JP3573492B2 - 自動車のトラクション制御装置 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車の発進・加速時における駆動輪の空転を抑制するトラクション制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車が走行するときに、エンジンから駆動輪に与えられる駆動力がこの駆動輪と走行路面との間の摩擦力よりも大きくなると、駆動輪が空転して、自動車の方向安定性が損なわれたり、加速性が低下したりする。駆動輪の空転を防止するためには、運転者は、駆動輪の空転を感知すると、アクセルを緩めてエンジンの出力トルクを低下させてやればよい。しかし、このように、駆動輪の空転を防止するにあたり、運転者のアクセルワークに期待するのは、一般的に難しい。
【0003】
そこで、車輪速度センサからの車速信号に基づいて駆動輪の空転を検知し、これにより所定の制御機能を発動させてエンジンのトルクを低下させる、いわゆるトラクション制御装置が、種々実用化されている。
従来、この一種の装置としては、例えば、特開昭62−7954号公報に記載されているものがある。このトラクション制御装置は、アクセルペダルと機械的にリンクされアクセルペダルの操作で動作するメインスロットルバルブとは別に、所定のアクチュエータで開閉駆動されるTC(Traction Control)スロットルバルブを設け、駆動輪の空転を検知すると、このTCスロットルバルブを動作させて、エンジンの出力トルクを制御するというものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、以上の従来技術では、TCスロットルバルブやこの制御系統に異常が生じたときの配慮がなされていない。このため、例えば、車両が滑り易い路面をトラクション制御を行いながら走行しているときに、TCスロットルバルブ制御系統に異常が生じたとき、TCスロットルバルブは直ちに全開状態になってしまう。これは、通常、トラクション制御に関する装置が故障した場合、これらの装置はトラクション制御していない状態に戻るように設計されているからである。このため、トラクション制御中に異常が生じると、それまで低下させていたエンジントルクが急激に増大して、駆動輪の空転が急に再開してしまうという問題点がある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、トラクション制御中に異常が生じても、エンジントルクの急激な増大を防いで、車両を比較的安定に走行させることができる自動車のトラクション制御装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための自動車のトラクション制御装置は、
駆動輪の空転を把握する空転把握手段と、該空転把握手段により前記駆動輪の空転が把握されると、エンジンの出力トルクを低下させる複数のエンジントルク低下手段と、複数の該エンジントルク低下手段のうち、いずれかのエンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることに支障が生じた場合(以下、異常状態とする。)、いずれのエンジントルク低下手段が異常状態になったかを把握する異常把握手段と、複数の前記エンジントルク低下手段で、エンジントルクを低下させている際中に、前記異常把握手段により、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、いずれかのエンジントルク低下手段が異常状態になったと把握されると、該エンジントルク低下手段によるエンジントルクの低下動作を直ちに中止させるトラクション制御即中止手段と、複数の前記エンジントルク低下手段で、エンジントルクを低下させている際中に、前記異常把握手段により、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、いずれかのエンジントルク低下手段が異常状態になったと把握されると、該エンジントルク低下手段以外の異常状態でないエンジントルク低下手段によるエンジントルク低下量を徐々に少なくするトラクション制御徐々中止手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0007】
ここで、前記トラクション制御装置において、前記異常把握手段は、前記エンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることにある程度支障が生じているものの、該エンジントルク低減手段でエンジントルクを低減させる制御が可能な軽度異常と、前記エンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることに支障が生じ、且つ該エンジントルク低減手段でエンジントルクを低減させる制御が不可能な重度異常とを区別して、把握でき、前記トラクション制御即中止手段は、前記異常把握手段により前記重度異常であると把握された前記エンジントルク低下手段によるエンジントルクの低下動作を直ちに中止させ、前記トラクション制御徐々中止手段は、前記異常把握手段により前記軽度異常であると把握された前記エンジントルク低下手段によるエンジントルク低下手段によるエンジントルク低下量を徐々に少なくするものであることが好ましい。
【0008】
また、トラクション制御装置において、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、一のエンジントルク低下手段は、前記空転把握手段により前記空転が把握されたときに、前記エンジンに供給される空気流量を少なくする空気流量調節手段であってもよい。また、前記エンジンが複数の気筒を有し、複数の該気筒ごとに燃料を供給する燃料供給手段が設けられている場合には、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、一のエンジントルク低下手段は、前記空転把握手段により前記空転が把握されたときに、複数の燃料供給手段のうち、いずれかによる燃料供給を中止させる燃料供給中止手段であってもよい。さらに、前記エンジンに点火プラグが設けられている場合に、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、一のエンジントルク低下手段は、前記空転把握手段により前記空転が把握されたときに、該点火プラグの点火時期を目的の時期よりも遅らせる点火リタード手段であってもよい。
【0009】
【作用】
自動車の発進時や加速時に駆動輪が空転すると、複数のエンジントルク低下手段により、この駆動輪の空転量に応じてエンジントルクが低下させられる。この結果、駆動輪の空転が治まる。
【0010】
エンジントルク低下手段によりエンジントルクを低下させている際中(以下、トラクション制御中とする。)に、いずれかのエンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることに支障が生じた場合、この状態が異常状態把握手段により把握される。異常状態把握手段で、異常状態が把握されると、異常であると把握されたエンジントルク手段によるエンジントルク低下動作は、トラクション制御即中止手段により、直ちに中止される。一方、異常でないトルク低減手段によるエンジントルク低減量は、トラクション制御徐々中止手段により、徐々に少なくなる。
【0011】
以上のように、本発明では、複数のエンジントルク低下手段のうち、いずらかのエンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることに支障が生じた場合でも、支障が生じたエンジントルク低下手段の影響によるエンジントルクは直ちに元のトルクに復帰するものの、支障が生じていない他のエンジントルク低下手段の影響によるエンジントルクは徐々に元のトルクに復帰するので、急激なエンジントルク増加による車両のスピン等を回避することができる。
【0012】
【実施例】
以下、本発明に係るトラクション制御装置の実施例について、図面を用いて説明する。
図2に示すように、本実施例の自動車は、従動輪7a,7aと、駆動輪7b,7bと、エンジン50と、エンジン50の出力を駆動輪7b,7bに伝える駆動力伝達系52とを有している。
【0013】
本実施例のエンジン50は、4気筒ガソリンエンジンで、各気筒ごとに、燃料噴射バルブ9及び点火プラグ8が設けられている。また、このエンジン50には、エンジン回転数Neを測定するためのクランク角センサ47が設けられている。エンジン50に空気を供給する吸入管51には、アクセルペダル53の操作量に応じてエンジン50に供給される空気流量を調節するメインスロットルバルブ1と、駆動輪7bの空転時にエンジン50に供給される空気流量を調節するTC(Traction Control)スロットルバルブ4と、TCスロットルバルブ4を動作させるTCスロットル駆動モータ3と、この吸気管51を通過する空気流量Qaを測定する空気量センサ45とが設けられている。各スロットルバルブ1,4には、それぞれのバルブ開度を測定するスロットルセンサ2,5が設けられている。また、エンジン50からの排気ガスが流れる排気管(図示されていない。)には、排気ガス中の酸素濃度O2を測定する酸素濃度センサ48が設けられている。また、エンジン50を冷却するラジエター(図示されていない。)には、この中を流れる冷却水の温度Twを測定する冷却水温センサ46が設けられている。
【0014】
メインスロットルバルブ1は、図3に示すように、アクセルペダル53とワイヤー54やアクセルドラム55等で機械的にリンクされており、アクセルペダル53の踏み込みに応じて回転し、スロットル・ポジション・センサ(TPS)2によりその開度が検出される。TCスロットル駆動モータ3が回転すると、ギヤ3a,3bを介して、TCスロットルバルブ4が回転する。TCスロットルバルブ4の開度は、スロットル・ポジション・センサ(TPS)5で検出される。非トラクション制御時は、TCスロットルバルブ4は全開であり、エンジン50の吸入空気量はメインスロットルバルブ1の開度によって制限される。また、トラクション制御時では、TCスロットルバルブ4がメインスロットルバルブ1より閉じているとエンジン15の吸入空気量はTCスロットルバルブ4の開度により制限される。
駆動輪7b及び従動輪7aには、それぞれ、車輪速センサ6b,6aが設けられている。
【0015】
本実施例の自動車は、以上の他、燃料噴射バルブ9からの燃料噴射量や点火プラグ8の点火時期等を求めるエンジン制御ユニット10と、エンジン制御ユニット10からの指示に従って燃料噴射バルブ9を駆動させる燃料噴射バルブ駆動回路41と、エンジン制御ユニット10からの指示に従って点火プラグ8を点火させる点火回路42と、TCスロットルバルブ4の弁開度を制御するTCスロットル制御ユニット30と、TCスロットル制御ユニット30からの指示に従ってTCスロットルバルブ4を駆動させるTCスロットル駆動回路43と、駆動輪7bが空転したときに空転量Sを把握してTCスロットルバルブ4のTCスロットル目標開度θtや点火プラグ8のTC点火目標リタード量θrtを求めるトラクション制御ユニット20とを有している。
【0016】
さて、滑り易い路面を走行中にアクセルペダル53の適切な操作を誤ると、駆動輪7bに過大なトルクが発生して、駆動輪7bが空転してしまう。そこで、トラクション制御ユニット20は、図1に示すように、駆動輪7bと従動輪7aとの回転数差S(=Sd−Sf)から空転の発生を検出する空転量検出部21を有している。さらに、トラクション制御ユニット20は、予め準備されている関数fと空転量Sと用いてTCスロットル目標開度θtを求めるTCスロットル目標開度演算部22と、同じく予め準備されている関数gと空転量Sとを用いてTC点火目標リタード量θrtを求めるTC点火目標リタード量演算部23と、エンジン制御ユニット10からのエンジン制御系異常信号Ueの入力によりエンジン制御系の異常を認識してこれをTCスロットル制御ユニット30に知らせると共に、TCスロットル制御ユニット30からのTCスロットル制御系異常信号Utの入力によりTCスロットル制御系の異常を認識してこれをエンジン制御ユニット10に知らせるTC異常認識部24とを有している。
【0017】
TCスロットル制御ユニット30は、TCスロットルセンサ5により検出されたTCスロットルバルブ4のバルブ開度θsとトラクション制御時にトラクション制御ユニット20から出力されたTCスロットル目標開度θtとの偏差εを求める減算器34と、この偏差εに比例ゲインKpを乗算する比例ゲイン乗算器36aと、この偏差εの微分値を求める微分器35bと、この微分値に微分ゲインKiを乗ずる微分ゲイン乗算器36bと、この偏差εの積分値を求める積分器35cと、この積分値に積分ゲインKdを乗ずる積分ゲイン乗算器36cと、各ゲイン乗算器36a,36b,36cからの出力値を加算する加算器37と、加算器37からの出力をTCスロットル駆動モータ3の電流値Iに変換するための定数Kmを乗ずる電流変換定数乗算器37とを有している。以上は、TCスロットル制御ユニットの一般的な構成であるが、本実施例のTCスロットル制御ユニット30は、さらに、各種信号が示す値がTCスロットル制御系にとって、まったく問題ない(正常)か、軽度の異常、又は重度の異常かを判断するTCスロットル制御系異常判断部31と、TCスロットル制御系が軽度異常の場合の軽異常時スロットル目標開度を求める軽度異常時スロットル目標開度演算部32と、TCスロットル制御系が正常か軽度異常かに応じて減算器34に入力する目標開度をTCスロットル目標開度θt又は軽異常時スロットル目標開度にする第1の切替器33と、TCスロットル制御系が重度異常かそうでないか(正常又は軽度異常)に応じてTCスロットル駆動回路43に出力する電流値を0又電流変換定数乗算器37から出力された値にする第2の切替器39とを有している。
【0018】
TCスロットル制御系異常判断部31には、TCスロットルセンサ5により検出されたTCスロットルバルブ開度θsと、トラクション制御ユニット20からのTCスロットル目標開度θt及びエンジン制御系異常信号Ueとが入力する。異常判断部31は、エンジン制御系異常信号Ueが入力せず、TCスロットル目標開度信号θtの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲内で、且つTCスロットルバルブ開度信号θsの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲内であれば、TCスロットル制御系は正常であると判断し、エンジン制御系異常信号Ueが入力するか、又はTCスロットル目標開度信号θtの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲外であれば、TCスロットル制御系は軽度異常であると判断し、TCスロットルバルブ開度信号θsの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲外であれば、重度異常であると判断する。また、異常判断部31は、TCスロットル制御系が重度異常の場合、つまりに、TCスロットルバルブ開度信号θsの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲外の場合に、トラクション制御ユニット20のTC異常認識部24にTCスロットル制御系異常信号Utを出力する。
【0019】
エンジン制御ユニット10は、空気量センサ45により検知された空気流量Qaとクランク角センサ47により検知されたエンジン回転数Neとに応じて基本燃料噴射量Tpを求める基本燃料噴射量演算部11と、酸素濃度センサ48により検知された排気ガス中の酸素濃度O2に応じてフィードバック係数Ko2を定めるフィードバック係数算出部12と、基本燃料噴射量Tpにフィードバック係数Ko2を乗じてこの値を燃料噴射バルブ駆動回路41に出力するフィードバック補正部13と、マップを用いてクランク角センサ17により検知されたエンジン回転数Neと基本燃料噴射量Tpとから基本点火進角θaを求める基本点火進角演算部14と、トラクション制御時にトラクション制御ユニット20から出力されたTC点火目標リタード量θrtと基本燃料噴射量Tpとを加算してこの値θadvを点火回路42に出力する加算器19とを有している。さらに、エンジン制御ユニット10は、トラクション制御時に各種信号が示す値がエンジン制御系にとって、まったく問題ない(正常)か、軽度の異常、又は重度の異常かを判断するエンジン制御系異常判断部15と、エンジン制御系が軽度異常の場合の軽異常時点火目標リタード量θrfを求める軽度異常時点火目標リタード量演算部16と、エンジン制御系が正常か軽度異常かに応じて目標点火リタード量をTC点火目標リタード量θrt又は軽異常時点火目標リタード量θrfにする第1の切替器17と、エンジン制御系が重度異常かそうでないか(正常又は軽度異常)に応じて加算器19に出力する点火リタード量θrを0又は第1の切替器17からの点火リタード量にする第2の切替器18とを有している。
【0020】
エンジン制御系異常判断部15には、冷却水温センサ46により検知されたエンジン冷却水温Twと、空気量センサ45により検知された空気流量Qaと、トラクション制御ユニット20からのTCスロットル制御系異常信号Utとが入力する。異常判断部15は、TCスロットル制御系異常信号Utが入力せず、エンジン冷却水温信号Twの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲内で、且つ空気流量信号Qaの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲内であれば、トラクション制御時においてエンジン制御系は正常であると判断し、TCスロットル制御系異常信号Utが入力するか、又はエンジン冷却水温信号Twの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲外であれば、トラクション制御時においてエンジン制御系は軽度異常であると判断し、空気流量信号Qaの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲外であれば、重度異常であると判断する。
【0021】
なお、エンジン制御ユニット10、トラクション制御ユニット20及びスロットル制御ユニット30は、それぞれ、CPUやROMやRAM等を有しているマイクロコンピュータで構成されている。従って、以上において説明した各ユニット10,20,30の構成要素の動作は、ROMに記憶されているプログラムをCPUが実行するとによって達成される。また、以上では、各ユニットをそれぞれ別体にしたが、これは各ユニットの動作を理解しやすくするためであり、それぞれを別体にしなくとも特に問題はない。
【0022】
また、本実施例において、トラクション制御装置は、各種センサ5,6a,6b,45,46,47と、エンジン制御ユニット10と、トラクション制御ユニット20と、TCスロットル制御ユニット30と、TCスロットルバルブ駆動回路43と、TCスロットル駆動モータ3と、TCスロットルバルブ4とを有して構成されている。また、本実施例において、空転把握手段は、車輪速センサ6b,6aとトラクション制御ユニット20の空転量検出部21とで構成され、異常把握手段は、各種センサ5,6a,6b,45,46,47とエンジン制御ユニット10の異常判断部16とTCスロットル制御ユニット30の異常判断部31とを有して構成されている。本実施例において、一のトルク低下手段は、TCスロットルバルブ4と、TCスロットル駆動モータ3と、TCスロットルバルブ駆動回路43と、トラクション制御ユニット20のTCスロットル目標開度演算部22と、TCスロットル制御ユニット30の第1の切替器33と、減算器34と、比例ゲイン乗算器36aと、微分器35bと、微分ゲイン乗算器36bと、積分器35cと、積分ゲイン乗算器36cと、加算器37と、電流変換定数乗算器37と、第2の切替器39とをを有して構成されている。また、他のトルク低下手段は、トラクション制御ユニット20のTC点火目標リタード量演算部23と、エンジン制御ユニット10の第1の切替器18と、第2の切替器18と、加算器19とを有して構成されている。また、トラクション制御中止手段は、エンジン制御ユニット10の第2の切替器19とTCスロットル制御ユニット30の第2の切替器39とを有して構成され、トラクション制御徐々中止手段は、エンジン制御ユニット10の軽度異常時点火目標リタード量演算部16及び第1の切替器33と、TCスロットル制御ユニット30の軽度異常時スロットル目標開度演算部32及び第1の切替器33とを有して構成されている。
【0023】
次に、本実施例のトラクション制御装置の動作について説明する。
まず、各制御系が正常である場合の動作について説明する。
【0024】
駆動輪7bの回転数Sd及び従動輪7aの回転数Sfは、それぞれ、車輪速センサ6b,6aで検出され、それぞれの回転数Sd,Sfは、各センサ6b,6aからトラクション制御ユニット20の空転量検出部21に送られる。空転量検出部21は、駆動輪7bの回転数Sdから従動輪7aの回転数Sfを引いて、駆動輪7bの空転量Sを求める。空転量検出部21は、駆動輪7bの空転量Sが予め定めた量より大きくなると、トラクション制御すべき空転が生じたと判断する。駆動輪7bの空転すると、トラクション制御ユニット20のTCスロットル目標開度演算部22は、この空転量Sを関数fに代入して、エンジントルクが低下する(駆動輪7bの空転量Sが小さくなる)ようなTCスロットル目標開度θtを求める。また、TC点火目標リタード量演算部23も、同じく、空転量Sを関数gに代入して、エンジントルクが低下するようなTC点火目標リタード量θrtを求める。
【0025】
TCスロットル目標開度θtは、TCスロットル制御ユニット30の減算器34に入力される。減算器34では、TCスロットルバルブ4のバルブ開度をフィードバック制御すべく、TCスロットルセンサ5により検出されたTCスロットルバルブ開度θsとTCスロットル目標開度θtとの偏差εが求められ、その後、PID制御のために、この偏差εに対して、比例、微分、積分等の処理が施される。そして、比例、微分、積分等の処理が施された各値が加算器37で加算された後、電流変換定数乗算器37で電流値Iに変換されて、TCスロットル駆動回路37に出力される。全開状態であったTCスロットルバルブ4は、TCスロットル駆動モータ3の駆動により、一定量閉じる。このため、エンジン50の吸入空気量が減り、エンジントルクは低下する。
【0026】
また、TC点火目標リタード量θrtは、エンジン制御ユニット10の第1の切替器17及び第2の切替器18を介して、加算器19に入力される。エンジン制御ユニット10の加算器19では、基本点火進角演算部14で求められた基本点火進角θaにこのTC点火目標リタード量θrtが加算され、これを点火進角θadvとして、点火回路42に出力する。このため、点火プラグ8の点火時期が遅くなり、エンジントルクは低下する。
【0027】
以上のように、駆動輪7bが空転すると、エンジン50の吸入空気量が減ると共に、点火プラグ8の点火時期が遅くなり、エンジントルクは一定量低下する。この結果、駆動輪7bの空転が治まる。
【0028】
次に、以上のトラクション制御時において、いずれかの制御系に異常が生じた場合のTCスロットル制御ユニット30の動作について、図4に示すフローチャートに従って説明する。
まず、ステップ1で、重度異常フラグが1(1の場合は重度異常)か否かを判断し、1であればステップ15へとジャンプする。ステップ2では、TCスロットルセンサ5からTCスロットルバルブ開度信号θsを取り込む。ステップ3では、軽度異常フラグが1(1の場合は軽度異常)か否かを判断し、1であればステップ13にジャンプする。ステップ4では、トラクション制御ユニット20からTCスロットル目標開度θtを読み込む。ステップ5では、TCスロットルバルブ開度信号θsが正常な範囲内であるか判定し、正常であればステップ6に進み、異常であればステップ14に進む。TCスロットルバルブ開度信号θsが異常であれば、TCスロットルバルブ4のフィードバック制御を続けることは不可能であるから、ステップ14にて重度異常フラグを1にして、ステップ15で、第2の切替器39を切り替えて、TCスロットル駆動回路43に出力する電流値を直ちに0にする。この結果、トラクションコントロールのために一定量閉じていたTCスロットルバルブ4は、直ちに全開状態になり、エンジントルクは急激に増加する(=トラクション制御によるエンジントルク低減量が急激に減る。)。ステップ6では、トラクション制御ユニット20からのTCスロットル目標開度θtが正常の範囲にあるかを判定し、正常な範囲外であれば、TCスロットル制御系にとっては軽度の異常であると判断して、ステップ11で、軽度異常フラグを1にする。ステップ7では、エンジン制御系異常信号Ueにより、エンジン制御系に異常があると認識すると、ステップ6の場合と同様に、TCスロットル制御系にとっては軽度の異常であると判断して、ステップ11で、軽度異常フラグを1にする。ステップ11で、軽度異常フラグが1になると、ステップ12で、このフローに入る直前のTCスロットルバルブ4の目標開度θt(k−1)を初期値θt’(k)とし、ステップ13で、目標開度θt’(k−1)に予め定めた微小開度Δθを加えて、これを新たな目標開度θt’(k)とする。このステップ13が繰り返されることにより、トラクション制御のために一定量閉じていたTCスロットルバルブ4は、徐々に開き、エンジントルクは徐々に増加する(=トラクション制御によるエンジントルク低減量が徐々に減る。)。TCスロットル制御系にとって、重度及び軽度異常がなければ、つまり制御系が全て正常であれば、ステップ8に進んで、トラクション制御ユニット20が求めたTCスロットル目標開度θt(k)をそのまま新たなTCスロットル目標開度θt’(k)とする。ステップ9では、目標開度θt’からTCスロットルセンサ5で測定したTCスロットルバルブ開度θsを引いて、両者の偏差εを求め、ステップ10で、この偏差に対して微分処理、積分処理等を行って電流値Iが求められ、TCスロットルバブル駆動回路43にこの電流値Iが出力される。
【0029】
なお、以上の処理において、ステップ1〜7,11,14は異常判断部31が実行し、ステップ12,13は軽度異常時スロットル目標開度演算部32が実行し、ステップ8は異常判断部31の指示に従って動作する第1の切替器33が実行する。また、ステップ9は減算器34が実行し、ステップ10は比例ゲイン乗算器36aや微分器35bや電流変換定数乗算器37等が実行し、ステップ15は異常判断部31の指示に従って動作する第2の切替器39が実行する。
また、以上の処理において、TCスロットル制御系の重度異常は、TCスロットルセンサ5からTCスロットルバルブ開度信号θsが異常である場合のみであるが、さらに、TCスロットルバルブ駆動回路43やTCスロットル駆動モータ3中に流れる電流の電流値を監視しておき、この電流値異常の場合も、TCスロットル制御系の重度異常とすることが好ましい。
【0030】
次に、いずれかの制御系に異常が生じた場合のエンジン制御ユニット10の動作について、図5に示すフローチャートに従って説明する。
まず、ステップ21で、重度異常フラグが1(1の場合は重度異常)か否かを判断し、1であればステップ34へとジャンプする。ステップ21では、空気量センサ45から空気流量Qa、冷却水温センサ46から冷却水温Twを取り込む。ステップ23では、軽度異常フラグが1(1の場合は軽度異常)か否かを判断し、1であればステップ31にジャンプする。ステップ24では、空気量センサ45からの空気流量信号Qaが正常な範囲内であるか判定し、正常であればステップ25に進み、異常であればステップ33に進む。空気流量信号Qaが異常であれば、点火時期を送らせてトラクション制御しても、エンジントルクの低減を保証できないので、ステップ33にて重度異常フラグを1にして、ステップ34で、第2の切替器18を切り替えて、点火リタード量θrを直ちに0にする。この結果、トラクション制御のために遅れていた点火時期は、通常の点火時期となり、エンジントルクは急激に増加する(=トラクション制御によるエンジントルク低減量が急激に減る。)。ステップ25では、冷却水温センサ46からの冷却水温信号Twが正常な範囲にあるかを判定し、正常な範囲外であれば、エンジン制御系にとっては軽度の異常であると判断して、ステップ29で、軽度異常フラグを1にする。ステップ26では、スロットル制御系異常信号Utにより、スロットル制御系に異常があると認識すると、ステップ25の場合と同様に、エンジン制御系にとっては軽度の異常であると判断して、ステップ29で、軽度異常フラグを1にする。ステップ29で、軽度異常フラグが1になると、ステップ30で、このフローに入る直前の軽異常時点火目標リタード量θrf(k−1)を初期値θrf’(k)とし、ステップ31で、軽異常時点火目標リタード量θrf’(k−1)から予め定めた微小量Δθrを引いて、これを新たな目標開度軽異常時点火目標リタード量θrf’(k)とし、ステップ32で、この新たな目標開度軽異常時点火目標リタード量θrf’(k)を点火リタード量θrとする。これらステップ31,32が繰り返されることにより、トラクション制御のために遅れていた点火時期が徐々に通常の点火時期になり、エンジントルクは徐々に増加する(=トラクション制御によるエンジントルク低減量が徐々に減る。)。エンジン制御系にとって、重度及び軽度異常がなければ、つまり制御系が全て正常であれば、ステップ27に進んで、トラクション制御ユニット20が求めたTC点火目標リタード量θrtをそのまま新たな点火リタード量θrとする。ステップ28では、基本点火進角演算部14で求めた基本点火進角θaに点火リタード量θrを加えて、これを点火進角θadvとして点火回路42に出力する。
【0031】
なお、以上の処理において、ステップ21〜26,29,33は異常判断部15が実行し、ステップ30,31は軽度異常時点火目標リタード量演算部16が実行し、ステップ27,32は異常判断部15の指示に従って動作する第1の切替器17が実行する。また、ステップ28は加算器19が実行し、ステップ34は異常判断部15の指示に従って動作する第2の切替器18が実行する。
【0032】
以上のように、トラクション制御中に、TCスロットル制御系にとって重度の異常が発生した場合には、TCスロットル制御系によるトラクション制御が直ちに中止される一方で、エンジン制御系によるトラクション制御が徐々に中止される(エンジントルクが徐々に通常の状態に復帰する。)。逆に、トラクション制御中に、エンジン制御系にとって重度の異常が発生した場合には、エンジン制御系によるトラクション制御が直ちに中止される一方で、TCスロットル制御系によるトラクション制御が徐々に中止される。また、トラクション制御中に、TCスロットル制御系に軽度の異常が発生した場合には、TCスロットル制御系によるトラクション制御が徐々に中止され、エンジン制御系に軽度の異常が発生した場合には、エンジン制御系によるトラクション制御が徐々に中止される。
【0033】
次に、図6〜図8を用いて、本実施例の具体的な効果を説明する。
図6は本実施例を適用しないシステムで、トラクション制御中に故障が発生した場合の車両の挙動を表したものである。滑り易い路面でアクセル開度θaが急激に大きくなると、エンジン出力の急激な増大とともに駆動輪7bの速度Sdのみが急激に上昇し、従動輪7aの速度Sfとの速度差Sが上昇する。駆動輪7bが空転すると、トラクション制御系から、車輪の速度差、つまり駆動輪7bの空転量Sの大きさに応じてTCスロットル制御系とエンジン制御系とにエンジントルク低減ための目標値が出力される。その結果、エンジン制御系によるエンジントルク低減量Te及びTCスロットル制御系によるエンジントルク低減量Ttは増加し(エンジントルクは低減する。)、駆動輪7bの空転は所定の範囲に抑えられる。しかし、いずれかの制御系に異常が発生すると、トラクション制御を実行していない状態に直ちになるため、つまり、エンジン制御系もTCスロットル制御系も、異常に対して即リカバーするため、エンジン制御系によるエンジントルク低減量TeもTCスロットル制御系によるエンジントルク低減量Ttも、急激に少なくなり(エンジントルクは急激に増加する。)、駆動輪7bの空転が発生するので、車両の安定性が損なわれ、ドライバーが慌ててスロットルを戻しても、車両は既にスピン状態になっていることも有り得る。
【0034】
図7は、本実施例において、TCスロットル制御系にとって重度異常が発生した場合の車両の挙動を示している。TCスロットル制御系にとって重度異常が発生すると、TCスロットル制御系は、この異常に対して即リカバーして、TCスロットル制御系によるエンジントルク低減量Ttは、急激に小さくなる(エンジントルクは急激に増加する。)。しかし、エンジン制御系は、この異常に対して徐々リカバーして、エンジン制御系によるエンジントルク低減量Teは、徐々に小さくなる(エンジントルクは徐々に大きくなる。)。このため、駆動輪7bの速度Sdの上昇はなめらかになり、急な空転発生やスピンの心配はない。
【0035】
図8は、本実施例において、エンジン制御系にとって重度異常が発生した場合の車両の挙動を示している。エンジン制御系にとって重度異常が発生すると、エンジン制御系は、この異常に対して即リカバーして、エンジン制御系によるエンジントルク低減量Teは、急激に小さくなる。しかし、TCスロットル制御系は、この異常に対して徐々リカバーして、TCスロットル制御系によるエンジントルク低減量Ttは、徐々に小さくなる。このため、駆動輪7bの速度Sdの上昇はなめらかになり、急な空転発生やスピンの心配はない。
【0036】
TCスロットルバルブに他の実施例について、図9及び図10を用いて説明する。
3a,3bはモータ3の回転出力に応じた回転をするギヤで、ギヤ3bの回転量はモータ・ポジション・センサ(MPS)68により検出される。ギヤ3bの回転は、close方向の回転時のみ、レバー61及びレバー62を介してスロットルバルブ60に伝達される。トラクション制御時におけるスロットルバルブ60の開度はTC時スロットル・ポジション・センサ63にて検出される。
【0037】
アクセルペダル53の踏み込みに応じて、アクセルドラム55が回転すると、同一軸上のレバー65が回転する。スロットルバルブ60側にも、レバー65のclose方向の回転で、このレバー65に接触するように形成されているレバー64が設けられている。レバー65とスロットルバルブ60側のレバー64とは、ロストモーションスプリング66にて連結されている。このロストモーションスプリング66により、レバー65は、close方向の回転のみならず、open方向の回転でも、レバー64と接触できるようになっている。アクセルペダル53の操作によるスロットルバルブ60の開度は、通常時スロットル・ポジション・センサ(TPS)2にて検出される。
【0038】
トラクション制御のためのスロットルバルブ60の開閉制御が行われていないときは、レバー64とレバー65とはロストモーションスプリング66にて引き寄せられて接触しており、アクセルドラム回転量とスロットル開度とは一致している。また、このとき、レバー61は、アクセルペダル53の動作範囲内においては、レバー62と接触しない退避位置に位置している。
【0039】
トラクション制御のために、スロットルバルブ60の開閉制御を実行する際には、モータ3が駆動する。モータ3の駆動により、ギヤ3bがclose方向に回転し、退避位置に位置していたレバー61がレバー62と接触すると、ギヤ3bの回転に伴ってスロットルバルブ60もclose方向に回転し、ギヤ3bの回転量とスロットルバルブ60の開度変化量とが一致するようになる。このとき、アクセルドラムの回転方向における位置とスロットル開度とは一致しなくなっている。
【0040】
ここで、以上の動作について、図9を用いて詳細に説明する。なお、図9は、軸の回転運動を理解し易いように、直線的な横運動に変えて示している。このため、同図において、アクセルペダル53が踏み込まれ、スロットルバルブ60を開く方向に回転することは、レバー65がアクセルドラム55に引かれ、左側に移動することに対応している。トラクション制御のためのスロットルバルブ60の開閉制御が行われていないとき、スロットルバルブ60側のレバー64は、ロストモーションスプリング66によりアクセルドラム55に取付けられているレバー65と接触させられおり、レバー65の回転と連動する。また、レバー61はギアリターンスプリング69により、前述した退避位置に位置しており、レバー62と接触していない。
【0041】
トラクション制御により、モータ3が駆動されると、ギヤリターンスプリング69に逆らって、レバー61は右に移動する。このとき、レバー62はレバー61に引っかかり右に移動され、スロットルバルブ60はclose方向に回転することとなる。このとき、レバー61の右への移動に伴って、レバー64も右へ移動し、レバー64とレバー65とを連結するロストモーションスプリング66が伸ばされて、レバー64とレバー65とは離れる。この結果、スロットルバルブ60はアクセルペダル53の動作から解放される。アクセルペダル53が操作されていないときは、リターンスプリング56により、スロットルバルブ60が全閉位置に戻される。
【0042】
このように、一のスロットルバルブ60でも、モータ3の駆動によるバルブ動作と、アクセルペダル53の操作によるバルブ動作とを独立させることにより、トラクション制御を実行することができる。なお、この場合、トラクション制御時において、TCスロットル制御ユニット30に入力させるスロットルバルブ60の開度信号としては、モータ・ポジション・センサ(MPS)68からの信号を用いる。
【0043】
ところで、以上の実施例では、TCスロットルバルブの開度、及び点火時期の制御によって、トラクション制御を実行しているが、これらに加えて、さらに燃料噴射気筒を制御して、トラクション制御を実行してもよい。この場合、燃料噴射制御系にとって、重度の異常は吸入空気量信号Qaの異常等で、軽度の異常は冷却水信号Twの異常やTCスロットル制御系の異常等になる。また、燃料噴射制御系にとって重度の異常の場合には、トラクション制御のために、いくつかの気筒への燃料噴射を中止していた状態から、すべての気筒への燃料噴射を実行するようにし、軽度の異常の場合には、燃料噴射を中止している複数の気筒に対して、一気筒ずつ順次燃料噴射を実行するようにする。
【0044】
また、以上の実施例は、点火プラグ9が設けられているガソリンエンジン50に対して、本発明を適用したものであるが、本発明を点火プラグのないディーゼルエンジンに適用してもよい。この場合、当然、点火時期を制御してトラクション制御することはできないので、TCスロットルバルブの制御と燃料噴射気筒の制御とにより、トラクション制御を実行することになる。
【0045】
【発明の効果】
本発明によれば、いずらかのエンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることに支障が生じた場合でも、支障が生じていない他のエンジントルク低下手段の影響によるエンジントルクは徐々に元のトルクに復帰するので、トラクション制御を乗員にとって安全に停止させることができる。従って、トラクション制御中に故障が起こっても、急激なエンジントルク増加によって駆動輪の空転が急に再開してしまうことはなく、車両のスピン等を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る一実施例のトラクション制御装置の回路図である。
【図2】本発明に係る一実施例の自動車の構成を示す説明図である。
【図3】本発明に係る一実施例のスロットルバルブ回りの構成を示す説明図である。
【図4】本発明に係る一実施例のトラクション制御中に異常が生じた場合のTCスロットル制御ユニットの動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る一実施例のトラクション制御中に異常が生じた場合のエンジン制御ユニットの動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明が適用されていないトラクション制御装置において、トラクション制御中に異常が生じた場合の車両挙動を示すグラフである。
【図7】本発明に係る一実施例のTCスロットル制御系にとって重度の異常が生じた場合の車両挙動を示すグラフである。
【図8】本発明に係る一実施例のエンジン制御系にとって重度の異常が生じた場合の車両の挙動を示すグラフである。
【図9】本発明に係る他の実施例のスロットルバルブ回りの構成を示す説明図である。
【図10】本発明に係る他の実施例のスロットルバルブ回りの構成を示す説明図である。
【符号の説明】
1…メインスロットルバルブ、3…TCスロットル駆動モータ、4…TCスロットルバルブ、6a…従動輪速センサ、6b…駆動輪速センサ、7a…従動輪、7b…駆動輪、8…燃料噴射バルブ、9…点火プラグ、10…エンジン制御ユニット、15…エンジン制御系異常判断部、16…軽度異常時点火目標リタード量演算部、17…(エンジン制御ユニットの)第1の切替器、18…(エンジン制御ユニットの)第2の切替器、20…トラクション制御ユニット、21…空転量検出部、22…TCスロットル目標開度演算部、23…TC点火目標リタード量演算部、30…TCスロットル制御ユニット、31…TCスロットル制御系異常判断部、32…軽度異常時スロットル目標開度演算部、33…(TCスロットル制御ユニットの)第1の切替器、34…(TCスロットル制御ユニットの)第2の切替器、45…空気量センサ、46…冷却水温センサ、47…クランク角センサ、50…エンジン、51…吸気管、53…アクセルペダル。
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車の発進・加速時における駆動輪の空転を抑制するトラクション制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車が走行するときに、エンジンから駆動輪に与えられる駆動力がこの駆動輪と走行路面との間の摩擦力よりも大きくなると、駆動輪が空転して、自動車の方向安定性が損なわれたり、加速性が低下したりする。駆動輪の空転を防止するためには、運転者は、駆動輪の空転を感知すると、アクセルを緩めてエンジンの出力トルクを低下させてやればよい。しかし、このように、駆動輪の空転を防止するにあたり、運転者のアクセルワークに期待するのは、一般的に難しい。
【0003】
そこで、車輪速度センサからの車速信号に基づいて駆動輪の空転を検知し、これにより所定の制御機能を発動させてエンジンのトルクを低下させる、いわゆるトラクション制御装置が、種々実用化されている。
従来、この一種の装置としては、例えば、特開昭62−7954号公報に記載されているものがある。このトラクション制御装置は、アクセルペダルと機械的にリンクされアクセルペダルの操作で動作するメインスロットルバルブとは別に、所定のアクチュエータで開閉駆動されるTC(Traction Control)スロットルバルブを設け、駆動輪の空転を検知すると、このTCスロットルバルブを動作させて、エンジンの出力トルクを制御するというものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、以上の従来技術では、TCスロットルバルブやこの制御系統に異常が生じたときの配慮がなされていない。このため、例えば、車両が滑り易い路面をトラクション制御を行いながら走行しているときに、TCスロットルバルブ制御系統に異常が生じたとき、TCスロットルバルブは直ちに全開状態になってしまう。これは、通常、トラクション制御に関する装置が故障した場合、これらの装置はトラクション制御していない状態に戻るように設計されているからである。このため、トラクション制御中に異常が生じると、それまで低下させていたエンジントルクが急激に増大して、駆動輪の空転が急に再開してしまうという問題点がある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、トラクション制御中に異常が生じても、エンジントルクの急激な増大を防いで、車両を比較的安定に走行させることができる自動車のトラクション制御装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための自動車のトラクション制御装置は、
駆動輪の空転を把握する空転把握手段と、該空転把握手段により前記駆動輪の空転が把握されると、エンジンの出力トルクを低下させる複数のエンジントルク低下手段と、複数の該エンジントルク低下手段のうち、いずれかのエンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることに支障が生じた場合(以下、異常状態とする。)、いずれのエンジントルク低下手段が異常状態になったかを把握する異常把握手段と、複数の前記エンジントルク低下手段で、エンジントルクを低下させている際中に、前記異常把握手段により、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、いずれかのエンジントルク低下手段が異常状態になったと把握されると、該エンジントルク低下手段によるエンジントルクの低下動作を直ちに中止させるトラクション制御即中止手段と、複数の前記エンジントルク低下手段で、エンジントルクを低下させている際中に、前記異常把握手段により、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、いずれかのエンジントルク低下手段が異常状態になったと把握されると、該エンジントルク低下手段以外の異常状態でないエンジントルク低下手段によるエンジントルク低下量を徐々に少なくするトラクション制御徐々中止手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0007】
ここで、前記トラクション制御装置において、前記異常把握手段は、前記エンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることにある程度支障が生じているものの、該エンジントルク低減手段でエンジントルクを低減させる制御が可能な軽度異常と、前記エンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることに支障が生じ、且つ該エンジントルク低減手段でエンジントルクを低減させる制御が不可能な重度異常とを区別して、把握でき、前記トラクション制御即中止手段は、前記異常把握手段により前記重度異常であると把握された前記エンジントルク低下手段によるエンジントルクの低下動作を直ちに中止させ、前記トラクション制御徐々中止手段は、前記異常把握手段により前記軽度異常であると把握された前記エンジントルク低下手段によるエンジントルク低下手段によるエンジントルク低下量を徐々に少なくするものであることが好ましい。
【0008】
また、トラクション制御装置において、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、一のエンジントルク低下手段は、前記空転把握手段により前記空転が把握されたときに、前記エンジンに供給される空気流量を少なくする空気流量調節手段であってもよい。また、前記エンジンが複数の気筒を有し、複数の該気筒ごとに燃料を供給する燃料供給手段が設けられている場合には、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、一のエンジントルク低下手段は、前記空転把握手段により前記空転が把握されたときに、複数の燃料供給手段のうち、いずれかによる燃料供給を中止させる燃料供給中止手段であってもよい。さらに、前記エンジンに点火プラグが設けられている場合に、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、一のエンジントルク低下手段は、前記空転把握手段により前記空転が把握されたときに、該点火プラグの点火時期を目的の時期よりも遅らせる点火リタード手段であってもよい。
【0009】
【作用】
自動車の発進時や加速時に駆動輪が空転すると、複数のエンジントルク低下手段により、この駆動輪の空転量に応じてエンジントルクが低下させられる。この結果、駆動輪の空転が治まる。
【0010】
エンジントルク低下手段によりエンジントルクを低下させている際中(以下、トラクション制御中とする。)に、いずれかのエンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることに支障が生じた場合、この状態が異常状態把握手段により把握される。異常状態把握手段で、異常状態が把握されると、異常であると把握されたエンジントルク手段によるエンジントルク低下動作は、トラクション制御即中止手段により、直ちに中止される。一方、異常でないトルク低減手段によるエンジントルク低減量は、トラクション制御徐々中止手段により、徐々に少なくなる。
【0011】
以上のように、本発明では、複数のエンジントルク低下手段のうち、いずらかのエンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることに支障が生じた場合でも、支障が生じたエンジントルク低下手段の影響によるエンジントルクは直ちに元のトルクに復帰するものの、支障が生じていない他のエンジントルク低下手段の影響によるエンジントルクは徐々に元のトルクに復帰するので、急激なエンジントルク増加による車両のスピン等を回避することができる。
【0012】
【実施例】
以下、本発明に係るトラクション制御装置の実施例について、図面を用いて説明する。
図2に示すように、本実施例の自動車は、従動輪7a,7aと、駆動輪7b,7bと、エンジン50と、エンジン50の出力を駆動輪7b,7bに伝える駆動力伝達系52とを有している。
【0013】
本実施例のエンジン50は、4気筒ガソリンエンジンで、各気筒ごとに、燃料噴射バルブ9及び点火プラグ8が設けられている。また、このエンジン50には、エンジン回転数Neを測定するためのクランク角センサ47が設けられている。エンジン50に空気を供給する吸入管51には、アクセルペダル53の操作量に応じてエンジン50に供給される空気流量を調節するメインスロットルバルブ1と、駆動輪7bの空転時にエンジン50に供給される空気流量を調節するTC(Traction Control)スロットルバルブ4と、TCスロットルバルブ4を動作させるTCスロットル駆動モータ3と、この吸気管51を通過する空気流量Qaを測定する空気量センサ45とが設けられている。各スロットルバルブ1,4には、それぞれのバルブ開度を測定するスロットルセンサ2,5が設けられている。また、エンジン50からの排気ガスが流れる排気管(図示されていない。)には、排気ガス中の酸素濃度O2を測定する酸素濃度センサ48が設けられている。また、エンジン50を冷却するラジエター(図示されていない。)には、この中を流れる冷却水の温度Twを測定する冷却水温センサ46が設けられている。
【0014】
メインスロットルバルブ1は、図3に示すように、アクセルペダル53とワイヤー54やアクセルドラム55等で機械的にリンクされており、アクセルペダル53の踏み込みに応じて回転し、スロットル・ポジション・センサ(TPS)2によりその開度が検出される。TCスロットル駆動モータ3が回転すると、ギヤ3a,3bを介して、TCスロットルバルブ4が回転する。TCスロットルバルブ4の開度は、スロットル・ポジション・センサ(TPS)5で検出される。非トラクション制御時は、TCスロットルバルブ4は全開であり、エンジン50の吸入空気量はメインスロットルバルブ1の開度によって制限される。また、トラクション制御時では、TCスロットルバルブ4がメインスロットルバルブ1より閉じているとエンジン15の吸入空気量はTCスロットルバルブ4の開度により制限される。
駆動輪7b及び従動輪7aには、それぞれ、車輪速センサ6b,6aが設けられている。
【0015】
本実施例の自動車は、以上の他、燃料噴射バルブ9からの燃料噴射量や点火プラグ8の点火時期等を求めるエンジン制御ユニット10と、エンジン制御ユニット10からの指示に従って燃料噴射バルブ9を駆動させる燃料噴射バルブ駆動回路41と、エンジン制御ユニット10からの指示に従って点火プラグ8を点火させる点火回路42と、TCスロットルバルブ4の弁開度を制御するTCスロットル制御ユニット30と、TCスロットル制御ユニット30からの指示に従ってTCスロットルバルブ4を駆動させるTCスロットル駆動回路43と、駆動輪7bが空転したときに空転量Sを把握してTCスロットルバルブ4のTCスロットル目標開度θtや点火プラグ8のTC点火目標リタード量θrtを求めるトラクション制御ユニット20とを有している。
【0016】
さて、滑り易い路面を走行中にアクセルペダル53の適切な操作を誤ると、駆動輪7bに過大なトルクが発生して、駆動輪7bが空転してしまう。そこで、トラクション制御ユニット20は、図1に示すように、駆動輪7bと従動輪7aとの回転数差S(=Sd−Sf)から空転の発生を検出する空転量検出部21を有している。さらに、トラクション制御ユニット20は、予め準備されている関数fと空転量Sと用いてTCスロットル目標開度θtを求めるTCスロットル目標開度演算部22と、同じく予め準備されている関数gと空転量Sとを用いてTC点火目標リタード量θrtを求めるTC点火目標リタード量演算部23と、エンジン制御ユニット10からのエンジン制御系異常信号Ueの入力によりエンジン制御系の異常を認識してこれをTCスロットル制御ユニット30に知らせると共に、TCスロットル制御ユニット30からのTCスロットル制御系異常信号Utの入力によりTCスロットル制御系の異常を認識してこれをエンジン制御ユニット10に知らせるTC異常認識部24とを有している。
【0017】
TCスロットル制御ユニット30は、TCスロットルセンサ5により検出されたTCスロットルバルブ4のバルブ開度θsとトラクション制御時にトラクション制御ユニット20から出力されたTCスロットル目標開度θtとの偏差εを求める減算器34と、この偏差εに比例ゲインKpを乗算する比例ゲイン乗算器36aと、この偏差εの微分値を求める微分器35bと、この微分値に微分ゲインKiを乗ずる微分ゲイン乗算器36bと、この偏差εの積分値を求める積分器35cと、この積分値に積分ゲインKdを乗ずる積分ゲイン乗算器36cと、各ゲイン乗算器36a,36b,36cからの出力値を加算する加算器37と、加算器37からの出力をTCスロットル駆動モータ3の電流値Iに変換するための定数Kmを乗ずる電流変換定数乗算器37とを有している。以上は、TCスロットル制御ユニットの一般的な構成であるが、本実施例のTCスロットル制御ユニット30は、さらに、各種信号が示す値がTCスロットル制御系にとって、まったく問題ない(正常)か、軽度の異常、又は重度の異常かを判断するTCスロットル制御系異常判断部31と、TCスロットル制御系が軽度異常の場合の軽異常時スロットル目標開度を求める軽度異常時スロットル目標開度演算部32と、TCスロットル制御系が正常か軽度異常かに応じて減算器34に入力する目標開度をTCスロットル目標開度θt又は軽異常時スロットル目標開度にする第1の切替器33と、TCスロットル制御系が重度異常かそうでないか(正常又は軽度異常)に応じてTCスロットル駆動回路43に出力する電流値を0又電流変換定数乗算器37から出力された値にする第2の切替器39とを有している。
【0018】
TCスロットル制御系異常判断部31には、TCスロットルセンサ5により検出されたTCスロットルバルブ開度θsと、トラクション制御ユニット20からのTCスロットル目標開度θt及びエンジン制御系異常信号Ueとが入力する。異常判断部31は、エンジン制御系異常信号Ueが入力せず、TCスロットル目標開度信号θtの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲内で、且つTCスロットルバルブ開度信号θsの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲内であれば、TCスロットル制御系は正常であると判断し、エンジン制御系異常信号Ueが入力するか、又はTCスロットル目標開度信号θtの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲外であれば、TCスロットル制御系は軽度異常であると判断し、TCスロットルバルブ開度信号θsの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲外であれば、重度異常であると判断する。また、異常判断部31は、TCスロットル制御系が重度異常の場合、つまりに、TCスロットルバルブ開度信号θsの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲外の場合に、トラクション制御ユニット20のTC異常認識部24にTCスロットル制御系異常信号Utを出力する。
【0019】
エンジン制御ユニット10は、空気量センサ45により検知された空気流量Qaとクランク角センサ47により検知されたエンジン回転数Neとに応じて基本燃料噴射量Tpを求める基本燃料噴射量演算部11と、酸素濃度センサ48により検知された排気ガス中の酸素濃度O2に応じてフィードバック係数Ko2を定めるフィードバック係数算出部12と、基本燃料噴射量Tpにフィードバック係数Ko2を乗じてこの値を燃料噴射バルブ駆動回路41に出力するフィードバック補正部13と、マップを用いてクランク角センサ17により検知されたエンジン回転数Neと基本燃料噴射量Tpとから基本点火進角θaを求める基本点火進角演算部14と、トラクション制御時にトラクション制御ユニット20から出力されたTC点火目標リタード量θrtと基本燃料噴射量Tpとを加算してこの値θadvを点火回路42に出力する加算器19とを有している。さらに、エンジン制御ユニット10は、トラクション制御時に各種信号が示す値がエンジン制御系にとって、まったく問題ない(正常)か、軽度の異常、又は重度の異常かを判断するエンジン制御系異常判断部15と、エンジン制御系が軽度異常の場合の軽異常時点火目標リタード量θrfを求める軽度異常時点火目標リタード量演算部16と、エンジン制御系が正常か軽度異常かに応じて目標点火リタード量をTC点火目標リタード量θrt又は軽異常時点火目標リタード量θrfにする第1の切替器17と、エンジン制御系が重度異常かそうでないか(正常又は軽度異常)に応じて加算器19に出力する点火リタード量θrを0又は第1の切替器17からの点火リタード量にする第2の切替器18とを有している。
【0020】
エンジン制御系異常判断部15には、冷却水温センサ46により検知されたエンジン冷却水温Twと、空気量センサ45により検知された空気流量Qaと、トラクション制御ユニット20からのTCスロットル制御系異常信号Utとが入力する。異常判断部15は、TCスロットル制御系異常信号Utが入力せず、エンジン冷却水温信号Twの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲内で、且つ空気流量信号Qaの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲内であれば、トラクション制御時においてエンジン制御系は正常であると判断し、TCスロットル制御系異常信号Utが入力するか、又はエンジン冷却水温信号Twの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲外であれば、トラクション制御時においてエンジン制御系は軽度異常であると判断し、空気流量信号Qaの電圧値が予め正常であるとして定められている範囲外であれば、重度異常であると判断する。
【0021】
なお、エンジン制御ユニット10、トラクション制御ユニット20及びスロットル制御ユニット30は、それぞれ、CPUやROMやRAM等を有しているマイクロコンピュータで構成されている。従って、以上において説明した各ユニット10,20,30の構成要素の動作は、ROMに記憶されているプログラムをCPUが実行するとによって達成される。また、以上では、各ユニットをそれぞれ別体にしたが、これは各ユニットの動作を理解しやすくするためであり、それぞれを別体にしなくとも特に問題はない。
【0022】
また、本実施例において、トラクション制御装置は、各種センサ5,6a,6b,45,46,47と、エンジン制御ユニット10と、トラクション制御ユニット20と、TCスロットル制御ユニット30と、TCスロットルバルブ駆動回路43と、TCスロットル駆動モータ3と、TCスロットルバルブ4とを有して構成されている。また、本実施例において、空転把握手段は、車輪速センサ6b,6aとトラクション制御ユニット20の空転量検出部21とで構成され、異常把握手段は、各種センサ5,6a,6b,45,46,47とエンジン制御ユニット10の異常判断部16とTCスロットル制御ユニット30の異常判断部31とを有して構成されている。本実施例において、一のトルク低下手段は、TCスロットルバルブ4と、TCスロットル駆動モータ3と、TCスロットルバルブ駆動回路43と、トラクション制御ユニット20のTCスロットル目標開度演算部22と、TCスロットル制御ユニット30の第1の切替器33と、減算器34と、比例ゲイン乗算器36aと、微分器35bと、微分ゲイン乗算器36bと、積分器35cと、積分ゲイン乗算器36cと、加算器37と、電流変換定数乗算器37と、第2の切替器39とをを有して構成されている。また、他のトルク低下手段は、トラクション制御ユニット20のTC点火目標リタード量演算部23と、エンジン制御ユニット10の第1の切替器18と、第2の切替器18と、加算器19とを有して構成されている。また、トラクション制御中止手段は、エンジン制御ユニット10の第2の切替器19とTCスロットル制御ユニット30の第2の切替器39とを有して構成され、トラクション制御徐々中止手段は、エンジン制御ユニット10の軽度異常時点火目標リタード量演算部16及び第1の切替器33と、TCスロットル制御ユニット30の軽度異常時スロットル目標開度演算部32及び第1の切替器33とを有して構成されている。
【0023】
次に、本実施例のトラクション制御装置の動作について説明する。
まず、各制御系が正常である場合の動作について説明する。
【0024】
駆動輪7bの回転数Sd及び従動輪7aの回転数Sfは、それぞれ、車輪速センサ6b,6aで検出され、それぞれの回転数Sd,Sfは、各センサ6b,6aからトラクション制御ユニット20の空転量検出部21に送られる。空転量検出部21は、駆動輪7bの回転数Sdから従動輪7aの回転数Sfを引いて、駆動輪7bの空転量Sを求める。空転量検出部21は、駆動輪7bの空転量Sが予め定めた量より大きくなると、トラクション制御すべき空転が生じたと判断する。駆動輪7bの空転すると、トラクション制御ユニット20のTCスロットル目標開度演算部22は、この空転量Sを関数fに代入して、エンジントルクが低下する(駆動輪7bの空転量Sが小さくなる)ようなTCスロットル目標開度θtを求める。また、TC点火目標リタード量演算部23も、同じく、空転量Sを関数gに代入して、エンジントルクが低下するようなTC点火目標リタード量θrtを求める。
【0025】
TCスロットル目標開度θtは、TCスロットル制御ユニット30の減算器34に入力される。減算器34では、TCスロットルバルブ4のバルブ開度をフィードバック制御すべく、TCスロットルセンサ5により検出されたTCスロットルバルブ開度θsとTCスロットル目標開度θtとの偏差εが求められ、その後、PID制御のために、この偏差εに対して、比例、微分、積分等の処理が施される。そして、比例、微分、積分等の処理が施された各値が加算器37で加算された後、電流変換定数乗算器37で電流値Iに変換されて、TCスロットル駆動回路37に出力される。全開状態であったTCスロットルバルブ4は、TCスロットル駆動モータ3の駆動により、一定量閉じる。このため、エンジン50の吸入空気量が減り、エンジントルクは低下する。
【0026】
また、TC点火目標リタード量θrtは、エンジン制御ユニット10の第1の切替器17及び第2の切替器18を介して、加算器19に入力される。エンジン制御ユニット10の加算器19では、基本点火進角演算部14で求められた基本点火進角θaにこのTC点火目標リタード量θrtが加算され、これを点火進角θadvとして、点火回路42に出力する。このため、点火プラグ8の点火時期が遅くなり、エンジントルクは低下する。
【0027】
以上のように、駆動輪7bが空転すると、エンジン50の吸入空気量が減ると共に、点火プラグ8の点火時期が遅くなり、エンジントルクは一定量低下する。この結果、駆動輪7bの空転が治まる。
【0028】
次に、以上のトラクション制御時において、いずれかの制御系に異常が生じた場合のTCスロットル制御ユニット30の動作について、図4に示すフローチャートに従って説明する。
まず、ステップ1で、重度異常フラグが1(1の場合は重度異常)か否かを判断し、1であればステップ15へとジャンプする。ステップ2では、TCスロットルセンサ5からTCスロットルバルブ開度信号θsを取り込む。ステップ3では、軽度異常フラグが1(1の場合は軽度異常)か否かを判断し、1であればステップ13にジャンプする。ステップ4では、トラクション制御ユニット20からTCスロットル目標開度θtを読み込む。ステップ5では、TCスロットルバルブ開度信号θsが正常な範囲内であるか判定し、正常であればステップ6に進み、異常であればステップ14に進む。TCスロットルバルブ開度信号θsが異常であれば、TCスロットルバルブ4のフィードバック制御を続けることは不可能であるから、ステップ14にて重度異常フラグを1にして、ステップ15で、第2の切替器39を切り替えて、TCスロットル駆動回路43に出力する電流値を直ちに0にする。この結果、トラクションコントロールのために一定量閉じていたTCスロットルバルブ4は、直ちに全開状態になり、エンジントルクは急激に増加する(=トラクション制御によるエンジントルク低減量が急激に減る。)。ステップ6では、トラクション制御ユニット20からのTCスロットル目標開度θtが正常の範囲にあるかを判定し、正常な範囲外であれば、TCスロットル制御系にとっては軽度の異常であると判断して、ステップ11で、軽度異常フラグを1にする。ステップ7では、エンジン制御系異常信号Ueにより、エンジン制御系に異常があると認識すると、ステップ6の場合と同様に、TCスロットル制御系にとっては軽度の異常であると判断して、ステップ11で、軽度異常フラグを1にする。ステップ11で、軽度異常フラグが1になると、ステップ12で、このフローに入る直前のTCスロットルバルブ4の目標開度θt(k−1)を初期値θt’(k)とし、ステップ13で、目標開度θt’(k−1)に予め定めた微小開度Δθを加えて、これを新たな目標開度θt’(k)とする。このステップ13が繰り返されることにより、トラクション制御のために一定量閉じていたTCスロットルバルブ4は、徐々に開き、エンジントルクは徐々に増加する(=トラクション制御によるエンジントルク低減量が徐々に減る。)。TCスロットル制御系にとって、重度及び軽度異常がなければ、つまり制御系が全て正常であれば、ステップ8に進んで、トラクション制御ユニット20が求めたTCスロットル目標開度θt(k)をそのまま新たなTCスロットル目標開度θt’(k)とする。ステップ9では、目標開度θt’からTCスロットルセンサ5で測定したTCスロットルバルブ開度θsを引いて、両者の偏差εを求め、ステップ10で、この偏差に対して微分処理、積分処理等を行って電流値Iが求められ、TCスロットルバブル駆動回路43にこの電流値Iが出力される。
【0029】
なお、以上の処理において、ステップ1〜7,11,14は異常判断部31が実行し、ステップ12,13は軽度異常時スロットル目標開度演算部32が実行し、ステップ8は異常判断部31の指示に従って動作する第1の切替器33が実行する。また、ステップ9は減算器34が実行し、ステップ10は比例ゲイン乗算器36aや微分器35bや電流変換定数乗算器37等が実行し、ステップ15は異常判断部31の指示に従って動作する第2の切替器39が実行する。
また、以上の処理において、TCスロットル制御系の重度異常は、TCスロットルセンサ5からTCスロットルバルブ開度信号θsが異常である場合のみであるが、さらに、TCスロットルバルブ駆動回路43やTCスロットル駆動モータ3中に流れる電流の電流値を監視しておき、この電流値異常の場合も、TCスロットル制御系の重度異常とすることが好ましい。
【0030】
次に、いずれかの制御系に異常が生じた場合のエンジン制御ユニット10の動作について、図5に示すフローチャートに従って説明する。
まず、ステップ21で、重度異常フラグが1(1の場合は重度異常)か否かを判断し、1であればステップ34へとジャンプする。ステップ21では、空気量センサ45から空気流量Qa、冷却水温センサ46から冷却水温Twを取り込む。ステップ23では、軽度異常フラグが1(1の場合は軽度異常)か否かを判断し、1であればステップ31にジャンプする。ステップ24では、空気量センサ45からの空気流量信号Qaが正常な範囲内であるか判定し、正常であればステップ25に進み、異常であればステップ33に進む。空気流量信号Qaが異常であれば、点火時期を送らせてトラクション制御しても、エンジントルクの低減を保証できないので、ステップ33にて重度異常フラグを1にして、ステップ34で、第2の切替器18を切り替えて、点火リタード量θrを直ちに0にする。この結果、トラクション制御のために遅れていた点火時期は、通常の点火時期となり、エンジントルクは急激に増加する(=トラクション制御によるエンジントルク低減量が急激に減る。)。ステップ25では、冷却水温センサ46からの冷却水温信号Twが正常な範囲にあるかを判定し、正常な範囲外であれば、エンジン制御系にとっては軽度の異常であると判断して、ステップ29で、軽度異常フラグを1にする。ステップ26では、スロットル制御系異常信号Utにより、スロットル制御系に異常があると認識すると、ステップ25の場合と同様に、エンジン制御系にとっては軽度の異常であると判断して、ステップ29で、軽度異常フラグを1にする。ステップ29で、軽度異常フラグが1になると、ステップ30で、このフローに入る直前の軽異常時点火目標リタード量θrf(k−1)を初期値θrf’(k)とし、ステップ31で、軽異常時点火目標リタード量θrf’(k−1)から予め定めた微小量Δθrを引いて、これを新たな目標開度軽異常時点火目標リタード量θrf’(k)とし、ステップ32で、この新たな目標開度軽異常時点火目標リタード量θrf’(k)を点火リタード量θrとする。これらステップ31,32が繰り返されることにより、トラクション制御のために遅れていた点火時期が徐々に通常の点火時期になり、エンジントルクは徐々に増加する(=トラクション制御によるエンジントルク低減量が徐々に減る。)。エンジン制御系にとって、重度及び軽度異常がなければ、つまり制御系が全て正常であれば、ステップ27に進んで、トラクション制御ユニット20が求めたTC点火目標リタード量θrtをそのまま新たな点火リタード量θrとする。ステップ28では、基本点火進角演算部14で求めた基本点火進角θaに点火リタード量θrを加えて、これを点火進角θadvとして点火回路42に出力する。
【0031】
なお、以上の処理において、ステップ21〜26,29,33は異常判断部15が実行し、ステップ30,31は軽度異常時点火目標リタード量演算部16が実行し、ステップ27,32は異常判断部15の指示に従って動作する第1の切替器17が実行する。また、ステップ28は加算器19が実行し、ステップ34は異常判断部15の指示に従って動作する第2の切替器18が実行する。
【0032】
以上のように、トラクション制御中に、TCスロットル制御系にとって重度の異常が発生した場合には、TCスロットル制御系によるトラクション制御が直ちに中止される一方で、エンジン制御系によるトラクション制御が徐々に中止される(エンジントルクが徐々に通常の状態に復帰する。)。逆に、トラクション制御中に、エンジン制御系にとって重度の異常が発生した場合には、エンジン制御系によるトラクション制御が直ちに中止される一方で、TCスロットル制御系によるトラクション制御が徐々に中止される。また、トラクション制御中に、TCスロットル制御系に軽度の異常が発生した場合には、TCスロットル制御系によるトラクション制御が徐々に中止され、エンジン制御系に軽度の異常が発生した場合には、エンジン制御系によるトラクション制御が徐々に中止される。
【0033】
次に、図6〜図8を用いて、本実施例の具体的な効果を説明する。
図6は本実施例を適用しないシステムで、トラクション制御中に故障が発生した場合の車両の挙動を表したものである。滑り易い路面でアクセル開度θaが急激に大きくなると、エンジン出力の急激な増大とともに駆動輪7bの速度Sdのみが急激に上昇し、従動輪7aの速度Sfとの速度差Sが上昇する。駆動輪7bが空転すると、トラクション制御系から、車輪の速度差、つまり駆動輪7bの空転量Sの大きさに応じてTCスロットル制御系とエンジン制御系とにエンジントルク低減ための目標値が出力される。その結果、エンジン制御系によるエンジントルク低減量Te及びTCスロットル制御系によるエンジントルク低減量Ttは増加し(エンジントルクは低減する。)、駆動輪7bの空転は所定の範囲に抑えられる。しかし、いずれかの制御系に異常が発生すると、トラクション制御を実行していない状態に直ちになるため、つまり、エンジン制御系もTCスロットル制御系も、異常に対して即リカバーするため、エンジン制御系によるエンジントルク低減量TeもTCスロットル制御系によるエンジントルク低減量Ttも、急激に少なくなり(エンジントルクは急激に増加する。)、駆動輪7bの空転が発生するので、車両の安定性が損なわれ、ドライバーが慌ててスロットルを戻しても、車両は既にスピン状態になっていることも有り得る。
【0034】
図7は、本実施例において、TCスロットル制御系にとって重度異常が発生した場合の車両の挙動を示している。TCスロットル制御系にとって重度異常が発生すると、TCスロットル制御系は、この異常に対して即リカバーして、TCスロットル制御系によるエンジントルク低減量Ttは、急激に小さくなる(エンジントルクは急激に増加する。)。しかし、エンジン制御系は、この異常に対して徐々リカバーして、エンジン制御系によるエンジントルク低減量Teは、徐々に小さくなる(エンジントルクは徐々に大きくなる。)。このため、駆動輪7bの速度Sdの上昇はなめらかになり、急な空転発生やスピンの心配はない。
【0035】
図8は、本実施例において、エンジン制御系にとって重度異常が発生した場合の車両の挙動を示している。エンジン制御系にとって重度異常が発生すると、エンジン制御系は、この異常に対して即リカバーして、エンジン制御系によるエンジントルク低減量Teは、急激に小さくなる。しかし、TCスロットル制御系は、この異常に対して徐々リカバーして、TCスロットル制御系によるエンジントルク低減量Ttは、徐々に小さくなる。このため、駆動輪7bの速度Sdの上昇はなめらかになり、急な空転発生やスピンの心配はない。
【0036】
TCスロットルバルブに他の実施例について、図9及び図10を用いて説明する。
3a,3bはモータ3の回転出力に応じた回転をするギヤで、ギヤ3bの回転量はモータ・ポジション・センサ(MPS)68により検出される。ギヤ3bの回転は、close方向の回転時のみ、レバー61及びレバー62を介してスロットルバルブ60に伝達される。トラクション制御時におけるスロットルバルブ60の開度はTC時スロットル・ポジション・センサ63にて検出される。
【0037】
アクセルペダル53の踏み込みに応じて、アクセルドラム55が回転すると、同一軸上のレバー65が回転する。スロットルバルブ60側にも、レバー65のclose方向の回転で、このレバー65に接触するように形成されているレバー64が設けられている。レバー65とスロットルバルブ60側のレバー64とは、ロストモーションスプリング66にて連結されている。このロストモーションスプリング66により、レバー65は、close方向の回転のみならず、open方向の回転でも、レバー64と接触できるようになっている。アクセルペダル53の操作によるスロットルバルブ60の開度は、通常時スロットル・ポジション・センサ(TPS)2にて検出される。
【0038】
トラクション制御のためのスロットルバルブ60の開閉制御が行われていないときは、レバー64とレバー65とはロストモーションスプリング66にて引き寄せられて接触しており、アクセルドラム回転量とスロットル開度とは一致している。また、このとき、レバー61は、アクセルペダル53の動作範囲内においては、レバー62と接触しない退避位置に位置している。
【0039】
トラクション制御のために、スロットルバルブ60の開閉制御を実行する際には、モータ3が駆動する。モータ3の駆動により、ギヤ3bがclose方向に回転し、退避位置に位置していたレバー61がレバー62と接触すると、ギヤ3bの回転に伴ってスロットルバルブ60もclose方向に回転し、ギヤ3bの回転量とスロットルバルブ60の開度変化量とが一致するようになる。このとき、アクセルドラムの回転方向における位置とスロットル開度とは一致しなくなっている。
【0040】
ここで、以上の動作について、図9を用いて詳細に説明する。なお、図9は、軸の回転運動を理解し易いように、直線的な横運動に変えて示している。このため、同図において、アクセルペダル53が踏み込まれ、スロットルバルブ60を開く方向に回転することは、レバー65がアクセルドラム55に引かれ、左側に移動することに対応している。トラクション制御のためのスロットルバルブ60の開閉制御が行われていないとき、スロットルバルブ60側のレバー64は、ロストモーションスプリング66によりアクセルドラム55に取付けられているレバー65と接触させられおり、レバー65の回転と連動する。また、レバー61はギアリターンスプリング69により、前述した退避位置に位置しており、レバー62と接触していない。
【0041】
トラクション制御により、モータ3が駆動されると、ギヤリターンスプリング69に逆らって、レバー61は右に移動する。このとき、レバー62はレバー61に引っかかり右に移動され、スロットルバルブ60はclose方向に回転することとなる。このとき、レバー61の右への移動に伴って、レバー64も右へ移動し、レバー64とレバー65とを連結するロストモーションスプリング66が伸ばされて、レバー64とレバー65とは離れる。この結果、スロットルバルブ60はアクセルペダル53の動作から解放される。アクセルペダル53が操作されていないときは、リターンスプリング56により、スロットルバルブ60が全閉位置に戻される。
【0042】
このように、一のスロットルバルブ60でも、モータ3の駆動によるバルブ動作と、アクセルペダル53の操作によるバルブ動作とを独立させることにより、トラクション制御を実行することができる。なお、この場合、トラクション制御時において、TCスロットル制御ユニット30に入力させるスロットルバルブ60の開度信号としては、モータ・ポジション・センサ(MPS)68からの信号を用いる。
【0043】
ところで、以上の実施例では、TCスロットルバルブの開度、及び点火時期の制御によって、トラクション制御を実行しているが、これらに加えて、さらに燃料噴射気筒を制御して、トラクション制御を実行してもよい。この場合、燃料噴射制御系にとって、重度の異常は吸入空気量信号Qaの異常等で、軽度の異常は冷却水信号Twの異常やTCスロットル制御系の異常等になる。また、燃料噴射制御系にとって重度の異常の場合には、トラクション制御のために、いくつかの気筒への燃料噴射を中止していた状態から、すべての気筒への燃料噴射を実行するようにし、軽度の異常の場合には、燃料噴射を中止している複数の気筒に対して、一気筒ずつ順次燃料噴射を実行するようにする。
【0044】
また、以上の実施例は、点火プラグ9が設けられているガソリンエンジン50に対して、本発明を適用したものであるが、本発明を点火プラグのないディーゼルエンジンに適用してもよい。この場合、当然、点火時期を制御してトラクション制御することはできないので、TCスロットルバルブの制御と燃料噴射気筒の制御とにより、トラクション制御を実行することになる。
【0045】
【発明の効果】
本発明によれば、いずらかのエンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることに支障が生じた場合でも、支障が生じていない他のエンジントルク低下手段の影響によるエンジントルクは徐々に元のトルクに復帰するので、トラクション制御を乗員にとって安全に停止させることができる。従って、トラクション制御中に故障が起こっても、急激なエンジントルク増加によって駆動輪の空転が急に再開してしまうことはなく、車両のスピン等を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る一実施例のトラクション制御装置の回路図である。
【図2】本発明に係る一実施例の自動車の構成を示す説明図である。
【図3】本発明に係る一実施例のスロットルバルブ回りの構成を示す説明図である。
【図4】本発明に係る一実施例のトラクション制御中に異常が生じた場合のTCスロットル制御ユニットの動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る一実施例のトラクション制御中に異常が生じた場合のエンジン制御ユニットの動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明が適用されていないトラクション制御装置において、トラクション制御中に異常が生じた場合の車両挙動を示すグラフである。
【図7】本発明に係る一実施例のTCスロットル制御系にとって重度の異常が生じた場合の車両挙動を示すグラフである。
【図8】本発明に係る一実施例のエンジン制御系にとって重度の異常が生じた場合の車両の挙動を示すグラフである。
【図9】本発明に係る他の実施例のスロットルバルブ回りの構成を示す説明図である。
【図10】本発明に係る他の実施例のスロットルバルブ回りの構成を示す説明図である。
【符号の説明】
1…メインスロットルバルブ、3…TCスロットル駆動モータ、4…TCスロットルバルブ、6a…従動輪速センサ、6b…駆動輪速センサ、7a…従動輪、7b…駆動輪、8…燃料噴射バルブ、9…点火プラグ、10…エンジン制御ユニット、15…エンジン制御系異常判断部、16…軽度異常時点火目標リタード量演算部、17…(エンジン制御ユニットの)第1の切替器、18…(エンジン制御ユニットの)第2の切替器、20…トラクション制御ユニット、21…空転量検出部、22…TCスロットル目標開度演算部、23…TC点火目標リタード量演算部、30…TCスロットル制御ユニット、31…TCスロットル制御系異常判断部、32…軽度異常時スロットル目標開度演算部、33…(TCスロットル制御ユニットの)第1の切替器、34…(TCスロットル制御ユニットの)第2の切替器、45…空気量センサ、46…冷却水温センサ、47…クランク角センサ、50…エンジン、51…吸気管、53…アクセルペダル。
Claims (5)
- 駆動輪が空転すると、エンジンの出力トルクを低下させ、駆動輪の空転を抑制する自動車のトラクション制御装置において、
前記駆動輪の空転を把握する空転把握手段と、
前記空転把握手段により前記駆動輪の空転が把握されると、該駆動輪の空転量に応じて前記エンジンの出力トルクを低下させる複数のエンジントルク低下手段と、
複数の前記エンジントルク低下手段のうち、いずれかのエンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることに支障が生じた場合(以下、異常状態とする。)、いずれのエンジントルク低下手段が異常状態になったかを把握する異常把握手段と、
複数の前記エンジントルク低下手段で、エンジントルクを低下させている際中に、前記異常把握手段により、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、いずれかのエンジントルク低下手段が異常状態になったと把握されると、該エンジントルク低下手段によるエンジントルクの低下動作を直ちに中止させるトラクション制御即中止手段と、
複数の前記エンジントルク低下手段で、エンジントルクを低下させている際中に、前記異常把握手段により、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、いずれかのエンジントルク低下手段が異常状態になったと把握されると、該エンジントルク低下手段以外の異常状態でないエンジントルク低下手段によるエンジントルク低下量を徐々に少なくするトラクション制御徐々中止手段と、
を備えていることを特徴とする自動車のトラクション制御装置。 - 前記異常把握手段は、前記エンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることにある程度支障が生じているものの、該エンジントルク低減手段でエンジントルクを低減させる制御が可能な軽度異常と、前記エンジントルク低下手段でエンジントルクを低下させることに支障が生じ、且つ該エンジントルク低減手段でエンジントルクを低減させる制御が不可能な重度異常とを区別して、把握でき、
前記トラクション制御即中止手段は、前記異常把握手段により前記重度異常であると把握された前記エンジントルク低下手段によるエンジントルクの低下動作を直ちに中止させ、
前記トラクション制御徐々中止手段は、前記異常把握手段により前記軽度異常であると把握された前記エンジントルク低下手段によるエンジントルク低下手段によるエンジントルク低下量を徐々に少なくすることを特徴とする請求項1記載の自動車のトラクション制御装置。 - 複数の前記エンジントルク低下手段のうち、一のエンジントルク低下手段は、前記空転把握手段により前記空転が把握されたときに、前記エンジンに供給される空気流量を少なくする空気流量調節手段であることを特徴とする請求項1又は2記載の自動車のトラクション制御装置。
- 前記エンジンが複数の気筒を有し、複数の該気筒ごとに燃料を供給する燃料供給手段が設けられている場合、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、一のエンジントルク低下手段は、前記空転把握手段により前記空転が把握されたときに、複数の燃料供給手段のうち、いずれかによる燃料供給を中止させる燃料供給中止手段であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の自動車のトラクション制御装置。
- 前記エンジンに点火プラグが設けられている場合に、複数の前記エンジントルク低下手段のうち、一のエンジントルク低下手段は、前記空転把握手段により前記空転が把握されたときに、該点火プラグの点火時期を目的の時期よりも遅らせる点火リタード手段であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の自動車のトラクション制御装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP13895394A JP3573492B2 (ja) | 1994-06-21 | 1994-06-21 | 自動車のトラクション制御装置 |
Applications Claiming Priority (1)
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JP13895394A JP3573492B2 (ja) | 1994-06-21 | 1994-06-21 | 自動車のトラクション制御装置 |
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