JP2023053637A - 渦電流式減速装置用ロータ - Google Patents

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卓也 藤田
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Abstract

Figure 2023053637000001
【課題】高温強度に優れ、かつ、渦電流式減速装置を構成した際に、ロータの円筒部とポールピースとの隙間を小さくできる渦電流式減速装置用ロータを提供する。
【解決手段】本開示による渦電流式減速装置用ロータは、円筒部を備え、円筒部の化学組成が、質量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.10~0.40%、Mn:0.50~1.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.10%超~0.40%、Mo:0.20~1.00%、Nb:0.020~0.060%、V:0.040~0.080%、sol.Al:0.030~0.100%、B:0.0005~0.0050%、N:0.003~0.010%、Cu:0~0.20%、Ni:0~0.20%、及び、残部:Fe及び不純物、からなる。
【選択図】図1

Description

本開示は、ロータに関し、さらに詳しくは、渦電流式減速装置(リターダ)に用いられる、渦電流式減速装置用ロータに関する。
バスやトラック等の大型自動車は、フットブレーキや排気ブレーキ等の制動装置を備える。最近の大型自動車ではさらに、渦電流式減速装置を備えるものが登場している。渦電流式減速装置は、リターダとも呼ばれる。たとえば、急勾配の長い下り坂等を走行する場合であって、エンジンブレーキや排気ブレーキを併用しても大型自動車の走行速度を減速しにくい場合、渦電流式減速装置を作動させる。これにより、制動力をさらに高め、大型自動車の走行速度を有効に減速させることができる。
渦電流式減速装置は、電磁石を用いるタイプと、永久磁石を用いるタイプとが存在する。永久磁石を用いた渦電流式減速装置は、ロータと、ロータに収納されるステータとを備える。ロータは、円筒部(ドラム)と、プロペラシャフトにロータを固定するための円環状のホイール部と、円筒部とホイール部とをつなぐ複数のアーム部とを備える。ステータは、円筒体と、極性の異なる2種類の複数の永久磁石と、複数のポールピースとを備える。極性の異なる複数の永久磁石は、円筒部の外周面上に、円周方向に交互に配列される。ポールピースは、ロータの円筒部の内周面と永久磁石との間に、隙間を空けて配置される。ステータのうち、複数の永久磁石が取り付けられた円筒体は、複数のポールピースとは別個独立して、円筒体の軸まわりを回転可能である。
制動時、つまり、渦電流式減速装置を作動させる場合、ステータの永久磁石の磁束がポールピースを介してロータに到達して、永久磁石とロータの円筒部との間に磁気回路が形成される。このとき、ロータの円筒部に渦電流が発生する。渦電流の発生に伴い、ローレンツ力が発生する。このローレンツ力が制動トルクとなり、大型自動車に制動力を付与する。一方、非制動時、つまり、渦電流式減速装置の動作を停止させる場合、ポールピースに対する永久磁石の相対位置をずらして、永久磁石の磁束がロータに到達しないようにする。この場合、永久磁石とロータの円筒部との間に磁気回路が形成されない。そのため、ロータの円筒部に渦電流が発生せず、制動力も発生しない。以上の動作により、渦電流式減速装置は、制動動作及び非制動動作を実行する。
ところで、制動力は、制動時のロータの円筒部に発生する渦電流量に依存する。そのため、制動時にロータの円筒部に発生する渦電流量は大きい方が好ましい。制動時に発生する渦電流量を増加させるためには、ロータの円筒部の電気抵抗が低い方が好ましい。
さらに、制動時において、渦電流とともに発生するジュール熱によりロータは加熱され、ロータの温度が650~700℃程度まで上昇する。一方、渦電流式減速装置の非制動時において、ロータは円筒部の外周面に形成されている複数の冷却フィンにより急速に冷却(空冷)される。つまり、ロータでは、制動及び非制動の繰り返しにより、熱サイクルが負荷される。そのため、渦電流式減速装置のロータには、高い高温強度が要求される。
渦電流式減速装置用ロータにおいて、電気抵抗を低減しつつ、高い高温強度を得る技術が特開平8-49041号公報(特許文献1)及び特開2020-180324号公報(特許文献2)に開示されている。
特許文献1に記載された渦電流式減速装置用ロータ材は、重量割合で、C:0.05~0.15%、Si:0.10~0.40%、Mn:0.5~1.0%、P:0.05%以下、Ni:0.50%以下、Mo:0.2~1.0%、Nb:0.01~0.03%、V:0.03~0.07%、B:0.0005~0.003%、Sol.Al:0.02~0.09%、N:0.01%以下を含有し、残部は実質的にFeからなる。この文献では、電気抵抗を高める元素であるP、Ni、Mnの含有量を低減することにより、ロータ材の電気抵抗を低減する。さらに、Bを含有することにより、ロータ材の高温強度を高めている。
特許文献2に記載された渦電流式減速装置用ロータは、円筒部を備え、円筒部の化学組成が、質量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.10~0.40%、Mn:0.50~1.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Mo:0.20~1.00%、Nb:0.020~0.060%、V:0.040~0.080%、sol.Al:0.030~0.100%、B:0.0005~0.0050%、N:0.003~0.010%、Cu:0~0.20%、Ni:0~0.20%、Cr:0~0.10%、及び、残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)及び式(2)を満たし、ミクロ組織におけるマルテンサイト及びベイナイトの総面積率が95.0%以上である。
0.060≦(51/93)Nb+V≦0.100 (1)
0.50<Nb/V (2)
ここで、式(1)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
特開平8-49041号公報 特開2020-180324号公報
ところで、ロータの円筒部とポールピースとの隙間を小さくすることで、制動時に発生する渦電流量を増加させることができる。制動時に発生する渦電流量が増加すれば、渦電流式減速装置の制動力が高まる。しかしながら、制動時にロータが加熱されることで、長期使用に伴いロータの内周面に酸化膜が厚く形成されることがある。そのため、この形成され得る酸化膜の厚さ分を考慮して、隙間を設定しておく必要があった。なお、本明細書において、ロータの円筒部とポールピースとの隙間(単に隙間ということもある)とは、ロータの円筒部の内周面と、ポールピースの外周面との距離をいう。
上述の特許文献1及び特許文献2に開示された技術によれば、高い高温強度を有する渦電流式減速装置用ロータが得られる。しかしながら、特許文献1及び特許文献2では、ロータの円筒部とポールピースとの隙間を小さくする手段について検討されていない。
本開示の目的は、高温強度に優れ、かつ、渦電流式減速装置を構成した際に、ロータの円筒部とポールピースとの隙間を小さくできる渦電流式減速装置用ロータを提供することである。
本開示による渦電流式減速装置用ロータは、
円筒部を備え、
前記円筒部の化学組成が、質量%で、
C:0.05~0.15%、
Si:0.10~0.40%、
Mn:0.50~1.00%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Cr:0.10%超~0.40%、
Mo:0.20~1.00%、
Nb:0.020~0.060%、
V:0.040~0.080%、
sol.Al:0.030~0.100%、
B:0.0005~0.0050%、
N:0.003~0.010%、
Cu:0~0.20%、
Ni:0~0.20%、及び、
残部:Fe及び不純物、からなる。
本開示による渦電流式減速装置用ロータは、700℃程度まで達した場合においても、高い強度を有する。また、本開示による渦電流式減速装置用ロータを用いて渦電流式減速装置を構成した際に、ロータの円筒部とポールピースとの隙間を小さくできる。
図1は、渦電流式減速装置内におけるロータの円筒部とポールピースとの隙間と、渦電流式減速装置の制動トルクとの関係を示す図である。 図2は、本実施形態の渦電流式減速装置用ロータが適用される、渦電流式減速装置の正面図である。 図3は、図2に示す渦電流式減速装置をプロペラシャフトに固定した場合の、渦電流式減速装置の、プロペラシャフトの軸方向の断面図である。 図4は、非制動時の渦電流式減速装置の軸方向に垂直な断面図(径方向の断面図)である。 図5は、制動時の渦電流式減速装置の軸方向に垂直な断面図(径方向の断面図)である。
本発明者らは、高温強度に優れ、かつ、渦電流式減速装置を構成した際に、ロータの円筒部とポールピースとの隙間を小さくできる渦電流式減速装置用ロータについて調査及び検討を行った。
渦電流式減速装置を長期間使用した場合、ロータの円筒部の内周面上に酸化膜が形成される。ロータの円筒部と、ポールピースの外周面とが接触すれば、異音や車体の振動が発生してしまう。そのため、ロータの円筒部とポールピースとの隙間は、長期間使用後にロータの円筒部の内周面に酸化膜が厚く形成されても、ポールピースと接触しないように、形成され得る酸化膜の厚さ分を考慮して設定する必要がある。
一方で、本発明者らは、渦電流式減速装置を長期間使用した場合であっても、ロータの円筒部の内周面上に形成される酸化膜が厚くならなければ、ロータの円筒部とポールピースとの隙間をより小さくできると考えた。ロータの円筒部とポールピースとの隙間をより小さくできれば、渦電流式減速装置の制動トルクを高めることができる。本発明者らは、渦電流式減速装置内におけるロータの円筒部とポールピースとの隙間と、渦電流式減速装置の制動トルクとの関係を調査した。具体的には、C:0.09%、Si:0.19%、Mn:0.85%、P:0.009%、S:0.008%、Cr:0.17%、Mo:0.52%、Nb:0.029%、V:0.045%、sol.Al:0.066%、B:0.0018%、N:0.005%、Cu:0.01%、Ni:0.01%、及び、残部:Fe及び不純物からなる渦電流式減速装置用ロータを製造した。渦電流式減速装置用ロータの形状は、外径(直径):440mm、内径(直径):390mm、円筒部の肉厚:11mm、軸方向の長さ:85mm、冷却フィンの枚数:85枚、エアギャップ:1000μmであった。制動トルクは、プロペラシャフトの回転数が3000rpmの時点で測定した。化学組成及びその他の条件は変えずに、ロータの円筒部とポールピースとの隙間を変化させるため、円筒部の肉厚を変化させた渦電流式減速装置用ロータを複数製造した。円筒部の肉厚:11mm、エアギャップ:1000μmの場合の制動トルクを1として、ロータの円筒部とポールピースとの隙間を変化させた場合の制動トルクの比を求めた。結果を図1に示す。
図1を参照して、ロータの円筒部とポールピースとの隙間が小さくなるにしたがい、制動トルク比が高まる。また、隙間が大きい領域(1200~1500μmの領域)と比較して、隙間が小さい領域(500~800μmの領域)では、制動トルク比の変化量が大きい。つまり、ロータの円筒部とポールピースとの隙間が小さい領域では、制動トルクを顕著に高めることができることが分かる。
また一方で、制動時において渦電流とともに発生するジュール熱により、ロータが加熱されて高温(650~700℃程度)になることで、ロータの円筒部の内周面で酸化が促進され、長期間使用した場合に酸化膜が厚く形成される場合がある。そのため、渦電流式減速装置の制動トルクを大きくするには、ロータの円筒部とポールピースとの隙間を小さくして磁束の減衰を抑えることが有効であるものの、形成され得る酸化膜の厚さを考慮して、ロータの円筒部とポールピースとの隙間を設定せざるを得なかった。
そこで本発明者らは、700℃程度まで達するような高温での使用を想定した場合であっても、高い強度を有し、かつ、酸化膜の形成を抑制する手段について具体的に検討を行った。その結果、ロータの円筒部に0.10%超~0.40%のCrを含有させることが有効であることが分かった。0.10%超~0.40%のCrを含有させることで、酸化膜が抑制される理由としては以下の理由が考えられる。ロータの円筒部に0.10%超~0.40%のCrが含有されれば、高温(650~700℃程度)で使用した際に、ロータの内周面又は内周面近傍に、Cr酸化物が形成される。Cr酸化物は、大気中からロータ内部への酸素の拡散、及び、ロータ内部からロータの表面への鉄の拡散を抑制する。これにより、ロータの円筒部の内周面において、酸化膜の形成を抑制する。ロータの円筒部に0.10%超~0.40%のCrを含有させればさらに、高温強度が高まる。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による渦電流式減速装置用ロータの要旨は、次のとおりである。
[1]
渦電流式減速装置用ロータであって、
円筒部を備え、
前記円筒部の化学組成が、質量%で、
C:0.05~0.15%、
Si:0.10~0.40%、
Mn:0.50~1.00%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Cr:0.10%超~0.40%、
Mo:0.20~1.00%、
Nb:0.020~0.060%、
V:0.040~0.080%、
sol.Al:0.030~0.100%、
B:0.0005~0.0050%、
N:0.003~0.010%、
Cu:0~0.20%、
Ni:0~0.20%、及び、
残部:Fe及び不純物、からなる、
渦電流式減速装置用ロータ。
[2]
[1]に記載の渦電流式減速装置用ロータであって、
前記化学組成は、
Cu:0.01~0.20%、及び、
Ni:0.01~0.20%、からなる群から選択される1元素以上を含有する、
渦電流式減速装置用ロータ。
以下、本実施形態の渦電流式減速装置用ロータについて詳述する。
[渦電流式減速装置の構成]
図2は、本実施形態の渦電流式減速装置用ロータが適用される、渦電流式減速装置の正面図である。図2を参照して、渦電流式減速装置1は、渦電流式減速装置用ロータ10(以下、単にロータ10ともいう)と、ステータ20とを備える。
図3は、図2に示す渦電流式減速装置1をプロペラシャフトに固定した場合の、渦電流式減速装置1の、プロペラシャフトの軸方向の断面図である。図3を参照して、本実施形態では、ロータ10がプロペラシャフト30に固定され、ステータ20が、図示しないトランスミッションに固定される。図2及び図3を参照して、ロータ10は、円筒部(ドラム)11と、アーム部12と、ホイール部13とを備える。円筒部11は、円筒状であり、ステータ20の外径よりも大きい内径を有する。ホイール部13は、円筒部11の内径よりも小さい外径を有する円環状の部材であり、中心部に貫通孔を有する。ホイール部13の厚さは、円筒部11の厚さよりも薄い。ホイール部13は、貫通孔にプロペラシャフト30を挿入し、プロペラシャフト30に固定される。アーム部12は、図2及び図3に示すとおり、円筒部11の端部と、ホイール部13とを繋いでいる。なお、円筒部11の外周面には、複数の冷却フィン11Fが形成されている。
図4は、非制動時の渦電流式減速装置1の軸方向に垂直な断面図(径方向の断面図)である。図4を参照して、ステータ20は、磁石保持リング21と、複数の永久磁石22及び23と、複数のポールピース24とを備える。永久磁石22及び永久磁石23は、磁石保持リング21の外周面上に、円周方向に交互に配列されている。永久磁石22の表面のうち、ロータ10の円筒部11の内周面と対向する表面はN極である。永久磁石23の表面のうち、ロータ10の円筒部11の内周面と対向する表面はS極である。複数のポールピース24は、ステータ20の円周方向に配列されている。複数のポールピース24は、複数の永久磁石22及び23と、円筒部11の内周面との間に隙間を空けて配列されている。
[渦電流式減速装置1の制動及び非制動の動作について]
図4を参照して、非制動時において、渦電流式減速装置1の径方向に見た場合、各永久磁石22又は23は、互いに隣り合う2つのポールピース24と重複している。この場合、磁束Bは図4に示すとおり、ステータ20内に流れ、具体的には、永久磁石22及び23と、ポールピース24と、磁石保持リング21との間を流れる。この場合、ロータ10と永久磁石22及び23との間には磁気回路が形成されておらず、ロータ10にローレンツ力が発生しない。そのため、制動力が作動しない。
図5は、制動時の渦電流式減速装置1の軸方向に垂直な断面図(径方向の断面図)である。制動時において、ステータ20内の磁石保持リング21が回転して、図4と比較して、永久磁石22及び23の、ポールピース24に対する相対位置をずらす。具体的には、図5では、制動時において、渦電流式減速装置1の径方向に見た場合、各永久磁石22又は23は、1つのポールピース24のみと重複しており、2つのポールピース24には重複していない状態となる。そのため、磁束Bは図5に示すとおり、磁石保持リング21、永久磁石22又は23、ポールピース24、及び、円筒部11との間を流れる。この場合、ロータ10と永久磁石22又は23との間には磁気回路が形成される。このとき、ロータ10の円筒部11に渦電流が発生する。渦電流の発生に伴い、ローレンツ力が発生する。このローレンツ力が制動トルクとなり、制動力が発生する。
以上のとおり、渦電流式減速装置1は、ロータ10に磁束Bを作用させて、発生する渦電流により、制動力を発生させる。したがって、ロータ10の円筒部11の内周面とポールピース24の外周面との距離(ロータ10の円筒部11とポールピース24との隙間G)は小さい方が、磁束Bがロータ10の円筒部11に作用するまでの減衰を抑制でき、高い制動力が得られる。そのため、ロータ10の円筒部11は、制動及び非制動を繰り返すことにより、熱サイクルが負荷されても変形が小さく、かつ、酸化膜が形成され難い材料で構成されるのが好ましい。渦電流式減速装置1のロータ10は650℃から700℃の高温で使用されるため、これらの温度で高い強度と耐酸化性を有する材料が求められている。以下、ロータ10について詳述する。
[渦電流式減速装置用ロータ10について]
[化学組成]
本実施形態の渦電流式減速装置用ロータ10の円筒部11の化学組成は、次の元素を含有する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
C:0.05~0.15%
炭素(C)は、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Cはさらに、Nb炭化物、V炭化物等の析出強化型の微細な炭化物を生成し、鋼材の高温強度を高める。C含有量が0.05%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.15%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の電気抵抗が過剰に高まり、渦電流式減速装置1の制動時において、ロータ10の円筒部11を流れる渦電流量が減少する。この場合、渦電流式減速装置1の制動力が低下する。したがって、C含有量は0.05~0.15%である。C含有量の好ましい下限は0.06%であり、さらに好ましくは0.07%である。C含有量の好ましい上限は0.14%であり、さらに好ましくは0.13%であり、さらに好ましくは0.12%である。
Si:0.10~0.40%
シリコン(Si)は、製鋼工程において、鋼を脱酸する。Siはさらに、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Si含有量が0.10%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が0.40%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の電気抵抗が過剰に高まり、渦電流式減速装置1の制動時において、ロータ10の円筒部11を流れる渦電流量が減少する。この場合、渦電流式減速装置1の制動力が低下する。したがって、Si含有量は0.10~0.40%である。Si含有量の好ましい下限は0.12%であり、さらに好ましくは0.15%である。Si含有量の好ましい上限は0.38%であり、さらに好ましくは0.36%である。
Mn:0.50~1.00%
マンガン(Mn)は、製鋼工程において、鋼を脱酸する。Mnはさらに、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Mn含有量が0.50%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の電気抵抗が過剰に高まり、渦電流式減速装置1の制動時において、ロータ10の円筒部11を流れる渦電流量が減少する。この場合、渦電流式減速装置1の制動力が低下する。したがって、Mn含有量は0.50~1.00%である。Mn含有量の好ましい下限は0.58%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.62%である。Mn含有量の好ましい上限は0.94%であり、さらに好ましくは0.90%であり、さらに好ましくは0.88%である。
P:0.030%以下
燐(P)は不可避に含有される不純物である。つまり、P含有量は0%超である。Pは、鋼材の熱間加工性及び靱性を低下する。Pはさらに、鋼材の電気抵抗を高め、渦電流式減速装置1の制動時において、ロータ10の円筒部11を流れる渦電流量を減少させる。P含有量が0.030%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性及び靱性が顕著に低下し、さらに、渦電流式減速装置1の制動力が低下する。したがって、P含有量は0.030%以下である。P含有量の好ましい上限は0.028%であり、さらに好ましくは0.026%であり、さらに好ましくは0.025%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は、製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%である。
S:0.030%以下
硫黄(S)は不可避に含有される不純物である。つまり、S含有量は0%超である。Sは、鋼材の熱間加工性及び靱性を低下させる。S含有量が0.030%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性及び靱性が顕著に低下する。したがって、S含有量は0.030%以下である。S含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.022%であり、さらに好ましくは0.020%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は、製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.001%である。
Cr:0.10%超~0.40%
クロム(Cr)は、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の高温強度を高める。さらに、Crは、鋼材の耐高温酸化性を高め、酸化膜の形成を抑制する。Crが0.10%以下であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、耐高温酸化性が十分に得られない。しかしながら、Cr含有量が0.40%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の電気抵抗が過剰に高まり、ロータ10の円筒部11とポールピース間の隙間を小さくしても、渦電流式減速装置1の制動時において、渦電流式減速装置1のロータ10の円筒部11を流れる渦電流量が減少するため、渦電流式減速装置1の制動力が低下する。したがって、Cr含有量は0.10%超~0.40%である。Cr含有量の好ましい下限は0.11%であり、さらに好ましくは0.12%である。Cr含有量の好ましい上限は0.38%であり、さらに好ましくは0.35%である。
Mo:0.20~1.00%
モリブデン(Mo)は、鋼材の焼入れ性を高め、固溶強化及びMo炭化物(MoC)による析出強化(分散強化)により、高温強度を高める。Moはさらに、鋼材の靱性を高める。Mo含有量が0.20%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の電気抵抗が過剰に高まり、渦電流式減速装置1の制動時において、ロータ10の円筒部11を流れる渦電流量が減少する。この場合、渦電流式減速装置1の制動力が低下する。したがって、Mo含有量は0.20~1.00%である。Mo含有量の好ましい下限は0.25%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.35%であり、さらに好ましくは0.40%である。Mo含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.60%である。
Nb:0.020~0.060%
ニオブ(Nb)は、炭素と結合してNb炭化物を生成し、析出強化により、鋼材の高温強度を高める。Nbはさらに、結晶粒の粗大化を抑制する。Nb含有量が0.020%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Nb含有量が0.060%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の電気抵抗が過剰に高まり、渦電流式減速装置1の制動時において、ロータ10の円筒部11を流れる渦電流量が減少する。この場合、渦電流式減速装置1の制動力が低下する。Nb含有量が0.060%を超えればさらに、鋼材の靱性が低下する。したがって、Nb含有量は0.020~0.060%である。Nb含有量の好ましい下限は0.025%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.032%であり、さらに好ましくは0.034%である。Nb含有量の好ましい上限は0.058%であり、さらに好ましくは0.056%であり、さらに好ましくは0.054%である。
V:0.040~0.080%
バナジウム(V)は、炭素と結合してV炭化物を生成し、析出強化により、鋼材の高温強度を高める。Vはさらに、結晶粒の粗大化を抑制する。V含有量が0.040%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、V含有量が0.080%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の電気抵抗が過剰に高まり、渦電流式減速装置1の制動時において、ロータ10の円筒部11を流れる渦電流量が減少する。この場合、渦電流式減速装置1の制動力が低下する。V含有量が0.080%を超えればさらに、鋼材の靱性が低下する。したがって、V含有量は0.040~0.080%である。V含有量の好ましい下限は0.044%であり、さらに好ましくは0.048%であり、さらに好ましくは0.050%である。V含有量の好ましい上限は0.075%であり、さらに好ましくは0.070%である。
sol.Al:0.030~0.100%
アルミニウム(Al)は、製鋼工程において、鋼を脱酸する。Alはさらに、Nと結合してAlNを生成して、鋼材の結晶粒を微細化する。sol.Al含有量が0.030%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、sol.Al含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の電気抵抗が過剰に高まり、渦電流式減速装置1の制動時において、ロータ10の円筒部11を流れる渦電流量が減少する。この場合、渦電流式減速装置1の制動力が低下する。したがって、sol.Al含有量は0.030~0.100%である。sol.Al含有量の好ましい下限は0.040%であり、さらに好ましくは0.050%である。sol.Al含有量の好ましい上限は0.090%である。
B:0.0005~0.0050%
ボロン(B)は鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の高温強度を高める。B含有量が0.0005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靱性が低下する。したがって、B含有量は0.0005~0.0050%である。B含有量の好ましい下限は0.0010%であり、さらに好ましくは0.0012%であり、さらに好ましくは0.0014%である。B含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
N:0.003~0.010%
窒素(N)は、Alと結合してAlNを形成して、鋼材の結晶粒を微細化する。N含有量が0.003%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、N含有量が0.010%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の電気抵抗が過剰に高まり、渦電流式減速装置1の制動時において、ロータ10の円筒部11を流れる渦電流量が減少する。この場合、渦電流式減速装置1の制動力が低下する。したがって、N含有量は0.003~0.010%である。N含有量の好ましい下限は0.004%である。N含有量の好ましい上限は0.009%であり、さらに好ましくは0.008%であり、さらに好ましくは0.007%である。
本実施形態の渦電流式減速装置1のロータ10の円筒部11の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、本実施形態のロータ10の円筒部11を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は、製造環境などから混入されるものであって、本実施形態のロータ10の円筒部11に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素について]
本実施形態の渦電流式減速装置1のロータ10の円筒部11の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Cu及びNiから選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材の焼入れ性を高める。
Cu:0~0.20%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の高温強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果はある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の電気抵抗が過剰に高まり、渦電流式減速装置1の制動時において、渦電流式減速装置1のロータ10の円筒部11を流れる渦電流量が減少する。この場合、渦電流式減速装置1の制動力が低下する。したがって、Cu含有量は0~0.20%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Cu含有量の好ましい上限は0.15%であり、さらに好ましくは0.12%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Ni:0~0.20%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。含有される場合、Niは、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の高温強度を高める。Niが少しでも含有されれば、上記効果はある程度得られる。しかしながら、Ni含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の電気抵抗が過剰に高まり、渦電流式減速装置1の制動時において、渦電流式減速装置1のロータ10の円筒部11を流れる渦電流量が減少する。この場合、渦電流式減速装置1の制動力が低下する。したがって、Ni含有量は0~0.20%である。Ni含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Ni含有量の好ましい上限は0.15%であり、さらに好ましくは0.12%であり、さらに好ましくは0.10%である。
[ミクロ組織]
本実施形態の渦電流式減速装置用ロータ10の円筒部11のミクロ組織は、主としてマルテンサイト及び/又はベイナイトからなる組織である。例えば、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が95%以上である。マルテンサイト及びベイナイト以外の残部はフェライトである。なお、ミクロ組織観察において、マルテンサイトとベイナイトとを区別することは極めて困難であるため、フェライト以外の領域を、「マルテンサイト及びベイナイト」と認定する。
[ミクロ組織観察方法]
本実施形態において、ミクロ組織中のマルテンサイト及びベイナイトの総面積率は、次の方法で測定できる。ロータ10の円筒部11の肉厚中央位置からサンプルを採取する。サンプルは、後述の観察視野(200μm×100μm)が確保できれば、サイズは特に限定されない。サンプルの表面のうち、上記観察視野を含む観察面を鏡面研磨する。鏡面研磨後のサンプルを、ナイタル液に10秒程度浸漬してエッチングを実施し、観察面に組織を現出させる。エッチングにより組織が現出された観察面内の任意の1視野(観察視野)を、500倍の光学顕微鏡により観察する。観察視野の視野面積は20000μm(200μm×100μm)とする。観察視野中において、フェライトと、マルテンサイト及びベイナイトとは、コントラストに基づいて容易に区別できる。そこで、観察視野中のフェライトを特定して、特定されたフェライトの面積を求める。フェライトの面積を、観察視野の総面積で除して、フェライトの面積率(%)を求める。マルテンサイト及びベイナイトの総面積率(%)を、次の式で求める。
マルテンサイト及びベイナイトの総面積率=100-フェライトの面積率
[製造方法]
本実施形態の渦電流式減速装置用ロータ10の製造方法の一例を説明する。以降に説明する製造方法は、本実施形態の渦電流式減速装置用ロータ10を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有する渦電流式減速装置用ロータ10は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の渦電流式減速装置用ロータ10の製造方法の好ましい一例である。
本実施形態の渦電流式減速装置用ロータ10の製造方法は例えば、次の工程を含む。
(工程1)素材準備工程
(工程2)熱間加工工程
(工程3)調質処理工程
(工程4)機械加工工程
(工程5)ロータ形成工程
以下、各工程について説明する。
[(工程1)素材準備工程]
素材準備工程では、各元素含有量が本実施形態の範囲内である素材を準備する。素材は第三者から供給されたものであってもよい。素材を製造してもよい。製造する場合、たとえば、次の方法で製造する。
各元素含有量が本実施形態の範囲内にある化学組成を有する溶鋼を製造する。精錬方法は特に限定されず、周知の方法を用いればよい。精錬において、成分調整の合金元素の添加を実施して、各元素含有量が本実施形態の範囲内にある化学組成を有する溶鋼を製造する。
上述の精錬方法により製造された溶鋼を用いて、周知の鋳造法により素材を製造する。たとえば、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。また、溶鋼を用いて連続鋳造法によりブルーム又はビレットを製造してもよい。製造されたブルーム又はインゴットを1000~1300℃に加熱した後、熱間加工を実施して、ビレットを製造してもよい。熱間加工はたとえば、熱間圧延、熱間鍛造等である。製造されたビレット(連続鋳造により製造されたビレット、又は、ブルーム又はインゴットを熱間加工して製造されたビレット)を、渦電流式減速装置用ロータ10の素材とする。
[(工程2)熱間加工工程]
素材準備工程にて準備された素材に対して熱間加工(熱間鍛造及び/又は熱間圧延)を実施して、円筒部11に相当する中間品を製造する。始めに、素材を1000~1300℃に加熱する。加熱後の素材に対して、熱間鍛造を実施して所定の寸法に成型する。熱間鍛造後さらに、熱間圧延を実施して、円筒状の中間品を製造する。加熱後の素材に対して、熱間鍛造又は熱間圧延を実施して、円筒状の中間品を製造してもよい。
[(工程3)調質処理工程]
熱間加工工程により製造された中間品に対して、調質処理工程を実施する。調質処理工程は、次の工程を含む。各工程には、主要な製造条件も記載する。
(工程31)焼入れ処理工程
好ましい焼入れ温度:870~930℃
好ましい保持時間 :0.5~3.0時間
(工程32)焼戻し処理工程
好ましい焼き戻し温度:660~710℃
好ましい保持時間 :0.5~3.0時間
[(工程31)焼入れ処理工程]
始めに、中間品に対して、焼入れ処理を実施する。焼入れ温度は870~930℃である。焼入れ温度で保持する時間は、特に限定されないが、たとえば0.5~3.0時間である。焼入れ温度が870℃未満であれば、中間品のミクロ組織がオーステナイト単相にならないため、焼入れ後の組織において、マルテンサイト及び/又はベイナイトだけでなく、フェライトが残存してしまい、十分な高温強度が得られない。一方、焼入れ温度が930℃超であれば、オーステナイト結晶粒が粗大化し、ロータ10の靭性や耐高温酸化性が低下する。したがって、焼入れ温度は870~900℃である。焼入れ処理での急冷方法は、周知の方法で足りる。焼入れ処理での急冷方法はたとえば、水冷や油冷である。
[(工程32)焼戻し処理工程]
焼入れ処理後の中間品に対して、焼戻し処理を実施する。焼戻し温度は660~710℃である。焼戻し温度で保持する時間は、特に限定されないが、たとえば0.5~3.0時間である。焼戻し温度が660℃未満であれば、十分な強度が得られない。一方、焼戻し温度が710℃を超えれば、焼戻しによる軟化が大きくなり、この場合も十分な強度が得られない。したがって、焼戻し温度は660℃~710℃とする。
[(工程4)機械加工工程]
焼戻し処理後の中間品の内周面及び外周面を機械加工する。このとき、外周面には冷却フィン11Fを形成する。機械加工は周知の方法で実施すれば足りる。以上の工程により、円筒部11が製造される。
[(工程5)ロータ形成工程]
製造された円筒部11に、ホイール部13に取り付けられたアーム部12を取り付けて、渦電流式減速装置用ロータ10を製造する。取り付け方法は溶接であってもよいし、他の方法であってもよい。
以上の製造方法により、本実施形態の渦電流式減速装置用ロータ10を製造できる。なお、本実施形態の渦電流式減速装置用ロータ10は、上記製造方法に限定されず、上述の構成を有する渦電流式減速装置用ロータ10が製造できれば、上記製造方法以外の他の製造方法で本実施形態の渦電流式減速装置用ロータ10を製造してもよい。ただし、上記製造方法は、本実施形態の渦電流式減速装置用ロータ10の製造に好適な例である。
表1の化学組成を有する溶鋼を製造した。
Figure 2023053637000002
表1中の空白部分は、実施形態に規定の桁数において0%であることを意味する。換言すれば、対応する元素の含有量が、実施形態に規定の桁数の端数を四捨五入した場合に0%であることを意味する。例えば、本実施形態で規定されたCr含有量は少数第二位までの数値で規定されている。表1の試験番号14は、測定されたCr含有量を小数第三位で四捨五入した場合に0%であったことを意味する。
各試験番号の溶鋼を用いて、造塊法により、180kgの円柱状のインゴットを製造した。インゴットの一部を切り出し、1200℃に加熱した後、熱間鍛造を実施して、擬似中間品として、厚さ40mmの鋼板を製造した。擬似中間品に対して、900℃の焼入れ温度で焼入れ処理を実施した。焼入れ温度での保持時間は1.5時間、冷却方法は水冷であった。焼入れ処理後の擬似中間品に対して、690℃の焼戻し温度で焼戻しを実施した。なお、焼戻し温度での保持時間は2時間、冷却方法は空冷であった。以上の製造工程により、渦電流式減速装置用ロータを擬似した、各試験番号の擬似ロータ(鋼板)を製造した。各試験番号の擬似ロータ(鋼板)のミクロ組織は、主としてマルテンサイト及び/又はベイナイトからなり、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が95%以上であった。
[700℃での引張試験]
製造した各試験番号の擬似ロータの700℃での降伏強度(MPa)を、JIS G 0567(2012)に準拠した測定方法により求めた。具体的には、各試験番号の擬似ロータから、引張試験片を採取した。引張試験片の平行部の長さは40mm、標点間の長さは30mm、平行部の直径は6mmであった。加熱炉を用いて引張試験片を加熱して、試験片の温度を700℃にした。700℃の引張試験片に対して、大気中にて引張試験を実施して、応力-ひずみ曲線を得た。得られた応力-ひずみ曲線から、オフセット法に基づく0.2%耐力を、降伏強度(MPa)と定義した。得られた700℃での降伏強度(MPa)を、表2に示す。
Figure 2023053637000003
700℃での降伏強度が140MPa以上であった試験番号についてのみ、熱負荷耐久試験を実施するための渦電流式減速装置用ロータを製造した。具体的には、試験番号1~4、14及び15のインゴットを1200℃に加熱した後、熱間鍛造を実施して、円筒状素材を製造した。円筒状素材に対して、900℃で1.5時間保持した後に水冷する焼入れ処理を実施し、その後、690℃で2時間保持した後に空冷する焼戻し処理を実施した。その後、機械加工し、ホイールに取り付けたアームを溶接で取り付けて、渦電流式減速装置用ロータを製造した。ロータの外径(直径)は440mm,内径(直径)は390mm,円筒部の肉厚は11mm,軸方向の長さは85mmであり、ロータの外周面の冷却フィンの枚数は81枚であった。
[熱負荷耐久試験]
製造した試験番号1~4、14及び15のロータに対して、熱負荷耐久試験を実施した。熱負荷耐久試験では、ロータを3000rpmで回転させた状態で、制動状態と非制動状態を繰り返し、ロータに熱サイクルを与えた。具体的には、制動状態にし、ロータの温度が700℃に到達した時点で非制動状態に切り替え、ロータの温度が100℃まで冷却された時点で制動状態に切り替えるという操作を繰り返し、最低温度100℃、最高温度700℃の熱サイクルを2万回与えた。2万回の熱サイクルを与えた後に、ロータの円筒部を軸方向長さの中央部で切断し、その切断面を観察することで、ロータの円筒部の内周面に形成された酸化膜の厚さを計測した。計測した酸化膜の厚さを表3に示す。
Figure 2023053637000004
[評価結果]
表2及び表3を参照して、試験番号1~4の擬似ロータは、700℃での降伏強度が140MPa以上であり、700℃において高い強度を有した。試験番号1~4のロータは、熱サイクル後に形成された酸化膜の厚さが500μm以下であった。すなわち、試験番号1~4のロータは、渦電流式減速装置を構成した際にロータの円筒部とポールピースとの隙間Gを小さくできることが分かった。
一方、試験番号5では、C含有量が低すぎた。そのため、700℃での降伏強度が140MPa未満となり、700℃での強度が低すぎた。
試験番号6では、Si含有量が低すぎた。そのため、700℃での降伏強度が140MPa未満となり、700℃での強度が低すぎた。
試験番号7では、Mn含有量が低すぎた。そのため、700℃での降伏強度が140MPa未満となり、700℃での強度が低すぎた。
試験番号8では、Mo含有量が低すぎた。そのため、700℃での降伏強度が140MPa未満となり、700℃での強度が低すぎた。
試験番号9では、V含有量が低すぎた。そのため、700℃での降伏強度が140MPa未満となり、700℃での強度が低すぎた。
試験番号10では、Nb含有量が低すぎた。そのため、700℃での降伏強度が140MPa未満となり、700℃での強度が低すぎた。
試験番号11では、Al含有量が低すぎた。そのため、700℃での降伏強度が140MPa未満となり、700℃での強度が低すぎた。
試験番号12では、B含有量が低すぎた。そのため、700℃での降伏強度が140MPa未満となり、700℃での強度が低すぎた。
試験番号13では、N含有量が低すぎた。そのため、700℃での降伏強度が140MPa未満となり、700℃での強度が低すぎた。
試験番号14及び15のロータは、Cr含有量が低すぎた。そのため、試験番号14及び15のロータは、熱サイクル後に形成された酸化膜の厚さが500μm超であった。すなわち、試験番号14及び15のロータは、渦電流式減速装置を構成した際にロータの円筒部とポールピースとの隙間Gを小さくできないことが分かった。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
1 渦電流式減速装置
10 ロータ
11 円筒部
12 アーム部
13 ホイール部
20 ステータ

Claims (2)

  1. 渦電流式減速装置用ロータであって、
    円筒部を備え、
    前記円筒部の化学組成が、質量%で、
    C:0.05~0.15%、
    Si:0.10~0.40%、
    Mn:0.50~1.00%、
    P:0.030%以下、
    S:0.030%以下、
    Cr:0.10%超~0.40%、
    Mo:0.20~1.00%、
    Nb:0.020~0.060%、
    V:0.040~0.080%、
    sol.Al:0.030~0.100%、
    B:0.0005~0.0050%、
    N:0.003~0.010%、
    Cu:0~0.20%、
    Ni:0~0.20%、及び、
    残部:Fe及び不純物、からなる、
    渦電流式減速装置用ロータ。
  2. 請求項1に記載の渦電流式減速装置用ロータであって、
    前記化学組成は、
    Cu:0.01~0.20%、及び、
    Ni:0.01~0.20%、からなる群から選択される1元素以上を含有する、
    渦電流式減速装置用ロータ。
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