JP3568696B2 - 塩化ビニル系重合体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩化ビニル系重合体の製造方法に関するものであり、さらに詳細には、重合安定性に優れ、フィッシュアイなどの品質に優れた塩化ビニル系重合体を高い生産性を維持しながら製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
塩化ビニル系重合体は安価でかつ品質バランスに優れているため、軽質分野、硬質分野等種々の広汎な分野で利用されている。例えば、硬質分野では、パイプ、窓枠、フィルムなどで利用され、軽質分野では電線被覆、シートなどで利用され、品質についても多岐に亘って高度な品質が要求されている。
【0003】
一方、安価な材料であることが塩化ビニル系樹脂に課せられた使命であり、従来から安価に製造するための技術的検討が種々なされてきている。例えば、重合器の容量を大きくして生産性を上げる方法、塩化ビニル系単量体を先に仕込み、続いて脱気された温水を仕込むことにより昇温時間を短縮して生産性を上げる方法、さらに、塩化ビニル系単量体と脱気された温水を同時に仕込むことにより昇温時間を短縮して生産性を上げる方法などが提案されている。
【0004】
例えば、▲1▼特公昭62−39601号には、予め加温された水性媒体(分散剤を水に溶解した混合物)と、塩化ビニル系単量体と開始剤の均一混合物とを同時に仕込むことにより昇温時間を短縮して生産性を上げる方法、▲2▼特公昭60−26488号には、分散剤の全量を溶解した水と開始剤の全量を溶解した塩化ビニル系単量体の仕込み時期に若干の時差を設け、両者の仕込み終了時に所定温度になるようにして生産性を上げる方法、▲3▼特開昭60−158207号には、開始剤を含有する塩化ビニル系単量体と分散剤を含有する水とを50℃以下で予備混合し、この混合物を熱交換器にて反応温度迄昇温しながら重合器に仕込む方法、▲4▼特開平1−172407号には、塩化ビニル系単量体の仕込み中に分散剤の少なくとも20%を、重合器内の塩化ビニル系単量体の水に対する重量比が1.5以下の間に開始剤を全量仕込む方法などが開示されている。
【0005】
しかし乍ら、特公昭62−39601号の方法では、開始剤の均一混合にタンク、特殊な混合器を必要とし、仕込み操作が複雑化するばかりでなく、重合器に仕込むと同時に開始反応が急激に始まると共に、分散剤が懸濁油滴表面に均一に拡散して安定な保護層を形成する時間的余裕がないため、重合安定性に乏しく、粗粒分が多かったり、フィッシュアイが増加するという不都合がある。
【0006】
特公昭60−26488号の方法は、水と開始剤の全量を溶解した塩化ビニル系単量体の仕込み時期に若干の時差を設けてはいるものの、前記特公昭62−39601号の方法と同様、重合安定性に乏しく、粗粒分が多かったり、フィッシュアイが増加するという不都合がある。
【0007】
特開昭60−158207号の方法は、予備混合し、この混合物を熱交換器にて反応温度迄昇温するため、熱交換に時間が掛かり、生産性向上効果が小さいという問題があり、特開平1−172407号の方法は上記▲1▼、▲2▼の改良であるが、▲1▼、▲2▼と同様、重合安定性に乏しく、粗粒分が多かったり、フィッシュアイが増加するという課題が十分には解決されず、問題が残されたままであった。
このように、加温された分散剤含有温水と開始剤含有塩化ビニル系単量体とを同時に、または若干の時差を設けて仕込む方法は、生産性向上効果があるものの、重合安定性に乏しい、粗粒分が多い、フィッシュアイが増加する、等の問題点を有する上、重合安定性を維持するために多量の分散剤を必要としコストアップになる、など問題点がある。
【0008】
また、特開昭58−21408号のには、予め50〜80℃に加温脱気された水を仕込む方法、特公昭58−50603号には、分散剤と冷水を重合器に仕込み、次いで塩化ビニル系単量体を仕込み、最後に、加温された水を仕込む方法が開示されている。
しかし乍ら、前者(特開昭58−21408号)は、開始剤を含んだ塩化ビニル系単量体が仕込み中に重合器内面と直接接触するため、膜状スケールを発生し易く、重合熱の除熱能力が著しく低下するため、重合時間短縮などが不可能となり、稼働率アップによる生産性アップができないという問題がある。
また後者(特公昭58−50603号)は、フィッシュアイの改良効果はあるものの、塩化ビニル系単量体、温水と順次仕込んでいくため、仕込み時間が長くなり、稼働率アップによる生産性アップができないという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、塩化ビニル系単量体と温水との同時仕込み法、塩化ビニル系単量体の先仕込み法が抱える課題、即ち重合器内面へのスケール付着、重合安定性の低下、粗粒の発生、フィッシュアイの発生など品質上の諸問題を生じることなく、仕込み時間の短縮を行ない、重合稼働率を向上し、生産性の高い塩化ビニル系重合体の製造方法を提供することにあり、換言すれば、品質上の諸問題と生産性の相反する関係のバランスを向上させることを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、品質上の諸問題と生産性の相反する関係のバランスを向上するべく種々検討した結果、特定の仕込み方法を採用するとともに、特定の水溶性高分子分散剤を特定量使用することにより、攪拌混合効果、重合初期段階の分散力を高め、品質上の諸問題を発生することなく、生産性向上が可能であることを見出し本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、塩化ビニル系単量体を水性媒体中で、油溶性開始剤、水溶性高分子分散剤を用いて懸濁重合するに際し、
(a)脱気した重合器に脱気された温水と同時に、又は前記温水を仕込み始めた後2分以内に、塩化ビニル系単量体を仕込み、
(b)塩化ビニル系単量体の仕込み開始と同時に、油溶性開始剤を専用計量ラインを通じて塩化ビニル系単量体ラインに、水溶性高分子分散剤の水溶液を専用計量ラインを通じて塩化ビニル系単量体ライン又は温水ラインに、導入して仕込み、
(c)前記(b)工程に使用される水溶性高分子分散剤の水溶液が、(1)部分ケン化ポリ酢酸ビニルと、(2)Na、Mg、Al、Ca、K、Ba、Znから選択される水溶性金属塩の少なくとも1種とを組み合わせた分散剤系であり、(1)の部分ケン化ポリ酢酸ビニルの使用量が、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.02〜0.07重量部であり、(2)の水溶性金属塩の使用量が、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.0002〜0.002重量部であり、
(d)前記(b)工程の操作を前記(a)工程の操作時間の40%以内に終了する
ことを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法を内容とする。
【0012】
特に、上記(a)工程において、脱気された温水を先に仕込み始めてから、1〜2分以内の時差を取って、塩化ビニル系単量体を仕込み始めると重合安定性が顕著に改善される。
【0013】
本発明の実施にあたり、まず(a)工程として、脱気した重合器に脱気された温水、塩化ビニル系単量体を仕込む。その際、温水、塩化ビニル系単量体は、同時に仕込み初めても良いが、温水を若干早く仕込むのが好ましい。この時差が長くなると、仕込み終了時間が長くなるので好ましくない。従って、好ましくは、1〜2分程度が良い。
脱気した温水を先に仕込むことにより重合が安定化され、粗粒、微粉が少なく、粒度分布がシャープな重合体が得られる。温水の仕込み、塩化ビニル系単量体の仕込みに要する時間は、ポンプ能力にも依るが、それぞれ25分以内に終了することが好ましい。
【0014】
次に、(b)工程として、油溶性開始剤を専用ラインを通じて塩化ビニル系単量体ラインに、水溶性高分子分散剤の水溶液を専用計量ラインを通じて塩化ビニル系単量体ライン又は温水ラインに、導入して仕込み始める。
本発明では、油溶性開始剤、水溶性高分子分散剤水溶液を塩化ビニル系単量体の仕込みと実質的に同時に開始し、全仕込み時間の40%(全仕込み時間を25分とした場合は10分)以内に終了する。全仕込み時間の40%を越えると、開始剤の仕込みが遅くなり過ぎ、重合時間が長くなって、生産性が劣る結果となり、また、分散剤の仕込みが遅くなり過ぎるため、初期分散油滴を保護する保護力が不足し、異常重合となったり、粗粒の発生をきたす。
従来、油溶性開始剤、水溶性高分子分散剤水溶液は、塩化ビニル系単量体又は温水に均一化して仕込むという提案がなされているが、均一化するためには、別のタンクを必要としたり、均一性を制御するための特別の計量設備を必要とし実用的ではない。
油溶性開始剤、水溶性高分子分散剤水溶液の計量にはそれぞれ専用のラインを使用し、油溶性開始剤の計量ラインは塩化ビニル単量体ラインに、水溶性高分子分散剤水溶液の計量ラインは塩化ビニル系単量体ライン又は温水ラインに、接続され、重合器に導入される。
油溶性開始剤の導入と同時に重合反応が開始するが、同時に比較的濃厚な水溶性高分子分散剤水溶液が存在するため、この比較的濃厚な分散剤によって、重合系が安定化され、粗粒、微粉が少なく、粒度分布がシャープな重合体が容易に得られる。
また、開始剤の導入と同時に重合反応が進行するため、昇温時間を含めた重合時間が短縮され、高生産性を維持する上で、重要な意味を持つ。
【0015】
(b)工程において使用する分散剤系は、(1)部分ケン化ポリ酢酸ビニルと、(2)Na、Mg、Al、Ca、K、Ba、Znから選択される水溶性金属塩の少なくとも1種とを組み合わせた分散剤系である。従来公知の分散剤の内、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの水溶性セルロース系分散剤は、初期分散時の油滴保護力が強く、均質化が不十分になり易いので好ましくない。但し、初期分散を損なわない程度の使用量、具体的には、仕込み単量体100重量部に対して0.02重量部以下程度の極少量であれば、併用添加してもよい。また、ポリアクリル酸系分散剤、デンプン、ゼラチン、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子分散剤は、初期分散力が不足するため好ましくない。
本発明で使用する部分ケン化ポリ酢酸ビニルは、従来公知のものを1種又は2種以上組み合わせ使用することができる。その使用量は、仕込み単量体100重量部に対して、0.02〜0.07重量部の従来より少ない使用量の範囲が良い。0.02重量部未満では分散剤が少な過ぎ、重合安定性が不十分となるので好ましくなく、また0.07重量部を越えると初期分散時の油滴保護力が強くなり過ぎ、微粉の増加、分散不足によるフィッシュアイの増加、発泡による液面上昇などの不都合を生じるので好ましくない。
特に好ましい分散剤の種類は、ケン化度60〜85モル%、重合度1000〜2500のポリ酢酸ビニルであり、この範囲のものを1種又は2種以上を使用できる。
【0016】
また、本発明では、Na、Mg、Al、Ca、K、Ba、Znから選択される水溶性金属塩類を1種又は2種以上使用する必要がある。この水溶性金属塩類は、仕込み状態が徐々に変化し、さらに重合が進行しつつあるような不均一系の初期分散を維持するために使用する。この水溶性金属塩類の種類は、例えば、炭酸Na、炭酸Mg、炭酸Alなどの炭酸塩類、硫酸Na、硫酸Mg、硫酸Al、硫酸K、硫酸Znなどの硫酸塩類、硝酸Na、硝酸Mg、硝酸Al、硝酸Ca、硝酸Znなどの硝酸塩類、ホウ酸Na、ホウ酸Mg、ホウ酸Al、ホウ酸Znなどのホウ酸塩類、ラウリン酸Na、ラウリン酸Mg、ラウリン酸Alなどの低級脂肪酸金属塩などが例示される。その中でも、硫酸Na、硫酸Mg、硫酸Al、硫酸K、硫酸Znなどの硫酸塩類が、重合安定性、粒度分布、フィッシュアイなどに及ぼす効果の面から好ましく、特に硫酸Alが好ましい。
【0017】
該金属塩類の使用量は、仕込み単量体100重量部に対して、0.0002〜0.002重量部程度の極めて少量で良い。0.0002重量部より少量では、分散安定性に及ぼす効果が少ないので好ましくなく、また0.002重量部より多量に使用すると、熱安定性の悪化、初期着色の悪化、さらに、粒度分布のブロード化などの重合体品質の低下、あるいは分散過多による異常重合の発生などをきたすので好ましくない。
【0018】
本発明においては、分散安定性に対する効果を従来公知の油溶性乳化剤又は水溶性乳化剤を極く少量併用することにより、更に高めることができる。このような相乗効果を発現する乳化剤の種類は特に限定されないが、例えば、グリセリンモノオレエートなどのグリセリン系乳化剤、ソルビタントリステアレートなどのソルビタン系乳化剤、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロックコポリマーなどの油溶性乳化剤、又は、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレングリセリンオレエートなどのポリオキシエチレン系水溶性乳化剤などが挙げられ、これらは1種又は2種以上使用することができる。その使用量は、仕込み単量体100重量部に対して、0.0001〜0.01重量部程度の極めて少量で良い。0.0001重量部未満では、界面張力の低下が不十分で、初期油滴分散が不足し、フィッシュアイの増加などの不都合を生じるので好ましくなく、また0.01重量部を越えると、初期油滴分散が過剰になり、微粉の増加、過剰分散による重合安定性の低下などの不都合を生じるので好ましくない。
【0019】
これら分散剤系仕込み操作は、部分ケン化ポリ酢酸ビニルと水溶性金属塩の各水溶液の専用計量ラインを通じて、温水ライン又は塩化ビニル単量体ラインに導入して、重合器に仕込んでも良いし、又は、部分ケン化ポリ酢酸ビニルと水溶性金属塩を一定割合で混合溶解した水溶液を専用計量ラインを通じて、温水ライン又は塩化ビニル単量体ラインに導入して、重合器に仕込んでも良い。該水溶液の仕込み速度は、温水の仕込み開始とほぼ同時に開始し、ポンプ能力、計量精度の許す限り早く、全工程操作時間の40%以内に仕込むことが重要である。該分散剤の仕込み操作が遅くなり過ぎると、前記した如く、分散安定性が不十分となり、異常重合となる。また、仕込み時間が長くなるにしたがって、粒度分布がブロードとなり、フィッシュアイも多く、品質上の問題が多くなる。
【0020】
本発明において、攪拌操作は、(b)工程の開始と同時に行なうのが好ましく、重合器に仕込まれた成分の均質化をなるべく早く行なうことが重要である。攪拌速度は、攪拌翼の形状によっても異なるが、5.0m/sec 以上の攪拌翼周速で行なうと本発明の効果を容易に発現できる。5.0m/sec 未満の攪拌翼周速では、均質化が不完全となり、フィッシュアイの増加、粒度分布のブロード化、粗粒、微粉の増大、異常重合などの不都合をきたし好ましくない。5.0m/sec 以上の攪拌翼周速を維持するのに好適な攪拌翼は、傾斜パドル又はブルーマージン翼である。傾斜パドルの傾斜角は、10°以下の攪拌トルクの小さい傾斜パドル翼が好ましい。
【0021】
本発明においては、脱気された温水を使用するが、脱気された温水の温度は、50〜80℃が好ましく、重合制御が可能な限り高い温度であることが好ましい。(b)工程の途中で所定重合温度に到達し、重合が開始された状態となっているが、従来の除熱方式、例えば、ジャケット除熱、リフラックスコンデンサー除熱、内部ジャケット除熱を使用して、重合反応を制御すれば良い。
【0022】
本発明では、仕込み終了時点での転化率を制御したり、(b)工程でのH(水)/M(モノマー)比をコントロールしたりする必要はなく、重合発熱状態に合わせて、除熱を実施すれば良い。特別な分散剤系を選択することにより、十分な均質化が達成され、重合安定性の低下、粗粒、微粉の発生、粒度分布のブロード化、フィッシュアイの発生などが容易に抑制されるものと考えられる。
【0023】
本発明に使用する重合開始剤は、従来公知の開始剤を使用できる。従来公知の開始剤のうち、10時間半減期が30〜65℃のものを1種又は2種以上使用するのが好ましい。開始剤の使用量は、その種類や重合温度によっても異なるが、仕込み単量体100重量部に対して、0.005〜0.5重量部が良い。この量の開始剤を使用することにより、重合時間を6時間以下にすることができる。このような重合開始剤としては、アセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキサイド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシネオデカノエート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物開始剤、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物を使用でき、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0024】
これらの開始剤は、(b)工程において、専用ラインにて計量され、塩化ビニル単量体の仕込みラインに切り込み、重合器に導入される。重合反応をなるべく早く開始し、昇温時間、全重合時間を短縮するには、開始剤の仕込みタイミングは、なるべく早く実施するのが良いが、計量精度を維持するには、全仕込み時間の40%以内(全仕込時間を25分とした場合は10分)の時間内に行なうのが好ましい。全仕込み時間の40%を越えると分散安定性が不十分となり、異常重合となる。また、仕込み時間が長くなるにしたがって、粒度分布がブロードとなり、フィッシュアイも多く、品質上の問題が多くなる。
【0025】
本発明に使用する単量体は、塩化ビニルを主成分とする単量体であり、具体的には、塩化ビニル単量体単独、又は塩化ビニルを70%以上含有し塩化ビニルと共重合可能な単量体との混合物である。
【0026】
塩化ビニルと共重合可能な単量体としては、従来公知の単量体を使用できる。例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸プロピルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、1−クロロプロピレン、2−クロロブチレンなどのクロル化オレフィン類、マレイン酸ブチルなどのマレイン酸エステル類又は酸無水物、アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデンなどの単量体が例示される。
この他、従来塩化ビニル系単量体の重合又は共重合に使用される重合調整剤、連鎖移動剤、pH調整剤、ゲル化性改良剤、帯電防止剤、架橋剤などの添加剤は、その目的に応じて任意に使用することができ、その使用量も従来と同様である。
【0027】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例、比較例において、%は、特に指定のない限り重量%を表示し、部数は、重量部を表示する。
得られた塩化ビニル系重合体の特性値は次の方法により測定した。
【0028】
(1)フィッシュアイ
塩化ビニル系重合体100部にジオクチルフタレート50部、ステアリン酸カルシウム2部、ステアリン酸バリウム1部、及びカーボンブラック0.02部を添加し十分混合ドライアップした後、表面温度が150℃に調整された8インチロールに投入混練りし、4分、5分、6分で0.3mmのシートを途中サンプリングした。そのサンプリングしたそれぞれのシートの表面100mm2 中に観察される透明粒子の数を計数して示した。
【0029】
(2)平均粒子径、粒度分布、粗粒分、PASS分
JIS K−6721に準拠し、42,60,80,100,120,145,200メッシュの篩を使用し、篩振盪器にて篩分けを行い、50%通過径をもって平均粒子径とした。また、粒度分布は、各メッシュに残留した塩化ビニル系重合体の重量を測定し、100分率にて表示した。さらに、粗粒分は、42メッシュの篩上の残留量(100分率、粒度分布の分率には計数せず)、PASS分は200メッシュを通過した量(100分率)で表示した。
【0030】
(3)ポロシティー
米国アミンコ社製の水銀圧入式ポロシメータを用いて、常圧から1000psi まで加圧した際、約0.2gのPVCに圧入される水銀容量を測定し、塩化ビニル系重合体(PVC)100g当たりに換算した値をポロシティーと定義した。
【0031】
(4)可塑剤吸収性
東洋精機製作所製ラボプラストミルを使用し、125℃に保持した容器内に、PVC500gを投入し、2分間攪拌しながら予熱し、80℃に加熱したジ−2−ウンデシルフタレート300gを投入器を用いて一定速度で投入する。そのまま100rpm の攪拌を続け、混合トルクが低下し安定する迄の時間を求めた。
【0032】
(5)仕込み時間、重合時間
冷水、温水又は塩化ビニル系単量体仕込み開始時点から、所定重合温度に到達するまでの時間を仕込み時間と定義し、所定重合温度到達時から、重合圧力が定常圧から1Kg/cm2 低下し、重合停止、未反応単量体を回収し始めた時点までを重合時間と定義した。
【0033】
実施例1
攪拌機、リフラックスコンデンサーを付設した内容積2000Lのステンレス製重合器内を真空ポンプにて脱気し、その中に脱気した65℃に温度調節した温水を約45L/分の速度で仕込み始め、1分後、塩化ビニル単量体を約45L/分の速度で仕込み始めた。温水850Lを約19分で、塩化ビニル単量体790Lを約18分で仕込み完了した。
塩化ビニル単量体を仕込み始めると同時に、部分ケン化ポリ酢酸ビニルの5%水溶液を約2L/分の速度で計量ラインを通じて、温水ラインに導入して仕込み始め、約5分で仕込みを完了した。部分ケン化ポリ酢酸ビニルの仕込み量は、塩化ビニル単量体100部に対して0.057部とした。また、部分ケン化ポリ酢酸ビニルの種類は、ケン化度78%、重合度2000のものを使用した。
この部分ケン化ポリ酢酸ビニルの5%水溶液には、水溶性金属塩として、硫酸Naを塩化ビニル単量体100部に対して0.0007部混合溶解したものを使用した。
塩化ビニル単量体を仕込み始めると同時に、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを溶解した50%のトルエン溶液を約0.2L/分の速度で計量ラインを通じて、塩化ビニル単量体ラインに導入して仕込み始め、約3分で仕込みを完了した。ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネートの仕込み量は、塩化ビニル単量体100部に対して0.045部とした。
さらに、ブルーマージン翼を取付けた攪拌機を塩化ビニル単量体を仕込み始めると同時に稼働し、攪拌翼周速が8.6m/sec となるように回転数を調節した。
仕込み開始と同時に内温は徐々に上昇し始めるが、ジャケット温調、及びリフラックスコンデンサーによる温調を行い、仕込み完了前5分で内温が57℃になるように調整した。この仕込み完了前5分の時点を所定温度到達時(重合開始時間)とした。
このまま内温を57℃に維持し、重合器内圧が定常圧より1Kg/cm2 低下した時点で重合を停止し、未反応単量体を回収して重合を終了した。得られたスラリーを脱水、乾燥して、塩化ビニル重合体を得て、各種特性の測定に供した。
【0034】
実施例2
部分ケン化ポリ酢酸ビニルの5%水溶液に溶解した水溶性金属塩の種類を硫酸Alとし、塩化ビニル単量体100部に対して0.0006部溶解した水溶液とした以外は、実施例1とまったく同様の仕込み操作で、同様の重合条件にて、塩化ビニル重合体を得て、各種特性の測定に供した。
【0035】
実施例3
部分ケン化ポリ酢酸ビニルの5%水溶液に、水溶性金属塩の種類をホウ酸Naとし、塩化ビニル単量体100部に対して0.001部溶解した水溶液とした以外は、実施例1とまったく同様の仕込み操作で、同様の重合条件にて、塩化ビニル重合体を得て、各種特性の測定に供した。
【0036】
実施例4
ケン化度78%、重合度2000の部分ケン化ポリ酢酸ビニルを0.042部、ケン化度83%、重合度2300の部分ケン化ポリ酢酸ビニルを0.012部を併用して、これらを混合溶解した部分ケン化ポリ酢酸ビニルの5%水溶液を使用した以外は、実施例1とまったく同様の仕込み操作で、同様の重合条件にて、塩化ビニル重合体を得て、各種特性の測定に供した。
【0037】
比較例1
水溶性金属塩の硫酸Naを0.0007部混合溶解しない、部分ケン化ポリ酢酸ビニルのみの5%水溶液を使用した以外は、実施例1とまったく同様の仕込み操作で、同様の重合条件にて、塩化ビニル重合体を得て、各種特性の測定に供した。
【0038】
比較例2
水溶性金属塩を混合溶解した、部分ケン化ポリ酢酸ビニルの5%水溶液の仕込み速度を約0.6L/分の速度に低下し、計量ラインを通じて、温水ラインに導入して仕込み始め、約15分で仕込みを完了した以外は、実施例1とまったく同様の仕込み操作で、同様の重合条件にて、塩化ビニル重合体を得て、各種特性の測定に供した。
【0039】
比較例3
ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを溶解した50%のトルエン溶液を約0.04L/分の速度で計量ラインを通じて、塩化ビニル単量体ラインに導入して仕込み始め、約15分で仕込みを完了した以外は、実施例1とまったく同様の仕込み操作で、同様の重合条件にて、塩化ビニル重合体を得て、各種特性の測定に供した。
【0040】
比較例4
塩化ビニル単量体仕込み開始から15分経過後、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを溶解した50%のトルエン溶液を約0.2L/分の速度で計量ラインを通じて、塩化ビニル単量体ラインに導入して仕込み始め、約3分で仕込みを完了した以外は、実施例1とまったく同様の仕込み操作で、同様の重合条件にて、塩化ビニル重合体を得て、各種特性の測定に供した。
【0041】
比較例5
重合器内を脱気後、塩化ビニル単量体を仕込み始め、同時にジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを溶解した50%のトルエン溶液を約0.2L/分の速度で約3分で仕込みを完了し、また同時に、実施例1で使用した、水溶性金属塩を含む部分ケン化ポリ酢酸ビニルの5%水溶液を約2L/分の速度で仕込み始め、約5分で仕込みを完了した。
塩化ビニル単量体790Lを約18分で仕込み完了した後、65℃に温度調整した温水を仕込み始め、温水850Lを約19分で仕込み完了した。
開始剤、分散剤などの種類、添加量などは、実施例1と同様とし、温水仕込み完了前約5分に重合開始となる。そのまま実施例1と全く同様の重合操作にて、塩化ビニル重合体を得て、各種特性の測定に供した。
【0042】
比較例6
約20℃のイオン交換水850Lを約19分で重合器に仕込み、次いで、重合器内を脱気後、塩化ビニル単量体を仕込み始め、同時にジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネートを溶解した50%のトルエン溶液を約0.2L/分の速度で約3分で仕込みを完了し、また同時に、実施例1で使用した、水溶性金属塩を含む部分ケン化ポリ酢酸ビニルの5%水溶液を約2L/分の速度で仕込み始め、約5分で仕込みを完了した。
開始剤、分散剤などの種類、添加量などは、実施例1と同様とし、塩化ビニル単量体仕込み完了後、約25分かけてジャケット昇温を行い、重合開始とした。そのまま実施例1とまったく同様の重合操作にて、塩化ビニル重合体を得て、各種特性の測定に供した。
【0043】
【表1】
【0044】
【発明の効果】
実施例1と比較例1の比較から判るように、水溶性金属塩の硫酸Naを添加しない場合は、粗粒分、フィッシュアイが多く、可塑剤吸収時間も長く、粒度分布もブロードなPVCとなる。実施例1と比較例2の比較から判るように、分散剤の投入を長時間に亘って行い、温水仕込みと同等時間かけると、初期分散時に分散剤が不足し異常重合となる。
【0045】
実施例1と比較例3の比較から判るように、開始剤の投入を長時間に亘って行い、温水仕込みと同等時間をかけると、初期重合速度が遅くなり、重合時間が長くなるばかりでなく、粗粒分、フィッシュアイが多く、可塑剤吸収時間も長く、粒度分布もブロードなPVCとなる。
また、実施例1と比較例4の比較から判るように、開始剤を単量体仕込みの末期に一括投入すると、初期重合速度が遅くなり、重合時間が長くなるばかりでなく、粗粒分、フィッシュアイが多く、可塑剤吸収時間も長く、粒度分布もブロードなPVCとなる。
【0046】
実施例1と比較例5の比較から判るように、温水よりも単量体を先に仕込む(温水後仕込み)と、仕込み時間が長くなるとともに、粗粒分、フィッシュアイが多く、可塑剤吸収時間も長く、粒度分布もブロードなPVCとなる。さらに、実施例1と比較例6の比較から判るように、通常の冷水先仕込み法では、仕込み時間が大幅に長くなると共に、粗粒分、フィッシュアイが多く、可塑剤吸収時間も長く、粒度分布もブロードなPVCとなる。
【0047】
以上のように、本発明は、従来の方法に比較して、生産性と品質、特に、フィッシュアイ、粒度分布、可塑剤吸収性などとのバランスが大幅に向上し、従来品より優れたPVCを高生産性で生産でき、その工業的価値は極めて大である。
また本発明の中でも、実施例1〜4の比較から判るように、水溶性金属塩として硫酸Alを使用した実施例2は、品質バランスが特に優れており、効果の発現が顕著である。
Claims (3)
- 塩化ビニル単量体、又は塩化ビニルと共重合し得る単量体と塩化ビニル単量体との混合物(以下、両者を塩化ビニル系単量体と記す)を水性媒体中で、油溶性開始剤、水溶性高分子分散剤を用いて懸濁重合するに際し、
(a)脱気した重合器に脱気された温水と同時に、又は前記温水を仕込み始めた後2分以内に、塩化ビニル系単量体を仕込み、
(b)塩化ビニル系単量体の仕込み開始と同時に、油溶性開始剤を専用計量ラインを通じて塩化ビニル系単量体ラインに、水溶性高分子分散剤の水溶液を専用計量ラインを通じて塩化ビニル系単量体ライン又は温水ラインに、導入して仕込み、
(c)前記(b)工程に使用される水溶性高分子分散剤の水溶液が、(1)部分ケン化ポリ酢酸ビニルと、(2)Na、Mg、Al、Ca、K、Ba、Znから選択される水溶性金属塩の少なくとも1種とを組み合わせた分散剤系であり、(1)の部分ケン化ポリ酢酸ビニルの使用量が、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.02〜0.07重量部であり、(2)の水溶性金属塩の使用量が、塩化ビニル系単量体100重量部に対して0.0002〜0.002重量部であり、
(d)前記(b)工程の操作を前記(a)工程の操作時間の40%以内に終了する
ことを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法。 - 脱気された温水を仕込み始めた後1〜2分以内に塩化ビニル系単量体を仕込み始める請求項1記載の製造方法。
- 水溶性金属塩が硫酸Na、硫酸Mg、硫酸Al、硫酸K及び硫酸Znよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1または2記載の製造方法。
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