JP3051781B2 - スミレ属植物の大量増殖方法 - Google Patents

スミレ属植物の大量増殖方法

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JP3051781B2
JP3051781B2 JP4207014A JP20701492A JP3051781B2 JP 3051781 B2 JP3051781 B2 JP 3051781B2 JP 4207014 A JP4207014 A JP 4207014A JP 20701492 A JP20701492 A JP 20701492A JP 3051781 B2 JP3051781 B2 JP 3051781B2
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  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、スミレ属植物の大量増
殖方法に関するものであり、さらに詳しくは、スミレ属
植物の植物体の組織の切片を、特定のカルス誘導固体培
地、ミニカルス誘導液体培地、分化培地、幼植物体の誘
導及び成長固体培地を用いて、特定の培養プロセスによ
り培養することにより、従来、同系統のものを大量に増
殖することが難しく、優良交配種を広く普及させること
が困難であったスミレ属植物を、安定、かつ高収率で大
量増殖することが可能な組織培養によるスミレ属植物の
大量増殖方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、植物体の組織の切片を培地上で無
菌的に培養することにより、不定芽、不定根、花芽、カ
ルス等を誘導し、形成させ、成長させることにより当該
植物を増殖させる、植物の組織培養による増殖方法が、
種々の植物を対象に研究され、これまでに、種々の技術
が開発されている。
【0003】このような植物の組織培養技術の進展に伴
い、当該技術を用いた各種植物の作出方法、増殖方法が
開発され、各々の植物に好適な培地組成、培養条件等が
具体的なものとして確立され、すでに、ウイルスフリー
株の生産、大量繁殖方法等として実用化されているもの
もあり、例えば、ダリア、ジャガイモの茎頂組織培養
(生長点培養)による無病固体の再生、ラン(シンビジ
ウム属)の茎頂組織培養によるプロトコームライクボデ
ィ(原塊体様組織塊PLB)の再生、また、分割増殖に
よって遺伝的に均一な苗の大量増殖技術等、様々な技術
が開発され、実用化されている。
【0004】そして、現在では、このような組織培養技
術は、草花、野菜等の草木類から、果樹、花木、樹木等
の木本類に至るまで、様々な分野で応用されつつあり、
特に、我国では、ラン、カーネーション、キク、ユリ、
シュツコンカスミソウ、セントポーリア、ガーベラ、シ
クラメン、イチゴ等のような栄養繁殖される園芸作物の
苗生産技術を中心として定着化しつつある。
【0005】しかしながら、このような植物の組織培養
技術は、いまだ完成された技術ではなく、未知の分野も
多く、むしろ今後の研究に待つべきところも多い技術で
あって、例えば、ラン科植物の栄養繁殖についても、研
究の進んでいるシンビジウム以外は、培地組成や培養技
術がまだ一般化する程には完成されておらず、また、東
洋系と呼ばれるカンラン、シュンラン等の一群のもの
は、いまだ組織培養による増殖体系は確立されていない
状況にある。
【0006】一般の草花や観葉植物についても、増殖組
織の液体震盪培養による多芽体の形成、ホルモン剤添加
培地での多芽体の誘発、苗の大量増殖等の研究、開発が
活発に行われているが、変異発生の危険性が非常に高い
など今後解決すべき問題は多く残されている。
【0007】また、球根類や多年草で、種子繁殖によっ
て育苗されるシクラメンやプリムラ類などは、遺伝的な
分離で成品に均一性の欠けることや、採取量が少なく、
優良系の種子不足の問題などがあることから、優良固体
を組織培養によって増殖する試みがなされている。
【0008】また、採種用母株の保存維持や、種子繁殖
により生産性の高い野菜のF1 固体や、草花のF1 固体
を、組織培養によって増殖し、栄養繁殖系の苗として供
給することも試みられているが、このような従来の種子
繁殖系を栄養増殖とする技術は、一部実用化されている
程度に過ぎない。
【0009】このように、植物の組織培養技術が、各種
植物の誘導、作出、増殖方法として、広く検討される中
で、各種観賞用植物の組織培養による誘導、増殖技術等
が提案されている。
【0010】すなわち、例えば、有用一年生植物の茎頂
部を摘出し、これを無機塩類組成物及び植物生長ホルモ
ンを含む人工培地に移植し、これを0.5〜10rpm
の回転数にて回転培養して苗条原基を増殖し、得られた
苗条原基を静置培養して苗化することからなる有用一年
生植物の大量増殖方法が提案されている(特開昭59−
132823号公報)。しかしながら、この方法は、主
として苗条原基(Sho-ot primordia)を利用して色素
体、液胞、油体、貯蔵物質等の二次代謝産物からなる有
用物質を人工的に大量生産するものであり、観賞用植物
の増殖については、ペチュニア、アサガオ等に言及して
いるに過ぎない。
【0011】また、植物の組織片より光照射下でカルス
から発芽、発根させて増殖する植物の再分化方法、及び
そのための増殖用培地として、植物ホルモンであるサイ
トカイニン類0.1〜10ppm、及びオーキシン類
0.01〜10ppmを加えたMS培地が提案されてい
る(特開平3−139224号公報)。しかしながら、
これは、キク科植物を短期間に大量に得るために好適な
キク科植物用の特定の培地組成、培養条件等を検討した
ものである。
【0012】また、植物の組織片よりカルスを誘導せし
め、次いで、当該カルスを培養して不定芽を分化せしめ
た後、当該不定芽を培養して幼植物体を得ることからな
る植物の再生方法、及びその種苗の増殖方法が提案され
ている(特開平4−45730号公報)。しかしなが
ら、この方法は、分化させた不定芽を利用するものであ
り、キキョウ属植物を対象としたものである。
【0013】さらに、顕花植物体の組織切片又はこれを
培養して得られる再生植物体の組織切片を培地にて培養
して再分化せしめて再生植物体を得、次いで当該再生植
物体を再分化時とは異なる組成を有する培地で培養して
開花せしめる顕花植物の培養方法が提案されている(特
開平4−30733号公報)。しかしながら、この方法
は、再分化培養に用いる培地、及び開花培養に用いる培
地の培地組成について検討したものであり、対象とする
植物も、ウマノスグサ科、ナデシコ科、ナス科に属する
植物、特にトレニア属植物が例示されているに過ぎな
い。
【0014】しかして、最近、密閉容器中で植物を栽培
して開花させ、そのまま観賞可能とする容器内開花に関
する技術も提案されている。このような提案の例とし
て、例えば、植物体の茎切片を1次基本培地で無菌的に
培養して不定芽を形成させた後、これを特定の無機塩濃
度にし、かつ矮化剤を加えた2次基本培地に置床して天
然昼光色蛍光灯を短日照射し密閉培養することからなる
栽培方法が提案されている(特開昭60−221020
号公報)。しかしながら、この方法は、不定芽を利用す
るものであり、対象とする植物もトレニア(和名ハナウ
リクサ)に限られるものである。
【0015】また、無菌の幼植物体の全草を透視可能な
容器中の矮化剤として特定の成分を添加したMS培地に
植え付け、光を断続的に長期間照射し無菌的に密閉培養
することからなる栽培方法が提案されている(特開平2
−200121号公報)。しかしながら、この方法は、
幼植物体の全草を用いるものであり、ユリ科に属するセ
ンニチコウの矮化条件を検討したものである。
【0016】このように、植物体を密閉容器中で栽培し
て、そのまま観賞可能とする容器内栽培技術を確立する
には、植物体を密閉容器内で、安定、かつ高収率で増殖
させる技術、密閉容器中で適正に育成させるための矮化
技術、花芽を分化させ、開花させる開花技術等を開発
し、確立することが前提とされるが、そもそも、密閉容
器中で植物体を栽培し、開花させることは大変困難であ
り、これまで、前記のような、矮化トレニアの密閉容器
中での開花、センニチコウの密閉容器中での開花等の報
告があるものの、現在、密閉容器中で矮化植物を育成
し、観賞用に供されているものは花をつけない観葉植物
がほとんどである。
【0017】このように、一般に、各種植物体を組織培
養により増殖させる技術が開発され、広く普及するに伴
い、各種植物体に好適な個有の培養条件等が研究、開発
され、確立されつつあるものの、実用化レベルに至って
いるものはそれほど多くはなく、まして、植物体を密閉
容器もしくは通気性容器中で栽培して花芽を分化させて
開花させ、そのまま観賞することが可能な植物体の容器
内育成技術については、その研究例も少なく、ほとんど
実用化されていない状況にある。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】このような状況の中
で、本発明者らは、容器中で植物体を栽培して花芽を分
化させ、開花させ、そのまま観賞することが可能な植物
体の容器内育成技術を確立することを目標として、その
技術上のベースとなる基礎的技術、すなわち植物体を、
安定、かつ高収率で増殖させる方法、安定に矮化させる
ための矮化条件、安定に花芽を分化させ、かつ長期にわ
たって開花させるための栽培条件等について種々検討す
るためにその基礎的研究に着手した。
【0019】本発明者らの研究及びこれまでの知見によ
ると、このような植物体の育成技術を確立するには、そ
の技術上のベースとなる前記のような各種植物体の増殖
技術、矮化技術、開花技術等の基礎的技術の開発が大前
提となることはいうまでもないが、これらの各技術は、
実際上、個々の植物体の種類によって全く相違するもの
であり、例えば、前記のトレニア、センニチコウについ
ても、その栽培方法、栽培条件を、そのまま他の植物体
の場合に転用しても、所期の目的を達成することはほと
んど不可能であり、各植物体の種類に応じて、それぞれ
個有の栽培方法、栽培条件を開発し、確立することが必
要である。
【0020】このような知見を前提として、本発明者ら
は、各種植物体のうちでも、短茎種で容器内での栽培に
向いているにもかかわらず、従来の交配種では第2代目
以降種子ができにくくてその増殖が難しく、また、交配
種においては外観や色にバラツキが出て均一な植物体を
作出することが難しく、従って、優良品種を広く普及さ
せることが難しいことから、これらの点を解決できる新
しい増殖技術の開発が強く要請されていたスミレ属植物
に着目し、これを、安定、かつ高収率で増殖させるため
の方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ね
た結果、特定の培養プロセスと特定の培地組成、培養条
件を組み合わせることによって、所期の目的を達成し得
ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0021】すなわち、本発明は、従来、交配により作
出した優良品種の増殖が難しいとされていたスミレ属植
物を、大量に増殖する方法を提供することを目的とする
ものである。
【0022】また、本発明は、スミレ属植物の無菌状態
の植物体の組織の切片を利用した組織培養により、当該
植物を、安定、かつ高収率に増殖する方法を提供するこ
とを目的とするものである。
【0023】さらに、本発明は、スミレ属植物を容器中
で無菌的に培養して目的とする時期に花芽を分化させ、
開花させ、そのまま当該容器中で観賞することが可能な
当該植物の大量増殖方法を提供することを目的とするも
のである。
【0024】さらに、また、本発明は、特定の培養プロ
セス、特定の培地組成、及び特定の培養条件下で形成さ
せたスミレ属植物のミニカルスを利用して、当該植物
を、安定、かつ高収率で大量に増殖させ、容器内で花芽
を分化させ、開花させる方法を提供することを目的とす
るものである。
【0025】
【課題を解決するための手段】このような本発明の目的
を達成するための構成は、以下の(1)〜(7)の技術
的手段から成る。 (1)1)スミレ属植物を容器内で育成して花芽を分化
させ、開花させ、そのまま鑑賞することができる当該植
物の容器内大量増殖方法であって、スミレ属植物の無菌
状態の植物体の組織の切片を、炭素源を含有し、pH調
整された合成培地を基本培地(A)とし、これにオーキ
シン類とサイトカイニン類とからなる植物ホルモンを含
有せしめたカルス誘導固体培地に置床し、培養すること
により、カルスを誘導させる工程、2) 得られたカルスを、前記基本培地(A)にオーキシ
ン類とサイトカイニン類とからなる植物ホルモンを含有
せしめたミニカルス誘導液体培地を用いて、震盪回転数
100rpm以上の条件で培養することにより、ミニカ
ルスを誘導させる工程、3) 得られたミニカルスを、前記基本培地(A)からな
る分化用固体培地に置床し、培養することにより、ミニ
カルスから芽を分化させる工程、4) 次いで、ミニカルスから分化した芽を、炭素源を含
有し、pH調整され、無機塩濃度が1/1以下に調整さ
れた合成培地を基本培地(B)とした幼植物体の誘導及
び成長固体培地に置床し、通気性のある容器の中で培養
することにより、幼植物体を誘導し、これを増殖させる
工程、からなることを特徴とするスミレ属植物の大量増
殖方法。
【0026】(2)炭素源として、ショ糖2重量%を含
有し、pH5.8に調整された合成培地を基本培地
(A)とし、これにナフタレン酢酸0.1〜2.0mg
/l、ベンジルアデニン0.1〜6.0mg/lを含有
せしめたカルス誘導固体培地を使用することを特徴とす
る前記(1)記載のスミレ属植物の大量増殖方法。
【0027】(3)植物ホルモンとして、ナフタレン酢
酸0.1〜5.0mg/l、ベンジルアデニン0.5〜
5.0mg/lを添加したミニカルス誘導液体培地を用
いることを特徴とする前記(1)記載のスミレ属植物の
大量増殖方法。
【0028】(4)ショ糖1重量%を含有し、pH5.
8に調整され、無機塩濃度が1/2に調整された合成培
地を基本培地(B)とした幼植物体の誘導及び成長固体
培地を用いることを特徴とする前記(1)記載のスミレ
属植物の大量増殖方法。
【0029】(5)各工程の培養を、22〜27℃の温
度条件、12〜18時間日長の光照射条件下で行うこと
を特徴とする前記(1)記載のスミレ属植物の大量増殖
方法。
【0030】(6)植物体の組織の切片が、根、葉、又
は葉柄の組織切片であることを特徴とする前記(1)記
載のスミレ属植物の大量増殖方法。
【0031】(7)合成培地がMS改変培地であること
を特徴とする前記(1)記載のスミレ属植物の大量増殖
方法。
【0032】続いて、本発明の構成について詳細に説明
する。一般に、スミレ(菫)というと、スミレ科、特
に、スミレ属植物の総称を意味しており、これらは、ス
ミレ科の多年草で、葉は、卵状長棒円形で、春に葉間に
数本の花茎を出し、頂に濃紫色の花一つをつける。ま
た、スミレ科は、双子葉植物の一科であり、世界に22
属約千種、我国にはスミレ属だけで約50種があり、ま
れに木本で、多くは草木である。
【0033】本発明は、このうち、スミレ属(Viola
属)に属する植物を対象とするものであり、例えば、ア
オイスミレ(V. nondoensis)、アリアケスミレ(V. beto
nicif-olia var. albescens)、ヒゴスミレ(V. chaeroph
ylloides var. sieboldiana)、エイザンスミレ(V. eiza
nesis)、サクラスミレ (V. hirtipes)、コスミレ (V.ja
ponica) 、スミレ(V. mandshurica)、コミヤマスミレ
(V. maximovicziana) 、ニオイスミレ (V. ordorata)、
シロスミレ (V. partinii)、アカネスミレ (V.phalacro
carpa)、ミヤマスミレ(V. selkirkii)、ノジスミレ(V.
yedoensis)等の品種が代表的なものとしてあげられる。
【0034】これらのスミレ属植物の無菌状態の植物体
の組織の切片としては、通常の植物体の適宜の器官の組
織切片を滅菌処理したもの、あるいは、消毒種子を無菌
的に播種して発芽させた無菌幼苗、当該幼苗を生育させ
た植物体の根、葉、又は葉柄の切片等が、好適に利用さ
れる。
【0035】このようなスミレ属植物の無菌状態の植物
体の組織切片を、合成培地であるMS培地(ムラシゲと
スクーグの基本無機塩培地)をベースとして、炭素源を
含有し、pH調整されたMS改変培地を基本培地(A)
とし、これにオーキシン類とサイトカイニン類とからな
る植物ホルモンを添加し、含有せしめたカルス誘導固体
培地に置床し、特定の培養条件下で培養してカルスを誘
導させる。
【0036】前記MS改変培地は、通常のMS培地をベ
ースとして、葉酸約0.5重量%、ビオチン約0.05
重量%添加したものが好適に使用され、これに炭素源と
してのショ糖を、例えば、2重量%添加し、pH5.0
〜6.0、好ましくは、pH5.8に調整し、これを基
本培地(A)とする。
【0037】このように、当該基本培地(A)は、前記
MS改変培地、炭素源としてのショ糖が、好適なものと
して使用されるが、これに限らず、これと同等の組成、
もしくは成分のものであれば他の同効の合成培地が同様
に利用できることはいうまでもない。他の同効の合成培
地としては、具体的には、MS培地、B5培地、Nit-sc
h の培地(1965年)が挙げられる。
【0038】当該基本培地(A)に添加される植物ホル
モンとしては、ナフタレン酢酸0.1〜2.0mg/
l、好ましくは0.5〜1.0mg/l、ベンジルアデ
ニン0.1〜6.0mg/l、好ましくは1.0〜5.
0mg/lが、好適に使用されるが、これに限らず、こ
れらと同効の生理活性を有する他のオーキシン類、サイ
トカイニン類も、同様に組合わせて利用できる。他のオ
ーキシン類としては、インドール酢酸、インドール酪
酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸等が、サイトカイ
ニン類としては、カイネチン、ゼアチン、2−イソペン
テニルアミノプリン等が、それぞれ挙げられる。
【0039】このような成分を含有せしめた培地に、支
持材料として、例えば、寒天約0.7重量%を添加し、
pHを前記範囲に調整し、常法により殺菌処理した後、
適宜の容器中に無菌的に分注し、固形化させてカルス誘
導固体培地を調製する。前記支持材料としては、寒天に
限らず、それと同効の成分であれば、ジェランガム等、
適宜のものが利用できる。
【0040】前記のスミレ属植物の無菌状態の植物体の
組織の切片を、当該カルス誘導固体培地に置床し、培養
することにより、カルスを誘導させるが、この場合、2
2〜27℃、好適には25℃±1℃の温度条件、及び1
2〜18時間日長、好適には16時間日長の光照射条件
下で約1ヶ月間培養することにより、安定、かつ高収率
でカルスを誘導することができる。
【0041】前記工程により得られたカルスを、前記基
本培地(A)をベースとする液体培地中に加え、震盪回
転数100rpm以上、好ましくは130〜150rp
mの条件下で培養して、緑色で直径1〜3mm程度のミ
ニカルスを誘導させる。このような緑色のミニカルス
を、例えば、1週間ごとにピペット等で採取し、約1ヶ
月継代培養する。
【0042】当該液体培地としては、前記基本培地
(A)に、ナフタレン酢酸0.1〜5.0mg/l、好
ましくは1.0mg/l、ベンジルアデニン0.5〜
5.0mg/l、好ましくは1.0mg/lを添加した
液体培地が、好適に使用されるが、添加する植物ホルモ
ンは、これに限定されず、前述のように、これらと同効
の生理活性を有する他のオーキシン類、サイトカイニン
類も、同様に組合わせて利用することができる。培養の
温度条件、及び光照射条件は、前記工程と同様に設定す
る。
【0043】当該工程においては、通常の培養方法で
は、前記ミニカルスの形成は行なわれないが、このよう
な高速の回転条件を付与することにより、はじめて前記
緑色のミニカルスを形成させることが可能である。従っ
て、このような高速の回転条件を付与することは、本工
程におけるミニカルスの形成手段として必須の要件であ
る。
【0044】次に、前記工程により得られたミニカルス
を、前記基本培地(A)からなるホルモンフリーの分化
用固体培地に置床して培養することにより、ミニカルス
から芽を分化させる。ホルモンフリーの条件を除き、他
は、前記カルス誘導固体培地と同様のものが使用できる
が、スミレ属植物について、このようなミニカルスから
芽を分化させる方法は、本発明者らによって開発された
ものである。
【0045】次いで、前記工程により得られたミニカル
スから分化した芽を、炭素源を含有し、pH調整され、
無機塩濃度が1/1以下、好ましくは1/2〜1/5、
に調整されたMS改変培地を基本培地(B)とした幼植
物体誘導及び成長固体培地を用いて培養する。
【0046】当該幼植物体誘導及び成長固体培地として
は、例えば、炭素源としてショ糖1重量%を使用し、p
H5.8に調整し、無機塩濃度を1/2に調整したMS
改変培地を基本培地(B)としたものが、好適に使用さ
れる。当該基本培地(B)は、これに限らず、前述のよ
うなこれと同効の合成培地であれば同様に利用できるこ
とはいうまでもない。
【0047】前記ミニカルスから分化した芽を、適宜の
容器中に無菌的に分注した前記固体培地に移植し、無菌
フィルターで封をして、通気性条件下で、例えば、約2
5℃で16時間日長の光照射条件下で培養する。
【0048】この場合の容器としては、試験管、三角フ
ラスコ、ガラスビン、プラスチック容器等が好適に利用
されるが、充分な光透過性を有するものであれば適宜の
ものが利用可能である。培養は、光を断続的に長期間照
射する条件下すなわち、12〜18時間日長、好ましく
は、16時間日長の光照射条件下で行い、温度条件は、
22〜27℃、特に、25℃±1℃が好ましい。
【0049】これらの温度、日照時間等の培養環境を正
確に制御することにより、高い再現性で植物体を増殖さ
せることができるが、特に、培養の温度条件は、重要な
要件であり、25℃±1℃の温度条件が、短茎の植物体
を均一、かつ安定に再生させ、開花させることができる
ことから、特に好ましい。そして、培養の温度条件を、
例えば、20℃以下に低下させると、成長に長時間(3
〜6ヶ月以上)が必要となり、開花時期が遅延すること
が確認された。さらに、この場合、通気性条件が開花時
期の短縮に必須の要件であり、密栓した密閉容器を用い
ても、幼植物体を誘導し、花芽を分化させ、開花させる
ことは困難である。
【0050】以上のように、本発明は、前記第〜の
工程の培養プロセス、及び各工程における培地組成、培
養条件を必須の要件とするものであり、これらのいずれ
を欠いてもスミレ属植物を容器内で開花させることはで
きず、本発明の所期の目的を達成することはできない。
そして、このような培養プロセス、及び各工程における
培地組成、培養条件は、スミレ属植物に特有のものであ
って、これらは、各種植物の組織培養技術、あるいは、
前記トレニア、センニチコウ等の密閉容器内栽培技術等
の従来公知の事項をもってしても到底予期することはで
きないものである。
【0051】次に、試験例を示して本発明の特有の効果
について検証する。 試験例1 (カルスの誘導試験)スミレ属植物として、スミレ(Vi
ola mandshurica)、ヒゴスミレ(Viola cha-erophylloi
des var. sieboldiana) を使用してカルス誘導試験を行
った。常法により無菌的に培養して得た無菌植物体の葉
柄組織から5mm〜10mm程度の材料を採取し、切片
を調製した。
【0052】培地としては、MS改変培地を基本培地
(A)とし、これに、ナフタレン酢酸、及びベンジルア
デニンを所定濃度添加した培地を使用した。なお、基本
培地(A)は、MS培地に、ビオチン0.05重量%、
葉酸0.5重量%添加して改変したMS改変培地に、シ
ョ糖2重量%、寒天0.7重量%を加え、pHを5.8
に調整したものを使用した。常法により加圧蒸気殺菌し
た基本培地を、直径25mmの試験管に20ml分注し
た。
【0053】次いで、前記スミレ、ヒゴスミレの葉柄の
切片を前記試験管内の基本培地上に置床し、室温25
℃、照度4,000Luxの天然昼光色蛍光灯による1
6時間日長の照射条件下で30日間培養してカルスを誘
導させた。その結果を表1に示す。表1から明らかなよ
うに、ナフタレン酢酸0.1〜2.0mg/l、ベンジ
ルアデニン0.1〜6.0mg/lを添加した場合、安
定、かつ高収率でカルスが形成されることが確認され
た。
【0054】
【表1】
【0055】試験例2 (ミニカルス形成試験)前記試験例1で誘導したカルス
15.5gを、前記基本培地(A)に、ナフタレン酢酸
1.0mg/l、ベンジルアデニン1.0mg/lを添
加した液体培地50mlを収納した容積300mlの三
角フラスコ中に加え、25℃で4,000Luxの天然
昼光色蛍光灯で16時間日長照射条件下で、震盪回転数
を変えた条件で、培養を行って、緑色のミニカルスの形
成試験を行った。その結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】表2から明らかなように、震盪回転数10
0rpm以上の高速回転条件の場合に、ミニカルスが形
成されることが分った。
【0058】また、ナフタレン酢酸、ベンジルアデニン
を所定濃度添加し、震盪回転数を130rpmに設定し
て試験した結果を表3に示す。表3から明らかなよう
に、ナフタレン酢酸1.0mg/l、ベンジルアデニン
1.0mg/lの濃度の場合に、ミニカルスが高収率で
形成されることが分った。
【0059】
【表3】
【0060】試験例3 (容器内開花試験)前記試験例2で形成させたミニカル
スをピペットで採取した。一方、前記基本培地(A)
に、寒天0.7重量%加え、pH5.8になるように調
整した後、容積200mlの三角フラスコに50ml分
注して固形培地を形成した。次いで、前記ミニカルス
を、この三角フラスコ内の培地に置床して、室温25±
1℃、天然昼光色蛍光灯による照度4,000Lux、
16時間日長の照射条件下で14〜30日間静置培養し
て、ミニカルスから芽を分化させた。
【0061】次いで、ショ糖1重量%、寒天0.7重量
%添加し、pH5.8に調整し、無機塩濃度を1/2に
調整したMS改変培地に、常法により加圧蒸気殺菌した
培地を、容積200mlの耐熱ガラス製フラスコ容器に
50ml分注した。
【0062】前記ミニカルスから分化した芽を、フラス
コ内の固形培地に置床し、無菌フィルターのミリシール
(ミリポア社製テフロンフィルター)で封をした通気性
条件のもの、及びポリプロピレン製の栓で密栓した密閉
条件のものの2群に分けて、室温25±1℃で4,00
0Lux天然昼光色蛍光灯による16時間日長の照射条
件下で静置培養することにより、幼植物体誘導させ成長
させた後、さらに、昼温度で光照射、及び夜温度で暗所
の条件で育苗培養して花芽の分化、及び開花状態を観察
した。その結果を表4に示す。
【0063】
【表4】
【0064】表4から明らかなように、無菌フィルター
で封をした通気性のある容器を利用した群は、培養開始
後20日間で良好な葉、葉柄の形成、発根が認められ、
ここで温度条件と光照射条件を変えて、さらに2〜3週
間育苗すると、花芽の分化が認められ、その後1週間程
で開花し、短茎で、葉、葉柄、花の形態が良好な植物体
が得られた。なお、ポリプロピレン製の栓で密栓した容
器を利用した群は、正常な植物体を得ることはできなか
った。
【0065】
【実施例】次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説
明する。 実施例1 スミレ(Viola mandshurica)、及びヒゴスミレ(Viola
chaerophylloides va-r. sieboldiana) の培養 前記スミレ属の植物体の葉柄部分を切り取り、7%サラ
シ粉溶液の濾液で15分間滅菌処理した後、無菌水で数
回洗浄した。次いで、葉柄部分を小さく切断し、その葉
柄切片を、ショ糖2重量%、ビオチン0.05重量%、
葉酸0.5重量%含有し、pH5.8に調整されたMS
改変培地を基本培地(A)とし、これに、ナフタレン酢
酸1.0mg/l、ベンジルアデニン1.0mg/lを
添加し、さらに、寒天0.7重量%を含有するカルス誘
導固体培地に置床し、25℃で4,000Luxの天然
昼光色蛍光灯による16時間日長の光照射条件下で1ヶ
月培養した。
【0066】次に、前記により誘導されたカルス13.
5gを、前記基本培地(A)に、ナフタレン酢酸1.0
mg/l、ベンジルアデニン1.0mg/lを添加した
液体培地50ml中に加え、25℃で4,000Lux
の天然昼光色蛍光灯による16時間日長の光照射条件下
に、震盪回転数130rpmの条件で培養を行った。培
養後1週間ごとに、当該培養液中に形成された緑色のミ
ニカルスをピペットで採取し、継代培養を行った。
【0067】次に、前記により採取したミニカルスを、
前記基本培地(A)に寒天0.7重量%を添加し、pH
5.8に調整して形成した分化用固体培地に置床し、2
5℃で4,000Luxの天然昼光色蛍光灯の16時間
日長の光照射条件下で培養して、ミニカルスから芽を分
化させた。
【0068】次いで、前記のようにミニカルスから分化
させた芽を、容器に無菌的に分注した幼植物体誘導及び
成長固体培地に置床し、25℃で4,000Luxの天
然昼光色蛍光灯の16時間日長の光照射条件下に培養し
て、幼植物体誘導させ、成長させた。
【0069】当該幼植物体誘導及び成長固体培地として
は、ショ糖1重量%、寒天0.7重量%添加し、pH
5.8に調整し、無機塩濃度を1/2に調整したMS改
変培地を基本培地とし、これを常法により殺菌し、容積
200mlのガラス製フラスコ容器に分注して形成した
ものを使用した。当該フラスコ容器は、無菌フィルター
のミリシール(ミリポア社製テフロンフィルター)で封
をし、通気性条件下で前記培養を行った。
【0070】培養開始後20〜30日間で、根が伸長
し、葉、葉柄が成長し、ここで温度条件と光照射条件を
前記の開花条件に変えて、さらに2〜3週間育苗したと
ころ、花芽が分化し、さらに1週間程で開花し、発根状
態が良好で、葉、葉柄の形態も良好な短茎タイプの開花
植物体が得られた。
【0071】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明は、スミレ
属植物の植物体の組織切片を特定の培養プロセスで、特
定の培地組成、及び培養条件下に組織培養することによ
って形成されるミニカルスを利用して、スミレ属植物
を、安定、かつ高収率で増殖させるものであり、これに
より、本発明は、従来の交配種にあっては、第2代目以
降種子ができにくく、その増殖が難しいとされていたス
ミレ属植物を、簡便に、しかも、安定、かつ高収率で増
殖させることができる効果を有する。
【0072】また、本発明は、従来の交配種においては
外観や色にバラツキが出て、均一な植物体を量産するこ
とが難しかったスミレ属植物を、その優良株のみを選択
的に、安定、かつ高収率で増殖させることができる効果
を有する。
【0073】また、本発明は、スミレ属植物の交配種の
ように第2代目以降種子ができにくく、その増殖が困難
とされていたものでも、1つの株から均一な植物体を、
安定、かつ高収率で大量に増殖することを可能にすると
共に、通気性のある容器中で短茎のスミレ属植物体を誘
導し、花芽を分化させ、これを開花させることを可能に
したものであり、容器中で開花させ、そのまま観賞用と
することができる効果を有する。
【0074】さらに、本発明のスミレ属植物の大量増殖
方法は、材料の採取から花芽の開花に至るまで組織培養
により無菌的に培養するものであることから、親の植物
体と遺伝的に同一の植物体、及び花を安定してウイルス
フリーの状態で育成させることが可能であり、従来、特
に増殖が困難であった交配優良種を、簡便、かつ大量に
増殖し得ることから、その産業上の有用性はきわめて高
いものである。
【0075】さらに、また、本発明は、植物体の生育に
必要な水分、栄養素等は、固体培地中に添加されている
ので、格別に肥料を与えなくても植物体を生育させるこ
とが可能であることから、本発明の培養技術によれば、
格別の管理を必要とすることなく、短茎で形態の良好な
植物体が、簡便、かつ大量に得られる効果を有する。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平3−262426(JP,A) 安田勲著「花壇作りと花卉栽培第1 版」1976年、養賢堂、第280−281頁 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) A01H 4/00 BIOSIS(DIALOG) JICSTファイル(JOIS)

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 (1) スミレ属植物を容器内で育成して花
    芽を分化させ、開花させ、そのまま鑑賞することができ
    る当該植物の容器内大量増殖方法であって、スミレ属植
    物の無菌状態の植物体の組織の切片を、炭素源を含有
    し、pH調整された合成培地を基本培地(A)とし、こ
    れにオーキシン類とサイトカイニン類とからなる植物ホ
    ルモンを含有せしめたカルス誘導固体培地に置床し、培
    養することにより、カルスを誘導させる工程、(2) 得られたカルスを、前記基本培地(A)にオーキシ
    ン類とサイトカイニン類とからなる植物ホルモンを含有
    せしめたミニカルス誘導液体培地を用いて、震盪回転数
    100rpm以上の条件で培養することにより、ミニカ
    ルスを誘導させる工程、(3) 得られたミニカルスを、前記基本培地(A)からな
    る分化用固体培地に置床し、培養することにより、ミニ
    カルスから芽を分化させる工程、(4) 次いで、ミニカルスから分化した芽を、炭素源を含
    有し、pH調整され、無機塩濃度が1/1以下に調整さ
    れた合成培地を基本培地(B)とした幼植物体の誘導及
    び成長固体培地に置床し、通気性のある容器の中で培養
    することにより、幼植物体を誘導し、これを増殖させる
    工程、からなることを特徴とするスミレ属植物の大量増
    殖方法。
  2. 【請求項2】 炭素源として、ショ糖2重量%を含有
    し、pH5.8に調整された合成培地を基本培地(A)
    とし、これにナフタレン酢酸0.1〜2.0mg/l、
    ベンジルアデニン0.1〜6.0mg/lを含有せしめ
    たカルス誘導固体培地を用いることを特徴とする請求項
    1記載のスミレ属植物の大量増殖方法。
  3. 【請求項3】 植物ホルモンとして、ナフタレン酢酸
    0.1〜5.0mg/l、ベンジルアデニン0.5〜
    5.0mg/lを添加したミニカルス誘導液体培地を用
    いることを特徴とする請求項1記載のスミレ属植物の大
    量増殖方法。
  4. 【請求項4】 ショ糖1重量%を含有し、pH5.8に
    調整され、無機塩濃度が1/2に調整された合成培地を
    基本培地(B)とした幼植物体の誘導及び成長固体培地
    を用いることを特徴とする請求項1記載のスミレ属植物
    の大量増殖方法。
  5. 【請求項5】 各工程の培養を、22〜27℃の温度条
    件、12〜18時間日長の光照射条件下で行うことを特
    徴とする請求項1記載のスミレ属植物の大量増殖方法。
  6. 【請求項6】 植物体の組織の切片が、根、葉、又は葉
    柄の組織切片であることを特徴とする請求項1記載のス
    ミレ属植物の大量増殖方法。
  7. 【請求項7】 合成培地が、MS改変培地であることを
    特徴とする請求項1記載のスミレ属植物の大量増殖方
    法。
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安田勲著「花壇作りと花卉栽培第1版」1976年、養賢堂、第280−281頁

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