように、人に直接涼感を与えることができるから、コールドドラフトや冷房病の点では、満足すべきものがあるが、放射冷房のみでは冷房能力が絶対的に不足する。
室内空気の露点温度より低い温度の物体を室内に設置すると、当該物体の表面に結露が生じてしまう。そのため、少なくとも当該物体の表面温度は、室内空気の露点温度よりも高く設定することが望ましい。例えば夏期の一般的な室内温度条件の上限値として、室内温度を26℃、湿度を50%とすると、露点温度は、約15℃となる。したがって、放射冷房を行う物体の表面温度は、15℃以上にしなければならない。
【0010】
ここで例えば放射冷房を行う物体、例えば放射体の熱抵抗を0.1m2×K/Wとすると、当該放射体の冷媒を温度15℃の冷媒を使用した場合の冷房能力は、約50W/m2となる。したがって、この50W/m2という冷房能力が実用的な上限値と考えることができる。これに対して、一般的な事務所で南向きの室の室内顕熱負荷は、夏期の午後0時において、約100W/m2といわれている。したがって、放射冷房のみでは冷房能力が不足する。また放射冷房は、空気式冷房と異なり、温度調節機能のみであるから、換気が必要な場合には、別途換気装置が必要となる。
【0011】
この点、(3)の空気式冷房+放射冷房によれば、放射冷房による冷房能力の補償は、空気式冷房でおこなうことができ、しかも空気式冷房のみで行うよりは、コールドドラフトの問題が改善される。しかしながら従来の空気式冷房+放射冷房方式でも依然として問題があった。
【0012】
まず天井面の有効放射面積が換気に必要な装置によって減じられることである。図14からもわかるように、従来は放射冷房を行う板状の放射板122の他に、換気に必要な排気口123を設置していたが、この排気口123がある分、放射板122の有効面積が減少してしまい、冷房能力が低下する。
【0013】
しかも従来は放射板122自体が天井パネルの一部又は全部を構成しているため、放射板122の上面側が、室R外部、例えば天井と上の階の階床スラブとの間や、建物の屋根との間の空間内に露出している格好となっている。そうすると、これらの空間に露出している放射板122の上面側で結露が生ずるおそれがある。一般的に建物の屋根との間の空間内の絶対湿度は高いからである。結露をそのまま放置すると、天井面に染み出たり、電気器具の漏電の原因となる。こと結露を防止するためには、放射板の冷媒の温度を外気の露点温度以上に設定すればよいが、東京の夏期の露点温度は発生危険率2.5%の場合、24℃であるから、24℃以上の冷媒を使用した場合には、一般的な夏期の室温26℃に対して温度差は僅かに2℃である。これでは冷房能力は10W/m2であり、冷房能力が足りない。
【0014】
従って従来の技術では、冷房能力の不足から、放射板に使用する冷媒の温度を外気の露点温度以上に設定して運転することができない。そのため従来は冷媒の温度を低く設定し、それと共に放射板122の上面側に適宜の保温材124で保温施工を行わざるをっていたのである。かかる場合、保温材124と放射板122の上面側との間に周囲の空気が侵入するのを防止するため、気密性のある保温施工が必要であり、時間、労力を多としていた。
【0015】
その他、放射板122自体が天井パネルの一部又は全部を構成しているため施工、メンテナンスが困難であり、その他排気口122も複数設定する必要があるため、照明機器などその他の天井機器の配置にも腐心する必要がある。また意匠的にもいろいろと制限があり、結局のところ、従来の空気式冷房+放射冷房では必ずしも満足することができなかった。
【0016】
また特開平2−13749号、特開平8−178372号では、結局冷房時に天井側チャンバから空調空気を室内に給気しているが、天井付近に照明等の熱負荷があり、空調の対象となる人間が室内空間の下方にいる一般的な状況を鑑みると、天井側のチャンバからの給気が天井付近の熱負荷の影響を受け、それによって温度が上昇した後、室内の下方にいる人間に到達する。したがって、人間のみを対象とした空調としてみれば、本来不必要な上部域の温度も調節するためのエネルギを必要として好ましくない。
【0017】
また人体や室内の機器から発生する汚染物質、例えば臭気・CO2、粉塵などは、発生源の発熱によって暖められ、浮力により上昇する性質を持っている。しかしながら前記した特開平2−13749号、特開平8−178372号のように天井チャンバから給気する場合には、上昇しようとする汚染物質と反対の方向に気流を形成するため、速やかな汚染物質の排出を妨げる結果となる。
【0018】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、基本的には空気式冷房+放射冷房の構成を採用するが、外気など非空調空気との接触をなくして従来よりも結露の問題を改善でき、その分放射冷房の効率がよく、しかも排気口による放射面積の減少を抑えた新しい空気調和システムを用いての空気調和方法を提供して、前記問題の解決を図ることをその目的としている。
【0019】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、まず請求項1で使用する空気調和システムは,下記のような特徴を有している。
すなわち,
a)壁、床、天井等によって区画された空間に空調空気を供給すると共に、前記空間内の雰囲気を排気して空気調和を行う空気調和システムであって、
b)天井より低くかつ人間の身長よりも高い位置に設置されて前記空間を上下に仕切る放射体と、
c)前記放射体よりも上の上方空間に設定された排気口と、
d)前記放射体よりも下の下方空間に設定された空調空気の給気口と、
e)前記下方空間内の空気を上方空間へと通過させる空気の通過部とを有し、
f)前記放射体が放射冷房を行うように構成され,
g)前記放射体の相互間に空隙が創出されるように複数の放射体が設置され、当該空隙が空気の通過部を構成し,
h)前記放射体は、冷媒が通流する冷媒通流部を備えた熱交換器である。
【0020】
図面に基づいてより具体的に説明すれば、請求項1で使用される空気調和システムは、図1に示したように、壁、床、天井等によって区画された目的空間、例えば室Rの天井aよりも低くかつ人Mの身長よりも高い位置に、放射冷房を行う例えば放射体としての放射板bが設置される。この放射板bによって、室Rは、放射板bよりも上の空間である上方空間USと、下方空間DSとに仕切られている。下方空間DSは、人Mの居住空間、活動空間となる。下方空間DSの空気を上方空間USに通過させるのは、通過部cに拠っている。
【0021】
この通過部cは、放射板b自体に形成されたスリットや孔であってもよく、また放射板bとして室Rの水平断面積よりも小さい面積を有する分割タイプの放射板を使用し、当該分割された放射板bを設置する際に、放射板相互間に空隙が生ずるように設置し、当該空隙を通過部cとしてもよい。
【0022】
そして上方空間USには、排気(還気として使用するものも含む)のための排気口dが設けられ、下方空間DSには、下方空間DS内に空調空気、例えば冷房に供する給気を給気するための給気口eが設けられている。
【0023】
かかる空気調和システムにおいては、放射冷房を行う放射板bの上下面とも、室R内に露出している。したがって、非空調空気と接触することはなく、従来よりも結露の点で有利である。すなわち、放射板bの表面温度を室R内の露点温度よりも高くさえしておけば、結露の心配はなく、保温施工も不要にできる。しかも排気口dは、放射板bの上側の空間に位置しているので、排気口dの存在によって放射板bの面積、有効放射面積が減少することはない。
【0024】
室R内は、この放射板bによって上下に仕切られているため、下方空間DSの暖かい空気は通過部cを経て上方空間USに流入する。このときの圧力損失により、上方空間USは、下方空間DSよりも負圧になる。したがって、この負圧によって放射板bで仕切られた上方空間USと下方空間Dの2つの空間の間の空気の流れを、放射板b全体に渡って均一にすることができる。すなわち、排気口dの位置にかかわらず、上方空間US内の気流の均一性を確保できる。したがって、格別室Rの内の数カ所に排気口と、当該排気口に接続するダクトを適宜配置して敢えて均等に排気するための構成は必要はなく、図1に示したように、上方空間US内の1カ所に排気口dを設定するだけで、室R内に対して澱みのない均質な空調、この場合は冷房を実施することができる。
【0025】
また放射板bと天井aとの間には、上方空間USが存在しているので、照明器具の配線、スプリンクラの配管、その他の機器の設置、施工、メンテナンスも容易である。その他、排気口dは放射板bよりも上方に位置しているから、外観的にみて意匠上好ましいものである。
【0026】
なお放射板b自体の構成については、冷媒が通流する冷媒通流部を備えた熱交換器とすれば、取扱い、施工が容易である。この場合、使用できる冷媒は、液体、気体等の流体を使用することができるが、入手容易性、取扱い容易性、コスト等の点と、放射板bの表面温度を勘案すれば、地下水や二次冷水が適している。
【0027】
そして本発明によれば、放射体の上方空間に排気口を設定し、下方空間には給気口を設定しているので、冷房時に室温より低い温度で給気を行うと、室内の低い部分は室内全体の平均に比べて低い温度の空気層が形成される。そして上にいくにしたがって室内の熱負荷により温度が上昇していく。この結果天井の高い室内であっても、人間の居住する2m程度の高さまでを居住域として所定の温度に設定することができる。そしてそのように所定の温度への設定を居住域に限定することにより、居住域以上の空間の温度は設定温度より高くなり、次式で示される室内負荷を処理するのに必要な冷房能力を構成する要素の一つである、給気と排気の温度差Δtを大きくすることができる。
【0028】
(式)
Q[W/s]=q[m3/s]*ρ[kg/m3]*Cp[kJ/(kg*K)]*Δt[K]
ただし、Q[W/s]は処理熱量、q[m3/s]は風量、ρ[kg/m3]は比重、Cp[kJ/(kg*K)]は比熱、Δt[K]は給排気温度差である。
【0029】
したがって、同じ室内負荷を処理するにあたり、大きな給排気温度差Δtを使用することにより、少ない風量で済むことになる。少ない風量はダクトの断面積を小さくできるので、施工費を削減し、また空気搬送力を小さくすることができるから、その結果省エネルギ効果が得られる。
【0030】
また本発明の気流方向は、下から上への流れを形成し、前述の人体等から生ずる汚染物質の対流による挙動と一致している。したがって従来方式のように速やかな汚染物質の排出を妨げることなく、効果的な換気を実現することができる。
【0031】
放射体の表面温度を、居住域の空気温度に対して10℃以上低く設定すると、放射体表面で冷やされた空気が、居住域まで到達する下降気流となり、速やかな汚染物質の排出を妨げることになる。しかしながら本発明では、空気冷房と放射冷房とを併用しているため、放射体の表面温度は居住域温度の約6℃程度しか低い温度を必要とせず、居住域まで到達する下降気流は発生しない。
【0032】
そして既述したように、本発明で使用する空気調和システムでは、結露の点で従来よりも有利であるから、放射板bの表面温度を、室R内の露点温度よりも高い温度に制御するようにしても従来よりも、好適な冷房環境が得られ、かかる場合には、全く結露の心配がない。発明者の検証によれば、この場合、給気の温度を15℃〜22℃、放射板の表面温度を20℃〜25℃に制御することが好ましい。
【0033】
ところで前記特開平2−13749では、放射体表面の結露を防ぐ手段として、熱量の制御を行っている。しかしながら結露の発生原因は熱量の多寡ではなく、周囲空気の露点温度と放射体の表面温度との関係による。したがって空調開始時の結露防止を目的とするには、室内の露点を測定し、放射体表面温度を、当該測定した露点温度以下にならないように制御することが望ましい。室温が所定の温度、湿度に設定された後は、通常の室内の露点温度は本発明の空気冷房と放射冷房との併用効果により、必要とする放射体表面温度より低い値になるため、特に結露防止の制御は不要となる。このことから、空調開始時の結露を防止するためには、高価な露点計を使用するまでもなく、放射体の表面温度設定を、初期値を室内空気温度とし、漸次所定の温度まで下げるような制御で十分機能を果たすと考えられる。
【0034】
したがって、そのような制御にあたり、請求項2に記載したように、空気調和システムの運転開始時は、放射体の表面温度の目標値を室内空気温度とし、その後表面温度の目標値を漸次下げていくようにして、放射体の表面を、空間内の露点温度よりも高い温度に制御するようにしてもよい。例えば図2のグラフに示したような、放射体表面温度の制御例を提案することができる。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明すると、図3は本実施の形態で使用される空気調和システムの構成の概略を示しており、空調対象となる空間は、壁1、床2及び天井3によって区画された室Rである。この室Rにおける、天井3よりも低く、かつ床2上に立っている人間(図示せず)の身長よりも高い位置に、放射体としての放射板4が水平方向に設置され、室Rはこの放射板4によって、上方空間USと下方空間DSとに仕切られている。
【0036】
この放射板4は、適当に分割された(例えば600mm×1200mm程度の大きさを有する)同形同大の放射パネルP1〜Pnからなっている。図3に放射パネルP1、P2の詳細を示す。図示のように、例えば放射パネルP1は、金属、コンクリートなどの材料からなるパネル材11の上面側に取付部材12を介して、冷媒配管13が取り付けられた構造を有している。冷媒配管13の中には、別設の冷媒供給源からの冷媒、例えば地下水が通流するようになっており、この地下水との熱交換によって放射パネルP1のパネル材11は、放射冷房を実施する。放射パネルP2も放射パネルP1と同一の構造を有している。
【0037】
これら放射パネルP1〜Pnを、前記したように、天井3から低い位置に水平に施工するにあたっては、例えば図4に示したように、放射パネルP1と放射パネル、P2との間に、空隙14が創出するように施工される。この空隙14の幅dは、条件にもよるが、例えば5mm〜10mm程度が適当である。
【0038】
下方空間DSにおける壁1の下方、すなわち床2の近い位置には、給気口21が設けられており、当該壁1内に施工されているダクト22や廊下23の天井部に施工されているダクト24を通じて、空調機25から供給される空調空気を給気SAとして、室R内に吹き出すようになっている。この空調機25は、導入外気OAを処理して、冷房用の空気や暖房用の空気をファン26によって供給する構成を有している。
【0039】
上方空間USにおける壁1には、排気口31が設けられている。そして排気口31からの排気は、その一部が廊下23の天井部に施工されているダクト32を通じて、ファン33を有する排出装置34から排気EAとして外部に排気される。また残りは、還気RAとして、空調機25において導入外気OAと混合される。したがって排気口31からダクト32へと流れるのは、排気EAと還気RAとを併せた分である。
【0040】
本実施の形態にかかる空気調和システムは、以上のように構成されており、次にその運転例について説明する。
【0041】
図5は、図3に示した空気調和システムを適用した室Rの断面を模式的に示し、図6は同じく平面の様子を模式的に示しており、各々実際に室内負荷を室内に設置した状態を示している。上方空間USの高さH1は500mm、下方空間DSの高H2さは2600mmである。また室Rの縦Dは、5500mm、横Wは7200mmである。
【0042】
室内負荷は、照明負荷が900w、OA機器51の負荷が500〜1000w、被験者52は、14人の被験者を1人ずつ室R内に在室させる。室Rの外皮負荷は、室Rの内外の温度差による。室温測定センサ53は、図6に示した位置に設置し、図6中の側方に示した高さのスケールに示したように、床面及び床面から100mm、300mm、600mm、1100mm、1600mm、2100mm、2300mm、2600mmの9点に各々設置した。
【0043】
被験者52の内訳は、表1に示した通り、男性が13人、女性が1人である。男性、女性の服装とも、下着、ワイシャツ(厚手)、ズボン、靴下、革靴である。
【0044】
【表1】
【0045】
被験者がおかれた室Rの空調条件は、表2に示した通りである。但し、負荷密度は60w/m2、室温は26℃〜28℃となるように、放射板4の放射パネルPの表面温度、給気風量、給気温度で調節した。またすべての条件で室内中央気流は、0.1m/s以下であることを確認した。なお居住域の気温勾配とは、床面より0.1mと1.1mでの気温の差を示す。冷房出力比とは、空気式冷房と放射冷房の出力値の合計に対する放射冷房の出力の割合を示す。そして実験は、No.1〜No.6までの計6回行った。
【0046】
【表2】
【0047】
次に実験結果を示す。図7は温度の上下分布を示し、図8は居住域気温勾配と快適/不快適の申告率の関係を示している。快適/不快適の申告率は、被験者からの申告に基づくものである。これからわかるように、居住域の気温勾配によって快適性が影響を受け、居住域の気温勾配が2.5℃以上になると快適性が損なわれる。したがって、これを正しく予測し制御することが本システムの設計に必要である。
【0048】
次に室Rにおいて、様々な条件の下での測定を行い、快適性にもっとも影響する居住域の気温勾配が、どのような特性を持つかについて確認した。測定結果を、図9、図10に示した。図9は、放射冷房がない場合の居城域の気温勾配を示し、負荷風量比と気温勾配の関係を示し、図10は、放射冷房出力比と無次元気温勾配との関係を示している。ここで負荷風量比P/Qは、P:室内負荷[kw]、Q:給気風量[m3/s]との比であり、Δt0は、放射冷房がない場合の居住域気温勾配、Δtは放射冷房を併用した場合の居住域気温勾配、Pccは、放射冷房の出力[kw]、Pdvは空気式冷房の出力[kw]である。
【0049】
これらの結果から、居住域の気温勾配は「室内負荷密度と給気風量の比」及び「放射冷房と空気式冷房との負荷比」により予測可能であることが確認できた。以上の結果から得られた知見をもとに、実際の空気調和システムの設計にあたっては、次のような手順で、最小給気風量における最適な放射体の表面温度が求められる。
【0050】
まず条件を次のように整理する。
a.室内発生負荷Pt[kw](在室者数、OA機器、照明発生熱量、外皮負荷等)b.室内温度設定値ta[℃](夏季の標準値は26℃である)
c.室内汚染物質発生量M[kg/s](二酸化炭素、粉塵、揮発性有機化合物等)d.室内汚染物質許容濃度C[kg/m3](二酸化炭素、粉塵、揮発性有機化合物等)
e.対象室寸法L[m](幅Lw・奥行きLd・高さLh)
f.放射体の表面伝達率αt[kw/(K×m2)](一般的な値は、9.2[kw/(K×m2)]である
g.天井面積に対する放射体の有効面積比Acf[%])
【0051】
次に具体的手順について説明する。
▲1▼必要換気量Qos[m3/s]の算出
Qos=M/C[m3/s]
但し、法令等で換気量が定められている場合にはこれに従う
▲2▼負荷風量比Pgf[kw/(m3/s)]の算出
Pgf=Pt/Qos[kw/(m3/s)]
▲3▼放射冷房がない場合の気温勾配Δt0[℃/m]の推定
Pgfと図9から放射冷房がない場合の気温勾配Δt0[℃/m]を読み取る。
▲4▼無次元気温勾配の算出
図8から、放射冷房併用時の気温勾配Δtを、快適性を損なわない2.5[℃/m]以下とし、無次元気温勾配Δt/Δt0を算出する。即ち、Δt/Δt0=2.5/Δt0である。
▲5▼冷房出力比ηの推定
無次元気温勾配Δt/Δt0と図10から冷房出力比ηを読み取る。
▲6▼放射冷房の容量Pcc[kw]の算出
Pcc=Pt×η [kw]
▲7▼放射体の表面温度tcc[℃]の算出
tcc=ta−Pcc/(αt×Lw×Ld×Acf/100)[℃]
以上のようにして、放射体の表面温度tcc[℃]を容易に求めることができる。
【0052】
次に制御例について図11に基づいて説明する。図11は、図3に示した実施の形態にかかるシステムに対して制御に必要な機器等を配置した状態を示している。したがって、図11中、前記実施の形態で用いた符号で示される機器、部材等は、前記実施の形態と同一の機器、部材等を示している。
【0053】
図11に示したシステムにおいては、放射板4の冷媒管13に対して別設の冷水供給源から往管51から冷水が供給され、この冷水によって放射冷房を実施する構成を採っている。そして還管52から還水が戻される。往管51と還管52との間には、三方弁V1が介装されており、冷房出力調整装置53によってこの三方弁V1が制御されるようになっている。室R内における床面から1.1mの高さに温度センサ54が設置され、この温度センサ54からの信号に基づいて、冷房出力調整装置53、三方弁V1を制御し、例えば室Rの温度に基づいて、冷房能力を制御する。但し放射板4に取り付けられ、熱交換器の構成部材として機能している冷媒管13内の水量は全て一定量に保たれる。これによって表面の温度むらを最小限に抑えることが可能である。
【0054】
一方空調機25からの給気の流路となるダクト24には、給気温度を検出する温度センサ61が設けられており、この温度センサ61の信号は、冷水コイル62に供給される冷水と還水の比率を調節する三方弁V2の制御を行う冷房出力調整装置64に入力される。したがって、冷房出力調整装置64は、温度センサ61によって得られた給気温度に基づいて冷房能力の制御を行う。例えば居住域の気温勾配を2.5[℃/m]、居住域の室温を26℃とすると、好ましい給気温度は22[℃]となる。したがって、予め居住域の気温勾配を定めておき、それに基づいて給気温度を制御することで、居住域室温を所望値に維持することが容易である。以上のような構成によれば、図2に示した制御を容易に実施することができ、放射体4の表面に結露を生じさせず、かつ居住域を快適な環境に保つことが可能である。
【0055】
還気の流路となるダクト32には、二酸化炭素の濃度を検出する二酸化炭素濃度センサ71が介装されている。この二酸化炭素濃度センサ71からの信号は、空調機25へ取り込まれる外気の取り入れ量を調整する外気量調整装置72、排気の風量を調節する排気量調整装置73、及び空調機25内で還気を給気に取り入れる量を調整するバイパス風量調整装置74へと各々入力されるようになっている。この二酸化炭素濃度センサ71からの信号に基づき、その濃度が所定値、例えば1000ppmよりも高くなると、外気量調整装置72は取り入れる外気の風量を増加させる制御を行い、排気量調整装置73は排気する風量を増加させる制御を行い、またバイパス風量調整装置74は、還気を給気側に流す風量を減少させる制御を実施するようになっている。したがって、室R内の二酸化炭素濃度は、一定値以下に保たれる。
【0056】
以上のように、本実施の形態にかかる空気調和システムによれば、放射板4に結露を生じさせることなく、室Rに対して好適な冷房を実施できる。もちろん従来のような結露防止のための保温施工は不要である。また放射板4と天井3との間には、上方空間USがあるので、天井3付近に位置する各種機器、配線、配管の取付、施工、メンテナンスが良好である。しかも排気口31は、放射板4の上方の上方空間US内に位置しているので、従来のように排気口の存在によって放射板4の有効放射面積が減ぜられることはない。
【0057】
そのうえ排気口31がそのように放射板4よりも上側に位置しているので、意匠的にも好ましい。上方空間USと下方空間DSとの間の空気の通流は、空隙14を介して行われるので、上方空間US内は、下方空間DSに対して負圧になっている。そのため本実施形態のように排気口31の数は1つでもよく、また設置場所も任意に選択できる。従って、排気口31周りが簡素化され、必要なダクトも短くでき、施工が容易である。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、まず空間内の冷房負荷を、放射冷房と空気冷房とに分担させており、しかも放射冷房を担っている放射体は非空調空気と接触しないので、放射体の表面温度を空間内の露点温度よりも高くさえしておけば、結露の心配はなく、保温施工も不要である。またその場合、従来の空気冷房+放射冷房方式の場合よりも、放射体の表面温度を上げても冷房負荷の処理が可能となっている。
【0059】
しかも排気口は、放射体の上側の空間に位置しているので、排気口存在によって放射体の有効放射面積が減少することはない。また排気口が1つであっても、放射体全体に渡って均質な空気調和を実施することができ、排気口の設定場所も任意に選択できる。また天井部の照明器具の配線、スプリンクラの配管、その他の機器の設置、施工、メンテナンスも容易である。その他、意匠的にも好ましいものである。
【0060】
もちろん空間内で発生する冷房負荷を空気冷房と放射冷房とが分散して担っているから、空気冷房を担う給気の給気量を従来より低減させたり、給気温度を従来より上げることができる。したがって、給気空気のコールドドラフトによって在室者に対して不快感を与えることが抑えられる一方、消費エネルギーも従来より少なくて済む。そして放射体の表面温度を、空間内の露点温度よりも高い温度に制御すれば、全く結露の心配がない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の構成の概略を示す説明図である。
【図2】空調運転開始時の放射体の表面温度の制御例を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態にかかる空気調和システムの構成の概略を示す説明図である。
【図4】図2の空気調和システムにおける放射板の側面断面図である。
【図5】図2の空気調和システムを適用した室に空調負荷を設定した状態を示す模式的な断面図である。
【図6】図2の空気調和システムを適用した室に空調負荷を設定した状態を示す模式的な平面図である。
【図7】図5の室における被験者実験時の室温上下分布を示すグラフである。
【図8】図5の室における被験者実験時の快適、不快適申告率を示すグラフである。
【図9】図5の室において放射冷房がない場合の居住域気温勾配を示すグラフである。
【図10】図5の室における放射冷房出力比と無次元気温勾配を示すグラフである。
【図11】他の実施の形態にかかる空気調和システムの構成の概略を示す説明図である。
【図12】従来の空気式冷房の構成の概略を示す説明図である。
【図13】従来の放射冷房の構成の概略を示す説明図である。
【図14】従来の空気式冷房+放射冷房方式の構成の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
a 天井
b 放射板
c 通過部
d 排気口
e 給気口
1 壁
2 床
3 天井
4 放射板
11 パネル材
13 冷媒配管
25 空調機
P1、P2 放射パネル
M 人
Claims (5)
- 空気調和システムを用いて空気調和を行う方法であって,
前記空気調和システムは下記のa)〜h)の構成を有し,
a)壁、床、天井等によって区画された空間に空調空気を供給すると共に、前記空間内の雰囲気を排気して空気調和を行う空気調和システムであって、
b)天井より低くかつ人間の身長よりも高い位置に設置されて前記空間を上下に仕切る放射体と、
c)前記放射体よりも上の上方空間に設定された排気口と、
d)前記放射体よりも下の下方空間に設定された空調空気の給気口と、
e)前記下方空間内の空気を上方空間へと通過させる空気の通過部とを有し、
f)前記放射体が放射冷房を行うように構成され,
g)前記放射体の相互間に空隙が創出されるように複数の放射体が設置され、当該空隙が空気の通過部を構成し,
h)前記放射体は、冷媒が通流する冷媒通流部を備えた熱交換器である。
さらに前記空間の居住域の気温勾配を予め定めておき,当該気温勾配以下の範囲で,前記空気調和システムにおける前記放射体の表面を、空間内の露点温度よりも高い温度に制御することを特徴とする、空気調和方法。 - 空気調和システムを用いて空気調和を行う方法であって,
前記空気調和システムは下記のa)〜f)の構成を有し,
a)壁、床、天井等によって区画された空間に空調空気を供給すると共に、前記空間内の雰囲気を排気して空気調和を行う空気調和システムであって、
b)天井より低くかつ人間の身長よりも高い位置に設置されて前記空間を上下に仕切る放射体と、
c)前記放射体よりも上の上方空間に設定された排気口と、
d)前記放射体よりも下の下方空間に設定された空調空気の給気口と、
e)前記下方空間内の空気を上方空間へと通過させる空気の通過部とを有し、
f)前記放射体が放射冷房を行うように構成され,
さらに前記空気調和システムの運転開始時は、放射体の表面温度の目標値を室内空気温度とし、その後表面温度の目標値を漸次下げていくようにして、放射体の表面を、空間内の露点温度よりも高い温度に制御することを特徴とする、空気調和方法。 - 前記放射体自体に空気の通過部が形成されていることを特徴とする,請求項2に記載の空気調和方法。
- 前記放射体の相互間に空隙が創出されるように複数の放射体が設置され、当該空隙が空気の通過部を構成していることを特徴とする,請求項2に記載の空気調和方法。
- 前記放射体は、冷媒が通流する冷媒通流部を備えた熱交換器であることを特徴とする,請求項2,3又は4のいずれかに記載の空気調和方法。
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