JP3597774B2 - テーパ付ドリル - Google Patents

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Description

【0001】
【技術分野】
本発明は、先端切刃を有する先端部の軸方向基部側に連続して、テーパ状に拡径するテーパ切刃を有するテーパ部が形成されたテーパ付ドリルに係り、特に、金属板等への穿孔作業に好適に用いられる、改良された構造のテーパ付ドリルに関するものである。
【0002】
【背景技術】
従来から、金属等への穿孔用工具として、先端に切刃を有すると共に、外周面に開口して軸方向に延びる切屑排出用の溝をもった各種のドリルが提案されており、その一種として、実開平5−49211号公報に記載されているように、鈍角乃至は鈍角に近い先端角を有する先端切刃が形成された先端部と、該先端部の軸方向基部側に連続して設けられた、該先端部の先端角よりも小さい鋭角のテーパ角を有するテーパ切刃が形成されたテーパ部とを、備えたテーパ付ドリルが、知られている。
【0003】
このようなテーパ付ドリルは、先端切刃によって穿った小径穴を、軸方向基部側に控えたテーパ切刃で連続して拡径することによって、比較的大径の穴を効率的に穿つことが可能であり、例えば、数mm以下の比較的薄肉の金属板に対してボルト挿通孔等の比較的大径の孔を穿つ場合等に用いられており、特に、建築物等におけるコンクリート床形成用支持基板としてのデッキプレートに対してボルト挿通孔を穿つ場合などに、好適に採用されている。
【0004】
ところで、テーパ付ドリルにおけるテーパ切刃は、金属板等の穿孔対象物に対して連続的に切り込んで次第に拡径するように穿孔して行くことから、先端部を除くボデー全長に亘って外径寸法が一定のリーディングエッジを形成した一般的なストレートタイプのドリルに比して、テーパ切刃の周方向後方に位置する外周面が穿った孔の内周面に摺接し易い。そのために、穿孔に際してのドリルと穿孔対象物の摩擦抵抗が大きくなり易く、ドリルの駆動に大きなパワーの駆動源が必要とされると共に、ドリルの駆動反力が大きく、人手で穿孔作業を行う場合に大きな力が必要になるという問題があった。また、穿孔に際してドリルに発生する摩擦熱が大きく、ドリルの耐久性等に悪影響が及ぼされ易いという問題もあった。
【0005】
なお、このような問題に対処するために、従来から、テーパ部の外周面の外径寸法を、テーパ切刃から周方向後方に行くに従って次第に小径化させて、テーパ部の外周面を中心軸回りの円周面に対して径方向内方に逃げた逃げ面とした構造が採用されている。しかしながら、かかる逃げ面の径方向内方への逃げ量が小さいと、穿孔対象物の材質や穿孔時の軸方向荷重などによってテーパ切刃による穿孔対象物への切込量が大きくなった場合に、逃げ面が穿った孔の内周面に摺接してしてしまうおそれがある一方、逃げ面の径方向内方への逃げ量を大きくすると、穿った孔の内周面に対するドリルの接触が、僅かにテーパ切刃の点当り部分だけとなってしまうために、穿孔作業に際しての振れや振動が大きくなって、穿孔の加工精度の低下や作業の困難化などの問題が発生し易いという問題があり、必ずしも有効な方策ではなかったのである。
【0006】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、穿孔時における穿孔対象物との摺動抵抗の低減と、穿孔作動の安定化という、相反する二つの要求特性を、両立的に且つ高度に達成することのできる、新規な構造のテーパ付ドリルを提供することにある。
【0007】
【解決手段】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載され、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0008】
本発明の第一の態様は、鈍角乃至は鈍角に近い先端角を有する先端切刃が形成された先端部と、該先端部の軸方向基部側に連続して設けられた、該先端部の先端角よりも小さい鋭角のテーパ角を有するテーパ切刃が形成されたテーパ部とを、備えたテーパ付ドリルにおいて、前記テーパ部の外周面を前記テーパ切刃からヒール側に行くに従って次第に小径化する逃げ面とすると共に、該逃げ面に対して、前記テーパ切刃側の端部近くを該テーパ切刃に沿って延びる凹状の逃げ部を形成すると共に、ヒール側の端部近くを該ヒールに沿って延びる凸状の隆起部を形成したことを、特徴とする。
【0009】
このような本態様に従う構造とされたテーパ付ドリルにおいては、テーパ切刃を形成するランドの外周面に逃げ部を形成したことにより、該逃げ部と隆起部の間の外周面が、テーパ切刃と逃げ部の間に形成された逃げ面の一定曲率での周方向延長線よりも径方向内方に位置せしめられた二番逃げ面とされる。これにより、穿孔に際してのテーパ部外周面の孔内周面に対する摺接が、二番逃げ面の形成部位で回避されることとなり、摺接面積の減少が図られ得る。
【0010】
その結果、穿孔に際してのドリルと穿孔対象物の摩擦抵抗が抑えられて、ドリルの駆動に必要とされる駆動力の軽減や、ドリルの駆動反力の減少に伴う穿孔作業性の向上、および摩擦熱の軽減に伴うドリルの耐久性の向上などが達成され得る。
【0011】
また、かかるテーパ付ドリルにおいては、テーパ切刃を形成するランドの外周面におけるヒール側の端部近くに隆起部を形成したことにより、穿孔に際して、定常的に或いは適宜に、隆起部が孔内周面に当接せしめられることとなる。その結果、穿孔に際して、ドリル外周面の孔内周面に対するテーパ切刃だけの点当り的な不安定な当接状態が回避されて、穿孔作業を安定して行うことが可能となり、穿孔作業性が向上されると共に、穿孔形状等の穿孔精度も向上され得る。
【0012】
特に、テーパ切刃を形成するランドの外周面において、隆起部が、テーパ切刃と反対のヒール側の端部近くに形成されており、それらテーパ切刃と隆起部による孔内周面に対する当接点が、周方向で十分に大きく離隔位置せしめられることから、それらテーパ切刃と隆起部の孔内周面への当接による穿孔作動の安定性の向上効果が一層有利に発揮され得るのである。
【0013】
なお、テーパ切刃のテーパ角の大きさは、穿孔対象物の材質や使用する電動機等のパワー、穿孔する孔径等に応じて適宜に設定されるものであるが、数mm以下の一般的な鉄鋼製のデッキプレートに10〜30mmφの孔を穿つ場合には、穿孔効率や穿孔作業性等を考慮して3〜30度のテーパ角とすることが望ましい。また、先端部の外径寸法、即ち先端切刃の外径寸法は、余り大きくすると、先端切刃による摺動抵抗や発熱等の問題が発生するおそれがあることから、穿孔対象物の材質や使用する電動機等のパワー、穿孔する孔径等によっても異なるが、8mm以下とすることが望ましく、より好適には4mm以下とされる。なお、先端部には、切削抵抗と摺動摩擦を抑えるために、逃げ面を形成することが望ましく、シンニングも好適に採用される。
【0014】
また、先端部とテーパ部を含むテーパ付ドリルの材質は、特に限定されるものでなく、従来から知られている高速度工具鋼や超硬合金,超硬質非合金などの各種のドリル材が採用可能であり、必要に応じてコーティングや表面処理も採用され得る。更にまた、本態様に係るテーパ付ドリルには、その大径側端部に対して、装着される電気ドリル等の主軸に装着するためのシャンクが、装着部の構造に応じた適当な形状をもって、適宜に形成される。また、本態様に係るテーパ付ドリルにおいては、むくドリル構造の他、溶接ドリル構造や、付刃ドリル構造、先むくドリル構造,差込みドリル構造などを、必要に応じて採用することが出来る。
【0015】
また、本発明の第二の態様は、前記第一の態様に従う構造とされたテーパ付ドリルにおいて、前記テーパ切刃を、0.5〜15度のねじれ角で形成すると共に、該テーパ切刃を形成するすくい面を平面形状としたことを、特徴とする。このような本態様のテーパ付ドリルにおいては、テーパ切刃のねじれ角を0.5〜15度としたことにより、特に数mm以下の肉厚寸法を有する鉄鋼製のデッキプレートへの穿孔を効率的に行うことが可能となる。また、0.5〜15度と比較的に小さなねじれ角を採用して、すくい面が平面形状とされていることから、すくい面、延いてはテーパ付ドリルを、切削加工等によって容易に製造することが出来るのである。なお、テーパ切刃のねじれ角は、穿孔対象物の材質や肉厚寸法,穿孔径等に応じて適宜に設定されるものであるが、数mm以下の一般的なデッキプレートに10〜30mmφの孔を穿つ場合には、穿孔効率や穿孔作業性等を考慮して1〜5度のねじれ角とすることが望ましい。また、中心軸を含む面に対するすくい面の傾斜角度(すくい面傾斜角)は、テーパ切刃の特に大径側部分において、3〜10度とすることが望ましく、それによって、切削性と耐久性が両立され得る。
【0016】
また、本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に従う構造とされたテーパ付ドリルにおいて、前記テーパ部を、軸方向に連続して形成された複数の分割テーパ部によって構成すると共に、それら複数の分割テーパ部におけるテーパ切刃のテーパ角を、前記先端部に近い程大きくなるようにしたことを、特徴とする。このような本態様のテーパ付ドリルにおいては、穿孔作業の進行に伴って孔が大径化した場合に、テーパ切刃のテーパ角が小さくされて、穿孔対象物に対するテーパ切刃の切り込み量が抑えられるのであり、それによって、ドリルの回転中心軸とテーパ切刃の穿孔点の間の距離が大きくなることに起因する穿孔反力の増大が軽減乃至は回避される。それ故、かかるテーパ付ドリルを採用すれば、特に大径の孔を穿つ際の作業性が向上されるのである。
【0017】
また、本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れかの態様に従う構造とされたテーパ付ドリルにおいて、前記逃げ部を、前記切刃と略平行に延びる略円弧形底面の凹溝形状としたことを、特徴とする。このような本態様のテーパ付ドリルにおいては、研削盤を用いた研削加工等によって、テーパ付ドリルの逃げ面に対して目的とする逃げ部を容易に形成することが可能となる。なお、逃げ部の深さは、逃げ部と隆起部の間の外周面が穿孔内周面に当接するのを有利に回避するために、10μm以上とすることが望ましく、また、テーパ切刃や隆起部の強度や耐久性を十分に確保すると共に、製造を容易とするために、200μm以下とすることが望ましい。
【0018】
また、本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れかの態様に従う構造とされたテーパ付ドリルにおいて、前記テーパ部における大径側の軸方向端部に対して、中心軸方向に一定の外径寸法で延びる非テーパ部を連続して形成し、該非テーパ部にまで前記テーパ切刃を形成する溝を延び出させて形成すると共に、該非テーパ部の外径寸法を周方向に変化させて逃げ面を形成したことを、特徴とする。このような本態様のテーパ付ドリルにおいては、穿孔対象物に切り込むテーパ切刃の作用位置がテーパ部から非テーパ部に変わる際に作業者の感覚が変化することにより、穿孔作業の完了を作業者が容易に認識することが出来ると共に、非テーパ部に形成された切刃によって穿った孔の内周面を高精度に仕上げることが出来る。なお、非テーパ部は、拡径穿孔を目的とするものでないことから、切刃よりも小さな径寸法で周方向に延びる逃げ面を形成するだけで、孔の内周面に対する摺動抵抗を十分に抑えることが出来るのであり、テーパ部における逃げ部や隆起部は必ずしも形成する必要がない。
【0019】
また、本発明の第六の態様は、前記第一乃至第五の何れかの態様に従う構造とされたテーパ付ドリルであって、前記テーパ部の大径側の軸方向端部において、軸直角方向に広がるストッパ面を備えたフランジ部を一体形成して、該フランジ部にまで前記テーパ切刃を形成する溝を延び出させて形成すると共に、該フランジ部における該ストッパ面の内周側隅部に対して、周方向に延びるくびれ状の周溝を形成したことを、特徴とする。このような本態様のテーパ付ドリルにおいては、穿孔作業の完了時に、穿孔対象物に対して穿孔した孔よりも大径のストッパ面が当接せしめられることから、作業者が穿孔完了を容易に認識することが出来ると共に、テーパ付ドリルの孔内への余分な入り込みが防止されて連続した穿孔作業の効率が向上される。また、フランジ部までテーパ切刃を形成する溝が延び出して形成されることから、テーパ切刃を形成する溝を通じての切屑の排出効率が向上されると共に、研削盤等によるテーパ切刃の形成が容易となる。更に、フランジ部の内周側隅部にくびれ状の周溝が形成されて、切刃を形成するドリル外周面とフランジ部のストッパ面が、かかる周溝で実質的に分断されていることから、それらドリル外周面とストッパ面の研磨加工を容易に行うことが出来ると共に、穿孔完了時にドリル外周面とストッパ面の間の隅肉部が孔の開口周縁部に接触することに起因する摩擦発熱や孔の変形などの問題が回避され得る。
【0020】
【発明の実施形態】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0021】
先ず、図1〜5には、本発明の実施形態としてのテーパ付ドリル10が、示されている。このテーパ付ドリル10は、全体として円錐形状乃至はコーン形状のボデー12を有しており、ボデー12の大径側端部には、シャンク14が軸方向外方に突設されている。そして、シャンク14が、電気ドリル等の駆動軸に取り付けられて中心軸回りに回転駆動せしめられることにより、例えば、デッキプレート等の薄肉金属板に対するボルト孔等の穿孔作業に供されるようになっている。
【0022】
より詳細には、ボデー12は、シャンク14を含んで、高速度工具鋼によって一体形成されてむくドリルとされており、かかるボデー12に対して、軸方向全長に亘って延びる二つの溝16,16と二つのランド18,18が、溝幅比を略1として形成されている。そして、これら溝16,16とランド18,18によって、先端切刃20,20を備えた先端部22と、テーパ切刃24,24を備えたテーパ部26、更にリーディングエッジ28,28を備えた切上部30が、一つの中心軸32上で一体的に形成されている。また、先端部22の先端切刃20,20と、テーパ部26のテーパ切刃24,24、および切上部30のリーディングエッジ28,28は、溝16,16によって互いに連続して直線的に形成されている。
【0023】
先端部22のランド18,18は、先端切刃20の部分で80〜140度の先端角:αを有しており、特に本実施形態では、α=略90〜110度に設定されている。また、二つのランド18,18には、略クロス形(X形)のシンニング27,27が施されて、先端切刃20とチゼルエッジの形状が調節されている。更に、先端部22における各ランド18の外周面は、中心軸30に対する傾斜角度が先端切刃20からヒール34に向かって周方向で次第に小さくされており、それによって、先端部22のランド18の外周面の略全面が逃げ面36とされている。
【0024】
また、テーパ部26のランド18,18は、その外周面のテーパ角度が、軸方向中間部分で変化せしめられており、以て、かかるテーパ部26が、各テーパ切刃24の部分でテーパ角度:βを有する第一のテーパ部38とテーパ角度:γを有する第二のテーパ部40から構成されている。これら第一及び第二のテーパ部38,40の各テーパ角度:β,γは、何れも、先端部22の先端角:αよりも小さな鋭角とされており、且つ、β>γとされている。特に本実施形態では、β=10〜15度,γ=5〜10度に設定されている。
【0025】
さらに、第一及び第二のテーパ部38,40における各ランド18の外周面は、テーパ切刃24からヒール34に向かって、外径寸法が周方向で次第に小さくされており、それによって、図6〜7に横断面図とその要部拡大図が示されているように、第一及び第二のテーパ部38,40における各ランド18の外周面の略全面が、テーパ逃げ面42,44とされている。なお、第一のテーパ部38の外周面と第二のテーパ部40の外周面は、互いに略相似形とされていることから、第二のテーパ部40の要部だけを図7に示し、第一のテーパ部の要部については、対応する部位の番号を括弧書きで図7に併せ示すことによって、図示を省略する。即ち、図7中、C1は、テーパ付ドリル10の中心軸32を中心とする円であり、かかる円:C1に対して、周方向で漸次増大する径方向内方へのすかし量:S1をもって、テーパ逃げ面42,44が形成されている。
【0026】
また、これらテーパ逃げ面42,44には、テーパ切刃24から僅かに周方向後方に離隔した位置に、テーパ切刃24に沿って直線的に延びる逃げ部46,48が連続的に形成されている。この逃げ部46,48は、ランド18の周方向中央よりも回転方向前方側に位置せしめられており、好ましくは、テーパ切刃24から回転方向後方に0.2〜5mmだけ離隔位置して形成されている。特に、本実施形態では、かかる逃げ部46,48が、何れも、NC研磨機等を用いた研磨加工によって、円弧状断面を有する凹溝形状で形成されている。
【0027】
更にまた、逃げ部46,48よりも回転方向後方の外周面は、テーパ逃げ面42,44の延長線(C2)よりも、更に径方向内方に二番すかし量:S2だけ離隔して位置せしめられた二番逃げ面50,52とされている。なお、二番すかし量:S2の大きさは、周方向で変化していても良く、略一定であっても良い。
【0028】
さらに、第一及び第二のテーパ部38,40のランド18,18の外周面には、各ヒール34に近接した位置において、二番逃げ面50,52から外周面側に隆起した隆起部54,56が突設されている。かかる隆起部54,56は、ランド18,18の表面研削加工によって一体形成されており、本実施形態では、その突出先端部分が、二番逃げ面50,52の鉛直線よりも径方向外方に突出せしめられて、テーパ逃げ面42,44の延長線:C2の略近くに位置せしめられている。
【0029】
すなわち、第一及び第二のテーパ部38,40の外周面においては、逃げ部46,48が形成されることにより、テーパ切刃24に近い位置で径方向内方に向かって段差状に小径化せしめられていると共に、かかる逃げ部46,48から周方向後方側では、隆起部54,56に至るまで、逃げ面36よりも径方向内方に位置せしめられた二番逃げ面50,52とされている。
【0030】
また、前記切上部30のランド18,18は、外径寸法が軸方向で略一定の非テーパ部とされており、ランド18の外周面と溝16のすくい面によってリーディングエッジ28が形成されている。また、切上部30の各ランド18の外周面は、リーディングエッジ28からヒール44に向かって漸次に小径化せしめられた逃げ面58とされている。なお、切上部30におけるランド18,18の外径寸法は、第二のテーパ部40におけるランド18,18の軸方向後端側の最大外径寸法と同じとされている。
【0031】
さらに、切上部30の軸方向後方には、厚肉円板形状を有するフランジ部としてのストッパ部60が、中心軸32上で軸直角方向に広がって一体形成されている。そして、このストッパ部60における第二のテーパ部40側の軸方向端面が、軸直角方向に広がるストッパ面62とされている。なお、第二のテーパ部40のランド18,18の外周面とストッパ面62の連接部分には、第二のテーパ部40の軸方向端部の全長に亘って周方向に連続して延びる周溝64,64が形成されている。これにより、ランド18,18の外周面からのストッパ面62の立上り隅部が、径方向内方に逃がされている。
【0032】
また、本実施形態では、先端部22とテーパ部26および切上部30に跨がって形成された溝16,16が、ストッパ部60にまで延び出して形成されており、それらの溝16,16によってストッパ部60の外周部分が二カ所で切り欠かれた形状とされている。なお、かかる溝16は、図1に示されている如く、平面形状のすくい面66を有しており、かかるすくい面66の立ち上がり方向での正面視において、中心軸32を含む平面に対してすくい面66が交差せしめられている。これにより、テーパ切刃24における逃げ面36とすくい面66の交角が、テーパ部26の大径側、特に第二のテーパ部38において、鋭角化されており、好ましくはかかる交角:εが、75度≦ε≦88度、より好ましくは80度≦ε≦87度に設定される。このような溝16は、例えば、研削加工によって有利に形成され得る。
【0033】
更にまた、ストッパ部60の外面中央部分には、中心軸32上で軸方向外方に延び出すシャンク14が一体形成されている。なお、本実施形態では、三角形断面のシャンク形状とされていにると共に、軸方向の中間部分には、周方向に連続して延びる係止溝68が形成されている。
【0034】
そして、このような構造とされたテーパ付ドリル10は、例えば、図8に示されているように、回転駆動軸70の先端に設けられた取付穴72に対して、シャンク14が差し込まれて、取付穴72の内周面に突出して付勢配置された係合ボール74が係止溝68に係止されることによって、軸方向および回転方向の相対変位が阻止された状態で、回転駆動軸70に対して同軸的に取り付けられることとなる。なお、図8において、76は、回転駆動軸70に対して外挿装着されたカップリングスリーブであり、このカップリングスリーブ76によって、係合ボール74の係止溝68からの離脱が阻止されていると共に、該カップリングスリーブ76を、内臓スプリング78の付勢力に抗して軸方向に変位させることにより、係合ボール74の係止溝68からの離脱が許容されて、テーパ付ドリル10を回転駆動軸70から取り外すことが出来るようになっている。
【0035】
また、かくの如く回転駆動軸70に取り付けられたテーパ付ドリル10は、例えば、図9に示されているように、回転駆動軸70を電気ドリル80の出力軸に連結固定し、該電気ドリル80を作業者82が操作することによって、デッキプレート等の金属板84に対するボルト挿通孔86の穿孔作業に供されることとなる。
【0036】
そこにおいて、上述の如きテーパ付ドリル10においては、先端切刃20,20に続くテーパ切刃24,24を形成するランド18,18の外周面に対して、それぞれ、テーパ切刃24に近接形成された逃げ部46,48とヒール34に近接形成された隆起部54,56が形成されて、それら逃げ部46,48と隆起部54,56の間の表面部分が、すかし量の大きい二番逃げ面50,52とされており、それら二番逃げ面50,52の穿孔内周面に対する摺接が軽減乃至は回避され得ることとなる。
【0037】
それ故、ドリル外周面の穿孔内周面に対する摺接面積の軽減による摺動抵抗の低減効果が発揮されて、電気ドリル80に要求される駆動力が軽減されると共に、ドリルの駆動反力が小さくなって穿孔作業労力も軽減され得る。また、駆動力や作業労力が軽減されることから、穿孔速度の向上も達成され得るのである。更にまた、テーパ部26の外周面と削孔内周面との摺接面における摩擦熱も軽減されることから、ドリルの耐久性も向上され得る。
【0038】
しかも、テーパ部26のランド18,18には、テーパ切刃24から周方向に大きく離隔したヒール34,34に近接位置して隆起部54,56が形成されていることから、穿孔に際して、各ランド18において、かかる隆起部54,56が、孔内周面に対して優先的に摺接されることとなり、その結果、回転中心軸32が安定化せしめられて、目的とする穿孔作業を容易に且つ安定して行うことが出来るのである。
【0039】
また、本実施形態では、テーパ部26が、互いにテーパ角の異なる第一及び第二のテーパ部38,40で構成されており、穿孔した孔の口径が大きくなるに従ってテーパ切刃24のテーパ角が小さくされることから、穿孔作業の全体に亘って、テーパ付ドリル10に及ぼされる穿孔反力、換言すれば電気ドリル80に要求される回転駆動力の変化が軽減乃至は防止されるのであり、作業に必要とされる駆動反力の変化も軽減されて、作業性の更なる向上が図られ得る。
【0040】
因みに、上述の如き構造とされたテーパ付ドリル10を試作し、かかる試作品について実用性を検査した。なお、試作品においては、先端部22を、先端角≒90度,最大外径寸法≒4mmとする一方、第一のテーパ部38を、テーパ角≒12.5度,最大外径寸法≒9.5mmφとすると共に、第二のテーパ部40を、テーパ角≒8度,最大外径寸法≒16mmφとした。その結果、電気ドリルを回転駆動手段として用いた鉄鋼製のデッキプレートへの連続穿孔作業に際して、テーパ部26の外周面に逃げ部46,48や隆起部54,56を形成しない従来構造のテーパ付ドリルに比して、本発明に従う構造とされた試作品のテーパ付ドリル(10)では、作業者に及ぼされる回転反力の軽減効果が明らかに体感される程であり、穿孔作業の速度、即ち、一定数の穿孔作業に要する時間も、同一作業条件下で10%以上、向上された。
【0041】
なお、上記試作品について、真円度の精密測定機を用い、中心軸回りに回転させた際の外周面の変位を、位置固定に設置した距離センサで計測することによって、外周面形状を実測した結果を、図10〜13に示す。図10〜13は、それぞれ、図2におけるa−a〜d−dの各断面に対応する外周面の測定データである。これらの測定データから、かかる試作品においては、第一及び第二のテーパ部38,40の外周面に対して、テ―パ切刃24に近接位置して逃げ部46,48が形成されていると共に、ヒール34に近接位置して隆起部54,56が形成されており、それら逃げ部46,58と隆起部54,56の間が、テーパ逃げ面42,44の延長線:C2よりも、更に径方向内方に位置せしめられた二番逃げ面50,52とされていることが、明らかに認められる。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものでない。
【0043】
例えば、前記実施形態では、テーパ部26が、互いにテーパ角の異なる二つのテーパ部38,40から構成されていたが、それら両テーパ部38,40の相対的な長さや角度等は、特に限定されるものでない。
【0044】
また、テーパ部26を、一定のテーパ角を有する単一のテーパ部で構成することも可能であり、また、互いにテーパ角の異なる三つ以上のテーパ部で構成しても良い。或いはまた、軸方向でテーパ角が漸次に連続的に変化する曲面形状のテーパ部を採用することも可能である。
【0045】
更にまた、溝16のねじれ角や、ボデー12の軸方向長さなどによっては、溝16を直接的に形成することなく、ボデー12の外周面を螺旋状に延びる形態をもって形成しても良い。
【0046】
また、切上部30やストッパ部60には、切刃やリーディングエッジは必ずしも必要でないことから、それら切上部30やストッパ部60にまで延び出さない長さで溝16を形成しても良い。
【0047】
加えて、本発明に従う構造とされたテーパ付ドリルは、ボール盤等の工作機械に装着して使用することも、勿論、可能である。
【0048】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【0049】
【発明の効果】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされたテーパ付ドリルにおいては、テーパ部のテーパ切刃に沿って形成した逃げ部と、ヒールに沿って形成した隆起部によって、テーパ部外周面の穿孔内周面に対する安定的な摺接状態を確保しつつ、それらテーパ部の外周面と穿孔内周面の間での摺動抵抗を大幅に低減させることが出来るのであり、それによって、目的とする穿孔を、優れた作業性をもって速やかに且つ高精度に行うことが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態としてのテーパ付ドリルを示す正面図である。
【図2】図1における左側面図である。
【図3】図1に示されたテーパ付ドリルの平面図である。
【図4】図1に示されたテーパ付ドリルの底面図である。
【図5】図1に示されたテーパ付ドリルの斜視図である。
【図6】図1におけるVI−VI断面図である。
【図7】図6の要部を拡大して示す説明図である。
【図8】図1に示されたテーパ付ドリルの回転駆動軸への装着状態を示す説明図である。
【図9】図1に示されたテーパ付ドリルの使用状態を概略的に示す説明図である。
【図10】図2におけるa−a断面に対応する外周面形状の実測結果を示すグラフである。
【図11】図2におけるb−b断面に対応する外周面形状の実測結果を示すグラフである。
【図12】図2におけるc−c断面に対応する外周面形状の実測結果を示すグラフである。
【図13】図2におけるd−d断面に対応する外周面形状の実測結果を示すグラフである。
【符号の説明】
10 テーパ付ドリル
12 ボデー
14 シャンク
20 先端切刃
22 先端部
24 テーパ切刃
26 テーパ部
38 第一のテーパ部
40 第二のテーパ部
46,48 逃げ部
50,52 二番逃げ面
54,56 隆起部

Claims (7)

  1. 鈍角乃至は鈍角に近い先端角を有する先端切刃が形成された先端部と、該先端部の軸方向基部側に連続して設けられた、該先端部の先端角よりも小さい鋭角のテーパ角を有するテーパ切刃が形成されたテーパ部とを、備えたテーパ付ドリルにおいて、
    前記テーパ部の外周面を前記テーパ切刃からヒール側に行くに従って次第に小径化する逃げ面とすると共に、該逃げ面に対して、前記テーパ切刃側の端部近くを該テーパ切刃に沿って延びる凹状の逃げ部を形成すると共に、ヒール側の端部近くを該ヒールに沿って延びる凸状の隆起部を形成したことを特徴とするテーパ付ドリル。
  2. 前記テーパ切刃を、0.5〜15度のねじれ角で形成すると共に、該テーパ切刃を形成するすくい面を平面形状とした請求項1に記載のテーパ付ドリル。
  3. 前記テーパ部を、軸方向に連続して形成された複数の分割テーパ部によって構成すると共に、それら複数の分割テーパ部におけるテーパ切刃のテーパ角を、前記先端部に近い程大きくなるようにした請求項1又は2に記載のテーパ付ドリル。
  4. 前記逃げ部を、前記切刃と略平行に延びる略円弧形底面の凹溝形状とした請求項1乃至3の何れかに記載のテーパ付ドリル。
  5. 前記テーパ部における大径側の軸方向端部に対して、中心軸方向に一定の外径寸法で延びる非テーパ部を連続して形成し、該非テーパ部にまで前記テーパ切刃を形成する溝を延び出させて形成すると共に、該非テーパ部の外径寸法を周方向に変化させて逃げ面を形成した請求項1乃至4の何れかに記載のテーパ付ドリル。
  6. 前記テーパ部の大径側の軸方向端部において、軸直角方向に広がるストッパ面を備えたフランジ部を一体形成して、該フランジ部にまで前記テーパ切刃を形成する溝を延び出させて形成すると共に、該フランジ部における該ストッパ面の内周側隅部に対して、周方向に延びるくびれ状の周溝を形成した請求項1乃至5の何れかに記載のテーパ付ドリル。
  7. 前記逃げ面が、
    )前記テーパ切刃から前記ヒール側に向かって、中心軸を中心とする円:C1に対して周方向で漸次増大する径方向内方への一番すかし量:S1をもって周方向に延びる一番逃げ面としてのテーパ逃げ面(42,44)と、
    ii )該テーパ逃げ面(42,44)の回転方向後方の端部においてテーパ切刃に沿って直線的に延びるように形成された逃げ部(46,48)に対して、該逃げ部(44,46)よりも回転方向後方に位置して、該テーパ逃げ面(42,44)の延長線:C2よりも更に径方向内方に二番すかし量:S2だけ離隔して位置せしめられた二番逃げ面(50,50)と、
    によって構成されており、それによって該一番逃げ面としてのテーパ逃げ面(42,44)と該二番逃げ面(50,50)との境界部分に該逃げ部(46,48)が形成されている請求項1乃至6の何れかに記載のテーパ付ドリル。
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