JP3597801B2 - 電子放出デバイス、その製造方法、表示装置、及びその駆動方法 - Google Patents

電子放出デバイス、その製造方法、表示装置、及びその駆動方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、微細孔を有する多孔質材料を利用した電子放出デバイスに関し、特に電界放出の原理に基づき電子を放出する電子デバイスであって、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等の薄型の表示装置を構成するために好適に用いられる電子放出デバイス、及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電界放出型の電子放出デバイスの研究、開発が盛んに行われており、それを応用した表示装置は、自発光型であるために液晶表示装置のようなバックライトの必要がなく、原理的にCRTと同等の見やすさ、明るさが得られ、さらには、電子放出デバイスの微細性を生かした非常に高精細の表示装置を実現できる可能性があるとして期待されている。
【0003】
電界放出型の電子放出デバイスは、C.A.Spindtらによる蒸着法で形成された高融点金属材料からなる円錐形状の電子源(USP3,665,241)等が良く知られている。タングステンやモリブデン等の材料で形成された円錐形状のエミッタの先端をサブミクロンオーダーの開口部で取り囲むように近接させたゲート電極が形成されており、先鋭化されたエミッタの先端部に効率的に電界を集中させることができるが、それでも電子を引き出すためには引出し電極であるゲート電極に100V前後の電圧を印加する必要がある。また、大型の表示装置等に用いるために大面積の電子源アレイを形成する場合には、その製造方法に起因する理由によりエミッタの形状のバラツキが多くなる等、電子源としての均一性や信頼性の点で課題も多い。
【0004】
他の電界放出型の電子放出デバイスの形態として、低電界で電子を放出する新規の電子放出物質も研究されている。種々の材料からなる超微粒子状物質、あるいは微細繊維状物質等があり、その中で、例えば、炭素系の材料が盛んに検討されており、特に、遠藤らの解説(固体物理、Vol.12、No.1、1977)等に示されている気相成長法によるナノメーターオーダーの炭素繊維、あるいは飯島らにより確認されたアーク放電法によるカーボンナノチューブ(Nature、354、56、1991)等は、グラファイトを丸めた円筒形の物質であり、電子源としても優れた特徴を有する材料として非常に期待されている。
一方、メソポーラス材料等、微細孔を有する多孔質材料を応用した電子デバイス、あるいは光学デバイスの研究、開発も盛んに行われており、多孔質材料の中でも特にアルミニウムを陽極酸化して得られるアルミナ膜は、ナノメーターオーダーの微細孔を繊密に規則正しく形成することが容易であるという特長がある。
【0005】
微細孔を有する多孔質材料を応用した電子放出デバイスとしては、例えば特開平5−211029号公報に記載されているように、アルミニウム陽極酸化膜の微細孔中に電解析出により円柱状電極を形成した電子放出素子が開示されている。その他、細孔を用いたカーボンチューブ形成方法として、例えば特開平8−151207号公報に記載されているように、陽極酸化膜等の無機物質の細孔中に気体状の炭化水素を気相炭化させ、細孔内壁に炭素薄膜を堆積させてカーボンチューブを形成する方法が開示されている。また、例えば特開平10−12124号公報に記載されているように、陽極酸化膜の細孔中に析出させた金属触媒を起点としてCVD法を用いてカーボンナノチューブを成長させる方法が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
例えばアルミニウムを陽極酸化して得られるアルミナ膜等に代表される微細孔を有する多孔質材料を用いた電子放出デバイスは、微細孔にしたがって配向した微細な電子放出部を高密度に規則正しく形成することができる。そのため、単位面積当たりの電子放出部の数が非常に多く、電流密度の高い電子放出動作が可能となる。微細孔を有する多孔質材料を用いて形成された電子放出部は、ナノメーターオーダーの微細な直径とミクロンオーダーの長さを持つアスペクト比の大きい繊維状の形状であるために、個々の電子放出部はその先端部に電界を集中させるために非常に有効な形状となる。しかしながら、そのような形状の電子放出部も狭いピッチで高密度に集中して形成されてしまうと、電子放出部の先端部近傍の電界分布が穏やかになり十分な電界集中効果が得られなくなる。すなわち、微細孔を有する多孔質材料を用いた従来からの電子放出デバイスは、電子放出部の密度が高いために電子放出時の電流密度は大きいが、電子放出部が密集しているためにその微細形状をいかした電界集中効果によって低電界で電子を放出させるという目的には適していないという問題があった。
【0007】
特に、アルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜は、細孔のピッチを大きくすると、それと同時に細孔の径も大きくなるという特性があり、そのために、単純に細孔のピッチを大きくすることで、そこに形成する電子放出部のピッチを大きくしようとすると、同時に細孔の径も大きくなることから、径の太い電子放出部で十分な電界集中が得られないという問題が生じる。
【0008】
また、微細孔を有する多孔質材料を用いた電子放出部で構成された電子放出デバイスは、例えばフィールドエミッションディスプレイ(FED)の構成要素として用いられることも多い。FEDは、電子放出部が形成された電子放出側基板と、蛍光体が塗布され、電子照射により発光する発光側基板とを真空雰囲気中で対向配置させて構成される。FEDでは、画像表示のために電子放出箇所を特定するマトリクスが形成され、マトリクスを構成する電極への印加電圧により電子放出が制御される。マトリクスの駆動に、例えば通常の液晶駆動回路等で一般的で、安価に製造され得る電圧制御型のマトリクス駆動回路を用いるためには、駆動電圧が低く、電流負荷が小さいことが好ましい。すなわち、この場合に要求される電子放出特性は、最大放出電流密度の大きさよりも、低電界で必要十分な電子を放出すること、低電界で電子放出を制御できることであり、この種の目的に用いられる場合には、微細孔を有する多孔質材料を用いた従来からの電子放出デバイスでは、十分な特性が得られないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、微細孔を有する多孔質材料を用いた電子放出デバイスであって、電子放出部の微細形状をいかした電界集中効果によって低電界での電子放出を可能とする電子放出デバイス、及びその製造方法を提供することを目的とする。また、その電子放出デバイスの特性によって実現され得る表示装置であって、低電界での電子放出、及びその制御が可能であり、画像表示のために形成したマトリクスの制御回路系の負荷が小さく、安価にシステムを構成できる表示装置、及びその駆動方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の電子放出デバイスでは、電極上に形成された、少なくとも一層はその細孔ピッチが他の層のいずれかと異なる2層以上の多孔質層と、少なくとも最上層から最下層まで貫通している細孔内に前記電極と実質的に電気的に接続された電子放出部を含むことを特徴とする。好ましくは、前記多孔質層における細孔の径が各多孔質層毎に異なるようにされる。
【0013】
このように構成することにより、電極上に形成された、少なくとも一層はその細孔ピッチが他の層のいずれかと異なる2層以上の多孔質層において、各層の細孔位置がおおよそ一致した箇所に形成または挿入した電子放出物質が電極に実質的に電気的に接続された電子放出部となる。多孔質層の各層に形成されている細孔ピッチや径等の組み合わせにより、隣接する電子放出部までの距離を適宜設定することが可能であり、電子放出部の微細形状をいかした電界集中効果により低電界での電子放出が可能となる。そのため、その用途や目的に合せて、隣接する電子放出部までの距離を設定することにより、電子放出デバイスの最大放出電流密度特性と、低電界電子放出特性との関係において、最適なデバイス特性を選定することが可能となる。
【0014】
なお、本発明の電子放出デバイスにおいて、電子放出物質と電極とを電気的に接続する導電性物質が少なくとも細孔内または電極上のいずれかに形成されていてもよい。この構成により、細孔に形成または挿入された電子放出物質である電子放出部が導電性物質によって電極と確実に接続され得、また、電子放出部が導電性物質によって細孔内に確実に固定され得る。
【0015】
また、本発明の電子放出デバイスにおいて、導電性物質が電気抵抗性材料であってもよい。この構成により、細孔に形成または挿入された電子放出物質からなる電子放出部は、電気抵抗材料を介して各々が並列に電極と接続されるため、電子放出部からの放出電流にともなう電気抵抗材料部分での電圧降下によって各々の電子放出部からの電子放出特性が穏やかになり、大面積の電子放出デバイスを形成した場合にも電子放出を均一化、安定化させることができる。
【0016】
また、本発明の電子放出デバイスでは、多孔質層がアルミニウムを陽極酸化することにより形成されるアルミナ膜であることは好ましい。この構成によれば、アルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜は、細孔の径、及び細孔のピッチの均一性、及び再現性が非常に高く、また、アルミニウムの製膜工程、及びウエット処理による陽極酸化工程を繰り返すことにより、多層構造の多孔質層を形成することが容易であるため、高精度で均一性の高い電子放出デバイスを容易に構成することができる。
【0017】
また、本発明の電子放出デバイスにおいて、電子放出物質が少なくともカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイトナノファイバー、ダイアモンドライクカーボンのいずれかの形態を含む炭素系物質であることは好ましい。この構成により、低電界で電子を放出し、化学的に安定な電子放出物質で電子放出部が形成される。また、これらの物質を用いることで、多孔質材料の細孔内に電子放出物質を形成または挿入する手法として、CVD法、電気泳動法等、を用いて容易に行うことが可能であり、電子放出デバイスを使用する目的や要求される特性に合せて製造手段を選定することできる。
【0018】
本発明の電子放出デバイスの製造方法は、複数の細孔を有し、少なくとも一層はその細孔ピッチが他の層のいずれかと異なる2層以上の多孔質層を電極上に形成する工程と、少なくとも最上層から最下層まで貫通している細孔内に前記電極と実質的に電気的に接続する電子放出部を形成する工程とを含むことを特徴とする。好ましくは、さらに、前記2層以上の多孔質層の内、少なくとも一層はその細孔の径が他の層のいずれかと異なるものとされる。
【0019】
このように製造することにより、少なくとも一層はその細孔ピッチが他の層のいずれかと異なる2層以上の多孔質層において、各層の細孔位置がおおよそ一致したところにのみ電極まで貫通し得る細孔が形成され、そのような状態で細孔内に電子放出物質を形成または挿入することにより、少なくとも最上層から最下層まで貫通している細孔内にのみ電極と実質的に電気的に接続した電子放出物質からなる電子放出部を形成することができる。さらに、少なくとも一層はその細孔の径が他の層のいずれかと異なるものとすることにより、また、好ましくは、積層数の組み合わせを選定することにより、電子放出部のピッチを多孔質層の細孔のピッチより大きくすることができ、すなわち、電子放出部の密度を多孔質層の細孔密度より小さくすることができるため、電子放出部の微細形状をいかした電界集中効果によって低電界で電子放出が可能な電子放出デバイスを製造することが可能となる。
【0020】
本発明の電子放出デバイスの製造方法の他の形態において、少なくとも1層以上の前記多孔質層を除去する工程をさらに含む。この製造方法によれば、少なくとも1層以上の多孔質層を除去する工程によって、細孔内に形成または挿入され、電極に実質的に電気的に接続された電子放出物質である電子放出部の多孔質層からの突出量を調整することができる。また、細孔内に形成または挿入されているが電極には実質的に電気的に接続されていない、すなわち、電子放出に直接的には寄与しない電子放出物質等を、少なくとも1層以上の多孔質層を除去する工程によって、除去することができる。これらにより、電子放出特性をさらに向上させた電子放出デバイスを製造することが可能となる。
【0021】
このように構成することにより、細孔内に形成または挿入され、電極に実質的に電気的に接続された電子放出物質である電子放出部が、多孔質層から突出する長さを多孔質層の除去状態により任意に設定することができる。また、細孔内に形成または挿入されているが電極には実質的に電気的に接続されていない、すなわち、電子放出に直接的には寄与しない電子放出物質等が多孔質層とともに除去された構成の電子放出デバイスが形成され得る。これらにより、電子放出デバイスからの電子放出特性を、さらに向上させることが可能となる。
【0022】
なお、本発明の電子放出デバイスの製造方法において、多孔質層を形成する工程において、少なくともアルミニウムを陽極酸化する工程を含むようにしてもよい。このように製造することにより、多孔質層の形成が容易となる。すなわち、アルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜は、陽極酸化時の印加電圧設定等の陽極酸化条件により、細孔の径、及び細孔のピッチの均一性、及び再現性が非常に高い多孔質層が得られ、また、アルミニウムの製膜工程、及びウエット処理による陽極酸化工程を繰り返すことにより、多層構造の多孔質層を形成することが容易であるため、高精度で均一性の高い電子放出デバイスを容易に製造することができる。
【0023】
また、本発明の電子放出デバイスの製造方法において、少なくともカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイトナノファイバー、ダイアモンドライクカーボンのいずれかの形態を含む炭素系物質を細孔内に形成または挿入する工程を含むようにしてもよい。このように製造することにより、低電界で電子を放出し、化学的に安定な電子放出物質で電子放出部を形成することができる。また、これらの物質を用いることで、多孔質材料の細孔内に電子放出物質を形成または挿入するための製造方法として、CVD法、電気泳動法等、を用いて電子放出部の製造を容易に行うことが可能であり、電子放出デバイスを使用する目的や要求される特性に合せて最適な製造方法を選定することできる。
【0024】
また、本発明の電子放出デバイスの製造方法において、細孔内に電子放出物質を形成する手段には、原料ガス雰囲気中で細孔壁面に電子放出物質を付着形成させるCVD法が含まれる。このように製造することにより、電極上で2層以上に積層された細孔を有する多孔質層に対して、原料ガス雰囲気中にあって、多孔質層の表面に開口を有する細孔に原料ガスが侵入し、その細孔壁面に電子放出物質が付着形成される。そのため、多孔質層の表面から電極まで貫通し得る細孔に電極まで達する、すなわち、電極に実質的に電気的に接続される電子放出部が形成され、それ以外の細孔には電極に実質的に電気的に接続された電子放出部は形成されず、目的の細孔に電子放出部を形成した電子放出デバイスを容易に製造することができる。
【0025】
また、本発明の電子放出デバイスの製造方法において、細孔内に電子放出物質を形成する手段には、原料ガス雰囲気中で触媒材料を起点に電子放出物質を成長形成させるCVD法が含まれる。このように製造することにより、電極上で2層以上に積層された細孔を有する多孔質層に対して、原料ガス雰囲気中にあって、多孔質層の表面に開口を有する細孔に原料ガスが侵入し、触媒材料と接する箇所に電子放出物質が成長形成される。従って、電極を触媒材料で形成する、あるいは電極上に触媒材料を形成することで、多孔質層の表面から触媒材料まで貫通し得る細孔に原料ガスが到達し、電子放出物質が成長形成され、目的の細孔に電子放出部を形成した電子放出デバイスを容易に製造することができる。
【0026】
また、本発明の電子放出デバイスの製造方法において、細孔内に電子放出物質を形成する手段には、原料が溶解した電解液中で細孔内に電子放出物質を析出形成させる電解析出法が含まれる。このように製造することにより、電極上で2層以上に積層された細孔を有する多孔質層に対して、原料が溶解した電解液中にあって、多孔質層の表面に開口を有する細孔に電解液が侵入し、その細孔内に電子放出物質が析出形成される。そのため、多孔質層の表面から電極まで貫通し得る細孔に電極まで達する、すなわち、電極に電気的に接続される電子放出部が形成され、それ以外の細孔には電極に電気的に接続された電子放出部は形成されず、目的の細孔に電子放出部を形成した電子放出デバイスを容易に製造することができる。
【0027】
また、本発明の電子放出デバイスの製造方法において、細孔内に電子放出物質を挿入する手段には、形状を有する電子放出物質を分散させた溶媒中で電界を印加することにより細孔内に電子放出物質を挿入させる電気泳動法が含まれる。このように製造することにより、別工程で製造したナノオーダーサイズのチューブ状、あるいはファイバー状等の形状を有する電子放出物質を用いて電子放出デバイスを製造することができる。別途、安価に大量生産された形状を有する電子放出物質を用いて電子放出デバイスを製造することが可能であり、また、特性向上の観点からも、電子放出物質の製造工程で実施される高温工程、例えばカーボンナノチューブの場合の黒鉛化処理は2800℃程度の高温で行うことで良質なカーボンナノチューブが形成される、等を電子放出デバイス製造工程とは別工程で行うことができるとともに、電子放出デバイス作製時の温度を低温化することができ、電子放出デバイスを構成する基板等を耐熱性の低い安価な材料で構成することが可能となる。
なお、本発明において、「実質的に電気的に接続」とは、例えば、薄い絶縁物等を介した接続であっても、動作時に、トンネリング等により一方から他方への電荷の移動、供給が実質的に行われるような接続態様をも含むものとして用いている。
【0028】
また、本発明の表示装置では、電子放出デバイスがアレイ状に形成されたカソード電極と、カソード電極と対向するように配置され、電子照射により発光する蛍光体層が形成されたアノード電極と、カソード電極とアノード電極との間に配置され、電子放出デバイスからの放出電子が通過する開口部を有する少なくとも互いに絶縁されたn層のゲート電極Gn(n=1、2、…)とから構成されることを特徴とする。
【0029】
このように構成することにより、電子放出デバイスからの電子放出を制御し、電子照射による蛍光体の発光により表示を行う表示装置が形成される。本発明の電子放出デバイスは、電子放出部の微細形状をいかした電界集中効果により低電界での電子放出が可能であるために、カソード電極上に形成した電子放出部に電子放出を制御するゲート電流を近接させる必要がなく、また、ゲート電極へ印加する電圧を低電圧化することができ、多層構造で配置した複数のゲート電極で電子放出を制御するような表示装置を構成することもできる。そのため、互いに交差するように配置したカソード電極とゲート電極によって表示箇所を特定するマトリクスを構成する、あるいは、互いに交差するように配置した第1のゲート電極と第2のゲート電極によってマトリクスを構成する、あるいは、放出電子制御等の目的でさらにゲート電極を追加した多層ゲート電極構造等の表示装置構成とすることができる。また、画像表示のための電子放出箇所を特定するマトリクスを互いに交差するように配置した少なくとも2段のゲート電極で構成した場合には、電子放出にともなう放出電流が流れるカソード電極、及びアノード電極を微細配線化することなくマトリクスを形成することができる。これにより、微細配線に電流が流れることによる電圧降下、応答遅れ、消費電力の増大、等の問題の発生が少なく、マトリクス制御回路には低電圧、低負荷対応の、例えば通常の液晶駆動回路等で一般的な電圧制御型のマトリクス駆動回路等を用いることができ、ドライバIC等を含め、安価にシステムを構成することが可能となる。
【0030】
また、本発明の表示装置の駆動方法では、カソード電極とアノード電極間の距離:dA、カソード電極とアノード電極間の印加電位差:VA、カソード電極とゲート電極Gn(n=1,2,…)間の距離:dGn、カソード電極とゲート電極Gn(n=1,2,…)間の印加電位差:VGnが、VA/dA≧VGn/dGn(n=1,2.…)の関係となる範囲で電子放出デバイスからの電子放出を制御することを特徴とする。
【0031】
このように駆動することにより、低電界での電子放出が可能である電子放出デバイスの特長をいかし、アノード電極への印加電位により電子放出をさせる表示装置の駆動が可能となる。例えば、カソード電極とゲート電極によって表示箇所を特定するマトリクスを構成した場合には、アノード電極への印加電位によりカソード電極に形成した電子放出部近傍に電子放出に必要十分な電界を発生させ、ゲート電極への印加電位によりアノード電極からの電界の電子放出部への侵入を抑制することで、カソード電極とゲート電極によって特定される電子放出部からの電子放出を制御することができる。また、第1のゲート電極と第2のゲート電極によってマトリクスを構成した場合には、アノード電極への印加電位によりカソード電極に形成した電子放出部近傍に電子放出に必要十分な電界を発生させ、第1のゲート電極、及び第2のゲート電極への印加電圧によりアノード電極による電界の電子放出部への侵入を個別に抑制する働きをさせることで、第1のゲート電極と第2のゲート電極によって特定される電子放出部からの電子放出を制御することができる。そのため、電子放出は、マトリクスで選定される電子放出部のみで起こり、放出電流は、微細配線ではないカソード電極、及びアノード電極のみに流れ、マトリクスを構成している微細配線である第1のゲート電極、及び第2のゲート電極には流れない。
【0032】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、図面を参照して以下に説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の電子放出デバイスの一実施形態を模式的に表す部分斜視図である。カソード電極1上には多数の細孔3を有する多孔質層2が形成されている。多数の細孔3の中には所定の割合で、微細な繊維状、中空管状、棒状等の形状を有する電子放出物質である電子放出部4が多孔質層2からその一部が突出するように挿入、形成されており、電子放出部4の一端はカソード電極1と電気的に接続されている。なお、電子放出部4とカソード電極1とは、実質的に電気的に接続された状態であればよく、例えば、薄い絶縁物等を介した接続であっても、デバイス動作時に、トンネリング等によりカソード電極1から電子放出部4への電荷の移動、供給が実質的に可能であれば差し支えない。
【0033】
電子放出部4は、特に隣接する電子放出部との距離を離すように形成されているのが特徴であって、細孔3のピッチに比較して電子放出部4のピッチが2倍以上となるように、すなわち、電子放出部4の密度が細孔3の密度のおおよそ4分の1以下となるように形成されている。
【0034】
電子放出部4の上方にはアノード電極7が形成されており、カソード電極1とアノード電極7の間に所定の電圧を印加することにより、電子放出部4の突出側から電子を放出する。また、カソード電極1とアノード電極7の間には、開口部6を有するゲート電極5を形成してもよく、カソード電極1とゲート電極5の間に所定の電圧を印加することにより、電子放出部4の突出側からの電子放出を制御することができる。
【0035】
電子放出物質としては、特に低電界での電子放出を目的とする点で、少なくともカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイトナノファイバー、ダイアモンドライクカーボンのいずれかの形態を含む炭素系物質であることが好ましいが、それ以外にも金属材料等で形成することも可能であり、製造方法等により適宜、選定すればよい。
【0036】
カソード電極は、金属基板、半導体基板、または、ガラス基板等の絶縁基板上に製膜された電極材料等で構成する。表示装置を構成する場合には、カソード電極、電子放出部等を形成したカソード側基板と、透明基板に蛍光体を形成したアノード側基板とを対向配置させ、それらの基板で挟まれた領域を真空排気して真空容器を構成することが多い。また、ストライプ状等のパターンで電気的に分割されたカソード電極を用いて画像表示のためのマトリクスを構成することが多い。そのため、表示装置を構成する場合には、真空を保持でき得る強度をもち、フリットガラス等を用いた真空封止が容易であり、少なくとも表面が絶縁性である支持基板上にカソード電極が形成されていることが好ましく、例えば、ガラス基板上にマトリクス用のパターンを形成したカソード電極を用いるとよい。
【0037】
多孔質層は、別途、製造された多孔質膜を電極上に配置固定して形成する。あるいは、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、メッキ法、その他の一般的な製膜手段によって電極上に製膜した金属膜等に対して、陽極酸化法等の多孔質化手段を施すことにより多孔質層を形成してもよい。また、多孔質層の厚膜化、カソード電極との一体形成、等の目的のためには、電極上に配置固定した金属箔、あるいは金属基板等に対して、陽極酸化法等の多孔質化手段を施してもよい。特に、アルミニウムを陽極酸化して形成するアルミナ膜は、細孔の径、及び細孔のピッチの均一性、及び再現性が非常に高く、多孔質層に適している。
【0038】
また、電子放出物質と電極とを電気的に接続する導電性物質を少なくとも細孔内または電極上のいずれかに形成してもよい。それにより、細孔に形成または挿入された電子放出物質である電子放出部が導電性物質によって電極と確実に接続され得、また、電子放出部が導電性物質によって細孔内に確実に固定され得る。さらに、導電性物質が電気抵抗性材料であってもよい。それにより、細孔に形成または挿入された電子放出物質からなる電子放出部は、電気抵抗材料を介して各々が並列に電極と接続されるため、電子放出部からの放出電流にともなう電気抵抗材料部分での電圧降下によって各々の電子放出部からの電子放出特性が穏やかになり、大面積の電子放出デバイスを形成した場合にも電子放出を均一化、安定化させることができる。
【0039】
図2は、電子放出部のピッチと電界集中の割合を表す電界係数の関係を示すグラフであり、電子放出部の直径を20nmとした場合の例を表す。図2のグラフは電子放出部のピッチが1000nm以下の範囲を示しており、また、本発明により設定され得るに好ましい電子放出部のピッチの範囲を表している。この範囲では隣接する電子放出部が相互に影響を受け易いために、ピッチを大きくするに従い電子放出部に電界が集中するようになり、ピッチに対しての電界集中はおおよそ比例関係に近い変化となる。すなわち、例えばピッチが2倍になると電界係数がおおよそ2倍になり、その結果、おおよそ1/2の印加電圧で電子放出が可能となり、同様にピッチが4倍になるとおおよそ1/4の印加電圧で電子放出が可能なる。
【0040】
また、電子放出部の直径に対して電子放出部のピッチが十分に大きい範囲において、多孔質層からの電子放出部の突出量が大きいほど電子放出部に電界が集中する。多孔質層からの電子放出部の突出量に比較して電子放出部のピッチが小さい場合には、隣接する電子放出部からの影響を受けるため、ピッチを大きくするに従い電子放出部に電界が集中する傾向がある。そのため、電子放出部のピッチを大きくすることにより、低電圧での電子放出が可能となる。なお、電子放出部のピッチを大きくする目安としては、最大でも多孔質層からの電子放出部の突出量と同程度までであり、それ以上、ピッチを大きくしても効果的ではない。すなわち、例えば、多孔質層の細孔の直径が20nm、細孔のピッチが50nmの場合に、そこに形成する電子放出部の突出量を2000nmとし、それと同程度であるように電子放出部のピッチを2000nm程度に設定すると、細孔のピッチと電子放出部のピッチ比はおおよそ1:40となる。このときの密度比は、理論的には電子放出部の密度が、細孔の密度のおおよそ1600分の1の関係となる。これらの値がピッチを大きくする上でのおおよその下限値とでき、その他、低電界での電子放出特性、及び電子放出による最大放出電流値等を考慮して、電子放出部のピッチを適宜選定すればよい。
【0041】
次に、多孔質層の細孔の一例として、アルミニウムを陽極酸化して得られるアルミナ膜の細孔について以下に説明する。
図3は、本発明の電子放出デバイスに用いられる多孔質層の形成方法の一実施形態を示す図であり、アルミニウムを陽極酸化してアルミナ膜を形成する工程を表している。陽極酸化によるアルミナ膜は、細孔の径、及び細孔のピッチの均一性、及び再現性が非常に高いという利点を有している。陽極酸化用容器11内の電解液12中に、アルミニウム基板からなるカソード基板13と、陽極酸化用対向電極15とを対向させるよう配置して、カソード基板13が陽極に、陽極酸化用対向電極15が陰極になるようにして電源16により電圧を印加する。
【0042】
他にもカソード基板13として、少なくとも表面がアルミニウムからなり、さらに陽極酸化によって表面にアルミナ膜が形成されても、電圧印加のための導電性が失われない基板を用いればよい。具体的には、表面にアルミニウム膜を製膜する、アルミニウム箔を貼り付ける等を行い表面にアルミニウムを形成した金属基板、半導体基板等を用いる。あるいは、ガラス基板、セラミックス基板等の絶縁性基板上に導電性材料からなるカソード電極を形成し、さらにその上にアルミニウム膜を製摸する、アルミニウム箔を貼り付ける等を行い表面にアルミニウムを形成した基板を用いる。電源16により電圧を印加することにより、カソード基板13の表面には多数の細孔をもつ陽極酸化膜14が形成される。陽極酸化膜の細孔は、陽極酸化条件により決定され得る。
【0043】
図4は、アルミニウムの陽極酸化により形成される細孔のピッチと、陽極酸化を制御する上で重要な条件の一つとなる陽極酸化電圧との関係を表すグラフである。また、グラフ中のパラメータはそれぞれ電解浴の種類を表しており、Aは電解液が4%リン酸で浴温が25℃を、Bは電解液が3%クロム酸で浴温が50℃を、Cは電解液が2%シュウ酸で浴温が25℃を、Dは電解液が15%硫酸で浴温が10℃を、それぞれ表す。例えばAの電解浴では、陽極酸化電圧が20Vのときに細孔のピッチが約70nm、陽極酸化電圧が40Vのときに細孔のピッチが約115nm、陽極酸化電圧が60Vのときに細孔のピッチが約160nmの関係となり、また、例えばDの電解浴では、陽極酸化電圧が15Vのときに細孔のピッチが約36nm、陽極酸化電圧が40Vのときに細孔のピッチが約44nm、陽極酸化電圧が60Vのときに細孔のピッチが約60nmの関係となる。Bの電解浴、及びCの電解浴においても、同様の関係にあり、形成される細孔のピッチが陽極酸化電圧により連続的に変化する。いずれの電解浴種においても陽極酸化電圧の設定により陽極酸化で形成される細孔のピッチを制御することができる。また、上述の例の他にも、電解液の種類、濃度、浴温等の電解浴条件は、陽極酸化を行う基板構成、陽極酸化装置構成、あるいは陽極酸化の反応速度設定等の目的にあわせて適宜、選定、調整すればよい。
【0044】
一方、アルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜は、均一性、再現性の高い細孔を容易に形成することができるが、細孔のピッチを大きくすると、それと同時に細孔の径も大きくなるという特性がある。例えばDの電解浴で形成したアルミナ膜では、細孔のビッチと細孔の直径との関係は、通常、おおよそ3:1〜3:2程度の比率となる。そのため、単純に細孔のピッチを大きくすることで、そこに形成する電子放出部のピッチを大きくしようと試みた場合には、同時に細孔の径も大きくなっているため、径の太い電子放出部で十分な電界集中が得られない等の問題が生じる。また、印加できる陽極酸化電圧にも限度があり、ミクロンオーダーの細孔のピッチが得られるものでもない。
【0045】
本発明の電子放出デバイスでは、細孔の径、及び細孔のピッチを大きくすることなく、多孔質層の細孔を形成するとともに、個々の多孔質層での細孔の密度に比較して、そこに形成される電子放出部の密度が小さくなるように構成される。電子放出部の密度は、例えば、細孔のピッチ等が異なる微細孔を有する多孔質材料を積層し、各層の細孔ピッチのおおよそ最小公倍数となる箇所に電子放出部を形成する等の手段で設定され得るものであって、理論的には電子放出部の密度が細孔の密度のおおよそ4分の1(最小公倍数が2、すなわちピッチの比が1:2であるときの値)以下となるように形成することができる。
【0046】
ここで、積層する多孔質材料に上述のアルミニウムを陽極酸化することによるアルミナ膜を用いると、陽極酸化条件の設定により細孔の径、及び細孔のピッチの均一性、及び再現性が非常に高い多孔質層が形成可能であり、積層化による電子放出部の密度の制御を容易に行うことができる。また、電子放出部は、その形成手段によっては細孔の径に依存して径が太くなってしまうことがあるが、細孔の径が小さい多孔質層を用いることでそれを防ぎ、多孔質層の積層化等の手法により、細孔の密度に対して電子放出部の密度が小さくなるように電子放出部を形成することにより電子放出部の微細性を維持したままで、電子放出部のピッチを大きくすることができる。
【0047】
微細孔を有する多孔質層の積層化による設定可能な電子放出部のピッチは、単なる陽極酸化条件の選定のみによる細孔の広ピッチ化の範囲を大きく超えるものであり、電界集中に関して十分な電子放出部のピッチを設定することが可能である。それにより、電子放出部の微細形状をいかした上に、さらに、電子放出部が離れていることによる電界集中効果が得られるために、低電界で電子放出が可能な電子放出デバイスを構成することができる。なお、微細孔を有する多孔質層の積層方法としては、上述の如く、アルミニウムを製膜後、陽極酸化を行いアルミナ膜を形成する工程を繰り返す方法以外にも、別途形成した微細孔を有する多孔質膜を順次積層配置して構成することも可能である。
次に、本発明の電子放出デバイスの他の実施の形態、及びその製造方法について図面を参照して以下に説明する。
【0048】
[第2の実施の形態]
図5(a)、及び(b)、図6(a)、及び(b)は、本発明の電子放出デバイスの他の実施形態、及びその製造方法を順に表している。
図5(a)に示すように、まず、カソード電極21上に細孔23を有する多孔質層22を形成する。カソード電極21は、簡単のため詳細は図示していないが、ガラス基板、セラミックス基板等の支持基板上に導電性電極を製膜した構成とする。なお、導電性電極は、予め目的に合せたパターニング等を施しておくとよい。また、多孔質層22は、アルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜を用いる。具体的には、カソード電極21上にアルミニウム膜を製膜した後、電解浴中でカソード電極を陽極、対向電極を陰極として電圧を印加し、アルミニウム膜を陽極酸化することによって、多数の細孔を有する陽極酸化膜であるアルミナ膜を形成する。
【0049】
導電性電極、アルミニウム膜等の製膜には、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、メッキ法等の通常の製膜手段を用いればよい。また、アルミニウム膜の形成には、比較的、厚膜であることが好ましいことから、アルミニウムの箔をカソード電極上に配置固定する等の方法を用いてもよい。その他の構成としては、カソード電極21として金属基板、半導体基板等の導電性を有する基板を用いて形成してもよく、また、カソード電極にアルミニウム箔、またはアルミニウム基板を用い、その表面を陽極酸化することによりカソード電極上の多孔質層を形成してもよい。
【0050】
次に、細孔の底部近傍であって、カソード電極21と電気的に接続され得るところに触媒材料27を形成する。触媒材料27には、ニッケルを用いているが、鉄、コバルト等、あるいはそれらの合金でもよく、その他、触媒効果が得られる材料の中から選定すればよい。触媒材料27は、電着法、真空蒸着法、その他、材料に合せた形成方法を用いて形成する。なお、触媒材料は、個々の細孔内に形成するのではなく、予めカソード電極上に製膜されていてもよく、さらにはカソード電極材料自体を触媒効果が得られる材料で形成してもよい。
【0051】
次に、図5(b)に示すように、多孔質層22上に細孔25を有する多孔質層24を形成する。多孔質層24は、多孔質層22と同様にアルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜を用いる。多孔質層22上にアルミニウム膜を製膜した後、電解浴中でカソード電極を陽極、対向電極を陰極として電圧を印加し、アルミニウム膜を陽極酸化することによって、多数の細孔を有する陽極酸化膜であるアルミナ膜を形成する。ここで、多孔質層22と多孔質層24とは、細孔のピッチが異なるように形成する。一例として簡単のため図中では多孔質層22の細孔23のピッチと多孔質層24の細孔25のピッチが3:2の割合となるように表しているが、これに限るものではない。すなわち、細孔23のピッチと細孔25のピッチのおおよそ最小公倍数に相当する箇所のみで多孔質層22と多孔質層24を貫通する細孔が形成される。なお、実際の陽極酸化工程では、多層構造となる陽極酸化膜の細孔ピッチが数学的な正確さで形成、積層され、さらに、細孔位置が完全に一致することは希と考えられるが、本構成により形成され得る貫通する細孔の密度を概算的に制御することは容易である。
【0052】
次に、図6(a)に示すように、CVD法により、原料ガス雰囲気中で触媒材料27を起点に電子放出物質を成長させ、電子放出部26を形成する。ここでは、原料ガスにメタンを用い、1100℃程度でCVDを行い、カーボンナノチューブからなる電子放出部を形成したが、アセチレン、一酸化炭素、等の混合ガスを用いてもよく、その他にも、原料ガス種、温度等の諸条件を選定することにより、カーボンナノファイバー、グラファイトナノファイバー、ダイアモンドライクカーボン等の電子放出特性に優れるカーボン系の電子放出部を形成するとよい。CVDプロセスにおいて、積層された多孔質層22、及び多孔質層24を貫通している細孔では、原料ガスが触媒材料27にまで侵入して電子放出物質が成長し、電子放出部26が形成される。一方、触媒材料が形成されている細孔であっても、上層の多孔質層24により開口が塞がれている細孔では、原料ガスが触媒材料に到達し得ないため、電子放出物質は成長しない。
【0053】
次に、図6(b)に示すように、上層の多孔質層24をエッチング除去することにより、電子放出部26の突出量を調整する。なお、CVDプロセスでの電子放出物質の成長過程で、十分な電子放出部の突出量が得られている場合は、多孔質層24のエッチングを省略してもよく、あるいは、エッチング除去量が下層の多孔質層22にまで及んでも差し支えない。電子放出部の径やピッチ、目的とする電子放出特性等を考慮して、電子放出部の突出量を決定すればよく、独立したエッチング工程で行うことができるために突出量設定の自由度が大きく、作業性もよい。
【0054】
以上のようにして形成された電子放出部においては、一例として簡単のために細孔23のピッチと細孔25のピッチを3:2の割合となるように表している本図の場合を例にとると、電子放出部のピッチは、多孔質層24の細孔のピッチの3倍となり、電子放出部の密度は、細孔の密度の1/9倍となる。すなわち、細孔23のピッチと細孔25のピッチのおおよそ最小公倍数に相当する箇所のみで多孔質層22と多孔質層24を貫通する細孔が形成され、さらに、その細孔のみに電子放出部26が形成される。そのため、微細形状であって、ピッチが離れた電子放出部による低電圧での電子放出特性に優れる電子放出デバイスが形成される。なお、微細孔を有する多孔質層の積層方法としては、上述の如く、アルミニウムを製膜後、陽極酸化を行いアルミナ膜を形成する工程を繰り返す方法以外にも、別途形成した微細孔を有する多孔質膜を順次積層配置して構成することも可能である。
【0055】
[第3の実施の形態]
図7(a)、及び(b)、図8(a)、及び(b)は、本発明の電子放出デバイスのさらに他の実施形態、及びその製造方法を順に表している。
図7(a)に示すように、まず、カソード電極31上に細孔33を有する多孔質層32を形成する。カソード電極31は、簡単のため詳細は図示していないが、ガラス基板、セラミックス基板等の支持基板上に導電性電極を製膜した構成とする。なお、導電性電極は、予め目的に合せたパターニング等を施しておくとよい。また、多孔質層32は、アルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜を用いる。具体的には、カソード電極31上にアルミニウム膜を製膜した後、電解浴中でカソード電極を陽極、対向電極を陰極として電圧を印加し、アルミニウム膜を陽極酸化することによって、多数の細孔を有する陽極酸化膜であるアルミナ膜を形成する。
【0056】
導電性電極、アルミニウム膜等の製膜には、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、メッキ法等の通常の製膜手段を用いればよい。また、アルミニウム膜の形成には、比較的、厚膜であることが好ましいことから、アルミニウムの箔をカソード電極上に配置固定する等の方法を用いてもよい。その他の構成としては、カソード電極31として金属基板、半導体基板等の導電性を有する基板を用いて形成してもよく、また、カソード電極にアルミニウム箔、またはアルミニウム基板を用い、その表面を陽極酸化することによりカソード電極上の多孔質層を形成してもよい。
【0057】
次に、細孔の底部近傍であって、カソード電極31と電気的に接続され得るところに導電性材料37を形成する。導電性材料37は、後述の工程において、融解させて電子放出物質を固定する目的から、基板材料、あるいはカソード電極材料等の他の構成要素に比較して低融点であることを基準に材料を選定する。例えば低融点金属材料等を用いるとよく、その他、電子放出部材料に対してのぬれ性、等を考慮して材料を選定すればよい。導電性材料37は、電解メッキ法、無電解メッキ法、電着法、真空蒸着法、その他、材料に合せた形成方法を用いて形成する。また、導電性材料は、個々の細孔内に形成するのではなく、予めカソード電極上に製膜されていてもよく、さらにはカソード電極材料自体を同様の機能が得られる材料で形成し、導電性材料37を省略してもよい。
【0058】
次に、図7(b)に示すように、多孔質層32上に細孔35を有する多孔質層34を形成する。多孔質層34は、多孔質層32と同様にアルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜を用いる。多孔質層32上にアルミニウム膜を製膜した後、電解浴中でカソード電極を陽極、対向電極を陰極として電圧を印加し、アルミニウム膜を陽極酸化することによって、多数の細孔35を有する陽極酸化膜であるアルミナ膜を形成する。ここで、多孔質層32と多孔質層34とは、細孔のピッチが異なるように形成する。一例として簡単のため図中では細孔33のピッチと細孔35のピッチが2:3の割合となるように表しているが、これに限るものではない。すなわち、細孔33のピッチと細孔35のピッチのおおよそ最小公倍数に相当する箇所のみで多孔質層32と多孔質層34を貫通する細孔が形成される。なお、実際の陽極酸化工程では、多層構造となる陽極酸化膜の細孔ピッチが数学的な正確さで形成、積層され、さらに、細孔位置が完全に一致することは希と考えられるが、本構成により形成され得る貫通する細孔の密度を概算的に制御することは容易である。
【0059】
次に、図8(a)に示すように、電気泳動法により細孔内に電子放出物質を挿入し、電子放出部36を形成する。微細な棒状の電子放出物質を図示しない溶媒中に分散しておき、カソード電極31と、対向配置した電気泳動用の対向電極基板(図示しない)との間に電圧を印加すると、電気泳動法の原理に従って電子放出物質がカソード電極に向かって移動し、その内の一部がカソード電極上に形成されている多孔質膜の細孔内に挿入される。多孔質層32と多孔質層34を貫通する細孔に挿入された電子放出物質は、導電性材料37を介してカソード電極と電気的に接続され、さらには、低融点金属材料等からなる導電性材料の加熱、冷却プロセスなどを経て固定され得る。一方、貫通していない多孔質層34の細孔35に挿入された電子放出物質36aは、カソード電極とは電気的に接続されず、固定されこともない。
【0060】
電気泳動法による電子放出部の形成では、別工程で製造したナノオーダーサイズのチューブ状、あるいはファイバー状等の形状を有する電子放出物質を用いて電子放出デバイスを製造することができる。別途、安価に大量生産された形状を有する電子放出物質を用いて電子放出デバイスを製造することが可能であり、また、特性向上の観点からも、電子放出物質の製造工程で実施される高温工程、例えばカーボンナノチューブの場合の黒鉛化処理は2800℃程度の高温で行うことで良質なカーボンナノチューブが形成される、等を電子放出デバイス製造工程とは別工程で行うことができるとともに、電子放出デバイス作製時の温度を低温化することができ、電子放出デバイスを構成する基板等を耐熱性の低い安価な材料で構成することが可能となる。
【0061】
次に、図8(b)に示すように、上層の多孔質層34、下層の多孔質層32等をエッチング除去することにより、電子放出部36の突出量を調整する。なお、電気泳動工程における電子放出物質の長さと細孔の深さの兼ね合いから、十分な電子放出部の突出量が得られている場合には、多孔質層のエッチングを省略してもよいが、上層の多孔質層34のみに挿入されておりカソード電極と電気的に接続されていない電子放出物質36aは、超音波洗浄等により除去する方が好ましい。なお、電子放出部の突出量は、電気泳動に使用する電子放出材料の長さと多孔質層の厚さを設定しておくことにより、容易に調整可能である。また、長さの不揃いな電子放出物質を用いて電気泳動を行い、細孔に電子放出物質を挿入した後に、電子放出物質の多孔質層34から突出している部分を除去することで電子放出部の長さを揃えた後に、上層の多孔質層34、下層の多孔質層32等をエッチング除去することにより、電子放出部36の突出量を調整してもよい。いずれにしても、電子放出部の径やピッチ、目的とする電子放出特性等を考慮して、電子放出部の突出量を決定すればよく、独立したエッチング工程で行うことができるために突出量設定の自由度が大きく、作業性もよい。
【0062】
以上のようにして形成された電子放出部においては、一例として簡単のために細孔33のピッチと細孔35のピッチを2:3の割合となるように表している本図の場合を例にとると、電子放出部のピッチは、多孔質層34の細孔のピッチの2倍となり、電子放出部の密度は、細孔の密度の1/4倍となる。すなわち、細孔33のピッチと細孔35のピッチのおおよそ最小公倍数に相当する箇所のみで多孔質層32と多孔質層34を貫通する細孔が形成され、さらに、その細孔のみに電子放出部36が形成される。そのため、微細形状であって、ピッチが離れた電子放出部による低電圧での電子放出特性に優れる電子放出デバイスが形成される。なお、微細孔を有する多孔質層の積層方法としては、上述の如く、アルミニウムを製膜後、陽極酸化を行いアルミナ膜を形成する工程を繰り返す方法以外にも、別途形成した微細孔を有する多孔質膜を順次積層配置して構成することも可能である。
【0063】
[第4の実施の形態]
図9(a)、及び(b)、図10(a)、及び(b)は、本発明の電子放出デバイスのさらに他の一実施形態、及びその製造方法を順に表している。
図9(a)に示すように、まず、カソード電極41上に細孔43を有する多孔質層42を形成する。カソード電極41は、簡単のため詳細は図示していないが、ガラス基板、セラミックス基板等の支持基板上に導電性電極を製膜した構成とする。なお、導電性電極は、予め目的に合せたパターニング等を施しておくとよい。また、多孔質層42は、アルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜を用いる。具体的には、カソード電極41上にアルミニウム膜を製膜した後、電解浴中でカソード電極を陽極、対向電極を陰極として電圧を印加し、アルミニウム膜を陽極酸化することによって、多数の細孔を有する陽極酸化膜であるアルミナ膜を形成する。
【0064】
導電性電極、アルミニウム膜等の製膜には、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、メッキ法等の通常の製膜手段を用いればよい。また、アルミニウム膜の形成には、比較的、厚膜であることが好ましいことから、アルミニウムの箔をカソード電極上に配置固定する等の方法を用いてもよい。その他の構成としては、カソード電極41として金属基板、半導体基板等の導電性を有する基板を用いて形成してもよく、また、カソード電極にアルミニウム箔、またはアルミニウム基板を用い、その表面を陽極酸化することによりカソード電極上の多孔質層を形成してもよい。
【0065】
次に、図9(b)に示すように、多孔質層42上に細孔45を有する多孔質層44を形成する。多孔質層44は、多孔質層42と同様にアルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜を用いる。多孔質層42上にアルミニウム膜を製膜した後、電解浴中でカソード電極を陽極、対向電極を陰極として電圧を印加し、アルミニウム膜を陽極酸化することによって、多数の細孔を有する陽極酸化膜であるアルミナ膜を形成する。ここで、多孔質層42と多孔質層44とは、細孔のピッチが異なるように形成する。一例として簡単のため図中では細孔43のピッチと細孔45のピッチが3:2の割合となるように表しているが、これに限るものではない。すなわち、細孔43のピッチと細孔45のピッチのおおよそ最小公倍数に相当する箇所のみで多孔質層42と多孔質層44を貫通する細孔が形成される。なお、実際の陽極酸化工程では、多層構造となる陽極酸化膜の細孔ピッチが数学的な正確さで形成、積層され、さらに、細孔位置が完全に一致することは希と考えられるが、本構成により形成され得る貫通する細孔の密度を概算的に制御することは容易である。
【0066】
次に、図10(a)に示すように、CVD法により原料ガス雰囲気中で細孔壁面に電子放出物質を付着形成し、電子放出部46を形成する。ここでは、原料ガスにプロピレンを用い、600℃程度でCVDを行い、アルミナ膜に選択的に付着するカーボンナノファイバーからなる電子放出部を形成したが、その他にも、原料ガス種、温度等の諸条件を選定することにより、カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー、ダイアモンドライクカーボン等の電子放出特性に優れるカーボン系の電子放出部を形成するとよい。CVDプロセスにおいて、積層された多孔質層42及び多孔質層44を貫通している細孔では、原料ガスがカソード電極にまで達し、カソード電極に電気的に接続された電子放出部46が形成される。一方、上層の多孔質層24のみで塞がれてカソード電極まで達していない細孔においても、原料ガスにより電子放出物質48が形成されるが、カソード電極には電気的に接続されない。
【0067】
また、これ以外にも、細孔内に電子放出物質を形成する手段が、原料が溶解した電解液中で細孔内に電子放出物質を析出形成させる電解析出法であってもよい。電極上で積層された細孔を有する多孔質層に対して、原料が溶解した電解液中にあって、多孔質層の表面に開口を有する細孔に電解液が侵入し、その細孔内に電子放出物質が析出形成される。そのため、多孔質層の表面から電極まで貫通し得る細孔に電極まで達する、すなわち、電極に電気的に接続される電子放出部が形成され、それ以外の細孔には電極に電気的に接続された電子放出部は形成されず、目的の細孔にのみ電子放出部を形成することができる。
【0068】
次に、図10(b)に示すように、上層の多孔質層44、下層の多孔質層42等をエッチング除去することにより、電子放出部46の突出量を調整する。なお、細孔の内壁に付着形成されるCVDプロセスであるために、電子放出部の長さは、上層の多孔質層44とほぼ同じ長さとなる。そのため、上層の多孔質層44、下層の多孔質層42等をエッチング除去することにより、電子放出部46の突出量を調整すればよい。また、上層の多孔質層44の細孔のみに形成されておりカソード電極と電気的に接続されていない電子放出物質48は、多孔質層のエッチング除去とともに除去することができる。なお、電子放出部の径やピッチ、目的とする電子放出特性等を考慮して、電子放出部の突出量を決定すればよく、独立したエッチング工程で行うことができるために突出量設定の自由度が大きく、作業性もよい。
【0069】
以上のようにして形成された電子放出部においては、一例として簡単のために細孔43のピッチと細孔45のピッチを3:2の割合となるように表している本図の場合を例にとると、電子放出部のピッチは、多孔質層44の細孔のピッチの3倍となり、電子放出部の密度は、細孔の密度の1/9倍となる。すなわち、細孔43のピッチと細孔45のピッチのおおよそ最小公倍数に相当する箇所のみで多孔質層42と多孔質層44を貫通する細孔が形成され、さらに、その細孔のみに電子放出部46が形成される。そのため、微細形状であって、ピッチが離れた電子放出部による低電圧での電子放出特性に優れる電子放出デバイスが形成される。なお、微細孔を有する多孔質層の積層方法としては、上述の如く、アルミニウムを製膜後、陽極酸化を行いアルミナ膜を形成する工程を繰り返す方法以外にも、別途形成した微細孔を有する多孔質膜を順次積層配置して構成することも可能である。また、本実施例では、電子放出部を原料ガス雰囲気中で細孔壁面に電子放出物質を付着形成させるCVD法により形成したが、これに限るものではなく、例えば、原料が溶解した電解液中で細孔内に電子放出物質を析出形成させる電解析出法により電子放出部を形成してもよく、それにより、デバイス作製時の温度を低温化することができ、電子放出デバイスを構成する基板等を耐熱性の低い安価な材料で構成することが可能となる。
【0070】
[第5の実施の形態]
図11(a)、(b)、(c)、及び(d)は、本発明の電子放出デバイスのさらに他の実施形態、及びその製造方法を順に表しており、特に、アルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜による多孔質層を積層構造化する場合に適した構造を示している。
図11(a)に示すように、カソード電極51上に多層構造となる多孔質層52、及び多孔質層54を形成する。ここで、多孔質層には、アルミニウムを陽極酸化して形成した細孔を有するアルミナ膜を用いる。詳しくは、まず、カソード電極51上にアルミニウム層を製膜後、カソード電極51を陽極に、図示しない陽極酸化用の対向電極基板を陰極にして、電解液中で両電極を対向配置して電圧を印加し、細孔53を有するアルミナ膜である多孔質層52を形成する。次に、陽極酸化用電極膜57を形成し、その上にアルミニウム層を製膜後、陽極酸化用電極膜57を陽極に、図示しない陽極酸化用の対向電極基板を陰極にして、電解液中で両電極を対向配置して電圧を印加し、細孔55を有するアルミナ膜である多孔質層54を形成する。陽極酸化工程において、アルミニウムがアルミナになるに従い、膜の導電性が失われる。しかしながら、陽極酸化用電極膜57を形成し、上層の陽極酸化時の電圧印加を行うことにより、下層の多孔質層52の状態にかかわらず、上層の多孔質層54を形成する陽極酸化を再現性よく行うことができる。さらに、同様の工程を繰り返すことによって、3層以上の多孔質層を形成することも容易であり、細孔の径、及び細孔のピッチの均一性、及び再現性が非常に高い多孔質層が得られるアルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜の特長をいかした、多層構造の多孔質層を形成することができる。
【0071】
図11(b)に示すように、上層の多孔質層54に形成された細孔55の底部にある陽極酸化用電極膜57をエッチング除去することにより、貫通孔58を形成する。細孔53と細孔55の位置が一致している場所では、貫通孔58により細孔が接続されカソード電極まで達するが、それ以外の場所では、陽極酸化用電極膜57の一部分が細孔径程度に除去されるのみである。
図11(c)に示すように、CVD法により原料ガス雰囲気中で細孔壁面に電子放出物質を付着形成し、電子放出部56を形成する。ここでは、原料ガスにプロピレンを用い、600℃程度でCVDを行い、アルミナ膜に選択的に付着するカーボンナノファイバーからなる電子放出部を形成したが、その他にも、原料ガス種、温度等の諸条件を選定することにより、カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー、ダイアモンドライクカーボン等の電子放出特性に優れるカーボン系の電子放出部を形成するとよい。CVDプロセスにおいて、貫通孔58により接続され、積層された多孔質層52及び多孔質層54を貫通している細孔では、原料ガスがカソード電極51にまで達し、カソード電極51に電気的に接続された電子放出部56が形成される。一方、上層の多孔質層54のみで塞がれてカソード電極51まで達していない細孔55においても、原料ガスにより電子放出物質59が形成されるが、カソード電極には電気的に接続されない。
【0072】
図11(d)に示すように、上層の多孔質層54、陽極酸化用電極膜57、下層の多孔質層54等をエッチング除去することにより、電子放出部56の突出量を調整する。なお、細孔の内壁に付着形成されるCVDプロセスであるために、電子放出部の長さは、上層の多孔質層54とほぼ同じ高さとなる。そのため、上層の多孔質層54、陽極酸化用電極膜57、下層の多孔質層52等をエッチング除去することにより、電子放出部56の突出量を調整すればよい。また、上層の多孔質層54の細孔のみに形成されておりカソード電極と電気的に接続されていない電子放出物質59は、多孔質層や陽極酸化用電極膜のエッチング除去とともに除去することができる。なお、電子放出部の径やピッチ、目的とする電子放出特性等を考慮して、電子放出部の突出量を決定すればよく、独立したエッチング工程で行うことができるために突出量設定の自由度が大きく、作業性もよい。
【0073】
本実施例では、電子放出部を原料ガス雰囲気中で細孔壁面に電子放出物質を付着形成させるCVD法により形成したが、これに限るものではなく、例えば、原料が溶解した電解液中で細孔内に電子放出物質を析出形成させる電解析出法、細孔内に予め触媒材料を形成しておき、原料ガス雰囲気中で触媒材料を起点に電子放出物質を成長形成させるCVD法、細孔内に予め固着材料を形成しておき、形状を有する電子放出物質を分散させた溶媒中で電界を印加することにより細孔内に電子放出物質を挿入し、固着させる電気泳動法、その他の方法により電子放出部を形成することも可能である。
【0074】
以上のようにして形成された電子放出部においては、一例として簡単のために細孔53のピッチと細孔55のピッチを3:2の割合となるように表している本図の場合を例にとると、電子放出部のピッチは、多孔質層54の細孔のピッチの3倍となり、電子放出部の密度は、細孔の密度の1/9倍となる。すなわち、細孔53のピッチと細孔55のピッチのおおよそ最小公倍数に相当する箇所のみで多孔質層52と多孔質層54を貫通する細孔が形成され、さらに、その細孔のみに電子放出部56が形成される。また、多孔質層の積層は、2層に限るものではなく、細孔のピッチの異なる多孔質層をさらに積層して、そのピッチのおおよそ最小公倍数に相当する箇所のみに電子放出部を形成することにより、電子放出部のピッチを離した構造とすることができる。それにより、微細形状であって、ピッチが離れた電子放出部による低電圧での電子放出特性に優れる電子放出デバイスが形成される。
【0075】
[第6の実施の形態]
図12(a)、(b)、(c)、及び(d)は、本発明の電子放出デバイスのさらに他の実施形態、及びその製造方法を順に表しており、特に、アルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜による多孔質層を積層構造化する場合に適した構造を示している。
図12(a)に示すように、カソード電極61上に多孔質層62を形成し、多孔質層の細孔63内に触媒材料67を充填する。詳しくは、まず、カソード電極61上にアルミニウム層を製膜後、カソード電極61を陽極に、図示しない陽極酸化用の対向電極基板を陰極にして、電解液中で両電極を対向配置して電圧を印加し、細孔63を有するアルミナ膜である多孔質層62を形成する。次に、導電性材料であって、さらに後工程のCVD法による電子放出材料形成時に触媒となる触媒材料67を、メッキ法等により細孔63内に充填する。
【0076】
図12(b)に示すように、多孔質層62上にアルミニウム層を製膜後、カソード電極61を陽極に、図示しない陽極酸化用の対向電極基板を陰極にして、電解液中で両電極を対向配置して電圧を印加し、細孔65を有するアルミナ膜である多孔質層64を形成する。陽極酸化工程において、アルミニウムがアルミナになるに従い、膜の導電性が失われる。しかしながら、カソード電極61、及び導電性材料である触媒材料67を介して、多孔質層62上に形成したアルミニウム層に陽極酸化時の電圧が印加されるため、上層の多孔質層64を形成する陽極酸化を再現性よく行うことができる。さらに、同様の工程を繰り返すことによって、3層以上の多孔質層を形成することも容易であり、細孔の径、及び細孔のピッチの均一性、及び再現性が非常に高い多孔質層が得られるアルミニウムを陽極酸化したアルミナ膜の特長をいかした、多層構造の多孔質層を形成することができる。
【0077】
図12(c)に示すように、CVD法により原料ガス雰囲気中で触媒材料67を起点に電子放出物質を成長させ、電子放出部66を形成する。ここでは、原料ガスにメタンを用い、1100℃程度でCVDを行い、カーボンナノチューブからなる電子放出部を形成したが、その他にも、アセチレン、一酸化炭素、等の混合ガスを用いてもよく、原料ガス種、温度等の諸条件を選定することにより、カーボンナノファイバー、グラファイトナノファイバー、ダイアモンドライクカーボン等の電子放出特性に優れるカーボン系の電子放出部を形成するとよい。CVDプロセスにおいて、多孔質層64の細孔65の中で、積層された多孔質層62の細孔63に充填された触媒材料67まで貫通している細孔では、原料ガスが触媒材料67にまで侵入して電子放出物質が成長し、電子放出部66が形成される。一方、触媒材料が充填されている細孔であっても、上層の多孔質層64により開口が塞がれている細孔では、原料ガスが触媒材料に到達し得ないため、電子放出物質は成長しない。
【0078】
図12(d)に示すように、上層の多孔質層64をエッチング除去することにより、電子放出部66の突出量を調整する。なお、CVDプロセスでの電子放出物質の成長過程で、十分な電子放出部の突出量が得られている場合は、多孔質層のエッチングを省略してもよく、あるいは、エッチング除去量が下層の多孔質層62にまで及んでも差し支えない。電子放出部の径やピッチ、目的とする電子放出特性等を考慮して、電子放出部の突出量を決定すればよく、独立したエッチング工程で行うことができるために突出量設定の自由度が大きく、作業性もよい。
【0079】
本実施例では、電子放出部を細孔内に予め触媒材料を形成しておき、原料ガス雰囲気中で触媒材料を起点に電子放出物質を成長形成させるCVD法により形成したが、これに限るものではなく、例えば、原料ガス雰囲気中で細孔壁面に電子放出物質を付着形成させるCVD法、原料が溶解した電解液中で細孔内に電子放出物質を析出形成させる電解析出法、細孔内に予め固着材料を形成しておき、形状を有する電子放出物質を分散させた溶媒中で電界を印加することにより細孔内に電子放出物質を挿入し、固着させる電気泳動法、その他の方法により電子放出部を形成することも可能であり、電子放出部形成方法に合せて、多孔質層のエッチング除去量等を選定すればよい。
【0080】
以上のようにして形成された電子放出部においては、一例として簡単のために細孔63のピッチと細孔65のピッチを3:2の割合となるように表している本図の場合を例にとると、電子放出部のピッチは、多孔質層64の細孔のピッチの3倍となり、電子放出部の密度は、細孔の密度の1/9倍となる。すなわち、細孔63のピッチと細孔65のピッチのおおよそ最小公倍数に相当する箇所のみで多孔質層62と多孔質層64を貫通する細孔が形成され、さらに、その細孔のみに電子放出部66が形成される。また、多孔質層の積層は、2層に限るものではなく、細孔のピッチの異なる多孔質層をさらに積層して、そのピッチのおおよそ最小公倍数に相当する箇所のみに電子放出部を形成するヒとにより、電子放出部のピッチを離した構造とすることができる。それにより、微細形状であって、ピッチが離れた電子放出部による低電圧での電子放出特性に優れる電子放出デバイスが形成される。
【0081】
[第7の実施の形態]
図13(a)、(b)、及び(c)は、本発明の電子放出デバイスのさらに他の実施形態、及びその製造方法を順に表している。
図13(a)に示すように、カソード電極71上に細孔73を有する多孔質層72、細孔75を有する多孔質層74、及び細孔77を有する多孔質層76を、順次形成する。各多孔質層の細孔のピッチは、上層になるにしたがってピッチが狭くなるように、それと同時に細孔の径も小さくなるように構成する。ここでは、一例として簡単のために細孔73、細孔75、及び細孔77の各々のピッチを、4:3:2となるように表している。
【0082】
図13(b)に示すように、CVD法により原料ガス雰囲気中で細孔壁面に電子放出物質を付着形成し、電子放出部78を形成する。ここでは、原料ガスにプロピレンを用い、600℃程度でCVDを行い、アルミナ膜に選択的に付着するカーボンナノファイバーからなる電子放出部を形成したが、その他にも、原料ガス種、温度等の諸条件を選定することにより、カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー、ダイアモンドライクカーボン等の電子放出特性に優れるカ一ボン系の電子放出部を形成するとよい。CVDプロセスにおいて、積層構成である多孔質層72、多孔質層74、及び多孔質層76を貫通している細孔では、原料ガスがカソード電極にまで達し、カソード電極に電気的に接続された電子放出部78が形成される。一方、上層の多孔質層76のみで貫通しておりカソード電極71まで達していない細孔においても、また、上層の多孔質層76及び多孔質層74のみで貫通しておりカソード電極71まで達していない細孔においても、原料ガスにより電子放出物質79a、79bが形成されるが、それらはカソード電極には電気的に接続されない。
【0083】
また、これ以外にも、細孔内に電子放出物質を形成する手段が、原料が溶解した電解液中で細孔内に電子放出物質を析出形成させる電解析出法であってもよい。電極上で積層された細孔を有する多孔質層に対して、原料が溶解した電解液中にあって、多孔質層の表面に開口を有する細孔に電解液が侵入し、その細孔内に電子放出物質が析出形成される。そのため、多孔質層の表面から電極まで貫通し得る細孔に電極まで達する、すなわち、電極に電気的に接続される電子放出部が形成され、それ以外の細孔には電極に電気的に接続された電子放出部は形成されず、目的の細孔にのみ電子放出部を形成することができる。
【0084】
図13(c)に示すように、上層の多孔質層76、及び多孔質層74等をエッチング除去することにより、電子放出部78の突出量を調整する。なお、細孔の内壁に付着形成されるCVDプロセスであるために、電子放出部の長さは、上層の多孔質層76とほぼ同じ長さとなる。そのため、上層の多孔質層76、及び多孔質層74等をエッチング除去することにより、電子放出部78の突出量を調整すればよい。また、上層の多孔質層76の細孔、あるいは多孔質層74の細孔のみに形成されておりカソード電極と電気的に接続されていない電子放出物質79a、79bは、多孔質層のエッチング除去とともに除去することができる。なお、電子放出部の径やピッチ、目的とする電子放出特性等を考慮して、電子放出部の突出量を決定すればよく、独立したエッチング工程で行うことができるために突出量設定の自由度が大きく、作業性もよい。
【0085】
以上のようにして形成された電子放出部においては、一例として簡単のために細孔73、細孔75、及び細孔77の各々のピッチを、4:3:2の割合となるように表している本図の場合を例にとると、電子放出部のピッチは、多孔質層76の細孔のピッチの6倍となり、電子放出部の密度は、細孔の密度の1/36倍となる。細孔のピッチの組合せを選定することによって、電子放出部のピッチをさらに拡大することは容易である。すなわち、細孔73、細孔75、及び細孔77の各々のピッチのおおよそ最小公倍数に相当する箇所のみで積層構成である多孔質層72、多孔質層74、及び多孔質層76を貫通する細孔が形成され、さらに、その細孔のみにカソード電極に電気的に接続した電子放出部78が形成される。また、各多孔質層の細孔のピッチは、上層になるにしたがってピッチが狭くなるように、かつ、それと同時に細孔の径も小さくなるように構成するとよい。それにより、先端は径が細く、根元は径が太い電子放出部が形成されるため、微細形状であって、ピッチが離れた電子放出部による低電圧での電子放出特性に優れる電子放出デバイスを構成することができる。また、本実施例では、電子放出部を原料ガス雰囲気中で細孔壁面に電子放出物質を付着形成させるCVD法により形成したが、これに限るものではなく、例えば、原料が溶解した電解液中で細孔内に電子放出物質を析出形成させる電解析出法により電子放出部を形成してもよく、それにより、デバイス作製時の温度を低温化することができ、電子放出デバイスを構成する基板等を耐熱性の低い安価な材料で構成することが可能となる。
【0086】
[第8の実施の形態]
図14(a)、(b)、及び(c)は、本発明の電子放出デバイスのさらに他の実施形態、及びその製造方法を順に表している。
図14(a)に示すように、カソード電極81上に細孔83を有する多孔質層82、細孔85を有する多孔質層84、及び細孔87を有する多孔質層86を、順次形成する。各多孔質層の細孔のピッチは、上層になるにしたがってピッチが広くなるように、それと同時に細孔の径も大きくなるように構成する。ここでは、一例として簡単のために細孔83、細孔85、及び細孔87の各々のピッチを、2:3:4となるように表している。また、細孔83の底部近傍であって、カソード電極と電気的に接続され得るところに導電性材料89を形成しておく。導電性材料89は、後述の工程において、融解させて電子放出物質を固定する目的から、基板材料、あるいはカソード電極材料等の他の構成要素に比較して低融点であることを基準に材料を選定する。例えば低融点金属材料等を用いるとよく、その他、電子放出部材料に対してのぬれ性、等を考慮して材料を選定すればよい。導電性材料89は、多孔質層82を形成した後に、電解メッキ法、無電解メッキ法、電着法、真空蒸着法、その他、材料に合せた形成方法を用いて形成する。また、導電性材料は、個々の細孔内に形成するのではなく、予めカソード電極上に製膜されていてもよく、さらにはカソード電極材料自体を同様の機能が得られる材料で形成し、導電性材料89を省略してもよい。
【0087】
図14(b)に示すように、電気泳動法により細孔内に電子放出物質を挿入し、電子放出部88を形成する。微細な棒状の電子放出物質を図示しない溶媒中に分散しておき、カソード電極81と、対向配置した電気泳動用の対向電極基板(図示しない)との間に電圧を印加すると、電気泳動法の原理に従って電子放出物質がカソード電極に向かって移動し、その内の一部がカソード電極上に形成されている多孔質膜の細孔内に挿入される。多孔質層82、多孔質層84、及び多孔質層86を貫通する細孔に挿入された電子放出物質は、導電性材料89を介してカソード電極と電気的に接続され、さらには、低融点金属材料等からなる導電性材料の加熱、冷却プロセスなどを経て固定され得る。一方、貫通していない多孔質層84、多孔質層86等の細孔に挿入された電子放出物質90は、カソード電極とは電気的に接続されず、固定されることもない。また、電気泳動法により電子放出部を形成する場合には、積層された各多孔質層の細孔のピッチが、上層になるにしたがってピッチが広くなるように、それと同時に細孔の径も大きくなるように構成するとよい。上層部の多孔質層の細孔径が大きいために、電気泳動法により電子放出物質の一端が細孔に挿入され易く、下層部の多孔質層の細孔径が小さいために、細孔に挿入され、カソード電極に接続される電子放出物質の固定が容易となるという利点がある。
【0088】
電気泳動法による電子放出部の形成では、別工程で製造したナノオーダーサイズのチューブ状、あるいはファイバー状等の形状を有する電子放出物質を用いて電子放出デバイスを製造することができる。別途、安価に大量生産された形状を有する電子放出物質を用いて電子放出デバイスを製造することが可能であり、また、特性向上の観点からも、電子放出物質の製造工程で実施される高温工程、例えばカーボンナノチューブの場合の黒鉛化処理は2800℃程度の高温で行うことで良質なカーボンナノチューブが形成される、等を電子放出デバイス製造工程とは別工程で行うことができるとともに、電子放出デバイス作製時の温度を低温化することができ、電子放出デバイスを構成する基板等を耐熱性の低い安価な材料で構成することが可能となる。
【0089】
次に、図14(c)に示すように、多孔質層86、多孔質層84等をエッチング除去することにより、電子放出部88の突出量を調整する。なお、電気泳動工程における電子放出物質の長さと細孔の深さの兼ね合いから、十分な電子放出部の突出量が得られている場合には、多孔質層のエッチングを省略してもよいが、多孔質層86、あるいは多孔質層84のみに挿入されておりカソード電極と電気的に接続されていない電子放出物質は、超音波洗浄等により除去する方が好ましい。なお、電子放出部の突出量は、電気泳動に使用する電子放出材料の長さと多孔質層の厚さを設定しておくことにより、容易に調整可能である。また、長さの不揃いな電子放出物質を用いて電気泳動を行い、細孔に電子放出物質を挿入した後に、電子放出物質の多孔質層86から突出している部分を除去することで電子放出部の長さを揃えた後に、多孔質層86、多孔質層84等をエッチング除去することにより、電子放出部88の突出量を調整してもよい。いずれにしても、電子放出部の径やピッチ、目的とする電子放出特性等を考慮して、電子放出部の突出量を決定すればよく、独立したエッチング工程で行うことができるために突出量設定の自由度が大きく、作業性もよい。
【0090】
以上のようにして形成された電子放出部においては、一例として簡単のために細孔83、細孔85、及び細孔87の各々のピッチを、2:3:4の割合となるように表している本図の場合を例にとると、電子放出部のピッチは、多孔質層86の細孔のピッチの3倍となり、電子放出部の密度は、細孔の密度の1/9倍となる。すなわち、細孔83のピッチと細孔85のピッチと細孔87のピッチのおおよそ最小公倍数に相当する箇所のみで多孔質層82と多孔質層84と多孔質層86を貫通する細孔が形成され、さらに、その細孔のみに電子放出部88が形成される。そのため、微細形状であって、ピッチが離れた電子放出部による低電圧での電子放出特性に優れる電子放出デバイスが形成される。
【0091】
[第9の実施の形態]
図15は、本発明の電子放出デバイスで構成される表示装置の一実施形態を表す部分断面斜視図である。電子放出側基板として、カソード電極101上に細孔を有する多孔質層102が形成され、上述のいずれかの製造方法によって、多孔質層の細孔の密度に対しておおよそ4分の1以下の密度で電子放出部103が形成される。さらに、電子放出側基板には、下部絶縁層104と下部ゲート電極105,106,107、及び上部絶縁層108と上部ゲート電極109,110,111とが形成され、電子放出部まで達する開口部112が形成されている。互いに交差するように形成されたライン状電極である下部ゲート電極105,106,107、と上部ゲート電極109,110,111とにより画像表示のためのマトリクスが形成される。また、発光側基板として、透明基板113上に透明電極114が形成され、さらに透明電極上に蛍光体115,116,117が形成され、開口部112と対向する位置に配置される。カラー表示を行う場合には、蛍光体115,116,117は、それぞれR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の3種類の蛍光体で構成され、それぞれの蛍光体領域を分割するようにブラックマトリクス118が形成される。電子放出側基板と発光側基板とは対向配置され、両基板で挟まれた空間は真空排気され、真空で封止され、表示装置が形成される。
【0092】
このような構成において、各電極間の配置を、電子放出部とアノード電極間の距離:dAを約1mm、電子放出部と下部ゲート電極間の距離:dG1を約3μm、電子放出部と上部ゲート電極間の距離:dG2を約6μmとなるように設定した。また、各電極間の電圧を、電子放出部とアノード電極間の印加電位差:VAを約5kVで一定とし、マトリクスで選択した下部ゲート電極、及び上部ゲート電極に対し、電子放出部と下部ゲート電極間の印加電位差:VG1を3〜9V、電子放出部と上部ゲート電極間の印加電位差:VG2を6〜18Vとなるように印加した。なお、ここで各電極により発生する電界強度は、
VA/dA = 5kV/1mm = 5V/μm、
VG1/dG1 = 9V/3μm = 3V/μm、
VG2/dG2 = 18V/6μm = 3V/μm、
であると見積もられ、
VA/dA≧VGn/dGn(n:1,2,…)、
の関係式を満足している。
【0093】
本発明の電子放出デバイスは、電子放出部のピッチを離すことで電子放出部の微細形状をいかした電界集中効果が得られ、低電界での電子放出が可能であるという特長を有しているため、蛍光側基板の透明電極に印加した電圧(5〜10kV)のみで電子を放出させることができる。それにより構成される表示装置においては、マトリクスを構成する下部ゲート電極、及び上部ゲート電極への電圧印加によって電子放出箇所、すなわち蛍光体の発光箇所を特定し、さらには放出電流量を制御して発光輝度を制御して画像表示を行うことが可能となる。
【0094】
すなわち、本発明の電子放出デバイスの低電界での電子放出が可能であるという特長により、カソード電極上に形成した電子放出部に対して、電子放出を制御するゲート電極をサブミクロンオーダーで近接させる必要がなく、また、ゲート電極へ印加する電圧も低電圧化することができ、多層構造で配置した複数のゲート電極で電子放出を制御するような表示装置を構成することもできる。そのため、互いに交差するように配置したカソード電極とゲート電極によって表示箇所を特定するマトリクスを構成する、あるいは、互いに交差するように配置した第1のゲート電極と第2のゲート電極によってマトリクスを構成する、あるいは、放出電子制御等の目的でさらにゲート電極を追加した多層ゲート電極構造等の表示装置構成とすることができる。また、画像表示のための電子放出箇所を特定するマトリクスを互いに交差するように配置した少なくとも2段のゲート電極で構成した場合には、電子放出にともなう放出電流が流れるカソード電極、及びアノード電極を微細配線化することなくマトリクスを形成することができる。これにより、微細配線に電流が流れることによる電圧降下、応答遅れ、消費電力の増大、等の問題の発生が少なく、マトリクス制御回路には低電圧、低負荷対応の、例えば通常の液晶駆動回路等で一般的な電圧制御型のマトリクス駆動回路等を用いることができ、ドライバIC等を含め、安価にシステムを構成することが可能となる。
また、表示装置の駆動方法として、カソード電極とアノード電極間の距離:dA、カソード電極とアノード電極間の印加電位差:VA、カソード電極とゲート電極Gn(n=1,2,…)問の距離:dGn、カソード電極とゲート電極Gn(n=1,2,…)問の印加電位差:VGnが、VA/dA≧VGn/dGn(n=1,2,…)の関係となる範囲で電子放出デバイスからの電子放出を制御する。
【0095】
このように駆動することにより、低電界での電子放出が可能である電子放出デバイスの特長をいかし、アノード電極への印加電位により電子放出をさせる表示装置の駆動が可能となる。例えば、カソード電極とゲート電極によって表示箇所を特定するマトリクスを構成した場合には、アノード電極への印加電位によりカソード電極に形成した電子放出部近傍に電子放出に必要十分な電界を発生させ、ゲート電極への印加電位によりアノード電極からの電界の電子放出部への侵入を抑制することで、カソード電極とゲート電極によって特定される電子放出部からの電子放出を制御することができる。また、第1のゲート電極と第2のゲート電極によってマトリクスを構成した場合には、アノード電極への印加電位によりカソード電極に形成した電子放出部近傍に電子放出に必要十分な電界を発生させ、第1のゲート電極、及び第2のゲート電極への印加電圧によりアノード電極による電界の電子放出部への侵入を個別に抑制する働きをさせることで、第1のゲート電極と第2のゲート電極によって特定される電子放出部からの電子放出を制御することができる。そのため、電子放出は、マトリクスで選定される電子放出部のみで起こり、放出電流は、微細配線ではないカソード電極、及びアノード電極のみに流れ、マトリクスを構成している微細配線である第1のゲート電極、及び第2のゲート電極には流れないため、高精細大画面の表示装置を構成しても、マトリクスを構成する微細配線の電圧降下等による不具合の発生がない表示装置を構成することができる。
【0096】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、微細孔を有する多孔質材料を用いた電子放出デバイスであって、微細孔のピッチに比較して電子放出部のピッチを離して形成することで電子放出部の微細形状をいかした電界集中効果を得、低電界での電子放出を可能とする電子放出デバイスを提供することができる。また、電子放出デバイスの製造方法において、細孔のピッチの異なる多孔質層を多層構造として用いることにより、電子放出部のピッチの設定を容易とした電子放出デバイスの製造方法を提供することができる。
【0097】
さらに、低電界での電子放出を可能とした電子放出デバイスの特性によって実現され得る表示装置であって、低電界での電子放出による蛍光体の発光表示、及びその制御が可能であり、画像表示のために形成したマトリクスの制御回路系の負荷が小さく、安価にシステムを構成できる表示装置、及びその駆動方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態の電子放出デバイスを分解して表す部分斜視図である。
【図2】電子放出部のピッチと電界集中の割合を表す電界係数の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の電子放出デバイスに用いられる多孔質層の形成方法の一実施形態を示す図である。
【図4】アルミニウムの陽極酸化により形成される細孔のピッチと陽極酸化電圧との関係を表すグラフである。
【図5】本発明の第2の実施の形態の電子放出デバイスとその製造方法の前半を表す部分斜視図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態の電子放出デバイスとその製造方法の後半を表す部分斜視図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態の電子放出デバイスとその製造方法の前半を表す部分斜視図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態の電子放出デバイスとその製造方法の後半を表す部分斜視図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態の電子放出デバイスとその製造方法の前半を表す部分斜視図である。
【図10】本発明の第4の実施の形態の電子放出デバイスとその製造方法の後半を表す部分斜視図である。
【図11】本発明の第5の実施の形態の電子放出デバイスとその製造方法を表す部分斜視図である。
【図12】本発明の第6の実施の形態の電子放出デバイスとその製造方法を表す部分斜視図である。
【図13】本発明の第7の実施の形態の電子放出デバイスとその製造方法を表す部分斜視図である。
【図14】本発明の第8の実施の形態の電子放出デバイスとその製造方法を表す部分斜視図である。
【図15】本発明の第9の実施の形態である表示装置を表す部分断面斜視図である。
【符号の説明】
1、21、31、41、51、61、71、81、101…カソード電極
2、22、32、42、52、62、72、82、102…多孔質層
24、34、44、54、64、74、76、84、86…多孔質層
3、23、33、43、53、63、73、83…細孔
25、35、45、55、65、75、77、85、87…細孔
4、26、36、46、56、66、78、88、103…電子放出部
5、105、106、107、109、110、111…ゲート電極
7…アノード電極
27、67…触媒材料
37、89…導電性材料
57…陽極酸化用電極膜
113…透明基板
114…透明電極
115、116、l17…蛍光体
118…ブラックマトリクス

Claims (7)

  1. 電極上に形成された、少なくとも一層はその細孔ピッチが他の層のいずれかと異なる2層以上の多孔質層と、少なくとも最上層から最下層まで貫通している細孔内に前記電極と実質的に電気的に接続された電子放出部を含むことを特徴とする電子放出デバイス。
  2. 前記多孔質層における細孔の径が各多孔質層毎に異なることを特徴とする請求項記載の電子放出デバイス。
  3. 複数の細孔を有し、少なくとも一層はその細孔ピッチが他の層のいずれかと異なる2層以上の多孔質層を電極上に形成する工程と、少なくとも最上層から最下層まで貫通している細孔内に前記電極と実質的に電気的に接続する電子放出部を形成する工程とを含むことを特徴とする電子放出デバイスの製造方法。
  4. 前記2層以上の多孔質層の内、少なくとも一層はその細孔の径が他の層のいずれかと異なることを特徴とする請求項記載の電子放出デバイスの製造方法。
  5. 少なくとも1層以上の前記多孔質層を除去する工程をさらに含むことを特徴とする請求項またはに記載の電子放出デバイスの製造方法。
  6. 請求項1又は2に記載の電子放出デバイスがアレイ状に形成されたカソード電極と、該カソード電極と対向するように配置され、電子照射により発光する蛍光体層が形成されたアノード電極と、該カソード電極と該アノード電極との間に配置され、該電子放出デバイスからの放出電子が通過する開口部を有する少なくとも互いに絶縁されたn層のゲート電極Gn(n=1,2,…)とから構成されることを特徴とする表示装置。
  7. 請求項記載の表示装置において、前記カソード電極と前記アノード電極間の距離:dA、前記カソード電極と前記アノード電極間の印加電位差:VA、前記カソード電極と前記ゲート電極Gn(n=1,2,…)間の距離:dGn、前記カソード電極と前記ゲート電極Gn(n=1,2,…)間の印加電位差:VGnが、VA/dA≧VGn/dGn(n=1,2,…)の関係となる範囲で前記電子放出デバイスからの電子放出を制御することを特徴とする表示装置の駆動方法。
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