JP3217259B2 - 高電流密度錫めっき用光沢剤及び高電流密度電解特性に優れた錫めっき浴 - Google Patents
高電流密度錫めっき用光沢剤及び高電流密度電解特性に優れた錫めっき浴Info
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Description
光沢剤、より詳細には連続して移動する鋼板に電気錫め
っきを施すための酸性錫めっき浴用の光沢剤及びこの光
沢剤が添加された錫めっき浴に関する。
に電気錫めっきを施すための錫めっき浴には主として有
機酸浴が用いられており、その中でも特に、有機酸とし
てPSA(フェノールスルホン酸)を、また光沢剤とし
てENSA(エトキシナフトールスルホン酸)等の芳香
族スルホン酸を使用したフェロスタン浴が広く用いられ
ている。しかし、フェロスタン浴は電解条件が適正範囲
を外れるとリフロー処理(錫溶融加熱)後に錫系缶用材
料に要求される表面光沢や適正な耐食性等が得られない
という問題がある。このためフェロスタン浴の操業領域
は、ライン速度200〜400m/分でも電解条件が約
20〜30A/dm2程度の範囲に限られ、操業面での
制約が多く生産性が低いという問題がある。また、フェ
ロスタン浴は一定の錫めっき付着量を得るために多くの
電解槽を必要とするため、設備コストの面でも不利であ
る。また、近年ではフェノールの環境面への悪影響も問
題視されるようになりつつある。
解決すべく、鋼板の連続電気錫めっきプロセスに関して
様々な浴系が提案されてきた。その中で、アルカンスル
ホン酸のひとつであるMSA(メタンスルホン酸)をベ
ースとする浴は、PSAベースのフェロスタン浴に較べ
て電解電導度が低いため高電流密度電解に適し、また環
境面への悪影響も小さいことから、フェロスタン浴に代
わる鋼板の連続電気錫めっき浴として注目されている。
の性能は、ベースとなる有機酸種以外にこれと組み合わ
せて使用される添加剤の影響を大きく受ける。このため
MSA(メタンスルホン酸)をベースとする浴について
も、従来から数多くの添加剤が提案されている。しか
し、これらの添加剤の大部分は電子部品の半田めっきや
光沢めっき等の錫−鉛合金めっきに使用されるものであ
り、一方、鋼板の連続電解錫めっきプロセスに用いる無
光沢めっき用の添加剤についての提案は少なく、従来、
以下のような提案がなされているに過ぎない。
8595号では鋼板の連続電気錫めっきプロセスに用い
る添加剤として、芳香族系炭化水素のアルキレンオキシ
ド縮合化合物、または少なくとも1つのヒドロキシ基と
20以下の炭素元素を有する脂肪族化合物であって20
モル以下のオキシドを含むアルキレンオキシド縮合化合
物が開示されている。この提案では添加剤の性能につい
て、ハルセルによる2アンペア、低流動環境での電気め
っき後の外観、浴液の曇点、発泡性について評価を行っ
ている。しかし、同提案には曇点以外の評価については
定量的な記述がなく、高速高電流密度操業における定量
的な適性は不明である。
の連続電気錫めっきプロセスに用いる添加剤として、α
−ナフトールに20モル以下のエチレンオキシドおよび
プロピレンオキシドを付加しスルホン化した化合物が開
示されている。この添加剤の使用は高速高電流密度での
操業を意図したものであり、50A/dm2、高流動環
境での電気めっき後の均一電着性、添加剤溶解性、発泡
性について評価を行っている。しかし、錫めっき後の重
要な品質であるめっき後外観についての評価は不明であ
る。
らはアルカンスルホン酸をベースとする錫めっき浴にお
いて利用できる、めっき電流密度の幅が広く且つ上限電
流密度も高くなるような光沢剤について調査、検討を行
った。光沢剤の性能評価は、光沢剤以外の基本浴組成お
よびめっき電流密度以外のめっき条件を一定にした条件
で浴調製およびめっきを行い、電解特性および得られた
めっき鋼板(めっき皮膜)の性能を評価することにより
行った。また、めっき鋼板の性能評価は主として、缶用
材料に用いられる錫めっき鋼板の重要な品質であるリフ
ロー処理後の光沢を中心に行った。しかし、実験室での
リフロー処理後の光沢は、リフロー処理時に使用するフ
ラックスの種類・量や試験材の濡れ性およびリフロー処
理の加熱パターンの影響を受けるため再現性が悪く、精
度のよい定量的な評価は難しいことが判明した。
錫めっき浴では、めっき電流密度の増加に対するめっき
皮膜の形態変化が既存のフェロスタン浴とは異なり、電
流密度の増加につれて、サブミクロンの微細で緻密な結
晶から直径1μm以上の粗粒の結晶を経てデンドライト
へと緩やかに変化した。また、フェロスタン浴では見ら
れない粗粒の結晶形態はめっき浴組成や使用する光沢剤
の種類に応じて変化し、リフロー処理後の光沢が得られ
るものと得られないものがあることが判明したが、リフ
ロー処理前のめっき皮膜の形態からリフロー処理後の光
沢を評価することはできなかった。また、めっき電流密
度に対する電解挙動の変化やリフロー処理前の光沢の変
化は、粗粒の結晶形態の変化やリフロー処理後の光沢と
も一致しなかった。このようにアルカンスルホン酸をベ
ースとする錫めっき浴は、リフロー処理後の光沢を含め
た浴性能の精度よい評価法がないため光沢剤性能の相対
評価が難しく、このため高電流密度電解特性に優れた錫
めっき浴用の光沢剤を開発、選定することが難しいとい
う大きな問題があった。
ルカンスルホン酸をベースとする錫めっき浴の高電流密
度電解特性の改善を目的としためっき浴用の光沢剤の選
定を行うために、リフロー処理後の光沢を含めためっき
浴性能の精度よい評価法を確立すべく検討を行った。そ
の結果、リフロー処理前のめっき皮膜の結晶配向によっ
てリフロー処理後の光沢性能を精度よく評価できること
を見い出した。
アルカンスルホン酸をベースとする錫めっき浴では、め
っき電流密度の増加に伴い下記(3)式で示されるめっき
皮膜の(101)配向強度が増大し、ピークを示した後
低下することが判明した。ピークを示した後の(10
1)配向強度の低下は、めっき皮膜のデンドライトへの
変化の影響を示しており、(101)配向強度の低下に
伴いリフロー処理後の光沢や耐食性等の性能が劣化する
ことが判った。この傾向は、アルカンスルホン酸ベース
であれば浴組成や光沢剤成分が異なっても変わらなかっ
た。また、下記(5)式で示されるめっき皮膜の(20
0)配向強度は、めっき電流密度に対して(101)配
向強度の変化とほぼ相反する変化を示すことが判った。
そして、めっき電流密度に対する(101)配向強度の
変化に差がない場合においても、めっき電流密度に対す
る(200)配向強度の変化に差がある場合、その(2
00)配向強度の極小値が大きいものの方が、より微細
で緻密な結晶が得られることが判った。
度電解特性を以下に示す方法で評価し、光沢剤の選定を
行った。めっき電流密度30〜200A/dm2の範囲
において略5〜20A/dm2間隔でめっき電流値を変
え、同一の錫めっき浴において異なる電流密度でめっき
を行って9〜15水準のめっき皮膜を調製し、得られた
各めっき皮膜についてXRD測定によるピークサーチを
行った。そして、β錫に関する(101)ピーク強度
(下記(1)式)と全ピーク強度(下記(2)式)から下記
(3)式に基づき各めっき皮膜の(101)配合強度を各
々求め、(101)配向強度を縦軸、めっき電流密度を
横軸として、同一の錫めっき浴についてめっき皮膜の
(101)配向強度とそのめっき皮膜調製時のめっき電
流密度との関係を示す曲線、つまりめっき電流密度の増
加に対するめっき皮膜の(101)配向強度変化を示す
曲線を得た。そして、この曲線が(101)配向強度の
極大値ITを示すめっき電流密度の値をTとし、このT
値をめっき浴の高電流密度電解特性の第1の評価指標と
した。すなわち、このT値が高い程、めっき浴の上限電
流密度が高く、高電流密度電解特性が優れていることを
示している。図1はこのT値の概念を模式的に示したも
のである。
場合、めっき電流密度に対するめっき皮膜の(101)
配向強度変化を示す前記曲線において、この曲線の前記
極大値ITの90%に相当する(101)配向強度0.
9ITを示す高電流密度側のめっき電流密度の値をKと
し、このK値をめっき浴の高電流密度電解特性の第2の
評価指標とした。すなわち、前記T値が同じ場合でもこ
のK値が高い程、前記(101)配向強度変化を示す曲
線のピークを示した以降の低下が緩やかであることを意
味しており、したがってめっき浴の上限電流密度が高
く、高電流密度電解特性が優れていることを示してい
る。図2はこのK値の概念を模式的に示したものであ
る。
びK値が同一の場合には、前記ピークサーチの結果得ら
れたβ錫に関する(200)ピーク強度(下記(4)式)
と全ピーク強度(下記(2)式)から下記(5)式に基づき各
めっき皮膜の(200)配向強度を各々求め、(20
0)配合強度を縦軸、めっき電流密度を横軸として、同
一の錫めっき浴についてめっき皮膜の(200)配合強
度とそのめっき皮膜調整時のめっき電流密度との関係を
示す曲線、つまりめっき電流密度の増加に対するめっき
皮膜の(200)配合強度変化を示す曲線を得た。そし
て、この曲線の(200)配向強度の極小値IMをめっ
き浴の高電流密度電解特性の第3の評価指標とした。す
なわち、前記T値、K値が同じ場合でもこのIM値が高
い程、より微細で緻密な結晶が得られ、したがって高電
流密度電解特性が優れていることを示している。図3は
このIM値の概念を模式的に示したものである。
IM値の測定例(実例)を示したものである。 Iobs(101):X線回折に基づくめっき皮膜のβ錫の(101)ピーク強度 …(1)式 ΣIobs:X線回折に基づくめっき皮膜のβ錫に関する全ピーク強度 …(2)式 100×Iobs(101)/ΣIobs:めっき皮膜の(101)配向強度 …(3)式 I obs(200):X線回折に基づくめっき皮膜のβ錫の(200)ピーク強度 …(4)式 10 0×Iobs(200)/Σiobs:めっき皮膜の(200)配向強度 …(5)式
用材料の代表品種のぶりきは、いずれも現行ぶりきと同
等の良好な耐食性を示した。上記評価法により、種々の
成分をアルカンスルホン酸をベースとする錫めっき浴中
に光沢剤として添加し、それらの高電流密度電解性能を
評価した。その結果、芳香族系の光沢剤に較べて脂肪族
系の光沢剤が優れた高電流密度電解特性を示した。ま
た、脂肪族系の添加剤の中でもポリオキシエチレングリ
コールにオキシプロピレンを付加した光沢剤が特に優れ
た高電流密度電解特性を示した。さらに詳細な調査を行
ったところ、ポリオキシエチレングリコールにオキシプ
ロピレンを付加した光沢剤の分子量によって、めっき浴
の高電流密度電解特性が影響されることが判明した。
オキシプロピレンを付加した平均分子量が3000〜1
8000の光沢剤成分(A)と、ポリオキシエチレングリ
コールにオキシプロピレンを付加した平均分子量が30
0〜1500の光沢剤成分(B)とを特定の割合で配合し
た光沢剤を用いることにより、めっき浴の使用可能な上
限電流密度を効果的に高めることができ、このような光
沢剤の使用によって、ポリオキシエチレングリコールに
オキシプロピレンを付加した単一の光沢剤を使用した場
合に較べて高電流密度電解特性が1.5倍程度改善され
ることが判明した。本発明は、以上述べたような浴性能
の評価方法の確立とこれによって得られた知見に基づき
なされたもので、その特徴とする構成は以下の通りであ
る。
を施すための酸性錫めっき浴用の光沢剤において、ポリ
オキシエチレングリコールにオキシプロピレンを付加し
た平均分子量が3000〜18000の光沢剤成分(A)
と、ポリオキシエチレングリコールにオキシプロピレン
を付加した平均分子量が300〜1500の光沢剤成分
(B)とを、光沢剤成分(A)/光沢剤成分(B)の重量比で
97/3〜40/60の割合で配合したことを特徴とす
る高電流密度錫めっき用光沢剤。 [2] 上記[1]の錫めっき用光沢剤において、光沢剤成分
(A)の[エチレンオキシドのモル数]/[プロピレンオ
キシドのモル数]の比が1〜14であり、光沢剤成分
(B)の[エチレンオキシドのモル数]/[プロピレンオ
キシドのモル数]の比が0.4〜3であることを特徴と
する高電流密度錫めっき浴用光沢剤。
を施すための酸性錫めっき浴において、アルカンスルホ
ン酸及びアルカノールスルホン酸からなる群の中から選
ばれる有機スルホン酸の少なくとも1種を使用し、この
有機スルホン酸の2価の錫塩と、酸化防止剤および光沢
剤を基本成分として含む錫めっき浴であって、前記光沢
剤として上記[1]に記載の光沢剤を0.2〜20g/l
含むことを特徴とする高電流密度電解特性に優れた錫め
っき浴。 [4] 上記[3]の錫めっき浴において、光沢剤を構成する
光沢剤成分(A)の[エチレンオキシドのモル数]/[プ
ロピレンオキシドのモル数]の比が1〜14であり、光
沢剤成分(B)の[エチレンオキシドのモル数]/[プロ
ピレンオキシドのモル数]の比が0.4〜3であること
を特徴とする高電流密度電解特性に優れた錫めっき浴。
説明する。本発明の光沢剤の一方の構成成分である、ポ
リオキシエチレングリコールにオキシプロピレンを付加
した平均分子量が3000〜18000の光沢剤成分
(A)は、下記一般式Aで表わされる。
18000超では、下記する光沢剤成分(B)と混合して
も高電流密度電解特性の改善効果が十分に得られない。
ル数]/[プロピレンオキシドのモル数]の比、すなわ
ち、上記一般式Aのaとbで示されるモル数の比率a/
bは1〜14とすることが望ましい。a/bが14超で
は、めっき浴が著しく発泡するため流動浴でのめっきが
困難となる。一方、a/bが1未満ではめっき浴の曇点
が低下し、通常のめっき浴使用温度である40℃付近で
の浴劣化が著しくなる。また、特にa/bは2.5〜9
の範囲が最も良好な性能を示す。
ポリオキシエチレングリコールにオキシプロピレンを付
加した平均分子量が300〜1500の光沢剤成分(B)
は、下記一般式Bで表わされる。
れる錫めっき皮膜が良好な光沢性を示さず、また、ピン
ホールの多いめっき皮膜となる。一方、平均分子量が1
500超では前記光沢剤成分(A)と混合しても高電流密
度電解特性の相乗的な改善効果が十分に得られない。
ル数]/[プロピレンオキシドのモル数]の比、すなわ
ち上記一般式Bのaとbで示されるモル数の比率a/b
は0.4〜3とすることが望ましい。a/bが3超で
は、めっき浴が著しく発泡するため流動浴でのめっきが
困難となる。一方、0.4未満ではめっき浴の曇点が低
下し、通常のめっき浴使用温度である40℃付近での浴
劣化が著しくなる。また、特にa/bは1.0〜1.5
の範囲が最も良好な性能を示す。前記光沢剤成分(A),
(B)の配合割合は、光沢剤成分(A)/光沢剤成分(B)の
重量比で97/3〜40/60の範囲とする。(A)/
(B)の重量比が97/3を超えても、また40/60未
満でも高分子量の光沢剤成分(A)と低分子量の光沢剤成
分(B)を複合添加することによる高電流密度電解特性の
向上効果は得られない。また、特に優れた高電流密度電
解特性を得るためには、(A)/(B)の重量比を66/3
4〜50/50とすることが好ましい。
錫めっき浴は、アルカンスルホン酸及びアルカノールス
ルホン酸からなる群の中から選ばれる有機スルホン酸の
少なくとも1種を使用し、この有機スルホン酸の2価の
錫塩と、酸化防止剤及び上記光沢剤を基本成分として含
む浴組成を有する。めっき浴のベース成分として上記の
特定の有機スルホン酸を用いるのは、これらの成分は電
解電導度が低いため高電流密度電解に適し、またフェロ
スタン浴に較べて環境面での悪影響も少ないからであ
る。また、有機スルホン酸としては、アルカンスルホン
酸の1つであるMSA(メタンスルホン酸)が最も好ま
しい。
0.2〜20g/lの範囲とすることが望ましい。添加
量が0.2g/l未満ではめっき皮膜の良好な光沢性が
得られず、一方、20g/lを超えて添加しても効果が
飽和し、却って経済性を損う結果となる。また、酸化防
止剤としては、水酸化フェノール等を用いることができ
る。なお、めっきに際して使用する電極は不溶性電極ま
たは可溶性電極のいずれでもよく、いずれを用いても良
好な結果が得られる。
浴性能評価の適否を検討した試験例を示し、次にこの結
晶配向によるめっき浴性能評価を用いた具体的実施例を
示す。 [めっき試験材の調製条件・めっき浴性能等の評価項
目] 本実施例で使用した各種光沢剤の性能は、その光沢剤を
用いためっき浴で調製されためっき皮膜の性能に基づく
めっき浴の高電流密度電解特性から評価した。光沢剤を
評価するためのめっき浴は、有機スルホン酸としてメタ
ンスルホン酸を使用し、メタンスルホン酸の2価の錫塩
と、酸化防止剤(水酸化フェノール)及び上記光沢剤を
基本成分としたものを用いた。
板厚0.22mmの冷延鋼板を電解アルカリ脱脂、水
洗、電解酸洗、水洗後、各種光沢剤を用いた錫めっき浴
を用いて電気錫めっきした。前処理は缶用鋼板の電気錫
めっきラインの処理条件に準じた条件で行った。錫めっ
きは、各めっき浴について流動型の電解セルを使用し、
流速2m/sec、浴温45℃、電流密度30〜200
A/dm2で錫付着量または電解時間を制御しながら行
った。錫付着量は、缶用材料で主に使用される薄めっき
ぶりき〜♯50ぶりき(錫付着量:0.5〜5.6g/
m2)の範囲とした。
評価項目5及び評価項目9の試験に供する試験材につい
てのみリフロー処理を施した。リフロー処理は、試験材
をフラックスに浸漬後、通電加熱して錫溶融直後に水焼
入れすることにより行った。フラックスとしては、試験
材の調製に用いためっき浴に使用された有機酸を1〜1
0g/l含む水溶液を用いた。通電加熱は1.5秒と
し、合金層量が実ライン製造材とほぼ同等となるよう通
電電流値を調整した。めっき浴の高電流密度電解特性を
評価するため、得られた試験材について以下の(1)〜
(5)の評価を行った。
5〜20A/dm2間隔でめっき電流値を変え、同一の
錫めっき浴により異なるめっき電流密度で9〜15水準
のめっき皮膜を調製し、得られためっき皮膜についてX
RD測定によるピークサーチを行った。このXRD測定
はCuターゲットを用い、2θで20°〜90°、回転
速度8°/分で測定を実施した。そして、β錫に関する
(101)ピーク強度(上記(1)式)と全ピーク強度
(上記(2)式)から上記(3)式に基づき(101)配向強
度を各々求め、(101)配向強度を縦軸、めっき電流
密度を横軸として、同一の錫めっき浴についてめっき皮
膜の(101)配向強度とそのめっき皮膜調製時のめっ
き電流密度との関係を示す曲線、つまりめっき電流密度
の増加に対するめっき皮膜の(101)配向強度変化を
示す曲線を得た。そして、この曲線が(101)配向強
度の極大値ITを示すめっき電流密度の値をTとし、こ
のT値をめっき浴の高電流密度電解特性の第1の評価指
標とした(図1参照)。すなわち、このT値が高い程、
めっき浴の上限電流密度が高く、高電流密度電解特性が
優れていることを示している。
度に対するめっき皮膜の(101)配向強度変化を示す
前記曲線において、この曲線の前記極大値ITの90%
に相当する(101)配向強度0.9ITを示す高電流
密度側のめっき電流密度の値をKとし、このK値をめっ
き浴の高電流密度電解特性の第2の評価指標とした(図
2参照)。すなわち、前記T値が同じ場合でもこのK値
が高い程、前記(101)配向強度変化を示す曲線のピ
ークを示した以降の低下が緩やかであることを意味し、
したがってめっき浴の上限電流密度が高く、高電流密度
電解特性が優れていることを示している。
場合、前記ピークサーチの結果得られたβ錫に関する
(200)ピーク強度(上記(4)式)と全ピーク強度
(上記(2)式)から上記(5)式に基づき各めっき皮膜の
(200)配向強度を各々求め、(200)配向強度を
縦軸、めっき電流密度を横軸として、同一の錫めっき浴
についてめっき皮膜の(200)配合強度とそのめっき
皮膜調整時のめっき電流密度との関係を示す曲線、つま
りめっき電流密度の増加に対するめっき皮膜の(20
0)配合強度変化を示す曲線を得た。そして、この曲線
の(200)配向強度の極小値IMを、めっき浴の高電
流密度電解特性の第3の評価指標とした(図3参照)。
すなわち、前記T値、K値が同じ場合でもこのIM値が
高い程、より微細で緻密な結晶が得られ、したがって高
電流密度電解特性が優れていることを示している。
する方法として提唱しているIEV試験を行って評価し
た。pH10の炭酸緩衝溶液中で試験材を作用極として
+1.2VvsSCEの定電位電解を行い、2分後の1
cm2当りの電流値をIEVとした。この値が大きいほ
ど錫被覆度は劣り、IEV:0.3mA/cm2以下を
良好(○)、0.3mA/cm2超を不可(×)とし
た。 (5)評価項目5:ATC試験 ぶりきの合金層の品質(耐食性)についての試験法であ
り、実缶での耐食性データとの相関が確認されているこ
とから、缶用材料の分野では一般的に行われている試験
法である。この試験はリフロー処理後の試験材を対象と
し、錫鉄合金層を残して表層の錫を剥離した試験材を、
脱気した25℃のグレープフルーツジュースの環境で金
属錫とカップリングし、電流値(μA/cm2)を測定
した。この試験では錫付着量5.6g/cm2のぶりき
でATC値が0.12μA/cm2以下であることが必
要とされ、この基準値以下のものを良好(○)、基準値
を超えるものを不可(×)とした。
(6)〜(8)の評価を行った。 (6)評価項目6:発泡性評価 20cm×20cm×60cmの透明樹脂容器を用い、
液面を容器上面から40cmの位置に一定に維持しなが
ら、流量1リットル/sec、流速2m/secでめっ
き液を循環させ、発生泡高さで評価した。発生泡高さが
40cmを超えると実操業に支障をきたすおそれがあ
り、このため発生泡高さが20cm未満を優(◎)、2
0cm以上40cm未満を良(○)、40cm超を可
(△)とした。
後に錫付着量をJISG 3303により測定し、錫め
っき時の電流効率を求めた。電流効率80%以上を良
(○)、80%未満を不可(×)とした。 (8)評価項目8:曇点評価 300ccの透明ガラスビーカーにめっき液を採取し、
撹拌しながら2℃/分の速度で昇温して曇点を評価し
た。曇点が45℃未満では実操業での制約が大きくなる
ため、45℃以上を良(○)、45℃未満を可(△)と
した。
に関する比較として、得られた試験材について下記
(9)の評価を行った。 (9)評価項目9:リフロー処理後の試験材の光沢度に
基づく評価 30〜200A/dm2の電流密度でめっきした後、リ
フロー処理した試験材について表面SEM観察を行い、
リフロー処理残りがみられずグロスが800を超えるも
のを光沢性良好とした。試験材は同一条件で各5枚調製
し、5枚全ての試験材が光沢性良好となる最大電解電流
密度から5枚全ての試験材が光沢性不良となる最小電解
電流密度までの電流密度範囲をめっき浴の高電流密度電
解特性の評価基準とした。
を検討した試験例]めっき皮膜の結晶配向はめっき電流
密度以外に錫付着量の影響も受ける。このため結晶配向
による評価(評価項目1〜3)は、缶用材料で一般的に
使用される錫付着量0.5〜5.6g/m2の範囲で行
った。なお、めっき浴間の光沢上限電流密度の相対評価
については、錫付着量が0.5〜5.6g/m2の範囲
であれば付着量が異っても同様の評価が可能である。
用いた浴組成を表1に示す。これらの浴組成に使用した
光沢剤および酸化防止剤は、いずれも市販の半田めっき
(錫−鉛合金めっき)で使用されているものである。表
1に示しためっき浴に関する評価項目1〜5,9による
評価結果を表2に示す。同表の評価項目1〜3と評価項
目4、5、9を対比すると判るように、めっき皮膜の結
晶配向によるめっき浴の高電流密度電解特性の評価結果
は、リフロー処理後の光沢度に基づく評価結果や耐食性
等の評価結果と精度よい応対を示している。以上の結果
から、めっき皮膜の結晶配向による高電流密度電解特性
の評価が、光沢剤種およびめっき浴組成に拘りなく精度
よい評価結果を与えることが確認できた。
評価項目1〜8による評価結果を示す。本実施例では表
3に示す基本浴組成の錫めっき浴を用い、光沢剤として
はポリオキシエチレングリコールにオキシプロピレンを
付加した光沢剤を用いた。使用した光沢剤成分を含めた
各実施例の浴組成の詳細を表4〜表6に示す。また、各
実施例の評価結果を表7および表8に示す。
比較すると判るように、めっき浴の錫濃度が等しい場
合、本発明の光沢剤を添加しためっき浴は評価項目1に
よる上限電流密度の指標値(T値)が60以上であり、
表2に示す既存のめっき浴と比較して上限電流密度が高
い値を示している。比較例4は光沢剤成分(A)と光沢剤
成分(B)の各々の平均分子量が本発明の上限を超えた比
較例であり、この比較例は評価項目1による上限電流密
度の指標値(T値)が低く、錫めっき皮膜の光沢性が劣
る。
(B)の各々の平均分子量が本発明の下限未満の比較例で
あり、この比較例も本発明例に較べて評価項目1による
上限電流密度の指標値(T値)が低く、光沢効果及び錫
被覆性が劣る。比較例6及び比較例7は光沢剤成分(A)
と光沢剤成分(B)の配合比(重量比)が本発明範囲から
外れた比較例であり、いずれも高分子量の光沢剤成分と
低分子量の光沢剤成分の複合添加による高電流密度電解
特性の向上効果が得られず、このため評価項目1による
上限電流密度の指標値(T値)が低く、錫めっき皮膜の
光沢性が劣る。
剤として高分子量の光沢剤成分(A)または低分子量の
光沢剤成分(B)のみを単独添加した比較例であり、い
ずれも高分子量の光沢剤成分と低分子量の光沢剤成分の
複合添加による高電流密度電解特性の向上効果が得られ
ず、このため評価項目1による上限電流密度の指標値
(T値)が低く、錫めっき皮膜の光沢性が劣る。比較例
3は光沢剤の合計添加量(光沢剤成分(A)+光沢剤成
分(B))が本発明の下限未満の比較例であり、評価項
目1による上限電流密度の指標値(T値)は表2の組成
4、5に示される既存のめっき浴と同程度のレベルしか
得られていない。
目1による上限電流密度の指標値(T値)が高く、高電
流密度電解特性が優れていることが判る。また、本発明
では各光沢剤成分の[エチレンオキシドのモル数]/
[プロピレンオキシドのモル数]の比を、光沢剤成分
(A)については1〜14、光沢剤成分(B)について
は0.4〜3とすることが好ましいが、本発明例12、
13はこのモル数の比が上記の好ましい範囲から外れた
実施例であり、これらは本発明例4、本発明例5と比較
してめっき浴の発泡性または曇点が劣り、光沢効果は得
られるもののめっき浴として使用し難しいことが判る。
また、本発明例4、8と本発明例10を比較すると判る
ように、発泡性及び曇点の評価に関して光沢剤成分
(B)の上記モル数の比は1.0〜1.5の範囲が最も
好ましい。また、本発明例1、3、9、10、11に示
されるように、光沢剤成分(A)/光沢剤成分(B)の配合
比は66/34〜50/50の範囲が最も好ましい。ま
た、光沢剤成分(A)の上記モル数の比についても、本発
明例4、8と本発明例10を比較すると判るように2.
5〜9の範囲が最も好ましい。
びこれを用い錫めっき浴によれば、特定の有機スルホン
酸をベースとする酸性錫めっき浴の高電流密度電解特性
を、従来のめっき浴に較べて1.5倍程度改善すること
ができ、このため錫めっきの操業性を従来に較べて大幅
に向上させることができ、まためっきライン建設時の設
備コストを低減化できる効果もある。
指標であるT値の概念を示す模式図
指標であるK値の概念を示す模式図
指標であるIM値の概念を示す模式図
フ
ラフ
Claims (4)
- 【請求項1】 連続して移動する鋼板に電気錫めっきを
施すための酸性錫めっき浴用の光沢剤において、ポリオ
キシエチレングリコールにオキシプロピレンを付加した
平均分子量が3000〜18000の光沢剤成分(A)
と、ポリオキシエチレングリコールにオキシプロピレン
を付加した平均分子量が300〜1500の光沢剤成分
(B)とを、光沢剤成分(A)/光沢剤成分(B)の重量比で
97/3〜40/60の割合で配合したことを特徴とす
る高電流密度錫めっき用光沢剤。 - 【請求項2】 光沢剤成分(A)の[エチレンオキシドの
モル数]/[プロピレンオキシドのモル数]の比が1〜
14であり、光沢剤成分(B)の[エチレンオキシドのモ
ル数]/[プロピレンオキシドのモル数]の比が0.4
〜3であることを特徴とする請求項1に記載の高電流密
度錫めっき浴用光沢剤。 - 【請求項3】 連続して移動する鋼板に電気錫めっきを
施すための酸性錫めっき浴において、アルカンスルホン
酸及びアルカノールスルホン酸からなる群の中から選ば
れる有機スルホン酸の少なくとも1種を使用し、この有
機スルホン酸の2価の錫塩と、酸化防止剤および光沢剤
を基本成分として含む錫めっき浴であって、前記光沢剤
として請求項1に記載の光沢剤を0.2〜20g/l含
むことを特徴とする高電流密度電解特性に優れた錫めっ
き浴。 - 【請求項4】 光沢剤を構成する光沢剤成分(A)の[エ
チレンオキシドのモル数]/[プロピレンオキシドのモ
ル数]の比が1〜14であり、光沢剤成分(B)の[エチ
レンオキシドのモル数]/[プロピレンオキシドのモル
数]の比が0.4〜3であることを特徴とする請求項3
に記載の高電流密度電解特性に優れた錫めっき浴。
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