本出願は、米国特許法第119条の下で、2018年9月28日出願の米国仮特許出願第62/738,622号の優先権の利益を主張するものであり、上記仮特許出願の内容は、その全体が参照により本出願に援用される。
以下の例は本開示の限定ではなく例示である。本分野において通常見られる、また当業者には明らかな、様々な条件及びパラメータの他の好適な修正形態及び適合形態は、本開示の精神及び範囲内である。
無機粒子を堆積させることによって、ツール(例えば押出ダイ)の耐摩損性を改善できる。上記粒子を堆積させることによって、上記ツールの表面上に耐摩耗性 コーティングを形成できる。本明細書中で使用される場合、堆積プロセス中に堆積される「粒子(particle)」は、堆積チャンバ内でばらばらに形成されてよく、堆積チャンバ内の表面上に直接(例えば標的基板上に直接)形成されてよく、又はこれらの組み合わせであってよい。ばらばらに堆積される粒子は、蒸気分子間の反応によって堆積チャンバ内で形成され、形成後にこれらの粒子は表面上に堆積される。表面上に直接形成される粒子は、堆積チャンバ内の表面上での蒸気分子の反応によって形成される。粒子を表面上に堆積させることによって、表面上に材料の連続又は不連続フィルムを形成できる。
無機粒子を堆積させるための一部の堆積プロセス(例えば化学蒸着(CVD)プロセス)は、800℃を超える堆積温度を必要とし、これはステンレス鋼等の多数の従来の鋼鉄のオーステナイト変態温度よりも高い。鋼鉄をそのオーステナイト変態温度より高い温度に保持すると、鋼鉄の結晶構造がオーステナイトへと変化する。このような高い堆積温度によって誘発される、このようなオーステナイトへの変化は、鋼鉄の熱膨張係数(CTE)を変化させる。例えば、422マルテンサイトステンレス鋼に関して、鋼鉄のCTEは、約12×10−6/℃から約18×10−6/℃へと変化し得る。このようなCTEの上昇は、鋼鉄のCTEと蒸着された無機粒子のCTEとの間の有意な差(本明細書中では「ΔCTE」と呼ばれる)を発生させる。
本出願の目的のために、以下の温度は以下のような意味であり、以下の方法で測定できる。堆積又は表面調製温度は、無機粒子の定常状態堆積中の堆積チャンバ内の雰囲気の、又は表面調製のために使用されるガスの流れの温度である。例えば堆積又は表面調製温度は、堆積チャンバ又は測定チャンバ壁内に配置された温度プローブを用いて測定できる。オーステナイト変態温度は、それを超えると金属材料が非オーステナイト結晶質相からオーステナイト結晶質相へと変態する温度である。例えばオーステナイト変態温度は、ディラトメトリー、ASTM E228の方法によって測定できる。特定の温度における材料のCTEを測定する目的のために、材料の温度を、ディラトメトリー、ASTM E228の方法によって測定できる。
一部の無機耐摩耗性コーティングは、粒子でコーティングされることになる鋼鉄のCTE(例えば特定の鋼鉄に関して約12×10−6/℃未満)より低いCTEを有する。更に、鋼鉄のCTEは一般に、鋼鉄中のオーステナイトの形成と共に(例えば18×10−6/℃まで)上昇する。その結果、耐摩耗性コーティングと鋼鉄との間のΔCTEは、オーステナイトが鋼鉄中に形成されない場合よりも、オーステナイトの形成によって大きくなる。押出ダイに関して、このように上昇したΔCTEは、ピンの変形又は曲げを発生させるために十分なものであり、これは、孔‐スロット間の位置合わせ又はコーティングの厚さの、例えば1〜2マイクロメートル(μm)程度の差といった、製造時の非対称性につながる。これらの熱応力は、スロット幅変動性を増大させ(例えば2倍、3倍、4倍等にし)、また鋼鉄の降伏強度を超える可能性があり、従ってコーティングを除去した後であっても、ピンが永久的に変形し、またスロット幅変動性の増大は冷却後であっても持続し、このようなダイによって製造される押出成形物のウェブの均一性を大幅に低下させる可能性がある。
本明細書で開示される実施形態によると、堆積プロセスによって引き起こされる鋼鉄のオーステナイト変態の程度を低減すること、又はオーステナイト変態を完全に防止することによって、望ましくないほど高いΔCTEを回避できる。本明細書中に記載されるように、オーステナイト変態の低減又は排除は:(i)鋼鉄のオーステナイト変態温度以下のままの温度で実施される、低温コーティングプロセス;及び(ii)目標変態温度を有する合金組成物の開発のうちの一方又は両方によって達成できる。更に、望ましくないほど高いΔCTEは、目標値又は範囲の見かけのCTEを有するコーティング層を開発することによって回避できる。
無機粒子の堆積のための従来のCVDプロセスは、マルテンサイト鋼及び析出硬化鋼等の鋼鉄中でオーステナイト変態を生成する温度を必要とする。本明細書に記載の低温CVDプロセスは、鋼鉄のオーステナイト変態温度以下の温度で、無機粒子(例えばTiCN、ホウ素ドープTiCN、並びに/又はTiCN及び/若しくはホウ素ドープTiCNの1つ以上の層を含む多層コーティング)を堆積させる。この変態温度以下で保持することによって、鋼鉄のCTEは安定したままとなり、鋼鉄と堆積材料との間のΔCTEを増大させない。例えば、鋼鉄製の対応するダイのピンの変形の量を低減又は最小化することで、低いスロット幅変動性を維持するために、降伏強度がおよそ80ksiの従来の422ステンレス鋼のΔCTEを、10×10−6/℃未満に保持することが有益であることが分かっている。堆積材料と鋼鉄との間のΔCTEを更に小さな値まで最小化することも好ましい。というのは、いずれのΔCTEも多少のピンの変形を引き起こす可能性があり、従ってスロット幅変動性の増大を引き起こす可能性があるためである。
本明細書に記載の低温堆積プロセスは、安定した鋼鉄CTE、好適な粒子の付着性、及び好適な表面仕上げ特性を達成する、複数のパラメータを含む。これらのパラメータとしては、プロセス温度、ガスの流量、及びTiN(窒化チタン)の敷設のための特定のプロセスが挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の実施形態による無機粒子(例えばTiCN(炭窒化チタン)、ホウ素ドープTiCN、並びに/又はTiCN及び/若しくはホウ素ドープTiCNの1つ以上の層を含む多層コーティング)の堆積は、400℃〜900℃の最高堆積温度で達成できる。本明細書に記載の低温堆積プロセスは、鋼鉄基板上の無機粒子の好適な堆積をもたらすことができ、これは、鋼鉄中でオーステナイト変態を引き起こすことなく、高品質の耐摩耗性コーティングを形成する。
低温プロセスに加えて、無機粒子層形成技法を用いて、耐摩耗性コーティングの見かけのCTEを、ΔCTEが例えば10×10−6/℃である目標値を超えないように制御することにより、ピンの変形を最小化できる。例えば一実施形態では、コーティングプロセスは、オーステナイトへの変態が例えば10×10−6/℃である目標値を超えるΔCTEを発生させないように、金属材料のCTEに十分に近い見かけのCTEを有する多層耐摩耗性コーティングを堆積させるステップを含む。本明細書に記載の低温プロセスは、比較的小さな内部応力及び改善された厚さの均一性(これらはいずれも、押出ダイのスロット幅変動性の低減につながり得る)を有する耐摩耗性コーティングの形成を補助できる。
いくつかの実施形態では、鉄鋼のオーステナイト変態温度を操作して(例えば上昇させて)、コーティング堆積プロセス中及び/又は使用時のオーステナイト変態を低減又は防止してよい。本明細書に記載の実施形態では、鋼鉄合金の組成を改質するステップを用いて、オーステナイト変態温度を例えば100℃も上昇させることができる。オーステナイト変態温度を上昇させることにより、鋼鉄中でのオーステナイト結晶質相への変態をそれほど又は全く引き起こすことなく、比較的高温のコーティング堆積プロセスを利用できる。有意な量のこのような変態を回避する、又はこのような変態を完全に回避することによって、鋼鉄と堆積無機粒子との間のΔCTEを、目標値未満、例えば10×10−6/℃未満に維持できる。このように、ΔCTEを小さく維持するステップを用いて、高温コーティングプロセスに曝露される押出ダイの部品(例えばハニカム押出ダイのピン)の寸法安定性を改善できる(即ち、堆積プロセスが必要とする高温によって導入される熱応力が引き起こす、曲げ、反り、歪み、又は他の変形の量を低減できる)。
本明細書に記載の実施形態によると、Ac1温度が上昇した鋼鉄を開発するための適切な合金の改質は、経験的な、及び計算による、熱力学的計算に基づいて導出される。これらの計算は、鋼鉄(例えば従来の422ステンレス鋼)中の、炭素(C)、マンガン(Mn)、及び/若しくはニッケル(Ni)の含有量を減少させることによって、並びに/又はクロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、タングステン(W)、銅(Cu)、ニオブ(Nb)、及び/若しくはケイ素(Si)の含有量を増加させることによって、Ac1温度の有意な上昇を実現できることを実証している。
Ac1温度の所望の上昇を達成するために、必要な組成変化は小さなものであり得る。従来の422ステンレス鋼の場合、このような変化は、鋼鉄を依然としてマルテンサイトステンレス鋼に分類できる(ただし422に関する典型的な仕様からは技術的に外れる)程度に、十分に小さなものであってよい。また422鋼は、ロックウェルCスケールで40〜50の硬度まで硬化できる能力、及び機械加工性のためにロックウェルCスケールで20〜30の硬度まで強化できる能力を含む、望ましい機械的特性を依然として保持する。本明細書に記載の上昇したAc1温度は、鋼鉄合金を熱処理又は加工して鋼鉄のAc1温度を操作することによってではなく、鋼鉄組成物の合金含有量を改変することによって達成される。しかしながら、本明細書に記載の改質済みの鋼鉄を熱処理又は加工して、所望の機械的特性を生成してもよい。
本明細書に記載の合金形成技法は、ステンレス鋼、マルテンサイト鋼、マルテンサイトステンレス鋼、及び析出硬化鋼といった高強度鋼を含む、多様な鋼鉄に適用可能である。これらの鋼鉄はそれぞれ、押出ダイ、切削ツール、又は研削ツールといった様々な高強度ツールのための好適な材料である。
鋼鉄のAc1温度の上昇の影響は、無機粒子堆積等の高温加工処理中に多数の利益を有する。これらには、当業者が理解できるものの中でも特に、少なくとも以下の3つの利益が含まれる。
第1に、Ac1温度を上昇させることにより、Ac1温度でのオーステナイトへの相変化、及びこれに続いて存在する場合は、冷却中のマルテンサイト開始(Ms)温度とマルテンサイト完了(Mf)温度との間でのマルテンサイトへの変態中の、鋼鉄の体積変化を低減又は排除できる。これらの相変態は、ツール(例えば押出ダイ)に適用されたいずれの硬質コーティング又はめっき(例えば耐摩耗性コーティング)の内部応力を増大させる場合があり、これは幾何学的変形につながり得る。適用された硬質コーティング又はめっきの内部応力は、該コーティング又はめっきの厚さの変動によって、該コーティング又はめっき内でばらつく場合がある。このような場合、内部応力のばらつきは、押出ダイのスロット幅変動に大きく寄与し得る。
第2に、Ac1温度を上昇させることにより、高温加工中の鋼鉄のCTEを約40%も低減できる。例えば、Ac1温度未満におけるマルテンサイトステンレス鋼のCTEは約11.5×10−6/℃であってよいが、Ac1温度を超えて冷却時のMs温度までにおいて、CTEは18×10−6/℃以上となり得る。このようなCTEの低減により、高温加工中の寸法変化を低減でき、また耐摩耗性コーティングの適用後の鋼鉄及び/又は耐摩耗性コーティング内の応力も低減できる。
第3に、Ac1温度を上昇させることにより、従来のコーティング堆積プロセスによる無機粒子堆積を、このようなコーティング堆積プロセスのプロセスパラメータを変更する必要なしに可能とすることができる。
従来のコーティング堆積プロセスにおけるAc1温度以上でのコーティングは、鋼鉄の有意なオーステナイト変態、及び冷却時のマルテンサイトへの再変態をもたらす。特に押出ダイに関して、オーステナイトへの変態、及び冷却時のマルテンサイトへの再変態は、CTEが比較的低い無機粒子を堆積させる際に、押出ダイ内のピンの変形及び曲げを引き起こすことが分かっている。この変態及び再変態は、多層耐摩耗性コーティングのための異なる複数の無機粒子タイプの堆積中に、複数回発生し得る。またこの変態及び再変態は、1つ以上の耐摩耗性コーティングを再適用する際に、押出ダイの寿命にわたって複数回発生し得る。この変態及び再変態によって引き起こされる変形は、押出ダイのスロット幅変動性を増大させ、最終的に押出成形された材料のウェブ厚さの変動を増大させる。
本明細書では、押出ダイ、特にハニカム押出ダイに関して様々な実施形態を説明しているが、CTE制御、低温堆積プロセス、及び金属のオーステナイト変態温度の合金操作は、寸法安定性が望まれる場合、及び/又はΔCTEの低減が望まれる場合に、様々な物品に適用できる。例示的な物品としては、無機耐摩耗性粒子でコーティングされる金属製物品、例えば切削ツール又は研削ツールが挙げられる。
図1は、例示的な押出ダイ100を示す。押出ダイ100は、複数の供給孔104と、ピン106のアレイとを備える、ダイ本体102を含む。ピン106の外面は、排出スロット108の交差アレイによって画定される。また押出ダイ100の排出面110は、ピン106の上面112と、排出スロット108の上部開口とによって形成される。押出ダイ100は、ハニカム押出ダイであってよい。
上述のように、本明細書で開示される実施形態を用いて、ダイの製造及び使用中の、押出ダイの部品(例えばピン106及びスロット108)の寸法精度又は安定性を向上できる。例えば、本実施形態では、スロット108の幅を設定するためにピン106の間の間隔を使用するため、ピンの寸法安定性の向上は、スロットの幅の変動性(「スロット幅変動性」)の低減に対応する。スロット幅変動性を低減することにより、押出ダイによって製造される押出成形物の形状、寸法、及び他のパラメータを改善できる。このような寸法精度の向上、及びこれに対応する寸法変動性の低減は、ピン、スロット、又はピンによって形成されるスロットに限定されず、押出ダイ等のツールの他のいずれの特徴部分、形状、プロファイル、又は部品に適用することで、製造されるパーツの性能、寿命、一貫性等を改善できることを理解されたい。
いくつかの実施形態では、押出ダイ100を構築するために使用される材料は、従来のものであってよく、これを本明細書で開示される方法に従ってコーティングする。主要なダイ要素の製作に好適な従来の材料の例としては、工具鋼、いわゆる高速鋼(high‐speed steel)、マルテンサイト鋼、析出硬化鋼、及びマルテンサイトステンレス鋼等のステンレス鋼が挙げられる。いくつかの実施形態では、押出ダイ100を構築するために使用される材料は、本明細書に記載の改質済み鋼鉄合金であってよく、これを従来の堆積方法に従って、又は本明細書で開示される方法によってコーティングする。
本明細書中で使用される場合、「マルテンサイト鋼(martensitic steel)」又は「マルテンサイトステンレス鋼(martensitic stainless steel)」は、室温(23℃)で約90重量%以上のマルテンサイト結晶構造を含むように加工できる、鋼鉄又はステンレス鋼を意味する。いくつかの実施形態では、マルテンサイト鋼又はステンレス鋼は、室温で約90重量%以上のマルテンサイト結晶構造、室温で約95重量%以上のマルテンサイト結晶構造、室温で約96重量%以上のマルテンサイト結晶構造、室温で約97重量%以上のマルテンサイト結晶構造、又は室温で約98重量%以上のマルテンサイト結晶構造を含む。例示的なマルテンサイトステンレス鋼としては、限定するものではないが、422ステンレス鋼及び450ステンレス鋼等の400系ステンレス鋼、並びに17‐4PHステンレス鋼等の析出硬化ステンレス鋼が挙げられる。
押出ダイ100を製造する方法は、排出スロット108、ピン106、及びダイ本体102の組み立てのために選択される設計に少なくとも部分的に依存し得る。例えば押出ダイの構築は、成形された供給孔延長部分のための放電加工(electrical discharge machining:EDM)と、スロット及びピンの形状を形成するためのワイヤEDMスロット形成との組み合わせによる、複合放電セクション製作によって達成できる。当業者であれば、押出ダイの形状、特徴部分、及び/又は部品を形成するために使用できる、他の製造技法と製造技法との組み合わせを認識するだろう。
低Δ熱膨張係数(CTE)堆積
本明細書に記載の実施形態によると、1つ以上の方法を利用して、物品の金属材料又は基板(例えば押出ダイ100)と、物品又は基板の表面上に堆積させられる無機粒子との間のΔCTEを制御してよい。これらの方法は:(i)金属材料のオーステナイト変態温度以下で無機粒子を形成及び堆積できる堆積プロセスを開発すること;並びに目標範囲内の見かけのCTEを有する堆積無機粒子によって形成された多層コーティングを開発することを含む。このようにして、ΔCTEを例えば10×10−6/℃である目標値に維持できる。いくつかの実施形態では、ΔCTEは10×10−7/℃〜10×10−6/℃であってよい。
いくつかの実施形態では、金属材料及び堆積無機粒子の熱膨張係数は、耐摩耗性コーティングの堆積後の冷却中に金属材料がマルテンサイトへの変態を開始する(又は粒子の堆積中にオーステナイト変態が発生しなかった場合には、マルテンサイトへの変態を開始するであろう)温度より少なくとも1℃高い温度で測定してよい。CTEは、材料を冷却すると変化する(例えば材料がオーステナイトから変態してマルテンサイトに戻ると急速に低下する)ため、熱膨張係数を上述のような温度で測定すると、オーステナイトが変態してマルテンサイトに戻る前に金属材料中のオーステナイト結晶質相がCTEに対して有している影響が、より正確に考慮される。いくつかの実施形態では、金属材料及び堆積無機粒子の熱膨張係数を室温(例えば23℃)で測定してよく、その後、金属材料及び耐摩耗性コーティングを急冷し、これによりオーステナイトが変態してマルテンサイトに戻るのを防止する。即ち、材料が十分に急速に冷却されると、オーステナイト結晶質相は、冷却中に変態してマルテンサイトに戻るために十分な時間を有しない。
実際には、本明細書に記載の方法を利用することにより、スロット幅変動性を従来のプロセスに比べて65%も低減できる。従来のコーティングプロセスは、各無機粒子堆積プロセスの後にスロット幅変動性が略線形に増加するという相加効果を有している。本明細書に記載の実施形態によるいくつかのコーティングプロセスは、各コーティングに関するスロット幅変動性に対して、相加効果を有しないものとすることができる。いくつかの実施形態によるコーティングプロセスがスロット幅変動性に対する相加効果を有する場合、この相加効果は低減される。これは特に有利である。というのは、場合によっては、複数の(例えば6回以上もの)コーティングサイクルを用いて、好適な耐摩耗性コーティングを押出ダイ上に堆積させるために、複数の(例えば6回以上もの)コーティングサイクルを用いる場合があるためである。いくつかの実施形態では、従来のコーティングプロセスと比較した場合のスロット幅変動性の有意な低減は、本明細書に記載のコーティングプロセスによって実現できる。
いくつかの実施形態では、無機材料を金属基板(例えば押出ダイ100)に適用する方法は、上記金属基板の金属材料のオーステナイト変態温度を超えない、及び/又は上記金属材料に上記金属材料の上記オーステナイト変態温度を超えさせない堆積温度で、上記無機粒子を上記金属基板の表面上に堆積させるステップを含む。いくつかの実施形態では、無機粒子を堆積させるための最高堆積温度は、上記金属基板の上記金属材料の上記オーステナイト変態温度未満であってよい。金属材料のオーステナイト変態温度は、該金属材料に関する相変態図を用いて、及び/又はある温度範囲にわたる該金属材料のCTEの変化を評価することによって、決定できる。
図2のグラフ300に示されているCTE曲線は、複数の従来の押出ダイの鋼鉄の膨張/収縮歪み曲線を示す。「422PM」は、従来の422マルテンサイトステンレス鋼である。「450M SA」は、従来の450マルテンサイトステンレス鋼である。「S240 SA」及び「13‐8ST SA」は、従来のマルテンサイト析出硬化ステンレス鋼である。「SA」は「solution annealed(溶体化処理)」の略である。
グラフ300に示されているように、これらの鋼鉄は全て、約805℃以下のオーステナイト変態温度を有し、これは、805℃以上という従来の無機粒子堆積温度以下となり得る。グラフ300の鋼鉄のオーステナイト変態温度は、加熱中の特定の温度における各鋼鉄に関するCTE曲線の曲率の有意な変化によって示されている。またグラフ300に示されているように、各鉄鋼のCTE曲線は、オーステナイトが変態してマルテンサイトに戻り始める温度に鋼鉄が到達した後の冷却時に、有意に変化する。422PM鋼に関しては、これは冷却中に、約400℃において発生する。図示されている他の3つの鋼鉄に関しては、このような勾配の増大は、冷却中に約100℃において発生する。
図3及び4に示されているように、最高堆積温度を鋼鉄のオーステナイト変態温度(例えば422PMに関して805℃の変態温度)以下に維持することにより、鋼鉄のCTEは比較的低い値で安定したままとなる。このため、鋼鉄と堆積無機粒子との間のΔCTEは、鋼鉄がオーステナイトに変態し始めるときに急激に増大しない。図3は、422PM鋼のオーステナイト変態温度を超える最高堆積温度を有する堆積プロセスに関する、温度に対する熱膨張(ΔL/L、ppm)のグラフ400を示す。グラフ400に示されているように、鋼鉄は、鋼鉄中でのオーステナイトの形成の開始によって鋼鉄の熱膨張が大幅に変化する温度である約805℃まで、おおよそ線形の割合で熱膨張する。この大幅な変化は、鋼鉄が冷却されると、冷却時に鋼鉄がオーステナイトからマルテンサイトへと変態することにより逆転する。対照的に、グラフ500に示されているように、堆積プロセスの最高堆積温度が850℃未満(例えばグラフ500では約775℃)のままである場合、鋼鉄は熱膨張の大幅な変化にさらされない。
本明細書で開示される実施例によると、鋼鉄のオーステナイト変態温度未満の温度で好適な無機粒子の形成及び堆積を得るために、複数のプロセスパラメータを有するCVDが開発された。以下の表1は、TiN及びホウ素ドープTiCN(B‐TiCN)粒子を堆積させるための従来のCVDコーティング法と、いくつかの実施形態による、TiN及びB‐TiCN粒子を堆積させる低温コーティング法とに関する、プロセスパラメータの比較を示す。TiCN粒子を堆積させるために、ホウ素ソースが含まれないことを除いて、ホウ素ドープTiCNの堆積に使用したものと同様のプロセスパラメータを用いる。従来のCVDコーティング法及び低温コーティング法の両方の堆積チャンバ圧力は、TiN堆積に関して140mbar(ミリバール)〜180mbarであってよい。従来のCVDコーティング法及び低温コーティング法の両方の堆積チャンバ圧力は、B‐TiCN堆積に関して80mbar〜120mbarであってよい。
表1に示されている低温の実施例では、B‐TiCN粒子の堆積は、B‐TiCN粒子の堆積の開始前に、基板の表面上におよそ1マイクロメートルの厚さのTiNでの完全な被覆を保証し、またキャリアガス流(H2)を従来のCVD堆積プロセスに比べて約30%減少させることによって、達成した。いくつかの実施形態では、H2キャリアガスの流量は、毎分20〜40リットル(LPM)(部分範囲を含む)であってよい。例えばいくつかの実施形態では、H2キャリアガスの流量は、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、若しくは40LPM、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内であってよい。
1つ以上のタイプの無機粒子を押出ダイの金属材料のオーステナイト変態温度以下で堆積させることができるような、コーティングプロセスを開発することによって、押出ダイのスロット幅の変動を大幅に低減できる。図5は、表1に示されている低温堆積プロセスを用いてコーティングした押出ダイ(「Aダイ」として標識)、及び表1に示されている従来の堆積プロセスを用いてコーティングしたダイ(「Bダイ」として標識)に関する、全スロット幅の標準偏差のグラフ600を示す。全スロット幅の標準偏差は、押出ダイの隣接するピンの間のスロット(例えば押出ダイ100のスロット108及びピン106)の幅距離の変動の尺度である。いくつかの実施形態では、変動が小さいほど、壁厚さが一貫した押出成形ハニカム製品が製造されることになり、これは、高精度の又は寸法が繊細な用途において特に望ましい。いくつかの実施形態では、変動はゼロであるか、又は可能な限りゼロに近い。
グラフ600で報告されている結果は、同一回数のコーティングサイクルを経た8個のダイ(4個のAダイ及び4個のBダイ)の全スロット幅の変動の測定に基づく。低温堆積プロセスを使用することにより、全スロット幅の標準偏差を50%以上低減できる。グラフ600は、約3.5の偏差から約1.5の偏差への、約57%の低減を示す。図6のグラフ700に示されているように、これは、押出ダイのスロット内幅の分散の約65%の低減をもたらす。棒グラフ700は、試験したAダイ及びBダイに関するスロット内幅の分散の平均を示す。
押出成形パーツの精度が、押出成形されたハニカムの壁を画定するダイのスロットの幅に依存する、ハニカム押出ダイに関して、全スロット幅の変動の低減は、押出ダイの使用寿命
(即ちダイが目標の品質及び/又は寸法精度の部品を一貫して製造する期間)を延長するために特に有益となり得る。図7のグラフ800に示されているように、押出ダイ内のスロット幅の分散は、後続の高温コーティングサイクルによって大幅に増大する。場合によっては、グラフ800に示されているように、このようなスロット幅の分散の増大は、各コーティングサイクルで線形となることができる。いくつかの実施形態では、本出願の低温堆積プロセスによってこの線形傾向の勾配は減少し、これにより、その寿命の間に多数の耐摩耗性コーティング及び再コーティングプロセスを経た場合であっても、押出ダイの寿命が延長される。
図5〜7に示されている試験結果は、表1に示されている低温堆積プロセスに基づく試験の結果であるが、本出願による更なる又は別の方法を用いて同様の結果を達成することもできる。堆積プロセス中にオーステナイト変態を低減若しくは排除する及び/又はΔCTEを制御するための、本明細書に記載の方法のいずれは、押出ダイのスロット幅変動を同様の様式で低減する。
図8は、堆積チャンバ900内で金属基板910の表面912上に無機粒子920を堆積させるための堆積プロセスを示す。図8に示されているプロセスは、化学蒸着(CVD)プロセス等の蒸着プロセスであってよい。1つ以上のガス930(例えばガス930a、ガス930b、及びガス930c)をチャンバ900に導入して、チャンバ900内で無機粒子を形成し、この無機粒子が表面912上に堆積する。1つ以上のガス930は、無機粒子の1つ以上の元素の原料ガスであってよい。1つ以上のガス930は、キャリアガスであってよい。本明細書に記載されているものを含むいずれの好適なタイプの原料ガス又はキャリアガスを、適切な流量でチャンバに導入することによって、無機粒子920を基板910の表面912上に形成できる。
いくつかの実施形態では、金属基板910は押出機部品であってよい。いくつかの実施形態では、押出機部品は押出ダイ(例えば押出ダイ100)又は押出ダイの部品(例えばダイ本体102)を含んでよい。いくつかの実施形態では、基板910は、複数のピン106を有する押出ダイ100又は押出ダイ100の一部分を含んでよく、複数のピン106のうちの1つ以上の外面は、堆積プロセス中に無機粒子が堆積する金属基板910の表面912を画定する。
無機粒子920は、本明細書に記載のいずれのタイプの無機粒子であってよい。図8に示されている堆積プロセスを用いて、いずれの個数の、本明細書に記載の無機粒子層又は耐摩耗性コーティング層を堆積させることができる。また、図8に示されている堆積プロセスを用いて、本明細書に記載のいずれの堆積プロセスに従って無機粒子を堆積させることができる。例えば、図8に示されている堆積プロセスを用いて、表1の低温堆積プロセスに従ってTiCN及び/又はホウ素ドープTiCN粒子を堆積させることができる。
いくつかの実施形態では、TiCN及び/又はホウ素ドープTiCN粒子920の堆積の前に、TiN粒子920の層を、金属基板910の金属材料のオーステナイト変態温度より高い温度において、金属基板910の表面912上に堆積させてよい。TiNは金属表面912に良好に付着して、B‐TiCN粒子及び/又はTiCN粒子を表面912に付着させる役割を果たす。
TiN粒子の堆積は、820℃〜860℃(部分範囲を含む)の温度で実施してよい。例えばTiN粒子の堆積は、820℃、830℃、840℃、850℃、若しくは860℃、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内で実施してよい。いくつかの実施形態では、TiN堆積は、1時間〜6時間(部分範囲を含む)にわたって実施してよい。例えばTiN堆積は、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、若しくは6時間、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内にわたって実施してよい。いくつかの実施形態では、TiN粒子の堆積は、表面912上に、1マイクロメートル〜5マイクロメートル(部分範囲を含む)の厚さのTiNの層を形成できる。例えばTiN粒子の堆積は、表面912上に、1マイクロメートル、2マイクロメートル、3マイクロメートル、4マイクロメートル、若しくは5マイクロメートル、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内の厚さのTiNの層を形成できる。
いくつかの実施形態では、TiN粒子920の堆積後、TiN粒子920の層及び金属基板910を、基板910の金属材料のマルテンサイト変態温度未満の温度まで冷却してよく、これにより、TiNの堆積中に金属材料中に形成されたいずれのオーステナイトをマルテンサイトに変態させる。いくつかの実施形態では、TiN粒子920の層及び金属基板910を、100℃〜400℃(部分範囲を含む)の温度まで冷却してよい。例えば、TiN粒子920の層及び金属基板910を、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃、若しくは400℃、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内まで冷却してよい。いずれのオーステナイトをマルテンサイトに変態させるために十分な時間量にわたって、TiN粒子920の層及び金属基板910を上述のような低温、又は上述のような低温範囲のうちのいずれかの中に、保持してよい。
いくつかの実施形態では、TiN粒子920の堆積前に、表面912を昇温下で調製して、表面912を清掃してよい。いくつかの実施形態では、この表面調製は、有機粒子を、四塩化チタン(TiCl4)ガス及び水素(H2)ガスを表面912上に流すことによって形成された塩酸(HCl)と反応させることによって、表面912から有機粒子を除去するステップを含んでよい。いくつかの実施形態では、上記表面調製は、820℃〜860℃(部分範囲を含む)の温度で実施してよい。例えば、表面調製は、820℃、830℃、840℃、850℃、若しくは860℃、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内で実施してよい。いくつかの実施形態では、表面調製は、5分〜30分(部分範囲を含む)にわたって実施してよい。例えば、表面調製は、5分、10分、15分、20分、25分、若しくは30分、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内にわたって実施してよい。
表面調製及びTiN堆積プロセスは、基板910のオーステナイト変態温度より高い温度で実施してよいが、これらの高温ステップを、追加のコーティング層(例えばB‐TiCN及び/又はTiCN)の堆積の前に、表面912に対して実施することによって、表面912上及び/又は基板910内のオーステナイト変態の量が制限される。いくつかの実施形態では、許容可能な結果を維持しながら、ある程度のオーステナイト変態が許される。これは例えば、これらのステップにおける制限された量のオーステナイト変態は、有意なスロット幅変動をもたらさない傾向にあるためである。更にいくつかの実施形態では、TiN堆積及び/又は表面調製の後に、基板910をマルテンサイト変態温度未満に冷却することにより、これらのステップのいずれかの間に形成されたオーステナイトを変態させて、マルテンサイトに戻すことができる。これにより、基板910のCTEを、更なる粒子、例えばホウ素ドープTiCN粒子及び/又はTiCN粒子の堆積のために低下させる。
表1に示されているように、本出願の実施形態によるB‐TiCN粒子920の堆積は、770℃の最高堆積温度で実施してよい。これは、一部の鋼鉄、例えば従来の422マルテンサイトステンレス鋼のオーステナイト変態温度未満である。いくつかの実施形態では、B‐TiCN粒子920の堆積は、600℃〜860℃(部分範囲を含む)の最高堆積温度で実施してよい。例えば、B‐TiCN粒子920の堆積は、600℃、620℃、640℃、660℃、680℃、700℃、720℃、740℃、760℃、800℃、820℃、840℃、若しくは860℃、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内の最高堆積温度で実施してよい。
いくつかの実施形態では、最高堆積温度でのB‐TiCN粒子の堆積は、10時間〜20時間(部分範囲を含む)にわたって実施してよい。例えば、B‐TiCN堆積は、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、若しくは20時間、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲にわたって実施してよい。B‐TiCN粒子の複数の層を、複数回の堆積プロセスによって堆積させてよく、ここで各堆積プロセスは、同一の時間長にわたって、又は異なる時間長にわたって実施される。例えば、表1の低温堆積プロセスは、770℃でそれぞれ17時間(合計51時間)にわたる、3回のB‐TiCNの堆積を含む。B‐TiCN粒子の複数の層は、本明細書に記載のTiCN粒子によって層形成できる。
TiCN粒子は、B‐TiCNに関して本明細書に記載されている最高堆積温度、温度範囲、時間、及び時間範囲のいずれにおいて堆積させてよい。これらの最高堆積温度、温度範囲、時間、及び時間範囲において堆積させることができる他の無機粒子としては、限定するものではないが、ホウ素(B)粒子、アルミニウムチタン窒化物(Al‐Ti‐N)粒子、チタンアルミニウム窒化物(Ti‐Al‐N)粒子、及び窒化クロム(CrN)粒子が挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の無機粒子のうちのいずれかの組み合わせを、基板910の表面912に堆積させてよい。本明細書に記載の無機粒子のうちのいずれかの堆積により、無機材料の1つ以上の層を、基板910の表面912上に形成してよい。本明細書に記載の実施形態に従って堆積させられた無機粒子は、基板910の表面912上に耐摩耗性コーティング(例えばコーティング1020)を形成できる。
金属基板910の全体又は一部分は、あるオーステナイト変態温度を有する金属材料で形成してよい。いくつかの実施形態では、基板910の少なくとも表面912を、あるオーステナイト変態温度を有する金属材料で形成してよい。
金属基板910を形成する金属材料の組成によって、最高堆積温度が上記材料のオーステナイト変態温度以下であるかどうかが決定されることになる。例えばTiNは820℃以上で堆積させることができるため、金属材料のオーステナイト変態温度が820℃より高い場合のみ、TiN粒子が、金属材料のオーステナイト変態温度未満の温度で堆積されることになる。
いくつかの実施形態では、金属基板910の金属材料は鋼鉄であってよい。いくつかの実施形態では、金属基板910の金属材料はマルテンサイト鋼であってよい。いくつかの実施形態では、金属基板910の金属材料はマルテンサイトステンレス鋼であってよい。いくつかの実施形態では、金属基板910の金属材料は析出硬化マルテンサイト鋼であってよい。いくつかの実施形態では、金属基板910の金属材料は析出硬化マルテンサイトステンレス鋼でなくてよい。いくつかの実施形態では、金属基板910の金属材料は従来の鋼鉄材料であってよい。いくつかの実施形態では、金属基板910は、本明細書に記載されているように、Ac1温度を上昇させた合金金属材料を含んでよい。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の実施形態による低温堆積プロセスを用いて、基板の表面(例えば表面912)上に既に堆積させた耐摩耗性コーティングの上に、無機粒子を堆積させてよい。このような実施形態では、無機粒子は、基板の金属材料のオーステナイト変態温度以下の温度で、既に堆積させた耐摩耗性コーティングの上に堆積させてよい。
いくつかの実施形態では、無機粒子を、既に堆積させた耐摩耗性コーティングの上に堆積させる前に、既に堆積させた耐摩耗性コーティングの外面を調製してよい。このような実施形態では、この表面調製は、三塩化ホウ素(BCl3)を上記外面上に流すことによって、上記外面から酸化物を除去するステップを含んでよい。いくつかの実施形態では、上記表面調製は、有機粒子を、四塩化チタン(TiCl4)ガス及び水素(H2)ガスを上記外面上に流すことによって形成された塩酸(HCl)と反応させることによって、上記外面から有機粒子を除去するステップを含んでよい。いくつかの実施形態では、上記表面調製は、三塩化ホウ素(BCl3)を流すこと、及び有機粒子を、四塩化チタン(TiCl4)ガス及び水素(H2)ガスを上記外面上に流すことによって形成された塩酸(HCl)と反応させることによって、上記外面から有機粒子を除去するステップを含んでよい。外面の表面調製は、付着のためのTiN層を堆積させる必要なしに、新たに堆積させる無機粒子を外面に付着させるのを補助できる。
本明細書に記載のいくつかの実施形態は、無機粒子を堆積させるための化学蒸着に特に言及しているが、いずれの好適な蒸着プロセスを用いて、基板のオーステナイト変態温度以下において無機粒子を堆積させることができる。例えば物理蒸着(PVD)プロセスを用いて、無機粒子を基板上に堆積させてよい。
いくつかの実施形態では、目標値(又は範囲)の見かけのCTEを有するようにコーティングを開発することによって、耐摩損性コーティングと基板の金属材料との間のΔCTEを制御できる。このような実施形態では、コーティングの見かけのCTEに関する目標値を有するコーティングを開発することにより、10×10−6/℃以下のΔCTEを得ることができる。コーティングの見かけのCTEは、異なる複数のCTE値を有する無機粒子で構成された層を有する多層コーティングを堆積させることで、コーティング全体の見かけの(累積)CTEを制御することによって、調整できる。
このΔCTE制御アプローチは、コーティングに関して所望の見かけのCTEを生成する層状コーティング構造及び組成を開発するための、混合の規則を利用する。このアプローチはまた、B‐TiCN粒子を利用しながら、コーティングの見かけのCTEに対するB‐TiCN層の影響を最小限に抑えることによって、コーティングの表面仕上げ特性を最適化できる。
B‐TiCN粒子は、表面粗度が0.1マイクロメートル未満のコーティング層を形成できる。従って、平滑な耐摩耗性コーティングを提供するために、1つ以上のB‐TiCNコーティング層を含めることが望ましい場合がある。また特に、平滑な耐摩耗性コーティングを提供するために、B‐TiCNコーティング層を最も外側のコーティング層として堆積させると有益となり得る。
しかしながら、以下の表2に示されているように、B‐TiCNは、他のいくつかの耐摩耗性コーティング材料に比べて比較的低いCTEを有する。B‐TiCNは他のコーティング材料より低いCTEを有するため、本明細書に記載の金属材料とのΔCTEが最も大きくなる。本明細書に記載の混合の規則を用いることにより、CTE要件及び表面仕上げ要件の両方を満たすコーティング層を設計できる。
図9は、いくつかの実施形態によるコーティング済み物品1000を示す。コーティング済み物品1000は、基板1010と、基板の表面1012上に配置された耐摩耗性コーティング1020とを含む。基板1010は、基板910と同一又は同様のものであってよい。耐摩耗性コーティング1020は、無機粒子を基板1010の表面1012上に堆積させることによって形成される。
耐摩耗性コーティング1020は、第1のコーティング層1030、第2のコーティング層1040、第3のコーティング層1050、第4のコーティング層1060、及び第5のコーティング層1070といった、無機粒子の堆積によって形成された1つ以上のコーティング層を含んでよい。コーティング済み物品1000は、5つのコーティング層を有するものとして図示されているが、耐摩耗性コーティング1020はいずれの個数のコーティング層を含んでよい。例えば、耐摩耗性コーティング1020は、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、又は更に多数のコーティング層を含んでよい。2個以上のコーティング層を含む実施形態では、耐摩耗性コーティング1020は多層耐摩耗性コーティングと呼ばれる場合がある。
コーティング1020の各コーティング層は、蒸着された無機粒子で形成されていてよい。いくつかの実施形態では、1つ以上のコーティング層は、異なる複数のタイプの無機粒子で構成されていてよい。いくつかの実施形態では、1つ以上のコーティング層は、同一のタイプの無機粒子で構成されていてよい。いくつかの実施形態では、1つ以上のコーティング層は、従来の堆積プロセスを用いて堆積させてよい。いくつかの実施形態では、1つ以上のコーティング層は、本明細書に記載の実施形態による低温堆積プロセスを用いて堆積させてよい。
いくつかの実施形態では、第1の堆積プロセスにおいて、無機粒子の第1のコーティング層1030を基板1010の表面1012上に堆積させてよく、追加の堆積プロセスにおいて、1つ以上の追加のコーティング層(例えば層1040、1050、1060、及び/又は1070)を堆積させてよい。例えば第2のコーティング層1040を、第1の堆積プロセスで堆積させられた無機粒子上に(即ちコーティング層1030上に)追加の無機粒子を堆積させる第2の堆積プロセスにおいて堆積させてよい。追加のコーティング層は、基板1010の金属材料のオーステナイト温度(例えばオーステナイト変態温度を超えない温度)以下で堆積させてよい。
耐摩耗性コーティング1020は、1マイクロメートル〜100マイクロメートル(部分範囲を含む)の合計厚さ1022を有してよい。例えば、厚さ1022は、1マイクロメートル、2マイクロメートル、5マイクロメートル、10マイクロメートル、15マイクロメートル、20マイクロメートル、25マイクロメートル、30マイクロメートル、35マイクロメートル、40マイクロメートル、45マイクロメートル、50マイクロメートル、55マイクロメートル、60マイクロメートル、65マイクロメートル、70マイクロメートル、75マイクロメートル、80マイクロメートル、85マイクロメートル、90マイクロメートル、95マイクロメートル、若しくは100マイクロメートル、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有する範囲内であってよい。いくつかの実施形態では、厚さ1022は2マイクロメートル〜65マイクロメートルであってよい。
多層コーティングの個々のコーティング層(例えば層1030、1040、1050、1060、及び/又は1070)は、合計厚さ1022の一部である厚さ1032を有する。いくつかの実施形態では、1つ以上の個々のコーティング層の厚さ1032は同一であってよい。いくつかの実施形態では、1つ以上の個々のコーティング層の厚さ1032は異なっていてよい。個々のコーティング層の厚さ1032を調整することによって、耐摩耗性コーティング1020に所望の見かけのCTEを提供できる。個々の層の厚さ1032は、0.5マイクロメートル〜100マイクロメートル(部分範囲を含む)であってよい。例えば、個々の層の厚さ1032は、0.5マイクロメートル、1マイクロメートル、2マイクロメートル、5マイクロメートル、10マイクロメートル、15マイクロメートル、20マイクロメートル、25マイクロメートル、30マイクロメートル、35マイクロメートル、40マイクロメートル、45マイクロメートル、50マイクロメートル、55マイクロメートル、60マイクロメートル、65マイクロメートル、70マイクロメートル、75マイクロメートル、80マイクロメートル、85マイクロメートル、90マイクロメートル、95マイクロメートル、99マイクロメートル、若しくは100マイクロメートル、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有する範囲内であってよい。
いくつかの実施形態では、連続する複数の堆積ステップにおいて堆積させられた粒子間の個々の厚さは、個別に識別可能ではなくなる。例えば複数回の粒子の堆積の実施(例えば第1の粒子が第1の実施において堆積され、第2の粒子がこれに続く第2の実施において堆積される)、並びに/又は複数の異なる材料(例えばB‐TiCN及びTiCNの両方)は、単一の厚さを有する単一の層に、又は単一の層として、組み合わされるか又は分散されていてよい。
耐摩耗性コーティング1020のコーティング層(例えば層1030、1040、1050、1060、及び/又は1070)は、本明細書に記載のいずれの無機粒子で形成されていてよい。いくつかの実施形態では、耐摩耗性コーティング1020の1つ以上のコーティング層は、ホウ素ドープ炭窒化チタン層を形成するホウ素ドープ炭窒化チタン粒子を含んでよい。いくつかの実施形態では、耐摩耗性コーティング1020の1つ以上のコーティング層は、炭窒化チタン層を形成する炭窒化チタン粒子を含んでよい。いくつかの実施形態では、耐摩耗性コーティング1020の1つ以上のコーティング層は、窒化チタン層を形成する窒化チタン粒子を含んでよい。いくつかの実施形態では、第1のコーティング層1030は、追加の層を表面1012に付着させるのを支援するための、TiN粒子層であってよい。
いくつかの実施形態では、耐摩耗性コーティング1020は、ホウ素ドープ炭窒化チタン層及び炭窒化チタン層を含む多層コーティングであってよい。いくつかの実施形態では、耐摩耗性コーティング1020は、複数のホウ素ドープ炭窒化チタン層及び複数の炭窒化チタン層を含む多層コーティングであってよい。いくつかの実施形態では、耐摩耗性コーティング1020は、ホウ素ドープ炭窒化チタン層、炭窒化チタン層、及び窒化チタン層を含む多層コーティングであってよい。いくつかの実施形態では、耐摩耗性コーティング1020は、複数のホウ素ドープ炭窒化チタン層、複数の炭窒化チタン層、及び複数の窒化チタン層を含む多層コーティングであってよい。
いくつかの実施形態では、耐摩耗性コーティング1020の最外層(例えば図9に示されている第5のコーティング層1070)は、ホウ素ドープ炭窒化チタン粒子で形成されたホウ素ドープ炭窒化チタン層であってよい。ホウ素ドープ炭窒化チタン粒子を用いて耐摩耗性コーティング1020の最外層を形成することにより、耐摩耗性コーティング1020に、所望の上面粗度、例えば0.1マイクロメートル〜0.025マイクロメートルの上面粗度(Ra)を提供できる。表2に示されているように、他のタイプの無機粒子は、より高い表面粗度(Ra)を有する層を形成する。
いくつかの実施形態では、ホウ素ドープTiCNの最外層は、少なくとも5マイクロメートルの厚さを有してよい。いくつかの実施形態では、少なくとも5マイクロメートルの厚さを有するホウ素ドープTiCNの最外層は、多層コーティングの表面粗度を、例えば特に低い押出圧力に関して許容可能なレベルに維持するために十分なものであることが分かっている。実際には、許容可能な表面仕上げは、押出バッチ組成物及び目標成果パラメータに依存するが、特に壁の抗力が高いバッチの場合、0.05マイクロメートル〜0.2マイクロメートルの表面粗度(Ra)によって、許容可能な結果が得られることが分かっている。
多層耐摩耗性コーティング(例えば耐摩耗性コーティング1020)の見かけのCTEは、多層コーティングの個々のコーティング層の個数、厚さ、及び無機材料を調整することによって制御できる。本出願の目的のために、多層コーティングの見かけのCTE(A)は、以下の式:
A=(f1)(CTE1)+(f2)(CTE2)+(f3)(CTE3)…+(fn)(CTEn) (式1)
を用いて計算され、ここで:f=層の部分的厚さ(fractional thickness)であり、CTE=層の熱膨張係数である。部分的厚さは、層の厚さ(Tl)を多層コーティングの合計厚さ(Tt)で除算することによって計算される。
従って、各層の部分的熱膨張係数(fractional coefficient of thermal expansion)は、以下の式:
fCTE=(Tl/Tt)*CTEl (式2)
で計算され、ここで:fCTE=各層の部分的熱膨張係数であり、Tl=各層の厚さであり、Tt=多層コーティングの合計厚さであり、CTEl=各層の熱膨張係数である。
一例として、2マイクロメートル厚のTiNコーティング、36.6マイクロメートル厚のTiCNコーティング、及び6.4マイクロメートル厚のB‐TiCNコーティングを有する多層コーティングの見かけのCTEは、8×10−6/℃である。この例では、オーステナイトに変態した鋼鉄、及びこれに対応する18×10−6/℃へのCTE上昇についてさえ、鋼鉄とこの多層コーティングとの間のΔCTEは10×10−6/℃に等しい。
いくつかの実施形態では、多層コーティングの見かけのCTEは、8×10−6/℃〜9×10−6/℃(部分範囲を含む)であってよい。例えば、多層コーティングの見かけのCTEは、8×10−6/℃、8.1×10−6/℃、8.2×10−6/℃、8.3×10−6/℃、8.4×10−6/℃、8.5×10−6/℃、8.6×10−6/℃、8.7×10−6/℃、8.8×10−6/℃、8.9×10−6/℃、若しくは9×10−6/℃、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内であってよい。
表2に示されているように、ホウ素ドープTiCN自体のCTEは5×10−6/℃である。従って、鋼鉄がオーステナイトに変態して、そのCTEが18×10−6/℃に上昇すると、これはホウ素ドープTiCN層と13×10−6/℃のΔCTEを形成する。上述のように、これは鋼鉄製のツールの寸法変化、例えば押出ダイのピンの永久的な変形を引き起こす可能性がある。本明細書に記載の多層コーティングのCTEを制御することによって、コーティングの表面粗度を制御するためにホウ素ドープTiCNを多層コーティングに(特に多層コーティングの最外層として)使用できる。いくつかの実施形態では、押出バッチ組成物を押出成形するために必要な押出圧力を低減するため、及び/又はスループットを向上させるために、より平滑なコーティング表面を有利に利用できる。
様々なコーティング済み金属基板を、本明細書に記載の低温堆積プロセス及び見かけのCTEの制御方法によって作製してよい。例示的なコーティング済み基板としては、限定するものではないが、コーティング済み押出ダイ、コーティング済みハニカム押出ダイ、及び研削ツール、ブレード、又はドリルビットといったコーティング済み切削ツールが挙げられる。
いくつかの実施形態では、コーティング済み金属基板は、鋼鉄製本体(例えばダイ本体102)と、上記鋼鉄製本体の表面(例えば1つ以上のピン106の外面)上に堆積された、複数の炭窒化チタン層及び複数のホウ素ドープ炭窒化チタン層を有する多層耐摩耗性コーティング(例えばコーティング1020)とを含んでよい。鋼鉄製本体の表面は、温度T℃で測定した場合にX/℃である熱膨張係数を有する鋼鉄を含んでよく、多層耐摩耗性コーティングは、温度Tで測定した場合にY/℃である見かけの熱膨張係数を備えてよく、XとYとの差は10×10−6/℃以下である。このような実施形態では、鋼鉄及び多層耐摩耗性コーティングの熱膨張係数は、鋼鉄及び多層耐摩耗性コーティングを、鋼鉄のオーステナイト変態温度以上の温度まで加熱し、鋼鉄及び多層耐摩耗性コーティングを温度Tまで冷却することによって測定でき、ここでTは、冷却中に鋼鉄がマルテンサイト(Ms)に変態する温度より1℃高い温度に等しい。鋼鉄がオーステナイトに変態した後で、鋼鉄がマルテンサイトに変態する温度より1℃高い温度に等しい温度でΔCTEを測定することにより、オーステナイトに変態した鋼鉄と、本明細書に記載の実施形態による多層耐摩耗性コーティングとの間の、最大ΔCTEを捕捉する。
いくつかの実施形態では、コーティング済み金属基板を作製するための堆積法は、金属基板の鋼鉄材料のオーステナイト変態温度を超える堆積温度で多層耐摩耗性コーティングの1つの層をそれぞれ堆積させる複数の堆積プロセスで、複数の炭窒化チタン層及び複数のホウ素ドープ炭窒化チタン層を有する多層耐摩耗性コーティングを、鋼鉄基板の表面上に堆積させるステップを含んでよい。このような実施形態では、多層耐摩耗性コーティングの見かけのCTEは、冷却中に鋼鉄がマルテンサイトに変態する温度より1℃高い温度に等しい温度でΔCTEを測定した場合に、ΔCTEが10×10−6/℃以下となるように調整してよい。
オーステナイト変態温度を制御するための合金形成
いくつかの実施形態では、同様の機械的特性を有する従来の鋼鉄に対してオーステナイト変態(Ac1)温度が上昇した、鋼鉄の合金組成物を開発する。例えば、Ac1温度が約805℃である従来の鋼鉄(例えば422ステンレス鋼)に対する合金組成物は、805℃超(例えば850℃)のAc1温度を有する改質済み鋼鉄を生成するように設定してよい。これに対応して、鋼鉄のAc1温度に対して本開示の組成物が有する影響によって、オーステナイト変態の低減を実現できる。別の例として、本明細書に記載の鋼鉄合金は、従来の17‐4析出硬化鋼鉄等のベース組成物との比較で開発できる。
従来の鋼鉄のAc1温度を改変することにより、鋼鉄中での有意な量のオーステナイト形成を回避する、又はオーステナイト形成を完全に回避することによって、無機粒子の堆積中のΔCTEを最小化できる。本明細書に記載されているように、ΔCTEの最小化により、押出ダイのピンの変形、従ってスロット幅変動性を最小化できる。これは、押出成形製品の一貫性の改善、例えば押出成形ハニカム製品のより一貫した壁厚につながる。
本明細書中で使用される場合、用語「従来の鋼鉄(conventional steel)」は、米国材料試験協会(ASTM)、米国鉄鋼協会(AISI)、及び自動車技術者協会(SAE)等といった、業界で認識されている規格組織によって定義及び指定された合金を有する鋼鉄を意味する。いくつかの実施形態では、従来の鋼鉄はステンレス鋼であってよい。いくつかの実施形態では、従来の鋼鉄はマルテンサイト鋼であってよい。いくつかの実施形態では、従来の鋼鉄はマルテンサイトステンレス鋼であってよい。いくつかの実施形態では、従来の鋼鉄は析出硬化鋼であってよい。いくつかの実施形態では、従来の鋼鉄は磁性鋼であってよい。本明細書中で使用される場合、「磁性(magnetic)鋼は、磁性鋼で作製された部品の表面及び上記表面上に配置された磁石を地面に対して垂直に位置決めした場合に、磁石を磁気によって保持する鋼鉄である。例示的な従来の鋼鉄としては、限定するものではないが、422ステンレス鋼、450ステンレス鋼、及び630又は17‐4PH(析出硬化)ステンレス鋼が挙げられる。
本明細書に記載の実施形態による鋼鉄の合金組成物の開発は、本明細書で開示されている量及び範囲で存在する合金元素の重量百分率を選択するステップを含む。本明細書に記載の実施形態に従って開発される合金組成物は、従来の鋼鉄に概ね匹敵するか又は同等の機械的特性、例えば硬度、硬化特性、磁性、又は降伏強度を有することができる。
鋼鉄のオーステナイト変態温度を上昇させることにより、無機粒子の堆積(及び他の製造作業)を、安定した略一定のCTEを維持したまま、従来の鋼鉄のオーステナイト変態温度を超える温度で実施できる。特に押出ダイに関して、これは、耐摩耗性コーティング(例えばコーティング1020)と鋼鉄との間のΔCTEを低減する。これにより、押出ダイのピンを有意に変形させることなく、多様な耐摩耗性コーティングの塗布が可能となる。押出ダイに使用されるこれらのコーティングのいくつかの例としては、限定するものではないが、TiCN、ホウ素ドープTiCN、Al‐Ti‐N(アルミニウムチタン窒化物)、Ti‐Al‐N(チタンアルミニウム窒化物)、CrN、及びTiNが挙げられる。
以下の表3は、従来の422ステンレス鋼の合金組成物の例を、本明細書中の開示に従って開発されたある合金との比較で示す。表3に示されているように、特定の合金元素の重量パーセント(重量%)は、従来の422ステンレス鋼組成物に比べて上下していてよく、これにより、422ステンレス鋼の805℃に対して、850℃を超えるAc1温度がもたらされる。
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるように開発されたステンレス鋼合金のAc1温度は、同様の機械的特性を有する従来の合金に対して、少なくとも10℃〜200℃(部分範囲を含む)上昇させることができる。例えばAc1温度は、10℃、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、若しくは200℃、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ上昇させることができる。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の実施形態による鋼鉄は、850℃以上のAc1温度を有してよい。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の実施形態による鋼鉄は、850℃〜1000℃(部分範囲を含む)のAc1温度を有してよい。例えば鋼鉄は、850℃、860℃、870℃、880℃、890℃、900℃、910℃、920℃、930℃、940℃、950℃、960℃、970℃、980℃、990℃、若しくは1000℃、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内のAc1温度を有してよい。
表3の改質済み422ステンレス鋼の上昇したAc1温度は、図10及び11に示されている。図10及び11のグラフ1100及び1200は、例示的な堆積プロセスに関する温度に対する熱膨張(ΔL/L、ppm)を示す。従来の422ステンレス鋼組成物について、鋼鉄は、鋼鉄中でのオーステナイト変態の開始によって鋼鉄の熱膨張が大幅に変化する温度である約805℃まで、おおよそ線形の割合で熱膨張する。この大幅な変化は、鋼鉄が冷却されると、冷却時に鋼鉄がオーステナイトからマルテンサイトへと変態することにより逆転する。対照的に、グラフ1200に示されているように、改質済み422ステンレス鋼組成物は、850℃未満の温度では熱膨張の変化にさらされない。従って、改質済み422ステンレス鋼組成物のAc1温度は850℃超である。
以下の表4は、850℃を超えるAc1温度を有する、いくつかの実施形態による改質済みマルテンサイト422ステンレス鋼材料に関する、高い及び低い重量百分率を示す。表4に示されている予測Ac1温度は、ケンブリッジ大学の材料アルゴリズムプロジェクトを通して利用可能な様々な鋼鉄材料に関するAc1温度データを用いた、経験的な計算に基づく。上記データを用いて、鋼鉄のAc1温度を予測するための経験的な数学モデルを、その合金含有量に基づいて生成した。これらのモデルが正確な予測を生成することを確認するために、これらのモデルを用いて、従来の422マルテンサイトステンレス鋼のAc1温度を予測した。次にこの予測を、従来の422ステンレス鋼のCTE曲線からの実際のAc1温度と比較した。表4に示されているように、上記モデルは805℃のAc1温度を予測した。これは図10と一致している。
表4に示されているように、合金含有量の改変により、鋼鉄のAc1温度を大幅に上昇させることができる。これにより、高温の耐摩耗性コーティングを、安定したCTE値で、鋼鉄基板上に堆積させることができる。表4に示されている高い及び低い重量百分率により、従来の422ステンレス鋼に匹敵する機械加工性及び硬化性を保持した合金鋼が得られる。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の実施形態による改質済み鋼鉄は、85キロポンド毎平方インチ(ksi)〜200キロポンド毎平方インチ(部分範囲を含む)の降伏強度を有してよい。例えば、改質済み鋼鉄は、85ksi、90ksi、100ksi、110ksi、120ksi、130ksi、140ksi、150ksi、160ksi、170ksi、180ksi、190ksi、200ksi、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内の降伏強度を有してよい。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の実施形態による改質済み鋼鉄は、18〜60のロックウェルC硬度を有してよい。例えば、改質済み鋼鉄は、18、20、25、30、35、40、45、50、55、若しくは60、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内のロックウェルC硬度を有してよい。
表3及び4は、422ステンレス鋼と機械的に同様の例示的な組成物を示しているが、あるオーステナイト変態温度を有する他の金属材料を、本明細書に記載の上昇したAc1温度を有するように改質することもできる。その更なる例は、以下の表5に示されているように従来の17‐4析出硬化(PH)合金との比較で提示される合金である。
表5に示されている改質済み17‐4PH鋼は、従来の17‐4鋼鉄の機械的特性及び機械加工特性を概ね保持しているが、表3及び4の改質済み422鋼のように、上昇したAc1温度を有する。改質済み17‐4PHは、改質済み422ステンレス鋼ほど高く上昇したAc1温度を示さないが、従来の17‐4PH鋼のAc1温度を上昇させることにより、Al‐Ti‐Nの比較的低温のコーティングを、オーステナイト変態をそれほど又は全く発生させずに堆積させることができる。更にこれは、オーステナイト変態温度を上昇させることによって、所与の堆積プロセスに関するオーステナイト変態の量を低減できる。
いくつかの実施形態では、改質済み17‐4PH鋼のAc1温度は、725℃〜875℃(部分範囲を含む)であってよい。例えば、改質済み17‐4PH鋼は、725℃、750℃、775℃、800℃、825℃、850℃、若しくは875℃、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内のAc1温度を有してよい。
図12は、様々な合金形成元素の、鋼鉄のオーステナイト変態温度に対する影響のグラフ1300を示す。グラフ1300に示されているように、モリブデン(Mo)及びマンガン(Mn)は、比較的低温でのオーステナイトの形成に寄与する傾向を有する。しかしながら、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ケイ素(Si)、及びクロム(Cr)は、比較的低温でのオーステナイトの形成を低減又は防止する傾向を有する。グラフ1300の曲線の勾配(正又は負の勾配)が急であるほど、オーステナイト変態温度に対するその元素の影響が強いことを意味する。
以下は、本出願の実施形態による例示的な金属組成物である。いくつかの実施形態では、上記金属は、鉄、モリブデン、及びタングステン、並びにマンガン、ニッケル、クロム、及びバナジウムのうちの少なくとも1つを含む、鋼鉄であってよい。このような実施形態では、マンガン、ニッケル、クロム、及びバナジウムは以下の範囲で存在してよい:マンガン:0.1重量%未満、ニッケル:0.7重量%未満、クロム:12.5重量%超、及びバナジウム:0.3重量%超。
いくつかの実施形態では、上記金属は、1.0重量%〜1.5重量%(部分範囲を含む)の量のモリブデンを含んでよい。例えば、モリブデンは、1.0重量%、1.1重量%、1.2重量%、1.3重量%、1.4重量%、若しくは1.5重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内の量で存在してよい。いくつかの実施形態では、析出硬化鋼は、0.75重量%〜1.25重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在するモリブデンを含んでよい。例えば、モリブデンは、0.75重量%、0.8重量%、0.9重量%、1重量%、1.1重量%、1.2重量%、若しくは1.25重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。
いくつかの実施形態では、上記金属は、0.9重量%〜1.3重量%(部分範囲を含む)の量のタングステンを含んでよい。例えば、タングステンは、0.9重量%、1.0重量%、1.1重量%、1.2重量%、若しくは1.3重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内の量で存在してよい。
いくつかの実施形態では、上記金属は、0.1重量%未満の量のマンガンを含んでよい。例えば、上記金属は、0.09重量%、0.08重量%、0.07重量%、0.06重量%、0.05重量%、0.04重量%、0.03重量%、0.02重量%、0.01重量%、若しくは0重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内のマンガンを含んでよい。いくつかの実施形態では、上記金属は、0.05重量%未満だけ存在するマンガンを含んでよい。いくつかの実施形態では、析出硬化鋼は、0.1重量%〜0.9重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在するマンガンを含んでよい。例えば、マンガンは、0.1重量%、0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%、0.5重量%、0.6重量%、0.7重量%、0.8重量%、若しくは0.9重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。
いくつかの実施形態では、上記金属は、0.7重量%未満だけ存在するニッケルを含んでよい。例えば、上記金属は、0.65重量%、0.6重量%、0.55重量%、0.5重量%、0.45重量%、0.4重量%、0.35重量%、0.3重量%、0.25重量%、0.2重量%、0.15重量%、0.1重量%、0.05重量%、若しくは0重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内のニッケルを含んでよい。いくつかの実施形態では、析出硬化鋼は、3重量%〜4重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在するニッケルを含んでよい。例えば、ニッケルは、3重量%、3.2重量%、3.4重量%、3.5重量%、3.6重量%、3.8重量%、若しくは4重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。
いくつかの実施形態では、上記金属は、12.5重量%以上だけ存在するクロムを含んでよい。例えば、上記金属は、13重量%、14重量%、15重量%、16重量%、17重量%、若しくは18重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在するクロムを含んでよい。いくつかの実施形態では、析出硬化鋼は、16重量%〜19重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在するクロムを含んでよい。例えば、クロムは、16重量%、16.5重量%、17重量%、17.5重量%、18重量%、18.5重量%、若しくは19重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。
バナジウムは、チタン、モリブデン、タングステン、ケイ素、及びクロムと同様に、比較的低温でのオーステナイトの形成を低減又は防止する傾向を有する。いくつかの実施形態では、上記金属は、0.3重量%超だけ存在するバナジウムを含んでよい。例えば、上記金属は、0.35重量%、0.4重量%、0.45重量%、0.5重量%、0.55重量%、0.6重量%、0.65重量%、0.7重量%、0.75重量%、0.8重量%、0.85重量%、0.9重量%、0.95重量%、若しくは1重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在するバナジウムを含んでよい。
銅は、チタン、モリブデン、タングステン、ケイ素、及びクロムと同様に、比較的低温でのオーステナイトの形成を低減又は防止する傾向を有する。いくつかの実施形態では、上記金属は、0重量%〜0.05重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在する銅を含んでよい。例えば、銅は、0重量%、0.01重量%、0.02重量%、0.03重量%、0.04重量%、若しくは0.05重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。いくつかの実施形態では、上記金属は銅を含まなくてよい。いくつかの実施形態では、析出硬化鋼は、1.5重量%〜3重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在する銅を含んでよい。例えば、銅は、1.5重量%、1.75重量%、2重量%、2.25重量%、2.5重量%、2.75重量%、若しくは3重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。
コバルトは、チタン、モリブデン、タングステン、ケイ素、及びクロムと同様に、比較的低温でのオーステナイトの形成を低減又は防止する傾向を有する。いくつかの実施形態では、上記金属は、0重量%〜0.1重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在するコバルトを含んでよい。例えば、コバルトは、0重量%、0.01重量%、0.02重量%、0.03重量%、0.04重量%、0.05重量%、0.06重量%、0.07重量%、0.08重量%、0.09重量%、若しくは0.1重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。いくつかの実施形態では、上記金属はコバルトを含まなくてよい。
ケイ素は、チタン、モリブデン、タングステン、ケイ素、及びクロムと同様に、比較的低温でのオーステナイトの形成を低減又は防止する傾向を有する。いくつかの実施形態では、上記金属は、0重量%〜1.1重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在するケイ素を含んでよい。例えば、ケイ素は、0重量%、0.1重量%、0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%、0.5重量%、0.6重量%、0.7重量%、0.8重量%、0.9重量%、1重量%、若しくは1.1重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。いくつかの実施形態では、析出硬化鋼は、0.75重量%〜1.25重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在するケイ素を含んでよい。例えば、ケイ素は、0.75重量%、0.8重量%、0.9重量%、1重量%、1.1重量%、1.2重量%、若しくは1.25重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。
ニオブは、チタン、モリブデン、タングステン、ケイ素、及びクロムと同様に、比較的低温でのオーステナイトの形成を低減又は防止する傾向を有する。いくつかの実施形態では、上記金属は、0.75重量%〜1.25重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在するニオブを含んでよい。例えば、ニオブは、0.75重量%、0.8重量%、0.85重量%、0.9重量%、0.95重量%、1重量%、1.05重量%、1.1重量%、1.15重量%、1.2重量%、若しくは1.25重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。
炭素は、モリブデン及びマンガンと同様に、比較的低温でのオーステナイトの形成に寄与する傾向を有する。いくつかの実施形態では、上記金属は、0.15重量%〜0.25重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在する炭素を含んでよい。例えば、炭素は、0.15重量%、0.16重量%、0.17重量%、0.18重量%、0.19重量%、0.2重量%、0.21重量%、0.22重量%、0.23重量%、0.24重量%、若しくは0.25重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。いくつかの実施形態では、炭素は0.15重量%〜0.2重量%の範囲内で存在してよい。いくつかの実施形態では、析出硬化鋼は、0.025重量%〜0.075重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在する炭素を含んでよい。例えば、炭素は、0.025重量%、0.03重量%、0.04重量%、0.05重量%、0.06重量%、0.07重量%、若しくは0.075重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。
いくつかの実施形態では、上記金属は、鉄、モリブデン、及びタングステンを含み、また以下の範囲のマンガン、ニッケル、クロム、及びバナジウムを含む、鋼鉄であってよい:マンガン:0重量%〜0.05重量%、ニッケル:0.35重量%〜0.65重量%、クロム:13重量%〜14重量%、及びバナジウム:0.35重量%〜0.65重量%。
いくつかの実施形態では、上記金属は、鉄、モリブデン、及びタングステンを含み、また以下の範囲のマンガン、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、及びバナジウムを含む、鋼鉄であってよい:マンガン:0重量%〜0.05重量%、銅:0重量%〜0.05重量%、ニッケル:0.35重量%〜0.65重量%、クロム:13重量%〜14重量%、モリブデン:1.0重量%〜1.5重量%、及びバナジウム:0.35重量%〜0.65重量%。
いくつかの実施形態では、上記金属は、鉄、モリブデン、及びタングステンを含み、また以下の範囲のマンガン、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、バナジウム、タングステン、及びコバルトを含む、鋼鉄であってよい:マンガン:0重量%〜0.05重量%、銅:0重量%〜0.05重量%、ニッケル:0.35重量%〜0.65重量%、クロム:13重量%〜14重量%、モリブデン:1.0重量%〜1.5重量%、バナジウム:0.35重量%〜0.65重量%、タングステン:0.9重量%〜1.3重量%、及びコバルト:0重量%〜0.1重量%。
いくつかの実施形態では、上記金属は、鉄、モリブデン、及びタングステンを含み、また以下の範囲のマンガン、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、バナジウム、タングステン、コバルト、及び炭素を含む、鋼鉄であってよい:マンガン:0重量%〜0.05重量%、銅:0重量%〜0.05重量%、ニッケル:0.35重量%〜0.65重量%、クロム:13重量%〜14重量%、モリブデン:1.0重量%〜1.5重量%、バナジウム:0.35重量%〜0.65重量%、タングステン:0.9重量%〜1.3重量%、コバルト:0重量%〜0.1重量%、及び炭素:0.15重量%〜0.25重量%。
いくつかの実施形態では、上記金属は、鉄と、以下の範囲の炭素、ケイ素、マンガン、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、バナジウム、タングステン、及びコバルトのうちの少なくとも5つとを含む、マルテンサイトステンレス鋼であってよい:炭素:0.15重量%〜0.25重量%、ケイ素:0重量%〜1.1重量%、マンガン:0重量%〜0.05重量%、銅:0重量%〜0.05重量%、ニッケル:0.35重量%〜0.65重量%、クロム:13重量%〜14重量%、モリブデン:1.0重量%〜1.5重量%、バナジウム:0.35重量%〜0.65重量%、タングステン:0.9重量%〜1.3重量%、及びコバルト:0重量%〜0.1重量%。いくつかの実施形態では、上記金属は、鉄と、上述の範囲の炭素、ケイ素、マンガン、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、バナジウム、タングステン、及びコバルトのうちの少なくとも6つとを含む、マルテンサイトステンレス鋼であってよい。いくつかの実施形態では、上記金属は、鉄と、上述の範囲の炭素、ケイ素、マンガン、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、バナジウム、タングステン、及びコバルトのうちの少なくとも7つとを含む、マルテンサイトステンレス鋼であってよい。
いくつかの実施形態では、鉄は、70重量%〜85重量%(部分範囲を含む)の範囲内で存在してよい。例えば、鉄は、70重量%、72.5重量%、75重量%、77.5重量%、80重量%、82.5重量%、若しくは85重量%、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内だけ存在してよい。
上述の鋼鉄のうちのいずれを、金属製物品のための金属製本体に成形してよく、上記金属製物品を、本明細書に記載の無機粒子でコーティングしてよい。例えば上述の鋼鉄のうちのいずれを、押出ダイ若しくはその一部分(例えば押出ダイ100若しくはその一部分)、切削ツール、又は研削ツールへと成形してよく、これらを、本明細書に記載の無機粒子でコーティングしてよい。無機粒子を金属製本体の表面に配置して、金属製本体の表面上に耐摩耗性コーティングを形成してよい。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の実施形態による改質済み鋼鉄は、849℃で測定されたある熱膨張係数を有してよく、耐摩耗性コーティングは、849℃で測定されたある熱膨張係数を有してよく、改質済み鋼鉄と耐摩耗性コーティングとの間のΔCTEは10×10−6/℃以下である。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の実施形態による改質済み鋼鉄を、粉末冶金及び関連する加工によって、金属製本体へと成形してよい。このような実施形態では、改質済み鋼鉄の金属材料は、固結した金属粉末を含む。いくつかの実施形態では、粉末冶金的成形及び加工は、米国特許第6,302,679号明細書に記載されている成形及び加工と同一又は同様であってよい。
例えばいくつかの実施形態では、金属製本体の成形は、鉄粉末、モリブデン粉末、及びタングステン粉末、並びにマンガン粉末、ニッケル粉末、クロム粉末、及びバナジウム粉末のうちの少なくとも1つを、混合して固結させるステップを含んでよい。またいくつかの実施形態では、マンガン粉末、ニッケル粉末、クロム粉末、及びバナジウム粉末は、以下の範囲内であってよい:マンガン:0.1重量%未満、ニッケル:0.7重量%未満、クロム:12.5重量%超、及びバナジウム:0.3重量%超。他の合金組成物を、同一の様式で金属製本体へと成形してもよい。
TiCN及び/又はホウ素ドープTiCN粒子の低温堆積法
いくつかの実施形態では、TiCN及び/又はホウ素ドープTiCN(B‐TiCN)無機粒子堆積プロセスのための原料ガスを、金属基板のAc1温度以下の温度で無機粒子が堆積されるように調整してよい。例えば、TiCN及び/又はホウ素ドープTiCN無機粒子920の形成のために堆積チャンバ900に導入される原料ガス930を調整して、無機粒子920の形成に必要な温度を金属基板910の金属材料のAc1温度以下に低減してよい。いくつかの実施形態では、金属材料は従来の金属合金であってよい。いくつかの実施形態では、金属材料は、本明細書に記載の実施形態による、改質済み金属合金であってよい。
TiCN及び/又はB‐TiCN粒子の堆積に必要な堆積温度の低減は、以下の方法のうちの少なくとも1つを用いて達成してよい。いくつかの実施形態では、以下の方法のうちの1つ以上の組み合わせを利用してよい。1)65.9キロジュール/モル未満の生成熱エネルギを有する、炭素及び窒素のための単一の原料ガスを含む、堆積法。2)2つの原料ガス、即ち炭素‐窒素単結合を有する気体分子を含む炭素のための1つの原料ガス、及び窒素のための1つの原料ガスを含む、堆積法。3)無機粒子を形成するための有機金属化合物を含む原料ガスを含む堆積法。4)反応して無機粒子を形成する2つ以上の原料ガスと、アルミニウム含有有機金属還元剤とを含む堆積法。
第1の方法では、65.9キロジュール/モル未満の生成熱エネルギを有する、炭素及び窒素のための単一の原料ガスを利用して、堆積チャンバ900内でのTiCN及び/又はB‐TiCN粒子の形成に必要な温度を低減する。従来のTiCN及び/又はB‐TiCN堆積プロセスでは、炭素及び窒素両方のための原料ガスとしてアセトニトリル(CH3CN)が使用されてきた。アセトニトリルは、65.9キロジュール/モルの生成熱エネルギを有する。生成熱エネルギがより低い好適な炭素及び窒素原料ガスを利用することによって、TiCN及び/又はB‐TiCNをより低い温度で形成できる。いくつかの実施形態では、炭素及び窒素のための単一の原料ガスは、4個以上の炭素原子の炭素鎖を有する気体分子を含んでよい。この第1の方法では、炭素及び窒素のための単一の原料ガスは、堆積されるTiCN及び/又はB‐TiCN粒子中のこれらの元素の唯一のソースであってよい。炭素及び窒素の追加のソースは存在しなくてよい。
この第1の方法では、TiCN又はB‐TiCN粒子の形成のためにチタン原料ガスが必要である。いくつかの実施形態では、チタン原料ガスは四塩化チタン(TiCl4)であってよい。いくつかの実施形態では、チタン原料ガスは有機金属化合物であってよい。好適な有機金属化合物としては、本明細書に記載されているもの、例えばテトラキス(ジメチルアミド)チタン(TDMAT)が挙げられる。
65.9キロジュール/モル未満の生成熱エネルギを有する炭素及び窒素原料ガスとしては、ニトリル類、例えば限定するものではないが、トリクロロアセトニトリル(CCl3CN)、プロピオニトリル(CH3CH2CN)、アクリロニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、trans2‐ブチロニトリル、3‐ブテンニトリル、スクシノニトリル、シクロブタンカルボニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、1‐シクロヘキセンカルボニトリル、シクロペンタンカルボニトリル、1‐シクロペンテンカルボニトリル、シクロプロパンカルボニトリル、オクタンニトリル、2,2‐ジメチルプロパンニトリル、ヘプタンニトリル、アジポニトリル、マロノニトリル、メタクリロニトリル、2‐メチルプロパンニトリル、trans‐3‐ペンテンニトリルが挙げられる。好適なニトリル類は、A‐CNの基本式を含んでよく、ここでAはアルキル、アルケニル、シクロアルカニル、シクロアルケニルであり、これらのうちのいずれは任意に1つ以上のクロロ基で置換される。
この第1の方法の、B‐TiCN粒子の堆積を含む実施形態では、1つ以上のホウ素含有原料ガスをチャンバ900に導入する。1つ以上のホウ素含有原料ガスは、ボラン、ジボラン、三塩化ホウ素、トリメチルアミンボラン((CH3)3NBH3)(TMAB)、又はこれらの組み合わせであってよい。
第2の方法では、炭素及び窒素のための別個の原料ガスを利用して、堆積チャンバ900内でのTiCN及び/又はB‐TiCN粒子の形成に必要な温度を提言する。この第2の方法による実施形態では、少なくとも2つの原料ガス、即ち少なくとも炭素のためのソースである1つの原料ガスと、少なくとも窒素のためのソースである1つの原料ガスとを利用する。いくつかの実施形態では、窒素のためのソースが炭素のためのソースでもあってよい。いくつかの実施形態では、窒素のためのソースは炭素のためのソースでなくてよい。いくつかの実施形態では、窒素のためのソースはアンモニア(HN3)であってよい。
この第2の方法の実施形態による方法では、炭素のためのソースは、炭素‐窒素単結合を有する気体分子を含む。炭素‐窒素単結合を有する好適な気体分子を利用することによって、TiCN及び/又はB‐TiCNを、従来の堆積プロセスよりも低温で形成できる。
この第2の方法のための好適な炭素ソースとしては、限定するものではないがジアルキル及びトリアルキルアミン等の、アミンが挙げられる。好適なジアルキル及びトリアルキルアミンとしては、限定するものではないが、トリメチルアミン((CH3)3N)、ジメチルアミン、塩酸ジメチルアミン、及びトリメチルアミンが挙げられる。いくつかの実施形態では、アミンはトリメチルアミンボラン((CH3)3NBH3)(TMAB)であってよく、これはB‐TiCN粒子を堆積させるときのホウ素のためのソースとしても使用できる。
この第2の方法では、TiCN及び/又はB‐TiCN粒子の形成のためにチタン原料ガスが必要となる。いくつかの実施形態では、チタン原料ガスは四塩化チタン(TiCl4)であってよい。いくつかの実施形態では、チタン原料ガスは有機金属化合物であってよい。好適な有機金属化合物としては、テトラキス(ジメチルアミド)チタン(TDMAT)等の、本明細書に記載されているものが挙げられる。
B‐TiCN粒子の堆積を含むこの第2の方法の実施形態では、1つ以上のホウ素含有原料ガスをチャンバ900に導入する。1つ以上のホウ素含有原料ガスは、ボラン、ジボラン、三塩化ホウ素、トリメチルアミンボラン((CH3)3NBH3)(TMAB)、又はこれらの組み合わせであってよい。
第3の方法では、堆積させられるTiCN及び/又はB‐TiCN粒子中の炭素、窒素、及びチタンのためのソースである有機金属化合物を含む原料ガスを使用する。好適な有機金属化合物としては、限定するものではないが、テトラキス(ジメチルアミド)チタン、テトラキス(エチルメチルアミノ)チタン、テトラキス(ジエチルアミド)チタン(TDEAT)、テトラキス(メチルエチルアミド)チタン(TMEAT)、及びTi‐N結合を有する金属有機化合物が挙げられる。
B‐TiCN粒子の堆積を含むこの第3の方法の実施形態では、1つ以上のホウ素含有原料ガスをチャンバ900に導入する。1つ以上のホウ素含有原料ガスは、ボラン、ジボラン、三塩化ホウ素、トリメチルアミンボラン((CH3)3NBH3)(TMAB)、又はこれらの組み合わせであってよい。
第4の方法では、反応してTiCN及び/又はB‐TiCN粒子を形成する2つ以上の原料ガスを、アルミニウム含有有機金属還元剤と共に、堆積チャンバ900に導入する。アルミニウム含有有機金属還元剤は、堆積チャンバ900内でのTiCN及び/又はB‐TiCNの形成に必要な温度を低減するために利用される。アルミニウム含有有機金属還元剤は、TiCl4ガス中のClを還元することによって、TiCN及び/又はB‐TiCNの形成に必要な温度を低減する。この第4の方法による実施形態における、反応してTiCN及び/又はB‐TiCN粒子を形成する2つ以上の原料ガスは、TiCl4に加えて、本明細書に記載の炭素及び/又は窒素原料ガスのいずれ、並びにアセトニトリル等の従来の原料ガスを含む。
いくつかの実施形態では、アルミニウム含有有機金属還元剤は、トリアルキルアルミニウム有機金属化合物を含んでよい。いくつかの実施形態では、アルミニウム含有有機金属還元剤は、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、及び/又はアラン水素化アルミニウムを含んでよい。好適なアラン水素化アルミニウムとしては、限定するものではないが、ジメチル水素化アルミニウム、ジメチル水素化アルミニウム、及びジメチルエチルアミンアランが挙げられる。
第4の方法の実施形態による方法では、アルミニウム含有有機金属還元剤の量は、堆積させられるTiCN及び/又はB‐TiCN粒子の組成が、制限された量のアルミニウムを含むように、制限されてよい。例えばアルミニウム含有有機金属還元剤の量は、堆積させられるTiCN及び/又はB‐TiCN粒子が30モル%以下のアルミニウムを含むように、制限されてよい。いくつかの実施形態では、堆積させられるTiCN及び/又はB‐TiCN粒子は、1モル%〜30モル%のアルミニウム(部分範囲を含む)を含んでよい。例えば、堆積させられるTiCN及び/又はB‐TiCN粒子は、1モル%のアルミニウム、5モル%のアルミニウム、10モル%のアルミニウム、15モル%のアルミニウム、20モル%のアルミニウム、25モル%のアルミニウム、若しくは30モル%のアルミニウム、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有する範囲内のモル%のアルミニウムを含んでよい。
上述の4つの方法のうちのいずれか、又はこれらの方法のうちの1つ以上の組み合わせは、900℃以下の堆積温度でTiCN及び/又はB‐TiCN粒子を堆積させることができる。いくつかの実施形態では、1つ以上の上記方法は、400℃〜900℃(部分範囲を含む)の範囲内の堆積温度でTiCN及び/又はB‐TiCN粒子を堆積させることができる。例えば堆積温度は、400℃、450℃、500℃、550℃、600℃、650℃、700℃、750℃、800℃、850℃、若しくは900℃、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内であってよい。いくつかの実施形態では、堆積温度は400℃〜750℃の範囲内であってよい。いくつかの実施形態では、堆積温度は600℃〜750℃の範囲内であってよい。いくつかの実施形態では、堆積温度は400℃〜600℃の範囲内であってよい。
いくつかの実施形態では、これらの方法のうちのいずれか又はその組み合わせに従ったTiCN及び/又はB‐TiCN粒子の堆積プロセス中、金属基板910を900℃未満の温度に維持してよい。例えばいくつかの実施形態では、TiCN及び/又はB‐TiCN粒子の堆積のための堆積温度は600℃〜750℃の範囲内であってよく、堆積プロセス中、金属基板を900℃未満の温度に維持してよい。いくつかの実施形態では、堆積プロセス中、金属基板910を600℃〜900℃(部分範囲を含む)の範囲内の温度に維持してよい。例えば金属基板910を、600℃、650℃、700℃、750℃、800℃、850℃、若しくは900℃、又はこれらの値のうちのいずれの2つを端点として有するいずれの範囲内の温度に維持してよい。
更に、上述の4つの方法のうちのいずれか、又はこれらの方法のうちの1つ以上の組み合わせは、本明細書に記載されているように、TiCN又はB‐TiCNの個別の層をいずれの個数だけ備える耐摩耗性コーティング(例えばコーティング1020)を形成できる。これらの方法のうちのいずれか、又はその組み合わせによって形成される、耐摩耗性コーティングの厚さは、本明細書に記載の厚さ1022に関するいずれの厚さ又は厚さ範囲と同一であってよい。また、TiCN又はB‐TiCNの個別の層の厚さは、本明細書に記載の厚さ1032に関するいずれの厚さ又は厚さ範囲と同一であってよい。
様々な実施形態について本明細書中で説明してきたが、これらは限定としてではなく、例として提示されている。改変及び修正は、本明細書で提示されている教示及び指導に基づいて、本開示の実施形態の意味、及び本開示の実施形態の等価物の範囲内にあることが意図されていることは、明らかであろう。従って、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書で開示されている実施形態に対して、形式及び細部の様々な変更を実施できることは、当業者には明らかであろう。本明細書で提示されている実施形態の要素は、必ずしも相互排他的ではなく、当業者には理解されるように、様々な状況を満たすために相互に交換できる。
本開示の実施形態について、ここでは、添付の図面に図示されている本開示の実施形態を参照して詳細に説明しており、添付の図面では、同様の参照番号を用いて、同一の又は機能的に類似した要素を指す。「一実施形態(one embodiment)」、「ある実施形態(an embodiment)」、「いくつかの実施形態(some embodiment)」、「特定の実施形態(certain embodiment)」等への言及は、記載されている実施形態がある特定の特徴部分、構造又は特徴を含み得るものの、全ての実施形態が上記特定の特徴部分、構造又は特徴を必ずしも含むわけではない場合があることを示している。更に、このような句は、必ずしも同じ実施形態について言及しているわけではない。更に、ある特定の特徴部分、構造又は特徴が、ある実施形態に関連して記載されている場合、明示的に記載されているかどうかにかかわらず、上記特定の特徴部分、構造又は特徴を他の実施形態に関連して実現することは、当業者の知識の範囲内であるものとする。
以上の例は、本開示の制限ではなく例示である。当該技術分野で通常目にする、また当業者に明らかな、様々な条件及びパラメータの他の好適な修正及び適合は、本開示の精神及び範囲内である。
本明細書において使用される場合、用語「又は(or)」は、包含的なものであり;より具体的には、句「A又はB」は、「A、B又はA及びBの両方」を意味する。
ある要素又は構成部品を記述するために使用される不定冠詞「a」及び「an」は、これらの要素又は構成部品が1個又は少なくとも1個存在することを意味している。これらの冠詞は、慣習的には、修飾されている名詞が単数名詞であることを示すために採用されるが、本明細書中で使用される場合、冠詞「a」及び「an」は、具体例においてそうでないことが言明されていない限り、複数も含む。同様に、定冠詞「the」もまた、本明細書中で使用される場合には、これもまた具体例においてそうでないことが言明されていない限り、修飾されている名詞が単数であっても複数であってもよいことを示す。
本明細書において上限値及び下限値を含むある数値の範囲が挙げられている場合、特定の状況下でそうでないことが明記されていない限り、上記範囲はその端点、並びに上記範囲内の全ての整数及び分数を含むことを意図したものである。ある範囲が定義されている場合、請求対象の範囲を、挙げられている具体的な値に限定することは意図されていない。更に、量、濃度又は他の値若しくはパラメータが、範囲、1つ若しくは複数の好ましい範囲、又は好ましい上限値及び好ましい下限値のリストとして与えられている場合、これは、いずれの範囲上限又は好ましい値といずれの範囲下限又は好ましい値とのいずれのペアから形成される全ての範囲を、このようなペアが個々に開示されているかどうかにかかわらず、具体的に開示するものとして理解されたい。最後に、用語「約」がある値又はある範囲のある端点を記述する際に使用される場合、本開示は、言及された具体的な値又は端点を含むことを理解されたい。数値又は範囲の端点が「約」として記載されているかどうかにかかわらず、上記数値又は範囲の端点は、2つの実施形態、即ち:「約」で修飾された実施形態、及び「約」で修飾されていない実施形態を含むことを目的としている。
本明細書中で使用される場合、用語「約(about)」は、量、サイズ、処方、パラメータ、並びに他の量及び特徴が正確ではなく、かつ正確である必要がないものの、必要に応じて許容誤差、換算係数、丸め、測定誤差等、及び当業者に公知のその他の因子を反映した、おおよそのもの、及び/又は大きい若しくは小さいものであってよいことを意味している。
本明細書中で使用される場合、用語「略、実質的な(substantial)」、「略、実質的に(substantially)」及びその変化型は、記述されている特徴が、ある値又は記述に等しいか又はおおよそ等しいことを示すことを意図している。例えば「略平面状の(substantially planar)」表面は、平面状のであるか又はおおよそ平面状である表面を指すことを意図している。更に、「略、実質的に」は、2つの値が等しいか又はおおよそ等しいことを指すことを意図している。
上では、指定された機能の実装及び上記機能の関連性を図示する機能構築ブロックを利用して、1つ以上の実施形態を説明した。これらの機能構築ブロックの境界線は、本明細書では、説明に便利となるように任意に定義されている。指定された機能及びその関連性が適切に表現される限り、別の境界線を定義することもできる。
本明細書中で使用される句法又は用語法は、説明を目的としたものであり、限定を目的としたものではないことを理解されたい。本開示の範囲は、上述の例示的実施形態のいずれによっても限定されないものとし、以下の請求項及びその均等物に従って定義されるものとする。
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
実施形態1
無機材料を金属基板上に堆積させるための方法であって、
上記方法は:
炭窒化チタンを含む無機粒子を、化学蒸着プロセスによって、上記金属基板の表面にわたって、900℃以下の堆積温度で堆積させるステップ
を含み、
上記化学蒸着プロセスには、反応して上記無機粒子を形成する2つ以上の原料ガスが供給され、
上記原料ガスのうちの少なくとも1つは、チタン原料ガスを含み、
炭素及び窒素のソースは、上記原料ガスのうちの別の少なくとも1つを供給し、以下:
(a)単一の原料ガスであって、上記単一の原料ガスは、65.9キロジュール/モル未満の生成熱エネルギを有する、炭素及び窒素原料ガスを含む、単一の原料ガス;
(b)2つの原料ガスであって、上記2つの原料ガスは、炭素‐窒素単結合を有する気体分子を含む炭素原料ガス、及び窒素原料ガスを含む、2つの原料ガス;並びに
(c)(a)と(b)との組み合わせ
から選択される、方法。
実施形態2
上記炭素及び窒素のソースは、上記単一の原料ガスを含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態3
上記単一の原料ガスは、ニトリルを含む、実施形態2に記載の方法。
実施形態4
上記ニトリルは:トリクロロアセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、trans‐2‐ブチロニトリル、3‐ブテンニトリル、スクシノニトリル、シクロブタンカルボニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、1‐シクロヘキセンカルボニトリル、シクロペンタンカルボニトリル、1‐シクロペンテンカルボニトリル、シクロプロパンカルボニトリル、オクタンニトリル、2,2‐ジメチルプロパンニトリル、ヘプタンニトリル、アジポニトリル、マロノニトリル、メタクリロニトリル、2‐メチルプロパンニトリル、及びtrans‐3‐ペンテンニトリルからなる群から選択される、実施形態3に記載の方法。
実施形態5
上記単一の原料ガスは、4個以上の炭素原子の炭素鎖を有する気体分子を含む、実施形態2に記載の方法。
実施形態6
上記炭素及び窒素のソースは、上記2つの原料ガスを含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態7
炭素‐窒素単結合を有する上記気体分子はアミンである、実施形態6に記載の方法。
実施形態8
上記アミンはジアルキル又はトリアルキルアミンを含む、実施形態7に記載の方法。
実施形態9
上記アミンは、トリメチルアミン、ジメチルアミン、塩酸ジメチルアミン、及びトリエチルアミンからなる群から選択される、実施形態7に記載の方法。
実施形態10
上記アミンはトリメチルアミンボランを含む、実施形態7に記載の方法。
実施形態11
上記窒素原料ガスは、上記化学蒸着プロセスのための炭素のソースではない、実施形態6に記載の方法。
実施形態12
上記窒素原料ガスはアンモニアである、実施形態6に記載の方法。
実施形態13
上記チタン原料ガスは四塩化チタンである、実施形態1に記載の方法。
実施形態14
上記チタン原料ガスは有機金属化合物である、実施形態1に記載の方法。
実施形態15
上記有機金属化合物はテトラキス(ジメチルアミド)チタンを含む、実施形態14に記載の方法。
実施形態16
上記堆積温度は400℃〜750℃の範囲内である、実施形態1に記載の方法。
実施形態17
上記堆積温度は600℃〜750℃の範囲内である、実施形態1に記載の方法。
実施形態18
上記金属基板は、上記化学蒸着プロセス中に900℃未満の温度に維持される、実施形態1に記載の方法。
実施形態19
上記堆積温度は600℃〜750℃であり、
上記金属基板は、上記化学蒸着プロセス中に900℃未満の温度に維持される、実施形態1に記載の方法。
実施形態20
上記堆積温度は、上記金属基板の金属材料のオーステナイト変態温度を超えない、実施形態1に記載の方法。
実施形態21
上記金属材料は鋼鉄である、実施形態20に記載の方法。
実施形態22
上記金属材料はステンレス鋼である、実施形態20に記載の方法。
実施形態23
上記金属材料はマルテンサイトステンレス鋼である、実施形態20に記載の方法。
実施形態24
上記化学蒸着プロセスには、ホウ素含有原料ガスが更に供給される、実施形態1に記載の方法。
実施形態25
上記ホウ素含有原料ガスは、ボラン、ジボラン、三塩化ホウ素、及びトリメチルアミンボランからなる群から選択される、実施形態24に記載の方法。
実施形態26
上記基板の上記表面上に形成される無機粒子は、ホウ素ドープ炭窒化チタンを含む、実施形態24に記載の方法。
実施形態27
上記金属基板は押出機部品を含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態28
上記押出機部品は押出ダイを含む、実施形態27に記載の方法。
実施形態29
上記押出ダイは複数のピンを含み、
上記複数のピンのうちの1つ以上の外面は、上記無機粒子が堆積する上記金属基板の上記表面を画定する、実施形態28に記載の方法。
実施形態30
上記無機粒子は、上記金属基板上に炭窒化チタンコーティングを形成し、上記コーティングの厚さは1マイクロメートル〜100マイクロメートルである、実施形態1に記載の方法。
実施形態31
実施形態1に記載の方法によって堆積させられる炭窒化チタンを含む無機粒子でコーティングされた、金属基板であって、
上記金属基板は押出ダイを含む、金属基板。
実施形態32
無機材料を金属基板上に堆積させるための方法であって、
上記方法は:
炭窒化チタンを含む無機粒子を、化学蒸着プロセスによって、上記金属基板の表面上に、900℃以下の堆積温度で堆積させるステップ
を含み、
上記化学蒸着プロセスには、上記無機粒子を形成するために有機金属化合物を含む原料ガスが供給され、
上記無機粒子は、厚さ1マイクロメートル〜100マイクロメートルのコーティングを形成する、方法。
実施形態33
上記有機金属化合物はテトラキス(ジメチルアミド)チタンを含む、実施形態32に記載の方法。
実施形態34
上記有機金属化合物はテトラキス(エチルメチルアミノ)チタンを含む、実施形態32に記載の方法。
実施形態35
上記堆積温度は400℃〜750℃の範囲内である、実施形態32に記載の方法。
実施形態36
上記堆積温度は600℃〜750℃の範囲内である、実施形態32に記載の方法。
実施形態37
上記堆積温度は、上記金属基板の金属材料のオーステナイト変態温度を超えない、実施形態32に記載の方法。
実施形態38
上記金属材料はステンレス鋼である、実施形態37に記載の方法。
実施形態39
上記金属材料はマルテンサイトステンレス鋼である、実施形態37に記載の方法。
実施形態40
金属基板上に無機材料を堆積させる方法であって、
上記方法は:
900℃以下の堆積温度で、炭窒化チタンを含む無機粒子を、化学蒸着プロセスによって上記金属基板の表面上に堆積させるステップ
を含み、
上記化学蒸着プロセスには、反応して上記無機粒子を形成する2つ以上の原料ガスと、アルミニウム含有有機金属還元剤とが供給される、方法。
実施形態41
上記アルミニウム含有有機金属還元剤は、トリアルキルアルミニウム有機金属化合物を含む、実施形態40に記載の方法。
実施形態42
上記アルミニウム含有有機金属還元剤は、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、及びアラン水素化アルミニウムからなる群から選択される、実施形態40に記載の方法。
実施形態43
上記アルミニウム含有有機金属還元剤は、アラン水素化アルミニウムを含む、実施形態40に記載の方法。
実施形態44
上記アラン水素化アルミニウムは、ジメチル水素化アルミニウム、ジメチル水素化アルミニウム、及びジメチルエチルアミンアランからなる群から選択される、実施形態43に記載の方法。
実施形態45
上記無機粒子は、30モル%未満のアルミニウムを含む、実施形態40に記載の方法。
実施形態46
上記堆積温度は400℃〜600℃の範囲内である、実施形態40に記載の方法。