JP3195199B2 - 回転陽極型x線管の製造方法 - Google Patents

回転陽極型x線管の製造方法

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JP3195199B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、陽極ターゲットが回転
する回転陽極型X線管の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】回転陽極型X線管は、陽極ターゲットが
一端に固定される回転体、および回転体が回転できるよ
うに支持する固定体などから構成されている。なお、陽
極ターゲットや回転体、固定体などは1つの真空容器内
に収納されている。そして動作状態では、真空容器外に
配置されたステータの電磁コイルの働きで陽極ターゲッ
トを高速で回転させ、これと同時に陰極から放出した電
子ビームを回転する陽極ターゲットに当てX線を放出す
る構成になっている。
【0003】上記した構造の回転陽極型X線管では、回
転体と固定体間の軸受部には、ボールベアリングのよう
なころがり軸受や、軸受面にらせん溝を形成する動圧式
のすべり軸受が使用される。なお、すべり軸受を利用し
た回転陽極型X線管は、特公昭60−21463号、特
開昭60−97536号、特開昭60−117531
号、あるいは特開昭62−287555号の各公報に開
示されている。また、すべり軸受の場合、ガリウム(G
a)単独、あるいはガリウムやインジウム(In)、錫
(Sn)、その他の金属による合金のように、動作中に
液状となる液体金属潤滑剤が用いられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】動圧式のすべり軸受を
利用する回転陽極型X線管は、回転体や固定体の軸受面
にらせん溝が形成される。そして、回転体の面と固定体
の面の間に、例えば20μm程度のわずかな隙間を持た
せ、両者の隙間に液体金属潤滑剤が充填される。ところ
で、液体金属潤滑剤の充填は、例えば、回転体の空間部
に液体金属潤滑剤を注入した後、回転体や固定体の軸受
部を加熱し、その後、回転体の空間に固定体を挿入し、
液体金属潤滑剤を軸受部に充填せせるという手順で行わ
れる。このとき、回転体と固定体の隙間に空気が残って
いたり、あるいは構成部品から放出したガスが残ってい
たりすると、空気やガスの気泡によって、液体金属潤滑
剤が存在しない部分が局部的に発生することがある。ま
た、液体潤滑剤の一部が気泡と一緒に軸受面から外部に
吹き出ることもある。
【0005】このような現象が発生すると、長時間の安
定した軸受作用が得られなくなる。また、X線管内に飛
散した潤滑剤によって耐電圧性能が損なわれることもあ
る。また、軸受面と液体金属潤滑剤との濡れ性を良くす
るために、軸受面に液体金属潤滑剤との薄い反応層を形
成している。このとき、不均一な反応層ができたり、反
応が十分でない反応層ができたり、また20μm以上も
の反応し過ぎの反応層ができたりすることがある。この
ような場合も、液体金属潤滑剤が存在しない部分がで
き、長時間の安定した軸受作用が得られなくなる。
【0006】本発明は、上記した欠点を解決するもの
で、長時間の安定した軸受作用が得られる回転陽極型X
線管の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の回転陽極型X線
管の製造方法は、内部に空間が形成され、陽極ターゲッ
トが一端の底部外側に固定される有底円筒状の回転体
を、前記底部が下方になるように支持する第1の支持工
程と、前記回転体内部の空間に液体金属潤滑剤を注入す
る注入工程と、前記回転体の前記空間内にすべり軸受間
隙を保って挿入できる固定体を、前記回転体の上方に支
持する第2の支持工程と、前記回転体および前記固定体
を真空中で加熱する加熱工程と、前記回転体の内部空間
に前記固定体を挿入する挿入工程と、この挿入工程の
後、前記回転体または前記固定体の一方を上昇および下
降させる上下動工程とを有する。
【0008】また、回転体または固定体を回転させる回
転工程が設けられている。
【0009】また、回転体または固定体を回転させる方
向は両方向である。
【0010】
【0011】
【0012】
【作用】上記の構成によれば、回転体内部の空間に液体
金属潤滑剤を注入した後、回転体または固定体の一方を
上昇および下降させ、回転体の空間内面と固定体外面で
形成される軸受部を複数回摺動させている。この動き
で、液体金属潤滑剤が軸受部などに行き渡り、安定した
動圧形すべり軸受動作を維持できる。
【0013】また、回転体または固定体の一方を回転さ
せている。この回転によって、回転体と固定体の軸受部
に残っている気泡が移動し除去される。また、気泡が除
去された部分に液体金属潤滑剤が流れていき、気泡部分
が液体金属潤滑剤に置換される。この結果、安定した動
圧形すべり軸受動作を維持する回転陽極型X線管が得ら
れる。
【0014】また、回転体または固定体の回転運動と、
摺動運動を組み合わせている。この場合は、回転運動と
摺動運動の2つが作用し、より安定した動圧形すべり軸
受動作を維持できる。
【0015】また、加熱工程を、回転体および固定体を
囲む高周波コイルで加熱している。この場合は、回転体
または固定体が均一に加熱でき、均一な反応層が形成で
きる。 また、高周波コイルに流れる電流を調整する電
流調整工程を設けた場合は、回転体や固定体の材料、液
体金属潤滑剤の種類に応じた温度制御が容易になる。
【0016】
【実施例】本発明の一実施例について図1乃至図3を参
照して説明する。なお、これらの各図面には、対応する
部分には同一の符号を付し、重複する部分については説
明を一部省略している。
【0017】図1は、回転陽極型X線管が組立てられた
構造の概略断面図である。1は円筒状の回転体で、図の
上方一端は閉じられた底部1aになっている。また他端
は開口部になっており、円柱状の空間が内部に設けられ
ている。回転体1の底部1a外側には回転軸部2が一体
に形成されている。そして、重金属からなる円盤状陽極
ターゲット3が、固定ねじ4により回転軸部2に固定さ
れている。
【0018】また、回転体1の内部空間には、下端の開
口部から円柱状の固定体5が挿入されている。このと
き、回転体1の内面と固定体5の外面はわずかな隙間を
もって嵌合した形になっている。そして、固定体5の下
端は外径が小さい径小部5aになっている。径小部5a
は、回転体1の下端からさらに下方まで延びている。ま
た、回転体1の開口部には、リング状の閉塞部材6が複
数個のねじ7で固定され、開口部は実質的に閉塞されて
いる。なお、閉塞部材6の内側の面は径小部5aの外面
を包囲し、液体金属潤滑剤が漏れないようになってい
る。
【0019】また、径小部5aの下面は、鉄材製の陽極
支持部8がろう接され、回転体1や固定体5は陽極支持
部8によって機械的に支えられている。なお、陽極ター
ゲット3や回転体1、固定体5などはガラス製の真空容
器9に収納されており、真空容器9の下端は陽極支持部
8と気密に接合されている。
【0020】上記した構成の回転陽極型X線管において
は、回転体1の内面と固定体5の外面はすべり軸受部1
0を構成している。そして、すべり軸受面となる固定体
5の外面、例えば側面や上下の端面にはらせん溝5b、
5cが形成されている。なお、回転体1の内面は平滑で
あっても、また、らせん溝を形成してもよい。また、回
転体1と固定体5の両者の軸受面には、約20μmの間
隙が形成される。
【0021】また、回転体1の開口部を閉塞する閉塞部
材6と、閉塞部材6で包囲される径小部5aとの間は、
径小部5aの表面が環状に切削され、環状の空胴11に
なっている。空胴11は、液体金属潤滑剤が外に漏れな
いような寸法に選ばれている径小部5a表面と閉塞部材
6内面との微小な隙間gに比べ十分に大きい内容積を持
っている。そして、空胴11は、固定体5に形成された
らせん溝5b、5cや、回転体1と固定体5間のすべり
軸受部10の僅かな間隙Gなどとの間で、気泡や液体金
属潤滑剤が循環できるように互いに繋がっている。
【0022】また、固定体5は、その中心に軸方向にく
り抜かれた潤滑剤通路12が設けられている。潤滑剤通
路12上端の開口12aは、らせん溝5cをもつ固定体
5上端の軸受面に連結し、さらに固定体5側面のらせん
溝5bのある軸受面に連結している。
【0023】また、固定体5の中間部分は、側面がテー
パ状にわずかに削られ径小部13になっている。そし
て、潤滑剤通路12から径小部13外側の空胴14に通
じるように、例えば3つの放射方向通路15が120度
の間隔で軸対称に形成されている。
【0024】また、固定体5中心の潤滑剤通路12の下
端部12bには、環状の空胴11に通じるように、例え
ば3つの放射方向通路16が120度の間隔で軸対称に
形成されている。したがって、潤滑剤通路12の下端部
12bは、放射方向通路16から環状の空胴11を経
て、固定体5下端のらせん溝5cのある軸受面、そして
固定体5側面のらせん溝5bをもつ軸受面に繋がってい
る。
【0025】そして、らせん溝5b、5cや軸受部1
0、およびこれに繋がる潤滑剤通路12や空胴11、1
4部分には、これらの隙間や空間をほぼ埋める量の液体
金属潤滑剤が充填、収容されている。
【0026】上記した構成の回転陽極型X線管の場合、
その動作時においては、真空容器9の外側に位置するス
テータ(図示せず)例えば電磁コイルが回転磁界を発生
する。これによって陽極ターゲット3が矢印Pの方向に
高速で回転する。この際、液状になった液体金属潤滑剤
がすべり軸受部10などの隙間を満たし、円滑な軸受動
作が行われる。また、回転体1の回転などによって軸受
部10などの隙間に部分的な圧力差が発生する。そし
て、この圧力差により、液体金属潤滑剤は、中心の潤滑
剤通路12や放射方向通路15、16、そして軸受部1
0の隙間の相互間を移動、循環し、安定な軸受作用が持
続する。
【0027】このような状態において、陰極(図示せ
ず)から放射された電子ビームが陽極ターゲット3に射
突し、陽極ターゲット3からX線が発生する。このと
き、陽極ターゲット3に熱が生じる。しかし、熱の多く
は輻射によって放射される。また、熱の一部は回転体1
から、軸受部10などの液体金属潤滑剤に伝わり、さら
に固定体5を経て外部に放射される。
【0028】なお、金属潤滑剤としては、例えばGa、
Ga−In、またはGa−In−SnのようにGaを主
体とするものが使用される。また、ビスマス(Bi)を
相対的に多く含むBi−In−Pb−Sn合金、あるい
はIn相対的に多く含むIn−Bi合金、またはIn−
Bi−Sn合金などが使用される。また、回転体や固定
体の材料としては、Mo、Mo合金、あるいは鉄系の金
属が使用される。
【0029】この場合、回転体や固定体を構成する材料
によって、液体金属潤滑剤が軸受面に反応層を形成する
温度が異なってくる。したがって、回転陽極型X線管の
製造に当たっては、回転体や固定体の材料に応じた温度
制御が必要となる。
【0030】ここで、回転陽極型X線管の製造方法につ
いて図2で説明する。21はベルジャで、その下端部は
排気ポンプ22に接続されている。また、誘導加熱用の
高周波コイル23がベルジャ21内部の空間を囲むよう
にベルジャ21の壁部分に埋め込まれている。
【0031】ベルジャ21の内部に、回転体1が、その
開口部1bが上を向くように保持台24に固定される。
そして回転体1の底部に所定量の液体金属潤滑剤Lが注
入される。また、回転体1の開口部1bの上方には固定
体5が位置している。固定体5には陽極支持部8が接合
されている。この場合、固定体5は陽極支持部8を介し
て保持器25に支持されている。
【0032】回転体1や固定体5などの部品を所定の位
置に配置した後、ベルジャ21内を例えば10-3Pa程
度の高真空にする。そして高周波コイル23に電流を流
し、回転体1や固定体5を加熱する。この加熱で、回転
体1と固定体5の軸受部などの温度を200℃以上、例
えば300℃にし、その温度を一定時間保持する。この
ように回転体1や固定体5、軸受部を一定時間、加熱状
態におくことにより、各部品や液体金属潤滑剤に内蔵す
るガスが放出される。また放出されたガスは順次排気さ
れる。
【0033】その後、ベルジャ21外に設けた昇降装置
(図示せず)を動作させ、例えば保持器25をゆっくり
下降させる。保持器25の下降により固定体5が下降
し、回転体1の空間に入り、その下面が回転体1空間の
底部1aに届く。そして、固定体5の下面が回転体1空
間の底部1aに届いた際に、回転体1あるいは固定体5
の少なくとも一方、例えば固定体5を矢印Yのように比
較的ゆっくり回転させる。固定体5の回転により、回転
体1の底に注入された液体金属潤滑剤Lが、回転体1と
固定体5の軸受部10の隙間や、固定体5中心部の潤滑
剤通路12、そして放射方向通路15、16内を流動し
ていく。このとき、残留した空気や放出されたガスによ
って気泡が生じている場合は、これらの気泡は上方に移
動し、軸受部10の外に押し出され排気される。そし
て、気泡が押し出された部分に液体金属潤滑剤が浸透し
ていく。
【0034】次に、高周波コイル23に流れる電流を制
御し、回転体1や固定体5の軸受面と液体金属潤滑剤と
の間で、0.1μm〜1μm程度の薄い反応層が形成す
るように軸受面の温度を上昇させる。この温度は、回転
体1や固定体5の軸受面となる母材と、液体金属潤滑剤
の材料で決まる。例えば、軸受面の母材がMoまたはM
o合金で液体金属潤滑剤がGa−In−Sn合金の場合
は約450℃である。なお、この場合、回転体1や固定
体5は、温度差が30℃以内になるように加熱し、均一
な反応層が軸受面に形成できるようにし、均一な濡れ性
を確保する。
【0035】そして、残留するガスが十分排気された
後、図3に示すように回転体1と固定体5の両者を嵌合
した状態で、真空中で徐冷する。その後、回転体1と
ング状閉塞部材6をねじ31で固定する。
【0036】上記した方法によれば、軸受面の隙間や潤
滑剤通路中に液体金属潤滑剤がくまなく充填された回転
陽極構体が得られる。
【0037】なお、上記した実施例では、固定体5を下
降させその下面が回転体1空間の底部に届いた際に、例
えば固定体5を矢印Yのように回転させ、そして、回転
体1や固定体5をさらに加熱し、軸受面と液体金属潤滑
剤との間に薄い反応層を形成している。
【0038】しかし、固定体5の回転を開始させる時点
は、固定体5の下面が回転体1の底部に最初に届いた際
でも、また、固定体5を下降させる前でも、下降の途中
でもよい。また、固定体5の下降は1回だけでなく、例
えば固定体5を回転させたまま、固定体5が下降した位
置から図2の位置まで上昇させ、再度、固定体5の下面
が回転体1の底部に届くまでゆっくりと下降させるよう
にしてもよい。このように固定体5の下降、上昇を何回
かくり返せば、その分、残留内蔵ガスの排気効果は向上
する。
【0039】なお、上記した実施例では、高周波コイル
23はベルジャ21の壁に埋め込まれているが、ベルジ
ャ21の内部や外部に設けることもできる。また、加熱
手段としては高周波コイル23だけでなく加熱ヒータと
組み合わせて利用することもできる。
【0040】また、上記した実施例では、固定体5のみ
を回転しているが、回転体1と固定体5の両方を回転さ
せても、またその回転方向も一方向でなく両方向に回転
させても良い。また、回転体1の空間に固定体5を挿入
する場合に、固定体5の位置を上下させているが、回転
体1の方を上下させるようにしてもよい。
【0041】
【発明の効果】本発明によれば、安定したな動圧式のす
べり軸受動作を維持できる回転陽極型X線管を実現でき
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を説明する概略断面図であ
る。
【図2】本発明の一実施例を説明する概略断面図であ
る。
【図3】本発明の一実施例を説明する概略断面図であ
る。
【符号の説明】
1…回転体 1a…底部 2…回転軸部 3…陽極ターゲット 4…固定ねじ 5…固定体 5a…径小部 5b、5c…らせん溝 6…閉塞部材 7…ねじ 8…陽極支持部 9…真空容器 10…すべり軸受部 11…空洞 12…潤滑剤通路 13…径小部 14…空胴 15、16…放射方向通路 21…ベルジャ 22…排気ポンプ 23…高周波コイル 24、25…保持器 L…液体金属潤滑剤
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H01J 9/14 H01J 35/10

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 内部に空間が形成され、陽極ターゲット
    が一端の底部外側に固定される有底円筒状の回転体を、
    前記底部が下方になるように支持する第1の支持工程
    と、前記回転体内部の空間に液体金属潤滑剤を注入する
    注入工程と、前記回転体の前記空間内にすべり軸受間隙
    を保って挿入できる固定体を、前記回転体の上方に支持
    する第2の支持工程と、前記回転体および前記固定体を
    真空中で加熱する加熱工程と、前記回転体の内部空間に
    前記固定体を挿入する挿入工程と、この挿入工程の後、
    前記回転体または前記固定体の一方を上昇および下降さ
    せる上下動工程を有する回転陽極型X線管の製造方
    法。
  2. 【請求項2】 回転体または固定体を回転させる回転工
    程が設けられた請求項1記載の回転陽極型X線管の製造
    方法。
  3. 【請求項3】 回転体または固定体を回転させる方向は
    両方向である請求項2記載の回転陽極型X線管の製造方
    法。
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