JP3218555B2 - 保護層付きセリア系固体電解質 - Google Patents

保護層付きセリア系固体電解質

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、固体燃料電池用固体電
解質に関するものである。
【0002】
【従来技術および問題点】近年、酸素イオン伝導体を用
いた固体電解質燃料電池に関心が高まりつつある。特に
エネルギーの有効利用という観点から、固体燃料電池は
カルノー効率の制約を受けないため本質的に高いエネル
ギー変換効率を有し、さらに良好な環境保全が期待され
るなどの優れた特徴を持っている。
【0003】固体電解質燃料電池の電解質は、内部をイ
オンが流れるときに生じる直流抵抗損を低く抑える必要
から、高いイオン伝導度が求められる。
【0004】固体電解質燃料電池の電解質として従来最
も有望視されてきた酸素イオン伝導体であるY23安定
化ZrO2(YSZ)において十分なイオン伝導度を得
るには1000℃の高温動作が必要である。しかしこの
ような高温では電極界面との反応による部品寿命の劣化
が激しく固体燃料電池の実用化が遅れているのが現状で
ある。このような観点から動作温度を下げることが望ま
れそのためYSZより高いイオン伝導材料の出現が望ま
れている。
【0005】800℃程度の低い温度でも比較的イオン
伝導度の高い材料に、(1−x)CeO2−xD2
3(D=Gd,Eu,Sm)等の、希土類元素を添加し
たセリア系イオン伝導体が最もよく検討されてきた。
【0006】これらの材料は還元雰囲気では酸素イオン
輸率が100%ではない(電子伝導性を有する)ため電
解質内を電子が流れ、セルの出力電圧を理論値よりも下
げてしまう。これを防ぐ目的で還元雰囲気である燃料電
極側を還元雰囲気に強いYSZの保護層でコートして使
用する方法が検討されている。YSZは、イオン伝導度
がセリアに比べて低いので、ガスをシールできる範囲で
極力薄くすべきである。表1にこれら電解質の800℃
におけるイオン伝導度とイオン輸率を示す。
【0007】表1
【0008】図4(酸素電極におけるものを例示)に示
すように、燃料電池において不可欠な電気化学反応は、
反応ガスと電流を供給する電極2(3)(酸素電極上に
おける反応課程、O2→2O、2O+4e-→2O2-)、
そして、イオンを運ぶ固体電解質Eが同時に接する三相
界面において行われている。ここで、固体電解質Eに接
する電極は、電極2(3)と固体電解質Eの界面(三相
界面)まで、反応ガスを十分に導くため多孔質にしてお
く必要がある。このため電極はある程度粒径の大きな材
料で構成されなければならない。このようにして作られ
たイオンは、図5(燃料電極における場合)に示すよう
に三相界面から固体電解質(セリア系固体電解質1+保
護層10)Eの内部へイオン電流として流れていくの
で、イオン電流の表面付近への集中が起きる。また電極
3(2)の材料の粒径が大きいほど電流集中が顕著にな
る。この電流の集中は、導体の実質的な断面積の減少を
意味し、この部分において大きな電圧降下をもたらし、
電解質内での発電損失の大きな原因となっている。
【0009】以上の理由により、界面付近のイオン伝導
度は、セル特性に大きな影響を及ぼす。特に電解質全体
の厚みが薄い場合においては、界面付近の電圧降下が電
解質内での電圧降下の主要な部分となる。したがって、
保護層は、イオン輸率が100%であるだけでなく、高
いイオン伝導度が求められる。
【0010】
【発明の目的】本発明は、600℃から800℃と低い
温度でも比較的イオン伝導度の高い材料である(1−
x)CeO2−xD23(D=Gd,Eu,Sm)等
の、希土類元素を添加したセリア系イオン伝導体を主な
電解質材として用い、これが燃料電極と接する表面にの
み薄く酸素イオン輸率が100%に近く且つイオン伝導
度が高い保護層を設けることにより、イオン伝導度の低
下をほとんど引き起こさずに、電解質全体の酸素イオン
輸率を改善し、発電損失を抑えることを目的とする。
【0011】
【問題点を解決するための手段】上記問題点を解決する
ため、本発明による保護層付きセリア系固体電解質は、
希土類元素を添加したセリア系酸素イオン伝導体(1−
x)CeO2−xD23 (D=Nd,Sm,Gd,T
b,Dy,Ho)の燃料電極側に、スカンジウムを含む
ジルコニア酸化物からなる保護層を薄く設けた構造の固
体電解質において、保護層の組成が(1−x−y)Zr
2−xSc23yAl 2 3 (0.070≦x+y≦
0.160かつ0.005≦y≦0.02)であること
を特徴とする。また、本発明による保護層付きセリア系
固体電解質は、希土類元素を添加したセリア系酸素イオ
ン伝導体(1−x)CeO 2 −xD 2 3 (D=Nd,S
m,Gd,Tb,Dy,Ho)の燃料電極側に、スカン
ジウムを含むジルコニア酸化物からなる保護層を薄く設
けた構造の固体電解質において、保護層に(1−x−
y)ZrO 2 −xSc 2 3 −yA 2 3 (A=Y,Lu,
Yb,Er,Ho)で、かつ(0.060<x+y<
0.220かつ0.015<y≦0.060)なる組成
を有するイオン伝導体を用いることを特徴とする。さら
に本発明による保護層付きセリア系固体電解質は、希土
類元素を添加したセリア系酸素イオン伝導体(1−x)
CeO 2 −xD 2 3 (D=Nd,Sm,Gd,Tb,D
y,Ho)の燃料電極側に、スカンジウムを含むジルコ
ニア酸化物からなる保護層を薄く設けた構造の固体電解
質において、保護層に(1−x−y)ZrO 2 −xSc 2
3 −yA 2 3 (A=Dy,Tb,Gd,Eu)で、か
つ(0.060<x+y<0.160かつ0.010≦
y≦0.020)なる組成を有するイオン伝導体を用い
ることを特徴とする。本発明による第四の保護層付きセ
リア系固体電解質は、希土類元素を添加したセリア系酸
素イオン伝導体(1−x)CeO 2 −xD 2 3 (D=N
d,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho)の燃料電極側に、
スカンジウムを含むジルコニア酸化物からなる保護層を
薄く設けた構造の固体電解質において、保護層に(1−
x−y)ZrO 2 −xSc 2 3 −yA 2 3 (A=Sm,
Nd,Pr,La,Ce)で、かつ(0.060<x+
y<0.160かつ0.005≦y≦0.010)なる
組成を有するイオン伝導体を用いることを特徴とする。
【0012】本発明は図1に示すごとく(1−x)Ce
2−xD23D=Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,
Ho)の希土類を添加したセリア系固体電解質1の燃料
電極2側に、酸素イオン輸率が100%に近く且つ伝導
度の高い(1−x−y)ZrO2−xSc23yA 2
3 の保護層10を設ける。ただし、AはAl,Y,L
u,Yb,Er,Ho,Dy,Tb,Gd,Eu,S
m,Nd,Pr,La,Ceである。xおよびyはA=
Alの場合、(0.070≦x+y≦0.160かつ
0.005≦y≦0.02)、A=Y,Lu,Yb,E
r,Hoの場合、(0.060<x+y<0.220か
つ0.015<y≦0.060)、A=Dy,Tb,G
d,Euの場合、(0.060<x+y<0.160か
つ0.010≦y≦0.020)、A=Sm,Nd,P
r,La,Ceの場合(0.060<x+y<0.16
0かつ0.005≦y≦0.010)である。これによ
りイオン伝導度の低下をほとんど引き起こさずに、固体
電解質E(セリア系固体電解質1+保護膜10)全体の
酸素イオン輸率を改善でき発電損失を抑えることが可能
となる。良好な膜厚を得るために高イオン伝導層の膜厚
の下限は、0.03ミクロン程度は必要である。また、
セリアの部分は、50から300ミクロン程度が適して
いるので、セリアよりもイオン伝導度の低い保護層の部
分は、これより薄くすべきである。このため保護層は
0.05から50ミクロン程度の厚みが適している。保
護層10、セリア系固体電解質層1ともに、層厚が20
から200ミクロン程度までならテープキャスティング
法、ドクターブレード法、ディッピング法、EVD法で
作製可能である。10ミクロン以下では、ディッピング
法、EVD法、そして、RFスパッタリング法等で作製
可能である。
【0013】
【作用】添加物にY23の代わりにSc23を用いたジ
ルコニア(1−x−y)ZrO2−xSc23−yAl2
3 (0.070≦x+y≦0.160かつ0.005
≦y≦0.020)は、(1−x)ZrO2−xY23
(0.03≦x≦0.12)と同じく酸素イオン輸率が
100%であり、保護層として使用するのに適してい
る。ここで、Al23やYb23等の第二添加物は、
(1−x)ZrO2−xSc23(0.05<x<0.
20)が示す立方晶と菱面体晶との間の相変化を抑える
ために必要である。この相変化は体積変化を伴うために
相変化温度域における急激な応力変化を生じる。セルの
運転、休止に伴う昇温、降温時にセルの破損等を引き起
こす可能性がある。
【0014】スカンジナ添加ジルコニアは、特に800
℃程度の低温で従来材のY23安定化ZrO2に比べ高
いイオン伝導度を示す。このため、セリア系電解質の保
護膜として使用した場合、電流の集中する保護膜内での
電圧降下を低く抑えることができる。これにより電解質
内全体の電圧降下が小さくなり、固体電解質内の発電損
失の改善を行うことができる。
【0015】また、Sc23は非常に高価であるが、こ
のように保護層として少量だけ使用する場合は製造コス
トには、あまり影響を及ぼさない。
【0016】
【実施例】以下に本発明の実施例を説明する。なお、当
然のことであるが本発明は以下の実施例に限定されるも
のではない。
【0017】
【実施例1】図1、図2は本発明の材料を用いた単セル
の固体燃料電池の構成例を示す図である。本実施例の電
池構成において、1は固体電解質、2は酸素電極、3は
燃料電極、4は集電用の白金メッシュ(16mmφ)、
5はリフェランス極(白金ペースト)である。酸素電極
としてはLa0.8Sr0.2MnO3を、燃料電極にはNi
−(0.92ZrO2−0.08Y23)サーメットを
用いた(燃料電極は酸素電極と同じ面積で前記燃料電極
の裏側に焼き付けてある:図1参照)。セルの有効面積
は、電極の面積に等しく約2cm2である。単セルの作
成方法は次のとおりである。
【0018】まず、組成が0.90CeO2−0.10
Gd23の微粉末を通常の固相反応により合成し、ドク
ターブレード法によりセラミックス薄膜を形成し160
0℃で焼き上げる。約100ミクロンに焼成されたこの
板は、固体電解質Eのうち支持層(セリア系固体電解質
1)にあたる部分である。次にr.fスパッタリング法
によりこの板の片面に組成が0.88ZrO2−0.1
15Sc23−0.005Al23、層厚が0.10か
ら30ミクロンの保護層10を設けた。そして約200
ミクロン厚の燃料電極Ni−YSZおよび酸素電極La
0.8Sr0.2MnO3を片面ずつ上記の固体電解質板の上
に焼き付けた。焼き付け温度は、燃料電極、酸素電極そ
れぞれ1400℃、1100℃とした。
【0019】本実施例の効果を図3の測定例で示す。こ
れは、上記の要領で作られた”セル#6”について80
0℃で測定した単セルの電流(電流密度)−電圧特性で
ある。比較のために、保護層だけを従来用いられている
0.90ZrO2−0.10Y23に替えた電解質を用
いた”セル#2”も同じ条件で測定した。これも図3に
示してある。ここで燃料電極、酸素電極にはそれぞれH
2、O2ガスを用いている。図から明らかなように、本実
施例は従来例より良好な電池特性すなわち電池−電圧特
性が得られた。スカンジナを添加した保護層を用いたセ
ル(#4−#15)は、その保護層厚が等しい従来材料
を用いたセル(#0−#3)に比べ、その電池特性はす
べて従来例より良好であった。これらを表2に示す。表
3は、保護層10ミクロンに固定した場合であるが、請
求範囲の組成範囲であれば、従来材料を使用したセル#
2に比べ電流値において良好な結果が得られた。
【0020】ここで、セリア層は、請求範囲の組成であ
ればほぼ同様の結果が得られる。
【0021】表2 実施例1に示した構成の電解質を用いた場合の単セル特
性。保護層の厚みを変化させた。 表2続き *セルの出力電圧が0.2Vの時の電流値(800℃において測定)。
【0022】表3 実施例1の”セル#6”の構成の電解質を用いた場合の
単セル特性。保護層の組成だけを変化させた。 *セルの出力電圧が0.2Vの時の電流値(800℃において測定)。
【0023】
【実施例2】実施例1と同様の構成でかつ保護層の組成
においてAl23の代わりにLu23、Yb23、Er
23、Ho23、Y23を添加したセルを作りその電流
電圧特性を測定した。表4に示すように、いずれも従来
の”セル#2”よりも良好な特性が得られた。
【0024】表4 実施例1の”セル#6”の構成の電解質を用いた場合の
単セル出力電流特性。保護層の組成だけを変化させた。 表4続き *セルの出力電圧が0.2Vの時の電流値(800℃において測定)。
【0025】
【実施例3】実施例1と同様の構成でかつ保護層の組成
においてAl23の代わりにDy23、Tb23、Gd
23、Eu23を添加したセルを作りその電流電圧特性
を測定した。表5に示すように、いずれも従来の”セル
#2”よりも良好な特性が得られた。
【0026】表5 実施例1の”セル#6”の構成の電解質を用いた場合の
単セル出力電流特性。保護層の組成だけを変化させた。 表5続き *セルの出力電圧が0.2Vの時の電流値(800℃において測定)。
【0027】
【実施例4】実施例1と同様の構成でかつ保護層の組成
においてAl23の代わりにSm23、Nd23、Pr
23、Ce24、La23を添加したセルを作りその電
流電圧特性を測定した。表6に示すように、いずれも従
来の”セル#2”よりも良好な特性が得られた。
【0028】表6 実施例1の”セル#6”の構成の電解質を用いた場合の
単セル出力電流特性。保護層の組成だけを変化させた。 表6続き 表6続き *セルの出力電圧が0.2Vの時の電流値(800℃において測定)。
【0029】
【発明の効果】以上説明したように、セリア系材料を電
解質の主な構成材とし、燃料電極側表面にのみ薄く請求
範囲に示した組成の保護層を設けることにより材料コス
トの上昇をほとんど伴わずに固体電解質内の発電損失の
改善を行うことに成功した。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電解質の構成図。
【図2】単セルの構成模式図。
【図3】”セル#2”、および”セル#6”の電流−電
圧特性図。
【図4】三相界面において行われている電気化学的反応
過程の模式図。
【図5】電解質内のイオン電流分布の模式図。
【符号の説明】
1 セリア系固体電解質 10 保護膜 2 酸素電極 3 燃料電極 4 集電用の白金メッシュ E 固体電解質

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】希土類元素を添加したセリア系酸素イオン
    伝導体(1−x)CeO2−xD23 (D=Nd,S
    m,Gd,Tb,Dy,Ho)の燃料電極側に、スカン
    ジウムを含むジルコニア酸化物からなる保護層を薄く設
    けた構造の固体電解質において、保護層の組成が(1−
    x−y)ZrO2−xSc23−yAl230.07
    0≦x+y≦0.160かつ0.005≦y≦0.0
    2)であることを特徴とする保護層付きセリア系固体電
    解質。
  2. 【請求項2】希土類元素を添加したセリア系酸素イオン
    伝導体(1−x)CeO 2 −xD 2 3 (D=Nd,S
    m,Gd,Tb,Dy,Ho)の燃料電極側に、スカン
    ジウムを含むジルコニア酸化物からなる保護層を薄く設
    けた構造の固体電解質において、保護層に(1−x−
    y)ZrO 2 −xSc 2 3 −yA 2 3 (A=Y,Lu,
    Yb,Er,Ho)で、かつ(0.060<x+y<
    0.220かつ0.015<y≦0.060)なる組成
    を有するイオン伝導体を用いることを特徴とする保護層
    付きセリア系固体電解質。
  3. 【請求項3】希土類元素を添加したセリア系酸素イオン
    伝導体(1−x)CeO 2 −xD 2 3 (D=Nd,S
    m,Gd,Tb,Dy,Ho)の燃料電極側に、スカン
    ジウムを含むジルコニア酸化物からなる保護層を薄く設
    けた構造の固体電解質において、保護層に(1−x−
    y)ZrO2−xSc23yA 2 3 (A=Dy,T
    b,Gd,Eu)で、かつ(0.060<x+y<0.
    160かつ0.010≦y≦0.020)なる組成を有
    するイオン伝導体を用いることを特徴とする保護層付き
    セリア系固体電解質。
  4. 【請求項4】希土類元素を添加したセリア系酸素イオン
    伝導体(1−x)CeO 2 −xD 2 3 (D=Nd,S
    m,Gd,Tb,Dy,Ho)の燃料電極側に、スカン
    ジウムを含むジルコニア酸化物からなる保護層を薄く設
    けた構造の固体電解質において、保護層に(1−x−
    y)ZrO2−xSc23−y 2 3 (A=Sm,N
    d,Pr,La,Ce)で、かつ(0.060<x+y
    <0.160かつ0.005≦y≦0.010)なる組
    成を有するイオン伝導体を用いることを特徴とする保護
    層付きセリア系固体電解質。
  5. 【請求項5】請求項1から4記載の保護層付きセリア系
    固体電解質において、保護層の層厚が0.05ミクロン
    から50ミクロンであることを特徴とする保護層付きセ
    リア系固体電解質。
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