JP2022132500A - 成膜装置及び成膜方法 - Google Patents

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Abstract

Figure 2022132500000001
【課題】基材に対する蒸着膜の密着性を向上させる。
【解決手段】成膜装置は、基材の表面にアルミニウムを含む蒸着膜を成膜する成膜装置であって、巻きかけられた基材を搬送する前処理ローラーと、前処理ローラーとの間で電圧を印加される電極部と、を有し、前処理ローラーと電極部との間にプラズマを発生させる、プラズマ前処理機構と、基材の搬送方向におけるプラズマ前処理機構よりも下流側に位置する成膜ローラーと、成膜ローラーに巻き掛けられた基材の表面に到達するようにアルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させる蒸発機構と、基材の表面と蒸発機構との間にプラズマを供給するプラズマ供給機構と、を有し、成膜ローラーに巻き掛けられた基材の表面に蒸着膜を成膜する成膜機構と、を備える。
【選択図】図2

Description

本発明は、基材上に蒸着膜を成膜するための成膜装置及び成膜方法に関する。
従来、プラスチックなどの長尺状のフィルムやシートの基材上に成膜された膜を備えた積層フィルムが、様々な用途で利用されている。例えば、プラスチックフィルム上に、酸化アルミニウムなどの薄膜からなるバリア層を設けて、酸素及び水蒸気に対するバリア性の機能を持たせたバリア性積層フィルムも開発されている。
このようなプラスチックなどの基材の表面に膜を形成する手段として、例えば真空蒸着法などの蒸着法による方法が知られている。また、それらの手段を用いて基材の表面に成膜する成膜装置が知られている。
また、例えば特許文献1に開示されているように、蒸着法により、アルミニウムの蒸発源を用いてフィルムの表面に酸化アルミニウムの膜を形成する場合に、酸素ガスとアルミニウムとを効率的に反応させることを目的として、蒸発源と基材との間の空間にプラズマを供給することが知られている。
また、例えば特許文献1に開示されているように、蒸着法により、フィルムの表面に酸化アルミニウムの膜を形成する場合に、フィルムにプラズマなどを用いた表面処理を行い、その上に酸化アルミニウムの膜を形成することが知られている。
特開2017―177343号公報
本発明は、バリア性を有し、基材から剥離し難い蒸着膜を基材上に成膜することができる成膜装置を提供することを目的とする。
本発明は、基材の表面にアルミニウムを含む蒸着膜を成膜する成膜装置であって、巻きかけられた前記基材を搬送する前処理ローラーと、前記前処理ローラーとの間で交流電圧を印加される電極部と、電力供給配線を介して前記前処理ローラー及び前記電極部に電気的に接続されている電源と、前記前処理ローラーと前記電極部との間にプラズマ原料ガスを供給するプラズマ原料ガス供給部と、を有し、前記前処理ローラーと前記電極部との間にプラズマを発生させる、プラズマ前処理機構と、前記基材の搬送方向における前記プラズマ前処理機構よりも下流側に位置する成膜ローラーと、前記成膜ローラーに巻き掛けられた前記基材の表面に到達するようにアルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させる蒸発機構と、前記基材の表面と前記蒸発機構との間にプラズマを供給するプラズマ供給機構と、を有し、前記成膜ローラーに巻き掛けられた前記基材の表面に前記蒸着膜を成膜する成膜機構と、を備え、前記プラズマ前処理機構は、前記電極部と前記前処理ローラーとの間に印加された前記交流電圧に基づいて、前記前処理ローラーと前記電極部との間にプラズマを発生させ、前記プラズマ原料ガス供給部は、前記電極部から離して配置されている、成膜装置である。
本発明による成膜装置において、前記プラズマ供給機構は、ホローカソードを有していてもよい。
本発明による成膜装置において、前記プラズマ原料ガス供給部は、前記前処理ローラーと前記電極部との間に配置されていてもよい。
本発明による成膜装置において、前記プラズマ原料ガス供給部は、前記電源に電気的に接続されていなくてもよい。
本発明による成膜装置において、前記プラズマ前処理機構は、プラズマ密度100W・sec/m2以上8000W・sec/m2以下のプラズマを前記前処理ローラーと前記電極部との間に発生させてもよい。
本発明による成膜装置において、前記プラズマ前処理機構は、前記前処理ローラーと前記電極部との間に磁場を形成する磁場形成部をさらに有してもよい。
本発明による成膜装置において、前記プラズマ原料ガスは、酸素、窒素、炭酸ガス、エチレン及びアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスを含んでもよい。
本発明による成膜装置において、前記電極部は、前記前処理ローラーとの間で250V以上1000V以下の電圧の交流電圧を印加されてもよい。
本発明による成膜装置において、前記プラズマ前処理機構は、プラズマ前処理室に配置され、前記成膜機構は、前記プラズマ前処理室から隔てられるとともに前記基材の搬送方向における前記プラズマ前処理室よりも下流側に位置する成膜室に配置されていてもよい。
本発明は、成膜装置を用いて基材の表面にアルミニウムを含む蒸着膜を成膜する成膜方法であって、前記成膜装置は、巻きかけられた前記基材を搬送する前処理ローラーと、電極部と、電力供給配線を介して前記前処理ローラー及び前記電極部に電気的に接続されている電源と、前記前処理ローラーと前記電極部との間に前記プラズマ原料ガスを供給するプラズマ原料ガス供給部と、を有する、プラズマ前処理機構と、前記基材の搬送方向における前記プラズマ前処理機構よりも下流側に位置する成膜ローラーと、アルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させる蒸発機構と、プラズマ供給機構と、を有する成膜機構と、を備え、前記プラズマ原料ガス供給部は、前記電極部から離して配置されており、前記成膜方法は、前記前処理ローラーと前記電極部との間に交流電圧を印加しつつ、前記前処理ローラーと前記電極部との間にプラズマを発生させ、発生させたプラズマを用いて前記基材の表面に前処理を施すプラズマ前処理工程と、前記基材の表面と前記蒸発機構との間にプラズマを発生させつつ、前記蒸発機構を用いて、前記成膜ローラーに巻き掛けられた前記基材の表面に到達するようにアルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させ、アルミニウムを含む蒸着膜を成膜する成膜工程と、を備える、成膜方法である。
本発明による成膜方法において、前記プラズマ原料ガス供給部は、前記前処理ローラーと前記電極部との間に配置されていてもよい。
本発明による成膜方法において、前記プラズマ原料ガス供給部は、前記電源に電気的に接続されていなくてもよい。
本発明による成膜方法において、前記成膜装置の前記プラズマ前処理機構は、前記前処理ローラーと前記電極部との間に磁場を形成する磁場形成部をさらに有してもよい。
本発明による成膜方法において、前記プラズマ供給機構は、ホローカソードを有し、前記成膜工程は、前記ホローカソードを用いて前記基材の表面と前記蒸発機構との間にプラズマを発生させてもよい。
本発明による成膜方法において、前記成膜工程において、前記ホローカソードを用いてアーク放電を発生させてもよい。
本発明によれば、蒸着膜のバリア性を向上させることができる。
膜を備えた積層フィルムの一例を示す断面図である。 本発明の実施の形態に係る成膜装置の一例を示す図である。 成膜装置のプラズマ前処理機構の一例を示す断面図である。 成膜装置の成膜機構の一例を示す断面図である。 成膜装置の変形例を示す図である。 成膜装置の変形例を示す図である。 成膜装置の変形例を示す図である。 成膜装置の変形例を示す図である。 実施例1及び比較例1~4の評価結果を示す図である。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺及び縦横の寸法比などを、実物のそれらから変更し誇張してある。
図1~図4は、本発明の一実施の形態を説明するための図である。以下の実施の形態及びその変形例では、プラスチック基材の表面に蒸着膜を成膜し、積層フィルムを形成する場合における成膜装置を例に挙げて説明する。
図1a、図1b及び図1cは、それぞれ本実施の形態に係る成膜装置を用いて作製される積層フィルムの一例を示す断面図である。本実施の形態に係る成膜装置を用いて作製される積層フィルムは、例えば図1に示す積層フィルムAのように、基材1と、基材1の一方の面上に位置する蒸着膜2と、を備える。積層フィルムは、図1bに示す積層フィルムBのように、該積層フィルムAの蒸着膜2上に、さらにバリア性被覆層3を備えていてもよい。積層フィルムは、図1cに示す積層フィルムCのように、該積層フィルムBのバリア性被覆層3上に、さらに接着剤層4と、第2基材5と、接着剤層6と、シーラント層7とをこの順に備えてもよい。
基材1は、特に制限されるものではない。基材1としてプラスチック基材を用いる場合には、公知のプラスチックのフィルム又はシートを使用することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、バイオマス由来のポリエステル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリアミド樹脂6、ポリアミド樹脂66、ポリアミド樹脂610、ポリアミド樹脂612、ポリアミド樹脂11、ポリアミド樹脂12などのポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのα-オレフィンの重合体などのポリオレフィン系樹脂など、からなるフィルムを使用することができる。
上記のようなプラスチック基材としてのプラスチックフィルムの厚さは、特に制限を受けるものではなく、後述する成膜装置により蒸着膜2を成膜する際の前処理や成膜処理することができるものであればよいが、可撓性及び形態保持性の観点からは、6μm以上100μm以下の範囲が好ましい。プラスチックフィルムの厚さが前記範囲内にあると、曲げやすい上に搬送中に破けることもなく、密着性が向上された蒸着膜2を有する積層フィルムの製造に用いられる成膜装置で取り扱いやすい。
次に、蒸着膜2について説明する。蒸着膜2は、アルミニウムを含む。アルミニウムは、蒸着膜2において、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、水酸化アルミニウム(Al2O4H)などの状態で存在する。蒸着膜2は、さらに、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、ケイ素酸化窒化物、ケイ素炭化物、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、又はこれらの金属窒化物、炭化物を含んでいてもよい。
上記の構成を有する積層フィルムは、例えば、プラスチックフィルムである基材1の面上に、酸化アルミニウムなどを含む蒸着膜2を設けた積層フィルムである。より具体的には、厚さ5nm以上50nm以下の、酸化アルミニウムを含む蒸着膜2を、厚さ12μmの、ポリエチレンテレフタレートを含む基材1の面上に設けた積層フィルムである。上記の構成を有する積層フィルムは、蒸着膜2が酸素及び水蒸気に対するバリア性を有するために、バリア性に優れている。このため、電子ペーパーなどの電子デバイス、食品、医薬品、ペットフードなどの包装材料として好適に使用できる。
次に、バリア性が向上された蒸着膜2を有する積層フィルムの製造に好適に用いられる成膜装置10について説明する。成膜装置10は、図2に示すように、基材1を搬送するための基材搬送機構11Aと、基材1の表面にプラズマ前処理を施すプラズマ前処理機構11Bと、蒸着膜2を成膜する成膜機構11Cと、を備える。図2に示す例においては、成膜装置10は、さらに減圧チャンバ12を備える。減圧チャンバ12は、後述する真空ポンプなど、減圧チャンバ12の内部の空間の少なくとも一部の雰囲気を大気圧以下に調整する減圧機構を有する。
図2に示す例において、減圧チャンバ12は、基材搬送機構11Aが位置する基材搬送室12Aと、プラズマ前処理機構11Bが位置するプラズマ前処理室12Bと、成膜機構11Cが位置する成膜室12Cと、を含む。減圧チャンバ12は、好ましくは、各室の内部の雰囲気が互いに混ざり合うことを抑制するよう構成されている。例えば図2に示すように、減圧チャンバ12は、基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間、プラズマ前処理室12Bと成膜室12Cとの間、基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間に位置し、各室を隔てる隔壁35a~35cを有していてもよい。
基材搬送室12A、プラズマ前処理室12B及び成膜室12Cについて説明する。プラズマ前処理室12B及び成膜室12Cは、それぞれ基材搬送室12Aと接して設けられており、それぞれ基材搬送室12Aと接続する部分を有する。これにより、基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間、及び基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間において、基材1を大気に触れさせずに搬送することができる。例えば、基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間においては、隔壁35aに設けられた開口部を介して基材1を搬送することができる。基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間も同様の構造となっており、基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間において、基材1を搬送することができる。
減圧チャンバ12の減圧機構の機能について説明する。減圧チャンバ12の減圧機構は、成膜装置10の少なくともプラズマ前処理機構11B又は成膜機構11Cが配置されている空間の雰囲気を大気圧以下に減圧できるように構成されている。減圧機構は、隔壁35a~35cにより区画された、基材搬送室12A、プラズマ前処理室12B、成膜室12Cのそれぞれを大気圧以下に減圧することができるよう構成されていてもよい。
減圧チャンバ12の減圧機構の構成について説明する。減圧チャンバ12は、例えば、プラズマ前処理室12Bに接続されている真空ポンプを有していてもよい。真空ポンプを調整することにより、後述するプラズマ前処理を実施する際のプラズマ前処理室12B内の圧力を適切に制御することができる。また、後述の方法によりプラズマ前処理室12B内に供給したプラズマが他室に拡散することを抑制できる。減圧チャンバ12の減圧機構は、プラズマ前処理室12Bに接続されている真空ポンプと同様に、成膜室12Cに接続されている真空ポンプを有していてもよい。真空ポンプとしては、ドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、ロータリーポンプ、ディフュージョンポンプなどを用いることができる。
本実施の形態に係る成膜装置10の基材1の基材搬送機構11Aについて、基材1の搬送経路とともに説明する。
基材搬送機構11Aは、基材搬送室12Aに配置された、基材1を搬送するための機構である。図2に示す例においては、基材搬送機構11Aは、基材1のロール状の原反が取り付けられた巻き出しローラー13、基材1を巻き取る巻き取りローラー15及びガイドロール14a~14dを有する。基材搬送機構11Aから送り出された基材1は、その後、プラズマ前処理室12Bに配置された、後述する前処理ローラー20と、成膜室12Cに配置された、後述する成膜ローラー25と、によって搬送される。
なお、図示はしないが、基材搬送機構11Aは、張力ピックアップローラーをさらに有していてもよい。基材搬送機構11Aが張力ピックアップローラーを有することにより、基材1に加わる張力を調整しながら、基材1を搬送することができる。
(プラズマ前処理機構)
プラズマ前処理機構11Bについて説明する。プラズマ前処理機構11Bは、基材1の表面にプラズマ前処理を施すための機構である。図2に示すプラズマ前処理機構11Bは、プラズマ前処理室12Bに配置された前処理ローラー20と、電極部21と、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成する磁場形成部23と、プラズマ原料ガスを供給するプラズマ原料ガス供給部22と、を有する。
前処理ローラー20について説明する。図3は、図2において符号IIIが付された一点鎖線で囲まれた部分を拡大した図である。なお、図3においては、図2に示されている電源32と後述する電極部21とを接続する電力供給配線31の記載を省略している。前処理ローラー20は、回転軸Xを有する。前処理ローラー20は、少なくとも回転軸Xが、隔壁35a、35bによって区画されるプラズマ前処理室12B内に位置するよう、設けられている。前処理ローラー20には、回転軸Xの方向における寸法を有する基材1が巻き掛けられる。以下の説明において、回転軸Xの方向における基材1の寸法のことを、基材1の幅とも称する。また、回転軸Xの方向のことを、基材1の幅方向とも称する。
図2に示すように、前処理ローラー20は、その一部が基材搬送室12A側に露出するように設けられていてもよい。図2に示す例においては、プラズマ前処理室12Bと基材搬送室12Aとは、隔壁35aに設けられた開口部を介して接続されており、その開口部を通じて、前処理ローラー20の一部が基材搬送室12A側に露出している。基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間の隔壁35aと、前処理ローラー20との間には隙間があいており、その隙間を通じて、基材搬送室12Aからプラズマ前処理室12Bへと、基材1を搬送することができる。図示はしないが、前処理ローラー20は、その全体がプラズマ前処理室12B内に位置するよう設けられていてもよい。
図示はしないが、前処理ローラー20は、前処理ローラー20の表面の温度を調整する温度調整機構を有していてもよい。例えば、前処理ローラー20は、冷媒や熱媒などの温度調整媒体を循環させる配管を含む温度調整機構を前処理ローラー20の内部に有していてもよい。温度調整機構は、前処理ローラー20の表面の温度を例えば-20℃以上100℃以下の範囲内の目標温度に調整する。
前処理ローラー20が温度調整機構を有することにより、プラズマ前処理時、熱による基材1の収縮や破損が生じることを抑制することができる。
前処理ローラー20は、少なくともステンレス、鉄、銅及びクロムのいずれか1以上を含む材料により形成される。前処理ローラー20の表面には、傷つき防止のために、硬質のクロムハードコート処理などを施してもよい。これらの材料は加工が容易である。また、前処理ローラー20の材料として上記の材料を用いることにより、前処理ローラー20自体の熱伝導性が高くなるので、前処理ローラー20の温度の制御が容易になる。
電極部21について説明する。本実施の形態に係る電極部21は、前処理ローラー20に対向している。電極部21は、前処理ローラー20との間で電圧を印加される。例えば図2に示すように、成膜装置10が電源32を備える場合には、電極部21には電力供給配線31が接続され、電力供給配線31は電源32に接続されている。この場合、電極部21は、電源32を用いて、前処理ローラー20との間で電圧を印加される。
図示はしないが、本実施の形態に係る電極部21は、ガスを噴出するガス噴出部と、前処理ローラー20との間で電圧を印加される電極とを有する。本実施の形態に係る噴出部は、電極の表面の少なくとも一部にガス圧を与えるように、ガスを噴出する。これにより、異物の付着に起因して電極と前処理ローラー20との間の電圧が不安定になることを抑制することができる。噴出部が噴出するガスは、例えばアルゴンガスである。異物は、例えば基材1のカスである。
電極の材料は、前処理ローラー20との間で電圧を印加することができるように、少なくとも導電性を有する。電極に用いられる材料は、プラズマ耐性に優れ、耐熱性を有し、冷却水による冷却効率が高く(熱伝導率が高く)、非磁性材料で、加工性に優れていることが好ましい。電極の材料としては、例えばアルミニウム、銅、ステンレスが好適に用いられる。
プラズマ原料ガス供給部22について説明する。プラズマ原料ガス供給部22は、少なくとも前処理ローラー20と電極部21との間にプラズマ原料ガスを供給する構成である。本実施の形態に係るプラズマ原料ガス供給部22の位置は、少なくとも前処理ローラー20と電極部21との間にプラズマ原料ガスを供給できる限り、特に限られない。図2に示す例において、プラズマ原料ガス供給部22は、前処理ローラー20に対向している。プラズマ原料ガス供給部22がプラズマ原料ガスを供給する方向は、少なくとも前処理ローラー20と電極部21との間にプラズマ原料ガスを供給できる限り、特に限られない。図2に示す例においては、プラズマ原料ガス供給部22は、前処理ローラー20に巻きかけられた基材1に向かってプラズマ原料ガスを供給している。
成膜装置10は、減圧チャンバ12の外部に設けられた、プラズマ原料ガスを供給する原料揮発供給装置18を備えていてもよい。この場合、プラズマ原料ガス供給部22は、原料揮発供給装置18に接続される。
プラズマ原料ガス供給部22の数は、好ましくは2以上である。2以上のプラズマ原料ガス供給部22は、好ましくは、基材1の搬送方向に並んでいる。図2及び図3に示す例においては、3つのプラズマ原料ガス供給部22が、基材1の搬送方向に並んでいる例が示されている。また、図示はしないが、プラズマ原料ガス供給部22は、基材1の幅方向に並ぶ複数のガス供給口を有していてもよい。この場合、プラズマ原料ガス供給部22は、複数のガス供給口のそれぞれから、プラズマ原料ガスを供給する。
プラズマ原料ガス供給部22によって供給されるプラズマ原料ガスとしては、例えば、アルゴンなどの不活性ガス、酸素、窒素、炭酸ガス、エチレンなどの活性ガス、又は、それらのガスの混合ガスを供給する。プラズマ原料ガスとしては、不活性ガスのうち1種を単体で用いても、活性ガスのうち1種を単体で用いても、不活性ガス又は活性ガスに含まれるガスのうち2種類以上のガスの混合ガスを用いてもよい。プラズマ原料ガスとしては、アルゴンのような不活性ガスと、活性ガスとの混合ガスを用いることが好ましい。
本実施の形態に係る成膜装置10においては、プラズマ原料ガス供給部22を用いて前処理ローラー20と電極部21との間にプラズマ原料ガスを供給しつつ、前処理ローラー20と電極部21との間に電圧を印加することにより、図2及び図3に示すように、前処理ローラー20と電極部21との間にプラズマPを発生させることができる。
磁場形成部23について説明する。磁場形成部23は、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成するための構成である。
磁場形成部23の形状及び数は、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成することができ、かつ前処理ローラー20と磁場形成部23との間に電極部21を用いてプラズマを供給することができる限り、特に限定されない。図2及び図3においては、プラズマ前処理機構11Bが複数の磁場形成部23を有し、複数の磁場形成部23が隙間を空けて搬送方向に並んでいる例が示されている。図2及び図3に示す例においては、4つの磁場形成部23が、搬送方向に並んでいるが、4つ以上の磁場形成部23が、基材1の搬送方向に並んでいてもよい。磁場形成部23は、前処理ローラー20に対向する第1面23aと、第1面23aとは反対の側に位置する第2面23bと、を有する。この場合、複数の磁場形成部23の間の隙間を通じて、第2面23b側から第1面23a側へと、プラズマ原料ガス供給部22により供給されたプラズマ原料ガスを通すことにより、又はプラズマ原料ガス供給部22を挿入することにより、前処理ローラー20と磁場形成部23との間にプラズマを供給することができる。図2及び図3には、隙間を通じて、第2面23b側から第1面23a側へと、プラズマ原料ガス供給部22により供給されたプラズマ原料ガスを通す例が示されている。
図示はしないが、本実施の形態に係る磁場形成部23は、基材1の幅方向に延びる板状の形状を有する。
前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成することにより、例えば、前処理ローラー20と電極部21との間のプラズマの密度を高めることができる。
磁場形成部23として用いられる磁石の種類の例としては、フェライト磁石や、ネオジウム、サマリウムコバルト(サマコバ)などの希土類磁石などの永久磁石を挙げることができる。また、磁場形成部23として、電磁石を用いることもできる。
磁場形成部23の磁石の磁束密度は、例えば100ガウス以上10000ガウス以下である。磁束密度が100ガウス以上であれば、前処理ローラー20と電極部21との間に十分に強い磁場を形成することによって、十分に高密度のプラズマを発生させることができ、良好な前処理面を高速で形成することができる。一方、基材1の表面での磁束密度を10000ガウスよりも高くするには、高価な磁石又は磁場発生機構が必要となる。
プラズマ前処理機構11Bは、例えば、プラズマ密度100W・sec/m2以上8000W・sec/m2以下のプラズマを前処理ローラー20と電極部21との間に供給する。
図2に示す例において、プラズマ前処理機構11Bは、基材搬送室12A及び成膜室12Cから隔壁によって隔てられたプラズマ前処理室12B内に配置されている。プラズマ前処理室12Bを基材搬送室12A及び成膜室12Cなどの他の領域と区分することにより、プラズマ前処理室12Bの雰囲気を独立して調整し易くなる。これにより、例えば、前処理ローラー20と電極部21とが対向する空間におけるプラズマ原料ガス濃度の制御が容易となり、積層フィルムの生産性が向上する。
本実施の形態において、プラズマ前処理機構11Bの前処理ローラー20と電極部21との間に印加される電圧は、交流電圧である。交流電圧の印加により、前処理ローラー20と電極部21との間にプラズマを発生させる。好ましくは、交流電圧の印加により、発生したプラズマが、基材1の表面に向かうように、基材1の表面に対して垂直方向に運動するように、電場が形成される。
前処理ローラー20と電極部21との間に印加される印加される交流電圧の値は、250V以上1000V以下であることが好ましい。交流電圧が上記の値を有する場合には、十分なプラズマ密度を有するプラズマを、前処理ローラー20と電極部21との間に発生させることができる。ここで、交流電圧の値とは、実効値Veを意味する。交流電圧の実効値Veは、交流電圧の最大値をVmとした場合に、以下の式(I)により求められる。
Figure 2022132500000002
前処理ローラー20と電極部21との間に印加される交流電圧は、例えば20kHz以上500kHz以下の周波数を有する。
(成膜機構)
次に、成膜機構11Cについて説明する。図2に示す例において、成膜機構11Cは、成膜室12Cに配置された成膜ローラー25と、蒸発機構24とを有する。
成膜ローラー25について説明する。成膜ローラー25は、プラズマ前処理機構11Bにおいて前処理された基材1の処理面を外側にして基材1を巻きかけて搬送するローラーである。
成膜ローラー25の材料について説明する。成膜ローラー25は、少なくともステンレス、鉄、銅及びクロムのうちいずれかを1以上含む材料から形成されることが好ましい。成膜ローラー25の表面には、傷つき防止のために、硬質のクロムハードコート処理などを施してもよい。これらの材料は加工が容易である。また、成膜ローラー25の材料として上記の材料を用いることにより、成膜ローラー25自体の熱伝導性が高くなるので、温度制御を行う際に、温度制御性が優れたものとなる。成膜ローラー25の表面の表面平均粗さRaは、例えば0.1μm以上10μm以下である。
また、図示はしないが、成膜ローラー25は、成膜ローラー25の表面の温度を調整する温度調整機構を有していてもよい。
温度調整機構は、例えば、冷却媒体又は熱源媒体を循環させる循環路を成膜ローラー25の内部に有する。冷却媒体(冷媒)は、例えばエチレングリコール水溶液であり、熱源媒体(熱媒)は、例えばシリコンオイルである。温度調整機構は、成膜ローラー25と対向する位置に設置されたヒータを有していてもよい。成膜機構11Cが蒸着法により膜を成膜する場合、関連する機械部品の耐熱性の制約や汎用性の面から、好ましくは、温度調整機構は、成膜ローラー25の表面の温度を-20℃以上200℃以下の範囲内の目標温度に調整する。
成膜ローラー25が温度調整機構を有することによって、成膜時に発生する熱に起因する基材1の温度の変動を抑えることができる。
蒸発機構24について説明する。図4は、図2において符号IVが付された一点鎖線で囲まれた部分を拡大し、図2においては省略されていた蒸発機構24の具体的形態を示し、図2においては省略されていた、蒸着材料を供給する、蒸着材料供給部61を示した図である。なお、図4においては、減圧チャンバ12及び隔壁35b、35cの記載は省略している。蒸発機構24は、アルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させる機構である。蒸発した蒸着材料が基材1に付着することにより、基材1の表面にアルミニウムを含む蒸着膜が形成される。本実施の形態における蒸発機構24は、抵抗加熱式を採用している。図4に示す例において、蒸発機構24は、ボート24bを有する。本実施の形態において、ボート24bは、図示しない電源と、電源に電気的に接続された図示しない抵抗体と、を有する。ボート24bは、基材1の幅方向に複数並んでいてもよい。
図4に示すように、成膜機構11Cは、蒸発機構24に蒸着材料を供給する蒸着材料供給部61を有していてもよい。図4においては、蒸着材料供給部61がアルミニウムの金属線材を連続的に送り出す例を示している。
図示はしないが、成膜機構11Cは、ガス供給機構を有する。ガス供給機構は、蒸発機構24と成膜ローラー25との間にガスを供給する機構である。ガス供給機構は、少なくとも酸素ガスを供給する。酸素ガスは、蒸発機構24から蒸発して成膜ローラー25上の基材1に向かっているアルミニウムなどの蒸発材料と反応又は結合する。これにより、基材1の表面に酸化アルミニウムを含む蒸着膜を形成することができる。
また、成膜機構11Cは、基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給するプラズマ供給機構50を備える。図2及び図4に示す例において、プラズマ供給機構50は、ホローカソード51を有する。本実施の形態において、ホローカソード51は、一部において開口した空洞部を有する陰極である。ホローカソード51は、空洞部内にプラズマを発生させることができる。図4に示す例において、ホローカソード51は、ホローカソード51の空洞部の開口がボート24bの斜め上に位置するように設けられている。また、図示はしないが、本実施の形態に係るプラズマ供給機構50は、ホローカソード51の空洞部の開口からプラズマを引き出す、開口と対向するアノードを有する。本実施の形態に係るプラズマ供給機構50は、ホローカソード51の空洞部内にプラズマを発生させ、そのプラズマを対向するアノードによって基材1の表面と蒸発機構24との間に引き出すことによって、基材1の表面と蒸発機構24との間に強力なプラズマを発生させることができる。対向するアノードの位置は、対向するアノードによってホローカソード51の空洞部の開口からプラズマを引き出し、基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給することができる限り、特に限られない。本実施の形態においては、対向するアノードが、ボート24bの、基材1の幅方向における両側に配置されている場合について説明する。この場合、成膜機構11Cは複数のボート24bと複数の対向するアノードとを有し、複数のボート24bと複数の対向するアノードとは、基材1の幅方向に交互に並べられていてもよい。図示はしないが、プラズマ供給機構50は、少なくともホローカソード51の空洞部内にプラズマ原料ガスを供給する、原料供給装置を有していてもよい。原料供給装置が供給するプラズマ原料ガスとしては、例えばプラズマ前処理機構11Bのプラズマ原料ガス供給部22が供給するプラズマ原料ガスとして用いることのできるガスと同様のガスを用いることができる。
プラズマ供給機構50によって、基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給することにより、蒸発機構24において蒸発したアルミニウム、及び酸素ガスを活性化させ、アルミニウムと酸素ガスとの反応又は結合を促進することができる。これにより、基材1の表面に形成される蒸着膜2中のアルミニウムが酸化アルミニウムとして存在する比率を高めることができ、蒸着膜2の特性を安定化することができる。
図示はしないが、成膜装置10は、基材搬送室12Aのうち、成膜室12Cよりも基材1の搬送方向の下流側に位置する部分に、成膜機構11Cによる成膜に起因して基材1に発生した帯電を除去する後処理を行う基材帯電除去部を備えてもよい。基材帯電除去部は、基材1の片面の帯電を除去するように設けられていてもよく、基材1の両面の帯電を除去するように設けられていてもよい。
基材1に後処理を行う基材帯電除去部として用いられる装置は、特に限定されないが、例えばプラズマ放電装置、電子線照射装置、紫外線照射装置、除電バー、グロー放電装置、コロナ処理装置などを用いることができる。
プラズマ処理装置、グロー放電装置を用いて放電を形成することにより後処理を行う場合、基材1の近傍に、アルゴン、酸素、窒素、ヘリウムなどの放電用ガス単体、またはこれらの混合ガスを供給し、交流(AC)プラズマ、直流(DC)プラズマ、アーク放電、マイクロウェーブ、表面波プラズマなど、任意の放電方式を用いて後処理を行うことが可能である。減圧環境下では、プラズマ放電装置を用いて後処理を行うことが最も好ましい。
基材帯電除去部を、基材搬送室12Aのうち、成膜室12Cよりも基材1の搬送方向の下流側に位置する部分に設置し、基材1の帯電を除去することにより、基材1を成膜ローラー25から所定位置で速やかに離して搬送することができる。このため、安定した基材搬送が可能となり、帯電に起因する基材1の破損や品質低下を防ぎ、基材表裏面の濡れ性改善により後加工適正の向上を図ることができる。
(電源)
図2に示す例において、成膜装置10は、前処理ローラー20と、電極部21と、に電気的に接続された、電源32をさらに備える。図2に示す例において、電源32は、電力供給配線31を介して、前処理ローラー20、及び電極部21に電気的に接続されている。電源32は、例えば交流電源である。電源32が交流電源である場合には、電源32は、例えば20kHz以上500kHz以下の周波数を有する交流電圧を前処理ローラー20と電極部21との間に印加することが可能である。電源32によって印加可能な投入電力(基材1の幅方向において、電極部21の1m幅あたりに印加可能な電力)は、特に限定されないが、例えば、0.5kW/m以上20kW/m以下である。前処理ローラー20は、電気的にアースレベルに設置されてもよく、電気的にフローティングレベルに設置されてもよい。
(成膜方法)
上述の成膜装置10を使用して、基材1の表面に成膜する成膜方法について説明する。成膜装置10を使用した成膜においては、上述の基材1の搬送経路に沿って基材1を搬送しつつ、プラズマ前処理機構11Bを用いて基材1の表面にプラズマ前処理を施すプラズマ前処理工程、及び成膜機構11Cを用いて基材1の表面に蒸着膜を成膜する成膜工程を行う。基材1の搬送速度は、好ましくは200m/min以上であり、より好ましくは480m/min以上1000m/min以下である。
(プラズマ前処理工程)
プラズマ前処理工程は、例えば以下の方法により行われる。プラズマ原料ガス供給部22を用いて、前処理ローラー20と電極部21との間にプラズマ原料ガスを供給しつつ、前処理ローラー20と電極部21との間に、上述の交流電圧を印加する。交流電圧の印加の際には、投入電力制御または、インピーダンス制御などを行ってもよい。
交流電圧の印加によりグロー放電と同時にプラズマが生成し、前処理ローラー20と磁場形成部23との間にプラズマPが高密度化する。このようにして、前処理ローラー20と磁場形成部23との間にプラズマPを供給することができる。このプラズマPによって、基材1の表面にプラズマ(イオン)前処理を施すことができる。
また、本実施の形態においては、電極部21の噴出部は、電極の表面の少なくとも一部にガス圧を与えるように、ガスを供給する。プラズマ前処理工程において、電極の表面の少なくとも一部にガス圧を与えるように、ガスを供給することの作用について説明する。プラズマ前処理工程においては、基材1の表面がプラズマ前処理される際に、電極に異物が付着することが考えられる。本実施の形態においては、電極の表面の少なくとも一部にガス圧を与えるようにガスを供給することにより、電極の表面に異物が付着することを抑制することができる。これにより、異物の付着に起因して電極と前処理ローラー20との間の電圧が不安定になることを抑制することができる。異物は、例えば基材1のカスである。電極部21の噴出部によって噴出されたガスは、前処理ローラー20と電極部21との間において励起されてプラズマPとなってもよい。
前処理ローラー20と電極部21との間に交流電圧を印加する際のプラズマ前処理室12B内の気圧は、交流電圧の印加により前処理ローラー20と電極部21との間にグロー放電を生じさせることができる限り、特に限定されないが、例えば0.05Pa以上8Pa以下である。
プラズマ前処理工程における磁場形成部23の作用について説明する。磁場形成部23は、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成する。磁場は、前処理ローラー20と電極部21との間に存在する電子を捕捉し加速させるよう作用し得る。このため、磁場が形成されている領域において、電子とプラズマ原料ガスの衝突の頻度を高め、プラズマの密度を高め、且つ局在化させることがきるので、プラズマ前処理の効率を向上させることができる。
(成膜工程)
成膜工程においては、成膜機構11Cを用いて、基材1の表面に成膜する。成膜工程の一例として、図4に示す蒸発機構24を有する成膜機構11Cを用いて、酸化アルミニウム蒸着膜を成膜する場合について説明する。
まず、蒸発機構24のボート24b内に、成膜ローラー25に対向するように、アルミニウムを含む蒸着材料を供給する。蒸着材料としては、アルミニウムの金属線材を用いることができる。図4に示す例においては、蒸着材料供給部61によってアルミニウムの金属線材を連続的にボート24b内に送り出すことにより、ボート24bに蒸着材料を供給している。
加熱により、アルミニウムをボート24b内で蒸発させる。図4には、便宜的に、蒸発したアルミニウム蒸気63を図示している。
プラズマ供給機構50によって基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給する方法について説明する。本実施の形態においては、プラズマ供給機構50のホローカソード51の空洞部内でプラズマを発生させる。次に、ホローカソード51と対向するアノードとの間に放電を発生させ、ホローカソード51の空洞部内のプラズマを基材1の表面と蒸発機構24との間に引き出す。
本実施の形態において、ホローカソード51と対向するアノードとの間において発生させる放電は、アーク放電である。アーク放電は、例えば電流の値が10A以上であるような放電を意味する。
基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給しつつ、アルミニウムを蒸発させることにより、アルミニウム蒸気63にプラズマが供給される。プラズマの供給により、アルミニウム蒸気63と酸素ガスとの反応又は結合を促進することができる。これにより、アルミニウム蒸気63が基材1の表面に到達する前に、アルミニウム蒸気63を酸化させることができる。蒸発し、酸化したアルミニウムが基材1に付着することによって、基材1の表面に酸化アルミニウム蒸着膜を成膜することができる。
本実施の形態においては、成膜工程の前に、基材1の表面にプラズマを供給するプラズマ前処理工程を実施している。プラズマ前処理工程においては、電極部21と前処理ローラー20との間に交流電圧を印加する。また、電極部21の面のうち前処理ローラー20と対向する面とは反対側の面の側に位置する磁場形成部23を利用して、電極部21と前処理ローラー20との間の空間に磁場を生じさせる。このため、電極部21と前処理ローラー20との間の空間に効率良くプラズマを発生させたり、プラズマを前処理ローラー20に巻き掛けられている基材1の表面に対して垂直に入射させたりすることができる。従って、成膜工程によって成膜される膜と基材1との間の密着性を高めることができる。
上記のように密着性の高められた積層フィルムは、食品などの内容物を収容する包装袋を作製するための包装材料として用いる場合に有用である。特に、熱処理を施した場合においても高い密着性が維持される積層フィルムは、包装袋の材料として好適に使用できる。上記の積層フィルムは、積層フィルムを材料として作製した包装袋に対して、レトルト処理又はボイル処理を施した場合に、積層フィルムを構成する層の剥離、特に蒸着膜2の基材1からの剥離を抑制できる。
なお、レトルト処理とは、内容物を包装袋に充填して包装袋を密封した後、蒸気又は加熱温水を利用して包装袋を加圧状態で加熱する処理である。レトルト処理の温度は、例えば120℃以上である。ボイル処理とは、内容物を包装袋に充填して包装袋を密封した後、包装袋を大気圧下で湯煎する処理である。ボイル処理の温度は、例えば90℃以上且つ100℃以下である。
(変形例)
上述の実施の形態においては、プラズマ前処理機構11Bの磁場形成部23が、電極部21と、前処理ローラー20との間に位置する例について説明した。しかしながら、これに限られることはなく、図5に示す変形例のように、磁場形成部23は、電極部21からみて、前処理ローラー20の位置する側とは反対の側に位置していてもよい。
図5に示す変形例において、電極部21は、ガス噴出部を有しない。また、電極部21の前処理ローラー20と対向する側とは反対の側に、磁場形成部23が設けられている。本変形例のプラズマ前処理機構11Bによっても、前処理ローラー20と電極部21との間にプラズマを発生させて、基材1の表面に前処理を施すことができる。
本変形例のプラズマ前処理機構11Bについて、図6を参照してより詳細に説明する。図6は、図5において符号VIが付された一点鎖線で囲まれた部分を拡大した図である。
本変形例に係る電極部21について説明する。図5及び図6に示す例において、電極部21は、前処理ローラー20に対向する第1面21cと、第1面21cの反対側に位置する第2面21dとを有する。図5及び図6に示す例において、電極部21は板状の部材であり、第1面21c及び第2面21dはいずれも平面である。本変形例において、電極部21は、前処理ローラー20との間で交流電圧を印加されることにより、前処理ローラー20との間においてプラズマを発生させる。電極部21は、好ましくは、前処理ローラー20との間において、発生したプラズマが、基材1の表面に向かうように、基材1の表面に対して垂直方向に運動するように、電場を形成する。これにより、効率的に基材1を前処理することができる。
本変形例に係る電極部21の数は、好ましくは2以上である。2以上の電極部21は、好ましくは、基材1の搬送方向に沿って並んでいる。図5及び図6に示す例においては、成膜装置10が2つの電極部21を有する例が示されている。また、電極部21の数は、例えば12以下である。
2以上の電極部21が基材1の搬送方向に沿って並んでいることの効果について説明する。上述の通り、プラズマは、電極部21と前処理ローラー20との間に発生する。プラズマが発生する領域は、搬送方向における電極部21の寸法が大きくなるほど拡大する。一方、電極部21が平坦な板状の部材である場合、搬送方向における電極部21の寸法が大きくなるほど、搬送方向における電極部21の、前処理ローラー20に対向する面である第1面21cの端部から前処理ローラー20までの距離が大きくなり、プラズマによる処理能力が低下してしまう。
本変形例に係る成膜装置10においては、2以上の電極部21が基材1の搬送方向に沿って並んでいる。このため、基材1の搬送方向における電極部21の寸法が小さい場合であっても、搬送方向における広い範囲にわたってプラズマを発生させることができる。また、電極部21の寸法を小さくすることにより、搬送方向における電極部21の第1面21cの端部から前処理ローラー20までの距離を小さくすることができ、プラズマを搬送方向に均一に発生させることができる。
図5及び図6に示すように、本変形例に係る電極部21は、電極部21の第1面21c上に位置する第1端部21e及び第2端部21fを有する。第1端部21eは、基材1の搬送方向における上流側の端部であり、第2端部21fは、基材1の搬送方向における下流側の端部である。上述のように、基材1の搬送方向における電極部21の寸法を小さくすることにより、搬送方向における電極部21の第1端部21e及び第2端部21fから前処理ローラー20までの距離を小さくすることができる。基材1の搬送方向における電極部21の寸法は、図6に示す角度θに対応する。角度θは、第1端部21e及び回転軸Xを通る直線と、第2端部21f及び回転軸Xを通る直線とがなす角度である。角度θは、20°以上90°以下となることが好ましく、60°以下となることがより好ましく、45°以下となることがさらに好ましい。角度θが上記の範囲となることにより、電極部21の第1面21cが平面である場合に、電極部21と前処理ローラー20との間において、プラズマを搬送方向に均一に発生させることができる。
本変形例に係る電極部21の材料は、導電性を有する限り、特に限定されない。具体的には、電極部21の材料として、アルミニウム、銅、ステンレスが好適に用いられる。
本変形例に係る電極部21の第1面21cに垂直な方向に見た場合における電極部21の厚みL3は、特に限定されないが、例えば15mm以下である。電極部21の厚みが上記の値であることにより、後述の本変形例に係る磁場形成部23によって、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を効果的に形成することができる。また、電極部21の厚みL3は、例えば3mm以上である。
本変形例に係る磁場形成部23について説明する。図5及び図6に示すように、磁場形成部23は、電極部21の、前処理ローラー20と対向する側とは反対の側に設けられている。本変形例に係る磁場形成部23は、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成する部材である。前処理ローラー20と電極部21との間の磁場は、例えば、プラズマ前処理機構11Bを用いてプラズマを発生させる場合において、より高密度のプラズマの発生に寄与する。図5及び図6に示す磁場形成部23は、電極部21の第2面21d上に設けられた第1磁石231及び第2磁石232を有する。
本変形例に係る磁場形成部23の数は、好ましくは2以上である。プラズマ前処理機構11Bが、2以上の電極部21と、2以上の磁場形成部23と、を有する場合においては、2以上の磁場形成部23のそれぞれは、2以上の電極部21のそれぞれの、前処理ローラー20と対向する側とは反対の側に設けられていることが好ましい。図5及び図6に示す例においては、2つの磁場形成部23のそれぞれが、2つの電極部21のそれぞれの第2面21d上に設けられている。
電極部21の第2面21dの法線方向における第1磁石231及び第2磁石232の構造について説明する。図5及び図6に示すように、第1磁石231及び第2磁石232はそれぞれ、N極及びS極を有する。図5及び図6に示す符号Nは、第1磁石231又は第2磁石232のN極を示す。また、図5及び図6に示す符号Sは、第1磁石231又は第2磁石232のS極を示す。
第1磁石231のN極又はS極の一方は、他方よりも基材1側に位置する。また、第2磁石232のN極又はS極の他方は、一方よりも基材1側に位置する。図5及び図6に示す例においては、第1磁石231のN極が、第1磁石231のS極よりも基材1側に位置し、第2磁石232のS極が、第2磁石のN極よりも基材1側に位置する。図示はしないが、第1磁石231のS極が、第1磁石231のN極よりも基材1側に位置し、第2磁石232のN極が、第2磁石232のS極よりも基材1側に位置していてもよい。
続いて、電極部21の第2面21dの面方向における第1磁石231及び第2磁石232の構造について説明する。図7は、図5に示す電極部21及び磁場形成部23を、磁場形成部23側からみた平面図である。図8は図7のVIII-VIII線に沿った断面を示す断面図である。また、図7において、方向D1は、前処理ローラー20の回転軸Xが延びる方向である。
図7及び図8に示すように、第1磁石231は、第1軸方向部分231cを有する。図7に示すように、第1軸方向部分231cは、方向D1に沿って、すなわち前処理ローラー20の回転軸Xに沿って延びている。
1つの電極部21に設けられた第1磁石231は、1つの第1軸方向部分231cを有していてもよく、2つ以上の第1軸方向部分231cを有していてもよい。図7に示す例においては、1つの電極部21に設けられた第1磁石231は、1つの第1軸方向部分231cを有している。
また、図7及び図8に示すように、第2磁石232は、第2軸方向部分232cを有する。図7に示すように、第2軸方向部分232cも、第1軸方向部分231cと同様に、方向D1に沿って、すなわち回転軸Xに沿って延びている。
第1磁石231及び第2磁石232がいずれも回転軸Xに沿って延びる部分を含むことにより、基材1の周囲に形成される磁場の強度の、基材1の幅方向における均一性を高めることができる。これにより、基材1の周囲に形成されるプラズマの分布密度の、基材1の幅方向における均一性を高めることができる。
1つの電極部21に設けられた第2磁石232は、1つの第2軸方向部分232cを有していてもよく、2つ以上の第2軸方向部分232cを有していてもよい。図7及び図8に示す例においては、1つの電極部21に設けられた第2磁石232は、2つの第2軸方向部分232cを有している。2つの第2軸方向部分232cは、電極部21の第2面21dの面方向のうち回転軸Xに直交する方向D2において第1軸方向部分231cを挟むように位置していてもよい。
図8に示す、基材1の搬送方向における第1軸方向部分231cの寸法L4、及び第2軸方向部分232cの寸法L5は、特に限定されない。
また、基材1の搬送方向における第1軸方向部分231cの寸法L4と第2軸方向部分232cの寸法L5との比率は、特に限定されない。第1軸方向部分231cの寸法L4と第2軸方向部分232cの寸法L5とが等しくてもよく、第1軸方向部分231cの寸法L4が第2軸方向部分232cの寸法L5より大きくてもよい。
方向D2における第1軸方向部分231cと第2軸方向部分232cとの間隔L6は、第1軸方向部分231c及び第2軸方向部分232cによって生じる磁場が前処理ローラー20と電極部21との間に形成されるよう設定される。
第2磁石232は、電極部21の第2面21dの法線方向に沿って磁場形成部23を見た場合に、第1磁石231を囲んでいてもよい。例えば図7に示すように、第2磁石232は、2つの第2軸方向部分232cとともに、2つの第2軸方向部分232cを接続するように設けられた2つの接続部分232dを有していてもよい。
図示はしないが、本変形例に係るプラズマ前処理機構11Bは、プラズマ原料ガス供給部を有していてもよい。プラズマ原料ガス供給部は、プラズマの原料となるガスをプラズマ前処理室12B内に供給する。プラズマ原料ガス供給部の構成は特に限定されない。例えば、プラズマ原料ガス供給部は、プラズマ前処理室12Bの壁面に設けられ、プラズマの原料となるガスを噴出する穴を含む。また、プラズマ原料ガス供給部は、プラズマ前処理室12Bの壁面よりも基材1に近い位置においてプラズマ原料ガスを放出するノズルを有していてもよい。プラズマ原料ガス供給部によって供給されるプラズマ原料ガスとしては、例えば、アルゴンなどの不活性ガス、酸素、窒素、炭酸ガス、エチレンなどの活性ガス、又は、それらのガスの混合ガスを供給する。プラズマ原料ガスとしては、不活性ガスのうち1種を単体で用いても、活性ガスのうち1種を単体で用いても、不活性ガス又は活性ガスに含まれるガスのうち2種類以上のガスの混合ガスを用いてもよい。プラズマ原料ガスとしては、アルゴンのような不活性ガスと、活性ガスとの混合ガスを用いることが好ましい。
(他の態様)
本発明の他の態様は、基材の表面にアルミニウムを含む蒸着膜を成膜する成膜装置であって、巻きかけられた前記基材を搬送する前処理ローラーと、前記前処理ローラーとの間で電圧を印加される電極部と、を有し、前記前処理ローラーと前記電極部との間にプラズマを発生させる、プラズマ前処理機構と、前記基材の搬送方向における前記プラズマ前処理機構よりも下流側に位置する成膜ローラーと、前記成膜ローラーに巻き掛けられた前記基材の表面に到達するようにアルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させる蒸発機構と、前記基材の表面と前記蒸発機構との間にプラズマを供給するプラズマ供給機構と、を有し、前記成膜ローラーに巻き掛けられた前記基材の表面に前記蒸着膜を成膜する成膜機構と、を備え、前記プラズマ供給機構は、ホローカソードを有する、成膜装置である。
本発明の他の態様による成膜装置において、前記プラズマ前処理機構は、プラズマ密度100W・sec/m2以上8000W・sec/m2以下のプラズマを前記前処理ローラーと前記電極部との間に発生させてもよい。
本発明の他の態様による成膜装置において、前記プラズマ前処理機構は、前記前処理ローラーと前記電極部との間に磁場を形成する磁場形成部をさらに有してもよい。
本発明の他の態様による成膜装置において、前記電極部は、ガスを噴出するガス噴出部を有し、前記前処理ローラーとの間で交流電圧を印加され、前記プラズマ前処理機構は、プラズマ原料ガスを供給するプラズマ原料ガス供給部をさらに有し、前記プラズマ原料ガス供給部は、少なくとも前記前処理ローラーと前記電極部との間に前記プラズマ原料ガスを供給し、前記プラズマ前処理機構は、前記電極部と前記前処理ローラーとの間に印加された前記交流電圧に基づいて、前記前処理ローラーと前記電極部との間にプラズマを発生させてもよい。
本発明の他の態様による成膜装置において、前記プラズマ原料ガスは、酸素、窒素、炭酸ガス、エチレン及びアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスを含んでもよい。
本発明の他の態様による成膜装置において、前記電極部は、前記前処理ローラーとの間で250V以上1000V以下の電圧の交流電圧を印加されてもよい。
本発明の他の態様による成膜装置において、前記電極部は、前処理ローラーに対向する第1面と、前記第1面の反対側に位置する第2面とを有するとともに、前記前処理ローラーとの間で交流電圧を印加され、前記磁場形成部は、前記電極部の前記第2面側に設けられ、前記プラズマ前処理機構は、前記電極部と前記前処理ローラーとの間に印加された前記交流電圧に基づいてプラズマを発生させてもよい。
本発明の他の態様による成膜装置において、前記電極部は、前記前処理ローラーとの間で20kHz以上500kHz以下の周波数の交流電圧を印加されてもよい。
本発明の他の態様による成膜装置において、前記プラズマ前処理機構は、2以上の前記電極部と、2以上の前記磁場形成部と、を有し、2以上の前記電極部は、前記基材の搬送方向に沿って並んでおり、2以上の前記磁場形成部のそれぞれは、2以上の前記電極部のそれぞれの、前記第2面側に設けられていてもよい。
本発明の他の態様による成膜装置において、前記電極部は、前記前処理ローラーとの間で250V以上1000V以下の電圧の交流電圧を印加されてもよい。
本発明の他の態様による成膜装置において、前記成膜装置は、前記前処理ローラーと、前記電極部と、に電気的に接続された、交流電圧を印加することが可能な交流電源をさらに備え、前記プラズマ前処理機構は、前記交流電源を用いて、前記前処理ローラーと前記電極部との間に交流電圧を印加することによりプラズマを発生させてもよい。
本発明の他の態様による成膜装置において、前記プラズマ前処理機構は、プラズマ前処理室に配置され、前記成膜機構は、前記プラズマ前処理室から隔てられるとともに前記基材の搬送方向における前記プラズマ前処理室よりも下流側に位置する成膜室に配置されていてもよい。
本発明の他の態様は、成膜装置を用いて基材の表面にアルミニウムを含む蒸着膜を成膜する成膜方法であって、前記成膜装置は、巻きかけられた前記基材を搬送する前処理ローラーと、電極部と、を有する、プラズマ前処理機構と、前記基材の搬送方向における前記プラズマ前処理機構よりも下流側に位置する成膜ローラーと、アルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させる蒸発機構と、を有する成膜機構と、を備え、前記前処理ローラーと前記電極部との間に電圧を印加しつつ、前記前処理ローラーと前記電極部との間にプラズマを発生させ、発生させたプラズマを用いて前記基材の表面に前処理を施すプラズマ前処理工程と、前記ホローカソードを用いて前記基材の表面と前記蒸発機構との間にプラズマを発生させつつ、前記蒸発機構を用いて、前記成膜ローラーに巻き掛けられた前記基材の表面に到達するようにアルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させ、アルミニウムを含む蒸着膜を成膜する成膜工程と、を備える、成膜方法である。
本発明の他の態様による成膜方法において、前記成膜装置の前記プラズマ前処理機構は、前記前処理ローラーと前記電極部との間に磁場を形成する磁場形成部をさらに有してもよい。
本発明の他の態様による成膜方法において、前記成膜工程において、前記ホローカソードを用いてアーク放電を発生させてもよい。
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
まず、実施例1、及び比較例1~4の成膜装置及び成膜方法を用いて、積層フィルムを作製した。
(実施例1)
基材1として、厚さ12μmの、材料としてポリエチレンテレフタレート(PET)を含むプラスチック基材(KOLON社製、製品名「CB981」)を用意し、本発明の成膜装置10を用いて、プラズマ前処理工程、及び成膜工程を行った。
成膜工程においては、図4に示すような蒸発機構24を用いて、真空蒸着法により、アルミニウムを含む蒸着膜2を成膜した。具体的には、成膜室12C内の気圧を1Paに調整した上で、蒸着材料としてアルミニウムの金属線材をボート24b内に供給しつつ、抵抗加熱式の蒸発機構24を用い、ボート24b内の蒸着材料を加熱し、基材1の表面に到達するようにアルミニウムを蒸発させることにより、基材1の表面に蒸着膜2を成膜した。以上の方法により、図1aに示すような、基材1と蒸着膜2とを有する積層フィルムを複数作製した。作製した積層フィルムの蒸着膜2の厚さは、13nmである。以下の説明において、図1aに示すような、基材1と蒸着膜2とを有する積層フィルムのことを、蒸着フィルムとも称する。
実施例1の具体的な条件は、以下のとおりである。
〔プラズマ前処理機構11Bの条件〕
プラズマ前処理機構11Bの形態:図2及び図3に示す形態である。
前処理ローラー20と電極部21との間に印加される電圧:340Vである。
プラズマ原料ガス供給部22が供給するプラズマ原料ガス:アルゴン(Ar)と酸素(O2)との混合ガスである。
前処理ローラー20と電極部21との間のプラズマ密度:144W・sec/m2である。
磁場形成部23:1000ガウスの永久磁石である。
〔成膜機構11Cの条件〕
プラズマ供給機構50の形態:図4に示すホローカソード51と、ボート24bからみて、基材1の幅方向における両側に配置された、ホローカソード51の空洞部の開口と対向する図示しないアノードと、を有する形態である。
プラズマ供給機構50の使用方法:ホローカソード51の空洞部にプラズマ原料ガスを供給し、放電させてプラズマを励起した。このプラズマを、対向するアノードによって、基材1の表面と蒸発機構24との間に引き出した。
(比較例1)
スパッタリングやプラズマ処理で一般的に使われるデュアルカソード/ターゲット構造を有するプラズマ前処理機構を用いて、デュアルカソード間にMF(40kHz)電源を用いて交流電圧を印加したグロー放電前処理を施した点以外は、実施例1と同様の成膜装置を用いて、実施例1と同様の方法により、成膜を行い、基材1と蒸着膜2とを有する蒸着フィルムを複数作製した。作製した蒸着フィルムの蒸着膜2の厚さは、13nmである。
(比較例2)
成膜装置がプラズマ前処理機構を有しない点、及びプラズマ前処理工程を行わない点以外は、実施例1と同様の成膜装置を用いて、実施例1と同様の方法により、成膜工程を行い、基材1と蒸着膜2とを有する蒸着フィルムを複数作製した。作製した蒸着フィルムの蒸着膜2の厚さは、10nmである。
(比較例3)
成膜機構が、プラズマ供給機構を有しない点、及び成膜工程においてプラズマ供給機構を用いたプラズマの供給を行わない点以外は、実施例1の場合と同様にプラズマ前処理工程及び成膜工程を行い、基材1と蒸着膜2とを有する蒸着フィルムを複数作製した。作製した蒸着フィルムの蒸着膜2の厚さは、13nmである。
(比較例4)
成膜装置がプラズマ前処理機構及びプラズマ供給機構を有しない点、プラズマ前処理工程を行わない点、及び成膜工程においてプラズマ供給機構を用いたプラズマの供給を行わない点以外は、実施例1と同様の成膜装置を用いて、実施例1と同様の方法により、成膜工程を行い、基材1と蒸着膜2とを有する蒸着フィルムを複数作製した。作製した蒸着フィルムの蒸着膜2の厚さは、13nmである。
(バリア性の評価)
上記の方法によって作製した実施例1、及び比較例1~4の蒸着フィルムのそれぞれについて、水蒸気透過率及び酸素透過率の値を測定した。
水蒸気透過率は、水蒸気透過率測定装置(モコン社製、製品名「パーマトラン」)を用いて、40℃、90%RHの測定条件で、JIS K 7129 B法に準拠し、測定した。また、酸素透過率は、酸素透過率測定装置(モコン社製、製品名「オクストラン(OXTRAN)」)を用いて、23℃、90%RHの測定条件で、JIS K 7126-2に準拠して測定した。結果を図9に示す。
(密着性の評価)
上記の方法によって作製した実施例1及び比較例1~4の蒸着フィルムの蒸着膜2の上に、シリコンアルコキシド、ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、さらに、ゾルゲル法によって重縮合して得られるバリア性組成物を含むバリア性被覆層3を作成した。ここで、上記のバリア性被覆層3は、以下のような方法により作成した。まず、水677g、イソプロピルアルコール117g、及び0.5N塩酸(濃度0.5mol/Lの塩酸)16gを混合した溶液に、テトラエトキシシラン285gを混合させて、溶液(以下「溶液A」とも称する)を調整した。次に、溶液Aとは別に、ポリビニルアルコール70g、水1540g、及びイソプロピルアルコール80gを混合させて、溶液(以下「溶液B」とも称する)を調整した。溶液Aと溶液Bとを、重量比が13:7となるように混合して得られた溶液をバリアコート剤とした。得られたバリアコート剤を、蒸着膜2の面に塗布し、110℃で30秒間乾燥させることによって、厚さ0.3μmのバリア性被覆層3を作成した。
次に、上記の方法で製造したバリア性被覆層3の面に、2液硬化型のポリウレタン系ラミネート用接着剤を、グラビアロールコート法を用いて厚さ4.0g/m2(乾燥状態)にコーティングして接着剤層4を形成し、次いで、接着剤層4の面に、第2基材5として厚さ15μmの2軸延伸ナイロン6フィルムを対向させ、ドライラミネートして積層した。次に、第2基材5の面に、上記の接着剤層4と同様に、ラミネート用の接着剤層6を形成し、次に、接着剤層6の面に、シーラント層7として厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルムをドライラミネートして積層して、図1cに示すような層構成の積層フィルムを作製した。
次に、図1cに示すような層構成の積層フィルムを、シーラント層同士が向き合うように対向させ、ヒートシールすることによって、パウチに成形した。パウチに水を充填した後、135℃、40分のレトルト処理を行った。レトルト処理を行なった後の状態の積層フィルムのそれぞれについて、常態剥離強度及び水付け剥離強度の値を測定した。
常態剥離強度は、以下の方法により測定した。まず、実施例1、及び比較例1~4の積層フィルムのうち、図1cに示すような層構成の積層フィルムであって、パウチに成形してレトルト処理を行った後の状態の積層フィルムのそれぞれを短冊切りし、幅15mmの矩形の試験片を得た。次に、試験片の第2基材とバリア性被覆層とを、試験片の長手方向(試験片の幅方向と直交する方向)に向かって部分的に引き剥がした。第2基材とバリア性被覆層との引き剥がしは、第2基材とバリア性被覆層との間の接着剤層を破壊することにより行った。また、第2基材とバリア性被覆層との引き剥がしは、第2基材とバリア性被覆層とが、一部においては接着剤層を介した接合を維持するように行った。次に、テンシロン万能材料試験機を用いて、JIS Z6854-2に準拠し、第2基材とバリア性被覆層との接着界面の剥離強度を、剥離角度180°、剥離速度50mm/minの条件にて測定した。
水付け剥離強度は、以下に記載する点を除き、常態剥離強度を測定する方法と同様の方法によって測定した。水付け剥離強度の測定においては、試験片の蒸着膜と基材とを部分的に引き剥がした上で、蒸着膜と基材との接着界面の剥離強度を測定した。また、水付け剥離強度の測定においては、剥離強度の測定を行う際に、試験片の長手方向にそってみた場合における、蒸着膜と基材とが接合を維持している部分と、蒸着膜と基材とが引き剥がされている部分との境界部分にスポイトで水を滴下した状態で、測定を行った。
実施例1、及び比較例1~4の積層フィルムの常態剥離強度、及び水付け剥離強度についての評価結果を、水蒸気透過率、酸素透過率とともに図9に示す。
実施例1と比較例1とを比較すると、実施例1の積層フィルムのほうが、比較例1の積層フィルムよりも、常態剥離強度及び水付け剥離強度のいずれも大きくなっていた。これは、本発明のプラズマ前処理機構を用いた前処理方法のほうが、比較例1の前処理方法よりも、積層フィルムの密着性を大きく向上させるためと考えられる。
また、実施例1の蒸着フィルムのほうが、比較例1の蒸着フィルムよりも、水蒸気透過率及び酸素透過率のいずれも低く抑えられており、実施例1の蒸着フィルムは比較例1の蒸着フィルムよりもバリア性が大きくなっていた。
実施例1の蒸着フィルムにおけるバリア性の向上の原因について検討するため、実施例1と比較例2~4との比較検討を行った。まず比較例3と比較例4とを比較すると、比較例3は比較例4よりも水蒸気透過率において0.2だけ低下し、酸素透過率において0.3だけ低下するに留まった。これに対し、実施例1と比較例2とを比較すると、実施例1は比較例2よりも水蒸気透過率において0.6低下し、酸素透過率において0.6低下していた。したがって、実施例1のように、本発明のプラズマ前処理機構を用いた前処理方法と、ホローカソードを有する成膜機構を用いた成膜方法と、を組み合わせた場合に限り、蒸着フィルムのバリア性を顕著に向上させる効果が得られることがわかった。また、比較例3のように、前処理方法として、本発明のプラズマ前処理機構を用いた前処理方法を用いるのみでは、蒸着フィルムのバリア性を顕著に向上させる効果は得られないことがわかった。以上より、本発明の製造装置及び製造方法によって、密着性のみならず、バリア性に優れた積層フィルムの提供を実現可能であった。
1 基材
2 蒸着膜
3 バリア性被覆層
4 接着剤層
5 第2基材
6 接着剤層
7 シーラント層
10 成膜装置
P プラズマ
X 回転軸
11A 基材搬送機構
11B プラズマ前処理機構
11C 成膜機構
12 減圧チャンバ
12A 基材搬送室
12B プラズマ前処理室
12C 成膜室
13 巻き出しローラー
14a~d ガイドロール
15 巻き取りローラー
20 前処理ローラー
21 電極部
22 プラズマ原料ガス供給部
23 磁場形成部
23a 第1面
23b 第2面
231 第1磁石
231c 第1軸方向部分
232 第2磁石
232c 第2軸方向部分
232d 接続部分
24 蒸発機構
24b ボート
25 成膜ローラー
31 電力供給配線
32 電源
35a~35c 隔壁
50 プラズマ供給機構
51 ホローカソード
61 蒸着材料供給部
63 アルミニウム蒸気

Claims (15)

  1. 基材の表面にアルミニウムを含む蒸着膜を成膜する成膜装置であって、
    巻きかけられた前記基材を搬送する前処理ローラーと、前記前処理ローラーとの間で交流電圧を印加される電極部と、電力供給配線を介して前記前処理ローラー及び前記電極部に電気的に接続されている電源と、前記前処理ローラーと前記電極部との間にプラズマ原料ガスを供給するプラズマ原料ガス供給部と、を有し、前記前処理ローラーと前記電極部との間にプラズマを発生させる、プラズマ前処理機構と、
    前記基材の搬送方向における前記プラズマ前処理機構よりも下流側に位置する成膜ローラーと、前記成膜ローラーに巻き掛けられた前記基材の表面に到達するようにアルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させる蒸発機構と、前記基材の表面と前記蒸発機構との間にプラズマを供給するプラズマ供給機構と、を有し、前記成膜ローラーに巻き掛けられた前記基材の表面に前記蒸着膜を成膜する成膜機構と、を備え、
    前記プラズマ前処理機構は、前記電極部と前記前処理ローラーとの間に印加された前記交流電圧に基づいて、前記前処理ローラーと前記電極部との間にプラズマを発生させ、
    前記プラズマ原料ガス供給部は、前記電極部から離して配置されている、
    成膜装置。
  2. 前記プラズマ供給機構は、ホローカソードを有する、請求項1に記載の成膜装置。
  3. 前記プラズマ原料ガス供給部は、前記前処理ローラーと前記電極部との間に配置されている、請求項1又は2に記載の成膜装置。
  4. 前記プラズマ原料ガス供給部は、前記電源に電気的に接続されていない、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の成膜装置。
  5. 前記プラズマ前処理機構は、プラズマ密度100W・sec/m2以上8000W・sec/m2以下のプラズマを前記前処理ローラーと前記電極部との間に発生させる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の成膜装置。
  6. 前記プラズマ前処理機構は、前記前処理ローラーと前記電極部との間に磁場を形成する磁場形成部をさらに有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の成膜装置。
  7. 前記プラズマ原料ガスは、酸素、窒素、炭酸ガス、エチレン及びアルゴンからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスを含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の成膜装置。
  8. 前記電極部は、前記前処理ローラーとの間で250V以上1000V以下の電圧の交流電圧を印加される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の成膜装置。
  9. 前記プラズマ前処理機構は、プラズマ前処理室に配置され、
    前記成膜機構は、前記プラズマ前処理室から隔てられるとともに前記基材の搬送方向における前記プラズマ前処理室よりも下流側に位置する成膜室に配置されている、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の成膜装置。
  10. 成膜装置を用いて基材の表面にアルミニウムを含む蒸着膜を成膜する成膜方法であって、
    前記成膜装置は、
    巻きかけられた前記基材を搬送する前処理ローラーと、電極部と、電力供給配線を介して前記前処理ローラー及び前記電極部に電気的に接続されている電源と、前記前処理ローラーと前記電極部との間に前記プラズマ原料ガスを供給するプラズマ原料ガス供給部と、を有する、プラズマ前処理機構と、
    前記基材の搬送方向における前記プラズマ前処理機構よりも下流側に位置する成膜ローラーと、アルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させる蒸発機構と、プラズマ供給機構と、を有する成膜機構と、を備え、
    前記プラズマ原料ガス供給部は、前記電極部から離して配置されており、
    前記成膜方法は、
    前記前処理ローラーと前記電極部との間に交流電圧を印加しつつ、前記前処理ローラーと前記電極部との間にプラズマを発生させ、発生させたプラズマを用いて前記基材の表面に前処理を施すプラズマ前処理工程と、
    前記基材の表面と前記蒸発機構との間にプラズマを発生させつつ、前記蒸発機構を用いて、前記成膜ローラーに巻き掛けられた前記基材の表面に到達するようにアルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させ、アルミニウムを含む蒸着膜を成膜する成膜工程と、を備える、成膜方法。
  11. 前記プラズマ原料ガス供給部は、前記前処理ローラーと前記電極部との間に配置されている、請求項10に記載の成膜方法。
  12. 前記プラズマ原料ガス供給部は、前記電源に電気的に接続されていない、請求項10又は11に記載の成膜方法。
  13. 前記成膜装置の前記プラズマ前処理機構は、前記前処理ローラーと前記電極部との間に磁場を形成する磁場形成部をさらに有する、請求項10乃至12のいずれか一項に記載の成膜方法。
  14. 前記プラズマ供給機構は、ホローカソードを有し、
    前記成膜工程は、前記ホローカソードを用いて前記基材の表面と前記蒸発機構との間にプラズマを発生させる、請求項10乃至13のいずれか一項に記載の成膜方法。
  15. 前記成膜工程において、前記ホローカソードを用いてアーク放電を発生させる、請求項14に記載の成膜方法。
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