JP7355957B1 - バリアフィルム - Google Patents

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Abstract

【課題】ゲルボフレックス試験後のバリア性、及び、レトルト処理後のバリア性を両立できるバリアフィルムを提供する。【解決手段】樹脂基材と、酸化アルミニウム蒸着膜と、必要に応じて被覆層と、がこの順に積層されているバリアフィルムであって、酸化アルミニウム蒸着膜は、前記バリアフィルムの前記酸化アルミニウム蒸着膜表面側からX線吸収微細構造分析を行った際の、下記で定義されるピークトップ比Pが0.70以上1.05未満である、バリアフィルムである。P=(1572eV付近の強度ピークトップ)/(1566eV付近の強度ピークトップ)【選択図】なし

Description

本発明は、バリアフィルムに関する。
従来、プラスチックなどの長尺状のフィルムやシートの基材上に成膜された膜を備えた積層フィルムが、様々な用途で利用されている。例えば、プラスチックフィルム上に、酸化アルミニウムなどの薄膜からなるバリア層を設けて、酸素及び水蒸気に対するバリア性の機能を持たせたバリア性積層フィルムが開発されている。
酸化アルミニウム薄膜を備えるバリアフィルムの製造手法として、例えば、特許文献1には、酸化アルミニウム薄膜を備えるバリアフィルムの製造手法として、アルミニウムの蒸発源と高分子フィルムの間の空間に高密度プラズマを発生させるプラズマ活性化蒸着法(いわゆる蒸着時のプラズマアシスト法)を用いることで得られる、透明性とガスバリア性に優れたガスバリアフィルムが開示されている。
特開2017-177343号公報
特許文献1では、蒸着時のプラズマアシストにより酸素とアルミニウムとの反応性が高まり、バリア性の向上が認められる。しかしながら、耐屈曲性の観点からはバリア性は不十分であり、ゲルボフレックス試験後のバリア性が低下するという問題があった。
本発明は、酸化アルミニウム蒸着膜を備えるバリアフィルムであって、ゲルボフレックス試験後のバリア性と、レトルト処理後のバリア性と、を両立できるバリアフィルムを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、X線吸収微細構造分析(以下、単にXAFSという)によって得られる、酸化アルミニウム薄膜における水酸基量の大小に着目することによって、ゲルボフレックス試験後のバリア性と、レトルト処理後のバリア性と、を両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下のものを提供する。
(1) 樹脂基材と、酸化アルミニウム蒸着膜と、がこの順に積層されているバリアフィルムであって、
前記酸化アルミニウム蒸着膜は、前記バリアフィルムの前記酸化アルミニウム蒸着膜表面側からX線吸収微細構造分析を行った際の、下記で定義されるピークトップ比Pが0.70以上1.05未満である、バリアフィルム。
P=(1572eV付近の強度ピークトップ)/(1566eV付近の強度ピークトップ)
(2) 樹脂基材と、酸化アルミニウム蒸着膜と、被覆層と、がこの順に積層されているバリアフィルムであって、
前記酸化アルミニウム蒸着膜は、前記バリアフィルムの前記被覆層表面側から、X線吸収微細構造分析を行った際の、下記で定義されるピークトップ比Pが0.70以上1.05未満である、バリアフィルム。
P=(1572eV付近の強度ピークトップ)/(1566eV付近の強度ピークトップ)
(3) 前記被覆層は、アルコキシシランと、水酸基含有水溶性樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物であり、
前記被覆層のケイ素原子/炭素原子比が0.55以上0.80以下である、(1)又は(2)に記載のバリアフィルム。
(4) 前記被覆層は、アルコキシシランと、水酸基含有水溶性樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物であり、
前記被覆層の炭素原子が20.0%以上29.0%以下、酸素原子が55.0%以上60.0%以下、ケイ素原子が16.0%以上20.0%以下、である(1)から(3)のいずれかに記載のバリアフィルム。
(5) 前記樹脂基材と前記酸化アルミニウム蒸着膜との間にアンカーコート層を備える、(1)から(4)のいずれかに記載のバリアフィルム。
(6) (1)から(5)のいずれかに記載のバリアフィルムと、シーラント層とを備える積層体。
(7) (6)に記載の積層体の下記条件下におけるゲルボフレックス試験後のJIS K 7126-2に準拠した、23℃、90%RHにおける酸素透過率が、3cc/m・day・atm以下である、積層体。
ゲルボフレックス試験:ASTM F392に準拠したゲルボフレックス試験を5回繰り返す。
(8) (6)に記載の積層体の下記条件下におけるゲルボフレックス試験後のJIS K 7129 B法に準拠した、40℃、100%RHにおける水蒸気透過率が、2g/m・day以下である、積層体。
ゲルボフレックス試験:ASTM F392に準拠したゲルボフレックス試験を5回繰り返す。
(9) (6)に記載の積層体の135℃、40分間のレトルト処理後のJIS K 7126-2に準拠した、23℃、90%RHにおける酸素透過率が、0.5cc/m・day・atm以下である、積層体。
(10) (6)に記載の積層体の135℃、40分間のレトルト処理後のJIS K 7129 B法に準拠した、40℃、100%RHにおける水蒸気透過率が、2g/m・day以下である、積層体。
(11) (6)に記載の積層体を備える包装製品。
本発明のバリアフィルムは、ゲルボフレックス試験後のバリア性と、レトルト処理後のバリア性と、を両立できる。
本実施の形態に係るバリアフィルムの一例を示す断面図である。 本発明の実施の形態に係る成膜装置の一例を示す図である。 成膜装置のプラズマ前処理機構の一例を示す断面図である。 成膜装置のプラズマ前処理機構の電極部及び磁場形成部の一例を示す平面図である。 成膜装置のプラズマ前処理機構の電極部及び磁場形成部の一例を示す断面図である。 成膜装置の成膜機構の一例を示す断面図である。 本発明の実施の形態に係るバリアフィルムを備える積層体の一例を示す断面図である。 実施例及び比較例におけるバリアフィルムのXAFSスペクトルを示すグラフである。 実施例1のバリアフィルムにおける、XAFSスペクトルの解析結果を示す図である。 実施例5のバリアフィルムにおける、XAFSスペクトルの解析結果を示す図である。 実施例6のバリアフィルムにおける、XAFSスペクトルの解析結果を示す図である。 比較例3のバリアフィルムにおける、XAFSスペクトルの解析結果を示す図である。 比較例4のバリアフィルムにおける、XAFSスペクトルの解析結果を示す図である。 比較例6のバリアフィルムにおける、XAFSスペクトルの解析結果を示す図である。
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」を意味する。
図1は、本実施の形態に係るバリアフィルムの一例を示す断面図である。本実施の形態に係る成膜装置を用いて製造されるバリアフィルムは、例えば、図1に示すバリアフィルムAのように、基材1と、蒸着膜2と、必要に応じて設けられる被覆層3と、を備える。図1に示す例において、蒸着膜2は、基材1の一方の面上に位置する。また、図1に示す例において、バリアフィルムAは、基材1、蒸着膜2、被覆層3の順に積層されており、被覆層3はバリアフィルムの表面に位置している。
なお、本明細書において「この順に積層」とは、基材と、蒸着膜と、被覆層と、がこの順番に並ぶように積層されていればよく、これらの層の間に、例えばアンカーコート層やプライマー層などの他の層が積層されていてもよい。
以下、バリアフィルムAを構成する各層について説明する。
[基材]
基材1は樹脂からなる層である。樹脂は特に制限されるものではなく、公知の樹脂フィルム又はシートを使用することができる。具体的には、ポリエステル基材やポリオレフィン基材であっても良い。ポリエステル基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂などを含むポリエステル系樹脂を用いることができる。ポリオレフィン基材としては、例えば、ポリプロピレン樹脂を用いることができる。
ポリエステル系樹脂の中でも、ポリエチレンテレフタレート系樹脂やポリブチレンテレフタレート系樹脂を用いることが好ましい。基材1として用いられるポリエステルフィルムは、所定の方向において延伸されていてもよい。この場合、ポリエステルフィルムは、所定の一方向において延伸された一軸延伸フィルムであってもよく、所定の二方向において延伸された二軸延伸フィルムであってもよい。例えば、基材1としてポリエチレンテレフタレートからなるフィルムを用いる場合には、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることができる。
基材1としてポリプロピレン樹脂からなるフィルムを用いる場合には、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いることができる。
ポリエステルフィルムの場合のフィルム厚さは、特に制限を受けるものではなく、後述する成膜装置により蒸着膜2を成膜する際の前処理や成膜処理をすることができるものであればよいが、可撓性及び形態保持性の観点からは5μm以上100μm以下の範囲が好ましく、10μm以上50μm以下の範囲がより好ましい。ポリエステルフィルムの厚さが前記範囲内にあると、曲げやすい上に搬送中に破けることもなく、蒸着膜2を有するバリアフィルムの製造に用いられる成膜装置で取り扱いやすい。
ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)としては、従来公知のPETフィルム以外に、バイオマスPETフィルム、リサイクルPETフィルム、高スティッフネスPETフィルム(強靭PETフィルム)を基材1として用いてもよい。1層であっても、2層以上の多層構成であってもよく、多層構成の場合には、同一組成の層であっても、異なる組成の層であってもよい。また、多層構成の場合に、各層間は、接着剤層等が介在して接着されていてもよい。
ポリオレフィンフィルムの場合のフィルム厚さは、可撓性及び形態保持性の観点からは、10μm以上100μm以下の範囲が好ましく、15μm以上50μm以下の範囲がより好ましい。
基材1は、その表面上に蒸着膜との密着性を高めるためのアンカーコート層(AC層、プライマ層ともいう)が形成されていてもよい。アンカーコート層としては、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂が例示できる。ポリウレタン系樹脂としては、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂が例示できる。
[蒸着膜]
次に、蒸着膜2について説明する。蒸着膜2は、酸化アルミニウムを含む。アルミニウムは、蒸着膜2において、少なくとも一部が、Alを形成した状態で存在する。蒸着膜2は、更に、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、ケイ素酸化窒化物、ケイ素炭化物、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、又はこれらの金属窒化物、炭化物を含んでいてもよい。
蒸着膜2の厚さ下限値は3nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましい。上限値は100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、15nm以下が特に好ましい。
なお、本発明における「酸化アルミニウム蒸着膜」とは、上記のように「酸化アルミニウムを含む蒸着膜」の意味であり、酸化アルミニウムAl以外に、水酸化酸化アルミニウムAlO(OH)及び水酸化アルミニウムAl(OH)などを含んでいてもよい。以下詳細に説明する。
(XAFSスペクトル分析)
XAFS分析は、X線吸収微細構造(XAFS:X-ray Absorption Fine Structure)スペクトルであり、バリアフィルムの蒸着面の表面側(被覆層がある場合には被覆層側)から、X線を照射し、その吸収量を計測するものである。詳細な測定条件および解析条件は実施例にて記載する。
特に放射光を利用した軟X線のXAFSスペクトル分析によれば、蒸着膜表面側の一部でなく、蒸着膜全体のバルクの情報が得られ、酸化アルミニウム蒸着膜における、水酸基の大小に関する情報が得られる。また、蒸着膜の表面に被覆層などが存在する場合であっても、被覆層表面側から、被覆層を介して蒸着膜に照射することで、被覆層が存在した状態で蒸着膜の情報を得ることができる。
図8は、後述する実施例におけるバリアフィルムの一例を、XAFS測定した結果の一例である。また、図9は、実施例1において、XAFSスペクトルをピーク分離して得られる、それぞれのピークを表示したものである。図8、図9において、縦軸は吸収強度(a.u)、横軸はエネルギ(eV)である。本発明におけるピークトップ比Pは、例えば図9のように、XAFSスペクトルをピーク分離した後のそれぞれのピークトップから求めた比である。
図9のピーク分離解析において、Experimentは実測のXAFSスペクトルであり、Fit.Peak1は、分離された1566eVの強度ピークであり、Fit.Peak2は、分離された1568eVの強度ピークであり、Fit.Peak3は、分離された1572eVの強度ピークである。Fit.Base1は1566eVのベースラインであり、Fit.Base2は1568eVのベースラインである。
図8、図9より、XAFSスペクトルには複数のピーク、具体的には、1566eV付近をトップとするピークP1、1568eV付近をトップとするピークP2、1572eV付近をトップとするのピークP3が存在する。なお、1566eV付近とは1565eV以上1567eV以下であり、1568eV付近とは1567eV超1569eV以下であり、1572eV付近とは1571eV以上1573eV以下である。
ここで、P1とP2は酸化アルミニウム、P3は水酸化アルミニウム及び水酸化酸化アルミニウムに由来するピークであると考えられる。このため、ピークトップ比P=P3ピークトップ/P1ピークトップ=(1572eV付近の強度ピークトップ)/(1566eV付近の強度ピークトップ)と定義することで、酸化アルミニウム蒸着膜における、水酸基量の大小に関する情報が得られることになる。
本発明は、このピークトップ比Pの値によって、ゲルボフレックス試験前後のガスバリア性が変化することを見出したものであり、具体的には、ピークトップ比Pを0.70以上1.05未満とすることで、ゲルボフレックス試験後のバリア性と、レトルト処理後のバリア性と、を両立できる。ピークトップ比Pの下限値は好ましくは0.75以上、より好ましくは0.80以上である。ピークトップ比Pの上限値は好ましくは1.00以下、より好ましくは0.90以下である。
ピークトップ比Pが0.70未満であると、水酸基の導入が少なすぎて膜のフレキシビリティが劣り、ゲルボフレックス試験後のガスバリア性が低下する。高温高湿の湿熱処理などを行ってピークトップ比Pが1.05以上であると、水酸基の導入が多すぎて初期のバリア性、特に水蒸気バリア性が低下し、レトルト耐性に劣る蒸着膜となる。
なお、バリアフィルムにおけるピークトップ比Pの調整は、プラズマ前処理、蒸着時のプラズマアシスト処理、成膜工程後のエージング処理と、被覆層形成工程後のエージング処理との組み合わせを制御することで調整することができる。なかでも、蒸着時のプラズマアシスト処理でアルミニウムの酸化を進め、次いで、成膜工程後のエージング処理によって水酸基の導入を進める組み合わせとすることで、ゲルボフレックス試験後、レトルト処理後のいずれにおいても高いバリア性が得られる。これらの結果は、後述する実施例においてサポートされる。
(被覆層)
酸化アルミニウム蒸着膜2の表面上に積層される被覆層3は、酸化アルミニウム蒸着膜を機械的・化学的に保護するとともに、バリア性を有する積層フィルムのバリア性能を向上させるものである。以下、バリア性に優れたレトルト耐性を備えるバリア性積層フィルムを形成するためコートされる被覆層3について説明する。
被覆層3は、バリアコート剤を酸化アルミニウム蒸着膜上に塗布し固化して形成されるものである。バリアコート剤は金属アルコキシド、水溶性高分子、必要に応じて加えられるシランカップリング剤、ゾルゲル法触媒、酸などから構成される。
金属アルコキシドとしては、一般式R1M(OR(ただし、式中、R、Rは、炭素数1~8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上の金属アルコキシド、金属アルコキシドのMで表される金属原子としては、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、その他等を例示することができ、例えば、MがSiであるアルコキシシランを使用することが好ましいものである。
上記のアルコキシシランとしては、例えば、一般式Si(ORa)(ただし、式中、Raは、低級アルキル基を表す。)で表されるものである。上記において、Raとしては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、その他等が用いられる。上記のアルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシランSi(OCH、テトラエトキシシランSi(OC、テトラプロポキシシランSi(OC)4、テトラブトキシシランSi(OC、その他等を使用することができる。上記アルコキシドは、2種以上を併用してもよい。
シランカップリング剤として、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基などの反応基を有するものを用いることができる。特にエポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適であり、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、あるいは、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を使用することができる。上記のようなシランカップリング剤は、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
なかでも、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランやγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどの2官能を用いた被覆層の硬化膜の架橋密度は、トリアルコキシシランを用いた系での架橋密度より低くなる。そのため、ガスバリア性及び耐熱水処理性のある膜として優れながら、柔軟性のある硬化膜となり、耐屈曲性にも優れるため、当該バリアフィルムを用いた包装材料はゲルボフレックス試験後でもガスバリア性が劣化し難い。
水溶性高分子は、ポリビニルアルコール系樹脂、又はエチレン・ビニルアルコ一ル共重合体を単独で各々使用することができ、あるいは、ポリビニルアルコ一ル系樹脂及びエチレン・ビニルアルコール共重合体を組み合わせて使用することができる。本実施の形態に係る被覆層3では、ポリビニルアルコール系樹脂が好適である。
ポリビニルアルコ一ル系樹脂としては、一般に、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られるものを使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸基が数10%残存している部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂でも、酢酸基が残存しない完全ケン化ポリビニルアルコールでも、OH基が変性された変性ポリビニルアルコール系樹脂でもよい。ポリビニルアルコール系樹脂として、ケン化度については、ガスバリア性塗膜の膜硬度が向上する結晶化が行われるものを少なくとも用いることが必要で、好ましくは、ケン化度が70%以上である。また、その重合度としても、従来のゾルゲル法で用いられている範囲(100~5000程度)のものであれば用いることができる。このようなポリビニルアルコール系樹脂としては、株式会社クラレ製のRS樹脂である「RS-110(ケン化度=99%、重合度=1,000)」、日本合成化学工業株式会社製の「ゴーセノールNM-14(ケン化度=99%、重合度=1,400)」等を挙げることができる。
エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のケン化物、すなわち、エチレン-酢酸ビニルランダム共重合体をケン化して得られるものを使用することができる。例えば、酢酸基が数10モル%残存している部分ケン化物から、酢酸基が数モル%しか残存していないか又は酢酸基が残存しない完全ケン化物まで含み、特に限定されるものではない。ただし、バリア性の観点から好ましいケン化度の下限値は、80%以上、より好ましくは、90%以上、更に好ましくは、95%以上である。上限値は100%以下である。
ゾルゲル法触媒としては、酸又はアミン系化合物が好適である。
酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸、並びに、酢酸、酒石酸な等の有機酸等を用いることができる。
酸の含有量は、金属アルコキシドのアルコキシ基の総モル量に対して、好ましくは0.001~0.05モル%であり、より好ましくは0.01~0.03モル%である。0.001%モルよりも少ないと触媒効果が小さすぎ、0.05モル%よりも多いと触媒効果が強すぎて反応速度が速くなり過ぎ、不均一になりやすい傾向になる。
アミン系化合物としては、水に実質的に不溶であり、且つ有機溶媒に可溶な第3級アミンが好適である。具体的には、例えば、N,N-ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等を使用することができる。特に、N,N-ジメチルベンジルアミンが好適である。
アミン系化合物の含有量は、金属アルコキシド100質量部当り、例えば0.01~1.0質量部、特に0.03~0.3質量部を含有することが好ましい。0.01質量部よりも少ないと触媒効果が小さすぎ、1.0質量部よりも多いと触媒効果が強すぎて反応速度が速くなり過ぎ、不均一になりやすい傾向になる。
溶媒としては、水や、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール等を用いることが好ましい。
上記にように形成されるバリア性被覆層は、層厚が100~500nmである。この範囲であれば、コート膜が割れず蒸着膜表面を十分に被覆するため好ましい。
バリアコート剤の組成は、シランカップリング剤を含有する場合、アルコキシシラン100質量部に対して、ポリビニルアルコ-ル系樹脂などの水溶性高分子を5~10質量部、シランカップリング剤を1~10質量部位の範囲内で使用することができる。これにより、膜の柔軟性を維持し、レトルト耐性を高めることができる。上記において、シランカップリング剤を20質量部超えて使用すると、形成されるバリア性塗膜の剛性と脆性とが大きくなり、好ましくない。
また、シランカップリング剤を含有しない場合、アルコキシシラン100質量部に対して、ポリビニルアルコ-ル系樹脂などの水溶性高分子を10~20質量部とすることで、金属アルコキシドの量比を下げて、バリア性を高めることができる。
被覆層におけるIO値(ポリビニルアルコールなどの水溶性樹脂に対する、テトラエトキシシランなどの金属アルコキシドの固形分比率)の下限値は好ましくは1.5以上であり、より好ましくは1.9以上である。上限値は好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.5以下である。4.0超であると後工程やゲルボフレックス試験を経たあとにバリア性が低下することがあるために好ましくなく、1.5未満であるとレトルト処理後のバリア性が低下するために好ましくない。
被覆層のケイ素原子/炭素原子比が0.55以上0.80以下であることが好ましくい。0.80超であると、後工程やゲルボフレックス試験を経たあとにバリア性が低下することがあるために好ましくなく、0.55未満であるとレトルト処理後のバリア性が低下するので好ましくない。また、被覆層の炭素原子が20.0%以上29.0%以下、酸素原子が55.0%以上60.0%以下、ケイ素原子が16.0%以上20.0%以下であることが好ましい。この範囲内であることにより、レトルト処理後のバリア性が良好であるので好ましい。
なお、被覆層のケイ素原子/炭素原子比や、ケイ素原子、酸素原子、炭素原子の比率(元素濃度)は、X線光電子分光法(XPS)により測定でき、具体的には実施例に記載の条件で測定できる。
(成膜装置)
次に、バリアフィルムの製造方法に用いられる成膜装置10の一例について説明する。成膜装置10は、図2に示すように、基材1を搬送するための基材搬送機構11Aと、基材1の表面にプラズマ前処理を施すプラズマ前処理機構11Bと、蒸着膜2を成膜する成膜機構11Cと、を備える。図5に示す例においては、成膜装置10は、更に減圧チャンバ12を備える。減圧チャンバ12は、後述する真空ポンプなど、減圧チャンバ12の内部の空間の少なくとも一部の雰囲気を大気圧以下に調整する減圧機構を有する。
図2に示す例において、減圧チャンバ12は、基材搬送機構11Aが位置する基材搬送室12Aと、プラズマ前処理機構11Bが位置するプラズマ前処理室12Bと、成膜機構11Cが位置する成膜室12Cと、を含む。減圧チャンバ12は、好ましくは、各室の内部の雰囲気が互いに混ざり合うことを抑制するよう構成されている。例えば図2に示すように、減圧チャンバ12は、基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間、プラズマ前処理室12Bと成膜室12Cとの間、基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間に位置し、各室を隔てる隔壁35a~35cを有していてもよい。
基材搬送室12A、プラズマ前処理室12B及び成膜室12Cについて説明する。プラズマ前処理室12B及び成膜室12Cは、それぞれ基材搬送室12Aと接して設けられており、それぞれ基材搬送室12Aと接続する部分を有する。これにより、基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間、及び基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間において、基材1を大気に触れさせずに搬送することができる。例えば、基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間においては、隔壁35aに設けられた開口部を介して基材1を搬送することができる。基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間も同様の構造となっており、基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間において、基材1を搬送することができる。
減圧チャンバ12の減圧機構の機能について説明する。減圧チャンバ12の減圧機構は、成膜装置10の少なくともプラズマ前処理機構11B又は成膜機構11Cが配置されている空間の雰囲気を大気圧以下に減圧できるように構成されている。減圧機構は、隔壁35a~35cにより区画された、基材搬送室12A、プラズマ前処理室12B、成膜室12Cのそれぞれを大気圧以下に減圧することができるよう構成されていてもよい。
減圧チャンバ12の減圧機構の構成について説明する。減圧チャンバ12は、例えば、プラズマ前処理室12Bに接続されている真空ポンプを有していてもよい。真空ポンプを調整することにより、後述するプラズマ前処理を実施する際のプラズマ前処理室12B内の圧力を適切に制御することができる。また、後述の方法によりプラズマ前処理室12B内に供給したプラズマが他室に拡散することを抑制できる。減圧チャンバ12の減圧機構は、プラズマ前処理室12Bに接続されている真空ポンプと同様に、成膜室12Cに接続されている真空ポンプを有していてもよい。真空ポンプとしては、ドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、ロータリーポンプ、ディフュージョンポンプなどを用いることができる。
本実施の形態に係る成膜装置10の基材1の基材搬送機構11Aについて、基材1の搬送経路とともに説明する。基材搬送機構11Aは、基材搬送室12Aに配置された、基材1を搬送するための機構である。図2に示す例においては、基材搬送機構11Aは、基材1のロール状の原反が取り付けられた巻き出しローラー13、基材1を巻き取る巻き取りローラー15及びガイドロール14a~14dを有する。基材搬送機構11Aから送り出された基材1は、その後、プラズマ前処理室12Bに配置された、後述する前処理ローラー20と、成膜室12Cに配置された、後述する成膜ローラー25と、によって搬送される。
なお、図示はしないが、基材搬送機構11Aは、張力ピックアップローラーを更に有していてもよい。基材搬送機構11Aが張力ピックアップローラーを有することにより、基材1に加わる張力を調整しながら、基材1を搬送することができる。
(プラズマ前処理機構)
プラズマ前処理機構11Bについて説明する。プラズマ前処理機構11Bは、基材1の表面にプラズマ前処理を施すための機構である。図2に示すプラズマ前処理機構11Bは、プラズマPを発生させ、発生させたプラズマPを用いて基材1の表面にプラズマ前処理を施す。プラズマ前処理によって基材1の表面を活性化すると、例えば、基材樹脂成分から水素が離脱して、炭素ラジカルが生成される。その後、雰囲気中の酸素や水素と結合することで、水酸基、カルボキシル基、ケトン基などの官能基が生成される。このような官能基が生成されることで、基材1と蒸着膜2の密着性が向上すると考えられる。図2に示すプラズマ前処理機構11Bは、プラズマ前処理室12Bに配置されている前処理ローラー20と、前処理ローラー20に対向する電極部21と、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成する磁場形成部23と、を有する。
前処理ローラー20について説明する。図3は、図2において符号VIが付された一点鎖線で囲まれた部分を拡大した図である。なお、図3においては、図2に示されている電源32と後述する電極部21とを接続する電力供給配線31、及びプラズマ前処理機構11Bが発生させるプラズマPの記載を省略している。前処理ローラー20は、回転軸Xを有する。前処理ローラー20は、少なくとも回転軸Xが、隔壁35a、35bによって区画されるプラズマ前処理室12B内に位置するよう、設けられている。前処理ローラー20には、回転軸Xの方向における寸法を有する基材1が巻き掛けられる。以下の説明において、回転軸Xの方向における基材1の寸法のことを、基材1の幅とも称する。また、回転軸Xの方向のことを、基材1の幅方向とも称する。
図2に示すように、前処理ローラー20は、その一部が基材搬送室12A側に露出するように設けられていてもよい。図2に示す例においては、プラズマ前処理室12Bと基材搬送室12Aとは、隔壁35aに設けられた開口部を介して接続されており、その開口部を通じて、前処理ローラー20の一部が基材搬送室12A側に露出している。基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間の隔壁35aと、前処理ローラー20との間には隙間があいており、その隙間を通じて、基材搬送室12Aからプラズマ前処理室12Bへと、基材1を搬送することができる。図示はしないが、前処理ローラー20は、その全体がプラズマ前処理室12B内に位置するよう設けられていてもよい。
図示はしないが、前処理ローラー20は、前処理ローラー20の表面の温度を調整する温度調整機構を有していてもよい。例えば、前処理ローラー20は、冷媒や熱媒などの温度調整媒体を循環させる配管を含む温度調整機構を前処理ローラー20の内部に有していてもよい。温度調整機構は、前処理ローラー20の表面の温度を例えば-20℃以上100℃以下の範囲内の目標温度に調整する。
前処理ローラー20が温度調整機構を有することにより、プラズマ前処理時、熱による基材1の収縮や破損が生じることを抑制することができる。
前処理ローラー20は、少なくともステンレス、鉄、銅及びクロムのいずれか1以上を含む材料により形成される。前処理ローラー20の表面には、傷つき防止のために、硬質のクロムハードコート処理などを施してもよい。これらの材料は加工が容易である。また、前処理ローラー20の材料として上記の材料を用いることにより、前処理ローラー20自体の熱伝導性が高くなるので、前処理ローラー20の温度の制御が容易になる。
電極部21について説明する。図2及び図3に示す例において、電極部21は、前処理ローラー20に対向する第1面21cと、第1面21cの反対側に位置する第2面21dとを有する。図2及び図3に示す例において、電極部21は板状の部材であり、第1面21c及び第2面21dはいずれも平面である。電極部21は、前処理ローラー20との間で交流電圧を印加されることにより、前処理ローラー20との間においてプラズマを発生させる。電極部21は、好ましくは、前処理ローラー20との間において、発生したプラズマが、基材1の表面に向かうように、基材1の表面に対して垂直方向に運動するように、電場を形成する。これにより、効率的に基材1を前処理することができる。
電極部21の数は、好ましくは2以上である。2以上の電極部21は、好ましくは、基材1の搬送方向に沿って並んでいる。図2及び図3に示す例においては、成膜装置10が2つの電極部21を有する例が示されている。また、電極部21の数は、例えば12以下である。
2以上の電極部21が基材1の搬送方向に沿って並んでいることの効果について説明する。上述の通り、プラズマは、電極部21と前処理ローラー20との間に発生する。プラズマが発生する領域は、搬送方向における電極部21の寸法が大きくなるほど拡大する。一方、電極部21が平坦な板状の部材である場合、搬送方向における電極部21の寸法が大きくなるほど、搬送方向における電極部21の、前処理ローラー20に対向する面である第1面21cの端部から前処理ローラー20までの距離が大きくなり、プラズマによる処理能力が低下してしまう。
成膜装置10においては、2以上の電極部21が基材1の搬送方向に沿って並んでいる。このため、基材1の搬送方向における電極部21の寸法が小さい場合であっても、搬送方向における広い範囲にわたってプラズマを発生させることができる。また、電極部21の寸法を小さくすることにより、搬送方向における電極部21の第1面21cの端部から前処理ローラー20までの距離を小さくすることができ、プラズマを搬送方向に均一に発生させることができる。
図2及び図3に示すように、電極部21は、電極部21の第1面21c上に位置する第1端部21e及び第2端部21fを有する。第1端部21eは、基材1の搬送方向における上流側の端部であり、第2端部21fは、基材1の搬送方向における下流側の端部である。上述のように、基材1の搬送方向における電極部21の寸法を小さくすることにより、搬送方向における電極部21の第1端部21e及び第2端部21fから前処理ローラー20までの距離を小さくすることができる。基材1の搬送方向における電極部21の寸法は、図3に示す角度θに対応する。角度θは、第1端部21e及び回転軸Xを通る直線と、第2端部21f及び回転軸Xを通る直線とがなす角度である。角度θは、20°以上90°以下となることが好ましく、60°以下となることがより好ましく、45°以下となることが更に好ましい。角度θが上記の範囲となることにより、電極部21の第1面21cが平面である場合に、電極部21と前処理ローラー20との間において、プラズマを搬送方向に均一に発生させることができる。
電極部21の材料は、導電性を有する限り、特に限定されない。具体的には、電極部21の材料として、アルミニウム、銅、ステンレスが好適に用いられる。
電極部21の第1面21cに垂直な方向に見た場合における電極部21の厚みL3は、特に限定されないが、例えば15mm以下である。電極部21の厚みが上記の値であることにより、磁場形成部23によって、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を効果的に形成することができる。また、電極部21の厚みL3は、例えば3mm以上である。
磁場形成部23について説明する。図2及び図3に示すように、磁場形成部23は、電極部21の、前処理ローラー20と対向する側とは反対の側に設けられている。磁場形成部23は、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成する部材である。前処理ローラー20と電極部21との間の磁場は、例えば、プラズマ前処理機構11Bを用いてプラズマを発生させる場合において、より高密度のプラズマの発生に寄与する。図2及び図3に示す磁場形成部23は、電極部21の第2面21d上に設けられている第1磁石231及び第2磁石232を有する。
磁場形成部23の数は、好ましくは2以上である。プラズマ前処理機構11Bが、2以上の電極部21と、2以上の磁場形成部23と、を有する場合においては、2以上の磁場形成部23のそれぞれは、2以上の電極部21のそれぞれの、前処理ローラー20と対向する側とは反対の側に設けられていることが好ましい。図2及び図3に示す例においては、2つの磁場形成部23のそれぞれが、2つの電極部21のそれぞれの第2面21d上に設けられている。
電極部21の第2面21dの法線方向における第1磁石231及び第2磁石232の構造について説明する。図2及び図3に示すように、第1磁石231及び第2磁石232はそれぞれ、N極及びS極を有する。図2及び図3に示す符号Nは、第1磁石231又は第2磁石232のN極を示す。また、図2及び図3に示す符号Sは、第1磁石231又は第2磁石232のS極を示す。第1磁石231のN極又はS極の一方は、他方よりも基材1側に位置する。また、第2磁石232のN極又はS極の他方は、一方よりも基材1側に位置する。図2及び図3に示す例においては、第1磁石231のN極が、第1磁石231のS極よりも基材1側に位置し、第2磁石232のS極が、第2磁石のN極よりも基材1側に位置する。図示はしないが、第1磁石231のS極が、第1磁石231のN極よりも基材1側に位置し、第2磁石232のN極が、第2磁石232のS極よりも基材1側に位置していてもよい。
続いて、電極部21の第2面21dの面方向における第1磁石231及び第2磁石232の構造について説明する。図4は、図2に示す電極部21及び磁場形成部23を、磁場形成部23側からみた平面図である。図5は図4のVIII-VIII線に沿った断面を示す断面図である。また、図4において、方向D1は、前処理ローラー20の回転軸Xが延びる方向である。
図4及び図5に示すように、第1磁石231は、第1軸方向部分231cを有する。図4に示すように、第1軸方向部分231cは、方向D1に沿って、すなわち前処理ローラー20の回転軸Xに沿って延びている。1つの電極部21に設けられた第1磁石231は、1つの第1軸方向部分231cを有していてもよく、2つ以上の第1軸方向部分231cを有していてもよい。図4に示す例においては、1つの電極部21に設けられた第1磁石231は、1つの第1軸方向部分231cを有している。
また、図4及び図5に示すように、第2磁石232は、第2軸方向部分232cを有する。図4に示すように、第2軸方向部分232cも、第1軸方向部分231cと同様に、方向D1に沿って、すなわち回転軸Xに沿って延びている。
第1磁石231及び第2磁石232がいずれも回転軸Xに沿って延びる部分を含むことにより、基材1の周囲に形成される磁場の強度の、基材1の幅方向における均一性を高めることができる。これにより、基材1の周囲に形成されるプラズマの分布密度の、基材1の幅方向における均一性を高めることができる。
1つの電極部21に設けられた第2磁石232は、1つの第2軸方向部分232cを有していてもよく、2つ以上の第2軸方向部分232cを有していてもよい。図4及び図5に示す例においては、1つの電極部21に設けられた第2磁石232は、2つの第2軸方向部分232cを有している。2つの第2軸方向部分232cは、電極部21の第2面21dの面方向のうち回転軸Xに直交する方向D2において第1軸方向部分231cを挟むように位置していてもよい。
図5に示す、基材1の搬送方向における第1軸方向部分231cの寸法L4、及び第2軸方向部分232cの寸法L5は、特に限定されない。また、基材1の搬送方向における第1軸方向部分231cの寸法L4と第2軸方向部分232cの寸法L5との比率は、特に限定されない。第1軸方向部分231cの寸法L4と第2軸方向部分232cの寸法L5とが等しくてもよく、第1軸方向部分231cの寸法L4が第2軸方向部分232cの寸法L5より大きくてもよい。
方向D2における第1軸方向部分231cと第2軸方向部分232cとの間隔L6は、第1軸方向部分231c及び第2軸方向部分232cによって生じる磁場が前処理ローラー20と電極部21との間に形成されるよう設定される。
第2磁石232は、電極部21の第2面21dの法線方向に沿って磁場形成部23を見た場合に、第1磁石231を囲んでいてもよい。例えば図4に示すように、第2磁石232は、2つの第2軸方向部分232cとともに、2つの第2軸方向部分232cを接続するように設けられた2つの接続部分232dを有していてもよい。
第1磁石231及び第2磁石232など、磁場形成部23として用いられる磁石の種類の例としては、フェライト磁石や、ネオジウム、サマリウムコバルト(サマコバ)などの希土類磁石などの永久磁石を挙げることができる。また、磁場形成部23として、電磁石を用いることもできる。
第1磁石231及び第2磁石232などの磁場形成部23の磁石の磁束密度は、例えば100ガウス以上10000ガウス以下である。磁束密度が100ガウス以上であれば、前処理ローラー20と電極部21との間に十分に強い磁場を形成することによって、十分に高密度のプラズマを発生させることができ、良好な前処理面を高速で形成することができる。一方、基材1の表面での磁束密度を10000ガウスよりも高くするには、高価な磁石又は磁場発生機構が必要となる。
図示はしないが、プラズマ前処理機構11Bは、プラズマ原料ガス供給部を有していてもよい。プラズマ原料ガス供給部は、プラズマの原料となるガスをプラズマ前処理室12B内に供給する。プラズマ原料ガス供給部の構成は特に限定されない。例えば、プラズマ原料ガス供給部は、プラズマ前処理室12Bの壁面に設けられ、プラズマの原料となるガスを噴出する穴を含む。また、プラズマ原料ガス供給部は、プラズマ前処理室12Bの壁面よりも基材1に近い位置においてプラズマ原料ガスを放出するノズルを有していてもよい。プラズマ原料ガス供給部によって供給されるプラズマ原料ガスとしては、例えば、アルゴンなどの不活性ガス、酸素、窒素、炭酸ガス、エチレンなどの活性ガス、又は、それらのガスの混合ガスを供給する。プラズマ原料ガスとしては、不活性ガスのうち1種を単体で用いても、活性ガスのうち1種を単体で用いても、不活性ガス又は活性ガスに含まれるガスのうち2種類以上のガスの混合ガスを用いてもよい。プラズマ原料ガスとしては、アルゴンのような不活性ガスと、活性ガスとの混合ガスを用いることが好ましい。一例として、プラズマ原料ガス供給部は、アルゴン(Ar)と酸素(O)との混合ガスを供給する。
プラズマ前処理機構11Bは、例えば、プラズマ密度100W・sec/m以上8000W・sec/m以下のプラズマを前処理ローラー20と電極部21との間に供給する。
図2に示す例において、プラズマ前処理機構11Bは、基材搬送室12A及び成膜室12Cから隔壁によって隔てられたプラズマ前処理室12B内に配置されている。プラズマ前処理室12Bを基材搬送室12A及び成膜室12Cなどの他の領域と区分することにより、プラズマ前処理室12Bの雰囲気を独立して調整しやすくなる。これにより、例えば、前処理ローラー20と電極部21とが対向する空間におけるプラズマ原料ガス濃度の制御が容易となり、積層フィルムの生産性が向上する。
(成膜機構)
次に、成膜機構11Cについて説明する。図2に示す例において、成膜機構11Cは、成膜室12Cに配置された成膜ローラー25と、蒸発機構24とを有する。
成膜ローラー25について説明する。成膜ローラー25は、プラズマ前処理機構11Bにおいて前処理された基材1の処理面を外側にして基材1を巻きかけて搬送するローラーである。
成膜ローラー25の材料について説明する。成膜ローラー25は、少なくともステンレス、鉄、銅及びクロムのうちいずれかを1以上含む材料から形成されることが好ましい。成膜ローラー25の表面には、傷つき防止のために、硬質のクロムハードコート処理などを施してもよい。これらの材料は加工が容易である。また、成膜ローラー25の材料として上記の材料を用いることにより、成膜ローラー25自体の熱伝導性が高くなるので、温度制御を行う際に、温度制御性が優れたものとなる。成膜ローラー25の表面の表面平均粗さRaは、例えば0.1μm以上10μm以下である。
また、図示はしないが、成膜ローラー25は、成膜ローラー25の表面の温度を調整する温度調整機構を有していてもよい。温度調整機構は、例えば、冷却媒体又は熱源媒体を循環させる循環路を成膜ローラー25の内部に有する。冷却媒体(冷媒)は、例えばエチレングリコール水溶液であり、熱源媒体(熱媒)は、例えばシリコンオイルである。温度調整機構は、成膜ローラー25と対向する位置に設置されたヒータを有していてもよい。成膜機構11Cが蒸着法により膜を成膜する場合、関連する機械部品の耐熱性の制約や汎用性の面から、好ましくは、温度調整機構は、成膜ローラー25の表面の温度を-20℃以上200℃以下の範囲内の目標温度に調整する。成膜ローラー25が温度調整機構を有することによって、成膜時に発生する熱に起因する基材1の温度の変動を抑えることができる。
蒸発機構24について説明する。図6は、図2において符号IXが付された一点鎖線で囲まれた部分を拡大し、図5においては省略されていた蒸発機構24の具体的形態を示し、図2においては省略されていた、蒸着材料を供給する、蒸着材料供給部61を示した図である。なお、図6においては、減圧チャンバ12及び隔壁35b、35cの記載は省略している。蒸発機構24は、アルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させる機構である。蒸発した蒸着材料が基材1に付着することにより、基材1の表面にアルミニウムを含む蒸着膜が形成される。本実施の形態における蒸発機構24は、抵抗加熱式を採用している。図6に示す例において、蒸発機構24は、ボート24bを有する。本実施の形態において、ボート24bは、図示しない電源と、電源に電気的に接続された図示しない抵抗体と、を有する。ボート24bは、基材1の幅方向に複数並んでいてもよい。
図6に示すように、成膜機構11Cは、蒸発機構24に蒸着材料を供給する蒸着材料供給部61を有していてもよい。図6においては、蒸着材料供給部61がアルミニウムの金属線材を連続的に送り出す例を示している。
図示はしないが、成膜機構11Cは、ガス供給機構を有する。ガス供給機構は、蒸発機構24と成膜ローラー25との間にガスを供給する機構である。ガス供給機構は、少なくとも酸素ガスを供給する。酸素ガスは、蒸発機構24から蒸発して成膜ローラー25上の基材1に向かっているアルミニウムなどの蒸発材料と反応又は結合する。これにより、基材1の表面に酸化アルミニウムを含む蒸着膜を形成することができる。
また、成膜機構11Cは、基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給するプラズマ供給機構50を備える。図2及び図6に示す例において、プラズマ供給機構50は、ホローカソード51を有する。本実施の形態において、ホローカソード51は、一部において開口した空洞部を有する陰極である。ホローカソード51は、空洞部内にプラズマを発生させることができる。図6に示す例において、ホローカソード51は、ホローカソード51の空洞部の開口がボート24bの斜め上に位置するように設けられている。また、図示はしないが、本実施の形態に係るプラズマ供給機構50は、ホローカソード51の空洞部の開口からプラズマを引き出す、開口と対向するアノードを有する。本実施の形態に係るプラズマ供給機構50は、ホローカソード51の空洞部内にプラズマを発生させ、そのプラズマを対向するアノードによって基材1の表面と蒸発機構24との間に引き出すことによって、基材1の表面と蒸発機構24との間に強力なプラズマを発生させることができる。対向するアノードの位置は、対向するアノードによってホローカソード51の空洞部の開口からプラズマを引き出し、基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給することができる限り、特に限られない。本実施の形態においては、対向するアノードが、ボート24bの、基材1の幅方向における両側に配置されている場合について説明する。この場合、成膜機構11Cは複数のボート24bと複数の対向するアノードとを有し、複数のボート24bと複数の対向するアノードとは、基材1の幅方向に交互に並べられていてもよい。図示はしないが、プラズマ供給機構50は、少なくともホローカソード51の空洞部内にプラズマ原料ガスを供給する、原料供給装置を有していてもよい。原料供給装置が供給するプラズマ原料ガスとしては、例えばプラズマ前処理機構11Bのプラズマ原料ガス供給部が供給するプラズマ原料ガスとして用いることのできるガスと同様のガスを用いることができる。
プラズマ供給機構50によって、基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給する、蒸着時のプラズマアシストを行うことにより、蒸発機構24において蒸発したアルミニウム、及び酸素ガスを活性化させ、アルミニウムと酸素ガスとの反応又は結合を促進することができる。これにより、基材1の表面に形成される蒸着膜2中のアルミニウムが酸化アルミニウムとして存在する比率を高めることができ、蒸着膜2の特性を安定化することができる。
図示はしないが、成膜装置10は、基材搬送室12Aのうち、成膜室12Cよりも基材1の搬送方向の下流側に位置する部分に、成膜機構11Cによる成膜に起因して基材1に発生した帯電を除去する後処理を行う基材帯電除去部を備えてもよい。基材帯電除去部は、基材1の片面の帯電を除去するように設けられていてもよく、基材1の両面の帯電を除去するように設けられていてもよい。
基材1に後処理を行う基材帯電除去部として用いられる装置は、特に限定されないが、例えばプラズマ放電装置、電子線照射装置、紫外線照射装置、除電バー、グロー放電装置、コロナ処理装置などを用いることができる。
プラズマ処理装置、グロー放電装置を用いて放電を形成することにより後処理を行う場合、基材1の近傍に、アルゴン、酸素、窒素、ヘリウムなどの放電用ガス単体、又はこれらの混合ガスを供給し、交流(AC)プラズマ、直流(DC)プラズマ、アーク放電、マイクロウェーブ、表面波プラズマなど、任意の放電方式を用いて後処理を行うことが可能である。減圧環境下では、プラズマ放電装置を用いて後処理を行うことが最も好ましい。
基材帯電除去部を、基材搬送室12Aのうち、成膜室12Cよりも基材1の搬送方向の下流側に位置する部分に設置し、基材1の帯電を除去することにより、基材1を成膜ローラー25から所定位置で速やかに離して搬送することができる。このため、安定した基材搬送が可能となり、帯電に起因する基材1の破損や品質低下を防ぎ、基材表裏面の濡れ性改善により後加工適正の向上を図ることができる。
(電源)
図2に示す例において、成膜装置10は、前処理ローラー20と、電極部21と、に電気的に接続された、電源32を更に備える。図5に示す例において、電源32は、電力供給配線31を介して、前処理ローラー20、及び電極部21に電気的に接続されている。電源32は、例えば交流電源である。電源32が交流電源である場合には、電源32は、例えば20kHz以上500kHz以下の周波数を有する交流電圧を前処理ローラー20と電極部21との間に印加することが可能である。電源32によって印加可能な投入電力(基材1の幅方向において、電極部21の1m幅あたりに印加可能な電力)は、特に限定されないが、例えば、0.5kW/m以上20kW/m以下である。前処理ローラー20は、電気的にアースレベルに設置されてもよく、電気的にフローティングレベルに設置されてもよい。
(バリアフィルムの製造方法)
次に、上述の成膜装置10を使用して、図1に示すバリアフィルムを製造する方法について説明する。まず、基材1の表面に蒸着膜2を成膜する成膜方法について説明する。成膜装置10を使用した成膜においては、上述の基材1の搬送経路に沿って基材1を搬送しつつ、プラズマ前処理機構11Bを用いて基材1の表面にプラズマ前処理を施すプラズマ前処理工程、及び成膜機構11Cを用いて基材1の表面に蒸着膜を成膜する成膜工程を行う。基材1の搬送速度は、好ましくは200m/min以上であり、より好ましくは400m/min以上1000m/min以下である。
(プラズマ前処理工程)
プラズマ前処理工程は、例えば以下の方法により行われる。まず、プラズマ前処理室12B内にプラズマ原料ガスを供給する。次に、前処理ローラー20と電極部21との間に、上述の交流電圧を印加する。交流電圧の印加の際には、投入電力制御、又はインピーダンス制御などを行ってもよい。
前処理において供給されるプラズマ原料ガスは、酸素単独又は酸素ガスと不活性ガスとの混合ガスが、ガス貯留部から流量制御器を介することでガスの流量を計測しつつ供給される。不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素なる群から選ばれる、1種又は2種以上の混合ガスが挙げられる。
プラズマ処理としては、酸素ガスと前記不活性ガスとの混合比率、酸素ガス/不活性ガスは、6/1~1/1が好ましく、5/2~3/2.5がより好ましい。
混合比率を6/1~1/1とすることで、樹脂基材上での蒸着アルミニウムの膜形成エネルギーが増加し、更に5/2~3/2とすることで、酸化アルミニウム蒸着膜の酸化度を上げて酸化アルミニウム蒸着膜と基材との密着性を確保することができる。
交流電圧の印加によりグロー放電と同時にプラズマが生成し、前処理ローラー20と磁場形成部23との間にプラズマPが高密度化する。このようにして、前処理ローラー20と磁場形成部23との間にプラズマPを供給することができる。このプラズマPによって、基材1の表面にプラズマ(イオン)前処理を施すことができる。
プラズマ処理における単位面積あたりのプラズマ強度として50W・sec/m以上8000W・sec/m以下であり、50W・sec/m以下では、プラズマ前処理の効果がみられず、また、8000W・sec/m以上では、樹脂基材の消耗、破損着色、焼成などプラズマによる樹脂基材の劣化が起きる傾向にある。特に、酸化アルミウム層とするためプラズマ前処理のプラズマ強度としては、100W・sec/m以上1000W・sec/m以下が好ましい。
前処理ローラー20と電極部21との間に交流電圧を印加する際のプラズマ前処理室12B内の気圧は、減圧チャンバ12によって、大気圧以下に減圧される。この場合、プラズマ前処理室12B内の気圧は、例えば、交流電圧の印加により前処理ローラー20と電極部21との間にグロー放電を生じさせることができるように調整される。前処理ローラー20と電極部21との間に交流電圧を印加する際のプラズマ前処理室12B内の圧力は、0.1Pa以上100Pa以下程度に設定、維持することができ、特に、1Pa以上20Pa以下が好ましい。
プラズマ前処理工程における磁場形成部23の作用について説明する。磁場形成部23は、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成する。磁場は、前処理ローラー20と電極部21との間に存在する電子を捕捉し加速させるよう作用し得る。このため、磁場が形成されている領域において、電子とプラズマ原料ガスの衝突の頻度を高め、プラズマの密度を高め、且つ局在化させることがきるので、プラズマ前処理の効率を向上させることができる。
(成膜工程)
成膜工程においては、成膜機構11Cを用いて、基材1の表面に成膜する。成膜工程の一例として、図6に示す蒸発機構24を有する成膜機構11Cを用いて、酸化アルミニウム蒸着膜を成膜する場合について説明する。
まず、蒸発機構24のボート24b内に、成膜ローラー25に対向するように、アルミニウムを含む蒸着材料を供給する。蒸着材料としては、アルミニウムの金属線材を用いることができる。図6に示す例においては、蒸着材料供給部61によってアルミニウムの金属線材を連続的にボート24b内に送り出すことにより、ボート24bに蒸着材料を供給している。
加熱により、アルミニウムをボート24b内で蒸発させる。図6には、便宜的に、蒸発したアルミニウム蒸気63を図示している。アルミニウムを酸化する酸素ガスは、酸素単体でも、アルゴンのような不活性ガスとの混合ガスでの供給でもよいが、酸素量を制御することにより、バリア性、透明性を両立できる。このときの圧力は0.05Pa以上8.00Pa以下が好ましい。
更に、プラズマ供給機構50によって基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給する方法、すなわち蒸着時のプラズマアシストについて説明する。本実施の形態においては、プラズマ供給機構50のホローカソード51の空洞部内でプラズマを発生させる。次に、ホローカソード51と対向するアノードとの間に放電を発生させ、ホローカソード51の空洞部内のプラズマを基材1の表面と蒸発機構24との間に引き出す。
本実施の形態において、ホローカソード51と対向するアノードとの間において発生させる放電は、アーク放電である。アーク放電は、例えば電流の値が10A以上であるような放電を意味する。
基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給しつつ、アルミニウムを蒸発させることにより、アルミニウム蒸気63にプラズマが供給される。プラズマの供給により、アルミニウム蒸気63と酸素ガスとの反応又は結合を促進することができる。これにより、アルミニウム蒸気63が基材1の表面に到達する前に、アルミニウム蒸気63を酸化させることができる。蒸発し、酸化したアルミニウムが基材1に付着することによって、基材1の表面に酸化アルミニウム蒸着膜を成膜し、図1に示すバリアフィルムを製造ことができる。
プラズマ供給機構50で供給されるプラズマ原料ガスは、アルゴンガスが好ましい。
本実施の形態においては、成膜工程の前に、基材1の表面にプラズマを供給するプラズマ前処理工程を実施している。プラズマ前処理工程においては、電極部21と前処理ローラー20との間に交流電圧を印加する。また、電極部21の面のうち前処理ローラー20と対向する面とは反対側の面の側に位置する磁場形成部23を利用して、電極部21と前処理ローラー20との間の空間に磁場を生じさせる。このため、電極部21と前処理ローラー20との間の空間に効率良くプラズマを発生させたり、プラズマを前処理ローラー20に巻き掛けられている基材1の表面に対して垂直に入射させたりすることができる。したがって、成膜工程によって成膜される膜と基材1との間の密着性を高めることができる。
(成膜工程後のエージング処理)
上記の成膜工程を経たバリアフィルムの巻取体は、所定の期間エージング処理(加温処理)が行われる。これにより、酸化アルミニウムの蒸着膜に水酸基の導入が進み、ゲルボフレックス試験後の酸素透過度、水蒸気透過度に優れる蒸着膜が形成される。
エージング温度は、好ましくは50℃以上60℃以下である。エージング時間の下限値は24時間(1日間)以上であり、より好ましくは48時間(2日間)以上である。上限値は144時間(6日間)以下であり、より好ましくは96時間(4日間)以下である。なお、エージング湿度は特に限定されないが、高湿度である必要はなく、通常の相対湿度40%以上70%以下であればよい。
(被覆層形成工程)
被覆層3は、以下の方法で製造することができる。まず、上記金属アルコキシド、水溶性高分子、必要に応じて添加するシランカップリング剤、ゾルゲル法触媒、酸、及び溶媒としての水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロパノール等のアルコール等の有機溶媒を混合し、バリアコート剤を調製する。次いで、酸化アルミニウム蒸着膜の上に、常法により、上記のバリアコート剤を塗布し、乾燥する。この乾燥工程によって、上記金属アルコキシド及びシランカップリング剤から生成されたシラノールの重縮合が更に進行し、塗膜が形成される。上記乾燥条件としては、20~200℃、かつプラスチック基材の融点以下の温度、好ましくは、50~180℃の範囲の温度で、3秒~10分間加熱処理する。これによって、酸化アルミニウム蒸着膜の上に、上記バリアコート剤による被覆層3を形成することができる。なお、第一の塗膜の上に、更に上記塗布操作を繰り返して、2層以上からなる複数の塗膜を形成してもよい。
上記の被覆層形成工程を経たバリアフィルムの巻取体は、所定の期間エージング処理(加温処理)が行われる。これにより、被覆層の縮合が適度に進み、レトルト試験後のバリア性が低下しにくいバリアフィルムが得られる。
被覆層形成工程後のエージング温度の下限値は好ましくは40℃以上であり、より好ましくは50℃以上である。上限値は好ましくは100℃以下であり、より好ましくは70℃以下である。エージング時間の下限値は24時間(1日間)以上であり、より好ましくは48時間(2日間)以上である。上限値は144時間(6日間)以下であり、より好ましくは96時間(4日間)以下である。なお、エージング湿度は特に限定されないが、高湿度である必要はなく、通常の相対湿度40%以上70%以下であればよい。
(成膜工程2)
前記被覆層の上にさらに酸化アルミニウム蒸着膜を成膜しても良い。前記の成膜工程とエージング処理と同様の条件で成膜可能である。
(被覆層形成工程2)
前記成膜工程2を経て蒸着された酸化アルミニウム蒸着膜の上に、さらに被覆層を成膜しても良い。前記の被覆層形成工程と同様の条件で成膜可能である。
(積層体)
本実施の形態に係るバリアフィルムを用いることによって形成される積層体の例について説明する。図7は、本実施の形態に係るバリアフィルムを用いることによって形成される積層体40の一例を示す図である。積層体40は、図1に示すバリアフィルムと、シーラント層7とを備える。具体的には、積層体40は、図1に示すバリアフィルムの被覆層上に、更に接着剤層4と、ポリアミドなどで構成される第2基材5と、接着剤層6と、シーラント層7とを、この順に備える。本発明の積層体は、バリアフィルムに少なくとも1層のヒートシール可能な層を積層したものであって、ヒートシール可能な熱可塑性樹脂が、接着層を介して、あるいは介することなく、最内層として積層され、ヒートシールなどのシール性が付与されたものである。なお、図示しないが、バリアフィルムのいずれか一方の表面側には、印刷層が形成されていても良い。印刷層を設けることで内容物の表示などが可能となる。
シーラント層7を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレンーアクリル酸共重合体、エチレンーアクリル酸エチル共重合体、エチレンーメタクリル酸メチル共重合体、エチレンープロピレン共重合体、エラストマー等の樹脂の一種ないしそれ以上を含むフィルムが例示できる。シーラント層7の厚さとしては3~100μmが好ましく、15~70μmがより好ましい。
(包装材料)
上記の積層体は、食品などの内容物を収容する包装袋を作製するための包装材料として用いる場合に有用である。特に、熱処理を施した場合においても高い密着性が維持されるバリアフィルムは、包装袋の材料として好適に使用できる。上記のバリアフィルムは、バリアフィルムを材料として包装製品を作成した場合に、包装製品において、バリアフィルムを構成する層の剥離を抑制することができる。例えば、バリアフィルムを材料として作製した包装袋に対して、熱水を用いた加熱殺菌処理、例えばレトルト処理又はボイル処理を施した場合に、バリアフィルムを構成する層の剥離、特に蒸着膜2の基材1からの剥離を抑制できる。
なお、レトルト処理とは、内容物を包装袋に充填して包装袋を密封した後、蒸気又は加熱温水を利用して包装袋を加圧状態で加熱する処理である。レトルト処理の温度は、例えば120℃以上である。ボイル処理とは、内容物を包装袋に充填して包装袋を密封した後、包装袋を大気圧下で湯煎する処理である。ボイル処理の温度は、例えば90℃以上且つ100℃以下である。
本実施の形態に係るバリアフィルムを用いることによって形成される積層体は、135℃、40分間のレトルト処理後のJIS K 7126-2に準拠した、23℃、90%RHにおける酸素透過率が、0.5cc/m・day・atm以下である。また、135℃、40分間のレトルト処理後のJIS K 7129 B法に準拠した、40℃、100%RHにおける水蒸気透過率が、2g/m・day以下である。このように、レトルト処理後であっても高いガスバリア性を備える積層体が得られる。
本実施の形態に係るバリアフィルムを用いることによって形成される積層体は、ゲルボフレックス試験後のJIS K 7126-2に準拠した、23℃、90%RHにおける酸素透過率が、3cc/m・day・atm以下である。また、ゲルボフレックス試験後のJIS K 7129 B法に準拠した、40℃、100%RHにおける水蒸気透過率が、2g/m・day以下である。このように、ゲルボフレックス試験後であっても高いガスバリア性を備える積層体が得られる。なお、ゲルボフレックス試験とは、ASTM F392に準拠したゲルボフレックス試験を5回繰り返す試験である。
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。まず、本実施の形態に記載の成膜装置である成膜装置10、及び成膜方法を用いて、実施例1~7、比較例1~6に係るバリアフィルムを製造した。前処理条件、蒸着条件などにつき、まとめて表1、表3に示す。
(実施例1)
基材1として、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、商品名:ユニチカ社製PET-F)を用い、図2に示す成膜装置10を用いて、プラズマ前処理工程、及び成膜工程を行った。
前処理工程においては、図2及び図3に示す、プラズマ前処理機構11Bを用いて、基材1の表面にプラズマ前処理を施した。具体的には、まず、プラズマ前処理室12Bに、プラズマ原料ガス供給部を用いてプラズマ形成ガスを供給しつつ、減圧チャンバ12を用いて、プラズマ前処理室12B内の気圧を調整した。次に、前処理ローラー20と電極部21との間に電圧を印加してプラズマを発生させ、基材1の表面にプラズマ前処理を施した。プラズマ前処理の条件は以下のA条件とした。
<前処理A条件>
基材の搬送速度:600m/min
高周波電源出力:4kW
高周波電源周波数:40kHz
プラズマ強度:550W・sec/m
プラズマ形成ガス:酸素100(sccm)、アルゴン1000(sccm)
磁気形成手段:1000ガウスの永久磁石
前処理ドラム-プラズマ供給ノズル間印加電圧:420V
前処理区画の圧力:2.0×10-1Pa
成膜工程においては、図6に示すような抵抗加熱方式(表1中RHと記す)の蒸発機構24を用いて、真空蒸着法により、酸化アルミニウムを含む蒸着膜2を成膜した。具体的には、蒸着材料としてアルミニウムの金属線材をボート24b内に供給しつつ、抵抗加熱式の蒸発機構24を用い、ボート24b内の蒸着材料を加熱し、基材1の表面に到達するようにアルミニウムを蒸発させるとともに、酸素を供給しながら、基材1の表面に蒸着膜2を成膜した。
また、プラズマ供給機構50として、図6に示すホローカソード51と、ボート24bからみて、基材1の幅方向における両側に配置された、ホローカソード51の空洞部の開口と対向する図示しないアノードと、を有する形態を用い、ホローカソード51の空洞部にプラズマ原料ガス(アルゴンガス)を供給し、放電させてプラズマを励起し、このプラズマを、対向するアノードによって、基材1の表面と蒸発機構24との間に引き出して、蒸着時のプラズマアシストを行った。
以上の方法により基材1上に蒸着膜2を積層した。このときの搬送速度600m/分であり、蒸着膜2の厚さは8.9nmであった。このとき、蒸着後にインラインで測定される波長366nmの光線透過率は、基材1に対し前処理を施し、蒸着していない状態の透過率を100%の基準に設定した。そのうえで蒸着を開始し、光線透過率が99.7%になるように、酸素供給量をフィードバック制御した。蒸着中の圧力は1.1Paであった。
上記の成膜工程を経たバリアフィルムの巻取体を、50℃で2日間、相対湿度50%~60%でエージング処理を行った。
更に、蒸着膜2上に被覆層3(表1における被覆層A)を積層した。水47.69g、イソプロピルアルコール22.80g及び0.5N塩酸1.13gを混合し、pH2.2に調整した溶液に、金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン(SiO換算の固形分28%)27.04gと、シランカップリング剤としてグリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.35gを10℃となるよう冷却しながら混合させて溶液Aを調製した。水溶性高分子として、ケン価度99%以上の重合度2400のポリビニルアルコール(固形分100%)4.14g、水91.07g、イソプロピルアルコール4.79gを混合した溶液Bを調製した。A液とB液の質量比を65:35となるよう混合して得られた溶液をバリアコート剤とした。上記のPETフィルムの酸化アルミニウム蒸着膜上に、上記で調製したバリアコート剤をダイレクトグラビア法によりコーティングした。その後、140℃で30秒間、オーブンにて加熱処理して、乾燥膜厚300nmのバリア性被覆層を酸化アルミニウム蒸着膜上に形成して、被覆層Aを形成して巻き取った。その後、巻取体を55℃で3日間のエージング処理を行い、実施例1のバリアフィルムを製造した。
表1中のIO値は、ポリビニルアルコールに対するテトラエトキシシランの固形分比率であり、本実施例のIO値=3.4である。
(実施例2)
実施例1において、成膜工程後のエージング処理を、55℃で3日間とした以外は実施例1と同様にして、実施例2のバリアフィルムを製造した。
(実施例3)
実施例1において、成膜工程後のエージング処理を、60℃で4日間とした以外は実施例1と同様にして、実施例3のバリアフィルムを製造した。
(実施例4)
実施例2において、A液とB液の質量比を55:45(IO値=2.2)とした以外は実施例2と同様にして、実施例4のバリアフィルムを製造した。
(実施例5)
基材1として、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、商品名:東レ社製P60)を用い、基材1上にアクリルウレタン系樹脂のアンカーコート層(表1中ACと記す)を厚さ200nmで形成し、プラズマ前処理工程を行なわず、搬送速度480m/分で、蒸着膜の厚さを12.0nmとし、蒸着後にインラインで測定される波長366nmの光線透過率が98.0%になるように、酸素供給量をフィードバック制御し、蒸着中の圧力を1.5Paとした以外は、実施例2と同様にして、成膜工程を行った。なお、蒸着後にインラインで測定される波長366nmの光線透過率は、基材1とアンカーコート層があり、蒸着していない状態の透過率を100%の基準に設定した。
上記の成膜工程を経たバリアフィルムの巻取体を、55℃で3日間として実施例2と同じエージング処理を行った。
実施例2において、A液とB液の質量比を57:43(IO値=2.4)とし、膜厚を350nmとした以外は実施例2と同様の被覆層形成工程を行った。その後、被覆層形成工程後の巻取体につき実施例2と同様のエージング処理を行い、実施例5のバリアフィルムを製造した。
(実施例6)
実施例5において、アンカーコート層を形成せず、以下のB条件でリアクティブイオンエッチング(RIE)によるプラズマ前処理を行った以外は、実施例5と同様にして成膜工程を行った。
<前処理B条件(RIE処理条件)>
高周波電源出力:4kW
高周波電源周波数:13.56MHz
プラズマ形成ガス:アルゴンガス
その後、被覆層形成工程において、A液とB液の質量比を49:51(IO値=1.8)とし、膜厚を300nmとした以外は実施例5と同様の被覆層形成工程を行った。その後、被覆層形成工程後の巻取体につき実施例5と同様のエージング処理を行い、実施例6のバリアフィルムを製造した。
(実施例7)
実施例6と同様に、基材1にB条件でプラズマ前処理を行い、搬送速度550m/分で、蒸着膜の厚さを10.0nmとし、蒸着後にインラインで測定される波長366nmの光線透過率が99.0%になるように、酸素供給量をフィードバック制御し、蒸着中の圧力を1.3Paとした以外は、実施例2と同様にして、成膜工程を行った。
次に、被覆層形成工程において、膜厚を210nmとした以外は実施例6と同様の被覆層形成工程を行った。その後、被覆層形成工程後の巻取体につき実施例6と同様のエージング処理を行った。
前記被覆層形成工程後の表面に、2回目の成膜工程を実施した。搬送速度550m/分で、蒸着膜の厚さを10.0nmとし、蒸着後にインラインで測定される波長366nmの光線透過率が99.0%になるように、酸素供給量をフィードバック制御し、蒸着中の圧力を1.3Paとした以外は、実施例2と同様にして、成膜工程を行った。
最後に、2回目の被覆層形成工程において、膜厚を210nmとした以外は実施例6と同様の被覆層形成工程を行った。その後、被覆層形成工程後の巻取体につき実施例6と同様のエージング処理を行い、実施例7のバリアフィルムを製造した。
(比較例1)
実施例1において、成膜工程後のエージング処理と、被覆層形成工程後のエージング処理とを行わなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1のバリアフィルムを製造した。
(比較例2)
実施例1において、成膜工程後のエージング処理を、60℃、相対湿度80%で5日間とした以外は実施例1と同様にしたところ、被覆層形成工程の巻き出し時にフィルム破断が生じ、被覆層形成工程を行うことができなかった。
(比較例3)
実施例2において、成膜工程時の蒸着時プラズマアシストを行わず、蒸着膜2の厚さを8.0nmとし、蒸着後にインラインで測定される波長366nmの光線透過率が94.0%になるように、酸素供給量をフィードバック制御し、蒸着中の圧力を0.30Paとした以外、実施例2と同様の成膜工程及び成膜工程後のエージング工程を行った。
被覆層形成工程においては、A液とB液の質量比を52:48(IO値=2.0)とし、膜厚を200nmとし、被覆層形成工程後のエージング処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にして、比較例3のバリアフィルムを製造した。
(比較例4)
比較例3において、抵抗加熱方式に代えてEB加熱方式(表1中EBと記す)を用い、蒸着後にインラインで測定される波長366nmの光線透過率が88.0%になるように、酸素供給量をフィードバック制御し、蒸着中の圧力を0.20Paとした以外、比較例3と同様の成膜工程及び成膜工程後のエージング工程を行った。
被覆層形成工程においては、比較例3と同様にして、比較例4のバリアフィルムを製造した。
(比較例5)
比較例3において、蒸着後にインラインで測定される波長366nmの光線透過率が92.0%になるように、酸素供給量をフィードバック制御し、蒸着中の圧力を0.20Paとした以外、比較例3と同様の成膜工程及び成膜工程後のエージング工程を行った。
被覆層形成工程においては、比較例3と同様にして、比較例5のバリアフィルムを製造した。
(比較例6)
比較例5と同様の成膜工程及び成膜工程後のエージング工程を行った。
被覆層形成工程においては、実施例1と同様にして、比較例6のバリアフィルムを製造した。
Figure 0007355957000001
[XAFSスペクトルの取得と解析]
実施例1~7、比較例1~6(比較例2を除く)のバリアフィルムについて、下記測定条件で、XAFSスペクトルを得た。このうち、実施例1、5、6、比較例3、4、6の結果を図8に示す。図8の縦軸は発生した蛍光X線の強度(図中は吸収強度(a.u)として記載)、横軸は光(またはX線)エネルギー(eV)である。
<XAFSスペクトル取得>
・利用ライン:あいちシンクロトロン光センターBL1N2
・加速エネルギー:1.2GeV
・ビームサイズ:水平方向1.0mm×垂直1.0mm
・試料への入射角:22.5°(サンプルに対して垂直方向を0°とする)
・入口スリット : 30μm
・出口スリット : 30μm
・測定方法:部分蛍光収量法
・エネルギー範囲(Al K-edge):1500~1700eV
・エネルギーステップ:
1500~1550eV:2.0eV/step
1550~1555eV:1.0eV/step
1555~1575eV:0.2eV/step
1575~1600eV:0.5eV/step
1600~1680eV:1.0eV/step
1680~1700eV:2.0eV/step
(溜め込み時間:すべて10s/point)
・エネルギー校正:Au板のAu 4f 7/2によるエネルギー校正(実測値から理論値1500eVを引いた値で校正)
<XAFSスペクトル解析>
ピーク分離方法
吸収X線のエネルギー値1540eVにおける吸収スペクトル強度値が0、吸収X線のエネルギー値1680eVにおける吸収スペクトル強度値が1、となるように強度値を規格化した。
Figure 0007355957000002
規格化後のデータ点の1555eVから1575eVと、1595eVから1605eVまでを抽出し、上記のf(x)の関数をフィッティングして、各係数を求めた。ただし、k=k、K=X、K=Xの制約条件を入れている。フィッティングは最小二乗法により行った。この際、Pythomのscipyライブラリのleast squares関数を用い、係数の初期値について、下表のように値を与えて求めた。上記関数の記号の定義は以下である。
:i番目の吸収ピークにおけるガウス関数とローレンツ関数の重み因子
:i番目の吸収ピークにおけるピーク中心
:i番目の吸収ピークにおけるピーク強度因子
β:i番目の吸収ピークにおけるピーク幅因子
:j番目のベースラインにおけるベースライン強度因子
:j番目のベースラインにおけるベースライン強度の半割位置
Figure 0007355957000003
図8のXAFSスペクトルをそれぞれピーク分離した結果を、図9から図14にそれぞれ示す。図9は実施例1のXAFSピークを分離した解析結果であり、図9は実施例1のXAFSピークを分離した解析結果であり、図10は実施例5のXAFSピークを分離した解析結果であり、図11は実施例6のXAFSピークを分離した解析結果であり、図12は比較例3のXAFSピークを分離した解析結果であり、図13は比較例4のXAFSピークを分離した解析結果であり、図14は比較例6のXAFSピークを分離した解析結果である。
Experimentは実測のXAFSスペクトルであり、Fit.Peak1は、分離された1566eV付近の強度ピークであり、Fit.Peak2は、分離された1568eV付近の強度ピークであり、Fit.Peak3は、分離された1572eV付近の強度ピークである。ここから、XAFSピークトップ比P=(1572eV付近の強度ピークトップ)/(1566eV付近の強度ピークトップ)を計算した結果を、実施例1~6、比較例1~6(比較例2を除く)のバリアフィルムについて表3に示す。
<被覆層表面の元素分析>
実施例1から7、比較例1から6(比較例2を除く)のバリアフィルムについて、被覆層表面における元素濃度(モル)を求めた。各元素の割合は、X線光電子分光法(XPS)により、下記の測定条件のナロースキャン分析によって測定した。この結果をまとめて表3に示す。
(測定条件)
使用機器:「PHI5000V Versa Probe III」(PHI製走査型X線光電子分光装置)
入射X線:Al Kα(単色化X線、hν=1486.6eV)
X線出力:50W(15kV・3.3mA)
X線ビーム径:200μmφ
X線走査面積:600μm×300μm
光電子取込角度:45度
帯電中和:電子中和銃、低加速Arイオン照射
Figure 0007355957000004
<バリアフィルムのバリア性の測定>
実施例1から7、比較例1から6(比較例2を除く)のバリアフィルムについて、水蒸気透過率及び酸素透過率の値を測定した。
水蒸気透過率は、水蒸気透過率測定装置(モコン社製、製品名「PERMATORAN-W 3/31」)を用いて、40℃、100%RHの測定条件で、JIS K 7129 B法に準拠し、測定した。また、酸素透過率は、酸素透過率測定装置(モコン社製、製品名「OX-TRAN 2/20」)を用いて、23℃、90%RHの測定条件で、JIS K 7126-2に準拠して測定した。結果を表4に示す。
<積層体(包装材料)のバリア性の測定>
実施例1から7、比較例1から6(比較例2を除く)のバリアフィルムの被覆層3上に、2液硬化型のポリウレタン系ラミネート用接着剤を、グラビアロールコート法を用いて厚さ4.0g/m(乾燥状態)にコーティングして接着剤層4を形成し、次いで、接着剤層4の面に、第2基材5として厚さ15μmの二軸延伸ポリアミドフィルムを対向させ、ドライラミネートして積層した。次に、第2基材5の面に、上記の接着剤層4と同様に、ラミネート用の接着剤層6を形成し、次に、接着剤層6の面に、シーラント層7として厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルムをドライラミネートして積層して、図7に示すような層構成の積層体を製造した。
<積層体のゲルボ後バリア性の測定>
実施例1から7、比較例1から6(比較例2を除く)のバリアフィルムを用いた積層体について、下記の条件でゲルボフレックス試験を行い、試験後の水蒸気透過率及び酸素透過率の値を測定した。結果を表4に示す。
ゲルボフレックス試験条件:ASTM F392に準拠し、A4サイズ(210mm×297mm)の積層体を筒状に試験機にセットし、ゲルボフレックス試験(試験機:テスター産業株式会社製、BE-1005ゲルボフレックステスター)を5回繰り返した。
<積層体(包装材料)のレトルト処理後のバリア性の測定>
実施例1から7、比較例1から6(比較例2を除く)のバリアフィルムを用いた積層体を、シーラント層同士が向き合うように対向させ、ヒートシールすることによって、パウチに成形した。B5サイズ(182mm×257mm)のパウチに水100ccを充填した後、135℃、40分のレトルト処理を行った。レトルト処理を行なった後の状態の積層体のそれぞれについて、水蒸気透過率及び酸素透過率の値と、水付け剥離強度の値を測定した。結果を表4に示す。
水付け剥離強度は、以下の方法によって測定した。まず、レトルト処理を行った後の状態の積層体のそれぞれを短冊切りし、幅15mmの矩形の試験片を得た。次に、試験片の蒸着膜と基材とを、試験片の長手方向(試験片の幅方向と直交する方向)に向かって部分的に引き剥がした。蒸着膜と基材との引き剥がしは、蒸着膜と基材とが、一部においては接合を維持するように行った。次に、テンシロン万能材料試験機を用いて、JIS Z6854-2に準拠し、蒸着膜と基材との界面の剥離強度を、剥離角度180°、剥離速度50mm/minの条件にて測定した。水付け剥離強度の測定においては、試験片の長手方向に沿ってみた場合における、蒸着膜と基材とが接合を維持している部分と、蒸着膜と基材とが引き剥がされている部分との境界部分にスポイトで水を滴下した状態で、30mmにわたって剥離を進行させるために要した引張力を測定し、引張力の平均値を算出した。6個の試験片について引張力の平均値をそれぞれ算出し、その平均値を水付け剥離強度とした。
Figure 0007355957000005
表3、表4より、XAFSスペクトルから得られるピークトップ比Pが0.70以上1.05未満である本実施形態に係るバリアフィルムを用いた積層体は、特にゲルボフレックス試験後、レトルト処理後のバリア性の低下が共に抑制されている。
1 基材
2 蒸着膜
3 被覆層
4 接着剤層
5 第2基材
6 接着剤層
7 シーラント層
10 成膜装置
P プラズマ
X 回転軸
11A 基材搬送機構
11B プラズマ前処理機構
11C 成膜機構
12 減圧チャンバ
12A 基材搬送室
12B プラズマ前処理室
12C 成膜室
13 巻き出しローラー
14a~d ガイドロール
15 巻き取りローラー
20 前処理ローラー
21 電極部
23 磁場形成部
23a 第1面
23b 第2面
231 第1磁石
231c 第1軸方向部分
232 第2磁石
232c 第2軸方向部分
232d 接続部分
24 蒸発機構
24b ボート
25 成膜ローラー
31 電力供給配線
32 電源
35a~35c 隔壁
50 プラズマ供給機構
51 ホローカソード
61 蒸着材料供給部
63 アルミニウム蒸気

Claims (9)

  1. 樹脂基材と、酸化アルミニウム蒸着膜と、被覆層と、がこの順に積層されているバリアフィルムであって、
    前記被覆層は、アルコキシシランと、水酸基含有水溶性樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物であり、
    前記被覆層のケイ素原子/炭素原子比が0.55以上0.80以下であり、
    前記酸化アルミニウム蒸着膜は、前記バリアフィルムの前記被覆層表面側から、X線吸収微細構造分析を行った際の、下記で定義されるピークトップ比Pが0.70以上1.05未満である、バリアフィルム。
    P=(1572eV付近の強度ピークトップ)/(1566eV付近の強度ピークトップ)
  2. 前記被覆層の炭素原子が20.0%以上29.0%以下、酸素原子が55.0%以上60.0%以下、ケイ素原子が16.0%以上20.0%以下、である請求項に記載のバリアフィルム。
  3. 前記樹脂基材と前記酸化アルミニウム蒸着膜との間にアンカーコート層を備える、請求項1又は2に記載のバリアフィルム。
  4. 請求項1又は2に記載のバリアフィルムと、シーラント層とを備える積層体。
  5. 請求項に記載の積層体の下記条件下におけるゲルボフレックス試験後のJIS K 7126-2に準拠した、23℃、90%RHにおける酸素透過率が、3cc/m・day・atm以下である、積層体。
    ゲルボフレックス試験:ASTM F392に準拠したゲルボフレックス試験を5回繰り返す。
  6. 請求項に記載の積層体の下記条件下におけるゲルボフレックス試験後のJIS K 7129 B法に準拠した、40℃、100%RHにおける水蒸気透過率が、2g/m・day以下である、積層体。
    ゲルボフレックス試験:ASTM F392に準拠したゲルボフレックス試験を5回繰り返す。
  7. 請求項に記載の積層体の135℃、40分間のレトルト処理後のJIS K 7126-2に準拠した、23℃、90%RHにおける酸素透過率が、0.5cc/m・day・atm以下である、積層体。
  8. 請求項に記載の積層体の135℃、40分間のレトルト処理後のJIS K 7129 B法に準拠した、40℃、100%RHにおける水蒸気透過率が、2g/m・day以下である、積層体。
  9. 請求項に記載の積層体を備える包装製品。
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