JP3581620B2 - ベータアルミナ電解質及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ナトリウムイオンをキャリアとして作動するナトリウム−硫黄電池及びナトリウム−溶融塩電池等の二次電池、あるいは、アルカリ金属熱電変換電池等の固体電解質として用いるベータアルミナ電解質及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ベータアルミナ電解質は、高いナトリウムイオン導電性を有するため、ナトリウムイオンをキャリアとする各種電池の電解質として利用されている。そして、この電解質は電池の内部抵抗のかなりの部分を占めるため、高導電性でかつ高強度を示す緻密な焼結体が好ましい。
また、ベータアルミナには、βアルミナ(理論組成Na2O・11Al2O3)及びβ”アルミナ(理論組成Na2O・5.3Al2O3)という2種類の結晶形が存在する。β”アルミナの方が導電性が高く、電池として高性能を示すため、実用的には、β”アルミナあるいはβ”アルミナとβアルミナの混合物が多用されている。
【0003】
ベータアルミナ電解質に含まれる不純物がその導電特性や耐久性に悪影響を及ぼすことが知られており、したがって一般に出発原料にはコストの高い高純度のものを使用している。その原料コストを下げるためには、純度の低い原料を用いても、従来と同等の導電特性を持つベータアルミナ電解質を製造できる方法が必要である。
【0004】
一方、特許第2135003号では、ベータアルミナ中の微量成分の含有量をSiO2<200ppm、Fe2O3<1000ppm、CaO<100ppm、K2O<200ppmとし、かつSiO2+Fe2O3+CaO+K2Oの総量を100ppm以上と規定することにより、初期及び長期通電後の焼結体の導電特性を向上させることができるとしている。しかし、不純物としてのSiO2、CaO、K2Oの量がかなり微量に制限されているのが問題である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、さらに多くの不純物が含まれている原料を用いても、高い導電性を有するベータアルミナ電解質及びその製造方法の提供が課題になっていた。
【0006】
【課題を解決する手段】
本発明の発明者らは、ベータアルミナ中の不純物の存在状態を分析するために、高純度の出発原料を用いたものにSiO2、CaO、K2Oをそれぞれ添加したベータアルミナ焼結体を作製し、組織観察を行い、その結果からいずれも粒界にガラス相として存在していたことを突き止め、よって、SiO2、CaO、K2Oが粒界にガラス相として存在していることがベータアルミナの特性劣化(主に導電率の低下)、また、耐久性の低下の原因であると考えた。そこで、これらの粒界ガラス相を含むβ”アルミナに結晶化処理を施したところ、図1(a)に示すように、粒子1の間に生成した粒界のガラス相2が、粒界相の結晶化処理3で、同図(b)に示すように、粒界三重点に結晶化し、これにより界面の不純物相が凝集し、最終的には、同図(c)に示すように、粒界三重点に不純物が結晶化した相が分散した組織となり、不純物を含んだ原料を用いても導電特性の劣化が無く、優れた耐久性を有するベータアルミナが得られた。本発明は、この知見に基づくものである。
【0007】
上記課題は、100〜1000ppmのSiO2、100〜500ppmのCaOもしくはK2Oを含み、残部がアルミニウム出発源とナトリウム出発源から実質的になることを特徴とするベータアルミナ電解質及びその製造方法の提供によって解決される。
【0008】
また、本発明の製造方法は、SiO2を100〜1000ppm、CaO、K2Oを100〜500ppm含む原料を用いてベータアルミナを製造する際、焼結条件として最高温度に到達後、ガラスの結晶化温度域である600〜1100℃で保持することを特徴とするベータアルミナ電解質の製造方法である。
【0009】
本発明の好ましい製造方法は、SiO2を100〜1000ppm、CaO、K2Oを100〜500ppm含む原料を用いてベータアルミナを製造する際、ガラスの核形成剤としてTiO2又はZrO2もしくはその両方を100〜500ppm含有してなることを特徴とするベータアルミナ電解質の製造方法である。
【0010】
本発明のさらに好ましい製造方法は、SiO2を100〜1000ppm、CaO、K2Oを100〜500ppm含む原料を用いてベータアルミナを製造する際、ガラスの核形成剤としてTiO2又はZrO2もしくはその両方を100〜500ppm含有し、焼結条件として最高温度に到達後、ガラスの結晶化温度域である600〜1100℃で保持することを特徴とするベータアルミナ電解質の製造方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかるベータアルミナ電解質及びその製造方法の好ましい実施形態について詳述するが、それに限るものではない。
本発明のベータアルミナ電解質の製造方法は、出発原料にSiO2を100〜1000ppm、CaO、K2Oをそれぞれ100〜500ppm含む原料を用い、例えば次のようなステップで製造することができる。まず、ステップ▲1▼では、アルミニウム出発原料とナトリウム出発原料を混合し、原料粉末を調製する。
【0012】
このステップにおいては、アルミニウム出発原料としては酸化アルミニウムが好ましい。また、ナトリウム出発原料としては炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウムなどのナトリウム塩類などが使用できる。アルミニウム出発原料とナトリウム出発原料の混合比率は、Al2O3/Na2Oのモル比に換算して5〜7の範囲となることが好ましい。
【0013】
アルミニウム出発原料とナトリウム出発原料との混合は、粉末状で混合しても良いが、アルミニウム出発原料とナトリウム出発原料を水と混合し、必要により分散剤を添加して湿式混合するのが望ましい。
また、後の結晶化処理に応じて、核形成剤を用いることが好ましい。この場合には、チタニウム出発原料またはジルコニウムもしくはその両方を出発原料と同時に混合することが好ましい。チタニウム出発原料、ジルコニウム出発原料としては、金属アルコキシド等の液体をを用いることが望ましいが、酸化物等の固体粉末を用いることもできる。
【0014】
上記核形成剤の添加割合は、焼結後のベータアルミナ電解質100重量部中に酸化物換算で100〜500重量ppmの範囲とすることが好ましい。この核形成剤が100重量ppm以下では、均一混合が困難となり導電性の向上が認められず、また、500重量ppmを超えた量では、それ以上の効果はなく、多量の添加は高コスト化を招くので好ましくない。
【0015】
ステップ▲2▼では、アルミニウム出発原料、ナトリウム出発原料、及び、必要に応じて用いる核形成剤を混合した後、その原料粉末を必要に応じて乾燥、粉砕した後、1200〜1350℃で仮焼する。
このステップにおいて、仮焼温度が1200℃未満では、仮焼粉のβ”化率(全結晶中に占めるβ”アルミナの割合)が低いため焼結体のβ”化率も低くなり導電率が下がり、1350℃を超えるとナトリウムの飛散に伴いβ”化率が低くなり、また、仮焼粉の焼結が進み、粉砕が困難又は長時間を要するようになるので好ましくない。
【0016】
このようにして得られた仮焼粉は粒成長しているため、焼結性を向上させるために粉砕する必要がある。この仮焼粉の粉砕の際にマグネシウム出発原料を添加し、粉砕と同時に混合を行うことが好ましい。この粉砕・混合はマグネシウム出発原料と水を添加してスラリとし、湿式粉砕混合とすることが望ましい。マグネシウム出発原料としては酸化マグネシウム、硝酸マグネシウム等のマグネシウム塩を使用することが好ましい。マグネシウム出発原料の添加割合は、仮焼粉100重量部に対し、1.5〜4.5重量部の範囲とすることが好ましい。
【0017】
前記により仮焼粉にマグネシウム出発原料を添加して湿式粉砕・混合して得られた混合物を所定の形状に成形する。前記混合物がスラリの形で得られた場合には、スプレードライヤのより乾燥、造粒することによってより成形が容易となる。
【0018】
最後に、ステップ▲3▼では、前記仮焼ステップ▲2▼で得た成形体を1560〜1640℃に加熱して焼結し、ベータアルミナ焼結体(ベータアルミナ電解質)を得る。
このステップにおいて、不純物の結晶化熱処理を行う場合は、焼結時に最高温度に到達後、降温する際に、600〜1100℃の範囲で1〜5時間保持することが必要である。600℃未満や1100℃を超える温度では結晶核が生成しにくく、不純物相が結晶化しにくくなるので望ましくない。また、保持時間が1時間未満では結晶化が十分に進まず、また、5時間を超えても効果が変わらないため、これ以上の熱処理は必要ない。
【0019】
【実施例】
本発明は、以下の実施例でさらに詳述されるが、これらの実施例に限るものではない。
【0020】
実施例1
高純度酸化アルミニウム(SiO2、CaO、K2Oをそれぞれ10ppm含む)を用い、表1に示す含有量となるようにSiO2、CaO、K2Oを添加したベータアルミナを作製した。製造方法として、まず、酸化アルミニウムと炭酸ナトリウムをAl2O3/Na2CO3のモル比が6となるように秤量し、分散剤を加えボールミルで20時間湿式混合した。このとき同時にSiO2、CaO、K2Oを添加した。
【0021】
また、SiO2、CaOをそれぞれ300ppm含む低純度の酸化アルミニウムを原料としたものも用いた。得られたスラリをロータリーエバポレータで濃縮後、120℃の乾燥機で一昼夜乾燥させた。この乾燥物を粉砕し、500μmのふるいを通させた後、仮焼した。仮焼は200℃/時間で昇温後、1250℃で2時間保持し、そして200℃/時間で降温するものとした。
【0022】
得られた仮焼粉は粒成長しているため、焼結性を向上させるために粉砕する必要がある。この粉砕を行う際に酸化マグネシウムを4wt%、分散剤を加えてボールミルで45時間湿式混合した。このスラリをスプレードライヤにて造粒粉を作製した。その造粒粉を用いて、導電率測定用の試料は4×4×20mmに金型で一軸成形後、冷間静水圧プレス(CIP)で1.5t/cm2の圧力で2分間保持して成形した。
【0023】
得られた成形体を5℃/分の昇温速度で昇温し、1640℃で30分保持後、結晶化熱処理として600〜1100℃で4時間保持後降温して焼結体を作製した。その導電率は3×3×15mm試験片に白金電極を焼き付けて、交流2端子法で測定した。測定温度は300℃である。
【0024】
【表1】
なお、表1には、実施例1に用いるアルミナ原料の不純物含有量、結晶化処理条件と得られたベータアルミナ電解質の導電率を示している。
【0025】
比較例1
焼結条件として結晶化熱処理を施さず、5℃/分の昇温速度で昇温し、1640℃で30分保持後、5℃/分で降温すること以外は実施例1と同様の方法で焼結体を作製した。試料の組成を表2に示す。
【0026】
【表2】
なお、表2には、比較例1に用いるアルミナ原料の不純物含有量と得られたベータアルミナ電解質の導電率を示している。
【0027】
表1によれば、SiO2を100〜1000ppm、または、CaOもしくはK2Oを100〜500ppm含み、焼結条件として最高温度に到達後、600〜1100℃で保持した試料では、導電率が0.21〜0.24S/cmであり、不純物を添加していないもの(試料番号1)とほぼ同等の値となった。また、SiO2とCaOをそれぞれ300ppm含む低純度原料を用いた試料でも結晶化熱処理により、高純度原料を用いたもの(試料番号1)とほぼ同等の値となった。一方、表2に示したように、不純物を含み結晶化熱処理を施さないものでは0.15〜0.18S/cmと導電率が低下する。
【0028】
実施例2
実施例1と同じ原料を用い、表3に示した含有量となるようにSiO2、CaO、K2O及びTiO2又はZrO2を添加したベータアルミナを作製した。製造方法としては、酸化アルミニウムと炭酸ナトリウムを混合する際、TiO2又はZrO2をアルコキシドとして添加することと、焼成条件を1640℃で30分間保持することと以外は実施例1と同様である。
【0029】
【表3】
なお、表3には、実施例2に用いるアルミナ原料の不純物含有量、核形成剤添加量と得られたベータアルミナ電解質の導電率を示している。
【0030】
表3によれば、SiO2を100〜1000ppm、または、CaOもしくはK2Oを100〜500ppm含み、TiO2又はZrO2を100〜500ppm添加した試料では、導電率が0.22〜0.24S/cmであり、不純物を添加していないもの(表1の試料番号1)とほぼ同等の値となった。また、SiO2とCaOをそれぞれ300ppm含む低純度原料を用いた試料でもTiO2添加により、高純度原料を用いたもの(表1の試料番号1)とほぼ同等の値となった。
【0031】
実施例3
実施例1と同じ原料を用い、表4に示した含有量となるようにSiO2、CaO、K2O及びTiO2又はZrO2を添加したベータアルミナを作製した。製造方法としては、酸化アルミニウムと炭酸ナトリウムを混合する際、TiO2又はZrO2をアルコキシドとして添加すること以外は、実施例1と同様である。
【0032】
【表4】
なお、表4には、実施例3に用いるアルミナ原料の不純物含有量、核形成剤添加量、熱処理条件と得られたベータアルミナ電解質の導電率を示している。
【0033】
表4によれば、SiO2を100〜1000ppm、または、CaOもしくはK2Oを100〜500ppm含み、TiO2又はZrO2を100〜500ppm添加し、焼結条件として最高温度に到達後、600〜1100℃で保持した試料では、導電率が0.23〜0.25S/cmであり、不純物を添加していないもの(表1の試料番号1)とほぼ同等の値となった。
【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、不純物を粒界ガラス相で結晶化させる熱処理を行うことにより、従来より多くの不純物を含む原料を用いても、高い導電性を有するベータアルミナ電解質を得ることができる。
また、本発明のベータアルミナの製造方法によれば、不純物を含む低純度原料を用いても、高純度原料と同等の導電性を有するベータアルミナ焼結体が得られ、ベータアルミナの製造コストを下げることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】粒界ガラス相結晶化のモデル図で、(a)は粒子間にガラスが生成することを表し、(b)は結晶化により界面の不純物相が凝集することを表し、(c)は不純物が結晶化することを表す。
【符号の説明】
1 粒子
2 ガラス相
3 粒界相の結晶化処理
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