JP2745179B2 - 矮化植物体の容器内育苗方法 - Google Patents

矮化植物体の容器内育苗方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、スミレ属植物の矮化植
物体の容器内育苗方法に関するものであり、さらに詳し
くは、スミレ属植物の植物体の組織から組織培養により
得られたカルスを、特定の固体分化培地、幼植物体の誘
導及び成長固体培地を用いて、特定の培養プロセスによ
り培養することにより、従来、種子ができにくく、同系
統のものを大量に増殖することが難しく、優良交配種を
広く普及させることが困難であったスミレ属植物を、容
器内で栽培するのに適するように矮化させ、かつ高収率
で増殖することが可能な組織培養によるスミレ属植物の
矮化植物体の容器内育苗方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、植物体の組織の切片を培地上で無
菌的に培養することにより、不定芽、不定根、花芽、カ
ルス等を誘導し、形成させ、成長させることにより当該
植物を増殖させる、植物の組織培養による増殖方法が、
種々の植物を対象に研究され、これまでに、種々の技術
が開発されている。
【0003】このような植物の組織培養技術の進展に伴
い、当該技術を用いた各種植物の作出方法、増殖方法が
開発され、各々の植物に好適な培地組成、培養条件等が
具体的なものとして確立され、すでに、ウイルスフリー
株の生産、大量繁殖方法等として実用化されているもの
もあり、例えば、ダリア、ジャガイモの茎頂組織培養
(生長点培養)による無病固体の再生、ラン(シンビジ
ウム属)の茎頂組織培養によるプロトコームライクボデ
ィ(原塊体様組織塊PLB)の再生、また、分割増殖に
よって遺伝的に均一な苗の大量増殖技術等、様々な技術
が開発され、実用化されている。
【0004】そして、現在では、このような組織培養技
術は、草花、野菜等の草木類から、果樹、花木、樹木等
の木本類に至るまで、様々な分野で応用されつつあり、
特に、我国では、ラン、カーネーション、キク、ユリ、
シュツコンカスミソウ、セントポーリア、ガーベラ、シ
クラメン、イチゴ等のような栄養繁殖される園芸作物の
苗生産技術を中心として定着化しつつある。
【0005】しかしながら、このような植物の組織培養
技術は、いまだ完成された技術ではなく、未知の分野も
多く、むしろ今後の研究に待つべきところも多い技術で
あって、例えば、ラン科植物の栄養繁殖についても、研
究の進んでいるシンビジウム以外は、培地組成や培養技
術がまだ一般化する程には完成されておらず、また、東
洋系と呼ばれるカンラン、シュンラン等の一群のもの
は、いまだ組織培養による増殖体系は確立されていない
状況にある。
【0006】一般の草花や観葉植物についても、増殖組
織の液体震盪培養による多芽体の形成、ホルモン剤添加
培地での多芽体の誘発、苗の大量増殖等の研究、開発が
活発に行われているが、変異発生の危険性が非常に高い
など今後解決すべき問題は多く残されている。
【0007】また、球根類や多年草で、種子繁殖によっ
て育苗されるシクラメンやプリムラ類などは、遺伝的な
分離で成品に均一性の欠けることや、採取量が少なく、
優良系の種子不足の問題などがあることから、優良固体
を組織培養によって増殖する試みがなされている。
【0008】また、採種用母株の保存維持や、種子繁殖
により生産性の高い野菜のF1 固体や、草花のF1 固体
を、組織培養によって増殖し、栄養繁殖系の苗として供
給することも試みられているが、このような従来の種子
繁殖系を栄養増殖とする技術は、一部実用化されている
程度に過ぎない。
【0009】このように、植物の組織培養技術が、各種
植物の誘導、作出、増殖方法として、広く検討される中
で、各種観賞用植物の組織培養による誘導、増殖技術等
が提案されている。
【0010】すなわち、例えば、有用一年生植物の茎頂
部を摘出し、これを無機塩類組成物及び植物生長ホルモ
ンを含む人工培地に移植し、これを0.5〜10rpm
の回転数にて回転培養して苗条原基を増殖し、得られた
苗条原基を静置培養して苗化することからなる有用一年
生植物の大量増殖方法が提案されている(特開昭59−
132823号公報)。しかしながら、この方法は、主
として苗条原基(Sho-ot primordia)を利用して色素
体、液胞、油体、貯蔵物質等の二次代謝産物からなる有
用物質を人工的に大量生産するものであり、観賞用植物
の増殖については、ペチュニア、アサガオ等に言及して
いるに過ぎない。
【0011】また、植物の組織片より光照射下でカルス
から発芽、発根させて増殖する植物の再分化方法、及び
そのための増殖用培地として、植物ホルモンであるサイ
トカイニン類0.1〜10ppm、及びオーキシン類
0.01〜10ppmを加えたMS培地が提案されてい
る(特開平3−139224号公報)。しかしながら、
これは、キク科植物を短期間に大量に得るために好適な
キク科植物用の特定の培地組成、培養条件等を検討した
ものである。
【0012】また、植物の組織片よりカルスを誘導せし
め、次いで、当該カルスを培養して不定芽を分化せしめ
た後、当該不定芽を培養して幼植物体を得ることからな
る植物の再生方法、及びその種苗の増殖方法が提案され
ている(特開平4−45730号公報)。しかしなが
ら、この方法は、分化させた不定芽を利用するものであ
り、キキョウ属植物を対象としたものである。
【0013】さらに、顕花植物体の組織切片又はこれを
培養して得られる再生植物体の組織切片を培地にて培養
して再分化せしめて再生植物体を得、次いで当該再生植
物体を再分化時とは異なる組成を有する培地で培養して
開花せしめる顕花植物の培養方法が提案されている(特
開平4−30733号公報)。しかしながら、この方法
は、再分化培養に用いる培地、及び開花培養に用いる培
地の培地組成について検討したものであり、対象とする
植物も、ウマノスグサ科、ナデシコ科、ナス科に属する
植物、特にトレニア属植物が例示されているに過ぎな
い。
【0014】しかして、最近、密閉容器中で植物を栽培
して開花させ、そのまま観賞可能とする容器内開花に関
する技術も提案されている。このような提案の例とし
て、例えば、植物体の茎切片を1次基本培地で無菌的に
培養して不定芽を形成させた後、これを特定の無機塩濃
度にし、かつ矮化剤を加えた2次基本培地に置床して天
然昼光色蛍光灯を短日照射し密閉培養することからなる
栽培方法が提案されている(特開昭60−221020
号公報)。しかしながら、この方法は、不定芽を利用す
るものであり、対象とする植物もトレニア(和名ハナウ
リクサ)に限られるものである。
【0015】また、矮化剤を含有させた培土を用いるこ
とを特徴とするミニチュア植物の栽培方法(特開平1−
153024号公報)、ケイトウの無菌の幼植物体の全
草を透視可能な容器中の矮化剤として特定の矮化剤2〜
10ml/lを添加したMS培地に植えつけ、光を断続
的に長期間照射し無菌的に密閉培養することを特徴とす
る矮化けいとうの栽培方法(特開平2−190113号
公報)、等が提案されている。
【0016】さらに、センニチコウの無菌の幼植物体の
全草を透視可能な容器中の矮化剤として特定の成分を添
加したMS培地に植え付け、光を断続的に長期間照射し
無菌的に密閉培養することからなる栽培方法(特開平2
−200121号公報)、ホウセンカの無菌の幼植物体
の全草を透視可能な容器中の矮化剤として特定の矮化剤
0.2〜1.0g/lを添加したMS改変培地に植えつ
け、光を断続的に長期間照射し無菌的に密閉培養するこ
とを特徴とする矮化ホウセンカの栽培方法(特開平3−
285618号公報)、百合の球根を、温度2〜10
℃、湿度60〜80%に保たれた冷蔵庫内で1〜2年保
存することを特徴とする百合の矮化方法(特開平4−8
4836号公報)、等植物体の矮化技術に関する提案が
なされている。しかしながら、これらは、いずれも、特
定の植物体についての矮化条件等を検討したものであ
り、しかも、スミレ属植物に関して検討したものは、こ
れまで、見当たらない。
【0017】このように、植物を密閉容器中で栽培し
て、そのまま観賞可能とする容器内栽培技術を確立する
には、植物を密閉容器内で、安定、かつ高収率で増殖さ
せる技術、密閉容器中で適正に育成させるための矮化技
術、花芽を分化させ、開花させる開花技術等を開発し、
確立することが前提とされるが、そもそも、密閉容器中
で植物を栽培し、開花させることは大変困難であり、こ
れまで、前記のような、矮化トレニアの密閉容器中での
開花、矮化ケイトウの栽培、センニチコウ、ホウセンカ
の密閉容器中での開花等の報告があるものの、現在、密
閉容器中で矮化植物を育成し、観賞用に供されているも
のは花をつけない観葉植物がほとんどである。
【0018】このように、一般に、各種植物を組織培養
により増殖させる技術が開発され、広く普及するに伴
い、各種植物に好適な個有の培養条件等が研究、開発さ
れ、確立されつつあるものの、実用化レベルに至ってい
るものはそれほど多くはなく、まして、植物を密閉容器
もしくは通気性容器中で栽培して花芽を分化させて開花
させ、そのまま観賞することが可能な植物の容器内育成
技術については、その研究例も少なく、ほとんど実用化
されていない状況にある。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】このような状況の中
で、本発明者らは、容器中で植物を栽培して花芽を分化
させ、開花させ、そのまま観賞することが可能な植物の
容器内育成技術を確立することを目標として、その技術
上のベースとなる基礎的技術、すなわち植物を、安定、
かつ高収率で増殖させる方法、安定に矮化させるための
矮化条件、安定に花芽を分化させ、かつ長期にわたって
開花させるための栽培条件等について種々検討するため
にその基礎的研究に着手した。
【0020】本発明者らの研究及びこれまでの知見によ
ると、このような植物の育成技術を確立するには、その
技術上のベースとなる前記のような各種植物の増殖技
術、矮化技術、開花技術等の基礎的技術の開発が大前提
となることはいうまでもないが、これらの各技術は、実
際上、個々の植物の種類によって全く相違するものであ
り、例えば、前記のトレニア、ケイトウ、センニチコ
ウ、ホウセンカ等についても、その栽培方法、栽培条件
を、そのまま他の植物の場合に転用しても、所期の目的
を達成することはほとんど不可能であり、各植物の種類
に応じて、それぞれ個有の栽培方法、栽培条件を開発
し、確立することが必要である。
【0021】このような知見を前提として、本発明者ら
は、各種植物のうちでも、短茎種で容器内での栽培に向
いているにもかかわらず、従来の交配種では第2代目以
降種子ができにくくてその増殖が難しく、また、交配種
においては外観や色にバラツキが出て均一な植物体を作
出することが難しく、従って、優良品種を広く普及させ
ることが難しいことから、これらの点を解決できる新し
い増殖技術の開発が強く要請されていたスミレ属植物に
着目し、これを高収率で増殖させ、容器内で栽培するの
に適した矮化植物体を容器内で育苗する方法を開発する
ことを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、特定の培
養プロセスと特定の培地組成、培養条件を組み合わせる
ことによって、所期の目的を達成し得ることを見い出
し、本発明を完成するに至った。
【0022】すなわち、本発明は、従来、交配により作
出した優良品種の増殖が難しいとされていたスミレ属植
物を、大量に増殖し、その矮化植物体を容器内で育苗す
る方法を提供することを目的とするものである。
【0023】また、本発明は、スミレ属植物の無菌状態
の植物体の組織の切片を組織培養することにより得たカ
ルスを利用し、、当該植物を高収率に増殖し、容器内で
育苗する方法を提供することを目的とするものである。
【0024】さらに、本発明は、スミレ属植物を容器中
で無菌的に培養して花芽を分化させ、開花させ、そのま
ま当該容器中で観賞することが可能な当該植物の容器内
育苗方法を提供することを目的とするものである。
【0025】さらに、また、本発明は、特定の培養プロ
セス、特定の培地組成、及び特定の培養条件下で形成さ
せたスミレ属植物のカルスを利用して、当該植物を高収
率で大量に増殖させ、容器内で花芽を分化させ、開花さ
せる方法を提供することを目的とするものである。
【0026】
【課題を解決するための手段】このような本発明の目的
を達成するための構成は、以下の(1)〜(5)の技術
的手段から成る。 (1)スミレ属植物の植物体の組織から組織培養により
得られたカルス、あるいは芽が分化しつつあるカルス
を、ウニコナゾール溶液に浸漬してから、炭素源を含有
し、pH調整された合成培地を基本培地とする固体分化
培地に置床し、再分化させ、次いで、当該再分化した植
物体を、炭素源を含有し、pH調整され、無機塩濃度が
1/1〜1/5に調整された合成培地を基本とする幼植
物体誘導及び成長固体培地に移植し、無菌フィルターで
封をした通気性のある容器中で育苗することを特徴とす
るスミレ属植物の矮化植物体の容器内育苗方法。
【0027】(2)ショ糖2重量%を含有し、pH5.
0〜6.0に調整された合成培地を基本培地とする固体
分化培地を用いることを特徴とする前記(1)記載のス
ミレ属植物の矮化植物体の容器内育苗方法。
【0028】(3)ショ糖1重量%を含有し、pH5.
0〜6.0に調整され、無機塩濃度が1/2に調整され
た合成培地を基本培地とする幼植物体の誘導及び成長固
体培地を用いることを特徴とする前記(1)記載のスミ
レ属植物の矮化植物体の容器内育苗方法。
【0029】(4)組織培養により得られたカルス、あ
るいは芽が分化しつつあるカルスを、成分濃度20〜2
000mg/lのウニコナゾール溶液に30〜240分
間浸漬した後、固体分化培地に置床することを特徴とす
る前記(1)記載のスミレ属植物の矮化植物体の容器内
育苗方法。
【0030】(5)合成培地が、MS改変培地であるこ
とを特徴とする前記(1)記載のスミレ属植物の矮化植
物体の容器内育苗方法。
【0031】続いて、本発明の構成について詳細に説明
する。一般に、スミレ(菫)というと、スミレ科、特
に、スミレ属植物の総称を意味しており、これらは、ス
ミレ科の多年草で、葉は、卵状長棒円形で、春に葉間に
数本の花茎を出し、頂に濃紫色の花一つをつける。ま
た、スミレ科は、双子葉植物の一科であり、世界に22
属約千種、我国にはスミレ属だけで約50種があり、ま
れに木本で、多くは草木である。
【0032】本発明は、このうち、スミレ属(Viola
属)に属する植物を対象とするものであり、例えば、ア
オイスミレ(V. nondoensis)、アリアケスミレ(V. beto
nicif-olia var. albescens)、ヒゴスミレ(V. chaeroph
ylloides var. sieboldiana)、エイザンスミレ(V. eiza
nesis)、サクラスミレ (V. hirtipes)、コスミレ (V.ja
ponica)、スミレ(V. mandshurica)、コミヤマスミレ(V.
maximovicziana) 、ニオイスミレ (V. ordorata)、シ
ロスミレ (V. partinii)、アカネスミレ (V.phalacroca
rpa)、ミヤマスミレ(V. selkirkii)、ノジスミレ(V. ye
doensis)等の品種が代表的なものとしてあげられる。
【0033】これらのスミレ属植物の植物体の組織の切
片を組織培養することにより、当該カルスを誘導する。
当該植物体の組織の切片としては、通常の植物体の適宜
の器官の組織切片を滅菌処理したもの、あるいは、消毒
種子を無菌的に播種して発芽させた無菌幼苗、当該幼苗
を生育させた植物体の根、葉、葉柄の切片等が、好適に
利用される。
【0034】このようなスミレ属植物の無菌状態の植物
体の組織切片を、合成培地であるMS培地(ムラシゲと
スクーグの基本無機塩培地)をベースとして、炭素源を
含有し、pH調整されたMS改変培地を基本培地(A)
とし、これにオーキシン類とサイトカイニン類とからな
る植物ホルモンを添加し、含有せしめたカルス誘導固体
培地に置床し、特定の培養条件下で培養してカルスを誘
導させる。
【0035】前記MS改変培地は、通常のMS培地をベ
ースとして、葉酸約0.5重量%、ビオチン約0.05
重量%添加して使用したものが好適に使用され、これに
炭素源として、例えば、ショ糖を2重量%添加し、pH
5.0〜6.0、好ましくは、pH5.8に調整し、こ
れを基本培地(A)とする。
【0036】このように、当該基本培地(A)は、前記
MS改変培地、炭素源としてのショ糖が、好適なものと
して使用されるが、これに限らず、これと同等の組成、
もしくは成分のものであれば他の同効の合成培地が同様
に利用できることはいうまでもない。他の同効の合成培
地としては、具体的には、MS培地、B5培地、Nit-sc
h の培地(1965年)が挙げられる。
【0037】当該基本培地(A)に添加される植物ホル
モンとしては、ナフタレン酢酸0.1〜2.0mg/
l、ベンジルアデニン0.1〜6.0mg/lが、好適
に使用されるが、これに限らず、これらと同効の生理活
性を有する他のオーキシン類、サイトカイニン類も、同
様に組合わせて利用できる。他のオーキシン類として
は、インドール酢酸、インドール酪酸、2,4−ジクロ
ロフェノキシ酢酸等が、サイトカイニン類としては、カ
イネチン、ゼアチン、2−イソペンテニルアミノプリン
等が、それぞれ挙げられる。
【0038】このような成分を含有せしめた培地に、支
持材料として、例えば、寒天約0.7重量%を添加し、
pHを前記範囲に調整し、常法により殺菌処理した後、
適宜の容器中に無菌的に分注し、固形化させてカルス誘
導固体培地を調製する。前記支持材料としては、寒天に
限らず、それと同効の成分であれば、ジェランガム等、
適宜のものが利用できる。
【0039】前記のスミレ属植物の無菌状態の植物体の
組織の切片を、当該カルス誘導固体培地に置床し、培養
することにより、カルスを誘導させるが、この場合、2
2〜27℃、好適には25℃±1℃の温度条件、及び1
2〜18時間日長、好適には16時間日長の光照射条件
下で約1ヶ月間培養することにより、安定、かつ高収率
でカルスを誘導することができる。
【0040】次に、前記により得られたカルスあるい
は、芽が分化しつつあるカルスを、ウニコナゾール溶液
(住友化学社製、登録商標スミセブン)に浸漬処理す
る。当該浸漬処理は、成分濃度20〜2000mg/
l、好ましくは20〜200mg/l、のウニコナゾー
ル溶液に30〜240分間、好ましくは60〜120分
間、浸漬することにより行われる。
【0041】次に、前記により浸漬処理したカルスを、
前記基本培地(A)からなるホルモンフリーの固体分化
培地に置床して培養することにより、再分化させる。ホ
ルモンフリーの条件を除き、他は、前記カルス誘導固体
培地と同様のものが使用できるが、必要に応じて、固体
培地中に活性炭0.05〜0.3重量%加えてもよい。
【0042】次いで、前記工程により得られたカルスか
ら再分化した植物体を、炭素源を含有し、pH調整さ
れ、無機塩濃度が1/1以下、好ましくは1/2〜1/
5、に調整され、低減されたMS改変培地を基本培地
(B)とした幼植物体誘導及び成長固体培地を用いて培
養する。
【0043】当該幼植物体誘導及び成長固体培地として
は、例えば、炭素源としてショ糖1重量%を使用し、p
H5.8に調整し、無機塩濃度を1/2に調整したMS
改変培地を基本培地(B)としたものが、好適に使用さ
れる。当該基本培地(B)は、これに限らず、前述のよ
うなこれと同効の合成培地であれば同様に利用できるこ
はいうまでもない。
【0044】前記カルスから再分化した植物体を、適宜
の容器中に無菌的に分注した前記固体培地に移植し、無
菌フィルターで封をして、通気性条件下で、例えば、約
25℃で16時間日長の光照射条件下で培養する。
【0045】この場合の容器としては、試験管、三角フ
ラスコ、ガラスビン、プラスチック容器等が好適に利用
されるが、充分な光透過性を有するものであれば適宜の
ものが利用可能である。培養は、光を断続的に長期間照
射する条件下すなわち、12〜18時間日長、好ましく
は16時間日長、の光照射条件下で行い、温度条件は、
22〜27℃、特に、25℃±1℃、が好ましい。
【0046】これらの温度、日照時間等の培養環境を正
確に制御することにより、高い再現性で植物体を増殖さ
せることができるが、特に、培養の温度条件は、重要な
要件であり、25℃±1℃の温度条件が、短茎の植物体
を、均一、かつ安定に再生させ、開花させることができ
ることから、特に好ましい。そして、培養の温度条件
を、例えば、20℃以下に低下させると、成長に長時間
(3〜6ヶ月以上)が必要となり、開花時期が遅延する
ことが確認された。さらに、この場合、通気性条件が開
花時期の短縮に必須の要件であり、密栓した密閉容器を
用いても、幼植物体を誘導し、花芽を分化させ、開花さ
せることは困難である。
【0047】以上のように、本発明は、前記の各培養プ
ロセス、及び各工程における培地組成、培養条件を必須
の要件とするものであり、これらのいずれを欠いてもス
ミレ属植物を容器内で栽培するのに適するように矮化さ
せ、開花させることはできず、本発明の所期の目的を達
成することはできない。そして、このような培養プロセ
ス、及び各工程における培地組成、培養条件は、スミレ
属植物に特有のものであって、これらは、各種植物の組
織培養技術、あるいは、前記トレニア、ケイトウ、セン
ニチコウ、ホウセンカ等の密閉容器内栽培技術等の従来
公知の事項をもってしても到底予期することはできない
ものである。
【0048】次に、試験例を示して本発明の特有の効果
について検証する。 試験例1 (カルスの誘導試験)スミレ属植物として、スミレ(Vi
ola mandshurica)、ヒゴスミレ(Viola cha-erophylloi
des var. sieboldiana) 等を使用してカルス誘導試験を
行った。常法により無菌的に培養して得た無菌植物体の
葉柄組織から5mm〜10mm程度の材料を採取し、切
片を調製した。
【0049】培地としては、MS改変培地を基本培地
(A)とし、これに、ナフタレン酢酸、及びベンジルア
デニンを所定濃度添加した培地を使用した。なお、基本
培地(A)としては、MS培地に、ビオチン0.05重
量%、葉酸0.5重量%添加して改変したMS改変培地
を使用し、これに、ショ糖2重量%、寒天0.7重量%
を加え、pHを5.8に調整したものを培地として使用
した。常法により加圧蒸気殺菌した基本培地を、直径2
5mmの試験管に20ml分注した。
【0050】次いで、前記スミレ属植物の葉柄の切片を
前記試験管内の基本培地上に置床し、室温25℃、照度
4,000Luxの天然昼光色蛍光灯による16時間日
長の照射条件下で30日間培養してカルスを誘導させ
た。その結果を表1に示す。表1から明らかなように、
ナフタレン酢酸0.1〜2.0mg/l、ベンジルアデ
ニン0.1〜6.0mg/lを添加した場合、安定、か
つ高収率でカルスが誘導されることが確認された。
【0051】
【表1】
【0052】試験例2 (容器内開花試験)前記試験例1で誘導させたカルス
を、所定濃度のウニコナゾール溶液を用いてカルスの浸
漬処理を行い、ウニコナゾール溶液の濃度試験及び浸漬
時間試験(濃度200mg/l)を行った。一方、前記
基本培地(A)に、寒天0.7重量%加え、pH5.8
になるように調整した後、直径25mmの試験管に20
ml分注して固形培地を形成した。次いで、前記分裂し
たカルスを、この試験管内の培地に置床して、室温25
±1℃、天然昼光色蛍光灯により照度4,000Lu
x、16時間日長の照射条件下で20〜30日間静置培
養して、カルスから植物体を再分化させた。
【0053】次いで、ショ糖1重量%、寒天0.7重量
%添加し、pH5.8に調整し、無機塩濃度を1/2に
調整したMS改変培地に、常法により加圧蒸気殺菌した
培地を、容積200mlの耐熱ガラス製フラスコ容器に
50ml分注した。
【0054】前記カルスから再分化した植物体を、フラ
スコ内の固形培地に置床し、無菌フィルターのミリシー
ル(ミリポア社製テフロンフィルター)で封をした通気
性条件のもの、及びポリプロピレン製の栓で密栓した密
閉条件のものの2群に分けて、室温25±1℃で4,0
00Lux天然昼光色蛍光灯による16時間日長の照射
条件下で静置培養し、さらに昼温度で光照射及び夜温度
で暗所の条件で育苗培養することにより、植物体の成育
状態、花芽の分化、及び開花状態を観察した。ウニコナ
ゾール溶液の濃度試験の結果、浸漬時間試験の結果、及
び当該観察結果を、それぞれ表2、表3、表4に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】表4から明らかなように、無菌フィルター
で封をした通気性のある容器を利用した群は、培養開始
後20日間で良好な葉、葉柄の形成、発根が認められ、
ここで温度条件と光照射条件を変えて、さらに2〜3週
間育苗すると、花芽の分化が認められた後、さらに1週
間程で開花し、葉、葉柄、花の形態が良好な植物体が得
られた。なお、ポリプロピレン製の栓で密栓した容器を
利用した群は、正常な植物体を得ることはできなかっ
た。
【0059】
【実施例】次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説
明する。 実施例1 スミレ(Viola mandshurica)、及びヒゴスミレ(Viola
chaerophylloides va-r. sieboldiana) の培養 前記スミレ属植物の植物体の葉柄部分を切り取り、7%
サラシ粉溶液の濾液で15分間滅菌処理した後、無菌水
で数回洗浄した。次いで、葉柄部分を小さく切断し、そ
の葉柄切片を、ビオチン0.05重量%、葉酸0.5重
量%、ショ糖2重量%含有し、pH5.8に調整された
MS改変培地を基本培地(A)とし、これに、ナフタレ
ン酢酸1.0mg/l、ベンジルアデニン1.0mg/
lを添加し、さらに、寒天0.7重量%を含有するカル
ス誘導固体培地に置床し、25℃で4,000Luxの
天然昼光色蛍光灯による16時間日長の光照射条件下で
1ヶ月培養した。
【0060】次に、前記により誘導されたカルスを直径
5mmに分割し、成分濃度100mg/lのウニコナゾ
ール溶液に120分間浸漬した。
【0061】次に、前記により浸漬処理したカルスを、
前記基本培地(A)に寒天0.7重量%を添加し、pH
5.8に調整して形成した固体分化培地に置床し、25
℃で4,000Luxの天然昼光色蛍光灯の16時間日
長の光照射条件下で培養して、カルスから芽を分化させ
た。
【0062】次いで、前記のようにカルスから再分化し
た植物体を、容器に無菌的に分注した幼植物体誘導及び
成長固体培地に置床し、25℃で4,000Luxの天
然昼光色蛍光灯の16時間日長の光照射条件下に培養し
て、幼植物体誘導させ、成長させた。
【0063】当該幼植物体誘導及び成長固体培地として
は、ショ糖1重量%、寒天0.7重量%添加し、pH
5.8に調整し、無機塩濃度を1/2に調整したMS改
変培地を基本培地とし、これを常法により殺菌し、容積
200mlのガラス製フラスコ容器に分注して形成した
ものを使用した。当該フラスコ容器は、無菌フィルター
のミリシール(ミリポア社製テフロンフィルター)で封
をし、通気性条件下に前記培養を行った。
【0064】培養開始後20〜30日間で、根が伸長
し、葉、葉柄が成長し、ここで温度条件と光照射条件を
前述の開花条件に変えて、さらに2〜3週間育苗したと
ころ、花芽が分化し、さらに1週間程で開花し、発根状
態が良好で、葉、葉柄の形態も良好な開花植物体が得ら
れた。
【0065】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明は、スミレ
属植物の植物体の組織切片を特定の培養プロセスで、特
定の培地組成、及び培養条件下に組織培養することによ
って誘導されるカルスを利用して、スミレ属植物を高収
率で増殖させ、容器内で栽培するのに適した矮化植物体
を育苗するものであり、これにより、本発明は、従来の
交配種にあっては、第2代目以降種子ができにくく、そ
の増殖が難しいとされていたスミレ属植物を、簡便に、
高収率で増殖させ、容器内で育苗することができる効果
を有する。
【0066】また、本発明は、従来の交配種においては
外観や色にバラツキが出て、均一な植物体を量産するこ
とが難しかったスミレ属植物を、その優良株のみを選択
的に高収率で増殖させ、容器内で育苗することができる
効果を有する。
【0067】また、本発明は、スミレ属植物の交配種の
ように第2代目以降種子ができにくく、その増殖が困難
とされていたものでも、1つの株から均一な植物体を高
収率で増殖することを可能にすると共に、通気性のある
容器中でスミレ属植物体を誘導し、花芽を分化させ、こ
れを開花させることを可能にしたものであり、容器中で
開花させ、そのまま観賞用とすることができる効果を有
する。
【0068】さらに、本発明のスミレ属植物の容器内育
苗方法は、材料の採取から花芽の開花に至るまで組織培
養により無菌的に培養するものであることから、親の植
物体と遺伝的に同一の植物体、花を安定してウイルスフ
リーの状態で育成させることが可能であり、従来、特に
増殖が困難であった交配優良種を、簡便、かつ大量に容
器内で増殖し得ることから、その産業上の有用性はきわ
めて高いものである。
【0069】さらに、また、本発明は、植物体の生育に
必要な水分、栄養素等は、固体培地中に添加されている
ので、格別に肥料を与えなくても植物体を生育させるこ
とが可能であることから、本発明の培養技術によれば、
格別の管理を必要とすることなく、形態の良好な開花植
物体が、簡便、かつ大量に得られる効果を有する。

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 スミレ属植物の植物体の組織から組織培
    養により得られたカルス、あるいは芽が分化しつつある
    カルスを、ウニコナゾール溶液に浸漬してから、炭素源
    を含有し、pH調整された合成培地を基本培地とする固
    体分化培地に置床し、再分化させ、次いで、当該再分化
    した植物体を、炭素源を含有し、pH調整され、無機塩
    濃度が1/1〜1/5に調整された合成培地を基本とす
    る幼植物体誘導及び成長固体培地に移植し、無菌フィル
    ターで封をした通気性のある容器中で育苗することを特
    徴とするスミレ属植物の矮化植物体の容器内育苗方法。
  2. 【請求項2】 ショ糖2重量%を含有し、pH5.0〜
    6.0に調整された合成培地を基本培地とする固体分化
    培地を用いることを特徴とする請求項1記載のスミレ属
    植物の矮化植物体の容器内育苗方法。
  3. 【請求項3】 ショ糖1重量%を含有し、pH5.0〜
    6.0に調整され、無機塩濃度が1/2に調整された合
    成培地を基本培地とする幼植物体の誘導及び成長固体培
    地を用いることを特徴とする請求項1記載のスミレ属植
    物の矮化植物体の容器内育苗方法。
  4. 【請求項4】 組織培養により得られたカルス、あるい
    は芽が分化したカルスを、成分濃度20〜2000mg
    /lのウニコナゾール溶液に30〜240分間浸漬した
    後、固体分化培地に置床することを特徴とする請求項1
    記載のスミレ属植物の矮化植物体の容器内育苗方法。
  5. 【請求項5】 合成培地が、MS改変培地であることを
    特徴とする請求項1記載のスミレ属植物の矮化植物体の
    容器内育苗方法。
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