JP2023094563A - 認知機能改善剤、神経新生促進剤及び認知機能改善用経口組成物 - Google Patents

認知機能改善剤、神経新生促進剤及び認知機能改善用経口組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】認知機能の低下を予防及び回復することができる認知機能改善剤、神経新生促進剤及び認知機能改善用経口組成物を提供する。【解決手段】認知機能改善剤は、γ-オリザノールを有効成分として含む。【選択図】図3

Description

本発明は、認知機能改善剤、神経新生促進剤及び認知機能改善用経口組成物に関する。
玄米食はインスリン抵抗性を改善し、糖尿病の発症を遅らせることが知られている。玄米には生理活性物質であるγ-オリザノールが含まれており、その多様な作用点と分子機構が明らかにされつつある。特許文献1には、γ-オリザノールが小胞体ストレスの亢進を抑制すること、インスリンの分泌を促進すること、及びグルカゴンの分泌を抑制することが開示されている。特許文献2には、γ-オリザノールが高脂肪食への嗜好性を軽減させることが開示されている。
また、特許文献3には、γ-オリザノールが視床下部における小胞体ストレスの抑制を介して肥満、脂質異常症、耐糖能不全、糖尿病、動脈硬化症及び炎症性疾患に有効であることが開示されている。特許文献4には、γ-オリザノールが脳内報酬系に作用し、ドパミン、GABA及びアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の異常活性状態を是正し、アルコール依存症の治療に有用であることが開示されている。
特開2014-141423号公報 特開2013-144656号公報 国際公開第2014/098190号 特開2020-093984号公報
特許文献3及び4に開示されたように、γ-オリザノールの脳への作用に関する知見が得られてきている。しかし、γ-オリザノールの認知機能への効果は検討されていない。認知機能が低下すると日常生活全般に様々な支障が生じるため、認知機能障害を予防又は治療する方法の確立が望まれている。特に、認知機能の低下が進行して認知症となる前の軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)を予防又は改善できれば、患者の生活の質の向上に貢献できる。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、認知機能の低下を予防及び回復することができる認知機能改善剤、神経新生促進剤及び認知機能改善用経口組成物を提供することを目的とする。
本発明の第1の観点に係る認知機能改善剤は、
γ-オリザノールを有効成分として含む。
前記γ-オリザノールを含有する生体適合性ナノ粒子をさらに含む、
こととしてもよい。
前記γ-オリザノールは、
玄米抽出物として含まれる、
こととしてもよい。
本発明の第2の観点に係る神経新生促進剤は、
γ-オリザノールを有効成分として含む。
本発明の第3の観点に係る認知機能改善用経口組成物は、
γ-オリザノールを有効成分として含む。
本発明によれば、認知機能の低下を予防及び回復することができる。
実施例1に係るγ-オリザノール含有ナノ粒子の粒度分布を示す図である。 試験例1に係るマウスの体重の経時変化を示す図である。 試験例1に係る短期記憶認知試験の結果を示す図である。 試験例1に係る各mRNAの発現量を示す図である。 試験例2に係るマウスの体重の経時変化を示す図である。 試験例2に係る短期記憶認知試験の結果を示す図である。 試験例2に係る各mRNAの発現量を示す図である。 Aは試験例2に係る免疫組織化学的検出法を用いてBrdU陽性新生細胞を観察したマウス脳切片を示す図である。Bは海馬におけるBrdU陽性細胞数(新生細胞数)を示す図である。
本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は下記の実施の形態によって限定されるものではない。
本実施の形態に係る認知機能改善剤は、γ-オリザノールを有効成分として含む。γ-オリザノールは、米糠等の脂質に含有される生理活性物質である。γ-オリザノールは、主に米糠油及び米胚芽油より抽出することができる。認知機能改善剤は、精製又は単離されたγ-オリザノールではなく、玄米抽出物としてγ-オリザノールを含んでもよい。γ-オリザノールとして、市販のγ-オリザノールを利用することもできる。
腸管からの吸収効率及び体内滞留時間の延長等、γ-オリザノールの体内動態を改善するために、γ-オリザノールは、生体適合性ナノ粒子に含有されてもよい。生体適合性ナノ粒子の主成分は、例えば、乳化剤及び分散剤である。
乳化剤は、食品に添加できるものであれば特に限定されない。好ましくは、乳化剤として、ヒドロキシプロピルセルロース(以下、単に「HPC」とする)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、レシチン、サポニン類、ステロール類、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びポリソルベートが挙げられる。食品添加用ナノ粒子に用いる乳化剤は、1種類に限定されず、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
分散剤は、食品に添加できるものであれば特に限定されない。好ましくは、分散剤として糖アルコールが用いられる。糖アルコールは、例えば、エリトリトール、グリセリン、イソマルト、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール及びキシリトール等である。糖アルコールとしては、特にD-マンニトールが好ましい。
生体適合性ポリマーは、生体適合性ポリエステルから製造してもよい。生体適合性ポリエステルは、例えば、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε-カプロラクトン、ε-ヒドロキシヘキサン酸、γ-ブチロラクトン、γ-ヒドロキシ酪酸、δ-バレロラクトン、δ-ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシ酪酸及びリンゴ酸等から選択される1種又はそれ以上のモノマーを重合することにより合成されるポリエステルである。
生体適合性粒子の粒径は、1000nm未満で、例えば2.5~900nm、好ましくは25~500nm、より好ましくは50~300nm、さらに好ましくは100~250nm又は100~120nmである。
ナノ粒子の粒子径は、ふるい分け法、沈降法、顕微鏡法、光散乱法、レーザー回折・散乱法、電気的抵抗試験、透過型電子顕微鏡による観察、及び走査型電子顕微鏡による観察等で測定できる。ナノ粒子の粒子径は公知の粒度分布計で測定してもよい。ナノ粒子の粒子径は、測定方法に応じて、ストーク相当径、円相当径、球相当径で表すことができる。また、ナノ粒子の粒子径は、複数の粒子を測定対象として、平均で表した平均粒子径、体積平均粒子径及び面積平均粒子径等であってもよい。
例えば、上述のナノ粒子の粒子径は、レーザー回折・散乱法等の測定に基づく体積分布等から算出される平均粒子径であってもよい。具体的には、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径である体積平均粒子径(50%径;D50)を粒子径としてもよい。累積カーブ及びD50は、市販の粒度分布計を用いて求めることができる。
ナノ粒子の粒子径のスパン値は、好ましくは3.0以下である。スパン値は、(D90-D10)/D50で求められる。ここで、D90は上記累積カーブが90%となる点の粒子径である90%径である。D10は上記累積カーブが10%となる点の粒子径である10%径である。D90及びD10は、市販の粒度分布計を用いて求めることができる。好ましくは、ナノ粒子の粒子径のスパン値は、2.0以下である。
生体適合性ナノ粒子は、腸管(小腸)の粘膜層、腸管壁、腎臓及び脾臓に停留しやすい。該生体適合性粒子は、内包するγ-オリザノールを腸、腎臓及び脾臓等で持続して放出するのでγ-オリザノールの効率的な輸送に好適である。また、上記生体適合性ナノ粒子をポリエチレングリコール(PEG)糖で修飾してもよい。生体適合性ナノ粒子表面をPEGで修飾すると、血中安定性が向上する点で好ましい。
本実施の形態に係る認知機能改善剤は公知の方法で製造できる。認知機能改善剤は有効成分としてのγ-オリザノールの他に、薬理学的に許容される他の成分を含んでいてもよい。認知機能改善剤は、例えば、γ-オリザノールと、薬理的に許容される担体とを含む。薬理的に許容される担体は、製剤素材として用いられる各種の有機担体物質又は無機担体物質である。薬理的に許容される担体は、例えば、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤、又は液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤である。また、必要に応じて、認知機能改善剤に、防腐剤、抗酸化剤、着色剤及び甘味剤等の添加物が配合されてもよい。
γ-オリザノールを含有する生体適合性ナノ粒子は、水中エマルジョン法及び強制薄膜式マイクロリアクターを使用する方法等の公知の任意の方法で製造できる。強制薄膜式マイクロリアクターとしては、好ましくはULREA SS-11(エム・テクニック社製)が用いられる。以下では、強制薄膜式マイクロリアクターを用いた生体適合性ナノ粒子の製造方法を例示する。
当該生体適合性ナノ粒子の製造方法は、混合ステップと、析出ステップと、を含む。混合ステップでは、A液とB液とを薄膜流体中で混合する。例えば、A液は、水又は、通常、乳化剤及び分散剤の少なくとも一方の水溶液である。A液における乳化剤の濃度は、例えば、0.01~5.0質量%、0.05~3.0質量%、好ましくは0.1~2質量%である。A液における分散剤の濃度は、例えば、0.01~5.0質量%、0.05~3.0質量%、好ましくは0.08~2質量%である。
B液は、γ-オリザノールが溶解する有機溶媒を含む。有機溶媒は特に限定されないが、好ましくは、エタノール、メタノール、酢酸、1-ブタノール、2-プロパノール、1-プロパノール、ヘキサン、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン及びアセトニトリル等である。好ましくは、B液はγ-オリザノールのエタノール溶液である。B液中のγ-オリザノールの濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1~10質量%、0.4~6質量%、0.5~4質量%又は1~3質量%である。B液は乳化剤を含んでもよい。乳化剤を含む場合、B液中の乳化剤の濃度は、0.1~2質量%、0.3~1.5質量%又は0.5~1.0質量%である。なお、必要に応じて、B液の溶媒には、エタノール以外の複数の種類の溶媒が混合されてもよい。また、B液中のγ-オリザノールとして玄米抽出物を使用してもよい。
混合ステップでは、A液とB液とを、互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する処理用面間に導入する。これにより、処理用面間に薄膜流体が形成され、A液とB液とが混合される。
混合されたA液及びB液は薄膜流体中で反応し、γ-オリザノールを含有したナノ粒子が形成される。析出ステップでは、形成されたナノ粒子を薄膜流体中に析出させる。
本実施の形態に係る認知機能改善剤の投与経路は特に限定されない。認知機能改善剤は、外用剤、注射剤及び経口投与剤として用いられるのが好ましい。上記生体適合性ナノ粒子は、腸管での吸収効率が高いことから、認知機能改善剤は経口投与剤として用いられるのが特に好ましい。
本実施の形態に係る認知機能改善剤は、ヒト及び動物に投与される。動物としては、好ましくは哺乳類で、より具体的には、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ及びシカ等があげられる。
本実施の形態に係る認知機能改善剤は、有効成分として0.1~99質量%、1~50質量%、好ましくは1~20質量%のγ-オリザノールを含む。
本実施の形態に係る認知機能改善剤の投与量は、対象の性別、年齢、体重及び症状等によって適宜決定される。当該認知機能改善剤は、γ-オリザノールが有効量となるように投与される。有効量とは、所望の結果を得るために必要なγ-オリザノールの量であり、治療又は処置する状態の進行の遅延、阻害、予防、逆転又は治癒をもたらすのに必要な量である。
当該認知機能改善剤の投与量は、典型的には、0.01mg/kg~1000mg/kg、好ましくは0.1mg/kg~200mg/kg、より好ましくは0.2mg/kg~20mg/kgであり、1日に1回、又はそれ以上に分割して投与することができる。認知機能改善剤を分割して投与する場合、認知機能改善剤は、好ましくは1日に1~4回投与される。また、認知機能改善剤は、毎日、隔日、1週間に1回、隔週、1ヶ月に1回等の様々な投与頻度で投与してもよい。好ましくは、投与頻度は、医師等により容易に決定される。なお、必要に応じて、上記の範囲外の量を用いることもできる。
本実施の形態に係る認知機能改善剤は、下記試験例1に示すように、認知機能障害を予防する。また、当該認知機能改善剤は、下記試験例2に示すように、認知機能障害を改善する。したがって、認知機能改善剤は、認知機能障害の発症の予防又は改善(治療)に好適である。認知機能障害の中でも特に、軽度認知障害(MCI)の予防及び治療に有効である。
また、下記試験例1及び試験例2に示すように、海馬のミクログリア炎症反応を抑制し、海馬における神経新生を促す。よって、別の実施の形態では、γ-オリザノールを有効成分として含む、神経新生促進剤が提供される。
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る認知機能改善剤は、認知機能の低下を予防及び回復することができる。また、γ-オリザノールを生体適合性ナノ粒子に含有させることで、低用量のγ-オリザノールで認知機能の低下を予防及び回復することができる。
また、別の実施の形態では、γ-オリザノールを有効成分として含む、認知機能改善用経口組成物が提供される。認知機能改善用経口組成物としては、具体的には、サプリメント、食品組成物、飲食品、機能性食品及び食品添加剤が挙げられる。
サプリメントの形態は、特に制限されず、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、糖衣錠、フィルム剤、トローチ剤、チュアブル剤、溶液、乳濁液及び懸濁液等の任意の形態でよい。サプリメントは、サプリメントとして通常使用される任意の成分を含んでもよい。
“機能性食品”とは、健康の維持の目的で摂取する食品又は飲料を意味し、保健機能食品である特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品、健康食品及び栄養補助食品等を含む。機能性食品としては、保健機能食品である特定保健用食品又は栄養機能食品が好ましい。なお、機能性食品として製品化する場合には、食品に用いられる様々な添加剤、具体的には、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、漂白剤、防菌防黴剤、酸味料、甘味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤及び香料等を抗炎症経口組成物に添加してもよい。
機能性食品は、食品であっても飲料であってもよく、経口で摂取できれば特に限定されない。機能性食品の態様としては、例えば、飲料、菓子、穀類加工品、練り製品、乳製品及び調味料等が挙げられる。飲料として、栄養ドリンク、清涼飲料水、紅茶及び緑茶等が例示される。菓子として、キャンデー、クッキー、錠菓、チューインガム及びゼリー等が例示される。穀類加工品麺として、パン、米飯及びビスケット等が例示される。練り製品として、ソーセージ、ハム及びかまぼこ等が例示される。乳製品として、バター及びヨーグルト等が例示される。
認知機能改善用経口組成物は、食品添加剤として食品に添加されてもよい。この場合、当該食品添加剤は、食品に添加しやすいように、ペースト剤、ゲル状剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤及び顆粒剤等であってもよい。
認知機能改善用経口組成物は、認知機能改善作用を維持する範囲で、水、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー、機能性成分及び食品添加物等を含有してもよい。認知機能改善用経口組成物は、必要に応じて上記化合物等以外の他の成分を添加して、公知の方法によって製造することができる。
認知機能改善用経口組成物は、1日の摂取量が上述の摂取量となるように1個又は複数個の容器に分けて収容されてもよく、この場合、好ましくは1個の容器に1日分の認知機能改善用経口組成物が収容される。
認知機能改善用経口組成物は、認知機能障害の治療又は予防に用いられる点において、製品として他の製品と区別することができる態様で提供される。例えば、認知機能改善用経口組成物に係る製品の包装、説明書及び宣伝物の少なくとも1つに、抗炎症作用がある旨が表示される。
別の実施の形態では、γ-オリザノールを対象に投与することにより、対象の認知機能障害を治療、改善又は予防する方法が提供される。また、別の実施の形態は、認知機能障害を治療、改善又は予防するためのγ-オリザノールの使用である。他の実施の形態では、認知機能改善剤としての使用のためのγ-オリザノールが提供される。また、別の実施の形態は、認知機能改善剤の製造のためのγ-オリザノールの使用である。
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。なお、以下では“%”は特に言及のない限り“質量%”を意味する。
(実施例1:γ-オリザノールナノ粒子の調製)
90%質量以上でγ-オリザノールを含む粉末である玄米胚芽抽出エキス(オカヤス社製)を、ULREA SS-11(エム・テクニック社製)を使用して次のようにナノ粒子化した。A液をA液タンクに充填し、タンクを0.3MPaに加圧した。その後、設定値5℃(実測値約8℃)でA液を334mL/分で送液し、次いで設定値80℃(実測値約53℃)でB液を100mL/分で送液した。A液は0.2%マルチトール、0.1%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を含む水溶液である。また、B液の組成は、玄米胚芽抽出エキス:HPC:エタノールが質量比で1.5:0.8:97.7の溶液である。ディスク回転数を500rpmとし、ディスク背圧を0.02MPaとした。4.3Lの吐出液を回収し、エタノールを留去するため、エバポレーターにて2.9Lまで濃縮した。溶媒留去した分散液を、-80℃で凍結し、凍結乾燥機(FD-550R、東京理化器械社製)で凍結乾燥し、約25gのγ-オリザノール含有ナノ粒子を得た。
上記で調製したγ-オリザノール含有ナノ粒子6.9mgをチューブに量りとり、ミリQ水6.9mLを加えた。ボルテックスミキサーで30秒間撹拌後、5分間超音波処理を行った。ミリQ水を対照とし、γ-オリザノール含有ナノ粒子の粒度分布をNIKKISO Nanotrac Wave-EX150(日機装社製)で測定した。γ-オリザノール含有ナノ粒子のD50は116nmで、スパン値が1.2であった。粒度分布を図1に示す。
上記で調製したγ-オリザノール含有ナノ粒子中の玄米胚芽抽出エキスの含有量をHPLC(LC-2000 Plus series、日本分光社製)を用いて外部標準法にて測定した。測定の結果、γ-オリザノール含有ナノ粒子の玄米胚芽抽出エキスの含有率は42.1±0.33wt%であった。
ULREA SS-11(エム・テクニック社製)を使用して、比較例としてフルオレセインイソチオシアネート(FITC)-乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA;Poly-Lactide-co-Glycolide)ナノ粒子を次のように調製した。A液をA液タンクに充填し、タンクを0.3MPaに加圧した。その後、設定値42℃(実測値約40℃)でA液を120mL/分で送液し、次いで設定値40℃(実測値約30℃)でB液を100mL/分で送液した。A液は2%ポリビニルアルコール(ゴーセノールE G-05P、三菱ケミカル社製)を含む水溶液である。また、B液の組成は、PLGA:FITC:アセトン:エタノールが質量比で4.0:0.2:63.9:31.9の溶液である。ディスク回転数を1000rpmとし、ディスク背圧を0.02MPaとした。2.9Lの吐出液を回収し、有機溶媒を留去するため、エバポレーターにて1.9Lまで濃縮した。溶媒留去したFITC-PLGAナノ粒子分散液を遠心分離し(22000G、30分)、ナノ粒子を回収した。回収したナノ粒子を超純水に再分散させて再度遠心分離を行う操作を5回繰り返し、ナノ粒子を洗浄した。洗浄したナノ粒子を-80℃で凍結し、凍結乾燥機(FD-550R、東京理化器械社製)で凍結乾燥し、約15gのFITC-PLGAナノ粒子を得た。
上記で調製したFITC-PLGAナノ粒子10mgをチューブに量りとり、ミリQ水10mLを加えた。ボルテックスミキサーで30秒間撹拌後、5分間超音波処理を行った。ミリQ水を対照とし、FITC-PLGAナノ粒子の粒度分布をNIKKISO Nanotrac Wave-EX150(日機装社製)で測定した。得られたFITC-PLGAナノ粒子はD50が253nmで、スパン値0.9であった。
上記で調製したFITC-PLGAナノ粒子のFITCの含有量を蛍光マイクロプレートリーダー(Infinite M200 Pro、Tecan社製)を用いて測定した。測定の結果、FITC-PLGAナノ粒子中のFITCの含有率は4.4±0.3wt%であった。
(試験例1:γ-オリザノール飼料摂餌による認知機能障害予防実験)
50週齢C57BL/6Jマウス(雄、日本SLC社製、24℃で12時間/12時間の明暗サイクルにて飼育)に4か月摂餌させ、短期記憶認知試験を行った。高脂肪食(High fat diet;HFD)群(n=9)には、高脂肪食(D12492、Research Diets社製)を摂餌させた。1%γ-オリザノール含有高脂肪食(HFD-Orz)群(n=9)には、1%γ-オリザノール(富士フイルム和光純薬社製)を配合した高脂肪食を摂餌させた。HFD-Orz群のマウスは、4か月でのγ-オリザノールの摂取量はマウス1匹あたり約3gである。対照として通常食(Lab chow diet;LCD)群(n=9)に低脂肪コントロール飼料(D12450J、Research Diets社製)を摂餌させた。高脂肪食、1%γ-オリザノールを含む高脂肪食及び通常食の栄養組成を表1に示す。
Figure 2023094563000002
4か月の飼育後、短期記憶認知試験としてY字迷路試験及び新規物体認識探索試験を行った。Y字迷路試験では、測定時間は8分間とし、空間作業記憶率(認知機能)及び自発行動量を評価した。空間作業記憶率は、3回連続で異なるアームへ進入した回数をアームへの総進入回数から1を引いた値で除した値に100を乗じた値である。自発行動量はアームへの総進入回数である。新規物体認識探索試験では、前日に観察した物体を記憶させ、翌日に新規物体及び非新規物体に対する探索行動時間を測定し、新規物体に対する探索行動時間の割合を算出した。
短期記憶認知試験の後、短期記憶を司るマウス脳の海馬領域をマウスから回収し、mRNAを抽出し、各種遺伝子発現変動をQ-PCRにて測定した。測定対象の遺伝子は、Iba1、TNF-α、IL-6、Dcx、Tet2、PSD95、IL-3及びMBPとした。
Iba1に対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号1及び2に示す。TNF alphaに対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号3及び4に示す。IL-6に対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号5及び6に示す。IL-10に対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号7及び8に示す。Dcxに対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号9及び10に示す。Tet2に対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号11及び12に示す。PSD95に対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号13及び14に示す。IL-3に対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号15及び16に示す。MBPに対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号17及び18に示す。
なお、以下のすべてのデータは平均値±標準誤差で示され、一元分散分析及びTukeyのpost-hocテストを用いて検定された。
(結果)
図2は、飼育期間におけるマウスの体重の推移を示す。LCD群に比べ、HFD群及びHFD+Orz群は有意に体重が上昇した。HFD群とHFD+Orz群との間に有意差はなかった(n=9、*:p<0.05)。
図3はY字迷路試験及び新規物体認識探索試験の結果を示す。LCD群に比べ、HFD群で有意に空間作業記憶率が減少し、HFD+Orz群ではHFD群に比べ空間作業記憶率が有意に上昇した(n=9、**:p<0.01)。また、LCD群に比べ、HFD群は自発行動量が有意に減少した(n=9、**:p<0.01)。新規物体認識探索試験では、各群間に有意な差は見られなかった(N=5)。
図4はLCD群に対する各mRNAの発現量を示す。LCD群に比べ、HFD群では炎症マーカーであるIba1のmRNA量が有意に増加したが、HFD+Orz群では増加しなかった。TNF alpha及びIL-6等の炎症性サイトカインのmRNA量に有意な差は見られないが、神経新生マーカーDcx及び神経幹細胞マーカーTet2のmRNA量はLCD群に比べてHFD+Orz群において有意に増加していた。また、シナプス後膜タンパク質PSD95及びアストロサイト由来IL-3のmRNA量は有意に増加し、神経のミエリン鞘校正成分MBPのmRNA量もLCD群に比べてHFD+Orz群において有意に増加した(N=5又は6、*:p<0.05、**:p<0.01)。これらの結果からγ-オリザノールの摂取は海馬における炎症反応を抑制し、神経新生を惹起させると考えられた。
(試験例2:γ-オリザノール含有ナノ粒子投与による認知機能障害改善実験)
50週齢C57BL/6Jマウス(雄、日本SLC社製、24℃で12時間/12時間の明暗サイクルにて飼育)に上記の高脂肪食を4か月間摂餌させ、食事性肥満を誘導した。その後、実施例1で調製したγ-オリザノール含有ナノ粒子(50mg/ml×250μl/頭又は100mg/ml×250μl/頭)を、胃ゾンデを用いて週2回経口投与し、投与開始から1か月後又は3か月後に試験例1と同様に短期記憶認知試験を行った。50mg/mlのγ-オリザノール含有ナノ粒子を投与した群をHFD+Low Orz群とする。100mg/mlのγ-オリザノール含有ナノ粒子を投与した群をHFD+High Orz群とする。FITC-PLGAナノ粒子を、胃ゾンデを用いて週2回経口投与(50mg/ml×250μl)した群をHFD+FITC群とした。対照として通常食(LCD)群には低脂肪コントロール飼料(D12450J、Research Diets社製)を摂餌させた。
短期記憶認知試験の後、マウス脳の海馬領域を回収しmRNAを抽出後、遺伝子発現変動を試験例1と同様にQ-PCRを用いて測定した。
また、神経新生を評価するために、γ-オリザノール含有ナノ粒子を同様に週2回3か月間、経口投与したマウスに合成ヌクレオシドであるブロモデオキシウリジン(BrdU)を3日間連続して腹腔内に投与後、脳切片を作成した。
(結果)
図5は、飼育期間におけるマウスの体重の推移を示す。HFD+FITC群、HFD+Low Orz群及びHFD+High Orz群との間に有意差はなかった(n=6又は7)。LCD群は、同じ週のHFD群に対して有意に体重が小さかった(*:p<0.05)。
図6の上段は、γ-オリザノール含有ナノ粒子を週2回経口投与した1か月後のY字迷路探索試験及び新規物体探索試験の結果を示す。図6の下段は、3か月後のY字迷路探索試験及び新規物体探索試験の結果を示す。γ-オリザノール含有ナノ粒子投与後1か月では有意な変化は見られないが、3か月後では、LCD群に比べ、HFD+FITC群は有意に空間作業記憶率が減少し、γ-オリザノール含有ナノ粒子を投与したHFD+Low Orz群及びHFD+High Orz群は用量依存性に空間作業記憶率が有意に回復した。HFD+High Orz群では自発行動量もLCD群まで回復した(N=6又は7、*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001)。しかし、新規物体探索試験では、HFD+Low Orz群及びHFD+High Orz群において回復傾向はあるものの、有意な回復は見られなかった。
図7はLCD群に対する各mRNAの発現量を示す。HFD+High Orz群では、Iba1のmRNA量が有意に増加した。LCD群と比較してHFD+FITC群及びHFD+High Orz群ではTNF alphaのmRN量は有意に増加したが、IL-6及びIL-3のmRNA量には有意な差はなかった。一方、DcxのmRNA量は用量依存性に増加し、Tet2のmRNA量も強い増加傾向がみられた。MBPのmRNA発現量はγ-オリザノール含有ナノ粒子の用量依存性に増加傾向はあるものの、有意差は認められなかった。
神経新生の評価では、図8Aに示すように、免疫組織化学的手法を用いて神経新生が盛んな海馬におけるBrdU陽性細胞を検出し、新生細胞数を群間比較した。図8Bは、海馬における新生細胞数を示す。LCD群に比べ、HFD+FITC群はBrdU陽性新生細胞数が減少し、γ-オリザノール含有ナノ粒子を投与したHFD+Low Orz群及びHFD+high Orz群は用量依存性に新生細胞数が増加する傾向を示し、LCD群と同等までに新生細胞数が回復した。
試験例1及び試験例2の結果から、γ-オリザノールは、HFD誘導性高度肥満時に検出されるマウス海馬のミクログリア炎症反応を強く抑制し、むしろ海馬における神経新生を促し、結果的に認知機能障害の予防と回復に寄与する効果を有することが示された。また、ナノ粒子化γ-オリザノールの経口投与は、海馬神経新生を促し、老齢肥満マウスの認知機能障害を有意に回復させる効能を有することが示された。
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等な発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
本発明は、認知機能の改善を目的とする医薬及び食品等に好適である。

Claims (5)

  1. γ-オリザノールを有効成分として含む、
    認知機能改善剤。
  2. 前記γ-オリザノールを含有する生体適合性ナノ粒子をさらに含む、
    請求項1に記載の認知機能改善剤。
  3. 前記γ-オリザノールは、
    玄米抽出物として含まれる、
    請求項1又は2に記載の認知機能改善剤。
  4. γ-オリザノールを有効成分として含む、
    神経新生促進剤。
  5. γ-オリザノールを有効成分として含む、
    認知機能改善用経口組成物。
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