JP3565727B2 - フマラーゼ活性の除去方法、この方法によって得られる微生物、およびこの微生物を用いる光学活性アミノポリカルボン酸の製造方法 - Google Patents

フマラーゼ活性の除去方法、この方法によって得られる微生物、およびこの微生物を用いる光学活性アミノポリカルボン酸の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸エチレンジアミンリアーゼ活性を有する微生物のフマラーゼ活性除去方法、該方法によって得ることができる、フマラーゼ活性が低減された微生物またはその処理物、ならびに、フマラーゼ活性が低減された該微生物またはその処理物の存在下でフマル酸とアミノ基を有する化合物とから光学活性アミノポリカルボン酸を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸エチレンジアミンリアーゼはフマル酸とアミノ基を有する化合物から光学活性アミノポリカルボン酸を製造する際に触媒として使用され、得られる光学活性アミノポリカルボン酸は重金属等の金属イオンを補足するという特異な性質を有し、しかも生分解を受け易いため、キレート剤、洗剤用ビルダーや写真用漂白剤などの用途が見込まれる。
【0003】
本発明者らは、先に、フマル酸とエチレンジアミンをS,S−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸に変換する微生物の新規なリアーゼ活性を見い出し(以下、本リアーゼをエチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸エチレンジアミンリアーゼと呼び、EDDSアーゼと略記する)、本触媒作用を利用したフマル酸と各種アミンからの効率的な光学活性アミノポリカルボン酸の製造方法を提案している〔特開平9−140390号公報、米国特許第5707836号明細書参照〕。しかしながら、これらのEDDSアーゼ保有微生物は、生物界に幅広く存在するフマラーゼを合わせ持ち、共通の基質であるフマル酸の相当な部分をリンゴ酸へと水和するため、フマラーゼ活性を除去しない限り、満足な収率で目的の光学活性アミノポリカルボン酸を得ることは困難である。
【0004】
フマラーゼ活性を除去する方法としては、アスパルターゼ活性を有する微生物について該微生物を酸処理する方法〔特公平3−55103号公報参照〕、同じくアスパルターゼ活性を有するブレビバクテリウム属に属する微生物について該微生物をL−アスパラギン酸及びアンモニウムイオンの存在下にアルカリ条件下で処理する方法〔特公平4−80678号公報参照〕が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前者の方法は、本発明の微生物に対しては、EDDSアーゼの活性損失がフマラーゼの活性損失よりも大きいため採用できないことが実験的に確認された。また、後者の方法は、処理菌体をL−アスパラギン酸を多量に含む処理液ごと反応に供し得るL−アスパラギン酸の製造反応には有利であるが、それ以外の反応では操作性および経済性の面で難があった。
【0006】
本発明のEDDSアーゼは、上記アスパルターゼとは異なる新規な酵素であり、それ故、如何にしてEDDSアーゼ活性を失うことなくフマラーゼ活性のみを選択的に除去し得るかは全く不明であった。
したがって、本発明は、EDDSアーゼ活性およびフマラーゼ活性を有する微生物からEDDSアーゼ活性を失うことなくフマラーゼ活性のみを選択的に除去することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を改善すべく鋭意研究を行った結果、EDDSアーゼ活性を有する微生物またはその処理物を塩類の存在下に、アルカリ水溶液中で処理することによりEDDSアーゼ活性を損なうことなくフマラーゼ活性を選択的に除去する方法を見い出し本発明に到達した。 すなわち、本発明は、第1の態様において、エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸エチレンジアミンリアーゼ活性を有する微生物またはその処理物を5〜1000mMの濃度の塩類の存在下にpH8.0〜10.5のアルカリ水溶液で処理することを特徴とする該微生物またはその処理物のフマラーゼ活性の除去方法を提供する。
ここで、該塩類は、ほう酸、りん酸、塩酸、硫酸、酢酸、蓚酸、フマル酸、マレイン酸およびエチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸のナトリウム、カリウム、アンモニアおよびアミン類の塩からなる群から選択され得る。
【0008】
該微生物またはその処理物は、シュードモナス(Pseudomonas)属、パラコッカス(Paracoccus)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属およびブレブンジモナス(Brevundimonas)属からなる細菌類;エシェリヒア(Esherichia)属またはロドコッカス(Rhodococcus)属に属する細菌宿主にEDDSアーゼをコードする遺伝子を導入した形質転換体;ならびに該細菌類または形質転換体の処理物からなる群から選択され、具体的には、それらは、Pseudomonas sp.TN−131株(FERM BP−5418)、Paracoccus sp.TNO−5株(FERM BP−6547)、Sphingomonas sp.TN−28株(FERM BP−5419)、Brevundimonassp. TN−30株(FERM BP−5417)およびBrevundimonas sp.TN−3株(FERM BP−5886);宿主としての大腸菌JM109株(ATCC53323)、Rhodococcus rhodochrous ATCC17895株およびRodococcus rhodochrous J−1株(FERM BP−1478)にEDDSアーゼをコードする遺伝子を導入した形質転換体;ならびに該細菌類または形質転換体の処理物からなる群から選択される。
【0009】
本明細書中「処理物」とは、菌体破砕物、菌体抽出液、菌体から抽出された粗酵素または精製酵素、固定化した菌体または酵素、安定化剤等の薬剤で処理された菌体または酵素を意味する。 本発明はまた、第2の態様において、フマラーゼ活性が低減されたことを特徴とする、EDDSアーゼ活性を有する微生物またはその処理物を提供する。このような微生物またはその処理物には、上記の本発明方法によって得ることができる微生物またはその処理物も包含される。
【0010】
本明細書中、フマラーゼ活性について「低減」とは、元の微生物または処理物と比べてそのフマラーゼ活性が減少しているか、あるいはフマラーゼ活性を実質的に含まないことを意味する。 本発明はさらに、第3の態様において、フマル酸とアミノ基を有する化合物とから光学活性アミノポリカルボン酸の製造における、フマラーゼ活性が低減された上記微生物またはその処理物の使用を提供する。
具体的に、本発明は、下記一般式[1]
【0011】
【化1】
Figure 0003565727
【0012】
で示される光学活性アミノポリカルボン酸の製造方法であって、上記のフマラーゼ活性が低減された微生物またはその処理物からなる触媒の存在下で、フマル酸と、一般式[2]
【0013】
【化2】
Figure 0003565727
【0014】
で示されるアミノ基を有する化合物とを反応させること、および、その結果得られた反応混合物から該光学活性アミノポリカルボン酸を単離することからなり、上記式[1]および式[2]において、RおよびRは、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のシクロアルキル基、置換または無置換のアリール基であり、但し、RとRは共に水素原子であることはなく、該置換基はアミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボキシル基およびエーテル基からなる群から選択され;RおよびRはRとRと同一であるか、または、RとRのアミノ基の少なくとも1個がその窒素原子を介してコハク酸のエチレン基の炭素原子と結合した構造を有する基を表わす、前記方法を提供する。
【0015】
ここで、アミノ基を有する化合物は、例えば、エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、2−メチル−1,3−プロパンジアミン、2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等の炭素数2〜6のアルカン−またはシクロアルカン−ジアミン類;1,2−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、1,4−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン類;ならびにグリシン、3−アミノプロピオン酸、2−アミノプロピオン酸、イミノジ酢酸、3,3’−イミノジプロピオン酸、グルタミン酸等のモノアミン類からなる群から選択される。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明は、前記の通り、光学活性アミノポリカルボン酸の製造における副反応を抑制することを目的として、該処理によりEDDSアーゼ活性を保持しながら、フマラーゼ活性を選択的に除去した微生物触媒を得ることを目的とする。したがって、フマル酸を原料とし、かつ該触媒を光学活性アミノポリカルボン酸製造に適用する限り、本発明の効果を得ることができる。
これら適用場面としては、具体的に、下記一般式〔2〕で示されるアミノ基を有する化合物とフマル酸の混合物から下記一般式〔1〕で示される光学活性アミノポリカルボン酸を製造する場合を挙げることができる:
【0017】
【化3】
Figure 0003565727
【0018】
【化4】
Figure 0003565727
【0019】
式中、RおよびRは、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子(但し、RとRは共に水素原子であることはない)、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のシクロアルキル基、置換または無置換のアリール基、RおよびRはRとRと同一またはRとRのアミノ基の少なくとも1個がその窒素原子を介してコハク酸のエチレン基の炭素原子と結合した構造を有する基等を表し、置換基はアミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エーテル基等である。
【0020】
一般式〔2〕で示されるアミノ基を有する化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、2−メチル−1,3−プロパンジアミン、2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等の炭素数2〜6のアルカン−またはシクロアルカン−ジアミン類、1,2−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、1,4−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン類、ならびにグリシン、3−アミノプロピオン酸、2−アミノプロピオン酸、イミノジ酢酸、3,3’−イミノジプロピオン酸、グルタミン酸等のモノアミン類などを挙げることができ、エチレンジアミンが代表的である。
【0021】
また、本発明で得られる一般式〔1〕で示される光学活性アミノポリカルボン酸の代表例としては、いずれも(S,S)−体のエチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸、1,3−プロパンジアミン−N、N’−ジコハク酸、2−メチル−1,3−プロパンジアミン−N,N’−ジコハク酸、2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジアミン−N,N’−ジコハク酸、1,4−ブタンジアミン−N,N’−ジコハク酸、1,5−ペンタンジアミン−N,N’−ジコハク酸、1,6−ヘキサンジアミン−N,N’−ジコハク酸、1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’−ジコハク酸、1,3−シクロヘキサンジアミン−N,N’−ジコハク酸、1,4−シクロヘキサンジアミン−N,N’−ジコハク酸、1,2−フェニレンジアミンジコハク酸、1,3−フェニレンジアミンジコハク酸および1,4−フェニレンジアミンジコハク酸等のアルカンジアミン−N,N’−ジコハク酸、シクロアルカンジアミン−N,N’−ジコハク酸またはフェニレンジアミン−N,N’−ジコハク酸;ならびに、いずれも(S)−体のアスパラギン酸−N−モノ酢酸、アスパラギン酸−N−モノプロピオン酸、アスパラギン酸−N−2−プロピオン酸、アスパラギン酸−N、N−ジ酢酸、アスパラギン酸−N、N−ジプロピオン酸、アスパラギン酸−N−2−グルタール酸などを挙げることができ、(S,S)−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸が代表的である。
【0022】
本発明のフマラーゼ活性除去処理の対象となる微生物は後記のとおりである。フマラーゼ活性除去処理は、培養により得られた菌体またはその処理物(菌体破砕物、菌体抽出液、抽出した粗・精製酵素、固定化した菌体または酵素、薬剤処理(安定化処理等)した菌体または酵素)に対して行うことができる。その他、培養終了後、培養液中の菌体に対して直接行うこともできる。また、フマラーゼ活性除去処理後に、別の処理を加えても差し支えない。
【0023】
フマラーゼ活性の除去処理は、上記微生物菌体等を塩類の存在下にアルカリ水溶液に浸漬することにより行うことができる。また、該アルカリ水溶液としてはメタノール、エタノール等の水と自由に混和し得る有機溶媒や水と混和し得る範囲でその他の有機溶媒を併用したものでもよい。
塩類としては、本発明のアルカリ水溶液に溶解し得るものであれば、無機、有機、特に制限されない。例えば、ほう酸、りん酸、塩酸、硫酸、酢酸、蓚酸、前記フマル酸やマレイン酸、エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸等のナトリウム、カリウム、アンモニア、アミン類等の塩であり、アミン類としてはエチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン等の炭素数2〜6のアルカンジアミン、トリエタノールアミン等のモノアミンが好適である。
【0024】
塩類の濃度は5〜1000mM、好ましくは10〜500mMの範囲である。5mM未満では効果が充分でなく、1000mMを越えると効果が頭打ちとなる。
アルカリ水溶液のpHは8〜10.5、好ましくは8.5〜10、より好ましくは9〜9.5の範囲であり、上記の酸および塩基の割合を変えることにより所定のpHに調整することができる。中でも、ほう酸、りん酸もしくはGoodの緩衝液等の使用は塩濃度およびpHの調整の両面から好適である。
【0025】
処理温度は通常氷結温度〜55℃の範囲である。処理時間は諸条件により異なるが、約1分〜約1ヶ月間であり、処理温度をより高温に設定することにより処理時間を短縮することができる。また、処理時間は延長されるものの、上記条件下、冷蔵保存中にフマラーゼ活性を除去することも可能である。
これらの処理操作は、回分、連続のいずれの方法でも行うことができる。
【0026】
本発明の微生物としてはEDDSアーゼおよびフマラーゼ活性を有する微生物であればいずれも対象となる。例えば、シュードモナス(Pseudomonas)属、パラコッカス(Paracoccus)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属およびブレブンジモナス(Brevundimonas)属に属する細菌、さらに宿主としてエシェリヒア(Esherichia)属またはロドコッカス(Rhodococcus)属に属する細菌を用い、これにEDDSアーゼをコードする遺伝子DNAを導入した形質転換体などを例として挙げることができる。
【0027】
具体的には、Pseudomonas sp.TN−131株(FERM BP−5418)、Paracoccus sp.TNO−5株(FERM BP−6547)、Sphingomonas sp.TN−28株(FERM BP−5419)、Brevundimonas sp.TN−30株(FERMBP−5417)および同TN−3株(FERM BP−5886)、さらに、宿主として大腸菌JM109株(Esherichia coli ATCC53323)、Rhodococcus rhodochrous ATCC17895株およびRhodococcus rhodochrous J−1株(FERM BP−1478)を用いた形質転換体を挙げることができる。
【0028】
上記微生物のうち、TN−131株、TNO−5株、TN−28株、TN−30株、TN−3株は、本発明者らにより自然界から新たに分離され、上記番号にて通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている。これらの菌株の菌学的性質は以下に示す通りである。
【0029】
Figure 0003565727
Figure 0003565727
【0030】
Figure 0003565727
【0031】
Figure 0003565727
Figure 0003565727
【0032】
Figure 0003565727
Figure 0003565727
【0033】
上記菌学的性質を、Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology Vol.1(1984)および Bergey’s Manual of Determinative Bacteriology 9版(1994)により分類するとTN−131株はシュードモナス(Pseudomonas)属に、Bergey’s Manual ofSystematic Bacteriology Vol.1(1984)により分類するとTNO−5株はパラコッカス(Paracoccus)属に、Bergey’s Manual of Determinative Bacteriology 9版(1994)および Microbiol. Immunol.34,99(1990)により分類するとTN−28株はスフィンゴモナス(Sphingomonas)属に、また、Bergey’s Manual of Determinative Bacteriology 9版(1994)ならびにInt. J. Syst. Bacteriol. 44,499(1994)により分類するとTN−30株およびTN−3株はブレブンジモナス(Brevundimonas)属に属する細菌と同定される。尚、TN−3株はディミヌタ(diminuta)種であることが確認されている。
【0034】
大腸菌 JM109株(Esherichia coli ATCC53323)、Rhodococcus rhodochrous ATCC17895株は公知であり、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から容易に入手することができる。これらの菌株を宿主として、TN−3株のEDDSアーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子DNAを含むプラスミドpEDS020およびpSE001を導入した形質転換体が、E. coli JM109/pEDS020(FERM BP−6161;1997年11月10日に国際寄託に移管)およびRhodococcus rhodochrousATCC17895/pSE001(FERM BP−6548;1998年10月15日に国際寄託に移管)として、それぞれ通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている。以下に、これら形質転換体の作製方法を示す。
【0035】
(1)TN−3株染色体DNAの調製
TN−3株を100mlのEDDS培地(0.2%エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸、0.2%グルコース、0.1%バクトイーストエキス、0.05%ポリペプトン、0.28%硫酸ナトリウム、0.1%硫酸マグネシウム・7HO、2.5%(v/v)の1Mりん酸緩衝液(pH7.0)、0.5%(v/v)金属塩混合物溶液(100ml中の組成;塩化マグネシウム・6HO8g,塩化カルシウム0.8g,硫酸マンガン・4HO 0.6g,塩化第二鉄・6HO0.12g,硫酸亜鉛0.06g))中、30℃にて4日間振とう培養した後集菌し、この菌体をSaline−EDTA溶液(0.1M EDTA、15M NaCl(pH8.0))4mlに懸濁しリゾチーム8mgを加えて37℃で1時間振とうした後凍結する。次に10mlのTris−SDS液(1%SDS、0.1MNaCl、0.1M Tris(pH9.0))を穏やかに振とうしながら加え、さらにプロテイナーゼK(メルク社製)(終濃度1mg)を加え37℃で1時間振とうする。次に等量のTE飽和フェノールを加え撹拌後(TE:10mM Tris、1mM EDTA(pH8.0))遠心し、上層を取り2倍量のエタノールを加えた後、ガラス棒でDNAを巻きとり、90%、80%、70%のエタノールで順次フェノールを取り除く。次にDNAを3mlのTE緩衝液に溶解させ、リボヌクレアーゼA溶液(100℃、15分間の熱処理済み)を10mg/mlになるように加え37℃で30分間振とうする。さらにプロテイナーゼKを加え37℃で30分間振とうした後、等量のTE飽和フェノールを加え遠心し上層と下層に分離する。上層についてこの操作を2回繰り返した後、同量のクロロフォルム(4%イソアミルアルコール含有)を加え同様の抽出操作を繰り返す(以後この操作をフェノール処理と呼ぶ)。その後上層に2倍量のエタノールを加えガラス棒でDNAを巻き取り回収し、染色体DNA標品を得る。
【0036】
(2)精製酵素の調製
TN−3株を2リットルのEDDS培地中、30℃にて4日間振とう培養した後集菌し、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0、1mMジチオスレイトール含有)100mlに懸濁し、超音波破砕機で菌体を破砕し、12,000rpmで20分間遠心分離する。得られた上澄に30%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、4℃にて30分間静置後遠心分離する。得られた上澄に60%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し4℃にて30分間静置後遠心分離する。得られた沈殿を10mlの10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0,1mMジチオスレイトール含有)に溶解し、部分精製酵素液とする。
【0037】
この部分精製酵素液をイオン交換クロマトグラフィーでさらに精製する。すなわち、1mMジチオスレイトールを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)で緩衝化したDEAE−Sephacryl(ファルマシア社製)を充填したカラム(φ10mm × 20cm)に、部分精製酵素液を流し吸着させた。40mlの同緩衝液でカラムを洗浄した後、0〜0.6M KClの直線勾配で本酵素を溶出させ、2mlづつ分画する。EDDSアーゼ活性の認められた画分を集めて精製酵素液とする。この画分をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析したところ分子量約6万のほぼ均一な一本のバンドが検出される。
【0038】
(3)精製酵素のN末端アミノ酸配列および内部ペプチドのアミノ酸配列の分析(2)の工程で得られた精製酵素を直接、あるいは trypsinで消化後SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動でポリペプチドを分画し、PVDFメンブレン(ImmobilonPsq(ミリポア社製))にエレクトロブロッティングする。ブロッティングしたメンブレンをクマシーブリリアントブルーで染色し、染色されたバンドを切り取りアミノ酸配列の分析に供する。アミノ酸配列の分析は島津製作所社製 PSQ−1型アミノ酸分析装置により行う。結果を以下に示す。
【0039】
a)無処理酵素のN末端アミノ酸配列:(分子量約6万);
Xaa−Thr−Pro−His−Asn−Pro−Asp−Ala
(配列番号6;ここでXaaはMetまたは欠失を示す。)
b)trypsin 部分分解物:(分子量約5万);
Glu−Ile−Gly−Ser−Val−Gly−Lys−Met−Glu−Ile−Gly−Arg−Xaa−Ala−Asn−Asp−Leu−Arg−Asn−Arg
(配列番号7;ここでXaaは未同定アミノ酸残基を示す。)
【0040】
c)trypsin 部分分解物:(分子量約1万);
Ala−Ser−Gly−Ala−Lys−Ala−Pro−Glu−Phe−Gln−Glu−Leu−Tyr−Asp−Phe−Glu−Ala−Ala−Xaa−Leu−Xaa−Leu
(配列番号8;ここでXaaは未同定アミノ酸残基を示す。)
〔括弧内の分子量は分画したペプチドの分子量を示す。〕
【0041】
(4)プローブの調製
(3)の工程で得られたアミノ酸配列情報を基に配列番号4および5に示されるような合成DNAを作製してプライマー(プライマー#1、#2)とし、(1)の工程で得られたTN−3株の染色体DNAを鋳型としてポリメラーゼ連鎖反応を行う。
すなわち、TN−3株染色体DNA1μl、10倍濃度の反応緩衝液10μl、10mMdNTP4μl、プライマー#1、#2各々1μl(100pmol濃度相当)、ExTaq (宝酒造社製)1μlを加えて100μlとした。この溶液について、95℃、30秒間(変性ステップ)、55℃、30秒間(アニーリングステップ)、72℃、2分間(伸長ステップ)のインキュベーションを30サイクル行う。反応終了後、クロロフォルム抽出を3回行い、エタノール沈殿により増幅されたDNAを回収する。これを1.0%アガロース電気泳動で分離後、TN−3株のEDDSアーゼ遺伝子をコードすると考えられる約300bpのDNA断片を得る。こうして得られたDNA断片を DIG DNA Labeling kit (ベーリンガー・マンハイム社製)を用いて標識し、プローブとする。
【0042】
(5)DNAライブラリーの作製
TN−3株染色体DNA10μlに10倍濃度制限酵素反応用緩衝液5μl、滅菌水33μl、制限酵素 KpnI 2μlを加え、37℃にて16時間反応させた後エタノール沈殿によりDNAを回収する。アガロース電気泳動を行い、6.5Kbから5.5KbのDNA断片をゲルから切り出し DNA PREP(ダイヤトロン社製)を用いて回収する。このDNA断片をライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて大腸菌ベクターpUC18のKpnI部位に挿入し、組換え体DNAライブラリーを作製する。
【0043】
ライゲーションに用いたpUC18断片は次のように作製する。pUC18保存液2μlに対し、10倍濃度制限酵素用緩衝液5μl、滅菌水40μl、制限酵素 KpnI 3μlを加え、37℃で2時間反応後、フェノール処理、エタノール沈殿させた後乾燥して50μlの滅菌水に溶解させる。さらにアルカリフォスファターゼ(宝酒造株式会社)1μl、10倍濃度緩衝液10μl、滅菌水39μlを加え65℃で反応後フェノール処理、エタノール沈殿を行い乾燥して滅菌水に溶解させる。
【0044】
(6)大腸菌形質転換体の作製および組換え体DNAの選別
大腸菌JM109株をLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、0.5%NaCl)1mlに接種し37℃、5時間好気的に前培養し、この培養物100mlをSOB培地(2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10mM NaCl、2.5mM KCl、1mM MgSO、1mM MgCl)40mlに加え、18℃で20時間培養する。この培養物を遠心分離により集菌した後、冷TF溶液(20mM PIPES−KOH(pH6.0)、200mM KCl、10mM CaCl、40mM MnCl)を13ml加え、0℃で10分間放置後、再度遠心する。上澄を除いた後、沈殿した大腸菌を冷TF溶液3.2mlに懸濁し、0.22mlのジメチルスルフォキシドを加え0℃で10分間放置する。こうして作製したコンピテントセル200μlに工程(5)で作製した組換え体プラスミドを含有する溶液(DNAライブラリー)を10μl加え、0℃で30分放置後、42℃で30秒間ヒートショックを与え0℃で2分間冷却後、SOC培地(20mMグルコース、2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10mM NaCl、2.5mM KCl、1mM MgSO、1mM MgCl)1mlを添加して37℃にて1時間振とう培養する。これを200μlずつアンピシリン100μg/ml含有のLB寒天培地にまき、37℃で培養する。寒天培地上に生育した形質転換体コロニーについてコロニーハイブリダイゼーション法にてEDDSアーゼ遺伝子を持つ形質転換体を選別する。すなわち、寒天培地上に生育した形質転換体をナイロンメンブレン(バイオダインA:日本ポール社製)上に移し、菌体を溶かしてDNAを固定した後、これを工程(4)で作製したプローブ(約300bp)で処理し、DIG Luminescent Detection Kit (ベーリンガー・マンハイム社製)を用い、目的の組換え体DNAを持つコロニーを選択する。
【0045】
(7)組換えプラスミドの調製
工程(6)で選択した形質転換体を100mlのLB培地にて37℃で一晩培養し、集菌後滅菌水により洗浄し、溶液I(2mMグルコース、10mM EDTA、25mM Tris−HCl(pH8.0))を5ml、リゾチームを25mg加え、0℃で30分間放置する。溶液II(1N NaOH、5%SDS)を10ml加え0℃で5分間放置し、溶液III(3M酢酸ナトリウム(pH4.8))を7.5ml加え0℃で30分間放置する。これを遠心し、その上澄に50mlのエタノールを加え、さらに遠心し上澄を取り除き5mlの溶液IV(10mM酢酸ナトリウム、50mM Tris−HCl(pH8.0))とリボヌクレアーゼA溶液(10mg/ml)2.5μl加え室温で20分間放置する。これに12mlのエタノールを加え、遠心によりプラスミドを回収、70%エタノールでリンスし、乾燥後0.4mlの滅菌水に溶解する。こうして得られた組換え体プラスミドをpEDS001と名付ける。
【0046】
(8)制限酵素地図の作製およびEDDSアーゼ遺伝子領域の特定
工程(7)で得られたプラスミドpEDS001を数種の制限酵素を用いて切断し制限酵素地図を作製する(図1)。さらに、通常行われるようにサブクローニングを行う。すなわち、pEDS001を制限酵素KpnIとBamHIとで切断し、pUC18を同制限酵素で切断したものとライゲーションし、大腸菌JM109株を形質転換することにより、約3.9Kbの断片が挿入されたプラスミド(pEDS002)(図2)と約2.6Kbの断片が挿入されたプラスミド(pEDS003)(図3)を得る。各々のプラスミドについて制限酵素BamHI、EcoRI、SacI、SalIなどで切断後、アガロース電気泳動を行い、サザンハイブリダイゼーション法によりプローブがハイブリダイズする断片を特定する。
【0047】
(9)塩基配列の決定
工程(8)で特定された領域周辺の塩基配列をファルマシア社蛍光シーケンサALFIIを用いて決定する。その結果、配列番号1に示される塩基配列が得られ、配列番号2に示されるアミノ酸配列を持つオープンリーディングフレームが見いだされる。アミノ酸配列データーベース NBRF(National Biomedical Research Foundation)との比較の結果本遺伝子は、delta−crystallinあるいは argininosuccinate lyaseと20〜30%のホモロジーを有しており、両酵素にはともにフマル酸とアミン(アミノ酸)の縮合あるいは分解反応を触媒する活性が知られている。また、このオープンリーディングフレームの塩基配列を配列番号3に示す。
【0048】
(10)プラスミド pEDS020と大腸菌形質転換体の作製、および形質転換体のEDDSアーゼ活性
工程(8)で得られたEDDSアーゼ遺伝子を有する組換え体プラスミドpEDS0032μlに対し、10倍濃度制限酵素用緩衝液2μl、滅菌水15μl、制限酵素KpnI1μlを添加し、37℃にて2時間反応させる。エタノール沈殿によりプラスミドを回収し、乾燥後17μlの滅菌水、2μlの10倍濃度制限酵素緩衝液、制限酵素BamHI1μlを添加して37℃にて2時間反応させる。この反応液からアガロース電気泳動により約2.6Kbの断片を調製し、大腸菌ベクターpUC119に挿入する。作製したライゲーション溶液を用いて大腸菌JM109を形質転換して目的のプラスミドを得る。ここで作製したプラスミドをpEDS020(図4)と、また形質転換体をJM109/pEDS020と名付ける。
【0049】
JM109/pEDS020をアンピシリン50mg/l含有するLB培地1mlに接種して37℃にて8時間振とう培養後、全量を40mlのLB培地(50mg/lアンピシリン、1mM isopropyl−β−thiogalactosideを含有)に接種し37℃、30時間培養した。得られた培養物を10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)で洗浄後、2mlの同緩衝液に懸濁する。得られた菌体懸濁液の一部を342mMフマル酸と171mMエチレンジアミンを含むpH8.0の水溶液50mlに懸濁し24時間反応させる。反応液から菌体を遠心分離により除いた後、HPLCを用いて生成したエチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸を分析する(WAKOSIL 5C8(和光純薬社製)〔溶出液;10mM水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウムと0.4mMCuSOを含む50mMリン酸、pH2〕)。その結果、50mMのS,S−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸が生成していた。
【0050】
(11)プラスミドpSE001の作製
工程(10)で作製したプラスミドpEDS020、2μlに対し、10倍濃度制限酵素用緩衝液2μl、滅菌水15μl、制限酵素XhoI 1μlを添加し、37℃にて2時間反応させる。エタノール沈殿によりプラスミドを回収し、乾燥後15μlの滅菌水、2μlの10倍濃度klenow fragment用緩衝液、2μlの10mM dNTP溶液、1μlの klenow fragmentを添加して37℃にて2時間反応させる。エタノール沈殿によりDNA断片を回収し、乾燥後8μlの滅菌水、1μlのXbaIリンカー溶液、16μlの Ligation kit (宝酒造社製)溶液Aおよび4μlの溶液Bを添加して16℃にて4時間反応させた後 JM109に形質転換させる。得られた形質転換体よりプラスミドを調製して、pEDS020のXhoI部位がXbaI部位に変換されたプラスミドを得る。得られたプラスミド2μlに対し、10倍濃度制限酵素用緩衝液2μl、滅菌水15μl、制限酵素EcoRV1μlを添加し、37℃にて2時間反応させる。エタノール沈殿によりDNA断片を回収し、乾燥後8μlの滅菌水、1μlの Sse8387Iリンカー溶液、16μlのLigation kit (宝酒造社製)溶液Aおよび4μlの溶液Bを添加して16℃にて4時間反応させた後JM109に形質転換させる。得られた形質転換体よりプラスミドを調製し、EcoRV部位がSse8387I部位に変換されたプラスミド(pEDS027)を得る。得られたプラスミド2μlに対し、10倍濃度制限酵素用緩衝液2μl、滅菌水14μl、制限酵素XbaI1μlおよびSse8387I 1μlを添加し、37℃にて2時間反応させる。その後、0.7%アガロース電気泳動で分離し1.7Kbのバンドを回収しロドコッカス細菌用の強力なプロモーター活性を有するプラスミドpSJ034のXbaI−Sse8387I部位に挿入し、組換え体プラスミドpSE001を作製する(図5)。pSJ034はプラスミドpSJ023(特願平9−65618号明細書参照)より図6に示した工程により作製する。pSJ023は形質転換体 Rhodococcus rhodochrous ATCC12674/pSJ023(FERM BP−6232;1998年1月21日に国際寄託に移管)として工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている。
【0051】
(12)Rhodococcus属細菌の形質転換および形質転換体のEDDSアーゼ活性
Rhodococcus rhodochrous ATCC17895株の対数増殖期の細胞を遠心分離器により集菌し、氷冷した滅菌水にて3回洗浄し、滅菌水に懸濁する。プラスミドpSE001 1μlと菌体懸濁液10μlを混合し、氷冷する。キュベットにDNAと菌体の懸濁液を入れ、遺伝子導入装置Gene Pulser(BIO RAD)により2.0KV、200OHMSで電気パルス処理を行う。電気パルス処理液を氷冷下、10分間静置し、37℃で10分間ヒートショックを行い、MYK培地(0.5%ポリペプトン、0.3%バクトイーストエキス、0.3%バクトモルトエキス、0.2%KHPO、0.2%KHPO)500mlを加え、30℃、5時間静置した後、50mg/lカナマイシン含有MYK寒天培地に塗布し、30℃、3日間培養する。得られた形質転換体をATCC17895/pSE001と名づける。
【0052】
こうして作製した形質転換体をMYK培地(50mg/lカナマイシン含有)10mlに接種し、30℃で72時間振とう培養する。このうち1mlを培地100ml(1.5%グルコース、1%グルタミン酸ナトリウム、0.1%バクトイーストエキス、0.05%KHPO、0.05%KHPO、0.05%硫酸マグネシウム、pH7.2、50mg/lカナマイシン含有)に接種し、30℃で60時間培養する。次に、得られた菌体を用い、工程(10)記載の方法にて反応、分析を行ったところ、36mMのS,S−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸が生成していた。
【0053】
式[1]で示される光学活性アミノポリカルボン酸を製造するための反応は、水または緩衝剤溶液(例えばりん酸緩衝液、炭酸緩衝液またはほう酸緩衝液)中で、上述した本発明の微生物株またはその処理物(即ち、菌体破砕物、菌体抽出液、菌体から抽出された粗酵素または精製酵素、固定化した菌体または酵素、安定化剤等の薬剤で処理された菌体または酵素から選択される)を、フマル酸と式[2]で示されるアミノ基含有化合物との混合物と接触させることによって行われる。
【0054】
一般に、この反応は、0〜50℃、好ましくは5〜35℃の温度、および5〜11、好ましくは6〜10のpHで行うことができる。フマル酸および式[2]で示されるアミノ基含有化合物の濃度は使用する反応温度やpHに応じて変化し得るが、それらの濃度は各々0.1%〜飽和濃度の範囲であり得る。また、使用する微生物またはその処理物の量は、通常、基質の量に基づいて0.01〜5.0%である。反応は回分式または連続式のいずれかで行うことができる。
【0055】
反応の完結時に反応混合物から生成アミノポリカルボン酸を単離するために、微生物の除去、濃縮、クロマトグラフィー(例えばHPLC)、結晶化などの公知の技術を使用することができる。
アミノポリカルボン酸の製造の具体的手順に関しては、特開平9−140390号公報または対応の米国特許第5707836号明細書に記載される手順と同様の仕方で行うことができる。これらの特許公開公報、米国特許の内容は本明細書に参考として含めるものとする。
【0056】
【実施例】
次に、本発明を以下の実施例により具体的に説明する。
<実施例1>
(1)培養
Pseudomonas sp. TN−131株、Paracoccussp.TNO−5株、Sphingomonas sp.TN−28株、Brevundimonas sp. TN−30株および同TN−3株を斜面培地から1白金耳取り、下記の培地に接種し、30℃、4日間好気的に振とう培養した。
【0057】
培地組成(pH7.5,100ml):
エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸 0.2g
グルコース 0.2g
酵母エキス 0.1g
ポリペプトン 0.05g
硫酸マグネシウム・7HO 0.1g
硫酸ナトリウム 0.28g
燐酸緩衝液 25mM
金属塩混合物溶液* 0.5ml
[*金属塩混合物溶液(100ml): 塩化マグネシウム・6HO 8g,塩化カルシウム 0.8g,硫酸マンガン・4HO 0.6g,塩化第二鉄・6HO 0.12g,硫酸亜鉛 0.06g]
【0058】
(2)フマラーゼ活性除去処理
菌体培養液を遠心管に取り10,000rpm、5℃、15分間の遠心分離にて集菌した後、50mMほう酸緩衝液(pH9.2)で2回洗浄し、同緩衝液で5mg乾燥菌体/mlに希釈し、45℃、6時間、水浴中で処理を行った。なお、2時間経過後にサンプリングを行った。
【0059】
(3)EDDSアーゼおよびフマラーゼの活性測定
上記フマラーゼ除去処理を施した菌体は、EDDSアーゼおよびフマラーゼの活性測定を行い、未処理菌体の活性を100%として残存活性を求めた。
EDDSアーゼの活性測定は684mMフマル酸、342mMエチレンジアミン、342mM水酸化マグネシウムを含み、6N NaOHでpH8.5に調整した反応液を用い、処理液の1/10の菌体濃度にて30℃、一昼夜反応させ、生成する(S,S)−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸(S,S−EDDSという)を下記操作にて定量した。
【0060】
フマラーゼの活性測定は68.4mM L−リンゴ酸ナトリウム、50mMほう酸緩衝液を含み、6N NaOHでpH8.5に調整した反応液を用い、処理液の1/10の菌体濃度にて30℃、一昼夜反応させ、生成するフマル酸を下記操作にて定量した。
【0061】
反応生成物の定量:
S,S−EDDS、フマル酸およびL−リンゴ酸の分析は、反応液中の不溶物を15,000rpm、5℃、5分間の遠心分離にて除去した後、液体クロマトグラフィーにて行った。定量用カラムとしては WAKOSIL 5C8(和光純薬)〔溶出液;10mM 水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウムと0.4mM CuSOを含む50mMリン酸、pH2〕を、また光学分割カラムとしてMCI GEL CRS 10W(三菱化学社製)〔溶出液:10mM CuSO〕を使用した。
(4)結果
【0062】
【表1】
Figure 0003565727
【0063】
<実施例2>
(1)形質転換体の培養
Esherichia coli JM109/pEDS020
斜面培地から1白金耳とり、50mg/lアンピシリンを含有するLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、0.5%NaCl)に接種して37℃にて8時間振とう培養した。これを、LB培地(50mg/lアンピシリン、1mM isopropyl−b−galactosideを含有)に、2.5%量接種し、37℃、30時間、好気的に振とう培養した。
【0064】
Rhodococcus rhodochrous ATCC17895/pSE001
斜面培地から1白金耳とり、50mg/lカナマイシンを含有するMYK培地(0.5%ポリペプトン、0.3%バクトイーストエキス、0.3%バクトモルトエキス、0.2%KHPO、0.2%KHPO)に接種し、30℃、72時間、振とう培養した。これを、GGY培地(1.5%グルコース、1%グルタミン酸ナトリウム、0.1%バクトイーストエキス、0.05%KHPO、0.05%KHPO、0.05%硫酸マグネシウム、50mg/lカナマイシン、pH7.2)に1%量接種し、30℃で60時間、好気的に振とう培養した。
【0065】
(2)フマラーゼ活性除去処理
実施例1と同様。
(3)EDDSアーゼおよびフマラーゼの活性測定
実施例1と同様。
(4)結果
【0066】
【表2】
Figure 0003565727
【0067】
<実施例3>
(1)形質転換体の培養
Esherichia coli JM109/pEDS020を実施例2と同様に培養した。
(2)グルタルアルデヒド処理およびフマラーゼ活性除去処理
菌体培養液を遠心管に取り10,000rpm、5℃、15分間の遠心分離にて集菌した後、50mMほう酸緩衝液(pH9.2)で2回洗浄した。この菌体を、最終濃度1mMのグルタルアルデヒドを含む同緩衝液中で、最終濃度5mg乾燥菌体/mlにて、4℃、2時間処理した後、100mMほう酸緩衝液(pH9.2)で2回洗浄し、同緩衝液で5mg乾燥菌体/mlに希釈した。このグルタルアルデヒド処理菌体と、同濃度に希釈した未処理菌体に対して、45℃、6時間、水浴中でフマラーゼ活性除去処理を行った。
(3)EDDSアーゼおよびフマラーゼの活性測定
実施例1と同様。
(4)結果
【0068】
【表3】
Figure 0003565727
【0069】
<実施例4>
(1)形質転換体の培養
実施例3と同様。
(2)フマラーゼ活性除去処理
菌体培養液を遠心管に取り10,000rpm、5℃、15分間の遠心分離にて集菌した後、6N NaOHまたは5N硫酸にて表4に記載のpHに調整した50mMほう酸緩衝液で2回洗浄し、各々の緩衝液で5mg乾燥菌体/mlに希釈し、45℃、2時間、水浴中で処理を行った。
(3)EDDSアーゼおよびフマラーゼの活性測定
実施例1と同様。
(4)結果
【0070】
【表4】
Figure 0003565727
【0071】
<実施例5>
(1)形質転換体の培養
実施例3と同様。
(2)フマラーゼ活性除去処理
菌体培養液を遠心管に取り10,000rpm、5℃、15分間の遠心分離にて集菌した後、表5に記載の塩溶液(各々、6N NaOHまたは5N硫酸にてpHを9.2に調整した)で2回洗浄し、各々の塩溶液で5mg乾燥菌体/mlに希釈し、45℃、2時間、水浴中で処理を行った。
(3)EDDSアーゼおよびフマラーゼの活性測定
実施例1と同様。
(4)結果
【0072】
【表5】
Figure 0003565727
【0073】
<実施例6>
(1)形質転換体の培養
実施例3と同様。
(2)フマラーゼ活性除去処理
菌体培養液を遠心管に取り10,000rpm、5℃、15分間の遠心分離にて集菌した後、100mMほう酸緩衝液(pH9.2)で2回洗浄し、同緩衝液で5mg乾燥菌体/mlに希釈し、表6記載の温度、時間にて水浴中で処理を行った。
(3)EDDSアーゼおよびフマラーゼの活性測定
実施例1と同様。
(4)結果
【0074】
【表6】
Figure 0003565727
【0075】
<実施例7>
(1)形質転換体の培養
実施例3と同様。
、2)フマラーゼ活性除去処理
菌体培養液を遠心管に取り10,000rpm、5℃、15分間の遠心分離にて集菌した後、100mMほう酸緩衝液(pH9.2)で2回洗浄し、同緩衝液液で5mg乾燥菌体/mlに希釈し、45℃、4時間、水浴中で処理を行った。
(3)反応
反応液は1232mMフマル酸、616mMエチレンジアミン、924mMの水酸化マグネシウム、20mg乾燥菌体/mlの上記処理菌体または同濃度の未処理菌体を含み、6N水酸化ナトリウムによってpH8.5に調整したものを用い、30℃、20日間反応させた。また、6N水酸化ナトリウムによりpHを8.5に保った。
反応液中のS,S−EDDS、L−リンゴ酸の定量は実施例1記載の方法で行った。
(4)結果
【0076】
【表7】
Figure 0003565727
【0077】
【発明の効果】
本発明により、EDDSアーゼ活性とフマラーゼ活性を含む微生物についてEDDSアーゼ活性を低下させずにフマラーゼ活性のみをを選択的に除去することができ、フマル酸損失の少ない光学活性アミノポリカルボン酸製造用微生物触媒を提供し得る。
さらに、アルカリ処理された該微生物またはその処理物は、たとえ該処理によりEDDSアーゼ活性が部分的に損失していたとしても、相対的にフマラーゼ活性除去割合が大きければ、フマル酸損失の少ない光学活性アミノポリカルボン酸製造用触媒となり得るため、本発明の効果を得ることができる。
【0078】
【配列表】
Figure 0003565727
Figure 0003565727
Figure 0003565727
Figure 0003565727
Figure 0003565727
Figure 0003565727
Figure 0003565727
Figure 0003565727
Figure 0003565727

【図面の簡単な説明】
【図1】この図は、プラスミドpEDS001の制限酵素地図である。
【図2】この図は、プラスミドpEDS002の制限酵素地図である。このプラスミドは、プラスミドpEDS001を制限酵素KpnI、BamHIで切断して得た約3.9kbの断片をpUC18に挿入したものである。
【図3】この図は、プラスミドpEDS003の制限酵素地図である。このプラスミドは、プラスミドpEDS001を制限酵素KpnI、BamHIで切断して得た約2.6kbの断片をpUC18に挿入したものである。
【図4】この図は、プラスミドpEDS020の制限酵素地図である。このプラスミドは、プラスミドpEDS003を制限酵素KpnI、BamHIで切断して得た約2.6kbの断片をpUC119に挿入したものである。
【図5】この図は、プラスミドpSE001の構築図である。
【図6】この図は、プラスミドpSJ034の構築図である。

Claims (14)

  1. エチレンジアミン−N,N'−ジコハク酸エチレンジアミンリアーゼ(EDDSアーゼ)活性を有する微生物またはその処理物を5〜1000mMの濃度の塩類の存在下にpH8.0〜10.5のアルカリ水溶液で処理することを特徴とする該微生物またはその処理物のフマラーゼ活性の除去方法。
  2. 前記塩類が、ほう酸、りん酸、塩酸、硫酸、酢酸、蓚酸、フマル酸、マレイン酸およびエチレンジアミン−N,N'−ジコハク酸のナトリウム、カリウム、アンモニアおよびアミン類の塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 前記微生物またはその処理物が、シュードモナス(Pseudomonas)属、パラコッカス(Paracoccus)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属およびブレブンジモナス(Brevundimonas)属からなる細菌類;エシェリヒア(Esherichia)属またはロドコッカス(Rhodococcus)属に属する細菌宿主にEDDSアーゼをコードする遺伝子を導入した形質転換体;ならびに該細菌類または形質転換体の処理物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記微生物またはその処理物が、Pseudomonas sp.TN−131株(FERM BP−5418)、Paracoccus sp.TNO−5株(FERM BP−6547)、Sphingomonas sp.TN−28株(FERM BP−5419)、Brevundimonas sp.TN−30株(FERM BP−5417)およびBrevundimonas sp.TN−3株(FERM BP−5886);宿主としての大腸菌JM109株(ATCC53323)、Rhodococcus rhodochrous ATCC17895株およびRodococcus rhodochrous J−1株(FERM BP−1478)にEDDSアーゼをコードする遺伝子を導入した形質転換体;ならびに該細菌類または形質転換体の処理物からなる群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
  5. 前記処理物が、菌体破砕物、菌体抽出液、菌体から抽出された粗酵素または精製酵素、固定化した菌体または酵素、安定化剤で処理された菌体または酵素からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 前記塩類の濃度が10mM〜500mMの範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 前記アルカリ水溶液のpHが、8.5〜10であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. 前記アルカリ水溶液のpHが、9〜9.5であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  9. 前記処理の温度が、氷結温度〜55℃の範囲であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
  10. 前記処理の時間が、約1分〜約1ヶ月の期間であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  11. 請求項1〜10のいずれかに記載の方法によりフラマーゼ活性を除去することによって得られる、EDDSアーゼ活性を有しておりかつフマラーゼ活性が低減している微生物またはその処理物であって、シュードモナス(Pseudomonas)属、パラコッカス(Paracoccus)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属およびブレブンジモナス(Brevundimonas)属からなる細菌類;エシェリヒア(Esherichia)属またはロドコッカス(Rhodococcus)属に属する細菌宿主にEDDSアーゼをコードする遺伝子を導入した形質転換体;ならびに該細菌類または形質転換体の処理物からなる群から選択される、前記微生物またはその処理物
  12. Pseudomonas sp.TN−131株(FERM BP−5418)、Paracoccus sp.TNO−5株(FERM BP−6547 )、Sphingomonas sp.TN−28株(FERM BP−5419)、Brevundimonas sp.TN−30株(FERM BP−5417)およびBrevundimonas sp.TN−3株(FERM BP−5886);宿主としての大腸菌JM109株(ATCC53323)、Rhodococcus rhodochrous ATCC17895株およびRodococcus rhodochrous J−1株(FERM BP−1478)にEDDSアーゼをコードする遺伝子を導入した形質転換体;ならびに該細菌類または形質転換体の処理物からなる群から選択される、請求項11に記載の微生物またはその処理物。
  13. EDDSアーゼ活性とフマラーゼ活性の残存活性比が0.03〜0.27である、請求項11または12記載の微生物またはその処理物。
  14. 請求項11〜13のいずれかに記載の微生物またはその処理物からなる触媒の存在下で、フマル酸とエチレンジアミンとを反応させること、および、その結果得られた反応混合物からS,S−エチレンジアミン−N,N ' −ジコハク酸を単離することを含む、S,S−エチレンジアミン−N,N ' −ジコハク酸の製造方法
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