JP3573214B2 - 切削の切り屑分断性と切削面精度の優れた自動車燃料分配管用Al合金押出材 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車燃料分配管用Al合金押出材に関するものであり、特に自動車エンジンに使用される燃料分配管用押出材に要求される切削加工における切り屑分断性と切削面精度の両特性を改善したものである。
【0002】
【従来の技術】
最近の自動車用エンジンは低公害化や高出力化のため電子制御化して、燃焼室へ直接燃料を噴射する方式が一般的になっている。そこで、燃料噴射装置をエンジンに固定して、且つ個々の燃料噴射装置へ燃料を供給するための燃料分配管が必要になり、種々の燃料分配管が使用されている。従来燃料分配管は、鉄製又はAl合金製の鋳物管材が用いられている。しかしなから近年品質の向上や生産性向上のためアルミニウム合金(JIS6061合金;Al− 0.6wt%Si−1.0 wt%Mg−0.25wt%Cu− 0.2wt%Cr合金)製で中空の押出材でも作られる様になっている。なお燃料分配管と燃料噴射装置(以下INJという)の取付構造の一例を図1に示す。図1を使用して説明すると燃料分配管として中空の押出材(1)を使用する場合、この押出材にINJの数だけ孔(3)があけられ、この孔(3)にO−リング(4)を介してINJ(5)が取付けられる。図中(6)は吸気口を、(2)は燃料を供給する燃料通路用孔を示す。
【0003】
この場合、分配管(1)の孔(3)の壁面とINJのO−リング(4)との接合部からの燃料漏れは重大事故につながることから、接合部のシール性は絶対必要条件とされており、INJ取付部の孔(3)の壁面の切削加工後の面精度は高精度が要求される。
【0004】
一方近年この自動車燃料分配管用として使用されている前記JIS6061合金は、切削加工後の表面精度の点では優れているが切削加工の際の切り屑分断性が非常に劣り、生産性の点で問題があった。
また従来より6000系で耐食性を有し、快削性のAl合金としてはAA6262合金(Al− 0.6wt%Si− 1.0wt%Mg−0.25wt%Cu− 0.1wt%Cr−Pb−Bi合金)が知られているが、この合金は本発明者らの調査研究によると切り屑分断性は優れているが、切削加工面の表面精度が劣ることがわかった。
【0005】
そこで高精度の切削面と良好な切り屑分断性の両特性を満足する自動車燃料分配管用Al合金押出材を開発することが生産性の向上のため強く求められていた。なお本明細書において高精度の切削面とは切削後の面粗度が細かく、切削面にかじり等の欠陥のないことを意味する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、このような状況に鑑み自動車燃料分配管用としてのAl合金押出材について種々の調査研究を行った結果、従来の快削性Al合金であるAA6262合金の切削性の改善元素として多用されてきたPbやBiは切削面精度を劣化させることを見い出し、さらに検討の結果Al−Mg−Si−Cu系合金にSnのみを添加し、且つSn化合物の晶出粒子の大きさや分布密度を最適化することで高精度の切削面と切り屑分断性との両特性を両立させた自動車燃料分配管用Al合金押出材を開発したものである。
【0007】
即ち本発明はSi: 0.3〜1.0 wt%、Cu: 0.1〜0.5 wt%、Mg: 0.6〜1.5 wt%、Sn: 0.3〜1.0 wt%、Ti: 0.005〜0.03wt%を含み、残部がAlと不可避的不純物とからなり、且つ材料の押出方向と直交する断面中に、粒径が20μm以下で、且つ密度が20〜700 個/mm2 のSn化合物が均一に分散していることを特徴とする自動車燃料分配管用Al合金押出材である。
【0008】
【作用】
本発明の自動車燃料分配管用Al合金押出材におけるAl合金中の添加元素の含有量を上記の如く限定したのは、次の理由によるものである。
【0009】
Si:SiはMgと共に時効析出処理により極めて微細な金属間化合物Mg2 Siを析出して強度を向上する効果を有する。しかし、Si含有量が 0.3wt%未満では時効処理による強度向上が不十分であり、 1.0wt%を越えると過剰なSiが単独若しくはFe−Si系の化合物として晶出して、切削面粗度の劣化原因になるのと同時に切削時の工具摩耗が顕著となる。従って、Siの含有量は0.3 〜 1.0wt%の範囲に限定する。
【0010】
Cu:Cuは切り屑分断性及び強度を向上する効果を有する。Cu含有量が 0.1wt%未満では強度向上が不十分であると共に切り屑の分断性が不十分であり、0.5 wt%を越えると材料の耐食性が劣化する。従って、Cuの含有量は 0.1〜0.5 wt%の範囲に限定する。
【0011】
Mg:Mgはマトリックス中に固溶して強度を高める作用と同時にSiと共に時効析出処理により極めて微細な金属間化合物Mg2 Siを析出して強度を向上する効果を有する。さらに、Snと共存して化合物Mg2 Snを晶出して切り屑分断性に寄与する。
しかし、Mg含有量が 0.6wt%未満では時効処理による強度向上が不十分であり、一方 1.5wt%を越えると変形抵抗が大きくなり押出性が低下すると共に切削性の低下を招く。
従って、Mgの含有量は 0.6〜1.5 wt%の範囲に限定する。
【0012】
Sn:Snは材料組織中にSn化合物(Mg2 Sn等)として微細に分散し切り屑分断性を向上させるとともに切削面精度を向上させる元素として重要であるが、Sn含有量が 0.3wt%未満では切り屑分断性の効果が不十分であり、 1.0wt%を越えると効果が飽和に達すると共に押出材の面粗度及び切削面粗度を劣化する。従って、Snの含有量は 0.3〜1.0 wt%の範囲に限定する。
【0013】
Ti:Tiは結晶粒を微細にして切削面粗度を向上する効果を有する。しかし、Ti含有量が 0.005wt%未満では結晶粒が微細化しないので切削面粗度の向上効果が十分でなく、0.03wt%を越えると押出性を阻害するのと共に、粗大晶出物を形成して切削面粗度を劣化する。従って、Tiの含有量は 0.005〜0.03wt%の範囲に限定する。
【0014】
なお、Fe,Mn,Cr等の不可避的不純物は、それぞれ 0.7wt%以下、 0.2wt%以下、 0.2wt%以下であれば本発明の効果に特に悪影響を及ぼさないため、上記範囲内であれば含有していても許容される。
【0015】
しかして本発明燃料分配管の材料であるAl合金押出材は上記の成分の規定だけでは不十分で、押出ダイスを 480 〜 550 ℃に調整して押出すことにより、上記のAl合金押出材の押出方向と直交する断面中に分散するSn化合物の晶出粒子の寸法及び分散状態を規定することにより初めて切削面粗度を改善する効果を有するもので、Sn化合物の晶出粒子個々の粒径が20μm以下で、且つ密度が20〜700個/mm2で均一に分散していることが必要である。これは、Sn化合物の晶出粒子個々の粒径が20μmを越えると密度が本発明限定範囲内であっても切削面粗度を劣化し、また密度が20個/mm2未満ではSn化合物の晶出粒子個々の粒径が本発明限定範囲内であっても切削性改善効果が不十分で切り屑が連続し、また密度が700個/mm2を越えるとSn化合物の晶出粒子個々の粒径が本発明限定範囲内でも切削面粗度を劣化するためである。
【0016】
このような構成の本発明の自動車燃料分配管用Al合金押出材は、切削加工における切り屑分断性が良好で生産性を大幅に向上することができ、また切削後の面粗度に優れており、燃料分配管のINJ取付部孔壁とINJのO−リングとの接合部でのシール性を良好に保持することが可能である。
【0017】
また本発明に係るAl合金押出材は従来の快削合金であるAA6262合金と同等以上に切削性が優れ、さらに切削面粗度にも優れるので自動車用燃料分配管以外でも切削後の表面精度が要求される部材に好適である。
【0018】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に詳細に説明する。
(実施例1)
表1に示した組成の、本発明例合金(No.1〜11)、比較例合金(NO.12〜16、従来の快削Al合金であるNo.17のAA6262合金)、及び従来例合金(No.18のJIS6061合金)を常法により溶解、鋳造して合金ごとに直径230mmの鋳塊を作製し、480℃で4時間の均質化処理後、押出ダイスを480〜550℃に調整し熱間押出法により直径30mmの丸棒に押出し、これを押出直後に水冷して焼入れした。次にこれを175℃で8時間高温時効処理を行いT5調質の供試材とした。
【0019】
【表1】
【0020】
上記の方法で作製した押出材について、押出方向と直交する断面を鏡面研磨し、X線マイクロアナライザーによりSn化合物像を撮影した写真をコンピュータ画像解析法を用いて、Sn化合物の晶出粒子について、粒子個々の絶対最大粒径と単位面積当たりの粒子数を自動測定し、繰返し測定した平均値をそれぞれ粒径と密度と称して表2に示す。
【0021】
【表2】
【0022】
また供試材を以下に示した方法で硬さ、切り屑分断性、切削後の表面粗さを測定し、比較した。
強度を表す指標としての硬さは、ロックウェルBスケールにより供試材断面を鏡面研磨して測定した。
切削試験は、自動旋盤を用いて、供試材の周速度を 100m/min とする回転数で、すくい角5°の超硬バイトを用い、切り込み量2mm、送り速度 0.1mm/rev、無潤滑の条件で切削を行った。切削条件を上記の様にしたのは、実際の生産現場に於ける生産性を考慮して可能な限り高速切削の条件を実験的に再現するためである。
そして切削した切り屑を採取して、切り屑 100個当たりの重量を測定した。因みに、この重量が軽量なほど切り屑分断性に優れることになる。
また、切削後の表面を切削方向と直角方向に表面粗さを測定し、JIS−B−0601で規定される最大高さ(Rmax )で表した。
以上の試験結果を表3に示す。
【0023】
【表3】
【0024】
表3から明らかなように本発明例合金のNo.1〜11は硬さ、切り屑分断性、切削面粗度のいずれの特性も満足することが確認された。また特に従来のJIS6061合金材に比し、切削面粗度はやや向上するが、切り屑分断性は著しく優れていることがわかる。
【0025】
これに対して比較例No.12〜17は、硬さ、切り屑分断性、切削面粗度特性のいずれかが劣ることがわかる。
【0026】
(実施例2)
前期実施例1の合金組成が、表1のNo.5の合金(本発明例合金)、No.17の合金(比較例のAA6262合金)、No.18の合金(従来例のJIS6061合金)について、図1に示す燃料分配管の形状(断面中央に燃料通路用の孔(2)がある形状)に、実施例1と同様に押出加工し、押出直後に水冷して焼入れした。次にこれを175℃で8時間高温時効処理を行いT5調質の試験材を作成した。これらの試験材について、図1に示すように燃料通路用の孔(2)に対し、直角にINJ装入用の9.5mmφの孔(3)の孔開け加工を各々20回実施した。
【0027】
このような試験の結果、本発明に係るAl合金押出材は、切り屑の分断性に優れ、孔加工作業の能率が向上し、また孔壁面の面粗度も優れていることが確認された。一方従来のJIS6061合金押出材は、孔壁面の面粗度は良好であったが切り屑がつながり作業性は非常に悪く生産性が劣るものであった。また比較材として使用したAA6262合金押出材は、切り屑の分断性は良好であったが孔壁面の面粗度は粗く、かじりが生じ劣っていた。
【0028】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明による自動車燃料分配管用Al合金押出材は従来のJIS6061合金押出材に比し、同等の機械的性質を有し、切り屑分断性の点で非常に優れているため燃料分配管の加工生産性を著しく向上させることができる。また燃料分配管の孔加工後の切削面精度も従来のJIS6061合金押出材に比し、同等以上のものが得られ、工業上有意義である。
【図面の簡単な説明】
【図1】Al合金押出材による燃料分配管と燃料噴射装置(INJ)の取付構造の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 燃料分配管(Al合金押出材)
2 燃料通路用孔
3 燃料噴射装置(INJ)装着用孔
4 O−リング
5 燃料噴射装置(INJ)
6 吸気口
Claims (1)
- Si:0.3〜1.0wt%、Cu:0.1〜0.5wt%、Mg:0.6〜1.5wt%、Sn:0.3〜1.0wt%、Ti:0.005〜0.03wt%を含み、残部がAlと不可避的不純物とからなり、押出ダイスを 480 〜 550 ℃に調整して押出すことにより、材料の押出方向と直交する断面中に粒子径が20μm以下で、且つ密度が20〜700個/mm2のSn化合物が均一に分散していることを特徴とする切削の切り屑分断性と切削面精度の優れた自動車燃料分配管用Al合金押出材。
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