JP2862197B2 - 筆記具及びその製造方法 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、筒体内に筆記液逆流防
止用の弁球を収容した筆記具及びその製造方法に関する
ものである。

【０００２】

【従来の技術】従来の筆記具の中には、ペン先を上に向
けた際、中のインク（筆記液）が尾端側に逆流するのを
防止するインク逆流防止機構を備えたものがある。

【０００３】例えば実公平４−５２０６７号公報には、
ボールペン内にその軸方向に延びる突条を形成し、これ
よりも尾端側の位置にボール受座を形成してこの受座と
上記突条との間に弁室を形成し、この弁室内に弁用ボー
ルを遊動可能に収容したものが示されている。このよう
な筆記具によれば、筆記時、ペン先を下に向けた場合に
は、弁用ボールが上記突条に当接することによりこの弁
用ボールが先端側へ抜けることが防がれると同時に各突
条の間を通じてインクがペン先へ流出し、筆記時以外の
時にペン先を上に向けた場合には上記弁用ボールが上記
受座に着座してインクの流通を遮断することにより、尾
端側へのインクの逆流が防がれる。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】上記筆記具では、上記
弁室をもつ筒体全体が合成樹脂により一体成形されてい
るが、このような通常の合成樹脂による一体成形時に
は、合成樹脂特有の現象として、筒体に不均一な収縮が
発生しやすい。このような不均一収縮により、上記ボー
ル受座が真円性を失い、このボール受座と上記弁用ボー
ルとを全周にわたり完全に接触させることが困難とな
り、その結果満足なシール効果（すなわち弁機能）が得
られなくなる不都合がある。

【０００５】本発明は、このような事情に鑑み、弁室を
もつ筒体を一体成形しながら、上記弁室において良好な
逆流防止を行うことができる筆記具及びその製造方法を
提供することを目的とする。

【０００６】

【課題を解決するための手段】本発明は、筆記液流通路
が形成された合成樹脂製の筒体の途中に弁室が設けら
れ、この弁室内に逆流防止用の弁球が収容されるととも
に、弁室の尾端側部分に上記弁球と全周にわたり接触す
ることによりこの接触部分で筆記液の流通を阻止するシ
ール部が一体成形された筆記具の製造方法において、上
記合成樹脂に無機物を添加した後にこの合成樹脂によっ
て上記筒体を一体成形することを特徴とするものであり
（請求項１）、また、上記合成樹脂に無機物を添加した
もので上記筒体が一体成形された筆記具である（請求項
３）。

【０００７】ここで、上記合成樹脂としてポリプロピレ
ン、無機物としてタルクを用いた場合、ポリプロピレン
にタルクを１重量％以上１０重量％以下添加することが
好ましい（請求項２，４）。

【０００８】

【作用】請求項１記載の方法によれば、合成樹脂に無機
物を添加してから筒体を一体成形することにより、この
成形時の収縮が抑制され、シール部において高い真円度
が確保される。従って、この方法により製造された筆記
具によれば（請求項３）、上記シール部と弁球とが全周
にわたり良好に接触し、この部分で筆記液の流通が確実
に阻止される（すなわち筆記液逆流が防止される）。

【０００９】より具体的に、請求項２記載の方法では、
合成樹脂であるポリプロピレンに対しタルクを１重量％
以上添加することにより、成形時の収縮を十分に抑える
ことができる。また、タルク添加量を１０重量％以下に
抑えることにより、成形品である筒体の弾性を十分に確
保でき、この筒体の弁室内にその弾性変形を伴いながら
外部から弁球を不都合なく圧入することができる。従っ
て、この方法により製造された筆記具によれば（請求項
４）、シール部において良好なシール効果が確保される
とともに、上記弁球の圧入に伴う筒体の塑性変形も防が
れる。

【００１０】

【実施例】図７，８は、本発明方法で製造される筆記具
の一例を示したものである。なお、この実施例ではボー
ルペンを示すが、本発明は筆記液の逆流防止を要する種
々の筆記具の製造に適用できるものである。

【００１１】図示のボールペンは、外筒１０を備え、こ
の外筒１０内に内筒１２が挿入されており、内筒１２内
にインク（筆記液）が収容されている。両筒１０，１２
の尾端部は図略の尾栓で塞がれており、両筒１０，１２
の先端部には、合成樹脂製の先筒（筒体）１４が装着さ
れている。

【００１２】この先筒１４の外周面は、その尾端側から
順に、小径円筒部１６、大径円筒部１７、及び先窄みの
円錐部１８で構成されており、大径円筒部１７と円錐部
１８との間の段部２０が外筒１０の先端面に当接する位
置まで、小径円筒部１６及び大径円筒部１７が上記内筒
１２及び外筒１０の先端部にそれぞれ嵌入されている。

【００１３】図１にも示すように、先筒１４の中央部に
は、その先端側から順に大径孔２４及び小径孔２６が軸
方向に連続して形成されており、この先筒１４内に鋼球
等からなる弁球２２が収容されている。ここで、上記大
径孔２４は弁球２２の直径よりも大きな直径Ｄを有し、
小径孔２６は弁球２２の直径よりも小さな直径ｄを有し
ている。

【００１４】大径孔２４において小径孔２６に隣接する
部分には４つの隆起部２８が形成されている。各隆起部
２８の表面は平面とされ、これらで囲まれた部分は図３
に示すような断面略正方形状の弁室３１となっている。
この弁室３１の断面形状は、上記弁球２２に略外接する
略正方形状、より詳しくは各四辺の寸法ａが弁球２２の
直径よりも僅かに大きく、かつ四頂点が円弧である形状
に設定されている。

【００１５】さらに、各隆起部２８の先端側部分（図１
では上側部分）には、隆起部２８よりもさらに内側に突
出した突条３０が形成されている。各突条３０は、隆起
部２８の表面に平行な（即ち弁室３１の断面である略多
角形の各辺と平行な）直線状の端辺を有し、同方向に延
びており、これらの突条３０によって囲まれる略正方形
状の図形、すなわち図２の中央に示される図形の一辺の
寸法ｂは、弁球２２の直径よりも小さな寸法に設定され
ている。従って弁球２２は、これらの突条３０と当接す
ることによりそれよりも先端側へは移動できないように
なっている。

【００１６】一方、各隆起部２８で囲まれた弁室３１
と、小径孔２６からなるインク通路との境界部分には段
差が生じているが、この段部は、図６に示すように内側
に凸の球面を全周にわたって有するシール部２７とされ
ている。そして、このシール部２７と上記突条３０との
間に形成された弁室３１内に上記弁球２２が閉じ込めら
れ、かつこの弁室３１内で軸方向に移動可能となってお
り、この弁球２２が上記シール部２７と全周にわたり線
接触する（各断面で見て点接触する）ことにより、この
部分でインクの流通が確実に阻止されるようになってい
る。

【００１７】なお、図７，８において３２はペン先であ
り、その尾端側軸３４が上記大径孔２４の先端部に嵌着
されている。

【００１８】この筆記具において、まず、図７に示すよ
うに上記筆記具の先端部を下に向けた状態では、弁室３
１内の弁球２２が先端部に向かって落下し、突条３０に
当った状態で静止する。この状態では、弁室３１内にお
いて、その断面形状（略多角形）と弁球２２の平面形状
（円）との相違から４隅に隙間２９が生じ（図３参
照）、また突条３０で囲まれた正方形と弁球２２との形
状の相違からも４隅に隙間２９が生じる（図２参照）。
従って、これらの隙間２９を通じて尾端側からペン先へ
確実にインクが供給されることとなる。

【００１９】これに対し、上記筆記具の先端部を上に向
けると、弁室３１内の弁球２２が尾端部に向かって落下
し、シール部２７に当った状態で静止する。この状態で
は、シール部２７と弁球２２とが全周にわたって接触す
ることにより、この部分でインクの流通が確実に阻止さ
れ、先端側から尾端側への筆記液の逆流が防がれること
となる。

【００２０】次に、この筆記具の製造方法を以下に説明
する。 １）ポリプロピレン等の合成樹脂にタルク等の無機物を
添加する。 ２）この無機物添加合成樹脂により、先筒１４を上記の
形状に一体成形する。 ３）上記弁球２２を大径孔２４側から先筒１４内に挿入
し、さらに突条３０の内側からこれを弾性的に拡径させ
るようにしながら突条３０の奥の弁室３１内に圧入す
る。これにより、弁球２２は弁室３１内に閉じ込められ
た状態となる。 ４）先筒１４をはじめとする各部品を組み上げて筆記具
を完成する。

【００２１】以上のように、この方法では、弁室３１を
もつ先筒１４を合成樹脂で一体成形する前に、この合成
樹脂に無機物を添加しているので、これにより上記一体
成形時の合成樹脂の収縮を効果的に抑えることができ
る。このため、シール部２７において高い真円度を確保
することができ、このシール部２７と弁球２２とを全周
にわたり良好に接触させることにより、ペン先が上を向
いた状態でインクの逆流防止を確実に行うことができ
る。

【００２２】＊実験データ 次の表１は、上記合成樹脂としてポリプロピレン、上記
無機物としてタルクを用いた時の好ましいタルク添加量
について調べた結果を示したものである。なお、同表に
おいて「シール部真円性」及び「突条形状」の良否は、
前記実施例におけるシール部２７及び突条３０を顕微鏡
観察することにより判定しており、突条３０について
は、先筒１４を成形して突条３０の内側から弁球２２を
弁室３１内に押し込んだ後の形状を調べている。

【００２３】

【表１】

【００２４】この表から明らかなように、ポリプロピレ
ンに対してタルクを１重量％以上添加することにより、
シール部２７において十分な真円度を確保することがで
きる。これは、上記タルクによって成形時のポリプロピ
レンの収縮が効果的に抑えられたことによると考えられ
る。ただし、タルクを１２重量％以上添加した場合に
は、突条３０の形状に不都合が生じる。これは、タルク
の過度の添加により先筒１４の弾性が損なわれ、突条３
０の内側からこれを拡径させるようにして弁室３１内に
無理矢理弁球２２を押し込んだ際に突条３０が塑性変形
したことによると考えられる。従って、ポリプロピレン
に対してタルクを添加する場合には、タルクを１重量％
以上１０重量％以下だけ添加することが極めて好まし
い。

【００２５】なお、他の合成樹脂に対して他の無機物を
添加する場合には、その場合に応じて良好な添加量を探
索し、その添加量だけ無機物を添加してから先筒１４を
一体成形すればよい。

【００２６】

【発明の効果】以上のように本発明は、合成樹脂に無機
物を添加した後、この合成樹脂によって弁室付筒体を一
体成形するようにしたものであるので、この成形時の合
成樹脂の収縮を抑制することにより、シール部において
高い真円度を確保することができる。従って、この方法
およびこれにより製造された筆記具によれば（請求項
３）、先端部を上に向けた状態で上記シール部と弁球と
を全周にわたり良好に接触させることができ、この部分
で筆記液の流通を確実に阻止し、その逆流を確実に防ぐ
ことができる効果がある。

【００２７】より具体的に、請求項２記載の方法では、
合成樹脂であるポリプロピレンに対しタルクを１重量％
以上添加することにより、成形時の収縮を十分に抑える
ことができる一方、タルク添加量を１０重量％以下に抑
えることにより、成形品である筒体の弾性を十分に確保
でき、この筒体の弁室内にその弾性変形を伴いながらか
つ塑性変形を伴うことなく外部から弁球を不都合なく圧
入することができる。従って、この方法により製造され
た筆記具によれば（請求項４）、シール部において良好
なシール効果が確保されるとともに、弁室の良好な形状
を確保することができる効果がある。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の一実施例における筆記具を構成する先
筒の縦断面図である。

【図２】図１のＡ−Ａ線断面図である。

【図３】図１のＢ−Ｂ線断面図である。

【図４】図２において弁球を取り除いた状態を示す横断
面図である。

【図５】図３において弁球を取り除いた状態を示す横断
面図である。

【図６】上記先筒におけるシール部の拡大断面図であ
る。

【図７】上記筆記具においてペン先を下に向けた状態を
示す縦断面図である。

【図８】上記筆記具においてペン先を上に向けた状態を
示す縦断面図である。

【符号の説明】

１４ 先筒（筒体） ２２ 弁球 ２７ シール部 ３１ 弁室

Claims (4)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 筆記液流通路が形成された合成樹脂製の
   筒体の途中に弁室が設けられ、この弁室内に逆流防止用
   の弁球が収容されるとともに、弁室の尾端側部分に上記
   弁球と全周にわたり接触することによりこの接触部分で
   筆記液の流通を阻止するシール部が一体成形された筆記
   具の製造方法において、上記合成樹脂に無機物を添加し
   た後にこの合成樹脂によって上記筒体を一体成形するこ
   とを特徴とする筆記具の製造方法。
2. 【請求項２】 請求項１記載の筆記具の製造方法におい
   て、ポリプロピレンにタルクを１重量％以上１０重量％
   以下添加した後、このポリプロピレンによって上記筒体
   を一体成形することを特徴とする筆記具の製造方法。
3. 【請求項３】 合成樹脂からなり筆記液流通路が形成さ
   れた筒体の途中に弁室が設けられ、この弁室内に逆流防
   止用の弁球が収容されるとともに、弁室の尾端側部分に
   上記弁球と全周にわたり接触することによりこの接触部
   分で筆記液の流通を阻止するシール部が一体成形された
   筆記具において、上記筒体が合成樹脂に無機物を添加し
   たもので一体成形されていることを特徴とする筆記具。
4. 【請求項４】 請求項３記載の筆記具において、ポリプ
   ロピレンにタルクを１重量％以上１０重量％以下添加し
   たもので上記筒体が一体成形されていることを特徴とす
   る筆記具。