JP3279126B2 - 無機繊維及びその製造方法 - Google Patents

無機繊維及びその製造方法

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JP3279126B2
JP3279126B2 JP13556595A JP13556595A JP3279126B2 JP 3279126 B2 JP3279126 B2 JP 3279126B2 JP 13556595 A JP13556595 A JP 13556595A JP 13556595 A JP13556595 A JP 13556595A JP 3279126 B2 JP3279126 B2 JP 3279126B2
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敏弘 石川
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、きわめて高い弾性率及
び高い強度を有し、さらに優れた耐熱性及び耐酸化性を
示す無機繊維及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】特公昭58−5286号公報には、ポリ
ジメチルシランとこれに対して3.3重量%のポリボロ
ジフェニルシロキサンとの反応により得られるポリカル
ボシランに、チタン(4価)テトラブトキシドを加えて
加熱反応して調製されるポリチタノカルボシランを原料
として、紡糸、不融化した後に、高温で熱処理して連続
無機を製造する方法が開示されている。
【0003】上記公報に記載の方法によると、β−Si
C、TiC、並びにβ−SiCとTiCとの固溶体及び
/又はTiC1−y(0<y<1)の各結晶質粒子集合
体からなり、上記各結晶質粒子の粒径が50nm以下で
あり、場合により非晶質のSiO及びTiOを含む
ことがある無機繊維が得られる。この無機繊維は約13
00℃までの熱環境下では優れた引張強度及び弾性率を
示す。
【0004】この無機繊維を1400℃以上の熱処理で
調製する場合には、上記公報の実施例5の結果からもわ
かるように、繊維を構成する結晶粒の成長が著しくな
り、1300℃以下での熱処理で得られる上記公報の実
施例1〜3の無機繊維に比較して、引張強度及び弾性率
が低下する傾向を示すようになる。
【0005】特開平4−222225号公報には、0.
2重量%以上のホウ素を含有するポリカルボシランを紡
糸し、紡糸繊維を不融化し、不融化繊維を1600℃以
上の温度で熱分解することによって、多結晶質炭化ケイ
素繊維を製造する方法が開示されている。
【0006】そして、上記公報には、多結晶質炭化ケイ
素繊維を構成する結晶粒子の大きさは0.5μm以下、
典型的には0.2μm以下であることが記載されてお
り、実施例1で得られる炭化ケイ素繊維の結晶サイズは
約500〜約600オングストロームである。この公報
には、ケイ素及び炭素に加えて、チタンを含む無機繊維
についての言及はない。
【0007】上記公報の実施例で得られる無機繊維の引
張強度は164〜243Ksi(1.13〜1.68G
Pa)であり、強化繊維としての特性が工業的に満足す
るレベルではない。
【0008】欧州特許公開580380号公報(特開平
6−184828号公報参照)には、SiC繊維あるい
はSi−Ti−C−O繊維のようなセラミック繊維を、
ホウ素化合物他の揮発性焼結助剤を含有する雰囲気中で
加熱して、多結晶質炭化ケイ素系繊維を製造する方法が
開示されている。
【0009】この公報には、多結晶質炭化ケイ素系繊維
を構成する結晶粒子の大きさは、一般には1μm以下、
しばしば0.5μm以下、そして典型的には0.2μm
未満であることが記載されており、実施例1で得られる
炭化ケイ素繊維の結晶サイズは0.1μm未満である。
【0010】欧州特許公開580380号公報には、揮
発性焼結助剤としてホウ素化合物、特に酸化ホウ素(B
)が好ましいとされており、すべての実施例にお
いて酸化ホウ素が使用されている。この酸化ホウ素の沸
点は1500℃以上の高温域にあることが知られてい
る。
【0011】上記公報に記載の発明の原料として使用さ
れるセラミック繊維は実質的に適量の酸素を含むSiC
系繊維であり、この繊維は1400℃以上の温度で、繊
維中の非化学的量論的組成の余剰炭素がCOガスとして
離脱し、それに伴ってβ−SiC結晶の粒成長が顕著に
起こる。そして、この結晶粒の成長は1500〜160
0℃の範囲の温度で最も激しく起こる。
【0012】欧州特許公開580380号公報に記載の
方法においては、SiC結晶の粒成長が最も激しく起こ
る温度域で酸化ホウ素を繊維中に導入することになるの
で、β−SiC結晶化を完全に抑制することは非常に困
難である。このことは、上記公報中に記載されている前
述の結晶子の大きさからも推察することができる。ま
た、焼結前の段階で結晶粒の成長が顕著に起こることか
ら、いずれの実施例においても3GPaに及ぶ強度は達
成されていない。
【0013】一般に、高い耐熱性を有する繊維は、セラ
ミックスの力学的特性を改善する目的で強化用繊維とし
て期待されており、炭化ケイ素系繊維を含む、現在開発
されている強化繊維の破断歪みは、一般的に0.3〜
0.6%の範囲であるマトリックスの破断歪みを上回っ
ている。
【0014】セラミックスを繊維で強化する主たる目的
は、セラミックスの最大の欠点である破壊靭性の低さを
改善することにあり、換言すると、割れにくいセラミッ
クス材料を創出することが最大の目的である。
【0015】従って、マトリックスとして存在している
セラミックス中に亀裂が発生しても、強化繊維がその亀
裂の伝播を阻止する必要がある。そのためには、マトリ
ックスを形成しているセラミックス材が破壊に至る歪み
を受けた時点でも、強化繊維は破壊してはならない。
【0016】勿論、強化繊維の引張強度及び弾性率が高
くなければならないが、上記の理由から、強化材として
使用される繊維の破断歪みが、マトリックス材のそれよ
り大きいことがきわめて重要であることが容易に理解さ
れる。このことから、弾性率がきわめて高くても、引張
強度の低い強化繊維は、セラミックスの強化繊維として
は適していないことがわかる。
【0017】この観点から、欧州特許公開580380
号公報の各実施例で得られている炭化ケイ素系繊維の伸
びを検討すると、これら繊維はきわめて高い弾性率を有
するにもかかわらず、セラミックスの強化繊維としては
好ましくないことがわかる。
【0018】欧州特許公開580380号公報の各実施
例で得られている炭化ケイ素系繊維は、1.15〜2.
2GPaの範囲の比較的低い引張強度、及び280〜4
40MPaの範囲のきわめて高い弾性率を有している。
【0019】この公報の各実施例で得られている炭化ケ
イ素系繊維の引張強度及び弾性率の値から算出される繊
維の破断歪み[(引張強度/弾性率)×100])はつ
ぎのとおりである。
【0020】これらの破断歪みの値は、前述したセラミ
ックマトリックスの一般的破断歪みである0.3〜0.
6%と同等あるいはそれ以下である。従って、欧州公開
580380号公報に記載されている炭化ケイ素系繊維
は、その大きな弾性率にもかかわらず、低い引張強度及
び小さな破断歪みのために、セラミックスの強化繊維と
しては現実的には使用することが困難であることが、容
易に理解される。
【0021】さらに、欧州公開580380号公報に記
載の製造方法においては、雰囲気中に含有されるホウ素
を無機繊維にホウ素を拡散させる手段を採用するため
に、ホウ素が無機繊維中に均一に分布せず、得られる無
機繊維間の強度のバラツキが回避できない。このこと
は、後述する比較例4の結果からも明らかである。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、高い強度及
び弾性率を有すると共にセラミックマトリックスより大
きな破断歪みを有し、さらに、優れた耐熱性を有する、
無機繊維及びその製造方法を提供する。
【0023】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、特公昭5
8−5286号公報に記載の無機繊維の製造方法におい
て、ポリシランに対するポリボロジフェニルシロキサン
の使用量を厳密に制御し、さらに前駆物質中に適当量の
チタン化合物を共存させておくことによって、高温での
熱処理で、β−SiCの結晶粒の成長が50nm以下程
度のサイズにまで抑制されて良好に焼結が起こり、結果
として、焼結β−SiC結晶を主体とする無機繊維が得
られること、及びこの無機繊維がきわめて高い耐熱性を
有することを見いだした。本発明はこの知見に基づいて
完成されたものである。
【0024】本発明によれば、β−SiC、TiC、及
びB6−xC(xは0≦x<6を満足する数である。)
からなり、結晶粒径が50nm以下である焼結β−Si
C結晶の粒界相にTiC及びB6−xCが存在するが提
供される。
【0025】さらに、本発明によれば、ポリシラン又は
その加熱反応物100重量部とフェニル基含有ポリボロ
シロキサン5〜15重量部との加熱反応によって得られ
る、ホウ素をホウ素原子換算で0.05〜0.3重量%
含む、カルボシラン構造及びシロキサン構造からなる有
機ケイ素重合体を、チタン(4価)アルコキシドと反応
させて、ポリチタノカルボシランを調製し、このポリチ
タノカルボシランを溶融紡糸し、紡糸繊維を不融化し、
そして不融化繊維を1700〜2000℃の範囲の温度
に加熱する、無機繊維の製造方法が提供される。
【0026】本発明の無機繊維を最初に説明する。以下
の記載において、「部」及び「%」は特別の言及がない
限り、それぞれ、「重量部」及び「重量%」を示す。
【0027】本発明の無機繊維は、焼結されたβ−Si
C結晶を主体とし、その粒界相にTiC及びB6−x
からなる異種相が存在している。上記の焼結β−SiC
結晶の結晶粒径は50nm以下である。TiC及びB
6−xCの結晶粒径は一般には、それぞれ、50nm以
下及び10nm以下である。この無機繊維の直径につい
ては特別の制限はないが、通常50μm以下である。
【0028】β−SiCの結晶粒径は、X線回折図にお
けるβ−SiCの(111)回折線の半価幅から下式の
Sherrerの式の基づいて算出した値(L111
である。 L111=1.0λ/β・cosθ (上式において、λはX線の波長、βは半価幅、θは回
折角である。)
【0029】TiC及びB6−xCの結晶粒径は、X線
回折線が明瞭でないため、高分解能透過型電子顕微鏡及
びエネルギー分散X線分析装置による測定結果から求め
た。
【0030】本発明の無機繊維における構成元素の割合
は、一般には、β−SiCとして存在するSiが39〜
70%、TiCとして存在するTiが0.2〜35%、
好ましくは1〜10%であり、B6−xCとして存在す
るBが0.06〜0.4%である。
【0031】この無機繊維には上記のβ−SiC、Ti
C及びB6−xCに加えて、SiO、TiO及びC
が存在することがある。SiO又はTiOとして存
在するOは通常10%以下であり、主として焼結β−S
iC結晶の粒界相に存在するCは通常12%以下であ
る。
【0032】本発明の無機繊維は、前述した特公昭58
−5286号公報に記載の無機繊維とは異なり、β−S
iC結晶が焼結されていること、及び焼結β−SiC結
晶の結晶粒径が50nm以下であることが重要な特徴で
ある。これにより、本発明の無機繊維は1300℃を超
える温度においても、きわめて高い力学的特性及び耐熱
性を示す。
【0033】また、本発明の無機繊維は、欧州特許公開
580380号公報に記載の無機繊維に比較して大きな
破断歪みを有している。
【0034】図1及び図2は、それぞれ、後述する実施
例1で得られた無機繊維の繊維表面及び破断面の表面反
射型電子顕微鏡写真であり、両図から、この無機繊維に
おいてはβ−SiC結晶粒の合体が起こっており、表面
も非常に滑らかでβ−SiC結晶の焼結が進行している
ことが認められる。
【0035】図3及び図4は、それぞれ、後述する比較
例1で得られた無機繊維を1700℃で加熱処理した後
の繊維表面及び破断面の表面反射型電子顕微鏡写真であ
り、これらの図から、比較例1で得られる無機繊維をさ
らに高温で加熱処理してもβ−SiC結晶粒の合体が起
こっておらず、β−SiC結晶の焼結が起こっていない
ことが認められる。
【0036】図5は、後述する実施例1で得られた無機
繊維のX線回折図であり、この図には2θ=35.5°
にβ−SiC結晶に起因する回折ピーク、及び2θ=4
1.9°にTiC結晶に起因する回折ピークが、それぞ
れ、認められる。
【0037】このように、本発明の無機繊維は、特公昭
58−5286号公報に記載の無機繊維のような単なる
結晶の集合体ではなく、主たる構成成分であるβ−Si
C結晶が焼結されている繊維である。より平易には、本
発明の無機繊維は繊維形状をしたβ−SiC結晶の焼結
体と言うことができる。
【0038】つぎに、本発明の無機繊維の製造方法につ
いて説明する。本発明で使用されるポリシランは、下記
式によって示される鎖状あるいは環状の重合体であり、
その数平均分子量は通常300〜1000である。ま
た、本発明におけるポリシランは上記の鎖状あるいは環
状のポリシランを400〜600℃の範囲の温度に加熱
して得られる、一部にカルボシラン結合を含むポリシラ
ンを包含する。
【0039】
【化1】
【0040】(式中、R及びRは、それぞれ、アル
キル基を示し、少なくとも一方はメチル基である。)
【0041】ポリシランは、例えば、「有機ケイ素化合
物の化学」化学同人社(1972年)に記載されている
方法によって合成することができ、その代表的な製法
は、1種以上のジクロロシランをナトリウムによって脱
塩素反応させる方法である。この反応は以下の式によっ
て表すことができる。
【0042】
【化2】
【0043】本発明で用いられるフェニル基含有ポリボ
ロシロキサンは、特開昭53−42330号公報及び同
53−50299号公報に記載の方法に従って調製する
ことができ、例えば、ホウ酸と1種以上のジオルガノク
ロロシランとの脱塩酸縮合反応によって調製することが
でき、その数平均分子量は一般には500〜10000
である。生成物であるフェニル基含有ポリボロシロキサ
ンの構造は複雑であるが、主として以下の式で示される
構造単位からなり、この構造が複雑に組み合わされて全
体のポリマが構成されている。
【0044】
【化3】
【0045】(式中、R及びRは、それぞれ、アル
キル基又はフェニル基を示し、かつ少なくとも一方はフ
ェニル基である。)
【0046】上記のポリシラン100部とフェニル基含
有ポリボロシロキサン5〜15部とを反応させることに
よって、カルボシラン構造及びシロキサン構造からな
り、ホウ素をホウ素原子換算で0.05〜0.3%、好
ましくは0.1〜0.25%含有する、有機ケイ素重合
体が調製される。
【0047】フェニル基含有ポリボロシロキサンの使用
割合が上記の下限未満であると、反応で得られる有機ケ
イ素重合体のホウ素含有量がホウ素原子換算で0.05
%未満となり、最終的に得られる無機繊維を構成するβ
−SiC結晶粒子の焼結が進行しないか、焼結が不充分
となり、無機繊維の力学的特性及び耐熱性が低下する。
【0048】フェニル基含有ポリボロシロキサンの使用
割合が上記の上限を超えると、換言すると、反応生成物
である有機ケイ素重合体のホウ素含有量がホウ素原子換
算で0.3%を超えると、反応で得られる有機ケイ素重
合体の分子量の増大が著しくなり、有機ケイ素重合体と
チタンアルコキシドとの反応で得られるポリチタノカル
ボシランの紡糸が困難になる。また、最終的に得られる
無機繊維中のホウ素含有量が過度に多くなると、無機繊
維の耐酸化性が悪くなる傾向を示し、高温の空気中で長
時間処理した場合、無機繊維の表面に多くの亀裂が見ら
れるようになる。
【0049】ポリシランとフェニル基含有ポリボロシロ
キサンとの加熱反応温度は、通常250℃以上、好まし
くは300〜500℃である。反応時間は通常3〜10
時間である。得られる有機ケイ素重合体における(Si
−CH)単位の全数に対する(Si−O)単位の全数
は、通常、100:0.4〜100:1.5である。
【0050】有機ケイ素重合体との反応に供されるチタ
ンアルコキシドのアルコキシド基におけるアルキル基の
炭素数は通常1〜20である。チタンアルコキシドの具
体例としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシ
チタン、テトラブトキシチタン、テトラヘキソキシチタ
ン、テトラオクトキシチタン、テトラドデコキシチタン
が上げられる。
【0051】有機ケイ素重合体とチタンアルコキシドと
を通常200〜350℃で反応させることによって、有
機ケイ素重合体のケイ素原子の少なくとも一部が、チタ
ンアルコキシドのチタン原子と酸素原子を介して結合す
ることによって、有機ケイ素重合体相互が架橋結合され
た、ポリチタノカルボシランが得られる。
【0052】チタンアルコキシドの使用割合は、一般に
は、有機ケイ素重合体の(Si−CH)単位及び(S
i−O)単位の全数に対するるチタンアルコキシドの
(Ti−O)単位の全数の比率が2:1〜200:1に
なるような割合である。
【0053】反応によって得られるポリチタノカルボシ
ランは、通常、200〜10,000の数平均分子量を
有し、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族有
機溶媒に可溶である。
【0054】ポリチタノカルボシランはそれ自体公知の
紡糸方法によって紡糸することができる。例えば、ポリ
チタノカルボシランを溶融紡糸する方法、ポリチタノカ
ルボシランを上記の有機溶媒に溶解させて紡糸原液を調
製し、必要に応じてマクロゲルあるいは不純物のような
紡糸に際して有害な物質を除去した後、乾式紡糸する方
法を採用することができる。
【0055】紡糸の際に、必要であれば、紡糸装置に紡
糸筒を取り付け、その筒内の雰囲気を前記溶媒の少なく
とも一種以上の溶媒の飽和蒸気雰囲気と、空気及び/又
は不活性ガスとの混合雰囲気とするか、あるいは、空
気、不活性ガス、スチーム、アンモニアガス、炭化水素
ガス、有機ケイ素化合物ガスの雰囲気とすることによっ
て、紡糸筒中の紡糸繊維の固化を抑制することもでき
る。
【0056】紡糸繊維の不融化はそれ自体公知の方法で
行うことができる。例えば、不融化方法としては、紡糸
繊維を酸化性雰囲気中で、張力又は無張力の作用のもと
で50〜400℃の温度範囲で数分〜30時間加熱する
方法、γ線あるいは電子線を照射する方法が挙げられ
る。
【0057】別の不融化方法としては、本願出願人が先
に特願平6−14276号として提案した方法を採用す
ることもできる。提案の方法は、紡糸繊維を塩素、臭素
又は沃素を含有する不活性ガス雰囲気中で、室温〜20
0℃の範囲内の任意の温度から40〜300℃の範囲内
の選択される温度まで1〜50℃/時間の昇温速度で加
熱処理するか、又は室温〜200℃の一定温度で加熱処
理して、有機ケイ素重合体のSi−H結合の10〜70
%をSi−ハロゲン結合に変換させたハロゲン処理繊維
を調製し、この後、不活性ガス雰囲気又は真空中で20
0〜500℃の範囲の温度に加熱して、Si−ハロゲン
結合間又はSi−H結合との間で、ハロゲン又はハロゲ
ン化水素の脱離を行う方法である。
【0058】上記提案の方法におけるSi−H結合のS
i−ハロゲン結合への変換割合は、紡糸繊維及びハロゲ
ン処理繊維の赤外線吸収スペクトル(KBr錠剤法)に
おける2100cm−1(Si−H結合の伸縮振動)の
吸収ピークと2950cm−1(C−H結合の伸縮振
動)の吸収ピークとの吸光度比から下式によって求めた
値である。 紡糸繊維の吸光度比(R) :A2100/A2950=R ハロゲン処理繊維の吸光度比(R):A2100/A2950=R) 変換割合(%) :(1−R/R)×100
【0059】不融化繊維をついで1700〜2000℃
の範囲の温度まで加熱することによって、本発明の無機
繊維が得られる。この加熱は、張力又は無張力のもと
で、アルゴン、窒素のような不活性ガス雰囲気あるいは
一酸化炭素、水素ガスのような還元性雰囲気で行われ
る。
【0060】不融化繊維を上記範囲内の温度に加熱する
ことによって、個々の繊維内部でβ−SiC結晶が焼結
し、きわめて高い弾性率及び高い強度を有する無機繊維
が得られる。
【0061】なお、上記温度範囲での加熱は、不融化糸
を予め1600℃以下の温度で無機化しておき、その後
に一定の昇温速度で目的の温度まで昇温し、同温度で一
定時間保持することにより達成されてもよい。さらに、
昇温過程において、COガスの脱離を目的とした、一定
温度での保持を行ってもよい。一般的には、1200〜
1400℃の範囲の温度で不融化糸を無機化しておき、
その温度から1〜50℃/分の昇温速度で1700〜2
000℃の範囲の温度まで昇温する方法が採用される。
この方法には、温度分布を設けた熱処理炉を用いた連続
長繊維の処理も包含される。
【0062】
【実施例】以下に実施例及び比較例を示す。以下におい
て、無機繊維の引張強度のバラツキの指針となるワイブ
ル係数は、その値が大きいほど引張強度値のバラツキが
少ないことを示すものである。
【0063】参考例1 ナトリウム400gを含有する無水キシレン20リット
ルに、窒素ガス気流下にキシレンを加熱還流させなが
ら、ジメチルジクロロシラン1リットルを滴下し、引き
続き10時間加熱還流し沈澱物を生成させた。この沈澱
をろ過し、メタノール、ついで水で洗浄して、白色のポ
リジメチルシラン420gを得た。
【0064】参考例2 ジフェニルジクロロシラン750g及びホウ酸124g
を窒素ガス雰囲気下にn−ブチルエーテル中、100〜
120℃で加熱し、生成した白色樹脂状物をさらに真空
中400℃で1時間加熱することによって、フェニル基
含有ポリボロシロキサン530gを得た。
【0065】実施例1 参考例1で得られたポリジメチルシラン100部に参考
例2で得られたフェニル基含有ポリボロシロキサン10
部を添加し、窒素ガス雰囲気中、350℃で熱縮合し
て、カルボシラン単位とシロキサン単位との比が10
0:0.93である有機ケイ素重合体部72部を得た。
有機ケイ素重合体のホウ素の含有割合は、ホウ素原子換
算で、0.173%であった。
【0066】この有機ケイ素重合体100部のキシレン
溶液にチタンテトラブトキシド10.5部を加え、窒素
ガス気流下に320℃で橋架反応させるとによって、カ
ルボシラン単位とチタノキサン単位との比が10:1の
ポリチタノカルボシランを得た。
【0067】このポリチタノカルボシランを200℃で
溶融紡糸し、紡糸繊維を空気中190℃で不融化した。
不融化繊維をアルゴン気流下に1800℃で1時間加熱
処理して、繊維径11μmの無機繊維を得た。この無機
繊維における構成元素の割合は、Si:65%、C:3
0.5%、Ti:3.0%、B:0.3%、O:1.2
%であった。
【0068】上記無機繊維の繊維表面及び破断面の表面
反射型電子顕微鏡写真である図1及び図2からわかるよ
うに、この無機繊維においてはβ−SiC結晶粒の合体
が起こっており、β−SiC結晶の焼結が進行してい
た。
【0069】上記の無機繊維のX線回折図である図5に
は、2θ=35.5°にβ−SiC結晶に起因する回折
ピーク、及び2θ=49.9°にTiC結晶に起因する
回折ピークが、それぞれ、認められた。β−SiC結晶
の結晶粒径は8.9nmであった。
【0070】この無機繊維は、引張強度3.2GPa、
弾性率270GPaの力学的特性を示し、破断歪みは
1.19%であった。引張強度についてのワイブル係数
は13であった。この無機繊維を1300℃の空気中で
100時間熱処理した繊維表面の表面反射型電子顕微鏡
写真を図8に示す。図8からわかるように、無機繊維は
非常に平滑な表面を有しており、処理前の力学的特性の
50%以上を保っていた。また、この繊維をアルゴン中
1700℃で1時間加熱処理した後も、力学的特性に変
化は認められなかった。
【0071】実施例2 実施例1と同様にして得られた不融化繊維を、予め窒素
流下に1300℃で焼成し、この焼成繊維をアルゴン気
流下に1800℃に加熱処理して、繊維径12μmの無
機繊維を得た。この無機繊維は実施例1で得られた無機
繊維と同様に組織構造を有していた。この無機繊維は、
引張強度3.0GPa、弾性率260GPaの力学的特
性を示し、破断歪みは1.15%であった。引張強度に
ついてのワイブル係数は14であった。また、この繊維
をアルゴン中1700℃で1時間加熱処理した後も、力
学的特性に変化は認められなかった。
【0072】比較例1 ポリジメチルシラン100部当たりのフェニル基含有ポ
リボロシロキサンの添加量を2部とした以外は実施例1
と同様にして得られた不融化繊維を、窒素気流中、13
00℃で焼成して、繊維径11μmの無機繊維を得た。
なお、有機ケイ素重合体のホウ素の含有割合は、ホウ素
原子換算で、0.027%であった。この無機繊維は、
引張強度3.2GPa、弾性率190GPaの力学的特
性を示した。
【0073】上記繊維をアルゴン中1700℃で1時間
加熱処理したところ、図3及び図4から分かるように、
急激なβ−SiC結晶の粒成長が起こり、β−SiC結
晶粒間の焼結はまったくおこらなかった。加熱処理後の
繊維には多数の欠陥が生成しており、その力学的特性は
消失していた。
【0074】比較例2 実施例1におけると同様にして得られた、カルボシラン
単位とシロキサン単位との比が100:0.93である
有機ケイ素重合体にチタンテトラブトキシドを添加して
反応させることなく、この有機ケイ素重合体を溶融紡糸
した後、紡糸繊維を空気中190℃で不融化した。不融
化繊維をアルゴン中、1800℃で熱処理して、繊維径
12μmの無機繊維を得た。
【0075】この無機繊維は、実施例1で得られた無機
繊維と同様に、β−SiCの焼結が認められたが、β−
SiC結晶の結晶粒径は0.52μmまで成長してお
り、引張強度及び弾性率は、それぞれ、1.8GPa及
び220GPaであり、実施例1で得られた繊維の特性
より低いものであった。
【0076】実施例3 実施例1と同様にして得られた不融化繊維を予め窒素流
通下に1300℃で焼成し、この焼成繊維をアルゴン気
流下30℃/分の昇温速度で1900℃まで昇温し、同
温度で2時間保持して焼結無機繊維を得た。
【0077】得られた無機繊維の引張強度及び弾性率
は、それぞれ、3.4GPa及び320GPaであり、
破断歪みは1.06%でった。また、引張強度について
のワイブル係数は13であった。
【0078】比較例3 実施例1と同様にして得られた有機ケイ素重合体に、チ
タンテトラブトキシドを添加せずに、そのまま約200
℃で溶融紡糸し、紡糸繊維を空気中、190℃で不融化
した。不融化繊維をアルゴン気流下に1800℃で1時
間加熱処理して、繊維径12μmの無機繊維を得た。
【0079】この無機繊維を構成するβ−SiC結晶の
結晶粒径は340nmであった。また、この繊維の引張
強度及び弾性率は、それぞれ、1.5GPa及び240
GPaであり、実施例1のチタンを前駆物質中に共存さ
せた場合に比較して、非常に低いものであった。
【0080】比較例4 参考例1で得られたポリジメチルシランに、フェニル基
含有ポリボロシロキサンを添加せず、そのまま470℃
に加熱して得られたポリカルボシラン100部のキシレ
ン溶液に、チタンテトラブトキシド10.5部を加え、
窒素ガス気流下に320℃で架橋反応させることによっ
て、カルボシラン単位とチタノキサン単位との比が1
2:1のポリチタノカルボシランを得た。
【0081】このポリチタノカルボシランを240℃で
溶融紡糸し、紡糸繊維を空気中190℃で不融化した。
不融化繊維をアルゴン気流下に1200℃に加熱して無
機繊維を得た。得られた無機繊維を、酸化ホウ素の蒸気
を含有するアルゴン中、1800℃まで加熱して焼結繊
維を調製した。
【0082】得られた焼結繊維についての異なる破断面
の表面反射型電子顕微鏡写真を図6及び図7に示す。図
6に示されるように、内部まで焼結している繊維と、表
面のみ焼結して中心部に大きい欠陥が生成している繊維
とが混在していた。
【0083】このため、焼結繊維の平均強度は1.8G
Paであり、実施例1で得られた焼結繊維に比較してき
わめて小さく、引張強度についてのワイプル係数も7.
5であった。これらの結果は、無機繊維中にホウ素を均
一に導入することの困難さを示しており、工業的な生産
規模においては、さらにこの困難さが顕著になることが
合理的に予測される。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は実施例1で得られた無機繊維の繊維表面
の粒子構造を示す図面に代える表面反射型電子顕微鏡写
真である。
【図2】図2は実施例1で得られた無機繊維の破断面の
粒子構造を示す図面に代える表面反射型電子顕微鏡写真
である。
【図3】図3は比較例1で得られた無機繊維の繊維表面
の粒子構造を示す図面に代える表面反射型電子顕微鏡写
真である。
【図4】図4は比較例1で得られた無機繊維の破断面の
粒子構造を示す図面に代える表面反射型電子顕微鏡写真
である。
【図5】図5は実施例1で得られた無機繊維のX線回折
図である。
【図6】図6は比較例3で得られた無機繊維の破断面の
粒子構造を示す図面に代える表面反射型電子顕微鏡写真
である。
【図7】図7は比較例3で得られた無機繊維の破断面の
粒子構造を示す図面に代える表面反射型電子顕微鏡写真
である。
【図8】図8は、実施例1で得られた無機繊維を130
0℃の空気中で100時間熱処理した後の繊維表面の粒
子構造を示す図面に代える表面反射型電子顕微鏡写真で
ある。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭60−99004(JP,A) 特開 昭63−120168(JP,A) 特開 平6−101117(JP,A) 特開 平6−146115(JP,A) 特開 平7−157923(JP,A) 特開 昭52−103529(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) D01F 9/10

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】β−SiC、TiC、及びB6−xC(x
    は0≦x<6を満足する数である。)からなり、結晶粒
    径が50nm以下である焼結β−SiC結晶の粒界相に
    TiC及びB6−xCが存在することを特徴とする無機
    繊維。
  2. 【請求項2】ポリシラン又はその加熱反応物100重量
    部とフェニル基含有ポリボロシロキサン5〜15重量部
    との加熱反応によって得られる、ホウ素をホウ素原子換
    算で0.05〜0.3重量%含む、カルボシラン構造及
    びシロキサン構造からなる有機ケイ素重合体を、チタン
    (4価)アルコキシドと反応させて、ポリチタノカルボ
    シランを調製し、このポリチタノカルボシランを溶融紡
    糸し、紡糸繊維を不融化し、そして不融化繊維を170
    0〜2000℃の範囲の温度に加熱することを特徴とす
    る無機繊維の製造方法。
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