JP3176684B2 - 易染性ポリエステル繊維の製糸方法 - Google Patents

易染性ポリエステル繊維の製糸方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はポリエステル繊維の製糸
方法に関するものであり、更に詳しくは、常圧の沸水中
で濃色に染色することが可能である易染性ポリエステル
繊維の製糸方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般にポリエステル繊維、特にポリエチ
レンテレフタレート繊維は強度、寸法安定性等多くの優
れた特性を備え種々の用途に利用されている。反面、ポ
リエチレンテレフタレート繊維は染色性が劣り、染色に
際しては130℃付近の高温高圧で染色する必要がある
ため特別な装置を必要としたり、またウール、アクリル
等高圧染色により特性低下を生じる繊維との混用に制限
がある等の欠点を有している。
【0003】ポリエチレンテレフタレート繊維の染色性
改良、常圧可染化に関しては、いくつかの試みがなされ
ており、例えば染色時にキャリヤーを用いる方法が知ら
れているが、特別なキャリヤーを要すること、染色液後
処理が困難なこと等の欠点がある。また染色性の改良さ
れたポリエチレンテレフタレートとして金属スルホネー
ト基含有化合物やポリエーテルを共重合したものが知ら
れているが、これらの変性ポリエステルは染色性は向上
するものの、重合、紡糸が困難であったり、或いはポリ
エチレンテレフタレート本来のすぐれた性質を低下せし
めたり、更には染色堅牢度が劣る等の欠点があった。
【0004】別の染色性改良の方法として化学的改質に
よらない試みがなされており、例えば高速紡糸、高ドラ
フト紡糸、高異形断面化等の方法が知られている。しか
しながら、これら物理的改質手段のみでのアプローチ
は、ある程度の易染性は得られるものの、常圧可染のレ
ベルまで染色性を改善することは難しかった。
【0005】また、当然これらの改質方法の組合せ、例
えば化学改質されたポリエステルの高速紡糸等も提案さ
れてきたが、製糸技術としては無理が多く、紡糸中に断
糸が起る等生産パフォーマンスの点で問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、かかる
従来法の欠点を克服し、染色性が良好であり、特に常圧
染色が可能でかつ製糸工程調子のすぐれたポリエステル
繊維を得ようとして、ポリマー改質面および製糸プロセ
ス面からの研究を進めた結果、従来は知られなかった特
定の化学改質方法および製糸方法を組み合わせることに
より上記目的が達成されることを知って本発明を完成し
た。
【0007】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、下記
一般式、
【0008】
【化2】
【0009】[式中、Aは芳香族基又は脂肪族基、X1
およびX2 は同一又は異なるエステル形成性官能基、n
は正の整数、R1 ,R2 ,R3 およびR4 は水素原子、
アルキル基、アリール基およびヒドロキシアルキル基よ
り選ばれた同一又は異なる基であって、R1 ,R2 ,R
3 ,R4 の合計の分子量が60以上であるものを示す]
で表わされるスルホン酸ホスホニウム塩が共重合されて
いるポリエステルを下記およびを同時に満足する条
件で高速紡糸することを特徴とする易染性ポリエステル
繊維の製糸方法である。 引取り速度:3500〜8000m/分 ドラフト率:700/M以上 [但し、Mはスルホン酸ホスホニウム塩の全酸成分に対
する共重合量(モル%)を示す] 本発明でいうポリエステルは、テレフタル酸を主たる酸
成分とし、少なくとも1種のグリコール、好ましくはエ
チレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメ
チレングリコールから選ばれた少なくとも1種のアルキ
レングリコールを主たるグリコール成分とするポリエス
テルを主たる対象とする。
【0010】また、テレフタル酸成分の一部を他の二官
能性カルボン酸成分で置換えたポリエステルであっても
よく、及び/又はグリコール成分の一部を主成分以外の
上記グリコールもしくは他のジオール成分で置換えたポ
リエステルであってもよい。
【0011】ここで使用されるテレフタル酸以外の二官
能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタ
リンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノ
キシエタンジカルボン酸、β―ヒドロキシエトキシ安息
香酸、p―オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、
1,4―シクロヘキサンジカルボン酸の如き芳香族、脂
肪族、脂環族の二官能性カルボン酸をあげることができ
る。更に本発明の効果が実質的に奏せられる範囲で5―
ナトリウムスルホイソフタル酸等の金属スルホネート基
を有するイソフタル酸を共重合成分として用いてもよい
が、この場合、その使用量をテレフタル酸成分に対して
1.0モル%未満の量に抑えることが望ましい。
【0012】また、上記グリコール意外のジオール化合
物としては例えばシクロヘキサン―1,4―ジメタノー
ル、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビス
フェノールSの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオール
化合物及びポリオキシアルキレングリコール等をあげる
ことができる。
【0013】本発明においては、上記ポリエステルのポ
リマー鎖の中に下記一般式
【0014】
【化3】
【0015】で表わされるスルホン酸ホスホニウム塩が
共重合されていることが必要である。上記一般式中Aは
芳香族基又は脂肪族基であり、芳香族基が好ましい。X
1 及びX2 はエステル形成性官能基であり、カルボキシ
ル基、クロロカルボキシル基、ヒドロキシル基、アシル
オキシ基等が例示され、好ましい具体例としては
【0016】
【化4】
【0017】(但し、Rは低級アルキル基又はフェニル
基を、kは1以上の整数を、mは2以上の整数を示す)
等をあげることができる。このX1 及びX2 は同一であ
っても、異なっていてもよい。R1 ,R2 ,R3 及びR
4 は水素原子、アルキル基、アリール基、ヒドロキシア
ルキル基であり、アルキル基が好ましく、なかでもブチ
ル基が特に好ましい。このR1 ,R2 ,R3 ,R4 は同
一であっても異なっていてもよい。但し、後に述べる理
由によりR1 ,R2 ,R3 ,R4 の分子量の合計は60
以上であることが必要である。また、nは正の整数であ
り、通常は1又は2である。
【0018】かかるスルホン酸ホスホニウム塩の具体例
としては3,5―ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸
テトラメチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボメトキ
シベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、
3,5―ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸トリブチ
ルメチルホスホニウム塩、2,6―ジカルボメトキシナ
フタレン―4―スルホン酸テトラブチルホスホニウム
塩、2,6―ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テト
ラメチルホスホニウム塩等が挙げられる。
【0019】上記スルホン酸ホスホニウム塩をポリエス
テルの主鎖中に共重合するには、前述したポリエステル
の合成が完了する以前の任意の段階で、好ましくは第1
段の反応が終了する以前の任意の段階で上記化合物を添
加すればよい。この際その使用量は、あまりに少ないと
易染性が不足する他、特に超高速での紡糸曳糸性が不充
分になる。逆にあまりに多いと曳糸性が悪くなる他、最
終的に得られるポリエステル繊維の力学的物性等が悪化
するようになるので、ポリエステル繊維を構成する二官
能性カルボン酸成分に対して0.5〜2.5モル%とな
る範囲で使用するのが好ましい。
【0020】本発明においては、以上の如く特別に設計
されたポリエステルは3500m/分以上8000m/
分以下の引取速度で高速紡糸される。ここで引取速度が
3500m/分に満たないような場合には、一般に力学
特性、収縮特性がそのまま使用するに不充分である。そ
こでこれらの低紡速引取糸を更に延伸してこれらの特性
を改善しても、常圧可染と言える程の易染レベルを得る
ことは不可能である。逆に8000m/分を越えるよう
な場合には、紡糸調子が悪くなりパフォーマンスの低下
をきたすことになる。また、上記紡速で引取られた高速
紡糸繊維は延伸することなくそのまま使用することがよ
り好ましい。しかしながら、使用目的により紡糸に直結
して、或いは紡糸とは別工程で若干の延伸または熱処理
を適宜付加しても差支えない。但し延伸倍率を高くする
と易染性は低下してゆくので、常圧可染のレベルを保つ
ためには延伸比は高々1.5倍迄にとどめるべきであ
る。
【0021】一般に化学改質を行ったポリエステルの高
速紡糸は製糸の調子を著しく悪化させる。しかしなが
ら、本発明においては特定のスルホン酸ホスホニウム塩
を共重合することによって、ポリエステルの高速紡糸曳
糸性は著しく改善されている。
【0022】この理由はおよそ次のとおりである。すな
わち、高速紡糸されている溶融流の中に分子鎖の絡み等
不均一な部所があると、その点に過度に強い応力が集中
する。これは紡糸の引取速度が高くなる程顕著になり、
走行フィラメント切断の主要な原因になる。このミクロ
な応力集中を避けるためには、例えば紡糸温度を上げた
りポリエステルの分子鎖長を短くする等の手段がある
が、これらの手段には限界があり、また力学特性が悪化
する等の欠点が付随する。
【0023】これに対して本発明のポリエステルでは、
分子鎖間に相当バルキーなボリュームを有するホスホニ
ウム塩基、P1 2 3 4 が挟み込まれており、
この結果隣接する分子鎖との距離を押しひろげることに
なる。その結果、分子鎖相互のからみあいの確率は極端
に低くなり、ミクロな応力集中が回避されて曳糸性が向
上するのである。
【0024】従ってP1 2 3 4 の嵩性は重要
であり、R1 2 3 4 の合計の分子量が60に達し
ないような場合、隣接分子鎖を排除する効果が小さくな
り曳糸性は改善されない。
【0025】同様な考え方に立ち、本発明にかかるポリ
エステルのP1 2 3 4 と同程度の嵩性を持つ
側鎖をポリエステルに与えた場合(すなわち分岐ポリエ
ステルとした場合)、高速の曳糸性は逆に悪化する。こ
の理由は、隣接分子鎖との距離は押し広げられるであろ
うが、分岐点そのものが応力集中点となるからである。
本発明のポリエステルの場合には、P1 2 3
4 とポリエステル本体とは、イオン結合で適度に軽く結
ばれているため、強い外力が作用すると容易に解離する
ことが可能となり、応力集中が避けられるのである。
【0026】また本発明のポリエステル繊維は、700
/M以上の高ドラフト率で高速紡糸することが必要であ
る。すなわち共重合率が少なくなる程高ドラフト率を必
要とする。ドラフト率が700/Mに達しない場合でも
相当の易染性は得られるものの、常圧可染のレベル迄に
は至らないのである。
【0027】高ドラフト紡糸の場合、染色速度が速くな
ることは以前より報告されているが、通常のポリエステ
ルにおいても紡糸等の工程調子が悪化することは避けら
れなかった。更に染色性向上を目的として化学改質され
たポリエステルの高ドラフト紡糸は極めて困難であっ
た。しかるに本発明の場合には、特定の成分を共重合す
ることによって、驚くべきことに、高ドラフト、高紡速
紡糸が可能となったもので、その理由は先記のとおりで
ある。なお、本発明におけるドラフト率とは、引取速度
/吐出線速度を示す。
【0028】
【発明の効果】本発明によって製糸されるポリエステル
繊維は、極めて配向性、凝集性の低い非晶部を有する。
更に先に述べたように、該分子鎖はバルキーなホスホニ
ウム塩基によって相互に押し広げられているため、染色
工程において染料分子はポリエステル内部に、より容易
に拡散できる。この結果、著しい易染化が可能になり、
常圧の沸水中でも濃色に染色することが可能となる。
【0029】
【実施例1】テレフタル酸ジメチル100部、エチレン
グリコール66部、表1,2に記載した量の3,5―ジ
カルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウ
ム塩(テレフタル酸ジメチルに対して0〜2.5モル
%、またR1 2 3 4 の合計分子量は228であ
る。)、酢酸、マンガン4水塩0.03部(テレフタル
酸ジメチルに対して0.024モル%)をエステル交換
缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下4時間かけて140℃か
ら230℃まで昇温して生成するメタノールを系外に留
去しながらエステル交換反応させた。続いて得られた生
成物に正リン酸の56%水溶液、0.03部(テレフタ
ル酸ジメチルに対して0.033モル%)及び三酸化ア
ンチモン0.04部(0.027モル%)を添加して重
合缶に移した。次いで1時間かけて760mmHgから1mm
Hgまで減圧し、同時に1時間30分かけて230℃から
280℃まで昇温した。1mmHg以下の減圧下、重合温度
280℃で表1に記載した固有粘度に達するまで重合し
た。
【0030】得られたポリマーを常法により乾燥し(1
60℃、4時間)、種々の孔径の円形吐出孔を36個穿
設した紡糸口金を使用して最高310℃で溶融状態で吐
出し、常法に従い冷却固化せしめた後、種々の速度で回
転する一対のゴデットローラを介してワインダーに巻取
ることにより75de/36filのマルチフィラメン
トを得た。
【0031】以上のようにして得られてポリエステル繊
維は筒編された後、スコアロール2g/リットルを用い
60℃で20分精練され、乾燥、調湿(20℃×65%
RH)後、分散染料スミカロンネービーブルーS―2G
L、3%owf、浴比1:100で100℃で染色され
た。
【0032】他方比較のため共重合を行わない(M=
0)通常のポリエステルを常法に従い引取速度1500
m/分で紡糸捲取後3.3倍に延伸かつスリットヒータ
180℃で熱処理することにより得られた75de/3
6filのマルチフィラメントについても同様の染色テ
ストを100℃で行う他高圧染色機により130℃でも
染色した。
【0033】表1及び2に以上の製糸の工程調子、得ら
れるポリエステルフィラメントの力学特性、及び染色性
を示す。
【0034】但し表中、Mは3,5―ジカルボキシベン
ゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウムの共重合割合
(モル%)を示す。また製糸調子○は良好、△は時々単
糸切れ発生、×は紡糸不可を示す。
【0035】また染色性については上記のルート紡糸〜
延伸糸を130℃で高圧染色した時の染色レベルを○、
100℃で染色した時の染色レベルを×とし、その中間
レベルを△、130℃高圧染色以上に濃染したものを◎
として表わした。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】上記表中、No.1は通常のポリエステル
を通常の高速紡糸したものであり、通常の延伸糸より濃
染になるものの、130℃染色時並の染色性には至らな
い。また、No.2は紡糸ドラフト率をアップした例、
No.3は紡糸速度をアップした例であるが、いずれも
染色性が向上するものの、130℃染色に比較すると未
だ不充分なものである。
【0039】一方、No.4〜No.30はスルホン酸
ホスホニウム塩が共重合されたポリエステルを用いた例
であるが、これらの中でも紡糸引取速度が3500m/
分に達しない場合(No.4,5,11,12)には、
伸度が高い他収縮率が高い、染色性が不充分であるとい
った問題があるし、8000m/分を越える場合(N
o.23,24,30)には、染色性は良好となるもの
の製糸の工程調子は低下して安定に生産することができ
なくなる。また、ドラフト率が本発明の規程する要件を
満たしていない場合(No.9,13,16,20)に
は、染色性が向上するもののそのレベルは常圧可染性の
レベルまでには至らない。
【0040】これに対して、本発明の要件を満足してい
る場合には、製糸調子、得られる繊維の力学的特性はい
ずれも良好なレベルであり、しかも染色性は通常糸の1
30℃下高圧染色と同等以上のレベルである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭63−211322(JP,A) 特開 平1−14314(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) D01F 6/84 D01F 6/62 D01F 6/92

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下記一般式 【化1】 [式中、Aは芳香族基又は脂肪族基、X1 およびX2
    同一又は異なるエステル形成性官能基、nは正の整数、
    1 ,R2 ,R3 およびR4 は水素原子、アルキル基、
    アリール基およびヒドロキシアルキル基より選ばれた同
    一又は異なる基であって、R1 ,R2 ,R3 ,R4 の合
    計の分子量が60以上であるものを示す]で表わされる
    スルホン酸ホスホニウム塩が共重合されているポリエス
    テルを下記およびを同時に満足する条件で高速紡糸
    することを特徴とする易染性ポリエステル繊維の製糸方
    法。 引取り速度:3500〜8000m/分 ドラフト率:700/M以上 [但し、Mはスルホン酸ホスホニウム塩の全酸成分に対
    する共重合量(モル%)を示す]
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