JP3552577B2 - 高温疲労強度及び耐摩耗性に優れたアルミニウム合金製ピストン及びその製造方法 - Google Patents

高温疲労強度及び耐摩耗性に優れたアルミニウム合金製ピストン及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、各種内燃機関に使用され、高温疲労強度及び耐摩耗性に優れたアルミニウム合金製ピストン及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術及び問題点】
2輪車に代表される車輌搭載用のエンジンは、軽量性が要求されることからアルミニウム合金製のエンジンが使用されている。エンジン部品であるシリンダケース,ピストン等は、高温強度及び耐熱性に優れたアルミニウム合金を鋳造,鍛造等で製造している。
最近では、地球環境保護の観点から車輌の軽量化及び燃費の改善が強く要求されている。そのため、エンジン部品に使用されるアルミニウム合金製ピストンとしても、より軽量で、より高温燃焼に耐える材質が望まれている。
要求特性を満足させる上では、薄肉化や品質安定性の面から鍛造製ピストンが有望視されている。ところが、現在市場に出ている鍛造製ピストンは、200〜250℃の高温域になると疲労強度が著しく低下する。アルミニウム合金粉末を用いた粉末鍛造ピストンでは、200〜250℃の高温域でも十分な高温強度を維持する。しかし、粉末鍛造材は、溶製材に比較すると材料費が高く、鍛造成形性も悪いために複雑形状のピストンには加工できない。
【0003】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、高温疲労強度に有害な影響を及ぼす含有ガス量及び介在物を低減し、組織的にも高融点晶出物を多量にマトリックスに均一分散させることにより、200〜250℃の高温域においても従来材に比較して優れた高温疲労強度をもち、鍛造性にも優れたアルミニウム合金製ピストンを得ることを目的とする。
本発明のアルミニウム合金製ピストンは、その目的を達成するため、鍛造後にSi:11〜13重量%,Fe:0.2〜1.2重量%,Cu:3.5〜4.5重量%,Mn:0.2〜0.5重量%,Mg:0.3〜1.0重量%,Ti:0.01〜0.2重量%,B:0.0002〜0.02重量%,P:0.005〜0.02重量%を含み、Caを0.005重量%以下に規制し、残部が実質的にAlの組成をもち、鋳造時に晶出したSi及び金属間化合物が鍛造後に平均粒径5〜35μmでマトリックスに均一分散し、ガス含有量が0.25cc/100g−Al以下に規制された鍛造組織を持ち、鋳塊段階で介在物平均個数がK10 値で0.01個/cm 以下に規制されており、鍛造加工で成形されていることを特徴とする。
【0004】
このアルミニウム合金製ピストンは、成分調整されたアルミニウム合金溶湯を微細化処理した後、0.05〜0.20g/100g−AlのArガスを溶湯温度750〜800℃のアルミニウム合金溶湯に0.5〜1.5時間かけて吹き込んでアルミニウム合金溶湯を脱ガスし、アルミニウム合金溶湯を750〜800℃の温度域に45分以上保持して介在物を浮上分離させ、脱滓した後、アルミニウム合金溶湯を鋳塊に連続鋳造し、490〜510℃×3〜5時間の均質化処理を施し、200℃/時以上の冷却速度で冷却し、冷却された鋳塊を鍛造用スライスに切断し、400〜500℃に加熱した後、所定形状に鍛造加工することにより製造される。490〜510℃×3〜5時間の溶体化処理を施した後、水焼入れし、160〜180℃×6〜10時間の時効処理を鍛造品に施すとき、Mg Si,Al Cu等の析出により必要強度が付与される。また、鍛造後に190〜200℃×5〜7時間の時効処理を施すこともできる。
【0005】
【作用】
アルミニウム合金製ピストンの高温強度を上昇させるためには、高温強度を向上させ、疲労破壊の核となる含有ガス及び介在物を少なくすることが必要である。本発明では、鋳造時に晶出するFe,Cu,Si等の金属間化合物及び初晶Siを鍛造によって適度なサイズに制御し且つマトリックスに均一分散させることにより、マトリックスのアルミニウム固溶体の軟化を抑えながら高温強度を向上させている。また、初晶Siを適度なサイズに制御し、微細な共晶Siをなるべく大きく晶出させることにより、耐摩耗性を改善している。
以下、本発明で特定した各条件を説明する。
【0006】
[鍛造後の成分・組成]
Si:11〜13重量%
耐摩耗性,耐熱性に有効な合金成分であり、高温域における熱膨張係数を低下させる作用も呈する。また。時効処理によってMg Siとして析出し、合金材料の機械的強度を向上させる。しかし、Si含有量が13重量%を超えると、連続鋳造時の冷却速度を100℃/秒以上に早くしても粒径が50μmを超える粗大な初晶Siが発生し易くなる。粗大な初晶Siは、鍛造で砕かれた後でも依然として大きな形状として残るため疲労破壊の核となり、室温及び高温域での機械的強度及び疲労強度を低下させる原因となる。しかし、11重量%に満たないSi含有量では、強度及び耐摩耗性が不足する。
Fe:0.2〜1.2重量%
融点の高いAl−Fe系又はAl−Fe−Si系の金属間化合物は、合金材料が200℃を超える高温域に曝されたとき、引張強さ及び疲労強度を高める作用を呈し、Fe含有量0.2重量%以上で効果が顕著になる。しかし、1.2重量%を超える多量のFeが含まれると、疲労破壊の核となる粗大な金属間化合物の晶出を促進させ、伸び,鍛造成形性,靭性に有害な影響を及ぼす。
【0007】
Cu:3.5〜4.5重量%
マトリックスを固溶強化する合金成分であり、3.5重量%以上の含有量でCuの添加効果が顕著になる。固溶したCuは、時効処理によってAl Cuとして析出し、合金材料の強度を向上させる作用も呈する。しかし、Cuによる引張強さ向上効果は4.5重量%で飽和する。鋳造時に晶出したAl Cuは、硬度が高いのでマトリックスに分散して高温強度を上昇させるが、4.5重量%を超える過剰量のCuが含まれると、疲労破壊の核となる粗大なAl Cuが晶出し易くなり、鍛造成形性及び耐食性も低下する。
Mn:0.2〜0.5重量%
Al−Mn系化合物として晶出し、耐熱性や耐摩耗性を改善する作用を呈する。Al−Mn系化合物は、晶出時に針状のAl−Fe系化合物に作用してAl−Fe−Mn系の塊状化合物に形態変化させ、靭性の低下を抑制する。このような作用・効果は、0.2重量%以上のMn含有量で顕著になる。しかし、0.5重量%を超える過剰量のMnが含まれると、Al−Si−Fe−Mn系の粗大な化合物が晶出し、押出,鍛造等の塑性加工時に割れを誘発させる原因となり、強度や伸びの低下にも繋がる。粗大なAl−Si−Fe−Mn系化合物は、疲労破壊の核となるので常温及び高温疲労強度にとっても有害である。
【0008】
Mg:0.3〜1.0重量%
時効処理でMg Siとして析出し、合金材料の機械的強度を上昇させる。強度向上効果は、0.3重量%以上のMg含有量でみられ、Mg含有量の増量に応じて大きくなる。しかし、1.0重量%を超える過剰量のMgが含まれると、伸びの低下が著しく、塑性加工性も低下する。
Ti:0.01〜0.2重量%
鋳造結晶粒を微細化するため、Al−Ti−B合金として添加される合金成分である。鋳造組織の微細化効果は、0.01重量%以上のTi含有量で顕著になる。鋳造結晶粒を微細化することにより、融点が高い金属間化合物が網目状となって粒界に晶出する。網目状の金属間化合物は、後続する鍛造加工によって細かく砕かれて分散し、耐熱性及び高温疲労強度を向上させる。しかし、0.2重量%を超える過剰量のTiを添加すると、AlTi の粗大な針状化合物が晶出して疲労破壊の核となり易く、強度及び伸びも低下する。
【0009】
B:0.0002〜0.02重量%
微細化剤として、Tiと共にアルミニウム合金溶湯に添加される成分である。しかし、多量のBはTi,V等と結合して疲労破壊の核となる粗大な金属間化合物を生成し易いことから、本発明では微細化効果との兼ね合いでB含有量を0.0002〜0.02重量%の範囲に設定した。
P:0.005〜0.02重量%
Si含有量13重量%以上の過共晶合金に添加される初晶Siの微細化剤として従来から使用されてきた成分であるが、P添加により共晶Siの粒径が大きくなる傾向が示される。初晶Siの微細化は、0.005重量%以上のP含有量で顕著になる。初晶Si及び共晶Siのサイズに及ぼすPの影響を種々調査・研究したところ、Si含有量11〜13重量%の亜共晶組成ではP添加により初晶Siが微細化し、共晶Siが粗くなる結果、初晶Siと共晶Siの粒径差が小さくなり、分布状態も均一化されることを知見した。初晶Si及び共晶Siの均一分散は、高温域における機械的強度,疲労強度,耐摩耗性に有効である。しかし、P含有量が0.02重量%を超えると、溶湯にPの酸化物が混入し、疲労強度に有害な介在物が増加する傾向を示す。
Ca:0.005重量%以下
共晶Siを微細化する作用を呈する成分である。本発明では、共晶Siを大きくして耐摩耗性に寄与させることから、共晶Siの微細化に影響を与えないようにCa含有量の上限を0.005重量%に規定した。また、Ca含有量を低減しているので、初晶Siを微細化するPの作用が効果的に発現される。
【0010】
[脱ガス処理]
鍛造加工されたアルミニウム合金製ピストンが多量のガスを含有していると、ガス起因のポロシティが鍛造によって潰されているとはいえ、200〜250℃の高温域で使用しているとき含有ガスが一個所に集合して疲労クラックの核になり易い。高温域で使用されるアルミニウム合金製ピストンの要求特性を考慮すると、ガス含有量0.25cc/100g−Al以下が有効であることが本発明者等による図1に示す実験結果から判った。
ガス含有量を下げるため、本発明では、溶湯段階で溶融アルミニウム合金溶湯に粘性を生じさせないArガスを吹き込むことにより十分脱ガスする。この点、N ガスは、溶湯の粘性を高くするので好ましくない。Arガスの吹込みに際しては、750〜800℃の温度域にアルミニウム合金溶湯を維持することが重要である。溶湯温度が750℃を下回ると溶湯に粘性が生じ、吹き込まれたArガスが抜けにくくなる。逆に800℃を超える溶湯温度では、炉の寿命が短くなる。Arガス吹込みによる脱ガスとしては、脱ガスユニットを備えた鋳造設備を使用し、たとえば金型に至る樋を流れる溶湯等に対し鋳造時に連続脱ガスする方式も採用できる。
Arガスの吹込みには、吹き込まれたArガスを微細な気泡として溶湯中に分散させるため、回転ノズルを使用した噴射方式が好ましい。Arガスの微細気泡は、溶湯に含有されているH等のガス成分を吸着し、溶湯から浮上分離する。溶湯を効果的に脱ガスするため、0.05〜0.20g/100g−AlのArガスを0.5〜1.5時間かけて吹き込むことが必要である。既定値未満のArガス量及び吹込み時間ではArガス吹込みによる脱ガス効果が不充分であり、逆にArガス量及び吹込み時間が既定値を超えても脱ガス効果が飽和する。
【0011】
[溶湯の保持処理]
脱ガス処理が終了した溶湯を750〜800℃の温度域で45分以上保持するとき、Al ,他の酸化物,レンガ屑,工具の保護剤等の介在物が溶湯から浮上分離する。介在物は、溶湯温度が高いほど溶湯から分離し易くなる。750℃未満の溶湯温度では、溶湯の粘性が大きく、介在物が浮上しにくい。また、45分に達しない保持時間では、介在物の浮上が十分に進行しない。しかし、800℃を超える溶湯温度では、炉壁耐火物の熱負荷が大きく、炉の寿命が短くなる。
保持炉で脱ガス・除滓された溶湯は、樋を経て鋳型に注入される。樋を流れる溶湯を連続的に脱ガスし、フィルタ装置を通過させ、更に溶湯に浮遊している介在物を堰,フィルタカートリッジ等でトラップするとき、清浄度が一層高くなった溶湯が鋳型に注入され、介在物の少ない鋳塊が得られる。
【0012】
[鋳造]
清浄化された溶湯は、鋳型内に注入され、所定形状の鋳塊に連続鋳造される。鋳造方式としては、デンドライトアームスペーシングを小さく(好ましくは50μm以下)するため溶湯の冷却速度を速めた方式、具体的にはDC鋳造が採用される。DC鋳造は、竪型鋳造又は横型鋳造の何れであっても良い。
本発明で使用するアルミニウム合金は、Ti,Bを微細化剤として含んでいるので、微細な鋳造結晶粒をもつ鋳塊となる。しかし、本発明で規定した合金組成では鋳造組織が柱状晶になりやすいため、微細化処理によって等軸晶を可能な限り増加させることが好ましい。デンドライトアームスペーシングが小さく鋳造結晶粒が微細なため、融点の高いAl−Fe系,Al−Cu系,Al−Mn系,Al−Si−Fe(Mn)系等の金属間化合物は、網目状で細かく分散して鋳造結晶粒界及びデンドライトアーム境界に晶出する。晶出した金属間化合物が後工程の押出又は鍛造時に更に細かく砕かれてマトリックスに分散するため、鍛造品の耐熱強度が向上する。
【0013】
鋳塊は、脱ガス,保持処理により介在物を低減したアルミニウム合金溶湯から得られたものであるため、持ち込まれた介在物が極めて少なくなっている。通常、鍛造品に混在する介在物は、0.1〜3mmの長さをもち、10倍ルーペで鋳塊の破面を調査すると、黒みがかって観察される。そこで、本発明者は、鋳塊の破面を10倍ルーペで観察し、カウントされた介在物の個数を単位面積当りに換算してK10値を求めた。そして、K10値と疲労強度との関係を調査したところ 、K10値が0.01個/cm 以下になると、疲労強度が顕著に向上することが判った。これに対し、K10値が0.01個/cm を超えると、介在物が疲労クラックの核になりやすく、ピストンに要求される高温疲労強度が得られない。
鋳塊から押出工程を経て小径の丸棒を作り、丸棒から切り出されたスライスを鍛造する。この場合には、最終形態であるピストンの形状を考慮すると、直径100〜400mmの鋳塊が使用される。或いは、鋳塊表面の黒皮を面削で除去した後、押出工程を経ずに鋳塊からスライスを切り出し、鍛造することも可能である。この場合には、直径50〜100mmの鋳塊が使用される。
【0014】
[均質化処理]
得られた鋳塊は、Si,Mg,Cuをマトリックスに十分固溶させて時効処理硬化を上げるため、490〜510℃×3〜5時間で均質化処理される。490℃未満の加熱温度や3時間に達しない加熱時間では、固溶化が十分に進行せず、Si,Mg,Cu等の有効量が時効処理時に不足しがちになる。しかし、510℃を超える加熱温度では部分的に融解(バーニング)する虞れがあり、5時間を超える長時間加熱では時間に見合った効果の上昇が見られず経済的でない。
均質化処理された鋳塊は、200℃/時以上の冷却速度で冷却される。これにより、Si,Mg,Cuの十分な量が固溶状態に維持され、時効処理時に強度付与に有効な析出量が確保される。冷却速度が200℃/時を下回ると、冷却過程でMg Si,Al Cu等が析出し易く、Si,Mg,Cu等の有効量が時効処理時に不足しがちになる。
【0015】
[鍛造]
均質化処理が終了した直径100〜400mmの鋳塊は、押出用ビレットに切断され、鍛造用丸棒に押し出された後、所定のスライスに切り出される。直径が50〜100mmの鋳塊では、押出工程を経ることなく、面削により鋳塊表面の黒皮を除去した後、鍛造用スライスに切り出される。黒皮を除去することなく、鋳塊から切り出したスライスを鍛造に用いることも可能である。この場合、鍛造方向に平行な雌型の内面と雄型のポンチ部外面との間にメタル溜り部を設けた金型(特開平10−118735号公報)を使用すると、鍛造品への黒皮の混入が防止される。
鍛造用スライスは、鍛造に先立って400〜500℃に加熱され、熱間鍛造される。400〜500℃の温度域に鍛造用スライスを加熱するとき、鍛造金型内でメタルのスムーズな流動が促進され、鍛造時の圧力も冷間鍛造に比較して小さくて済む。
【0016】
加熱された鍛造用スライスを鍛造金型にセットし、所定形状に鍛造加工する。鍛造により材料が練り上げられ、製品に靭性が付与される。また、鋳造時に生成した初晶Si,金属間化合物等の網目状晶出物が鍛造により細かく砕かれてマトリックスに分散するので耐熱性が向上する。なかでも、初晶Si及び金属間化合物を鍛造により平均粒径5〜35μmに破砕してマトリックスに均一分散させると、疲労破壊の核となる初晶Si等の晶出物がなくなるので、常温及び高温疲労強度が改善される。鍛造後の組織に平均粒径35μmを超える晶出物が分布していると、疲労クラックの核になり易い。鍛造により大きな初晶Siが平均粒径5〜35μmのサイズに砕かれることも、耐摩耗性の改善に有効である。
鍛造方式としては、固定したスライスにマンドレルを押し付けてメタルをマンドレルに沿って流動させる後方押出,固定したマンドレルにスライスを押し付けてメタルをマンドレルに沿って流動させる前方押出の何れも採用可能である。
【0017】
[熱処理]
鍛造品は、ピストンとして要求される機械的性質を付与するため、490〜510℃×3〜5時間の溶体化処理を施した後、水焼入れし、160〜180℃×6〜10時間の時効処理される。溶体化処理では、Mg,Si,Cu等をマトリックスに十分固溶させる。水焼入れによりMg,Si,Cu等の固溶状態を常温まで維持し、時効処理によってMg Si,Al Cu等として析出させ、所定の強度を付与する。また、鍛造品を寸法変化防止のため溶体化処理せずに190〜200℃×5〜7時間の時効処理を施し、強度を付与することもできる。
時効処理された鍛造品は、必要個所が機械加工され、製品ピストンに仕上げられる。
【0018】
【実施例】
所定組成に成分調整したアルミニウム合金溶湯を770℃に維持し、溶湯に浸漬した回転ノズルから0.1g/100g−AlのArガスを40分噴射させて脱ガスした。次いで、溶湯を760℃に60分間保持して介在物を浮上分離した後、直径86mm,長さ5mの鋳塊に竪型DC鋳造した。
鋳塊に500℃×4時間の均質化処理を施し、冷却速度250℃/時でファンにより強制空冷した。冷却後の鋳塊表面を厚さ2mm面削し、長さ21mmの鍛造用スライスを切り出した。概略を図2に示す後方押出方式の鍛造装置に鍛造用スライス1をセットした。鍛造に先立って、鍛造用スライス1を460℃に加熱すると共に、ポンチを備えた下型2及び金型3を200〜250℃に加熱した。下型2上の鍛造用スライス1に上方からマンドレル4を押し込み、350トンの加圧力を鍛造用スライス1に加えた。マンドレル4の先端が鍛造用スライス1に食い込み、メタルが矢印Fで示すようにマンドレル4に沿って上方に流れた。マンドレル4を所定位置まで降下させた後、マンドレル4を引き抜くと同時に下型2に内蔵したポンチを上昇させ、直径84mm,高さ47mmのピストン形状をもつ鍛造品を金型3から取り出した。このときの据込み率は、ヘッド部で76%であった。
【0019】
鍛造品に500℃×4時間の溶体化処理を施し、水焼入れし、170℃×8時間で時効処理した。時効処理後の組織を観察し、ガス含有量を測定すると共に、機械的性質を調査した。なお、ガス含有量は、時効処理後の鍛造品からサンプルを切り出し、ランズレー法で測定した。介在物に関しては、鍛造品をハンマーで破断しずらかったので、鋳造棒から切り出したスライスをハンマーで割り、破面を10倍ルーペで観察して介在物の個数をカウントし、K10値を求めた。観察面積は、両破面合せて20cm とした。
得られたピストンの組成を表1に示す。表中、比較合金A,Bは初晶SiをPで微細化しなかった例であり、そのうち比較合金Aは共晶SiをSbで微細化した。表2には、時効処理後にミクロ組織を観察した結果,ガス含有量を示す。表3には、引張強さ及び疲労強度の測定結果を示す。
【0020】
表3から明らかなように、本発明品C〜Fは、比較品A,Bに比べて高温での引張強さ及び疲労強度が大きくなっている。比較品Aは現状の鍛造ピストンに相当する組成をもつが、Pで初晶Siを微細化していないため、初晶Siの平均粒径が表2に示すように大きく、共晶SiはSbで微細化されているため小さかった。その結果、大きな初晶Siが疲労クラックの核となって作用し、高温疲労強度が劣る表3の結果となって現れたものと推察される。しかも、比較品AはCu及びFeの含有量が少ないため、本発明品に比較して高温強度が劣っている。比較品BはCu,Mn,Tiの含有量が少ないため、高融点晶出物の量が少なく、高温強度が低い値を示している。しかも、Cuが極端に少ないため共晶点からのズレが小さく、従って初晶Siが少なく疲労強度も劣っていた。
これに対し、本発明品C〜Gは、常温及び高温の何れにおいても優れた引張強さ及び疲労強度を示した。この機械的性質を表2の晶出物測定結果と照らし合わせるとき、鍛造後の初晶Si,共晶Si及び金属間化合物を適正サイズに制御することが機械的強度,疲労強度及び耐熱性の向上に有効なことが判る。
【0021】
Figure 0003552577
【0022】
Figure 0003552577
【0023】
Figure 0003552577
【0024】
次いで、表1の組成Dをもつアルミニウム合金溶湯を脱ガスした後、720℃と比較的低い温度に15分の短時間で保持処理し、その他は同じ条件下でピストンを製造した。得られたピストンは、ガス含有量が0.20cc/100g−Alと少ないものの、介在物個数がK10値で0.25個/cm と多かった。また、高温疲労強度は、250℃で56MPa(10 サイクル)と低い値を示した。低い高温疲労強度は、多量の介在物が疲労クラックの核として作用した結果と推察される。
【0025】
更に、表1の組成Eをもつアルミニウム合金溶湯を760℃で15分脱ガスしたのみで、本発明品と同じ条件下で介在物を除去し、ピストンを製造した。得られたピストンのガス含有量は0.35cc/100g−Alと多く、介在物個数はK10=0.003個/cm と小さな値を示した。高温疲労強度は、250℃で59MPa(10 サイクル)と低い値を示した。低い高温疲労強度は、ピストンに含有されている多量のガスに原因があるものと推察される。
各ピストンの耐摩耗性を調査したところ、表4に示すように、本発明品C〜Gは、従来の比較品A,BとSi含有量が同じレベルでありながら、比較品A,Bよりも良好な耐摩耗性を示した。これは、比較品A,Bの共晶Siが平均粒径3.8μm,4.2μmと小さいが、本発明品C〜GではP処理により共晶Siの粒径を大きくし、比較的多量のFe,Cuを含んでいるため、共晶SiやFe,Cu系の晶出物が耐摩耗性の向上に寄与しているものと推察される。
【0026】
Figure 0003552577
【0027】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明のアルミニウム合金製ピストンは、成分・組成が特定された系において、鋳造時に晶出した初晶Si,共晶Si,金属間化合物を適正サイズに制御して均一分散させた鍛造組織にすると共に、ガス含有量及び介在物個数を低く抑えている。これにより、常温及び高温共に優れた機械的強度及び疲労強度を示し、軽量性を活かし且つ熱負荷が大きくなる傾向にあるエンジン用のピストンとして使用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】引張強さに及ぼすガス含有量の影響を表わしたグラフ
【図2】鍛造金型にセットしたスライスをピストンに鍛造する説明図

Claims (4)

  1. 鍛造後にSi:11〜13重量%,Fe:0.2〜1.2重量%,Cu:3.5〜4.5重量%,Mn:0.2〜0.5重量%,Mg:0.3〜1.0重量%,Ti:0.01〜0.2重量%,B:0.0002〜0.02重量%,P:0.005〜0.02重量%を含み、Caを0.005重量%以下に規制し、残部が実質的にAlの組成をもち、鋳造時に晶出したSi及び金属間化合物が鍛造後に平均粒径5〜35μmでマトリックスに均一分散し、ガス含有量が0.25cc/100g−Al以下に規制された鍛造組織を持ち、鋳塊段階で介在物平均個数がK10値で0.01個/cm 以下に規制されている、鍛造加工で成形された高温疲労強度及び耐摩耗性に優れたアルミニウム合金製ピストン。
  2. 鍛造後に請求項1記載の組成となるように成分調整されたアルミニウム合金溶湯を微細化処理した後、0.05〜0.20g/100g−AlのArガスを溶湯温度750〜800℃のアルミニウム合金溶湯に0.5〜1.5時間かけて吹き込んでアルミニウム合金溶湯を脱ガスし、アルミニウム合金溶湯を750〜800℃の温度域に45分以上保持して介在物を浮上分離させ、脱滓した後、アルミニウム合金溶湯を鋳塊に連続鋳造し、490〜510℃×3〜5時間の均質化処理を施し、200℃/時以上の冷却速度で冷却し、冷却された鋳塊を鍛造用スライスに切断し、400〜500℃に加熱した後、所定形状に鍛造加工することを特徴とする高温疲労強度及び耐摩耗性に優れたアルミニウム合金製ピストンの製造方法。
  3. 鍛造品に490〜510℃×3〜5時間の溶体化処理を施した後、水焼入れし、160〜180℃×6〜10時間の時効処理を施すことを特徴とする請求項2記載の高温疲労強度及び耐摩耗性に優れたアルミニウム合金製ピストンの製造方法。
  4. 鍛造品に190〜200℃×5〜7時間の時効処理を施すことを特徴とする請求項2記載の高温疲労強度及び耐摩耗性に優れたアルミニウム合金製ピストンの製造方法。
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