JP3540216B2 - フェルールとその成形方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光ケーブルを相互に接続する光ファイバコネクタ用のフェルールと、このフェルールを射出成形するフェルールの成形方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
フェルールは、光情報通信その他の分野で今後益々需要の増大が見込まれている光ファイバコネクタの主要な構成部品であり、その良否は光ファイバコネクタの性能や品質及びコストなどに直接影響を及ぼすので、高性能・高品質なものが必要であると共に、大量生産で安価に提供するためには樹脂材による射出成形品の使用が望ましい。
【0003】
光ファイバコネクタでは、ケーブル被覆からファイバ素線を突出させた光ケーブルを軸心孔に挿入した一対のフェルールを突き合わせ状態で配置させ、その接合端部の外周に位置決め用として金属製で割溝付きのスリーブを被着してファイバ素線を同軸線上に一致させた状態で連結が行われるので、スリーブを被着するフェルールの外径真円度や、ファイバ素線を挿入する軸心孔の外径に対する同心度等の寸法精度が要求される。
【0004】
従来の射出成形による樹脂製フェルールでは、寸法精度特に外径真円度及び外径に対する軸心の同軸精度などの点で十分とは言えず、この寸法精度の低下は主として射出成形時における充填密度の不均一や熱収縮で歪みを生じたり、スリーブを被着する際に柔らかい樹脂の外周面を損傷させること、静電気の影響を受けて樹脂の外周面にゴミが付着することなどに起因し、その結果は接続損失や端面の反射減衰量の増大など光コネクタの接続特性を低下させるので、一定品質のものを歩留まり良く大量生産するための改善が検討されている。
【0005】
例えば、特開平4−298315号公報による「フェルール成形金型」の提案では、製品部(キャビティ)を取り囲むリング状部と、リング状部から製品部に延びる求心部でランナーを構成し、スプールより射出される樹脂がリング状部を経由して、求心部の内端に形成したゲートから製品部に流入するようにし、これによって射出成形後における製品部周辺の金型温度を均一化させると共に、不均一な方向性のある収縮の発生を低減させ、真円度の向上を図っている。
【0006】
また、特開平8−5866号公報による「光ファイバコネクタの製造方法」の提案では、スリーブとの嵌合個所にセラミックパイプを挿入し、フェルール本体はセラミックと類似の熱膨張計数を有した樹脂材で射出成形されるが、セラミックパイプはフェルール本体を射出成形する際に金型内に挿入させて一体にインサート成形し、これによって寸法精度の向上及び量産を容易にして低価格化などを図っている。
【0007】
更に、本件出願人は先に特願平10−256504号「射出成形用インサートパイプとその加工方法及び成形品」において、多角形状の開口と花弁状の起立片で形成した連通孔を外周壁に設けた円筒状の金属パイプをインサート部材として、金属パイプ内に軸方向から樹脂材を注入することで、金属パイプ内に内形部を形成すると共に、金属パイプの外周壁外側には前記連通孔を介して流出した樹脂材で外形部を成形する成形品に付いて提案を行っている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平4−298315号公報による提案の場合には、射出圧力や充填度を高くすると、長期使用時に樹脂材の食い込みで金型内面に摩耗が発生し、成形品の外形寸法が確保できなくなる恐れがあること、金型内面と成形品の摩擦抵抗が大きいので成形品を取り出す際に、金型内面をかじってその後の寸法精度を低下させたり、成形品が歪んだ状態で取り出される恐れもあること、などの解決を必要とする課題が残されていた。
【0009】
また、特開平8−5866号公報による提案の場合には、インサートパイプに高価なセラミックパイプを使用しているので、必ずしも安価なフェルールを提供できるものではないこと、セラミックはフェルール本体を形成する液晶ポリマーなどの樹脂材に比べて熱膨張計数がきわめて小さいので、射出成形後における樹脂材の熱収縮による変形で同心度が低下する恐れがあること、などの解決を必要とする課題が残されていた。
【0010】
更に、特願平10−256504号による提案の場合には、インサート部材である金属パイプの軸方向から樹脂材を注入するので、射出速度を早くしたり射出圧力を高くした状態で不均一に樹脂材が注入されると、ファイバー素線保持用の小径孔を形成するために金属パイプ軸心に配置させた細径のコアピンに位置ズレや変形を生じさせる恐れがあること。
【0011】
而も、インサートパイプに使用する金属パイプには、フランジ部の成形及び金属パイプとフェルール本体との一体接合のために、多角形状の開口と花弁状の起立片で形成した連通孔を外周壁に設けており、これらの加工は現状では機械加工によらなければならないが、将来益々小型化が要求されるフェルールに使用する小径の金属パイプには適合できなくなる恐れもあること、などの解決を必要とする課題が残されていた。
【0012】
そこで本発明では、これらの先行技術における課題を新たな構想によって解決するために提案するものであって、その主たる目的は外形寸法精度と同軸度を高めたフェルールを樹脂材の射出成形によって容易且つ安価に量産することが可能なフェルールとその成形方法を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明のフェルールは、軸心に光ファイバ端末の挿入孔を設けた樹脂製のフェルール本体と、フェルール本体の中間部外周から突出形成された樹脂製のフランジ部と、先端側から少なくともフランジ部の形成位置までのフェルール本体外周に被着した硬質材製のインサートパイプとを備え、前記インサートパイプは先端側外周が光コネクタの整合用スリーブの挿着面を形成すると共に、当該インサートパイプにはフランジ部の形成位置に内外を連通する樹脂注入孔を設け、射出成形された前記フランジ部とフェルール本体がインサートパイプを狭持する態様で樹脂注入孔に充填された樹脂材によって一体に接合され、前記インサートパイプには樹脂注入孔の対向位置内面に係止凹部を設け、この係止凹部に充填された樹脂材と前記樹脂注入孔に充填された樹脂材が協働して、前記インサートパイプに対するフェルール本体とフランジ部の係止保持を行う構成とした。(請求項1)
【0014】
請求項1のフェルールでは、硬質材製のインサートパイプによって光コネクタの整合用スリーブの挿着面が形成されるので、必要な外形真円度と面精度が容易に確保されると共に、インサートパイプの内外に射出成形されたフェルール本体とフランジ部とは、インサートパイプの樹脂注入孔及び係止凹部に充填された樹脂材によって一体に接合されるので、軸方向及び周方向に対して強固に係止保持されて同軸精度も向上される。
【0015】
本発明の他のフェルールは、軸心に光ファイバ端末のファイバ素線とファイバ心線の挿入孔を設けた樹脂製のフェルール本体と、フェルール本体の後端部外周から突出形成された樹脂製のフランジ部と、フェルール本体外周に被着して前記フランジ部の形成位置より後方まで延在させた硬質材製のインサートパイプとを備え、前記インサートパイプは先端側外周が光コネクタの整合用スリーブの挿着面を形成すると共に、後端側内周が光ファイバ被覆の挿入孔を形成し、当該インサートパイプにはフランジ部の形成位置に内外を連通する樹脂注入孔を設け、射出成形された前記フランジ部とフェルール本体がインサートパイプを狭持する態様で樹脂注入孔に充填された樹脂材によって一体に接合される構成とした。(請求項2)
【0016】
請求項2のフェルールでは、硬質材製のインサートパイプによって光コネクタの整合用スリーブの挿着面が形成されるので、必要な外形真円度と面精度が容易に確保されると共に、インサートパイプの内外に射出成形されたフェルール本体とフランジ部とは、インサートパイプの樹脂注入孔及び係止凹部に充填された樹脂材によって一体に接合されるので、軸方向及び周方向に対して強固に係止保持されて同軸精度も向上される。
【0017】
また請求項2のフェルールでは、後端側内周が光ファイバ被覆の挿入孔を形成するので、第2コアピンを装着して射出成形された光ファイバ被覆の挿入孔より高い寸法精度が得られ、特に今後ますます小形化が予想されるフェルールに適合するものである
【0018】
請求項2のフェルールにおける前記インサートパイプには、樹脂注入孔の対向位置内面に係止凹部を設け、この係止凹部に充填された樹脂材と前記樹脂注入孔に充填された樹脂材が協働して、前記インサートパイプに対するフェルール本体とフランジ部の係止保持を行う構成を採ることができる。(請求項3)
【0019】
請求項3のフェルールでは、インサートパイプの内外に射出成形されたフェルール本体とフランジ部とは、インサートパイプの樹脂注入孔及び係止凹部に充填された樹脂材によって一体に接合されるので、軸方向及び周方向に対して係止保持されて同軸精度も向上される。
【0020】
請求項1又は3のフェルールにおける前記インサートパイプには、同一円周上に前記樹脂注入孔と係止凹部がそれぞれ複数個所ずつ、ほぼ均等な間隔で設けられている構成を採ることができる。(請求項4)
【0021】
請求項4のフェルールでは、インサートパイプの同一円周上にほぼ均等な間隔でそれぞれ設けられた複数の前記樹脂注入孔と係止凹部が、フェルール本体2とフランジ部4に対して均等に接合することによって、偏りのない状態で両者間の軸方向及び周方向に対する係止保持がより強固に行われる。
【0022】
請求項1〜4のフェルールにおける前記インサートパイプはステンレスパイプで構成され、前記フェルール本体とフランジ部は液晶ポリマーで射出成形されている構成を採ることができる。(請求項5)
【0023】
請求項5のフェルールでは、ステンレスパイプが安価で樹脂注入孔や係止凹部又は係止突部の加工が容易であり、研磨によって緻密な面粗度と高い寸法精度が得られること、液晶ポリマーがステンレスパイプと熱膨張計数が近似して相性が良く、
光コネクタとして使用中に温度変化によってファイバー素線にダメージやストレスを与える恐れがない。
【0024】
本発明のフェルール成形方法は、軸方向の中間部外周に樹脂注入孔を設けたインサートパイプを、固定側金型と可動側金型で形成されたキャビティ内に装着させ、このキャビティ内のインサートパイプの軸心にはファイバ端末の挿入孔成形用コアピンを配置させ、前記インサートパイプ内にフェルール本体の成形用キャビテイを画設させると共に、インサートパイプ外周には前記金型のP.L近傍にフランジ部の成形用キャビテイを画設させ、ゲートを介してフランジ部の成形用キャビテイに樹脂材を注入させると、注入された樹脂材が前記インサートパイプの樹脂注入孔を介してフェルール本体の成形用キャビテイにも注入され、インサートパイプの外周に成形されたフランジ部とインサートパイプ内に成形されたフェルール本体とが樹脂注入孔を介して一体に接合される。(請求項6)
【0025】
請求項6のフェルールの成形方法では、樹脂注入孔からインサートパイプ内に流入した樹脂材は、細孔で形成された樹脂注入孔を通過する際に発生する剪断熱による温度上昇で粘性が低下して流動性が高められると共に、樹脂注入孔からインサートパイプ内へ霧状に分散された噴流になって均一な高密度で迅速に充填が行われるので、ウエルドラインの発生が少なくて高強度で且つ高い寸法精度でフェルール本体を射出成形することができる。
【0026】
請求項6のフェルールの成形方法における前記インサートパイプにはステンレスパイプを用い、前記樹脂材には液晶ポリマーを用い、液晶ポリマーの結晶方向をインサートパイプの軸方向に整列させた方法を採ることができる。(請求項7)
【0027】
請求項7のフェルールの成形方法では、フェルール本体を形成する液晶ポリマーとインサートされたステンレスパイプは熱膨張率が近似しているので、射出成形後の熱収縮差で両者が干渉してストレスやダメージを与えることがなく、またフェルール本体は液晶ポリマーの結晶方向に沿った軸方向では高い寸法精度が確保され、寸法精度に難点のある半径方向の寸法精度はインサートパイプの外形寸法によって確保される。
【0028】
請求項6又7のフェルールの成形方法における前記フランジ部の成形用キャビテイには、その外周囲のリング状ランナーから対向状に連通する複数のゲートを介して樹脂材が注入され、この注入樹脂材が前記インサートパイプの同一円周上に設けた複数個所の前記樹脂注入孔を介してフェルール本体の成形用キャビテイに注入される方法を採ることができる。(請求項8)
【0029】
請求項8のフェルールの成形方法では、樹脂材をリング状ランナーから複数のゲート及び複数の樹脂注入孔を介してインサートパイプ内に注入することによって、各流路の長さがほぼ均等化されて良好な射出成形を行うことができる。
【0030】
請求項6〜8のフェルールの成形方法における前記固定側金型内には、前記インサートパイプが嵌合される非金属製の硬質材による第1コアパイプを装着して射出成形が行われる方法を採ることができる。(請求項9)
【0031】
請求項9のフェルールの成形方法では、第1コアパイプが射出成形時におけるインサートパイプの変形を防止して真円度の高い外径寸法にすることができ、成形品をノックアウトする際にインサートパイプに擦り傷を発生させて外径寸法の精度を低下させる恐れも解消できると共に、長期間の使用で摩耗による内形寸法精度が低下した際には容易に交換して寸法精度を維持することができる。
【0032】
請求項6〜8のフェルールの成形方法における前記固定側金型内には、前記インサートパイプの軸心から突出するファイバ端末の挿入孔成形用コアピンの先端側が嵌合される非金属製の硬質材による第2コアパイプを装着して射出成形が行われる方法を採ることができる。(請求項10)
【0033】
請求項10のフェルールの成形方法では、第2コアパイプによってインサートパイプの軸心に高い同軸精度で第1コアピンを保持することで、この第1コアピンによって形成されるファイバ素線挿入孔をフェルールの軸心に高い同軸精度で形成することができる。
【0034】
請求項6〜8のフェルールの成形方法における前記固定側金型内には、前記インサートパイプが嵌合される非金属製の硬質材による第1コアパイプを装着すると共に、前記インサートパイプの軸心から突出するファイバ端末の挿入孔成形用コアピンの先端側が嵌合される非金属製の硬質材による第2コアパイプを装着して射出成形が行われる方法を採ることができる。(請求項11)
【0035】
請求項11のフェルールの成形方法では、前記した請求項9の効果と請求項10の効果の双方の効果が得られる。
【0036】
請求項9〜11のフェルールの成形方法における前記第1コアパイプと第2コアパイプは、ジルコニアセラミック製である方法を採ることができる。(請求項12)
【0037】
請求項12のフェルールの成形方法では、ジルコニアセラミックの使用によって高い寸法精度が得られると共に、フェルール本体に現在多用されているジルコニアセラミック製のパイプを流用することが可能であるから、比較的安価で容易に入手することができる。
【0038】
請求項6〜12のフェルールの成形方法における前記射出成形は、低粘度で流動性を高めた樹脂材を高射出速度且つ低射出圧力の条件下で行う方法を採ることができる。(請求項13)
【0039】
請求項13のフェルールの成形方法では、樹脂材を高射出速度で充填することによって、フェルール本体先端面に対するウエルドラインの発生を防止して接続端面の精度を向上すると共に、樹脂材を低射出圧力で充填することによって、極細の第1コアピンの変形を防止して素線挿入孔の同軸度を向上することができる。
【0040】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明によるフェルールとその成形方法に付いて、その好適な実施形態を示す添付した図1〜7に基づいて詳細に説明するが、図1はフェルールの斜視図を、図2はフェルールの軸線方向に沿った中央縦断面図を、図3は他の実施形態によるフェルールの中央縦断面図を、図4は更に他の実施形態によるフェルールの中央縦断面図を、図5はフェルールに用いるインサートパイプの拡大断面図を、図6はフェルールの成形方法に用いる金型装置の要部断面図を、図7は金型装置の要部拡大横断面図を、図8は金型装置の樹脂材が流動する内部空間を示す斜視図を、図9は他の金型装置の要部断面図を、それぞれ示す。
【0041】
フェルール1は、図1で示すように円筒状をした樹脂製のフェルール本体2と、フェルール本体2の外周に被着されたインサートパイプ3と、インサートパイプ3の外周に突出形成された樹脂製のフランジ部4で一体に形成され、インサートパイプ3の先端側(フランジ部4より前方)外周が光コネクタの整合用スリーブの挿着面を形成すると共に、軸心には光ファイバ端末の挿入孔5が設けられている。
【0042】
フェルール1は、例えば図2〜4で示すように各種の実施形態を採ることができるが、図2のフェルール1Aではインサートパイプ3Aがフランジ部4の位置より僅か後方でまで被着され、図3及び図4のフェルール1B,1Cではインサートパイプ3B,3Cが後端部まで被着される形態であり、インサートパイプ3は後述する理由から少なくともフランジ部4の位置まで被着させる必要がある。
【0043】
フェルール1には、ファイバ素線を挿通して保持する素線挿入孔5aと、ファイバ心線を挿通して保持する心線挿入孔5bと、ファイバ被覆を挿通して保持する被覆挿入孔5cとで形成された光ファイバ端末の挿入孔5が設けられるが、フェルール1A,1Bでは被覆挿入孔5cがフェルール本体2A,2Bに形成され、フェルール1Cではインサートパイプ3Cの内形で形成される。
【0044】
インサートパイプ3には、フランジ部4を形成する中間位置の外周に内外を連通する樹脂注入孔7が穿設され、この樹脂注入孔7の周囲を被覆する態様でフランジ部4が形成されると共に、当該樹脂注入孔7を介してインサートパイプ3内に充填された樹脂材でフェルール本体2を形成させることにより、樹脂注入孔7を介してフェルール本体2とフランジ部4とが相互に連結されている。
【0045】
インサートパイプ3の詳細を図5で示すが、図5(a)のインサートパイプは先に特願平10−256504号で提案したインサートパイプを基本形とするものであって、多角錐形状の孔明けポンチで樹脂注入孔7を穿設し、同時に樹脂注入孔7の開口縁部内側に花弁状に切り起こした係止突部9を形成した機械加工のインサートパイプであるが、樹脂注入孔7の対向位置には係止凹部8を形成させている。
【0046】
また図5(b)のインサートパイプは、レーザ光の照射で樹脂注入孔7を穿設すると共に、同時に樹脂注入孔7の対向位置に係止凹部8を形成したレーザ加工のインサートパイプであって、図5(a)のインサートパイプとは係止突部9が形成されていない点で相違し、前者の場合には樹脂注入孔7と係止凹部8及び係止突部9が、後者の場合には樹脂注入孔7と係止凹部8が、それぞれ樹脂材との係止保持部を形成する。
【0047】
両者の得失は、樹脂材で形成されたフェルール本体2とフランジ部4に対する接合強度の点では機械加工による図5(a)のインサートパイプの方が有効であるが、同一円周上に複数の樹脂注入孔7と係止凹部8を加工する際に、孔明けポンチを交互に抜き差しする必要がある図5(a)の構造に比べ、レーザ加工による図5(b)のインサートパイプは作業能率の点で有利であり、図5(b)の構造は特に小型化されたフェルールにも適合するものである。
【0048】
インサートパイプ3には、樹脂注入孔7と係止凹部8が同一円周上の対向位置に少なくとも各1個所ずつ必要であるが、樹脂材を係止保持する接合強度や後述する樹脂注入孔7を介して行われる射出成形のためには、樹脂注入孔7と係止凹部8を同一円周上の対向位置にそれぞれ複数個所に設けることが望ましく、その際には対向位置で樹脂注入孔7が相互に重複しない分散状態で配置する必要があり、図示の実施形態では樹脂注入孔7と係止凹部8をそれぞれ120度間隔で3個所ずつ均等に配置させている。
【0049】
従って、機械加工による図5(a)のインサートパイプ3の場合には樹脂注入孔7と係止凹部8及び係止突部9が、レーザ加工による図5(b)のインサートパイプ3の場合には樹脂注入孔7と係止凹部8が、フェルール本体2とフランジ部4に対して同一円周上でそれぞれ3個所ずつ均等に接合することによって、両者間の軸方向及び周方向に対する係止保持が強固に行われる。
【0050】
フェルール1の構成材料としては、樹脂材で射出成形されるフェルール本体2とフランジ部4には、熱収縮が少なくて寸法精度が高いこと、大きな機械的強度と剛性が得られること、耐熱性があって経時変化が少ないこと、高流動性でバリの発生が少なく射出成形性に優れていること、等が要求され、これらの要件に適合する樹脂材としては、例えば液晶ポリマー(LCP)やポリフェニレンサルファイド(PPS)などの使用が可能である。
【0051】
インサートパイプ3には、熱収縮が少なくて寸法精度が高いこと、大きな機械的強度と剛性が得られること、耐熱性があって経時変化が少ないこと、加工及び表面研磨ができること、等が要求され、これらの要件に適合するパイプ材としては、例えばステンレス材(SUS)その他の硬質金属材やジルコニアなどのセラミック類などの使用が可能である。
【0052】
ここでは、望ましい実施形態として、インサートパイプ3には安価で樹脂注入孔7や係止凹部8又は係止突部9の加工が容易なステンレス材(SUS)を、中でも特に切削性が良く研磨で緻密な面粗度と高い寸法精度が得られるSUS303や、耐食性及び耐薬品性に優れたSUS304などを使用し、フェルール本体2とフランジ部4を射出成形する樹脂材には、特に熱膨張計数が近似してステンレスパイプとの相性が良いこと等の理由から、液晶ポリマー(LCP)を用いている。
【0053】
液晶ポリマーは、結晶性プラスチックのために結晶に方向性があって、射出成形した際に概ね流動する方向に沿って結晶が整列するために、熱収縮率はフェルール本体2の軸方向に対して小さくて半径方向に対しては大きくなるが、外周にインサートパイプ3が被着されているので外形寸法の精度が確保されると共に、樹脂注入孔7や係止凹部8又は係止突部9の軸方向への係止保持によって一体接合されているので、結晶の方向性に対する問題は解消される。
【0054】
また、液晶ポリマーによるフェルール本体2及びフランジ部4と、ステンレスパイプによるインサートパイプ3と、フェルール本体2の挿入孔5に挿着される光ケーブルのファイバー素線は、何れも熱膨張率が近似しているので、光コネクタとして使用中の温度変化に対してもフェルール1がファイバー素線にストレスやダメージを与えることがない。
【0055】
このように、フェルール1ではスリーブの被着によって整合される各フェルール1,1の先端側外径をインサートパイプ3が一定に保持すると共に、インサートパイプ3に対して樹脂成形されたフェルール本体2とフランジ部4が樹脂注入孔7と係止凹部8又は係止突部9を介して強固に係止保持している。
【0056】
従って、フェルール1の外径寸法並びに真円度は研磨加工によって容易に所望値にすることができると共に、機械的強度や強く温度変化や経時変化による変形も少なく、而も射出成形によって量産し安価に提供することが可能である。
【0057】
フェルール1を製造する金型装置10は、図6で要部縦断面を示すように、固定側取付板11及び固定側型板12に装着された固定側金型13に対し、受け板14及び可動側型板15に装着された可動側金型16が金型分割面(P.L)を境に対向状に配備されている。
【0058】
金型装置10には、射出成型機ノズル17を介して樹脂材が注入されるが、この樹脂材のスプール18は固定側型板12に装着されたスプールブッシュ19と可動側型板15に形成され、スプール18の先端側は受け板14側から可動側型板15に挿通されたスプールロックピン19で閉塞されると共に、金型分割面(P.L)に沿って延在するランナー20に連通させる。
【0059】
固定側金型13には、フェルール1に素線挿入孔5を形成する第1コアピン21の一部(21A)を取り付けた固定側入れ駒22が装着されると共に、固定側入れ駒22の先端が一端側を支持する態様でインサートパイプ3が装着され、第1コアピン21Aは基部側が固定側入れ駒22内で支持部材23によって支持され、先端側はインサートパイプ3の軸心に突出させている。
【0060】
可動側金型16には、被覆挿入孔6を形成する第2コアピン24を取り付けた可動側入れ駒25が装着され、可動側入れ駒25の先端でインサートパイプ3の他端側を支持させ、第2コアピン24は基部側が可動側入れ駒25内で支持部材26に支持されると共に、先端側がインサートパイプ3内の軸心に突出され、更にその先端から突出させた第1コアピン21Bを第1コアピン21Aと突き合わせ状態で嵌合させている。
【0061】
また樹脂材が充填されるキャビティとして、固定側金型13と可動側金型16内でインサートパイプ3の内径部と第1コアピン21及び第2コアピン24の外径部との間に形成されるフェルール本体2の先端側成形用のキャビティ27と、可動側金型16内で第2コアピン24の外径部との間に形成されるフェルール本体2の後端側成形用のキャビティ28と、可動側金型16内でインサートパイプ3の外径部との間に形成されるフランジ部4の成形用のキャビティ29を備えている。
【0062】
これらのキャビティは、キャビティを取り囲むようにインサートパイプ3と同心円状で金型分割面(P.L)に沿って設けたリング状ランナー30に、キャビティ29がゲート31,31を介して連通され、このキャビティ29がインサートパイプ3の樹脂注入孔7を介してキャビティ27及びキャビティ28に連通され、リング状ランナー30はランナー20を介してスプール19に連通されている。
【0063】
更に、リング状ランナー30の適所から例えばゲート31,31の外側位置やランナー20の対角位置から、スラッグウエル(材料だまり)32,33を延在させて設けると共に、受け板14側から可動側金型16を挿通させた製品突き出し用のエジェクタピン34を、先端がリング状ランナー30及びキャビティ29に対して直交状に出没する態様で装着させ、センサ取付板35に装着したロードセルなどの圧力センサ36の先端側をスラッグウエル33に突出させている。
【0064】
以上の構成による金型装置10を用いたフェルール1の射出成形では、射出成型機ノズル17から注入された樹脂材は、図6のようにスプール19からランナー20及びリング状ランナー30を通ってゲート31,31からキャビティ29に流入して充填されると共に、樹脂注入孔7を通ってインサートパイプ3内に流入してキャビテイ28,29に充填される。
【0065】
ランナー20は、スプール19から分岐させた状態で放射状に複数本(例えば8本)を設けて量産が可能な形態にすることができ、リング状ランナー30は、キャビティ29との間を所望の位置と本数によるゲート31で連通させることが可能であり、ゲート31の位置を均等に配置することでキャビティ内に樹脂材を均一に充填させることができる。
【0066】
インサートパイプ3の樹脂注入孔7を介してキャビテイ28,29内に流入した樹脂材は、細孔で形成された樹脂注入孔7を通過する際に発生する剪断熱による温度上昇で粘性が低下して流動性が高められると共に、樹脂注入孔7からインサートパイプ3内の広い空間に放出されると、霧状に分散された噴流になってキャビテイ28,29へ充填されるので、均一な高密度で迅速に充填が行われる。
【0067】
キャビテイ28,29内に流入した樹脂材は、インサートパイプ3の軸心に向けて噴射された後に軸心と平行状に流動されるので、極細の第1コアピン21を変形させることがなく、当該第1コアピン21によって形成されるファイバ素線挿入孔5aのインサートパイプ3に対する同軸精度が確保される。
【0068】
フェルール本体2の先端側はインサートパイプ3中で成形されるが、フェルール本体2を形成する樹脂材である液晶ポリマーとインサートパイプ3を形成するステンレス材は熱膨張率が近似しているので、射出成形後の熱収縮差でインサートパイプ3がフェルール本体2にストレスやダメージを与えることがない。
【0069】
射出成形される樹脂材の流路は、リング状ランナー30から各ゲート31,31を介してフランジ部4の成形用キャビテイ29に流入された後に、この注入樹脂材が3個所の樹脂注入孔7からインサートパイプ3内に注入されるが、これらの各流路を経由することで各流路長はほぼ均等化され、その結果ウエルドライなどの発生が少ない良好な射出成形を行うことができる。
【0070】
樹脂材である液晶ポリマーは、一般の射出成形では射出速度を遅くして射出圧力を高くした低速高圧充填が行われるのに対し、ここでは望ましい実施形態として樹脂材の粘度を著しく低くして流動性を高めた状態にして射出速度を速くして射出圧力を低くした高速低圧充填を行い、これによってフェルール本体2の先端面にウエルドラインが発生することを防止すると共に、極細の第1コアピン21の変形を防止している。
【0071】
すなわち、一般の射出成形のように低速高圧充填を行うと、相手方のフェルールとの突き合わせ接続されるフェルール本体2の先端面にウエルドラインが発生する恐れがあり、充填速度が遅いことに起因するので充填速度を速くすることで解消し、充填圧力が高いと極細の第1コアピン21を変形させて素線挿入孔5aの同軸度を低下する恐れがあるので、充填圧力を低くすることで変形を防止している。
【0072】
図9は、本発明によるフェルールの成形方法に用いる他の金型装置37の実施形態の要部を示すものであり、先の実施形態による金型装置10と同様の部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略するが、この金型装置37の固定側金型13内には非金属製の硬質材で形成された第1コアパイプ38と第2コアパイプ39を装着させている。
【0073】
第1コアパイプ38は、インサートパイプ3の先端側即ちフェルール1のフランジ部4より先端側に位置するフェルール本体2に被着される部分の外周が嵌合される筒状体であり、第2コアパイプ39は、インサートパイプ3の軸心から先端側に突出する第1コアピン21が嵌合される筒状体であり、コアパイプ38,39は熱膨張計数が小さくて加工寸法精度が得られる例えばジルコニアセラミックなどで形成されている。
【0074】
この金型装置37を用いてフェルール1の射出成形を行うと、第1コアパイプ38によって射出成形時におけるインサートパイプ3の変形を防止して真円度の高い外径寸法にすることができ、また鋼製の金型又は入れ駒内にインサートパイプ3を装着させた場合には、エジェクタピン34で成形品をノックアウトする際にインサートパイプ3に擦り傷を発生させて外径寸法の精度を低下させる恐れもある課題を、第1コアパイプ38の装着によって解消することができる。
【0075】
一方第2コアパイプ39は、インサートパイプ3の軸心に高い同軸精度で第1コアピン21を保持することができるので、この第1コアピン21によって形成されるファイバ素線挿入孔5aは、フェルール1の軸心に高い同軸精度で形成することができる。
【0076】
更に、コアパイプ38,39は長期間の使用で摩耗による内形寸法精度が低下した際には容易に交換して寸法精度を維持することができ、而もジルコニアセラミックは通常は高価な材料ではあるが、コアパイプ38,39と同形状のジルコニアセラミック製のパイプは現在この種のフェルール自体に多く使用されており、比較的安価で容易に入手できるので、これを流用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるフェルール1の実施形態を示す斜視図。
【図2】フェルール1Aの軸線方向に沿った中央縦断面図。
【図3】他の実施形態によるフェルール1Bの中央縦断面図。
【図4】更に他の実施形態によるフェルール1Cの中央縦断面図。
【図5】フェルール1に用いるインサートパイプの拡大断面図。
【図6】本発明によるフェルールの成形方法に用いる金型装置10の要部断面図。
【図7】図6における金型装置10の要部拡大横断面図。
【図8】図6における金型装置10の樹脂材が流動する内部空間を示す斜視図。
【図9】他の実施形態による金型装置の要部断面図。
【符号の説明】
1 フェルール
2 フェルール本体
3 インサートパイプ
4 フランジ部
5 素線挿入孔
6 被覆挿入孔
7 樹脂注入孔
8 係止凹部
9 係止突部
10 金型装置
11 固定側取付板
12 固定側型板
13 固定側金型
14 受け板
15 可動側型板
16 可動側金型
17 射出成型機ノズル
18 スプール
19 スプールロックピン
20 ランナー
21 第1コアピン
22 固定側入れ駒
23,26 支持部材
24 第2コアピン
25 可動側入れ駒
27,28,29 キャビティ
30 リング状ランナー
31 ゲート
32,33 スラッグウエル
34 エジェクタピン
35 センサ取付板
36 圧力センサ
Claims (13)
- 軸心に光ファイバ端末の挿入孔を設けた樹脂製のフェルール本体と、フェルール本体の中間部外周から突出形成された樹脂製のフランジ部と、先端側から少なくともフランジ部の形成位置である中間部までのフェルール本体外周に露出させて被着した硬質材製のインサートパイプとを備え、前記インサートパイプの露出面が光コネクタの整合用スリーブの挿着面を形成すると共に、当該インサートパイプにはフランジ部の形成位置である中間部のみに内外を連通する樹脂注入孔を設け、射出成形された前記フランジ部とフェルール本体がインサートパイプを狭持する態様で樹脂注入孔に充填された樹脂材によって一体に接合され、前記インサートパイプには樹脂注入孔の対向位置内面に係止凹部を設け、この係止凹部に充填された樹脂材と前記樹脂注入孔に充填された樹脂材が協働して、前記インサートパイプに対するフェルール本体とフランジ部の係止保持を行うことを特徴としたフェルール。
- 軸心に光ファイバ端末のファイバ素線とファイバ心線の挿入孔を設けた樹脂製のフェルール本体と、フェルール本体の中間部外周から突出形成された樹脂製のフランジ部と、フェルール本体外周に露出させて被着して前記フランジ部の形成位置である中間部より後方まで延在させた硬質材製のインサートパイプとを備え、前記インサートパイプはフランジ部より先端側外周の露出面が光コネクタの整合用スリーブの挿着面を形成すると共に、フランジ部より後端側内周が光ファイバ被覆の挿入孔を形成し、当該インサートパイプにはフランジ部の形成位置である中間部のみに内外を連通する樹脂注入孔を設け、射出成形された前記フランジ部とフェルール本体がインサートパイプを狭持する態様で樹脂注入孔に充填された樹脂材によって一体に接合されることを特徴としたフェルール。
- 前記インサートパイプには、樹脂注入孔の対向位置内面に係止凹部を設け、この係止凹部に充填された樹脂材と前記樹脂注入孔に充填された樹脂材が協働して、前記インサートパイプに対するフェルール本体とフランジ部の係止保持を行う請求項2に記載したフェルール。
- 前記インサートパイプには、同一円周上に前記樹脂注入孔と係止凹部がそれぞれ複数個所ずつ、ほぼ均等な間隔で設けられている請求項1又は3に記載したフェルール。
- 前記インサートパイプはステンレスパイプで構成され、前記フェルール本体とフランジ部は液晶ポリマーで射出成形されている請求項1〜4のいずれかに記載したフェルール。
- 軸方向の中間部外周に樹脂注入孔を設けたインサートパイプを、固定側金型と可動側金型で形成されたキャビティ内に装着させ、このキャビティ内のインサートパイプの軸心にはファイバ端末の挿入孔成形用コアピンを配置させ、前記インサートパイプ内にフェルール本体の成形用キャビテイを画設させると共に、インサートパイプ外周には前記金型のP.L近傍にフランジ部の成形用キャビテイを画設させ、ゲートを介してフランジ部の成形用キャビテイに樹脂材を注入させると、注入された樹脂材が前記インサートパイプの樹脂注入孔を介してフェルール本体の成形用キャビテイにも注入され、インサートパイプの外周に成形されたフランジ部とインサートパイプ内に成形されたフェルール本体とが樹脂注入孔を介して一体に接合されることを特徴としたフェルールの成形方法。
- 前記インサートパイプにはステンレスパイプを用い、前記樹脂材には液晶ポリマーを用い、液晶ポリマーの結晶方向をインサートパイプの軸方向に整列させた請求項6に記載したフェルールの成形方法。
- 前記フランジ部の成形用キャビテイには、その外周囲のリング状ランナーから対向状に連通する複数のゲートを介して樹脂材が注入され、この注入樹脂材が前記インサートパイプの同一円周上に設けた複数個所の前記樹脂注入孔を介してフェルール本体の成形用キャビテイに注入される請求項6又7に記載したフェルールの成形方法。
- 前記固定側金型内には、前記インサートパイプが嵌合される非金属製の硬質材による第1コアパイプを装着して射出成形が行われる請求項6〜8のいずれかに記載したフェルールの成形方法。
- 前記固定側金型内には、前記インサートパイプの軸心から突出するファイバ端末の挿入孔成形用コアピンの先端側が嵌合される非金属製の硬質材による第2コアパイプを装着して射出成形が行われる請求項6〜8のいずれかに記載したフェルールの成形方法。
- 前記固定側金型内には、前記インサートパイプが嵌合される非金属製の硬質材による第1コアパイプを装着すると共に、前記インサートパイプの軸心から突出するファイバ端末の挿入孔成形用コアピンの先端側が嵌合される非金属製の硬質材による第2コアパイプを装着して射出成形が行われる請求項6〜8のいずれかに記載したフェルールの成形方法。
- 前記第1コアパイプと第2コアパイプは、ジルコニアセラミック製である請求項9〜11のいずれかに記載したフェルールの成形方法。
- 前記射出成形は、低粘度で流動性を高めた樹脂材を高射出速度且つ低射出圧力の条件下で行う請求項6〜12のいずれかに記載したフェルールの成形方法。
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