JP2933624B2 - 電磁弁の製造法 - Google Patents

電磁弁の製造法

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、例えば自動車用エンジン等に使用される燃
料噴射用の電磁弁に係り、更に詳細には、電磁弁の磁気
回路部材に関する。 〔従来の技術〕 自動車用の燃料噴射装置等に使用される電磁弁は、磁
気回路と、この磁気回路を磁化するための励磁コイル等
を具備する。そして、励磁コイルに燃料噴射信号となる
パルス状の励磁電流を流すことにより、磁気回路の一部
たる可動部(プランジャ)を磁気回路の固定部(コア)
側に磁気的に吸引し、この可動部と一体に弁体を吸引し
て燃料通路を開き、燃料をエンジン側に供給するように
している。 この種の電磁弁に使用される磁気回路部材は、少ない
磁化電流で磁気吸引力を大きくする必要から低保磁力
で、かつ磁束密度の高い優れた磁気特性を有することが
要求されることから、一般には、電磁軟鉄あるいは1〜
2%Siを含んだ珪素鉄合金が使用されていた。また、最
近では高速応答性を重視する要求から、磁気特性を損わ
ずに電気比抵抗の高い材料が要求されることから、電磁
軟鉄等に代わりCrを13〜15wt%含有した13Cr系ステンレ
ス鋼が使用されてきている。 すなわち、一般に磁性体を高周波パルスで磁化すると
パルス磁化に対応した磁束が磁性体に発生するが、磁性
体には、前記磁束の変化に比例したうず電流が発生し
て、このうず電流に基づく磁束がパルス磁化により発生
した磁束と逆向きに即ち打ち消す方向に発生する。従っ
て、うず電流は、パルス磁化に対して磁束の遅れを生じ
させ電磁弁の性能、即ち応答性を悪くする要因となる
が、このようなうず電流は材料の電気抵抗が高いほど小
さくなるものであり、また、パルス磁化電流しや断後の
磁束減衰時間も、磁気回路部材の電気抵抗が高いほど磁
束減衰時間が早くなり高速化につながる。 以上の要求に応えるため、前述した如く磁気特性に優
れ且つ電気比抵抗の高い特性を有する13Cr系ステンレス
鋼が使用されているが、さらに、燃料噴射用電磁弁に使
用される磁気回路部材は、その構造が複雑であるため
に、加工上の便宜から切削性が要求され、そのために13
Cr系ステンレス鋼に0.2wt%程度のPbを添加した快削性
電磁ステンレス鋼が使用されてきている。 快削性電磁ステンレス鋼に関する従来技術としては、
例えば特開昭48−78018号等に開示されたものがある。
その他にも、ステンレス鋼の切削性を改善するために
(一般にステンレス鋼は切削性が悪い)、S,P,Se,Mo,Z
r,Te,Pb等の諸元素を添加している従来技術が、日本金
属学会会報(Vol2,No.1,1963年発行の第7〜17頁)等に
開示されている。 〔発明が解決しようとする課題〕 ところで、この種の電磁弁においては、高速応答性等
の性能の向上化を図りつつ、量産性を上げて製品コスト
の低減化を図ることが望まれている。そして、量産性の
向上化を図るため、最近では、磁気回路の材料を冷間鋳
造により最終形状に近い形に成型し、そのあと仕上げ切
削をして磁気回路とする試みがなされている。 しかしながら、一般に、切削性と冷間鋳造性は材料に
対して相反する要求であり、切削性を良くすれば冷間鋳
造性が低下するという関係にある。すなわち、前述した
如く電磁ステンレス鋼にPb等の切削改善元素を添加した
場合には、これらの添加物は母材中に硫化物として、あ
るいは粒界に単独に分布することにより、切削時の熱で
切削切粉を分断し切削性を改善するものであるが、母材
自体は脆くなり冷間鋳造性を低下させるものである。従
って、量産性の点で改善すべき点があった。 本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、その
目的とするところは、この種電磁弁に用いる磁気回路部
材の磁気特性,電気抵抗特性を高くして優れた性能を有
しつつ、量産可能にして製品コストの低減化を図り得る
電磁弁の製造法を提供することにある。 〔課題を解決するための手段〕 本発明は、上記目的を達成するために、次のような電
磁弁の製造法を提供する。 すなわち、励磁コイルにより磁化される磁気回路部材
の磁気吸引力と該磁気吸引力の解除とにより弁の開閉を
行なう電磁弁の製造法において、 前記磁気回路部材は、重量でAl0.3〜1.0%、Si0.5〜
1.5%,少量のMn及びCr8〜10%を含有し、残部が実質的
にFeであるフェライト系ステンレス鋼よりなり、 該ステンレス鋼を冷間塑性加工により製品のほぼ最終
形状に成形し、その後に該ステンレス鋼を焼鈍する工程
を有し、該焼鈍後の電気抵抗が65〜80μΩcmであること
を特徴とする。 〔作用〕 上記構成によれば、母材の基礎を、磁気特性に優れ、
電気抵抗がある程度高いフェライト組織となる8〜10wt
%Cr−Fe合金とし、それに電気抵抗を高める元素で、か
つフェライト安定化元素であるAlを0.3〜1.0wt%及びSi
を0.5〜1.5wt%添加することで、電磁弁に要求される高
い磁気特性,電気抵抗特性が得られ、しかも冷間鋳造性
を高めることができる。特に磁気特性は900〜1000℃の
熱処理(焼鈍)を施すことにより、保磁力0.6〜2.0エル
ステッド,磁化力25エルステッドの時の磁束密度が1.20
〜1.40テスラと良好な値を示し、且つ、電気抵抗(固有
抵抗)は65〜80μΩcmと極めて高い値を示した。 本発明に係るフェライト系ステンレス鋼母材中には少
量のMnが含まれており、このMnは鋼中のSと化合して硫
化マンガンとして形成され、母材の結晶粒内に存在し、
塑性加工性を高めるものである(文献「鉄鋼と合金元素
(上)NDC564」昭和46年12月6日発行,編者 日本学術
振興会 鉄鋼第19委員会,発行所 株式会社誠文堂新光
社)。一方、従来の磁気回路部材として使用される快削
性電磁ステンレス鋼に含まれるPbは母材の結晶粒界に比
較的析出しやすいために粒界が脆くなっており切削時の
切り粉が短かく切削性はよいが、冷間鋳造の場合その粒
界から割れが発生し好ましくないものである。 〔実施例〕 本発明の実施例を図面に基づき説明する。 第1図は本発明の適用対象となる燃料噴射用電磁弁の
具体例を示す断面図で、図中、1はヨーク、2はコア、
3はコア2に巻装される励磁コイル、4はプランジャ、
5はプランジャ4と一体的に成形される弁棒、6は弁棒
5の一部を構成するボール弁、7は弁座、8はプランジ
ャ4及び弁棒5を付勢してボール弁6を弁座7側に押圧
するスプリングである。本実施例における電磁弁は、励
磁コイル3に燃料噴射信号に基づくパルス電流を流す
と、ヨーク1,コア2,プランジャ4が磁気回路Mを構成し
て、プランジャ4が吸引移動し、これによってボール弁
6が弁座7から離れて燃料通路が開き、燃料噴射が行な
われる。また、励磁電流が切れると、ばね8によりプラ
ンジャ4が元の状態に復帰し、弁を閉じ燃料の供給を停
止するものである。ここで、磁気回路部材に用いた材料
組成は、Alを0.3〜1.0wt%,Siを0.5〜1.5wt%,Crを8〜
10wt%含有し残部が実質的にFeから構成されるフェライ
ト系ステンレス鋼で構成されるが、このような組成分に
至る理由を以下に説明する。 発明の「作用」の項でも既述したように、優れた磁気
特性で、且つ、電気抵抗が高い特性を得るためには、安
定なフェライト組織である必要がある。そして、Feベー
ス合金に磁束密度の低下を出来るだけ少なくしてフェラ
イト組織とする元素としては、Ni,Cr,Co等が考えられ
る。中でもNi及びCoは10wt%前後の添加で、磁束密度は
Fe単体よりもむしろ若干増加するが、電気抵抗の上昇が
約2倍程度の20μΩcmと少ないために好ましくない。こ
れに対しCrは10wt%の添加で磁束密度はFe単体に比べ約
15%程度低下するが、電気抵抗は約40μΩcmと約4倍に
増加する。 そこで、Fe中に添加する元素としてCrを選定し、その
添加量の好ましい範囲については下限を8wt%、上限を1
0wt%とした。 ここで、Crの下限を8wt%としたのは、8wt%より少な
いと磁束密度は高くなるが、電気抵抗の上昇分が少な
く、後で添加するAl,Si量を考慮しても目標とする電気
抵抗65μΩcmを満足しないこと、Crの上限を10wt%とし
たのは、10%wt以上にすると、磁束密度の低下が大きす
ぎること、またAl,Siを添加する時に母材が硬くなりす
ぎて冷間鋳造性を損なうためである。また、Al及びSi
は、Cr−Fe合金のみでは電気抵抗が65μΩcm以上に達し
ないために、母材の電気抵抗を高めるために添加するも
のである。AlとSiは、母材に対して磁束密度を低下させ
る反面、電気抵抗を高める性質を有する。 ここで、Alを含ませないで、Si量を0.5〜2.0wt%まで
変えて、上記Crの最適範囲の一例である10Cr−Fe合金母
材中に添加し、磁気特性,電気抵抗,硬さ及び組織を調
べた。第1表は、その結果を示したものである。第1表
における○は良好、△は普通、×は不良を示すものであ
る。各試料は加工率80%の冷間鋳造を施した後、950℃
で1時間の磁気焼鈍を施したものである。磁気特性は前
述の保磁力及び磁束密度が得られるものが○印,得られ
ないものが×印、電気抵抗は65〜80μΩcmが得られるも
のが○印,約40μΩcmが△印、それ以下が×印である。 Si含有量が少ないと全面的に悪いのは組織が完全なフ
ェライト組織でなくパーライト組織になっているためで
ある。そのため、硬さも大きく磁気特性も悪い結果とな
っている。また、Si含有量が少ないと電気抵抗の増加は
望めない。また、Si含有量が多くなりすぎると、磁気特
性及び電気抵抗は良いが、硬さが大きくなるために冷間
鋳造性を悪くする。そこで、フェライト安定化元素で磁
気特性的にも悪影響を及ぼさないAlをSiの一部に置換す
ることを検討した。その結果、Al添加量を0.5〜1.0wt%
程度添加することにより、Si含有量が0.5wt%と少ない
場合でも組織は完全なフェライト組織となることを見出
した。しかも、磁気的には何等問題なく、電気抵抗も
(Si+Al)の総量でほぼ決ることがわかった。 従って、Si含有量は0.5〜1.5wt%、Al含有量は0.3〜
1.0wt%が良いことがわかり、またその総和は1.5wt%と
することが冷間鋳造性の上で良い。 本例の磁気回路部材は、一例として組成が0.05Se−0.
5Al−1Si−10Cr−Fe合金のフェライト系ステンレス鋼と
し、磁気回路部材の製造工程は、先ず、上記合金組成の
母材を溶解・鋳造により35φ丸棒に加工し、次いで、75
0℃温度の下で1時間ほど結晶粒度調整熱処理を施し、
結晶粒度を粒度No.5に調整した後、冷間鋳造により磁気
回路部材たるヨーク1,コア2,プランジャ3を成形加工
し、次いで、旋盤により仕上げ切削を施した後、950℃
の温度の下で1時間ほど磁気焼鈍を施した後電磁弁とし
て組み込んだ。 しかして本実施例によれば、磁気回路部材の製造工程
において、冷間鋳造性,切削性共に良好で、しかも試験
片による磁気特性評価では、保磁力0.7エルステッド,
磁化力25エルステッドの時の磁束密度は、1.34テスラと
極めて優れており、また、電気抵抗は74μΩcmと高い値
を示した。従って、燃料噴射弁としての性能も従来の全
切削工程で作製したものに比べ同等以上であり、しか
も、本実施例によれば、電磁気特性に優れた材料を従来
の如く切削加工のみで磁気回路部材として加工するので
なく、冷間鋳造により最終形状に近い形に成型し、仕上
げ切削を施すことが可能となるため、材料費が従来の1/
3〜1/4に低減出来ること、しかも、加工時間も極めて短
縮出来るため、製作コストの大幅な低減化を図ることが
できた。 また、本例では、本発明の組成分よりなる磁気回路部
材の材料について、冷間鋳造する前の母材の結晶粒度と
冷間鋳造との関係を調べた。第2図にその結果を示す。
実験の結果では、結晶粒度No.4〜No.7の範囲のものは、
全て割れの発生は見られなかった。実験では、試験片の
形状は、直径20mmの丸棒を金型による冷間鋳造で直径10
mmに且つ約断面収縮率70%に押し出したもので、試験片
の個数は100個である。結晶粒が大きい粒度No.3以下の
ものは、押し出し荷重が小さくなるが、結晶粒が大きい
ために粒界からの割れ発生が多くなる。また、結晶粒が
細かい粒度No.8以上のものは、粒界からの細かい割れが
目立つと共に、母材自体の硬さも大きいために、押し出
し荷重も高くなり、型寿命の点からも好ましくない。従
って、燃料噴射用電磁弁の磁気回路部材として冷間鋳造
が容易で量生性を高め低コスト化するためには、母材の
結晶粒の大きさを粒度No.4〜No.7の範囲とすることが好
ましい。 〔発明の効果〕 本発明によれば、電磁弁の磁気回路部材の磁気特性,
電気特性を高くして応答性能を向上させ、しかも磁気回
路部材を冷間塑性加工により略最終形状製品に仕上げる
ので、作業負担の大きい切削加工を大幅に削減して、量
産可能にして製品コストの低減を図り得る電磁弁を提供
することができる。
【図面の簡単な説明】 第1図は本発明の適用対象となる電磁弁の具体例を示す
縦断面図、第2図は本発明の実施例を説明するための結
晶粒度と割れ発生率の関係を表わす実験データである。 1,2,4……磁気回路部材(ヨーク,コア,プランジ
ャ)、3……励磁コイル、 6……弁、M……磁気回路。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI F16K 31/06 305 F16K 31/06 305E (72)発明者 中川 雄策 茨城県日立市久慈町4026番地 株式会社 日立製作所日立研究所内 (72)発明者 上妻 康夫 茨城県日立市久慈町4026番地 株式会社 日立製作所日立研究所内 (72)発明者 小菅 徳男 茨城県勝田市大字高場2520番地 株式会 社日立製作所佐和工場内 (72)発明者 寺門 一佳 茨城県勝田市大字高場2520番地 株式会 社日立製作所佐和工場内 (56)参考文献 特開 昭62−133042(JP,A) 特開 昭59−185762(JP,A) 特開 昭56−138580(JP,A) 特開 昭60−215177(JP,A) 特開 昭63−318380(JP,A) 特開 昭62−97305(JP,A) 特開 昭56−16653(JP,A) 特開 昭60−155653(JP,A) 特開 昭60−13022(JP,A) 特開 昭54−135612(JP,A) 実開 昭54−164128(JP,U) 実開 昭59−118874(JP,U) 特公 昭61−58547(JP,B2) 特公 昭61−46547(JP,B2) 特公 昭57−2141(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) F16K 31/06 C22C 38/00 F02M 51/06

Claims (1)

  1. (57)【特許請求の範囲】 1.励磁コイルにより磁化される磁気回路部材の磁気吸
    引力と該磁気吸引力の解除とにより弁の開閉を行なう電
    磁弁の製造法において、 前記磁気回路部材は、重量でAl0.3〜1.0%、Si0.5〜1.5
    %,少量のMn及びCr8〜10%を含有し、残部が実質的にF
    eであるフェライト系ステンレス鋼よりなり、 該ステンレス鋼を冷間塑性加工により製品のほぼ最終形
    状に成形し、その後に該ステンレス鋼を焼鈍する工程を
    有し、該焼鈍後の電気抵抗が65〜80μΩcmであることを
    特徴とする電磁弁の製造法。 2.前記冷間塑性加工前の前記フェライト系ステンレス
    鋼の結晶粒度が粒度No.4〜No.7の範囲である特許請求の
    範囲第1項記載の電磁弁の製造法。 3.前記AlとSiとの合計量が1.5重量%以下である特許
    請求の範囲第1項記載の電磁弁の製造法。
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