JP3565122B2 - 車両用自動変速機のクリープ力制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動変速機が走行レンジで停車した場合に、トルクコンバータによるクリープ力を低減するようにした、車両用自動変速機のクリープ力制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、自動車等の車両に備えられたトルクコンバータ式の自動変速機において、シフトレンジが走行レンジ(以下、Dレンジという)のままで停車すると、低速段(例えば、第1速段)を達成するために係合されていた摩擦要素(以下、フォワードクラッチという)をスリップさせて、ニュートラル状態に近づけるように制御する技術が提案されている。
【0003】
このような制御は、一般にアイドルニュートラル制御又はクリープ力制御と呼ばれるものであり、このようなアイドルニュートラル制御(以下、単にニュートラル制御という)を停車中に実行することで、トルクコンバータを介して伝達されるエンジントルクを減少させて、燃料消費量及びアイドル振動の低減を図ることができる。
【0004】
ニュートラル制御の開始条件としては、例えば、車速0km/h,フットブレーキ操作中,スロットル開度0%及び第1速段達成から所定時間経過していること、等が設定されており、上記全ての条件が成立すると、コントローラからの指令に基づきニュートラル制御が開始される。
また、フットブレーキ操作の解除,アクセルペダルの操作,車速が所定値以上となった、等のニュートラル制御解除条件がいずれか1つでも成立すると、ニュートラル制御が解除される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のようなニュートラル制御中には、トルクコンバータ内のスリップ比、即ちエンジン回転速度Neとタービンランナの回転速度(タービン回転速度)Ntとの比(Nt/Ne)が目標値となるように、フォワードクラッチの係合力をフィードバック制御することが考えられる。
【0006】
本出願人は、その一つとして、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとから回転速度偏差(実スリップ量)を算出するとともに、この偏差の目標値(目標スリップ量)を算出して、これら実スリップ量と目標スリップ量との差(スリップ量偏差)に応じて目標とするスリップ量変化率(目標スリップ量変化率)を設定し、実際のスリップ量変化率が目標スリップ量変化率となるように、フォワードクラッチの係合力をフィードバック制御する方法を開発した。
【0007】
この方法によれば、スリップ量偏差に基づいて目標スリップ量変化率を設定することにより、ニュートラル制御中にエンジン回転変動が生じても安定したフィードバック制御を実行できるようになる。
ここで、目標スリップ量変化率の設定手法について簡単に説明すると、目標スリップ量変化率は、スリップ量偏差の大きさに応じて段階的に設定されており、このスリップ量偏差がある閾値を越えると、目標スリップ量変化率が変更されるようになっている。
【0008】
しかしながら、この場合には、目標スリップ量変化率を設定するための閾値は固定値であるため、エンジンの運転状態によっては、エンジン回転変動が小さいにも関わらず目標スリップ量変化率が変動してしまい、フィードバック制御が不安定になることが懸念される。
例えば、寒冷時のエンジン始動直後では、水温及び油温が低く、このため比較的高いエンジン回転速度でエンジンが運転される(ファストアイドル)が、このようなエンジン回転速度が高い状態下でのニュートラル制御の実行中にエンジン回転変動が生じると、目標スリップ量変化率が必要以上に大きく設定されてしまい、制御が不安定となることが考えられるのである。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、目標スリップ量変化率を設定するための閾値をエンジン回転速度に応じて変更し、アイドル時のエンジン回転速度に関わらず、安定した制御を行なえるようにした、車両用自動変速機のクリープ力制御装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の車両用自動変速機のクリープ力制御装置では、自動変速機のシフトレンジが走行レンジであるときに所定の条件が成立すると、走行時に係合される摩擦要素の係合力を低下させてクリープ力を低下させることによりニュートラル状態が形成される。このとき、自動変速機の入力側に設けられた流体継手におけるエンジン側回転部材と変速機側回転部材との間の実際のスリップ量の変化率が目標値(スリップ量変化率)となるように、摩擦要素の係合力が以下のようにしてフィードバック制御される。
【0011】
すなわち、まず実スリップ量算出手段により、流体継手内におけるエンジン側回転部材と変速機側回転部材との間の実スリップ量(Ne−Nt)が算出されるとともに、実スリップ量変化率算出手段により、実スリップ量の変化率が算出される。
また、目標スリップ量算出手段により、流体継手におけるエンジン側回転部材と変速機側回転部材との間の目標スリップ量(Nsi)が算出される。そして、比較手段により、上記実スリップ量と目標スリップ量との偏差が、エンジン回転速度を表すパラメータ値に応じて変更される閾値(ΔN1 〜ΔN4 )と比較され、この結果に基づいて目標スリップ量変化率設定手段で目標スリップ量変化率(dN11〜dN14)が設定される。
【0012】
そして、上述したように、実スリップ量変化率算出手段で検出される実スリップ量変化率が、目標スリップ量設定手段で設定される目標スリップ量変化率となるように、フィードバック制御手段で摩擦要素の係合力がフィードバック制御される。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面により、本発明の一実施形態にかかる車両用自動変速機のクリープ力制御装置について説明すると、図1はその全体構成を示す模式図である。
図1に示すように、自動変速機1はエンジン2と結合された状態で図示しない車両に搭載されている。エンジン2の出力軸2aはトルクコンバータ(流体継手)3を介して変速機構4に連結され、その変速機構4は図示しないディファレンシャルギアを介して車両の駆動輪と接続されている。
【0014】
また、エンジン2の出力軸2aは、トルクコンバータ3のポンプインペラ3aに接続されており、この出力軸2aの回転に伴いポンプインペラ3aが回転すると、ATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)を介してタービンランナ3bが回転駆動され、その回転が変速機構4に伝達されるようになっている。
【0015】
詳細は説明しないが、変速機構4は、複数組の遊星歯車機構及びそれらの構成要素(サンギア,ピニオンギア及びリングギア)の動作を許容又は規制するクラッチやブレーキ類から構成されており、これらのクラッチやブレーキの係合状態を油圧源(オイルポンプ)から供給されるATFにより適宜切り換えて、所望の変速段を達成するようになっている。なお、この変速機構4の構造については、一般に広く知られたものであるので、フォワードクラッチ7以外の構成については図示を省略する。
【0016】
このような自動変速機1において、シフトレンジがNレンジ(非走行レンジ)からDレンジ(走行レンジ)に切り換えられたとき、変速機構4は発進に備えるために第1速段に切り換えられるが、このときには、Nレンジでの各種の摩擦係合要素の係合状態に対して、さらにフォワードクラッチ(摩擦要素)7を係合することで第1速段が実現されるようになっている。
【0017】
一方、車室内には、図示しない入出力装置,制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM,BURAM等),中央処理装置(CPU)及びタイマカウンタ等を備えたA/T−ECU(自動変速機制御ユニット、以下、単にECUという)11が設置されており、後述する各種センサからの情報に基づいて各種の制御信号が設定されて、自動変速機1の総合的な制御が行なわれるようになっている。
【0018】
ECU11の入力側には、エンジン2の回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ12、タービンランナ3bの回転速度Nt(即ち、フォワードクラッチ7の入力回転速度)を検出するタービン回転速度センサ13、車両の走行速度(車速)Vsを検出する車速センサ14、ブレーキ装置のブレーキオイルの圧力(流体圧)が所定値よりも大きくなるとオン信号を出力するブレーキ圧スイッチ20、エンジン2のスロットル開度θTH(=アクセル操作量)を検出するスロットルセンサ16、ATFの油温TOIL を検出する油温センサ17、及び運転者にて選択されたシフトポジション(例えば、Nレンジ,Dレンジ,Pレンジ及びRレンジ等)を検出するためのシフトポジションセンサ18等が接続されている。
【0019】
そして、ECU11では、スロットルセンサ16で検出されたスロットル開度θTH及び車速センサ14で検出された車速Vsを用いて図示しない変速マップから目標変速段を設定し、この目標変速段を達成すべく変速機構4のクラッチ及びブレーキの係合状態を切り換えて変速制御を実行するようになっている。
また、ECU11の出力側には、上述のオイルポンプからの作動油を切換制御して変速機構4のクラッチやブレーキの係合要素を作動させるための多数のソレノイドや圧力調整弁(プレッシャコントロールバルブ)が接続されている。なお、図1中では、このような多数のソレノイドや圧力調整弁のうち、フォワードクラッチ7の係合状態を切り換えるソレノイド19及び圧力調整弁21のみを図示しており、他のソレノイド及び圧力調整弁については図示を省略する。
【0020】
ソレノイド19はECU11によりその作動が制御されるようになっており、このソレノイド19の作動に応じて圧力調整弁21へのパイロット圧供給状態が調整されるようになっている。また、本実施形態ではデューティ率が増加するほど、圧力調整弁21へのパイロット圧の供給量が低下するような特性に設定されている。
【0021】
また、ソレノイド19により圧力調整弁21へパイロット圧が供給されると、圧力調整弁21のスプール21aが図中左側に移動して、フォワードクラッチ7のライン圧が排出されて、フォワードクラッチ7の係合力が低下するようになっている。また、これとは逆に、ソレノイド19によりパイロット圧が排出されると、フォワードクラッチ7にライン圧が供給されるようになっている。このように、ソレノイド19のデューティ率を制御することで、フォワードクラッチ7の係合力を調整できるようになっているのである。
【0022】
次に、ニュートラル制御(クリープ力制御)について簡単に説明すると、このニュートラル制御は、Dレンジで走行中の車両が停止したときにフォワードクラッチ7の係合力を低下させてニュートラル状態に近い状態に制御するものであり、摩擦係合要素としてのフォワードクラッチ7をスリップさせることでニュートラル制御(クリープ力制御)が実行されるようになっている。
【0023】
本実施形態ではニュートラル制御の開始条件として以下の(1)〜(3)条件が設定されている。
(1)ブレーキ圧スイッチ20がオン(ブレーキ圧が所定値Pa以上)である。(2)スロットルセンサ16によりアクセル非操作(スロットル開度が所定量以下)が検出された。
(3)車速センサ14により検出された車速Vsが所定値未満である。
【0024】
そして、以上の条件が全て成立したと判定されると(つまり、車両が走行状態からほぼ停止状態に移行したと推測されると)、ニュートラル制御が開始されるようになっている。
そして、以上の条件が全て成立したと判定されると(つまり、車両が走行状態からほぼ停止状態に移行したと推測されると)、ニュートラル制御が開始されるようになっている。
【0025】
〔ニュートラル制御の突入制御〕
このときの動作の概要を簡単に説明すると、まず、エンジン回転速度センサ12で検出されたエンジン回転速度Ne及び油温センサ17で検出されたATF油温T0IL に基づいてフォワードクラッチ7のソレノイド19のデューティ率Dのスリップ直前値DN が設定される。これにより、ニュートラル制御の開始条件の成立直後にソレノイド19のデューティ率Dが100%からスリップ直前値DN までステップ状に減少する。これにより、圧力制御弁21のスプール21aに作用するパイロット圧供給量が増加して、フォワードクラッチ7のライン圧が急激にドレーンされて係合力が低下するのである。
【0026】
その後、フォワードクラッチ7は次第に解放側に向かって制御され、このときまでフォワードクラッチ7を介して駆動輪側と接続され係合状態で停止保持されていたタービンランナ3bが回転し始める。そして、タービン回転速度Ntが上昇してスリップ判定値Nt0を越えると、トルクコンバータ3のスリップ量ΔN(=Ne−Nt)を予め設定された目標値にすべく、ソレノイド19のデューティ率Dがフィードバック制御されるのである。そして、この目標値となったとき、後述するニュートラル制御の定常制御へ移行する。
【0027】
一方、ニュートラル制御の解除条件は以下のように設定されており、そのいずれかが満たされたとき、つまり運転者の発進意志が推測されるときに解除条件が成立したと判定され、ECU11により、ニュートラル制御が解除されるようになっている。
(1)ブレーキ圧スイッチ20がオフ(ブレーキ圧が所定値Pa未満)になった場合。
(2)スロットルセンサ16によりアクセル操作(スロットル開度θthが所定値以上)が検出された場合。
(3)車速センサ14で検出された走行速度Vsが所定値以上になった場合。
【0028】
そして、上記の3つの条件のうち1つでも成立すれば、ニュートラル制御が解除されるようになっているのである。
〔ニュートラル制御の解除制御〕
ニュートラル制御を解除する場合には、徐々にソレノイド19のデューティ率Dを上昇させてタービン回転速度Ntを減少させ、フォワードクラッチ7を係合側に向かって制御する。そして、エンジン回転速度センサ12とタービン回転速度センサセンサ13とからの情報に基づいて同期判定が行なわれ、タービンランナ3bの回転速度Ntがエンジン回転速度Neと同期したと判定されると、所定時間経過後にソレノイド19のデューティ率が100%に設定される。
【0029】
〔ニュートラル制御の定常制御〕
次に、本発明の要部である定常制御について説明すると、図2に示すように、ECU11内には、ポンプインペラ(エンジン側回転部材)3aとタービンランナ(変速機側回転部材)3bとの間の実際のスリップ量変化率を検出する実スリップ量演算手段31と、ポンプインペラ3aとタービンランナ3bとの間の目標スリップ量変化率を設定する目標スリップ量変化率設定手段32と、上記実スリップ量変化率が目標スリップ量変化率となるようにフォワードクラッチ7の係合力をフィードバック制御するフィードバック制御手段33とが設けられている。
【0030】
そして、ニュートラル制御中は、このフィードバック制御手段33によりソレノイド19のデューティ率がフィードバック制御されることにより、常にエンジン回転速度(又はポンプインペラ回転速度)Neとタービン回転速度Ntとの比が一定となるようにフォワードクラッチ7が制御されて、安定したニュートラル制御が実行されるようになっている。
【0031】
ここで、実スリップ量演算手段31は、実スリップ量算出部(実スリップ量算出手段)31a及び実スリップ量変化率算出部31bをそなえている。このうち、実スリップ量算出部31aは、エンジン回転速度センサ12で得られるエンジン2の回転速度(即ち、ポンプインペラ3aの回転速度)Neとタービン回転速度センサ13で得られるタービンランナ3bの回転速度Ntとから、トルクコンバータ3内におけるポンプインペラ3aとタービンランナ3bとの間の実際のスリップ量Ne−Ntを算出するものであり、また、実スリップ量変化率算出部31bは、実スリップ量算出部31aで算出された実スリップ量を時間微分することにより実スリップ量変化率d(Ne−Nt)/dtを算出するものである。
【0032】
また、目標スリップ量変化率設定手段32は、目標タービン回転速度算出部32a,目標スリップ量算出部32b,スリップ量偏差算出部32c及び目標スリップ量変化率設定部32dに加えて、比較部(比較手段)41をそなえている。上記の目標スリップ量変化率設定手段32では、目標速度比ηとエンジン回転速度Neとに基づいて、上記スリップ量変化率に対する目標値(目標スリップ量変化率)が設定されるようになっている。なお、目標速度比とは、トルクコンバータ3内におけるエンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの比の目標値であって、ここでは一定値が適用されている。
【0033】
以下、目標スリップ量変化率設定手段32について説明すると、目標タービン回転速度算出部32aでは、エンジン回転速度Neに目標速度比ηを乗じることにより目標のタービン回転速度Ntoが算出されるようになっている。そして、目標スリップ量算出部32bにおいて、エンジン回転速度Neから上記目標タービン回転速度Ntoを減じることによりトルクコンバータ3の目標スリップ量Nsi(=Ne−Nto)が設定されるようになっている。
【0034】
また、スリップ量偏差算出部32cでは、ポンプインペラ3aとタービンランナ3bとの実スリップ量Ne−Ntと、上記目標スリップ量算出部32bで算出された目標スリップ量Nsiとから、スリップ量偏差(Ne−Nt)−Nsiが算出されるようになっている。
そして、上述のように、スリップ量偏差(Ne−Nt)−Nsiが算出されると、比較部41において、この偏差(Ne−Nt)−Nsiと、比較部41内に設けられた閾値ΔN1 ,ΔN2 ,ΔN3 等とが比較されるようになっており、目標スリップ量変化率設定部32dでは、この比較結果に基づいて、目標スリップ量変化率dN11〜dN14を設定し、出力するようになっている。
【0035】
ここで、目標スリップ量変化率dN11〜dN14の設定についてもう少し詳しく説明すると、比較部41及び目標スリップ量変化率設定部32d内には、例えば図3に示すようなマップが設けられている。なお、マップの横軸は、スリップ量偏差(Ne−Nt)−Nsiであって、縦軸は目標スリップ量変化率dN11〜dN14である。
【0036】
また、マップの横軸上に、各閾値ΔN1 ,ΔN2 ,ΔN3 等が設定されている。なお、本実施形態では、−ΔN4 <ΔN1 <ΔN2 <ΔN3 且つdN14<dN11<dN12<dN13の関係が成り立つように設定されている。
そして、比較部41で上記スリップ量偏差と各閾値とが比較されて、スリップ量偏差が−ΔN4 以下の場合には、目標スリップ量変化率としてdN14が設定されるようになっている。また、スリップ量偏差が−ΔN4 より大きくΔN1 未満の場合には目標スリップ量変化率が0に設定され、ΔN1 以上ΔN2 未満の場合にはdN11に設定され、ΔN2 以上ΔN3 未満の場合にはdN12に設定され、ΔN3 以上の場合にはdN13に設定されるようになっているのである。
【0037】
ところで、これらの閾値は、エンジン回転速度Ne(又は、エンジン回転速度を表すパラメータ値)に応じて変更される(又は補正される)ようになっている。すなわち、比較部41には、スリップ量偏差算出部32c以外にも、エンジン回転速度センサ12からの信号も入力されるように構成されており、このエンジン回転速度Neに基づいて、例えば下式により各閾値が設定されるようになっている。
【0038】
ΔN1 =ΔNB1+(Ne−Nb)×k1
ΔN2 =ΔNB2+(Ne−Nb)×k1
ΔN3 =ΔNB3+(Ne−Nb)×k1
ΔN4 =ΔNB4+(Ne−Nb)×k2
なお、上記の各式において、ΔNB1〜ΔNB4は、それぞれΔN1 〜ΔN4 のベースとなる閾値であって、エンジン回転速度Neがベースの回転速度Nbのときに設定される値である。また、k1 及びk2 は、いずれも定数である。
【0039】
ここで、エンジン回転速度Neに応じてスリップ量偏差の閾値を変更する理由について簡単に説明すると、例えば寒冷時のエンジン始動直後では、水温及び油温が低く、このためエンジンアイドル時であっても、比較的高いエンジン回転速度でエンジンが運転される(ファストアイドル)。このようなファストアイドル状態下でニュートラル制御を実行した場合、目標速度比と実速度比との差が大きくなり、この結果、僅かなエンジン回転変動が生じても、スリップ量偏差が大きく変動することが懸念される。つまり、エンジン回転速度が高い状態でのニュートラル制御時には、僅かなエンジン回転変動であっても、図3の横軸の値の変動の仕方が大きくなり、この結果、ファストアイドル時には、目標スリップ量変化率が頻繁に変動してしまうことが考えられるのである。
【0040】
また、このように目標スリップ量変化率が頻繁に変動すると、フォワードクラッチ7の係合力に対するフィードバック制御(即ち、ソレノイド19に対するフィードバック制御)が不安定となることが考えられる。
そこで、本発明においては、上述したように、目標スリップ量変化率を設定するための閾値ΔN1 〜ΔN4 をエンジン回転速度Neに応じて変更するように構成しているのである。
【0041】
そして、このようにして閾値ΔN1 〜ΔN4 をエンジン回転速度Neに応じて変更(補正)した後、目標スリップ量変化率設定部32dにより目標スリップ量変化率が設定されると、フィードバック制御手段33では、上記実スリップ量変化率d(Ne−Nt)/dtと目標スリップ量変化率との偏差Sが0となるように、ソレノイド19のデューティ率Dを設定するようになっており、これにより、実スリップ量変化率と目標スリップ量変化率とが一致するようにフォワードクラッチ7の係合力がフィードバック制御されるようになっている。
【0042】
本発明の一実施形態にかかる車両用自動変速機のクリープ力制御装置は、上述のように構成されているので、本発明を適用した場合の制御特性は、図4(a)〜(c)のようになる。なお、図4(d)〜(f)は本発明を適用しない場合の制御特性を示す図であり、以下、図4(a)〜(c)と図4(d)〜(f)とを比較しながら説明する。
【0043】
まず、図4(d)に示すように、本発明を適用しない場合には、ファストアイドル時等のエンジン回転速度が高い状態において、エンジン回転速度変動が生じると、スリップ量偏差が−ΔN4 からΔN1 の範囲内に収まらず、−ΔN4 以下となる場合やΔN1 以上となる場合がある。この場合には、図4(e)に示すように、目標スリップ量変化率が変動してしまい、実際のスリップ量変化率特性も不安定なものとなる。
【0044】
これに対して、図4(a)に示すように、本発明を適用した場合には、エンジン回転速度Neに応じて、目標スリップ量変化率を設定するための閾値ΔN1 〜ΔN4 が変更されるので、多少のエンジン回転速度変動が生じても目標スリップ量変化率が一定値に保たれる。この結果、実スリップ量変化率も一定にすることができ、フィードバック制御が安定する。この場合、例えば図4(b)に示すように、実スリップ量変化率を目標スリップ量変化率とが一致する。
【0045】
もちろん、このときには、図4(c),(f)に示すように、本発明を適用しない場合に比べて、トルクコンバータ3内の実際のスリップ量を抑制することができるのである。
このように、本発明の車両用自動変速機のクリープ力制御装置によれば、ニュートラル制御実行中のエンジン回転速度の大きさに関係なく、エンジン回転速度変動の大きさ(エンジン回転速度変動幅)に応じた目標スリップ量変化率の設定が可能となり、安定したフィードバック制御を実行することができるという利点を有している。
【0046】
なお、本発明の車両用自動変速機のクリープ力制御装置は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、無段変速機の前後段を切り換えるために遊星歯車機構と摩擦クラッチとをそなえたものにおいては、このクラッチを同様に制御することで無段変速機に入力されるトルクを低減でき、無段変速機がベルト式であればベルトやプーリの耐久性を向上させることができる。
【0047】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の車両用自動変速機のクリープ力制御装置によれば、目標スリップ量変化率を設定するための閾値をエンジン回転速度を表すパラメータ値に応じて変更することにより、エンジン回転速度変動が生じても安定した制御を行なうことができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両用自動変速機のクリープ力制御装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる車両用自動変速機のクリープ力制御装置の要部の機能を説明するための模式的なブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる車両用自動変速機のクリープ力制御装置の特性を説明する図であって、目標スリップ量変化率を設定するためのマップを示す図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる車両用自動変速機のクリープ力制御装置の特性を本発明を適用しない場合と比較しながら説明するための図であって、(a)〜(c)は本発明を適用した場合の特性を示す図、(d)〜(f)は本発明を適用しない場合の特性を示す図である。
【符号の説明】
1 自動変速機
7 フォワードクラッチ(摩擦要素)
3 トルクコンバータ(流体継手)
3a ポンプインペラ(エンジン側回転部材)
3b タービンランナ(変速機側回転部材)
31a 実スリップ量算出部(実スリップ量算出手段)
31b 実スリップ量変化率算出部(実スリップ量変化率算出手段)
32 目標スリップ量変化率設定手段
32a 目標タービン回転速度算出部
32b 目標スリップ量算出部(目標スリップ量算出手段)
32c スリップ量偏差算出部
32d 目標スリップ量変化率設定部
33 フィードバック制御手段
41 比較部(比較手段)
Claims (1)
- 自動変速機のシフトレンジが走行レンジであるときに所定の条件が成立すると、走行時に係合される摩擦要素の係合力を低下させてクリープ力を低下させるように構成された車両用自動変速機のクリープ力制御装置において、
該自動変速機の入力側に設けられた流体継手におけるエンジン側回転部材と変速機側回転部材との間の実スリップ量を算出する実スリップ量算出手段と、
該実スリップ量算出手段で算出された実スリップ量に基づいて該実スリップ量の変化率を算出する実スリップ量変化率算出手段と、
該流体継手における該エンジン側回転部材と該変速機側回転部材との間の目標スリップ量を算出する目標スリップ量算出手段と、
該実スリップ量と該目標スリップ量との偏差を、エンジン回転速度を表すパラメータ値に応じて変更される閾値と比較する比較手段と、
該比較手段における比較結果に基づいて目標スリップ量変化率を設定する目標スリップ量変化率設定手段と、
該実スリップ量変化率算出手段で検出される実スリップ量変化率が、該目標スリップ量設定手段で設定される目標スリップ量変化率となるように、該摩擦要素の係合力をフィードバック制御するフィードバック制御手段とをそなえた
ことを特徴とする、車両用自動変速機のクリープ力制御装置。
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