JP3610774B2 - スピーカ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、音響再生機器などに用いる高域再生限界周波数の伸長を図ったスピーカに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、スピーカにおいて高域再生限界周波数の伸長を図るための手段としては、スピーカ・システム上/山本武夫編著(ラジオ技術社)のP.157〜158に記載された方法が知られている。すなわち、
1.振動系質量を軽量化する。
【0003】
2.剛性の高い振動板を使用する。
3.振動板とボイスコイルの接合部の振動板の半頂角を小さくする。
ことが有効である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の方法では以下に示す問題点があった。
まず、振動系質量を軽量化すれば、振動板の強度が低下するため、振動板の分割共振が発生し易くなり、特性に大きなピーク・ディップが多数発生し、さらには、耐入力が高く出来ない。
【0005】
また、剛性の高い振動板を使用しようとすれば、振動板材料が高価となり、一般的に高剛性材料は内部損失が小さく、特性に大きなピーク・ディップが発生する。
さらに、振動板とボイスコイルの接合部の振動板の半頂角を小さくすれば、振動板の前室効果の特性に緩やかで大きなピーク・ディップが発生する。
等の問題があった。
【0006】
ここで、前室効果とは、スピーカ振動板前面のくぼんだ空間により、空洞(キャビティ)が形成され、この空洞により特定帯域に共振が発生し、音圧周波数特性にピーク・ディップを生じることをいう。
本発明は、従来のこれらの問題を解決し、高域再生限界を伸長しながらも、平坦な特性を実現する安価なスピーカを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明のスピーカは、振動板の形状に関し、ボイスコイルとの接合部の半頂角が45゜以下であり、振動板は、内径取り付け部から外径取り付け部に伸延している曲面を持つ弓なり型断面と、前記内径取り付け部および外径取り付け部のいずれよりも前方に形成されかつ近傍に断面形状として変曲点をもたない頂部とを有し、一体成型されたものであり、かかる構成とすることにより、前室効果を抑制することが可能になり、振動板の強度が向上し、安価な材料で容易に高域限界周波数を伸長でき、かつ、特性の平坦化が実現できる、という特有の効果を奏するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、ボイスコイルとの接合部の半頂角が45゜以下であり、振動板が内径取り付け部から外径取り付け部に伸延している曲面を持つ弓なり型断面と、前記内径取り付け部および外径取り付け部のいずれよりも前方に形成されかつ近傍に断面形状として変曲点をもたない頂部とを有し、一体成型されているスピーカである。
【0009】
この構成により、振動板のボイスコイル接合部分の半頂角を小さくしながらも、弓なり形状により、振動板が薄型化できるので、前室効果を抑制することが可能になる。さらに、弓なり形状により振動板の強度が向上し、分割共振が発生し難くなる。
本発明の請求項4に記載の発明は、ボイスコイル内径部に接合し、かつ、この接合部がテーパ形状であることを特徴とした振動板により構成されたスピーカである。
【0010】
この構成により、振動板とボイスコイル接合部分において、接着剤の層を介することなく、直接振動板とボイスコイルを接合することが可能になる。
本発明の請求項6に記載の発明は、振動板裏側の空間が密閉され、かつ、振動板に空気の流通する部分をもち、この部分からのみ空気の流通が可能なことを特徴としたスピーカである。
【0011】
この構成により、振動板を通して空気の流通が可能になり、振動板裏側の空間の空気のスティフネスを低下させることができる。低域共振はスティフネスの平方根に比例するので、低域共振を小さく、すなわち、低域特性を平坦化することが可能になる。
(実施の形態1)
以下、本発明のスピーカの実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は本実施の形態のスピーカの構成を示す断面図である。このスピーカは口径6cmの高域再生スピーカである。図1において、1は材質パルプ100%で、内径取り付け部から7mm、外径取り付け部から2.9mm前方に頂部をもつ弓なりに屈曲した形状の振動板であり、内径取り付け部から直径φ19.2mmまでR10の曲面、直径φ19.2mmから直径φ38.6mmまでR15の曲面、直径φ38.6mm〜外径取り付け部、すなわち、直径φ50mmまでR7の曲面で構成されている。また、直径φ38.6mmの位置が振動板頂部であり、この頂部は振動板取り付け部より前方に位置している。また、内径の半頂角θは27.5゜である。さらに、外径取り付け部における半頂角は40゜である。
【0013】
また、この振動板の外周部は、t0.6mm、全高13.5mmであるフレーム5にゴム系接着剤により固着されている。なお、このフレーム5には孔はなく、振動板裏面は密閉されている。また、振動板内周部は、厚みt0.05mmのクラフト製ボビンをもつボイスコイル3に接着剤により固着され、ボイスコイル3は外周部がフレーム5に固着された綿布製ダンパー4により中心保持されている。さらに、振動板1の前面上には、最外径φ17.5mm、曲面外径φ15.5mm、曲率R8、パルプ100%のセンターキャップ2が固着されている。
【0014】
また、フレーム5の下部には、外径φ45mm、厚み8mmのフェライト製マグネット、鉄製トッププレート、及び、ヨークにより構成された界磁部6が配置されている。さらに、トッププレートとヨークにより構成される磁気ギャップ部には、ボイスコイル3の下部に巻かれたボイスコイル線輪が挿入されている。
上記構成においてその動作を説明する。本実施の形態におけるスピーカでは、振動板のボイスコイルとの接合部の半頂角が27.5゜であり、内径取り付け部から7mm、外径取り付け部から2.9mm前方に頂部をもつ弓なりに屈曲した振動板により構成されている。
【0015】
高域限界周波数(fh)と前記半頂角θとの関係は、前述した『スピーカ・システム 上/山本武夫編著』のP.157〜158中の式(5・14)、及び、図5・19に示されている関係にあり、すなわち、高域限界周波数を伸長するには、半頂角を小さくすることが有効である。
しかしながら、一般的に半頂角を小さくすると振動板の全高が高くなり、振動板の前面から振動板取り付け部までの前方空間の前室効果により、特性に緩やかで大きなピークディップが発生する。従って、従来は半頂角45゜程度以上が一般的であった。
【0016】
これに対し、本実施の形態では、振動板が弓なり形状に屈曲しているため、半頂角を27.5゜と十分に小さく、かつ、振動板の前面から振動板頂部までの前方空間を小さくすることができる。さらに、振動板の屈曲形状により振動板の強度を向上させることができ、その結果、振動板の分割共振の発生を抑制することが可能になる。
【0017】
また、本願の構成の振動板形状における振動板内径の半頂角については、FEMシミュレーション、及び、実測実験により、半頂角を45゜より大きくした場合、可聴帯域20kHzを越える高域限界周波数の伸長が困難であると共に、特性に大きなピーク・ディップが発生することが確認できた。本実施の形態では、この条件を満たした仕様になっており、高域限界周波数を十分伸長しながらも、かつ、平坦な特性を実現することができる。
【0018】
以下、その効果について実測特性を参照しながら説明する。図2は本実施の形態のスピーカと、従来のスピーカにおいて図9に示した高域限界周波数の伸長を図るため振動板の半頂角と振動板重量を本実施の形態のスピーカと同等にしたものについて、実測音圧周波数特性を対比して示したものである。
図において、従来のスピーカは、特性Bで示すように、3〜12kHz付近に前室効果によるピークディップが発生している。さらに、振動板強度の低下により、15kHz以上には振動板の分割共振による大きなピークディップが多数発生している。これに対して、本実施の形態1のスピーカでは、特性Aに示すように、高域再生限界周波数(平均音圧(3,4,6,8kHzの平均)より10dB音圧が低下したところの周波数):40kHz(平均音圧:92dB)と可聴帯域を越え、十分高くすることができると共に、前室効果、及び、振動板の分割共振によるピーク・ディップが大幅に低減できているのが確認できる。
【0019】
なお、本実施の形態では、振動板材料としてパルプ100%を使用したが、フイルム等の材料を使用しても同様の効果が得られることは言うまでもないことである。さらに、本実施の形態では振動板外径取り付け部をゴム系接着剤を用いて取り付けたが、ブチルゴム等の粘弾性の高い材料で取り付けても同様の効果が得られることは言うまでもないことである。
【0020】
(実施の形態2)
次に、本発明のスピーカの実施の形態2について図面を参照しながら説明する。図3は本実施の形態におけるスピーカの構成を示す断面図である。本実施の形態が実施の形態1と異なる点は、振動板7のボイスコイルとの接合部分の形状、及び、下方向に頂部をもつセンターキャップと一体形状になっている点である。すなわち、振動板のボイスコイルより外側の最内周曲率R10上のφ13.5mmの位置から、φ13.0mmの位置まで全周テーパで結ばれ、φ13.0mmから内側は下方向に頂部をもつ曲率R8であるセンターキャップと一体形状で構成されている。そして、前記テーパ部分にボイスコイル3が接合する構造になっている。
【0021】
上記構成においてその動作を説明する。図4(a)に実施の形態1に示す振動板とボイスコイルの接合部分の拡大図を、また、図4(b)に本実施の形態に示す振動板とボイスコイルの接合部分の拡大図を示す。本実施の形態におけるスピーカでは、図4(b)に示すように、振動板とボイスコイルを固着時、ボイスコイル内径部に振動板上のテーパ部分を挿入する構造であり、接着剤を排除しながら固着するために、振動板とボイスコイルボビンを直結することができる。一方、実施の形態1におけるスピーカは、従来の一般的な接合構造である。すなわち、図4(a)に示すように、ボイスコイルボビン外径部に振動板の内径部を固着する構造であり、製造作業上、ボイスコイル外径と振動板内径との間に一定のクリアランスが必要で、この部分に必然的に接着剤の層が形成される。
【0022】
以下、その効果について実測特性を参照しながら説明する。図5は本実施の形態2のスピーカと実施の形態1のスピーカの実測音圧周波数特性とを対比して示したものである。
図において、特性Aは実施の形態1のスピーカによるものであり、特性Cは本実施の形態2のスピーカによるものである。本実施の形態2のスピーカでは、振動板とボイスコイル接合部に音の伝搬速度の遅い接着剤の層が形成されず、直結できるので、音の伝搬にロスが発生しない。
【0023】
従って、図5に示すように高域限界周波数を実施の形態1よりも伸長することができる。もう少し具体的に説明すると、実施の形態1、2とも平均音圧(前述):92dBで、実施の形態1では、高域限界周波数(前述):40kHzであるのに対して、本実施の形態2では、50kHzであり、実施の形態1よりさらに10kHz高域限界周波数を伸長することが実現できている。
【0024】
なお、本実施の形態では、一体型センターキャップは下方向に頂部を備えていたが、上方向に頂部を備えていても同様の効果が得られることは言うまでもないことである。さらに、本実施の形態では、センターキャップ一体型であったが、センターキャップを一体型とせず別部品として、実施の形態1と同様に振動板に取り付ける構成にしても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0025】
(実施の形態3)
以下、本発明のスピーカの実施の形態3について図面を参照しながら説明する。図6は本実施の形態におけるスピーカの構成を示す前面図である。本実施の形態が実施の形態1と異なる点は、振動板9の振動面上に材料密度が著しく低く、空気の流通が可能な部分9aを備えている点である。すなわち、振動板上のφ40mmより内側部分は密度600kg/m3であり、図中ハッチングで示した外側部分9aは、密度200kg/m3で、空気の流通が可能となっている。
【0026】
上記構成においてその動作を説明する。本実施の形態におけるスピーカでは、フレーム5により振動板裏側の空間が密閉されているが、振動板上の空気流通可能な低密度部分9aを備えているために、この部分から空気が流通できる。
一般的に振動板裏面が小容積で密閉されている場合、この密閉空間の空気のスティフネスが大きくなるために低域の共振も大きくなり(低域共振の大きさは、空気のスティフネスの平方根に比例する)、音圧周波数特性上低域特性に大きなピークが発生する。しかしながら、本実施の形態に示す構成にすることにより、振動板から空気の流通が可能になり、空気のスティフネスが低下し、低域共振を小さくすることができる。
【0027】
以下、その効果について実測特性を参照しながら説明する。図7は本実施の形態のスピーカと実施の形態1のスピーカの実測音圧周波数特性を対比して示したものである。ここで、実施の形態1の振動板裏面は、フレーム5によって密閉された構成となっている。図において、特性Aは実施の形態1のスピーカによるものであり、特性はDは本実施の形態のスピーカによるものである。本実施の形態のスピーカでは、振動板からの空気の流通により、振動板裏部の空気のスティフネスが低下し、その結果、特性Dに示されるように低域共振によるピークが低減できている。
【0028】
なお、本実施の形態では、振動板上に低密度部分を備えていたが、図8に示すように、振動板10上に直径φ1mmである孔10aを備えても同様の効果が得られることは言うまでもないことである。
【0029】
【発明の効果】
以上のように、本発明におけるスピーカによれば、振動板のボイスコイル接合部分の半頂角を小さくしながらも、弓なり形状により、振動板が薄型化できるので、前室効果を抑制することが可能になる。さらに、弓なり形状により、振動板の強度が向上し、分割共振が発生し難くなる。その結果、高価な高剛性材料でなく一般パルプを使用しても、容易に高域限界周波数を伸長でき、かつ、特性の平坦化が実現できる。
【0030】
また、本発明のスピーカによれば、振動板とボイスコイル接合部分において、接着剤の層を介することなく、直接振動板とボイスコイルを接合することが可能になり、更に、高域限界周波数を伸長することができる。
さらに、本発明のスピーカによれば、振動板を通して空気の流通が可能になり、振動板裏側の空間の空気のスティフネスを低下させることができる。低域共振はスティフネスの平方根に比例するので、低域共振を小さくすることができる。その結果、低域特性も容易に平坦化することができる。
【0031】
このように、本発明のスピーカは工業的価値の大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1によるスピーカの断面図
【図2】本発明の実施の形態2によるスピーカの断面図
【図3】本発明におけるスピーカと従来のスピーカの音圧周波数特性を示す図
【図4】スピーカの振動板とボイスコイルとの接合部分の拡大図
【図5】本発明の実施の形態1及び2におけるスピーカの音圧周波数特性を示す図
【図6】本発明の実施の形態3によるスピーカの前面図
【図7】本発明の実施の形態1及び3におけるスピーカの音圧周波数特性を示す図
【図8】本発明の実施の形態3の応用例を示すスピーカの前面図
【図9】従来の一般的なスピーカの断面図
【符号の説明】
1 ・・・ 実施の形態1における振動板
2 ・・・ センターキャップ
3 ・・・ ボイスコイル
4 ・・・ ダンパー
5 ・・・ フレーム
6 ・・・ 界磁部
7 ・・・ 実施の形態2における振動板
8 ・・・ 接着剤
9 ・・・ 実施の形態3における振動板
9a ・・・ 実施の形態3における振動板の低密度部分
10 ・・・ 実施の形態3の応用例における振動板
10a・・・ 実施の形態3の応用例における振動板の孔部
θ ・・・ 振動板の半頂角
Claims (9)
- フレームと、ボイスコイルと、前記フレームと前記ボイスコイルとに接合される振動板とを備え、
前記振動板と前記ボイスコイルとの接合部の半頂角が45゜以下であり、
前記振動板は、内径取り付け部から外径取り付け部に伸延している曲面を持つ弓なり型断面と、前記内径取り付け部および外径取り付け部のいずれよりも前方に形成されかつ近傍に断面形状として変曲点をもたない頂部とを有し、一体成型されていることを特徴とするスピーカ。 - ボイスコイルは略円筒形状であり、振動板の内径取り付け部と前記ボイスコイル端部とを接合したことを特徴とする請求項1記載のスピーカ。
- 接合手段として、ゴム系接着剤を用いることを特徴とする請求項1又は2記載のスピーカ。
- ボイスコイル内径部に接合し、その接合部がテーパ形状であることを特徴とした振動板により構成された請求項1乃至3記載のスピーカ。
- ボイスコイルと振動板の接合部において、ボイスコイル端部と振動板端部が間隙なく直接接触するように接合されたことを特徴とする請求項4記載のスピーカ。
- 振動板裏側の空間が密閉され、かつ、振動板に空気の流通する部分をもち、この部分からのみ空気の流通が可能なことを特徴とした請求項1乃至5記載のスピーカ。
- 空気の流通する部分は振動板外周部近傍に配置したことを特徴とする請求項6記載のスピーカ。
- 振動板外周部近傍には内周部に比較して密度の低い部材を用いることを特徴とした請求項6又は7記載のスピーカ。
- 振動板外周部近傍に複数の小孔を設けたことを特徴とする請求項6乃至8記載のスピーカ。
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