JP3590850B2 - 外反母趾装具 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
本発明は、外反母趾を保存的に矯正する際に使用する軟性装具の構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
そもそも「外反母趾」とは、母趾が第II趾の方に屈曲している状態とそうした病症を指すもので原因は、かつては不適当な靴(ことに先端の尖った靴)のためとされてきた。しかし現在では、不適当な靴は変形や症状を増悪させる重要な因子ではあっても、それが第一義的な原因ではないとされている。素因として、第1中足骨頭の膨大、第1中足足根関節の異常、母趾外転筋・内転筋の異常、第1中足骨頭と種子骨の関節面の異常、第2中足骨に比し第1中足骨の長大、靭帯の弛緩などが挙げられる。いずれにせよ第1中足骨は過度に内反し、中足指節関節で外反し、母趾は外反のほか他の4趾に対して強く捻転位をとり、対向位にみえるものが少なくない。変形が著明なものは第1中足骨骨頭内側が大きくなり、しばしばその部の滑液包や仮骨の形成をみるため、突出部はさらに大きくなる。この骨突出部と滑液包をあわせて俗に「バニオン」という。靴のため同部が圧迫摩擦され、褥創や滑液包炎を来し、ときには同部の限局性骨膜骨髄炎を起こすこともある。
【0003】
これに対して、我が国に比してその症例の多い欧米においては、極めて多種の手術法が発表されておりその術式は数十(第1中足骨骨頭部分を切除する比較的簡単なもの、骨切り術と腱移行術を組み合わせたもの、さらに最近ではimplant による関節形成術、等)に及ぶが、このように幾多の術式があるということは、確実に優れた結果が得られる方法がないということでもある。
また、先天的な関節弛緩性や筋神経疾患を伴う外反母趾に対する外科手術は50%以上の再発率があるとされているので、こうした場合であると手術は避けるべきであることになる。(勿論、変形の高度のもの、例えば外反した母趾の上に槌状となった他の足指が重なり合うような場合には手術が適応となる)
加えて、第1中足骨の骨切り術を要するほど高度の変形は少なく、従って手術も発達していない我が国では、保存的治療がほとんど唯一の対処方法であると言える。
【0004】
しかし、いわゆる装具療法においても従来欠点が無かったわけではない。いうまでもなく足は、起立・歩行の動作に際して大地との接点となる唯一の部位であるので、装具についても本来的にはそうした動作を妨げるものであってはならない。ところが、母趾の外反位の矯正には母趾を第II趾側から押圧するか、母趾を逆方向から引くかしかないが、そのどちらの場合であっても日常動作、例えば靴や草履を履くとか、履いた上での歩行、また、脱着を繰り返すとかいった中で効果的に行なうことは困難であった。従って、例えば硬いものやかさばりやすいもの、または取り扱いの煩雑なものは、例え処方されても装用を敬遠されがちである。従って、製造業者としては苦肉の策として、十分な効果は期待できない「歩行用」装具と効果はあっても硬くてかさばり歩行には耐えられない「夜間用」装具とに分けて製造し、患者はそれらを選択的に使用するということで上述した欠点を補うようにしていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしそのような方法は、長期間の装用を必要とする装具療法にとっては、まず取り替えが面倒であり実際には忌避されがちであること、金属その他硬い部材を使用する「夜間用」装具は症状の治癒に応じてその形状を変えにくいものであるため治癒までに何度か交換する必要があること、等々の欠点を有するものであった。
【0006】
さらに「夜間用」装具は、大きさや症状によって患者個々の装具を一品製造することが特に金属等を使用した装具にあっては常識であり、従ってその価格は非常に高いものであった。
よって、治癒効果が高く、常時使用でき、軽量で足部とのなじみの良好な装具の出現が長らく待たれていた。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者は、上記現状に鑑み鋭意研究の結果、治療効果が高く、装用に際しての異物感が少なく、かつ安価で取り扱いが簡便な外反母趾用の装具を開発したものであり、その特徴とするところは、外反母趾の保存療法に使用する装具であって、母趾の指節骨から中足骨にかけた部分を内側から覆うカバー部2と、該カバー部2の指節骨部分に一端が固定され該母趾指節骨を周回して他端が該カバー部に係止される母趾ベルト3と、該カバー部2に一端が固定され母趾中足骨中央付近から足底足甲を周回して他端が該カバー部2に係止される足ベルト4とにより構成され、該カバー部2は幾分の伸縮性がある柔軟な布状体であって、補強布層22を具備する多層構造であり、またこの補強布層22は母趾第1中足骨骨頭に接当する箇所だけに孔が開けられたものであり、且つ母趾指節骨から第IV趾あるいは第V趾の中足骨の上に至る固定板20が、該カバー部の足底側と足甲側とにそれぞれ設けられており、また該固定板20は足底側と足甲側共に、該母趾ベルト3及び足ベルト4の周回部分内に至る長さである点にある。
【0008】
ここで「カバー部」とは、母趾の指節骨から中足骨にかけた部分を内側から覆う部材であり、外反母趾の変形箇所とその周辺を覆うものである。なお、ここでいう「内側」とは、体躯の中心側という意味であり、外反母趾装具の場合で言うと、両足を揃えた時の対向部側を指す。またカバー部は、補強布層22を具備する多層構造であり、この補強布層22は母趾第1中足骨骨頭に接当する箇所だけに孔が開けられたものである。
【0009】
カバー部には、少なくとも2本のベルトが設けられており、このベルトによって本発明装具は足に装着され、且つ矯正に要する力もこのベルトの締めつけ力によって得られる。この2本のベルトが即ち、「母趾ベルト」と「足ベルト」である。
【0010】
「母趾ベルト」は、母趾指節骨を周回するベルトであり、一端がカバー部に固定されており、他端は母趾指節骨を周回してカバー部に係止される。この係止手段については特に限定するものではなく、ホックや面ファスナー、ボタン、等々種々のものが採用可能である。特に面ファスナーは、それ自体が布状体であるので、例えばカバー部の表面全面、及び母趾ベルトの一面を雌側ファスナーとし、母趾ベルトの先端に雄側ファスナーを取着すると、どのように母趾ベルトを巻いても係止できることになる。また、装着感も良いので本発明装具に採用するについて、非常に好適なものであると言える。
【0011】
「足ベルト」は、母趾中足骨中央付近から足底及び足甲を周回して該カバー部に係止されるものであり、これも母趾ベルトと同様、周回してカバー部又は足ベルト自身に係止される。係止手段についても、該母趾ベルトの場合と同様のことが言える。
【0012】
この母趾ベルトと足ベルトによってカバー部は足に固定されるわけであるが、外反母趾の矯正効果を大きくするために、カバー部には「固定板」が設けられている。この固定板は、「幾分かの伸縮性のあるカバー部」の伸びを規制するものであり、足底側と足甲側にそれぞれ一つずつ設けられている。そして各々、母趾指節骨から第IV趾あるいは第V趾の中足骨の上に至る形となっている。材質は特に限定するものではなく、装用感を損なわない範囲で硬質のものが良い。本発明者が試作した範囲では硬質プラスチックは一般に好適であった。
【0013】
装着方法は、カバー部中央を中足骨頭付近に当てた状態で両端をそれぞれ外側に引っ張り、該カバー部が中足骨頭を第II趾側に押圧する力を得た状態で母趾ベルト及び足ベルトを固定するだけである。この時同時に固定板の両端もこれら2本のベルトで固定されるので、中足骨頭を第II趾側に押圧する力は好適に維持されることになる。
【0014】
なお、外反母趾における足部の突出箇所である第1中足骨頭の内側部分は、靴などを装用した時に靴内面とこすれてしまうが故に、過敏になりやすく、また実際に痛みの訴える箇所でもあるので、カバー部を多層構造体として、伸縮性がやや小さく強靱な部分(即ち補強布層)と、そうでない部分を重ねるようにし、該突出箇所部分については、補強布層に孔が開けられている。すると、カバー部から受ける押圧力はこの部分では小さくなるし、またこの部分は該補強布層の厚み分だけ薄くなるので、上述した靴内面とこすれて痛くなるといったこともなくなる。
【0015】
【実施例】
以下、図面に示す実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明に係る外反母趾装具1の一例を示すものであり、図より明らかなように、概ね三角形状のカバー部2と2本のベルトにより構成される軟性装具である。このカバー部2は、幾分かの伸縮性を有する布状体を主体とし、その左右端(装用時には足の上下にくる)に固定板20が設けられている。これはPVC製であって足表面に沿う弾性は有しているが、カバー部2を左右に引っ張った場合にその伸びを阻止しようとする強さを持っている。また2本のベルトは、1本は該カバー部2の底辺位置に該底辺に平行に取設されている足ベルト3で、他はカバー部2の頂点(2つに分かれている)位置に、該足ベルト3にほぼ平行に取設されている母趾ベルト4である。
【0017】
また、両ベルト3、4の先端には、それぞれ面ファスナー(雄側)5、6が設けられている。これらと対をなす側のファスナーは、独立した部材としては存在しておらず、カバー部2の一面が面ファスナー(雄側)5、6を係止する構造(いわゆる雌側の構造)となっている。更に、面ファスナー(雄側)5、6のみの係止では強い矯正力を付与した場合に外れてしまうことも考えられるので、カバー部2の一面〔面ファスナー(雄側)5、6を係止する側と同一の面〕上に、面ファスナー(雄側)7、8を付け、足ベルト3、母趾ベルト4の裏面を面ファスナー雌側とし、全4か所で係止するようにしている。
【0018】
図2は、本発明装具1のカバー部2の構造についての実施例の一つとしてカバー部2が、3層構造となっている例を示したものである。即ち、足に直接接触する側には伸縮性があり皮膚との適合性が良く発汗によるムレも少ない素材より成る織物層21を、外側には面ファスナー雌側素材層23を配し、これらの間に、他の2層に比して伸縮性が小さい補強層22が設けられている。この補強層22は、中央部分に円孔24が開けられており、本発明装具1を装用した際には母趾の突出部分が嵌まり込むようになっている。
【0019】
図3(a)(b)(c)は、本発明に係る外反母趾装具1の一つを実際に装着する様子を経時的に示したものである。図は左足の母趾が外反している場合のものであり、先ずカバー部2の半分近くが足底に来るように本発明装具1をあてがって〔同図(a)〕、母趾ベルト4を母趾に周回させ固定する〔同図(b)〕。この母趾ベルト4の係止は大きな張力を要するものではなく、確実に固定するだけでよい。
【0020】
次に、カバー部の下辺の長さを長くするような要領で、カバー部2の足底側と足ベルト3を引っ張り、第1中足骨頭付近に圧力をかけた状態で足ベルト3を固定する。この時かける圧力は、矯正力であるとも言えるので、適宜判断するようにする。これで装着が完了するわけであるが、作業は極めて簡単であり、また一旦装着したものの張力を微調整するのも簡単である。
【0021】
また、一般に外反母趾は扁平足を伴っていることが多く、仮にそうでない場合であっても中足骨の縦アーチを支えるメタタルザルサポート(ふまず支え)を付け加えた方が矯正効果が高いことが多いので、図4の如く足底にふまず支え9を付けるようにしても良い。その場合、ふまず支え9の取設位置の調整が容易なように、これを別体とし、面ファスナーによって係止するようにすると良い。
【0022】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように本発明に係る外反母趾装具は、外反母趾の保存療法に使用する装具であって、母趾の指節骨から中足骨にかけた部分を内側から覆うカバー部2と、該カバー部2の指節骨部分に一端が固定され該母趾指節骨を周回して他端が該カバー部に係止される母趾ベルト3と、該カバー部2に一端が固定され母趾中足骨中央付近から足底足甲を周回して他端が該カバー部2に係止される足ベルト4とにより構成され、該カバー部2は幾分の伸縮性がある柔軟な布状体であって、補強布層22を具備する多層構造であり、またこの補強布層22は母趾第1中足骨骨頭に接当する箇所だけに孔が開けられたものであり、且つ母趾指節骨から第IV趾あるいは第V趾の中足骨の上に至る固定板20が、該カバー部の足底側と足甲側とにそれぞれ設けられており、また該固定板20は足底側と足甲側共に、該母趾ベルト3及び足ベルト4の周回部分内に至る長さであることを特徴とするものであり、以下述べる如き種々の効果を有する極めて高度な発明である。
1) 金属その他の硬くてかさばる部材の使用を必要としないので、違和感の少ない装具となる。
2) 基本的には伸縮性のあるベルトのみで構成されているものであるので、発汗によるムレが少ない製品とし易い。
3) 足ベルトを固定した時にカバー部が引っ張られ、この時母趾ベルトと足ベルトに両端を固定された固定板が存在しているので、矯正効果が大きい。
4) 個体差や治癒段階によって張力の大きさや矯正力の配分が自由に変更できるので、一品製作せず大量生産が可能であり、コストを抑えることができる。
5) 装着や取り扱いが容易であり、長期間装用しても苦にならない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る外反母趾装具の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る外反母趾装具の一例の要部を示す一部を切欠した概略斜視図である。
【図3】(a)(b)(c)は、本発明に係る外反母趾装具の一例を装着する様子を経時的に示す全て概略平面図である。
【図4】本発明に係る外反母趾装具の他の実施例を示す概略底面図である。
【符号の説明】
1 外反母趾装具
2 カバー部
20 固定板
21 織物層
22 補強層
23 面ファスナー雌側素材層
3 足ベルト
4 母趾ベルト
5 面ファスナー(雄側)
6 面ファスナー(雄側)
7 面ファスナー(雄側)
8 面ファスナー(雄側)
9 ふまず支え
Claims (1)
- 外反母趾の保存療法に使用する装具であって、母趾の指節骨から中足骨にかけた部分を内側から覆うカバー部2と、該カバー部2の指節骨部分に一端が固定され該母趾指節骨を周回して他端が該カバー部に係止される母趾ベルト3と、該カバー部2に一端が固定され母趾中足骨中央付近から足底足甲を周回して他端が該カバー部2に係止される足ベルト4とにより構成され、該カバー部2は幾分の伸縮性がある柔軟な布状体であって、補強布層22を具備する多層構造であり、またこの補強布層22は母趾第1中足骨骨頭に接当する箇所だけに孔が開けられたものであり、且つ母趾指節骨から第IV趾あるいは第V趾の中足骨の上に至る固定板20が、該カバー部の足底側と足甲側とにそれぞれ設けられており、また該固定板20は足底側と足甲側共に、該母趾ベルト3及び足ベルト4の周回部分内に至る長さであることを特徴とする外反母趾装具。
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JP20714193A JP3590850B2 (ja) | 1993-07-28 | 1993-07-28 | 外反母趾装具 |
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