JP2935397B2 - 微小穴を有する電鋳体の製造方法 - Google Patents

微小穴を有する電鋳体の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば樹脂製品の真空
成形等を行う際に使用する多孔質性金型の製造方法の改
良に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、例えば自動車の内装部品であるイ
ンストルメントパネル等の樹脂製品には皮シボ模様等の
模様が転写されることがあり、このような樹脂製品を製
造するため多孔質性の金型を使用して真空成形するよう
な方法が知られている。そして、このような金型を電鋳
法で製造するため、例えば特公平2―14434号のよ
うな技術が知られており、この場合は非電着性部材から
なる模型の表面にペースト状銀ラッカーと塩化ビニルラ
ッカーの混合液をスプレー噴射し、模型表面に微小な非
導電部を備えた導電層を形成するようにしている。そし
て、この模型の表面に電鋳を行うことで非導電部に非電
着部を発生させ、この非電着部を成長させて多数の微細
な穴を形成するようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記技術の場
合、当初、非導電部に非電着部が発生しても電鋳の成長
に連れて非電着部が潰れて穴が塞がることがあり、穴の
形成をコントロールするのが難しいという問題があっ
た。また、型の部位によって穴の発生率が一定にならな
いという欠点もあった。
【0004】
【課題を解決するための手段】かかる課題を解決するた
に請求項1は、電解液に浸漬した模型の表面に導電層
を形成して陰極にセットし、電解液中のニッケル材を陽
極にセットし、電鋳処理時の電流効率を98%以下で9
3%以上に設定して電鋳処理することにより、このロス
電流によって気泡を発生させ、これらの気泡を模型表面
に付着させ、これらの気泡を非電着部として作用させる
ことで多数の微小穴を有する電鋳体を製造する方法であ
って、電解液のpH値を3.9〜4.3の範囲に調整
し、且つニッケルイオン濃度を150〜400g/lの
範囲に調整することで、所定のロス電流を発生させるよ
うにしたことを特徴とする。ここで、電流効率とは、理
論析出量に対する実際の析出量の割合を百分率で表わし
たものである。また、請求項2は、電解液に浸漬した模
型の表面に導電層を形成して陰極にセットし、電解液中
のニッケル材を陽極にセットし、電鋳処理時の電流効率
を98%以下に設定して電鋳処理することにより、この
ロス電流によって気泡を発生させ、これらの気泡を模型
表面に付着させ、これらの気泡を非電着部として作用さ
せることで多数の微小穴を有する電鋳体を製造する方法
であって、電解液のpH値を3.0若しくはそれ以下に
調整することで、所定のロス電流を発生させるようにし
たことを特徴とする。
【0005】
【作用】電流効率を98%以下に低下させて金属の析出
に充当されない電流を増加させると、この余分な電流は
水を電気分解させることにより多く使用され、水の電気
分解によって生じた気泡が模型表面に付着して非電着部
となる。そして、このような電流効率の低下は、電解液
のpH値を3.9〜4.3の範囲に調整し、且つニッケ
ルイオン濃度を150〜400g/lの範囲に調整する
こと、或いは電解液のpH値を3.0若しくはそれ以下
に調整することで実施する。従って、この非電着部を除
く模型表面に電鋳殻が形成され、この非電着部が微小穴
となるが、この際、電解液のニッケル濃度、pH値等の
調整によって穴径、数等を自由にコントロールすること
が出来る。
【0006】
【実施例】本発明の微小穴を有する電鋳体の製造方法の
実施例について添付した図面に基づき説明する。図1は
電鋳時の作用を説明する説明図、図2は電鋳殻の成長を
示す部分拡大図、図3は気泡付着の原理を説明するため
の説明図、図4は電解液のニッケル濃度、pH値と電流
効率の関係を説明するグラフである。
【0007】例えば自動車のインパネ部品等の表面に皮
シボ模様を形成する際、多数の微小穴を備えた金型を使
用して真空成形により成形する方法が知られている。
【0008】この際、例えば加熱軟化させたシート状の
表皮を金型の多数の微小穴から吸引し金型に密着させて
成形するが、穴径が大きいと転写性の良いシート材の場
合には穴部が一緒に転写されて表面がざらざらになる等
の不具合が生じる。このため、なるべく微細な穴を形成
して穴部が転写されるのを防止する必要がある。
【0009】そこで、本案の電鋳体の製造方法は、製品
の外観表面に影響を与えない程度の微小穴を確実に形成
するようにしたものである。
【0010】すなわち、本案ではまず、例えばエポキシ
樹脂等の非導電性の模型M(マンドレル)の表面に銀メ
ッキ等の導電層Eを形成して導電性を付与した後、図1
(イ)に示すように、この模型Mを電解液Aの中に浸漬
する。
【0011】この電解液Aは、主成分がスルファミン酸
ニッケルでこれにホウ酸や塩化物等が加えられた浴であ
り、非電着部となる気泡を発生しやすくするため、例え
ばラウリル硫酸ナトリウム等のピット防止剤の界面活性
剤は殆ど使用していない。
【0012】そして、この電解液A中にニッケル材Ni
を入れて陽極にセットし、前記模型Mを陰極にセットし
てニッケル電鋳処理を行うが、この時の挙動は次のよう
なものとなる。
【0013】まず図3に示すように、陰極−側(模型M
側)では通電によって電子e-が電解液A中に放出さ
れ、この電子e-を電解液A中のニッケルイオンNi2+
が取り込んで、Ni2++2e-→Niとして、ニッケル
金属分子が陰極−側に析出される。
【0014】同時に、陽極+側(ニッケル材Ni側)で
は、陰極−側で使われたニッケルイオンNi2+の数と同
等のニッケルイオンNi2+が、Ni→Ni2++2e-
なって電解液A中に放出され、電子e-は陰極−に移動
して陰極+側でのニッケル金属分子の析出に使われる。
【0015】こうして、電解液A中のニッケルイオンN
2+は常に一定であるように作用する訳であるが、ここ
でスルファミン酸ニッケル濃度が所定量以下の場合、或
いは電解液AのpH値が所定値以下の場合、電流効率が
低下して通電した電流のすべてがニッケル金属分子の析
出に使われない状態が生起する。
【0016】そして、この電流効率の低下分、すなわち
ロス電流は水の電気分解に使用され、2H 2 O+8e-→
2H 2 +O 2 という反応となって、陰極−側で水素ガスH
2 が発生し、陽極+側で酸素ガスO 2 が発生する。そし
て、この水素ガスH 2 が図3に示すように気泡Bとなっ
て陰極−側(模型M側)に付着する。
【0017】請求項1の発明を図4に基づいて説明し、
請求項2の発明を図5に基づいて説明する。 図4は電解
液のニッケル濃度と電流効率(実線)、電着応力(破
線)の関係を説明するグラフであり、実線は電流効率を
示し、横軸のニッケル濃度にほぼ比例して電流効率(陰
極電流効率)が増加することが分かる。一方、図4の破
線は電着応力(電着層の内部応力を電着応力と呼び、プ
ラスは引張応力、マイナスは圧縮応力を示す。)を示
し、グラフ右端の目盛でその値を読むが、ニッケル濃度
の増加に伴なって電着応力はプラスからマイナスに移行
するとともに、濃度が約530g/l以上になると圧縮
応力は急激に増加する。
【0018】ところで、電着応力は電鋳殻の内部応力で
あるから小さいほどよく、0が最良であり、実用的には
±1kg/mm 2 の範囲に納めたい。図4の右端の目盛
−1kg/mm 2 のから横線を引き、破線に交わった
ところから縦線を降ろし、この縦線が実線(電流効
率)に交わったところから更に横線を引けば、この横
線は陰極電流効率98%の目盛に交わる。同様に、+
1kg/mm 2 の目盛から横線を引き、縦線、更な
る横線を引けばこの横線は陰極電流効率93%の目盛
に交わる。このことから、電着応力を適度に押えるに
は、電流効率(陰極電流効率)を98%以下で93%以
上にする必要がある。
【0019】電流効率を98%にするには、前記縦線
を下げたときに横軸の目盛(ニッケルイオン濃度)が4
00g/lになるようにニッケルイオン濃度を調整すれ
ばよく、同様に電流効率を93%にするには、前記縦線
を下げたときに横軸の目盛が150g/lになるよう
にニッケルイオン濃度を調整すればよいことになる。
【0020】そこで、請求項1では、電流効率を98%
以下に設定出来るスルファミン酸ニッケル濃度400g
/l以下を採用する。ニッケルイオン濃度が薄すぎると
気泡Bの発生にムラができて模型Mの表面に均一に付着
せず、また濃すぎると電流効率が高くなって気泡Bの発
生が少なくなることから、150g/l以上、300g
/l以下が特に望ましい。そして、pH値は4.1±
0.2、即ち3.9〜4.3に調整している。
【0021】従って、以上のような挙動に従い、図1
(イ)に示すように、まず模型M表面に水素ガスH2
よる気泡Bが付着するとともに、この気泡Bが非電着部
となっってそれ以外の模型M表面にニッケル金属分子が
電着し成長してゆく。
【0022】以上のような電鋳処理によって、気泡Bの
成長と電着の進行は図2に示すとおりとなり、電着の進
行に伴い前記電気分解も同時に行われて、電気分解によ
って発生したH2ガスが気泡Bへ供給される。つまり、
(イ)に示すように模型M表面に付着した気泡Bが徐々
に成長して大きくなり(ロ)、最終的に模型M側の穴径
が約150μm以下となるような多数の穴hを有する電
鋳殻K(ハ)を成形することが出来る。
【0023】こうして、電鋳殻Kが成形されると模型M
から取り出され、不図示の型枠と通気性のあるバックア
ップが取り付けられて真空成形型として構成される。
【0024】図5はpHと電流効率との関係を示すグラ
フであり、横軸が電解液のpH、縦軸が陰極電流効率を
示し、スルファミン酸ニッケル濃度を調整して電流効率
を98%以下にするにはpH値を3以下にすればよいこ
とが分かる。そこで、請求項2ではスルファミン酸ニッ
ケル濃度のpHを3以下にすることで、上述したものと
同等の気泡並びに多数の穴を形成する。
【0025】また、この電解液のニッケル濃度、pH
値、或いはこの組合せによって穴径、数等も自由にコン
トロールすることが出来、真空成形時に穴の影響が製品
に表れない電鋳殻Kを容易に成形出来る。
【0026】
【発明の効果】以上のように、本発明の電鋳体の製造方
法は、電解液中のニッケル濃度或いはpH値等を調整す
ることで電流効率を98%以下に低下させ、模型表面に
気泡を付着させて非電着部にするようにしたため、後加
工で穴明け加工に必要のない電鋳殻を容易に成形するこ
とが出来る。そして、この穴径、数等は容易にコントロ
ール出来るため、成形品質の高い真空成形型とすること
が出来る。また、この穴は塞がる虞れがなく確実に成形
することが出来るのみならず、真空成形時にあっても通
気抵抗が少なくなって好都合である。その上、スルファ
ミン酸ニッケル濃度の低い領域において電鋳処理を行っ
ているので、ニッケル金属分子析出時における圧縮電着
応力も小さくなり、電鋳殻の変形や反りが少なく、且つ
転写精度、加工精度の良好な電鋳殻が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】電鋳時の作用を説明する説明図
【図2】電鋳殻の成長を示す部分拡大図
【図3】気泡付着の原理を説明するための説明図
【図4】解液のニッケル濃度と電流効率(実線)、電
着応力(破線)の関係を示すグラフ
【図5】 pH値と電流効率の関係を説明するグラフ
【符号の説明】 A 電解液 B 気泡 E 導電層 K 電鋳殻 M 模型 h 穴
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭48−38836(JP,A) 特開 平2−14434(JP,A) 特開 昭63−213690(JP,A) 特開 昭62−240787(JP,A) 特公 昭35−15208(JP,B1) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C25D 1/08 B29C 51/36 C25D 1/00 361 B29C 33/38

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 電解液に浸漬した模型の表面に導電層を
    形成して陰極にセットし、電解液中のニッケル材を陽極
    にセットし、電鋳処理時の電流効率を98%以下で93
    %以上に設定して電鋳処理することにより、このロス電
    流によって気泡を発生させ、これらの気泡を模型表面に
    付着させ、これらの気泡を非電着部として作用させるこ
    とで多数の微小穴を有する電鋳体を製造する方法であっ
    て、 電解液のpH値を3.9〜4.3の範囲に調整し、且つ
    ニッケルイオン濃度を150〜400g/lの範囲に調
    整することで、所定のロス電流を発生させるようにした
    ことを特徴とする微小穴を有する電鋳体の製造方法。
  2. 【請求項2】 電解液に浸漬した模型の表面に導電層を
    形成して陰極にセットし、電解液中のニッケル材を陽極
    にセットし、電鋳処理時の電流効率を98%以下に設定
    して電鋳処理することにより、このロス電流によって気
    泡を発生させ、これらの気泡を模型表面に付着させ、こ
    れらの気泡を非電着部として作用させることで多数の微
    小穴を有する電鋳体を製造する方法であって、 電解液のpH値を3.0若しくはそれ以下に調整するこ
    とで、所定のロス電流を発生させるようにした ことを特
    徴とする微小穴を有する電鋳体の製造方法。
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