JP3557277B2 - 耐熱性トレハロース遊離酵素とその製造方法並びに用途 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、耐熱性トレハロース遊離酵素とその製造方法並びに用途に関し、更に詳細には、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質のトレハロース部分とそれ以外のグリコシル部分との間の結合を特異的に加水分解しトレハロースを遊離する新規耐熱性トレハロース遊離酵素とその製造方法、加えて、この新規耐熱性トレハロース遊離酵素を用いて製造されるトレハロース、及び、このトレハロースを含有せしめた組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
グルコースを構成糖とする非還元性糖質として、古くからトレハロース(α,α−トレハロース)が知られており、その存在は、『アドバンシズ・イン・カーボハイドレイト・ケミストリー(Advances in Carbohydrate Chemistry)』、第18巻、第201乃至225頁(1963年)アカデミック・プレス社(米国)及び『アプライド・アンド・エンビロメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology)』、第56巻、第3213乃至3215頁(1990年)などにも記載されているように、少量ながら、微生物、きのこ、昆虫など広範囲に及んでいる。トレハロースは、非還元性糖質ゆえにアミノ酸や蛋白質等のアミノ基を有する物質とアミノカルボニル反応を起こさず、アミノ酸含有物質を損なわないことから、褐変、劣化を懸念することなく利用、加工できることが期待され、その工業的製造方法の確立が望まれている。
【0003】
トレハロースの製造方法としては、例えば、特開昭50−154485公報で報告されている微生物を用いる方法や、特開昭58−216695公報で提案されているマルトース・ホスホリラーゼとトレハロース・ホスホリラーゼとの組合せでマルトースを変換する方法などが知られている。しかしながら、微生物を用いる方法は、菌体を出発原料とし、これに含まれるトレハロースの含量が、通常、固形物当り15w/w%(以下、本明細書では、特にことわらない限り、w/w%を%と略称する。)未満と低く、その上、これを抽出・精製する工程が煩雑で、工業的製造方法としては不適である。また、マルトース・ホスホリラーゼ及びトレハロース・ホスホリラーゼを用いる方法は、いずれもグルコースリン酸を経由しており、その基質濃度を高めることが困難であり、また、両酵素の反応系が平衡反応で目的物の生成率が低く、更には、両酵素の反応系を安定に維持して反応をスムーズに進行させることが困難であって、未だ、工業的製造方法として実現するに至っていない。
【0004】
斯かる状況に鑑み、本発明者らが、澱粉糖からトレハロース構造を有する糖質を生成する酵素につき鋭意検索したところ、リゾビウム・スピーシーズM−11やアルスロバクター・スピーシーズQ36などの微生物がグルコース重合度3以上の還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を生成するという、従来未知の全く新規な酵素を産生することが判明した。この知見とあい前後して、この非還元性糖質は同じくリゾビウム・スピーシーズM−11やアルスロバクター・スピーシーズQ36など産生するトレハロース遊離酵素により、ほぼ定量的にトレハロースとグルコース及び/又はマルトオリゴ糖に加水分解されることが判明した。これらの酵素を併用することにより、澱粉を原料に所望量のトレハロースが比較的に容易に得られることとなり、トレハロースに係わる前記課題は悉く解決されていくものと期待される。
【0005】
しかしながら、上記のリゾビウム・スピーシーズM−11やアルスロバクター・スピーシーズQ36の酵素は耐熱性に乏しく、トレハロースや末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質を製造しようとすると、約55℃以下の温度で酵素反応する必要がある。これに関して、『酵素応用の知識』、初版、第80乃至129頁(1986年)、「糖質関連酵素とその応用」の「糖質関連酵素」の項において、「工業的な糖化条件では、55℃以下では雑菌汚染の危険性が伴い、糖化反応中にpHが低下する。」と記載されているように、澱粉を原料とし、長時間にわたる酵素反応の場合、温度55℃以下の反応条件では、雑菌汚染により反応液がpH低下し、反応途中で酵素失活することが懸念され、リゾチーム等の添加による雑菌汚染防止や反応液のpH調整を必要とする場合もある。また、澱粉部分分解物の加水分解率が低い場合、澱粉質の老化による不溶化物の生成も懸念される。
【0006】
一方、耐熱性酵素は高い反応温度でも酵素反応が進行するため、耐熱性酵素を用いた反応では、微生物汚染の懸念が少なく、また、澱粉部分分解物の老化も起こりにくいと考えられる。耐熱性酵素の給源としては、一般的に、好熱菌を挙げることができる。好熱菌によるトレハロース生成に関して、『バイオテクノロジー・レターズ(Biotechnorogy Letters)』、第12巻、第431乃至432頁(1990年)及び『バイオテック・フォーラム・ヨーロップ(Biotech Forum Europe)』、第8巻、第201乃至203頁(1991年)に記載されているように、スルフォロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)ATCC49155の菌体及び菌体抽出物の部分精製酵素が、基質アミロースや可溶性澱粉からグルコース及びトレハロースを生成することが報告されている。しかしながら、酵素の精製がなされておらず、示されている理化学的性質も不充分であり、作用機作も不明であって、単にトレハロースが生成されることを示しているにすぎない。そこで、温度55℃を越える条件で酵素反応可能な耐熱性酵素を用いることによるトレハロースの新規製造方法の確立が望まれる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、温度55℃を越える条件で酵素反応可能な、且つ、作用機作も解明された耐熱性トレハロース遊離酵素を用いた還元性澱粉部分分解物からのトレハロース、又は、これを含む糖質の新規製造方法とそのトレハロース、又は、これを含む糖質並びにそれらの用途を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質からトレハロースを遊離するという作用機作を有する全く新しい耐熱性酵素の実現に期待を込めて、この酵素を産生する微生物を好熱菌を中心に広く検索してきた。
【0009】
その結果、特願平6−166011号明細書(特開平8−66188号公報)で開示したスルフォロブス(Sulfolobus)属に属する耐熱性非還元性糖質生成酵素産生微生物スルフォロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)ATCC33909及びATCC49426、さらに、スルフォロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)ATCC35091及びATCC35092が、55℃を越える温度で反応可能な耐熱性の新規トレハロース遊離酵素をも産生することを見い出した。還元性澱粉部分分解物に、耐熱性非還元性糖質生成酵素とこの新規耐熱性トレハロース遊離酵素とを作用させることにより、目指していた高い反応温度でのトレハロース生成反応を容易に行いうることを見い出し、また、還元性澱粉部分分解物に、耐熱性非還元性糖質生成酵素と新規耐熱性トレハロース遊離酵素とを作用させ、次いでグルコアミラーゼを作用させることにより、更に高純度トレハロース含有反応液を得ることができ、容易にトレハロースを製造しうることを見い出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明では、上記菌のみならず、スルフォロブス属に属し、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質のトレハロース部分とそれ以外のグリコシル部分との間の結合を特異的に加水分解しトレハロースを遊離する耐熱性トレハロース遊離酵素を産生する他の菌株、更には、それらの菌株の変異株なども適宜用いられる。
【0011】
本発明の微生物の培養に用いる培地は、微生物が生育でき、本発明の耐熱性トレハロース遊離酵素を産生しうる栄養培地であればよく、合成培地及び天然培地のいずれでもよい。炭素源としては、微生物が資化しうる物であればよく、例えば、グルコース、フラクトース、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、糖蜜、澱粉部分分解物などの糖質、、又は、クエン酸、コハク酸などの有機酸又はそれらの塩なども使用することができる。培地におけるこれらの炭素源の濃度は炭素源の種類により適宜選択される。例えば、澱粉部分分解物の場合には、通常、20%以下が望ましく、菌の生育及び増殖からは5%以下が好ましい。窒素源としては、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素化合物及び、例えば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物が用いられる。また、無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などが適宜用いられる。
【0012】
培養は、通常、温度40乃至95℃、好ましくは50乃至90℃、pH1乃至7、好ましくは2乃至6から選ばれる条件で好気的に行われる。培養時間は本微生物が増殖しうる時間であればよく、好ましくは10時間乃至100時間である。また、培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常、0.5乃至20ppmが好ましい。そのため、通気量を調節したり、撹拌したり、通気に酸素を追加したり、また、ファーメンター内の圧力を高めるなどの手段が採用される。また、培養方式は、回分培養又は連続培養のいずれでもよい。
【0013】
このようにして、微生物を培養した後、本発明の酵素を回収する。本酵素活性は、培養物の菌体に主に認められ、公知の方法によって精製して利用することができる。一例として、培養液の処理物を硫安塩析して濃縮した粗酵素標品を透析後、東ソー株式会社製ゲル『DEAE−トヨパール』などを用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、続いて、同社製ゲル『ブチルトヨパール』などを用いた疎水カラムクロマトグラフィー、同社製ゲル『トヨパール HW−55』などを用いたゲル瀘過クロマトグラフィー、再度のブチルトヨパールを用いた疎水カラムクロマトグラフィー、ファルマシア・バイオテク株式会社製ゲル『スーパーローズ 12』などを用いたゲル瀘過クロマトグラフィー用いて精製することにより、電気泳動的に単一な酵素を得ることができる。
【0014】
このようにして得られる本発明の耐熱性トレハロース遊離酵素は、下記の理化学的性質を有する。
(1) 作用
末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質のトレハロース部分とそれ以外のグリコシル部分との間の
結合を特異的に加水分解する。
(2) 分子量
SDS−ゲル電気泳動法により、約54,000乃至64,000
ダルトン。
(3) 等電点
アンフォライン含有電気泳動法により、pI約5.6乃至6.6。
(4) 至適温度
pH6.0、30分間反応で、75℃付近。
(5) 至適pH
60℃、30分間反応で、pH約5.5乃至6.0。
(6) 温度安定性
pH7.0、60分間保持で、85℃付近まで安定。
(7) pH安定性
25℃、16時間保持で、pH約4.5乃至9.5。
【0015】
本発明の耐熱性トレハロース遊離酵素の活性は次のようにして測定する。基質としてマルトトリオシルトレハロース(別名、α−マルトテトラオシル α−グルコシド)1.25w/v%(50mMリン酸緩衝液、pH6.0)4mlに酵素液を1ml加え60℃で30分間反応させた後、ソモギー銅液を加え反応を停止させ、還元力をソモギー・ネルソン法にて測定する。対照として、あらかじめ100℃で30分間加熱することにより失活させた酵素液を用いて同様に測定する。上記の測定方法を用いて、1分間に1μmoleのグルコースに相当する還元力を増加させる酵素量を1単位と定義する。
【0016】
本酵素の基質としては、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質であればよく、例えば、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオースなどに非還元性糖質生成酵素を作用させ得られるグルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース、マルトトリオシルトレハロース、マルトテトラオシルトレハロース、マルトペンタオシルトレハロースなどのグリコシルトレハロースが用いられる。また、澱粉、アミロペクチン、アミロースなどの澱粉質をアミラーゼ又は酸などによって部分的に加水分解し得られる還元性澱粉部分分解物に、非還元性糖質生成酵素を作用させ得られる末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質を含む低還元性の澱粉部分分解物が用いられる。
【0017】
澱粉を部分的に加水分解するアミラーゼとしては、例えば、『ハンドブック・オブ・アミレーシズ・アンド・リレイテッド・エンザイムズ(Handbookof Amylases and Related Enzymes)』、(1988年)パーガモン・プレス社(東京)に記載されている、α−アミラーゼ、マルトペンタオース生成アミラーゼ、マルトヘキサオース生成アミラーセなどが用いられる。これらアミラーゼとプルラナーゼ及びイソアミラーゼなどの枝切酵素を併用することも有利に実施できる。
【0018】
還元性澱粉部分分解物から末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質を生成する非還元性糖質生成酵素としては、特願平5−349216号明細書(特開平7−143876号公報)で開示したリゾビウム・スピーシーズM−11、アルスロバクター・スピーシーズQ36などの非還元性糖質生成酵素を用いることができるが、反応温度が55℃を越える場合は、本出願人が特願平6−166011号明細書(特開平8−66188号公報)で開示したスルフォロブス属の耐熱性非還元性糖質生成酵素を有利に用いることができる。
【0019】
基質濃度は特に限定されない。例えば、0.1%の基質溶液として用いた場合でも、50%の基質溶液として用いた場合でも、本酵素の反応は進行し、トレハロースを生成する。また、基質溶液中に完全に溶けきれない過剰量の基質を含有するものであってもよい。反応温度は両酵素が失活しない温度、すなわち85℃付近までで行えばよいが、好ましくは55乃至70℃の範囲を用いる。反応pHは、通常、4乃至10の範囲に調整すればよいが、好ましくはpH約5乃至7の範囲に調整する。反応時間は酵素反応の進行により適宜選択する。
【0020】
グルコース重合度が3以上の還元性澱粉部分分解物を基質として、本発明によるトレハロースの製造方法は、特願平5−349216号明細書(特開平7−143876号公報)に記載の方法、即ち、非還元性糖質生成酵素とグルコアミラーゼの反応によって得られた反応液と比較して、顕著にトレハロース生成量は増加している。即ち、先願の非還元性糖質生成酵素とグルコアミラーゼの反応によって得られるトレハロース生成率は約30%であるのに対して、本発明の非還元性糖質生成酵素とトレハロース遊離酵素とを共に作用させる反応では、トレハロース生成率が約60%又はそれ以上である。
【0021】
この作用の原理は、次の通りである。すなわち、まず、グルコース重合度が3以上の1分子の還元性澱粉部分分解物が非還元性糖質生成酵素により、末端にトレハロース構造を有する1分子の非還元性糖質に変換され、その非還元性糖質がトレハロース遊離酵素の加水分解反応により1分子のトレハロースとグルコース重合度で2を減少した1分子の還元性澱粉部分分解物とを生成する。新たに生成した還元性澱粉部分分解物のグルコース重合度が3以上であれば、この還元性澱粉部分分解物が、更に、非還元性糖質生成酵素により末端にトレハロース構造を有する非還元性糖質に変換され、トレハロース遊離酵素により1分子のトレハロースと還元性澱粉部分分解物とを生成する。この非還元性糖質生成酵素の反応とトレハロース遊離酵素の反応とを繰り返すことにより、1分子の還元性澱粉部分分解物から複数分子のトレハロースを生成せしめることができる。
【0022】
この作用の方法は、グルコース重合度が3以上の還元性澱粉部分分解物に非還元性糖質生成酵素と本発明のトレハロース遊離酵素とを同時に作用させることも、また、該還元性澱粉部分分解物に、まず、非還元性糖質生成酵素を作用させ、次いで、トレハロース遊離酵素を作用させることもできる。必要に応じて、更にグルコアミラーゼを作用させてトレハロース含量を高めることも有利に実施できる。
【0023】
反応液は、常法により、瀘過、遠心分離などして不溶物を除去した後、活性炭で脱色、H型、OH型イオン交換樹脂で脱塩し、濃縮し、シラップ状製品とする。更に、乾燥して粉末状製品にすることも随意である。必要ならば、更に、高度な精製をすることも随意である。例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィーによる分画、活性炭カラムクロマトグラフィーによる分画、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分画、アルコール及びアセトンなど有機溶媒による分別、アルカリ処理による還元性糖質の分解除去などの方法で精製することにより、高純度のトレハロース製品を得ることも容易である。
【0024】
このようにして得られた本発明のトレハロースを含む糖質を、必要により、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、トレハラーゼなどで加水分解したり、シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼやグルコシルトランスフェラーゼなどで糖転移したりして、甘味性、還元力などを調整したり、粘性を低下させたりすることも、また、水素添加して還元性糖質を糖アルコールにして還元力を消滅せしめることなどの更なる加工処理を施すことも随意である。これを、前述の精製方法、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィーなどにより、グルコースを除去し、トレハロース高含有画分を採取する。これを精製、濃縮して、シラップ状製品を得ることも、更に濃縮して過飽和にし、晶出させてトレハロース含水結晶又は無水結晶トレハロースを得ることも有利に実施できる。
【0025】
イオン交換カラムクロマトグラフィーとしては、特開昭58−23799号公報、特開昭58−72598号公報などに開示されている塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより、夾雑糖類を除去してトレハロース高含有画分を採取する方法が有利に実施できる。この際、固定床方式、移動床方式、疑似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
【0026】
トレハロース含水結晶を製造するには、例えば、純度60%以上、濃度65乃至90%のトレハロース含有液を助晶缶にとり、必要により、0.1乃至20%の種晶共存下で、温度95℃以下、望ましくは、10乃至90℃の範囲で、撹拌しつつ徐冷し、トレハロース含水結晶を含有するマスキットを製造する。また、減圧濃縮しながら、晶析させる連続晶析法を採用することも有利に実施できる。マスキットからトレハロース含水結晶又はこれを含有する含蜜結晶を製造する方法は、例えば、分蜜方法、ブロック粉砕方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法など公知の方法を採用すればよい。
【0027】
分蜜方法の場合には、通常、マスキットをバスケット型遠心分離機にかけ、トレハロース含水結晶と蜜(母液)とを分離し、必要により、該結晶に少量の冷水をスプレーして洗浄することも容易な方法であり、より高純度のトレハロース含水結晶を製造するのに好適である。噴霧乾燥方法の場合には、通常、濃度60乃至85%、晶出率20乃至60%程度のマスキットを高圧ポンプでノズルから噴霧し、結晶粉末が溶解しない温度、例えば、60乃至100℃の熱風で乾燥し、次いで30乃至60℃の温風で約1乃至20時間熟成すれば非吸湿性又は難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。また、ブロック粉砕方法の場合には、通常、水分10乃至20%晶出率10乃至60%程度のマスキットを数時間乃至3日間静置して全体をブロック状に晶出固化させ、これを粉砕又は切削などの方法によって粉末化し乾燥すれば、非吸湿性又は難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。また、無水結晶トレハロースを製造するには、トレハロース含水結晶を乾燥して変換させることもできるが、一般的には、水分10%未満の高濃度トレハロース高含有溶液を助晶缶にとり、種晶共存下で50乃至160℃、望ましくは80乃至140℃の範囲で撹拌しつつ無水結晶トレハロースを含有するマスキットを製造し、これを比較的高温乾燥条件下で、例えば、ブロック粉砕方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法などの方法で晶出、粉末化して製造される。
【0028】
このようにして製造される本発明のトレハロースは、還元力がなく、安定であり、他の素材、特にアミノ酸、オリゴペプチド、蛋白質などのアミノ酸又はアミノ基を含有する物質と混合、加工しても、褐変することも、異臭を発生することも、混合した他の素材を損なうことも少ない。また、それ自身が良質で上品な甘味を有している。更に、トレハロースはトレハラーゼにより容易にグルコースにまで分解することから、経口摂取により、消化吸収され、カロリー源として利用される。虫歯誘発菌などによって、発酵されにくく、虫歯を起こしにくい甘味料としても利用できる。
【0029】
また、本発明のトレハロースは、経管栄養剤、輸液剤などとして非経口的に使用され、毒性、副作用の懸念もなく、よく代謝、利用され、生体へのエネルギー補給に有利に利用することができる。また、安定な甘味料であることにより、トレハロース含水結晶製品の場合には、プルラン、ヒドロキシエチルスターチ、ポリビニルピロリドンなどの結合剤と併用して錠剤の糖衣剤として利用することも有利に実施できる。また、浸透圧調節性、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性、他糖の晶出防止性、難醗酵性、澱粉老化防止性などの性質を具備している。
【0030】
従って、本発明のトレハロース及びこれを含む糖質は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして飲食物、嗜好物、飼料、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。
【0031】
本発明のトレハロース及びこれを含む糖質は、そのまま甘味付けのための調味料として使用することができる。必要ならば、例えば、粉飴、ブドウ糖、マルトース、蔗糖、異性化糖、蜂蜜、メイプルシュガー、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α−グリコシルステビオシド、レバウディオシド、グリチルリチン、L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような他の甘味料の1種又は2種以上の適量と混合して使用してもよく、また必要ならば、デキストリン、澱粉、乳糖などのような増量剤と混合して使用することもできる。
【0032】
また、本発明のトレハロース及びこれを含む糖質の粉末乃至結晶状製品は、そのままで、又は必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体、錠剤など各種形状に成型して使用することも随意である。また、本発明のトレハロース及びこれを含む糖質の甘味は、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味などの他の呈味を有する各種物質とよく調和し、耐酸性、耐熱性も大きいので、一般の飲食物の甘味付け、呈味改良に、また品質改良などに有利に利用できる。
【0033】
例えば、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなど各種調理料として有利に使用できる。
【0034】
また、例えば、せんべい、あられ、おこし、餅類、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羮、水羊羮、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンデーなどの洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓、果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、スプレッドなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類、福神漬、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物類、たくあん漬の素、白菜漬の素などの漬物の素類、ハム、ソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢こんぶ、さきするめ、ふぐみりん干しなどの各種珍味類、のり、山菜、するめ、小魚、貝などで製造されるつくだ煮類、煮豆、ポテトサラダ、こんぶ巻などの惣菜食品、ヨーグルト、チーズなどの乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜のビン詰、缶詰類、清酒、合成酒、リキュール、洋酒などの酒類、コーヒー、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席しるこ、即席スープなどの即席食品、更には、離乳食、治療食、ドリンク剤などの各種飲食物への甘味付けに呈味改良に、また、品質改良などに有利に利用できる。
【0035】
また、家畜、家禽、その他蜜蜂、蚕、魚などの飼育動物のために飼料、餌料などの嗜好性を向上させる目的で使用することもできる。その他、タバコ、練歯磨、口紅、リップクリーム、内服液、錠剤、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香剤、うがい剤など各種固形物、ペースト状、液状などで嗜好物、化粧品、医薬品などの各種組成物への甘味剤として、又は呈味改良剤、矯味剤として、さらには品質改良剤として有利に利用できる。
【0036】
品質改良剤、安定剤としては、有効成分、活性などを失い易い各種生理活性物質又はこれを含む健康食品、医薬品などに有利に適応できる。例えば、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、ツモア・ネクロシス・ファクター−α、ツモア・ネクロシス・ファクター−β、マクロファージ遊走阻止因子、コロニー刺激因子、トランスファーファクター、インターロイキンIIなどのリンホカイン含有液、インシュリン、成長ホルモン、プロラクチン、エリトロポエチン、卵細胞刺激ホルモンなどのホルモン含有液、BCGワクチン、日本脳炎ワクチン、はしかワクチン、ポリオ生ワクチン、痘苗、破傷風トキソイド、ハブ抗毒素、ヒト免疫グロブリンなどの生物製剤含有液、ペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、硫酸カナマイシンなどの抗生物質含有液、チアミン、リボフラビン、L−アスコルビン酸、肝油、カロチノイド、エルゴステロール、トコフェロール、などのビタミン含有液、リパーゼ、エラスターゼ、ウロキナーゼ、プロテアーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、グルカナーゼ、ラクターゼなどの酵素含有液、薬用人参エキス、スッポンエキス、クロレラエキス、アロエエキス、プロポリスエキスなどのエキス類、ウイルス、乳酸菌、酵母などの生菌、ロイヤルゼリーなどの各種生理活性物質も、その有効成分、活性を失うことなく、安定で高品質の健康食品や医薬品などを容易に製造できることとなる。
【0037】
以上述べたような各種組成物にトレハロースを含有せしめる方法は、その製品が完成するまでの工程に含有せしめればよく、例えば、混和、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、晶出、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、通常、0.1%以上、望ましくは、1%以上含有せしめるのが好適である。
【0038】
次に実験により本発明をさらに具体的に説明する。
【0039】
【実験1 酵素の生産】
ペプトン0.1w/v%、酵母エキス0.1w/v%、硫酸アンモニウム0.2w/v%、リン酸一カリウム0.05w/v%、硫酸マグネシウム七水塩0.02w/v、塩化カリウム0.02w/v%及び水からなる液体培地を500ml容三角フラスコに約100mlずつ入れ、オートクレーブで120℃で20分間滅菌し、冷却した後、硫酸にてpH3.0に調整した。この液体培地にスルフォロブス・アシドカルダリウスATCC33909を接種し、75℃、130rpmで24時間培養したものを第1次種培養液とした。容量10lのファーメンターに第1次種培養の場合と同組成の培地約5lを入れて殺菌、冷却してpH3.0、温度75℃とした後、第1次種培養液1v/v%を接種し、温度75℃、通気量500ml/分で約48時間通気培養したものを第2次種培養液とした。容量300lのファーメンターに第1次種培養の場合と同組成の培地約250lを入れて殺菌、冷却してpH3.0、温度75℃とした後、第2次種培養液1v/v%を接種し、温度75℃、通気量100l/分で約42時間通気培養した。培養液の耐熱性トレハロース遊離酵素の酵素活性は約0.03単位/mlであった。
【0040】
【実験2 酵素の精製】
実験1の方法で得られた培養液約170lを遠心分離し、含まれる菌体を湿重量として258g回収した。この菌体に10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を300ml加え、懸濁した後、日本精機製作所製超音波破砕機モデル『US300』で菌体を破砕した。破砕液を遠心分離(10,000rpm、30分間)することにより、約300mlの遠心上清液を得た。その液に飽和度0.7になるように硫酸アンモニウムを加え溶解させ、4℃、24時間放置した後、遠心分離して塩析物を回収した。得られた塩析物を10mMトリス・塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解させた後、同じ緩衝液に対して24時間透析し、遠心分離し不溶物を除いた。その透析液(約600ml)を2回に分けて、DEAE−トヨパールを用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量約350ml)を行った。
【0041】
本発明の耐熱性トレハロース遊離酵素、耐熱性非還元性糖質生成酵素ともDEAE−トヨパールに吸着し、食塩を含む同緩衝液でカラムから0.1M食塩濃度付近で両酵素とも溶出し、両酵素活性画分として回収した。
【0042】
両酵素活性画分を1M硫酸アンモニウムを含む同緩衝液に対して透析し、その透析液を遠心分離し不溶物を除き、得られる上清を東ソー株式会社製ゲル『ブチルトヨパール 650』を用いた疎水カラムクロマトグラフィー(ゲル量350ml)を行った。吸着した本酵素を1Mから0M硫酸アンモニウム濃度のリニアグラジエントでカラムより溶出させたところ、耐熱性トレハロース遊離酵素と耐熱性非還元性糖質生成酵素酵素とは異なる硫酸アンモニウム濃度においてそれぞれ溶出した。ブチルトヨパールからの溶出パターンを図1に示す。耐熱性非還元性糖質生成酵素は硫酸アンモニウム濃度約0.8Mで、耐熱性トレハロース遊離酵素は硫酸アンモニウム濃度約0.2Mで溶出し、それぞれの酵素活性画分を回収し、以下、両酵素を別々に精製した。
【0043】
耐熱性非還元性糖質生成酵素画分を0.2M食塩を含む同緩衝液に対して透析し、その透析液を遠心分離し不溶物を除き、得られる上清をセプラコル社製ゲル『ウルトロゲル AcA 44』を用いたゲル瀘過クロマトグラフィー(ゲル量350ml)を行い、酵素活性画分を回収した。続いて、同緩衝液に対して透析し後、ファルマシア・エルケイビー社製ゲル『Mono Q』を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量10ml)に供し、吸着した本酵素を0Mから0.2M食塩濃度のリニアグラジエントでカラムより溶出させ、0.1M食塩濃度付近で溶出した耐熱性非還元性糖質生成酵素活性画分を回収した。
【0044】
耐熱性トレハロース遊離酵素の精製は、ブチルトヨパールから溶出した耐熱性トレハロース遊離酵素活性画分を用いて、トヨパール HW−55を用いたゲル瀘過クロマトグラフィーを行い、酵素活性画分を回収した。続いて、再度、ブチルトヨパール 650を用いた疎水カラムクロマトグラフィーを同様に行った。更に、ファルマシア製カラム『スーパーローズ 12HR 10/30』を用いたゲル濾過クロマトグラフィーを行い、耐熱性トレハロース遊離酵素活性画分を回収した。
【0045】
なお、この発明を通じて、非還元性糖質生成酵素の活性は、特にことわらない限り、次の方法により測定した活性値(単位)で表示する。すなわち、マルトペンタオースを1.25%(w/v)含む50mM酢酸緩衝液(pH5.5)を4mlとり、これに酵素液を1ml加え、60℃で60分間インキュベートして反応させた後、反応液を100℃で100分間加熱して反応を停止させる。反応液を蒸留水で10倍希釈した後、ソモギ・ネルソン法により還元力を測定する。非還元性糖質生成酵素の1単位とは、上記条件下において、1分間にマルトペンタオース1μmolに相当する還元力を低下させる酵素の量と定義する。
【0046】
精製の各工程における酵素活性量、比活性、収率を、耐熱性非還元性糖質生成酵素の場合は表1に、本発明の耐熱性トレハロース遊離酵素の場合は表2に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表1及び表2の工程でそれぞれゲル瀘過溶出液として得られた、精製耐熱性非還元性糖質生成酵素及び精製耐熱性トレハロース遊離酵素をポリアクリルアミドゲル(ゲル濃度7.5%)を用いる電気泳動法で純度を検定したところ、蛋白バンドは単一で、純度の高い標品であった。
【0050】
【実験3 理化学的性質】
【実験3−1 耐熱性トレハロース遊離酵素の性質】
実験2の方法で得られた精製耐熱性トレハロース遊離酵素をSDS−ポリアクリルアミドゲル(ゲル濃度10%)を用いる電気泳動法に供し、同時に泳動した分子量マーカー(日本バイオ・ラッド・ラボラトリーズ株式会社製)と比較して本酵素の分子量を測定したところ、分子量約54,000乃至64,000ダルトンであった。
【0051】
本精製酵素をポリアクリルアミドゲル(2%アンフォライン含有、ファルマシア・エルケービー社製)を用いる等電点電気泳動法に供し、泳動後、ゲルのpHを測定して本酵素の等電点を求めたところ、等電点は約5.6乃至6.6であった。
【0052】
本酵素活性に対するの温度の影響、pHの影響を活性測定方法に準じて調べた。結果を図2(温度の影響)、図3(pHの影響)に示した。酵素の至適温度はpH6.0、30分間反応で約75℃、至適pHは60℃、30分間反応で約5.5乃至6.0であった。本酵素の温度安定性は、酵素溶液(50mMリン酸緩衝液を含む、pH7.0)を各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。また、pH安定性は、本酵素を各pHの50mM緩衝液中で25℃、16時間保持した後、pHを7に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。それぞれの結果を図4(温度安定性)、図5(pH安定性)に示した。本酵素の温度安定性は約85℃までであり、pH安定性は5.5乃至9.5であった。
【0053】
本精製酵素のN末端アミノ酸配列を、アプライド・バイオシステムズ・ジャパン販売プロテインシーケンサー モデル『473A』を用いて、N末端から10残基まで分析したところ、本酵素のN末端アミノ酸配列は、メチオニン−フェニルアラニン−セリン−フェニルアラニン−グリシン−グリシン−アスパラギン−イソロイシン−グルタミン酸−リジンであった。
【0054】
【実験3−2 耐熱性非還元性糖質生成酵素の理化学的性質】
実験2の方法で得られた精製耐熱性非還元性糖質生成酵素をSDS−ポリアクリルアミドゲル(ゲル濃度10%)を用いる電気泳動法に供し、同時に泳動した分子量マーカーと比較して本酵素の分子量を測定したところ、分子量約69,000乃至79,000ダルトンであった。本精製酵素をポリアクリルアミドゲルを用いる等電点電気泳動法に供し、泳動後、ゲルのpHを測定して本酵素の等電点を求めたところ、等電点は約5.4乃至6.4であった。
【0055】
本酵素活性に対するの温度の影響、pHの影響を活性測定方法に準じて調べた。酵素の至適温度は約75℃、至適pHは約5.0乃至5.5であった。本酵素の温度安定性及びpH安定性を実験3−1の方法と同様に調べたところ、本酵素の温度安定性は約85℃までであり、pH安定性は4.0乃至9.5であった。
【0056】
本精製酵素のN末端アミノ酸配列を実験3−1の方法と同様に調べたところ、本酵素のN末端アミノ酸配列は、メチオニン−イソロイシン−セリン−アラニン−スレオニン−チロシン−アルギニン−ロイシン−グルタミン−ロイシンであった。
【0057】
【実験4 耐熱性トレハロース遊離酵素によるトレハロースの生成】
【実験4−1 非還元性糖質生成酵素の調製】
500ml容三角フラスコにマルトース2.0%(w/v)、ペプトン0.5%(w/v)、酵母エキス0.1%(w/v)、リン酸水素二ナトリウム0.1%及びリン酸二水素カリウム0.1%を含む液体培地(pH7.0)を100mlずつとり、120℃で20分間オートクレーブして滅菌した。冷却後、三角フラスコ内の液体培地にリゾビウム・スピーシーズM−11(FERM BP−4130)を植菌し、回転振盪下、27℃で24時間種培養した。別途、30l容ファーメンターに同組成の液体培地を20lとり、滅菌後、上記で得た種培養液を1v/v%接種し、液体培地をpH6乃至8に保ちつつ、30℃で72時間通気撹拌培養した。培養物を大日本製薬株式会社製超高圧菌体破砕装置『ミニラボ』で処理し、含まれる菌体を破砕した。遠心分離により不溶物を除去後、硫安分画、DEAE−トヨパールを用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー、ブチルトヨパールを用いた疎水カラムクロマトグラフィー、トヨパールHW−55を用いたゲル瀘過カラムクロマトグラフィーを行って精製したところ、比活性195単位/mg蛋白質の非還元性糖質生成酵素が、培養1l当たりに換算して、約220単位の収量で得られた。
【0058】
なお、リゾビウム・スピーシーズM−11由来非還元性糖質生成酵素の活性測定は、実験2の測定条件のうち、50mM酢酸緩衝液(pH5.5)を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に、反応温度を60℃を40℃に代えて行った。
【0059】
【実験4−2 末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質の調製】
マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース及びマルトヘプタオースから選ばれる還元性澱粉部分分解物の20%水溶液に実験4−1の方法で得られた非還元性糖質生成酵素を基質固形物グラム当たりそれぞれ2単位の割合で加え、40℃、pH7.0で48時間作用させた後、常法に従って、加熱失活、瀘過、脱色、脱塩、濃縮し、東京有機化学工業株式会社製ナトリウム型強酸性カチオン交換樹脂『XT−1016』(架橋度4%)を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィーを行った。樹脂を内径2.0cm、長さ1mのジャッケト付ステンレス製カラム3本に充填し、直列につなぎ、カラム内温度を55℃に維持しつつ、反応糖液を樹脂に対して5v/v%加え、これに55℃の温水をSV0.13で流して分画し、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質の純度95%以上の画分を回収した。回収した画分に水酸化ナトリウムを0.1Nになるように加え、100℃で2時間加熱して残存する還元性糖質を分解した。この溶液を活性炭にて脱色し、H型、OH型、イオン交換樹脂で脱塩し、純度99.0%以上のα−グルコシルトレハロース、α−マルトシルトレハロース、α−マルトトリオシルトレハロース、α−マルトテトラオシルトレハロース、α−マルトペンタオシルトレハロースの非還元性糖質標品を調製した。
【0060】
【実験4−3 耐熱性トレハロース遊離酵素による非還元性糖質からのトレハロースの生成】
実験4−2の方法で得られた5種の非還元性糖質の5%水溶液を調製し、それぞれに実験2で得られた耐熱性トレハロース遊離酵素を基質固形物グラム当たり2単位の割合で加え、60℃、pH5.5で48時間作用させた後、脱塩し、和光純薬工業株式会社製カラム『ワコービーズ WB−T−330』を用いた高速液体クロマトグラフィーで反応生成物を分析した。対照として、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオースに耐熱性トレハロース遊離酵素を同様に作用させ、高速液体クロマトグラフィーで分析した。それらの結果を表3示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3の結果から明らかなように、
(1) 耐熱性トレハロース遊離酵素は、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質のトレハロース部分とグリコシル部分との間の結合を特異的に加水分解し、トレハロースとグルコース重合度が1以上の還元性糖質とを生成する。(2) マルトオリゴ糖は、耐熱性トレハロース遊離酵素によって全く作用をうけない。
【0063】
これらの結果から、本発明の耐熱性トレハロース遊離酵素は、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質のトレハロース部分とその他のグリコシル部分との間の結合を極めて特異的に加水分解し、トレハロースを遊離する全く新しい作用機構の酵素であると判断される。
【0064】
【実験5 還元性澱粉部分分解物からのトレハロースの調製】
5%ワキシーコーンスターチ懸濁液を加熱糊化させた後、pH4.5、温度50℃に調整し、これにイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を澱粉グラム当たり4000単位の割合になるように加え、20時間反応させた。その反応液をオートクレーブ(120℃、10分間)し、次いで60℃に冷却し、これを東ソー株式会社製カラム『トヨパールカラムHW50』を用いたゲル瀘過クロマトグラフィー(ゲル量750ml)でグルコース重合度37乃至11の還元性澱粉部分分解物を分離した。
【0065】
得られた還元性澱粉部分分解物、又はグルコース重合度3のマルトトリオースを、10mMリン酸緩衝液(pH5.5)で1%濃度に調整し、これに実験2の方法で調製した精製耐熱性非還元性糖質生成酵素標品及び精製耐熱性トレハロース遊離酵素標品をそれぞれ基質固形物当たり4単位の割合で加え、60℃で24時間作用させた後、一部を採り、脱塩し、高速液体クロマトグラフィーで反応生成物を分析した。残りの反応液は、更に、50℃、pH4.5に調整した後、グルコアミラーゼ(生化学工業株式会社製)を基質固形物当たり50単位の割合で加え、10時間作用させ、同様に脱塩し、高速液体クロマトグラフィーで反応生成物を分析した。それらの結果を表4に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
表4に示すように、耐熱性非還元性糖質生成酵素及び耐熱性トレハロース遊離酵素を作用させた後のトレハロース生成率は、グルコース重合度3のマルトトリオースでは2.2%と低い値であったが、グルコース重合度10.8乃至36.8の澱粉部分分解物では63.3乃至81.2%の高い値が得られた。また、グルコース重合度が高い程、得られるトレハロース純度が高いことも判明した。更に、グルコアミラーゼで残存する末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質をトレハロースとグルコースとに分解することにより、生成するトレハロース純度がより高まることも判明した。
【0068】
【実験6 他のスルフォロブス属微生物由来の耐熱性トレハロース遊離酵素の生産とその性質】
スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909に代えて、スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC49426、スルフォロブス・ソルファタリカス ATCC35091、スルフォロブス・ソルファタリカス ATCC35092を用いた以外は、実験1と同様にファーメンターで42時間培養した。それぞれの培養液約170lから菌体を回収し、実験2の方法に準じて、超音波処理し、その上清を硫安塩析、透析し、イオン交換カラムクロマトグラフィーと疎水カラムクロマトグラフィーし、得られた部分精製酵素標品の性質を調べた。これらの結果を、前述のスルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909の場合とともに表5にまとめた。
【0069】
【表5】
【0070】
また、これらの部分精製酵素を用いて、実験4−3の方法に従って、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質からのトレハロース調製の実験を行ったところ、スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909由来の耐熱性トレハロース遊離酵素の場合と同様に、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質からのトレハロースを遊離することが判明した。
【0071】
以下、本発明の耐熱性トレハロース遊離酵素の製造方法とそれを利用したトレハロース及びそれを含む糖質の製造方法を実施例Aで、トレハロース及びそれを含む糖質を含有せしめた組成物を実施例Bで示す。
【0072】
【実施例A−1】
スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909を実験1の方法に準じて、ファーメンターで約42時間培養した。培養後、SF膜を用いて菌体を濃縮し、約5lの菌体懸濁液を回収し、更に、その懸濁液をミニラボで処理し、含まれる菌体を破砕した。処理液を遠心分離し、約4.8lの遠心上清を得た。この上清に飽和度約0.7になるように硫安を加え、酵素を塩析し、遠心分離で沈殿物を回収し、10mMトリス・塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解後、同緩衝液に対して透析した。続いて、同緩衝液で平衡化した三菱化成工業株式会社製ゲル『セパビーズ FP−DA13』を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル容量約2l)を5回行った。吸着した酵素を0Mから0.5M食塩濃度のリニアグラジエントで溶出させ、0.15M食塩濃度付近で溶出した酵素活性画分を回収した後、UF膜で濃縮し、耐熱性非還元性糖質生成酵素(32.6単位/ml)と耐熱性トレハロース遊離酵素(58.5単位/ml)を含む濃縮酵素液約300mlを回収した。次いで、両酵素活性画分を1M硫酸アンモニウムを含む同緩衝液に対して透析し、その透析液を遠心分離し、不溶物を除去し、得られる上清をブチルトヨパール 650を用いた疎水性カラムクロマトグラフィー(ゲル量350ml)を5回行い、耐熱性非還元性糖質生成酵素と耐熱性トレハロース遊離酵素を分離した。15%とうもろこし澱粉乳に最終濃度0.1重量%となるように炭酸カルシウムを加えた後、pH6.0に調整し、これにノボ社製α−アミラーゼ『ターマミール60L』を澱粉グラム当たり0.2重量%になるよう加え、95℃で15分間反応させた。その反応液をオートクレーブ(2kg/cm2)を30分間行った後、58℃に冷却し、pHを5.5に調製し、こ れにイソアミラーゼを澱粉グラム当たり2,000単位、上記調製の耐熱性非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり0.5単位、耐熱性トレハロース遊離酵素を澱粉グラム当たり0.5単位加え、96時間反応させた。その反応液を97℃で30分間保った後、冷却し、瀘過して得られる瀘液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度60%のシラップを固形物当たり約93%で得た。本品は固形物当たりトレハロースを71.2%、グルコシルトレハロースを3.0%、マルトシルトレハロースを1.3%、グルコースを2.9%、マルトースを11.1%、マルトトリオースを8.5%及びマルトテトラオース以上のマルトオリゴ糖を2.0%を含有しており、まろやかで上品な甘味、低い還元性、低い粘度、適度の保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0073】
【実施例A−2】
実施例A−1の方法で得られた糖液を原糖液とし、トレハロースの含量を高めるため、東京有機化学工業株式会社製ナトリウム型強酸性カチオン交換樹脂『XT−1016』を用いたカラム分画を行った。樹脂を内径5.4cmのジャケット付ステンレス製カラム4本に充填し、直列につなぎ樹脂層全長20mとした。カラム内温度を55℃に維持しつつ、糖液を樹脂に対して5v/v%加え、これに55℃の温水をSV0.13で流して分画し、グルコース、マルトース及びマルトトリオースなどの夾雑糖類を除去し、トレハロース高含有画分を採取した。更に、精製、濃縮し、真空乾燥し、粉砕して、トレハロース高含有粉末を固形物当たり約57%で得た。本品はトレハロースを97%含有しており、極めて低い還元性、まろやかで上品な甘味を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0074】
【実施例A−3】
実施例A−2方法で得られたトレハロース高含有画分を、常法に従って、活性炭で脱色しイオン交換樹脂により脱塩して精製した溶液を濃度約70%に濃縮した後、助晶機にとり、種晶としてトレハロース含水結晶約2%を加えて徐冷し、晶出率約45%のマスキットを得た。本マスキットを乾燥塔上のノズルより150kg/cm2の高圧にて噴霧した。これと同時に85℃の熱風を乾燥塔の上部 より送風し、底部に設けた移送金網コンベア上に結晶粉末を捕集し、コンベアの下より45℃の温風を送りつつ、該粉末を乾燥塔外に徐々に移動させて、取り出した。この結晶粉末を熟成塔に充填して温風を送りつつ、10時間熟成させ、結晶化と乾燥を完了し、トレハロース含水結晶粉末を、原料のトレハロース高含有糖液に対して固形物当たり約90%の収率で得た。本品は、実質的に吸湿性を示さず、取扱いが容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0075】
【実施例A−4】
実施例A−2の方法で得られたトレハロース高含有画分を、実施例A−3と同様に精製し、次いで蒸発釜にとり、減圧下で煮詰め、水分約3.0%のシラップとした。次いで助晶機に移し、これに種晶として無水結晶トレハロースをシラップ固形物当たり1%加え、120℃で5分間撹拌助晶し、次いで、アルミ製バットに取り出し、100℃で6時間晶出熟成させてブロックを調製した。次いで、本ブロックを切削機にて粉砕し、流動乾燥して、水分0.3%の無水結晶トレハロース粉末を、原料のトレハロース高含有糖液に対して約85%の収率で得た。本品は、食品、化粧品、医薬品、その原材料、又は加工中間物などの含水物の脱水剤としてのみならず、上品な甘味を有する白色粉末甘味料としても、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0076】
【実施例A−5】
スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909の変異株を実施例A−1の方法に準じて、ファーメンターで約42時間培養した。培養後、SF膜を用いて菌体を濃縮し、約5lの菌体懸濁液を回収し、更に、その懸濁液をミニラボで処理し、含まれる菌体を破砕した。処理液を遠心分離し、約4.8lの遠心上清を得た。この上清に飽和度約0.7になるように硫安を加え、酵素を塩析し、遠心分離で沈殿物を回収し、10mMリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解後、同緩衝液に対して透析し、耐熱性非還元性糖質生成酵素(約15単位/ml)と耐熱性トレハロース遊離酵素(約12単位/ml)を含む酵素液約600mlを回収した。次いで、疎水性カラムクロマトグラフィーを行い耐熱性非還元性糖質生成酵素を5850単位、耐熱性トレハロース遊離酵素を3960単位回収した。馬鈴薯澱粉1重量部に水6重量部とナガセ生化学工業株式会社製α−アミラーゼ『ネオスピターゼ』0.01重量部とを加え、撹拌混合し、この懸濁液のpHを6.2に調整した後、85乃至90℃に保ち、澱粉の糊化・液化を行い、その液化液を120℃で10分間加熱してα−アミラーゼを失活させた後、60℃に冷却し、pHを5.5に調整し、これに、あらかじめ透析し添加されていたスクロースを除き、UF膜濃縮したノボ・ノルデイスク・バイオインダストリー株式会社販売プルラナーゼ『プロモザイム 200L』を澱粉グラム当たり500単位、及び上記の方法で調製した耐熱性非還元性糖質生成酵素を澱粉グラム当たり1単位、耐熱性トレハロース遊離酵素を澱粉グラム当たり1単位加え72時間反応させた。その反応液を97℃で30分間して酵素を失活させた後、50℃、pH5.0に調整し、ナガセ生化学工業株式会社製グルコアミラーゼ『グルコチーム』を澱粉グラム当たり10単位加えて24時間反応させ、次いで加熱して酵素を失活させた。本溶液を、常法に従って、活性炭で脱色し、イオン交換樹脂により脱塩し、濃度約60%に濃縮した。本糖液中には固形物当たり79.5%のトレハロースを含有していた。イオン交換樹脂として、オルガノ株式会社販売ナトリウム型強酸性カチオン交換樹脂『C6000』を用いた以外は、実施例A−2の方法に従ってカラムクロマトグラフィーを行い、トレハロース高含有画分を採取した。本高含有液は、固形物当たり約95%のトレハロースを含有していた。本溶液を濃度75%に濃縮した後、助晶機にとり、種晶としてトレハロース含水結晶約2%を加えて撹拌助晶し、次いで、プラスチック製バットに取り出し、室温で3日間放置し晶出熟成させてブロックを調製した。次いで、本ブロックを切削機にて粉砕してトレハロース含水結晶粉末を、原料澱粉に対して固形物当たり約70%の収率で得た。本品は、実質的に吸湿性を示さず、取扱いが容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0077】
【実施例A−6】
スルフォロブス・ソルファタリカス ATCC35091を実験1の方法に準じて、ファーメンターで約42時間培養した。培養後、実施例A−1の方法に準じて、SF膜濃縮し、菌体破砕し、その遠心上清を硫安塩析し、塩析物を透析後、イオン交換カラムクロマトグラフィーを行い、酵素活性画分を回収した後、UF膜で濃縮し、耐熱性非還元性糖質生成酵素(26.4単位/ml)と耐熱性トレハロース遊離酵素(57.5単位/ml)を含む濃縮酵素液約150mlを回収した。次いで、疎水性カラムクロマトグラフィーを行い、耐熱性非還元性糖質生成酵素2650単位と耐熱性トレハロース遊離酵素を5950単位回収した。濃度6%の馬鈴薯澱粉乳を加熱糊化させた後、pH4.5、温度50℃に調整し、これにイソアミラーゼを澱粉グラム当たり500単位の割合になるように加え、20時間反応させた。その反応液をpH6.5に調整し、オートクレーブ(120℃)を10分間行い、次いで95℃に冷却し、これにノボ社製α−アミラーゼ『ターマミール60L』を澱粉グラム当たり0.1%重量部の割合になるよう加え、15分間反応させた。その反応液をオートクレーブ(130℃)を30分間行った後、65℃に冷却し、これに上記調製の非還元性糖質生成酵素酵素を澱粉グラム当たり1単位、トレハロース遊離酵素を含む濃縮液を澱粉グラム当たり1単位加え、72時間反応させた。その反応液を97℃で30分間保った後、50℃、pH5.0に調整し、グルコチームを澱粉グラム当たり10単位加えて24時間反応させ、次いで加熱して酵素を失活させた。本溶液を、常法に従って、活性炭で脱色し、イオン交換樹脂により脱塩し、濃度約60%に濃縮した。本糖液中には固形物当たり80.9%のトレハロースを含有していた。本溶液を濃度約84%に濃縮した後、助晶機にとり、種晶としてトレハロース含水結晶約2%を加えて撹拌助晶し、次いで、プラスチック製バットに取り出し、室温で3日間放置し晶出熟成させてブロックを調製した。次いで、本ブロックを切削機にて粉砕してトレハロース含水結晶粉末を、原料澱粉に対して固形物当たり約90%の収率で得た。本品は、実質的に吸湿性を示さず、取扱いが容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0078】
【実施例B−1 甘味料】
実施例A−3の方法で得たトレハロース含水結晶粉末1重量部に、東洋精糖株式会社販売α−グリコシルステビオシド『αGスイート』0.01重量部及び味の素株式会社製L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル『アスパルテーム』0.01重量部を均一に混合し、顆粒成型機にかけて、顆粒状甘味料を得た。本品は、甘味の質が優れ、蔗糖の約2.5倍の甘味度を有し、甘味度当たりカロリーは、蔗糖の約1/2.5に低下している。本甘味料は、それに配合した高甘味度甘味物の分解もなく、安定性に優れており、低カロリー甘味料として、カロリー摂取を制限している肥満者、糖尿病者などのための低カロリー飲食物などに対する甘味付けに好適である。また、本甘味料は、不溶性グルカンの生成も少ないことより、虫歯を抑制する飲食物などに対する甘味付けにも好適である。
【0079】
【実施例B−2 ハードキャンディー】
濃度55%蔗糖溶液100重量部に実施例A−1の方法で得たトレハロース含有シラップ30重量部を加熱混合し、次いで減圧下で水分2%未満になるまで加熱濃縮し、これにクエン酸1重量部及び適量のレモン香料と着色料とを混和し、常法に従って成型し、製品を得た。本品は、歯切れ、呈味良好で、蔗糖の晶出も起こらない高品質のハードキャンデーである。
【0080】
【実施例B−3 チューインガム】
ガムベース3重量部を柔らかくなる程度に加熱溶融し、これに蔗糖4重量部及び実施例A−3の方法で得たトレハロース含水結晶粉末3重量部とを加え、更に適量の香料と着色料とを混合し、常法に従って、ロールにより練り合わせ、成形、包装して製品を得た。本品は、テクスチャー、風味とも良好なチューインガムである。
【0081】
【実施例B−4 加糖練乳】
原乳100重量部に実施例A−1の方法で得たトレハロース含有シラップ3重量部及び蔗糖1重量部を溶解し、プレートヒーターで加熱殺菌し、次いで濃度70%に濃縮し、無菌状態で缶詰して製品を得た。本品は、温和な甘味で、風味もよく、乳幼児食品、フルーツ、コーヒー、ココア、紅茶などの調味用に有利に利用できる。
【0082】
【実施例B−5 乳酸菌飲料】
脱脂粉乳175重量部、実施例A−1の方法で得たトレハロース含有シラップ130重量部及び特開平4−281795号公報で開示されているラクトスクロース高含有粉末50重量部を水1,150重量部に溶解し、65℃で30分間殺菌し、40℃に冷却後、これに、常法に従って、乳酸菌のスターターを30重量部植菌し、37℃で8時間培養して乳酸菌飲料を得た。本品は、風味良好な乳酸菌飲料である。また、本品は、オリゴ糖を含有し、乳酸菌を安定に保持するだけでなく、ビフィズス菌増殖促進作用をも有する。
【0083】
【実施例B−6 粉末ジュース】
噴霧乾燥により製造したオレンジ果汁粉末33重量部に対して、実施例A−2の方法で得たトレハロース高含有粉末50重量部、蔗糖10重量部、無水クエン酸0.65重量部、リンゴ酸0.1重量部、L−アスコルビン酸0.1重量部、クエン酸ソーダ0.1重量部、プルラン0.5重量部、粉末香料適量をよく混合撹拌し、粉砕し微粉末にしてこれを流動層造粒機に仕込み、排風温度40℃、風量150m3とし、これに、実施例A−1の方法で得たトレハロース含有シラッ プをバインダーとしてスプレーし、30分間造粒し、計量、包装して製品を得た。本品は、果汁含有率約30%の粉末ジュースである。また、本品は異味、異臭がなく、長期に安定であった。
【0084】
【実施例B−7 カスタードクリーム】
コーンスターチ100重量部、実施例A−1の方法で得たトレハロース含有シラップ100重量部、マルトース80重量部、蔗糖20重量部及び食塩1重量部を充分に混合し、鶏卵280重量部を加えて撹拌し、これに沸騰した牛乳1,000重量部を徐々に加え、更に、これを火にかけて撹拌を続け、コーンスターチが完全に糊化して全体が半透明になった時に火を止め、これを冷却して適量のバニラ香料を加え、計量、充填、包装して製品を得た。本品は、なめらかな光沢を有し、温和な甘味で美味である。
【0085】
【実施例B−8 ういろうの素】
米粉90重量部に、コーンスターチ20重量部、蔗糖40重量部、実施例A−3の方法で得たトレハロース含水結晶粉末80重量部及びプルラン4重量部を均一に混合してういろの素を製造した。ういろうの素と適量の抹茶と水とを混練し、これを容器に入れて60分間蒸し上げて抹茶ういろうを製造した。本品は、照り、口当りも良好で、風味も良い。また、澱粉の老化も抑制され、日持ちも良い。
【0086】
【実施例B−9 あん】
原料あずき10重量部に、常法に従って、水を加えて煮沸し、渋切り、あく抜きして、水溶性夾雑物を除去して、あずきつぶあん約21重量部を得た。この生あんに、蔗糖14重量部、実施例A−1の方法で得たトレハロース含有シラップ5重量部及び水4重量部を加えて煮沸し、これに少量のサラダオイルを加えてつぶあんをこわさないように練り上げ、製品のあんを約35重量部得た。本品は、色焼けもなく、舌ざわりもよく、風味良好で、あんパン、まんじゅう、だんご、もなか、氷菓などのあん材料として好適である。
【0087】
【実施例B−10 パン】
小麦粉100重量部、イースト2重量部、砂糖5重量部、実施例A−2の方法で得たトレハロース含有粉末1重量部及び無機フード0.1重量部を、常法に従って、水でこね、中種を26℃で2時間発酵させ、その後30分間熟成し、焼き上げた。本品は、色相、すだちとも良好で適度な弾力、温和な甘味を有する高品質のパンである。
【0088】
【実施例B−11 ハム】
豚もも肉1,000重量部に食塩15重量部及び硝酸カリウム3重量部を均一にすり込んで、冷室に1昼夜堆積する。これを水500重量部、食塩100重量部、硝酸カリウム3重量部、実施例A−6の方法で得たトレハロース含水結晶粉末40重量部及び香辛料からなる塩漬液に冷室で7日間漬け込み、次いで、常法に従って、冷水で洗浄し、ひもで巻き締め、燻煙し、クッキングし、冷却包装して製品を得た。本品は、色合いもよく、風味良好な高品質のハムである。
【0089】
【実施例B−12 粉末ペプチド】
不二製油株式会社製40%食品用大豆ペプチド溶液『ハイニュートS』1重量部に、実施例A−6の方法で得たトレハロース含水結晶粉末2重量部を混合し、プラスチック製バットに入れ、50℃で減圧乾燥し、粉砕して粉末ペプチドを得た。本品は、風味良好で、プレミックス、冷菓などの製菓用材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などの離乳食、治療用栄養剤などとしても有利に利用できる。
【0090】
【実施例B−13 粉末味噌】
赤味噌1重量部に実施例A−4の方法で得た無水結晶トレハロース粉末3重量部を混合し、多数の半球状凹部を設けた金属板に流し込み、これを室温下で一夜静置して固化し、雛形して1個当たり約4グラムの固形味噌を得、これを粉砕機にかけて粉末味噌を得た。本品は、即席ラーメン、即席吸物などの調味料として有利に利用できる。また、固形味噌は、固形調味料としてだけでなく味噌菓子などとして利用できる。
【0091】
【実施例B−14 粉末卵黄】
生卵から調製した卵黄をプレート式加熱殺菌機で60乃至64℃で殺菌し、得られる液状卵黄1重量部に対して、実施例A−4の方法で得た無水結晶トレハロース粉末4重量部の割合で混合した後バットに移し、一夜放置して、トレハロース含水結晶に変換させてブロックを調製した。本ブロックを切削機にかけて粉末化し、粉末卵黄を得た。本品は、プレミックス、冷菓、乳化剤などの製菓用材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などの離乳食、治療用栄養剤などとしても有利に利用できる。また、美肌剤、育毛剤などとしても有利に利用できる。
【0092】
【実施例B−15 化粧用クリーム】
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2重量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5重量部、実施例A−2の方法で得たトレハロース高含有粉末2重量部、α−グリコシル ルチン1重量部、流動パラフィン1重量部、トリオクタン酸グリセリン10重量部及び防腐剤の適量を常法に従って加熱溶解し、これにL−乳酸2重量部、1,3−ブチレングリコール5重量部及び精製水66重量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて撹拌混合しクリームを製造した。本品は、抗酸化性を有し、安定性が高く、高品質の日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして有利に利用できる。
【0093】
【実施例B−16 粉末薬用人参エキス】
薬用人参エキス0.5重量部に実施例A−4の方法で得た無水結晶トレハロース粉末1.5重量部を混捏した後、バットに移し、2日間放置してトレハロース含水結晶に変換させブロックを調製した。本ブロックを切削機にかけて粉末化し、分級して粉末薬用人参エキスを得た。本品を適量のビタミンB1及びビタミンB2粉末とともに顆粒成型機にかけ、ビタミン含有顆粒状薬用人参エキスとした。本品は、疲労回復剤、強壮、強精剤などとして有利に利用できる。また、育毛剤などとしても利用できる。
【0094】
【実施例B−17 固体製剤】
ヒト天然型インターフェロン−α標品(株式会社林原生物化学研究所製)を、常法に従って、固定化抗ヒトインターフェロン−α抗体カラムにかけ、該標品に含まれるヒト天然型インターフェロン−αを吸着させ、安定剤である牛血清アルブミンを素通りさせて除去し、次いで、pHを変化させて、ヒト天然型インターフェロン−αを実施例A−2の方法で得たトレハロース高含有粉末を5%含有する生理食塩水を用いて溶出した。本液を精密濾過し、約20倍量の株式会社林原商事販売無水結晶マルトース粉末『ファイントース』に加えて脱水、粉末化し、これを打錠機にて打錠し、1錠(約200mg)当たりヒト天然型インターフェロン−αを約150単位含有する錠剤を得た。本品は、舌下錠などとして、一日当たり、大人1乃至10錠程度が経口的に投与され、ウイルス性疾患、アレルギー性疾患、リューマチ、糖尿病、悪性腫瘍などの治療に有利に利用できる。とりわけ、近年、患者数の急増しているエイズ、肝炎などの治療剤として有利に利用できる。本品は、トレハロースと共にマルトースが安定剤として作用し、室温でも放置してもその活性を長期間よく維持する。
【0095】
【実施例B−18 糖衣錠】
重量150mgの素錠を芯剤とし、これに実施例A−3の方法で得たトレハロース含水結晶粉末40重量部、プルラン(平均分子量20万)2重量部、水30重量部、タルク25重量部及び酸化チタン3重量部からなる下掛け液を用いて錠剤重量が約230mgになるまで糖衣し、次いで、同じトレハロース含水結晶粉末65重量部、プルラン1重量部及び水34重量部からなる上掛け液を用いて、糖衣し、更に、ロウ液で艶出しして光沢の在る外観の優れた糖衣錠を得た。本品は、耐衝撃性にも優れており、高品質を長期間維持する。
【0096】
【実施例B−19 練歯磨】
配合
第2リン酸カルシウム 45.0%
プルラン 2.95%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5%
グリセリン 20.0%
ポリオキシエチレンソルビタンラウレート 0.5%
防腐剤 0.05%
実施例B−3に方法で得たトレハロース含水結晶粉末 12.0%
マルチトール 5.0%
水 13.0%
上記の材料を常法に従って混合し、練歯磨を得た。本品は、適度の甘味を有しており、特に子供用練歯磨として好適である。
【0097】
【実施例B−20 流動食用固体製剤】
実施例A−3の方法で製造したトレハロース含水結晶粉末500重量部、粉末卵黄270重量部、脱脂粉乳209重量部、塩化ナトリウム4.4重量部、塩化カリウム1.8重量部、硫酸マグネシウム4重量部、チアミン0.01重量部、アスコルビン酸ナトリウム0.1重量部、ビタミンEアセテート0.6重量部及びニコチン酸アミド0.04重量部からなる配合物を調製し、この配合物25グラムずつ防湿性ラミネート小袋に充填し、ヒートシールして製品を得た。本品は、1袋分を約150乃至300mlの水に溶解して流動食とし、経口的、又は鼻腔、胃、腸などへ経管的使用方法により利用され、生体へのエネルギー補給用に有利に利用できる。
【0098】
【実施例B−23 外傷治療用膏薬】
実施例A−3の方法で製造したトレハロース含水結晶粉末200重量部及びマルトース300重量部に、ヨウ素3重量部を溶解したメタノール50重量部を加え混合し、更に10w/v%プルラン水溶液200重量部を加えて混合し、適度の延び、付着性を示す外傷治療用膏薬を得た。本品は、ヨウ素による殺菌作用のみならず、トレハロースによる細胞へのエネルギー補給剤としても作用することから、治癒期間が短縮され、創面もきれいに治る。
【0099】
【発明の効果】
上記から明らかなように、本発明の新規耐熱性トレハロース遊離酵素は、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質からトレハロースを遊離し、熱安定性も優れており、また、還元性澱粉部分分解物に耐熱性非還元性糖質生成酵素とともに作用させることによって、雑菌汚染の少ない55℃を越える高温で、高収率でトレハロースを生成する。そのトレハロースの分離、精製も容易であり、このようにして得られるトレハロース及びそれを含む糖質は安定性に優れ、良質で上品な甘味を有している。また、経口摂取により消化吸収され、カロリー源となる。トレハロース及びそれを含む糖質は甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0100】
従って、本発明の確立は、安価で無限の資源である澱粉に由来する澱粉部分分解物から、従来、望むべくして容易に得られなかったトレハロース及びそれを含む糖質を工業的に大量かつ安価に供給できる全く新しい道を拓くこととなり、それが与える影響の大きさは、澱粉科学、酵素科学、生化学などの学問分野は言うに及ばず、産業界、とりわけ食品、化粧品、医薬品分野は勿論のこと、農水畜産業、化学工業にも及び、これら産業界に与える工業的意義は計り知れないものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】DEAE−トヨパールからの本発明の耐熱性トレハロース遊離酵素と非還元性糖質生成酵素の溶出パターンを示す図である。
【図2】本発明の耐熱性トレハロース遊離酵素の酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図3】本発明の耐熱性トレハロース遊離酵素の酵素活性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図4】本発明の耐熱性トレハロース遊離酵素の安定性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図5】本発明の耐熱性トレハロース遊離酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示す図である。
Claims (20)
- 末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質のトレハロース部分とそれ以外のグリコシル部分との間の結合を特異的に加水分解し、55℃を超える温度で酵素反応可能な、スルフォロブス属に属する微生物から得ることのできる、SDS−ゲル電気泳動法による分子量が約54,000乃至64,000ダルトンである耐熱性トレハロース遊離酵素。
- グリコシル部分が、重合度1以上のグルコース残基から構成されている請求項1記載の耐熱性トレハロース遊離酵素。
- 耐熱性が、pH7.0、60分間保持で85℃付近まで安定であることを特徴とする請求項1又は2記載の耐熱性トレハロース遊離酵素。
- 下記の理化学的性質を有し、スルフォロブス属に属する微生物から得ることのできる、耐熱性トレハロース遊離酵素;
(1)作用
末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質のトレハロース部分とそれ以外のグリコシル部分との間の結合を特異的に加水分解してトレハロースを遊離する。
(2) 分子量
SDS−ゲル電気泳動法により、約54,000乃至64,000ダルトン。
(3) 等電点
アンフォライン含有電気泳動法により、pI約5.6乃至6.6。
(4) 至適温度
pH6.0、30分間反応で、75℃付近。
(5) 至適pH
60℃、30分間反応で、pH約5.5乃至6.0。
(6) 温度安定性
pH7.0、60分間保持で、85℃付近まで安定。
(7) pH安定性
25℃、16時間保持で、pH約4.5乃至9.5。 - 請求項1乃至4のいずれかに記載の耐熱性トレハロース遊離酵素産生能を有するスルフォロブス属に属する微生物を栄養培地中で培養し、得られる培養物から該耐熱性トレハロース遊離酵素を採取することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の耐熱性トレハロース遊離酵素の製造方法。
- スルフォロブス属に属する微生物が、スルフォロブス・アシドカルダリウス(ATCC33909)、スルフォロブス・アシドカルダリウス (ATCC49426)、スルフォロブス・ソルファタリカス(ATCC35091)、又はスルフォロブス・ソルファタリカス(ATCC35092)である、請求項5記載の耐熱性トレハロース遊離酵素の製造方法。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の耐熱性トレハロース遊離酵素を、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の非還元性糖質に作用させてトレハロースを生成させ、生成したトレハロース、又は、これを含む糖質を採取することを特徴とする、トレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法。
- 還元性澱粉部分分解物に、下記に示す理化学的性質を有する非還元性糖質生成酵素と、請求項1乃至4のいずれかに記載の耐熱性トレハロース遊離酵素とを同時に作用させるか、これらの酵素をこの順序で作用させてトレハロースを生成させ、生成したトレハロース、又は、これを含む糖質を採取することを特徴とする、トレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法;
(1) 作用
グルコース重合度3以上の1種又は2種以上の還元性澱粉部分分解物から、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の1種又は2種以上の非還元性糖質を生成する。
(2) 分子量
SDS−ゲル電気泳動法により、約69,000乃至79,000ダルトン。
(3) 等電点
アンフォライン含有電気泳動法により、pI約5.4乃至6.4。
(4) 至適温度
pH5.5、60分間反応で、75℃付近。
(5) 至適pH
60℃、60分間反応で、pH5.0乃至5.5付近。
(6) 温度安定性
pH7.0、60分間保持で、85℃付近まで安定。
(7) pH安定性
25℃、16時間保持で、pH約4.0乃至9.5。 - 還元性澱粉部分分解物が、澱粉質を酵素又は酸によって部分的に加水分解して得られる還元性澱粉部分分解物である請求項8記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法。
- 酵素が、アミラーゼ及び/又は枝切酵素である請求項9記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法。
- 還元性澱粉部分分解物が、グルコース重合度3以上の1種又は2種以上の還元性澱粉部分分解物、澱粉液化物、デキストリン又はマルトオリゴ糖である請求項8乃至10のいずれかに記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法。
- 更にグルコアミラーゼを作用させることを特徴とする請求項7乃至11のいずれかに記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法。
- トレハロース、又は、これを含む糖質を採取するに際し、塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーを用いることを特徴とする請求項7乃至12のいずれかに記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法。
- トレハロースが、含水結晶又は無水結晶である請求項7乃至13のいずれかに記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法。
- 請求項7乃至14のいずれかに記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法により得られるトレハロース、又は、これを含む糖質を含有せしめることを特徴とする飲食物の製造方法。
- 請求項7乃至14のいずれかに記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法により得られるトレハロース、又は、これを含む糖質を含有せしめることを特徴とする化粧品の製造方法。
- 請求項7乃至14のいずれかに記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法により得られるトレハロース、又は、これを含む糖質を含有せしめることを特徴とする医薬品の製造方法。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の耐熱性トレハロース遊離酵素と、下記の理化学的性質を有する非還元性糖質生成酵素とを含んでなる酵素液;
(1) 作用
グルコース重合度3以上の1種又は2種以上の還元性澱粉部分分解物から、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の1種又は2種以上の非還元性糖質を生成する。
(2) 分子量
SDS−ゲル電気泳動法により、約69,000乃至79,000ダルトン。
(3) 等電点
アンフォライン含有電気泳動法により、pI約5.4乃至6.4。
(4) 至適温度
pH5.5、60分間反応で、75℃付近。
(5) 至適pH
60℃、60分間反応で、pH5.0乃至5.5付近。
(6) 温度安定性
pH7.0、60分間保持で、85℃付近まで安定。
(7) pH安定性
25℃、16時間保持で、pH約4.0乃至9.5。 - 請求項1乃至4のいずれかに記載の耐熱性トレハロース遊離酵素産生能と、下記に示す理化学的性質を有する非還元性糖質生成酵素産生能とを有するスルフォロブス属に属する微生物を栄養培地中で培養して、当該耐熱性トレハロース遊離酵素と当該非還元性糖質生成酵素とを生成させ、得られる培養物から当該耐熱性トレハロース遊離酵素及び当該非還元性糖質生成酵素を採取することを特徴とする、耐熱性トレハロース遊離酵素及び非還元性糖質生成酵素の製造方法;
(1) 作用
グルコース重合度3以上の1種又は2種以上の還元性澱粉部分分解物から、末端にトレハロース構造を有するグルコース重合度が3以上の1種又は2種以上の非還元性糖質を生成する。
(2) 分子量
SDS−ゲル電気泳動法により、約69,000乃至79,000ダルトン。
(3) 等電点
アンフォライン含有電気泳動法により、pI約5.4乃至6.4。
(4) 至適温度
pH5.5、60分間反応で、75℃付近。
(5) 至適pH
60℃、60分間反応で、pH5.0乃至5.5付近。
(6) 温度安定性
pH7.0、60分間保持で、85℃付近まで安定。
(7) pH安定性
25℃、16時間保持で、pH約4.0乃至9.5。 - スルフォロブス属に属する微生物が、スルフォロブス・アシドカルダリウス(ATCC33909)、スルフォロブス・アシドカルダリウス (ATCC49426)、スルフォロブス・ソルファタリカス(ATCC35091)、又はスルフォロブス・ソルファタリカス(ATCC35092)である、請求項19記載の耐熱性トレハロース遊離酵素及び非還元性糖質生成酵素の製造方法。
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