JP3567685B2 - 電子写真感光体及びその製造方法並びに画像形成装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複写機、プリンター、ファクシミリなどの広い分野に適用される電子写真感光体及びその製造方法、並びにそれを用いた画像形成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、普通紙複写機(PPC)、レーザープリンター、LEDプリンター、液晶プリンター等の電子写真装置は、回転ドラム型等の感光体に帯電、露光、現像の作像プロセスを経て像が形成され、転写材に転写後定着されて複写物が得られる。これらに用いる感光体は、セレニウム、ヒ素−セレニウム、硫化カドミウム、酸化亜鉛、a−Si等の無機系感光体が用いられているが、安価で製造性及び廃棄性に優れた有機感光体(OPC)の研究開発も活発化しており、その中でも電荷発生層と電荷輸送層を積層した、いわゆる機能分離型積層感光体が、感度、帯電性及びその繰り返し安定性等の電子写真特性の点で優れているため、種々の提案がなされ、実用化されている。
【0003】
しかし、電子写真感光体に要求される特性、特に耐久性は年々厳しいものとなっており、繰り返し使用による表面層の摩耗及び傷、特に接触帯電下の使用で著しく増長される表面層の摩耗及び傷、コロナ帯電器から発生するオゾンなどの酸化性ガスによる表面層の酸化劣化などの問題に対して、耐久性向上に必要な技術の検討が続けられている。これらの表面層の問題を解決する方法として、電荷輸送層の上に有機ポリシロキサン等の架橋硬化性樹脂を主成分とする表面保護層を形成する方法が提案されている(特開昭54−148537号公報)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、表面保護層を架橋硬化性樹脂のみで構成すると、表面保護層は絶縁層となるため、感光体の光電特性を犠牲にすることになる。具体的には、表面保護層が絶縁層になると、露光時の明部電位が上昇するため、現像電位マージンが狭くなったり、除電後の残留電位が上昇するため、特に長期の繰り返し印刷を行うときに、画像濃度が低下するという問題があった。
【0005】
これらの光電特性を改良する方法として、導電性の金属酸化物微粉末を抵抗制御材として表面保護層中に分散する方法が提案されている(特開昭57−128344号公報)。この方法は、感光体光電特性の低下を抑制し、上記の問題を大幅に改善するが、導電性微粉末として用いる金属酸化物の抵抗値が、環境の湿度に大きく依存するため、特に高温高湿下で感光体表面抵抗が低下し、静電潜像がぼやけ、画像品位を大きく低下させるという本質的な問題があった。
【0006】
また、光電特性を改良する他の手法として、バインダ樹脂中に電荷輸送物質を分散させた後、バインダ樹脂を硬化させて表面保護層を形成するという方法が提案されている(特開平4−15659号公報)。この方法は、感光体表面抵抗の湿度依存性をなくし、画像品位上の問題を解消するが、電荷輸送物質という低分子量成分を添加するため、バインダ樹脂の硬化反応が阻害され、表面保護層の機械的強度が低下する。それ故、機械的強度の高い架橋硬化性樹脂を単独で用いても、光電特性の改良に必須の電荷輸送物質として低分子量成分を含有する以上、表面保護層の機械強度の大幅な低下を避けることができない。
【0007】
そこで、官能基を有する電荷輸送物質を用いて、これをバインダー樹脂と相互に作用させたり、反応させることにより表面層の機械的強度を向上させる方法が提案されている(特開平6−202354号公報、特開平5−323630号公報)。この方法は、感光体の光電特性を低下させずに、十分な機械的強度を初期的には得ることができるが、接触帯電方式やスコロトロン帯電方式の下で長期間使用すると、上記の表面保護層は機械的強度が急激に低下する。その原因は、接触帯電における交流電圧印加で表面保護層の樹脂の結合が切断されたり、スコロトロン帯電で発生するオゾンにより、電荷輸送物質が酸化・分解されるなどの、強い外的ストレスが発生するものと考えられる。
【0008】
また、上記のような表面保護層を採用すると、主に機械的強度は改善されたとしても、感光層に繰り返し流れる光電流により、感光層を構成する電荷発生物質及び電荷輸送物質が疲労して劣化するという問題が発生する。これは、感光体の耐刷性が向上し、繰り返し印刷する枚数が増加するほど顕著に表れる問題であり、光電流に対して安定な電荷発生物質及び電荷輸送物質を用いる必要がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記の問題を解消し、感光体の光電特性及び画像品位を低下させずに、十分な機械的強度を保持するとともに、強い外的ストレス下の長期間の使用においても高い耐久性及び優れた画像品質を示す電子写真感光体、及びその製造方法、並びに、それを用いた画像形成装置を提供しようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、次の構成を採用することにより、上記の課題の解決を可能にした。
(1) 導電性支持体上に感光層と表面保護層を有する電子写真感光体において、該表面保護層が、下記構造式(I)で表される電荷輸送性化合物、及び、官能基数が3以上のイソシアネート化合物を少なくとも含む化合物を3次元的に架橋重合させたもので構成され、前記表面保護層の架橋重合体の、下記式で定義されるウレタン結合含有比Aが1.5以上であることを特徴とする電子写真用感光体。
【0011】
【化6】
【0012】
(式中、Yは水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数が1〜5の範囲のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数が1〜5の範囲のアルコキシ基、フェニル基、又は、置換基としてハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数が1〜5の範囲のアルキル基、若しくは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜5の範囲のアルコキシ基を有するフェニル基を表わし、Tは炭素数1〜10の範囲の枝別れしてもよい2価の脂肪族基、nは0又は1を表わす。)
【0013】
【0014】
【数2】
A=x/y
【0015】
(式中、xはウレタン結合のCO伸縮振動に基づく1720〜1740cm-1における赤外吸収ピークの吸光度を表し、yはCH2伸縮振動に基づく2937cm-1における赤外吸収ピークの吸光度を表す。)
【0016】
(2) 前記表面保護層が、前記構造式(I)で表される電荷輸送性化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、及び、官能基数が3以上のイソシアネート化合物を3次元的に架橋重合させたもので構成されることを特徴とする前記(1)記載の電子写真用感光体。
【0017】
(3) 前記2個以上のヒドロキシ基を有する前記化合物が、グリコール系化合物及び/又はビスフェノール系化合物であることを特徴とする前記(2)記載の電子写真感光体。
【0018】(4) 前記官能基数が3以上の前記イソシアネート化合物が、下記構造式(II)で表されるヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、又は、下記構造式(III)で表されるヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【0019】
【化7】
【0020】
【化8】
【0021】
(5) 前記感光層が、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、及び/又はクロロガリウムフタロシアニンを含有することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【0022】
(6) 前記感光層が、下記構造式(IV)で表されるベンジジン系化合物、及び/又は、下記構造式(V)で表されるトリフェニルアミン系化合物を含有することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【0023】
【化9】
【0024】
(式中、R1、R1’は同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1〜5の範囲のアルキル基、又は、炭素数が1〜5の範囲のアルコキシ基を表し、R2、R2’、R3、R3’は同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1〜5の範囲のアルキル基、炭素数が1〜5の範囲のアルコキシ基、又は、炭素数が1〜2の範囲のアルキル基で置換されたアミノ基を表し、p及びqは0〜2の範囲の整数を意味する。)
【0025】
【化10】
【0026】
(式中、R4は水素原子又はメチル基を表し、rは1又は2を意味する。Ar1及びAr2は置換又は未置換のアリール基を表し、置換基としてはハロゲン原子、炭素数が1〜5の範囲のアルキル基、炭素数が1〜5の範囲のアルコキシ基、又は、炭素数が1〜3の範囲のアルキル基で置換された置換アミノ基を表す。)
【0027】
(7) 導電性支持体上に感光層及び表面保護層を形成する電子写真感光体の製造方法において、前記構造式(I)で表される電荷輸送性化合物、及び、官能基数が3以上のイソシアネート化合物を含有する塗工液を前記感光層上に塗布した後、加熱して前記化合物を3次元的に架橋重合させ、前記表面保護層の架橋重合体の、前記 (1) で定義したウレタン結合含有比Aが1.5以上である表面保護層を形成することを特徴とする電子写真用感光体の製造方法。
【0028】
【0029】
(8)前記構造式(I)で表される電荷輸送性化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、及び、官能基数が3以上のイソシアネート化合物を含有する塗工液を、前記感光層の上に塗布した後、加熱して前記化合物を3次元的に架橋重合させて前記表面保護層を形成することを特徴とする前記(7)記載の電子写真用感光体の製造方法。
【0030】
(9)2個以上のヒドロキシ基を有する前記化合物として、グリコール系化合物及び/又はビスフェノール系化合物を用いることを特徴とする前記(8) 記載の電子写真感光体の製造方法。
【0031】
(10)官能基数が3以上の前記イソシアネート化合物として、前記構造式(II)で表されるヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、又は、同記載の構造式(III)で表されるヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体を用いることを特徴とする前記(7)〜(9)のいずれか1つに記載の電子写真感光体の製造方法。
【0032】
(11)電子写真感光体の周囲に帯電手段、露光による画像形成手段、現像手段及び転写手段を備えた画像形成装置において、前記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の電子写真感光体を用いたことを特徴とする画像形成装置。
【0033】
(12)前記帯電手段として、接触帯電方式の帯電手段を採用したことを特徴とする前記(11)記載の画像形成装置。
【0034】
(13)前記帯電手段に電圧を印加する手段として、交流成分を有する電圧を印加する手段を付設したことを特徴とする前記(12)記載の画像形成装置。
【0035】
本発明は、導電性支持体上に感光層と表面保護層を有する電子写真感光体において、表面保護層中に架橋硬化性結合材料による三次元網目構造をもたせると同時に、その網目構造の中に電荷輸送性化合物を直接結合させることにより、前記の課題の解決を可能にした。なお、本発明の感光層は単層であってもよいし、電荷発生層と電荷輸送層を積層構造を有してもよい。
【0036】
本発明の表面保護層は、末端にヒドロキシ基を複数個有する電荷輸送性化合物と、3つ以上のイソシアネート基を有する化合物とを混合し、ヒドロキシ基とイソシアネート基を互いに反応させて3次元的に架橋した表面保護層を形成することにより、感光体の光電特性を維持しつつ、機械的強度を備え、耐久性に優れた感光体の提供を可能にした。特に、表面保護層に配合する電荷輸送物質として、前記の構造式(I)で表される化合物を用いることにより、優れた光電特性、画像品位及び耐摩耗性、耐傷性の確保を可能にした。
【0037】
ヒドロキシ基を複数個有する電荷輸送性化合物は、イソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネート化合物と重付加反応させ、その架橋重合体のウレタン結合含有比(A=x/y)を1.5以上にすることにより、高い架橋密度で三次元網目構造を容易に形成することが可能になった。このような高密度の架橋構造を有するため、接触帯電における交流電圧印加やスコロトロン帯電で発生するオゾンなどの強い外的ストレスにより、バインダ樹脂の結合が部分的に切断されたとしても、機械的強度の急激な低下が抑制されるものと考えられる。また、前記構造式(I)で表される電荷輸送性化合物は、多くのイソシアネート化合物との相溶性に優れているため網目構造の中に電荷輸送性化合物を均一に導入することができ、良好な光電特性を確保することができる。
【0038】
従来の電荷輸送層には、バインダ樹脂中に低分子量の電荷輸送物質を相溶させて形成したため、機械強度を高めるためにはあまり多くの電荷輸送物質を添加することができなかった。しかし、本発明の表面保護層は、結合という形で三次元構造にとりこむため、従来の電荷輸送層より多くの電荷輸送物質を導入することができ、感光体の光電特性の維持を容易にした。
【0039】
このように3次元的に架橋した高分子化合物は、一般にいかなる溶剤に対しても不溶であるため、従来の層形成のように、溶剤に溶解した溶液を塗布し、乾燥して成膜することができない。しかし、架橋させる前の化合物を混合するか、溶剤に溶解して塗布・成膜し、その後で加熱等により架橋重合反応を起こさせることによって表面保護層を形成することができる。逆に、架橋密度の低い高分子電荷輸送材料などは溶剤に溶解して塗布・成膜することもできるが、これらは架橋密度の低さゆえ機械的強度が弱く、十分な耐摩耗性を有していない。特に接触帯電法を用いた電子写真画像形成装置において摩耗が大きくなるという問題がある。
【0040】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明の感光層は、いわゆる単層型感光体、又は、電荷発生層と電荷輸送層からなる積層型感光体のいずれでもよい。積層型感光体における電荷発生層と電荷輸送層との積層順序もどちらでも良いが、本発明の表面保護層は主としてホール輸送性を有するものであるため、電荷発生層、電荷輸送層、表面保護層の順に積層された負帯電型積層感光体の場合に最も優れた特性を示す。
【0041】
図1〜4は、本発明の電子写真感光体の模式断面図であり、図1の感光体は、導電性支持体3の上に電荷発生層1及び電荷輸送層2からなる感光層と、表面保護層5を積層したものである。図2の感光体は、導電性支持体3の上に下引き層4を設けた後に、電荷発生層1及び電荷輸送層2からなる感光層と、表面保護層5を積層したものである。また、図3の感光体は、導電性支持体3の上に光導電層6と、表面保護層5を積層したものである。図4の感光体は、導電性支持体3の上に下引き層4を設けた後に、光導電層6と、表面保護層5を積層したものである。
【0042】
本発明の表面保護層は、前記構造式(I)で表されるヒドロキシ基含有電荷輸送性化合物、官能基数3以上のイソシアネート化合物を互いに反応させ、その架橋重合体が上記のウレタン結合含有比(A=x/y)が1.5以上にすることにより網目状に架橋結合して膜を形成したものである。ウレタン結合含有比Aが1.5未満の場合、必要とする機械的強度が得られず、摩耗が大きくなる。なお、ウレタン結合含有比Aのより好ましい範囲は1.5〜3.0である。
【0043】
上記のヒドロキシ基含有電荷輸送性化合物を具体例を表1、2に示す。なお、前記構造式(I)の表1、2中のTの具体例を表3、4に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
本発明の表面保護層の構成成分として、必要に応じてグリコール化合物又はビスフェノール化合物を加えることができる。これらの化合物は前記構造式(I)の化合物の一部を置き換える形で架橋構造を形成する。これらのヒドロキシ基を有する化合物としては、分子内に2個以上のヒドロキシ基を有し、イソシアネートと重合可能なものの中から自由に選択でき、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコールなどを挙げることができる。また、ヒドロキシ基を有する他の化合物の例としては、アクリルポリオール及びそのオリゴマ、ポリエステルポリオール及びそのオリゴマなどの反応性ヒドロキシ基を有する各種ポリマー及びオリゴマーを挙げることができる。他方、ビスフェノール化合物の具体例を表5、6に示す。
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
架橋して3次元網目構造を形成するためには、イソシアネート化合物として3官能以上、即ち反応可能なイソシアネート基を3個以上有するものを用いることが必要である。これにより表面保護層は高密度の架橋構造をとることができる。3個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物としては、イソシアネート単量体から得られる誘導体やプレポリマなどのポリイソシアネート変性体を用いることがより望ましい。これらの例としては、官能基数3以上のポリオールにイソシアネートを付加したアダクト変性体、ウレア結合を有する化合物をイソシアネート化合物で変成したビュレット変性体、ウレタン基にイソシアネートが付加したアロファネート変性体、イソシアヌレート変性体などが特に好ましく、他にもカルボジイミド変性体などを用いることができる。
【0052】
特に、前記構造式(II)で表されるヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、又は、前記構造式(III)で表されるヘキサメチレンジイソシアネートとイソシアヌレート変性体は、出来上がった保護層の機械的強度、電気特性の面で特に優れている。
【0053】
なお、前記ポリイソシアネート変性体に含まれるが、イソシアネート基の活性を一時的にマスクするため、オキシムなどのブロッキング剤を用いたブロック化イソシアネートも好ましく用いることができる。これは、塗布液のポットライフを延長させる点からも好ましいものである。
【0054】
また、前記イソシアネートと共に補助的に用いることができるイソシアネート化合物として、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、リジンイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェートなどの一般的なイソシアネート単量体が挙げることができる。
【0055】
本発明の表面保護層を形成するためには、前記構造式(I)で表されるヒドロキシ基を有する電荷輸送性化合物、官能基数が3以上のイソシアネート化合物、必要に応じて他のヒドロキシ基を有する化合物、添加剤、溶剤等を加えたものを混合して塗布液を作成し、この塗布液を感光層上に塗工した後、加熱して架橋重合させることにより成膜して表面保護層とする。
【0056】
前記塗布液の混合比は、(反応するヒドロキシ基の数):(反応するイソシアネート基の数)の比が2:1〜1:2の範囲、1.5:1〜1:1.5の範囲、より好ましくは1.2:1〜1:1.2の範囲になるように調合することが望ましい。特に、この混合比を越えて過剰のヒドロキシ基が残ると、保護層表面の親水性が増し、高温高湿下での画像特性が低下するので、反応条件等を含めて注意する必要がある。また、イソシアネート化合物は、空気中の水分等により失活し、反応するイソシアネート数が減少する場合があるので注意を要する。その場合は、イソシアネート基の数が若干過剰になるように調合することが有効である。
【0057】
また、架橋反応温度は、80〜170℃、好ましくは100〜150℃の範囲が適当である。架橋反応温度が80℃より低いと、所望のウレタン結合含有比が得られず、170℃を超えると保護層よりも下の層へのダメージが発生する恐れがある。架橋反応時間は、材料により変動するが、1〜5時間程度であり、1時間より短いと、所望のウレタン結合含有比が得られない場合があり、5時間を超えると、所望のウレタン結合含有比は得られるものの、これ以上延ばしてもウレタン結合含有比は殆ど変化しないため、製造効率の点から上限を5時間とした。
【0058】
表面保護層における電荷輸送性化合物の含有率は、ヒドロキシ基含有化合物の分子量、及びイソシアネート化合物の分子量によって決まる。感光体の電気特性を維持しつつ機械強度も持たせるためには、表面保護層全体における電荷輸送性化合物の含有量が5〜90重量%の範囲にする必要があり、25〜75重量%の範囲が望ましい。本発明の表面保護層は、電荷輸送性化合物を網目構造の中に結合させて取り込んでいるため、通常の低分子電荷輸送物質を分散させた電荷輸送層よりも多くの電荷輸送性化合物の量を導入できる。
【0059】
本発明の表面保護層は、その成膜性や可とう性を向上させるため、各種のバインダー樹脂を添加しても良い。このようなバインダ樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリル、ポリビニルアルコール、ポリアミドなどの各種ポリマーを用いることができる。しかし、機械的強度、光電特性を維持するためには、表面保護層におけるこれらバインダ樹脂の含有量は60重量%以下にするのがよい。
【0060】
本発明の表面保護層を架橋重合するには、感光層上に塗工した後、加熱すればよい。ヒドロキシ基とイソシアネート基の反応は、用いる化合物間の反応性にもよるが、一般的には触媒等は必要がなく、加熱するだけでよい。塗工時に溶剤を用いる場合は、乾燥工程と同時、あるいはその工程に引き続いて加熱処理を行なうことができる。
【0061】
なお、架橋反応を促進したい場合は、ジブチルチンジラウレート等の有機金属化合物類、無機金属化合物類、モノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類などの触媒を常法に準じて添加してもよい。
【0062】
本発明の感光体に用いる導電性支持体としては、アルミニウム、ニッケル、クロム、ステンレス鋼等の金属類、及び、アルミニウム、チタニウム、ニッケル、クロム、ステンレス、金、バナジウム、酸化錫、酸化インジウム、ITO等の薄膜を設けたプラスチックフィルム等、又は、導電性付与剤を塗布若しくは含浸させた紙又はプラスチックフィルム等をあげることができる。これらの導電性支持体は、ドラム状、シート状、プレート状等適宜の形状で使用されるが、これらに限定されるものではない。また、導電性支持体の表面は、必要に応じて、画質に影響のない範囲で各種の処理を行うことができる。例えば、表面の酸化処理、薬品処理、着色処理等、また、砂目立てなどの乱反射処理等を行うことができる。
【0063】
前記導電性支持体と感光層の間に下引き層を設けてもよい。この下引き層は積層構造からなる感光層の帯電時に、導電性支持体から感光層への電荷の注入を阻止するとともに、感光層を導電性支持体に対して一体的に接着保持する接着層としての作用、さらに、場合によっては導電性支持体の光の反射防止等に有効である。
【0064】
この下引き層に用いる結着樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ニトリセルロース、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸、澱粉、スターチアセテート、アミノ澱粉、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ジルコニウムキレート化合物、チタニルキレート化合物、チタニルアルコキシド化合物、有機チタニル化合物、シランカップリング剤等の公知の材料を用いることができ、これらの材料は単独で、又は、2種以上混合して用いることができる。
【0065】
また、この下引き層には、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、シリコーン樹脂等の微粒子を配合することができる。下引き層の厚みは0.01〜10μm、好ましくは0.05〜2μmの範囲が適当である。下引き層の塗布方法としては、ブレードコーティング法、マイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等の通常の方法を用いることができる。
【0066】
積層型感光体の電荷発生層は電荷発生材料及びバインダ樹脂を含有する。電荷発生材料としては、非晶質セレン、結晶性セレン−テルル合金、セレン−ヒ素合金、その他セレン化合物、及びセレン合金、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機系光導電性材料、フタロシアニン系、スクアリリウム系、アントアントロン系、ペリレン系、アゾ系、アントラキノン系、ピレン系、ピリリウム塩、チアピリリウム塩等の有機顔料及び染料が用いられる。
【0067】
その中でもフタロシアニン系化合物が感光体の光感度の点から好ましく、無金属フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニンなどが好適である。
【0068】
特に、CuKαによるX線回折スペクトルにおけるブラッグ角(2θ±0.2°)において、少なくとも6.8°、12.8°、15.8°及び26°に強い回折ピークを持つガリウムフタロシアニン、CuKαによるX線回折スペクトルにおけるブラッグ角(2θ±0.2°)が少なくとも7.5°、9.9°、12.5°、16.3°、18.6°、25.1°及び28.3°に強い回折ピークを持つ特定の結晶形を有するヒドロキシガリウムフタロシアニン、又は、CuKαによるX線回折スペクトルにおけるブラッグ角7.4°、16.6°、25.5°及び28.3°に強い回折ピークを持つ特定の結晶形を有するクロロガリウムフタロシアニンは、可視光から近赤外光の広い領域の光に対して高い電荷発生効率を有しているため、特に好ましいものである。これら特定の結晶形を有するフタロシアニン結晶は以下のようにして合成される。
【0069】
(合成例1)
1,3−ジイミノイソインドリン30部及び三塩化ガリウム9.1部をキノリン230部中に入れて200℃で3時間反応させた後、生成物を濾別し、アセトンとメタノールで洗浄し、得られた湿ケーキを乾燥することによりクロロガリウムフタロシアニン結晶28部を得た。次いで、このクロロガリウムフタロシアニン結晶3部を自動乳鉢(ヤマト科学社製、Lab Mill UT−21型)で3時間乾式粉砕し、その0.5部をガラスビーズ(1mmφ)60部とともに室温下、ベンジルアルコール20部中で24時間ミリング処理した後、ガラスビーズを濾別し、メタノール10部で洗浄して乾燥することにより、X線回折スペクトルにおけるブラッグ角(2θ±0.2°)が、7.4°、16.6°、25.5°、28.3°に強い回折ピークを持つクロロガリウムフタロシアニン結晶を得た。
【0070】
(合成例2)
合成例1で得たクロロガリウムフタロシアニン結晶3部を濃硫酸60部に0℃で溶解した後、5℃の蒸留水450部に上記溶液を滴下し、結晶を再析出させた。これを蒸留水、希アンモニア水等で洗浄した後、乾燥し、2.5部のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶を得た。この結晶を合成例1で用いた自動乳鉢で5.5時間乾式粉砕し、その0.5部をジメチルホルムアミド15部、ガラスビーズ(1mmφ)30部とともに室温下で24時間ミリング処理した後、ガラスビーズを濾別し、メタノール10部で洗浄して乾燥することにより、X線回折スペクトルにおけるブラッグ角(2θ±0.2°)が、7.5°、9.9°、12.5°、16.3°、18.6°、25.1°、28.3°に強い回折ピークを持つヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶を得た。
【0071】
電荷発生層の結着樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、部分変性ポリビニルアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体、シリコン樹脂、フェノール樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの結着樹脂は、単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0072】
電荷発生層における電荷発生材料と結着樹脂との配合比は、重量比で10:1〜1:10の範囲が好ましい。また、本発明で用いる電荷発生層の厚みは0.1〜5μm、好ましくは0.2〜2.0μmの範囲が適当である。電荷発生層の塗布方法としては、ブレードコーティング法、マイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等の通常の方法を用いることができる。
【0073】
さらに、電荷発生層を形成するときに用いる溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム等の通常の有機溶剤を単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0074】
積層型感光体における電荷輸送層は、少なくとも電荷輸送材料とバインダ樹脂を含有して形成される。電荷輸送材料としては、p−ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、アントラキノン等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン等のフルオレノン化合物、キサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノビニル系化合物、エチレン系化合物等の電子吸引性物質、トリアリールアミン系化合物、ベンジジン系化合物、アリールアルカン系化合物、アリール置換エチレン系化合物、スチルベン系化合物、アントラセン系化合物、ヒドラゾン系化合物などが挙げられる。これらの電荷輸送材料は単独、又は2種以上混合して用いることができる。
【0075】
特に、前記構造式(IV)で表されるベンジジン系化合物及び前記構造式(V)で表されるトリフェニルアミン系化合物は、高い電荷(ホール)輸送能と優れた安定性を有しているため、特に好ましく用いることができる。前記のベンジジン系化合物の具体例を表7に、前記のトリフェニルアミン系化合物の具体例を表8〜10に示す。
【0076】
【表7】
【0077】
【表8】
【0078】
【表9】
【0079】
【表10】
【0080】
電荷輸送層の結着樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコン樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシランなどの公知の樹脂を用いることができる。特に、好ましい結着樹脂はポリカーボネート樹脂である。
【0081】
電荷輸送層には、コロナ帯電器で発生するオゾン等の酸化性ガスによる劣化を防止するために酸化防止剤を添加してもよい。電荷輸送層は最表層ではないので酸化性ガスに直接触れることはないが、これら酸化性ガスが表面保護層を透過して電荷輸送層まで浸入するこがあり、これによる酸化劣化を防止するためのものである。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系又はヒンダードアミン系のものが望ましく、有機イオウ系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系酸化防止剤、チオウレア系酸化防止剤、ベンズイミダゾール系酸化防止剤などの公知の酸化防止剤を用いてもよい。電荷輸送層の酸化防止剤の添加量は、電荷輸送層の15重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。
【0082】
電荷輸送層を形成する時に用いる溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサン等の環状又は直鎖状のエーテル類等の通常の有機溶剤を単独で、又は2種以上混合して用いることができる。電荷輸送層の塗布方法は、電荷発生層の場合と同様の方法を用いることができる。電荷輸送層の膜厚は5〜50μm、好ましくは10〜40μmの範囲が適している。
【0083】
単層型感光層を形成する場合は、前記の電荷発生物質とバインダ樹脂を含有して形成される。バインダ樹脂としては、前記電荷発生層及び電荷輸送層に用いるバインダ樹脂と同様のものを用いることができる。単層型感光層中の電荷発生物質の含有量は、10〜85重量%程度、好ましくは20〜50重量%の範囲がよい。
【0084】
単層型感光層には、必要に応じて電荷輸送物質を添加してもよい。その添加量は5〜50重量%の範囲が好ましい。さらに、単層型感光層には、必要に応じて電荷輸送層の場合と同様の理由から酸化防止剤を添加してもよい。添加量は15重量%以下、好ましくは10重量%以下がよい。
【0085】
本発明の電子写真感光体は、スコロトロン帯電等の非接触帯電方式を用いた画像形成装置に用いることもでき、優れた光電特性と耐久性、特に耐オゾン性を有している。また、帯電手段として帯電ロール等の接触帯電方式を用いた画像形成装置に適用するときには、接触帯電で顕著に現れる感光体摩耗に対して非常に強い耐久性を示す。
【0086】
図5は本発明の画像形成装置の一例を示す概念図である。電子写真感光体ドラム1、電源2、帯電手段として帯電ロールによる接触帯電器3、レーザー露光光学系4、磁性一成分トナーを用いた現像器5、転写用コロトロン6、クリーニングブレード7、被転写材8定着ロール9、除電用LED10を有している。
【0087】
接触帯電を行う導電性部材の形状としては、ブラシ状、ブレード状、ピン電極状又はローラー状等何れでもよいが、特にローラー状部材が好ましい。通常ローラー状部材は外側から抵抗層とそれらを支持する弾性層と芯材で構成される。さらに必要に応じて抵抗層の外側に保護層を設けることができる。導電性部材の芯材の材質としては、導電性を有する鉄、銅、真鍮、ステンレス、アルミニウム、ニッケル等が用いられる。また、その他導電性粒子等を分散した樹脂成形品等を用いることもできる。
【0088】
導電性部材の弾性層の材質としては、導電性又は半導電性を有するもので、一般的にはゴム材に導電性粒子又は半導電性粒子を分散したものを使用できる。ゴム材としては、EPDM、ポリブタジエン、天然ゴム、ポリイソブチレン、SBR、CR、NBR、シリコンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、SBS、熱可塑性エラストマー、ノルボーネンゴム、フロロシリコーンゴム、エチレンオキシドゴム等が用いられる。
【0089】
導電性粒子又は半導電性粒子としては、カーボンブラック、亜鉛、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、チタニウム等の金属、ZnO−Al2O3、SnO2−Sb2O3、In2O3−SnO2、ZnO−TiO2、MgO−Al2O3、FeO−TiO2、TiO2、SnO2、Sb2O3、In2O3、ZnO、MgO等の金属酸化物を用いることができ、これらの材料は単独で、又は2種以上混合して用いてもよい。
【0090】
導電性部材の抵抗層及び保護層は、結着樹脂に導電性粒子又は半導電性粒子を分散し、その抵抗を制御したもので、抵抗率としては103〜1014Ωcm、好ましくは105〜1012Ωcm、さらに好ましくは107〜1012Ωcmの範囲がよい。また、導電性部材の抵抗層及び保護層の膜厚は、0.01〜1000μm、好ましくは0.1〜500μm、さらに好ましくは0.5〜100μmの範囲がよい。
【0091】
導電性部材の抵抗層及び保護層の結着樹脂としては、アクリル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、メトキシメチル化ナイロン、エトキシメチル化ナイロン、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリチオフェン樹脂、PFA、FEP、PET等のポリオレフィン樹脂、スチレンブタジエン樹脂等が用いられる。導電性粒子又は半導電性粒子としては弾性層と同様のカーボンブラック、金属、金属酸化物などが用いられる。
【0092】
また、必要に応じて、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン等の酸化防止剤、クレー、カオリン等の充填剤、シリコーンオイル等の潤滑剤を添加することができる。これらの層を形成する手段としては、ブレードコーティング法、マイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等を用いることができる。
【0093】
これらの導電性部材を用いて感光体を帯電させるときには、導電性部材に電圧を印加するが、印加電圧は直流電圧に交流電圧を重畳したものが好ましく、直流電圧のみでは均一な帯電を得ることが難しい。電圧の範囲は、直流電圧は要求される感光体帯電電位に応じて正又は負の50〜2000Vの範囲が好ましく、100〜1500Vの範囲がより好ましい。重畳する交流電圧は、ピーク間電圧が400〜1800Vの範囲、好ましくは800〜1600Vの範囲、さらに好ましくは1200〜1600Vの範囲が適している。交流電圧の周波数は50〜20000Hzの範囲、好ましくは100〜2000Hzの範囲である。
【0094】
【実施例】
〔実施例1〕
アルミニウムパイプ(外径40mm)上にジルコニウム化合物(マツモト製薬社製、オルガノチックスZC540)10部及びシラン化合物(日本ユニカー社製、A1110)1部と、イソプロパノール40部及びブタノール20部からなる溶液を浸漬コーティング法でに塗布し、150℃で10分間加熱乾燥し、膜厚0.1μmの下引き層を形成した。
【0095】
X型無金属フタロシアニン結晶1部、及び、ポリビニルブチラール(積水化学社製、エスレックBM−S)1部をシクロヘキサノン100部と混合し、ガラスビーズとともにサンドミルで1時間分散して塗布液を調製し、前記下引き層上に浸漬コートし、100℃で10分間加熱して膜厚約0.15μmの電荷発生層を形成した。
【0096】
次いで、表7記載の構造式(IV)の例示化合物(IV−27)2部、及び下記構造式(a)で表される高分子化合物(粘度平均分子量:39000)3部をクロロベンゼン20部に溶解して塗布液を調製し、前記電荷発生層の上に浸漬コーティング法で塗布し、110℃で40分間加熱して膜厚20μmの電荷輸送層を形成した。
【0097】
【化11】
【0098】
さらに、表1記載の構造式(I)の例示化合物(I−12)1部、及び前記構造式(II)で表されるビュレット変性体溶液(固形分67重量%)2部をシクロヘキサノン50部に溶解して塗布液を調製し、前記電荷輸送層の上にスプレーコート法で塗布し、常温で10分間乾燥した後150℃で60分加熱し、膜厚4μmの表面保護層を形成した。この塗布液の混合比は〔例示化合物(I−12)のOH基の総モル数〕:〔構造式(II)のイソシアネート基の総モル数〕がおよそ45:55となるように調製した。
【0099】
〔実施例2〕
実施例1と同様にして導電性基材上に電荷発生層と電荷輸送層を積層した。そして、実施例1で用いた例示化合物(I−12)1部と、前記構造式(III)で表されるイソシアヌレート変性体2部をシクロヘキサノン50部に溶解して塗布液を調製し、前記電荷輸送層の上にスプレーコート法で塗布し、常温で10分間乾燥させた後150℃で60分加熱し、膜厚4μmの表面保護層を形成した。この塗布液の混合比は〔例示化合物(I−12)のOH基の総モル数〕:〔構造式(III)のイソシアネート基の総モル数〕がおよそ45:55となるように調製した。
【0100】
〔比較例1〕
実施例1において、加熱乾燥を150℃で30分間加熱し乾燥した以外は、実施例1と同様にして感光体を作製した。
【0101】
〔比較例2〕
実施例1において、例示化合物(I−12)と構造式(II)で表されるビューレット変性体溶液(固形分67重量%)の混合比を変えて、〔OH基の総モル数〕:〔イソシアネート基の総モル数〕がおよそ65:35とした以外は、実施例1と同様にして感光体を作製した。
【0102】
〔比較例3〕
実施例1において、電荷輸送層の膜厚を実施例1の20μmから24μmに変更し、かつ、表面保護層を省略した以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0103】
〔比較例4〕
実施例1と同様にして導電性基材上に電荷発生層と電荷輸送層を積層した。そして、実施例1の例示化合物(I−12)に代えて下記構造式(b)で表される化合物2部、前記構造式(II)で表される変性ポリイソシアネート溶液(固形分67重量%)4.5部をシクロヘキサノン50部に溶解して塗布液を調製し、前記電荷輸送層の上にスプレーコート法で塗布し、常温で10分間乾燥させた後150℃で60分加熱し、膜厚4μmの表面保護層を形成した。ここで用いた混合比は実施例1と同様に〔例示化合物(I−12)のOH基の総モル数〕:〔構造式(II)のイソシアネート基の総モル数〕がおよそ45:55となるように調製した。
【0104】
【化12】
【0105】
(試験方法)
このようにして得た実施例1、2及び比較例1〜4の電子写真感光体を富士ゼロックス製のXP−11改造機(毎分A4横約11枚)に装着し、以下の実験を行なった。なお、このXP−11改造機は、図1に示すような帯電ロールによる接触帯電器、半導体レーザーを有する露光光学系、磁性一成分トナーを有する現像器、転写用コロトロン、除電用LED、クリーニングブレード及び定着ロールを有する電子写真プリンターである。
【0106】
この装置を用いて初期画質を評価した後、5万枚の連続印刷試験を行ない、試験後の画質評価を再び行なった。また、5万枚の連続試験前後の膜厚減少量を測定し、耐摩耗性を評価し、その結果を下記表11に示した。なお、帯電は帯電ロールに直流−550Vと交流1.5kVpp(800Hz)を重畳した帯電電圧を印加した。
【0107】
また、得られた感光体の表面保護層の一部を剥離して、透過により赤外吸収スペクトルをFT−IR分光光度計(パーキン・エルマー社製、1640)を用いて測定し、この測定結果をもとに、COの伸縮振動に基づく1720〜1740cm-1における吸光度xと、CH2の伸縮振動に基づく2937cm-1における吸光度yを求めてウレタン結合比Aを前記式にしたがって算出した。結果を表11に示した。
【0108】
【表11】
【0109】
(評価)
表11から明らかなように、実施例1及び2の感光体は、初期の画像特性が良好であり、かつ5万枚印刷後にも良好な画質特性を維持していた。また、5万枚印刷後に良好な画質特性が維持されていたのは、3次元的な架橋構造が充分に形成され、感光体の摩耗減少量が0.31μmと0.40μmと少なく、同時に表面に傷がつきにくいことによる。また、表面保護層における架橋構造中に電荷輸送物質構造が入っているため、感光体の光電特性が良好であり、かつ連続印刷による特性の劣化が少ないものと思われる。
【0110】
比較例1の感光体は、加熱条件が十分でなく、また、比較例2の感光体は、組成比により、3次元的な架橋構造が十分に形成されていないため、摩耗減少量が少し大きく、1万枚若しくは1.5万枚複写後に現像剤や紙との接触などによって表面に筋状の傷が発生し、これが画像欠陥となって表れた。
【0111】
比較例3の感光体は、5万枚の連続試験前後の膜厚減少量は10.5μmと大きいため、光電特性が変化し、初期画質は良好であったが、5万枚印刷後の画質は表面電位が十分に下がらず、画像濃度の低下を招いた。また、感光体表面は、現像剤や紙との接触などによる筋状の傷が多数認められ、これが画像欠陥となって現れた。
【0112】
比較例4の感光体は、5万枚の連続試験前後の膜厚減少量は0.25μmと小さいものの、1万枚印刷したあたりから画像濃度が低下し、5万枚印刷時にはほとんど画像が得られなくなっていた。これは表面保護層がウレタン結合比が1.7を示したが、電荷輸送性を持たないため明部電位が上昇(光電特性が低下)したことによるものと思われる。
【0113】
〔実施例3〜6〕実施例1において、表面保護層に用いた表1に記載の例示化合物(I−12)の代わりに、実施例3では表1に記載の例示化合物(I−1)を、実施例4では表1に記載の例示化合物(I−7)を、実施例5では表1に記載の例示化合物(I−7)を、実施例6では表1に記載の例示化合物(I−10)をそれぞれ用いた以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。前記の塗布液の混合比は〔例示化合物(I)のOH基の総モル数〕:〔構造式(II)のイソシアネート基の総モル数〕がおよそ45:55となるように調製した。
【0114】
実施例3〜6の感光体を実施例1と同じ評価を行い、その結果を下記表12に示した。表12から明らかなように、実施例3〜6の感光体は、ウレタン結合含有比Aが1.6〜1.8の間にあり、5万枚の連続試験前後の膜厚減少量は、0.34〜0.65μmと少なく、初期の画像特性が良好であり、かつ5万枚印刷後にも良好な画質特性を維持していた。
【0115】
〔実施例7〕実施例1と同様にして導電性基材上に電荷発生層と電荷輸送層を積層した。そして、実施例1で用いた例示化合物(I−12)1部、1,4−ブタンジオール0.5部、及び、前記構造式(III)で表されるイソシアヌレート変性体4部をシクロヘキサノン70部に溶解して塗布液を調製し、前記電荷輸送層の上にスプレーコート法で塗布し、常温で10分間乾燥させた後150℃で60分加熱し、膜厚4μmの表面保護層を形成した。この塗布液の混合比は、〔例示化合物(I−12)のOH基の総モル数〕:〔構造式(III)のイソシアネート基の総モル数〕がおよそ45:55となるように調製した。
【0116】
この感光体を実施例1と同じ評価を行い、その結果を下記表12に示した。表12から明らかなように、実施例7の感光体は、ウレタン結合含有比Aが1.6であり、5万枚の連続試験前後の膜厚減少量は0.60μmと少なく、初期の画像特性が良好であり、かつ5万枚印刷後にも良好な画質特性を維持していた。
【0117】
【表12】
【0118】
〔実施例8〕
アルミニウムパイプ(外径30mm)上に実施例1と同様にして下引き層を形成した。一方、塗布液は、合成例1で得た特定の結晶形を有するクロロガリウムフタロシアニンの1部を、ポリビニルブチラール(積水化学社製、エスレックBM−S)1部及び酢酸n−ブチル100部と混合し、ガラスビーズとともにペイントシェーカーで1時間処理して分散し、調製した。この塗布液を前記下引き層上にディップコートし、100℃で10分間加熱乾燥して膜厚約0.15μmの電荷発生層を形成した。
【0119】
次に、表7記載の構造式(IV)の例示化合物(IV−27)を2部、表9記載の構造式(V)の例示化合物(V−28)を1部、上記構造式(a)で表される繰り返し構造単位からなる高分子化合物(粘度平均分子量39000)3部をクロロベンゼン12部に溶解して塗布液を調製し、この塗布液を上記電荷発生層上にディップコートし、110℃で40分乾燥して膜厚20μmの電荷輸送層を形成した。さらに、その上に、実施例1と同様にして膜厚5μmの表面保護層を形成して実施例8の電子写真感光体を得た。
【0120】
〔実施例9〕
実施例8において、クロロガリウムフタロシアニンの代わりに、合成例2で得た特定の結晶形を有するヒドロキシガリウムフタロシアニンを用いた以外は、実施例8と同様にして実施例9の電子写真感光体を得た。
【0121】
実施例8〜9の感光体を、毎分30枚の印字速度(A4横)を有する富士ゼロック社製Able 1321改造機に搭載し、実施例1と同様の耐刷試験を行った。その結果を下記表13に示した。上記の改造機は図1と同様の構成を有する電子写真画像形成装置であるが、除電用LEDは有していない。この改造機の印字速度は、毎分A4横30枚であり、実施例1で用いたXP−11改造機(毎分A4横約11枚)と比較して高速であるため、帯電ロールに印加する電圧を1kHz、1.8kVppと大きくした。そのため、5万枚印刷後の摩耗量は大きくなっているが、画像濃度、解像度ともに目視による官能評価では全く問題がなかった。
【0122】
【表13】
【0123】
【発明の効果】
本発明は、上記の構成を採用し、電子写真感光体の表面保護層の3次元架橋構造に電荷輸送物質を取り込んでいるため、良好な光電特性と優れた耐摩耗性、及び、交流電圧印加、放電生成ガスなどの外的ストレスに対しても高い耐久性を有する電子写真感光体を提供することができ、これを用いた画像形成装置では多数枚の印刷後にも良好な画質を維持することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電子写真感光体の模式的断面図であり、感光層が積層構造を有するものである。
【図2】本発明のもう1つの電子写真感光体の模式的断面図であり、感光層が積層構造を有するものである。
【図3】本発明のさらに別の電子写真感光体の模式的断面図であり、感光層が単層構造を有するものである。
【図4】本発明のさらにもう1つの電子写真感光体の模式的断面図であり、感光層が単層構造を有するものである。
【図5】実施例1で用いた電子写真プリンターの概念図である。
Claims (13)
- 導電性支持体上に感光層と表面保護層を有する電子写真感光体において、該表面保護層が、下記構造式(I)で表される電荷輸送性化合物、及び、官能基数が3以上のイソシアネート化合物を少なくとも含む化合物を3次元的に架橋重合させたもので構成され、前記表面保護層の架橋重合体の、下記式で定義されるウレタン結合含有比Aが1.5以上であることを特徴とする電子写真用感光体。
【数1】
A=x/y
(式中、xはウレタン結合のCO伸縮振動に基づく1720〜1740cm -1 における赤外吸収ピークの吸光度を表し、yはCH 2 伸縮振動に基づく2937cm -1 における赤外吸収ピークの吸光度を表す。) - 前記表面保護層が、前記構造式(I)で表される電荷輸送性化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、及び、官能基数が3以上のイソシアネート化合物を3次元的に架橋重合させたもので構成されることを特徴とする請求項1記載の電子写真用感光体。
- 前記2個以上のヒドロキシ基を有する前記化合物が、グリコール系化合物及び/又はビスフェノール系化合物であることを特徴とする請求項2記載の電子写真感光体。
- 前記感光層が、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、及び/又はクロロガリウムフタロシアニンを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
- 前記感光層が、下記構造式(IV)で表されるベンジジン系化合物、及び/又は、下記構造式(V)で表されるトリフェニルアミン系化合物を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
- 導電性支持体上に感光層及び表面保護層を形成する電子写真感光体の製造方法において、請求項1記載の構造式(I)で表される電荷輸送性化合物、及び、官能基数が3以上のイソシアネート化合物を含有する塗工液を前記感光層上に塗布した後、加熱して前記化合物を3次元的に架橋重合させ、前記表面保護層の架橋重合体の、請求項1で定義したウレタン結合含有比Aが1.5以上である表面保護層を形成することを特徴とする電子写真用感光体の製造方法。
- 前記構造式(I)で表される電荷輸送性化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、及び、官能基数が3以上のイソシアネート化合物を含有する塗工液を、前記感光層の上に塗布した後、加熱して前記化合物を3次元的に架橋重合させて前記表面保護層を形成することを特徴とする請求項7記載の電子写真用感光体の製造方法。
- 前記2個以上のヒドロキシ基を有する前記化合物として、グリコール系化合物及び/又はビスフェノール系化合物を用いることを特徴とする請求項8記載の電子写真感光体の製造方法。
- 官能基数が3以上の前記イソシアネート化合物として、請求項4記載の構造式(II)で表されるヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、又は、同項記載の構造式(III)で表されるヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体を用いることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つに記載の電子写真感光体の製造方法。
- 電子写真感光体の周囲に帯電手段、露光による画像形成手段、現像手段及び転写手段を備えた画像形成装置において、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子写真感光体を用いたことを特徴とする画像形成装置。
- 前記帯電手段として、接触帯電方式の帯電手段を採用したことを特徴とする請求項11記載の画像形成装置。
- 前記帯電手段に電圧を印加する手段として、交流成分を有する電圧を印加する手段を付設したことを特徴とする請求項12記載の画像形成装置。
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