JP3571179B2 - 塩化ビニル系重合体の製造方法 - Google Patents

塩化ビニル系重合体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は塩化ビニル系重合体の製造方法に関するものであり、更に詳細には重合安定性に優れ、フィッシュアイが少なく、かつ生産性に優れた塩化ビニル系重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
塩化ビニル系樹脂は安価でかつ品質バランスに優れているため、軟質分野、硬質分野等種々の広範な分野で利用されている。例えば軟質分野では電線被覆、ラップフィルム、シート等、硬質分野ではパイプ、窓枠、フィルム等である。
一方、材料としての塩化ビニル系樹脂は安価なことが必須要件である汎用樹脂であり、製造コストを下げるために従来から様々な重合生産性の向上手段が図られてきた。例えば重合器の容量を大きくして一生産あたりの生産量を多くする方法、塩化ビニル系単量体を先に仕込み、続いて脱気された温水を仕込むことにより昇温時間を短縮して生産性を上げる方法、さらに塩化ビニル系単量体と脱気された温水を同時に仕込むことにより仕込み及び昇温時間を短縮して生産性を上げる方法等が提案されている。
【0003】
例えば、▲1▼特公昭62ー39601号には、予め加温された水性媒体(分散剤を水に溶解した混合物)と、塩化ビニル系単量体と開始剤の均一混合物とを同時に仕込むことにより昇温時間を短縮して生産性を上げる方法、▲2▼特公昭60ー26488号には、分散剤の全量を溶解した水と開始剤の全量を溶解した塩化ビニル系単量体の仕込み時期に若干の時差を設け、両者の仕込み終了時点に所定温度になるようにして生産性を上げる方法、▲3▼特開昭60ー158207号には、開始剤を含有する塩化ビニル系単量体と分散剤を含有する水とを50℃以下で予備混合し、この混合物を熱交換器にて反応温度まで昇温しながら重合器に仕込む方法、▲4▼特開平1ー172407号には、塩化ビニル系単量体の仕込み中に分散剤の少なくとも20%を仕込むとともに、重合器内の塩化ビニル系単量体の水に対する重量比が1.5以下の間に開始剤を全量仕込む方法等が開示されている。
【0004】
しかしながら、特公昭62ー39601号の方法では、塩化ビニル系単量体と開始剤の均一混合に塩化ビニル系単量体の貯蔵タンクとは別のタンクや特殊な混合器を必要とし仕込み操作が煩雑となるばかりでなく、重合器に仕込むと同時に開始反応が急激に進行するとともに、分散剤が水中に分散した単量体油滴表面に均一に拡散して安定な保護層を形成する時間的余裕がないため重合安定性に乏しく、粗粒分が多かったり、フィッシュアイが増加するといった欠点があった。
【0005】
また特公昭60ー26488号の方法は、開始剤の全量を溶解した塩化ビニル系単量体と水の仕込み時期に若干の時差を設けてはいるものの、前記特公昭62ー39601号の方法と同様の欠点があった。
特開平1ー172407号の方法は上記▲1▼、▲2▼の改良方法であるが、分散剤の仕込み時期が単量体の仕込み時期に対して遅れることに起因し、重合安定性が損なわれる傾向にある。
【0006】
さらに特開昭60ー158207号の方法は水と塩化ビニル系単量体の予備混合後、この混合物を熱交換器で反応温度まで昇温するため熱交換に時間がかかり、生産性向上効果が思ったほどには望めない。
このように、分散剤を含む温水と開始剤を含む塩化ビニル系単量体とを同時に、または若干の時差を設けて仕込む方法は、生産性向上には効果があるものの、重合安定性に乏しい、粗粒分が多い、フィッシュアイが増加する、等の問題点を有する上、重合安定性を高めるために多量の分散剤を必要としコストアップになるという問題点がある。
【0007】
また、特開昭58ー21408号には予め50〜80℃に加温脱気された水を仕込む方法、特公昭58ー50603号には、分散剤と冷水を仕込み、次いで塩化ビニル系単量体を仕込み、最後に加温された水を仕込む方法が開示されている。
しかしながら特開昭58ー21408号は、開始剤を含んだ塩化ビニル系単量体が仕込み中に重合器内壁と直接接触するため膜状スケールを発生し易く、これによってジャケットによる重合熱の除去能力が著しく低下するため重合時間を短縮することができないという問題がある。
【0008】
また特公昭58ー50603号はフィッシュアイ改良効果はあるものの仕込みに時間がかかるため、稼働率の点では不利であるという問題点を有していた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記従来技術に鑑みてなされたものであり、温水と塩化ビニル系単量体を同時に仕込む方法の有する問題点、即ち重合器内面へのスケール付着、重合安定性の低下、粗粒の発生、フィッシュアイの増加等の生産上及び品質上の問題を生じることなく仕込み時間を短縮し、重合稼働率を向上し、生産性の高い塩化ビニル系重合体の製造方法を提供することを目的とし、換言すれば、品質上の諸問題と生産性の相反する要素をバランス良く向上させることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、品質上の諸問題と生産性の相反する要素をバランス良く向上させるために鋭意検討した結果、特定の仕込み方法を採用することによって品質上の問題点生じることなく生産性を大幅に向上させることが可能であることを見いだし、本発明に到った。
【0011】
即ち本発明は、塩化ビニル単量体、または塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体と塩化ビニル単量体との混合物(以下、両者を塩化ビニル系単量体と記す)を水性媒体中で懸濁重合するに際し、
(a)温度が0〜50℃の水を使用総量の20重量%を越えない範囲で重合反応器に仕込むと同時に、水溶性もしくは水分散性の高分子懸濁分散安定剤(以下、分散剤と記す)の水溶液もしくは水分散液を重合反応器に仕込んでから該重合反応器を脱気し、
(b)予め脱気した温水と、塩化ビニル系単量体とを同時に又は温水を僅かに早く仕込み始め、
(c)塩化ビニル系単量体の仕込み開始と同時に、油溶性開始剤を専用計量ラインを通じて塩化ビニル系単量体ラインに導入して仕込む、
ことを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法を内容とする。
【0012】
本発明では、水溶性もしくは水分散性の分散剤として部分ケン化ポリ酢酸ビニル、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、酢酸ビニルーマレイン酸共重合体、スチレンーマレイン酸共重合体、ゼラチン、デンプン等を用いる。更に好ましくは上記分散剤のうち少なくとも一種とポリエチレンオキサイドを組み合わせて用いる。
【0013】
また、前記(b)工程において、脱気された温水を仕込み始めてから、塩化ビニル系単量体を仕込み始めるまでの時間が2分以内である場合において品質及び生産性の向上に対し顕著な効果が発揮される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の実施にあたっては、まず(a)工程として温度が0〜50℃の水を使用総量の20重量%を越えない範囲で重合反応器に仕込むと同時に、水溶性もしくは水分散性の分散剤の水溶液もしくは水分散液を重合反応器に仕込んだ後、該重合反応器を脱気する。この際、(a)工程を実施せずに、例えば塩化ビニル系単量体と全量の温水を始めから同時に仕込む方法では、生産性は向上するものの重合器内部管壁等に付着するスケールが多く、フィッシュアイの改良効果は必ずしも十分ではない。また、(b)工程以降の工程の途中や終了後に分散剤の水溶液もしくは水分散液を仕込み始める方法では、水中に分散した単量体油滴表面に分散剤が均一に拡散して安定な保護層を形成する時間的余裕がないため重合安定性に乏しく、粗粒分が多かったり、フィッシュアイが増加するので好ましくない。従って分散剤の水溶液もしくは水分散液は、予め使用総量の20重量%以内の水とともに重合器内に仕込んでおくのが良い。このように、分散剤の水溶液もしくは水分散液を予め使用総量の20重量%以内の水とともに重合器内に仕込んでおくことによって重合が安定化され、粗粒分が減少し粒度分布を狭くすることが可能となる。予め仕込んでおく水の量が使用総量の20重量%を越えると、全仕込みを終了した時点での反応混合液の温度が下がりすぎるため、所定の反応温度まで昇温するのに時間がかかり、生産性の向上という面で効果が薄れる。
【0015】
また、予め仕込む水の温度は0〜50℃の範囲とすることが必要であり、この温度範囲の水を用いることによって重合安定性が十分に確保され、粗粒分やフィッシュアイを著しく改良することが可能となる。この温度が50℃を越えると、次の(c)工程で塩化ビニル系単量体とともに仕込まれる油溶性開始剤が一気に分解し、単量体の仕込み後あまりにも速く重合が開始して、重合安定性が損なわれたり、重合器内の管壁スケール、粗粒分やフィッシュアイが増加し好ましくない。
【0016】
次に(b)工程として予め脱気した温水と、塩化ビニル系単量体とを同時に、又は前記温水を仕込み始めた後2分以内に塩化ビニル系単量体を、仕込み始める。脱気した温水と塩化ビニル系単量体は同時に仕込み始めても良いが、温水を若干早く仕込み始めるのが好ましい。この時間差が長くなると仕込みに要する時間が長くなり、生産性の向上という面では効果が薄れることになる。従って時間差は2分以内とするのが良い。
【0017】
温水及び塩化ビニル系単量体の仕込みに要する時間は特に制約はないが、特に塩化ビニル単量体のように、重合器内で温水と接触することによって一気に昇圧する単量体を用いる場合には、用いるポンプの揚程能力によっては仕込みが困難となる場合がある。従って、所望の仕込み時間に適した揚程能力及び仕込能力を有するポンプを用いる必要がある。
【0018】
ここで本発明において重合に使用する水の総量は特に制約はなく、重合安定性を損なわない範囲で生産性及び品質を両立し得るように決めれば良い。例えば重合開始時の水の総量を塩化ビニル系単量体に対する水の重量比で0.8〜1.5とすれば良く、さらに重合の進行に伴い、塩化ビニル系単量体と該重合体との比重差によりスラリー容積は減少するが、その減少量を越えない範囲で水を連続的、間欠的、あるいは一括して追加することもなんら差し支えない。
【0019】
さらに本発明では、(c)工程として塩化ビニル系単量体の仕込み開始と同時に、油溶性開始剤を専用計量ラインを通じて塩化ビニル系単量体ラインに導入して仕込む。油溶性開始剤は塩化ビニル系単量体の仕込みと実質的に同時に開始する。油溶性開始剤の仕込みに要する時間には特に制約はないが、塩化ビニル系単量体の仕込み時間の40%(例えば塩化ビニル系単量体の仕込み時間が25分の場合には10分)以内、好ましくは30%(同、7.5分)以内とするのが良い。
【0020】
油溶性開始剤の計量ラインは塩化ビニル系単量体の仕込みラインに接続される。即ち、油溶性開始剤と塩化ビニル系単量体は重合器の直前で合流、混合されて重合器内に導入される。
従来、油溶性開始剤を塩化ビニル系単量体と均一に混合して重合器に仕込むという方法が提案されているが、その方法では均一混合するための別タンクや特別な計量設備を必要とするため実用的とは言えない。また、開始剤を含んだ単量体は開始剤の分解による開始反応を避けるためにできるだけ低温に保っておかなければならないといった不都合も生じる。
【0021】
本発明に用いる水溶性もしくは水分散性の分散剤としては、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、酢酸ビニルーマレイン酸共重合体、スチレンーマレイン酸共重合体、ゼラチン、デンプン等が挙げられる。分散剤を単独で用いる場合には、その使用量をかなり多くしないと初期分散時の単量体油滴保護力が弱く、これらのうち少なくとも一種とポリエチレンオキサイドを組み合わせることで十分な保護力が確保される。
【0022】
用いる分散剤の量は塩化ビニル系単量体100重量部あたり0.005〜0.1重量部、好ましくは0.01〜0.08重量部である。この量が0.005重量部未満では初期の単量体の分散力が不足し、生成する樹脂の粗粒分が増加する。また0.1重量部を越えると分散力が強すぎていわゆる過分散となり、生成する樹脂の粒度分布が広くなったり、微粒子が増加する。
【0023】
次に、ポリエチレンオキサイドを併用する場合、その量は塩化ビニル系単量体100重量部あたり0.001〜0.02重量部、好ましくは0.002〜0.01重量部である。この量が0.001重量部未満では初期分散した単量体の保護力が不足するため、生成する樹脂の粗粒分が増加したり、極端な場合には重合が正常に行われず全体が凝塊となることがある。また0.02重量部を越えると保護力が強すぎて、生成する樹脂の粒度分布が広くなったり、微粒子が増加する。
【0024】
これらのうち、特に好ましい分散剤としてはケン化度が60〜95%、重合度400〜4000の部分ケン化ポリ酢酸ビニルと平均分子量60万以上のポリエチレンオキサイドとの組み合わせが挙げられる。
本発明において攪拌操作は(b)工程の開始と同時に行い、重合器内の塩化ビニル系単量体油滴を攪拌剪断力によって温水中に分散させ、なるべく早く均質化することが重要である。攪拌速度は攪拌翼の形状によっても異なるが、5m/sec以上の攪拌翼周速度で行うと本発明の効果を容易に発現できる。5m/sec未満の攪拌翼周速度では分散系の均質化が不完全となり、フィッシュアイの増加、粒度分布の拡大、粗粒や微粒子の増加等をきたす。5m/sec以上の攪拌翼周速度を維持するに好適な攪拌翼は、傾斜パドル又はブルーマージン翼である。
【0025】
本発明においては予め脱気された温水を使用するが、温水の温度は50〜80℃が好ましく、重合制御が可能な限り高くすることが生産性向上の面から好ましい。仕込み工程の途中で所定重合温度に到達し、重合が開始された状態となっている場合には、従来の除熱方式、例えばジャケットによる除熱、還流凝縮器による除熱、内部ジャケットによる除熱等を利用して、重合反応を制御すれば良い。
【0026】
本発明における重合開始剤は従来公知のものを使用すれば良いが、これらの開始剤のうち10時間半減期温度が30〜65℃のものを1種又は2種以上使用するのが好ましい。開始剤の使用量はその種類や重合温度によっても異なるが、塩化ビニル系単量体100重量部あたり0.005〜0.5重量部が好ましい。この量の開始剤を使用することにより、重合時間を6時間以下とすることができる。このような重合開始剤としては、アセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキサイド、2,4,4トリメチルペンチル−2−パーオキシネオデカノエート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4,−ジメチルバレロニトリル等のアゾ系開始剤が挙げられ、これらは単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0027】
これらの開始剤は、(c)工程において、専用ラインにて計量され、塩化ビニル系単量体の仕込ラインに切り込み重合器に導入される。重合反応をなるべく早く開始し、昇温時間、全重合時間を短縮するためには、開始剤の仕込みタイミングはなるべく早く実施するのが良いが、計量精度を維持するには全重合時間の40%以内の時間内に行うのが好ましい。
【0028】
本発明に使用する単量体は塩化ビニルを主成分とする単量体であり、具体的には、塩化ビニル単量体単独、又は塩化ビニルを70重量%以上含有し、塩化ビニルと共重合可能な単量体との混合物である。
塩化ビニルと共重合可能な単量体としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、エチレン、プロピレン、イソブチルビニルエーテル等のα−オレフィン類、1−クロロプロピレン、2−クロロブチレン等のクロル化オレフィン類、(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、無水マレイン酸、アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン等が挙げられ、これらは単独で用いることも、2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0029】
さらに従来塩化ビニル系単量体の重合又は共重合に使用される重合度調節剤、連鎖移動剤、pH調節剤、ゲル化性改良剤、帯電防止剤、乳化剤、安定剤、スケール防止剤等やこれらの仕込方法も公知の技術をなんら支障なく任意に用いることができ、その使用量も従来公知の方法に従うことができる。
【0030】
【実施例】
本発明をさらに具体的に説明するために、以下に実施例および比較例を示すが、これら実施例は本発明をなんら限定するものではない。なお、以下の実施例では特にことわりのない限り「部」は重量部、「%」は重量%を表す。また本実施例の水は全てイオン交換水を用いた。
【0031】
得られた塩化ビニル系重合体の特性値は次の方法により測定した。
(1)フィッシュアイ
塩化ビニル系重合体100部にジオクチルフタレート50部、ステアリン酸カルシウム2部、ステアリン酸バリウム1部、及びカーボンブラック0.02部を添加し十分攪拌混合した後、表面温度が150℃に調節された8インチロールに投入混練りし、4分で厚み0.3mmのロールシートを切り出した。採取したロールシート表面の面積100mm中に観察される透明粒子の数を計数して示した。
(2)平均粒子径、粒度分布
JIS K−6721に準拠し、42、60、80、100、120、145、200メッシュの篩を使用し、篩振とう器にて篩分けを行い、50重量%通過径をもって平均粒子径とした。また粒度分布は、各メッシュに残留した塩化ビニル系重合体の重量を測定し、百分率にて表示した。このうち42メッシュ上に残留した重合体の量は粗粒分とし、200メッシュを通過した量はパス分とした。(3)仕込み時間、重合時間
温水叉は塩化ビニル系単量体の仕込み開始時点から、これらを全て仕込み終わるまでの時間を全仕込み所要時間、全て仕込み終わってから内温を所定重合温度まで昇温するのに要する時間を昇温時間と定義した。
(4)重合器内部スケール
重合後の重合器内部を観察して管壁及び攪拌翼スケールの付着量を肉眼で調べ、評価結果を次の様に表した。
◎:ほとんど付着していない、○:付着量が少ない、△:付着量が多い、×:付着量が著しく多い
実施例1
攪拌機、還流凝縮器を付設した内容積2000Lのステンレス製重合器内に、使用総量の10%に相当する温度30℃の水(以下先仕込み水という)80Lを、
ケン化度79%、重合度2000の部分ケン化ポリ酢酸ビニル(これを以下PVA1という)の3%水溶液8.0L及び平均分子量450万のポリエチレンオキサイド(これを以下PEO1という)の0.5%水溶液12.1Lとともに仕込み(塩化ビニル単量体100部に対してPVA1及びPEO1の仕込み量はそれぞれ0.036部及び0.009部)、重合器内を真空ポンプで脱気した。次いでこの重合器内に、脱気後70℃に温度調節した温水716Lを42L/分の速度で仕込み始め、1分後、塩化ビニル単量体740Lを約41L/分の速度で仕込み始めた。温水を約17分で、塩化ビニル単量体を約18分で仕込み完了した。塩化ビニル単量体を仕込み始めると同時に、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを濃度70%で溶解したイソパラフィン溶液を約0.15L/分の速度で計量ラインを通じて塩化ビニル単量体ラインに導入して仕込み始め、約3分で仕込みを完了した。ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネートの仕込み量は塩化ビニル単量体100部に対して0.045部とした。
【0032】
さらに、ブルーマージン翼を取り付けた攪拌機を塩化ビニル単量体を仕込み始めると同時に稼働し、攪拌翼周速が8.6m/secとなるように回転数を調節した。
仕込み開始と同時に内温は徐々に上昇し始め、全仕込み終了時の内温は48℃であった。次いでジャケット及び還流凝縮器による温度調節を実施した結果、内温が57℃になるのに要した時間は8分であった。従って昇温時間は8分である。
【0033】
このまま内温を57℃に維持し、重合器内圧が定常圧より1kg/cm低下した時点で重合を停止し、未反応単量体を回収して重合を終了した。得られたスラリーを脱水、乾燥して塩化ビニル重合体を得、各特性値を測定した(表1参照)。
実施例2
温水の温度を75℃とした以外は実施例1と同様の仕込み及び重合条件にて塩化ビニル重合体を得、各種特性値の測定に供した。
実施例3
先仕込み水の温度を45℃とした以外は実施例1と同様の仕込み及び重合条件にて塩化ビニル重合体を得、各種特性値の測定に供した。
実施例4
脱気した温水と塩化ビニル単量体との仕込み開始の時差を1分とせず、全く同時に仕込み始めた以外は実施例1と同様の仕込み及び重合条件にて塩化ビニル重合体を得、各種特性値の測定に供した。
実施例5
部分ケン化ポリ酢酸ビニルとしてケン化度88%、重合度2300のもの(これを以下PVA2という)と、ケン化度78%、重合度600のもの(これを以下PVA3という)を組み合わせ、それぞれ0.04部及び0.02部用いた以外は実施例1と同様の仕込み及び重合条件にて塩化ビニル重合体を得、各種特性値の測定に供した。
実施例6
PVA1とPVA3とを組み合わせ、それぞれ0.08部及び0.02部用い、PEO1は使用しない以外は実施例1と同様の仕込み及び重合条件にて塩化ビニル重合体を得、各特性値を測定した。
比較例1
先仕込み水を用いず、PVA1の3%水溶液8.0L及びPEO1の0.5%水溶液12.1Lを実施例1と同じ重合器内に仕込み、重合器内を真空ポンプで脱気した。次いでこの重合器内に、脱気後70℃に温度調節した温水を約42L/分の速度で仕込み始め、1分後、塩化ビニル単量体を約42L/分の速度で仕込み始めた。温水800Lを約19分で、塩化ビニル単量体740Lを約18分で仕込み完了した。塩化ビニル単量体を仕込み始めると同時に、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを濃度70%で溶解したイソパラフィン溶液を約0.15L/分の速度で計量ラインを通じて塩化ビニル単量体ラインに導入して仕込み始め、約3分で仕込みを完了した。全仕込み終了時の内温は52℃であった。次いでジャケット及び還流凝縮器による温度調節を実施した結果、内温が57℃になるのに要した時間は4分であった。従って昇温時間は4分である。
【0034】
このまま内温を57℃に維持し、重合器内圧が定常圧より1kg/cm低下した時点で重合を停止し、未反応単量体を回収して重合を終了した。得られたスラリーを脱水、乾燥して塩化ビニル重合体を得、各種特性値の測定に供した。
比較例2
分散剤を予め重合器内に仕込む替わりに、塩化ビニル単量体を仕込み始めると同時に、実施例1と同じ量のPVA1の3%水溶液を約2L/分の速度で計量ラインを通じて温水ラインに導入して仕込み始めて約4分で仕込みを完了し、PVA1水溶液の仕込みが終了すると同時に、実施例1と同じ量のPEO1の0.5%水溶液を約4L/分の速度で計量ラインを通じて温水ラインに導入して仕込み始めて約3分で仕込みを完了した。これ以外は実施例1と同様の仕込み及び重合条件にて塩化ビニル重合体を得、各種特性値の測定に供した。
比較例3
先仕込み水の量を使用総量の30重量%に相当する240Lとし、脱気した70℃の温水約550Lを44L/分で約13分で仕込んだ以外は、実施例1と同様の仕込み及び重合条件にて塩化ビニル重合体を得、各種特性値の測定に供した。
比較例4
温水の温度を45℃とした以外は、実施例1と同様の仕込み及び重合条件にて塩化ビニル重合体を得、各種特性値の測定に供した。
【0035】
【表1】
Figure 0003571179
【0036】
先仕込み水を全く用いることなく塩化ビニル単量体と全量の温水を同時に仕込むと、重合器内部のスケール、フィッシュアイが多くなる(比較例1)。
また、分散剤を予め仕込まず温水とラインで混合して仕込む方法では、フィッシュアイの改良効果があまりない(比較例2)。
さらに先仕込み水の量を全使用量の30%とした場合や温水の温度を45℃とした場合には、フィッシュアイは良好であるものの、全仕込み終了時の内温が下がりすぎるために昇温時間が長くなる(比較例3及び4)。
【0037】
これらに対し、本発明の実施例ではいずれも粒度分布が狭く、フィッシュアイも少ないことがわかる。
【0038】
【発明の作用・効果】
このように本発明の方法を用いれば、フィッシュアイの少ない塩化ビニル系重合体が得られかつ生産性は大幅に向上するため、本発明の工業的価値はすこぶる大きいものである。

Claims (1)

  1. 塩化ビニル単量体、または塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体と塩化ビニル単量体との混合物を水性媒体中で懸濁重合するに際し、(a)温度が0〜50℃の水を使用総量の20重量%を越えない範囲で重合反応器に仕込むと同時に、水溶性もしくは水分散性の高分子懸濁分散安定剤の水溶液もしくは水分散液を重合反応器に仕込んでから該重合反応器を脱気し、(b)予め脱気した50〜80℃の温水と、塩化ビニル系単量体とを同時に、又は前記温水を仕込み始めた後2分以内に塩化ビニル系単量体を、仕込み始め、(c)塩化ビニル系単量体の仕込み開始と同時に、油溶性開始剤を専用計量ラインを通じて塩化ビニル系単量体ラインに導入して仕込む、ことを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法。
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