JP3560025B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両のステアリング系に電動機による操舵補助トルクを付加する電動パワーステアリング装置に関し、詳しくは、電動機の温度変化に拘らず電動機回転速度を正確に推定できる電動パワーステアリング装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両のステアリング装置として、ステアリングホイールの操舵時に電動機による操舵補助トルクをステアリング系に付加して運転者の操舵力を軽減する、いわゆる電動パワーステアリング装置が近年普及している。この種の電動パワーステアリング装置は、基本的には、ステアリングホイールの操舵に伴って発生するステアリング系の操舵トルクを検出し、その検出トルクの方向および大きさに応じて前記電動機による操舵補助トルクを制御するように構成されている。すなわち、操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに応じて前記電動機に流す駆動電流の目標値を設定し、かつ、電流センサにより検出される電動機の駆動電流が前記目標値に収束するように電動機の制御信号を出力する電動機制御装置と、この電動機制御装置から出力される制御信号に応じて前記電動機を所定の駆動電流により駆動する電動機駆動回路とを備えている。
【0003】
前記の電動パワーステアリング装置においては、ステアリングホイールが急操舵されると、ステアリング系の操舵トルクが急増し、これに伴い電動機による操舵補助トルクが急増してステアリング操作の安定性を損う恐れがある。そこで、この種の電動パワーステアリング装置としては、ステアリング操作の安定性を確保するため、ステアリングホイールの急操舵に伴う操舵補助トルクの急増を防止するダンピング制御を採用したものもある。
【0004】
前記ダンピング制御は、少なくとも電動機の回転速度に応じて電動機に流す駆動電流の目標値を低減補正するものであり、電動機の回転速度は、通常、所定の演算式により推定される。すなわち、電動機の駆動電流をIM、電動機の駆動電圧をVM、電動機の巻線抵抗などの固有抵抗値をRM、電動機の誘起電圧定数をKとしたとき、電動機の回転速度NMは、{NM=(VM−IM・RM)/K}の演算式により推定される(特開平8−34359号公報参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記の電動機の固有抵抗値RMは、電動機の温度が上昇すると増大し、温度が低下すると減少する値であるが、前記の演算式においては、便宜上、抵抗値RMを定数として扱っている。このため、電動機の駆動電流IMおよび駆動電圧VMが変化せず、電動機の温度のみが上昇した場合、実際には固有抵抗値RMが増大する結果、電動機の回転速度NMは減少しているにも拘らず、前記の演算式によれば、回転速度NMは減少しないままとなる。
【0006】
すなわち、電動機の高温時におけるダンピング制御は、実際の電動機の回転速度より高い回転速度NMを基準として行われるため、電動機に流す駆動電流の目標値を過剰に低減補正する結果となり、ダンピング制御の効き過ぎという現象が発生する。反対に、電動機の低温時におけるダンピング制御は、実際の電動機の回転速度より低い回転速度NMを基準として行われるため、前記目標値の低減補正が不足する結果となり、ダンピング制御の不足という現象が発生する。
【0007】
また、固有抵抗値RMの誤差によって、推定される電動機回転速度のオフセット値が変化する。このとき、推定される電動機回転速度の値が0近傍である場合は、電動機回転速度の正負が誤って推定される場合がある。この場合、逆方向の電動機回転速度に基づいたダンピング制御が行われていまうという不具合がある。
【0008】
そこで、本発明は、電動機の温度変化に拘らず電動機回転速度を正確に推定でき、ひいては、常に過不足のない的確なダンピング制御を可能とする電動パワーステアリング装置を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、車両のステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、前記ステアリング系に操舵補助トルクを付加する電動機と、この電動機の駆動電流を検出する電流センサと、前記電動機の駆動電圧を検出する電圧センサと、少なくとも前記操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに応じて前記電動機に流す駆動電流の目標値を設定し、電動機を駆動するための制御信号を出力する電動機制御装置とを備え、この電動機制御装置には、前記電流センサにより検出される駆動電流、前記電圧センサにより検出される駆動電圧および前記電動機の固有抵抗値に基いて電動機の回転速度を推定する電動機回転速度推定部が設けられている電動パワーステアリング装置において、前記電動機の温度を直接または間接的に検出する電動機温度検出手段を備えると共に、この電動機温度検出手段により検出される電動機の温度に応じて電動機の固有抵抗値を温度補正する抵抗値温度補正部を前記電動機回転速度推定部に設け、前記電動機温度検出手段は、前記電流センサにより検出される駆動電流および電動機制御装置から出力される制御信号に基いて電動機の温度を推定する電動機制御装置の温度推定部により構成されていることを特徴とする。
また、請求項2に係る発明は、車両のステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、前記ステアリング系に操舵補助トルクを付加する電動機と、この電動機の駆動電流を検出する電流センサと、前記電動機の駆動電圧を検出する電圧センサと、少なくとも前記操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに応じて前記電動機に流す駆動電流の目標値を設定し、電動機を駆動するための制御信号を出力する電動機制御装置とを備え、この電動機制御装置には、前記電流センサにより検出される駆動電流、前記電圧センサにより検出される駆動電圧および前記電動機の固有抵抗値に基いて電動機の回転速度を推定する電動機回転速度推定部が設けられている電動パワーステアリング装置において、前記電動機の温度を直接または間接的に検出する電動機温度検出手段を備えると共に、この電動機温度検出手段により検出される電動機の温度に応じて電動機の固有抵抗値を温度補正する抵抗値温度補正部を前記電動機回転速度推定部に設け、前記電動機温度検出手段は、前記操舵トルクセンサから出力されるパルス過渡応答電圧に基いて電動機の温度を換算する電動機制御装置の温度換算部により構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の電動パワーステアリング装置では、ステアリングホイールの操舵に伴い操舵トルクセンサがステアリング系の操舵トルクを検出する。そして、電動機制御装置が操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに応じて電動機に流す駆動電流の目標値を設定する。
【0011】
ここで、請求項1および請求項2に係る電動パワーステアリング装置は、電動機制御装置において、電動機回転速度推定部が電流センサにより検出される駆動電流、電圧センサにより検出される駆動電圧および前記電動機の固有抵抗値に基いて電動機の回転速度を推定する。たとえばダンピング補正部が設けられている場合は、前記電動機回転速度推定部により推定される電動機の回転速度に応じて電動機に流す駆動電流の目標値を低減補正する。その際、電動機温度検出手段が電動機の温度を検出し、抵抗値温度補正部が前記電動機温度検出手段により検出される電動機の温度に応じて電動機の固有抵抗値を温度補正する。その結果、前記電動機回転速度推定部は、前記抵抗値温度補正部により温度補正された電動機の固有抵抗値に基いて電動機の回転速度を的確に推定する。そして、前記ダンピング補正部は、前記電動機回転速度推定部により的確に推定された電動機の回転速度に応じて電動機に流す駆動電流の目標値を過不足なく低減補正する。
【0014】
そして、請求項1に係る電動パワーステアリング装置では、電動機温度検出手段は、前記電流センサにより検出される駆動電流および電動機制御装置から出力される制御信号に基いて電動機の温度を推定する電動機制御装置の温度推定部により構成される。この場合、通常に使用される電流センサの他に、温度センサのような新規のハードウェアが不用となり、電動パワーステアリング装置をコンパクトに構成することができる。
【0015】
また、請求項2に係る電動パワーステアリング装置では、電動機温度検出手段は、前記トルクセンサから出力されるパルス過渡応答電圧に基いて電動機の温度を換算する電動機制御装置の温度換算部により構成される。この場合、新規の温度センサを設けることなく電動機の温度を検出することができる。しかも、前記トルクセンサは、通常、前記電動機の近傍に配置されているため、電動機の温度を的確に検出することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明に係る電動パワーステアリング装置の参考例を説明する。参照する図面において、図1は参考例の電動パワーステアリング装置が適用されたステアリング系の構成図、図2は参考例の電動パワーステアリング装置のブロック構成図である。
【0017】
参考例の電動パワーステアリング装置を説明するに当たり、まず、この電動パワーステアリング装置が適用されたステアリング系の構造を図1により説明する。このステアリング系は、いわゆるラック・ピニオン式のステアリング系であり、ステアリングホイール1に一体に連結されたステアリングシャフト2の下端部は、連結軸3を介して相互に連結された一対のユニバーサルジョイント4,4を介して操舵トルクセンサ5の入力軸5Aに連結されている。そして、この操舵トルクセンサ5の出力軸には、ラック・ピニオン機構6のピニオン6Aが一体に形成されている。
【0018】
前記ラック・ピニオン機構6は、ピニオン6Aに噛み合うラック歯6Bが形成されたラック軸6Cを備え、このラック軸6Cの両端部には、車両の左右の前輪7,7に付設されたナックルアーム(図示省略)がタイロッド8,8を介してそれぞれ連結されている。そして、前記ラック軸6Cには、これと同軸にボールネジ機構9のボールネジ部9Aが形成されている。このボールネジ部9Aに噛み合うボールナット9Bは、電動機10のロータ10Aに固定されており、この電動機10は、前記ラック軸6Cが貫通する状態でその周囲に配置されている。
【0019】
ここで、図1および図2に示すように、参考例の電動パワーステアリング装置は、前記電動機10に流す駆動電流を目標値にフィードバック制御する手段として、前記操舵トルクセンサ5および後述する車速センサ11の検出信号を入力して前記電動機10の制御信号を出力する電動機制御装置12と、この電動機制御装置12から出力される制御信号に応じて前記電動機10を所定の駆動電流により駆動する電動機駆動回路13とを備えている。また、この電動機駆動回路13から前記電動機10に供給される駆動電流を検出してその検出信号を前記電動機制御装置12に出力する電流センサ14と、前記電動機10の駆動電圧を検出してその検出信号を前記電動機制御装置12に出力する電圧センサ15と、電動機温度検出手段として前記電動機10に付設された温度センサ16とを備えている。
【0020】
まず、前記各センサ類について説明すると、前記操舵トルクセンサ5は、たとえば特開平7−332910号公報に開示されるような技術で構成されており、入力軸5Aと出力軸であるピニオン6Aとの間に介設された図示しないトーションバーの捩れ角をコアの変位に変換する機構と、このコアの変位量に応じた検出電圧を出力するLR積分回路とを内蔵している。そして、このLR積分回路から出力される電圧に基づいて、操舵トルクの方向および大きさを示す操舵トルク信号TSが電動機制御装置12に出力されるように構成されている。また、前記車速センサ11は、図示しない変速機出力軸の回転数に応じた車速信号VPをデジタル信号として電動機制御装置12に出力する。さらに、前記温度センサ16は、電動機10の温度を検出し、その温度信号TMを電動機制御装置12に出力する。
【0021】
一方、前記電流センサ14は、直流モータからなる前記電動機10に直列に接続された抵抗またはホール素子を備えており、電動機10に流れる駆動電流の方向および大きさに応じた駆動電流信号IMを電動機制御装置12に出力する。また、前記電圧センサ15は、電動機10に並列に接続されることにより、電動機10に印加される電圧に応じた駆動電圧信号VMを電動機制御装置12に出力する。
【0022】
つぎに、前記電動機制御装置12および電動機駆動回路13について順次説明する。まず、電動機制御装置12は、前記操舵トルクセンサ5、車速センサ11、電流センサ14、電圧センサ15、温度センサ16等との間の入出力インターフェースI/O、および、これらのセンサ類から入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータの他、各種のデータやプログラムを記憶しているROM(Read Only Memory)、各種のデータ等を一時記憶するRAM(Random Access Memory)、各種の演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)等をハードウェアとして備えている。
【0023】
また、前記電動機制御装置12は、電動機10の制御信号を出力する基本的なソフトウェア構成として、図2に示すように、目標電流設定部12A、ダンピング補正部12B、偏差演算部12C、PID(Proportional Integral Differential)制御部12D、PWM(Pulse Width Modulation)信号生成部12Eおよび電動機回転速度推定部12Fを備えている。
【0024】
前記電動機制御装置12の目標電流設定部12Aには、前記操舵トルクセンサ5から出力される操舵トルク信号TSがデジタル信号に変換されて入力されると共に、前記車速センサ11から出力される車速信号VPが入力される。この目標電流設定部12Aは、ステアリング系の操舵トルクの増大に伴ない増大し、かつ、車速の増大に伴ない減少する基本特性の操舵補助トルクを電動機10に発生させるための目標電流信号ITを、前記操舵トルク信号TSおよび車速信号VPをアドレスとするデータエリアから瞬時に検索し、検索した目標電流信号ITをダンピング補正部12Bに出力する。
【0025】
ダンピング補正部12Bには、前記目標電流設定部12Aからの目標電流信号ITが入力されると共に、前記車速センサ11から出力される車速信号VPおよび前記電動機回転速度推定部12Fから出力される電動機10の回転速度信号NMが入力される。このダンピング補正部12Bは、後述するように、前記目標電流信号ITに低減補正を加え、その補正目標電流信号IT’を前記偏差演算部12Cに出力する。
【0026】
偏差演算部12Cには、ダンピング補正部12Bからの補正目標電流信号IT’が入力されると共に、前記電流センサ14から出力される駆動電流信号IMがデジタル信号に変換されて入力される。この偏差演算部12Cは、補正目標電流信号IT’と駆動電流信号IMの偏差を演算し、その偏差信号ΔIをPID制御部12Dに出力する。
【0027】
PID制御部12Dは、前記偏差信号ΔIに対して比例(P)、積分(I)、微分(D)等の処理を施し、偏差信号ΔIの偏差を迅速にゼロに収束させるためのP値,I値,D値の加算値であるPID動作信号ICをPWM信号生成部12Eに出力する。そして、このPWM信号生成部12Eは、前記PID動作信号ICに基いて電動機10に流す電流をフィードバック制御するためのパルス幅変調によるPWM制御信号IPを生成し、これを電動機10の制御信号として電動機駆動回路13に出力する。
【0028】
電動機回転速度推定部12Fには、前記電流センサ14から出力される駆動電流信号IM、前記電圧センサ15から出力される駆動電圧信号VMおよび前記温度センサ16から出力される温度信号TMがそれぞれデジタル信号に変換されて入力される。この電動機回転速度推定部12Fは、前記ダンピング補正部12Bに目標電流信号ITの低減補正を実行させるため、ダンピング補正部12Bに電動機10の回転速度信号NMを出力する。
【0029】
一方、前記電動機駆動回路13は、ゲート駆動回路13Aおよびブリッジ回路13Bにより構成されている。ゲート駆動回路13Aは、電動機制御装置12のPWM信号生成部12Eから入力したPWM制御信号IPに基づいてブリッジ回路13Bをスイッチング駆動する。また、ブリッジ回路13Bは、図3に示すように、直流12Vの電源(車載バッテリおよび発電機)と電動機10との間にブリッジ回路を構成する4個のパワーFET(Field Effect Transistor/電界効果トランジスタ)T1,T2,T3,T4を備えている。
【0030】
前記ゲート駆動回路13Aは、PID動作信号ICの極性に応じてパワーFET(T1,T2)のゲートG1,G2の何れか一方に駆動信号を出力し、他方にはオフ信号を出力する。その際、パワーFET(T3,T4)のゲートG3,G4の何れか一方にオン信号を出力し、他方にオフ信号を出力する。例えば、パワーFET(T1)のゲートG1に駆動信号を出力する場合には、パワーFET(T4)のゲートG4にオン信号を出力し、他のパワーFET(T2,T3)のゲートG2,G3にはオフ信号を出力する。
【0031】
ここで、前記電動機制御装置12のダンピング補正部12Bは、電動機回転速度推定部12Fからの回転速度信号NMおよび車速センサ11からの車速信号VPに応じて目標電流設定部12Aからの目標電流信号ITに低減補正を加える機能を有する。このダンピング補正部12Bは、回転速度信号NMが大きく電動機10の回転速度が高いほど目標電流信号ITの低減補正量を増大し、車速信号VPが大きく車速が高いほどその低減補正量をさらに増大する。
【0032】
前記ダンピング補正部12Bは、図4に示すように、補正量設定部12B1および減算処理部12B2により構成されている。補正量設定部12B1は、回転速度信号NMおよび車速信号VPをアドレスとするデータエリアに補正量αを格納しており、回転速度信号NMおよび車速信号VPの入力に応じて補正量αを瞬時に検索する。この補正量αの特性は、回転速度信号NMが大きいほど大きくなり、車速信号VPが大きい程さらに大きくなる特性である。
【0033】
減算処理部12B2は、前記目標電流設定部12Aから出力される目標電流信号ITおよび前記補正量設定部12B1から出力される補正量αの信号を入力する。そして、目標電流信号ITから補正量αを減算処理した値を補正目標電流信号IT’として前記偏差演算部12Cに出力する。
【0034】
また、前記電動機回転速度推定部12Fは、図5に示すように、回転速度演算部12F1および抵抗値温度補正部12F2により構成されている。回転速度演算部12F1は、前記電流センサ14からの駆動電流信号IM、電圧センサ15からの駆動電圧信号VMおよび抵抗値温度補正部12F2からの補正抵抗値信号RM’を入力する。この回転速度演算部12F1は、電動機10の駆動電圧をVM、駆動電流をIM、固有抵抗値をRM、誘起電圧係数をKとするとき、次式(1)のRMに前記補正抵抗値RM’を代入することにより電動機10の回転速度NMを演算し、その回転速度信号NMを前記ダンピング補正部12Bに出力する。
NM=(VM−IM・RM)/K………(1)
【0035】
抵抗値温度補正部12F2は、前記電動機10の固有抵抗値RMを電動機10の温度に応じて補正する機能を有する。この抵抗値温度補正部12F2は、前記温度センサ16から入力する温度信号TMをアドレスとしたデータエリアに補正抵抗値RM’を格納しており、温度信号TMの入力に応じて補正抵抗値RM’を瞬時に検索し、その補正抵抗値RM’を回転速度演算部12F1に出力する。なお、この補正抵抗値RM’は、電動機10の温度に応じて変化する固有抵抗値RMの値として予め実験的に得られたデータを基準に設定される。
【0036】
以上のように構成された参考例の電動パワーステアリング装置においては、図1に示すステアリングホイール1の操作に伴ない、操舵トルクセンサ5がステアリング系に発生する操舵トルクの方向および大きさを検出し、その検出した操舵トルク信号TSを図2に示す電動機制御装置12の目標電流設定部12Aに出力する。また、車速センサ11が車両の速度を検出し、その検出した車速信号VPを電動機制御装置12の目標電流設定部12Aおよびダンピング補正部12Bに出力する。
【0037】
電動機制御装置12においては、操舵トルクセンサ5からの操舵トルク信号TSおよび車速センサ11からの車速信号VPを入力した目標電流設定部12Aが、ステアリング系の操舵トルクの増大に伴ない増大し、かつ、車速の増大に伴ない減少する基本特性の操舵補助トルクを電動機10に発生させるための目標電流信号ITを瞬時に検索し、その目標電流信号ITをダンピング補正部12Bに出力する。
【0038】
ダンピング補正部12Bは、目標電流設定部12Aからの目標電流信号IT、電動機回転速度推定部12Fからの回転速度信号NMおよび車速センサ11からの車速信号VPを入力することにより、回転速度信号NMが大きいほど低減補正量を増大し、車速信号VPが大きいほどその低減補正量をさらに増大するように目標電流信号ITを低減補正し、その補正目標電流信号IT’を偏差演算部12Cに出力する。
【0039】
以後、電動機制御装置12においては、偏差演算部12Cがダンピング補正部12Bからの補正目標電流信号IT’と電流センサ14からの駆動電流信号IMとの偏差信号ΔIをPID制御部12Dに出力する。続いてPID制御部12Dが前記偏差をゼロに収束させるためのPID動作信号ICをPWM信号生成部12Eに出力し、PWM信号生成部12EがPID動作信号ICに応じたPWM制御信号IPを電動機駆動回路13に出力する。そして、電動機駆動回路13が電動機制御装置12からのPWM制御信号IPに応じて電動機10を所定の駆動電流により回転駆動する。
【0040】
従って、参考例の電動パワーステアリング装置においては、図1に示す電動機10がボールネジ機構9を介してステアリング系のラック軸6Cに補助操舵トルクを付与するのであり、ステアリングホイール1の操舵トルクが軽減される。
【0041】
その際、電動機10による補助操舵トルクは、前記目標電流設定部12Aが出力する目標電流信号ITに応じて、基本的にはステアリングホイール1の操舵トルクが大きいほど増大し、車速が大きいほど減少する。そして、ダンピング補正部12Bが出力する補正目標電流信号IT’に応じて、電動機10による補助操舵トルクは、ステアリングホイール1の操舵速度が速く電動機10の回転速度が高いほど低減補正され、また、車速が高いほど低減補正される。こうしてダンピング制御されることにより、ステアリングホイール1の操舵の安定性が確保される。
【0042】
ここで、参考例の電動パワーステアリング装置においては、電動機温度検出手段として電動機10に付設された温度センサ16が電動機10の温度を直接検出し、その温度信号TMを電動機制御装置12における電動機回転速度推定部12Fの抵抗値温度補正部12F2に出力する。そこで、抵抗値温度補正部12F2は、電動機10の固有抵抗値RMとして、その温度に応じた正確な補正抵抗値RM’を瞬時に検索して回転速度演算部12F1に出力する。そして、回転速度演算部12F1は、前式(1)のRMに補正抵抗値RM’を代入することにより、電動機10の回転速度NMを的確に演算し、その回転速度信号NMを前記ダンピング補正部12Bの補正量設定部12B1に出力する。
【0043】
一方、前記ダンピング補正部12Bの補正量設定部12B1は、前記電動機回転速度推定部12Fにより的確に推定された電動機10の回転速度信号NMおよび前記車速センサ11からの車速信号VPを入力することにより、電動機10の回転速度および車速に応じた過不足のない的確な補正量αを瞬時に検索して減算処理部12B2に出力する。その結果、減算処理部12B2は、電動機10に流す目標電流信号ITを電動機10の回転速度および車速に応じ過不足なく低減補正する。従って、参考例の電動パワーステアリング装置によれば、電動機10の温度変化に拘らず常に過不足のない的確なダンピング制御が可能となる。
【0044】
参考例の電動パワーステアリング装置において、本発明では、前記電動機10の温度を検出する手段に、前記温度センサ16に代えて前記電流センサ14、あるいは前記操舵トルクセンサ5をその一部として使用する。
【0047】
図6は、電動機温度検出手段として、前記電流センサ14および電動機制御装置12から出力される電動機10を駆動するための制御信号を使用した例を示している。電動機10の温度は、電動機10に流れる駆動電流およびPWM信号生成部12Eから出力されるPWM駆動信号IPのデューティー値との相関関係があることが知られている。そこで、この場合、電流センサ14からの駆動電流信号IMおよびPWM信号生成部12EからのPWM駆動信号IPを入力して電動機10の温度を推定する温度推定部12Hを電動機制御装置12に設ける。この温度推定部12Hは、電動機10を駆動するためのPWM駆動信号IPに対する実際に電動機10に流れる駆動電流の大きさと、電動機10の温度との関係マップを検索して電動機10の温度を推定し、その温度信号TMを前記電動機制御装置12の電動機回転速度推定部12Fに出力する。
【0048】
このように、電流センサ14および温度推定部12Hによって電動機温度検出手段を構成した場合、前記温度センサ16のような新規のセンサを設けることなく電動機の温度を的確に検出することができる。しかも、通常に設けられる電流センサの他に、新規のハードウェアが不用であって、電動パワーステアリング装置をコンパクトに構成することができる。
【0049】
図7は、電動機温度検出手段として、前記操舵トルクセンサ5を使用した例を示している。この操舵トルクセンサ5は、たとえば特開平7−332910号公報に開示される技術のように、本体内に内蔵されるLR積分回路5Aと、このLR積分回路5Aにパルス電圧を供給するパルス発生回路5Bとを備えている。また、前記パルス発生回路5Bから供給されるパルス電圧に応じて前記LR積分回路5Aが出力するパルス過渡応答電圧を入力し、これに含まれる高周波のスイッチングノイズを除去するローパスフィルタ5C,5Dと、ローパスフィルタ5C,5Dを介して入力したパルス過渡応答電圧のボトム電圧VT1,VT2を保持して出力するボトムホールド回路5E,5Fとを備えている。さらに、前記ボトムホールド回路5E,5Fから出力されるボトム電圧相互の偏差を演算し、所定のゲインだけ増幅した偏差電圧を出力する作動増幅器5Gと、この作動増幅器5Gから出力される偏差電圧を反転させ、例えば2.5Vの基準電圧分だけシフトさせたトルク検出電圧VT3(操舵トルク信号TS)を出力する反転増幅器5Hを備えている。
【0050】
図7に示す操舵トルクセンサ5から出力されるパルス過渡応答電圧のボトム電圧VT1,VT2およびトルク検出電圧VT3(操舵トルク信号TS)のうち、ボトム電圧VT1,VT2は、図8に示すように、温度変化に伴いVT1’,VT2’のように均一に変化する。これは、図7に示した操舵トルクセンサ5の本体に内蔵されているLR積分回路5Aが温度上昇すると、そのL成分であるコイルの内部抵抗が変化することに起因する。そこで、この場合、操舵トルクセンサ5のボトムホールド回路5E,5Fから出力される前記ボトム電圧VT1,VT2を入力して電動機10の温度を推定する温度換算部12Iを電動機制御装置12に設ける。この温度換算部12Iは、例えば図8に示すトルクが0のときのボトム電圧VT1,VT2と温度との関係マップを検索して電動機10の温度を換算し、その温度信号TMを前記電動機制御装置12の電動機回転速度推定部12Fに出力する。
【0051】
このように、操舵トルクセンサ5および温度換算部12Iによって電動機温度検出手段を構成した場合、前記温度センサ16のような新規のセンサを設けることなく電動機の温度を的確に検出することができる。しかも、前記トルクセンサは、通常、ステアリングギヤボックス内に設けられて前記電動機の近傍に配置されているため、電動機の温度を的確に検出することができる。
【0052】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明の請求項1および請求項2に係る電動パワーステアリング装置においては、電動機制御装置の電動機回転速度推定部が電流センサにより検出される駆動電流、電圧センサにより検出される駆動電圧および電動機の固有抵抗値に基いて電動機の回転速度を推定する。このような装置において、たとえばダンピング補正部が設けられている場合は、前記電動機回転速度推定部により推定される電動機の回転速度に応じて電動機に流す駆動電流の目標値を低減補正する。その際、電動機温度検出手段が電動機の温度を検出し、抵抗値温度補正部が前記電動機温度検出手段により検出される電動機の温度に応じて電動機の固有抵抗値を温度補正する。その結果、前記電動機回転速度推定部は、前記抵抗値温度補正部により温度補正された電動機の固有抵抗値に基いて電動機の回転速度を的確に推定する。そして、前記ダンピング補正部は、前記電動機回転速度推定部により的確に推定された電動機の回転速度に応じて電動機に流す駆動電流の目標値を過不足なく低減補正する。従って、本発明の電動パワーステアリング装置によれば、電動機の温度変化に拘らず常に過不足のない的確なダンピング制御が可能となる。
【0055】
特に、請求項1に係る電動パワーステアリング装置においては、電流センサにより検出される駆動電流および電動機制御装置から出力される制御信号に基いて電動機の温度を推定する電動機制御装置の温度推定部により前記電動機温度検出手段が構成されているので、通常に使用される電流センサの他に、温度センサのようなハードウェアが不用となり、電動パワーステアリング装置をコンパクトに構成することができる。
【0056】
また、請求項2に係る電動パワーステアリング装置においては、トルクセンサから出力されるパルス過渡応答電圧に基いて電動機の温度を換算する電動機制御装置の温度換算部により前記電動機温度検出手段が構成されているため、新規の温度センサを設けることなく電動機の温度を検出することができる。しかも、前記トルクセンサは、通常、前記電動機の近傍に配置されているため、電動機の温度を的確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の参考例に係る電動パワーステアリング装置が適用されたステアリング系の構成図である。
【図2】参考例に係る電動パワーステアリング装置の電動機制御装置のブロック構成図である。
【図3】参考例に係る電動パワーステアリング装置の電動機駆動回路を構成するブリッジ回路の回路図である。
【図4】参考例に係る電動パワーステアリング装置の電動機制御装置を構成するダンピング補正部のブロック構成図である。
【図5】参考例に係る電動パワーステアリング装置の電動機制御装置を構成する電動機回転速度推定部のブロック構成図である。
【図6】一実施形態に係る電動パワーステアリング装置を構成する電動機温度検出手段として電流センサを使用した例を示すブロック構成図である。
【図7】一実施形態に係る電動パワーステアリング装置を構成する電動機温度検出手段として操舵トルクセンサを使用した例を示すブロック構成図である。
【図8】図7に示した操舵トルクセンサの出力電圧の特性を示すグラフである。
【符号の説明】
1 :ステアリングホイール
5 :操舵トルクセンサ
5A:LR積分回路
5E,5F:ボトムホールド回路
10 :電動機
11 :車速センサ
12 :電動機制御装置
12A:目標電流設定部
12B:ダンピング補正部
12C:偏差演算部
12D:PID制御部
12E:PWM信号生成部
12F:電動機回転速度推定部
12G:温度補正部
12H:温度推定部
12I:温度換算部
13 :電動機駆動回路
13A:ゲート駆動回路
13B:ブリッジ回路
14 :電流センサ
15 :電圧センサ
16 :温度センサ
17 :水温センサ

Claims (2)

  1. 車両のステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、前記ステアリング系に操舵補助トルクを付加する電動機と、この電動機の駆動電流を検出する電流センサと、前記電動機の駆動電圧を検出する電圧センサと、少なくとも前記操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに応じて前記電動機に流す駆動電流の目標値を設定し、電動機を駆動するための制御信号を出力する電動機制御装置とを備え、この電動機制御装置には、前記電流センサにより検出される駆動電流、前記電圧センサにより検出される駆動電圧および前記電動機の固有抵抗値に基いて電動機の回転速度を推定する電動機回転速度推定部が設けられている電動パワーステアリング装置において、前記電動機の温度を直接または間接的に検出する電動機温度検出手段を備えると共に、この電動機温度検出手段により検出される電動機の温度に応じて電動機の固有抵抗値を温度補正する抵抗値温度補正部を前記電動機回転速度推定部に設け、前記電動機温度検出手段は、前記電流センサにより検出される駆動電流および電動機制御装置から出力される制御信号に基いて電動機の温度を推定する電動機制御装置の温度推定部により構成されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
  2. 車両のステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、前記ステアリング系に操舵補助トルクを付加する電動機と、この電動機の駆動電流を検出する電流センサと、前記電動機の駆動電圧を検出する電圧センサと、少なくとも前記操舵トルクセンサにより検出される操舵トルクに応じて前記電動機に流す駆動電流の目標値を設定し、電動機を駆動するための制御信号を出力する電動機制御装置とを備え、この電動機制御装置には、前記電流センサにより検出される駆動電流、前記電圧センサにより検出される駆動電圧および前記電動機の固有抵抗値に基いて電動機の回転速度を推定する電動機回転速度推定部が設けられている電動パワーステアリング装置において、前記電動機の温度を直接または間接的に検出する電動機温度検出手段を備えると共に、この電動機温度検出手段により検出される電動機の温度に応じて電動機の固有抵抗値を温度補正する抵抗値温度補正部を前記電動機回転速度推定部に設け、前記電動機温度検出手段は、前記操舵トルクセンサから出力されるパルス過渡応答電圧に基いて電動機の温度を換算する電動機制御装置の温度換算部により構成されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
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