JP3573273B2 - 電子放出素子、及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電界放出の原理に基づき電子を放出し、薄型表示装置等の構成部材として用いられる電子放出素子(電子源アレイ)、並びに、この電子放出素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電界放出型の電子源(電子放出素子)の研究、開発が盛んに行われている。この電子源を用いた薄型表示装置は自発光型であるために、液晶表示装置のようにバックライトを装着する必要がなく、原理的にCRT(Cathode Ray Tube)と同等の見やすさ、明るさが得られる。さらには、該電子源の微細性を活かした非常に高精細な表示装置を実現できる可能性がある。
【0003】
電界放出型の電子源としては、蒸着法で形成された高融点金属材料を用い、C. A. Spindtらにより開発された円錐形状の電子源(USP3,665,241)等が良く知られている。しかし、これを大型の表示装置等に用いるべく大面積の電子源アレイとする場合、その製造方法に起因する理由によって形状のバラツキが多くなり、電子源としての均一性や信頼性の点で問題が生じる。
【0004】
また、例えば、特開平5−211029号公報などには、陽極酸化膜の細孔中に電解析出により円柱状電極を形成する方法にて製造される電子放出素子(電子源)が開示されている。この方法では、複数の円柱状電極の配向方向を上記細孔の伸長方向に揃えることが可能となるが、形成される円柱状電極の特性(例えば、針状電極として重要視される、その先端形状やサイズなど)を制御することは容易ではない。また、形成可能な円柱状電極は、電解析出が容易な一般的な金属材料電極(例えばMo電極)のみに限定されると考えられる。
【0005】
一方、電界放出型の他の電子源として、低電界の印加で電子を放出する新規の電子放出材料を採用したものも研究もなされている。これら新規の電子放出材料には、種々の材料からなる超微粒子状物質、あるいは微細繊維状物質があり、中でも、例えば、炭素系の材料が盛んに研究されている。特に、遠藤らの解説(固体物理:Vol.12, No.1, 1977 : 株式会社アグネ技術センター発行)等に記載の、気相成長法によるナノメーターオーダーの炭素繊維、あるいは飯島らにより確認されたアーク放電法によるカーボンナノチューブ(Nature,354,56,1991) 等は、グラファイトを丸めた円筒形の物質であり、電子源用としても優れた特徴を有する材料として非常に期待されている。また、カーボンナノチューブからの電界放出に関しては、R. E. Smalley ら(Science,269,1550,1995) 、及び W. A. de Heerら(Science,270,1179,1995) の研究グルーブ等により報告されている。
【0006】
電子源用の材料としてカーボンナノチューブを用いた表示装置は、例えば特開平11−162383号公報に記載されている。この表示装置は、1)透光性を有する表示面と、2)表示面側に配された前面リブ間の領域に形成され、所定の電位が印加される蛍光体からなる発光部と、3)上記表示面に対向配置される電子放出側基板と、4)電子放出側基板に配された基板リブ間の領域に複数配置され、所定の電位が印加されるカーボンナノチューブからなる電子放出部(電子源)と、5)基板リブ上に形成された電子引き出し電極と、から構成されており、表示面と電子放出側基板とで囲まれた外囲器の内部は真空排気されている。そして、この表示装置の電子放出部と電子引き出し電極との間に電位を印加すると、電子放出部を構成しているカーボンナノチューブの先端に高電界が集中して電子が引き出される。引き出された電子は、さらに高電位が印加された発光部の蛍光体に加速した状態で衝突し、該蛍光体を発光させる。
【0007】
また、カーボンナノチューブからなる電子放出部の形成方法としては、カーボンナノチューブの集合体からなる針形状の柱状グラファイトを、支持体の所定領域に導電性接着剤で固定する方法、あるいは、柱状グラファイトのペーストを用い、支持体上に印刷によるパターン形成をする方法が開示されている。ここで用いられるカーボンナノチューブは、ヘリウムガス雰囲気下で一対の炭素電極間にアーク放電を起こし、陰極側の炭素電極先端に凝集した堆積物中に形成されたものであり、この堆積物内部の繊維状の組織を切り出したものが上記柱状グラファイトに相当する。
【0008】
しかしながら、カーホンナノチューブの集合体である上記柱状グラファイトを電子源用の材料として表示装置用の電子源アレイを構成する場合、画素サイズから考えて柱状グラファイトが数μmから数十μmの大きさである必要があり、その微小性のために切り出しや接着による固定配置等の取り扱いが容易ではない。また、柱状グラファイトのペーストを用いた印刷によるパターン形成では、カーボンナノチューブの方向を電子放出方向に揃えることが現状では困難であり、さらに、ペーストから多くのカーボンナノチューブの先端を有効な形で露出させることも容易ではなく、均一性の高い電子源アレイを得ることが困難となる。
【0009】
また、CVD法にてカーボンナノチューブを成長させる方法も公知であり、この方法を採用すれば、電子源アレイ基板の有する細孔中、または触媒で選択された場所にカーボンナノチューブを成長させることができるので、得られた電子源アレイにおけるカーボンナノチューブの配向性は良好となる。しかし、電子源アレイ基板毎にCVDプロセスを施す必要があり、大型の基板を用いる場合には基板全域でのカーボンナノチューブの配向均一性を得ることが容易ではない。さらに、大型基板用のCVD装置が必要である等の理由から、生産設備の複雑化や、コスト上昇を招来するという問題を有している。
【0010】
加えて、上記の方法では、CVD法により成長したカーボンナノチューブがそのまま針状電極として使用されるため、上記電子源アレイの電子放出特性がCVD工程に依存するという課題も有している。カーボンナノチューブ等の微細繊維状物質は、それを単独で作製する場合には、高温処理工程など、その物性をさらに良好とするために必要な処理が施される。例えばカーボンナノチューブを製造する場合、黒鉛化処理が2800℃程度の高温で行われ、この処理を通じて、より優れた電子放出特性をもつ、電子源材料として良好なカーボンナノチューブ(微細繊維状物質)が形成される。しかし、針状電極として使用される微細繊維状物質を、上記CVD法などにより電子源アレイ基板上に直接形成する場合、例えば、別途、安価に大量生産された、電子放出特性に優れる微細繊維状物質(カーボンナノチューブなど)と同等の電子放出特性を得ることは容易ではない。
【0011】
上述の手法を含め、カーボンナノチューブなどの微細繊維状物質を用いた電子源アレイに関しては、その構造や製造方法ともに種々の提案がなされているが、現状ではそれぞれ一長一短がある。そのため、例えば、1)アーク放電法、熱CVD法、等のプラントで大量生産されるカーボンナノチューブなどの微細繊維状物質を効率的に利用すること、2)良好な電子放出特性を得るために、なるべく多くの微細繊維状物質を電子放出方向に配列させること、さらには、3)製造工程が簡便でコストダウンが容易なこと、のすべてを満足する電子源アレイ構造、及びその製造方法の開発が期待されている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
例えば、特開2000−141056号公報には、あらかじめ形成されたカーボンナノチューブを分散媒(バインダを分散させた分散媒など)中に混合し、続いて、この分散媒を基板上に供してカーボンナノチューブを含んだ液膜を形成し、更に、この基板に磁界あるいは電界を印加してカーボンナノチューブを力線に沿って整列させることで、配向方向の揃ったカーボンナノチューブの膜を形成する方法が提案されている。
【0013】
しかし、この方法では、整列したカーボンナノチューブを配向方向に支持する支持構造が基板側に設けられておらず、磁界あるいは電界の印加を中止すると、後工程で基板を加熱し、バインダ等にて固着させるまでに該カーボンナノチューブの整列が乱れてしまう虞がある。更に、整列せずに基板上に残存したカーボンナノチューブまでも固着してしまううえ、整列していないカーボンナノチューブを除去し、再度同じプロセスを行うことは不可能で、リペアができないという課題を有している。
【0014】
また、特開2000−86216号公報には、細孔を有する陽極酸化膜(多孔質シリコン層)を、カーボンナノチューブを分散させた分散媒中に浸漬し、該陽極酸化膜を超音波で振動させることにより、各細孔中にカーボンナノチューブが一方向に配列して挿入されたエミッタアレイ(電子源アレイ)を形成する方法が開示されている。しかしながら、超音波振動の付与だけではカーボンナノチューブの向きはランダムになるので、それを配向させ、細孔に挿入することは困難である。また、陽極酸化膜に常時振動が付与されているので、細孔に一旦挿入されたカーボンナノチューブが抜けてしまう虞が高く、高密度のエミッタアレイを形成することはできないという課題を有している。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、配列方向が揃った針状の電極部材をエミッタ電極として有し、電子放出特性の均一性に優れた電界放出型の電子放出素子、並びにその製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の電子放出素子は、上記の課題を解決するために、伸長方向が揃った複数の細孔を表面に有し、さらに、この細孔の底部側に配された導電電極部(カソード電極となる)を含んでなる支持体と、磁界の印加により上記細孔の伸長方向に沿うように配向され、該細孔内に、上記導電電極部と電気的に接続された状態で挿入された、針状の電極部材とを含んでなり、上記細孔内に、導電電極部の構成材料よりも低融点な導電性材料が配されて、上記針状の電極部材が、上記導電性材料を溶融後、固化することで細孔内に固定されていることを特徴としている。
【0017】
上記の構成によれば、エミッタ電極となる上記針状の電極部材が一方向に揃って(つまり、細孔の伸長方向に沿って)配列されてなるので、電子放出特性の均一性に優れた電界放出型の電子放出素子を提供することが可能となる。
【0018】
また、上記支持体の製造工程とは別工程で、上記針状の電極部材が製造されるので、これを安価に大量生産することが可能であり、また、支持体の特性(耐熱性等)に制限されることなく最良の条件で製造可能となる。加えて、磁界の印加により細孔内に針状の電極部材を挿入するため、電子放出素子の作製工程で真空プロセスを用いる必要がなくなり、生産性にも優れる。
【0019】
また、上記の構成によれば、上記導電性材料によって、針状の電極部材が細孔内に強固に固定されるので、電子放出素子の信頼性がより向上する。なお、このような低融点の導電性材料としては、電解メッキ法により形成した低融点金属材料層が、より確実に細孔内に形成可能である点から特に好適である。
【0020】
本発明の電子放出素子はまた、上記の構成において、上記細孔の底部に、上記針状の電極部材を固定するための導電性ペースト層をさらに備えてなり、上記導電電極部と針状の電極部材とが、上記導電性ペースト層を介して電気的に接続されている構成であってもよい。
【0021】
上記の導電性ペースト層とは、フリットガラスなどのバインダ、溶剤、及び添加剤の混合物(接着性混合物)中に、各種金属微粒子などの導電性粒子を分散してなる導電性ペーストを層状としたものであり、導電性ペースト層の硬化により針状の電極部材が細孔内に強固に固定されるので、電子放出素子の信頼性がより向上する。
【0022】
本発明の電子放出素子はさらに、上記いずれかの構成において、上記細孔の底部と導電電極部との間に、導電電極部より電気抵抗率が高い電気的な緩衝層をさらに備えてなり、上記導電電極部と針状の電極部材とが、上記電気的な緩衝層を介して電気的に接続されている構成であってもよい。
【0023】
上記の構成によれば、細孔内に配列された各々の針状の電極部材は、上記電気的な緩衝層を介して導電電極部(カソード電極)に並列に接続される。そのため、針状の電極部材からの電子放出時において、電気的な緩衝層における電圧降下により放出電流が緩和され電子放出特性がより穏やかなものとなる。よって、例えば、大面積の電子源アレイ(電子放出素子の一例)を形成した場合にも電子放出を均一化、安定化させることができる。
【0024】
また、均一な大きさかつ規則性正しい細孔をより容易に形成可能であるという観点から、上記細孔が、アルミニウムを陽極酸化してなるアルミナの細孔であることがより好ましく、さらに、電子放出特性により優れているという観点から、上記針状の電極部材がカーボンナノチューブであることがより好ましい。
【0025】
本発明の電子放出素子の製造方法は、上記の課題を解決するために、磁界の印加により所定方向に配向し、誘引される性質を有する針状の電極部材を分散媒中に分散し、針状の電極部材の分散液を調製する工程と、次いで、上記針状の電極部材を挿入可能な大きさで、かつ伸長方向が揃った複数の細孔を表面に有し、さらに、この細孔の底部側に配された導電電極部を含んでなり、該細孔内の底部域には導電電極部の構成材料よりも低融点な低融点導電性材料層が形成された支持体を、上記分散液中に浸漬し、上記支持体を貫き、針状の電極部材に達する磁界を印加して、該針状の電極部材を細孔の伸長方向に沿うように配向させ、該細孔内に、上記導電電極部と電気的に接続された状態に挿入する工程と、上記細孔内の低融点導電性材料層を加熱により一端融解し、続いて冷却固化することで、針状の電極部材を上記低融点導電性材料層により固定する工程とを含んでなることを特徴としている。
【0026】
上記の方法によれば、例えば、マグネットなどを使用した磁界の印加により、エミッタ電極となる上記針状の電極部材が一方向(つまり、細孔の伸長方向)に配向され、細孔側に誘引されるので、該針状の電極部材を細孔内に容易に挿入することができる。つまり、針状の電極部材が一方向(細孔の伸長方向)に沿って配列されてなる、電子放出特性の均一性に優れた電界放出型の電子放出素子を容易に製造可能となる。
【0027】
本発明の電子放出素子の製造方法は、上記の方法において、さらに、上記支持体として、上記細孔の底部側にフェライト等の磁性材料からなる層を備えたものを使用し、上記支持体を分散液に浸漬するに先立ち、上記磁性材料からなる層を磁化しておき、この層から上記磁界を発生させる方法であってもよい。
【0028】
上記の方法によれば、上記支持体の一構成要素である磁性材料からなる層を利用して、針状の電極部材の配向・誘引が可能となるので、マグネットなどにより磁界を印加する必要がなくなる。また、磁性材料の一例であるフェライトは、アルミニウムや銅などの一般的な電極構成材料と比較して電気抵抗率が明らかに高く、電子放出素子の使用時には上記説明の電気的な緩衝層としても機能する。
【0029】
【発明の実施の形態】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施の形態について図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、言うまでもないが、本願発明は、特に本実施の形態に記載の範囲内に限定されるものではない。
【0030】
本実施の形態に係る電界放出型の電子源アレイ(電子放出素子)14は、アノード電極基板(図示せず)と対向配置して使用されるものであって、図1に示すように、金属材料や半導体材料などの導電性材料からなるカソード電極層(カソード電極:導電電極部)11aと、カソード電極層11aの一面側全体に形成されてなる表面膜11bと、該表面膜11bの有する複数の細孔12内に先端部が突出するように挿入され、針状のエミッタ電極として機能する複数の微細繊維状物質(針状の電極部材)13と、から構成されている。なお、本実施の形態において、「表面に細孔を有する支持体(針状の電極部材の担持体)」とは、カソード電極層11aとその表面膜11bとの重層構造体11を指すものとする。
【0031】
上記の表面膜11bは絶縁性材料(例えば、非導電性の金属酸化膜)からなり、電子源アレイ14の使用時にアノード電極(図示せず)とカソード電極層11aとを電気的に隔離する絶縁膜として機能させてもよい。また、上記の細孔12はそれぞれ、表面膜11bの上面側(重層構造体の表面側)から下面側(細孔の底部側に相当)にかけて略垂直に貫通し、かつ、微細繊維状物質13を挿入可能な大きさに形成されている。つまり、電子源アレイ14では、電子を放出するための微細繊維状物質13はそれぞれ、その長手方向が細孔12の伸長方向に沿うように挿入されており、また、細孔12の伸長方向は略同一に揃っていることから、同一方向に配列(配向)したエミッタ電極を備えることとなる。よって、電子放出効率のより優れた電子源アレイ14を提供可能となる。
【0032】
上記の微細繊維状物質13としては、エミッタ電極として使用可能な金属材料や半導体材料からなる繊維状物質(ナノチューブも含む)、並びに、カーボンナノチューブなどの一方向に伸長した針状の電極構成部材(電子放出部材)が挙げられ、特に、化学的に安定であり、1.0V/μm程度の低電界の印加でも優れた電子放出効率を確保可能という観点から、カーボンナノチューブがより好適である。また、これら、微細繊維状物質13の先端形状や寸法なども特に限定されるものではなく、エミッタ電極として最適な特性を有するように設計して製造すればよい。
【0033】
さらに、以下に説明するように、これら微細繊維状物質13は、磁界を利用して細孔12内に誘導されるので、磁界の印加により所定方向に配向し、かつ、所定方向に移動可能である(すなわち誘引される)という特性を有する必要がある。なお、カソード電極層11aや表面膜11bの構成材料は、順に、通常の電極構成材料や、細孔12を(例えば各種リソグラフィー法により)所望のパターンで形成可能な絶縁材料を使用することができ、詳細な説明は省略する。
【0034】
以下、電子源アレイ14の製造方法の一例に関し、図面に基づいて説明を行う。図2(a)は、カソード電極層となる金属基板22の表面を陽極酸化して、表面膜としての陽極酸化膜25を製造する工程の一例を示すものであり、図2(b)は、陽極酸化処理後の金属基板22をその一面に垂直な平面で切断した部分断面形状を拡大して示すものである。なお、これらの図は陽極酸化膜の製造工程の概要を表すものであり、実際に使用する際には、生産性等を考慮して適切な構造の装置を構築すればよい。
【0035】
陽極酸化膜25(表面膜11b)を製造する際には、従来公知の方法を採用可能である。例えば、陽極酸化用容器20内を化成液21で満たし、ここに、金属基板22と陽極酸化用の対向電極23とを対向配置し、続いて、金属基板22が陽極で、かつ対向電極23が陰極となるよう電源24から電圧を印加すれば、金属基板22の表面に陽極酸化膜25と細孔12(陽極酸化膜25の間隙)とが形成される。なお、金属基板22の非酸化部は、カソード電極層11aとなる。
【0036】
形成される陽極酸化膜25の厚さは、エミッタ電極となる微細繊維状物質13(図1参照)の大きさ(長さ)によって選定すればよく、該微細繊維状物質13として数〜10μm長さのカーボンナノチューブを用いる場合には、陽極酸化膜25の厚さをおおよそ2〜5μm程度を目安に設定することが好ましい。これにより、細孔12内に配された微細繊維状物質13の先端部を確実に陽極酸化膜25外に突出させることができ、エミッタ電極としての機能を充分に発揮可能となる。
【0037】
なお、化成液21の種類は、陽極酸化される金属基板22の組成に応じて適宜選択すればよく、例えば、該金属基板22としてアルミニウム基板を使用する場合、化成液21として10〜20重量(質量)%の硫酸が一般に使用される。また、その他の化成液としては、シュウ酸、クロム酸、の水溶液等を用いることもできる。そして、浴温を0〜10℃程度に維持し、印加電圧を10〜20V程度として陽極酸化を行う。陽極酸化の工程で、アルミニウム基板(金属基板22)の非酸化部と陽極酸化アルミナ(陽極酸化膜25)との界面にできるバリア層は、金属基板22と対向電極23とを電源24に接続した状態のまま化成液21中で溶解、または電源24から逆バイアスをかけることで除去し、後工程で細孔12内に挿入されるカーボンナノチューブ等の微細繊維状物質13とカソード電極層11aとの間の導通がとれるようにする。
【0038】
このように、アルミニウム基板に陽極酸化処理を行うことにより、規則正しいアルミナのセル(陽極酸化膜25に相当:通常は6角形で蜂の巣構造となる)ができ、その中央部に細孔12が形成される。細孔12の水平断面形状、直径(細孔12が略円柱状の場合)、深さ、ピッチ、等の形状制御は、印加電圧値、電圧印加時間、等の陽極酸化条件により設定でき、規則性、再現性が高い。なお、均一な細孔12の形成が容易であり、かつ経済的であるという観点から、陽極酸化処理が施される基板はアルミニウム基板であることが特に好ましいが、特に限定されるものではない。
【0039】
また、エミッタ電極として機能する微細繊維状物質13(図1参照)の製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知のエミッタ電極の製造方法に従い、金属材料、半導体材料、炭素系材料などを一方向に伸長した針状の電極構成部材のかたちに成形すればよい。ここでは、微細繊維状物質13として、カーボンナノチューブを用いる場合を例に挙げて説明する。
【0040】
カーボンナノチューブを製造する方法は特に限定されるものではないが、一例として、メタン、アセチレンなどの炭化水素のガスを、水素、アルゴン、または窒素などから選択される不活性キャリアガスに同伴させて反応容器内に導入し、ニッケル、コバルト、鉄、などの金属単体、または、これら金属を含んでなる合金であるインバーやNi−Cr系のステンレス、などのような触媒を使用して、プラズマCVD法などで基板(図示せず)上に針状構造として生成可能である。ここでは、ブラズマCVD装置の反応容器内に、メタンを20sccm(3.3775×10-2 Pa・m3 ・s-1)、水素を80sccm(1.351×10-1 Pa・m3 ・s-1)の流量で供給し、反応容器内の圧力を2Torr(約266Pa)に維持し、印加電圧160V、処理時間30分の条件の下、触媒にニッケルと鉄の合金であるインバーを使用して、基板上に直線性の高いカーボンナノチューブを生成した。
【0041】
続いて、生成した上記カーボンナノチューブ(微細繊維状物質13)を基板上から回収し、カーボンナノチューブの支持体として機能する、陽極酸化膜25を備えた金属基板22(重層構造体11)の細孔12内に挿入する工程について図3、及び図4(a)に基づき説明を行う。この工程は、1)磁界の印加により所定方向に配向され、移動される特性を有する微細繊維状物質13(カーボンナノチューブ32)を、これを挿入可能な大きさの細孔12を有する支持体(重層構造体11)の周囲に供する第一ステップと、2)細孔12を有する支持体(重層構造体11)を貫き、上記微細繊維状物質13に達する磁力線を発生するように磁界を印加して、該微細繊維状物質13を細孔内に移動させ(誘引し)、挿入する第二ステップとを含んでなる。なお、図3、及び図4(a)は、微細繊維状物質13の挿入・固定工程の概要を表すものであり、実際に使用する際には、生産性等を考慮して適切な構造の装置を構築すればよい。
【0042】
一例として、図3に示すように、カーボンナノチューブ32が生成された基板(図示せず)を、ビーカー等の容器30に入れたイソプロピルアルコール、アセトン、または適当な添加剤等を加えた純水等の分散媒31中に浸漬し、続いて超音波振動等を付与することでカーボンナノチューブ32(微細繊維状物質13に相当)を分散媒31中に分散させて分散液を調製する。続いて、図3、及び図4(a)に示すように、カーボンナノチューブ32が分散されてなる分散液中に、陽極酸化膜25の形成面の背向面側にマグネット(磁石:磁界印加手段)33が配されてなる金属基板22(非酸化部がカソード電極層11aとなる)を浸漬し、マグネット33により、金属基板22、陽極酸化膜25を順に略垂直(すなわち細孔12の伸長方向に沿う方向)に貫き、さらにカーボンナノチューブ32に達する磁界の磁力線を印加する。
【0043】
カーボンナノチューブ32は、チューブ軸(グラファイトのC軸と垂直方向)に対して垂直方向の磁化率と平行方向の磁化率とが異方性を示し、これによりチューブ軸が磁界の磁力線に沿って配向する性質を有する。つまり、カーボンナノチューブ32の長手方向が磁力線と平行になる。また、ニッケル、コバルト、鉄、などの金属単体、または、これら金属を含んでなる合金であるインバーやNi−Cr系のステンレス、などのような触媒を使用して、プラズマCVD法などで生成したカーボンナノチューブ32はチューブ先端に触媒(磁性金属触媒)が残存し、この触媒がマグネット33の磁界により引きつけられる。
【0044】
よって、カーボンナノチューブ32はチューブ先端の触媒を先頭にして金属基板に向かって移動する。また、該陽極酸化膜25に近づいたカーボンナノチューブは、重層構造体(支持体)を略垂直に貫く磁界の影響で、細孔12の伸長方向に沿って配向されるため、スムーズに金属基板の陽極酸化膜25が有する細孔12内に挿入される。
【0045】
これにより、カソード電極層11a(金属基板22の非酸化部)表面の細孔12の伸長方向に従ってカーボンナノチューブ32が配列される。つまり、一つの細孔12内に支持・固定された一本のカーボンナノチューブ32と、このカーボンナノチューブ32に電気的に接続されたカソード電極層11aとで電子放出部の一単位(ユニット)が構成され、このユニット複数をアレイ状に形成することで、金属基板の面内方向に垂直に方向の揃ったカーボンナノチューブ32を備えた電界放出型の電子源アレイ14(図1参照)が構成される。更にカーボンナノチューブ32は、チューブ先端に残存した触媒から細孔12内に挿入されているので、カソード電極層11aとカーボンナノチューブ32との電気的なコンタクトは上記触媒を介して良好に確保される。
【0046】
尚、カーボンナノチューブ32は重層構造体11表面の細孔12に挿入されて支持・固定されているので、マグネット33を取り除き、磁界の印加を中止しても、その配列が崩れることはない。特に、上記細孔12の空洞部とカーボンナノチューブ32とが互いに嵌合する形状・大きさである場合、該カーボンナノチューブ32の配列状態が崩れることは全くない。また、多数ある細孔12の一部には、カーボンナノチューブ(微細繊維状物質13)32が挿入されず、電子放出部として機能しないところもあるが、非常に多くの細孔12が高密度で形成されているため、電子源アレイとしての機能には全く支障をきたさない。
【0047】
さらに、細孔12内に微細繊維状物質13をより強固に固定し、その配向方向を維持するため、例えば、微細繊維状物質13の挿入工程以降に、金属基板22の非酸化部(カソード電極層11a)をその融点以上に昇温し、続いて冷却する工程を追加してもよい。例えば、カソード電極層11aがアルミニウムで形成されており、陽極酸化膜25がアルミナ膜であり、微細繊維状物質13がカーボンナノチューブである場合には、カーボンナノチューブを細孔12に挿入後、アルミニウムが融解する温度付近まで加熱し、続いて冷却することにより、カーボンナノチユーブがカソード電極層11aにより強固に固定され得る。
【0048】
また、図4(b)に示すように、アルミニウム基板を陽極酸化後、アルミナ膜(陽極酸化膜25)の有する細孔12内に微細繊維状物質13を挿入する工程までの間に、上記アルミナ膜をマスクとし、細孔12底部のアルミニウムを微小量エッチングする工程を追加してもよい。該工程を追加すれば、磁界の印加により微細繊維状物質13を細孔12に挿入した場合の、微細繊維状物質13とカソード電極(カソード電極層11a)であるアルミニウムとの接触面積が拡大する。よって、微細繊維状物質13の固定の点でも、微細繊維状物質13とカソード電極層11aとの電気的導通の点でも、さらに良好な結果が得られる。
【0049】
なお、図3では、水平方向に沿って配された重層構造体11に対し、マグネット33をその下方側に配置し、カーボンナノチューブ32を下方に引きつけているが、特にこの方法に限定されるものではない。例えば、重層構造体11をその陽極酸化膜25が下面側となるよう水平配置し、マグネット33を重層構造体11の上方側に配置して、カーボンナノチューブ32を上方に引きつけてもよい。このとき、重層構造体11とマグネット33とは離間配置されていてもよい。さらに、場合によっては、重層構造体11を鉛直配置するなど、水平方向以外の方向に沿って配置して磁界の印加を行ってもよい。
【0050】
また、ここでは、マグネット33として、異方性フェライト磁石を使用したが、カーボンナノチューブ32等の微細繊維状物質が磁界の影響により移動可能であれば、マグネット33の種類ならびに磁束密度の大きさなどは特に限定されるものではない。さらに、分散媒31としては、上記例示のうち、イソプロピルアルコールやアセトンなどのいわゆる有機溶媒を用いることが望ましいが、この他にも製造設備上の扱いやすさ等を考慮して、添加剤等を加えた純水を用いることも可能である。
【0051】
このように、上記方法を採用すれば、別途、安価に大量生産されたカーボンナノチューブ等の微細繊維状物質をエミッタ電極とする電子源アレイが作製可能であり、加えて、陽極酸化膜等に形成された細孔内に、カーボンナノチューブ等の微細繊維状物質を一方向に揃えて配列させることが可能である。また、大型の表示装置に用いるために大面積の電子源アレイを形成する場合にも、微細繊維状物質が電子放出方向に配列されているために電子放出特性の均一性が高く、加えて、磁界の印加により細孔内に微細繊維状物質を挿入するため、電子源アレイ作製工程で真空プロセスを用いる必要がなく、生産性に優れる。
【0052】
さらに、エミッタ電極となるカーボンナノチューブ等の微細繊維状物質と、これを支持する電子源アレイの基体部分とは別工程で製造されるため、上記電子源アレイの基体部分の特性(耐熱性)などに制限されることなく、微細繊維状物質を最良の条件で製造可能となる。例えば、カーボンナノチューブの場合、プラズマCVDによる生成では基板上の温度を約600℃、その黒鉛化処理を2800℃程度の高温で行うことで、エミッタ電極として良質なカーボンナノチューブを形成することができる。これにより、電子源アレイ作製時には、上記微細繊維状物質の特性を改善する工程をさらに追加する必要がなくなり、例えば、この工程の温度をより低温化させることができて、電子源アレイを構成する基板等を耐熱性の低いより安価な材料で構成することが可能となる。
【0053】
図5に部分断面として示すように、本発明の電界放出型の電子源アレイ(電子放出素子)14は、カソード電極層11aの上面側に配された表面膜11bに細孔が形成されており、各細孔内にカーボンナノチューブ等の微細繊維状物質13を挿入し、これをカソード電極層11aや表面膜11bの面内方向と垂直方向に配列してなるものである。エミッタ電極となる微細繊維状物質13から実際に電子を放出させる場合には、例えば、真空環境下で、アノード電極層(アノード電極)44を、所定の間隔を置いて電子源アレイ(カソード電極層11a)14に対向配置し、両電極層間に所定の電圧を印加すればよい。例えば、微細繊維状物質13としてカーボンナノチューブを採用した場合には、真空中で、カソード電極層11aとアノード電極層44とを約1mmの距離を離して対向配置し、両電極膜間に1kV程度の電圧を印加して、平行平板換算で1V/μm程度の電界を発生させると、カーボンナノチューブの先端から電子放出を開始する。
【0054】
また、上記したように、カソード電極層(金属基板)11aとしてアルミニウム板を用い、表面膜(陽極酸化膜)11bとしてアルミニウム板の表面を陽極酸化したアルミナ膜を用いると、陽極酸化膜に形成される細孔の径や細孔の形成密度の均一性、並びに、細孔形成パターンの再現性が非常に高い。よって、そのような細孔内にカーボンナノチューブ等の微細繊維状物質13が挿入され、配列されることによって、より均一性の高い電界放出型の電子源アレイ14を構成することができる。さらに、陽極酸化の条件を変更することにより、細孔の形成密度を変えることができるので、電子源アレイ14からの電子放出密度(単位面積当たりの電子放出量)を容易に調整可能となる。
【0055】
なお、本発明の電子源アレイ14の用途は特に限定されるものではなく、FED(Field Emission Display) などの表示用デバイスの光源、各種陰極線管、電子銃、などの電界放出型のエミッタ素子として使用可能である。
【0056】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施の形態について図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、上記実施の形態1に記載のものと同一の構成、機能を有する部材については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0057】
本実施の形態にかかる電子源アレイは、外観的には図1に示す電子源アレイ14とほぼ同一であるが、微細繊維状物質をより確実に固定するための低融点金属材料層(低融点の導電性材料層:接着層)が、細孔内の底部域にさらに形成されている。この電子源アレイ14aの詳細断面構造は、図6(a)に示すように、図1に示す電子源アレイ14の表面膜11bに形成された細孔12の底部域(すなわちカソード電極層11a上)に、導電性を有する低融点金属材料層52aがさらに形成されており、ここに挿入された微細繊維状物質13は該低融点金属材料層52aを介してカソード電極層11aに電気的に接続されている。
【0058】
低融点金属材料層52aが形成された細孔12内に、カーボンナノチューブなどの微細繊維状物質13を一方向に配向させて挿入する際には、上記実施の形態1で述べた磁界を印加する方法が好適に使用されるが、この電子源アレイ14aを作製する際には、微細繊維状物質13が挿入された細孔12内の低融点金属材料層52aを加熱により一旦溶融し、続いて冷却固化することで、該微細繊維状物質13を低融点金属材料により固定する工程をさらに含んでなる。
【0059】
したがって、上記の低融点金属材料層52aをなす「低融点金属材料」とは、電子源アレイ14aの必須構成要素であるカソード電極層11aの構成材料よりも低融点の金属材料である必要があり、例えば、カソード電極層11aの構成材料としてアルミニウム(融点660.4℃)を使用する場合には、インジウム、亜鉛、錫等を用いればよい(融点は順に、約156.6℃、419.6℃、232℃)。低融点金属材料は、大気中ではその融点以上の温度で融解可能であり、環境条件によってはそれぞれが融解可能な所定の温度にまで加熱すれば良い。
【0060】
このように電子源アレイ14aでは、低融点金属材料で微細繊維状物質(カーボンナノチューブなど)13を固定しているので、より良好にその配向方向を維持可能となるとともに、カソード電極層11aとのコンタクトもより良好となる。加えて、細孔12内に挿入されずに表面膜11b上に付着している微細繊維状物質13が仮に存在しても、これのみを超音波振動の付与等で容易に除去可能となる。
【0061】
なお、電子源アレイは一般に、カソード電極層以外に、該カソード電極層の支持基板や、アノード電極層との絶縁膜などを含んで構成されるので、上記の低融点金属材料は、カソード電極層の構成材料のみならず、上記支持基板の構成材料や、絶縁膜の構成材料等の他の構成要素に比較しても低融点であることがさらに好ましい。
【0062】
図6(b)は、表面膜11bに形成された細孔12内に、上記低融点金属材料層52aを形成する工程の一例を示すものである。なお、該図はこの工程の概要を表すものであり、実際に使用する際には、生産性等を考慮して適切な構造の装置を構築すればよい。
【0063】
上記の低融点金属材料層52aは、例えば、一般的な電解メッキ法により容易に形成可能である。より具体的には、電解メッキ用容器50内の電解液51中に、細孔が形成された表面膜(陽極酸化膜)11bを備えた金属基板(その非酸化部がカソード電極層11aとなる)22と、低融点金属材料を含んでなる電解メッキ用の対向電極52とを、上記表面膜11bが電解メッキ用の対向電極52と対向するように配置(浸漬)し、さらに、金属基板22側が陰極で、対向電極52側が陽極となるように電源24から電圧を印加する。上記対向電極52と対向する側の金属基板22の表面は、細孔の存在領域以外は、絶縁体である表面膜11bにて保護されているので、図6(c)の部分断面図に示すように、細孔12内のみに低融点金属材料層(金属メッキ層)52aを形成することができる。なお、ここでは、電解液51として25℃に維持された添加剤入りの硫酸錫メッキ液を使用し、上記金属基板22側を陰極、純錫板(対向電極52)を陽極として、陰極電流密度を2A/dm2 になるように電圧を印加して、細孔12の底部域に錫の層(低融点金属材料層52a)を形成した。
【0064】
低融点金属材料層52aの厚さは、電子放出部をなす微細繊維状物質13の大きさ(長さ)、あるいは細孔12の深さ等によって選定すればよい。例えば、微細繊維状物質13として数μm〜10μm程度の長さのカーボンナノチューブを用いる場合には、低融点金属材料層52aの厚さをおおよそ数百nm程度を目安に設定することがより好ましい。
【0065】
なお、上記の低融点金属材料層52aは、電解メッキ法以外にも、無電解メッキ法、電着法、等の方法で形成してもよく、また、陽極酸化膜25上に低融点金属材料をコートし、続いて融解することにより、該低融点金属材料を細孔12内に注入して形成してもよい。
【0066】
また、低融点金属材料層52aに代えて、電子源アレイの使用上必要な所定の導電性を有し、かつ低融点な導電性材料からなる層を「低融点の導電性材料層」とすることも可能である。なお、ここでいう低融点とは、上記のごとくカソード電極層11aの構成材料よりも低融点であることを指す。このような導電性材料層の一例としては、以下の実施の形態4で示すような、電気的な緩衝層として機能する高抵抗層が挙げられ、ここでは詳細な説明を省略する(図9参照)。なお、低融点の導電性材料層を形成する材料は、細孔12に挿入されるカーボンナノチューブ等の微細繊維状物質13に対してぬれ性がよいものを選定することがより好ましい。
【0067】
〔実施の形態3〕
本発明のさらに他の実施の形態について図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、上記実施の形態1・2に記載のものと同一の構成、機能を有する部材については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0068】
図7にその部分断面形状を示すように、この電子源アレイ14bは、支持基板60上に、カソード電極層11aをなす金属膜(金属薄膜)61と、この金属膜61の表面のみを陽極酸化してなる陽極酸化膜62(表面膜11bに相当)とがこの順に形成されてなる。そして、支持基板60、金属膜61、並びに陽極酸化膜62からなる重層構造体が「表面に細孔を有する支持体」を構成している。なお、形成方法は異なるものの、上記の金属膜61は実施の形態1で説明した金属基板22に、また、陽極酸化膜62は陽極酸化膜25に機能的に相同な構成であり、その詳細な説明は省略する。また、この電子源アレイ14bの電子放出の開始条件なども、上記実施の形態で説明した通りであり、説明を省略する。
【0069】
カソード電極層11aが形成される上記支持基板60の構成材料は、電子源アレイ14bを用いて表示装置等を構成する場合の真空封止方法、その他製造工程上の耐熱条件等を考慮して選定すればよく、例えば、ガラス基板等が好適に使用される。また、平板状の支持基板60の一面上に金属膜61を形成する方法は特に限定されるものではないが、例えば、電極材料として適当な金属材料をスパッタ法等を採用して均一な膜厚で成膜すればよい。
【0070】
例えば、スパッタ等で成膜したアルミニウム膜を金属膜61として用い、上記実施の形態1にも記載の方法(図2(a)参照)で、この金属膜61の支持基板60と背向する側の一面を陽極酸化して得たアルミナ膜を陽極酸化膜62として用いると、該陽極酸化膜62に形成される細孔(図示せず)の径や細孔の形成密度の均一性、並びに、細孔形成パターンの再現性が非常に高くなることは、実施の形態1で述べた通りである。なお、陽極酸化膜62に代えて、適当な絶縁性材料からなる絶縁膜を表面膜11bとして形成することもできる。
【0071】
図示しない細孔内には、上記実施の形態2の場合と同様に低融点金属材料層(図6(a)参照)が形成されていてもよい。この構成により、微細繊維状物質13とカソード電極層11aとのコンタクトがさらに良好となり、加えて、不所望な微細繊維状物質13を超音波振動の付与などで容易に除去可能となることなどは既に記載した通りである。また、金属膜61は支持基板60の一面上に形成されているので、各種リソグラフィー法を採用して所望の形状に容易にパターニングすることができる。例えば、電子源アレイ14bを表示装置に使用する場合には、マトリクス状の電極構造を形成するために、陽極酸化処理前の金属膜61を複数のライン状にパターニングする等、目的に合せて電極形状を決定すればよい。そして、パターニング後の金属膜61に陽極酸化処理を施すことで、所望のパターンを有するカソード電極層11aや陽極酸化膜62を形成可能となる。
【0072】
図8にその部分断面を示す電子源アレイ14cは、図7に示す電子源アレイ14bの一変形例であって、金属膜61と支持基板60との間に、さらにカソード電極層11aが挿入されている。そして、支持基板60上に、カソード電極層11a、金属膜61、並びに陽極酸化膜62がこの順に形成されてなる重層構造体が「表面に細孔を有する支持体」を構成している。
【0073】
平板状の支持基板60の一面上にカソード電極層11aを形成する方法は特に限定されるものではないが、例えば、電極材料として適当な金属材料をスパッタ法等を採用して均一な膜厚で成膜すればよい。また、金属膜61には、陽極酸化によりその表面に細孔を有する陽極酸化膜62が形成可能なアルミニウム膜などが使用され、スパッタ法などによりカソード電極層11a上に積層形成される。なお、金属膜61は図示しない電源に直接接続されておらずカソード電極を構成するものではなく、微細繊維状物質13は金属膜61を介してカソード電極層11aに電気的に接続されている。
【0074】
カソード電極層11aと金属膜61とは、異なる金属材料で形成することができる。例えば、カソード電極層11aの構成材料には銅などの電気抵抗の比較的低い電極材料を用いるか、あるいは複数種の金属層を積層した電極構造としてもよい。また、カソード電極層11aや陽極酸化処理前の金属膜61は支持基板60上に形成されているので、目的に合わせて所望の形状にパターニングを施すことが容易である。例えば、電子源アレイ14cを表示装置に使用する場合、マトリクス状の電極構造を形成するために、カソード電極層11aや陽極酸化処理前の金属膜61を複数のライン状にパターニングする等すればよい。
【0075】
〔実施の形態4〕
本発明のさらに他の実施の形態について図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、上記実施の形態1〜3に記載のものと同一の構成、機能を有する部材については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0076】
本実施の形態にかかる電子源アレイは、図9にその部分断面を示すように、電子源アレイ14c(図8参照)において、金属膜61に代え高抵抗層81を設けた構成である。つまり、この電子源アレイ14dでは、支持基板60の一面上にカソード電極層11a、高抵抗層81をこの順に積層して形成し、さらに高抵抗層81上に積層されたアルミニウム膜などの金属膜を完全に陽極酸化してなる陽極酸化膜62(表面膜11bに相当)が形成されている。そして、支持基板60上に、カソード電極層11a、高抵抗層81、並びに陽極酸化膜62がこの順に形成されてなる重層構造体が「表面に細孔を有する支持体」を構成している。
【0077】
上記の陽極酸化膜62は、その表面側から高抵抗層81側に貫通する、略垂直に伸長方向の揃った複数の細孔(図示せず)を有し、ここにカーボンナノチューブなどの微細繊維状物質13が挿入されている。
【0078】
上記の高抵抗層81とは、細孔12の底部(ここでは微細繊維状物質13の一端部と同義)とカソード電極層11aとの間に配され、導電性は有するが、少なくともカソード電極層11aより電気抵抗率が高い層であって、以下に説明するように電気的な緩衝層として機能する。また、高抵抗層81は、電子源アレイ14dの使用上必要な所定の導電性を有する限りにおいては、できうる限り電気抵抗率の高い材料で形成することが望ましい。
【0079】
例えば、カソード電極層11aが良導体である金属電極膜の場合には、各種半導体材料にて高抵抗層81を形成すればよい。一例として、スパッタ法等で成膜したアモルファスシリコン膜(半導体材料膜)を高抵抗層81として用いれば、該高抵抗層81は、微細繊維状物質13とカソード電極層11aとの間の電気的な緩衝層としてのみならず、陽極酸化膜62形成時(アルミニウム膜などを陽極酸化する時)に酸化を止めるストップ層としての機能も兼ねられる。なお、カソード電極層11aには銅などの電極材料膜を用いるか、あるいは複数種の金属材料を積層した電極構造としてもよい。また、図8などに示す場合と同様に、支持基板60上に形成されるカソード電極層11aや高抵抗層81などを所望の形状にパターニングしてもよい。
【0080】
上記の電子源アレイ14dでは、カソード電極層11aと微細繊維状物質13との間に高抵抗層81が挿入されることで、カソード電極と各エミッタ電極とが電気的な緩衝層(電気抵抗部)を介して並列に接続されていることになる。つまり、高抵抗層81は、細孔内に配列された微細繊維状物質13からの電子放出時において、該高抵抗層81における電圧降下により放出電流を緩和する電気的な緩衝層として機能するので、該微細繊維状物質13の電子放出特性をより穏やかなものとし、大面積の電子源アレイを形成した場合にも電子放出を均一化、安定化させることができる。なお、高抵抗層81を付加した場合でも、上記実施の形態1に記載のものとほぼ同一の条件で、電子放出を開始させることができた。
【0081】
なお、陽極酸化膜62の有する細孔への微細繊維状物質13の誘導、挿入方法は、特に図3に示すマグネット33のみを用いる方法に限定されるものではなく、例えば、磁界の印加と電界アシストとにより微細繊維状物質13を細孔12へ挿入することもできる。以下、図10に基づいてこの工程を説明するが、該図は単に概要を表すものであり、実際に使用する際には、生産性等を考慮して適切な構造の装置を構築すればよい。
【0082】
はじめに、超音波振動を付与するなどの方法を採用し、ビーカー等の容器30に入れた分散媒31中に、カーボンナノチューブ32(微細繊維状物質13に相当)を分散させて分散液を調製する。続いて、支持基板60上に、カソード電極層11aとなる金属膜、高抵抗層81、並びに陽極酸化膜62が順に形成されてなる支持体(重層構造体)を、上記分散液中に浸漬する。なお、分散液中で支持体は鉛直配置されるとともに、カソード電極層11aが形成されていない支持基板60の面側にはマグネット33が当接配置される。そして、このマグネット33が、該支持体を略垂直に貫き、カーボンナノチューブ32に達する磁界を発生させる。
【0083】
また、上記重層構造体のマグネット33が当接配置されない面側(すなわち陽極酸化膜62側)に、一定距離を開けて対向電極52を対向配置し、続いて、支持基板60上のカソード電極層11aを陰極、対向電極52を陽極として、電源24より電圧を印加する。これにより、例えば、カーボンナノチューブ32は、チューブ軸が磁力線に沿って配向する。また、カーボンナノチューブ32は、電界に対して平行方向、垂直方向の電気泳動速度の異方性を示し、電界の印加によってチューブ軸が電気力線に沿って配向する。
【0084】
つまり、磁界によっても、電界によってもカーボンナノチューブ32の長手方向が力線と平行になる。また、図10に示す状態では、電気力線の方向と、磁力線の方向とがほぼ揃っているので、磁界と電界との印加によりカーボンナノチューブ32の配向状態がより強められる。
【0085】
そして、すでに説明したように、先端に磁性金属触媒が残存したカーボンナノチューブ32は、マグネット33の磁界により引きつけられて、陽極酸化膜62の細孔内に容易に挿入される。また、分散液中のカーボンナノチューブ32自体が正にチャージされているので、たとえカーボンナノチューブ32の先端に上記触媒が存在していなくても、電界の印加により陰極側のカソード電極層11aに向かって泳動し、陽極酸化膜62の細孔内に挿入される。つまり、磁界を印加しなくとも、電気泳動法のみにより、カーボンナノチューブを電気力線に沿って配向させ、陽極酸化膜62の細孔に挿入することも可能である。
【0086】
尚、ここでは、支持基板60に当接配置したマグネット33を用いてカーボンナノチューブ32を誘引したが、特にこの方法に限定されるものではない。例えば、細孔12の底部側に配される高抵抗層81またはカソード電極11aの構成材料として磁性材料(例えばフェライトなど)を使用し、マグネット33を使用せずに磁界を印加しても構わない。また、カーボンナノチューブ32(微細繊維状物質13)が移動可能であれば、マグネット33の種類ならびに磁束密度の大きさなどは問わない。
【0087】
また、カーボンナノチューブ32の配向は印加電圧波形にも大きく依存する。よって、電気泳動時の電圧は直流電圧の他、交流電圧や、交流電圧に直流バイアスを印加したものなど、陽極酸化膜62の細孔の密度やカーボンナノチューブ32の配向密度などに応じて最適な電圧波形を選択すれば良い。尚、電気泳動の際に交流電圧を用いる場合、周波数の高い、例えば5〜10MHzの交流電圧がカーボンナノチューブ32の配向に望ましい。
【0088】
なお、図11(a)に示すように、図9に示す電子源アレイ14dにおいて、細孔12内の底部域にさらに低融点の導電性材料層82を形成し、ここに挿入された微細繊維状物質13を低融点の導電性材料により固定し、高抵抗層81を介してカソード電極層11aに接続する構成としてもよい。ここで、低融点の導電性材料層82は、図6(a)で示した低融点金属材料層52aであってもよく、また例えば、高抵抗層81と同様の電気抵抗性の材料で形成してもよい。導電性材料層82を電気抵抗性の材料で形成する場合には、カソード電極層11aと、微細繊維状物質13とが、個別に形成された電気抵抗部(電気的な緩衝層)を介して接続されることになるので、電子放出動作をより安定化できる。なお、説明の便宜上、図9に示した支持基板60は記載していない。
【0089】
さらに、図11(b)にその部分断面を示すように、カソード電極層11a上に導電性ペースト層83を形成し、細孔12が形成された陽極酸化膜62を導電性ペースト層83上に配置し、さらに、磁界の印加により微細繊維状物質13を細孔12内に挿入する構成としてもよい。ここで、導電性ペースト層83をなす導電性ペーストとは、例えばフリットガラスなどのバインダ、溶剤及び添加剤の混合物(接着性混合物)中に、各種金属微粒子などの導電性粒子を分散してなるものであり、所定温度以上に昇温することで熱硬化する。したがって、カーボンナノチューブ等の微細繊維状物質13は、細孔12の底部に配された導電性ペースト層83により強固に固定され、カソード電極層11aに電気的に接続される。
【0090】
なお、このような構成の電子源アレイは、例えば、支持基板(図示せず)上等に形成したカソード電極層11aと、細孔12内にカーボンナノチューブ等の微細繊維状物質13を挿入した陽極酸化膜62とを別工程で作製した後、それらを導電性ペースト層83を介して貼り合わせて(組合せて)構成することができる。また、細孔12内に微細繊維状物質13を挿入した後に、導電性ペースト層83を硬化させる工程を行うことで、該微細繊維状物質13が強固に固定され、電子源アレイの信頼性がより向上する。
【0091】
また、導電性粒子である金属微粒子と、絶縁性材料であるフリットガラスとの配合割合を適宜調整する等して上記の導電性ペースト層83を作成すれば、その抵抗値を所望の値とできる。ここで、導電性ペースト層83を、図11(a)に示す高抵抗層81のように、導電性は有するが、少なくともカソード電極層11aより電気抵抗率が高い層とすれば、該カソード電極層11aと微細繊維状物質13とを、電気的な緩衝層(電気抵抗層)を介して電気的に接続された状態とできる。
【0092】
この場合、導電性ペースト層83は上記高抵抗層81と同様に、電子放出時に自身における電圧降下により放出電流を緩和する電気的な緩衝層として機能するので、該微細繊維状物質13の電子放出特性をより穏やかなものとし、大面積の電子源アレイを形成した場合にも電子放出を均一化、安定化させることができる。
【0093】
〔実施の形態5〕
本発明のさらに他の実施の形態について図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、上記実施の形態1〜4に記載のものと同一の構成、機能を有する部材については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0094】
図12にその部分断面を示す電子源アレイ14eは、電子源アレイ14d(図9参照)と同様に、支持基板60の一面上にカソード電極層11a、高抵抗層81aをこの順に積層して形成し、さらに高抵抗層81a上に積層されたアルミニウム膜などの金属膜を完全に陽極酸化してなる陽極酸化膜62(表面膜11bに相当)が形成されている。なお、電子源アレイ14dと電子源アレイ14eとは、実質的に、高抵抗層の構成材料が異なるのみであるので、以下、特に高抵抗層81aについて説明を行う。
【0095】
上記電子源アレイ14eでは、導電性は有するが、少なくともカソード電極層11aより電気抵抗率が高い高抵抗層81a(細孔の底部と導電電極部との間に配される電気的な緩衝層)の構成材料として各種フェライトが使用される。フェライトは、例えば印刷法等で容易に成膜が可能であり、また通常の電極構成材料と比較して電気抵抗率が明らかに高い。また、フェライトは磁性材料でもあり、外部からの磁界の印加によって着磁し、フェライト磁石となる。よって、カーボンナノチューブ等の微細繊維状物質13を細孔(図示せず)内へ挿入する際に支持基板60の外部に別途マグネットを配置する必要はない。また、着磁したフェライト層(高抵抗層81a)に後工程で熱を加えれば、消磁することも可能である。加えて、フェライト層は、陽極酸化膜62形成のためにアルミニウム膜などを陽極酸化する際に、酸化を止めるストップ層としての機能も兼ねられる。
【0096】
なお、カソード電極層11aには銅などの電極材料膜を用いるか、あるいは高抵抗層81aと同様の磁性材料や複数種の金属材料を積層した電極構造としてもよい。また、図8などに示す場合と同様に、支持基板60上に形成されるカソード電極層11aや高抵抗層81aなどを所望の形状にパターニングしてもよい。また、高抵抗層81aを挿入する効果や、電子放出の開始条件などに関しては、図9に示す電子源アレイ14dと同様であり、詳細な説明は省略する。
【0097】
以下、図13(a)に基づき、上記電子源アレイ14eの製造工程のうち、磁界の印加によりカーボンナノチューブ等の微細繊維状物質13を細孔へ挿入する工程につき説明する。なお、該図はこの工程の概要を表すものであり、実際に使用する際には、生産性等を考慮して適切な構造の装置を構築すればよい。
【0098】
はじめに、超音波振動を付与するなどの方法を採用し、ビーカー等の容器30に入れた分散媒31中に、カーボンナノチューブ32(微細繊維状物質13に相当)を分散させて分散液を調製する。続いて、支持基板60上に、カソード電極層11aとなる金属膜、フェライトからなる高抵抗層81a、並びに、細孔を有する陽極酸化膜25が順に形成されてなる重層構造体を、上記分散液中に浸漬する。なお、分散液に浸漬する以前の工程で、上記積層体構造体には外部から磁界が印加されており、高抵抗層81aはフェライト磁石(磁界印加手段)となっている。そして、この高抵抗層81aが、該重層構造体を略垂直に貫き、カーボンナノチューブ32に達する磁界を発生させる。
【0099】
そして、図3に示す場合と同様、高抵抗層81aから印加される磁界によりカーボンナノチューブ32はチューブ軸が磁力線に沿って配向する。また、カーボンナノチューブ32の先端に磁性金属触媒が残存していれば、この触媒が高抵抗層81aであるフェライト磁石の磁界により引きつけられるので、該カーボンナノチューブ32はチューブ先端の触媒を先頭に高抵抗層81aに向かって移動し、陽極酸化膜62の細孔12内に挿入される(図13(b)参照)。
【0100】
これにより、重層構造体表面の細孔12の伸長方向に従ってカーボンナノチューブ32が配列するので、カソード電極層11aの面内方向に対し垂直方向に揃った複数のエミッタ電極(カーボンナノチューブ32)を有する電界放出型の電子源アレイ14e(図12参照)が製造される。なお、図13(b)に示すように、細孔12の底部に、低融点金属材料層52aを形成し、カーボンナノチューブ32をさらに強固に固定してもよい。
【0101】
〔実施の形態6〕
本発明のさらに他の実施の形態について図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、上記実施の形態1〜5に記載のものと同一の構成、機能を有する部材については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0102】
図14は、本発明の電界放出型の電子源アレイ(電子放出素子)を用いて構成される電界放出型表示装置の一例を表す部分斜視図である。なお、各電極構造に電圧を印加する電源は図示していない。
【0103】
この電子放出型表示装置では、図示しないカソード電極層が形成されてなるカソード基板84と、該カソード基板84上に形成された陽極酸化膜62(表面膜11b)と、陽極酸化膜62の細孔(図示せず)内に挿入されたカーボンナノチューブ等の微細繊維状物質13と、から電子源アレイ(電子放出素子)が構成されている。
【0104】
さらに、電子源アレイ上(陽極酸化膜62上)には、矩形状の開口部93を有するように、下部絶縁層94、下部ゲート電極95、上部絶縁層96、並びに上部ゲート電極97が順次格子状に形成されて、電子放出側基板が構成される。これにより、上記開口部93に対応して、微細繊維状物質13を備えた矩形状の陽極酸化膜62の表出領域が複数、互いに独立に形成される。また、互いに直交するように形成したライン状電極である下部ゲート電極95と上部ゲート電極97とにより画像表示のためのマトリクスが形成される。
【0105】
一方、電子放出側基板と対向配置される発光側基板は、表示部側となる透明基板103と、透明基板103上に形成された透明電極膜(カソード電極)102と、透明電極膜102上に形成された複数の蛍光体(発光体)101とから構成されている。また、この蛍光体101は矩形状であり、以下にも説明するが、微細繊維状物質13を備えた略矩形状の陽極酸化膜62の表出領域と対向配置される。カラー表示を行う場合には、蛍光体101は、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の3種類で構成し、それぞれの蛍光体領域を分割するようにブラックマトリクス100を形成する。次いで、電子放出側基板と発光側基板とを、上記陽極酸化膜62の表出領域と蛍光体101とが対向するように配置し、両基板間を排気して真空下で封止し、電界放出型表示装置を形成する。
【0106】
例えば、カーボンナノチューブをエミッタ電極とする電子放出部は、低電界の印加で電子放出が可能である。具体的には、発光側基板の透明電極膜102と、電子放出側基板のカソード電極層との間に印加する電圧(例えば、5〜10kV)のみで電子の放出が可能である。加えて、マトリクスを構成する下部ゲート電極95、及び上部ゲート電極97への電圧印加によって電子放出箇所、すなわち蛍光体101の発光箇所を選択し、さらには放出電流量を制御して発光輝度を制御して画像表示を行うことが可能である。
【0107】
そのため、カソード電極がマトリクス等を構成しない一体電極、例えば、金属基板からなるカソード電極であっても(図1参照)、あるいは、支持基板上に一体電極としてカソード電極を形成した電子源アレイ構造であっても、良好な表示を行いうる電界放出型表示装置を構成可能である。
【0108】
なお、上記実施の形態1〜6で述べたように、本発明の電子放出素子は、表面に細孔を有する支持体と、この細孔内に磁界により配向、挿入された微細繊維状物質とを含んでなり、この微細繊維状物質が細孔方向に従って配列するように形成された構成であってもよい。
【0109】
上記の電子放出素子はまた、上記支持体がカソード電極となる金属基板を含んでなり、上記細孔がこの金属基板の表面のみを陽極酸化した陽極酸化膜に形成されている構成であってもよい。この構成では、細孔を有する金属基板の陽極酸化部と、カソード電極となる非酸化部とが一体構造となる利点を有する。
【0110】
上記の電子放出素子はさらに、上記支持体が、支持基板と、支持基板上に形成され、カソード電極となる金属膜とを含んでなり、上記細孔がこの金属膜の表面のみを陽極酸化した陽極酸化膜に形成されている構成であってもよい。この構成では、金属膜が支持基板上に形成されているので、マトリクス状など所望の形状にパターニングが容易となる。
【0111】
上記の電子放出素子はさらに、上記支持体が、支持基板と、支持基板上に形成され、カソード電極となる金属膜と、この金属膜上にさらに形成された金属膜とを含んでなり、上記細孔が、カソード電極となる金属膜上に形成された金属膜を完全に陽極酸化した陽極酸化膜に形成されている構成であってもよい。この構成では、カソード電極と陽極酸化膜とをそれぞれに最適な、異種の金属材料で形成可能となる。なお、いずれの場合でも、微細繊維状物質としてはカーボンナノチューブが、また、陽極酸化される金属基板または金属層はアルミニウムからなるものが特に好ましい。
【0112】
【発明の効果】
本発明の電子放出素子は、以上のように、複数の細孔を表面に有し、さらに、導電電極部を含んでなる支持体と、磁界の印加により上記細孔の伸長方向に沿うように配向され挿入された、針状の電極部材とを含んでなり、上記細孔内に、導電電極部の構成材料よりも低融点な導電性材料が配されて、上記針状の電極部材が、上記導電性材料を溶融後、固化することで細孔内に固定されている構成である。
【0113】
上記の構成によれば、エミッタ電極となる上記針状の電極部材が一方向に揃って配列されてなるので、電子放出特性の均一性に優れた電界放出型の電子放出素子を提供することが可能となるという効果を奏する。
【0114】
さらに、上記の構成によれば、上記導電性材料によって、針状の電極部材が細孔内に強固に固定されるので、電子放出素子の信頼性がより向上するという効果を加えて奏する。
【0115】
本発明の電子放出素子はまた、上記の構成において、細孔の底部に導電性ペースト層をさらに備えてなり、導電電極部と針状の電極部材とが、導電性ペースト層を介して電気的に接続されている構成であってもよい。
【0116】
上記の構成では、導電性ペースト層により針状の電極部材が細孔内に強固に固定され、電子放出素子の信頼性がより向上するという効果を加えて奏する。
【0117】
本発明の電子放出素子はさらに、上記いずれかの構成において、電気抵抗率が高い電気的な緩衝層をさらに備えてなり、上記導電電極部と針状の電極部材とが、この緩衝層を介して電気的に接続されている構成であってもよい。
【0118】
上記の構成によれば、針状の電極部材からの電子放出時において、電気的な緩衝層における電圧降下により放出電流が緩和されるので、電子放出特性がより穏やかなものとなるという効果を加えて奏する。
【0119】
本発明の電子放出素子はさらに、上記いずれかの構成において、上記細孔が、アルミナの細孔であってもよい。
【0120】
上記の構成によれば、均一な大きさかつ規則性正しい細孔をより容易に形成可能であるという効果を加えて奏する。
【0121】
本発明の電子放出素子はさらに、上記いずれかの構成において、上記針状の電極部材がカーボンナノチューブであってもよい。
【0122】
上記の構成によれば、電子放出特性により優れた電子放出素子を提供可能となるという効果を加えて奏する。
【0123】
本発明の電子放出素子の製造方法は、以上のように、磁界の印加により所定方向に配向し、誘引される針状の電極部材を分散媒中に分散して分散液を調製する工程と、伸長方向が揃った複数の細孔を表面に有し、さらに、導電電極部を含んでなり、該細孔内の底部域には導電電極部の構成材料よりも低融点な低融点導電性材料層が形成された支持体を、上記分散液中に浸漬し、上記支持体を貫き、針状の電極部材に達する磁界を印加して、該針状の電極部材を細孔の伸長方向に沿うように配向させて挿入する工程と、上記細孔内の低融点導電性材料層を加熱により一端融解し、続いて冷却固化することで、針状の電極部材を上記低融点導電性材料層により固定する工程とを含んでなる方法である。
【0124】
上記の方法によれば、針状の電極部材が一方向に沿って配列されてなる、電子放出特性の均一性に優れた電界放出型の電子放出素子を容易に製造可能となるという効果を奏する。
【0125】
本発明の電子放出素子の製造方法は、上記の方法において、さらに、上記支持体として磁性材料からなる層を備えたものを使用し、この層から上記磁界を発生させる方法であってもよい。
【0126】
上記の方法によれば、上記支持体の一構成要素である磁性材料からなる層を利用して、針状の電極部材の配向・誘引が可能となるので、マグネットなどにより外的に磁界を印加する必要がなくなるという効果を加えて奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電子源アレイを表す部分斜視図である。
【図2】(a)は、図1に示す電子源アレイを製造する一工程を説明する図であり、(b)は、この工程後の部材の要部を示す概略断面図である。
【図3】図1に示す電子源アレイを製造する他の工程を説明する図である。
【図4】(a)は、図3に示す工程を説明する詳細図であり、(b)は、この工程により製造された電子源アレイの要部を示す概略断面図である。
【図5】図1に示す電子源アレイをアノード電極と対向配置した状態を示す説明図である。
【図6】(a)は、本発明の他の実施の形態に係る電子源アレイの要部を示す断面図であり、(b)・(c)は、この電子源アレイを製造する一工程を説明する図である。
【図7】本発明のさらに他の実施の形態にかかる電子源アレイを示し、これをアノード電極と対向配置した状態を示す説明図である。
【図8】図7に示す電子源アレイの一変形例を示し、これをアノード電極と対向配置した状態を示す説明図である。
【図9】本発明のさらに他の実施の形態にかかる電子源アレイを示し、これをアノード電極と対向配置した状態を示す説明図である。
【図10】図9に示す子源アレイを製造する一工程を説明する図である。
【図11】(a)は、図9に示す電子源アレイの要部を示す断面図であり、(b)はこの電子源アレイの一変形例を示す断面図である。
【図12】本発明のさらに他の実施の形態にかかる電子源アレイを示し、これをアノード電極と対向配置した状態を示す説明図である。
【図13】(a)は、図12に示す電子源アレイを製造する一工程を説明する図であり、(b)は、この工程後の電子源アレイの要部を示す概略断面図である。
【図14】本発明のさらに他の実施の形態にかかる電子源アレイを示し、これを用いて電界放出型の表示装置を構成した一例を示す部分斜視図である。
【符号の説明】
11 重層構造体(支持体)
11a カソード電極層(導電電極部)
12 細孔
13 微細繊維状物質(針状の電極部材)
14 電子源アレイ(電子放出素子)
14a〜e 電子源アレイ(電子放出素子)
31 分散媒
32 カーボンナノチューブ(針状の電極部材)
52a 低融点金属材料層(低融点な導電性材料)
81 高抵抗層(電気的な緩衝層)
81a 高抵抗層(電気的な緩衝層:磁性材料からなる層)
83 導電性ペースト層
Claims (7)
- 伸長方向が揃った複数の細孔を表面に有し、さらに、この細孔の底部側に配された導電電極部を含んでなる支持体と、
磁界の印加により上記細孔の伸長方向に沿うように配向され、該細孔内に、上記導電電極部と電気的に接続された状態で挿入された、針状の電極部材とを含んでなり、
上記細孔内に、導電電極部の構成材料よりも低融点な導電性材料が配されて、
上記針状の電極部材が、上記導電性材料を溶融後、固化することで細孔内に固定されていることを特徴とする電子放出素子。 - 上記細孔の底部に、上記針状の電極部材を固定するための導電性ペースト層をさらに備えてなり、
上記導電電極部と針状の電極部材とが、上記導電性ペースト層を介して電気的に接続されていることを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。 - 上記細孔の底部と導電電極部との間に、導電電極部より電気抵抗率が高い電気的な緩衝層をさらに備えてなり、
上記導電電極部と針状の電極部材とが、上記電気的な緩衝層を介して電気的に接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出素子。 - 上記細孔が、アルミニウムを陽極酸化してなるアルミナの細孔であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の電子放出素子。
- 上記針状の電極部材がカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の電子放出素子。
- 磁界の印加により所定方向に配向し、誘引される性質を有する針状の電極部材を分散媒中に分散し、針状の電極部材の分散液を調製する工程と、次いで、
上記針状の電極部材を挿入可能な大きさで、かつ伸長方向が揃った複数の細孔を表面に有し、さらに、この細孔の底部側に配された導電電極部を含んでなり、該細孔内の底部域には導電電極部の構成材料よりも低融点な低融点導電性材料層が形成された支持体を、上記分散液中に浸漬し、
上記支持体を貫き、針状の電極部材に達する磁界を印加して、該針状の電極部材を細孔の伸長方向に沿うように配向させ、該細孔内に、上記導電電極部と電気的に接続された状態に挿入する工程と、
上記細孔内の低融点導電性材料層を加熱により一端融解し、続いて冷却固化することで、針状の電極部材を上記低融点導電性材料層により固定する工程とを含んでなることを特徴とする電子放出素子の製造方法。 - 上記支持体として、上記細孔の底部側に磁性材料からなる層を備えたものを使用し、
上記支持体を分散液に浸漬するに先立ち、上記磁性材料からなる層を磁化しておき、この層から上記磁界を発生させることを特徴とする請求項6記載の電子放出素子の製造方法。
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