JP2996032B2 - 色変化マイクロカプセル分散体を被着した光記録シートおよびそれを用いた光記録方法 - Google Patents

色変化マイクロカプセル分散体を被着した光記録シートおよびそれを用いた光記録方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光刺激によって物質拡
散透過性を制御可能な光応答性マイクロカプセル分散体
を被着した光記録シートおよびそれを用いた光記録方法
に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、フルカラーの記録が可能な記録方
式として、電子写真方式、熱転写方式、インクジェット
方式、光応答性マイクロカプセル方式、熱現像銀塩方式
等種々の方式が提案され、また実用に供されている。
【0003】ところで、フルカラーの記録画像に要求さ
れる主な品質としては、解像度、濃度階調性、色純度、
色重ね度等が挙げられる。また、記録装置の性能とし
て、記録速度が早いこと、音が静かであること、ランニ
ングコストが安いこと、小型で軽量なこと、普通紙およ
び再生紙を使用できること、メンテナンスフリーである
こと等が要求されている。
【0004】しかしながら、上記要求をほぼ満たすよう
なフルカラーの記録装置は、未だ実現されていない。例
えば、熱転写方式では、記録紙のほかにトナーやインク
等の現像剤を担持するフィルムを別に用意する必要があ
るため、装置が大型化し、またメンテナンス作業性およ
びランニングコストの点で劣る。また、圧力定着カプセ
ルトナーを使用する様式では、きわめて大きな圧力を加
える必要があるため、装置が大型化するという問題があ
る。さらに、カプセルトナー方式の場合、カプセルの微
粒子化が困難であることから、解像度や階調性の点で問
題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明は、マ
イクロカプセル単位で発色濃度を制御でき、簡単な装置
により高解像度で階調性の良好な画像を形成でき、高品
質のフルカラーの画像をも形成可能な光記録シートおよ
びそれを用いた光記録方法を提供することを課題とす
る。
【0006】
【課題を解決するための手段および作用】上記課題を解
決するために、本発明では、(1)高分子電解質化合物
によってマイクロカプセルを形成し、(2)高分子電解
質化合物として、アニオン性の化合物を用い、
【0007】(3)高分子電解質膜のアニオン性界面
に、特定波長の光を吸収して電子を放出する電子供与性
物質(ドナー)と、シス−トランス光異性化する電子受
容性物質(アクセプター)を吸着させ、(4)マイクロ
カプセルの外相を構成する結着樹脂中に、マイクロカプ
セルを分散させ、
【0008】(5)マイクロカプセルの内外相に、相互
拡散し互いに発色反応可能な反応性物質を配し、このマ
イクロカプセル分散体を支持シート上に層形成するとい
う基本構成をとっている。
【0009】すなわち、本発明の光記録シートは、
(1)(a)アニオン性高分子電解質膜で形成されたマ
イクロカプセル本体と、(b)前記高分子電解質膜のア
ニオン性界面にこれを実質的に覆うように吸着されたシ
ス−トランス異性化する電子受容性物質からなる光応答
性バルブ膜と、(c)該光応答性バルブ膜内に共存して
前記アニオン性界面に吸着され、特定波長の励起光の照
射によって電子を放出する電子供与性物質とを包含する
光応答性マイクロカプセルを、(2)このマイクロカプ
セルの外相を構成する結着樹脂中に分散させ、(3)前
記マイクロカプセルの内相と外相とに互いに発色し得る
第1および第2の反応性物質を配したマイクロカプセル
分散体を支持シートに被着して形成したものである。
【0010】前記電子受容性物質は、前記励起光の波長
とは異なる波長の光照射によりトランス体からシス体へ
異性化し、これにより該光応答性バルブ膜を密な分子集
合状態にある閉状態から乱れた分子集合状態にある開状
態へ切り換える。またこの電子受容性物質は、少なくと
も前記励起光の照射による前記電子供与性物質と前記電
子受容性物質間での連鎖的な電子リレーによってシス体
からトランス体へ異性化し、これにより該光応答性バル
ブ膜を前記開状態から前記閉状態へ切り換える。
【0011】このような電子受容性物質のシス−トラン
ス異性化に基づく前記光応答性バルブ膜の前記開閉状態
の切り替えにより前記高分子電解質膜を通る前記第1お
よび第2の反応性物質の透過を増減させて前記マイクロ
カプセルの内外相の反応性物質の相互拡散を制御すると
ともに、前記拡散により発色反応を生起させて前記マイ
クロカプセルを色変化させる。
【0012】
【実施例】以下、本発明を図面を参照しながら、実施例
に基づき具体的に説明する。なお、全図を通して、同じ
符号は同じ物を示す。 <第1の実施例>
【0013】図1には、第1の実施例によるモノカラー
の光記録シート40が模式的に示されている。図1に示
されるように、このモノカラーの光記録シート40は、
支持シート41を含む。支持シート41上には、マイク
ロカプセル11を結着樹脂42中に分散させたマイクロ
カプセル分散体43が層として形成されている。マイク
ロカプセル11の内相には、第1の反応性物質12が溶
媒18中に存在し、その外相(すなわち、結着樹脂4
2)には、第1の反応性物質12と発色反応する第2の
反応性物質19が存在する。
【0014】図2に最もよく示されているように、マイ
クロカプセル11は、高分子電解質膜からなるマイクロ
カプセル本体13を包含する。アニオン性高分子電解質
膜13は、マイクロカプセルの壁材であって、その膜厚
は、通常数十μmから数百nmの範囲である。このマイ
クロカプセル壁の材料としては、高分子カルボン酸、高
分子スルホン酸などの高分子アニオン化合物を用いるこ
とができる。このような高分子アニオン化合物を重合に
より形成するモノマーの一例を下記化1〜4に示すが、
これらに限定されるものではない。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
【0019】なお、高分子アニオンは、溶媒中でイオン
解離して界面には厚さ数百オングストロームに及ぶ電気
二重層が形成されており、大きな電位勾配を有する静電
場となっている。
【0020】マイクロカプセル本体(高分子電解質膜)
13の内表面(アニオン性界面)には、シス−トランス
光異性化物質14が吸着されている。シス−トランス光
異性化物質14は、特定の波長の光を吸収して分子内の
結合様式あるいは電子状態に変化を生じ、最終的に分子
の立体構造が変化する物質である。この分子立体構造の
変化を、スチルベンを例にあげて図12に示す。図12
(a)は、スチルベンのトランス状態を表わし、このと
きは、σ結合とπ結合による二重結合を有している。こ
の分子は、紫外線を吸収して図12(b)に示すように
ππ* 遷移し、反結合状態に転じた2つの電子の反発に
より分子平面が図12(c)に示すようにねじれ、エネ
ルギーの高いシス状態になる。また、可視光照射または
暗所にて加熱することによって、このシス状態からエネ
ルギーの低いトランス状態に戻る。
【0021】このようなシス−トランス光異性化物質と
して、アゾベンゼンやスチルベンの各種誘導体が知られ
ているが、本発明においては、シス−トランス光異性化
物質14はアニオン性高分子電解質膜界面において電子
リレーを行なうアクセプター及びメディエーターとして
も機能するものであるから、カチオン性のものを用いる
ことが有用であり、特にピリジニウムイオン部位を含む
もの、例えば、N−メチル−4−(β−スチリル)ピリ
ジニウムイオンなどが好ましい。そのようなシス−トラ
ンス光異性化物質14の具体例を下記化5〜化7に示す
が、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
【化5】
【0023】
【化6】
【0024】
【化7】
【0025】カチオン性のシス−トランス光異性化物質
14は、マイクロカプセル本体13を構成する高分子電
解質のナトリウムなどのカチオンイオンと1対1で交換
され、マイクロカプセル本体13の界面にこれを全面的
に覆って吸着される。
【0026】マイクロカプセル本体13の界面には、さ
らに、ドナー分子15が吸着されている。ドナー分子1
5は、特定波長の吸収によって電子放出する物質であ
り、可視光照射によって励起され電子供与性となる色素
を好ましく用いることができる。そのような色素として
は、例えば、下記化8に示すルテニウムトリスビピリジ
ル錯体、下記化9に示すポルフィリン誘導体、下記化1
0に示す各種金属ポルフィリン錯体を挙げることができ
るが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
【化8】
【0028】
【化9】
【0029】
【化10】
【0030】マイクロカプセル本体13の界面に吸着さ
れているドナー分子15は、可能な限り少ない方が望ま
しく、マイクロカプセル1個当り1分子吸着していれば
十分である。
【0031】さて、以上のように構成されたマイクロカ
プセル11の内相には、上にも述べたように、第1の反
応性物質12が溶媒18とともに封入されている。本例
では、第1の反応性物質12として染料前駆体が用いら
れている。この染料前駆体12は、通常無色であるが、
後に詳述する第2の反応性物質19である顕色剤(酸性
物質)と反応して発色する色素であり、例えばロイコ色
素を好適に使用できる。ロイコ色素としては、フタリド
系、フルオラン系、トリフェニルメタン系、フェノチア
ジン系、スピロピラン系の各染料を例示することができ
る。より具体的には、一般的な感圧紙や感熱紙等に広く
用いられているクリスタルバイオレットラクトン、カル
バゾールブルー、インドリルレッド、ピリジンブルー、
ローダミンBラクタム、マラカイトグリーン、3−ジア
ルキルアミノ−7−ジアルキルアミノフルオラン、ベン
ゾイルロイコメチレンブルーを挙げることができるが、
これらに限定されるものではない。マイクロカプセル内
相中の溶媒18としては、通常、水が用いられる。
【0032】また、マイクロカプセル内相には、補助的
物質17が含まれていてもよい。この補助的物質17
は、染料前駆体12の物性を調整するための各種物質で
あって、例えばマイクロカプセル内相の溶液に適切な粘
度を与えるものであり、温度の上昇によって急激に粘度
が低下する物質であることが好ましい。補助的物質17
としては、市販の各種ワックスや樹脂のポリマーなどを
使用することができる。この物質は、マイクロカプセル
壁の細孔を通過できないほどに大きな分子量のものとす
ることがよい。
【0033】マイクロカプセル11を分散させている結
着樹脂には、第2の反応性物質19が配されている。本
例では、この第2の反応性物質として、顕色剤が用いら
れている。この顕色剤19は、染料前駆体12と化学反
応してこれを発色させる物質であり、α−ナフトール、
β−ナフトール、ビスフェノールA等のフェノール類、
サリチル酸亜鉛誘導体、芳香族カルボン酸金属塩、酢酸
等の酸性物質を用いることができる。かくして、第1お
よび第2のターゲット物質12、19は、マイクロカプ
セル本体13の高分子電界質膜によって隔離されてい
る。
【0034】再び図1を参照すると、以上のように構成
されたマイクロカプセル11を分散させている結着樹脂
(バインダー)42は、後に詳述する光に対して透明な
ものであり、例えばポリビニルアルコール、ポリメチル
スチレン、ポリエステル、カルボキシメチルセルロー
ス、スチレン−ブタジエンラテックスを使用することが
できる。また、支持シート41は、紙や各種フィルムで
形成できる。以下、本実施例の上記モノカラーの光記録
シート40の製造方法の一例を説明する。
【0035】まず、所定の溶媒に第1の反応性物質12
と補助的物質17とを溶かして溶液を調整する。次に、
この溶液中に、カチオン性の光異性化物質14とドナー
分子15とを溶かした溶液を添加し、得られた溶液を前
記所定の溶媒と非混和性の第2の溶媒に混合して、攪拌
などによって重合させることにより、芯物質溶液を得
る。これとは別に、マイクロカプセル壁を形成するモノ
マーを溶媒に溶かし、重合させることにより、ポリマー
溶液を得る。
【0036】次に、芯物質溶液とポリマー溶液とを混合
・攪拌し、ポリマーの貧溶媒を加えることによって、ポ
リマーが芯物質を包み、光異性化物質14とドナー分子
15とがマイクロカプセル壁の内周面に吸着した、本実
施例のマイクロカプセル11が形成される。得られたマ
イクロカプセル11を洗浄して製造時の溶媒や未反応モ
ノマーなどをよく取り除き、洗浄・濾過・乾燥させる。
一方、第2の反応性物質19とバインダー樹脂42とを
溶媒に混合し、得られた溶液に上述のマイクロカプセル
11を分散させる。以上のように得られたマイクロカプ
セル分散体を、支持シート上に層形成する。次に、上記
第1の実施例によるモノカラーの光記録シートの作製例
を記載する。
【0037】まず、第1の反応性物質である染料前駆体
としてのクリスタルバイオレットラクトンを水/エタノ
ール/ジホルムアミドの混合溶媒に溶かし、0.3Mの
溶液10ccを調整する。この溶液に、ナイロン又はポ
リプロピレンを補助的物質として少量加え、粘度を調整
し、さらに、カチオン性光異性化物質としてのN−メチ
ル−4−(β−スチリル)ピリジニウム クロライド
15μmolと、ドナー分子としてトリス(2,2−ビ
ピリジン)ルテニウム ジクロライド 0.1μmol
とを溶かす。この溶液をベンゼン30cc中に投入し、
攪拌又は超音波照射などの方法で乳化した後、自然冷却
して、光異性化物質とドナー分子とを含む芯物質溶液が
得られる。
【0038】次いで、マイクロカプセル壁モノマーとし
て、アクリル酸5gを使用し、このモノマーをベンゼン
30cc中に溶かす。さらに重合開始剤としてアゾビス
(イソブチロニトリル)を加え、60℃に加熱して5時
間程度保つことにより、ポリアクリル酸を含む溶液が得
られる。
【0039】芯物質溶液にポリアクリル酸溶液を加えて
攪拌し、次にポリアクリル酸の貧溶媒であるヘキサン5
0ccをゆっくり加える。その結果、コアセルベーショ
ンによってポリアクリル酸が芯物質を包み、その表面に
沈殿してポリアクリル酸からなるマイクロカプセル壁が
形成される。生成したマイクロカプセル壁の内表面に
は、カチオン性光異性化物質とドナー分子とが吸着され
る。生成したマイクロカプセルをエタノールでよく洗浄
した後、濾過・乾燥させる。
【0040】次に、マイクロカプセル外相に配するべき
第2の反応性物質である顕色剤としてのビスフェノール
Aと結着樹脂としてのポリエステル樹脂とを、アセトン
とトルエンとの混合溶媒に溶解し、この混合溶液の中
に、上で得たマイクロカプセルを加えて均一に分散させ
る。最後に、この分散液を支持シートとしてのポリエチ
レンテレフタレートフィルムに塗布し、乾燥して、本例
のモノカラーの光記録シートを得る。
【0041】さて、次に、以上のように構成された本発
明の光記録シートを用いた光記録方法を図面を参照して
説明するが、まず初めに、マイクロカプセル単体の発色
作用について述べる。 (I)マイクロカプセル単体の発色作用について(図2
ないし図6参照。): (a)初期状態(図2)
【0042】熱的に安定な初期状態では、スチルベン誘
導体等の光異性化物質14は、平面的分子形態のトラン
ス状態で安定しており、密に分子凝集しているため、光
異性化物質14は緻密な集合状態となっている。それ
故、この光異性化物質14からなる単分子膜の物質透過
性は低い。すなわち、光異性化物質14の単分子膜は、
マイクロカプセルの物質透過に関していわば閉状態にあ
る。
【0043】また、マイクロカプセル内には、染料前駆
体12が適切な粘性を付与する補助的物質17と共に分
散しており、常温においては、芯物質の粘性が高いため
に、物質透過性も低く、また、バインダー樹脂中に分散
された顕色剤は固体なので、拡散しない。
【0044】従って、初期状態では、マイクロカプセル
内相物質(染料前駆体)12とマイクロカプセル外相物
質(顕色剤)19とは、マイクロカプセル膜によって充
分に隔離される。 (b)第1の光(hν1 )の照射(シス異性化)(図
3)
【0045】適当な第1の光源から、波長ν1 のスペク
トル成分光を含む光hν1 をマイクカプセル11に照射
する。これにより、光異性化物質14が波長ν1 の成分
光を1分子吸収すると、励起されて分子の立体構造が変
化する、すなわちシス状態に異性化する。なお、例えば
スチルベン誘導体の場合、波長ν1 に相当する光は、紫
外領域にある。このシス状態では、スチルベンは、既に
説明したように、トランス状態で2つのベンゼン環が存
在していた平面に対して2つのベンゼン環部分が、立ち
上がった構造をとる。この相互の立体障害のためにスチ
ルベン誘導体の分子凝集は、ゆるくなって乱れた膜構造
となり、物質がその乱れた膜構造部分を通過し易くなる
ので、スチルベン誘導体の膜の物質透過性が高くなる。
すなわち、光異性化物質14の単分子膜は物質透過に関
し開状態に切り替わる。
【0046】しかしながら、この状態でも、芯物質の粘
性が高いために、マイクロカプセル全体としては物質透
過性は低く、さらに顕色剤19は固体であるために拡散
しない。なお、この過程において、ドナー分子15は関
与しない。
【0047】さらにここで、シス状態の光異性化物質の
量をコントロールするために、第2の光源から光照射し
て、一部のマイクロカプセル膜上の光異性化物質14を
トランス化することもできる。 (c)発色反応の開始・進行(加熱)(図4)
【0048】次に、マイクロカプセル分散体を芯物質の
粘性相転移温度Tc以上の温度に加熱する。この場合、
Tcは、光異性化物質14が元の立体状態(トランス状
態)に戻る臨界温度よりも充分に低い必要があり、この
点を考慮して補助的物質17を選定する。
【0049】こうして加熱によりマイクロカプセル内相
物質の粘性が下がって分子拡散性が高くなり、顕色剤1
9も溶融して拡散可能となる。また、既に光異性化物質
14の物質拡散性も上記照射により既に高く(すなわ
ち、開状態に)なっているので、マイクロカプセル内相
物質(染料前駆体)12とマイクロカプセル外相物質
(顕色剤)19が、マイクロカプセル膜を通して互いに
拡散し始めるようになる。
【0050】時間の経過とともに、マイクロカプセル外
相物質である顕色剤19は、マイクロカプセル内相中へ
拡散してゆく。また、マイクロカプセル内相物質である
染料前駆体12も、マイクロカプセル外相中へ拡散して
ゆく。その結果、染料前駆体12と顕色剤19とが化学
反応して色素24を形成し、発色する。なお、マイクロ
カプセル内相物質12とマイクロカプセル外相物質19
それぞれの拡散量、従って発色量は、それぞれの分子の
サイズやマイクロカプセル内外相の浸透圧差等によって
異なるが、両物質の総拡散量(発色濃度)は、拡散時間
tにより制御できる。 (d)発色反応の停止(冷却)(図5)
【0051】次いで、カプセル分散体全体を芯物質の粘
性転移温度Tc以下に冷却する。冷却によって、芯物質
の粘性が高くなり、顕色剤も固体に戻る。したがって、
マイクロカプセル内相物質(染料前駆体)12と、マイ
クロカプセル外相物質(顕色剤)19との拡散は停止す
る。 (e)第2の光(hν2 )の照射(電子リレーによるト
ランス異性化:発色反応の停止)(図6)
【0052】本発明において、上記物質拡散、従って発
色反応を停止させるためには、適当な第2の光源から、
波長ν2 のスペクトル成分光を含む第2の光hν2 を照
射する。
【0053】一般に、光異性化物質14を元の立体分子
構造に戻すためには、上記波長ν1とは異なる波長の光
を吸収させるか、あるいは特定の温度以上に加熱する必
要がある。本発明においては、ドナー分子15を励起す
る波長の光(hν2 )を照射するものである。上記作製
例で用いたルテニウム錯体の場合、hν2 に相当する光
は可視光領域にある。
【0054】この第2の光の照射によってドナー分子1
5が1光子吸収して励起状態になると、このドナー分子
15から、アクセプターであるシス−トランス光異性化
物質14へ1電子移動が行なわれる。そして、さらに、
アニオン性静電場の効果によりアクセプター14からド
ナー15への逆電子移動が抑制される結果、一群のシス
状態の光異性化分質14の間で電子の受渡しが順次リレ
ー的に行なわれる。この電子リレーを、図7を参照して
説明する。
【0055】図7(a)に示すように、アニオン性両親
媒性分子S- 界面に、ドナー分子D+ と、シス−トラン
ス異性を起こすアクセプター分子A+ とが吸着してい
る。このとき、アクセプター分子A+ は、シス状態であ
る。このドナー分子に可視光を照射することによって、
一光子吸収したドナー分子D+ が励起して励起種D*
生成する。
【0056】続いて、図7(b)に示すように、励起種
* からアクセプター分子A+ へ一電子移動が行なわれ
た後、一群のシス状態のアクセプターの間で電子の受け
渡しが順次リレー的に行なわれる。すなわち、シス状態
のアクセプター分子A+ は、一旦電子を受けとって中間
過程 ・Aとなり、次に隣接するシス状態のアクセプター
分子に電子を渡す(酸化)過程において、トランス状態
に立体異性を起こす。
【0057】最終的には、図7(c)に示すように、全
てのアクセプター分子はトランス状態となる。つまり、
一光子の吸収がトリガーとなって、多数のアクセプター
分子が連鎖的にシス状態からトランス状態への異性化を
行なうことになる。
【0058】本発明においては、この電子リレーによっ
て、最終的に、マイクロカプセル本体13の界面に吸着
された全てのシス状態の光異性化物質14がトランス状
態に異性化する。
【0059】スチルベン誘導体等の光異性化物質14
は、トランス状態で密に分子凝集するので、光異性化物
質14の単分子膜は、緻密な膜構造に戻り、閉状態に切
り替わる。このため、物質透過性は低くなり、染料前駆
体12および顕色剤19はマイクロカプセル膜を透過し
にくくなり、物質拡散(発色の進行)は完全に停止す
る。
【0060】すなわち、1光子のみの吸収によって、マ
イクロカプセル本体13の界面に吸着された多数のシス
状態の光異性化分質14が連鎖的にトランス状態へ異性
化し、マイクロカプセル膜の物質透過性が減少して物質
拡散が停止することになる。従って、きわめて高感度の
光応答性が得られるものである。この場合のシス−トラ
ンス光異性化の量子効率は、マイクロカプセル上の光異
性化分質14の吸着数で与えられるから、マイクロカプ
セル本体13を構成する高分子電解質のアニオンサイト
数と比例関係にあり、大きな重合度のマイクロカプセル
本体13を形成すれば、より高い量子効率が得られるこ
ととなる。このように、光異性化物質14の分子膜は、
照射された光に応答して開閉状態が切り替わり、物質透
過に対するバルブの役割をなす。
【0061】なお、本発明において、シス−トランス異
性化は、ドナー色素分子により分光増感されているの
で、励起波長が異なるドナー色素分子を用いることによ
り光応答波長を容易に変えることができるという利点も
ある。 (II)複数のマイクロカプセルの発色反応による記録
方法について(図8): (a)初期状態(図8のST1)
【0062】上記(I)(a)に述べたように、熱的に
安定な初期状態では、マイクロカプセル11の物質透過
性は低い。また、常温においては、芯物質の粘性が高い
ために染料前駆体の拡散性も低く、バインダー樹脂中に
分散された顕色剤は固体なので拡散しない。従って、マ
イクロカプセル内相物質(染料前駆体)12はマイクロ
カプセル外相へ拡散せず、また、マイクロカプセル外相
物質(顕色剤)19もマイクロカプセル内相へ拡散しな
い。従って、光記録シートに色変化は生じない。 (b)第1の光(hν1 )の照射(シス異性化)(図8
のST2)
【0063】適切な光源から、記録情報に応じて波長ν
1 のスペクトル成分光を含む光hν1 をマイクロカプセ
ル11内に照射することにより、マイクロカプセル11
に吸着している全ての光異性化物質を励起してシス状態
に異性化させ、光異性化物質の単分子膜を開状態に切り
換える。しかしながら、上記(I)(b)に述べたよう
に、マイクロカプセル11全体としては、物質透過性は
低いので、マイクロカプセル内相物質(染料前駆体)1
2はマイクロカプセル外相へ拡散せず、また、マイクロ
カプセル外相物質(顕色剤)19もマイクロカプセル内
相へ拡散しない。従って、この状態でも光記録シートに
色変化は生じない。 (c)第2の光(hν2 )の照射(電子リレーによるト
ランス異性化)(図8のST3)
【0064】適切な光源から、波長ν2 のスペクトル成
分光を含む第2の光hν2 をその強度を制御しながらマ
イクロカプセル11に照射する。図8には、照射強度の
異なる2つの例を示してある(図中、系統a(上段)は
光の照射強度の高い場合を、系統b(下段)は光の照射
強度の低い場合を示す)。
【0065】ドナー分子は、その固有の吸光率で光を吸
収し、光励起されるので、充分に短い光照射時間では全
てのマクロカプセル11におけるドナー分子が励起状態
になるものではない。ドナー分子が励起されたマイクロ
カプセル11では、シス状態の光異性化分質全てが電子
リレー反応によってトランス異性化し、光異性化物質の
単分子膜は閉状態に切り替わる。ドナー分子が励起され
なかったマイクロカプセル11では、光異性化物質は、
シス状態のままであり、光異性化物質の単分子膜は開状
態のままである。トランス異性化するマイクロカプセル
11の量は、照射強度の高い(系統a)方が、照射強度
の低い場合(系統b)よりも多い。このように、光の照
射強度を制御することによりマイクロカプセル分散体の
トランス異性化するマイクロカプセルの量を制御でき
る。なお、この過程は、電子リレー反応に基づくもので
あるので、きわめて高感度の光応答性が得られる。 (d)発色反応の開始・進行(記録)(図8のST4)
【0066】次に、上記I(c)に述べたように、マイ
クロカプセル分散体を相転移温度Tc以上の温度に加熱
して、マイクロカプセル内相物質の粘度を低下させる。
これによって、染料前駆体の拡散性が高くなり、バイン
ダー樹脂中に分散された顕色剤は溶融して拡散可能とな
る。
【0067】このとき、光異性化物質がトランス状態に
異性化しているマイクロカプセルにあっては、マイクロ
カプセル全体としては物質の透過性が低い状態にあるの
で、物質の膜透過拡散を生じさせず、従って、光記録シ
ートの色変化には関与しない。他方、光異性化物質がシ
ス状態のままにあるマイクロカプセルでは、マイクロカ
プセル膜の物質透過性が高くなるので、染料前駆体12
と顕色剤19とがマイクロカプセル膜を透過して相互に
拡散し始める。その結果、染料前駆体12と顕色剤19
とが化学反応して色素24を生成し、発色する。
【0068】かくして、II(c)の段階でトランス異
性化しなかったマイクロカプセル11の量に従って色素
の生成量が定まることとなる。また、色素24の生成量
は、時間の経過とともに増加し、発色濃度も高まるの
で、光記録シートの発色濃度は、拡散時間tによっても
制御することができる。なお、色素は、マイクロカプセ
ル11の周辺において生成するので、光記録シート全体
としてみれば、第2の光hν2 の未照射部分が最も濃く
発色することとなる。すなわち、光hν2 の照射・未照
射、照射強度、または照射時間を制御することにより、
発色濃度を精密に制御でき、それにより精細な濃度階調
性を有する記録画像を得ることができる。 (e)発色反応の停止(図8のST5) 加熱を停止し、マイクロカプセル分散体の温度が芯物質
の相転移温度Tc未満になると、マイクロカプセル内相
物質の粘性が元に戻り、顕色剤も固体に戻る。その結
果、マイクロカプセルの物質透過性が低下し、光記録シ
ートの色変化は停止する。 (f)潜在的記録情報の消去(図8のST6) 適切な光源から、波長ν2 のスペクトル成分光を含む第
2の光hν2 を充分な強度で、または充分な時間マイク
ロカプセル11内に照射する。
【0069】すると、全てのドナー分子が励起して、全
てのマイクロカプセル11の全ての光異性化物質が電子
リレー反応によりトランス異性化し、光異性化物質の単
分子膜は閉状態に切り替わる。その後は、再びマイクロ
カプセル11(光記録シート)をTc以上の温度に加熱
してもマイクロカプセルの物質透過性が低くなっている
ため、拡散による発色反応は生じない。すなわち、各々
のマイクロカプセル11に潜在的に記録された発色に関
する情報が消去されることとなる。
【0070】以上述べたように、第1の実施例によれ
ば、マイクロカプセル本体13上に吸着された光異性化
物質14を異性化させる励起光を記録情報に応じて照射
するとともに、照射量等を調節することにより色変化マ
イクロカプセル分散体の色変化、すなわちマイクロカプ
セル内外相に分離配剤させた染料前駆体12と顕色剤1
9との相互拡散に基づく発色反応を精密に制御でき、精
細な濃度階調性を有する高解像度のモノカラーの光記録
画像を容易に得ることができる。また、光異性化物質1
4は、マイクロカプセル本体13の界面を単分子膜状に
覆って存在し、これが物質拡散の透過に対するバルブの
役割をし、しかもトランス異性化に電子リレーを利用し
ているのでマイクロカプセルの感度も非常に高い。
【0071】図9は、上記光記録方法を実施するための
光記録装置の一具体例を概略的に示す模式図である。同
図に示されるように、マイクロカプセル分散体が初期状
態にあるモノカラーの光記録シート40が、光記録シー
ト搬送経路51に沿って給送されてくる。この光記録シ
ート40に対し、まずシス異性化用光源装置52により
波長ν1 の成分光を含む第1の光hν1 を照射する(図
8のST2に対応)。本例の波長ν1 の成分光に相当す
る光hν1 は、紫外領域光である。従って、光源装置5
2として、レーザー光源、光変調機、スキャニング装置
および集光光学系等からなるレーザー照射装置を用いる
場合、紫外線レーザーを光hν1 として照射すればよ
い。
【0072】ついで、第1の光照射を受けた光記録シー
ト40に、記録情報に応じて光記録ヘッド53により波
長ν2 の第2の光hν2 を照射する(図8のST3に対
応)。本例の波長ν2 の成分光に相当する光hν2 は、
可視領域光である。従って、光記録ヘッド53として、
レーザー光源、光変調機、スキャニング装置および集光
光学系等からなるレーザー記録ヘッドを用いる場合、可
視レーザーを光hν1として照射すればよい。
【0073】第2の光照射を受けた光記録シート40
は、その後、下流側に配設された一対のヒートロール5
4aおよび54bを有する加熱手段54で加熱され、こ
れによりモノカラーの記録画像が光記録シート上に形成
される(図8のST4に対応)。その後、光記録シート
は冷却され、これにより、発色反応が停止し、モノカラ
ーの記録画像の発色濃度が確定する(この作用を定着作
用という)(図8のST5に対応)。モノカラーの記録
画像が形成された記録シート40は、第2の光hν2
照射する光源を備えた記録情報消去手段55により再び
第2の光hν2 の照射を受けて、潜在的記録情報が消去
される(図8のST6に対応)。定着を終え記録画像が
完成したモノカラーの光記録シートは、その後機外に排
出される。
【0074】このように、本例の光記録方法によれば、
主な画像形成プロセス装置が光源、光記録ヘッドおよび
加熱手段によって構成されるきわめて簡単な構造である
光記録装置により、高解像度で精細な濃度階調を有する
モノカラーの記録画像を得ることができる。
【0075】なお、加熱手段54による加熱時間によっ
ても物質分子の総拡散量が決まるから、この加熱時間、
すなわちモノカラーの光記録シートの搬送速度を調節す
ることによってもマイクロカプセルの発色濃度を制御す
ることができる。
【0076】なお、以上述べた第1の実施例では、マイ
クロカプセル内相物質を染料前駆体とし、マイクロカプ
セル外相物質を顕色剤とする構成を取ったが、マイクロ
カプセル内相物質を顕色剤とし、マイクロカプセル外相
物質を染料前駆体としても、全く同様の効果が得られ
る。さらに、マイクロカプセル膜の外周面に光異性化物
質14とドナー分子15とを吸着させた構造とすること
もできる。 <第2の実施例>この実施例は、フルカラーに色変化可
能なマイクロカプセル分散体を被着したフルカラーの光
記録シートを用いた光記録方法に関するものである。
【0077】図10に示すように、本例の光記録シート
40は、3原色に対応させて3種類のマイクロカプセル
を結着樹脂42中に分散させ、これを支持シート41上
に塗布したものである。図10では、3種類のマイクロ
カプセル11a、11b、11cを示してある。なお、
この実施例では、染料前駆体をマイクロカプセル内相
に、顕色剤をマイクロカプセル外相に配した構成として
ある。
【0078】このような応答波長の異なるマイクロカプ
セルは、それぞれ励起波長が異なるドナー分子を用いる
ことによって作製できる。各マイクロカプセル11a、
11b、11cの内相には、それぞれ異なる発色性物質
すなわちイエロー、マゼンタ、シアンに発色する染料前
駆体12a、12bおよび12cが溶媒(図示せず)に
溶解されて存在する。マイクロカプセル外相には顕色剤
(図示せず)が、溶媒(バインダー樹脂)に溶解されて
存在する。
【0079】以上の構成のフルカラーの光記録シートを
用い、例えば図11に示す光記録装置によりフルカラー
の記録画像を得ることができる。このフルカラーの記録
装置は、図9に示す記録装置と同様、光記録シート40
を給送する光記録シート搬送経路51、シス異性化用光
源(紫外光源)装置52と、記録ヘッド53を有し、記
録ヘッド53の下流側には、加熱手段54と、さらに下
流側に記録情報消去手段55を備える。但し、記録ヘッ
ド53は、マイクロカプセル11a、11bおよび11
cのドナーのそれぞれの励起波長に対応した波長ν2a
ν2bおよびν2cの光hν2a、hν2bおよびhν2cをそれ
ぞれ照射する3基の単色光源53a、53bおよび53
c(可視光源)を有し、記録情報消去手段55もマイク
ロカプセル11a〜11cの各ドナーそれぞれの励起波
長に対応した波長ν2a、ν2bおよびν2cの光hν2a、h
ν2bおよびhν2cを照射する3基の単色光源を備える。
さて、次に、以上の構成の光記録シート40の光記録方
法を図10〜図11を参照して説明する。 (a)初期状態
【0080】まず、図11に示す搬送経路51に沿って
初期状態のフルカラーの光記録シート40が給送されて
くる。先に説明した通り、熱的に安定な初期状態では、
マイクロカプセル膜の物質透過性は低く、マイクロカプ
セル内相の染料前駆体12a〜12cとマイクロカプセ
ル外相の顕色剤は各マイクロカプセル膜により隔離され
ているので、光記録シート40に色変化は生じず、光記
録シート40は、支持シート41の色に見える。 (b)第1の光(hν1 )の照射(シス異性化)
【0081】図11に示すシス異性化用光源装置52か
ら、波長ν1 のスペクトル成分光を含む光hν1 を光記
録シート40中のマイクロカプセル11a〜11c全体
に照射して、全てのマイクロカプセル11a〜11cの
全ての光異性化物質を励起しシス状態に異性化させる
(すなわち、光異性化物質からなる光応答性バルブ膜を
すべて開状態に切り換える)。しかしながら、マイクロ
カプセル11a〜11c全体としては、先に説明した通
り、なお物質透過性は低いので、マイクロカプセル内相
の染料前駆体12a〜12cはマイクロカプセル外相へ
拡散せず、またマイクロカプセル外相の顕色剤も固体な
のでマイクロカプセル内相へ拡散しない。従って、光記
録シートに色変化は依然生じない。なお、この過程にお
いては、ドナー分子は関与しない。 (c)第2の光(hν2a、hν2b、hν2c)の選択照射
(電子リレーによるトランス異性化)(図10の
(A))
【0082】図11に示す記録ヘッド53を構成する光
源53a〜53cから、記録情報に応じて、発色させる
べきマイクロカプセルの励起波長の光を除き、波長ν2a
〜ν2cの光hν2a〜hν2cの内の2種類の光を重ねてそ
れぞれドット単位でマイクロカプセル11a〜11cに
照射する。各ドナー分子は、その固有の波長依存性のあ
る吸光率で光を吸収し、光励起され、その結果光異性化
物質をトランス異性化させるので、光hν2bおよび光ν
2cを重ねて照射した1ドット領域Raでは、マイクロカ
プセル11bおよび11cがトランス異性化し、マイク
ロカプセル11aはシス状態のまま残る。同様に、光h
ν2cおよび光hν2aを重ねて照射した1ドット領域Rb
では、マイクロカプセル11cおよび11aがトランス
異性化し、マイクロカプセル11bはシス状態のまま残
り、また光hν2aおよび光hν2bを重ねて照射した1ド
ット領域Rcでは、マイクロカプセル11aおよび11
bがトランス異性化し、マイクロカプセル11cはシス
状態のまま残る。このように、トランス異性化するマイ
クロカプセルの種類を照射する励起光の選択により制御
し、特定のマイクロカプセルのみをシス状態のまま残す
ことができる。なお、この過程は、電子リレー反応に基
づくものであるので、きわめて高感度の光応答性が得ら
れる。 (d)物質拡散の開始・進行(図10の(B))
【0083】次に、光記録シート40を図11に示す加
熱手段54によりマイクロカプセル内の芯物質の相転移
温度Tc以上の温度に加熱する。これにより、マイクロ
カプセル11a〜11c内の芯物質の粘性が低下して染
料前駆体の拡散性が高くなり、また、バインダー樹脂中
に分散された顕色剤は溶融して拡散可能になる。
【0084】このとき、各ドット領域において光異性化
物質がトランス異性化しているマイクロカプセル11a
〜11cにあっては、マイクロカプセル膜全体としては
物質の透過性が低い状態にあるので、光記録シート40
の色変化には関与しない。他方、各ドット領域において
光異性化物質がシス状態のままにあるマイクロカプセル
11a〜11cでは、マイクロカプセル膜の物質透過性
が高くなるので、顕色剤と染料前駆体12a〜12cが
マイクロカプセル膜を透過して相互に拡散し始め、両者
が反応して色素24a〜24cを生成し、発色する。す
なわち、ドット領域Raでは、染料前駆体12aと顕色
剤のみが相互拡散し反応してイエロー色素24aを生成
し、ドット領域Rbでは、染料前駆体12bと顕色剤の
みが相互拡散し反応してマゼンタ色素24bを生成し、
ドット領域Rcでは、染料前駆体12cと顕色剤のみが
相互拡散し反応してシアン色素24cを生成する。この
ように、カプセル周辺においてそれぞれ特有の色素が生
成されるので、光記録シートの記録光の未照射部分が最
も濃く発色することになる。
【0085】従って、上記第2の光照射の段階で定まっ
たトランス異性化したマイクロカプセルの種類に支配さ
れて、染料前駆体12a〜12cと顕色剤との反応が進
行し、それぞれに固有の色を有する色素24a〜24c
を生成することとなる。
【0086】すなわち、上記第2の光照射の段階でトラ
ンス異性化しなかったマイクロカプセル11a〜11c
の種類と量に支配されて、染料前駆体による色素の生成
量が決まることとなる。また、色素24a〜24cの生
成量は、時間の経過とともに増加し、発色濃度も高まる
ので、光記録シート40の発色濃度は、拡散時間によっ
ても制御することができる。 (e)物質拡散の停止 加熱を停止し、マイクロカプセル分散体の温度が芯物質
の相転移温度Tc未満になると、芯物質の粘性が元に戻
り、顕色剤も固体に戻る。その結果、マイクロカプセル
膜の物質透過性が低下し、光記録シート40の発色反応
は停止する。 (f)第2の光(ν2a、ν2b、ν2c)の充分な照射(潜
在的光記録情報の消去)
【0087】図11に示す記録情報消去手段55から、
波長ν2a、ν2b、ν2cの光を充分な強度でまたは充分な
時間重ねて照射することによって全てのマイクロカプセ
ル11a〜11cのドナー分子を励起し、それにより全
てのマイクロカプセル11a〜11cの全ての光異性化
物質を電子リレー反応によりトランス異性化させる(す
なわち、光応答性バルブ膜が閉状態に切り替わる)。こ
の後は、再びマイクロカプセル溶液をTc以上の温度に
加熱してもマイクロカプセル膜の物質透過性が低くなっ
ているため、拡散による発色反応は生じない。すなわ
ち、各々のマイクロカプセル11a〜11cに潜在的に
記録された発色に関する情報が消去されることとなる。
【0088】以上述べた第2の実施例の構成によれば、
波長ν2a、ν2b、ν2cの光の選択照射により電子リレー
マイクロカプセルによる発色反応のスイッチングをそれ
ぞれ独立に制御できる。
【0089】なお、上記第2の実施例において、工程
(c)では、各ドット領域には2種類の励起光を重ねて
照射して1種類の染料前駆体と顕色剤とを反応させて1
種類の色素を得るようにしたが、工程(c)で各ドット
領域に1種類のみの励起光を照射することにより、2種
類のマイクロカプセルの染料前駆体と顕色剤とを反応さ
せて2色を同時に発色させることができる。また、工程
(c)で励起光を全く照射しない場合は、加熱器54に
おける加熱により3種類全てのマイクロカプセルの染料
前駆体と顕色剤が反応して3色を同時に発色させること
ができる(図10の(C))。さらに、黒色色素を生成
するマイクロカプセルを共存させてもよい。また、マイ
クロカプセル内相物質として顕色剤を配し、マイクロカ
プセル外相物質として染料前駆体を配してもよい。以上
のようにして、例えば上述の3種の染料前駆体を3原色
としてそれぞれ拡散制御することにより、各種の色変化
を制御することができる。
【0090】
【発明の効果】本発明によれば、高分子電解質膜のイオ
ン性界面の静電場においてドナー分子からの一電子移動
がトリガーとなって隣接する一群のアクセプター分子の
間で電子リレーによる連鎖的トランス異性化が生じるこ
とを利用し、特定波長の光照射によって、マイクロカプ
セル界面に吸着された光異性化物質の分子薄膜の膜透過
性の変化(開閉状態の切り換え)を生起させてマイクロ
カプセル内外相の発色反応性物質の相互拡散を制御する
ようにしたので、マイクロカプセル膜を透過する発色反
応性物質の拡散量を特定波長の光照射により精密に制御
でき、もって簡単な装置により高解像度で階調性の良好
な画像を形成でき、高品質のフルカラーの画像をも形成
可能な光記録シートが得られる。そして、そのような光
記録シートを用い、記録情報に応じて光を制御して照射
することにより、精細な階調性を有する高解像度のフル
カラーの記録画像も簡単な装置で安価に得ることができ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例による光記録シートを示
す模式図。
【図2】上記第1の実施例による光記録シートに使用さ
れるマイクロカプセルの拡大詳細図(本発明の第1の実
施例による光記録シートにおけるマイクロカプセル分散
体の発色作用を説明する段階説明図)。
【図3】本発明の第1の実施例による光記録シートにお
けるマイクロカプセル分散体の発色作用を説明する段階
説明図。
【図4】本発明の第1の実施例による光記録シートにお
けるマイクロカプセル分散体の発色作用を説明する段階
説明図。
【図5】本発明の第1の実施例による光記録シートにお
けるマイクロカプセル分散体の発色作用を説明する段階
説明図。
【図6】本発明の第1の実施例による光記録シートにお
けるマイクロカプセル分散体の発色作用を説明する段階
説明図。
【図7】電子リレー現象を示す模式図。
【図8】本発明の第1の実施例によるモノカラーの光記
録シートの光記録方法を工程順に示す説明図。
【図9】本発明のモノカラーの光記録シートを用いた光
記録方法を実施するための光記録装置の一具体例を示す
模式図。
【図10】本発明の第2の実施例によるフルカラーの光
記録シートの構成と動作とを説明するための模式図。
【図11】本発明のフルカラーの光記録シートを用いた
光記録方法を実施するための光記録装置の一具体例を示
す模式図。
【図12】スチルベンのシス−トランス異性を示す図。
【符号の説明】
11,11a,11b,11c…マイクロカプセル 12…染料前駆体、13…マイクロカプセル本体、14
…光異性化物質 15…ドナー分子、17…補助的物質、18…溶媒、1
9…顕色剤 24…生成色素、40…光記録シート、41…支持シー
ト、42…結着樹脂 43…マイクロカプセル分散体、52…シス異性化用光
源装置 53…記録ヘッド、54…加熱手段、55…記録情報消
去手段。

Claims (10)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 アニオン性高分子電解質膜で形成された
    マイクロカプセル本体と、前記高分子電解質膜のアニオ
    ン性界面にこれを実質的に覆うように吸着されたシス−
    トランス異性化する電子受容性物質からなる光応答性バ
    ルブ膜と、該光応答性バルブ膜内に共存して前記アニオ
    ン性界面に吸着され、特定波長の励起光の照射によって
    電子を放出する電子供与性物質とを包含するマイクロカ
    プセルを、このマイクロカプセルの外相を構成する結着
    樹脂中に分散混合させた光応答性マイクロカプセル分散
    体を支持シートに被着して形成した光記録シートであっ
    て、 前記マイクロカプセルの内相と外相とに互いに発色反応
    し得る第1および第2の反応性物質をそれぞれ含有し、 前記電子受容性物質は、前記励起光の波長とは異なる波
    長の光照射によりトランス体からシス体へ異性化し、こ
    れにより該光応答性バルブ膜を密な分子集合状態にある
    閉状態から乱れた分子集合状態にある開状態へ切り換
    え、かつ少なくとも前記励起光の照射による前記電子供
    与性物質と前記電子受容性物質間での連鎖的な電子リレ
    ーによってシス体からトランス体へ異性化し、これによ
    り該光応答性バルブ膜を前記開状態から前記閉状態へ切
    り換え、 前記電子受容性物質のシス−トランス異性化に基づく前
    記光応答性バルブ膜の前記開閉状態の切り替えにより前
    記高分子電解質膜を通る前記第1および第2の反応性物
    質の透過を増減させて前記マイクロカプセルの内外相の
    反応性物質の相互拡散を制御するとともに前記拡散によ
    り発色反応を生起させて前記マイクロカプセルを色変化
    させることを特徴とする光記録シート。
  2. 【請求項2】 前記マイクロカプセル内外相の反応性物
    質の一方が顕色剤であり、他方が染料前駆体である請求
    項1記載の光記録シート。
  3. 【請求項3】 それぞれ前記励起光の波長が互いに異な
    るとともに、発色反応により生成する色素が互いに異な
    る複数種類のマイクロカプセルを前記結着樹脂中に分散
    させた請求項1または2記載の光記録シート。
  4. 【請求項4】 前記マイクロカプセルの内相に、温度の
    上昇によって粘度が急激に低下する物質が配され、該粘
    度低下物質は、その粘度低下温度において物質透過性が
    増加する請求項1ないし3のいずれか1項記載の光記録
    シート。
  5. 【請求項5】 前記電子供与性物質と電子受容性物質が
    吸着される前記マイクロカプセルのアニオン性界面が、
    前記高分子電解質膜の内周面である請求項1ないし4の
    いずれか1項記載の光記録シート。
  6. 【請求項6】 アニオン性高分子電解質膜で形成された
    マイクロカプセル本体と、前記高分子電解質膜のアニオ
    ン性界面にこれを実質的に覆うように吸着されたシス−
    トランス異性化する電子受容性物質からなる光応答性バ
    ルブ膜と、該光応答性バルブ膜内に共存して前記アニオ
    ン性界面に吸着され、特定波長の励起光の照射によって
    電子を放出する電子供与性物質とを包含する光応答性マ
    イクロカプセルを、このマイクロカプセルの外相を構成
    する結着樹脂中に分散混合させ、前記マイクロカプセル
    の内相と外相とに互いに発色反応し得る第1および第2
    の反応性物質を配したマイクロカプセル分散体を支持シ
    ートに被着して形成した光記録シートを用いた光記録方
    法であって、 前記マイクロカプセル分散体に前記励起光の波長とは異
    なる波長の光を照射することによって、前記電子受容性
    物質を、トランス体からシス体へ異性化させ、これによ
    り、前記光応答性バルブ膜を密な分子集合状態にある閉
    状態から乱れた分子集合状態にある開状態へ切り換え、 前記マイクロカプセル分散体に少なくとも前記励起光を
    照射することによって、前記電子供与性物質と前記電子
    受容性物質間で連鎖的な電子リレーを生起させて前記電
    子受容性物質をシス体からトランス体へ異性化させ、こ
    れにより前記光応答性バルブ膜を前記開状態から前記閉
    状態へ切り換え、 前記電子受容性物質のシス−トランス異性化に基づく前
    記光応答性バルブ膜の前記開閉状態の切り替えにより前
    記高分子電解質膜を通る前記第1および第2の反応性物
    質の透過を増減させて前記マイクロカプセルの内外相の
    反応性物質の相互拡散を制御するとともに前記拡散によ
    り発色反応を生起させて前記マイクロカプセル分散体を
    色変化させることを特徴とする光記録方法。
  7. 【請求項7】 前記マイクロカプセル内外相の反応性物
    質の一方が顕色剤であり、他方が染料前駆体である請求
    項6記載の光記録方法
  8. 【請求項8】 光記録シートが、それぞれ前記の励起光
    の波長が互いに異なるとともに、発色反応により生成す
    る色素が互いに異なる複数種類のマイクロカプセルを前
    記結着樹脂中に分散させたものである請求項6または7
    記載の光記録方法。
  9. 【請求項9】 前記マイクロカプセルの内相に、温度の
    上昇によって粘度が急激に低下する物質が添加され、こ
    れをその粘度低下温度に加熱することにより発色反応を
    促進させる請求項7ないし9のいずれか1項記載の光記
    録方法。
  10. 【請求項10】 前記電子供与性物質と電子受容性物質
    とが吸着される前記マイクロカプセルのアニオン性界面
    が、前記高分子電解質膜の内周面である請求項6ないし
    9のいずれか1項記載の光記録方法。
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