JP5434664B2 - 弾性波素子の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば弾性表面波素子や弾性境界波素子などの弾性波素子に関し、より詳細には、複数の金属膜を積層してなる積層金属膜からなるIDT電極を有する弾性波素子の製造方法及び弾性波素子に関する。
従来、弾性表面波装置は、通信機器の共振子や帯域通過フィルタなどに広く用いられている。また、近年、弾性境界波を用いた弾性境界波装置も、共振子や帯域フィルタとして用いられている。弾性表面波装置や弾性境界波装置のような弾性波装置においては、共振周波数や通過帯域などの周波数位置を高精度に設定する必要がある。従って、製造段階で、目標とする周波数特性を有するように周波数調整を行う方法が種々提案されている。
例えば下記の特許文献1には、弾性表面波素子の周波数調整方法が開示されている。特許文献1に記載の方法では、まず、圧電体上に、圧電体より密度の大きい金属からなるIDT電極を形成する。次に、イオンガンを用いてIDT電極にイオンを物理的に衝突させる。それによって、IDT電極の膜厚を薄くして、周波数調整を行う。
特開2000−315928号公報
弾性表面波装置の製造に際しては、まず、圧電基板上にIDT電極が形成されている弾性表面波素子チップを得る。しかる後、IDT電極が臨む空間を封止するように弾性表面波素子をパッケージングする。
特許文献1に記載の周波数調整方法では、上記弾性表面波素子チップの状態で周波数調整が行われることとなる。しかしながら、その後上記パッケージングを行った場合、周波数が変動するおそれがある。特許文献1に記載の周波数調整方法では、パッケージング後には、IDT電極が露出していないため、周波数調整を行うことはできなかった。従って、最終的な製品としての弾性表面波装置の周波数特性を、高精度に制御することが困難であった。
また、イオンガンを用いてイオンをIDT電極に照射する方法であるため、微細な領域に選択的にイオンを照射することが困難であった。そのため、1つの弾性表面波素子チップに複数の弾性表面波素子部分が構成されている場合などにおいては、各弾性表面波素子部分ごとに周波数特性を高精度に調整することができなかった。
また、弾性境界波装置では、IDT電極は、2つの固体の媒質間の界面に設けられている。従って、特許文献1に記載の周波数調整方法では、IDT電極が露出していないため、周波数を調整することはできない。
本発明の目的は、各IDT電極が露出していない状態でも弾性波装置の周波数特性を高精度に調整することを可能とする、弾性波素子の製造方法を提供することにある。
本発明に係る弾性波素子の製造方法は、圧電基板上に、複数の金属膜を積層してIDT電極を形成する工程と、前記IDT電極を加熱することまたは前記IDT電極に高周波信号を印加することにより、IDT電極において複数の金属膜のうちの少なくとも1つの金属膜を構成している金属を拡散させて周波数調整を行う工程とを備える。
本発明に係る弾性波素子の製造方法のある特定の局面では、前記圧電基板上に前記IDT電極を形成する工程の後であって、前記周波数調整を行う工程の前に、弾性波素子の周波数特性を測定する工程をさらに備える。この場合には、周波数特性を予め測定し、目的とする周波数特性の差に応じて周波数調整を行うことができる。
本発明に係る弾性波素子の製造方法の他の特定の局面では、前記周波数特性を測定する工程により得られた周波数特性に応じて、前記周波数調整工程における加熱または高周波信号印加条件を調整して、前記周波数調整を行う。加熱または高周波信号の印加といった簡単な手段により周波数を高精度に調整することができる。
本発明に係る弾性波素子の製造方法の他の特定の局面では、前記周波数調整が、加熱により行われ、前記周波数調整に際して調整する条件が熱処理温度及び熱処理時間の少なくとも一方である。この場合には、加熱に際しての温度及び時間の少なくとも一方を調整するだけで、周波数を容易に調整することができる。
本発明に係る弾性波素子の製造方法のさらに別の特定の局面では、前記周波数調整が高周波信号の印加により行われ、前記周波数調整工程に際して調整される条件が、高周波信号印加時間、高周波信号の周波数及び高周波信号印加電力のうち少なくとも1つである。この場合には、高周波信号を印加する時間、周波数及び印加電力のうち少なくとも1つを制御するだけで、周波数を高精度かつ容易に調整することができる。
本発明に係る弾性波素子の製造方法のさらに別の特定の局面では、前記圧電基板上にIDT電極を形成する工程において、前記圧電基板上に複数の弾性波素子ユニットを構成するための複数のIDT電極を形成し、前記周波数調整工程において、高周波信号の印加により周波数調整が行われ、かつ個々の前記弾性波素子ユニットごとに高周波信号を印加して周波数調整を行う。この場合には、高周波信号の印加による周波数調整を各弾性波素子ユニットごとに行い得るので、この弾性波素子ユニットの周波数調整を高精度に行うことができる。この場合、好ましくは、周波数調整を行う前に、複数の弾性波素子ユニットの周波数特性を測定することが望ましい。それによって、各弾性波素子ユニットの周波数をより高精度に調整することができる。
また、上記周波数調整は、高周波信号を印加する時間、高周波信号の周波数及び高周波信号印加電力のうち少なくとも1つの方法で行い得る。
本発明に係る弾性波素子の製造方法によれば、IDT電極の加熱または高周波信号の印加により、IDT電極を構成している金属が拡散されて周波数調整が行われるので、IDT電極が露出していない状態でも弾性波素子の周波数を調整することができる。従って、例えば弾性表面波装置の場合、弾性表面波素子をパッケージングした後においても、すなわち最終的な製品の状態でも周波数調整を行うことができる。また、IDT電極が2つの固体の媒質間に存在している弾性境界波装置においても、周波数を容易にかつ高精度に調整することができる。
特に、高周波信号の印加による振動拡散によって金属を拡散させる場合には、IDT電極や複数の弾性波素子ユニットが構成されている場合においても、個々の弾性波素子ユニットや個々のIDT電極ごとに高周波信号を印加して周波数調整を行うことができる。
本発明に係る弾性波素子は、本発明の弾性波素子の製造方法によって得られるものであるため、上記周波数調整工程を経て、最終的な製品である弾性波装置の周波数特性を高精度に制御することができる。従って、弾性波装置の良品率を高めることができる。
(a)は本発明の一実施形態の弾性波素子の製造方法において用意される弾性境界波素子の電極指を示す模式的平面図であり、(b)はIDT電極の要部を示す模式的断面図であり、(c)は拡散層が隣り合う金属膜間に形成されている場合のIDT電極の要部を示す模式的断面図である。 本発明の一実施形態の弾性境界波素子の断面図である。 本発明の一実施形態において、加熱により金属を拡散させる前の弾性境界波素子の周波数特性と、加熱により得られた本実施形態の弾性境界波素子の周波数特性とを示す図である。 本発明の第1の実施形態において、Al合金膜厚を固定し、Al合金膜厚に対するTi膜厚比(%)と、270℃で2時間加熱した後の反共振周波数変化率との関係を示す図である。 本発明の第1の実施形態においてTi膜厚を固定し、Al合金膜厚に対するTi膜厚の膜厚比(%)と、270℃で2時間加熱した後の反共振周波数変化率との関係を示す図である。 本発明の第1の実施形態において、Al合金膜厚を固定し、Al合金膜厚に対するTi膜厚比(%)と、80℃の雰囲気で、高周波信号を0.7W、10時間印加した後の反共振周波数変化率との関係を示す図である。 本発明の第1の実施形態においてTi膜厚を固定し、Al合金膜厚に対するTi膜厚の膜厚比(%)と、80℃の雰囲気で高周波信号を0.7W、及び10時間印加した後の反共振周波数変化率との関係を示す図である。 AlCu合金中のCu含有割合(重量%)と、270℃で2時間加熱した後の反共振周波数変化率との関係を示す図である。 AlCu合金中のCu含有割合(重量%)と、80℃の雰囲気で、高周波信号を0.7W及び10時間印加した後の反共振周波数変化率との関係を示す図である。 ラダー型フィルタの周波数調整前と周波数調整後のフィルタ特性を示す模式図である。 本発明の第2の実施形態において、周波数調整に際しての加熱温度と、2時間加熱後の反共振周波数変化率との関係を示す図である。 本発明の第2の実施形態において、270℃の温度に加熱する周波数調整工程における加熱時間と、加熱後の反共振周波数変化率との関係を示す図である。 本発明の第3の実施形態において、高周波信号を印加する時間と、高周波信号印可後の反共振周波数変化率との関係を示す図である。
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態では、弾性波素子として弾性境界波素子を製造する。
先ず、図1(a)に示すように、圧電基板1を用意する。圧電基板1として、本実施例では、ニオブ酸リチウム単結晶からなる圧電基板を用いる。もっとも、圧電基板1はニオブ酸リチウム単結晶に限定されない。例えば、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、水晶、ランガサイト、酸化亜鉛、チタン酸ジルコン酸鉛系圧電セラミックス、4ホウ酸リチウムなどを用いてもよい。
圧電基板1上に、IDT電極2と、IDT電極2の弾性境界波伝搬方向両側に配置された反射器3,4とを形成する。本実施形態では、IDT電極2の両側に反射器3,4が形成されており、それによって1ポート型の弾性境界波共振子が構成される。IDT電極2及び反射器3,4の形成に際しては、スパッタリング、蒸着またはメッキなどの適宜の薄膜形成方法を用いることができる。
IDT電極2は、互いに間挿しあう複数本の電極指を有する1対のくし歯電極からなる。また、反射器3,4は複数本の電極指の両端を短絡してなるグレーティング型反射器である。
本実施形態では、IDT電極2及び反射器3,4は複数の金属膜を積層してなる積層金属膜からなる。従って、複数の金属膜を順次薄膜形成方法により積層することにより、IDT電極2及び反射器3,4を形成する。
この積層金属膜の構造を、図1(b)及び(c)を参照して説明する。図1(b)は、IDT電極2の電極指2aが設けられている部分を拡大して示す模式的正面断面図である。本実施形態では、圧電基板1上に、下から順に、Pt膜5、Ti膜6、AlCu合金膜7、Ti膜8、AlCu合金膜9、Ti膜10、AlCu合金膜11、Ti膜12及びPt膜13を順次成膜する。すなわち、9層の金属膜を積層してなる積層金属膜を形成する。反射器3,4も同様の積層金属膜により同じ工程で形成する。
次に、圧電基板1を覆うように、図2に示す誘電体層14を形成する。本実施形態では、誘電体層14として酸化ケイ素膜と該酸化ケイ素膜上に窒化ケイ素膜が形成される。これら以外に、酸化チタン、窒化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化タンタル、窒化アルミニウム、ダイヤモンドライクカーボンなどを用いてもよい。また、誘電体層14は、複数の誘電体層を積層した構造だけでなく、1つの誘電体層であってもよい。
このようにして、図2に示す弾性境界波素子15を得る。
なお、弾性境界波素子15に電圧を印加し、弾性境界波を励振するために、図1(a)に示すように、端子24,25がIDT電極2に接続されている。この端子24,25は、弾性境界波素子15の外表面に引き出されている。
なお、外部との接続の端子を構成する方法は特に限定されず、半田バンプ、Auバンブなどの金属バンプ、AuやAlなどからなるボンディングワイヤーを適宜用いることができる。
本実施形態の弾性境界波素子15の製造方法では、次に、IDT電極2を加熱し、あるいはIDT電極2に高周波信号を印加することにより上記積層金属膜において拡散層を形成する。高周波信号を印加した場合、振動拡散により隣り合う金属膜中の金属が拡散し、上記拡散層が形成される。
その結果、図1(c)に模式的正面断面図で示すように、IDT電極2においては、隣り合う金属膜間に拡散層が形成される。より具体的には、図1(c)に示す拡散層16〜23が形成される。
拡散層16〜23は、隣り合っている金属膜のうちの一方の少なくとも一方の金属膜を構成している金属が他方の金属膜側に移動しようとして形成される。
拡散層16〜23が形成されると、IDT電極における金属膜の硬さ(弾性係数)が変化して弾性境界波の伝搬状態が変化し、従って、弾性境界波素子15の周波数特性が変化する。この現象を利用して、本実施形態では、弾性境界波素子15の周波数特性、より具体的には共振特性を変化させる。それによって、周波数調整を行うことができる。
なお、隣り合う金属膜の組み合わせによって、拡散層が形成されやすい場合と、形成され難い場合がある。図1(c)では、隣り合う金属膜間のすべての界面に拡散層16〜23が形成されているように図示した。もっとも、本実施形態では、上記AlCu合金膜7,9,11と、Ti膜6,8,10,12との界面において、拡散層が形成されやすい。すなわち、上記拡散層17,18,19,20,21,22が形成されやすい。図1(c)で図示されている拡散層16及び拡散層23は形成され難い。
このような拡散層を生じやすい金属の組み合わせについては後ほど詳述する。
次に、具体的な実験例に基づき、上記拡散層の形成により周波数特性を調整し得ることを説明する。
(第1の実験例)
上記ニオブ酸リチウムからなる圧電基板1上に、Pt膜5、Ti膜6、AlCu合金膜7、Ti膜8、AlCu合金膜9、Ti膜10、AlCu合金膜11、Ti膜12及びPt膜13を、以下の膜厚となるように成膜した。なお、AlCu合金膜としては、Cuを10重量%割合で含むAlCu合金を用いた。
Pt膜5:30nm
Ti膜6:20nm
AlCu合金膜7:120nm
Ti膜8:10nm
AlCu合金膜9:120nm
Ti膜10:10nm
AlCu合金膜11:120nm
Ti膜12:20nm
Pt膜13:20nm
なお、本実施形態では、Pt膜が弾性境界波を励振させる主たる金属膜として用いられている。もっとも、Ptに限らず、Au、Cu、WまたはAgなどを用いてもよい。
また、IDT電極における電極指の対数は114対とし、電極指交差幅を55μm、IDT電極の電極指のピッチで定まる波長λは1.88μmとした。また、IDT電極2に、交差幅重み付けを、伝搬方向の端部において最大交差幅の20%の交差幅となるように施した。なお、交差幅重み付けは施されなくてもよい。反射器の電極指の対数は15対とした。また、IDT電極2及び反射器3,4のデューティー比はいずれも0.5とした。
上記のようにして、IDT電極2及び反射器3,4を形成したのちに、厚み1μmの酸化ケイ素膜と、酸化ケイ素膜上に厚み2μmの窒化ケイ素膜を成膜し、誘電体層14を形成した。
本実施形態の弾性境界波素子15の周波数調整前の共振特性を図3に破線で示す。
次に、上記弾性境界波素子15を、270℃の温度で2時間加熱した。この加熱後の弾性境界波素子15の共振特性を図3に実線で示す。
図3の実線と破線とを比較すれば明らかなように、270℃で2時間加熱することにより、反共振周波数は1953MHzから1953.4MHzへと変化した。これは、前述した拡散層16〜23が形成されていることによる。特に、AlCu合金とTiとが接している界面においては、上記拡散が生じやすいため、拡散層17〜22の形成により、上記共振特性が変化していると考えられる。
従って、弾性境界波素子15を得た後に、加熱により拡散層を形成すれば、共振特性を変化させることができ、従って周波数調整を行い得ることが分かる。加えて、IDT電極2が露出していない、すなわち誘電体層14を形成した後に上記加熱により周波数調整を行うことができることが分かる。
上記実験例では、Ti膜6,8,10,12の膜厚は、Ti膜6,8,10,12が接しているAlCu合金膜7,9,11の膜厚の16.7%とされていた。このTi膜のAlCu合金膜に対する膜厚の割合を変化させることにより、周波数調整量を変化させることができる。これを、以下の第2の実験例において説明する。
(第2の実験例)
第1の実験例と同様にして、但し、AlCu合金膜の膜厚を上記第1の実験例と同様にし、Ti膜6,8,10,12の膜厚比(%)を0%、16.7%または27.5%と変化させ、複数個の弾性境界波素子15を得た。この複数個の弾性境界波素子を270℃の温度で2時間加熱し、周波数調整を行った。図4は、上記Ti膜のAlCu合金に対する膜厚比と、周波数調整後の反共振周波数変化率との関係を示す図である。
図4から明らかなように、Tiの膜厚の割合が高くなるほど、反共振周波数変化率がより大きく変化していることが分かる。
(第3の実験例)
次に、第2の実験例とは逆に、Ti膜の膜厚を第1の実験例と同様にし、但し、AlCu合金膜の膜厚を変化させて、Ti膜のAlCu合金膜に対する膜厚比を16.7%、25%及び38%とした複数個の弾性境界波素子15を用意した。
これらの弾性境界波素子15について、第2の実験例と同様に270℃及び2時間の加熱処理を施した。加熱処理後の弾性境界波素子の共振特性を測定した。図5はTi膜のAICu合金膜の膜厚に対する膜厚比と、反共振周波数変化率との関係を示す図である。
図5から明らかなように、Ti膜の膜厚を固定し、AlCu合金膜の膜厚を変化させ、上記のようにTi膜の膜厚比を16.7%よりも高めた場合、反共振周波数変化率が小さくなっていくことが分かる。
図4及び図5から明らかなように、Ti膜のAICu合金膜の膜厚に対する膜厚比を変化させることにより、反共振周波数変化率が変化することが分かる。また、図4及び図5から明らかなようにTi膜の膜厚比が0%、すなわちTi膜が存在しない場合や、該膜厚比が38%の場合には、反共振周波数がほとんど変化しないことが分かる。これに対して、Ti膜の膜厚比が16.7%、27.5%の場合には、反共振周波数が大きく変化していることが分かる。
従って、好ましくは、Ti膜とAlCu合金膜を用いる場合、Ti膜のAlCu合金膜に対する膜厚比は16.7〜27.5%とすることが望ましい。それによって、周波数を大きく調整することができる。もっとも、目的とする周波数調整量が少ない場合には、Ti膜の上記膜厚比は、16.7〜27.5%の範囲に限定されず、0%を超え、38%未満であればよいことが分かる。
なお、図4において、Ti膜の膜厚比が30%を超えると反共振周波数変化率は飽和する傾向があることが確かめられている。加えて、Ti膜の膜厚比が大きくなりすぎると、通過特性における挿入損失の劣化を引き起こす。従って、上記Ti膜の膜厚比は30%以下であることが望ましい。Ti膜厚比が小さい場合は、金属膜や誘電体膜の成膜中の熱により、Ti膜がAlCu膜に完全に拡散してしまう。この結果、後の工程において、周波数調整ができなくなる。従って、Ti膜の膜厚比は5%以上あることが望ましい。
また、図5から明らかなように、AlCu合金膜の膜厚を変化させた場合、AlCu合金膜の膜厚が厚くなるほどないし図5のTi膜の膜厚比が小さくなるほど周波数特性の変化が大きくなることが分かる。
次に、加熱に代えて、高周波信号を印加して周波数を調整する実験例を説明する。
(第4の実験例)
第2の実験例と同様にして、複数個の弾性境界波素子15を用意した。次に、加熱に代えて、80℃の雰囲気で高周波信号を0.7Wで10時間印加した。Ti膜のAlCu合金膜に対する膜厚比と、上記高周波信号印加後の反共振周波数変化率の関係を図6に示す。
図6から明らかなように、上記高周波信号を印加した場合にも、Ti膜のAlCu膜厚に対する膜厚比であるTi膜厚比が大きくなるほど反共振周波数変化率が大きくなる。
また、Ti膜の膜厚比が30%を超えると、やはり反共振周波数変化率は飽和する傾向が確かめられている。
(第5の実験例)
第3の実験例と同様にして、Ti膜の膜厚を一定とし、AlCu合金膜の膜厚が異なる3種類の弾性境界波素子を用意した。また、加熱に代えて、80℃の温度で、高周波信号を0.7Wで10時間印加した。Ti膜の膜厚比と、高周波信号印加後の反共振周波数変化率との関係を図7に示す。図7から明らかなように、図5の場合と同様に、Ti膜の膜厚を固定し、AlCu合金膜の膜厚を変化させた場合、やはり、Ti膜の膜厚比が変化すると、反共振周波数変化率が変化することが分かる。
また、図7においても、AlCu合金膜の膜厚が厚くなるほど、言い換えればTi膜の膜厚比が小さくなるほど周波数変化量が大きくなっていることが分かる。
第2の実験例〜第5の実験例から明らかなように、AlCu合金膜と、Ti膜が接している構造において、Ti膜の上記膜厚比を変化させることにより、弾性境界波素子15の共振特性を変化させて周波数調整を行い得ることが分かる。
(第6の実験例)
第1〜第5の実験例では、AlCu合金膜7,9,11におけるCu含有割合は10重量%であった。第6の実験例では、AlCu合金膜のCu含有割合を、5、10、15及び20重量%と変化させた複数個の弾性境界波素子15を用意した。この弾性境界波素子15について、第2の実験例と同様にして、270℃の温度で2時間加熱した。図8は、上記Cu含有率と、反共振周波数変化率との関係を示す図である。図8から明らかなように、Cu含有率が高くなるほど、反共振周波数変化率は小さくなっていることが分かる。
(第7の実験例)
第6の実験例と同様にして、Cu含有率が5、10、15または20重量%とされている複数個の弾性境界波素子15を用意した。加熱ではなく、第4の実験例と同様に、80℃の雰囲気で、高周波信号を0.7Wで10時間の条件で印加した。高周波信号印加後の弾性境界波素子の共振特性を測定した。図9は、Cu含有率と、反共振周波数変化率との関係を示す図である。
図9から明らかなように、高周波信号を印加して周波数調整を行った場合においても、Cu含有率が高くなるほど反共振周波数変化率が小さくなることが分かる。
また、図8および図9の周波数変化率のグラフより、Cu含有率が20重量%以上になると、反共振周波数の変化はほとんど見られない。さらには、Cu含有率20重量%以上の場合、通過特性における挿入損失が劣化してしまう。したがって、AlCu合金膜におけるCu含有率は、20重量%以下が望ましい。
上記のように、上記弾性境界波素子15において誘電体層14を形成した後に、加熱処理あるいは高周波信号を印加する処理により、特に反共振周波数を変化させ得ることが分かる。
図10にラダー型フィルタの特性例を示す。このラダー型フィルタでは、直列腕の共振子として、弾性境界波素子15が用いられており、フィルタ特性は上記周波数調整工程前に一点鎖線Bとなっているとする。この場合、前述のように、加熱処理あるいは高周波信号印加処理により周波数調整を行い、直列腕共振子として用いられている弾性境界波素子15の反共振周波数を高域側にシフトさせる。その結果、実線Aで示すように、フィルタ高域側の挿入損失が良化する。
例えば、製造工程において、加熱や高周波信号の印加を最低限に抑えた場合、実使用環境下では、通常、フィルタ帯域の挿入損失は劣化していく。しかし、本実施形態によれば、加熱や高周波信号の印加により直列腕共振子の周波数が高域側へシフトしてフィルタの挿入損失が小さくなるので、前述のような実使用環境下で好適である。
このように、弾性境界波素子15が直列腕共振子として用いられているラダー型フィルタを作製した後、上記加熱や高周波信号印加処理によりラダー型フィルタのフィルタ特性を容易に調整することができる。
上述した第1〜第7の実験例から明らかなように、弾性境界波素子15の製造に際しては、誘電体層14を設けて弾性境界波素子15を得た後に、加熱や高周波信号印加による拡散層形成により、周波数特性を調整することができる。
ところで、弾性境界波素子15の製造に際しては、通常、マザーの圧電基板を用意し、マザーの圧電基板上において、複数の弾性境界波素子を形成し、しかる後、誘電体層14をマザーの圧電基板上に積層した後にダイシング等により個々の弾性境界波素子15に分割する。本発明においては上記個々の弾性境界波素子15を得た後に、前述した周波数調整工程を行うのに先立ち、個々の弾性境界波素子の周波数測定を行うことが好ましい。すなわち、上記加熱処理や高周波信号印加処理に先立ち、個々の弾性境界波素子15の共振特性を測定する。
例えば、予め、良品となる共振特性範囲を定めておき、共振特性を測定した後、不良品となった弾性境界波素子について、上記加熱処理あるいは高周波信号印加処理により周波数調整を行うことが望ましい。
すなわち、個々の弾性境界波素子15を得た後、周波数特性を測定した後に不良品と判別された弾性境界波素子についても、上記周波数調整工程により周波数特性を調整し、良品とするとこができる。
なお、上記目標とする周波数特性の範囲は、共振周波数、反共振周波数、あるいは共振周波数と反共振周波数との周波数差などの様々なパラメータにより設定することができる。
あるいは、上記マザーの圧電基板上において複数の弾性境界波素子ユニットを構成した後に、個々の弾性境界波素子に分割する前に、上記周波数調整工程を行ってもよい。すなわち、マザーの圧電基板上に複数の弾性境界波素子が構成されている段階で、上記加熱処理あるいは高周波信号印加処理を行ってもよい。この場合には、マザーの圧電基板上に複数の弾性境界波素子を構成した構造において各弾性境界波素子の共振特性を測定し、上記と同様に目標とする共振特性から外れている弾性境界波素子部分において、選択的に周波数調整を行えばよい。
好ましくは、上記のように、高周波信号を印加する方法では、不良品と判別された弾性境界波素子のみに高周波信号を印加することができるので、加熱処理よりも高周波信号印加処理を用いることが望ましい。すなわち、高周波信号を印加することにより周波数調整を行う方法であれば、複数の弾性境界波素子部分が一体化されている構造において、不良品と判別された弾性境界波素子部分においてのみ選択的に周波数調整を行うことができる。さらに、不良品と判別された弾性境界波素子部分における目標とする周波数特性からのずれ量に応じて、個々に高周波信号印加条件を調整し、周波数を調整することもできる。従って、周波数調整に際しては、加熱よりも、高周波信号を印加する方法が好ましい。
もっとも、加熱により周波数調整を行う場合であっても、レーザー光の照射等によりマザーの圧電基板上において、個々の弾性境界波素子部分に選択的に加熱処理を施して、周波数調整を行うことも可能である。
また、マザーの圧電基板上において、複数の弾性境界波共振子部分が構成されている構造においては、個々の弾性境界波素子部分ごとに高周波信号を印加するように信号印加用端子を設けてもよい。すなわち、マザーの圧電基板上においては、複数の弾性境界波素子の外部と電気的に接続される配線部分は、最終的なダイシング等によって切断されるのが普通である。従って、このような場合には、隣り合う複数の弾性境界波素子のIDT電極2同士が電気的に接続されていることになる。従って、マザーの圧電基板上において、個々の弾性境界波素子部分に高周波信号を印加するための端子を設けることが望ましい。
上記実施形態では、弾性境界波素子15に、270℃の温度で2時間熱処理することにより、周波数調整を行った。この熱処理の温度については特に限定されない。第2の実験例と同様にして、但し、加熱温度を、270℃、280℃または305℃とした。このようにして弾性境界波素子15に熱処理を行った後の加熱温度と、反共振周波数変化率との関係を図11に示す。図11から明らかなように、加熱温度を270℃よりも高くすることにより、反共振周波数をより大きく変化させることができる。
なお、加熱温度については、270℃よりも低い温度であってもよい。もっとも、加熱温度が高い方が、反共振周波数をより大きく変化させることができる。
また、第2の実験例と同様にして、但し加熱時間を2時間、4時間または6時間と変化させた。このように加熱時間を変化させて周波数調整を行った後の弾性境界波素子の加熱時間と、反共振周波数変化率との関係を図12に示す。図12から明らかなように、加熱時間が長くなると、反共振周波数がより大きく変化する。もっとも、加熱時間が6時間を超えると、反共振周波数変化率は飽和してしまうので、加熱時間は、加熱温度によっても異なるが、反共振周波数変化率が飽和しない程度の時間とすることが望ましい。
いずれにしても、上記のように、熱処理温度及び熱処理時間の少なくとも一方を調整するだけで、周波数変化量を容易に制御することができる。
第4の実験例では高周波信号を10時間印加したが、該高周波信号印加時間を、0(高周波信号印加せず)、3時間、6時間、または10時間と変化させ、その他は同様として、周波数調整を行った。電力印加時間と、反共振周波数変化率との関係を図13に示す。
図13から明らかなように、高周波信号印加時間が長くなるにつれ、反共振周波数がより大きく変化している。もっとも、印加時間が10時間を超えると、反共振周波数変化率は飽和することが確かめられた。
印加時間が長くなると、それ以上拡散が進行しないため、反共振周波数変化率が飽和しているものと考えられる。
従って、工程の短縮を図るうえでは、電力印加時間は、反共振周波数変化率が飽和しないまでの時間であることが望ましい。
なお、高周波信号を印加して周波数調整を行う場合、上述した高周波信号の印加時間に限らず、高周波信号の周波数や全体としての印加電力量を変化させてもよい。すなわち、高周波信号を印加して周波数調整を行うにあたっては、高周波信号印加時間、高周波信号の周波数及び高周波信号印加電力のうち少なくとも1つを調整することにより周波数を調整することができる。いずれの場合においても、印加時間、周波数、あるいは印加電力を調整するだけでよいため、容易に周波数調整量を制御することができる。
上記実施形態では、弾性境界波素子の製造方法につき説明したが、本発明は、弾性表面波素子の製造方法及び弾性表面波素子にも適用することができる。前述したように、弾性表面波素子では、最終的にパッケージングが行われ、従来の周波数調整方法では、パッケージング後には周波数調整を行うことができなかった。これに対して、本発明の周波数調整工程では、加熱または高周波信号の印加により周波数調整を行うものであるため、パッケージング後にも周波数調整を行うことができる。
また、上記実施形態では、拡散層が形成されやすい金属の組み合わせとして、
AlCu−Tiの組み合わせを示したが、拡散を生じやすいものとして、以下の表2に示す金属材料の組み合わせも同様に好適に用いることができる。
Figure 0005434664
なお、上記好ましい金属の組み合わせにおいて、左側に記載の金属の膜厚を相対的に厚くすることが望ましい。
1…圧電基板
2…IDT電極
2a…電極指
3,4…反射器
5,13…Pt膜
6,8,10,12…Ti膜
7,9,11…AlCu合金膜
14…誘電体層
15…弾性境界波素子
16〜23…拡散層
24,25…端子

Claims (8)

  1. 圧電基板上に、複数の金属膜を積層してIDT電極を形成する工程と、
    前記IDT電極を加熱することまたは前記IDT電極に高周波信号を印加することにより、前記IDT電極において複数の金属膜のうちの少なくとも1つの金属膜を構成している金属を拡散させて周波数調整を行う工程とを備える、弾性波素子の製造方法。
  2. 前記圧電基板上に前記IDT電極を形成する工程の後であって、前記周波数調整を行う工程の前に、弾性波素子の周波数特性を測定する工程をさらに備える、請求項1に記載の弾性波素子の製造方法。
  3. 前記周波数特性を測定する工程により得られた周波数特性に応じて、前記周波数調整工程における加熱または高周波信号印加条件を調整して、前記周波数調整を行う、請求項2に記載の弾性波素子の製造方法。
  4. 前記周波数調整が、加熱により行われ、前記周波数調整に際して調整する条件が熱処理温度及び熱処理時間の少なくとも一方である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波素子の製造方法。
  5. 前記周波数調整が高周波信号の印加により行われ、前記周波数調整工程に際して調整される条件が、高周波信号印加時間、高周波信号の周波数及び高周波信号印加電力のうち少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波素子の製造方法。
  6. 前記圧電基板上にIDT電極を形成する工程において、前記圧電基板上に複数の弾性波素子ユニットを構成するための複数のIDT電極を形成し、
    前記周波数調整工程において、高周波信号の印加により周波数調整が行われ、かつ個々の前記弾性波素子ユニットごとに高周波信号を印加して周波数調整を行う、請求項1に記載の弾性波素子の製造方法。
  7. 前記周波数調整を行う前に、複数の前記弾性波素子ユニットの周波数特性を測定する工程をさらに備える、請求項6に記載の弾性波素子の製造方法。
  8. 前記周波数調整が、高周波信号印加時間、高周波信号の周波数及び高周波信号印加電力のうち少なくとも1つである、請求項6または7に記載の弾性波素子の製造方法。
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