JP3547282B2 - 低水素系被覆アーク溶接棒 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はタンク及び海洋構造物等の材料である低温用アルミキルド鋼又は1.5乃至3.5重量%Ni鋼等の溶接に使用される被覆アーク溶接棒に関し、特に、良好な溶接作業性を有していると共に、延性、靱性及びき裂伝播停止特性が優れた溶接金属を得ることができる低水素系被覆アーク溶接棒に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的に、タンク及び海洋構造物等の材料として使用される構造用鋼の炭素鋼の中で、特に低温用鋼の分野における溶接においては、安全性を確保するために、高い靱性値を有する溶接金属を得ることが要求されている。約−60℃までの温度領域での靱性を確保する溶接金属の組織は、フェライト及びパーライトが主体となっているので、従来より溶接材料の組成を調整して、溶接金属中にTi−B等を添加することにより靱性を確保している。また、約−100℃までの温度領域での靱性を確保する溶接金属の組織は、ベイナイトが主体となっているので、従来より溶接金属に約4重量%までのNiを添加することにより、靱性を確保している。
【0003】
近時、石油等の備蓄用タンクの安全性を考慮して、より一層低温の領域における靱性の向上が要求されている。この低温領域における構造材料の規格として、1993年にBS7777が提案されており、この規格がタンク等を施工する際に適用されている。このBS7777において、プロパンタンクはTypeIIIとして規格化されていて、このプロパンタンクは従来の靱性値(一般的にvE−46℃が27J以上等)よりも高いvE−80℃が50J以上の靱性値を有するものであることが記載されている。
【0004】
また、これらの溶接金属においては、落重試験によって評価されるき裂伝播停止特性(落重性能)の向上、例えば、無延性遷移温度TNDTが−95℃以下であることが要求されている。
【0005】
しかし、従来の被覆アーク溶接棒を使用して溶接しても、溶接棒中のNi含有量が4.0重量%未満であるので、靱性値及びき裂伝播特性が優れた溶接金属を得ることはできない。そこで、9%Ni鋼等の溶接材料を使用して、溶接材料中のNi含有量を高くするか、又はオーステナイト系ステンレス鋼用の溶接材料を使用すると、靱性及び落重性能(無延性遷移温度)TNDTの規格を満足する値を得ることはできる。
【0006】
他に、溶接によって得られる溶接金属の靱性及び延性等を向上させるために、種々の炭素鋼用溶接材料が開示されている。例えば、靱性が優れた溶接金属を得る溶接材料としては、溶接金属中の酸素量を低減させることができる被覆アーク溶接棒が提案されている(特公平8−29431号公報)。なお、溶接金属中の酸素量を低減する方法として、MIG(MAG)溶接及びTIG溶接においては、使用するシールドガスを変えることによって、容易に溶接金属の酸素量を低減させることができる。しかし、SMAW(被覆アーク溶接)はフラックスから発生するガスによるシールド効果及び脱酸剤を活用することによって低酸素化を図るものであって、これらが溶接作業性に対して大きく影響を与えるので、溶接作業性を考慮する必要がある。
【0007】
また、溶接棒の被覆剤に添加されているNi又はNi合金の粒度等を調整することにより優れた延性を有する溶接金属を得ることができる被覆アーク溶接棒も開示されている(特開平7−251294号公報)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、溶接材料中のNi含有量を増加させると、引張強度が高くなるので、溶接金属の曲げ性能(延性)が低下するという問題点が発生する。また、オーステナイト系ステンレス鋼用の溶接材料によって溶接すると、異種材料による溶接であるので、施工主側の不安感が高まると共に、溶接材料のコストが上昇するという問題点も発生する。
【0009】
更に、特公平8−29431号公報又は特開平7−251294号公報に開示された被覆アーク溶接棒を使用して溶接すると、得られる溶接金属中のNi含有量は3.5重量%までに止まっているので、靱性、き裂伝播特性及び曲げ性能(延性)に対する近時の厳しい要求を全て満足することはできない。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、低温用鋼の溶接材料として、溶接作業性が優れていると共に、得られる溶接金属の靱性、落重性能及び延性を向上させることができる低水素系被覆アーク溶接棒を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る低水素系被覆アーク溶接棒は、軟鋼製心線に被覆剤が塗布されている低水素系被覆アーク溶接棒において、前記心線は、心線全重量あたり、Mnを0.2乃至0.7重量%含有すると共に、Cが0.02重量%以下に規制されており、前記被覆剤は、溶接棒全重量あたり、金属炭酸塩(CO2換算値):3.5乃至11.5重量%、金属弗化物(F換算値):0.5乃至4.5重量%、Ti酸化物(TiO2換算値):0.3乃至2.5重量%、Ni:3.5乃至9重量%、Mg:0.2乃至1.8重量%、Ti:0.4乃至1.8重量%、Si:0.5乃至3.6重量%及びMn:0.1乃至0.35重量%を含有すると共に、前記被覆剤は、溶接棒全重量あたりの水ガラス以外の珪酸化合物がSiO 2 換算値で1.2重量%以下に規制され、前記心線は、心線全重量あたりAlが0.02重量%以下、Oが50重量ppm以下、Nが50重量ppm以下に規制されていることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
本願発明者等が前記課題を解決すべく鋭意実験検討を重ねた結果、被覆アーク溶接棒の心線及び被覆剤の組成を適切に調整することにより、優れた低温靱性、落重性能及び延性を有する溶接金属を得ることができると共に、溶接作業性、ビード形状及び外観を良好にすることができることを見い出した。
【0014】
従来より、溶接金属の低酸素化によって、靱性の向上を図ることができることは公知である。また、落重性能を考慮した場合、溶接材料中にNiを添加することが必要である。図1は縦軸に−100℃における靱性値をとり、横軸に被覆剤中のNi含有量をとって、被覆剤中のNi含有量と靱性との関係を示すグラフ図である。また、図2は縦軸に落重性能をとり、横軸に被覆剤中のNi含有量をとって、被覆剤中のNi含有量と落重性能との関係を示すグラフ図である。但し、図1及び2において、被覆剤中のNi含有量は溶接棒全重量あたりの重量%で示している。
【0015】
図1及び2に示すように、溶接棒全重量あたりのNiの添加量が3.5重量%以上であれば、約−100℃までの温度領域における靱性値は確保することができるが、落重性能については、4重量%以上のNiを添加する必要がある。
【0016】
しかしながら、溶接棒中のNi含有量が4重量%以上になると、得られる溶接金属の強度が著しく上昇する傾向がある。これにより、母材と溶接金属との硬さの差が大きくなって、継手部の曲げ試験を実施した場合に、欠陥が発生しやすくなってしまう。従って、従来においては、落重性能を向上させるために必要不可欠である4乃至9重量%のNiを含有する溶接材料については、開発されていなかった。本発明においては、強度の上昇を抑制するために、強度を上昇させる作用を有するNi以外の元素の含有量を低減するものとする。
【0017】
そこで、本願発明者等は、必要成分として溶接棒中に含有されていて、溶接金属の強度を上昇させる作用を有するTi、Si及びMnに着目した。優れた低温靱性を維持するためには、溶接金属中の酸素量を200重量ppm以下に抑制する必要があるが、そのためには、高い脱酸力を有する元素であるTi及びSiを無添加とすることはできない。また、Siは溶接作業性を向上させるための必須成分である。
【0018】
そこで、本願発明者等は溶接棒中のMn含有量について、更に一層詳細な検討を実施した。図3は縦軸に−100℃における靱性値をとり、横軸に溶接金属中のMn含有量をとって、溶接金属中のMn含有量と靱性との関係を示すグラフ図である。図3に示すように、溶接金属中のMn含有量が0.15乃至0.5重量%であれば、優れた靱性を得ることができる。そして、溶接金属中のMn含有量を0.15重量%以上にするためには、心線中のMn含有量を0.2重量%以上にすることが必要となる。
【0019】
一方、溶接金属中のMn含有量が増加すると、溶接金属の曲げ性能が低下する。図4は縦軸に側曲げ試験における欠陥発生本数をとり、横軸に被覆剤中のMn含有量をとって、被覆剤中のMn含有量と曲げ性能との関係を示すグラフ図である。種々の溶接棒について各5本の試験片を採取し、全ての試験片に側曲げ試験を実施した結果、図4に示すように、試験片の被覆剤中のMn含有量が、溶接棒全重量あたり0.35重量%を超えると、欠陥の発生本数が増加する。従って、欠陥の起点となり易い偏析の発生を抑制するために、被覆剤からのMnの添加量を溶接棒全重量あたり0.35重量%以下にする必要がある。
【0020】
なお、本発明においては、コスト及び汎用性を考慮して、心線としては合金成分を含有しない軟鋼用心線を使用するものとする。
【0021】
これらのことから、本願発明者等が心線及び被覆剤の成分組成について検討した結果、心線及び被覆剤中の各成分の含有量の適正値を見い出した。なお、被覆剤中の成分については、溶接金属中の酸素源となる酸化物の量を低減することによって、より一層優れた靱性及び延性を有する溶接金属を得ることができる。
【0022】
以下、本発明に係る低水素系被覆アーク溶接棒について、更に説明する。先ず、軟鋼製心線の組成限定理由について説明する。
【0023】
Mn:0.2乃至0.7重量%
Mnは溶接金属の強度及び靱性を向上させる効果を有する。しかし、心線中のMn含有量が過多になると、強度の上昇によって靱性が著しく劣化する。また、Mnは被覆剤から添加することもできるが、被覆剤からMnを添加すると、溶接金属の割れ等の欠陥の起点となる偏析が生じやすくなるので、本発明においては被覆剤からのMnの添加を低減するものとする。心線中のMn含有量が、心線全重量あたり0.2重量%未満であると、溶接金属中の酸素が増加して、靱性が低下する。一方、心線中のMn含有量が0.7重量%を超えると、強度が過度に上昇して、靱性が著しく低下する。従って、心線中のMn含有量は、心線全重量あたり0.2乃至0.7重量%とする。
【0024】
C:0.02重量%以下
Cは溶接金属の強度及び靱性を向上させる効果を有する。しかし、心線中のC含有量が過多になると、靱性が著しく低下する。低水素系の被覆剤を使用する場合、炭酸塩中のCO2に含有されるCが溶接金属中に歩留まるので、所定の強度及び靱性を得るために、Cを心線から添加する必要はない。また、特に、Cは溶接金属の割れ感受性に影響を与える元素であるので、心線中のC含有量が0.02重量%を超えると、溶接金属の耐割れ性及び延性が低下する。従って、心線中のC含有量は、心線全重量あたり0.02重量%以下に規制する。
【0025】
次に、被覆剤の組成限定理由について説明する。
【0026】
金属炭酸塩(CO 2 換算値):3.5乃至11.5重量%
被覆剤中のCO2はシールドガスとしての効果を有すると共に、アーク雰囲気中の水蒸気分圧を低下させて、溶接金属中の酸素量を低減し、これにより、靱性の低下を抑制する効果を有する。被覆剤中の金属炭酸塩がCO2換算値で、溶接棒全重量あたり3.5重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、被覆剤中の金属炭酸塩が、CO2換算値で11.5重量%を超えると、アークが不安定となり、溶接作業性が低下する。従って、被覆剤中の金属炭酸塩はCO2換算値で、溶接棒全重量あたり3.5乃至11.5重量%とする。なお、本発明においては、CO2源としてCaCO3、BaCO3等がある。
【0027】
金属弗化物(F換算値):0.5乃至4.5重量%
被覆剤中のFはアークの強さを調整する効果及び生成スラグの融点を調整する効果を有し、これにより、ビード形状を整えると共に、シールド効果によってピットの発生を防止する効果を有する。被覆剤中の金属弗化物がF換算値で、溶接棒全重量あたり0.5重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、被覆剤中の金属弗化物が、F換算値で4.5重量%を超えると、溶融スラグの融点が低下しすぎるので、上進溶接が困難となる。従って、被覆剤中の金属弗化物はF換算値で、溶接棒全重量あたり、0.5乃至4.5重量%とする。なお、本発明においては、金属弗化物はCaF2、BaF2及びAlF3等により、被覆剤中に添加することができる。
【0028】
Ti酸化物(TiO 2 換算値):0.3乃至2.5重量%
被覆剤中のTi酸化物は、スラグの粘性を整える効果を有するので、特に、立向溶接を実施する場合に必須成分となる。被覆剤中のTi酸化物がTiO2換算値で、溶接棒全重量あたり0.3重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、被覆剤中のTi酸化物が、TiO2換算値で2.5重量%を超えると、溶接金属の酸素源となって、溶接金属中の酸素量を増加させるので、靱性が低下する。従って、被覆剤中のTi酸化物はTiO2換算値で、溶接棒全重量あたり0.3乃至2.5重量%とする。なお、本発明においては、Ti酸化物はルチール及びルコキシン等により、被覆剤中に添加することができる。
【0029】
Ni:3.5乃至9重量%
被覆剤中のNiは、優れた低温靱性及び落重性能を得るためには不可欠の元素であり、溶接金属中において、フェライト及びベイナイト地のマトリックスの強靭化作用を有する。被覆剤中のNi含有量が、溶接棒全重量あたり3.5重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、被覆剤中のNi含有量が9重量%を超えると、溶接金属の靱性が低下すると共に、高温割れ性が劣化する。従って、被覆剤中のNi含有量は、溶接棒全重量あたり3.5乃至9重量%とする。なお、本発明においては、Niは金属Ni及びNi−Mg合金等により被覆剤に添加することができる。
【0030】
Mg:0.2乃至1.8重量%
被覆剤中のMgは、脱酸剤として作用し、溶接金属中の酸素量を低減する効果を有する。被覆剤中のMg含有量が、溶接棒全重量あたり0.2重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、被覆剤中のMg含有量が1.8重量%を超えると、スパッタが多量に発生して、溶接作業性を著しく低下させる。従って、被覆剤中のMg含有量は、溶接棒全重量あたり0.2乃至1.8重量%とする。なお、本発明においては、Mgは金属Mg、Ni−Mg合金及びSi−Mg合金等により被覆剤に添加することができる。
【0031】
Ti:0.3乃至1.8重量%
被覆剤中のTiは、Mgと同様に脱酸剤として作用し、溶接金属中の酸素量を低減する効果を有する。被覆剤中のTi含有量が、溶接棒全重量あたり0.3重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、被覆剤中のTi含有量が1.8重量%を超えると、強度が上昇して靱性が著しく劣化する。従って、被覆剤中のTi含有量は、溶接棒全重量あたり0.3乃至1.8重量%とする。なお、本発明においては、TiはFe−Ti合金等により被覆剤に添加することができる。
【0032】
Si:0.5乃至3.6重量%
被覆剤中のSiは、Mg及びTiと同様に脱酸剤として作用すると共に、クレータの形成に大きく影響を与える成分であり、特に、立向上進溶接を実施する場合に必須成分となる。被覆剤中のSi含有量が、溶接棒全重量あたり0.5重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、被覆剤中のSi含有量が3.6重量%を超えると、靱性が著しく低下する。従って、被覆剤中のSi含有量は、溶接棒全重量あたり0.5乃至3.6重量%とする。なお、本発明においては、SiはFe−Si合金等により被覆剤に添加することができる。
【0033】
Mn:0.35重量%以下
被覆剤中にMnが含有されていると、溶接金属中において偏析が起こり易くなる。この偏析は曲げ試験を実施したときに欠陥の起点となるので、母材(熱影響部)と溶接金属との強度差が大きい場合、又は曲げ半径が小さい場合には、特に被覆剤中のMnが溶接金属に悪影響を与える。このため被覆剤中のMnはできるだけ低減することが好ましいが、Mnは他の原料に不可避的不純物として含有される場合があるので、本発明においては、曲げ性能を低下させない範囲で溶接棒全重量あたりの被覆剤中のMn含有量を規定する。被覆剤中のMn含有量が、溶接棒全重量あたり0.35重量%を超えると、曲げ性能が低下する。従って、被覆剤中のMn含有量は、溶接棒全重量あたり0.35重量%以下とする。
【0034】
本発明においては、上述の如く心線及び被覆剤の組成を規定することにより、靱性、落重性能及び延性が優れた溶接金属を得ることができるが、被覆剤中の珪酸化合物並びに心線中のAl、O及びN含有量を規定すると、より一層これらの効果を高めることができる。以下、これらの好ましい範囲について説明する。
【0035】
被覆剤中の水ガラス以外の珪酸化合物(SiO 2 換算値):1.2重量%以下本発明においては、溶接金属の靱性をより一層高めるために、被覆剤中の珪酸化合物の含有量を規制することが好ましい。被覆剤中のSiO2はスラグ生成剤としての作用を有すると共に、立向溶接性にも影響を与える成分である。しかし、SiO2は溶接金属中の酸素源となるので、被覆剤中の水ガラス以外の珪酸化合物がSiO2換算値で1.2重量%を超えると、溶接金属中の酸素量が高くなって、靱性が劣化することがある。従って、より一層高い靱性を得るために、被覆剤中の水ガラス以外の珪酸化合物は、SiO2換算値で、溶接棒全重量あたり1.2重量%以下とすることが好ましい。なお、水ガラス中においてもSiO2が含有されているので、被覆剤中に水ガラス以外の珪酸化合物が添加されていなくても、溶接作業性が低下することはない。
【0036】
心線中のAl:0.02重量%以下、O:50重量ppm以下、N:50重量ppm以下
本発明においては、溶接金属の靱性、曲げ性能及び落重性能をより一層高めるために、心線中のAl、O及びNの含有量を規制することが好ましい。心線中のAlは脱酸時においてAl2O3を生成し、これが溶接金属に残存することによって溶接金属の靱性が低下すると共に、偏析による曲げ性能の低下が生じることがある。心線中のAl含有量が、心線全重量あたり0.02重量%以下であると、靱性の低下及び曲げ性能の低下を防止する効果が高くなる。従って、心線中のAl含有量は、心線全重量あたり0.02重量%以下とすることが好ましい。
【0037】
また、心線中のOは溶接金属中において酸素源となり、溶接金属の靱性を低下させる成分である。心線中のO含有量が、心線全重量あたり50重量ppm以下であると、靱性の低下を防止する効果が高くなる。従って、心線中のO含有量は、心線全重量あたり50重量ppm以下とすることが好ましい。
【0038】
更に、心線中のNは溶接金属の焼き入れ性を過剰に高めると共に、欠陥の起点となり易いので、靱性、落重性能及び曲げ性能の低下を引き起こすことがある。心線中のN含有量が、心線全重量あたり50重量ppm以下であると、靱性の低下、落重性能の低下及び曲げ性能の低下を防止する効果が高くなる。従って、心線中のN含有量は、心線全重量あたり50重量ppm以下とすることが好ましい。
【0039】
【実施例】
以下、本発明に係る低水素系被覆アーク溶接棒の実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。
【0040】
先ず、種々の組成を有する軟鋼製心線に種々の化学組成を有する被覆剤を塗布して被覆アーク溶接棒を作製し、これらの溶接棒を使用して、下記表1に示す溶接条件で被覆アーク溶接を実施することにより、溶接作業性を評価した。なお、本実施例においては、心線の直径を4mmとし、長さを400mmとした。実施例及び比較例の各溶接棒について、心線の化学組成、被覆率及び被覆剤の化学組成を下記表2乃至7に示す。但し、下記表4乃至7においては、被覆剤の組成は溶接棒全重量あたりの重量%で示す。また、被覆剤中のその他の成分としては、Fe、Na2O、K2O、FeO及びLi2O等がある。
【0041】
次に、得られた溶接金属中の酸素量を測定すると共に、溶接後の試験板からシャルピー衝撃試験片(JIS Z3111 4号)、落重試験片(ASTM E208 P−3)及び側曲げ試験片(JIS Z3122)を採取し、これらの規格に準じて、シャルピー衝撃試験、落重試験及び側曲げ試験を実施することにより、靱性、落重性能及び曲げ性能を評価した。これらの測定結果及び評価結果を下記表8及び9に示す。なお、本実施例においては、5本ずつの試験片を採取し、シャルピー衝撃試験及び落重試験については、その平均値を示した。また、側曲げ試験については、5本の試験片のうち、欠陥が発生した本数で示した。更に、溶接作業性については、継手の溶接時に官能評価し、優れているものを○、やや劣るものを△とし、劣るものを×とした。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
【表6】
【0048】
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
【表9】
【0051】
上記表2乃至9に示すように、実施例No.1及び2は心線及び被覆剤の化学組成が本発明の範囲内であるので、溶接作業性が良好であると共に、靭性、落重性能及び曲げ性能が優れた溶接金属を得ることができた。また、実施例No.1及び2は被覆剤中の水ガラス以外の珪酸化合物の含有量並びに心線中のAl、O及びNの含有量が本発明の好ましい範囲内であるので、靭性がより一層向上した。これに対し、比較例No.3乃至6も、心線及び被覆剤の化学組成が所定の範囲内であるので、実施例No.1及び2ほどではないが、溶接作業性が良好であると共に、靭性、落重性能及び曲げ性能が優れた溶接金属を得ることができた。
【0052】
一方、比較例No.7は心線中のC含有量が0.03重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、曲げ試験において割れが発生した。比較例No.8は心線中のMn含有量が0.17重量%であり、本発明範囲の下限未満であるので、溶接金属中の酸素量が増加することによって靱性が低下した。比較例No.9は心線中のMn含有量が0.75重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、靱性及び曲げ性能が低下した。
【0053】
比較例No.10は被覆剤中の金属炭酸塩(CO2換算値)が3.2重量%であり、本発明範囲の下限未満であるので、溶接金属中の酸素量が上昇して、靱性及び落重性能が低下した。比較例No.11は被覆剤中の金属炭酸塩(CO2換算値)が11.9重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、溶接が困難となって試験を中止した。比較例No.12は被覆剤中の金属弗化物(F換算値)が0.3重量%であり、本発明範囲の下限未満であるので、シールド不足となって靱性及び落重性能が劣化した。
【0054】
比較例No.13は被覆剤中の金属弗化物(F換算値)が4.8重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、立向上進溶接が不可能となって試験を中止した。比較例No.14は被覆剤中のTi酸化物(TiO2換算値)が0.2重量%であり、本発明範囲の下限未満であるので、溶接作業性が低下した。従って、その他の性能評価試験は実施しなかった。比較例No.15は被覆剤中のTi酸化物(TiO2換算値)が2.7重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、溶接金属中の酸素量が増加して靱性が低下した。
【0055】
また、比較例No.16は被覆剤中のNi含有量が3.2重量%であり、本発明範囲の下限未満であるので、落重性能が低下した。比較例No.17は被覆剤中のNi含有量が9.4重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、強度が上昇して曲げ性能が低下した。比較例No.18は被覆剤中のMg含有量が0.1重量%であり、本発明範囲の下限未満であるので、溶接金属中の酸素量が増加して靱性及び落重性能が劣化した。比較例No.19は被覆剤中のMg含有量が2.0重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、溶接作業性が低下した。従って、その他の性能評価試験は実施しなかった。
【0056】
更に、比較例No.20は被覆剤中のTi含有量が0.2重量%であり、本発明範囲の下限未満であるので、溶接金属中の酸素量が増加して靱性及び落重性能が低下した。比較例No.21は被覆剤中のTi含有量が2.0重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、曲げ性能が低下した。比較例No.22は被覆剤中のSi含有量が0.3重量%であり、本発明範囲の下限未満であるので、溶接作業性が低下した。従って、その他の性能評価試験は実施しなかった。比較例No.23は被覆剤中のSi含有量が3.8重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、靱性が低下した。比較例No.24は溶接金属中のMn含有量が0.4重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、曲げ性能が低下した。
【0057】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、低水素系被覆アーク溶接棒の心線及び被覆剤の化学組成を適切に規定しているので、溶接作業性が優れていると共に、得られる溶接金属の靱性、落重性能及び延性を向上させることができる。また、被覆剤中の水ガラス以外の珪酸化合物及び心線中の金属成分の含有量を厳密に規定すると、より一層これらの性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】縦軸に−100℃における靱性値をとり、横軸に被覆剤中のNi含有量をとって、被覆剤中のNi含有量と靱性との関係を示すグラフ図である。
【図2】縦軸に落重性能をとり、横軸に被覆剤中のNi含有量をとって、被覆剤中のNi含有量と落重性能との関係を示すグラフ図である。
【図3】縦軸に−100℃における靱性値をとり、横軸に溶接金属中のMn含有量をとって、溶接金属中のMn含有量と靱性との関係を示すグラフ図である。
【図4】縦軸に側曲げ試験における欠陥発生本数をとり、横軸に被覆剤中のMn含有量をとって、被覆剤中のMn含有量と曲げ性能との関係を示すグラフ図である。
Claims (1)
- 軟鋼製心線に被覆剤が塗布されている低水素系被覆アーク溶接棒において、前記心線は、心線全重量あたり、Mnを0.2乃至0.7重量%含有すると共に、Cが0.02重量%以下に規制されており、前記被覆剤は、溶接棒全重量あたり、金属炭酸塩(CO2換算値):3.5乃至11.5重量%、金属弗化物(F換算値):0.5乃至4.5重量%、Ti酸化物(TiO2換算値):0.3乃至2.5重量%、Ni:3.5乃至9重量%、Mg:0.2乃至1.8重量%、Ti:0.4乃至1.8重量%、Si:0.5乃至3.6重量%及びMn:0.1乃至0.35重量%を含有すると共に、前記被覆剤は、溶接棒全重量あたりの水ガラス以外の珪酸化合物がSiO 2 換算値で1.2重量%以下に規制され、前記心線は、心線全重量あたりAlが0.02重量%以下、Oが50重量ppm以下、Nが50重量ppm以下に規制されていることを特徴とする低水素系被覆アーク溶接棒。
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