JP2015045071A - 鏡面性に優れた耐食性プラスチック成形金型用鋼 - Google Patents
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Abstract
【課題】 鏡面性を阻害する要因である表面のピンホールや偏析部のうねりを抑制して、腐食性ガスに対する耐食性と鏡面性を兼備したプラスチック成形金型用鋼を提供する。
【解決手段】 質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.0%以下、Cr:12.0〜15.0%、Mo+W/2:0.01〜0.4%、V:0.1〜1.0%未満、N:600ppm未満、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Al:0.05%以下、O:0.0100%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、この鋼の炭窒化物偏析部における最大硬さと非偏析部における最小硬さの差が35HV以下である鏡面性に優れた耐食性プラスチック成形金型用鋼である。
【選択図】 なし
【解決手段】 質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.0%以下、Cr:12.0〜15.0%、Mo+W/2:0.01〜0.4%、V:0.1〜1.0%未満、N:600ppm未満、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Al:0.05%以下、O:0.0100%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、この鋼の炭窒化物偏析部における最大硬さと非偏析部における最小硬さの差が35HV以下である鏡面性に優れた耐食性プラスチック成形金型用鋼である。
【選択図】 なし
Description
本発明は、耐食性および鏡面性に優れたプラスチック成形金型用鋼に関するものである。
プラスチック成形において、その方法の一つに射出成形金型を用いた射出成形法がある。
射出成形時に度々問題となるのが、腐食性ガスの発生である。成形加工時にプラスチック成形材料や添加剤は200℃以上の高温高圧下で成形される。このときプラスチック成形材料や添加剤は熱影響を受け、例えばハロゲンガスなどの腐食性ガスを発生させる。これらのガスは金型を腐食させ、プラスチック成形品の寸法精度や鏡面性を劣化させる。
また、プラスチック成形では、プラスチックが充填される金型形状がプラスチックに転写されることから、鏡面性がプラスチック成形金型として重要な特性の一つである。この鏡面性に要求されるものとして、材料表面にピンホールがないこと、うねりの発生がないことが挙げられる。ここでピンホールとは、プラスチック成形用金型として使用する鋼の表面を研磨時に、非金属介在物や粗大な炭窒化物などが脱落したり掘り起こされたりして発生するものであり、鏡面性に悪影響を及ぼす。また、うねりとは、プラスチック成形用金型として使用する鋼を研磨後、表面にムラが生じた状態を言い、この原因は表面に硬質な炭化物が帯状に連なって残り凹凸ができているためである。このうねりが生じると、プラスチック製品の表面平滑度が劣化し、鏡面性が悪化する。
上記した背景のもとに、例えば、特許文献1に示すものがあり、耐食性の向上のためにCr量を質量%で4%程度添加させた鋼が提案されているが、腐食性ガスによる化学的浸食に対する耐食性が十分でない。また、特許文献2には極値統計法により鋼中の非金属介在物のサイズを規定し鏡面性を確保したものが提案されているが、ピンホールの発生に対する考慮はなされているものの、表面に存在するうねりによる鏡面性の劣化に対しては考察がなされていない。特許文献3にはCの含有量を減らしNの含有量を増加することで、炭窒化物のサイズを微細に制限した鋼が提案されているが、過度のN添加は窒化物の偏析をおこし、また表面にうねりを生じさせ、耐食性及び鏡面性を劣化させる恐れがある。
上記に示したように、プラスチック成形時に発生する腐食性ガスに対する耐食性と表面平滑度が必要なプラスチック製品を成形するために、金型には高い鏡面性が要求されている。
本発明が解決しようとする課題は、プラスチック成形用金型用鋼として上記腐食性ガスに対する十分な耐食性を持った鋼で、かつ鏡面性を阻害する要因となる表面のピンホールや偏析部のうねりを抑制することで、耐食性と鏡面性を兼備したプラスチック成形金型用鋼を提供することである。
上記に示したような問題を解消するため、発明者らは鋭意開発を進めた結果、Cr量を適切に増量することで、成形時に発生する腐食性ガスに対する耐腐食性を十分に高めることができることを見出した。さらに、鏡面性の阻害の一因であるうねり発生の原因を定量的に見出した。すなわち、Vを適切に添加することで、析出する硬質炭窒化物を微細かつ均一に分散させ、上記うねりの原因となる炭窒化物偏析を解消した。また、このとき炭窒化物偏析部における最大硬さと非偏析部における最小硬さを測定すると、ビッカース硬度で35HV以下であるときうねりが発生しないことを見出した。さらに、鏡面性の阻害のもう一つの要因であるピンホールの発生に関しても、P、S、Al及びOを規制することで、非金属介在物の発生を抑制した。これらの手法を用いることで、鏡面性の向上を図ることができた。
上記の課題を解決するための本発明の手段は、第1の手段では、質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.0%以下、Cr:12.0〜15.0%、V:0.1〜1.0%未満、N:600ppm未満、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Al:0.05%以下、O:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼である。そして、この鋼の炭窒化物偏析部における最大硬さと非偏析部における最小硬さの差が35HV以下であることを特徴とする鏡面性に優れた耐食性プラスチック成形金型用鋼である。
第2の手段は、質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.0%以下、Cr:12.0〜15.0%、Mo+W/2:0.01〜0.4%、V:0.1〜1.0%未満、N:600ppm未満、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Al:0.05%以下、O:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼である。そして、この鋼の炭窒化物偏析部における最大硬さと非偏析部における最小硬さの差が35HV以下であることを特徴とする鏡面性に優れた耐食性プラスチック成形金型用鋼である。
第3の手段は、質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.0%以下、Cr:12.0〜15.0%、V:0.1〜1.0%未満、N:600ppm未満、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Al:0.05%以下、O:0.0100%以下を含有し、さらにTi、Nb、Ta、Zrのうちの1種または2種以上を合計で0.01〜0.3%含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼である。そして、この鋼の炭窒化物偏析部における最大硬さと非偏析部における最小硬さの差が35HV以下であることを特徴とする鏡面性に優れた耐食性プラスチック成形金型用鋼である。
第4の手段は、質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.0%以下、Cr:12.0〜15.0%、Mo+W/2:0.01〜0.4%、V:0.1〜1.0%未満、N:600ppm未満、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Al:0.05%以下、O:0.0100%以下を含有し、さらにTi、Nb、Ta、Zrのうちの1種または2種以上を合計で0.01〜0.3%含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼である。そして、この鋼の炭窒化物偏析部における最大硬さと非偏析部における最小硬さの差が35HV以下であることを特徴とする鏡面性に優れた耐食性プラスチック成形金型用鋼である。
第1と第2の手段をとることで、本発明の目的である化学的浸食作用のある腐食性ガスに対する耐腐食性が必要な金型や、成形品に高鏡面性を必要とする金型に用いることができる。すなわちCrを適切に添加することで上記腐食性ガスに対する耐食性を得るとともに、鋼材中の非金属介在物を抑制し、研磨時に脱落して発生するピンホールを減少させ、Vを適切に添加することで炭窒化物を材料全体に均一かつ微細に析出させ、局部的な偏析及び硬度差を解消し、うねりを抑制する効果がある。
第3と第4の手段をとることで、鋼材の熱処理時における結晶粒粗大化を抑制し、第1と第2の手段よりも鏡面性及び靭性に優れたプラスチック金型用鋼ができる。
以下、本発明における成分組成範囲の限定理由について説明する。なお、化学成分は、質量%で示す。
C:0.20〜0.40%
Cは、炭化物を形成することで、耐摩耗性を向上させるとともに焼入れ性を高める元素であり、このためには0.20%以上が必要である。しかし、Cが0.40%を超えると、粗大な炭化物を形成し金型の鏡面性を劣化させ、かつ耐食性に必須なCrと多量の炭化物を形成することで、マトリックスのCr量が減少して耐食性が低下し、また、偏析を助長し靭性を阻害する要因となる。そこで、Cは0.20〜0.40%とする。
Cは、炭化物を形成することで、耐摩耗性を向上させるとともに焼入れ性を高める元素であり、このためには0.20%以上が必要である。しかし、Cが0.40%を超えると、粗大な炭化物を形成し金型の鏡面性を劣化させ、かつ耐食性に必須なCrと多量の炭化物を形成することで、マトリックスのCr量が減少して耐食性が低下し、また、偏析を助長し靭性を阻害する要因となる。そこで、Cは0.20〜0.40%とする。
Si:0.2〜1.0%
Siは、溶製時の脱酸剤として、また鋼の焼入性を確保するために必要な元素であり、このためには0.2%以上が必要である。しかし、Siが1.0%を超えると靱性および加工性が悪化する。そこで、Siは0.2〜1.0%とする。
Siは、溶製時の脱酸剤として、また鋼の焼入性を確保するために必要な元素であり、このためには0.2%以上が必要である。しかし、Siが1.0%を超えると靱性および加工性が悪化する。そこで、Siは0.2〜1.0%とする。
Mn:1.0%以下
Mnは、溶製時の脱酸剤として、また鋼の焼入性を得るために必要な元素である。しかし、Mnが1.0%を超えるとマトリックスを脆化させる。そこで、Mnは1.0%以下とする。
Mnは、溶製時の脱酸剤として、また鋼の焼入性を得るために必要な元素である。しかし、Mnが1.0%を超えるとマトリックスを脆化させる。そこで、Mnは1.0%以下とする。
Cr:12.0〜15.0%
Crは、材料表面に不働被膜を形成し、耐食性を向上させるとともに焼入れ性を高める元素である。このためには、Crは12.0%以上が必要である。しかし、Crが15.0%を超えると粗大な炭化物を形成し、金型用鋼の鏡面性を悪化する。そこで、Crは12.0〜15.0%とする。
Crは、材料表面に不働被膜を形成し、耐食性を向上させるとともに焼入れ性を高める元素である。このためには、Crは12.0%以上が必要である。しかし、Crが15.0%を超えると粗大な炭化物を形成し、金型用鋼の鏡面性を悪化する。そこで、Crは12.0〜15.0%とする。
Mo+W/2:0.01〜0.4%
MoやWは、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性および焼戻し軟化抵抗性を高める。このためには、Mo+W/2は0.4%以下であることが必要である。Mo+W/2が0.4%を超えると、粗大な炭化物および炭化物偏析を形成し、鏡面性を劣化させる。また、過剰添加はコスト高となる。そこで、Mo+W/2は0.01〜0.4%とする。
MoやWは、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性および焼戻し軟化抵抗性を高める。このためには、Mo+W/2は0.4%以下であることが必要である。Mo+W/2が0.4%を超えると、粗大な炭化物および炭化物偏析を形成し、鏡面性を劣化させる。また、過剰添加はコスト高となる。そこで、Mo+W/2は0.01〜0.4%とする。
V:0.1〜1.0%未満
Vは、焼入れ時に微細なMC型炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化を抑制し靭性の劣化を抑制する。また、Vは鋼材中に炭窒化物として微細に分散して析出し、さらにVの炭化物であるVCが他の元素の炭化物の析出起点となる。その結果、炭化物偏析を抑制し耐食性及び鏡面性を向上させる。このためには、Vは0.1%以上が必要である。しかし、Vが1.0%以上では粗大な炭窒化物及び偏析を助長し、うねりを発生させ鏡面性を劣化させる。そこで、Vは0.1〜1.0%未満とする。
Vは、焼入れ時に微細なMC型炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化を抑制し靭性の劣化を抑制する。また、Vは鋼材中に炭窒化物として微細に分散して析出し、さらにVの炭化物であるVCが他の元素の炭化物の析出起点となる。その結果、炭化物偏析を抑制し耐食性及び鏡面性を向上させる。このためには、Vは0.1%以上が必要である。しかし、Vが1.0%以上では粗大な炭窒化物及び偏析を助長し、うねりを発生させ鏡面性を劣化させる。そこで、Vは0.1〜1.0%未満とする。
N:600ppm未満
Nは、鋼中で窒化物を形成する。過度の添加は、窒化物の偏析を引き起こし、またうねりを生じさせ耐食性及び鏡面性を劣化させる。そこで、Nは600ppm未満とする。
Nは、鋼中で窒化物を形成する。過度の添加は、窒化物の偏析を引き起こし、またうねりを生じさせ耐食性及び鏡面性を劣化させる。そこで、Nは600ppm未満とする。
P:0.030%以下
Pは、結晶粒界へ偏析し、靱性を低下させる。そこで、Pは0.030%以下とする。
Pは、結晶粒界へ偏析し、靱性を低下させる。そこで、Pは0.030%以下とする。
S:0.010%以下
Sは、硫化物を形成し、研磨時に脱落した際、鏡面性を劣化させる。さらにSは靱性および熱間加工性を悪化させる。そこで、Sは0.010%以下とする。
Sは、硫化物を形成し、研磨時に脱落した際、鏡面性を劣化させる。さらにSは靱性および熱間加工性を悪化させる。そこで、Sは0.010%以下とする。
Al:0.05%以下
Alは、酸化物や窒化物を形成し、研磨時に脱落した際、鏡面性を劣化させる。そこで、Alは0.05%以下、望ましくは0.03%以下とする。
Alは、酸化物や窒化物を形成し、研磨時に脱落した際、鏡面性を劣化させる。そこで、Alは0.05%以下、望ましくは0.03%以下とする。
O:0.0100%以下
Oは、他の金属元素と酸化物を形成し、鏡面性を悪化する。そこで、Oは0.0100%以下とし、望ましくは0.0050%以下とする
Oは、他の金属元素と酸化物を形成し、鏡面性を悪化する。そこで、Oは0.0100%以下とし、望ましくは0.0050%以下とする
Ni:0.05〜0.40%
Niは、焼入性および耐食性を高める元素である。このためには、Niは0.05%以上が必要である。しかし、Niが0.40%を超えて含有されると、オーステナイト組織が残留して、経年変化でマルテンサイト組織に変化した際、鋼材寸法変化を起す。そこで、Niは0.05〜0.40%とする。
Niは、焼入性および耐食性を高める元素である。このためには、Niは0.05%以上が必要である。しかし、Niが0.40%を超えて含有されると、オーステナイト組織が残留して、経年変化でマルテンサイト組織に変化した際、鋼材寸法変化を起す。そこで、Niは0.05〜0.40%とする。
Ti、Nb、Ta、Zrのうちの1種又は2種以上:合計で0.01〜0.30%
Ti、Nb、Ta、Zrは、いずれも微細な炭窒化物を形成し結晶粒粗大化を抑制することで靱性を向上する元素である。そのためには、Ti、Nb、Ta、Zrのうちの1種又は2種以上の含有量が合計で0.01%以上とする必要がある。しかし、Ti、Nb、Ta、Zrのうちの1種又は2種以上の含有量が合計で0.30%を超えて含有されると、粗大な炭窒化物および炭窒化物偏析を形成し鏡面性を悪化する。そこで、Ti、Nb、Ta、Zrのうちの1種又は2種以上は合計で0.01〜0.30%とする。
Ti、Nb、Ta、Zrは、いずれも微細な炭窒化物を形成し結晶粒粗大化を抑制することで靱性を向上する元素である。そのためには、Ti、Nb、Ta、Zrのうちの1種又は2種以上の含有量が合計で0.01%以上とする必要がある。しかし、Ti、Nb、Ta、Zrのうちの1種又は2種以上の含有量が合計で0.30%を超えて含有されると、粗大な炭窒化物および炭窒化物偏析を形成し鏡面性を悪化する。そこで、Ti、Nb、Ta、Zrのうちの1種又は2種以上は合計で0.01〜0.30%とする。
さらに、本願の請求項におけるプラスチック成形金型用鋼として化学成分以外の構成要件の限定理由を以下に説明する。
炭窒化物の偏析部の最大硬さと非偏析部の最小硬さの差:35HV以下
炭窒化物偏析部とは、鋼材の中で、炭化物、窒化物、あるいは炭窒化物の析出量が比較的多く硬さが高い部位であり、通常、鋼材には5μm〜1mm程度の幅で分布している。なお、非偏析部とは、隣り合う炭窒化物偏析部の間にある、炭窒化物等の析出量が比較的少なく硬さが低い部位である。炭窒化物偏析部の最大硬さと非偏析部の最小硬さの差が35HVを超えると、表面にうねりが発生する。そのため、偏析部最大硬さと非偏析部最小硬さの差を35HV以下とした。
炭窒化物偏析部とは、鋼材の中で、炭化物、窒化物、あるいは炭窒化物の析出量が比較的多く硬さが高い部位であり、通常、鋼材には5μm〜1mm程度の幅で分布している。なお、非偏析部とは、隣り合う炭窒化物偏析部の間にある、炭窒化物等の析出量が比較的少なく硬さが低い部位である。炭窒化物偏析部の最大硬さと非偏析部の最小硬さの差が35HVを超えると、表面にうねりが発生する。そのため、偏析部最大硬さと非偏析部最小硬さの差を35HV以下とした。
さらに、本発明の実施の形態について、表を参照して以下に順次説明するものとする。先ず、本発明に係る鋼において、高鏡面性が得られるような炭化物析出状態を実現する方法として、例えば、次の(1)および(2)のような製造方法が好適に適用できる。
(1)本発明鋼の化学成分からなる鋳造材を真空アーク再溶解法(VAR)やエレクトロスラグ再溶解法(ESR)によって2次溶解して再凝固させる。すなわち、この方法では、2次溶解により、再溶解後の凝固が短時間で行われるため、凝固偏析が起こりにくく、炭化物の局部的な凝集及び偏析を抑えることが可能となる。
(2)上記の(1)により溶解、再凝固させた鋼を、1000〜1200℃で10時間以上のソーキング処理を実施する製造方法である。この製造方法は、鋼中に析出した粗大な炭化物を適正範囲の大きさにコントロールするために最適の製造方法である。このソーキング処理は、焼入れ温度よりも高温で、かつ、融点よりも低い温度で実施する必要がある。ソーキング処理を適正に行えば、形成された粗大な炭化物を小さくし、さらに炭化物の量を少なくして均一に分散させることが可能である。なお、ソーキング処理する温度と時間は成分によって適正値が異なる。
表1に示す発明鋼の化学成分からなるプラスチック成形金型用鋼の100kgを真空誘導溶解炉で溶製した。この溶製により得られた鋼材を1200℃に加熱した均熱炉で10時間ソーキング処理し、これを縦横50mmの角材に鍛伸し、次いで1030℃に加熱して空冷する焼入れ処理を施し、さらに200〜500℃に加熱して空冷する焼戻し処理を2回繰り返した。
一方、表1の発明鋼の化学成分の範囲から外れる化学成分を有する鋼を比較鋼とし、その100kgを真空誘導溶解炉で溶製し、溶製により得られた鋼材を1200℃に加熱した均熱炉で10時間ソーキング処理し、これを縦横50mmの角材に鍛伸し、次いで1030℃に加熱して空冷する焼入れ処理を施した。上記の本発明の実施例である発明鋼と同様の処理をしたが、焼なましすなわち焼鈍処理を省略した。
これらにおける焼入焼戻し硬さは50HRC以上とした。
一方、表1の発明鋼の化学成分の範囲から外れる化学成分を有する鋼を比較鋼とし、その100kgを真空誘導溶解炉で溶製し、溶製により得られた鋼材を1200℃に加熱した均熱炉で10時間ソーキング処理し、これを縦横50mmの角材に鍛伸し、次いで1030℃に加熱して空冷する焼入れ処理を施した。上記の本発明の実施例である発明鋼と同様の処理をしたが、焼なましすなわち焼鈍処理を省略した。
これらにおける焼入焼戻し硬さは50HRC以上とした。
ピンホール数について、焼入焼戻し後、縦横50mmの角材を切断し、圧延面を表面粗さRa1.5mm狙いでラップ加工を施した試験片を評価に供した。試験片表面について光学顕微鏡を用いて100倍で10視野観察を行い、観察されたピンホール1視野あたりの平均数を算出し、ピンホール数とした。なお表2では、ピンホール数が1以下であるとき、合格とした。
偏析部硬度差について、焼入焼戻し後、縦横50mmの角材を切断し、圧延面を機械研磨により#2000まで研磨し、試験片を作製した。ビッカース硬度計を用いて、研磨後の試験片表面偏析部において0.50mmの距離における測定を行い、その間における偏析部における最大硬さ及び非偏析部における最小硬さを測定し、硬度差を算出した。なお表2では、この差が35HV以下であるとき、合格とした。
塩水噴霧試験について、焼入焼戻し後、縦横50mmの角材から径が15mm、長さが60mmの丸棒を加工し、仕上げ加工により表面を#400相当にした。次いでJIS Z 2371に準拠して塩水噴霧試験を行い、目視により発錆状態を確認した。なお表2では、錆が発生しなかったものをA、僅かに錆が発生したものをB、大部分に錆が発生したものをC、全面に錆が発生したものをD として示しており、B 以上を合格とした。
硝酸浸漬試験について、焼入焼戻し後、縦横50mmの角材から径が15mm、長さが60mmの丸棒を加工し、仕上げ加工により表面を#400相当にした。その後試験片を5%HNO3に24時間浸漬を行う処理を2回行い、試験後の腐食減量(g/m2・h)を測定した。なお表2では、その腐食減量が20g/m2・h以下のものを合格とした。
靭性について、焼入焼戻し後、縦横50mmの角材からJIS Z 2242で規定されているノッチ深さ2mmのUノッチ試験片を加工し、シャルピー衝撃試験を室温にて実施して衝撃値を求めた。なお、表2では、20J/cm2以上のものを合格とした。
表1に見られる本願の請求項に係る発明の化学成分の範囲を外れる比較鋼、及びソーキング処理を行っていない比較鋼は、表2にみられるように鏡面性、耐食性及び靭性が不十分である。すなわち、比較鋼は段落0039で示した評価方法におけるピンホール数が1を超えて存在し、段落0040で示した評価方法における鋼材の表面の硬度差が35HV以上であるためうねりが発生する。さらに、段落0041で示した評価方法における塩水噴霧試験ではCまたはDという結果を示したように、試験片の大部分に錆が発生し、段落0042で示した評価方法における硝酸浸漬試験では、その腐食減量は20g/m2・h以上であり、腐食重量も大きい。さらに、段落0043で示した評価方法におけるシャルピー衝撃値が20J/cm2未満である。これらに対して、本発明鋼における鋼材の表面の硬度差は35HV以下であるためうねりの発生を抑制し、塩水噴霧試験での評価はAまたはBを示し、硝酸浸漬試験では、その腐食減量が20g/m2・h以下であり腐食減量は小さい。さらにシャルピー衝撃試験において、20J/cm2以上である。したがって、本発明鋼によるプラスチック成形金型は優れた鏡面性と耐食性及び靭性を有するのである。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.0%以下、Cr:12.0〜15.0%、V:0.1〜1.0%未満、N:600ppm未満、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Al:0.05%以下、O:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、この鋼炭窒化物偏析部における最大硬さと非偏析部における最小硬さの差が35HV以下であることを特徴とする鏡面性に優れた耐食性プラスチック成形金型用鋼。
- 質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.0%以下、Cr:12.0〜15.0%、Mo+W/2:0.01〜0.4%、V:0.1〜1.0%未満、N:600ppm未満、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Al:0.05%以下、O:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、この鋼の炭窒化物偏析部における最大硬さと非偏析部における最小硬さの差が35HV以下であることを特徴とする鏡面性に優れた耐食性プラスチック成形金型用鋼。
- 質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.0%以下、Cr:12.0〜15.0%、V:0.1〜1.0%未満、N:600ppm未満、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Al:0.05%以下、O:0.0100%以下を含有し、さらにTi、Nb、Ta、Zrのうちの1種または2種以上を合計で0.01〜0.3%含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、この鋼の炭窒化物偏析部における最大硬さと非偏析部における最小硬さの差が35HV以下であることを特徴とする鏡面性に優れた耐食性プラスチック成形金型用鋼。
- 質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.0%以下、Cr:12.0〜15.0%、Mo+W/2:0.01〜0.4%、V:0.1〜1.0%未満、N:600ppm未満、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Al:0.05%以下、O:0.0100%以下を含有し、さらにTi、Nb、Ta、Zrのうちの1種または2種以上を合計で0.01〜0.3%含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であり、この鋼の炭窒化物偏析部における最大硬さと非偏析部における最小硬さの差が35HV以下であることを特徴とする鏡面性に優れた耐食性プラスチック成形金型用鋼。
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JP2013177841A JP2015045071A (ja) | 2013-08-29 | 2013-08-29 | 鏡面性に優れた耐食性プラスチック成形金型用鋼 |
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