JP3539419B2 - 弾性表面波装置とその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、LiTaOなどの圧電単結晶基板の上にストレスマイグレーション耐性の高い(111)高配向アルミニウム(Al)膜若しくはAl合金膜の電極膜を設けた弾性表面波装置及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
弾性表面波装置において、圧電基板上に形成したアルミニウム(以下、Alと略す)若しくはAl合金(例えば、AlCu)からなるインタディジタル電極の結晶方位を(111)配向とすることで、配向していないものや(311)配向のものと比較して、ストレスマイグレーション耐性が著しく向上することが知られている。
【0003】
例えば、特開平5−183373号公報(以下、従来例1と称す)では、圧電基板であるLiTaO基板上に(111)配向したAl若しくはAl合金膜を直接形成する技術が開示されている。具体的には、(111)配向したAl若しくはAl合金膜を形成する1つの方法としてイオンビームスパッタを用いている。このプロセス条件として、イオン電流100mA、加速電圧1400eVとし、さらに圧電基板を140℃に加熱して成膜することで(111)配向膜を形成する。
【0004】
また、図13は、例えば特開2001−94382号公報に示された従来の弾性表面波装置(以下、従来例2と称す)を示す断面図である。図において、100は圧電基板であるLiTaO基板、101はインターディジタル電極であり、金属層101a上に金属層101bを積層した構造を有し(111)高配向している。101aは高周波スパッタ法によって非晶質で積層された金属層であって、タンタル、ニオブ、チタンなどからなる。101bは(111)高配向するAl若しくはその合金からなる金属層である。
【0005】
従来例2では、(111)高配向するAl若しくはその合金からなるインターディジタル電極101を得るために、インターディジタル電極101の表面層となる金属層101bの下に非晶質の金属層101aを形成する。この非晶質の金属層101aによって、LiTaO基板100の結晶格子と格子不整合することによる影響が遮断され、(111)高配向する金属層101bを形成することができる。非晶質の金属層101aを得る条件として、その膜厚を500nm以下としたり、高周波スパッタ法を用いて成膜する。
【0006】
また、的確に非晶質の金属層101aを形成して、その上に(111)高配向したインターディジタル電極101を形成する1つの方法として、高周波スパッタを用いて非晶質の金属層101aを形成した後に真空破壊せずに連続して直流スパッタで金属層101bを形成することが述べられている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来の弾性表面波装置は以上のように構成されているので、従来例1では、圧電基板上に電極膜を直接形成することから、これらの結晶格子間の格子不整合による影響を受けるため、Al若しくはAl合金電極膜を(111)高配向としても十分に耐電力寿命を向上させることができないという課題があった。
【0008】
また、従来例1では、安定して(111)高配向したAl若しくはAl合金電極膜を得るためにはイオンビームスパッタなどのような高価な装置や成膜時に基板加熱(140℃)が必要であるという課題もある。
【0009】
さらに、従来例2においても、非晶質の金属層101aのみでLiTaO基板100の結晶格子との格子不整合による影響を抑制することから、Al若しくはAl合金電極膜を(111)高配向としても十分に耐電力寿命を向上させることができないという課題があった。
【0010】
例えば、従来例2の弾性表面波装置では、直流スパッタで圧電基板上に(111)高配向したAl若しくはAl合金電極膜を直接成膜したものと比較して、耐電力寿命の向上効果が約80倍程度と決して高くない。
【0011】
また、従来例2では、金属層101aの非晶質膜を安定して成膜するためには、非晶質膜を形成するための高周波スパッタと、(111)高配向したAl若しくはAl合金電極膜を得るための直流スパッタとが、真空破壊せずに連続して行えるような特殊な真空成膜装置が必要であるという課題もある。
【0012】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、圧電基板と電極膜との結晶格子間の格子不整合を緩和する2種類以上の金属薄膜を交互に積層してなる多層下地膜を設けることで、安価なマグネトロン直流スパッタ装置や電子ビーム真空蒸着装置を用いて基板加熱することなく作成することができる上に、従来より優れたストレスマイグレーション耐性つまり耐電力寿命を有する弾性表面波装置及びその製造方法を得ることを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る弾性表面波装置は、圧電単結晶基板と、この基板上に金属材を用いて形成された弾性表面波を発生するためのインターディジタル電極膜と、この電極膜と上記基板との間に形成され、上記電極膜の金属材と同一材の第1金属薄膜と上記電極膜の金属材と異なる金属材の第2金属薄膜とを交互に積層してなり、上記基板及び上記電極膜の各結晶格子と整合するように上記第1及び第2金属薄膜の膜厚を設定した多層下地膜とを備え、上記インターディジタル電極膜を、その表面の結晶方位が一方向に配向する金属膜から構成し、上記多層下地膜の各金属薄膜の膜厚を0.5乃至5nmの範囲としたものである。
【0014】
この発明に係る弾性表面波装置は、多層下地膜が第2金属薄膜を圧電単結晶基板及びインターディジタル電極膜のそれぞれに隣接させたものである。
【0017】
この発明に係る弾性表面波装置は、インターディジタル電極膜がアルミニウム若しくはアルミニウム合金からなり、多層下地膜の第1金属薄膜にアルミニウム若しくはアルミニウム合金薄膜を用い、第2金属薄膜にチタン薄膜を用いたものである。
【0019】
この発明に係る弾性表面波装置は、多層下地膜が少なくともチタン薄膜を2層以上、アルミニウム若しくはアルミニウム合金薄膜を1層以上積層してなるものである。
【0020】
この発明に係る弾性表面波装置は、圧電単結晶基板がタンタル酸リチウム(LiTaO)又はニオブ酸リチウム(LiNbO)の単結晶からなるものである。
【0021】
この発明に係る弾性表面波装置の製造方法は、圧電単結晶基板上に、インターディジタル電極膜の金属材と同一材の第1金属薄膜と上記電極膜の金属材と異なる金属材の第2金属薄膜とを、上記基板及び上記電極膜の各結晶格子と整合するように各膜厚を0.5乃至5nmの範囲に設定しながら互に積層して多層下地膜を形成する下地形成ステップと、上記多層下地膜上に結晶方位が一方向に配向した金属膜からなる上記電極膜を形成する電極形成ステップとを備えるものである。
【0022】
この発明に係る弾性表面波装置の製造方法は、電極形成ステップにて、結晶方位が一方向に配向したアルミニウム若しくはアルミニウム合金からなる電極膜を形成するものである。
【0023】
この発明に係る弾性表面波装置の製造方法は、下地形成ステップにて、第1金属薄膜としてアルミニウム若しくはアルミニウム合金薄膜、第2金属薄膜としてチタン薄膜を積層して多層下地膜を形成するものである。
【0024】
この発明に係る弾性表面波装置の製造方法は、下地形成ステップにて、チタン薄膜を最下層として多層下地膜を形成するものである。
【0025】
この発明に係る弾性表面波装置の製造方法は、圧電単結晶基板の結晶面を選択するにあたり、圧電単結晶基板、多層下地膜及びインターディジタル電極膜を表現する結晶格子モデルを用い、上記結晶格子モデルの各層間の格子整合度について上記電極膜の結晶方位が一方向に配向する度合及び上記電極膜に加わる応力負荷の度合に関連付けた値を予め設定しておき、当該格子整合度に応じて結晶面を選択する選択ステップを備え、下地形成ステップにて、上記結晶面上に上記多層下地基板を形成するものである。
【0026】
この発明に係る弾性表面波装置の製造方法は、選択ステップにて、圧電単結晶としてLiTaO を用い、その結晶方位についてX軸を中心にY軸からZ軸方向への回転角範囲35°乃至45°のいずれかのカット面で規定される結晶面を格子整合度に応じて選択するものである。
また、この発明に係る弾性表面波装置の製造方法は、選択ステップにて、圧電単結晶としてLiNbO を用い、その結晶方位についてX軸を中心にY軸からZ軸方向への回転角範囲63°乃至73°のいずれかのカット面で規定される結晶面を格子整合度に応じて選択するものである。
【0027】
この発明に係る弾性表面波装置の製造方法は、下地形成ステップにて形成された多層下地膜を加熱する下地加熱ステップを備えるものである。
【0028】
この発明に係る弾性表面波装置の製造方法は、電極膜の電極パターンの形成にリフトオフ法を用いるものである。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の一形態を説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による弾性表面波装置を示す断面図である。図において、1は圧電基板であって、例えばLiTaO単結晶を使用する。2は多層下地膜で、図示の例ではTi薄膜2aとAl(若しくはAl合金)薄膜2bとを交互に積層して形成されている。3はインターディジタル電極膜(電極膜)であって、多層下地膜2上に形成される。
【0030】
先ず、図1に示す弾性表面波装置の製造方法について説明する。
図2は図1中の弾性表面波装置の製造工程を示す図である。先ず、図2(a)の工程で圧電基板1(例えば、LiTaO基板)を洗浄する(ウェット洗浄)。次に、図2(b)の工程にて、例えばTi及びAlCuのターゲットを備えたマグネトロン直流スパッタ装置に上記LiTaO基板1を装填し、室温にてTi膜、AlCu膜、Ti膜と交互に積層して多層下地膜を形成する(下地形成ステップ)。この際、積層の順番としては、例えばTi膜から始める。
【0031】
この後、場合によって、図2(c)の工程に進んで、スパッタ装置内において、多層下地膜2を形成したLiTaO基板1を加熱する(下地加熱ステップ)。これによって、Ti薄膜2aとAl(若しくはAl合金)薄膜2bの結晶性が向上する(図中、結晶性が向上したことを示すため、加熱後のTi薄膜2aとAl(若しくはAl合金)薄膜2bにそれぞれ符号2a−1、2b−1を付した)。ただし、この工程は必要に応じて導入すればよく、後述するように熱処理工程の有無による効果はわずかであった。
【0032】
続いて、図2(d)の工程に進んで、スパッタ装置から上記LiTaO基板1を取り出さずに、多層下地膜2をの上に連続して所望の膜厚のAlCu膜をインターディジタル電極膜3としてスパッタ成膜する(電極形成ステップ)。
【0033】
ところで、本発明の根幹となるAl(若しくはAl合金)膜と圧電基板1との間に多層下地膜2を挟むという技術的思想は、圧電基板1の格子寸法と(111)Al(若しくはAl合金)膜2bの格子寸法との関係から導き出されたものである。
【0034】
図3は実施の形態1による弾性表面波装置の結晶格子モデルを示す図である。図において、4は36°回転Y−X LiTaO基板の酸素原子、5はTi(001)膜のTi原子、6はAl(111)膜のAl原子である。ここで、格子整合のモデルとしては、<100>方向でLiTaOの基本サイズの格子を考え、これと直角な方向には基本サイズの2倍の超格子を考えた。この格子モデルにおいて、各格子整合性の値は下記の通りになる。
【0035】
<121>(電子出願の関係上、図3と表記が異なる部分があるが同一の指数値を示している)方向で、Ti(001)//LiTaO(TiとLiTaOの酸素原子との格子整合性)が−1.2%であり、Al(111)//Ti(001)(AlとTiとの格子整合性)が−3.1%であり、Al(111)//LiTaO(AlとLiTaOの酸素原子との格子整合性)が−4.2%である。一方、<100>方向で、Ti(001)//LiTaOが−0.8%であり、Al(111)//Ti(001)が−2.9%であり、Al(111)//LiTaOが−3.7%である。
【0036】
図3に示すように、<100>方向に関しては、AlとLiTaOの格子不整合が−3.7%と大きいのに対して、TiとLiTaOとは−0.8%と格子不整合性の値が小さい。一方、<100>方向と直角な方向(ほぼ、<121>方向に相当する)では、2倍の超格子を考えるので、やはり、AlとLiTaOの格子不整合が−4.2%と大きく、TiとLiTaOとは−1.2%と格子不整合が小さくなる。
【0037】
これらの格子不整合性を考慮すると、高配向(111)Al(若しくはAl合金)膜を得るには、極めて膜厚の薄いTi膜と、極めて膜厚の薄いAl(若しくはAl合金)膜とを多層に積層した多層下地膜をAl(若しくはAl合金)からなる電極膜と圧電基板との間に設けることが効果的であることが推測できる。
【0038】
また、<100>方向と直角な方向(ほぼ<121>方向に相当する)に生じるAl(若しくはAl合金)膜の内部応力に関しては、上述のように、AlとLiTaOの格子不整合性の値が大きなマイナス値となっており、格子不整合性を緩和する多層下地膜を適用せずに直接にLiTaO基板上にAl(若しくはAl合金)膜を形成すると、その膜には強い引っ張り応力が発生することが予想される。
【0039】
さらに、上述のように、AlとTiの格子不整合性の値もその次に大きなマイナス値となっており、Ti単層下地膜を設けると若干引っ張り応力が緩和されるものの、やはりAl(若しくはAl合金)膜には引っ張り応力が発生することが予想される。
【0040】
Al(若しくはAl合金)膜の内部応力の存在は、引っ張り応力であれ、圧縮応力であれ、ストレスマイグレーション耐性を劣化させることが知られており、内部応力をできるだけ低減させることが望ましい。
【0041】
以上のことから、<100>方向と直角な方向(ほぼ<121>方向に相当する)に関しても、<100>方向と同様に、高配向(111)Al(若しくはAl合金)膜を得るためには、極めて膜厚の薄いTi膜と、極めて膜厚の薄いAl(若しくはAl合金)膜とを多層に積層した多層下地膜をAl(若しくはAl合金)からなる電極膜と圧電基板との間に設けることが効果的であることが推測できる。
【0042】
さらに、このような格子不整合を緩和できる多層下地膜の適用は、Al(若しくはAl合金)膜の内部応力の低減にも効果的であることが推測できる。
【0043】
次に、実施の形態1による弾性表面波装置における(111)高配向Al合金膜の結晶性評価について説明する。この評価実験は、本発明の効果を明らかにするために異なる成膜方法との比較という観点で行った。なお、後述するAlCuは、Cu濃度が0.5wt%のものを用いた。比較した成膜方法の内容を以下に示す。
【0044】
成膜方法I 洗浄した36°回転Y−X LiTaO基板をスパッタ装置に装填し、Ti膜(膜厚40Å)、AlCu膜(膜厚15Å)、Ti膜(膜厚10Å)、AlCu膜(膜厚15Å)、Ti膜(膜厚10Å)と連続して積層して、多層下地膜を形成する。続いて、スパッタ装置内で基板を100℃に加熱した後に、AlCu膜を膜厚3970Åで成膜する。
【0045】
成膜方法II 洗浄した36°回転Y−X LiTaO基板をスパッタ装置に装填し、Ti膜(膜厚40Å)、AlCu膜(膜厚15Å)、Ti膜(膜厚10Å)、AlCu膜(膜厚15Å)、Ti膜(膜厚10Å)と連続して積層して、多層下地膜を形成する。続いて、基板加熱無しにAlCu膜を膜厚3970Åで成膜する。
【0046】
成膜方法III 洗浄した36°回転Y−X LiTaO基板をスパッタ装置に装填し、Ti膜(膜厚60Å)を積層して、単層下地膜を形成する。続いて、基板加熱無しにAlCu膜を膜厚4000Åで成膜する。
【0047】
成膜方法IV 洗浄した36°回転Y−X LiTaO基板をスパッタ装置に装填し、AlCu膜を膜厚4000Åで成膜する。
【0048】
以上の評価実験はすべて同じマグネトロン直流スパッタ装置を用いた。ところで、多層下地膜のTi膜とAlCu膜の膜厚については、マグネトロン直流スパッタ装置の膜厚コントロールの可能な範囲を選ぶ必要がある。
【0049】
また、多層下地膜の役割は圧電基板の結晶とAl(111)配向膜の結晶との格子定数の差異を緩和させることを狙っており、その観点から容易に歪むことが可能なようにTi膜、AlCu膜ともにできるだけ薄いことが望ましい。
【0050】
以上の点から、多層下地膜のTi膜とAlCu膜の各々1層の膜厚は5から50Å(0.5から5nm)の範囲内に設定する。さらに、多層下地膜の層数については、以下でも説明するが、少なくともTi膜3層とAlCu膜2層の計5層あればその下地膜の上に形成されたAlCu膜の(111)配向性が著しく向上する。
【0051】
図4はX線回折ロッキングカーブ測定時の圧電基板の結晶方位と測定系の関係を示す図であり、(a)は<100>方向に直交する平面上でX線を入射した場合を示し、(b)は<100>方向に平行する平面上でX線を入射した場合を示している。図に示すように、圧電基板の結晶方位とX線回折測定系の関係について、2つの異なる測定構成でロッキングカーブを測定した。ここで、図4(a)に示す構成を測定構成I、図4(b)に示す構成を測定構成IIと称することとする。
【0052】
図5は上述した各成膜方法で形成したAlCu膜(電極膜)についてX線回折測定によって得られたロッキングカーブのピーク強度と半値幅の関係を示すグラフ図であり、(a)は図4(a)の測定構成Iによる結果を示し、(b)は図4(b)の測定構成IIによる結果を示している。図において、黒丸記号のプロットがピーク強度を示しており、黒塗り四角記号のプロットが各ピークの半値幅を示している。ここで、ピーク強度が大きく半値幅が小さいほどAl(111)の配向性が良好であることを意味している。
【0053】
図6は上述した成膜方法II、IVで形成したAlCu膜(電極膜)のロッキングカーブを示す図であり、(a)は成膜方法IVによるロッキングカーブ、(b)は成膜方法IIによるロッキングカーブを示している。成膜方法IVによるAlCu単層膜を36°回転Y−XのLiTaO基板上に積むだけでは、X線回折測定によって得られる2θプロファイルに(111)配向のピークしか認められない。しかしながら、図5及び図6から明らかなように、成膜方法IVについてのロッキングカーブは、2つの極めてブロードなピークを有している。つまり、配向していると言えるレベルのロッキングカーブが得られなかった。
【0054】
一方、成膜方法IIIのようにTi単層の下地膜をAlCu膜とLiTaO基板の間に挟むと、図5に示すように、成膜方法I、IIに比べると大幅に配向性が劣るものの、Al(111)配向していると言えるレベルとなる。
【0055】
そして、成膜方法I、IIのように(Ti/AlCu)多層下地膜を適用すると、図5に示すように、成膜方法IIIのTi単層下地膜の場合と比較して、ロッキングカーブのピーク強度で2倍弱、半値幅で半分となる(測定構成IIでは半値幅に差が無かった)。このように、成膜方法I、IIによれば、極めて配向性に優れたAl(111)高配向膜を得ることができる。
【0056】
なお、成膜方法I、IIの比較で、スパッタ装置内で多層下地膜を100℃加熱するかどうかは、加熱をした成膜方法Iによる方のロッキングカーブピーク強度がわずかに大きくなったが、半値幅では差がみられなかった。
【0057】
以上のように、多層下地膜を設けることで、インターディジタル電極膜の結晶配向性を著しく向上させることができる。
【0058】
上述した多層下地膜において、インターディジタル電極膜の結晶配向性の向上という見地からみれば、多層下地膜を構成する層数を多くする方が圧電基板からの影響を遮断することができ望ましい。しかしながら、電極膜全体に対するTi層の膜厚割合が増加すると、電極膜の抵抗が増加してしまう。
この結果、例えばTi層の膜厚割合が大きく、高抵抗となった電極膜を有する弾性表面波フィルタを構成すると、そのフィルタ特性の損失が増加してしまうという不具合が生じる。このため、多層下地膜の層数については、耐電力寿命向上の観点以外に、作成しようとする弾性表面波装置の特性仕様を勘案して選定する必要がある。
【0059】
ここで、上述した説明を振り返ると、多層下地膜をTi膜とAlCu膜で形成する場合、それらの各膜厚を5から50Åという非常に薄い範囲に設定し、少なくともTi膜が3層、AlCu膜が2層の計5層で構成することで、多層下地膜上に形成されるAlCuからなる電極膜の(111)配向性を著しく向上させることができることを明らかにしている。
【0060】
このように、本発明では、多層下地膜を構成する各膜の膜厚が薄く、上部に形成される電極膜の配向性を向上させるために必要な層数も5層程度からで良い。これにより、上記構成条件を弾性表面波フィルタに適用することで、電極膜の比抵抗を小さくすることができると共に、損失の小さいフィルタ特性を実現することができる。
【0061】
なお、多層下地膜をTi膜2層、Al(若しくはAl合金)膜1層で構成しても、上述したTi膜を3層、AlCu膜を2層の計5層で構成した場合ほどは電極膜の(111)配向性を向上させることはできない。しかしながら、成膜方法IVによる下地膜の無いAl(若しくはAl合金)膜を電極膜としたものや成膜方法IIIによるTi単層の下地膜を有する電極膜と比較すれば、電極膜の配向性が優れることは言うまでもない。
【0062】
次に、圧電基板の結晶方位の選定方法について説明する。
先ず、36°回転Y−X以外の結晶方位を有するLiTaO基板を用いた場合を説明する。
図7は42°回転Y−X LiTaO基板を用いた実施の形態1による弾性表面波装置の結晶格子モデルを示す図であり、42°回転Y−X LiTaOの酸素原子とTi(001)膜、Al(111)膜の原子のそれぞれの格子配置を示している。格子整合のモデルとしては、36°回転Y−X LiTaO基板の場合と同様に、<100>方向でLiTaOの基本サイズの格子を考え、これと直角な方向には基本サイズの2倍の超格子を考えた。なお、図3と同一構成要素には同一符号を付している。この格子モデルにおいて、各格子整合性の値は下記の通りになる。
【0063】
<131>(電子出願の関係上、図7と表記が異なる部分があるが同一の指数値を示している)方向で、Ti(001)//LiTaO(TiとLiTaOの酸素原子との格子整合性)が4.3%であり、Al(111)//Ti(001)(AlとTiとの格子整合性)が−3.1%であり、Al(111)//LiTaO(AlとLiTaOの酸素原子との格子整合性)が1.1%である。
【0064】
一方、<100>方向で、Ti(001)//LiTaOが−0.8%であり、Al(111)//Ti(001)が−2.9%であり、Al(111)//LiTaOが−3.7%である。
【0065】
図7に示すように、<100>方向に関しては、格子整合の関係は36°回転Y−Xと同様に、AlとLiTaOの格子不整合が−3.7%と大きいのに対して、TiとLiTaOとは−0.8%と格子不整合の値が小さい。一方、<100>方向と直角な方向(ほぼ、<131>方向に相当する)では、AlとLiTaOの格子不整合が1.1%と小さく、TiとLiTaOとは4.3%と大きくなっている。
【0066】
これらの格子不整合性を考慮すると、42°回転Y−X LiTaO基板では、Al(若しくはAl合金)電極膜とLiTaO基板との間に、Ti単層膜を挟むだけでは、格子不整合による影響を十分に遮断することができない。
【0067】
このため、42°回転Y−X LiTaO基板では、Al(若しくはAl合金)電極膜とLiTaO基板との間に、本発明の多層下地膜を挟むことによって、はじめて格子不整合による影響を十分に遮断することができ、高配向(111)Al膜(ないしはAl合金)膜を得ることができる。
【0068】
また、<100>方向と直角な方向(ほぼ<131>方向に相当する)に生じるAl(若しくはAl合金)膜の内部応力に関しては、上述のように、AlとLiTaOの格子不整合性の値は1.1%とわずかに圧縮応力が発生することが予想される。しかし、その値は小さいため、36°回転Y−X LiTaOでは強い引っ張り応力を生じてストレスマイグレーション耐性の低下につながることが懸念され、多層下地膜を適用して格子不整合を緩和させることで引っ張り応力を低減しているのと対象的に、42°回転Y−X LiTaOでは、はじめから問題とならないことが予想される。
【0069】
つまり、格子不整合に起因したAl(若しくはAl合金)膜の内部応力に関しては、多層下地膜を適用するにしても、36°回転Y−Xと42°回転Y−Xの比較という観点では、後者の42°回転Y−X LiTaOの方が有利と考えられる。
【0070】
ここで、42°回転Y−X LiTaO基板についても、上述した各成膜方法で試料を作成し、36°回転Y−X LiTaO基板の場合と同様な評価試験を行った結果について説明する。
図8は上述した各成膜方法で形成したAlCu膜(電極膜)についてX線回折測定によって得られたロッキングカーブのピーク強度と半値幅の関係を示すグラフ図であり、(a)は図4(a)の測定構成Iによる結果を示し、(b)は図4(b)の測定構成IIによる結果を示している。図において、黒丸記号のプロットがピーク強度を示しており、黒塗り四角記号のプロットが各ピークの半値幅を示している。ここで、「配向しない」とあるのは、X線回折測定によって得られた2θプロファイルにおいて、(111)ピークに加えて(110)ピークも認められ、(111)に優先して配向しなかったことを意味している。また、「配向性低」とあるのは、2θプロファイルにおいて(111)ピークのみが認められたものの、ロッキングカーブは極めてブロードであり、配向性が低かったことを意味している。
【0071】
図8から明らかなように、成膜方法I、IIによって多層下地膜を形成したものは、測定構成I、IIのいずれにおいても、成膜方法IIIやIVと比較してロッキングカーブのピーク強度が大きく、且つ半値幅が小さいことから、電極膜の配向性が著しく向上していることがわかる。
【0072】
ここで、上述した各成膜方法による膜構成を有する弾性表面波フィルタ(バンドパスフィルタ)を試作し、それぞれの電気特性を評価した結果について説明する。試料となる弾性表面波フィルタは、上述した各成膜方法によって電極膜上にレジストパターンを形成したのち、ドライエッチングにて所望のインターディジタル電極パターンを形成したものを用いた。具体的には、127個の800MHz帯の2重モードのインターディジタル電極からなる弾性表面波フィルタを製作した。
【0073】
図9は上述した各成膜方法による電極膜を有する弾性表面波フィルタの電気特性を示すグラフ図であり、(a)は各成膜方法と帯域中心周波数f0のばらつきとの関係を示し、(b)は各成膜方法とピークロスとの関係を示している。図において、白丸記号のプロットが36°回転Y−X LiTaO基板による結果を示しており、白塗り四角記号のプロットが42°回転Y−X LiTaO基板による結果を示している。ここで、「fばらつき」とは、バンドパスフィルタの帯域中心周波数fの弾性表面波フィルタチップ間のばらつきを意味している。また、「ploss平均値」とは、上記弾性表面波フィルタ(バンドパスフィルタ)のピークロス値の127個の平均値を意味している。なお、各成膜方法の間で比較するために、成膜方法IV(AlCu単層の電極膜)による弾性表面波フィルタのfばらつき及びploss平均値を基準にして各成膜方法によるものの結果を規格化している。
【0074】
図9に示すように、成膜方法III(Ti単層下地膜を適用したもの)によるものと、本発明に対応する成膜方法I、II(多層下地膜を適用したもの)によるもののいずれも、成膜方法IV(AlCu単層電極膜を適用したもの)による従来の弾性表面波装置に比べて、fばらつきを30〜40%減少することができるという効果を確認した。
【0075】
これは、下記の2つの要因が考えられる。
先ず、成膜方法III及び本発明に対応する成膜方法I、IIによって、Al(111)配向性が向上するのと同時に、AlCu電極膜が結晶的に安定するために、電極膜の膜質のばらつきが減少し、結果的に電気特性としてのfばらつきが減少することが考えられる。
【0076】
この他に、LiTaO基板の上にTi層をはじめに成膜する構成として、AlCu電極膜をLiTaO基板に直接接触させないようにしたことから、AlCu電極膜からLiTaO基板へ及ぼす影響、特にAlCu電極膜中のCuが不均一にLiTaO基板に拡散してLiTaO基板の表面弾性波伝搬特性に影響することが抑制されたためと考えられる。
【0077】
図9(b)に示すように、ploss平均値では、成膜方法III及び本発明に対応する成膜方法I、IIによって、2〜4%低減されている。これは、AlCu電極膜の結晶性が従来のAlCu単層電極膜に比べて向上したことにより、電極膜の比抵抗が減少したことと関係しているものと考えられる。
【0078】
このように、多層下地膜を適用した本発明の弾性表面波装置は、従来のものと比較して格段に電気特性が向上していることがわかる。
【0079】
次に、本発明の多層下地膜を用いた成膜方法I、IIで形成した電極膜を有する900MHz帯の2重モードの弾性表面波フィルタ(バンドパスフィルタ)を試作し、耐電力寿命の評価を行った結果について説明する。ここでも、比較のために、成膜方法IVによる同一構成の弾性表面波フィルタを試作した。
【0080】
図10は上述した評価試験に使用した耐電力寿命評価システムの構成を示す図である。図において、7は信号発生器、8は増幅器、9はカプラ、10はアイソレータ、11は試料加熱用のオーブン、12は試料となる弾性表面波フィルタを実装するDUT基板、13はネットワークアナライザ、14は電力計、15は該システムの各構成要素を試験内容に沿うように制御するコンピュータである。
【0081】
試験内容としては、試料である弾性表面波フィルタを実装したDUT基板12を、オーブン11で125℃の温度条件下におき、30dBmのパワーの信号を該弾性表面波フィルタに印加した。この条件下で、電力計14で得られる弾性表面波フィルタの損失値をコンピュータ15が逐次取得し、その経時変化を求める。また、適時、ネットワークアナライザ13を用いて、フィルタ波形の確認を行なった。
【0082】
図11は図10中の耐電力寿命評価システムが取得した弾性表面波フィルタの損失の経時変化を示すグラフ図である。図において、黒丸記号のプロットは、42°回転Y−X LiTaO基板と成膜方法Iの組み合わせによる弾性表面波フィルタを示し、白丸記号のプロットは、42°回転Y−X LiTaO基板と成膜方法IIの組み合わせによる弾性表面波フィルタを示している。また、黒塗りの四角記号のプロットは、36°回転Y−X LiTaO基板と成膜方法Iの組み合わせによる弾性表面波フィルタを示し、白塗り四角記号のプロットは、36°回転Y−X LiTaO基板と成膜方法IIの組み合わせによる弾性表面波フィルタを示している。最後に、クロス記号のプロットは、42°回転Y−X LiTaO基板と成膜方法IVの組み合わせによる弾性表面波フィルタを示している。ここで、損失の劣化量が0.5dBに達する時間をその弾性表面波フィルタの寿命と定義した。
【0083】
図11に示すように、成膜方法IVによる42°回転Y−X LiTaO基板上にAlCu単層電極膜を形成してなる弾性表面波フィルタは、およそ20分で寿命に達した(図中、クロス記号プロット参照)。図には示さなかったが、同じく成膜方法IVによる36°回転Y−X LiTaO基板上にAlCu単層電極膜を形成してなる弾性表面波フィルタも、同様に20分程度で寿命に達した。
【0084】
これに対して、成膜方法Iによる多層下地膜を介してAlCu電極膜を42°回転Y−X LiTaO基板上に形成してなる弾性表面波フィルタでは、寿命が590時間となった(図中、黒丸記号プロット参照)。また、同様に成膜方法Iで試作した、膜構成がAlCu電極膜/多層下地膜/36°回転Y−X LiTaO基板である弾性表面波フィルタでは、寿命が79時間であった(図中、黒塗り四角記号のプロット参照)。
【0085】
さらに、成膜方法IIによる多層下地膜を介してAlCu電極膜を42°回転Y−X LiTaO基板上に形成してなる弾性表面波フィルタでは、寿命が450時間となった(図中、白丸記号プロット参照)。また、同様に、成膜方法IIによる膜構成がAlCu電極膜/多層下地膜/36°回転Y−X LiTaO基板である弾性表面波フィルタでは、寿命が49時間であった(図中、白塗り四角記号のプロット参照)。
【0086】
このように、AlCu単層電極膜からなる弾性表面波フィルタと、本発明に対応する成膜方法I、IIによる多層下地膜を適用した弾性表面波フィルタとの耐電力寿命を比較すると、下記に示すように著しい向上が見られた。
【0087】
(1) 膜方法Iによる多層下地膜を介してAlCu電極膜を36°回転Y−XLiTaO基板上に形成してなる弾性表面波フィルタで、耐電力寿命が237倍となった。
(2) 成膜方法Iによる多層下地膜を介してAlCu電極膜を42°回転Y−X LiTaO基板上に形成してなる弾性表面波フィルタで、耐電力寿命が1770倍となった。
(3) 成膜方法IIによる多層下地膜を介してAlCu電極膜を36°回転Y−X LiTaO基板上に形成してなる弾性表面波フィルタで、耐電力寿命が147倍となった。
(4) 成膜方法IIによる多層下地膜を介してAlCu電極膜を42°回転Y−X LiTaO基板上に形成してなる弾性表面波フィルタで、耐電力寿命が1350倍となった。
【0088】
これらの値は、従来例2による弾性表面波フィルタが耐電力寿命をおよそ80倍向上させた場合と比較しても、著しく耐電力寿命の向上が図られていることがわかる。
【0089】
また、電子ビーム蒸着のAl(若しくはAl合金)電極膜の耐電力性が、スパッタ成膜によるものより、一桁以上低いことが一般的に知られている。本発明の説明においては、その点を考慮して、同じマグネトロン直流スパッタ装置で成膜した上で、本発明の多層下地膜の適用効果を検討している。逆に言えば、電子ビーム蒸着での電極膜と比べるとすれば、上に示した耐電力寿命向上効果が1桁以上大きくなることとなる。例えば、マグネトロン直流スパッタを用いて成膜方法Iによる多層下地膜を介してAlCu電極膜を42°回転Y−X LiTaO基板上に形成してなる弾性表面波フィルタでは、電子ビーム蒸着を用いて成膜方法IVによるAlCu単層電極膜を42°回転Y−X LiTaO基板上に形成してなる弾性表面波フィルタに比較して、耐電力寿命が17700倍以上となると予想される。
【0090】
上記評価結果において、36°回転Y−X LiTaO基板を用いたものが、42°回転Y−X LiTaO基板を用いたものより、耐電力寿命が短くなっている。これは、下記のような要因が考えられる。
【0091】
先ず、X線回折による電極膜の結晶性の比較をしやすくするために、AlCu電極膜の膜厚を4000Å付近に設定したことが挙げられる。つまり、この膜厚では、LiTaO基板の伝搬損が42°回転Y−Xに比べて36°回転Y−Xの方が大きく、その損失発生の反作用として電極膜に応力負荷が加わり寿命が短くなったものと考えられる。実際に、弾性表面波装置の初期ロス値は、LiTaOの結晶方位が36°回転Y−Xのものが42°回転Y−Xのものよりも約0.4dBほど劣っていた。
【0092】
この耐電力寿命に関する圧電単結晶基板の結晶方位依存性は、次の設計指針を示唆している。つまり、弾性表面波フィルタ(例えばバンドバスフィルタの場合)を設計する際に、必要な通過帯域幅や帯域内ロス、帯域外減衰量などのフィルタの要求仕様を考慮して、インターディジタル電極膜の膜厚やピッチ、線幅などを選定するが、この際に、要求される耐電力寿命の観点から、適正な圧電単結晶基板の結晶方位を選定する必要があるということである。もっと具体的に言えば、電極膜の膜厚を4000Å付近に設定するのであれば、LiTaO基板の結晶方位は42°回転Y−X付近が望ましく、電極膜の膜厚を2000Å付近に設定するのであれば、38°回転Y−X付近が望ましい。なお、36°回転Y−Xの場合は、電極膜の抵抗が問題とならない範囲の例えば1000〜1500Å付近が望ましいものと考えられる。
【0093】
この設計指針を、より一般的に言い換えれば、圧電基板は、圧電単結晶の弾性表面波の振動に起因して伝搬損の反作用として発生する多層下地膜を介してAl(若しくはAl合金)電極膜に加わる応力負荷が所定レベル以下となる結晶面を選定する必要があるということである。
【0094】
また、耐電力寿命の圧電単結晶基板の結晶方位依存性の原因として、その他の要因として、電極膜の内部応力が関与していると考えられる。36°回転Y−XLiTaO基板や42°回転Y−X LiTaO基板を用いた弾性表面波装置の弾性表面波(擬似表面波)の伝搬方向はX方向、つまり、<100>方向であるが、このとき、基板の結晶格子の振動方向は上記伝搬方向である<100>方向と直角な方向となる横波である(特に、<001>方向が優勢である)。
【0095】
したがって、耐電力寿命の観点からは、(111)高配向のAl(若しくはAl合金)電極膜の<100>方向と直角な方向の内部応力が小さいことが望ましい。
【0096】
ところで、図3及び図7の結晶格子モデルで説明したように、<100>方向と直角な方向では、36°回転Y−X LiTaO基板の場合、AlとLiTaO基板の格子不整合が−4.2%と大きく、電極膜に強い引っ張り応力を発生させる原因となる。一方、42°Y−X LiTaO基板の場合、AlとLiTaO基板の格子不整合は1.1%と小さく、電極膜にはわずかの圧縮内部応力しか発生させない。つまり、本発明の多層下地膜をAl(若しくはAl合金)電極膜とLiTaO基板の間に挟み込むことで、格子不整合が緩和され、結果として、電極膜の内部応力も緩和されることになる。
【0097】
しかしながら、もともと内部応力の発生が小さい42°回転Y−X LiTaO基板は、36°回転Y−X LiTaO基板よりも、耐電力寿命の観点で有利であると考えられる。
【0098】
以上のように、本発明の多層下地膜を圧電単結晶基板とAl若しくはAl合金膜との間に挟むことで、著しい耐電力寿命向上効果を得られることがわかった。また、圧電単結晶の結晶方位を、電極膜の膜厚やピッチ、線幅などを考慮して、35°から45°の回転角のY−XカットLiTaOのうち、本発明を適用する弾性表面波装置の仕様に合わせて回転角度を選定することで、著しい耐電力寿命性能を持つ所望の弾性表面波装置を実現することができる。
【0099】
具体的に説明すると、各結晶方位の圧電基板に対して多層下地膜を適用した結晶格子モデル及びその試作品に対するX線回折などによる配向性の測定結果を利用することで、上述したように圧電基板の結晶方位に対応付けて電極膜の配向性及び内部応力の度合を求めることができる。また、圧電基板の結晶方位と電極膜の膜厚やピッチ、線幅などから、圧電単結晶の弾性表面波の振動に起因して多層下地膜を介して電極膜に加わる伝搬損の反作用としての応力負荷の度合を求めることができる。
【0100】
これら圧電基板の結晶方位に応じた電極膜の配向性や内部応力や応力負荷の度合を規定した弾性表面波装置の電気特性や耐電力寿命などを求め、これらの結果をデータベース化しておく。データベース化する方法としては、弾性表面波装置の電気特性や耐電力寿命などの情報に対応付けて、その圧電基板の結晶方位に応じた配向性や内部応力や応力負荷の度合の所定レベルを設定する。これらのデータを用いて、弾性表面波装置の仕様に合わせて所望の電気特性や耐電力寿命を有する弾性表面波装置を提供することができる。
【0101】
上記例では、圧電基板としてLiTaOについて説明したが、LiNbOについても63°から73°の回転角のY−Xカットのものから、同様にして弾性表面波装置の仕様に合致する回転角度を選定することができる。
【0102】
以上のように、この実施の形態1によれば、圧電基板とAl若しくはAl合金の電極膜との間に、Ti膜とAl若しくはAl合金膜とを交互に成膜した多層下地膜を設けたので、結晶方位が一方向に配向したAl若しくはAl合金電極膜を形成することができることから、ストレスマイグレーション耐性を著しく向上させることができる。
【0103】
また、多層下地膜を適用した結晶格子モデルを利用して配向性と共に電極膜に生じる内部応力についても知見を得ることができることから、所望の仕様に合致する弾性表面波装置を提供することができると共に、その耐電力寿命を従来のものと比較して格段に向上させることができる。
【0104】
さらに、電極膜が高配向して結晶的に安定となることから、弾性表面波装置の電気特性のばらつきを低減することができる。
【0105】
なお、上記実施の形態1では、AlCu膜の(111)高配向膜を形成する例を説明したが、AlCuのかわりに、AlMgやAlLiなど他のAl合金を用いても同様の効果がある。
【0106】
また、上記実施の形態1では、電極膜を(111)高配向させる例について説明したが、この他の配向面として、例えば(110)配向させたものでも、電極膜の圧電基板上に直接形成したものより耐電力寿命を向上させることができる。
【0107】
さらに、上記実施の形態1では、多層下地膜をTi及びAl(若しくはAl合金)の2種類の金属薄膜によって構成する例を示したが、その他の金属薄膜を用いても良く、また、多層下地膜を適用する結晶格子モデルとして表現できるものであれば、2種類以上の金属薄膜で構成しても良い。
【0108】
実施の形態2.
図12はこの発明の実施の形態2による弾性表面波装置の製造工程を示す図である。この図に沿って実施の形態2による弾性表面波装置の製造方法について説明する。
【0109】
先ず、図12(a)の工程にて、洗浄した圧電基板1(例えばLiTaO基板)にレジスト16を塗布し、露光現像して所望のリフトオフ用のレジストパターンを形成する。次に、図12(b)の工程にて、Tiの電子ビーム蒸着源、Al(若しくはAl合金)の電子ビーム蒸着源とを備えた真空蒸着装置に、上記基板1を装填し、TiとAl(若しくはAl合金)を交互に蒸着して多層下地膜2を形成する(下地形成ステップ)。
【0110】
このとき、TiからはじめてTiで終わるようにする。各層の膜厚は上記実施の形態1においても説明したように、各々5〜50Å(0.5〜5nm)の範囲とし、少なくともTi層2aが3層以上、Al(若しくはAl合金)層2bが2層以上とする。
【0111】
続いて、図12(c)の工程に進んで、多層下地膜2の上に所望の膜厚でAl(若しくはAl合金)膜をインターディジタル電極膜3として蒸着する(電極形成ステップ)。これらの一連の蒸着に際しては、レジストパターンの変形・変質を抑制するため、基板加熱は一切行わない。
【0112】
最後に、図12(d)のリフトオフ工程において、インターディジタル電極となる部分以外の蒸着膜とレジスト16をウェット除去して所望のパターン形成をしたインターディジタル電極を得る。
【0113】
以上のように、この実施の形態2によれば、多層下地膜2を適用することによって基板加熱を行わなくても(111)高配向のAl(若しくはAl合金)膜を得ることができる。
【0114】
【発明の効果】
以上のように、この発明によれば、圧電基板と電極膜との間に設けられ、これらの結晶格子間の格子不整合を緩和する2種類以上の金属薄膜(例えば、チタン薄膜及びアルミニウム若しくはアルミニウム合金薄膜)を交互に積層してなる多層下地膜を備えるので、多層下地膜によって圧電基板と電極膜との格子不整合による影響を十分に遮断することができることから、結晶方位が一方向に高配向した電極膜を形成することができ、ストレスマイグレーション耐性、すなわち耐電力寿命を著しく向上させることができるという効果がある。また、電極膜が高配向して結晶的に安定となることから、弾性表面波装置の電気特性のばらつきを低減することもできるという効果がある。
【0115】
この発明によれば、多層下地膜の各薄膜の1層の膜厚を0.5乃至5nmの範囲とするので、多層下地膜が非常に薄いことから圧電基板に与える影響を低減することができ、これによる特性変化を抑制することができるという効果がある。また、多層下地膜にTiなどを使用する場合、電極膜の比抵抗を低減できるという効果がある。
【0116】
この発明によれば、圧電基板が、電極膜を構成する金属膜の結晶方位が一方向に配向する度合と、圧電単結晶の弾性表面波の振動に起因して多層下地膜を介して上記電極膜に加わる応力負荷が所定レベル以下となる結晶面を有するので、その耐電力寿命を従来のものと比較して格段に向上させることができるという効果がある。
【0117】
この発明によれば、電極膜がアルミニウム若しくはアルミニウム合金からなる場合、多層下地膜の最下層をチタン薄膜とするので、電極膜の構成原子が圧電基板に拡散することを抑制することができ、圧電基板の伝搬特性への影響を押さえることができるという効果がある。
【0118】
この発明によれば、多層下地膜が少なくともチタン薄膜を2層以上、アルミニウム若しくはアルミニウム合金膜を1層以上積層してなるので、多層下地膜が非常に薄いことから圧電基板に与える影響を低減することができ、これによる特性変化を抑制することができる。また、非常に薄い多層下地膜であっても高配向の電極膜を得ることができるという効果がある。
【0119】
この発明によれば、圧電基板上に、該圧電基板と電極膜との結晶格子間の格子不整合を緩和する2種類以上の金属薄膜を交互に積層して多層下地膜を形成し、該多層下地膜上に電極膜を形成するので、簡単な成膜工程にて結晶方位が一方向に高配向した電極膜を得ることができることから、安価なマグネトロン直流スパッタ装置や電子ビーム蒸着装置などを用いても、ストレスマイグレーション耐性、すなわち、耐電力寿命を著しく向上させた弾性表面波装置を製作することができるという効果がある。
【0120】
この発明によれば、多層下地膜を加熱して構成薄膜の結晶性を向上させるので、電極膜の配向性を向上させることができるという効果がある。
【0121】
この発明によれば、電極膜の電極パターンの形成にリフトオフ法を用いるので、基板加熱を行うことなく、結晶方位が高配向した電極を有する弾性表面波装置を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態1による弾性表面波装置を示す断面図である。
【図2】図1中の弾性表面波装置の製造工程を示す図である。
【図3】実施の形態1による弾性表面波装置の結晶格子モデルを示す図である。
【図4】X線回折ロッキングカーブ測定時の圧電基板の結晶方位と測定系の関係を示す図である。
【図5】各成膜方法で形成したAlCu膜(電極膜)についてX線回折測定によって得られたロッキングカーブのピーク強度と半値幅の関係を示すグラフ図である。
【図6】成膜方法II、IVで形成したAlCu膜(電極膜)のロッキングカーブを示す図である。
【図7】実施の形態1による弾性表面波装置の結晶格子モデルの他例を示す図である。
【図8】各成膜方法で形成したAlCu膜(電極膜)についてX線回折測定によって得られたロッキングカーブのピーク強度と半値幅の関係を示すグラフ図である。
【図9】各成膜方法による電極膜を有する弾性表面波フィルタの電気特性を示すグラフ図である。
【図10】耐電力寿命評価システムの構成を示す図である。
【図11】弾性表面波フィルタの損失の経時変化を示すグラフ図である。
【図12】この発明の実施の形態2による弾性表面波装置の製造工程を示す図である。
【図13】従来の弾性表面波装置を示す断面図である。
【符号の説明】
1 圧電基板、2 多層下地膜、2a,2a−1 Ti薄膜、2b,2b−1Al(若しくはAl合金)薄膜、3 インターディジタル電極膜(電極膜)、4 酸素原子、5 Ti原子、6 Al原子、7 信号発生器、8 増幅器、9カプラ、10 アイソレータ、11 オーブン、12 DUT基板、13 ネットワークアナライザ、14 電力計、15 コンピュータ、16 レジスト。

Claims (14)

  1. 圧電単結晶基板と、この基板上に金属材を用いて形成された弾性表面波を発生するためのインターディジタル電極膜と、この電極膜と上記基板との間に形成され、上記電極膜の金属材と同一材の第1金属薄膜と上記電極膜の金属材と異なる金属材の第2金属薄膜とを交互に積層してなり、上記基板及び上記電極膜の各結晶格子と整合するように上記第1及び第2金属薄膜の膜厚を設定した多層下地膜とを備え、上記インターディジタル電極膜を、その表面の結晶方位が一方向に配向する金属膜から構成し、上記多層下地膜の各金属薄膜の膜厚を0.5乃至5nmの範囲とした弾性表面波装置。
  2. 多層下地膜は、第2金属薄膜を圧電単結晶基板及びインターディジタル電極膜のそれぞれに隣接させたことを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
  3. インターディジタル電極膜は、アルミニウム若しくはアルミニウム合金からなり、多層下地膜は、第1金属薄膜としてアルミニウム若しくはアルミニウム合金薄膜を用い、第2金属薄膜としてチタン薄膜を用いたことを特徴とする請求項1または2記載の弾性表面波装置。
  4. 多層下地膜は、少なくともチタン薄膜を2層以上、アルミニウム若しくはアルミニウム合金薄膜を1層以上積層してなることを特徴とする請求項3記載の弾性表面波装置。
  5. 圧電単結晶基板は、タンタル酸リチウム(LiTaO )又はニオブ酸リチウム(LiNbO )の単結晶からなることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の弾性表面波装置。
  6. 圧電単結晶基板上に弾性表面波を発生させるためのインターディジタル電極膜を設けた弾性表面波装置の製造方法において、上記圧電単結晶基板上に、上記電極膜の金属材と同一材の第1金属薄膜と上記電極膜の金属材と異なる金属材の第2金属薄膜とを、上記基板及び上記電極膜の各結晶格子と整合するように各膜厚を0.5乃至5nmの範囲に設定しながら交互に積層して多層下地膜を形成する下地形成ステップと、上記多層下地膜上に結晶方位が一方向に配向した金属膜からなる上記電極膜を形成する電極形成ステップとを備えたことを特徴とする弾性表面波装置の製造方法。
  7. 電極形成ステップにて、結晶方位が一方向に配向したアルミニウム若しくはアルミニウム合金からなる電極膜を形成することを特徴とする請求項6記載の弾性表面波装置の製造方法。
  8. 下地形成ステップにて、第1金属薄膜としてアルミニウム若しくはアルミニウム合金薄膜、第2金属薄膜としてチタン薄膜を積層して多層下地膜を形成することを特徴とする請求項7記載の弾性表面波装置の製造方法。
  9. 下地形成ステップにて、チタン薄膜を最下層として多層下地膜を形成することを特徴とする請求項8記載の弾性表面波装置の製造方法。
  10. 圧電単結晶基板の結晶面を選択するにあたり、圧電単結晶基板、多層下地膜及びインターディジタル電極膜を表現する結晶格子モデルを用い、上記結晶格子モデルの各層間の格子整合度について上記電極膜の結晶方位が一方向に配向する度合及び上記電極膜に加わる応力負荷の度合に関連付けた値を予め設定しておき、当該格子整合度に応じて結晶面を選択する選択ステップを備え、下地形成ステップにて、上記結晶面上に上記多層下地基板を形成することを特徴とする請求項6記載の弾性表面波装置の製造方法。
  11. 選択ステップにて、圧電単結晶としてLiTaO を用い、その結晶方位についてX軸を中心にY軸からZ軸方向への回転角範囲35度乃至45度のいずれかのカット面で規定される結晶面を格子整合度に応じて選択することを特徴とする請求項10記載の弾性表面波装置の製造方法。
  12. 選択ステップにて、圧電単結晶としてLiNbO を用い、その結晶方位についてX軸を中心にY軸からZ軸方向への回転角範囲63度乃至73度のいずれかのカット面で規定される結晶面を格子整合度に応じて選択することを特徴とする請求項10記載の弾性表面波装置の製造方法。
  13. 下地形成ステップにて形成された多層下地膜を加熱する下地加熱ステップを備えたことを特徴とする請求項6から請求項12のうちのいずれか1項記載の弾性表面波装置の製造方法。
  14. 電極膜の電極パターンの形成にリフトオフ法を用いることを特徴とする請求項6から請求項13のうちのいずれか1項記載の弾性表面波装置の製造方法。
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