JP3556182B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、電動機の動力を操舵補助力としてステアリング系に作用させ、ドライバの操舵力を軽減する電動パワーステアリング装置に係り、特にドライバがハンドルの据え切りで速い転舵からの切り返しを行う際に、ステアリング系の制御の応答遅れに伴う操舵フィーリングの低下を改善する電動パワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の電動パワーステアリング装置において、ドライバのハンドル操作に伴って発生する操舵トルクを操舵トルクセンサで検出し、検出した操舵トルク信号を電動機を駆動する目標電流信号に変換し、目標電流信号と電動機に実際に流れる電動機電流に対応した電動機電流信号との偏差信号にPI(比例・積分)またはPID(比例・積分・微分)制御を施した信号を発生し、この信号に基づいて生成した電動機制御信号(例えば、PWM信号)で電動機を駆動してステアリング系に操舵補助力を作用させるようにしたものは知られている。
【0003】
このような従来の電動パワーステアリング装置は、電動機電流信号を目標電流信号にフィードバック(負帰還)させてPI制御またはPID制御する構成のため、偏差信号が速やかに0になるよう制御され、電動機電流は目標電流信号で設定された値に収束して電動機を駆動し、操舵トルク信号に対応した操舵補助力が得られる。
【0004】
図7に従来の電動パワーステアリング装置の要部ブロック構成図を示す。
なお、図7は制御系にPI(比例・積分)制御を施した例を示す。
図7において、電動パワーステアリング装置50は、操舵トルクセンサ12、車速センサ14、制御手段51、電動機駆動手段16、電動機電流検出手段18、電動機10から構成される。
【0005】
制御手段51はマイクロプロセッサを基本に各種演算手段、比較・処理手段、メモリ等から構成され、目標電流設定手段52、偏差演算手段53、比例・積分制御手段54、制御信号発生手段55を備える。
【0006】
操舵トルクセンサ12はドライバのハンドル操作に対応して発生する操舵トルクをアナログの電気信号として検出し、操舵トルク信号TSが目標電流設定手段52に供給される。
車速センサ14は車両の速度に対応した周波数の電気的なパルス信号として検出し、車速信号VSが目標電流設定手段52に供給される。
【0007】
目標電流設定手段52は、操舵トルクセンサ12から供給される操舵トルク信号TSをディジタルの操舵トルク信号TDに変換し、この操舵トルク信号TDと車速センサ14から供給される車速信号VSに基づいて予め設定されている目標電流信号IMSに変換し、車速VS(VL、VM、VH)をパラメータにした操舵トルク信号TDに対する目標電流信号IMSを偏差演算手段53に出力するよう構成される。
【0008】
図8に車速をパラメータとした操舵トルク信号(TD)―目標電流信号(IMS)特性図(テーブル1)を示す。
図8において、車速VL、VMおよびVHはそれぞれ低車速領域、中車速領域および高車速領域を示し、操舵トルク信号TDが同じであっても、車速VSが増加(VL→VM→VH)するに伴い、目標電流信号IMSが減少するよう予め設定されている。
【0009】
このように、目標電流設定手段52は、低車速領域(VS=VL)では電動機10を目標電流信号IMSに対応した大きな電動機電流IMで駆動して充分大きな操舵補助力が得られるよう構成され、一方、高車速領域(VS=VH)では電動機10を目標電流信号IMSに対応した小さな電動機電流IMで駆動して操舵補助力を抑え、操舵の安定性が得られるよう構成される。
【0010】
偏差演算手段53は、目標電流信号IMSと、電動機電流検出手段18で検出され、電動機電流IMに対応させてディジタル信号に変換した電動機電流信号IMOとの偏差(=IMS−IMO)を演算し、偏差信号ΔIが比例・積分制御手段54に提供される。
【0011】
比例・積分制御手段54は、偏差信号ΔIを比例感度KP倍する比例要素と、偏差信号ΔI(=IMS−IMO)を積分ゲインKIで積分制御する積分要素を並列接続して構成され、偏差信号ΔIに比例・積分演算を施し、比例・積分信号IPIが制御信号発生手段55に供給される。
比例・積分信号IPIは比例感度KPおよび積分ゲインKIを用いて数1で表わされる。
【0012】
【数1】
IPI=KP*ΔI+(KI/p)*ΔI
ただし、pはヘビサイド演算子
【0013】
なお、比例感度KPおよび積分ゲインKIの値を大きく設定することにより、電動機電流信号IMO(電動機電流IMに対応)を速やかに目標電流信号IMSに収束(偏差信号ΔI=0)させることができる。
【0014】
制御信号発生手段55はPWM(パルス幅変調)信号発生手段を備え、比例・積分信号IPIの大きさと方向に対応したPWM信号VPWMが電動機制御信号VOとして電動機駆動手段16に供給され、電動機10は電動機駆動手段16から供給される電動機電圧VMで駆動される。
【0015】
また、電動機制御信号VOにより電動機10が駆動されて電動機電流IMが流れるが、電動機電流検出手段18が電動機電流IMを検出し、電動機電流IMに対応した電動機電流信号IMOが偏差演算手段53に帰還される。
【0016】
このように、従来の電動パワーステアリング装置50は、目標電流信号IMSに電動機電流IMに対応した電動機電流信号IMOをフィードバック(負帰還)させ、偏差信号ΔIに比例・積分制御を施すよう構成したので、電動機電流信号IMOを速やかに目標電流信号IMSに収束させ、操舵トルクに対応した電動機動力が得られ、応答性のよい所望の操舵補助力をステアリング系に作用させることが可能となる。
【0017】
また、従来の電動パワーステアリング装置50は、偏差信号ΔIに積分制御を施すよう構成したので、電動機電流IMに対応した電動機電流信号IMOを目標電流信号IMSと一致させ、オフセット値を0に設定することができる。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
従来の電動パワーステアリング装置50は、ハンドル据え切り時や低速走行時の操舵のように操舵補助力が大きく、電動機10の回転数が高い場合には、電動機10の電機子巻線のインダクタンス成分に誘起する逆起電力が増加し、電動機10に流れる電動機電流IMが減少して偏差信号ΔI(=IMS−IMO)が大きな値となる傾向にある。
【0019】
このようなハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返しを行った場合には、数1の第2項で表した積分項の積分値(KI/p)*ΔIが大きく、かつ目標電流信号IMSの符号が積分値(KI/p)*ΔIの偏差信号ΔI(=IMS−IMO)を構成する目標電流信号IMSの符号と反対となり、積分値が一旦0に収束するまでの遅延時間が長く、ドライバの操舵方向と反対方向の操舵補助力がステアリング系に作用するため、ドライバの保舵力に急激な変化を及ぼして操舵フィーリングが著しく低下する課題がある。
【0020】
この発明はこのような課題を解決するためなされたもので、その目的はハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返しをしても、最適な操舵フィーリングが得られる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するためこの発明に係る電動パワーステアリング装置は、制限手段と乗算手段とを備え、制限手段は、積分要素から出力される信号が所定値以下の場合にはそのまま出力し、積分要素から出力される信号が所定値を超える場合には制限係数を乗算手段に供給し、積分要素から出力される積分信号を制限係数で所定値以下に制限することを特徴とする。
【0022】
制御手段に制限手段を備え、積分要素から出力される信号が所定値以下の場合にはそのまま出力し、積分要素から出力される信号が所定値を超える場合には所定値以下に制限するので、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返しをしても、積分要素による信号の応答遅れを補償することができる。
【0023】
また、この発明に係る制限手段は、操舵方向の反転を検出する符号反転検出手段と、積分要素の積分値を予め設定した基準値と比較する積分値比較手段とを備えるとともに、符号反転検出手段、および積分値比較手段から出力される信号に基づいて積分要素から出力される信号を制限することを特徴とする。
【0024】
この発明に係る制限手段は、操舵方向の反転を検出する符号反転検出手段と、積分要素の積分値を予め設定した基準値と比較する積分値比較手段とを備えるとともに、符号反転検出手段、および積分値比較手段から出力される信号に基づいて積分要素から出力される信号を制限するので、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返しを確実に検出して積分要素による信号の応答遅れを補償することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
なお、本発明は、制御系を構成するPI(比例・積分)制御の積分要素から出力される信号を、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返し時に制限し、積分要素による信号の応答遅れを補償して最適な操舵フィーリングが得られるようにするものである。
【0026】
図1はこの発明に係る電動パワーステアリング装置の全体構成図である。
図1において、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール17に一体的に設けられたステアリング軸2に自在継ぎ手3a、3bを備えた連結軸3を介し、ステアリング・ギアボックス4内に設けたラック&ピニオン機構5のピニオン5aに連結されて手動操舵力発生手段6を構成する。
【0027】
ピニオン5aに噛み合うラック歯7aを備え、これらの噛み合いにより往復運動するラック軸7は、その両端にタイロッド8を介して操向輪としての左右の前輪9が連結される。
【0028】
このようにして、ステアリングホイール17操舵時には通常のラック&ピニオン式の手動操舵力発生手段6を介し、マニュアルステアリングで前輪9を転動させて車両の向きを変えている。
【0029】
手動操舵力発生手段6による操舵力を軽減するため、操舵補助力を供給する電動機10をラック軸7と同軸的に配設し、ラック軸7と同軸に設けられたボールねじ機構11を介して推力に変換し、ラック軸7(ボールねじ軸11a)に作用させる。
【0030】
ステアリング・ギアボックス4内にはドライバの手動操舵トルクの方向と大きさを検出する操舵トルクセンサ12、ドライバの操作するステアリングホイール17の操舵回転速度の方向と大きさを検出する操舵回転速度センサ13を配置し、操舵トルクセンサ12が検出した操舵トルクに対応したアナログ電気信号の操舵トルク信号TS、操舵回転速度センサ13が検出した操舵回転速度に対応したアナログ電気信号の操舵回転速度信号NSのそれぞれを制御手段15に提供する。
また、車速センサ14は車両の速度に対応した周波数の電気的なパルス信号として検出し、車速信号VSを制御手段15に提供する。
【0031】
なお、操舵回転速度センサ13の代りに電動機回転速度センサを設け、数2から操舵回転速度NSを算出することもできる。
【0032】
【数2】
NS=K1(NM−dTS/dt)
ただし、K1は定数、NMは電動機回転速度、
dTS/dtは操舵トルクTSの微分値
【0033】
また、電動機回転速度NSは、電動機電圧VM、電動機電流IM、電動機の誘起電圧係数KMおよび電動機内部抵抗RMを用いて数3より推定することもできる。
【0034】
【数3】
NS=(VM−RM*IM)/KM
【0035】
制御手段15はマイクロプロセッサを基本に各種演算手段、処理手段、信号発生手段、メモリ等で構成し、操舵トルク信号TSに対応する電動機制御信号VO(例えば、オン信号とPWM信号の混成信号)を発生して電動機駆動手段16を駆動制御する。
【0036】
また、制御手段15は比例・積分制御手段、および比例・積分制御手段の積分要素から出力される信号を制限する制限手段を備え、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返し時に積分要素からの信号を制限して積分要素による信号の応答遅れを補償する。
【0037】
電動機駆動手段16は、例えば4個のパワーFET(電界効果トランジスタ)のスイッチング素子からなるブリッジ回路で構成し、電動機制御信号VOに基づいて電動機電圧VMを出力して電動機10を駆動する。
【0038】
電動機電流検出手段18は電動機10に実際に流れる電動機電流IMを検出し、電動機電流IMに対応した電動機電流信号IMOを制御手段15にフィードバック(負帰還)する。
【0039】
図2はこの発明に係る電動パワーステアリング装置の要部ブロック構成図である。
図2において、制御手段15は、目標電流設定手段21、偏差演算手段22、比例・積分制御手段23、制御信号発生手段27、制限手段30を備える。
【0040】
なお、目標電流設定手段21、偏差演算手段22および制御信号発生手段27は、それぞれ図7に示す目標電流設定手段52、偏差演算手段53および制御信号発生手段55と同一構成、同一作用なので説明を省略する。
【0041】
比例・積分制御手段23は、比例感度KPを発生して偏差信号ΔI(=IMS−IMO)を比例制御する比例要素24と、積分ゲインKIを発生して偏差信号ΔI(=IMS−IMO)を積分制御する積分要素25と、積分要素25からの出力信号に制限係数KLを乗算する乗算手段28と、比例要素24および乗算手段28の出力信号を加算する加算手段26を備える。
【0042】
乗算手段28と直列接続された積分要素25は比例要素24と並列接続される。比例要素24は偏差信号ΔIに比例感度KPを乗算した比例信号IPを加算手段26に供給する。
積分要素25は偏差信号ΔIに積分ゲインKIで積分処理を施した積分信号(積分値)IIを乗算手段28に提供し、乗算手段28で制限係数KLを乗算処理した積分制限信号IL(=II×KL)を加算手段26に供給する。
【0043】
加算手段26は比例信号IPと積分制限信号IL(=II×KL)を加算処理し、比例・積分信号IPI(=IP+IL)を制御信号発生手段27に出力する。
【0044】
制限手段30は符号反転検出手段、回転速度比較手段、積分値比較手段、制限係数発生手段等を備え、操舵回転速度センサ13が検出した操舵回転速度信号NSおよび積分要素25から供給される積分信号(積分値)IIに基づいてハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返し時の操舵状態を検出し、制限係数KLを乗算手段28に供給する。
【0045】
なお、乗算手段28で積分信号(積分値)IIと制限係数KLを乗算処理することにより、積分信号(積分値)IIを制限係数KLで制限した積分制限信号IL(=II×KL)が得られ、例えば制限係数KLを1を下回る値(0≦KL<1)に設定して積分要素25の積分制御に伴う応答遅れを改善することができる。
【0046】
加算手段26から出力される比例・積分信号IPI(=IP+IL)は、制御信号発生手段27で比例・積分信号IPI(=IP+IL)の大きさと方向に対応したPWM信号VPWMに変換され、このPWM信号VPWMが電動機制御信号VOとして電動機駆動手段16に供給されて発生する電動機電圧VMで電動機10が駆動され、この電動機10の動力を操舵補助力としてステアリング系に作用させる。
【0047】
このように、この発明に係る電動パワーステアリング装置1は、制御手段15に制限手段30を備えて積分要素25から出力される積分信号(積分値)IIを制限係数KLで制限するので、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返しをしても、比例要素24から出力される比例信号IPが支配的となって積分要素25による信号の応答遅れを補償することができる。
【0048】
図3はこの発明に係る制限手段の要部ブロック構成図である。
制限手段30は、符号反転検出手段31、回転速度比較手段32、積分値比較手段33、論理積演算手段34、レベル保持手段35、制限係数発生手段36、制限停止制御手段37を備え、操舵回転速度センサ13で検出した操舵回転速度信号NSおよび図2に示す積分要素25から供給される積分信号(積分値)IIに基づき、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返し状態を検出し、積分信号(積分値)IIを減衰させる制限係数KLを発生する。
【0049】
符号反転検出手段31は、操舵回転速度信号NSの極性(例えば、図示しない極性判定手段で、ハンドル右方向はHレベル、ハンドル左方向はLレベルの2値信号で検出)の立上りまたは立下りをトリガとして極性反転を検出し、極性反転を検出する毎に、例えばHレベルのワンショットパルスからなる極性反転信号HOを論理積演算手段34に提供する。
【0050】
図4にこの発明に係る符号反転検出手段の一実施形態要部ブロック構成図を示す。
図4において、符号反転検出手段31は、正極性反転検出手段31A、負極性反転検出手段31B、論理和演算手段31Cを備える。
【0051】
正極性反転検出手段31Aおよび負極性反転検出手段31Bは、例えばリトリガブル・モノマルチバイブレータで構成し、それぞれ操舵回転速度信号NSの極性の立上り、立下りをトリガとして所定時間TMのワンショットパルス(例えばHレベル)からなる正極性検出信号Pτ+、負極性検出信号Pτ−を論理和演算手段31Cに供給する。
【0052】
論理和演算手段31Cは論理和ゲートまたは論理和演算機能を有し、正極性反転検出手段31Aから供給される正極性検出信号Pτ+と、負極性反転検出手段31Bから供給される負極性検出信号Pτ−の論理和を演算し、極性反転信号HO(所定時間TMでHレベルのワンショットパルス)を出力する。
【0053】
回転速度比較手段32はROM等のメモリ、比較手段を備え、予めメモリに設定した基準回転速度NKと操舵回転速度信号NSの比較を行い、操舵回転速度信号NSが基準回転速度NKを超える(NS>NK)場合には、例えばHレベルの回転速度判定信号NOを論理積演算手段34に提供する。
なお、回転速度比較手段32は省略することもできる。
【0054】
このように、符号反転検出手段31は操舵回転速度信号NSの極性を検出することによってハンドルの切り返しを検出し、回転速度検出手段32は操舵回転速度信号NSと基準回転速度NKとの比較結果からハンドルの急激な回転操作を検出することができので、極性反転信号HOと回転速度判定信号NOの論理積からドライバが行うハンドルの速い転舵からの切り返し操作を検出することができる。
【0055】
積分値比較手段33はROM等のメモリ、比較手段を備え、予めメモリに設定した基準積分値IKと積分信号(積分値)IIの比較を行い、積分信号(積分値)IIが基準積分値IKを超える(II>IK)場合には、例えばHレベルの積分値判定信号IOを論理積演算手段34に提供する。
【0056】
このように、基準積分値IKをハンドル据え切り近傍に対応させて設定し、積分値判定信号IOを検出することにより、ドライバの据え切りハンドル操作を検出することができる。
【0057】
論理積演算手段34は3入力の論理積ゲートまたは論理積演算機能を有し、極性反転信号HO、回転速度判定信号NOおよび積分値判定信号IOの論理積を演算し、例えば極性反転信号HO、回転速度判定信号NOおよび積分値判定信号IOの全てがHレベルの場合に、Hレベルの論理積データDOをレベル保持手段35に提供する。
【0058】
したがって、論理積演算手段34から出力される論理積データDOがHレベルの場合には、ハンドルの据え切り状態から速い転舵からの切り返し状態を検出することができる。
【0059】
レベル保持手段35はラッチ機能を備え、論理積演算手段34から供給される論理積データDOを保持し、例えばHレベルの保持信号LOを制限係数発生手段36に提供する。
【0060】
また、レベル保持手段35はラッチ解除機能を備え、制限停止制御手段37から供給される停止制御信号SCに基づいてラッチを解除し、制限係数発生手段36へ供給する保持信号LOを停止する。
【0061】
制限係数発生手段36はROM等のメモリおよび選択手段等で構成し、予めメモリに設定した複数の制限係数KL(例えば、1と0)をレベル保持手段35から供給される保持信号LOに基づいて選択し、選択した制限係数KLを図2に示す乗算手段28に提供する。
【0062】
例えば、保持信号LOがHレベルの場合には制限係数KL(=0)が選択されて出力され、一方、保持信号LOが禁止(例えば、保持信号LOはLレベル)の場合には制限係数KL(=1)が選択されて出力される。
【0063】
図5にこの発明に係る制限係数発生手段の制限係数KLの特性図を示す。
図5において、時間t1以前および時間t2以降の領域では通常の操舵状態に対応して制限係数KLが1(KL=1)に設定されており、積分要素25から出力される積分信号(積分値)IIは同じ値の積分制限信号IL(=II)として加算手段26に出力される。
【0064】
一方、時間t1から時間t2の領域では、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返しの操舵状態に対応して制限係数KLが0(KL=0)に設定され、積分要素25から出力される積分信号(積分値)IIは制限係数KLに制限された積分制限信号IL(=0)として加算手段26に出力され、ステアリング系に作用する操舵補助力の積分要素25に起因する信号の応答遅れを補償することができる。
【0065】
制限停止制御手段37はコンパレータまたは比較機能を備え、積分信号(積分値)IIと予め設定した基準値IXとを比較し、積分信号(積分値)IIが基準値IXを下回る(II<IX)場合には、例えばHレベルの停止制御信号SCをレベル保持手段35に提供し、レベル保持手段35に保持されている論理積データDOのラッチを解除するよう制御する。
【0066】
なお、本願の実施の形態として、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返しの操舵状態の制限係数KLを0に設定した例について説明したが、制限係数KLを0に限定することなく、制限係数KLを1を下回る(0<KL<1)所定の値に設定し、積分制限信号ILを0以外の一定値(0<IL<1)に設定することもできる。
【0067】
また、より簡便な本願の実施の形態として、図2の操舵回転速度センサ13、制限手段30、および乗算手段28に代えて積分要素25と加算手段26との間に制限手段41を設け、積分信号IIが予め設定した所定値IYを超える場合(II>IY)には、積分信号IIを所定値IYに制限して加算手段26に供給するよう構成してもよい。
【0068】
図6はこの発明に係る比例・積分制御手段の別実施形態要部ブロック構成図である。
図6において、比例・積分制御手段40は積分要素25と加算手段26との間に乗算手段28に代えて制限手段41を備えた点が図2に示す比例・積分制御手段23と異なる。
【0069】
制限手段41は予め設定した積分値の所定値IYを記憶するメモリと、比較機能を備え、積分要素25から供給される積分信号(積分値)IIと所定値IYとを比較し、積分信号(積分値)IIが所定値IY以下の場合(II≦IY)には積分信号(積分値)IIをそのまま積分制限信号ILとして加算手段26に出力し、一方積分信号(積分値)IIが所定値IYを超える場合(II>IY)には積分信号(積分値)IIを所定値IYに制限して積分制限信号ILとして加算手段26に出力するよう構成する。
【0070】
このように、この発明に係るこの発明に係る電動パワーステアリング装置1は、制限手段30に、符号反転検出手段31、回転速度比較手段32、積分値比較手段33および制限係数発生手段36を備えたので、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返しを確実に検出して制限係数を発生し、積分要素から出力される信号を制限係数で補正するので、積分要素による信号の応答遅れを補償することができる。
【0071】
また、この発明に係る電動パワーステアリング装置1の制限係数発生手段36は、所定の制限係数を発生し、積分要素25から出力される信号を一定値に減少させることができるので、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返しをしても、積分要素25による信号の応答遅れを補償することができる。
【0072】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明に係る電動パワーステアリング装置は、制御手段に制限手段を備え、積分要素から出力される信号が所定値以下の場合にはそのまま出力し、積分要素から出力される信号が所定値を超える場合には所定値以下に制限するので、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返しをしても、積分要素による信号の応答遅れを改善して操舵特性の急激な変化を補償することができる。
【0073】
さらに、この発明に係る制限手段は、操舵方向の反転を検出する符号反転検出手段と、積分要素の積分値を予め設定した基準値と比較する積分値比較手段とを備えるとともに、符号反転検出手段、および積分値比較手段から出力される信号に基づいて積分要素から出力される信号を制限するので、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返しを確実に検出して積分要素による信号の応答遅れを補償して最適な操舵フィーリングを確保することができる。
【0074】
よって、ハンドル据え切り状態から速い転舵のハンドル切り返しをしても、安定した操舵フィーリングが得られる電動パワーステアリング装置を提供すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る電動パワーステアリング装置の全体構成図
【図2】この発明に係る電動パワーステアリング装置の要部ブロック構成図
【図3】この発明に係る制限手段の要部ブロック構成図
【図4】この発明に係る符号反転検出手段の一実施形態要部ブロック構成図
【図5】この発明に係る制限係数発生手段の制限係数KLの特性図
【図6】この発明に係る比例・積分制御手段の別実施形態要部ブロック構成図
【図7】従来の電動パワーステアリング装置の要部ブロック構成図
【図8】車速をパラメータとした操舵トルク信号(TD)―目標電流信号(IMS)特性図(テーブル1)
【符号の説明】
1…電動パワーステアリング装置、2…ステアリング軸、3…連結軸、3a,3b…自在継ぎ手、4…ステアリング・ギアボックス、5…ラック&ピニオン機構、5a…ピニオン、6…手動操舵力発生手段、7…ラック軸、7a…ラック歯、8…タイロッド、9…左右の前輪、10…電動機、11…ボールねじ機構、12…操舵トルクセンサ、13…操舵回転速度センサ、15…制御手段、16…電動機駆動手段、17…ステアリングホイール、18…電動機電流検出手段、21…目標電流設定手段、22…偏差演算手段、23,40…比例・積分制御手段、24…比例要素、25…積分要素、26…加算手段、27…制御信号発生手段、28…乗算手段、30,41…制限手段、31…符号反転検出手段、31A…正極性反転検出手段、31B…負極性反転検出手段、31C…論理和演算手段、32…回転速度比較手段、33…積分値比較手段、34…論理積演算手段、35…レベル保持手段、36…制限係数発生手段、37…制限停止制御手段、DO…論理積データ、HO…極性反転信号、II…積分信号(積分値)、IK…基準積分値、IL…積分制限信号、IM…電動機電流、IMO…電動機電流信号、IMS…目標電流信号、IO…積分値判定信号、IP…比例信号、IPI…比例・積分信号、ΔI(=IMS−IMO)…偏差信号、KI…積分ゲイン、KL…制限係数、KP…比例感度、LO…保持信号、NK…基準回転速度、NO…回転速度判定信号、NS…操舵回転速度信号、Pτ+…正極性検出信号、Pτ−…負極性検出信号、SC…停止制御信号、TS…操舵トルク信号、VPWM…PWM信号、VM…電動機電圧、VO…電動機制御信号。

Claims (1)

  1. ステアリング系に操舵補助力を作用させる電動機と、操舵トルクセンサからの操舵トルク信号に基づいて前記電動機を駆動する目標電流信号を決定する目標電流設定手段、およびこの目標電流設定手段からの目標電流信号と電動機電流検出手段からの電動機電流信号の偏差に比例制御と積分制御を施す少なくとも比例要素と積分要素を備えた比例・積分制御手段からなる制御手段と、この比例・積分制御手段からの出力に基づいて前記電動機を駆動する電動機駆動手段と、を備えた電動式パワーステアリング装置において、
    前記制御手段は、制限手段と乗算手段とを備え、
    前記制限手段は、積分要素から出力される信号が所定値以下の場合にはそのまま出力し、積分要素から出力される信号が所定値を超える場合には制限係数を前記乗算手段に供給し、前記積分要素から出力される積分信号を前記制限係数で所定値以下に制限し、
    さらに、前記制限手段は、操舵方向の反転を検出する符号反転検出手段と、前記積分要素の積分値を予め設定した基準値と比較する積分値比較手段とを備えるとともに、前記符号反転検出手段、および前記積分値比較手段から出力される信号に基づいて前記積分要素から出力される信号を制限することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
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