JP3549675B2 - 面ファスナー雌材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、係合機能とクッション性能とが一体化されたシート張等のインテリア的要素を備えた表皮材に好適なダブルニット地からなる面ファスナー雌材に関し、さらには単一素材によって構成することにより、リサイクルにも好適なダブルニット地からなる面ファスナー雌材に関する。
【0002】
【従来の技術】
車輛用および航空機用シ−ト張地、事務用椅子張地及び車輛用枕カバ−等の表皮材を基材本体に固定化された雄面ファスナ−と係合させて装着することが知られているが、従来は表皮材本体の裏面に雌面ファスナ−の機能を果たす不織布またはル−プ形状を有するトリコット地をラミネ−トまたは縫合させることにより係合機能を持たせたものであった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来の加工方法による表皮材は、車輛用、航空機用シ−トおよび事務用椅子などの座席基材に固定する際の作業性、曲面を有する座席へのフィット性及び固定後の使用感ともに一応の満足は得られるが、表皮材に係合機能を有する素材をラミネート加工などによって一体化する必要があり、表皮材のコスト高につながっていた。また、表皮材にクッション性を付与したり、縫製時の形態安定性を確保するために、表皮材の裏面に不織布等をラミネート加工する前に、発泡ウレタン樹脂等をラミネートする場合もあり、工程が繁雑となるばかりでなく、さらなるコスト高につながっていた。
【0004】
かかる積層構造を有する従来の表皮材は、異種素材で構成されているため、再資源化に際して各素材の分離分別作業が必要となり、簡易なリサイクルが困難であるため、シュレッダーダストとして埋め立て処分されているのが現状である。
【0005】
本発明の目的は、上記したような従来の表皮材の欠点を解消することであり、表皮材として使用する生地にラミネート加工などの繁雑な加工を施す必要がなく、表皮材と意匠性の高い表面と該表面の反対面にフック状係合素子との係合力に優れた係合機能面を有するダブルニット地からなる面ファスナー雌材を提供しようとするものである。さらに、本発明は、フック状係合素子との着脱を繰り返したり、座席用表皮材として長期間使用しても、座席上で表皮材がずれにくく、かつ表皮材表面の意匠性も損なわない優れたダブルニット地からなる面ファスナー雌材を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる目的を達成するためには、
▲1▼片面にパイル又はループを有する糸が組織的に形成されていることが重要であり、また、
▲2▼パイル糸又はループを有する糸の編目は片面にのみ編成されていることが重要であることを見出だし本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、ダブルニット地からなる面ファスナー雌材であって、ダブルニット地の片面Aの少なくとも一部にパイルが存在し、該パイルは下記(1)又は(2)の糸条を含み、
(1)捲縮率(K)が15%以下である捲縮糸
(2)捲縮フィラメントと無捲縮フィラメントとからなる混繊糸
該糸条を構成するフィラメントの単繊維繊度が3デニール以上であり、該糸条はダブルニット地の片面Bを構成する糸条と片面Aにおいてのみ編成されていることを特徴とする面ファスナー雌材(第1発明)であり、さらに、本発明は、ダブルニット地からなる面ファスナー雌材であって、ダブルニット地の片面Aに1〜3mmの高さのリング状ループを有する糸条が存在し、該糸条を構成するフィラメントの単繊維繊度は3デニール以上であり、該糸条はダブルニット地の片面Bを構成する糸条と片面Aにおいてのみ編成されていることを特徴とする面ファスナー雌材(第2発明)である。
【0008】
第1発明においては、面ファスナー雌材の片面Aの全面又は一部にパイルが存在することが重要である。図1に第1発明のパイルを有するダブルニット地の1例を示した。図1において、1はパイル糸であり、該パイル糸は編組織的に一体化されており、クッション層及びフック状係合素子に対する係合手段としての役割がある。2は表糸であり、例えば、シート張地において人体と接する側(片面B)を形成するための糸である。3(連結糸)は片面Bも形成するが、片面Aを連結するための糸であり、さらにパイル糸1を固定する役割も兼ねている。
【0009】
本発明において、パイルを形成させるダブルニット地の片面Aとは、ダブルニット地の表面又は裏面のいずれかの面を意味するが、パイルが、ダブルニット地の裏糸によって編成されていることが好ましい。
【0010】
本発明のダブルニット地はシート張地として好適に使用されるものであり、係合機能を持たせる面(片面A)の反対側の面(片面B)は無地であってもよいが、柄を持つ編組織や無地の生地にプリント柄をおいたものが好ましく使用される。従って、編機の柄出し装置により柄を出すことなどを考慮すれば、丸編機のシリンダー側で編成される面を片面Bとして意匠性をもたせ、またダイヤル側で編成される面(片面A)に係合機能を有するパイル糸やリング状ループを有する糸条を配置させることが好ましい。
【0011】
この場合、パイル糸やリング状ループを有する糸条は、片面B(意匠面)を構成する糸条と片面Aでのみ編成されていること、すなわち、片面Bにおいて編目の連結が無いことが重要である。パイルやリング状ループを有する糸条が片面Bにおいて編目として編成されていると、フック状係合素子との着脱やシート張地として使用される場合の種々の物理的外力によって編目ル−プが移動し、片面B(意匠面)に外観変化が生じる。
本発明の面ファスナー雌材はインテリア的な要素を備えている必要があり、使用中及び雄面ファスナ−との係合作業時においても意匠面には外観変化が生じてはならないのである。
【0012】
パイルは、ダブルニット地の片面の少なくとも一部に形成されていればよいが、面ファスナー雄材のフック状係合素子との係合力を考慮すると、片面の1cmあたりに占めるパイルの個数は30個以上形成されていることが好ましい。
本発明のダブルニット地は、連結糸により片面Aと片面Bが一体化されているが、編成時の歯口の高さを通常より大きめ(3〜7mm)に調整することによりクッション性を向上させることができるので、粗硬な係合素子と係合されてもその粗硬感はダブルニット地の表面に現れず、シート張地として使用した場合のタッチは非常に良好なものである。
【0013】
面ファスナー雌材としては、片面にパイル又は毛羽様のリング状ループを有するものであれば大抵のニット製品がフック状係合素子と係合できるわけではなく、面ファスナ−雄材との係合性にはパイル糸やループを形成させるフィラメントの形態が設計上極めて重要な要素となる。
まず、フック状係合素子に対して係合可能なパイルを構成する糸条としては下記の(1)〜(3)のいずれかであることが重要である。
(1)捲縮率(K)が15%以下である捲縮糸
(2)捲縮フィラメントと無捲縮フィラメントとからなる混繊糸
(3)1mm〜3mmの高さのリング状ループを有する糸条
ただし、上記(3)の糸条を使用する場合は、後述するように当該糸条が片面Aに存在していれば、必ずしもパイルとして起立していなくてもよい。
また、これら(1)〜(3)の糸条は2種以上を併用してダブルニット地を作成しても差し支えない。
【0014】
(1)の捲縮率(K)15%以下の捲縮糸は、通常の仮撚加工糸の捲縮率と比較して捲縮率が低い点に特徴があり、捲縮率が低い方がフック状係合素子が捲縮フィラメント間に入り込み易く良好な係合性を達成できる。
捲縮率の高い捲縮糸をパイル糸として使用すると、ニット地を染色または仕上げセットした場合に捲縮の絡まりが発生し、塊状に絡まり、係合素子が捲縮フィラメント間に入り込みにくなり、係合性が低下するか又は係合しなくなる。したがって、捲縮糸は予め熱セットにより捲縮率を所定の値に低下させるように調整することが好ましい。また、捲縮率を低くする方法としては、仮撚時の仮撚熱セット温度を通常の熱セット温度より20〜100℃低く設定したり、仮撚数を低めに設定して仮撚する方法がある。
ただし、捲縮が施されていない糸条や施されていても極めて低捲縮の糸条を用いてパイルとすると、該パイルはニット面に対する直立性が悪いのでフック状係合素子との係合性が不良である。従って、捲縮率は2%以上であることが好ましい。
【0015】
(2)の糸条は、捲縮を有するフィラメントと捲縮を有さないフィラメントとからなる混繊糸であり、これらの異種フィラメントをリング状ループを形成させないエアー交絡処理(インターレース処理)によって混繊交絡した糸条である。
【0016】
(3)のリング状ループを有する糸条のモデルを図2及び図3に示した。図2は1mm〜3mmの高さのリング状ループが糸の側面に突出している形態の糸条であり、一般的にタスラン糸といわれているエアー交絡糸(3−1)である。図3は異収縮混繊糸をフリー熱処理した後、2本以上合撚して得られる糸条(3−2)である。
【0017】
上述したエアー交絡糸(3−1)は、側糸用マルチフィラメントと他のマルチフィラメントとを交絡用ノズル内に導き、ノズル内にエアを噴出させてこれらマルチフィラメントを混繊・交絡させて製造することができる。オーバーフィード率を上げればリング状ループの大きさ、量ともに増える。これらリング状ループはループ端がエア交絡のため束縛されており、面ファスナー雄材と係合するのに適している。
【0018】
また、エア交絡の条件は下記式を満足することが重要である。側糸のオーバーフィード率が30%未満であればリング状ループの大きさ、量が不足し、係合機能面にでるループ数が少なくなるため十分な係合強力が得られない。また、エア交絡時のエア圧が3.0kg/cm未満であれば交絡不足となりループ端が自由となったり、あるいはリング状ループの形態にもならない。
OF≧30
AP≧3.0
[ただし、OFは側糸のオーバーフィード率(%)、APはエア交絡時のエア圧(kg/cm)を示す。]
【0019】
エア交絡糸(3−1)を構成する芯糸については、強伸度、単繊維繊度において特に制約はないが、単繊維繊度が大きすぎると交絡処理時の交絡部が形成されにくく、交絡されていてもフック状係合素子との脱着により交絡部が破壊されやすいので、より強固な交絡性を得るためには、側糸を構成するフィラメントの単繊維繊度(3デニール以上)に対して3デニール以上を越えない単繊維繊度のフィラメントを芯糸用に使用することが好ましい。
また、芯糸のオーバーフィード率も格別に制約はないが、側糸のオーバーフィード率との差を50〜100%とする方が、フック状係合素子との係合性が良好なリング状ループが形成されるので好ましい。
【0020】
図3に示したリング状ル−プを有する糸(3−2)は、沸水収縮率差が30%以上となる2種以上のマルチフィラメント糸を交絡用ノズル内に導き、ノズル内にエアを噴出させてこれらマルチフィラメントを混繊させた後、熱処理を施し、次いで該熱処理糸を少なくとも2本以上合撚することにより得られる。
エア交絡において特に低沸水収縮率の糸条を高オ−バ−フィ−ド率に設定する必要はない。むしろ同一オ−バ−フィ−ド率に設定する方が好ましい。なぜなら、次いで実施する熱処理は乾熱180℃の低張力条件の連続ハンク式乾熱セットまたは湿熱130℃条件のニットデニット法を採用するため、加工の前にル−プを有する糸は加工工程通過性が悪くなる場合が多い。沸水収縮率差が30%以上あれば目標とするリング状ル−プを有する糸は得られる。また、熱処理糸を合撚する目的は糸に丸みを付与し、編地のニ−ドルル−プ上でも該糸のリング状ル−プを生地に対して垂直に起立させることと、フック状係合素子との着脱によるリング状ル−プが破壊されにくくするためである。
重要な事であるが、編地のニ−ドルル−プは編成時にシンカ−ル−プよりも高い張力が掛かるため該熱処理糸の単糸のみでは形成されたリング状ル−プが引き伸ばされて編成されるためにリング状ル−プが消失し、係合性には寄与しなくなる。これはリング状ル−プが大きくなり過ぎても生じることである。したがって、該熱処理糸を少なくとも2本以上合撚することにより編成時に受ける張力が分散され、リング状ル−プの形状がを保持される。
リング状ル−プの大きさは、収縮率の大きさとエア圧および加工速度に依存する。エア圧は3kg/cm以上が好ましい。この条件により100個/m以上の交絡数が得られる。
【0021】
(1)および(2)の糸条はニット面に対して直立させたパイル糸として使用することが前提であるが、(3)の糸条はニット面に対して直立させたパイル糸用として使用してもよく、通常の編目の状態で使用してもよい。
ただし、前記(3−1)のエアー交絡糸の場合、大きさが3mmを越えたリング状ループが300個/10cmを越えると糸の生産時の安定性の問題および製編時の解舒不良の問題が発生する。また(3−2)の合撚糸の場合では収縮処理後の取扱性が悪い。
係合性との関係について、リング状ル−プの大きさが3mmを越えるものの数が300個/10cmを越えると、ニット面に対して直立させたパイル糸として使用する場合は十分な係合性がえられるが、通常の編目の状態で使用する場合、係合性は低下していく。なぜなら、リング状ル−プの大きさが3mmを越えると、それは編目のニ−ドルル−プ側では毛羽状に存在する頻度が著しく低下するためで、その結果係合性が悪くなり係合強力が不十分となる。リング状ル−プの大きさが1〜3mmのものの個数が100個/10cm以下の場合には編目のニ−ドルル−プ側にリング状ル−プが毛羽様に多く存在するので係合性が十分に発揮される。
【0022】
次にパイルとフック状係合素子との係合強度を向上させるためには、前記糸条を構成するフィラメントの単繊維繊度は3デニ−ル以上でなければならない。単繊維繊度が3デニ−ル未満の場合、フック状係合素子との繰り返し脱着時にフィラメントの一部が切断されるため、特にピ−ル強力が低下し、係合強力が不十分となる。
さらに、単繊維繊度が3デニ−ルを下回ると耐へたり性の代用物性である圧縮疲労性が低下し、粗硬なフック状係合素子の粗硬感がでてくる。
一方、単繊維繊度が40デニ−ルを越えるような、実質的にモノフィラメント糸の領域に属される繊度の場合は繊維の剛性が上がり、前記(1)の場合にはパイルの直立性が悪く、係合性が不十分となる。また、前記(2)及び(3)の場合にはエアによる混繊性が悪く、混繊しない部分が生じる。
【0023】
パイルやリング状ループを有する糸条は複数種のフィラメントにより構成することが可能であるが、どの場合においても少なくとも1種類の繊維の単繊維繊度は3デニ−ル以上が必要である。
【0024】
次に、本発明を実施するためのダブルニット地の作成方法は三通り挙げることができる。
第一の方法は編成中にパイルを形成する方法であって、ニ−ドルに付属するベラを開閉するためのベラ起こし装置を備えた編み機を使用し、図4に示した組織図により編成されるものである。
図4において、5はシリンダ−針列であり、6はダイヤル針列を示す。当組織では地組織の編目7はシリンダ−側で編成し、パイルル−プ8はダイヤル針で保持され、同時にシリンダ−針で地組織の編目7を保持した針と同一の針で保持される。パイルル−プ8が抜けるのを防止するために必要である。尚、当組織では市松柄をシリンダ−側で編成している。図中のF付き数字は編成組織の順序を示し、F6,F7の編成組織が当パイルを形成する方法の特徴となっている部分である。F6においては糸を供給しないで、F1で給糸された糸を保持したダイヤル針のみをカムでニッティング位置まで上昇させ、糸をノックオ−バ−し(クリアリング)、F7においてF6で閉じたダイヤル針のベラをベラ起こし装置により起こし(ラッチオープニング)、組織を循環する。
【0025】
第二の方法は編成後、得られた生地を後加工処理することにより得るものである。これは、水溶解性の繊維、例えば水溶性ビニロンを編成中に図5に示したように組織的に挿入し、編成した生地を所定の溶解温度で溶解除去してパイルを得るものである。
図5において、F3にパイルル−プとなる糸9を挿入し、F6において当パイルを形成する方法の特徴となる水溶解性の繊維10を挿入する。
【0026】
第3の方法は上記2種の編成方法とは異なり、編地にパイルル−プを組織的に形成させるのではなく、糸の表面にリング状のル−プが突出している糸条を編込んで編地表面にリング状ル−プの薄層を形成させる方法であって、これには編込んだままで形成させる場合と生地を起毛加工によりル−プを掻き出す場合がある。図6には起毛加工が容易な組織の1例を示した。
【0027】
上記の二種類の編成方法にはそれぞれ長所、短所をもっているが、まず第一の方法は第二の方法に比べて給糸口数が増える分だけ編成効率が悪く、またベラ起こし装置の微妙な作動によるベラの開閉不良が生じ易く、編地の安定性に欠ける点が短所である。
また、意匠性を向上させるためにはコンピュ−タ−編機を使用することにより柄を形成することが考えられるが、編機のシリンダ−側で柄を編成するため、図4に示したように、パイルル−プを固定し、パイル糸の抜けを防止するための糸がシリンダー側で編成されている。したがって、パイル糸が意匠面に存在するため、フック状係合素子とパイルとの着脱により意匠面に種々の力が作用し、意匠性を損なうことが生じる。
【0028】
第二の方法の欠点は、パイルル−プの高さ調整が困難であり、また水溶解性の繊維が溶解除去されてパイルが形成されたときに生地が伸び易くなるという点を挙げることができる。生地が伸び易くなる問題を解決するため、図5を例にすれば、シリンダ−側で編成する1×1組織のル−プ長をダイヤルオ−ルニット組織の20〜40%短くなるように設定するか、または収縮率が30%以上のフィラメント糸を含む糸条をシリンダ−側で編成する1×1組織に使用すればよい。
尚、図7はダブルニット編機を使用して、片面に全面パイル地を形成させることが可能であり、シンカ−パイル編地または経編地のポ−ル編地に相当する。しかし、図7の編地は第一の方法の欠点で指摘したように、パイル糸を固定するための糸がシリンダ−側で編成されているため、フック状係合素子とパイルとの着脱によりシリンダ−面の編目に歪みが生じる。
【0029】
シンカ−パイル編地はパイルル−プを部分的にカットしたり、全部カットした状態でパイル側を座面として車両用シ−ト張地に使用されることが多い。同様にポ−ル編地もパイルル−プを全部カットした状態でその面にプリントを施してシ−ト張地に使用される。しかし、シンカ−パイル編地のパイルル−プ面の反対面にプリント等の意匠付けを実施した後、パイルル−プ面をフック状係合素子に対する係合部材として係合機能とクッション性が一体化された車両用シ−ト張地用編地として使用された実績はなく、また使用することもできない。
なぜなら、パイルル−プがパイルル−プ面の反対面に編目として存在するため、係合時のパイルル−プの引きつり等による編目ル−プの移動により意匠面の品位が損なわれるためである。
一方、ポ−ル編地は経編地のため上述したシンカ−パイル編地と同様の車両用シ−ト張地用編地として使用しても係合時のパイルル−プの引きつり等による編目ル−プの移動による意匠面の品位が損なわれることは起りにくいので性能的に使用可能であるが、意匠付与のためのプリント面となるパイルル−プ面の反対面には凹凸がありプリント面としては必ずしも適切ではない。
【0030】
本発明においては、シ−トアッセンブリ−の工程で座席基材の表面に埋設されたフック状係合素子と前記パイルル−プを有する編地のパイルル−プが容易に係合することが必要であるばかりか、座面の意匠に影響してはならないので、パイルル−プを有する編地の編成方法としては上述した第2の方法が好ましい。
【0031】
かかる方法により作成される本発明の面ファスナー雌材は、種々の形状のフック状係合素子との係合が可能であり、具体的な係合素子形状としては、例えば、やじり形、2段やじり形、リブ付やじり形、鉤形、多段鉤形などが挙げられ、係合性の観点からやじり型、2段やじり型、リブ付やじり型などのやじり形状の係合素子が好ましい。かかる形状を有する係合素子としては、例えば、KMファスナーレール(商品名、(株)クラレ製)が挙げられる。
【0032】
また、係合素子のサイズは、高さ1〜3mm、やじり部の最大幅0.7〜2mm、素子密度40〜300個/cmが好ましい。
本発明の面ファスナー雌材は、係合素子を有する基材と係合させた場合、係合強力が1.3kg/cm(シェアー強力)以上、及び500g/cm(ピール強力)以上という優れた係合性を有するため、係合後の使用中に表皮材に作用する種々の応力によっても表皮材がずれることなく、繰り返し着脱しても表面への影響がでないというメリットを有する。
【0033】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。尚、実施例中の各物性は以下の方法により求めた。
(1)捲縮率
綛巻取機で5000デニールの綛となるまで糸条を巻き取った後、綛の下端中央に10gの荷重を吊し、上部中央でこの綛を固定し、0.01g/dの荷重がかかった状態で90℃にて30分間熱水処理を行う。次いで無荷重状態で室温に放置して乾燥した後、再び10gの荷重をかけ5分間放置後の糸長を測定し、これをL(mm)とする。次に1Kgの荷重をかけ30秒間放置後の糸長を測定しL(mm)とするとき、下記式により求められる。
(%)={(L−L)/L}×100
(2)係合強力 JIS L−3416
尚、面ファスナ−のフック面としては、係合素子の形状が2段やじり形状で、係合素子密度44/cm、素子高さ約1.5mm、素子厚み約0.6mm、最大やじり幅1mmのKMファスナ−レ−ルX6320−3(クラレ製)を使用した。
(3)リング状ループ個数
株式会社東レエンジニアリング社製DT−201毛羽測定機を用いて、糸中心から一定距離以上はみ出した繊維の本数を測定し、リング状ループ個数を算出した。糸中心から1mm以上はみ出だした繊維の本数をH0とし、同様に3mm以上はみ出した繊維の本数をH1とし、下記式により1〜3mmの高さのリング状ループ個数Hを求めた。
H=(H0−H1)/2
(4)圧縮疲労性 JIS L−1021
【0034】
実施例及び比較例における編成条件は下記のとおりとした。
編成条件;30インチ14ゲ−ジのダブルニット編機を使用し、図8に示した組織となるようにカムを組む。
尚、各実施例及び比較例においては、同一組織から2種類の異なる生地を製造し、評価を実施した。すなわち、係合機能を持つ糸条が生地の片面にパイルとして垂直に起立しているものと、該糸条が起立することなく生地と同一面内に存在するものについて評価した。
係合機能を持つ糸条をパイルとし生地の片面に垂直に起立させる組織をパイル組織と称し、かかる組織のダブルニット地を作成するにあたっては、給糸口No.6に水溶性ビニロン糸28デニールを使用し、編成後に生地を70℃温水で処理し、水溶性ビニロン糸を溶解除去してパイルを起立させた(各実施例及び比較例共通)。
また、係合機能を持つ糸条を生地と同一面内に存在させるタイプをノンパイル組織と称し、その場合は、給糸口No.6にポリエステルフィラメント50dr/36fを使用した(各実施例及び比較例共通)。
給糸口No.1、2、4及び5に使用する糸としては、ポリエステルフィラメントの仮撚糸SD150dr/48fを2本と沸水収縮率が40%のポリエステルフィラメントSD100dr/36fを引き揃えて交絡用ノズルに導き、オーバーフィード率3%でエア圧を1.5kg/cm の条件下で得られた400デニールの加工糸を使用した(各実施例及び比較例共通)。
【0035】
給糸口No.3に使用する糸条は、ダブルニット地において起立したパイルとなるかもしくはノンパイル組織として係合機能を発揮するが、該給糸口に使用した糸条の詳細は以下の通りである。
【0036】
実施例1(給糸口No.3に使用する糸条)
ポリエステルフィラメントの延伸糸350dr/48fを下記表1の条件により仮撚加工を実施し、K値25%の加工糸を得た。さらに該加工糸を真空セット機により130℃×10min 処理し、K値4%の加工糸を得た。
【0037】
【表1】
Figure 0003549675
【0038】
実施例2(給糸口No.3に使用する糸条)
ポリエステルフィラメントの延伸糸200dr/48fとK1 値が25%である150dr/32fのポリエステルフィラメントからなる2段ヒ−タ−仮撚糸とをエア圧3.0kg/cm でインタ−レ−ス加工を実施し、交絡数112個/mのエア混繊糸を得た。
【0039】
実施例3(給糸口No.3に使用する糸条)
ポリエステルフィラメントの延伸糸100dr/20fを側糸としてオ−バ−フィ−ド率70%で交絡用ノズルに導き、ポリエステルフィラメントの延伸糸150dr/72fを芯糸としてオ−バ−フィ−ド率10%で交絡用ノズルに導き、エア圧4.5kg/cm で加工した。得られたタスラン糸の表面に1〜3mmのリング状ル−プが70個/10cm存在していた。
【0040】
実施例4(給糸口No.3に使用する糸条)
沸水収縮率が35%のポリエステルフィラメントの延伸糸100dr/36fと沸水収縮率が6%のポリエステルフィラメントの低捲縮仮撚糸150dr/32f(Kが15%)をエア圧3.0kg/cm でエア混繊し、交絡数120個/mのエア混繊糸を得た。これを12ゲ−ジ筒編機を使用して筒編地とし、130℃×10min 処理した。これを、Z 50T/M で引き揃え合撚した。
【0041】
比較例1(給糸口No.3に使用する糸条)
実施例1で使用したポリエステルフィラメントの延伸糸350dr/48fをそのまま使用した。
【0042】
比較例2(給糸口No.3に使用する糸条)
実施例1で使用したポリエステルフィラメントの延伸糸350dr/48fを仮撚して得られた仮撚糸(Kが25%)を使用した。
【0043】
比較例3(給糸口No.3に使用する糸条)
ポリエステルフィラメントの150dr/32fの2段ヒ−タ−仮撚糸同志をエア圧1.5kg/cm でインタ−レ−ス加工を実施し、交絡数112個/mのエア混繊糸を得た。
【0044】
比較例4(給糸口No.3に使用する糸条)
ポリエステルフィラメントの延伸糸100dr/20fを側糸としオ−バ−フィ−ド率20%で交絡用ノズルに導き、ポリエステルフィラメントの延伸糸150dr/72fを芯糸としてオ−バ−フィ−ド率7%で交絡用ノズルに導き、エア圧4.5kg/cm で加工した。得られたタスラン糸の表面に1〜3mmのリング状ル−プが20個/10cm存在していた。
【0045】
表2に本発明の実施例及び比較例の係合強力及び圧縮疲労特性を示した。表3から明らかなように、本発明によるパイル組織及びノンパイル組織では十分な係合強力が得られるが、表皮材を固定する上で重要なピール強力は比較例で使用したマルチフィラメントでは十分な性能が得られない。特徴的な事として、比較例2及び3において、繰り返しの着脱回数が多くなるにつれて低いレベルではあるが係合強力が上がっている。しかし、毛羽が増大しており、フィラメントは切断されている。
従って、本発明の係合機能が一体化されたダブルニット地は係合時の初期強力及び数回の繰り返しの着脱においても優れた係合性を有する面ファスナー雌材であるといえる。
【0046】
【表2】
Figure 0003549675

【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の面ファスナー雌材を構成するダブルニット地の断面図。
【図2】本発明の面ファスナー雌材にし要するリング状ループを有する糸の側面図。
【図3】本発明の面ファスナー雌材にし要するリング状ループを有する糸の側面図。
【図4】本発明の面ファスナー雌材を製造するためのダブルニット地編み方図。
【図5】本発明の面ファスナー雌材を製造するためのダブルニット地編み方図。
【図6】本発明の面ファスナー雌材を製造するためのダブルニット地編み方図。
【図7】本発明の面ファスナー雌材を製造するためのダブルニット地編み方図。
【図8】本発明の面ファスナー雌材を製造するためのダブルニット地編み方図。
【符号の説明】
1 パイル糸
2 表糸
3 連結糸
4 リング状ループ
5 シリンダー針列
6 ダイヤル針列
7 地糸
8 パイルループ
9 水溶解糸

Claims (5)

  1. ダブルニット地からなる面ファスナー雌材であって、ダブルニット地の片面Aの少なくとも一部にパイルが存在し、該パイルは下記(1)又は(2)の糸条を含み、該糸条を構成するフィラメントの単繊維繊度が3デニール以上であり、該糸条はダブルニット地の片面Bを構成する糸条と片面Aにおいてのみ編成されていることを特徴とする面ファスナー雌材。
    (1)捲縮率(K)が15%以下である捲縮糸
    (2)捲縮フィラメントと無捲縮フィラメントとからなる混繊糸
  2. ダブルニット地からなる面ファスナー雌材であって、ダブルニット地の片面Aに下記(3)の糸条が存在し、該糸条を構成するフィラメントの単繊維繊度は3デニール以上であり、該糸条はダブルニット地の片面Bを構成する糸条と片面Aにおいてのみ編成されていることを特徴とする面ファスナー雌材。
    (3)1mm〜3mmの高さのリング状ループを有する糸条
  3. 該糸条がパイルとしてダブルニット地の片面Aに起立している請求項2に記載の面ファスナー雌材。
  4. 請求項1又は2に記載の面ファスナー雌材からなる座席用表皮材。
  5. 請求項4に記載の表皮材を備えてなる座席。
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