JP3595751B2 - 熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、無機粉末を熱可塑性樹脂に高充填した射出成型、加熱圧縮成型用材料に関するものである。更に詳細には、電気電子部品、機械部品等で摺動性と高比重が同時に要求される部位に好適な、高摺動性、高比重、高強度、高靱性でしかも成形性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、無機粉末を高充填した熱可塑性樹脂組成物として、プラスチックマグネット用樹脂組成物が良く知られている。また、高比重金属粉末を高充填し、高比重性を付与した樹脂組成物も、振動モーターの振動子や、釣り用のルアー等多くの産業分野で広く使用されている。例えば、実用新案登録第3007418号では、熱可塑性樹脂にタングステン粉末を配合した振動源用モーターの偏心重りが示されている。また、特開平10−229785号には、ナイロン樹脂に鉛よりも比重の大きいタングステン等の高比重物質を配合したジグ・ヘッドが示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来の無機粉末を配合した熱可塑性樹脂組成物は、無機粉末の配合量の増加に伴って高比重化するが、流動性が低下し、成形不良や外観不良等の問題点が生じる。また、鉛並の高比重を得ようとする場合には止むを得ないが、タングステンを多く配合すると製品価格が高くなりすぎ、産業分野での利用範囲が限られるという問題がある。
【0004】
一方、プラスチック摺動材料として、二硫化モリブデン或いはグラファイト等の固体潤滑剤を配合する方法が知られており、ベアリング、軸受け等に利用されている。しかしながら、用途によっては比重を高くする必要があり、従来の樹脂を主体とした物では、目的の比重が得られない場合がある。プラスチック摺動材料を高比重化するためには、タングステンを配合することが効果的である。しかしながら、原料価格が高いために製品価格が高くなりすぎるという問題がある。また、樹脂と密度が大幅に違うために、タングステンの配合量が少ない領域では、成型時にタングステンの分離が生じ、成型品の密度バラツキや外観不良が生じるという問題がある。このように、成形性に優れた高摺動性、高比重材料を得ることは簡単ではなかった。
【0005】
本発明の目的は、上述した従来の熱可塑性樹脂組成物が有する課題を解決するとともに、動摩擦係数が小さく、成形性が優れ、しかも、任意の比重を有する熱可塑性樹脂組成物を安価に提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上述した目的を達成するために、熱可塑性樹脂組成物の配合割合を、比重10未満の少なくとも一種の潤滑作用のある無機粉末が混合された無機粉末30〜85重量%、比重10以上のタングステン粉末或いはタングステンを含む合金粉末3〜60重量%、熱可塑性樹脂7〜20重量%としたものであり、また、比重10未満の無機粉末として、金属、金属酸化物、炭化物、ホウ化物、窒化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩、炭素の中から1種以上を用い、少なくとも1種は固体潤滑剤としての作用があるものを用いたものである。
【0007】
【実施例】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明の趣旨を超えない限り何ら、本実施例に限定されるものではない。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、比重10未満の少なくとも一種の潤滑作用のある無機粉末が混合された無機粉末30〜85重量%、比重10以上のタングステン粉末或いはタングステンを含む合金粉末3〜60重量%、熱可塑性樹脂7〜20重量%を配合してなる熱可塑性樹脂組成物によって、上述した課題を解決できることを見い出したものである。
【0009】
本発明に用いる比重10未満の無機粉末としては、アルミニウム、シリコン、カルシウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、亜鉛、錫、銅、鉄、ステンレス等の金属及びその合金、アルミナ、マグネシア、シリカ、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化バリウム等の金属酸化物、炭化珪素、炭化ホウ素等の炭化物、ホウ化アルミニウム、ホウ化モリブデン等のホウ化物、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物、硫化モリブデン等の硫化物が挙げられる。また、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、グラファイト、カーボンブラック、ピッチ等の炭素が挙げられる。これらは、1種でも、2種以上混合して用しても良いが、少なくとも、1種は潤滑作用のある無機粉末を用いる必要がある。固体潤滑剤として、上記の硫化物、ホウ化物、炭素が一般的であるが、酸化亜鉛、硫酸バリウム等も潤滑作用があり、被摺動物によって適宜選択する。
【0010】
本発明に用いる比重10以上の無機粉末としては、タングステン或いは炭化タングステン、炭化タングステン−コバルト、タングステン−銅、タングステン−銀等のタングステンを含む合金粉末が挙げられる。これらは1種でも、2種以上混合して用いても良い。
【0011】
本発明に用いる熱可塑性樹脂としては、射出成形、加熱圧縮成形可能なものであれば特に限定するものではなく、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリオレフィン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、EEA樹脂、ABS樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイドが好適である。
【0012】
本発明に用いる比重10未満の少なくとも一種の潤滑作用のある無機粉末が混合された無機粉末の配合量は、30〜85重量%、比重10以上のタングステン粉末或いはタングステンを含む合金粉末の配合量は、3〜60重量%であることが肝要である。好ましくは、上記の比重10未満の無機粉末が、40〜80重量%、比重10以上のタングステン粉末或いはタングステンを含む合金粉末が、10〜60重量%である。このような無機粉末を組み合わせて用いることにより、成形性、成型品外観が共に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0013】
比重10未満の上述した無機粉末が、30重量%より少ないと、目的の比重を得るためには、比重10以上の無機粉末の配合量を多くしなければならず、従って、製品価格が上昇する。また、樹脂に対する無機粉末の割合が少なくなりすぎ、成形時、リサイクル時に樹脂と無機粉末の分離が生じ易い。比重10未満の無機粉末が、85重量%より多いと、無機粉末の配合量が多くなりすぎ、成形性が著しく低下する。また、比重10以上のタングステン粉末或いはタングステンを含む合金粉末が60重量%より多いと、製品価格が高くなりすぎ、摺動性のあるセラミックス、金属の加工部品に対する優位性が無くなる。
【0014】
本発明に用いる熱可塑性樹脂の配合量は、7〜20重量%であることが肝要である。7重量%より少ないと、無機粉末の配合量が多くなりすぎ、成形性が低下する。また、20重量%より多いと、樹脂組成物の比重が低くなり、目的の比重が得られない場合がある。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、必要に応じて、通常の添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、結晶化促進剤、結晶化遅延剤、表面処理剤、顔料、難燃剤を、1種以上、添加することができる。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の種々の手法で行うことができる。例えば、ヘンシェルミキサーで原料を分散させた後に、単軸或いは2軸押し出し混練機で溶融混練する方法等が挙げられる。
【0017】
また、比重10未満の無機粉末として、金属、金属酸化物、炭化物、ホウ化物、窒化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩、炭素の中から1種以上を用い、少なくとも1種は、固体潤滑剤としての作用がある無機粉末を用いることにより、製品価格を抑えることができるとともに、動摩擦係数を低くすることができる。
【0018】
以下に、本発明の具体的な実施例を、表1及び表2を用いて、更に詳細に説明する。
【0019】
【表1】
Figure 0003595751
【0020】
【表2】
Figure 0003595751
【0021】
なお、表1及び表2に示されている比重の測定は、ASTM D792で行った。また、摺動性の指標として動摩擦係数を用いたが、この評価は、鈴木式摩擦・摩耗試験器で、相手材としてアルミニウムを用い、外径25.6mm、内径20.0mm、高さ15mmの試験片を射出成形で作製して、荷重98N( 面圧0.49MPa) 、速度10cm/秒の条件で行った。
【0022】
実施例1〜6及び比較例1〜6とも、市販の粉末状6ナイロン( 平均分子量22,000) 若しくはフレーク状ポリフェニレンサルファイド( PPS樹脂)(溶融粘度180Nsec/m2( 310℃、1200/sec))に、タングステン粉末( 平均粒径4μm)、硫酸バリウム( 平均粒径8μm)、酸化亜鉛( 平均粒径5μm)、硫化モリブデン( 平均粒径2μm)を、表1、2に示す割合で配合した。
【0023】
次いで、これを、ヘンシェルミキサーを用いて、チターネート系のカップリング剤で表面処理した後、2軸混練機で溶融混練し、成型用ペレットを得た。得られたペレットは、減圧下で加熱乾燥し、30T射出成型機を用いて成形した。その評価結果を表1、2に示した。なお、表1及び表2において、成形性、成形品外観及び経済性の行に付されている〇印は、全ての試験片について、これらが良好であることを示しており、×印は、全ての試験片について、これらが不良であることを示しており、更に、△印は、ほぼ半数のものが、不良であることを示している。
【0024】
表2において、比較例1のものは、6ナイロンが、97重量%と多く、比重1.17が低すぎる。6ナイロンが、6重量%で、無機粉末の合計が、94重量%である比較例2は、混練はできたものの無機粉末の配合量が多すぎるために、射出成形できなかった。ポリフェニレンサルファイドが、9重量%で、無機粉末の合計が、91重量%である比較例3は、無機粉末の配合量が多いために混練もできなかった。比較例4は、熱可塑性樹脂の配合量が多いので、比重が低く、製品外観性も悪い。また、比重10未満の無機粉末の配合量が少ないので、その分、比重10以上の無機粉末の配合量が、比較的多いので、製品価格が上昇する。比較例5は、比重10以上の無機粉末であるタングステンの配合量が多いので、製品価格が高くなる。比較例6は、比重10以上の無機粉末の配合量のみであり、また、その量も多いので、成形品外観及び経済性が不良となっている。
【0025】
本発明の実施例が示されている表1のように、比重10未満の無機粉末、比重10以上の無機粉末及び熱可塑性樹脂の配合量が、本発明の範囲内であれば、射出成形性及び成形品の外観状態が、共に優れていた。そして、例えば、3.57〜6.06の範囲で、経済的に、熱可塑性樹脂組成物の比重を任意に変化させることができた。
【0026】
逆に、表2の比較例に示されているように、比重10未満の無機粉末、比重10以上の無機粉末及び熱可塑性樹脂のいずれかの配合量が、本発明の範囲から外れた場合には、混練はできたとしても、射出成形性、製品の外観状態及び経済性の全てを満足した上で、比重を任意に調整することができなかった。
【0027】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
【0028】
動摩擦係数が小さく、成形性及び成形品外観が共に優れ、しかも、任意の比重を有する熱可塑性樹脂組成物を安価に提供することができる。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高摺動性、高比重、高強度、高靱性で、しかも、成形性及び成形品外観が共に優れており、摺動性と高比重が要求される電気電子部品、機械部品等を経済的な価格で製造することができる。

Claims (2)

  1. 比重10未満の少なくとも一種の潤滑作用のある無機粉末が混合された無機粉末30〜85重量%、比重10以上のタングステン粉末或いはタングステンを含む合金粉末3〜60重量%、熱可塑性樹脂7〜20重量%を配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
  2. 比重10未満の無機粉末として、金属、金属酸化物、炭化物、ホウ化物、窒化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩、炭素の中から1種以上を用い、少なくとも1種は固体潤滑剤としての作用があることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
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