JP4770017B2 - Cnt膜及びその製造方法並びにcnt膜を用いた電界放出型冷陰極及び画像表示装置 - Google Patents

Cnt膜及びその製造方法並びにcnt膜を用いた電界放出型冷陰極及び画像表示装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばフィールド・エミッション・ディスプレィ(以下、FEDとも呼ぶ)等における電界放出型冷陰極に使用されるカーボンナノチューブ(以下、CNTとも呼ぶ)膜の製造方法に関し、特に、良好なエミッション特性を発揮できる電界放出型冷陰極を実現するCNT膜及びその製造・加工方法、並びに、このようなCNT膜を用いた電界放出型冷陰極及び電界放出型画像表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、新しい炭素材料であるカーボンナノチューブが、特に電界放出型冷陰極等のエミッタ材料としての応用において期待されている。CNTは、炭素原子が規則的に配列されたグラフェンシートをチューブ状に丸めた中空の円筒形状を有し、外径がナノメートル(nm)オーダーで、長さが0.5〜数10μmという極めてアスペクト比が高い微小な物質である。このような形状のCNTでは、先端部分に電界集中が起こり易く、高い放出電流密度が期待できる。また、CNTは、化学的、物理的安定性が高い特性を有するので、動作真空中の残留ガスの吸着やイオン衝撃等に対して安定であることが予想される。
【0003】
CNTには、単層ナノチューブ及び多層ナノチューブの2種類が存在する。単層ナノチューブは、1枚のグラフェン(単原子層の炭素六角網面)が円筒状に閉じた単原子層厚さのチューブであり、その直径はおよそ2nmである。多層ナノチューブは、円筒状グラフェンが多層に積み重なったもので、その外径が5〜50nm、中心空洞の直径が3〜10nmである。エミッタとしての使用頻度が高い単層ナノチューブは、炭素棒を電極とするアーク放電によって生成できる。
【0004】
上記単層ナノチューブの生成法は、Nature Vol.354(1991)p.56〜58等の文献に記載されている。この記載中に、真空チャンバ内を66500Pa(500Torr)のヘリウム又はアルゴンガスの雰囲気で満たし、触媒金属として鉄、コバルトやニッケルを添加した炭素棒を用い、この炭素棒の端部を相互に対向させて電極に接続した状態でアーク放電を行う旨の記述がある。CNTは、触媒金属の種類によって生成場所が異なる。例えば、触媒金属に鉄とコバルトを添加した際には、CNTはチャンバ内壁に付着する煤中に生成される。
【0005】
特開平10-120409号公報には、上記単層ナノチューブの精製法が記載されている。この精製法では、アーク放電法等で生成した単層ナノチューブを含有するカーボン原料に、予め極性溶媒分子による衝撃処理を施しておき、更に焼成処理、酸処理を施した後、超音波処理を施すことにより、99重量%以上の単層ナノチューブの高純度化を実現している。
【0006】
特開平6-252056号公報には、CNTをレジスト中に分散して基板上に塗布して、フィルム状のCNT膜を得る方法が記載されている。この方法では、膜厚の均一性が必要な場合にはスピンコーティングを用いる。その後、レジストに必要な焼成を施すことにより、基板上にCNT膜を固定する。
【0007】
また、CNTを電子放出として活用する試みがある。例えば、Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 36 (1997), L1340-L1342ページには、上記精製法によって高純度化した単層ナノチューブを電子放出源として用いた際の特性が報告されている。特願平11-145900号には、精製後の単層ナノチューブをレジスト等のバインダ中に混合し、スピンコート、スクリーン印刷及び噴霧等の手法でナノチューブ層を形成し、それらを電子源として用いた電界放出型冷陰極及び平面ディスプレイの製造方法が記載されている。
【0008】
図16に示すように、3極管構造のFEDでは、電界放出型冷陰極に、CNT膜を用いたエミッタ12bを使用し、エミッタ12bとアノード電極24との間にゲート電極25が配設される。ガラス基板10上には、導電性基板又は導電層11が形成され、導電層11上にCNT膜12が堆積され、CNT膜12上に絶縁膜23を介してゲート電極25が形成されている。ゲート電極25及び絶縁膜23を貫通するゲート開口17により、CNT膜12の一部が露出して、エミッタ12bをなしている。CNT膜12及びゲート電極25等を含むガラス基板10の上方には所定の距離をあけてアノード電極24が配置され、双方の間の空間は真空に保持される。
【0009】
上記3極管構造のディスプレイでは、CNT膜12に負電位を、アノード電極24及びゲート電極25に正電位を夫々印加することにより、ゲート開口17内に露出したエミッタ12bからアノード電極24に向けて電子を放出させる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従来のCNT膜は、精製した後に、有機バインダ材を用いることでCNTをフィルム状に固定し、機械的膜強度を確保していた。しかし、CNTが有機バインダ材のみで固められると、有機バインダから発生する放出ガスでCNT膜が気泡を抱え込むことになって装置内の真空度が損なわれる。このようなCNT膜をFEDのエミッタに用いると、真空中での動作が必要なFEDではCNT膜内に存在する気泡が障害となり、短時間で真空状態を得ることができない状況が生じる。
【0011】
また、有機バインダは無機物であるCNTと比較してイオン照射、電子照射、加熱といった方法でエネルギーを与えられた場合にその成分が気化してガスを放出しやすい。このため、有機バインダを多く含んだCNT膜では、たとえその初期状態で気泡が少ない場合でもエネルギー付与後には気泡が増えてしまう問題も抱えている。更に、有機バインダはその構成分子が大きな分子であるので気泡に含まれるガスの分子も大きな分子である場合がある。
【0012】
このように大きな分子がイオン化した場合には小さな分子がイオン化した場合よりも同じ電界において大きな運動エネルギーを持つことになり、この大きなイオンが衝突した物質に大きなダメージを与えることになる。更に、大きな分子が分解して小さな気体分子になる場合には気体分子がその分だけ増えることになり、気泡が更に、増えることになる。
【0013】
また、上述のように、レジストに必要なプリベーキングを施すことで基板上にCNT膜を固定する際には、ベーキングによって、CNT膜に含浸する有機バインダ成分であるアクリル等の多くが焼失し、これに起因する体積減少でCNT膜表面が凹凸化し、或いは、隙間が発生するといった問題が生じる。
【0014】
また、電子放出の観点からは、以下に示す問題点があった。つまり、従来エミッタ形成前に用いられる精製工程は、ナノチューブ以外の不純物を排除し、ナノチューブの高純度化を実現する上で効果的であるが、その際に、ナノチューブの束(バンドル)の径が増大して電子放出特性(エミッション特性)が劣化することがある。アーク放電やレーザーアブレーション等で形成した単層ナノチューブは通常、ナノチューブ同士が比較的弱い結合力(ファンデルワールス力)によって直径20〜30nm程度のバンドルを形成する。
【0015】
ナノチューブの精製工程では、前述した特開平10-120409号公報に示されるように、複数の工程を経ると同時に、次第にナノチューブ以外の不純物が排除されるため、隣接するナノチューブの接触回数が増加し、バンドル化が促進する。すなわち、バンドル径が増大する。電界電子放出ではエミッタ先端部、ここではナノチューブのバンドル径が小さいほど低電界でより多くの電子を放出することが可能である。しかし、精製工程を経たナノチューブはそのバンドル径の増大により、電子放出特性が劣化する。
【0016】
ナノチューブ精製工程では別の課題もある。粒子状不純物はファンデルワールス力又は化学結合でCNTに付着しているので、この粒子状不純物を除去しようとする場合には、上記ファンデルワールス力又は化学結合力以上のエネルギー、別の言い方をすればCNTと粒子状不純物とを結合させている以上の活性化エネルギーを与えなければならない。このエネルギー付与によって、CNTの結合にダメージが生じることが懸念される。
【0017】
ダメージを受けたCNTは、その後に自身から電子放出する際に自身の結晶構造が破壊して初期の電子放出特性を長時間維持できないという問題も抱えている。粒子状不純物を昇華させ、或いは、粒子状不純物を液中に溶解させて除去する場合には、昇華エネルギー付与や溶解エネルギー付与によってCNTにダメージを与える懸念がある。バンドルを形成しているシングルウォールナノチューブにおいてはその端面で1本又は数本のナノチューブが他のバンドル構成ナノチューブよりも飛び出している状態がその特性に重要な影響を与える場合がある。
【0018】
電界電子放出特性の場合には、複数本が束ねてあるバンドル状態では束の直径が太く電界が集中しにくいことに対して、端部でアンテナ状に1本又は数本のナノチューブが飛び出していると鋭利な先端となるので電界が集中して低電界で電子放出がなされる。このアンテナ状に飛び出したナノチューブが精製工程で消失してしまう場合があるので、その点でもナノチューブの精製を行わずに済ませたい。前記アンテナ状先端は電界電子放出の観点だけでなく、CNTの端部の構造を用いた測定器や触媒反応においても重要である。
【0019】
また、精製後のカーボンナノチューブは、それ以外の不純物がほとんど存在しないため、ナノチューブ膜表面の単位面積に占めるナノチューブの割合が増大する。すなわち、電子放出源であるナノチューブ先端部がエミッタ表面に密に配列する。しかし、隣接するナノチューブ先端部の間隔が極端に小さくなると、先端部周辺に電位が浸透しなくなるため、電界集中は低下する。従って、電子放出特性が劣化する原因になる。
【0020】
本発明は、上記に鑑み、有機バインダのみに依存せずに機械的膜強度が確保でき、平坦形状が簡便に得られ膜内に気泡を抱え込むことがなく、また、ナノチューブ以外の不純物を必要以上に除去するような複雑なCNT精製工程を無くすことを可能とし、バンドル径増大による電子放出特性の劣化を軽減できるCNT膜を提供すること、及び、良好な電子放出特性を有するCNT膜の製造方法を提供することを目的とする。
【0021】
本発明は更に、このようなCNT膜を用いた電界放出型冷陰極、及び、該電界放出型冷陰極を用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】
例えば、アーク放電法等でCNTを生成する場合、チャンバ内壁に付着する煤中にはCNTと共に粒子状不純物が存在する。粒子状不純物は500ナノメートル以下でサブナノメートル以上の範囲を示す。本発明者らは、CNT膜の形成時に不要なものとして廃棄される粒子状不純物を充填材として用いれば、従来の有機系バインダ材のみに依存することなく、CNT間の隙間を埋め込んで膜強度を確保した緻密な充填状態を得ることができると共に、他のバインダ材を加えて有機バインダ材を使用したとしても、有機バインダ成分が少ないために放出ガスで真空度が損なわれるおそれが極めて少ないという作用効果が得られる点に着目し、鋭意研究を重ね、本発明をなすに至った。上記煤は炭素原料がCNT構造にその原子配列を組み直す高エネルギー過程を経て真空装置内部に形成されているので、その煤に含有される粒子状不純物は形成過程でガスを放出しており、それ以降ガスを放出しにくい状態となっている。予めガス放出しにくい状態になっている粒子状不純物を廃棄せずに使用することで工程を増やすことなく放出ガスの少ない充填材を得る効果がある。
【0023】
上記目的を達成するために、本発明のCNT膜は、カーボンナノチューブ(CNT)及び粒子状不純物を含むCNT膜であって、前記粒子状不純物は、チャンバ内で相互に対向する一対の炭素棒を用いてアーク放電を行い、前記チャンバ内の天板、側板及び底板の夫々にCNT及び粒子状不純物を堆積させ、前記チャンバ内の天板及び側板に夫々堆積した天板堆積物及び側板堆積物を回収し、回収した前記天板堆積物及び側板堆積物の双方を所定の重量比率で混合して得られる混合材料に含まれるものであり、前記粒子状不純物を前記CNT相互間の隙間を埋める材料として用いたことを特徴とする。
【0024】
本発明のCNT膜では、粒子状不純物を上記面積比でCNT相互間の隙間を埋め込んだので、有機バインダのみに依存せずに機械的膜強度が確保でき、膜内に気泡を抱え込むことがない平坦形状が簡便に得られる。また、ナノチューブ以外の不純物を必要以上に除去するような複雑なCNT精製工程を無くすことが可能となり、バンドル径増大による電子放出特性の劣化を軽減することができる。
【0025】
ここで、前記粒子状不純物が、前記CNTを製造する際に該CNTと共に得られる不純物から成ることが好ましい。この場合、工程が簡便になるとともに、基板との付着力が高く、かつ良好なエミッション特性を有するCNT膜を形成できるという効果を奏することができる。
【0026】
また、前記粒子状不純物がCNT相互間の隙間を埋め込むバインダ材として機能し、該バインダ材とは別のバインダ材が更に添加されることも好ましい態様である。この場合、基板との付着力が更に、高く、かつ良好なエミッション特性を有するCNT膜を形成することができる。
【0027】
好ましくは、前記バインダ材が有機物で構成される。これにより、低温での焼成が可能になり、更に、CNTのパターニングが容易になるという効果を奏することができる。
【0028】
具体的には、前記有機物を、アクリル、ニトロセルロース、及びポリイミド樹脂の内の少なくとも1つを含む材料で構成することができる。この場合、CNTの基板への固着状態をより確実にすることができる。
【0029】
また、CNT相互間の隙間を埋め込む前記粒子状不純物の充填率が70%以上であることが望ましい。この場合には、CNT膜が緻密になるためガスが内部に残存することがなく、また前記CNT膜上に良好な絶縁層を形成可能であるという効果を奏することができる。
【0030】
前記CNT膜が、順次に積層された2層以上の積層膜で構成され、該積層膜の各層におけるCNT、粒子状不純物及びバインダ材の含有比率が夫々別個に設定されていることが好ましい。例えば、3層から成る積層膜の場合に、主に基板に固着する機能が必要な最下層、CNT相互間の隙間を埋め込む機能が必要な中間層、及び、CNT膜から直立するようなCNTを必要とする最上層に対し、夫々最適な状態を形成することが可能になる。
【0031】
特に、前記CNT、粒子状不純物及び別のバインダ材の内で、上層ほどCNTの含有比率が高く、下層ほど前記粒子状不純物及び別のバインダ材の含有比率が高いことが望ましい
【0032】
ここで、前記CNT膜を用いて電界放出型冷陰極を形成することが好ましい。
その場合、CNT膜と基板との付着力が強く、均一な絶縁層が形成可能であるため、安定で長寿命なエミッション特性を有する電界放出型冷陰極を得ることができる。
【0033】
本発明のCNT膜は、前記CNT膜を製造するにあたり、前記粒子状不純物から成るバインダ材及び/又は前記別のバインダ材をCNTのエッチングレートよりも速い材料で構成して、前記CNT膜をパターニングすることを特徴とする。
【0034】
本発明のCNT膜では、CNT膜のパターニングの際に、バインダ材及び/又は別のバインダ材のエッチングレートがCNTよりも速いので、CNT膜の除去工程が極めて簡便になる。また、所望の領域のCNTを残存させ該領域以外のCNT膜を除去する場合に、残存させる領域におけるバインダ材及び/又は別のバインダ材も残存させると、基板に対してCNT膜をプロセス後も堅固に固着させることができる。
【0035】
ここで、相互に同じ製造工程で同時に得られたCNT及び粒子状不純物を用いることが好ましい。これにより、製造工程が簡便に強固なCNTを形成できるという効果が得られる。或いは、これに代えて、相互に異なる製造工程で得られたCNT及び粒子状不純物を用いることも好ましい態様である。この場合、CNT及び粒子状不純物混合比をより正確に制御することができる。
【0036】
また、本発明のCNT膜の製造方法は、チャンバ内で相互に対向する一対の炭素棒を用いてアーク放電を行い、前記チャンバ内の天板、側板及び底板の夫々にCNT及び粒子状不純物を堆積させ、該堆積物を用いてCNT膜を製造する製造方法であって、
前記チャンバ内の天板及び側板に夫々堆積した天板堆積物及び側板堆積物を回収し、回収した前記天板堆積物及び側板堆積物の双方を所定の重量比率で混合して混合材料を生成し、該混合材料における前記粒子状不純物を該混合材料中のCNT相互間の隙間を埋める材料として用いたことを特徴とする。
【0037】
本発明のCNT膜の製造方法では、天板及び側板から回収した天板堆積物及び側板堆積物を所定の重量比率で混合させ、更にその混合材料における粒子状不純物を該混合材料中のCNT相互間の隙間を埋める材料として用いたので、有機バインダのみに依存せずに機械的膜強度が確保でき、膜内に気泡を抱え込むことがない平坦状のCNT膜を簡便に得ることができる。また、ナノチューブ以外の不純物を必要以上に除去するような複雑なCNT精製工程を無くすことができるので、バンドル径増大による電子放出特性の劣化を軽減することができる。
【0039】
ここで、前記CNT膜を用いることにより、CNT膜と基板との付着力が強く、均一な絶縁層が形成可能であるため、安定で長寿命なエミッション特性を有する電界放出型冷陰極を得ることができる。その場合、CNT膜がCNT及び粒子状不純物を含有する電子放出面を構成し、該電子放出面には500nmを超える粒径の粒子状不純物は含まれないように構成することができる。また、電子放出面に500nm以下の粒径の粒子状不純物を用いることにより平坦な表面が得られ、良好なエミッション効果を奏する電界放出型冷陰極を得ることができる。
【0040】
また、側板堆積物に対する天板堆積物の混合比率を50%以下にしたCNT膜を形成することにより、電界放出型画像表示装置(平面画像表示装置)に好適に使用できる電界放出型冷陰極を得ることができる。このような電子放出型冷陰極を用いた電界放出型画像表示装置は、高画質で均一な表示ができ、歩留まりも良好になる。
【0041】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態例に係る製造方法で製造されたCNT膜をエミッタに適用したFED等の平面画像表示装置を示す斜視図である。
【0042】
平面画像表示装置は、ガラス基板10上に、図1の左右方向に相互に平行に延在する複数の帯状の導電層11を有している。各導電層11上には夫々、同じ幅のCNT膜12が堆積されてカソード(エミッタ)ライン15が形成されている。また、CNT膜12を含むガラス基板10の全面を覆うように、SOG(Spin On Glass)、若しくは、ポリイミド、アクリル樹脂等が滴下・塗布(スピンコート)されてゲート絶縁膜13が形成されている。
【0043】
ゲート絶縁膜13上には、帯状のゲート電極16がカソードライン15と直交する方向に且つ相互に平行に延在してゲートラインをなしている。カソードライン15とゲートラインとの交差部分には、電子放出部を構成する所定径のゲート開口17が形成されており、このゲート開口17に露出するCNT膜12がエミッタを構成する。
【0044】
電子放出部が形成された上記ガラス基板10の上方には、RGB(赤、緑、青)の蛍光体が塗布されたアノードパネル(図16参照)が、ガラス基板10と所定の間隔をあけて対向して配置されている。これにより、カソードライン15及びゲートラインに選択的に電圧を印加することによって表示動作を行う平面画像表示装置が構成される。また、ガラス基板10とアノードパネルとの間の空間は、真空に保持される。
【0045】
図2は、FEDの製造プロセスを示す一部断面にした斜視図であり、(a)〜(d)は各工程を段階的に示す。図3は、図2の各工程に対応する工程を示すフローチャートである。
【0046】
まず、ステップS1では、ガラス基板10上に導電層11を介してCNT膜12を堆積する((図2(a))。次いで、ステップS2で、CNT膜12上に絶縁膜形成液をスピンコートした後に、焼きしめを行ってゲート絶縁膜13を形成する(図2(b))。
【0047】
引き続き、ステップS3で、目合わせ露光と現像とを実施するパターニングにより、ゲート開口(エミッタホール)17を形成する(図2(c))。更に、ステップS4で、ゲート開口17が形成されたゲート絶縁膜13上にメタル配線を施して、ゲート電極16に形成する(図2(d))。これにより、CNT膜を用いたFEDの電界放出型冷陰極(カソードパネル)が完成する。
【0048】
ところで、図2(a)においてCNT膜12が凹凸状となり、或いは、CNT間の隙間が多く存在する場合には、図2(b)に示したスピンコート工程で、次のような問題が発生することがある。つまり、ゲート絶縁膜13の表面が凹凸状に形成されると、スピンコーティングされる絶縁膜液体材料が均一に延びることができず、完成時のゲート絶縁膜13の膜厚が不均一になる。また、表面の凹凸やCNTの隙間に気泡36が溜まって絶縁膜液体材料中に拡散し、気泡36を含んだゲート絶縁膜13が形成されることになる。この場合に、良好な絶縁特性が損なわれ、機械的強度も低下することになる。
【0049】
また、CNT膜12を導電層11上に形成する際に、有機バインダを含有しなければCNT膜12の強度を十分に確保できないが、その場合には、有機バインダから放出するガスにより、完成後のFEDにおける真空度が損なわれるおそれがある。更に、ベーキングを施すことでガラス基板上にCNT膜を固定する際には、ベーキングによって、CNT膜に含浸する有機バインダ成分が焼失し、膜成分として残存しないため、これによる体積減少でCNT膜12表面が凹凸化し、又はCNT間に隙間が発生する等の問題が発生し、平坦状のCNT膜の形成が困難になる。
【0050】
図4に、FEDの断面構造をより詳細に示す。FEDは、ガラス基板10上に、導電層11(カソード電極)と電子放出源としてのCNT膜12とをこの順に有する。CNT膜12上方には、厚み20μm程度のゲート絶縁膜13を介してゲート電極16が形成されている。ゲート電極16及びゲート絶縁膜13には、所定のエッチング工程で円柱状に貫通されたゲート開口17が形成されており、ゲート開口17底面におけるCNT膜12表面には、直立配向したCNT12aが存在し、このCNT12aから電子が放出される。ここで、「直立配向」とは、CNT膜12におけるCNT12aの先端部分がガラス基板10における法線に対して50度以下の角度で配向された状態を示す。
【0051】
ここで、CNT膜12内に、CNTの生成時に混入した大粒不純物14がある場合には次のような問題が生じる。この大粒不純物14が数μmを超える粒径を有するような場合には、CNT膜12表面の凹凸形状化を招く。この凹凸形状がゲート開口17内に出現した場合には、CNT膜12表面の電位分布が歪むことになる。
【0052】
例えば、ゲート電極16に30V、導電層11を含むエミッタ(12)に0V、ゲート電極16上に設けられたアノード電極(図16参照)に1KVの電圧を夫々印加した場合、図4に示すように等電位面18が発生する。この際に、大粒不純物14が表面に存在するCNT膜12表面では、等電位面18が大きく歪む。
【0053】
図4におけるゲート開口17内の左端側では、大粒不純物14が存在するため、その分だけゲート絶縁膜13が薄くなり、或いは、大粒不純物14の突出形状により電界が異常に集中する現象が発生し、ゲート電極16と導電層11との間の絶縁耐性が低下することになる。また、大粒不純物14の影響でゲート電極16が持ち上げられたような構造では、ゲート電極16と直立配向のCNT12aとの距離が必要以上に離れ、電子放出が困難になり、電子軌跡19が歪むという問題が生じる。FEDでは、各電子放出構造から均一に電子放出することが期待されるが、大粒不純物14が存在すると、均一性が失われることになる。
【0054】
次に、上記問題点を解消する、本実施形態例に係るCNT膜のCNTを生成するためのアーク放電装置を説明する。図5は、このアーク放電装置を示す断面図である。
【0055】
アーク放電装置20は、水冷されるシールド板を成す真空チャンバ21と、真空チャンバ21の外側を覆う箱体22とを備えている。真空チャンバ21は、相互に対向する矩形状の天板21a及び底板21cと、上下端部が夫々天板21a及び底板21cの各辺に接合される4つの側板21bとで略立方体状に構成される。なお、真空チャンバ21は、略立方体状に限らず、略円筒形状に構成されても良い。
【0056】
真空チャンバ21の側板21bの一部を貫通する孔21dと、各孔21dに対応する箱体22の側面に形成された孔26とには、真空チャンバ21の内方に先端部を突出させた炭素棒29a、29bの各後端部をクランプした放電電極30a、30bが嵌合される。炭素棒29a、29bは、所定の触媒金属が含有されており、各先端部が所定の距離をあけて対向した状態で保持される。放電電極30a、30bと孔27内周面との間にはシーリング部材27が嵌め込まれ、これにより箱体22内方が大気と遮断されている。放電電極30a、30bは夫々リード線31を介して、矩形波方式のアーク放電電源32に接続されている。
【0057】
次に、アーク放電装置20を用いたCNTの生成法について具体的に説明する。図6は、この生成法を示すフローチャートである。まず、ステップS11では、真空チャンバ21内を排気して1×10-1Pa以下の圧力に保持した後、真空チャンバ21内にヘリウム(He)ガスを導入して6.7×105Paの圧力に保持する。更に、この圧力下で、アーク放電電源32から放電電極30a及び30bに矩形波を印加し、炭素棒29a、29bの各先端部間でアーク放電を発生させる。この際に、真空チャンバ21内では、Heガスによる対流が生じている。
【0058】
アーク放電によって炭素棒29a、29bの各先端が高温に加熱されると、炭素棒29a、29b自身の炭素と、炭素棒29a、29bに微量含有する金属不純物(触媒金属)とが昇華して、Heガスによる対流に乗り真空チャンバ21内方で煙状に舞い上がる。つまり、アーク放電による昇華と昇華したガス分子とがHe分子に衝突して急冷されて結晶化することで、CNT、種々の炭素系粒子、及び、炭素と後述の粒子状不純物との化合物や混合物が生成される。また、金属不純物の含有率は、炭素を100%とする際の重量比で、ニッケル(Ni)が5%、及びイットリウム(Y)が5%である。
【0059】
煙状のCNT等が真空チャンバ21内面に到達すると、天板21a、側板21b及び底板21cの夫々に煤状に固着して堆積する。この際に、天板21a、側板21b及び底板21cでは、堆積する結晶の種類や形状が夫々に異なる。ステップS12では、真空チャンバ21内における天板21aに堆積した生成粉末(以下、天板堆積物と呼ぶ)と、側板21bに堆積した生成粉末(以下、側板堆積物と呼ぶ)とを回収する。この際に、底板21cに堆積する生成粉末(以下、底板堆積物と呼ぶ)は、回収しても使用せずに廃棄する。
【0060】
例えば、アーク放電法で10分間放電させると、天板堆積物と側板堆積物とを合わせて1グラムの堆積物を回収することができる。天板堆積物と側板堆積物との重量比率は、およそ30:70であることが多い。ステップS13では、天板堆積物と側板堆積物とを30:70等の重量比で混合させた混合粉末を作製する。この混合処理は、混合ミキサーを用いて乾式で混ぜ合わせる。また、15分間で1グラムの堆積物が得られるように炭素棒29a、29b間の距離を調整すると、天板堆積物と側板堆積物との重量比率が40:60にできる。
【0061】
次いで、ステップS14では、混合粉末1:エタノール200の重量比で、混合液を生成する。つまり、混合粉末1グラムに対してエタノール200グラムを用意し、このエタノール中に混合粉末を混ぜ込む。この場合、粉末は溶解しないが、極めて微細な粒子なのでエタノール中にほぼ均一に分散する。
【0062】
更に、ステップS15では、ステップS13で作製した混合粉末を用いてCNT膜12を形成する。ここで、アクリル等の有機バインダを混合させて膜強度を高め、或いは、有機バインダによりガラス基板10との付着率を高めることができる。また、有機バインダを全く使用しない場合でも、CNTと粒子状不純物との分子間力で基板に固着することが可能である。基板の表面に凹凸をつけることで表面積を増やすことで有機バインダがある場合でもない場合でもその付着率を向上させることができる。
【0063】
図7は、真空チャンバ内の天板、側板及び底板の夫々に堆積する生成粉末の典型的な形状を示す図であり、(a)は天板堆積物を、(b)は側板堆積物を、(c)は底板堆積物を夫々示す。
【0064】
図7(a)に示すように、天板堆積物では、金属微粒子の周りを亀の子結合の炭素ネットワークが取り囲んだ形状を有する粒子状不純物12cが観察される。この粒子状不純物12cからは単層のCNT12aが生えている。CNT12aは、髪の毛のように細長く、複数本が束ねられたバンドル状態にされることが多く、また複数本生えている場合もある。天板堆積物中には、CNT12aと離れた位置にある粒子状不純物12dと、CNT12aに固着する粒子状不純物12eも観察される。ここで、天板堆積物にエタノールを添加し、ガラスに液滴して電子顕微鏡で観察した。その場合のCNT12aと粒子状不純物との存在割合は、面積比でおよそ80:20であった。
【0065】
図7(b)に示すように、側板堆積物は、内容的には天板堆積物とほぼ同様であるが、側板堆積物では、CNT12aの存在割合が、天板堆積物に比して少なく、面積比で全体の約0.5%であった。
【0066】
図7(c)に示すように、底板堆積物は、上記天板堆積物及び側板堆積物における堆積物の種類に加えて、数μm以上の粒径を有する大粒不純物14が観察された。
【0067】
図8は、図6のステップS15におけるCNT膜形成工程で形成されたCNT膜の拡大形状を模式的に示す図であり、(a)は天板堆積物を100%使用した場合、(b)は天板堆積物30%と側板堆積物70%とを混合させて使用した場合、(c)は側板堆積物を100%使用した場合を夫々示す。
【0068】
ここで、天板堆積物と側板堆積物との混合重量比率と、CNT層の断面を電子顕微鏡で観察した際の面積比とを測定したところ、以下の結果が得られた。つまり、
▲1▼天板堆積物:側板堆積物の重量比が0:100のとき、CNT:粒子状不純物の面積比は0.5:99.5、
▲2▼天板堆積物:側板堆積物の重量比が10:90のとき、CNT:粒子状不純物の面積比は10:90、
▲3▼天板堆積物:側板堆積物の重量比が30:70のとき、CNT:粒子状不純物の面積比は25:75、
▲4▼天板堆積物:側板堆積物の重量比が50:50のとき、CNT:粒子状不純物の面積比は40:60、
▲5▼天板堆積物:側板堆積物の重量比が100:0のとき、CNT:粒子状不純物の面積比は80:20であった。
【0069】
ところで、直径平均30nmの粒子状不純物での電子顕微鏡下観察でのCNTと粒子状不純物の面積比が40:60の場合、体積比は2:98程度で有ることがわかった。また、0.5:99.5の場合、体積比は1×10-7:1となる。CNTと粒子状不純物との体積比VRは、電子顕微鏡下(視野1.2×1.0μm2)で撮影したCNTと粒子状不純物との面積を夫々S(CNT)nm2、S(NP)nm2とすると、CNTの平均直径Dn nmとS(CNT)とに比例し、S(NP)の1.5乗に反比例することがわかった。つまり、
VR=係数×Dn×S(CNT)/S(NP)1.5(但し、係数=1.02)
である。従って、上式を用いて計算することによりCNTの平均太さがわかると、体積比に換算することができる。
【0070】
本実施形態例に係るCNT膜は、断面及び表面構造におけるCNTと粒子状不純物との面積比を0.5:99.5〜40:60の範囲に設定することが望ましい。この場合、CNTと粒子状不純物との面積比を0.5:99.5〜40:60の範囲に設定してCNT相互間の隙間を埋め込むことにより、有機バインダのみに依存せずに機械的膜強度を確保することができると共に、膜内に気泡を抱え込むことない平坦形状が簡便に得られる。また、ナノチューブ以外の不純物を必要以上に除去するような複雑なCNT精製工程を無くすことが可能となり、バンドル径増大による電子放出特性の劣化を軽減することができる。
【0071】
図8(a)に示すように、天板堆積物を100%使用した場合には、粒子状不純物に対してCNTの割合が相対的に多いため、より多くのCNTが導電層11から垂直方向に直立配向する(CNT12a)。また、膜中には横倒しの配向状態になったCNT12b、及びCNT同士が癒着し、バンドル径が増加したCNTも観察される。ここで、「横倒し」とは、ガラス基板10(図1参照)に沿って倒れた状態を意味する。CNTを使用した電子放出源としてエミッタを構成する場合に、直立配向の姿勢が最も電界集中し易く、電子放出源として良好に機能するので、直立配向のCNT12aが如何に多いかが重要である。AはCNT膜12の平均膜厚を示す。
【0072】
図8(b)に示すように、天板堆積物30%と側板堆積物70%とを混合させて使用した場合には、図8(a)と比較して、直立配向のCNT12aが若干少ないが、癒着したCNTはほとんど見られない。また、CNTの周りには粒子状不純物12eや12dが付着した形状を示す。
【0073】
図8(c)に示すように、側板堆積物を100%使用した場合には、直立配向のCNT12aが極めて少なく、逆に、粒子状不純物12c、12d、12eが増大している。
【0074】
本発明では従来の手法と比較して、複雑なCNTの精製工程を行わないため、精製工程中もしくは膜形成時のCNTのバンドル化を抑制することができる。また、本発明では従来不要な構成物として排除していたCNT製造過程で混入する粒子状不純物の混入量を積極的に制御することで隣接CNT間の接触を少なくし、バンドル化を抑制することができる。すなわち、バンドル径増大によるエミッション特性の劣化を軽減することができる。
【0075】
具体的には、図8(a)に示すように、CNTを取り巻く粒子状不純物12eと12dとがCNTに対して相対的に少ないため、CNT同士が付着しやすく、バンドル径が増大しやすい。しかし、図8(b)では、CNTを取り巻く粒子状不純物が適度に存在するため、隣接するCNTは粒子状不純物が障害になり、接触しにくい。従って、バンドル径の増大は抑制される。
【0076】
更に、CNTと粒子状不純物との混合比を所望の値に制御することで、CNT膜表面に存在するCNT先端部の間隔(密度)を制御することができる。従来、エミッタ形成前に用いられる精製工程では、ナノチューブ以外の不純物を排除していた。これは、ナノチューブの高純度化を実現する上で効果的であるが、ナノチューブ膜表面の単位面積に占めるナノチューブの割合が増大し、隣接するナノチューブ先端部の間隔が密になる。精製工程を経てCNT膜表面に突出する隣接CNTの間隔は、およそ1μm以下になる。一方、CNT中に粒子状不純物を配合した場合、すなわち、図8(a)ではその間隔は2μm、図8(b)は4μm、図8(c)では20μmとなる。
【0077】
図9は、本発明に係る製造方法で得られたCNT膜をエミッタに用いた際の電子放出特性を蛍光スクリーン33で測定する際の状態を示す図である。この測定時、膜厚L1のCNT膜12の下部に位置する導電層11(カソード電極)と、対向する蛍光スクリーン33との間の距離L2を1mmに設定し、真空中で、電源37から導電層11に負の電圧を、蛍光スクリーン33に正の電圧を夫々印加した。この際に、直立配向のCNT12aから電子が軌跡35のように放出された。蛍光スクリーン33と導電層11との間に流れる電流を電流計36で測定した。
【0078】
図10は、図9の測定で求めた電界と電流密度との相関関係を示すグラフ図である。グラフの結果は、蛍光スクリーン33と導電層11との間の距離L2と、電界印加電圧とから求めた。電流密度は、CNT膜12の面積をエミッタ面積として、電流計36で得られた電流をこの面積で割ることによって求めた。
【0079】
図10では、天板堆積物と側板堆積物との混合重量比率を30:70にしたCNT膜12、つまり、天板比率30%のCNT膜12を用いた結果をグラフA、天板堆積物を含まない側板堆積物100%のCNT膜12を用いた結果をグラフB、天板堆積物100%を用いて形成したCNT膜12を用いた結果をグラフCで夫々示した。測定の結果、グラフAが、最も低い電界で電子を放出し、また、同じ電界では最も高い電流密度の電子を放出した。グラフA〜Cの各CNT膜12に関して2mA/cm2の電流密度が得られる電界は、夫々、1.5V/μm、2V/μm、及び、2.7V/μmであった。
【0080】
図11は、天板堆積物比率を10%刻みで測定した際の混合比率依存性を示すグラフである。グラフでは、天板堆積物比率30%のときが最も低い1.5mA/cm2の電子放出が得られ、天板堆積物比率100%のときが最も高い2.7V/μmの電子放出電界が得られることが分かる。例えば、2mA/cm2の電流密度とは、蛍光スクリーン33にP22蛍光体(つまり、ZnS:Cu,Al)を用いて5kVの高圧を印加した場合に700cd/m2の輝度が得られる値である。これは、FEDで700cd/m2という十分に明るい画面を得るのに、ドライブ電界が僅か1.5V/μmで十分あることを意味する。
【0081】
図11で、天板堆積物100%のCNT膜12を用いた場合に電子放出電界が上がった上記結果は、図8(a)に示すように、CNTを取り巻く粒子状不純物12eと12dがCNTに対して相対的に少ないため、CNT同士が付着しやすく、バンドル径が増加しやすいことと、CNT膜表面から突出したCNT間の距離が短いことによる。粒子状不純物は隣接CNT間の付着によるバンドル径の増大を抑制する役割を果たすが、この場合にはその作用が小さいために、局所的にCNT同士もしくはCNTバンドル同士が癒着し、結果的にバンドル径を増大させる。電子放出電界は電界集中度が高いほど、すなわちバンドル径が小さいほど低くなるが、ここでのCNTと粒子状不純物の配合比ではバンドル径を増大する方向に作用するため、電子放出電界は高くなる。
【0082】
また、天板堆積物の混合割合を高め、或いは、製造後のCNTを精製することによってCNTの純度を高めた場合には、CNT膜表面に存在するCNTの密度は増加する。よって、CNT膜表面から突出したCNT間の距離が短くなる。例えば、図8(a)に示すCNT膜表面に突出した隣接CNTの間隔は、先述したようにおよそ2μm程度で、精製したCNT膜ではそれ以下になる。
【0083】
このように、隣接CNT間の距離が短くなると、CNT先端もしくはバンドル先端に電界集中が起こりにくくなる。CNTは金属もしくは半導体的な伝導を示す物質なので、外部電界はCNT中に浸透せずにその表面を這うような電界分布をとる。例えば、基板上に1本のCNTが孤立して直立配向している場合には、電界が基板表面から鋭利なCNT先端部を覆うように分布するため、CNT先端部の電界集中は大きくなる。しかしながら、複数本のCNTが密に配列している場合には、個々のCNTで電界が遮蔽されるため、CNT先端部での電界集中は孤立した1本のCNTの場合よりも小さくなる。このような電界集中の抑制効果は、隣接CNT間の距離が小さくなるほど大きくなる。
【0084】
本発明者らは、上記のような電界集中の抑制効果を更に詳細に調べるために、電界放出電界の隣接CNT間距離依存性を計算した。具体的には、一定面積内にCNTの数を増加(隣接CNT間の距離を小さく)させ、そのときのCNT先端近傍の電界分布及び電界集中度を計算し、電界放出電界を算出した。なお、配列したCNTの高さは1μm、CNT(バンドル)の径を20nmとした。その結果、電界放出電界は隣接CNT間の距離を無限大から2.4μmまで小さくする間では、低下する傾向を示した。これは電子放出点(CNT)が単純に増加したためである。しかし、隣接CNT間の距離が2.4μm以下になると、逆に個々のCNTの電界集中度が減少し、電界放出電界が増加する傾向を示した。この結果は、過度にCNTを密に配列しても逆に特性を劣化させることを意味する。
【0085】
一方、図11において天板堆積物30%以下で電子放出電界が上昇する要因は、計算結果からも示唆されるように、電子放出に寄与するCNTが実質的に少なくなるためである。
【0086】
以上のように、CNTの密度を増加させても電界集中の抑制効果を受けず、且つ、CNTが癒着しないための条件は、天板堆積物比率が50%以下であった。50%のときのCNT間の距離は約2.5μmであり、上記の電界集中の抑制効果が働く際のしきい値に相当する配合比である。
【0087】
ただし、天板堆積物比率が小さくなりすぎると、電界放出電界が大きくなると同時に、電流安定性及び均一性が劣化する。これは、CNTの数が実質的に減少することにより、単位面積当たりの電子放出点が減少し、個々のCNTからの放出電流の揺らぎが統計的に平均化されないためである。放出電流が、肉眼によって充分に安定であると認識できるのは天板堆積物比率が10%以上のときであった。
【0088】
従って、電子放出の観点からは、天板堆積物比率は10%以上が望ましく、10%以上且つ50%以下がより望ましい。また、CNT及び粒子状不純物の総面積に占めるCNT面積比で言いかえると、CNT含有率はおよそ10%以上が望ましく、10%以上且つ40%以下がより望ましい。
【0089】
図12に示すように、ガラス基板10上に堆積したCNT膜12を、厚みFが0.5μmの形状にスライスして、同図の手前側から奥側に向かって目視観察した場合に、どの程度の隙間が見られるかによりCNT膜12の充填率を測定した。隙間が見えない場合は充填率100%、全て隙間の場合は充填率0%とする。
【0090】
図13は、天板堆積物の比率と充填率との関係を示すグラフ図である。CNT膜の充填率の評価に際して、実際には充填率0%は有り得ない。グラフから分かるように、側板堆積物のみを用いてCNT膜12を作成した場合(天板堆積物比率0%)には、充填率95%という極めて高い結果が得られる。これは、球形に近い粒子状不純物が、分散するCNTの隙間に侵入することにより充填率が上がったことを意味する。逆に、天板堆積物の重量比率を高めると、CNTの存在割合が増大し、CNTが相互に絡まって隙間が増大することになる。つまり、充填率が高ければ、CNT膜12としては凹凸が少なく良好なものとなるので、CNT膜12上に、ゲート絶縁膜13及びゲート電極16(又はグリッド電極)を配設する際に好適である。逆に充填率が低い場合には、絶縁膜13中に気泡が発生する原因にも繋がる。充填率が高いCNT膜12が良好であるという観点では、側板堆積物の比率が高いほど良い。
【0091】
具体的には、天板堆積物の混合比率が30%の場合に充填率は80%であったが、これが実用上最も好ましい値である。また、充填率が70%よりも小さい場合、つまり、天板堆積物比率が50%よりも大きい場合には、CNT膜上層に絶縁層を形成する際に気泡が発生し易く、膜形成後に凹凸が発生し、或いは、異常電子放出の発生のおそれがある。従って、CNT膜上に構造を形成し、電界放出型冷陰極を形成する際には、粒子状不純物の充填率が70%以上、すなわち天板堆積物比率50%以下に制御することが望ましい。この場合、安定でかつ、絶縁特性に優れた絶縁層をCNT膜上に形成可能であるという効果が得られる。先に述べた電界放出に最適な条件(天板堆積物含有比率10%以上且つ50%以下)を考慮すると、良好な電子放出特性を保持し、かつ電界放出型冷陰極を形成可能な条件は天板堆積物比率が10%以上50%以下であることがわかる。
【0092】
次に、図2及び図4を参照して、本実施形態例の具体例について説明する。この具体例では、CNT−FEDを形成する。つまり、本発明のCNT膜を用いると、CNT膜12表面の凹凸が抑制されていること、及び、CNT間の隙間が少ないことにより、ゲート絶縁膜13に気泡が入りにくいという効果が得られる。
【0093】
本具体例では、図2に示すように、ゲート絶縁膜13を厚み5μmに設定してCNT−FEDを形成した。ゲート絶縁膜13を5μmという薄さにするために、天板堆積物の混合比率を50%以下にした。これは先に示したように充填率が70%以上になる条件である。
【0094】
一方、混合比を50%以上にすると、表面の凹凸と膜中の隙間が増加し、5μmのゲート絶縁層では充分な絶縁耐性を確保することができない。この場合、充分な絶縁耐圧を有する絶縁層を形成するには少なくとも15μm以上の膜厚が必要である。これに対し、混合比を50%以下にすれば、粒子状不純物が膜中の隙間を塞ぎ、気泡が発生し難く、均一で薄い良好な絶縁層を形成することが可能となる。
【0095】
ゲート絶縁膜13の薄膜化は、ゲート電極16とエミッタ12bとの間の印加電圧(ドライブ電圧)を低電圧化させる。例えば、ゲート絶縁膜13の厚みを20μmから5μmへと25%低減すると、印加電圧は25%減の電圧で良いことになる。従って、絶縁層の薄膜化が可能な上記条件(天板堆積物の混合比率50%以下)は低電圧動作においても有効である。
【0096】
5μmの膜厚のゲート絶縁膜を用い、且つ混合比30:70のCNT膜を採用したFEDでは、図11からも明らかなように、
1.5V/μm×5μm=7.5V
の印加電圧が必要であるのに対し、0:100の混合比率を採用したFEDでは、
2.0V/μm×5μm=10V
の印加電圧が必要である。更に、図11には図示していないが、精製したCNTを用いた場合(図11の比率100%よりも右側)には電子放出電界が2.8V/μmであり、そのときの印加電圧は、
2.8V/μm×5μm=14V
となる。従って、絶縁層膜厚が5μmの場合、電子放出電界が2V/μm以下では10V以下の低印加電圧で素子を駆動させることが可能となる。
【0097】
しかし、精製後のCNTのように、電子放出電界が2V/μmよりも大きくなると、10Vよりも大きい印加電圧となり、低価格液晶用駆動ドライバが使用できなくなり、新たな駆動ドライバを開発する必要が生じる。これにより、ドライバ価格が高くなり、ドライバを含むディスプレイのモジュールとしての価格が高くなる。従って、電子放出電界は2V/μm以下が望ましい。また、5μmよりも薄いゲート絶縁膜を用いることで2V/μm以上の電界放出電界でも10V以下の駆動が可能になるが、この場合、長時間駆動する間に絶縁膜中の絶縁劣化が生じやすいため、膜厚は5μm以上が望ましい。
【0098】
以上の結果から、FEDとして最適なCNT膜の組成は、0%以上且つ50%以下の範囲内の天板堆積物比率が望ましい。また、CNT同士の癒着等の問題を考慮するときは10%以上且つ50%以下の範囲内の天板堆積物比率が望ましい。これらの条件をCNT及び粒子状不純物の総面積に占めるCNT面積比で言いかえると、CNT含有率は0.5%以上且つ40%以下が望ましく、10%以上且つ40%以下がより望ましい。
【0099】
次に、本発明に係る第2実施形態例について説明する。図14は、本実施形態例における成膜工程を示す断面図である。本実施形態例では、CNT膜12を厚み方向で、第1層12A、第2層12B、及び第3層12Cの3段階に分割している。
【0100】
CNT膜12は、CNT12aと粒子状不純物とを含有しており、その機械的強度の増大や、ガラス基板10との接着特性を向上させるために、アクリルやニトロセルロース、ポリイミド樹脂等の有機バインダ材を含浸させることができる。ここで、有機バインダを用いた理由は低温プロセス(300度以下)で焼成可能であることと、後述するようにCNT膜のパターニングが容易になるためである。この点に鑑み、本実施形態例では、CNT膜12の3つの部分毎にその組成比を調整している。
【0101】
電子放出面を構成する第1層12Aには、直立配向のCNT12aが増大する比率を採用した。第2層12Bでは、粒子状不純物が多くCNT膜12の充填率が高くなる組成比を採用した。第3層12Cでは、アクリルが多くガラス基板10への接着特性がより優れ、CNT膜12の充填率がより向上する組成比を採用した。
【0102】
具体的には、CNT:粒子状不純物:アクリルの組成比を、第1層12Aでは、20:80:0の比率に、第2層12Bでは5:80:15の比率に、第3層12Cでは1:29:70の比率に夫々設定することができる。
【0103】
また、CNT膜12をスプレーで塗布しつつ作製する際には、塗布溶液を3種類用意して、第3層12Cに相当する初期塗布では、1:29:70の第3の比率パターンの材料を0.2μm厚に塗布し、その乾燥後に、5:80:15の第2の比率パターンの材料を1μmの膜厚で塗布し、これを乾燥させずにそのまま、20:80:0の第1の比率パターンの材料を0.5μmの厚みに塗布する。
【0104】
なお、上層ほどバインダの混入量を減少させているのは、バインダの表面張力による膜表面の直立配向CNTの横倒、及びCNT表面へのバインダ成分の付着による仕事関数の増加を軽減するためである。このように、上層ほどCNTの含有量が高く、下層ほどCNT以外の材料の含有量を高く設計することで電子放出特性を劣化させることなく、固着力の強いCNT膜を形成することができる。
【0105】
また、上記組成比の各材料を良好にスプレー塗布するためにエタノールを添加しているが、エタノールは塗布直後に蒸発するので、組成比としては考慮しない。本実施形態例では、アクリル成分も膜の構成物としてそのまま残存させてFEDパネルを形成する。
【0106】
次に、本発明に係る第3実施形態例について説明する。図15は、CNT膜をパターニングする状態を示す断面図である。本実施形態例では、CNT膜12における残存させるべき部分の表面をマスク材35で被覆し、除去すべき部分36をアセトン等で溶解させることで除去する。その場合に、CNT及び粒子状不純物はアセトンで溶解しないが、アクリルは溶解する。
【0107】
したがって、上記の方法を用いることにより、CNT膜のパターニングを行うことができる。この場合、パターニングで除去する隙間距離よりも含有CNTの長さを短くしておくことにより、残存したCNTが架橋となって分離できないという不具合を招くことなくパターニングすることができる。
【0108】
CNTが隙間距離よりも長い場合には、CNTが架橋とならないようにその隙間部分を機械的に擦ることで、一時的に架橋状態になっているCNTを除去できる。この場合には、CNTを支えているバインダがアセトンで溶解して強度が落ちているので、簡単に架橋CNTが除去される。架橋CNTを除去する方法としては、パターニング後に隣接パターン間に通電して架橋CNTの根元を溶断させる方法もある。
【0109】
架橋CNTが無ければ、隣接パターン間が絶縁である場面では、隣接パターン間に電圧印加したことによる電流が架橋CNTを通じて流れることになる。細いCNT部分に電流が流れることで、架橋CNTとCNT膜との境界部分である根元が発熱して溶断できることを発見した。このように、本来絶縁された隣接配線間に架橋CNTが残存する場合には、通電除去という方法を適用することができる。
【0110】
図14で説明したCNT:粒子状不純物:アクリルの組成比に設定すれば、第2層12B、及び第3層12Cに夫々、70%及び15%ずつ含浸されたアクリルが溶解することになる。つまり、アセトンによりCNT膜12の下面部分から全体をエッチング除去することができる。このように上記組成比に設定すれば、パターニングに適した比率で調合されるので、パターニングを上記ウエットエッチングではなく、プラズマ法(酸素プラズマ処理)やミリング法等を用いたドライエッチングによっても、CNT膜のパターニングが可能となる。
【0111】
例えば、プラズマ法を用いると、図15の場合と同様に、残存部分をマスク材で覆ってプラズマ中に晒すことで上記アクリルを焼失させて、パターニングすることができる。CNT12a及び粒子状不純物は、酸素プラズマ中でアクリル等の有機バインダと一緒に焼失するので、除去後の成分がガラス基板10に再付着することがない。
【0112】
この際には、バインダ材(別のバインダ材)のエッチングレートが少なくともCNTのそれよりも大きい(速い)ことが望ましい。例えば、SOGや水ガラス等の無機材料を主成分とするバインダを用いた場合、それらは酸素プラズマに対してはほとんどエッチングされないため、パターニングを行うことが困難になる。また、バインダ材のエッチングレートがCNTのそれよりも小さい場合には、CNTのみのエッチングが優先的に進行するため、マスク材35の下のCNT12A及びその下層のCNTがエッチング領域36を形成する前に、酸素プラズマによって焼失してしまう。したがって、パターニングされたCNT膜上に電界を印加しても充分な放出電流を得ることができない。
【0113】
しかし、バインダ材のエッチングレートが少なくともCNTのそれよりも大きい(速い)場合には、バインダが優先的にエッチングされるために、エッチング領域36を形成する時間はCNTのエッチングレートのみに依存する。したがって、エッチング時間を最小限に抑えることができ、マスク材35下のCNT層のエッチングを軽減することができる。また、ミリング法においてもバインダに有機系のバインダを用いることで、バインダ材のエッチングレートがCNTのそれよりも大きくなり、上記の効果が得られる。これらの作用効果は、CNTのエッチングレートよりも大きい材料である粒子状不純物をバインダ材として用いた場合にも、同様に得ることができる。
【0114】
以上のように、本実施形態例に係る製造方法は、粒子状不純物から成るバインダ材及び/又は別のバインダ材をCNT12aのエッチングレートよりも大きい材料で構成してCNT膜12をパターニングする。つまり、本製造方法では、少なくともCNT12aのエッチングレートよりも大きなエッチングレートを有するバインダ材を用い、プラズマ法又はミリング法で用いるエッチングガスに対して、バインダ材及び/又は別のバインダ材をCNT12aと同時もしくはCNT12aよりも早く消失させることができるので、CNT膜12の除去工程が極めて簡便になり、電子放出特性を劣化させることなくCNT膜12のパターニングを行うことができる。更に、所望の領域のCNT12aを残存させ該領域以外のCNT膜12を除去する際に、残存させる領域における粒子状不純物(バインダ材)及び/又はアクリル等のバインダ材(別のバインダ材)をも残存させることにより、ガラス基板10に対してCNT膜12をプロセス後も堅固に固着させることができる。
【0115】
ところで、CNT膜12中には、CNT生成時に炭素棒に含有させたニッケル等の金属性不純物が存在する。この金属性不純物は、酸化され絶縁物として上記除去部分36に残存するので、電気的には絶縁となり、機能上問題がない。この金属性不純物を除去する際には、酸性溶液を用いてウエットエッチングすればよい。その場合に、金属製不純物を取り囲んでいた炭素が既に焼失しているので、容易にエッチングすることができる。
【0116】
また、粒子状不純物は後から添加することもできる。例えば、CNTを製造した後に粒子状不純物を除去して精製したCNTに、500nm以下の炭素から成る不純物や、金属微粒子、無機微粒子、有機微粒子を添加することによっても、上記各実施形態例における粒子状不純物を含んだCNT膜12と同様の機能を備えたCNT膜を形成することができる。この場合、CNT製造時に同時に生成される粒子状不純物よりも粒径の揃った微粒子を混入させることができ、また、配合比の制御性も良好になる。なお、精製したCNTは癒着等の影響で電子放出の観点からは不向きであるが、微粒子を添加し、充分に分散させることで、CNTの癒着等の問題を回避することができる。
【0117】
以上のように、上記各実施形態例によると、CNT膜12がCNT12aと共に粒子状不純物12c〜12eを含有することにより、バインダ成分に依存することなくCNT膜12を緻密に形成することができる。CNT膜12が緻密になることにより、CNT膜12上への成膜過程においてゲート絶縁膜13内方に気泡が侵入するような現象を回避できる。このように形成したCNT膜12をFEDに用いた場合、FEDを真空中で動作させることになるが、その際にCNT膜12に隙間があると、その隙間に侵入していた空気を排気することに多大な時間を要することになる。しかし、本発明によるCNT膜12では、緻密で隙間が極めて少ないので、短時間で真空状態にすることができる。
【0118】
また、CNT膜12が粒子状不純物で緻密に充填されることにより、有機バインダに依存せずに、十分な膜強度を確保することができる。更に、有機バインダ成分を減少できるので、有機バインダからの放出ガスで真空度が損なわれるおそれがない。また、CNT膜12に含浸するバインダ成分(アクリル等)を焼失させることなく膜成分として残存させるので、バインダ成分が焼失する際の体積減少により膜表面が凹凸化し、或いは、隙間が発生するという問題を回避できる。これにより、平坦な表面を有するCNT膜12が容易に形成できる。
【0119】
以上、本発明をその好適な実施形態例に基づいて説明したが、本発明のCNT膜及びその製造方法並びにCNT膜を用いた電界放出型冷陰極及び画像表示装置は、上記実施形態例の構成にのみ限定されるものではなく、上記実施形態例の構成から種々の修正及び変更を施したCNT膜及びその製造方法並びにCNT膜を用いた電界放出型冷陰極及び画像表示装置も、本発明の範囲に含まれる。
【0120】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によると、有機バインダのみに依存せずに機械的膜強度が確保でき、平坦形状が簡便に得られ膜内に気泡を抱え込むことがなく、また、ナノチューブ以外の不純物を必要以上に除去するような複雑なCNT精製工程を無くすことを可能とし、バンドル径増大による電子放出特性の劣化を軽減できるCNT膜を得ることができる。また、良好な電子放出特性を有するCNT膜の製造方法を得ることができる。更に、このようなCNT膜を用いた良好な電子放出特性を有する電界放出型冷陰極、及び、該電界放出型冷陰極を用いた電界放出型画像表示装置を得ることができる。また、CNT膜の充填材として前記粒子状不純物を含ませることで有機バインダ成分を減少させ、これにより、CNT膜から電界電子放出をさせた際に生じるCNT膜の温度上昇やイオン照射に対してCNT膜からのガス放出が抑制できる効果を得ることができる。電界電子放出型画像表示装置においては、真空容器内残留ガスや蛍光体がイオン化及び加速されてCNT膜表面に照射される。この場合には、特にCNT膜表面がイオン照射で分解しにくいCNTを多く含むことでガス放出の問題が軽減される。多層構造で上層よりも下層で有機バインダの含有率が高い場合には、有機バインダよりも耐イオン性が高い粒子状不純物が表面付近を充填していることで耐イオン性の高い表面層が有機バインダを多く含む下層の表面を保護する効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態例に係る製造方法で製造されたCNT膜をエミッタに適用したFED等の平面画像表示装置を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態例におけるFEDの製造プロセスを示す一部断面した斜視図であり、(a)〜(d)は各工程を段階的に示す。
【図3】図2の各工程に対応する工程を示すフローチャートである。
【図4】FEDの断面構造をより詳細に示す図である。
【図5】アーク放電装置を示す断面図である。
【図6】アーク放電による生成法を示すフローチャートである。
【図7】真空チャンバ内に堆積する生成粉末の典型的な形状を示す図であり、(a)は天板堆積物を、(b)は側板堆積物を、(c)は底板堆積物を夫々示す。
【図8】図6のCNT膜形成工程で形成されたCNT膜の拡大形状を示す図であり、(a)は天板堆積物を100%使用した場合、(b)は天板堆積物30%と側板堆積物70%とを混合させて使用した場合、(c)は側板堆積物を100%使用した場合を夫々示す。
【図9】本発明によるCNT膜をエミッタに用いた際の電子放出特性を蛍光スクリーンで測定する際の状態を示す図である。
【図10】図9の測定で求めた電界と電流密度との相関関係を示すグラフ図である。
【図11】天板堆積物比率を測定した際の混合比率依存性を示すグラフである。
【図12】ガラス基板上に堆積したCNT膜をスライスした状態を示す斜視図である。
【図13】天板堆積物の比率と充填率との関係を示すグラフ図である。
【図14】本発明の第2実施形態例における成膜工程を示す断面図である。
【図15】本発明の第3実施形態例に係るCNT膜をパターニングする状態を示す断面図である。
【図16】従来の3極管構造の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
10:ガラス基板
11:導電層
12:CNT膜
12a:CNT
12c〜12e:粒子状不純物
12A:第1層
12B:第2層
12C:第3層
13:ゲート絶縁膜
14:大粒不純物
15:カソードライン
16:ゲート電極
17:ゲート開口
20:アーク放電装置
21:真空チャンバ
21a:天板
21b:側板
21c:底板
22:箱体
29a、29b:炭素棒
30a、30b:放電電極
33:蛍光スクリーン

Claims (16)

  1. カーボンナノチューブ(CNT)及び粒子状不純物を含むCNT膜であって、
    前記粒子状不純物は、チャンバ内で相互に対向する一対の炭素棒を用いてアーク放電を行い、前記チャンバ内の天板、側板及び底板の夫々にCNT及び粒子状不純物を堆積させ、前記チャンバ内の天板及び側板に夫々堆積した天板堆積物及び側板堆積物を回収し、回収した前記天板堆積物及び側板堆積物の双方を所定の重量比率で混合して得られる混合材料に含まれるものであり、前記粒子状不純物を前記CNT相互間の隙間を埋める材料として用いたことを特徴とするCNT膜。
  2. 前記粒子状不純物が、前記CNTを製造する際に該CNTと共に得られる不純物から成ることを特徴とする請求項1に記載のCNT膜。
  3. 前記粒子状不純物が、CNT相互間の隙間を埋め込むバインダ材として機能し、該バインダ材とは別のバインダ材が更に添加されることを特徴とする請求項1又は2に記載のCNT膜。
  4. 前記別のバインダ材が有機物から成ることを特徴とする請求項3に記載のCNT膜。
  5. 前記有機物が、アクリル、ニトロセルロース、及びポリイミド樹脂の内の少なくとも1つを含む材料で構成されることを特徴とする請求項4に記載のCNT膜。
  6. CNTと前記粒子状不純物とが前記CNT膜中に占める充填率が70%以上であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載のCNT膜。
  7. 前記CNT膜が、順次に積層された2層以上の積層膜で構成され、該積層膜の各層におけるCNT、粒子状不純物及び別のバインダ材の含有比率が夫々別個に設定されていることを特徴とする請求項3乃至のいずれか1項に記載のCNT膜。
  8. 前記CNT、粒子状不純物及び別のバインダ材の内で、上層ほどCNTの含有比率が高く、下層ほど前記粒子状不純物及び別のバインダ材の含有比率が高いことを特徴とする請求項7に記載のCNT膜。
  9. 前記CNT膜を製造するにあたり、前記粒子状不純物から成るバインダ材及び/又は前記別のバインダ材をCNTのエッチングレートよりも速い材料で構成して、前記CNT膜をパターニングしたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のCNT膜。
  10. 前記CNT膜を製造するにあたり、前記CNT膜のパターニングにおいて残存させたCNT膜領域では、CNTと共に前記バインダ材及び/又は別のバインダ材も残存させことを特徴とする請求項に記載のCNT膜。
  11. 前記CNT膜を製造するにあたり、相互に同じ製造工程で同時に得られたCNT及び粒子状不純物を用いことを特徴とする請求項又は10に記載のCNT膜。
  12. 相互に異なる工程で得られたCNT及び粒子状不純物を用いことを特徴とする請求項又は10に記載のCNT膜。
  13. 請求項1乃至12いずれか1項に記載のCNT膜を用いたことを特徴とする電界放型冷陰極。
  14. チャンバ内で相互に対向する一対の炭素棒を用いてアーク放電を行い、前記チャンバ内の天板、側板及び底板の夫々にCNT及び粒子状不純物を堆積させ、該堆積物を用いてCNT膜を製造する製造方法であって、前記チャンバ内の天板及び側板に夫々堆積した天板堆積物及び側板堆積物を回収し、回収した前記天板堆積物及び側板堆積物の双方を所定の重量比率で混合して混合材料を生成し、該混合材料における前記粒子状不純物を該混合材料中のCNT相互間の隙間を埋める材料として用いたことを特徴とするCNT膜の製造方法。
  15. 前記CNT膜が前記CNT及び粒子状不純物を含有する電子放出面を構成し、該電子放出面には500nmを超える粒径の粒子状不純物は含まれないことを特徴とする請求項13に記載の電放出型冷陰極。
  16. 請求項13又は15に記載の電子放出型冷陰極を用いたことを特徴とする電界放出型画像表示装置。
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