JP3602071B2 - 核酸の精製分離方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体試料等の核酸を含有する試料から核酸を溶出させて核酸を精製して分離する核酸の精製分離方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来技術に於ける有効な核酸の精製分離方法は、カオトロピック塩の存在下で核酸をガラスやシリカゲル粒子へ吸着させ核酸を回収する原理に基づいている(Vogelstein,B.およびGillespie,D. (1979);「アガロースからのDNAの調製的および分解的精製」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76: 615−619)。この方法によれば、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、またはグアニジンチオシアン酸塩等の高濃度のカオトロピック塩を用いると、DNAがアガロースから単離、精製され、あるいは、RNAまたはDNAが種々の混合物から単離、精製される(Boom,R.(1990);核酸の迅速で簡易な精製法、J. Clin. Microbiol. 28: 495−503)。
【0003】
核酸は精製の後に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(Polymerase chain reaction)に使用されることが多い。PCR反応によれば、核酸を配列特異的に増幅することが可能なため、遺伝子診断等に広く応用されている。このPCR法を日常的に臨床で使用する際に、いくつかの問題点が存在する。その中でも、核酸精製時に除去できなかった阻害物質の影響で、PCR反応が阻害される事が知られている。阻害物質としては、ヘモグロビン、核酸の抽出工程で使用される界面活性剤等が知られている。このような背景により、核酸の抽出、精製工程は、重要であることが指摘されている(大島ほか、JJCL A, 22(2), 145−150(1997))。
【0004】
また、抽出工程は従来、手動で行われてきたが、操作が煩雑で熟練性を要することから、装置による自動化が望まれている。そして、使用する試薬等を含め、自動化に適した抽出法の開発が要求されている。自動化に適した核酸の抽出法として、特開平11−127854号に記載の方法および特開平11−266864号に記載の装置を用いた方法がある。さらに、自動化装置による抽出に適した試薬としては、特表平8―501321号に記載のものが知られている。特表平8―501321号に記載の試薬を用いた方法では、高濃度の塩(イオン強度)および高濃度のアルコールを含む溶液から分離精製すべき核酸を抽出用チップ内の吸着担体に接触させて吸着させ、次いで、より低濃度の塩(イオン強度)を含む溶液によって吸着担体から脱着して目的の核酸を得ることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
特表平8―501321号に記載の試薬を用いた核酸の精製分離方法では、核酸の回収の収率が低いという問題があった。また、特開平11−127854号に記載の抽出用チップを用いた方法では、高濃度の塩(イオン強度)および高濃度のアルコールを含む溶液から分離精製すべき核酸を抽出用チップ内の吸着担体に接触させて吸着させる工程において、溶液の粘度が高いために、操作に長い時間を要することが問題であった。
本発明の目的は、回収の収率を向上させるとともに、核酸回収までに要する時間を短縮し、操作性に優れ、汚染の影響が少ない核酸の精製分離方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の核酸の精製分離方法では、核酸を含有する試料、高濃度の塩、及び有機溶剤を含む混合液から前記核酸を無機担体に吸着させ、次に、水溶液からなる溶出液によって核酸を無機担体から脱離させて回収する。必要に応じて回収の前に、核酸以外の成分を取り除くための洗浄液を用いて担体を洗浄する。核酸は例えば全血の白血球に由来する。
【0007】
塩としては、カオトロピック塩を使用し、例えば、グアニジン塩酸塩、グアニジンイソチアン酸塩、ヨウ化カリウムの何れかを濃度1Mから8Mの範囲で使用する。
有機溶剤(有機化合物)は、脂肪族エーテル、脂肪族エステル、及び脂肪族ケトンの中から選ばれた1種類又は複数種類の化合物であり、炭素数2から10を有する化合物である。混合液の有機溶剤の濃度は5容量%〜50容量%とする。
【0008】
混合液の有機溶剤(有機化合物)として使用可能な脂肪族エーテルの代表的な例としては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1、4−ジオキサンをあげることができる。
混合液の有機溶剤(有機化合物)として使用可能な脂肪族エステルの代表的な例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチルをあげることができる。
混合液の有機溶剤(有機化合物)として使用可能な脂肪族ケトンの代表的な例としては、ヒドロキシアセトン、アセトン、メチルエチルケトンをあげることができる。
本発明においては、混合液に、0.1容量%〜50容量%の界面活性剤を含ませ、より好ましくは、界面活性剤として0.1容量%〜5容量%の消泡剤を使用すると良い。
【0009】
無機担体としては、シリカ、アルミナ、ゼオライト、二酸化チタン等からなる多孔性材料又は非多孔性材料を使用する。
洗浄液は、アルコール等の有機溶剤を高濃度に含むものであり、吸引又は遠心分離操作により無機担体を複数回洗浄して核酸以外の成分を取り除く。
本発明の核酸の精製分離方法によれば、核酸を含む溶液の粘度が減少し、気泡の発生が抑制され、かつ、消泡が促進されるので操作性が向上し、汚染の影響を受けにくく、核酸の回収量が増加する。また、核酸回収までに要する操作時間も短縮できる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の核酸の精製分離は、図1に示された方法に基づいて行う。ここでは、特開平11―127854号に記載した4つの工程と同様の項目を挙げた。以下に各工程での詳細について述べる。
【0011】
図2から図5は、図1に挙げた項目に関する、本発明の核酸抽出試薬を用いた全血からの核酸抽出の手順を説明する図である。以下の説明では、ヒト全血100μLからの核酸抽出を例とする。図2に示すように、ヒト全血1の中には、赤血球2、白血球3等の成分が含まれており、核酸は主に白血球3内の核4に存在している。
【0012】
図3に示すように、先ず、チューブ5に10μLのProteinase K(6)を注入する。次に、チューブ5に100μLの全血1を加える。この工程が101である。次に、100μLの反応液を加えて攪拌する。この工程が102である。この反応液は1Mから8Mのカオトロピック塩と50容量%以下の界面活性剤を含む。チューブ5の溶液を56℃で10分間インキュベートすることにより、白血球が破壊され、核4内の核酸が溶液内に出る。この工程が103である。その後、添加液(例えば、EGDE(エチレングリコールジエチルエーテル)、DIGLYME(ジエチレングリコールジメチルエーテル)等の有機溶剤)を100μL加えて攪拌すると、混合液7が得られる。この工程が104である。ここまでの操作を分解工程と呼ぶ。
この分解工程以降は、数種類の核酸回収法がある。何れの方法も、吸着工程、洗浄工程、回収工程からなる。代表的な例として、スピンカラム法、吸引吐出法がある。
【0013】
図4はスピンカラム法(以下、第1の方法という)を示す。添加液を加えた後のチューブ5の混合液7をスピンカラム8の中へ移す。スピンカラム8の底部には非常に細かいシリカ又はガラス繊維からなる濾紙状の吸着担体9が充填されている。添加液を含む混合液7を、吸引により吸着担体9内を通過させて、核酸を吸着担体9に吸着させる(吸着工程)。この工程が105である。その後、アルコール等の有機溶剤を20%から80%含む500μLの洗浄液11をスピンカラム8に注入する。この工程が106である。次に、吸引により吸着担体9を洗浄し、核酸以外の成分を取り除くのが工程107である(洗浄工程)。この洗浄工程は2回繰り返すが、吸着した核酸は溶離しない。その後、低塩濃度の溶出液12を添加して、2分間から5分間静置する。この工程が108である。核酸を吸着担体9から溶離させ、最後に、吸引により、チューブ10に回収するのが工程109である(溶出工程)。代表的な溶出液の組成は、50mmol Tris/HCl(pH8.5)、0.1mmol EDTA・2Naである。第1の方法においては、簡便かつ迅速な処理のために、各工程において遠心分離操作を使用することができる。
【0014】
図5は吸引吐出法(以下、第2の方法という)を示す。第2の方法では、吸着担体13としてガラス、石英等の繊維を低密度に充填した円筒型中空のカラム14を使用する。このカラム14で添加液を加えた後の混合液7を複数回吸引吐出を繰り返し、吸着担体13に核酸を吸着させるのが工程110である(吸着工程)。続いて、500μLのアルコール等の有機溶剤を20%から80%含む洗浄液15を入れた別のチューブ16を使用して吸引吐出を行ない、核酸以外の成分を取り除く。この洗浄工程は、2回以上行う。その後、予め70℃に加熱したチューブ17内の溶出液18(100μL)をカラム14内の吸着担体13に接触する位置まで吸い上げた状態で約2分間静止する。この工程が111である。この操作により、核酸が吸着担体13から溶出液18に溶離する。溶出液18を吐出させて、核酸を回収する。この工程が112である。代表的な溶出液の組成は、50mmol Tris/HCl(pH8.5)、0.1mmol EDTA・2Naである。
以下、実施例で使用する材料、薬品、試料について詳細に説明する。
【0015】
1.核酸吸着材料およびカラム
1.1 スピンカラム
例えば、Whatman社のガラス繊維ろ紙を3層、遠心分離クロマトグラフィカラム(スピンカラム)に固定した。図4に示す第1の方法のプロトコルにて使用した。
1.2 核酸捕捉用カラム
特開平11―266864号に記載の核酸捕捉用チップに使用した直径0.5μm〜30μmの石英繊維(東ソー・クオーツ株式会社製または東芝セラミックス株式会社製)を充填した。これを図5に示す第2の方法のプロトコルにて使用した。
【0016】
2.核酸を含有する試料
2.1 血液(ヒト)
採血直後の血液、あるいは―20℃で凍結保存した血液を使用した。
2.2 組織
新鮮組織あるいは凍結保存した組織を使用した。
2.3 植物
植物を液体窒素下、乳鉢ですりつぶし、直接使用、あるいは凍結保存して用いた。
2.4 細胞
単離、または単離/培養された細胞を直接使用、または凍結保存していた細胞を用いた。
【0017】
3.試薬
3.1 反応液
反応液は、以下に示すカオトロピック塩、界面活性剤、消泡剤、その他塩成分から構成される。
3.1.1 カオトロピック塩
カオトロピック塩として、以下のいずれかを使用した。
KI:ヨウ化カリウム
GuHCl:グアニジン塩酸塩
GuHSCN:グアニジンチオシアン酸塩
3.1.2 界面活性剤
界面活性剤として、以下のいずれかを使用した。
Tween20:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート
Tween40:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート
Tween60:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート
Tween80:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート
Tween85:ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレート
TritonX-100:ポリオキシエチレン(10)イソオクチルフェニルエーテル
3.1.3 消泡剤
CE−457:日本油脂株式会社製の消泡剤ディスホーム、ポリアルキレングリコール誘導体
3.1.4 その他の塩
EDTA・2Na:エチレンジアミン四酢酸・ニナトリウム塩
Tris:トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
3.2.添加液
添加液には、以下のいずれかの有機溶剤を使用した。
EGDME:エチレングリコールジメチルエーテル
EGDEE:エチレングリコールジエチルエーテル
PGDME:プロピレングリコールジメチルエーテル
PGDEE:プロピレングリコールジエチルエーテル
DIGLYME:ジエチレングリコールジメチルエーテル
DGDEE:ジエチレングリコールジエチルエーテル
THF:テトラヒドロフラン
DX:1,4―ジオキサン
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
EL:乳酸エチル
HAC:ヒドロキシアセトン
AC:アセトン
MEK:メチルエチルケトン
3.3 洗浄液
洗浄液には、以下のいずれかの組成を用いた。
W1:25mmol/l 酢酸カリウム、70容量%エタノール
W2:25mmol/l 酢酸カリウム、50容量%エタノール
W3:25mmol/l Tris/HCl、50容量%エタノール
W4:10mmol/l Tris/HCl(pH8.5)、0.1mmol/l EDTA・2Na、50容量%エタノール
3.4 溶出液
溶出液には、以下のいずれかの組成を用いた。
E1:水(100%)、pH8.0
E2:10mmol/l Tris/HCl(pH8.5)、0.1mmol/l EDTA・2Na
E3:50mmol/l Tris/HCl(pH8.5)、0.1mmol/l EDTA・2Na
3.5.酵素
以下のいずれかの酵素を用いた。
protease:タンパク分解酵素プロテアーゼ
proteinase K:アルカリ性プロテイナーゼK
【0018】
【実施例】
実施例1 全血からの核酸抽出1
図3および図5に示された第2の方法に従ってヒト全血1(100μL)からの核酸抽出を行った。分解工程では、proteinase K(6)(10μL)を入れたチューブ5に、全血1(100μL)および反応液(100μL)を添加、攪拌し、混合液を得た。ここで用いた反応液は、濃度3Mのグアニジン塩酸塩、5容量%のTritonX−100を含んでいる。混合液を70℃で10分間インキュベートした。その後、EGDME、EGDEE、PGDME、PGDEE、DIGLYME、DGDEE、THF、DX、PGMEA、EL、HAC、ACおよびMEKの中から選ばれた添加液(100μL)を加え、攪拌した。
【0019】
吸着工程では、吸着担体13(東芝セラミックス株式会社製)を充填したカラム14を用いて、混合液7の吸引および吐出の操作を10回繰り返し行った。
洗浄工程では、別のチューブ16に入れた洗浄液(W1)15の吸引吐出の操作を3回繰り返し行った。
回収工程では、別のチューブ17に入れた溶出液18を、吸着担体13の全体が浸漬する位置まで吸上げて、2分間静止した。その後、溶出液18を吐出し、核酸溶液を回収した。
得られた核酸溶液は、沈殿精製等の工程無しで次のPCR等の反応や分析に使用することができた。
【0020】
表1は、各種添加液を用いたときの核酸収量と、抽出した核酸溶液における核酸の純度の指標となるA260/A280を示す。
【表1】
Figure 0003602071
【0021】
ここで、A260は、核酸を含んだ水溶液の波長260nmにおける吸光度を表す。A260/A280の値が1.8であるときに、核酸が純粋であるとされている。また、A260/A280の値が1.7から1.9の間であるときに、十分な純度であるとされている。表1における一連の実験では同一の酵素(proteinase K)、反応液、洗浄液および溶出液を使用した。得られた核酸は、二本鎖核酸を定量するための蛍光色素PicoGreen(Molecular Probes Inc.)を用いて、蛍光測定により、定量を行った。いずれの添加液を用いた場合でも、高純度の核酸が得られたことが判る。
【0022】
図6は、添加液DIGLYMEの添加量を変化させたときの核酸収量の変化を示している。横軸は混合液7中のDIGLYME濃度(容量%)、縦軸は最大収量を100とした時の相対収量(%)を表す。相対収量が80%以上のときに、目標の収量が得られる。DIGLYME濃度が5%から50%にかけて相対収量80%以上の収量が得られ、特に、約43%の時に最大収量が得られることが判る。
【0023】
図7は、添加液ELの添加量を変化させたときの核酸収量の変化を示している。一連の実験では同一の酵素(proteinase K)、反応液、洗浄液および溶出液を使用した。相対収量が80%以上のときに、目標の収量が得られる。EL添加量が10%から50%にかけて相対収量80%以上の収量が得られ、特に約33%の時に最大収量が得られることが判る。
【0024】
図8は、添加液として、DIGLYMEとELを混合して使用したときの核酸収量の変化を示している。ここでは、添加液の添加量は混合液全体の33%に相当する。図8の横軸は、添加液中のDIGLYME比率(体積比)を表す。相対収量が80%以上のときに、目標の収量が得られる。任意のDIGLYME比率において目的の収量が得られることが判る。
【0025】
図9、図10および図11は、反応液中の界面活性剤濃度と核酸収量との関係を示す。図9―図11の一連の実験では酵素としてproteinase K、添加液、洗浄液および溶出液を使用した。相対収量が80%以上のときに、目標の収量が得られる。界面活性剤含有量が5%から50%において相対収量80%以上の核酸収量が得られることが示されている。
【0026】
図12は、混合液7中の消泡剤(CE―457)添加量と核酸収量との関係を示す。一連の実験では同一の酵素(proteinase K)、添加液、洗浄液および溶出液を使用した。反応液については、消泡剤以外の組成は同一である。消泡剤添加量が0.2%から2.5%において相対収量80%以上の高い核酸収量が得られることが示されている。したがって、消泡剤の添加は、混合液における起泡の抑制のみならず、核酸収量の向上にも有効であることが示された。
【0027】
表2は、添加液にDIGLYMEを採用することにより、吸着工程における操作性が向上することを示すものである(*”Organic Solvents,Fourth Edition”, John Wiley&Sons,Inc.,1986)。
【表2】
Figure 0003602071
【0028】
特表平8―501321号に記載のアルコールの代表的な化合物であるエタノールと本発明の方法における添加液DIGLYMEの粘性を比較すると、DIGLYMEの粘性のほうが低いために、吸着工程において、混合液の粘性が低下し、カラム14内での通液抵抗が低下するので、吸着工程に要する時間が10秒短縮されたことが示されている。また、起泡が抑制されるので、汚染も減少し、操作性が向上した。
【0029】
表3は、各種添加液の引火点を示すものであり、これらの安全性について検討した(「溶剤ポケットブック」、有機合成化学協会編、オーム社)。
【表3】
Figure 0003602071
【0030】
引火点を比較すると、エタノールの引火点よりもDIGLYME、EL、EGDEEおよびDGDEEの方が高い。したがって、添加液としては、中でも、DIGLYME、EL、EGDEEおよびDGDEEを用いた方が、爆発や火災等の危険性が低く、安全上好ましいということができる。
【0031】
実施例2 全血からの核酸抽出2
図3および図5に示された第2の方法に従ってヒト全血1(1mL)からの核酸抽出を行った。分解工程では、proteinase K(6)(100μL)を入れたチューブ5に、全血1(1mL)および反応液(1mL)を添加、攪拌し、混合液を得た。ここで用いた反応液は、濃度3Mのグアニジン塩酸塩、5容量%のTritonX−100を含んでいる。混合液を70℃で10分間インキュベートした。その後、DIGLYME、エタノールの中から選ばれた添加液を(1mL)加え、攪拌した。
【0032】
吸着工程では、吸着担体13(100mg)(東ソー・クオーツ株式会社製)を充填したカラム14を用いて、混合液7の吸引および吐出の操作を10回繰り返し行った。
洗浄工程では、別のチューブ16に入れた洗浄液(W1)(3ml)15の吸引吐出の操作を3回繰り返し行った。
回収工程では、別のチューブ17に入れた溶出液(1ml)18を、吸着担体13の全体が浸漬する位置まで吸上げて、2分間静止した。その後、溶出液18を吐出し、核酸溶液を回収した。
得られた核酸溶液は、沈殿精製等の工程無しで次のPCR等の反応や分析に使用することができた。
【0033】
表4は、添加液にエタノールとDIGLYMEを用いたときの、核酸収量と、得られた核酸溶液のA260/A280を示したものである。
【0034】
【表4】
Figure 0003602071
【0035】
添加液としてエタノールを用いた場合には、核酸収量が0.6μgであったのに対し、DIGLYMEを用いた場合には、15.0μgであり、添加液としてDIGLYMEが優れていることが判明した。
【0036】
実施例3 全血からの核酸抽出3
図3および図4に示された第1の方法に従ってヒト全血100μLからの核酸抽出を行った。
分解工程は実施例1と同様に行った。また、使用した酵素、反応液、添加液、洗浄液および溶出液についても実施例1と同じであった。
吸着工程では、スピンカラム8に混合液を注ぎ、卓上遠心機(回転数6000rpm)を用いて、1分間遠心処理(回転数6000rpm)を行った。
洗浄工程では、スピンカラム8に、洗浄液(W2)11(500μl)を注ぎ、1分間遠心処理(回転数6000rpm)を行った。
回収工程では、スピンカラム8に溶出液(E2)12(100μl)を注ぎ、2分間室温(25℃)で放置した後、1分間遠心処理(回転数6000rpm)を行って核酸を回収し、定量、純度評価を行った。
この方法においても、実施例1と同様の結果が得られた。
【0037】
実施例4 組織からの核酸抽出1(第1の方法)
25mgの肝臓組織(ラット)と80μlのPBS(phosphate buffered saline)を混合し、機械的にホモジナイズした。Proteinase K(20μl)を添加後、攪拌し、組織が溶解するまで56℃に加熱した。濃度3Mのグアニジン塩酸塩、5容量%のTween80を含んだ反応液200μlを添加して混合液とした後、攪拌、70℃で10分間加熱した。DIGLYME (200μl)を添加し、混合した。以上が分解工程である。
【0038】
吸着工程では、スピンカラム8に混合液を注ぎ、卓上遠心機を用いて、1分間遠心処理(回転数6000rpm)を行った。
洗浄工程では、スピンカラム8に洗浄液(W3)11(500μl)を注ぎ、1分間遠心処理(回転数6000rpm)を行った。
回収工程では、スピンカラム8に上記E1、E2およびE3から選ばれた溶出液12(100μl)を注ぎ、2分間室温(25℃)で放置した後、1分間遠心処理(回転数6000rpm)を行って核酸を回収し、定量、純度評価を行った。
その結果、A260/A280が1.8の高純度の核酸が得られ、PCR反応に使用することが可能であった。
【0039】
実施例5 組織からの核酸抽出2(第1の方法)
20mgのぼうこう組織(ラット)から、実施例4と同様の方法で核酸抽出を行った。その結果、A260/A280が1.7の高純度の核酸が得られ、PCR反応に使用することが可能であった。
【0040】
実施例6 尿からの核酸抽出(第1の方法)
20mlの尿検体を、5分間遠心処理(回転数14000rpm)を行った。上清を除去し、尿沈査を分離した。得られた尿沈査に、proteinase K(20μl)と、濃度3Mのグアニジン塩酸塩、5容量%のTritonX−100を含んだ反応液200μlを添加後、攪拌、70℃で10分間加熱した。DIGLYME 200μlを添加し、混合した。以上が分解工程である。
【0041】
吸着工程では、上記スピンカラム8に混合液を注ぎ、卓上遠心機を用いて、1分間遠心処理(回転数6000rpm)を行った。
洗浄工程では、スピンカラム8に洗浄液(W4)11(500μl)を注ぎ、1分間遠心処理(回転数6000rpm)を行った。
回収工程では、スピンカラム8に溶出液(E3)12(100μl)を注ぎ、2分間室温(25℃)で放置した後、1分間遠心処理を行って核酸を回収し、定量、純度評価を行った。
その結果、A260/A280が1.8の高純度の核酸が得られ、PCR反応に使用することが可能であった。
【0042】
実施例7 細胞からの核酸抽出(第1の方法)
10個のHeLa細胞をPBS(100μl)に分散させ、proteinase K(20μl)と、濃度3Mのグアニジン塩酸塩、5容量%のTritonX−100を含んだ反応液200μlを添加後、攪拌、70℃で10分間加熱した。DIGLYME 200μlを添加し、混合した。以上が分解工程である。
【0043】
吸着工程では、上記スピンカラム8に混合液を注ぎ、卓上遠心機を用いて、1分間遠心処理(回転数6000rpm)を行った。
洗浄工程では、スピンカラム8に洗浄液(W2)11(500μl)を注ぎ、1分間遠心処理(回転数6000rpm)を行った。
回収工程では、スピンカラム8に溶出液(E1)12(100μl)を注ぎ、2分間室温(25℃)で放置した後、1分間遠心処理(回転数6000rpm)を行って核酸を回収し、定量、純度評価を行った。
その結果、A260/A280が1.8の高純度の核酸が得られ、PCR反応に使用することが可能であった。
【0044】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、回収の収率を向上させるとともに、核酸回収までに要する時間を短縮し、操作性に優れ、汚染の影響が少ない核酸の精製分離方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に於ける核酸の抽出プロセスを示す。
【図2】本発明の実施例に於ける全血の構成を示す。
【図3】本発明の実施例に於ける全血からの核酸抽出の手順中の分解工程を示す。
【図4】本発明の実施例に於ける全血からの核酸抽出の手順(第1の方法)を示す。
【図5】本発明の実施例に於ける全血からの核酸抽出の手順(第2の方法)を示す。
【図6】本発明の実施例に於ける混合液中のDIGLYME濃度と相対核酸収量の相関を示す。
【図7】本発明の実施例に於ける混合液中のEL濃度と相対核酸収量の相関を示す。
【図8】本発明の実施例に於けるDIGLYMEおよびEL混合添加液を用いた場合の添加液中のDIGLYME比率と相対核酸収量を示す。
【図9】本発明の実施例に於ける反応液中のTween20含有量と相対核酸収量の相関を示す。
【図10】本発明の実施例に於ける反応液中のTween80含有量と相対核酸収量の相関を示す。
【図11】本発明の実施例に於ける反応液中のTriton X−100含有量と相対核酸収量の相関を示す。
【図12】本発明の実施例に於ける反応液への消泡剤CE−457添加量と相対核酸収量の相関を示す。
【符号の説明】
1…ヒト全血、2…赤血球、3…白血球、4…核、5…チューブ、6…Proteinase K、7…混合液、8…スピンカラム、9…吸着担体、10…チューブ、11…洗浄液、12…溶出液、13…吸着担体、14…カラム、15…洗浄液、16…チューブ、17…チューブ、18…溶出液、
101…全血添加、102…反応液添加および攪拌、103…混合溶液のインキュベート、104…添加液の添加と攪拌、105…吸引による核酸吸着、106…洗浄液のカラムへの添加、107…洗浄工程、108…溶出液添加と静置、109…核酸の回収、110…吸引吐出による核酸吸着、111…溶出液吸上げと静置、112…核酸の回収

Claims (22)

  1. プロテアーゼ、カオトロピック塩、及び界面活性剤と試料とを混合した第1の混合液を所定の温度とし、
    前記所定の温度とした後に、前記第1の混合液に化合物を添加して第2の混合液とし、
    前記第2の混合液に含まれる核酸を担体に吸着させ、
    エタノールを含む溶液を用いて前記担体を洗浄し、
    前記担体に吸着した核酸を溶出させて回収し、
    前記化合物はエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4―ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ヒドロキシアセトン、アセトン、及びメチルエチルケトンの少なくとも1つであることを特徴とする核酸抽出方法。
  2. プロテアーゼ、カオトロピック塩、及び界面活性剤と試料とを混合した第 1 の混合液を所定の温度とし、
    前記所定の温度とした後に、前記第 1 の混合液に、ジエチレングリコールジメチルエーテル又は乳酸エチルを添加して第 2 の混合液とし、
    前記第 2 の混合液に含まれる核酸を担体に吸着させ、
    エタノールを含む溶液を用いて前記担体を洗浄し、
    前記担体に吸着した核酸を溶出させて回収する
    ことを特徴とする核酸抽出方法。
  3. 前記試料は組織であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の核酸抽出方法。
  4. 前記試料は尿であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の核酸抽出方法。
  5. プロテアーゼと、
    カオトロピック塩と界面活性剤とを含む第1の液体と
    化合物と、
    核酸を吸着させるための担体と、
    エタノールを含む第2の液体と、
    前記担体に吸着した核酸を、前記担体から遊離させるための溶出液と
    有し、前記化合物はエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4―ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ヒドロキシアセトン、アセトン、及びメチルエチルケトンの少なくとも1つであることを特徴とする核酸抽出キット。
  6. プロテアーゼと、
    カオトロピック塩と界面活性剤とを含む第 1 の液体と、
    ジエチレングリコールジメチルエーテル又は乳酸エチルと、
    核酸を吸着させるための担体と、
    エタノールを含む第 2 の液体と、
    前記担体に吸着した核酸を、前記担体から遊離させるための溶出液と
    を有することを特徴とする核酸抽出キット。
  7. 前記カオトロピック塩は、ヨウ化カリウム、グアニジン塩酸塩、及びグアニジンチオシアン酸塩の少なくとも1つであることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の核酸抽出キット。
  8. 前記界面活性剤は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレート、及びポリオキシエチレン(10)イソオクチルフェニルエーテルの少なくとも1つであることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の核酸抽出キット。
  9. 前記担体は、シリカ、アルミナ、ゼオライト、及び二酸化チタンの少なくとも1つを材料とすることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の核酸抽出キット。
  10. プロテアーゼ、カオトロピック塩、及び界面活性剤と血液とを混合した第1の混合液を所定の温度とし、
    前記所定の温度とした後に、前記第1の混合液に、化合物を添加して第2の混合液とし、
    前記第2の混合液に含まれる核酸を担体に吸着させ、
    エタノールを含む溶液を用いて前記担体を洗浄し、
    前記担体に吸着した核酸を溶出させて回収し、
    前記化合物はエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4―ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ヒドロキシアセトン、アセトン、及びメチルエチルケトンの少なくとも1つであることを特徴とする、血液からの核酸抽出方法。
  11. プロテアーゼ、カオトロピック塩、及び界面活性剤と血液とを混合した第 1 の混合液を所定の温度とし、
    前記所定の温度とした後に、前記第 1 の混合液に、ジエチレングリコールジメチルエーテル又は乳酸エチルを添加して第 2 の混合液とし、
    前記第 2 の混合液に含まれる核酸を担体に吸着させ、
    エタノールを含む溶液を用いて前記担体を洗浄し、
    前記担体に吸着した核酸を溶出させて回収する
    ことを特徴とする、血液からの核酸抽出方法。
  12. プロテアーゼと、
    カオトロピック塩と界面活性剤とを含む第1の液体と
    化合物と、
    核酸を吸着させるための担体と、
    エタノールを含む第2の液体と、
    前記担体に吸着した核酸を、前記担体から遊離させるための溶出液と
    を有し、前記化合物はエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4―ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ヒドロキシアセトン、アセトン、及びメチルエチルケトンの少なくとも1つであることを特徴とする血液からの核酸抽出キット。
  13. プロテアーゼと、
    カオトロピック塩と界面活性剤とを含む第 1 の液体と、
    ジエチレングリコールジメチルエーテル又は乳酸エチルと、
    核酸を吸着させるための担体と、
    エタノールを含む第 2 の液体と、
    前記担体に吸着した核酸を、前記担体から遊離させるための溶出液と
    を有することを特徴とする血液からの核酸抽出キット。
  14. タンパク質分解酵素と、
    カオトロピック塩と界面活性剤とを含み、試料に供給される反応液と
    記試料に供給した反応液に添加される添加液と、
    核酸を吸着させる吸着担体と、
    前記吸着担体を洗浄する洗浄液と、
    核酸が吸着した吸着担体から前記核酸を溶出させる、溶出液と
    を有し、前記添加液がエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4―ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ヒドロキシアセトン、アセトン、及びメチルエチルケトンの少なくとも1つであることを特徴とする核酸抽出キット。
  15. タンパク質分解酵素と、
    カオトロピック塩と界面活性剤とを含み、試料に供給される反応液と、
    前記試料に供給した反応液に添加される添加液と、
    核酸を吸着させる吸着担体と、
    前記吸着担体を洗浄する洗浄液と、
    核酸が吸着した吸着担体から前記核酸を溶出させる、溶出液と
    を有し、前記添加液がジエチレングリコールジメチルエーテル又は乳酸エチルであることを特徴とする核酸抽出キット。
  16. プロテイナーゼKと、
    グアジニン塩酸塩とポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートとポリアルキレングリコール誘導体を含む第1の液体と
    ジエチレングリコールジメチルエーテルと、
    核酸を吸着させるための担体と、
    酢酸カリウムとエタノールとを含む第2の液体と、
    トリス(ハイドロキシメチル)アミノメタンとエチレンジアミン四酢酸・二ナトリウム塩とを含む第3の液体とを有することを特徴とする核酸抽出キット。
  17. 前記第1の液体は試料に供給される反応液であり、前記ジエチレングリコールジメチルエーテルは前記試料に供給した反応液に添加される添加液であり、前記第2の液体は前記担体を洗浄する洗浄液であり、前記第3の液体は前記担体から前記核酸を溶出させる溶出液であることを特徴とする請求項16に記載の核酸抽出キット。
  18. 前記第 1 の混合液は消泡剤を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の核酸抽出方法。
  19. 前記第 1 の混合液は消泡剤を含むことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の血液からの核酸抽出方法。
  20. 前記第 1 の液体は消泡剤を含むことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の核酸抽出キット。
  21. 前記第 1 の液体は消泡剤を含むことを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の血液からの核酸抽出キット。
  22. 前記反応液は消泡剤を含むことを特徴とする請求項14又は請求項15に記載の核酸抽出キット。
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