JP2023031897A - 撥水撥油性黒色膜形成用液組成物及びその製造方法 - Google Patents

撥水撥油性黒色膜形成用液組成物及びその製造方法 Download PDF

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真也 白石
Shinya Shiraishi
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Abstract

【課題】形成した膜が黒色であってかつ撥水性、撥油性、膜の強度及び膜の密着性が高い。【解決手段】式(1)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むフッ素系官能基成分(A)が結合した比表面積径10nm~45nmの酸窒化ジルコニウム粒子(B)と、自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)と、溶媒(D)とを含む撥水撥油性黒色膜形成用液組成物である。液組成物の不揮発分の全量を100質量%とするとき、カルボキシル基含有物等(C)の含有割合が、20質量%~95質量%であり、かつフッ素系官能基成分(A)と前記酸窒化ジルコニウム粒子(B)とを合計した含有割合が、5質量%~80質量%であり、酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.01~0.50の範囲にある。TIFF2023031897000014.tif17170【選択図】図1

Description

本発明は、撥水性と撥油性を有し、黒色である膜を形成するための液組成物及びその製造方法に関する。更に詳しくは、酸窒化ジルコニウム粒子を含む撥水撥油性黒色膜形成用液組成物及びその製造方法に関するものである。
これまで、撥水性と撥油性を有する膜形成用液組成物として、本出願人は、有機溶媒中に平均粒径が5~200nmであって親水性を有する炭酸カルシウムを分散させて分散液を調整する第1工程と、前記分散液中に、下記一般式(28)で表される含窒素ペルフルオロアルキル基を有するカルボン酸、又はそのハロゲン化物であるフッ素化合物を添加して、前記炭酸カルシウムと前記フッ素化合物とがナノコンポジット化された複合材料を合成する第2工程と、を含むフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法を提案した(特許文献1(請求項1、請求項5,請求項6、段落[0006]、段落[0017]、段落[0056]~段落[0065])参照。)。この特許文献1には、第2工程において、無機化合物の分散液中に、化学式[R1Si(OR23]で示されるトリアルコキシシランのようなシランカップリング剤を添加してもよい旨が示される。なお、式(28)中、Eは、ハロゲン又は水酸基(OH)を表す。
Figure 2023031897000002
一方、耐湿性に優れた硬化膜を作製できる、遮光性樹脂組成物が開示されている(特許文献2(請求項1、請求項9、段落[0006]、段落[0017])参照。)。この遮光性樹脂組成物は、原子Aを含有する金属窒化物含有粒子、及び、原子Aを含有する金属酸窒化物含有粒子からなる群から選択される1種以上である遮光顔料であって、 前記遮光顔料は、3~7族の遷移金属のうち、電気陰性度が1.22~1.80である遷移金属の、窒化物及び酸窒化物の少なくとも一方を含有し、 前記原子Aは、ハフニウム及びタングステンからなる群から選択される少なくとも1種であって、前記遷移金属とは異なる原子である、遮光顔料と、 樹脂と、を含有する。
特許文献2に示される遮光顔料は、酸窒化ジルコニウム、及び、窒化ジルコニウムからなる群から選択される1種以上を含有する。この遮光顔料が、所定の範囲の電気陰性度である3~7族の遷移金属の窒化物及び酸窒化物の少なくとも一方と、原子A(ハフニウム及びタングステンからなる群から選択される少なくとも1種)とを含有するため、組成物から得られる硬化膜の耐湿性が改善する旨が特許文献2に記載されている。
特開2018-39987号公報 国際公開2020/017184号公報
特許文献1に開示されたフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法では、そこで使用されるフッ素化合物は、ペルフルオロアミン構造であって、ペルフルオロ基が窒素を中心として結合しているため、剛直な構造を取り易い。そのため、液組成物中にフッ素の含有量を多くしても、フッ素含有ナノコンポジット粒子を用いて形成された膜に油が付着したときに、油の転落性が良好にならない場合があり、撥油性の観点から、特許文献1の発明には、まだ改善すべき余地があった。
特許文献2に開示された遮光性樹脂組成物を用いて黒色膜を形成した場合、黒色膜は耐湿性に優れるけれども、遮光性樹脂組成物をデザイン性が求められるインテリア製品や、車両内装部材の美観を高めるために、それらの表面に塗布した場合に、塗布された黒色膜に汚れ防止機能が乏しく、改善が求められていた。
本発明の目的は、形成した膜が黒色であってかつ撥水性、撥油性、膜の強度及び膜の密着性が高い撥水撥油性黒色膜形成用液組成物及びその製造方法を提供することにある。
本発明者は、ペルフルオロエーテル構造はペルフルオロアミン構造と比べて柔軟な構造を取り易く、ペルフルオロエーテル構造のフッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物がフッ素の含有量が少なくても、膜に油が付着したときに、油の転落性が良好であること、酸窒化ジルコニウム粒子同士をカルボキシル基及び/又はアセチル基含有物(以下、単に「カルボキシル基含有物等」という。)で結着させて膜を形成すると、黒色膜が得られ、しかも膜の強度と膜の密着性が向上することに着目し、本発明に到達した。
本発明の第1の観点は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むフッ素系官能基成分(A)が結合した比表面積径10nm~45nmの酸窒化ジルコニウム粒子(B)と、自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)と、溶媒(D)とを含み、液組成物の不揮発分の全量を100質量%とするとき、前記自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)の含有割合が、20質量%~95質量%であり、かつ前記フッ素系官能基成分(A)と前記酸窒化ジルコニウム粒子(B)とを合計した含有割合が、5質量%~80質量%であり、 前記酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対する前記フッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.01~0.50の範囲にあることを特徴とする撥水撥油性黒色膜形成用液組成物である。
Figure 2023031897000003
上記式(1)及び式(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数であって、炭素骨格は、直鎖状又は分岐状であってもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Xは、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合、O-CO-NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。更に上記式(1)及び式(2)中、Yはシランの加水分解体又はシリカゾルゲルの主成分である。
このYについて更に述べると、Yは、酸窒化ジルコニウム粒子(B)と結合する部位である。具体例としては、後述する式(3)又は式(4)において、Yとして、Z部分が加水分解した構造が挙げられる。また、Yとして、式(3)又は式(4)のシラン化合物と、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等のケイ素アルコキシドとを混合し、加水分解重合したシリカゾルゲルの主成分等も挙げられる。更に、Yとして、式(3)又は式(4)のシラン化合物と、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等のケイ素アルコキシドと、エポキシ基やビニル基、エーテル基を含有したシラン等とを混合し、加水分解重合したシリカゾルゲルの主成分等も挙げられる。
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体である撥水撥油性黒色膜形成用液組成物である。
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、膜厚5.0μmとなる条件で塗膜を形成したときに、この塗膜の波長380nm~780nmの範囲における最大の光透過率が25%以下である撥水撥油性黒色膜形成用液組成物である。ここで波長範囲を380nm~780nmとしたのは、人間の目で見える波長域、即ち可視光線域で評価するためであり、最大の光透過率を25%以下としたのは、25%を超えると、評価する塗膜が装飾性のある塗膜として光遮蔽性に劣り、膜によって隠蔽できなくなるためである。
本発明の第4の観点は、図1に示すように、フッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液と、自己反応型のカルボキシル基含有物等と、溶媒とを混合して撥水撥油性黒色膜形成用液組成物を製造する方法である。
本発明の第5の観点は、第4の観点に基づく発明であって、前記自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体である撥水撥油性黒色膜形成用液組成物である。
本発明の第6の観点は、第4の観点に基づく発明であって、図1に示すように、前記フッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液が、酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液にフッ素系化合物を添加混合し、この混合液に触媒を添加混合して、調製される撥水撥油性黒色膜形成用液組成物の製造方法である。
本発明の第1の観点の撥水撥油性黒色膜形成用液組成物(以下、単に液組成物ということもある。)は、前述した式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むフッ素系官能基成分(A)が結合した比表面積径10nm~45nmの酸窒化ジルコニウム粒子(B)と、カルボキシル基含有物等(C)と、溶媒(D)とを含み、液組成物の不揮発分の全量を100質量%とするとき、前記カルボキシル基含有物等(C)の含有割合が、20質量%~95質量%であり、かつ前記フッ素系官能基成分(A)と前記酸窒化ジルコニウム粒子(B)とを合計した含有割合が、5質量%~80質量%であり、前記酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対する前記フッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.01~0.50の範囲にある。この液組成物は、成膜したときに、前記フッ素系官能基成分(A)が結合した酸窒化ジルコニウム粒子(B)を含むため、形成した膜が黒色であって、撥水性と撥油性が高い。また成膜したときに、比表面積径10nm~45nmの酸窒化ジルコニウム粒子(B)同士がカルボキシル基含有物等(C)により、膜中で結合するため、膜の強度と膜の密着性を向上させることができる。形成した膜の表面が平滑でないため、膜表面に指紋を付着させた後に、膜表面に指紋が目立ちにくい。
本発明の第2の観点の液組成物では、自己反応型のカルボキシル基含有物等がエチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体であるため、こうした共重合体がフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子のバインダとして作用するとともに、液組成物を基材表面に成膜したときに、膜を基材表面に堅牢に結着させることができる。
本発明の第3の観点の液組成物では、膜厚5.0μmとなる条件で塗膜を形成したときに、波長380nm~780nmの範囲における最大の光透過率が25%以下であるため、所望の黒色度が得られる。
本発明の第4の観点の液組成物の製造方法では、図1に示すように、フッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液と、カルボキシル基含有物等と、溶媒とを混合して撥水撥油性黒色膜形成用液組成物を製造する。これにより、粒子表面が撥水撥油性である酸窒化ジルコニウム粒子がカルボキシル基含有物等中に存在し、液組成物を成膜したときに、膜が黒色になるとともに膜に撥水撥油性が保持される。
本発明の第5の観点の液組成物の製造方法では、酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液にフッ素系化合物を添加混合し、この混合液に触媒を添加混合するため、フッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子が均一に分散した水分散液が得られる。
本発明の第6の観点の液組成物の製造方法では、カルボキシル基含有物等がエチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体であるため、こうした共重合体がフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子のバインダとして作用するとともに、液組成物を基材表面に成膜したときに、膜を基材表面に堅牢に結着させることができる。
本実施形態の撥水撥油性黒色膜形成用液組成物を製造するフロー図である。 本実施形態の基材上に形成された撥水撥油性膜の拡大断面図である。
次に本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
〔撥水撥油性黒色膜形成用液組成物の製造方法〕
撥水撥油性黒色膜形成用液組成物は次の方法により、概略製造される。
図1に示すように、酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液11にフッ素系官能基成分(A)を含むフッ素系化合物12を混合し、更に触媒13を混合してフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液14を調製する。この水分散液14と、カルボキシル基含有物等15と、溶媒16とを混合することにより、撥水撥油性黒色膜形成用液組成物20を製造する。以下、工程毎に詳しく述べる。
〔酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液の調製〕
先ず、水性溶媒中に、酸窒化ジルコニウム(ZrON)粒子を分散させて酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液を調製する。酸窒化ジルコニウム粒子は、10nm~45nm、好ましくは12nm~40nmの比表面積径を有する。比表面積径が10nm未満では、酸窒化ジルコニウム粒子の凝集が起こりやすくなり、媒体中に分散しにくくなる。45nmを超えると、液組成物を成膜したときに、酸窒化ジルコニウム粒子が撥水撥油性膜から脱落する。
水性溶媒としては、水又は水とエタノールとの混合溶媒が例示される。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。ここで、溶媒として水性溶媒を用いて、有機溶媒を用いないのは、取扱い上の安全性のためである。なお、本明細書において、酸窒化ジルコニウム粒子の比表面積径とは、BET法により測定した比表面積をSとし、酸窒化ジルコニウム粒子の密度をρとするとき、以下の式(A)から算出したものである。
比表面積径 = 6/ρS (A)
〔フッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液の調製〕
次に、調製された酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液中に、上述した式(1)又は式(2)で表されるフッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物を添加して、酸窒化ジルコニウム粒子とフッ素系官能基成分とがナノコンポジット化された複合材料を合成する。更に反応を促進するために、触媒を添加する。これにより、フッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液が調製される。
上記触媒としては、有機酸、無機酸又はアルカリが挙げられる。有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニアが例示される。触媒は上記のものに限定されない。
フッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物は、下記一般式(3)又は式(4)で示される。これらの式(3)又は式(4)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(5)~(13)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
Figure 2023031897000004
Figure 2023031897000005
Figure 2023031897000006
また、上記式(3)及び式(4)中のXとしては、下記式(14)~(18)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(14)はエーテル結合、下記式(15)はエステル結合、下記式(16)はアミド結合、下記式(17)はウレタン結合、下記式(18)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
Figure 2023031897000007
ここで、上記式(14)~(18)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子又は炭素数1から6の炭化水素基である。R2及びR3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基等も挙げられる。
また、上記式(3)及び式(4)中、R1は、メチル基、エチル基等が挙げられる。
また、上記式(3)及び式(4)中、Zは、加水分解されてSi-O-Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、エトキシ基を適用することが好ましい。
ここで、上記式(3)又は式(4)で表されるペルフルオロエーテル構造を有するフッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物の具体例としては、例えば、下記式(19)~(27)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(19)~(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
Figure 2023031897000008
Figure 2023031897000009
上述したように、本実施形態の撥水撥油性黒色膜形成用液組成物に含まれるフッ素系化合物は、分子内に酸素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基が複数結合したペルフルオロエーテル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。
〔自己反応型のカルボキシル基含有物等〕
自己反応型のカルボキシル基含有物等は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体である。市販品として、エチレン-酢酸ビニル系のものとしては、セポルジョンVA406N、セポルジョンVA407N(いずれも住友精化社製)、スミカフレックスS-201HQ、S-355HQ、S-401HQ、S-465HQ(いずれも住友化学社製)、アクアテックスEC-1800、EC-1200(いずれもジャパンコーティングレジン社製が挙げられる。またエチレン-アクリル酸共重合体としては、ザイクセンA、ザイクセンL、ザイクセンN(いずれも住友精化社製)などが、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸系のものとしてはスミカフレックスS-900HL(住友化学社製)などが挙げられる。また、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体であるスミカフレックスS-830や、エチレン-酢酸ビニル-バーサチック酸ビニル共重合体であるスミカフレックスS-950HQ(いずれも住友化学社製)も挙げられる。更に、アクリル系のものとしてはTOCRYL BCX-1160R-2(トーヨーケム社製)が挙げられる。
〔撥水撥油性黒色膜形成用液組成物〕
本実施形態の撥水撥油性黒色膜形成用液組成物は、上記製造方法で製造され、前述したフッ素系官能基成分(A)が結合した酸窒化ジルコニウム粒子(B)と、カルボキシル基含有物等(C)と、溶媒(D)とを含む。このフッ素系官能基成分(A)は、上記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を有し、液組成物の不揮発分の全量を100質量%とするとき、液組成物中、1質量%~10質量%含まれる。フッ素系官能基成分が1質量%未満では形成した膜に撥油性を付与できず、10質量%を超えると膜の弾き等が発生し成膜性に劣る。好ましいフッ素系官能基成分の含有割合は1.5質量%~8質量%である。
またカルボキシル基含有物等(C)は、液組成物の不揮発分の全量を100質量%とするとき、液組成物中、20質量%~95質量%含まれる。カルボキシル基含有物等が20質量%未満では、形成される膜の基材への密着性や強度に劣り、95質量%を超えると膜に撥油性を付与できない。更にフッ素系官能基成分(A)と酸窒化ジルコニウム粒子(B)とを合計した含有割合は、液組成物の不揮発分の全量を100質量%とするとき、液組成物中、5質量%~80質量%、好ましくは10質量%~60質量%である。更に酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.01~0.50、好ましくは0.02~0.40の範囲にある。
液組成物の不揮発分の全量を100質量%とするとき、成分(A)と粒子(B)が合計して、5質量%未満では、撥水撥油性膜の撥水撥油性能及び膜の黒色度が低下する。また合計して80質量%を超えると、カルボキシル基含有物等(C)の含有量が相対的に低くなり、液組成物を基材に成膜したときに、撥水撥油性膜が基材表面に堅牢に結着しなくなる。また質量比(A/B)が0.01未満では、撥水撥油性膜が撥水撥油性に劣り、0.50を超えると、撥水撥油性膜の基材表面への密着性が低下する。上記溶媒(D)は、水又はエタノールの含有割合が40質量%以下の水である。エタノールの含有割合を40質量%以下とするのは取扱い上の安全性のためである。また水とエタノールとを混合した混合溶媒にすることにより、乾燥速度が向上し、成膜性が改善される。
ペルフルオロエーテル構造の具体例としては、上述した式(19)~(27)で示される構造を挙げることができる。
本実施形態の液組成物がカルボキシル基含有物等を主成分として含むため、基材表面に成膜したときに、撥水撥油性膜の基材表面への密着性に優れ、剥離しにくい高い強度の撥水撥油性膜が得られる。また液組成物が上記一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素系官能基成分を含むため、形成した膜に撥水性と撥油性の効果がある。更に酸窒化ジルコニウム粒子を含むため、形成した膜が黒色になる。
〔撥水撥油性膜の基材表面への形成方法〕
本実施形態の撥水撥油性膜を基材表面に形成するには、撥水撥油性黒色膜形成用液組成物を基材上に塗布した後に、大気中で室温乾燥させて上記液組成物を硬化することにより形成される。この基材としては、特に限定されないが、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、鉄等の金属板、窓ガラス、鏡等のガラス、タイル、ポリ塩化ビニル(PVC)等のプラスチック又はポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム等が挙げられる。上記液組成物の塗布方法としては、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード、スピン法、刷毛塗り法等が挙げられる。
図2に示すように、基材1の表面に形成された撥水撥油性黒色膜2は、粒子表面がフッ素系官能基成分に覆われた多数のフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子3がバインダとしてのカルボキシル基含有物等4で結着して構成される。撥水撥油性黒色膜2はフッ素系官能基成分が結合したフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子3を含むため、膜の撥油性能が保持される。また比表面積径10nm~45nmのフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子3同士がカルボキシル基含有物等4により、膜2中で結合するため、膜2の強度と膜2の密着性を向上させることができる。またフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子3の存在により、膜が黒色になるとともに、膜表面が凹凸になり、膜2表面に指紋を付着させた後に、膜表面に指紋が目立ちにくい利点もある。膜厚及び膜の黒色度は、酸窒化ジルコニウム粒子の粒子径と膜成分中の酸窒化ジルコニウム粒子の含有割合を変えることにより制御することができる。
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。先ず、フッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液を調製する合成例1~5及び比較合成例1~3を説明し、次いでこれらの合成例及び比較合成例を用いた撥水撥油性黒色膜形成用液組成物の製造に関する実施例1~5及び比較例1~5を説明する。
〔フッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液を調製するための合成例1~5、比較合成例1~3〕
<合成例1>
二酸化ジルコニウム粉末を金属マグネシウムと混合し、窒素ガス中で還元して得られた比表面積径が12nmの酸窒化ジルコニウム粒子に水を添加し、ビーズミル装置(浅田鉄工社製、型式:ピコミルPCM-LR)により混合して濃度30質量%の酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液を調製した。得られた酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液50gをビーカーに入れ、そこに、上述した式(19)で表されるフッ素系化合物を7.50g添加し混合した。次に、硝酸を0.02g添加し、40℃で2時間混合し、酸窒化ジルコニウム粒子がフッ素系化合物に結合したフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液を得た。酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.50であった。
<合成例2>
比表面積径が20nmの酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液(濃度30質量%)を調製した。得られた酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液50gをビーカーに入れ、そこに、上述した式(20)で表されるフッ素系化合物を0.90g添加し混合した。次に、硝酸を0.01g添加し、40℃で2時間混合し、酸窒化ジルコニウム粒子がフッ素系化合物に結合したフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液を得た。酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.06であった。
<合成例3>
比表面積径が40nmの酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液(濃度30質量%)を調製した。得られた酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液50gをビーカーに入れ、そこに、上述した式(21)で表されるフッ素系化合物を0.23g添加し混合した。次に、硝酸を0.01g添加し、40℃で2時間混合し、酸窒化ジルコニウム粒子がフッ素系化合物に結合したフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液を得た。酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.015であった。
<合成例4>
比表面積径が20nmの酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液(濃度30質量%)を調製した。得られた酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液50gをビーカーに入れ、そこに、上述した式(22)で表されるフッ素系化合物を2.70g添加し混合した。次に、硝酸を0.01g添加し、40℃で2時間混合し、酸窒化ジルコニウム粒子がフッ素系化合物に結合したフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液を得た。酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.18であった。
<合成例5>
比表面積径が20nmの酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液(濃度30質量%)を調製した。得られた酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液50gをビーカーに入れ、そこに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を1.50g添加し混合した。次に、硝酸を0.01g添加し、40℃で2時間混合し、酸窒化ジルコニウム粒子がフッ素系化合物に結合したフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液を得た。酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.10であった。
<比較合成例1>
比表面積径が20nmの酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液(濃度30質量%)を調製した。得られた酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液50gをビーカーに入れ、そこに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.075g添加し混合した。次に、硝酸を0.01g添加し、40℃で2時間混合し、酸窒化ジルコニウム粒子がフッ素系化合物に結合したフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液を得た。酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.005であった。
<比較合成例2>
比表面積径が20nmの酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液(濃度30質量%)を調製した。得られた酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液50gをビーカーに入れ、そこに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を9.00g添加し混合した。次に、硝酸を0.03g添加し、40℃で2時間混合し、酸窒化ジルコニウム粒子がフッ素系化合物に結合したフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液を得た。酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.60であった。
<比較合成例3>
比表面積径が80nmの酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液(濃度30質量%)を調製した。得られた酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液50gをビーカーに入れ、そこに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を2.70g添加し混合した。次に、硝酸を0.01g添加し、40℃で2時間混合し、酸窒化ジルコニウム粒子がフッ素系化合物に結合したフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液を得た。酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.18であった。
以下の表1に、合成例1~5及び比較合成例1~3のフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液の内容を示す。なお、表1において、フッ素系化合物として式(19)~式(22)及び式(27)で表わされるフッ素含有シランの式中のRはすべてエチル基である。
Figure 2023031897000010
〔撥水撥油性黒色膜形成用液組成物の製造のための実施例1~5、比較例1~5〕
<実施例1>
合成例1で得られたフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液0.48gと、カルボキシル基含有物等として、エチレン-酢酸ビニル系のスミカフレックスS-401HQ(住友化学社製)5.00gと、溶媒である水41.9gと工業アルコール(AP-7)10.5gを混合し、撥水撥油性黒色膜形成用液組成物を調製した。この内容を以下の表2に示す。
表2において、スミカフレックスS-401HQ等は不揮発分又は固形分と水等の分散媒とを含むため、『分散媒を含むカルボキシル基含有物等』で示す。そのため表2における『溶媒及び分散媒を除く液組成物中の含有割合』は、液組成物中の上記不揮発分又は固形分の含有割合の意味である。また表2における『(C)』の含有割合は、揮発分を除いた不揮発分のカルボキシル基含有物等の含有割合の意味である。また、『(A)+(B)』の含有割合は、フッ素系官能基成分(A)と酸窒化ジルコニウム粒子(B)を合計した溶媒を含まない含有割合、即ち不揮発分の含有割合の意味である。溶媒及び分散媒を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)の含有割合(%)は、カルボキシル基含有物等(C)の含有割合を考慮して表現をすれば、[(A)/[(A)+(B)+(C)]]の百分率である。
Figure 2023031897000011
<実施例2~5及び比較例1~5>
表2に示すように、実施例2~5では、表1に示す合成例2~5で得られたフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液をそれぞれ用い、それぞれの秤量を決定した。比較例1~5では、表1に示す合成例1、3及び比較合成例1~3で得られたフッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液をそれぞれ用い、それぞれの秤量を決定した。
カルボキシル基含有物等として、実施例2、比較例1~5では、カルボキシル基含有物等として、エチレン-酢酸ビニル-バーサチック酸ビニル共重合体であるスミカフレックスS-950HQ(住友化学社製)を用い、それぞれの秤量を決定した。実施例3では、カルボキシル基含有物等として、アクリル系のTOCRYL BCX-1160R-2(トーヨーケム社製)を用い、その秤量を決定した。実施例4では、カルボキシル基含有物等として、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体であるスミカフレックスS-830(住友化学社製)を用い、その秤量を決定した。実施例5では、カルボキシル基含有物等として、エチレン-アクリル酸共重合体であるザイクセンN(住友精化社製)を用い、その秤量を決定した。
このようにして、実施例2~5及び比較例1~5の各撥水撥油性黒色膜形成用液組成物を調製した。
<比較試験及び評価>
実施例1~5及び比較例1~5で得られた10種類の液組成物を、刷毛(末松刷子製ナイロン刷毛マイスター)を用いて、厚さ1.1mm、たて100mm、よこ100mmのガラス基材上にそれぞれ乾燥後の厚さが5.0μmとなるように塗布し、10種類の塗膜を形成した。すべての塗膜を室温の大気雰囲気中にて3時間静置し、塗膜を乾燥させて上記ガラス基材上に10種類の膜を得た。これらの膜について、膜表面の水濡れ性(撥水性)、撥油性及び膜の外観を評価し、膜のセロテープ(登録商標)剥離試験(以下、密着性試験という。)を行った。また塗膜の光透過度を評価した。これらの結果を以下の表3に示す。
(1) 膜表面の撥水性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するガラス基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の水濡れ性(撥水性)を評価した。水の接触角が90度以上を撥水性が『良好』であるとし、90度未満を撥水性が『不良』であるとした。
(2) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn-ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するガラス基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。油の接触角が50度以上を撥油性が『良好』であるとし、50度未満を撥油性が『不良』であるとした。
(3) 膜の外観
評価するガラス基材上の膜を目視で観察して、膜が透明であるか否か、また膜中で粒子が凝集しているか否かを調べた。膜が透明であるものを、その程度に応じて、『やや良好』又は『良好』とし、膜中で粒子が凝集しているものは、『凝集不良』とした。
(4) 膜の密着性試験
評価するガラス基材上の膜に碁盤目状に1mm幅のクロスカットを施し、その碁盤目状にクロスカットされた膜に粘着テープ(ニチバン社製、商品名「セロテープ(登録商標)」)を貼り、JISK5600-5-6(クロスカット法)の碁盤目テープ法に準拠してセロテープ(登録商標)剥離試験(密着性試験)を行った。クロスカットを施したマス目100個を分母で表し、剥離試験後に基材上に残存するマス目の数を分子で表した。100/100である場合を『合格』とし、剥離箇所が生じた場合を『不合格』とした。
(5) 膜の光透過率評価試験
評価するガラス基材上の塗膜について、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U-4150)を用いて、塗膜を形成した基材にてベースラインを測定した後、波長380nm~780nmの可視光線域における光透過率を測定し、最大の光透過率(%)を求めた。
Figure 2023031897000012
表3から明らかなように、比較例1では、酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の比率が0.005と低過ぎたため、膜の外観は良好で、膜の剥離試験は合格したけれども、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、膜の撥水撥油性能に劣っていた。380nm~780nmの波長範囲における塗膜の最大の光透過率は11.6%と極めて低く、黒色の膜が得られた。
比較例2では、酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の比率が0.60と高過ぎたため、膜中の粒子が凝集しており、膜の外観が不良であった。また膜のセロテープ(登録商標)剥離試験も不合格であり、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、膜の撥水撥油性能も劣っていた。380nm~780nmの波長範囲における塗膜の最大の光透過率は24.0%と低く、黒色の膜が得られた。
比較例3では、酸窒化ジルコニウム粒子の比表面積径が80nmと大き過ぎたため、膜の外観は良好であり、膜の剥離試験は合格であったが、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、膜の撥水撥油性能も劣っていた。380nm~780nmの波長範囲における塗膜の最大の光透過率は29.8%と高く、黒色の膜が得られなかった。これは酸窒化ジルコニウム粒子の比表面積径が大き過ぎることから、膜の隠蔽力が低いためと考えられた。
比較例4では、液組成物の不揮発分の全量を100質量%とするときのフッ素系官能基成分(A)と酸窒化ジルコニウム粒子(B)とを合計した含有割合が3質量%と低過ぎたため、膜の剥離試験では合格し、膜の外観は良好であったが、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、膜の撥水撥油性能も劣っていた。380nm~780nmの波長範囲における塗膜の最大の光透過率は50.1%と高く、黒色の膜が得られなかった。これは膜中に酸窒化ジルコニウム粒子が少ないためと考えられた。
比較例5では、液組成物の不揮発分の全量を100質量%とするときのフッ素系官能基成分(A)と酸窒化ジルコニウム粒子(B)とを合計した含有割合が82質量%と多過ぎたため、撥水撥油性膜が基材表面に堅牢に結着しにくかった。この結果、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、膜中の粒子が凝集しており、膜の外観が不良であった。また膜の剥離試験では基材上に残存するマス目の数は42個であり、一部分が剥離した。380nm~780nmの波長範囲における塗膜の最大の光透過率は18.3%と低く、黒色の膜が得られた。
それらに対して、実施例1~5では、酸窒化ジルコニウム粒子の比表面積径が10nm~45nmの範囲にあり、液組成物の不揮発分の全量を100質量%とするときのカルボキシル基含有物等(C)の含有割合が20質量%~95質量%であり、液組成物の不揮発分の全量を100質量%とするときのフッ素系官能基成分(A)と酸窒化ジルコニウム粒子(B)とを合計した含有割合が5質量%~80質量%であり、『(A)/(B)』が0.01~0.50の範囲にあって、第1の観点の発明の範囲を満たしていることから、水及びn-ヘキサデカンの接触角及び膜の外観は、いずれも良好であり、膜の密着性試験はいずれも合格していた。また380nm~780nmの波長範囲における塗膜の最大の光透過率は3.4%~24.2%であって、25%以下であり、いずれも黒色の膜が得られた。特に、実施例3では、液組成物中の酸窒化ジルコニウム粒子の含有割合が高かったため、最大の光透過率が3.4%と非常に低かった。
本発明の撥水撥油性黒色膜形成用液組成物は、デザイン性が求められる台所、洗面所等のインテリア製品や、車両のインストルメントパネル、エアコン、カーナビ、オーディオ等の車両内装部材等において、汚れを防止する分野に用いられる。
1 基材
2 撥水撥油性黒色膜
3 フッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子
4 カルボキシル基含有物等

Claims (6)

  1. 下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むフッ素系官能基成分(A)が結合した比表面積径10nm~45nmの酸窒化ジルコニウム粒子(B)と、自己反応型のカルボキシル基及び/又はアセチル基含有物(C)と、溶媒(D)とを含み、
    液組成物の不揮発分の全量を100質量%とするとき、前記自己反応型のカルボキシル基及び/又はアセチル基含有物(C)の含有割合が、20質量%~95質量%であり、かつ前記フッ素系官能基成分(A)と前記酸窒化ジルコニウム粒子(B)とを合計した含有割合が、5質量%~80質量%であり、
    前記酸窒化ジルコニウム粒子(B)に対する前記フッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.01~0.50の範囲にあることを特徴とする撥水撥油性黒色膜形成用液組成物。
    Figure 2023031897000013
    上記式(1)及び式(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数であって、炭素骨格は、直鎖状又は分岐状であってもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Xは、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合、O-CO-NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。更に上記式(1)及び式(2)中、Yはシランの加水分解体又はシリカゾルゲルの主成分である。
  2. 前記自己反応型のカルボキシル基及び/又はアセチル基含有物(C)は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体である請求項1記載の撥水撥油性黒色膜形成用液組成物。
  3. 膜厚5.0μmとなる条件で塗膜を形成したときに、この塗膜の波長380nm~780nmの範囲における最大の光透過率が25%以下である請求項1又は2記載の撥水撥油性黒色膜形成用液組成物。
  4. フッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液と、自己反応型のカルボキシル基及び/又はアセチル基含有物と、溶媒とを混合して撥水撥油性黒色膜形成用液組成物を製造する方法。
  5. 前記自己反応型のカルボキシル基及び/又はアセチル基含有物(C)は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体である請求項4記載の撥水撥油性黒色膜形成用液組成物の製造方法。
  6. 前記フッ素含有酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液が、酸窒化ジルコニウム粒子の水分散液にフッ素系化合物を添加混合し、この混合液に触媒を添加混合して、調製される請求項4記載の撥水撥油性黒色膜形成用液組成物の製造方法。
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