JP3591099B2 - 渦電流式減速装置用ローター - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トラックやバス等の大型自動車に使用される渦電流式減速装置用ローターに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
大型自動車の制動装置には、主ブレーキであるフットブレーキ、補助ブレーキである排気ブレーキのほかに、長い坂道の降坂時等において安定した減速を行い、フットブレーキの焼損を防止するための渦電流式減速装置が使用される。
【0003】
図1は、永久磁石を使用した渦電流式減速装置の一例を示す縦断面図である(特開平1−234043号公報、特開平1−234045号公報、特開平1−298948号公報等)。この装置において、ローター1はローターアーム2およびローター円筒部3と一体に接合されている。回転軸10の片側端部に取り付けられたローター1は、回転軸10の回転につれ、ローターの部材であるローターアーム2およびローター円筒部3などと一体になって回転する。永久磁石5を周設された磁石支持リング6はピストンロッド8と螺着され、シリンダー9の駆動により、複数の案内棒11に沿って摺動自在に往復する。シリンダー9を作動して磁石支持リング6を進退させることにより、永久磁石5の磁極面は、ローター円筒部3に対してポールピース7を介して磁気的に全面対向した位置(制動オンの状態)から磁気的に外れた位置(制動オフの状態)までを往復する。
【0004】
永久磁石の磁極面がローターに磁気的に全面対向する位置(制動オンの状態)では、永久磁石から発する磁束を横切ってローター円筒部3が運動することによりローター円筒部表面に渦電流が流れる。この渦電流と磁束の相互作用により制動トルクが発生する。この円筒部は、制動オン時に渦電流の発生にともなうジュール熱により加熱され、制動オフ時には冷却フィン4によって空冷される。このため、ローター円筒部3には、制動のオン・オフ制御の繰り返しによって著しい熱サイクルが負荷される。以下において、ローター円筒部3の材料を「ローター材」という場合がある。
【0005】
近年、大型自動車では渦電流式減速装置を搭載する車種が増加している。とくに従来よりも積載重量の大きなトラックやトレーラーなどにはこの減速装置の搭載が進められている。このため、渦電流式減速装置に対する要求制動性能は益々高度化する傾向にあり、車種によっては70〜100kg・mの制動トルクを必要とする場合もある。
【0006】
渦電流式減速装置の制動力を増加するには、以下の三つの方法がある。
【0007】
一つは、永久磁石の個数を増加するか寸法を大型化する方法である。この場合、装置の重量が増加するとともに装置自身が大型化するため、積載空間や総重量が制限された車両への搭載装置としては不利である。さらに、一装置当たりの永久磁石に要する費用が増加するため、コスト面からも不利である。
【0008】
二番目は、ローター材の電気抵抗を出来るだけ小さくする方法である。従来、渦電流式減速装置のローター材としては鋳鋼が使用されていたが、近年、熱間鍛造後焼入れ焼戻しを施したNi、Mo、Nb、VおよびBを含む鋼からなるローター材およびその製造方法が提案されている(特願平6−204313号公報)。同提案は、ローター材の電気抵抗の低減によって、渦電流式減速装置の制動性能を向上させることを主目的とするが、静的な高温強度も向上させ、オン・オフ制御の繰り返しに伴う熱変形を抑制することも考慮している。同提案では、とくにCrのように、高温強度の向上に効果があるが、電気抵抗を大きく増加させる元素は、除いてある。この提案の実施例では38〜44kg・mの制動トルクが得られることが示されている。
【0009】
しかし、より高い制動トルクを得ようとしても、ローター材のみを対象とした電気抵抗の低減には限界がある。制動トルクが高い場合は、とくに熱変形に対する耐久性が重要であるが、耐久性を高めるためには合金元素の添加は避けられず、合金元素を添加すれば電気抵抗は低減できない。したがって、ローター材のみの改良では上記の制動トルクを大幅に向上することは不可能である。
【0010】
三番目は、ローターの磁石と対向する面に電気抵抗の小さな材料からなる金属層を設ける方法である(特開昭63−274359号公報、特開昭64−30450号公報)。これらの発明では、電気抵抗の小さい材料からなる金属層をローター表面に設けることによりローターに生じる渦電流を増加させ、制動トルクを向上させている。ただし、ローター材そのものへの言及はされていない。これら発明では、金属層の材質として、銅、銅合金またはアルミニウムが挙げられている。上記の特開昭63−274359号公報では、ローターに厚さ1mmの銅層を設けることにより、制動トルクが約0.9kg・mから約2.2kg・mに増加するとの実施例が提示されている。
【0011】
しかしながら、制動トルクが小さい範囲ではローター材に熱変形に対する対策をする必要はないが、制動トルクが大きくなると、電気抵抗の小さな表面処理層に渦電流が集中し、表面処理層とその近傍のローター材の温度が著しく高温となる。したがって、制動トルクが大きく、ローターの最高温度が600℃を超える高温となると、ローターの熱変形が大きくなり、耐久性が低下するという問題が生じる。また、制動トルクを大きくすることから、破壊靭性にも優れていることが要求される。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
電気抵抗の小さな表面処理層を設けた場合の温度上昇は、高密度の渦電流が流れるため、ローター材のみの場合(表面処理層がない場合)よりも大きい。このため、表面処理層を設けた場合の熱変形の問題は前記の高強度ローター材(特願平6−204313号公報)程度の改善では解決されない。
【0013】
本発明は、表面処理層を施すことにより高い制動トルクをもちながら、しかも熱変形が少なく、同時に破壊靭性にも優れた耐久性のよい渦電流式減速装置用ローターを提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
発明者らは図1の渦電流式減速装置を対象に、有限要素法による電磁場解析を行い(解析手法:榎園正人、佐藤尚史、坂本東男、荒木健詞、第3回電磁力関連のダイナミックスシンポジウム講演論文集(日本機械学会、電気学会: 1991)p.480−485 )、電気抵抗の小さい銅からなる表面処理層を設けた場合と設けない場合の制動トルクにおよぼローター円筒部の材料の電気抵抗の影響を明らかにした。
【0015】
図2は、電磁場解析により求めた、表面の銅層の厚さを変えたときの制動トルクにおよぼすローターの回転速度の影響を表す図面である。
【0016】
図3は、電磁場解析により求めた、銅からなる表面処理層を設けた場合と設けない場合のローター材の電気抵抗と最大制動トルクの関係を表す図面である。
【0017】
これらの図は上記の有限要素法による電磁場解析の結果得られたものである。
【0018】
解析はつぎの条件によった。
【0019】
▲1▼共通:ローター円筒部の内径380mm、肉厚20mm、軸方向長さ80mm、銅の電気抵抗1.67μΩcm、銅の比透磁率1
▲2▼図2:ローター材の電気抵抗20μΩcm、ローター材の比透磁率1000▲3▼図3:ローター材の比透磁率1000
これらの図に示すように、電気抵抗の小さな表面処理層を設けた場合の制動トルクは、表面処理層を設けない場合に比べて大幅に改善される。また、図2に示すように表面処理層の厚みを0.1〜0.5mmの間で変えた場合には、回転数と制動トルクの関係は変化するが、制動トルクの最大値の変化は少ない。したがって、表面処理層の厚みは、所望の制動トルク曲線が得られるように設定すれば良い。すなわち、どの回転速度のときに制動トルクを最大にするかによって表面処理層の厚さを決めればよい。
【0020】
図3に示すようにローター材の電気抵抗が制動トルクに及ぼす影響は、表面処理層による改善効果に比べて小さい。また、表面処理層を設けた場合にはローター材の電気抵抗が大きい方が制動トルクがやや大きくなる傾向があり、表面処理層を設けない場合とは逆の傾向を示す。これは、表面処理層を設けた場合には、渦電流が表面処理層に限定され、ローター材の電気抵抗が小さい場合よりも多くの渦電流が表面処理層に流れるためである。
【0021】
したがって、ローター材としては、従来のローターのように電磁気特性、特に、電気抵抗を低くする材質選定を行う必要はなく、ローター全体の熱変形を抑制するため、もっぱら高温強度に優れた材質を選定すれば良い。
【0022】
さらに、発明者らは、ローター円筒部に各種の材料を使用し、低電気抵抗の表面処理層を設けたローターを用いて耐久試験を行い、熱変形を調査した。その結果、最高温度が600℃を超える条件で使用する場合のローターの熱変形量は、最高使用温度近傍でのローター材のクリープ強度と相関が有ることを確認した。
【0023】
すなわちローター全体の熱変形を抑制するためには、ローター円筒部にクリープ強度の高い材料を使用すれば良い。その条件を満たした上で高温の静的な引張強度に優れた材料であればなお良い。渦電流は電気抵抗の低い表面処理層のみを流れるので、ローター材は熱変形を抑制するためにクリープ強度のみを優先したものとすることができる。したがって、ローター材には、従来、電磁気特性(特に電気抵抗)を悪化させるとの理由で含有量が抑制されていたCrなどの元素が積極的に活用できることになる。
【0024】
ここに本発明は、下記の表面処理層が施された、下記の材料からなるローター円筒部を有するローターをその要旨とする。
【0025】
(1)ローター円筒部が下記の化学組成▲1▼をもつ鋼であり、その永久磁石に対向する表面側に銅または銅合金からなる表面処理層を有することを特徴とする渦電流式減速装置用ローター(〔発明1〕とする)。
【0026】
▲1▼重量%にて、Cr:0.75〜12%およびMoとWの1種または2種をMo(%)+(W(%)/2)にて0.3〜2.5%含む鋼。
【0027】
(2)ローター円筒部が下記の化学組成▲2▼をもつ鋼であり、その永久磁石に対向する表面側に銅または銅合金からなる表面処理層を有することを特徴とする渦電流式減速装置用ローター(〔発明2〕とする)。
【0028】
▲2▼重量%にて、C:0.04〜0.3%、Si:1%以下、Mn:0.3〜1%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.75〜12%、MoおよびWの1種または2種をMo(%)+(W(%)/2)にて0.3〜2.5%、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下、B:0.006%以下およびsolAl:0.005〜0.1%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物。
【0029】
【発明の実施の形態】
次に、本発明において、上記のようなローターとした理由を述べる。
【0030】
1.表面処理層
表面処理層はローター円筒部の永久磁石に対向する表面、すなわち、ローター円筒部の内面に設けられる。表面処理層の材質は電気抵抗の小さな材料がよい。
【0031】
その代表例として、特開昭63−274359号公報にも例示されているように、銅もしくは銅合金またはアルミニウムがある。この内、アルミニウムは融点が低いため、制動トルクが小さくローターの最高温度が低い場合には使用できるが、制動トルクが大きく、最高温度が600℃を超える場合には使用できない。したがって、本発明では、電気抵抗が小さな表面処理層の材質としては、融点や高温強度が比較的高い銅および銅合金に限定した。
【0032】
銅は通常のタフピッチ銅、脱酸銅などの純度のものを用いてよい。リン脱酸銅の場合でも、通常のP濃度0.02%以下であればよい。通常は後記するように、メッキにより表面処理層が設けられるので、不純物は比較的低い。銅合金は電気抵抗が高くないもの、例えばCrを0.5〜1.2%含有したクロム銅を用いてよい。ただし、銅と異なり銅合金を用いると、電気抵抗が高くなることが避けられないので、高温での強度がとくに必要な場合に限られる。
【0033】
表面処理層の厚さは、0.05〜1.00mmの範囲にあることが望ましい。
【0034】
0.05mm未満では充分な渦電流が流れないからであり、1.00mmを超えると、最大制動トルクが発生する回転速度が低下し、制動を行う対象の回転速度で高い制動トルクが得られなくなるとともに、銅および銅合金は非磁性であるため、ローター円筒部に入る磁束の量が減少し、最大制動トルクも低下するためである。厚さは上記の範囲内で、図2を基に搭載するトラックの車種に応じて使用頻度の高い回転速度を考慮して定めることが望ましい。
【0035】
表面処理層は、通常、めっき処理により施される。めっき処理は通常の方法で行ってよい。表面処理層をもつ円筒を、銅または銅合金を溶着あるいは内面クラッドした鋼管によっても製造することができ、この方法は大量生産する場合に特に適した方法である。
【0036】
2.ローター円筒部の材料
1)ローター円筒部材料の成分組成
上記の表面処理層が設けられるローター円筒部を構成する材料の化学組成を限定した理由を述べる。以下、「%」は「重量%」を意味する。
【0037】
Cr:0.75〜12%
Crは鋼の高温強度、クリープ強度および耐酸化性などの耐熱性を決める最も重要な元素である。Crが0.75%未満では十分な高温強度、クリープ強度が得られない。また、12%を超えても強度の改善効果が飽和し、経済的に不利であるとともに、加工性の悪化や破壊靭性の低下が生じ、さらに、めっき処理によって表面処理層を形成することも困難になるので、Cr量は0.75〜12%とする。従来、電気抵抗を低下させるために使用しなかったが、本発明では上記した表面処理層を設けたために、使用できる。むしろ、表面処理層に高密度の渦電流が発生し、熱変形が大きくなるので、それを防止するために積極的に使用するものである。
【0038】
Mo(%)+(W(%)/2):0.3〜2.5%
Moには鋼の靭性,高温強度およびクリープ強度を向上させる作用がある。また、WにはMoと同じく鋼の高温強度およびクリープ強度を向上させる作用があるが、Moと同等の効果を得るためにはMo量の2倍の量が必要である。本発明ではローターの高温強度とクリープ強度の確保のため、MoとWのいずれか、または両方を添加する。Mo(%)+(W(%)/2)の量が0.3%未満ではローターに必要なクリープ強度を確保することができない。一方、2.5%を超えても高温強度とクリープ強度の向上効果が飽和して経済的に不利であるとともに、破壊靭性が低下するので、Mo(%)+(W(%)/2)の量は、0.3〜2.5%とする。
【0039】
本発明は、Cr、MoおよびWは、かならず上記した量含まれていなければならない。上記の量含まれていなければ、後記する650℃での1000時間クリープ強度5kgf/mm2 以上を確保できないからである。〔発明1〕は、ローター材に上記した範囲にCr、MoおよびWが含まれていれば、他の化学成分およびその含有量は問わない。ただし、鋼の範疇に入るものに限定される。
【0040】
〔発明2〕のローター円筒部材料は、上記〔発明1〕のそれの望ましい態様として化学組成を特定したものである。これは、前記のCr、Mo、W以外に下記する化学成分を下記する範囲に含有する。
【0041】
C:0.04〜0.3%
Cは強度を決める最も基本的な元素であるが、その含有量が0.04%未満であるとローター材に必要なクリープ強度レベルを確保することができない。一方、その含有量が0.3%を超えるとクリープ強度の改善効果が飽和するとともに、溶接性の低下や破壊靭性の低下などの不利益をもたらすため、0.04〜0.3%とする。
【0042】
Si:1%以下
Siは鋼の脱酸剤として作用すると共に焼入れ性を向上させる作用をも有している。鋼の脱酸剤として使用はするが、成分元素として鋼に含有させなくてもよい。焼入れ性向上のために添加する場合、Siは粒界及び母相の靭性という観点からは多量に含有されることは好ましくなく、1%を超えると破壊靭性の低下をもたらす。したがって、Si含有量は1%以下とする。
【0043】
Mn:0.3〜1%
Mnは鋼の脱酸剤および硫黄の固定剤として作用すると共に、焼入れ性改善及び固溶強化による強度向上作用をも有している。Mn含有量が0.3%未満の場合には高強度化の効果が十分に得られない。しかし、Mn含有量が増加し、1%を超えると強度改善効果は飽和する。したがって、Mn含有量は0.3〜1%とする。
【0044】
P:0.03%以下
Pは固溶強化により鋼の強度を上昇に有効な元素であるが、その含有量が0.03%を超えると熱間鍛造性が悪化する。そこで、Pの上限を0.03%とする。Pは実質的に0でもよい。
【0045】
S:0.03%以下
SはMnSなどの硫化物を生成して、破壊靭性や疲労特性を劣化させるとともに、S量の増加に伴って電気抵抗が増加するため、その含有量は0.03%以下とする。Sは少ないほどよい。
【0046】
Ni:0.5%以下
Niは積極的に添加しなくてもよい。Niは焼入れ性と固溶強化による鋼の高強度化作用を有しているが、その含有量が0.5%を超えて増加すると強度の改善効果が飽和する。また、Niによるクリープ強度の改善効果はほとんどない。
【0047】
したがって、Ni量は0.5%以下とする。
【0048】
Nb:0.1%以下
Nbは添加しなくてもよい。しかし、Nbは鋼の結晶粒を微細化する作用に加えて、高温強度およびクリープ強度を改善する作用を有しているため、クリープ強度の調整のために必要に応じて添加する。添加する場合は0.01%以上とするのが望ましい。0.01%未満では、明確な効果が得られないからである。しかし、0.1%を超えて含有させると靭性低下を招くことから、0.1%以下とする。
【0049】
V:0.3%以下
Vは添加しなくてもよい。しかし、Vはバナジウム炭化物の析出強化により鋼の高温強度およびクリープ強度を向上させる作用を有しているため、クリープ強度の調整のために必要に応じて添加する。添加する場合は、0.02%以上とするのが好ましい。0.02%未満では、明確なクリープ強度の上昇が得られないからである。しかし、0.3%を超えて含有させるとクリープ強度の改善効果が飽和するとともに、靭性低下を招くため、0.3%以下とする。
【0050】
B:0.006%以下
Bは添加しなくてもよい。しかし、Bは、極微量で焼入れ性を向上させるとともに、炭化物を分散させ安定化し、高温強度とクリープ強度の確保に効果があるので、必要に応じて添加する。添加する場合は、0.0005%以上とするのが望ましい。0.0005%未満では明確な効果が得られないからである。しかし、0.006%を超えると、クリープ強度の向上効果が飽和するとともに靭性低下を招くので、0.006%以下とする。
【0051】
solAl:0.005〜0.1%
Nは、クリープ強度を高めるが、それは固溶状態のNが転位上に析出して転位の運動の妨げとなるからである。本発明においては、靭性を考慮してAlを添加してNをAlNとして固定するので、このようなNによるクリープ強度向上の効果は得られない。したがって、Nは通常含まれる0.001〜0.02%の範囲とし、AlはそのNをAlNとして固定するのに必要な量、すなわちsolAlとして0.005〜0.1%とする。このNおよびsolAlの量は、通常の電気炉鋼および転炉鋼に含まれる範囲である。
【0052】
上記の成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0053】
2)ローター材のクリープ強度
本発明では、制動トルクの改善は電気抵抗の小さな表面処理層によって確保し、ローター全体の熱変形の抑制はローター材自身のクリープ強度によって確保する。したがって、ローター材としては本発明の渦電流式減速装置の最高使用温度近傍でのクリープ強度が高いことが必要である。ローター材の650℃での1000時間クリープ強度が5kgf/mm2 以上必要な理由は、1000時間クリープ強度が5kgf/mm2 未満の場合には、制動オン・オフの繰り返しに伴う熱変形が大きくなり、耐久性が確保できないためである。
【0054】
上記した組成の範囲内の鋼は、通常の熱間圧延あるいは熱間鍛造を施したままでも、上記のクリープ強度を持つ。しかし、さらに下記▲1▼〜▲3▼の各熱処理を施してもよい。
【0055】
▲1▼焼入れ焼戻し
▲2▼焼きならし(焼準)あるいは焼きならし・焼戻し
▲3▼焼きなまし(焼鈍)あるいは焼きなまし・焼戻し
【0056】
【実施例】
続いて、本発明の効果を実施例によって更に具体的に説明する。
【0057】
表1は実施に供したローター材の化学組成を示す一覧表である。本発明例1〜11はいずれも、〔発明1〕の望ましい実施態様である〔発明2〕に含まれるものである。比較例1〜5および従来例1〜3は、いずれも本発明の範囲外の化学組成である。同表に示す化学組成の鋼を溶製し、1250℃に加熱して最終厚さ40mmに熱間鍛造後、下記の熱処理を行い、供試材とした。
【0058】
従来例1〜3:焼入れ・焼戻し(900℃×15min水冷+650℃×30min放冷)
本発明例6〜8、比較例4および5:焼きなまし・焼もどし(1000℃×15min炉冷+700℃×30min放冷)
その他の例:焼きなまし・焼もどし(950℃×15min炉冷+700℃×30min放冷)
ここで、従来例1〜3は前記特願平6−204313号公報の発明の鋼と同じものである。これら従来例1〜3も、本発明のローターを構成するローター材に対する比較材である。
【0059】
【表1】
【0060】
表2は、表1の各鋼についての室温における電気抵抗ρ、破壊靭性値、650℃における降伏応力(0.2%耐力)、引張強さおよび650℃でのクリープ破断試験により評価した1000hrクリープ強度を示す。同表に示すように、〔発明1〕の望ましい実施態様である〔発明2〕に含まれる本発明例1〜11のローター材は、静的な高温強度では、従来例を下回っているものもあるが、クリープ強度は全て従来例より優れている。また、本発明例1〜11のローター材の破壊靭性値は従来材と同等以上であり、200kgf/mm1.5 以上の優れた値となっている。
【0061】
【表2】
【0062】
比較例1〜3はMoおよびW(すなわち、Mo+(W/2))またはCrの含有量が少ないため、高温強度およびクリープ強度が低い。また、比較例4ではCrを、比較例5ではMo+(W/2)を本発明のローター材の組成範囲よりも多く含有しているが、高温強度およびクリープ強度は、本発明例に比べて必ずしも改善されていない。すなわち、過度のCrまたはMo+(W/2)を含有してもクリープ強度は改善されないし、かえって破壊靭性値は低くなる。
【0063】
次に、表1に示した各供試材を用いて、図1に示した渦電流式減速装置用ローターを作製した。これを適用した渦電流式減速装置を大型トラックのトランスミッション後部のプロペラシャフトの途中に装備して、制動トルクを測定するとともに、耐久性を調査するための繰り返し制動試験を実施した。今回の測定に用いた渦電流式減速装置は10トン車用であり、ローター円筒部の内径は約380mm、肉厚は約20mm、軸方向長さは約80mmであった。ローター円筒部の内表面には銅からなる表面処理層をめっき処理により設けた。めっき処理はシアン化銅浴(主なめっき浴組成:シアン化銅60g/l、シアン化カリウム115g/l)にて行い、浴温度は55℃、pHは10.2および電流密度は1.5A/dm2 とした。めっき処理層の厚みは0.2mmとした。また、比較のため従来例1〜3については表面処理層を設けない条件でも制動トルクの測定を行った。
【0064】
制動トルクの測定にあたっては、まずプロペラシャフト(図1の10が連結しているシャフト)の回転速度を徐々に上げて行き、回転速度が1000rpm、2000rpmとなった時点での制動トルクを測定した。また、繰返し制動試験にあたっては、プロペラシャフトの回転速度を2000rpmで一定とし、制動と非制動を繰返してローターに繰返し温度変動を与えた。制動オン時間は120秒、制動オフ時間は180秒とした。この際のローター内表面の最高温度は表面処理層が無い場合が約600℃であったのに対して、表面処理層を設けた場合には700℃近くに達した。
【0065】
この制動と非制動を1000サイクル繰返し、試験後のローター円筒部の熱変形量を測定した。熱変形量の測定に際しては、ローター円筒部の内径を軸方向中央部で測定し、内径の拡大量(円周方向8ケ所の平均値)を熱変形量とした。
【0066】
以上の試験結果を表3に示す。従来例1〜3について、銅からなる表面処理層を設けた場合と設けない場合を比較すると、制動トルクは表面処理層を設けた場合の方が大きくなるが、ローターの熱変形量も大きくなり、耐久性の観点からは従来例は不適当である。
【0067】
一方、本発明例では、従来例のうち表面処理層が無いものに比べて制動トルクは大きい。また、従来例と本発明例の熱変形量を比較すると、本発明例の方が熱変形量は小さく、とくに本発明例1〜10は表2に見たようにローター材自体の靭性も高いことから、耐久性に優れていることがわかる。
【0068】
また、比較例1〜3の場合には本発明例よりも熱変形量は非常に大きい。
【0069】
【表3】
【0070】
【発明の効果】
本発明によれば、従来の渦電流式減速装置用ローターに比べて制動トルクを向上できるとともに、繰り返し使用時の熱変形が抑制され、同時に破壊靭性値も高いため耐久性が向上する。本ローターは工業的に安価大量に製造できるものであり、産業上極めて有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、永久磁石を使用した渦電流式減速装置の一例を示す図面である。
【図2】図2は、電磁場解析により求めた、表面の銅層の厚さを変えたときの制動トルクにおよぼすローターの回転速度の影響を表す図面である。
【図3】図3は、電磁場解析により求めた、銅からなる表面処理層を設けた場合と設けない場合のローター材の電気抵抗と最大制動トルクの関係を表す図面である。
【符号の説明】
1…ローター、
2…ローターアーム、
3…ローター円筒部、
4…冷却フィン、
5…永久磁石、
6…磁石支持リング、
7…ポールピース、
8…ピストンロッド、
9…シリンダー、
10…回転軸、
11…案内棒
Claims (2)
- ローター円筒部が下記の化学組成▲1▼をもつ鋼であり、その永久磁石に対向する表面側に銅または銅合金からなる表面処理層を有することを特徴とする渦電流式減速装置用ローター。
▲1▼重量%にて、Cr:0.75〜12%およびMoとWの1種または2種をMo(%)+(W(%)/2)にて0.3〜2.5%含む鋼。 - ローター円筒部が下記の化学組成▲2▼をもつ鋼であり、その永久磁石に対向する表面側に銅または銅合金からなる表面処理層を有することを特徴とする渦電流式減速装置用ローター。
▲2▼重量%にて、C:0.04〜0.3%、Si:1%以下、Mn:0.3〜1%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.75〜12%、MoおよびWの1種または2種をMo(%)+(W(%)/2)にて0.3〜2.5%、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下、B:0.006%以下およびsolAl:0.005〜0.1%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物。
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