JP3552817B2 - 低損失酸化物磁性材料の製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、スイッチング電源等の各種電源用トランス材として用いられる低損失Mn−Zn系フェライトの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、各種電子機器の小型化、軽量化に伴い、スイッチング電源の小型化が図られ、トランス材に用いられるMn−Zn系フェライトの高性能化が著しく進んでいる。又、同時に、安価な製品とするための低コスト化の検討も進められている。
【0003】
一般に、フェライトの製造方法としては、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛の各粉末原料を、アトライターあるいはボールミル等で混合した後、ロータリーキルン、トンネル炉等で仮焼し、得られた仮焼粉をアトライター、パールミル、ボールミル等で解砕した後、スプレードライヤー等で造粒、乾燥した後、成形、焼成をして、Mn−Znフェライトコアを得る。
【0004】
フェライトの高性能化を図るため、使用する各種酸化物原料は、高純度な原料が用いられる。特に、酸化鉄原料に関しては、酸化鉄がフェライト全体の約7割を重量比で占めることから、高純度な原料を使用するのが一般的である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
フェライトは、含有する不純物の種類と量にその特性が大きく依存する。中でも、出発原料にP2O5を多量に含有する場合、特に著しい異常な結晶粒成長を引き起こし、磁気特性が著しく劣化する。又、Cr2O3,PbO,CuO等についても、多量に含有していると、フェライトの高特性化は困難となる。
【0006】
一般に、市販されている安価な酸化鉄原料中には、SiO2,CaO,P2O5,Cr2O3,PbO,CuO等の不純物が多量に含有するため、従来は、これら安価な酸化鉄原料を用い、高性能なMn−Znフェライトを得ることができなかった。このため、高性能なMn−Znフェライトの製造においては、高純度で、従って、高価格な酸化鉄原料を使用せざるを得ない状況であった。
【0007】
本発明の課題は、上述の欠点を解決し、不純物、特に、P2O5含有量の多い安価な酸化鉄原料を用いても、高性能で低コストなMn−Zn系フェライトを製造する方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、種々の検討を行った結果、P2O5を0.01〜0.1wt%含有した安価な酸化鉄原料粉末を用いた場合においても、主成分として52〜54mol%のFe2O3、33〜37mol%のMnO、及び残部にZnOを含有し、副成分として0.005〜0.020wt%のSiO2、及び0.02〜0.10wt%のCaOを必須化合物として含有し、更にカリウム複合酸化物であるアルミン酸カリウム又はチタン酸カリウムを、▲1▼アルミン酸カリウム単独では0〜0.07wt%(0を含まず)、チタン酸カリウム単独では0〜0.08wt%(0を含まず)の範囲で含有せしめる。あるいは、▲2▼両者を総量で0〜0.08wt%(0を含まず)の範囲で含有せしめることで、高性能なMn−Zn系フェライトが得られることを見い出したものである。
【0009】
ここで、副成分であるSiO2,CaO等は、結晶粒界の粒界相形成に不可欠であり、電気抵抗を高め、渦電流損失を低減せしめる効果を有するが、その量と種類を適度に選択して、その効果を最大限利用することが不可欠である。
【0010】
しかし、P2O5を多量に含有する酸化鉄原料を用いた場合、P2O5はCaOと反応し、複合酸化物を形成して、組織中の三重点に偏在する。このため、粒界相中のCaO量が激減することで、粒界相の形成度が低下して電気抵抗が低下し、渦電流損失の著しい増大を招く。又、P2O5が存在することによって、焼結体組織中に異常粒成長が発生する等、組織不整が生じ、ヒステリシス損失が著しく劣化する。上記のことから、P2O5を多く含有する酸化鉄原料を用いて高性能なMn−Zn系フェライトを得ることが非常に困難であった。
【0011】
本発明者は、K2Oを添加することで、上述した酸化鉄中のP2O5の悪影響を除去できることを見い出した。なお、添加手段として、K2O,KCl,K2CO3等を用いたK2O添加でも、P2O5含有に伴うフェライトへの悪影響を除去できることを確認したが、焼成過程において、蒸発・揮散してしまう等の問題を生じ、安定した特性及び品質を確保することが困難であるとの知見を得た。
【0012】
従って、本発明においては、カリウム複合酸化物であるアルミン酸カリウム及びチタン酸カリウムを用いた。これらの複合酸化物を用いると、▲1▼上述した問題点を解決できる上、粒成長挙動のコントロールがきわめて容易となり、異常粒成長等の組織不整のない結晶粒径の均一な組織が得られるため、ヒステリシス損失の低減が可能となり、▲2▼更に、結晶粒内に固溶するAl2O3及びTiO2を同時に含有することにより、P2O5を結晶粒内に固溶せしめ、三重点に偏在するP2O5とCaOの複合酸化物の形成を制御できることから、粒界相の形成度も向上し、渦電流損失の改善が容易となる。
【0013】
通常、電源トランス材は、60〜100℃程度の環境下で使用されるが、この温度範囲における損失は、負の温度特性を持つことが要求される。この損失の温度特性は、主成分であるFe2O3、MnO、及びZnOの組成比に強く依存するが、本発明におけるFe2O3;52〜54mol%、MnO;33〜37mol%、残部ZnOの組成範囲においては、上述した条件を満たし、かつ低損失なMn−Zn系フェライトが得られる。
【0014】
更に、SiO2を0.005〜0.020wt%、CaOを0.02〜0.10wt%としたのは、下限値以下では、粒界相がほとんど形成されず、渦電流損失が著しく増大するためであり、又、上限値を越えた領域においては、焼結体の組織制御が困難となり、損失が大きくなり、好ましくないためである。
【0015】
カリウム複合酸化物であるアルミン酸カリウムを0〜0.07wt%(0を含まず)、又はチタン酸カリウムを0〜0.08wt%(0を含まず)とした理由は、各添加物共に、上限値を越えて添加した場合には、粒成長の制御が困難となり、渦電流損失及びヒステリシス損失が共に増大するためである。
【0016】
又、アルミン酸カリウムとチタン酸カリウムの両者を共に添加する場合には、総量を0〜0.08wt%(0を含まず)とした。その理由は、0.08wt%を越えた領域では、やはり、粒成長の制御が困難であり、低損失化が図れないためである。
【0017】
酸化鉄中に含有されるP2O5量を0.01〜0.1wt%としたのは、0.01wt%以下の原料は、他の元素の不純物含有量も少ないため、フェライトの高特性化に適してはいるが、一般的に高価格であるため、本発明の目的にそぐわないためである。又、0.1wt%を越えた領域では、組織制御が困難となり、焼成条件の複雑化を招く等、本発明による低損失化が図れないためである。
【0018】
以上のように、本発明によれば、従来、使用が不可とされていた極めて安価な酸化鉄原料を用いた場合においても、通常の粉末冶金法により、安価で、かつ高性能を有するMn−Zn系フェライトを得ることができ、工業的にも極めて有益である。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る低損失酸化物磁性材料の製造方法の実施の形態を実施例によって詳述する。
【0020】
(実施例1)
市販されている酸化物鉄原料で、P2O5の含有量が、0.012,0.022,0.030,0.035,0.051,0.081,0.097,0.12wt%の原料を用いて、52.8Fe2O3−36.0MnO−11.2ZnOmol%となるよう、Mn3O4及びZnOの原料粉末と共にボールミルで混合し、これら得られた各混合粉末を、950℃の大気中で2時間仮焼した。次に、これら各仮焼粉末に対して、SiO2を0.015wt%、CaOを0.05wt%添加し、更に、アルミン酸カリウム(KAlO2)を0〜0.09wt%添加した後、ボールミルにて更に微粉砕(解砕)を行った。更に、ポリビニールアルコール(PVA)をバインダーとして0.5wt%添加し、スプレードライヤーにて乾燥、造粒した。得られた造粒体を、φ30×φ20×t10(mm)のトロイダル形状に加圧成形した後、温度が1200〜1400℃で、酸素濃度が0.5〜10%である窒素と酸素の混合気流中で焼成し、焼結体試料を得た。この試料により、測定温度100℃、周波数100kHz、動作磁束密度2000Gの条件で、コアロス(Pcv)を測定した。
【0021】
図1に、アルミン酸カリウム(KAlO2)の含有量をパラメータとしたFe2O3原料中のP2O5量とコアロス(Pcv)との関係を示す。図1より、P2O5が0.01〜0.10wt%のFe2O3原料を用いた場合には、0〜0.07wt%(0を含まず)の範囲でアルミン酸カリウムを添加することにより、コアロスが改善することがわかる。
【0022】
(実施例2)
実施例1と同様にして、但し、P2O5を0.035wt%含有する酸化鉄原料を用いて得られた仮焼粉末に、CaOを0.05wt%添加し、更に、チタン酸カリウム(K2TiO3)を0.04wt%添加し、SiO2を0.003〜0.025wt%の範囲で含有させ、その後の工程を実施例1と同様にして焼結体試料を作製した。
【0023】
図2に、SiO2含有量を変化させた時のコアロス(Pcv)を示す。図2に示す如く、SiO2含有量が0.005〜0.020wt%の範囲で優れたコアロス(Pcv)値を示すことがわかる。
【0024】
(実施例3)
実施例2で用いた仮焼粉末に、SiO2を0.015wt%、チタン酸カリウム(K2TiO3)を0.04wt%添加し、CaOを0.008〜0.14wt%の範囲で含有させ、その後の工程を実施例1と同様にして焼結体試料を作製した。
【0025】
図3に、CaO含有量とコアロス(Pcv)との関係を示す。図3より、CaO含有量が0.02〜0.10wt%の範囲で優れたコアロス(Pcv)値を示すことがわかる。
【0026】
(実施例4)
実施例2で用いた仮焼粉末に、SiO2を0.015wt%、CaOを0.05wt%添加し、更に、アルミン酸カリウム(KAlO2)を0〜0.09wt%、又はチタン酸カリウム(K2TiO3)を0〜0.10wt%の範囲で各々別々に添加し、その後、実施例1と同様の方法により焼結体試料を作製した。
【0027】
図4に、アルミン酸カリウム(KAlO2)及びチタン酸カリウム(K2TiO3)含有量とコアロス(Pcv)値との関係を示す。図中、実線がKAlO2添加の場合を、破線がK2TiO3の場合を示している。図4より、アルミン酸カリウム(KAlO2)では、0〜0.07wt%(0を含まず)、チタン酸カリウム(K2TiO3)では、0〜0.08wt%(0を含まず)の範囲となるように、アルミン酸カリウム、又はチタン酸カリウムを含有せしめることにより、優れたコアロス(Pcv)値を示すことがわかる。
【0028】
(実施例5)
実施例2で用いた仮焼粉末に、SiO2を0.015wt%、CaOを0.060wt%添加し、更に、アルミン酸カリウム(KAlO2)を0〜0.09wt%、及びチタン酸カリウム(K2TiO3)を0〜0.10wt%複合添加し、その後、実施例1と同様の方法でMn−Zn系フェライト焼結体を得た。
【0029】
表1に、アルミン酸カリウム(KAlO2)及びチタン酸カリウム(K2TiO3)量を変化させた時のコアロス(Pcv)値を示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1より、アルミン酸カリウム(KAlO2)とチタン酸カリウム(K2TiO3)の総量が0.08wt%以下では、優れたコアロス特性を示すことがわかる。
【0032】
【発明の効果】
以上、述べたように、P2O5を多量に含有する安価な酸化鉄原料を用いて低損失のMn−Zn系フェライトを得ようとする場合に、カリウム複合酸化物であるアルミン酸カリウム(KAlO2)又はチタン酸カリウム(K2TiO3)を、▲1▼アルミン酸カリウムでは0〜0.07wt%(0を含まず)、チタン酸カリウムでは0〜0.08wt%(0を含まず)の範囲で含有せしめる、あるいは、▲2▼総量で0〜0.08wt%(0を含まず)の範囲で含有せしめる、ことにより、優れたコアロス(Pcv)値を示すMn−Zn系フェライトが得られる。
【0033】
本発明によれば、従来ではほとんど使用されなかった安価な酸化鉄原料を用いて、優れた特性を有するMn−Zn系フェライトを得ることが可能となり、大幅なコスト低減が図れるので、工業的にも極めて有益である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1におけるアルミン酸カリウム(KAlO2)量をパラメータとしたFe2O3原料中のP2O5量とコアロス(Pcv)との関係を示す図。
【図2】実施例2におけるMn−Zn系フェライトコアのSiO2量とコアロス(Pcv)との関係を示す図。
【図3】実施例3におけるMn−Zn系フェライトコアのCaO量とコアロス(Pcv)との関係を示す図。
【図4】実施例4におけるMn−Zn系フェライトコアのアルミン酸カリウム(2KAlO2)及びチタン酸カリウム(K2TiO3)の各含有量とコアロス(Pcv)との関係を示す図。
【発明の属する技術分野】
本発明は、スイッチング電源等の各種電源用トランス材として用いられる低損失Mn−Zn系フェライトの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、各種電子機器の小型化、軽量化に伴い、スイッチング電源の小型化が図られ、トランス材に用いられるMn−Zn系フェライトの高性能化が著しく進んでいる。又、同時に、安価な製品とするための低コスト化の検討も進められている。
【0003】
一般に、フェライトの製造方法としては、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛の各粉末原料を、アトライターあるいはボールミル等で混合した後、ロータリーキルン、トンネル炉等で仮焼し、得られた仮焼粉をアトライター、パールミル、ボールミル等で解砕した後、スプレードライヤー等で造粒、乾燥した後、成形、焼成をして、Mn−Znフェライトコアを得る。
【0004】
フェライトの高性能化を図るため、使用する各種酸化物原料は、高純度な原料が用いられる。特に、酸化鉄原料に関しては、酸化鉄がフェライト全体の約7割を重量比で占めることから、高純度な原料を使用するのが一般的である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
フェライトは、含有する不純物の種類と量にその特性が大きく依存する。中でも、出発原料にP2O5を多量に含有する場合、特に著しい異常な結晶粒成長を引き起こし、磁気特性が著しく劣化する。又、Cr2O3,PbO,CuO等についても、多量に含有していると、フェライトの高特性化は困難となる。
【0006】
一般に、市販されている安価な酸化鉄原料中には、SiO2,CaO,P2O5,Cr2O3,PbO,CuO等の不純物が多量に含有するため、従来は、これら安価な酸化鉄原料を用い、高性能なMn−Znフェライトを得ることができなかった。このため、高性能なMn−Znフェライトの製造においては、高純度で、従って、高価格な酸化鉄原料を使用せざるを得ない状況であった。
【0007】
本発明の課題は、上述の欠点を解決し、不純物、特に、P2O5含有量の多い安価な酸化鉄原料を用いても、高性能で低コストなMn−Zn系フェライトを製造する方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、種々の検討を行った結果、P2O5を0.01〜0.1wt%含有した安価な酸化鉄原料粉末を用いた場合においても、主成分として52〜54mol%のFe2O3、33〜37mol%のMnO、及び残部にZnOを含有し、副成分として0.005〜0.020wt%のSiO2、及び0.02〜0.10wt%のCaOを必須化合物として含有し、更にカリウム複合酸化物であるアルミン酸カリウム又はチタン酸カリウムを、▲1▼アルミン酸カリウム単独では0〜0.07wt%(0を含まず)、チタン酸カリウム単独では0〜0.08wt%(0を含まず)の範囲で含有せしめる。あるいは、▲2▼両者を総量で0〜0.08wt%(0を含まず)の範囲で含有せしめることで、高性能なMn−Zn系フェライトが得られることを見い出したものである。
【0009】
ここで、副成分であるSiO2,CaO等は、結晶粒界の粒界相形成に不可欠であり、電気抵抗を高め、渦電流損失を低減せしめる効果を有するが、その量と種類を適度に選択して、その効果を最大限利用することが不可欠である。
【0010】
しかし、P2O5を多量に含有する酸化鉄原料を用いた場合、P2O5はCaOと反応し、複合酸化物を形成して、組織中の三重点に偏在する。このため、粒界相中のCaO量が激減することで、粒界相の形成度が低下して電気抵抗が低下し、渦電流損失の著しい増大を招く。又、P2O5が存在することによって、焼結体組織中に異常粒成長が発生する等、組織不整が生じ、ヒステリシス損失が著しく劣化する。上記のことから、P2O5を多く含有する酸化鉄原料を用いて高性能なMn−Zn系フェライトを得ることが非常に困難であった。
【0011】
本発明者は、K2Oを添加することで、上述した酸化鉄中のP2O5の悪影響を除去できることを見い出した。なお、添加手段として、K2O,KCl,K2CO3等を用いたK2O添加でも、P2O5含有に伴うフェライトへの悪影響を除去できることを確認したが、焼成過程において、蒸発・揮散してしまう等の問題を生じ、安定した特性及び品質を確保することが困難であるとの知見を得た。
【0012】
従って、本発明においては、カリウム複合酸化物であるアルミン酸カリウム及びチタン酸カリウムを用いた。これらの複合酸化物を用いると、▲1▼上述した問題点を解決できる上、粒成長挙動のコントロールがきわめて容易となり、異常粒成長等の組織不整のない結晶粒径の均一な組織が得られるため、ヒステリシス損失の低減が可能となり、▲2▼更に、結晶粒内に固溶するAl2O3及びTiO2を同時に含有することにより、P2O5を結晶粒内に固溶せしめ、三重点に偏在するP2O5とCaOの複合酸化物の形成を制御できることから、粒界相の形成度も向上し、渦電流損失の改善が容易となる。
【0013】
通常、電源トランス材は、60〜100℃程度の環境下で使用されるが、この温度範囲における損失は、負の温度特性を持つことが要求される。この損失の温度特性は、主成分であるFe2O3、MnO、及びZnOの組成比に強く依存するが、本発明におけるFe2O3;52〜54mol%、MnO;33〜37mol%、残部ZnOの組成範囲においては、上述した条件を満たし、かつ低損失なMn−Zn系フェライトが得られる。
【0014】
更に、SiO2を0.005〜0.020wt%、CaOを0.02〜0.10wt%としたのは、下限値以下では、粒界相がほとんど形成されず、渦電流損失が著しく増大するためであり、又、上限値を越えた領域においては、焼結体の組織制御が困難となり、損失が大きくなり、好ましくないためである。
【0015】
カリウム複合酸化物であるアルミン酸カリウムを0〜0.07wt%(0を含まず)、又はチタン酸カリウムを0〜0.08wt%(0を含まず)とした理由は、各添加物共に、上限値を越えて添加した場合には、粒成長の制御が困難となり、渦電流損失及びヒステリシス損失が共に増大するためである。
【0016】
又、アルミン酸カリウムとチタン酸カリウムの両者を共に添加する場合には、総量を0〜0.08wt%(0を含まず)とした。その理由は、0.08wt%を越えた領域では、やはり、粒成長の制御が困難であり、低損失化が図れないためである。
【0017】
酸化鉄中に含有されるP2O5量を0.01〜0.1wt%としたのは、0.01wt%以下の原料は、他の元素の不純物含有量も少ないため、フェライトの高特性化に適してはいるが、一般的に高価格であるため、本発明の目的にそぐわないためである。又、0.1wt%を越えた領域では、組織制御が困難となり、焼成条件の複雑化を招く等、本発明による低損失化が図れないためである。
【0018】
以上のように、本発明によれば、従来、使用が不可とされていた極めて安価な酸化鉄原料を用いた場合においても、通常の粉末冶金法により、安価で、かつ高性能を有するMn−Zn系フェライトを得ることができ、工業的にも極めて有益である。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る低損失酸化物磁性材料の製造方法の実施の形態を実施例によって詳述する。
【0020】
(実施例1)
市販されている酸化物鉄原料で、P2O5の含有量が、0.012,0.022,0.030,0.035,0.051,0.081,0.097,0.12wt%の原料を用いて、52.8Fe2O3−36.0MnO−11.2ZnOmol%となるよう、Mn3O4及びZnOの原料粉末と共にボールミルで混合し、これら得られた各混合粉末を、950℃の大気中で2時間仮焼した。次に、これら各仮焼粉末に対して、SiO2を0.015wt%、CaOを0.05wt%添加し、更に、アルミン酸カリウム(KAlO2)を0〜0.09wt%添加した後、ボールミルにて更に微粉砕(解砕)を行った。更に、ポリビニールアルコール(PVA)をバインダーとして0.5wt%添加し、スプレードライヤーにて乾燥、造粒した。得られた造粒体を、φ30×φ20×t10(mm)のトロイダル形状に加圧成形した後、温度が1200〜1400℃で、酸素濃度が0.5〜10%である窒素と酸素の混合気流中で焼成し、焼結体試料を得た。この試料により、測定温度100℃、周波数100kHz、動作磁束密度2000Gの条件で、コアロス(Pcv)を測定した。
【0021】
図1に、アルミン酸カリウム(KAlO2)の含有量をパラメータとしたFe2O3原料中のP2O5量とコアロス(Pcv)との関係を示す。図1より、P2O5が0.01〜0.10wt%のFe2O3原料を用いた場合には、0〜0.07wt%(0を含まず)の範囲でアルミン酸カリウムを添加することにより、コアロスが改善することがわかる。
【0022】
(実施例2)
実施例1と同様にして、但し、P2O5を0.035wt%含有する酸化鉄原料を用いて得られた仮焼粉末に、CaOを0.05wt%添加し、更に、チタン酸カリウム(K2TiO3)を0.04wt%添加し、SiO2を0.003〜0.025wt%の範囲で含有させ、その後の工程を実施例1と同様にして焼結体試料を作製した。
【0023】
図2に、SiO2含有量を変化させた時のコアロス(Pcv)を示す。図2に示す如く、SiO2含有量が0.005〜0.020wt%の範囲で優れたコアロス(Pcv)値を示すことがわかる。
【0024】
(実施例3)
実施例2で用いた仮焼粉末に、SiO2を0.015wt%、チタン酸カリウム(K2TiO3)を0.04wt%添加し、CaOを0.008〜0.14wt%の範囲で含有させ、その後の工程を実施例1と同様にして焼結体試料を作製した。
【0025】
図3に、CaO含有量とコアロス(Pcv)との関係を示す。図3より、CaO含有量が0.02〜0.10wt%の範囲で優れたコアロス(Pcv)値を示すことがわかる。
【0026】
(実施例4)
実施例2で用いた仮焼粉末に、SiO2を0.015wt%、CaOを0.05wt%添加し、更に、アルミン酸カリウム(KAlO2)を0〜0.09wt%、又はチタン酸カリウム(K2TiO3)を0〜0.10wt%の範囲で各々別々に添加し、その後、実施例1と同様の方法により焼結体試料を作製した。
【0027】
図4に、アルミン酸カリウム(KAlO2)及びチタン酸カリウム(K2TiO3)含有量とコアロス(Pcv)値との関係を示す。図中、実線がKAlO2添加の場合を、破線がK2TiO3の場合を示している。図4より、アルミン酸カリウム(KAlO2)では、0〜0.07wt%(0を含まず)、チタン酸カリウム(K2TiO3)では、0〜0.08wt%(0を含まず)の範囲となるように、アルミン酸カリウム、又はチタン酸カリウムを含有せしめることにより、優れたコアロス(Pcv)値を示すことがわかる。
【0028】
(実施例5)
実施例2で用いた仮焼粉末に、SiO2を0.015wt%、CaOを0.060wt%添加し、更に、アルミン酸カリウム(KAlO2)を0〜0.09wt%、及びチタン酸カリウム(K2TiO3)を0〜0.10wt%複合添加し、その後、実施例1と同様の方法でMn−Zn系フェライト焼結体を得た。
【0029】
表1に、アルミン酸カリウム(KAlO2)及びチタン酸カリウム(K2TiO3)量を変化させた時のコアロス(Pcv)値を示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1より、アルミン酸カリウム(KAlO2)とチタン酸カリウム(K2TiO3)の総量が0.08wt%以下では、優れたコアロス特性を示すことがわかる。
【0032】
【発明の効果】
以上、述べたように、P2O5を多量に含有する安価な酸化鉄原料を用いて低損失のMn−Zn系フェライトを得ようとする場合に、カリウム複合酸化物であるアルミン酸カリウム(KAlO2)又はチタン酸カリウム(K2TiO3)を、▲1▼アルミン酸カリウムでは0〜0.07wt%(0を含まず)、チタン酸カリウムでは0〜0.08wt%(0を含まず)の範囲で含有せしめる、あるいは、▲2▼総量で0〜0.08wt%(0を含まず)の範囲で含有せしめる、ことにより、優れたコアロス(Pcv)値を示すMn−Zn系フェライトが得られる。
【0033】
本発明によれば、従来ではほとんど使用されなかった安価な酸化鉄原料を用いて、優れた特性を有するMn−Zn系フェライトを得ることが可能となり、大幅なコスト低減が図れるので、工業的にも極めて有益である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1におけるアルミン酸カリウム(KAlO2)量をパラメータとしたFe2O3原料中のP2O5量とコアロス(Pcv)との関係を示す図。
【図2】実施例2におけるMn−Zn系フェライトコアのSiO2量とコアロス(Pcv)との関係を示す図。
【図3】実施例3におけるMn−Zn系フェライトコアのCaO量とコアロス(Pcv)との関係を示す図。
【図4】実施例4におけるMn−Zn系フェライトコアのアルミン酸カリウム(2KAlO2)及びチタン酸カリウム(K2TiO3)の各含有量とコアロス(Pcv)との関係を示す図。
Claims (3)
- P2O5を0.01〜0.1wt%含有する酸化鉄原料粉末を用い、通常の粉末冶金法により低損失Mn−Zn系フェライトを製造する場合において、主成分が52〜54mol%のFe2O3、33〜37mol%のMnO、及び残部がZnOからなり、前記主成分に対し、副成分として0.005〜0.020wt%のSiO2、及び0.02〜0.10wt%のCaOと、更に0〜0.07wt%(0を含まず)のアルミン酸カリウム(KAlO2)を含有せしめることを特徴とする低損失酸化物磁性材料の製造方法。
- P2O5を0.01〜0.1wt%含有する酸化鉄原料粉末を用い、通常の粉末冶金法により低損失Mn−Zn系フェライトを製造する場合において、主成分が52〜54mol%のFe2O3、33〜37mol%のMnO、及び残部がZnOからなり、前記主成分に対し、副成分として0.005〜0.020wt%のSiO2、及び0.02〜0.10wt%のCaOと、更に0〜0.08wt%(0を含まず)のチタン酸カリウム(K2TiO3)を含有せしめることを特徴とする低損失酸化物磁性材料の製造方法。
- P2O5を0.01〜0.1wt%含有する酸化鉄原料粉末を用い、通常の粉末冶金法により低損失Mn−Zn系フェライトを製造する場合において、主成分が52〜54mol%のFe2O3、33〜37mol%のMnO、及び残部のZnOからなり、前記主成分に対し、副成分として0.005〜0.020wt%のSiO2、及び0.02〜0.10wt%のCaOと、更にアルミン酸カリウム及びチタン酸カリウムの両者を総量で0〜0.08wt%(0を含まず)含有せしめることを特徴とする低損失酸化物磁性材料の製造方法。
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