以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」を意味する。
図1は、本実施の形態に係るバリアフィルムの一例を示す断面図である。本実施の形態に係る成膜装置を用いて製造されるバリアフィルムは、例えば図1に示すバリアフィルムAのように、基材1と、蒸着膜2と、有機被覆層3と、を備える。図1に示す例において、蒸着膜2は、基材1の一方の面上に位置する。また、図1に示す例において、バリアフィルムAは、基材1、蒸着膜2、有機被覆層3の順に積層されており、有機被覆層3はバリアフィルムの表面に位置している。
なお、本明細書において「この順に積層」とは、基材と、酸化アルミニウム蒸着膜と、有機被覆層と、がこの順番に並ぶように積層されていればよく、これらの層の間に、例えばプライマー他の層が積層されていてもよい。
以下、バリアフィルムAを構成する各層について説明する。
[基材]
基材1は主に樹脂を含む層である。樹脂は特に制限されるものではなく、公知の樹脂フィルム又はシートを使用することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂などを含むポリエステル系樹脂や、ポリアミド系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのα-オレフィンの重合体や共重合体などを含むポリオレフィン系樹脂等、を含む樹脂フィルムを用いることができる。
これらの樹脂の中でも、ポリエステル系樹脂が好適に用いられ、更には、ポリエステル系樹脂の中でも、ポリエチレンテレフタレート系樹脂やポリブチレンテレフタレート系樹脂を用いることが好ましい。基材1として用いられるポリエステルフィルムは、所定の方向において延伸されていてもよい。この場合、ポリエステルフィルムは、所定の一方向において延伸された一軸延伸フィルムであってもよく、所定の二方向において延伸された二軸延伸フィルムであってもよい。例えば、基材1としてポリエチレンテレフタレートからなるフィルムを用いる場合には、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることができる。
上記のような基材1として用いられるポリエステルフィルムの厚さは、特に制限を受けるものではなく、後述する成膜装置により蒸着膜2を成膜する際の前処理や成膜処理をすることができるものであればよいが、可撓性及び形態保持性の観点からは、6μm以上100μm以下の範囲が好ましい。ポリエステルフィルムの厚さが前記範囲内にあると、曲げやすい上に搬送中に破けることもなく、密着性が向上された蒸着膜2を有するバリアフィルムの製造に用いられる成膜装置で取り扱いやすい。
ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)としては、従来公知のPETフィルム以外に、バイオマスPETフィルム、リサイクルPETフィルム、高スティッフネスPETフィルム(強靭PETフィルム)を基材1として用いてもよい。
<バイオマスPETフィルム>
バイオマスPETフィルムは、バイオマス由来のポリエステルを含む樹脂フィルムであり、バイオマス由来のポリエステルは、ジオール単位がバイオマス由来のエチレングリコールで、ジカルボン酸単位が化石燃料由来のジカルボン酸である。
バイオマス由来のエチレングリコールは、従来の化石燃料由来のエチレングリコールと化学構造が同じであるため、バイオマス由来のエチレングリコールを用いて合成されたポリエステルのフィルムは、従来の化石燃料由来のポリエステルフィルムと機械的特性等の物性面で遜色がない。したがって、バイオマス由来のポリエステルフィルムを使用した基材は、カーボンニュートラルな材料からなる層を有するため、従来の化石燃料から得られる原料から製造された基材に比べて、化石燃料の使用量を削減することができ、環境負荷を減らすことができる。
バイオマス由来のエチレングリコールは、サトウキビ、トウモロコシ等のバイオマスを原料として製造されたエタノール(バイオマスエタノール)を原料としたものである。例えば、バイオマスエタノールを、従来公知の方法により、エチレンオキサイドを経由してエチレングリコールを生成する方法等により、バイオマス由来のエチレングリコールを得ることができる。また、市販のバイオマスエチレングリコールを使用してもよく、例えば、インディアグライコール社から市販されているバイオマスエチレングリコールを好適に使用することができる。
ポリエステルのジカルボン酸単位は、化石燃料由来のジカルボン酸を使用する。ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体を使用することができる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸及びイソフタル酸等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸の誘導体としては、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル、具体的には、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル及びブチルエステル等が挙げられる。これらの中でも、テレフタル酸が好ましく、芳香族ジカルボン酸の誘導体としては、ジメチルテレフタレートが好ましい。
バイオマス由来のポリエステルは、ジオール単位とジカルボン酸単位とを重縮合させる従来公知の方法により得ることができる。具体的には、上記のジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法や、有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法によって製造することができる。
バイオマス由来のポリエステルを含む樹脂フィルムを構成する樹脂組成物は、バイオマス由来のポリエステルのみで構成されていてもよいし、バイオマス由来のポリエステルに加えて、化石燃料由来のポリエステルを含んでいてもよい。化石燃料由来のポリエステルは、ジオール単位とジカルボン酸単位とからなり、ジオール単位として化石燃料由来のジオールのエチレングリコールを用い、ジカルボン酸単位として化石燃料由来のジカルボン酸を用いて重縮合反応により得られたものである。
バイオマス由来のポリエステルを含む樹脂フィルムを構成する樹脂組成物中の樹脂は、バイオマス由来のポリエステルに加えて、リサイクルポリエステルを含んでいてもよい。リサイクルポリエステルは、バイオマス由来のポリエステルをリサイクルしたものであってもよいし、化石燃料由来のポリエステルをリサイクルしたものであってもよい。
バイオマス由来のポリエステルを含む樹脂フィルムを構成する樹脂組成物は、各種の添加剤を含有することができる。添加剤として、例えば、可塑剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、摩擦低減剤、離型剤、抗酸化剤、イオン交換剤、着色顔料などが挙げられる。添加剤は、PETを含む樹脂組成物全体中に、5質量%以上50質量%以下、好ましくは5質量%以上20質量%以下の範囲で含有されることが好ましい。
バイオマス由来のポリエステルを含む樹脂フィルムは、例えば、Tダイ法によってフィルム化することにより形成することができる。具体的には、上記したPETを乾燥させた後、PETの融点以上の温度(Tm)~Tm+70℃の温度に加熱された溶融押出機に供給して、樹脂組成物を溶融し、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出し、押出されたシート状物を回転している冷却ドラムなどで急冷固化することによりフィルムを成形することができる。溶融押出機としては、一軸押出機、二軸押出機、ベント押出機、タンデム押出機等を目的に応じて使用することができる。なお、以下必要に応じて融点をTm、ガラス転移点をTgと表記することがある。
大気中の二酸化炭素には、14Cが一定割合(105.5pMC)で含まれているため、大気中の二酸化炭素を取り入れて成長する植物、例えばトウモロコシ中の14C含有量も105.5pMC程度であることが知られている。また、化石燃料中には14Cが殆ど含まれていないことも知られている。したがって、ポリエステル中の全炭素原子中に含まれる14Cの割合を測定することにより、バイオマス由来の炭素の割合を算出することができる。本発明において、「バイオマス度」とは、バイオマス由来成分の質量比率を示すものである。PET(ポリエチレンテレフタレート)を例にとると、PETは、2炭素原子を含むエチレングリコールと8炭素原子を含むテレフタル酸とがモル比1:1で重合したものであり、エチレングリコールとしてバイオマス由来のもののみを使用した場合、PET中のバイオマス由来成分の質量比率は31.25%であるため、バイオマス度は31.25%となる(バイオマス由来のエチレングリコール由来の分子量/ポリエステルの重合1単位の分子量=60÷192)。また、化石燃料由来のポリエステルのバイオマス由来成分の質量比率は0%であり、化石燃料由来のポリエステルのバイオマス度は0%となる。本発明において、バイオマス由来のポリエステルを含む樹脂フィルム中のバイオマス度は、5.0%以上であることが好ましく、更に好ましくは10.0%以上であり、好ましくは30.0%以下である。
バイオマス由来のポリエステルを含む樹脂フィルムは二軸延伸されていることが好ましい。二軸延伸は従来公知の方法で行うことができる。例えば、上記のようにして冷却ドラム上に押し出されたフィルムを、続いて、ロール加熱、赤外線加熱などで加熱し、縦方向に延伸して縦延伸フィルムとする。この延伸は2個以上のロールの周速差を利用して行うのが好ましい。縦延伸は、通常、50~100℃の温度範囲で行われる。また、縦延伸の倍率は、フィルム用途の要求特性にもよるが、2.5倍以上4.2倍以下とするのが好ましい。延伸倍率が2.5倍未満の場合は、ポリエステルフィルムの厚み斑が大きくなり良好なフィルムを得ることが難しい。
縦延伸されたフィルムは、続いて横延伸、熱固定、熱弛緩の各処理工程を順次施して二軸延伸フィルムとなる。横延伸は、通常、50~100℃の温度範囲で行われる。横延伸の倍率は、この用途の要求特性にもよるが、2.5倍以上5.0倍以下が好ましい。2.5倍未満の場合はフィルムの厚み斑が大きくなり良好なフィルムが得られにくく、5.0倍を超える場合は製膜中に破断が発生しやすくなる。
横延伸のあと、続いて熱固定処理を行うが、好ましい熱固定の温度範囲は、ポリエステルのTg+70~Tm-10℃である。また、熱固定時間は1~60秒が好ましい。更に熱収縮率の低滅が必要な用途については、必要に応じて熱弛緩処理を行ってもよい。
バイオマス由来のポリエステルを含む樹脂フィルムの厚さは、その用途に応じて任意であるが、通常、5~500μm程度である。バイオマス由来のポリエステルを含む樹脂フィルムの破断強度は、MD方向で5~40kgf/mm2、TD方向で5~35kgf/mm2であり、また、破断伸度は、MD方向で50~350%、TD方向で50~300%である。また、150℃の温度環境下に30分放置した時の収縮率は、0.1~5%である。
バイオマス由来のポリエステルを含む樹脂フィルムは、袋、蓋材、ラミチューブなどの包装製品、各種ラベル材料、シート成型品等の用途に好適に使用することができる。なお、リサイクルPETを含む樹脂フィルムを包装製品の用途に使用する場合、延伸フィルムの厚さは、5~30μmであることが好ましい。
<リサイクルPETフィルム>
リサイクルPETフィルムは、リサイクルPETを含む樹脂フィルムであり、メカニカルリサイクルによりリサイクルされたPETを含む。具体的には、PETボトルをメカニカルリサイクルによりリサイクルしたPETを含み、このPETは、ジオール成分がエチレングリコールであり、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸及びイソフタル酸を含む。
ここで、メカニカルリサイクルとは、一般に、回収されたPETボトル等のポリエチレンテレフタレート樹脂製品を粉砕、アルカリ洗浄してPET樹脂製品の表面の汚れ、異物を除去した後、高温・減圧下で一定時間乾燥してPET樹脂の内部に留まっている汚染物質を拡散させ除染を行い、PET樹脂からなる樹脂製品の汚れを取り除き、再びPET樹脂に戻す方法である。
以下、PETボトルをリサイクルしたポリエチレンテレフタレートを「リサイクルポリエチレンテレフタレート(以下、リサイクルPETとも記す)」といい、リサイクルされていないポリエチレンテレフタレートを「ヴァージンポリエチレンテレフタレート(以下、ヴァージンPETとも記す)」というものとする。
基材に含まれるPETのうち、イソフタル酸成分の含有量は、PETを構成する全ジカルボン酸成分中に、0.5モル%以上5モル%以下であることが好ましく、1.0モル%以上2.5モル%以下であることがより好ましい。イソフタル酸成分の含有量が0.5モル%未満であると柔軟性が向上しない場合があり、一方、5モル%を超えるとPETの融点が下がり耐熱性が不十分となる場合がある。
なお、PETは、通常の化石燃料由来のPETの他、バイオマス由来のPETであってもよい。このバイオマス由来のPETは、バイオマス由来のエチレングリコールをジオール成分とし、化石燃料由来のジカルボン酸をジカルボン酸成分とするPETである。
PETボトルに用いられるPETは、上記したジオール成分とジカルボン酸成分とを重縮合させる従来公知の方法により得ることができる。具体的には、上記のジオール成分とジカルボン酸成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法、又は有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法などによって製造することができる。上記PETを製造する際に用いるジオール成分の使用量は、ジカルボン酸又はその誘導体100モルに対し、実質的に等モルであるが、一般には、エステル化及び/又はエステル交換反応及び/又は縮重合反応中の留出があることから、0.1モル%以上20モル%以下過剰に用いられる。また、重縮合反応は、重合触媒の存在下で行うことが好ましい。重合触媒の添加時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。
PETボトルをリサイクルしたPETは、上記のようにして重合して固化させた後、更に重合度を高めたり、環状三量体などのオリゴマーを除去したりするため、必要に応じて固相重合を行ってもよい。具体的には、固相重合は、PETをチップ化して乾燥させた後、100℃以上180℃以下の温度で1時間から8時間程度加熱してPETを予備結晶化させ、続いて、190℃以上230℃以下の温度で、不活性ガス雰囲気下又は減圧下において1時間~数十時間加熱することにより行われる。
リサイクルPETに含まれるPETの極限粘度は、0.58dl/g以上0.80dl/g以下であることが好ましい。極限粘度が0.58dl/g未満の場合は、樹脂基材としてPETフィルムに要求される機械特性が不足する可能性がある。他方、極限粘度が0.80dl/gを超えると、フィルム製膜工程における生産性が損なわれる場合がある。なお、極限粘度は、オルトクロロフェノール溶液で、35℃において測定される。
リサイクルPETは、リサイクルPETを50質量%以上95質量%以下の割合で含むことが好ましく、リサイクルPETの他、ヴァージンPETを含んでいてもよい。ヴァージンPETとしては、上記したようなジオール成分がエチレングリコールであり、ジカルボン酸成分がテレフタル酸及びイソフタル酸を含むPETであってもよく、また、ジカルボン酸成分がイソフタル酸を含まないPETであってもよい。例えば、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸及びイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸以外にも、脂肪族ジカルボン酸等が含まれていてもよい。
脂肪族ジカルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの、通常炭素数が2以上40以下の鎖状又は脂環式ジカルボン酸が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸の誘導体としては、上記脂肪族ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル及びブチルエステルなどの低級アルキルエステル、無水コハク酸などの上記脂肪族ジカルボン酸の環状酸無水物が挙げられる。これらの中でも、脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸、ダイマー酸又はこれらの混合物が好ましく、コハク酸を主成分とするものが特に好ましい。脂肪族ジカルボン酸の誘導体としては、アジピン酸及びコハク酸のメチルエステル、又はこれらの混合物がより好ましい。
リサイクルPETを含む樹脂フィルムを構成する樹脂組成物中の樹脂は、リサイクルPETのみで構成されていてもよいし、リサイクルPETに加えて、ヴァージンPETを含んでいてもよい。また、リサイクルPETフィルムは、単層であってもよく、多層であってもよい。リサイクルPETを含む樹脂フィルムを最内層/中間層/最外層の3層とする場合、中間層をリサイクルPETのみから構成される層又はリサイクルPETとヴァージンPETとの混合層とし、両側の最内層及び最外層は、ヴァージンPETのみから構成される層とすることが好ましい。このように、最内層及び最外層にヴァージンPETのみを用いることにより、リサイクルPETが樹脂フィルムの表面又は裏面から表出することを防止することができる。このため、積層体の衛生性を確保することができる。また、リサイクルPETを含む樹脂フィルムを2層とする場合、一方の層をリサイクルPETのみから構成される層又はリサイクルPETとヴァージンPETとの混合層とし、他方の層は、ヴァージンPETのみから構成される層とすることが好ましい。リサイクルPETとヴァージンPETとを混合してリサイクルPETを含む樹脂フィルムを単層で成形する場合には、別々に成形機に供給する方法、ドライブレンド等で混合した後に供給する方法などがある。中でも、操作が簡便であるという観点から、ドライブレンドで混合する方法が好ましい。
リサイクルポリエチレンPETを含む樹脂フィルムを構成する樹脂組成物は、その製造工程において、又はその製造後に、その特性が損なわれない範囲において各種の添加剤を含有することができる。添加剤として、例えば、可塑剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、摩擦低減剤、離型剤、抗酸化剤、イオン交換剤、着色顔料などが挙げられる。添加剤は、PETを含む樹脂組成物全体中に、5質量%以上50質量%以下、好ましくは5質量%以上20質量%以下の範囲で含有されることが好ましい。
リサイクルPETを含む樹脂フィルムは、例えば、Tダイ法によってフィルム化することにより形成することができる。具体的には、上記したPETを乾燥させた後、PETの融点以上の温度(Tm)~Tm+70℃の温度に加熱された溶融押出機に供給して、樹脂組成物を溶融し、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出し、押出されたシート状物を回転している冷却ドラムなどで急冷固化することによりフィルムを成形することができる。溶融押出機としては、一軸押出機、二軸押出機、ベント押出機、タンデム押出機等を目的に応じて使用することができる。
リサイクルPETを含む樹脂フィルムは二軸延伸されていることが好ましい。二軸延伸は従来公知の方法で行うことができる。例えば、上記のようにして冷却ドラム上に押し出されたフィルムを、続いて、ロール加熱、赤外線加熱などで加熱し、縦方向に延伸して縦延伸フィルムとする。この延伸は2個以上のロールの周速差を利用して行うのが好ましい。縦延伸は、通常、50℃以上100℃以下の温度範囲で行われる。また、縦延伸の倍率は、フィルム用途の要求特性にもよるが、2.5倍以上4.2倍以下とするのが好ましい。延伸倍率が2.5倍未満の場合は、PETフィルムの厚み斑が大きくなり良好なフィルムを得ることが難しい。縦延伸されたフィルムは、続いて横延伸、熱固定、熱弛緩の各処理工程を順次施して二軸延伸フィルムとなる。横延伸は、通常、50℃以上100℃以下の温度範囲で行われる。横延伸の倍率は、この用途の要求特性にもよるが、2.5倍以上5.0倍以下が好ましい。2.5倍未満の場合はフィルムの厚み斑が大きくなり良好なフィルムが得られにくく、5.0倍を超える場合は製膜中に破断が発生しやすくなる。横延伸のあと、続いて熱固定処理を行うが、好ましい熱固定の温度範囲は、PETのTg+70~Tm-10℃である。また、熱固定時間は1秒以上60秒以下が好ましい。更に熱収縮率の低滅が必要な用途については、必要に応じて熱弛緩処理を行ってもよい。
リサイクルPETを含む樹脂フィルムの厚さは、その用途に応じて任意であるが、通常、5~500μm程度である。リサイクルPETを含む樹脂フィルムの破断強度は、MD方向で5kgf/mm2以上40kgf/mm2以下、TD方向で5kgf/mm2以上35kgf/mm2以下であり、また、破断伸度は、MD方向で50%以上350%以下、TD方向で50%以上300%以下である。また、150℃の温度環境下に30分放置した時の収縮率は、0.1%以上5%以下である。
なお、ヴァージンPETは、化石燃料ポリエチレンテレフタレート(以下化石燃料PETとも記す)であってもよく、バイオマスPETであってもよい。ここで、「化石燃料PET」とは、化石燃料由来のジオールをジオール成分とし、化石燃料由来のジカルボン酸をジカルボン酸成分とするものである。また、リサイクルPETは、化石燃料PETを用いて形成されたPET樹脂製品をリサイクルして得られるものであってもよく、バイオマスPETを用いて形成されたPET樹脂製品をリサイクルして得られるものであってもよい。
リサイクルPETを含む樹脂フィルムは、袋、蓋材、ラミチューブなどの包装製品、各種ラベル材料、シート成型品等の用途に好適に使用することができる。なお、リサイクルPETを含む樹脂フィルムを包装製品の用途に使用する場合、延伸フィルムの厚さは、5~30μmであることが好ましい。
<高スティッフネスPETフィルム(強靭PETフィルム)>
高スティフネスPETフィルムは、ポリエステルを主成分として含み、少なくとも1つの方向において0.0017N/15mm以上のループスティフネスを有する。高スティフネスフィルムは、例えば流れ方向(MD)又は垂直方向(TD)の少なくとも一方において0.0017N以上のループスティフネスを有する。高スティフネスフィルムは、例えば流れ方向(MD)及び垂直方向(TD)の両方において0.0017N以上のループスティフネスを有していてもよい。
ループスティフネスとは、フィルムのこしの強さを表すパラメータである。以下、図15~図20を参照して、ループスティフネスの測定方法を説明する。なお、以下に説明する測定方法は、延伸プラスチックフィルムなどの単層のフィルムだけでなく、蒸着フィルム、積層フィルムなどの、複数の層を含むフィルムに関しても使用可能である。蒸着フィルムとは、延伸プラスチックフィルムなどの単層のフィルムと、単層のフィルム上に形成されている蒸着膜と、を含むフィルムである。積層フィルムとは、積層された複数のフィルムを含むフィルムである。
図15は、試験片40及びループスティフネス測定器45を示す平面図であり、図16は、図15の試験片40及びループスティフネス測定器45の線IV-IVに沿った断面図である。試験片40は、長辺及び短辺を有する矩形状のフィルムである。本願においては、試験片40の長辺の長さL1を150mmとし、短辺の長さL2を15mmとした。ループスティフネス測定器45としては、例えば、東洋精機社製のNo.581ループステフネステスタ(登録商標)LOOP STIFFNESS TESTER DA型を用いることができる。なお、試験片40の長辺の長さL1は、後述する一対のチャック部46によって試験片40を把持することができる限りにおいて、調整可能である。
ループスティフネス測定器45は、試験片40の長辺方向の一対の端部を把持するための一対のチャック部46と、チャック部46を支持する支持部材47と、を有する。チャック部46は、第1チャック461及び第2チャック462を含む。図15及び図16に示す状態において、試験片40は、一対の第1チャック461の上に配置されており、第2チャック462は、第1チャック461との間で試験片40を未だ把持していない。後述するように、測定時、試験片40は、チャック部46の第1チャック461と第2チャック462との間に把持される。第2チャック462は、ヒンジ機構を介して第1チャック461に連結されていてもよい。
延伸プラスチックフィルム、蒸着フィルム、積層フィルムなどの測定対象のフィルムを、フィルムが包装製品に加工される前の状態で入手可能な場合、試験片40は、測定対象のフィルムを切断することによって製造されてもよい。また、試験片40は、包装袋などの、包装材料から製造された包装製品を切断し、測定対象のフィルムを取り出すことによって製造されてもよい。
ループスティフネス測定器45を用いて試験片40のループスティフネスを測定する方法について説明する。まず、図15及び図16に示すように、間隔L3を空けて配置されている一対のチャック部46の第1チャック461上に試験片40を載置する。本願においては、後述するループ部41の長さ(以下、ループ長とも称する)が60mmになるよう、間隔L3を設定した。試験片40は、第1チャック461側に位置する内面40xと、内面40xの反対側に位置する外面40yと、を含む。試験片40が包装材料からなる場合、試験片40の内面40x及び外面40yは、包装材料の内面及び外面に一致する。後述するループ部41を試験片40に形成する際、内面40xがループ部41の内側に位置し、外面40yがループ部41の外側に位置する。続いて、図17に示すように、第1チャック461との間で試験片40の長辺方向の端部を把持するよう、第2チャック462を試験片40の上に配置する。
続いて、図18に示すように、一対のチャック部46の間の間隔が縮まる方向において、一対のチャック部46の少なくとも一方を支持部材47上でスライドさせる。これにより、試験片40にループ部41を形成することができる。図18に示す試験片40は、ループ部41と、一対の中間部42及び一対の固定部43とを有する。一対の固定部43は、試験片40のうち一対のチャック部46によって把持されている部分である。一対の中間部42は、試験片40のうちループ部41と一対の中間部42との間に位置している部分である。図18に示すように、チャック部46は、一対の中間部42の内面40x同士が接触するまで支持部材47上でスライドされる。これにより、60mmのループ長を有するループ部41を形成することができる。ループ部41のループ長は、一方の第2チャック462のループ部41側の面と試験片40とが交わる位置P1と、他方の第2チャック462のループ部41側の面と試験片40とが交わる位置P2との間における、試験片40の長さである。上述の間隔L3は、試験片40の厚みを無視する場合、ループ部41の長さに2×tを加えた値になる。tは、チャック部46の第2チャック462の厚みである。
その後、図19に示すように、チャック部46に対するループ部41の突出方向Yが水平方向になるよう、チャック部46の姿勢を調整する。例えば、支持部材47の法線方向が水平方向を向くように支持部材47を動かすことにより、支持部材47によって支持されているチャック部46の姿勢を調整する。図19に示す例において、ループ部41の突出方向Yは、チャック部の厚み方向に一致している。また、ループ部41の突出方向Yにおいて第2チャック462から距離Z1だけ離れた位置にロードセル48を準備する。本願においては、距離Z1を50mmとした。続いて、ロードセル48を、試験片40のループ部41に向けて、図19に示す距離Z2だけ速度Vで移動させる。距離Z2は、図19及び図20に示すように、ロードセル48がループ部41に接触し、その後、ロードセル48がループ部41をチャック部46側に押し込むよう、設定される。本願においては、距離Z2を40mmとした。この場合、ロードセル48がループ部41をチャック部46側に押し込んでいる状態におけるロードセル48とチャック部46の第2チャック462との間の距離Z3は、10mmになる。ロードセル48を移動させる速度Vは、3.3mm/秒とした。
続いて、図20に示す、ロードセル48をチャック部46側に距離Z2だけ移動させ、ロードセル48が試験片40のループ部41を押し込んでいる状態において、ループ部41からロードセル48に加えられている荷重の値が安定した後、荷重の値を記録する。このようにして得られた荷重の値を、試験片40を構成するフィルムのループスティフネスとして採用する。本願において、特に断らない限り、ループスティフネスの測定時の環境は、温度23℃、相対湿度50%である。
少なくとも1つの方向において0.0017N以上のループスティフネスを有する高スティフネスフィルムを延伸プラスチックフィルムとして用いることにより、延伸プラスチックフィルムの突き刺し強度を高めることができる。これにより、高スティフネスフィルムを備える積層フィルムにおいて、積層フィルムの突き刺し強度を例えば13N以上にすることができ、より好ましくは14N以上にすることができ、更に好ましくは15N以上又は16N以上にすることができる。
高スティフネスフィルムの例としては、51質量%以上のPETを含む高スティフネスPETフィルムを挙げることができる。高スティフネスPETフィルムにおけるPETの含有率は、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。高スティフネスフィルムの厚みは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上である。高スティフネスフィルムの厚みは、10μm以上であってもよく、14μm以上であってもよい。また、高スティフネスフィルムの厚みは、好ましくは30μm以下であり、25μm以下であってもよく、20μm以下であってもよい。
高スティフネスフィルムの好ましい機械特性について更に説明する。高スティフネスフィルムの突き刺し強度は、好ましくは10N以上であり、より好ましくは11N以上である。少なくとも1つの方向における高スティフネスフィルムの引張強度は、好ましくは250MPa以上であり、より好ましくは280MPa以上である。例えば、流れ方向における高スティフネスフィルムの引張強度は、好ましくは250MPa以上であり、より好ましくは280MPa以上である。垂直方向における高スティフネスフィルムの引張強度は、好ましくは250MPa以上であり、より好ましくは280MPa以上である。少なくとも1つの方向における高スティフネスフィルムの引張伸度は、好ましくは130%以下であり、より好ましくは120%以下である。例えば、流れ方向における高スティフネスフィルムの引張伸度は、好ましくは130%以下であり、より好ましくは120%以下である。垂直方向における高スティフネスフィルムの引張伸度は、好ましくは120%以下であり、より好ましくは110%以下である。好ましくは、少なくとも1つの方向において、高スティフネスフィルムの引張強度を引張伸度で割った値が2.0〔MPa/%〕以上である。例えば、垂直方向(TD)における高スティフネスフィルムの引張強度を引張伸度で割った値は、好ましくは2.0〔MPa/%〕以上であり、より好ましくは2.2〔MPa/%〕以上である。流れ方向(MD)における高スティフネスフィルムの引張強度を引張伸度で割った値は、好ましくは1.8〔MPa/%〕以上であり、より好ましくは2.0〔MPa/%〕以上である。
少なくとも1つの方向における高スティフネスフィルムの熱収縮率は、0.7%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。例えば、流れ方向における高スティフネスフィルムの熱収縮率は、0.7%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。垂直方向における高スティフネスフィルムの熱収縮率は、0.7%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。熱収縮率を測定する際の加熱温度は100℃であり、加熱時間は40分である。
少なくとも1つの方向における高スティフネスフィルムのヤング率は、好ましくは4.0GPa以上であり、より好ましくは4.5GPa以上である。例えば、流れ方向における高スティフネスフィルムのヤング率は、好ましくは4.0GPa以上であり、より好ましくは4.5GPa以上である。垂直方向における高スティフネスフィルムのヤング率は、好ましくは4.0GPa以上であり、より好ましくは4.5GPa以上である。
ヤング率は、引張強度及び引張伸度と同様に、JIS K7127に準拠して測定され得る。測定器としては、オリエンテック社製の引張試験機 STA-1150を用いることができる。試験片としては、高スティフネスフィルムを幅15mm、長さ150mmの矩形状のフィルムに切り出したものを用いることができる。試験片を保持する一対のチャックの間の、測定開始時の間隔は100mmであり、引張速度は300mm/分である。なお、試験片の長さは、一対のチャックによって試験片を把持することができる限りにおいて、調整可能である。本願において、特に断らない限り、ヤング率の測定時の環境は、温度25℃、相対湿度50%である。
高スティフネスフィルムは、蒸着膜が設けられた場合であっても、単体の高スティフネスフィルムと同等の機械特性を有している。例えば、酸化アルミニウム蒸着膜3が設けられている高スティフネスフィルムは、少なくとも1つの方向において0.0017N以上のループスティフネスを有している。また、更に蒸着膜の上に有機被覆層が設けられた場合であっても、単体の高スティフネスフィルムと同等の機械特性を有している。例えば、酸化アルミニウム蒸着膜及び有機被覆層が設けられている高スティフネスフィルムは、少なくとも1つの方向において0.0017N以上のループスティフネスを有している。
高スティフネスフィルムの製造工程においては、例えば、まず、ポリエステルを溶融及び成形することによって得られたプラスチックフィルムを、流れ方向及び垂直方向において、それぞれ90℃~145℃で3倍~4.5倍に延伸する第1延伸工程を実施する。続いて、プラスチックフィルムを、流れ方向及び垂直方向において、それぞれ100℃~145℃で1.1倍~3.0倍に延伸する第2延伸工程を実施する。その後、190℃~220℃の温度で熱固定を行う。続いて、流れ方向及び垂直方向において、100℃~190℃の温度で0.2%~2.5%程度の弛緩処理(フィルム幅を縮める処理)を実施する。これらの工程において、延伸倍率、延伸温度、熱固定温度、弛緩処理率を調整することにより、上述の機械特性を備える高スティフネスフィルムを得ることができる。
高スティフネスフィルムの具体例としては、東レ株式会社製のXP-55を用いることができる。この高スティフネスフィルムは二軸延伸されており、90質量%以上のPETを含み、厚みは16μmである。この高スティフネスPETフィルムのループスティフネスの測定値は、流れ方向及び垂直方向のいずれにおいても0.0021Nであった。また、流れ方向における高スティフネスPETフィルムのヤング率は4.8GPaであり、垂直方向における高スティフネスPETフィルムのヤング率は4.7GPaであった。また、流れ方向における高スティフネスPETフィルムの引張強度は292MPaであり、垂直方向における高スティフネスPETフィルムの引張強度は257MPaであった。また、流れ方向における高スティフネスPETフィルムの引張伸度は107%であり、垂直方向における高スティフネスPETフィルムの引張伸度は102%であった。この場合、流れ方向における高スティフネスPETフィルムの引張強度を引張伸度で割った値は2.73〔MPa/%〕であり、垂直方向における高スティフネスPETフィルムの引張強度を引張伸度で割った値は2.52〔MPa/%〕である。また、流れ方向及び垂直方向における高スティフネスPETフィルムの熱収縮率はいずれも0.4%であった。
基材1は、1層であっても、2層以上の多層構成であってもよく、多層構成の場合には、同一組成の層であっても、異なる組成の層であってもよい。また、多層構成の場合に、各層間は、接着剤層等が介在して接着されていてもよい。
[酸化アルミニウム蒸着膜]
次に、蒸着膜2について説明する。蒸着膜2は、酸化アルミニウムを含む。アルミニウムは、蒸着膜2において、例えば、元素結合Al2O3を形成した状態などの状態で存在する。蒸着膜2は、更に、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、ケイ素酸化窒化物、ケイ素炭化物、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、又はこれらの金属窒化物、炭化物を含んでいてもよい。蒸着膜2の厚さは、3nm以上、100nm以下が好ましく、更に好ましくは、5nm以上、50nm以下、特に好ましくは、5nm以上、15nm以下である。なお、本発明における「酸化アルミニウム蒸着膜」とは、上記のように「酸化アルミニウムを含む蒸着膜」の意味であり、酸化アルミニウムAl2O3以外に、水酸化アルミニウムAl2O4Hなどを含んでいてもよい。
(TOF-SIMS分析)
本実施の形態に係るバリアフィルムの組成について、後述する実施例2の図9を用いて詳細に説明する。図9は、図1で示すバリアフィルムAを、有機被覆層3の表面側から飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いてエッチングを行うことにより、バリアフィルムに含まれる元素及び元素結合を測定した場合における、元素及び元素結合の強度を示すグラフ解析図の一例である。グラフの縦軸の単位(intensity)は、イオンの強度について常用対数をとって表示したものである。グラフの横軸の単位(Et times)は、エッチングをした時間である。
TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法、Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)は、一次イオン銃から一次イオンビームを被分析固体試料表面に照射して、試料表面からスパッタリングされて放出される二次イオンを、その飛行時間差(飛行時間は重さの平方根に比例)を利用して質量分離して、質量分析する方法である。
ここで、スパッタリングを進行させつつ二次イオン強度を検出することによって、二次イオン、即ち被検出元素イオン又は被検出元素と結合した分子イオンのイオン強度の時間推移のデータに対して、推移時間を深さに換算することで、該試料表面の深さ方向の被検出元素の濃度分布を知ることができる。
そして、予め、一次イオンの照射により試料表面に形成された窪みの深さを、表面粗さ計を用いて測定して、この窪みの深さと推移時間とから平均スパッタ速度を算出しておき、スパッタ速度が一定であるとの仮定の下に、照射時間(即ち、推移時間)又は照射サイクル数から、深さ(スパッタ量)を算出することが可能である。
具体的には、有機被覆層3の最表面からCs(セシウム)イオン銃により一定の速度でソフトエッチングを繰り返しながら、飛行時間型二次イオン質量分析計を用いて、蒸着膜2と基材1との界面の元素及び元素結合並びに蒸着膜2の元素及び元素結合を測定することにより、測定された元素及び元素結合についてそれぞれのグラフを得ることができる。具体的な例を示すと、図9に示すように、本実施の形態に係るバリアフィルムからは、OH由来の強度と、Si由来の強度と、Al2O3由来の強度と、AL2O4H由来の強度と、C6由来の強度が少なくとも検出される。図9に示す例においては、この5種の元素結合の強度を測定した例を示している。
図9において、C6由来の強度のIntensityが(最強強度の)半分になるEt time T1の位置をプラスチック基材と酸化アルミニウムの界面とする。次に、有機被覆層を構成するSi由来の強度のIntensityが(最強強度の)半分になるEt time T2の位置を有機被覆膜と酸化アルミニウムの界面とする。そして、T1からT2までを酸化アルミニウム蒸着膜とする(図9におけるX)。
図9において、酸化アルミニウム蒸着膜中、つまり図9におけるXの範囲内には、OH由来の強度が存在し、OH由来の強度は、図中Xより左側の有機被覆層の領域においては、主として有機被覆層由来の強度であり、図中Xより右側の基材の領域においては、主として基材(水分)由来の強度である。そして、図中Xの領域においては、OH由来の強度というのは主として水酸化アルミニウムに由来するピークである。つまり、Xの領域においてはOH由来の強度変化は水酸化アルミニウムの存在量の変化を反映する。そして、図9によれば、Xの領域内で下に凸のピークTpが存在する。
更に、図9においては、Xにおける、ピーク(Tp)の深さ位置(図9におけるY/Xに相当)が、蒸着膜の表面側(有機被覆層側)から10%以上60%以下、好ましくは10%以上50%以下、より好ましくは10%以上40%以下に存在する。このことは、Tpが蒸着膜のより有機被覆層側に存在することを意味する。つまり、蒸着膜の基材側にはAl2O4Hの主領域が存在する一方、蒸着膜の有機被覆側の領域においては、Al2O4Hの比率が小さく、主としてAl2O3の状態の領域が存在することを意味する。これにより、バリア性能を高めることができる。
なお、OH由来の下に凸のピークTpの存在や、Tpの深さ位置は、前処理、特に酸素プラズマ処理の条件と、蒸着時のプラズマアシスト処理の条件と、酸化アルミニウム蒸着膜の形成時における蒸着時の酸素濃度と、の組み合わせを制御することで調整することができる。
なお、図9におけるAl2O4H(質量数118.93)由来の強度は、3100サイクル付近と、3600サイクル付近に二つのピークを有している。前者のピークは有機被覆層と酸化アルミ層の界面に生じる反応物AlSiO4由来を含む可能性のある強度であるから、両者を波形分離して後者のピークのみをみることで、Al2O4Hの強度を直接補足することもできるが、本発明によれば、これに因らずに、OH由来の強度を測定することで、蒸着膜中のAl2O4Hの強度の分布を知ることができる。
なお、波形分離は、例えば、TOF-SIMSで得られた、質量数118.93のプロファイルを、Gaussian関数を用いて非線形のカーブフィッティングを行い最小二乗法Levenberg Marquardt アルゴリズムを使用して重複ピークの分離を行えばよい。
(有機被覆層)
酸化アルミニウム蒸着膜2の表面上に積層される有機被覆層3は、酸化アルミニウム蒸着膜を機械的・化学的に保護するとともに、バリア性を有する積層フィルムのバリア性能を向上させるものである。以下、バリア性に優れたレトルト耐性を備えるバリア性積層フィルムを形成するためコートされる有機被覆層3について説明する。
有機被覆層3は、バリアコート剤を酸化アルミニウム蒸着膜上に塗布し固化して形成されるものである。バリアコート剤は金属アルコキシド、水溶性高分子、必要に応じて加えられるシランカップリング剤、ゾルゲル法触媒、酸などから構成される。
金属アルコキシドとしては、一般式R1nM(OR2)m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1~8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上の金属アルコキシド、金属アルコキシドのMで表される金属原子としては、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、その他等を例示することができ、例えば、MがSiであるアルコキシシランを使用することが好ましいものである。
上記のアルコキシシランとしては、例えば、一般式Si(ORa)4(ただし、式中、Raは、低級アルキル基を表す。)で表されるものである。上記において、Raとしては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、その他等が用いられる。上記のアルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシランSi(OCH3)4、テトラエトキシシランSi(OC2H5)4、テトラプロポキシシランSi(OC3H7)4、テトラブトキシシランSi(OC4H9)4、その他等を使用することができる。上記アルコキシドは、2種以上を併用してもよい。
シランカップリング剤として、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基などの反応基を有するものを用いることができる。特にエポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適であり、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、あるいは、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を使用することができる。上記のようなシランカップリング剤は、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
なかでも、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランやγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどの2官能を用いた有機被覆層の硬化膜の架橋密度は、トリアルコキシシランを用いた系での架橋密度より低くなる。そのため、ガスバリア性及び耐熱水処理性のある膜として優れながら、柔軟性のある硬化膜となり、耐屈曲性にも優れるため、当該バリアフィルムを用いた包装材料はゲルボフレックス試験後でもガスバリア性が劣化し難い。
水溶性高分子は、ポリビニルアルコール系樹脂、又はエチレン・ビニルアルコ一ル共重合体を単独で各々使用することができ、あるいは、ポリビニルアルコ一ル系樹脂及びエチレン・ビニルアルコール共重合体を組み合わせて使用することができる。本実施の形態に係る有機被覆層3では、ポリビニルアルコール系樹脂が好適である。
ポリビニルアルコ一ル系樹脂としては、一般に、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られるものを使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸基が数10%残存している部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂でも、酢酸基が残存しない完全ケン化ポリビニルアルコールでも、OH基が変性された変性ポリビニルアルコール系樹脂でもよい。ポリビニルアルコール系樹脂として、ケン化度については、ガスバリア性塗膜の膜硬度が向上する結晶化が行われるものを少なくとも用いることが必要で、好ましくは、ケン化度が70%以上である。また、その重合度としても、従来のゾルゲル法で用いられている範囲(100~5000程度)のものであれば用いることができる。このようなポリビニルアルコール系樹脂としては、株式会社クラレ製のRS樹脂である「RS-110(ケン化度=99%、重合度=1,000)」、日本合成化学工業株式会社製の「ゴーセノールNM-14(ケン化度=99%、重合度=1,400)」等を挙げることができる。
エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のケン化物、すなわち、エチレン-酢酸ビニルランダム共重合体をケン化して得られるものを使用することができる。例えば、酢酸基が数10モル%残存している部分ケン化物から、酢酸基が数モル%しか残存していないか又は酢酸基が残存しない完全ケン化物まで含み、特に限定されるものではない。ただし、バリア性の観点から好ましいケン化度は、80%以上、より好ましくは、90%以上、更に好ましくは、95%以上100%以下、特に好ましくは99%以上100%以下であるものを使用することが好ましい。
ゾルゲル法触媒としては、酸又はアミン系化合物が好適である。
酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸、並びに、酢酸、酒石酸な等の有機酸等を用いることができる。
酸の含有量は、金属アルコキシドのアルコキシ基の総モル量に対して、好ましくは0.001~0.05モル%であり、より好ましくは0.01~0.03モル%である。0.001%モルよりも少ないと触媒効果が小さすぎ、0.05モル%よりも多いと触媒効果が強すぎて反応速度が速くなり過ぎ、不均一になりやすい傾向になる。
アミン系化合物としては、水に実質的に不溶であり、且つ有機溶媒に可溶な第3級アミンが好適である。具体的には、例えば、N,N-ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等を使用することができる。特に、N,N-ジメチルベンジルアミンが好適である。
アミン系化合物の含有量は、金属アルコキシド100質量部当り、例えば0.01~1.0質量部、特に0.03~0.3質量部を含有することが好ましい。0.01質量部よりも少ないと触媒効果が小さすぎ、1.0質量部よりも多いと触媒効果が強すぎて反応速度が速くなり過ぎ、不均一になりやすい傾向になる。
溶媒としては、水や、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール等を用いることが好ましい。
上記にように形成されるバリア性被覆層は、層厚が100~500nmである。この範囲であれば、コート膜が割れず蒸着膜表面を十分に被覆するため好ましい。
バリアコート剤の組成は、シランカップリング剤を含有する場合、アルコキシシラン100質量部に対して、ポリビニルアルコ-ル系樹脂などの水溶性高分子を5~10質量部、シランカップリング剤を1~10質量部位の範囲内で使用することができる。これにより、膜の柔軟性を維持し、レトルト耐性を高めることができる。上記において、シランカップリング剤を20質量部超えて使用すると、形成されるバリア性塗膜の剛性と脆性とが大きくなり、好ましくない。
また、シランカップリング剤を含有しない場合、アルコキシシラン100質量部に対して、ポリビニルアルコ-ル系樹脂などの水溶性高分子を10~20質量部とすることで、金属アルコキシドの量比を下げて、バリア性を高めることができる。
(成膜装置)
次に、バリアフィルムの製造方法に用いられる成膜装置10の一例について説明する。成膜装置10は、図2に示すように、基材1を搬送するための基材搬送機構11Aと、基材1の表面にプラズマ前処理を施すプラズマ前処理機構11Bと、蒸着膜2を成膜する成膜機構11Cと、を備える。図5に示す例においては、成膜装置10は、更に減圧チャンバ12を備える。減圧チャンバ12は、後述する真空ポンプなど、減圧チャンバ12の内部の空間の少なくとも一部の雰囲気を大気圧以下に調整する減圧機構を有する。
図2に示す例において、減圧チャンバ12は、基材搬送機構11Aが位置する基材搬送室12Aと、プラズマ前処理機構11Bが位置するプラズマ前処理室12Bと、成膜機構11Cが位置する成膜室12Cと、を含む。減圧チャンバ12は、好ましくは、各室の内部の雰囲気が互いに混ざり合うことを抑制するよう構成されている。例えば図2に示すように、減圧チャンバ12は、基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間、プラズマ前処理室12Bと成膜室12Cとの間、基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間に位置し、各室を隔てる隔壁35a~35cを有していてもよい。
基材搬送室12A、プラズマ前処理室12B及び成膜室12Cについて説明する。プラズマ前処理室12B及び成膜室12Cは、それぞれ基材搬送室12Aと接して設けられており、それぞれ基材搬送室12Aと接続する部分を有する。これにより、基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間、及び基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間において、基材1を大気に触れさせずに搬送することができる。例えば、基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間においては、隔壁35aに設けられた開口部を介して基材1を搬送することができる。基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間も同様の構造となっており、基材搬送室12Aと成膜室12Cとの間において、基材1を搬送することができる。
減圧チャンバ12の減圧機構の機能について説明する。減圧チャンバ12の減圧機構は、成膜装置10の少なくともプラズマ前処理機構11B又は成膜機構11Cが配置されている空間の雰囲気を大気圧以下に減圧できるように構成されている。減圧機構は、隔壁35a~35cにより区画された、基材搬送室12A、プラズマ前処理室12B、成膜室12Cのそれぞれを大気圧以下に減圧することができるよう構成されていてもよい。
減圧チャンバ12の減圧機構の構成について説明する。減圧チャンバ12は、例えば、プラズマ前処理室12Bに接続されている真空ポンプを有していてもよい。真空ポンプを調整することにより、後述するプラズマ前処理を実施する際のプラズマ前処理室12B内の圧力を適切に制御することができる。また、後述の方法によりプラズマ前処理室12B内に供給したプラズマが他室に拡散することを抑制できる。減圧チャンバ12の減圧機構は、プラズマ前処理室12Bに接続されている真空ポンプと同様に、成膜室12Cに接続されている真空ポンプを有していてもよい。真空ポンプとしては、ドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、ロータリーポンプ、ディフュージョンポンプなどを用いることができる。
本実施の形態に係る成膜装置10の基材1の基材搬送機構11Aについて、基材1の搬送経路とともに説明する。基材搬送機構11Aは、基材搬送室12Aに配置された、基材1を搬送するための機構である。図2に示す例においては、基材搬送機構11Aは、基材1のロール状の原反が取り付けられた巻き出しローラー13、基材1を巻き取る巻き取りローラー15及びガイドロール14a~14dを有する。基材搬送機構11Aから送り出された基材1は、その後、プラズマ前処理室12Bに配置された、後述する前処理ローラー20と、成膜室12Cに配置された、後述する成膜ローラー25と、によって搬送される。
なお、図示はしないが、基材搬送機構11Aは、張力ピックアップローラーを更に有していてもよい。基材搬送機構11Aが張力ピックアップローラーを有することにより、基材1に加わる張力を調整しながら、基材1を搬送することができる。
(プラズマ前処理機構)
プラズマ前処理機構11Bについて説明する。プラズマ前処理機構11Bは、基材1の表面にプラズマ前処理を施すための機構である。図2に示すプラズマ前処理機構11Bは、プラズマPを発生させ、発生させたプラズマPを用いて基材1の表面にプラズマ前処理を施す。プラズマ前処理によって、基材1の表面を活性化し、基材1の内部に含まれる窒素が基材1の表面に集まりやすくし、又は基材1の周囲の環境中に含まれる窒素が基材1の表面に取り込まれやすくすることができる。このため、プラズマ前処理を施した基材1の表面に蒸着膜2を形成した際に、基材1と蒸着膜2との界面に元素結合CNのピークを形成することができる。図2に示すプラズマ前処理機構11Bは、プラズマ前処理室12Bに配置されている前処理ローラー20と、前処理ローラー20に対向する電極部21と、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成する磁場形成部23と、を有する。
前処理ローラー20について説明する。図3は、図2において符号VIが付された一点鎖線で囲まれた部分を拡大した図である。なお、図3においては、図2に示されている電源32と後述する電極部21とを接続する電力供給配線31、及びプラズマ前処理機構11Bが発生させるプラズマPの記載を省略している。前処理ローラー20は、回転軸Xを有する。前処理ローラー20は、少なくとも回転軸Xが、隔壁35a、35bによって区画されるプラズマ前処理室12B内に位置するよう、設けられている。前処理ローラー20には、回転軸Xの方向における寸法を有する基材1が巻き掛けられる。以下の説明において、回転軸Xの方向における基材1の寸法のことを、基材1の幅とも称する。また、回転軸Xの方向のことを、基材1の幅方向とも称する。
図2に示すように、前処理ローラー20は、その一部が基材搬送室12A側に露出するように設けられていてもよい。図2に示す例においては、プラズマ前処理室12Bと基材搬送室12Aとは、隔壁35aに設けられた開口部を介して接続されており、その開口部を通じて、前処理ローラー20の一部が基材搬送室12A側に露出している。基材搬送室12Aとプラズマ前処理室12Bとの間の隔壁35aと、前処理ローラー20との間には隙間があいており、その隙間を通じて、基材搬送室12Aからプラズマ前処理室12Bへと、基材1を搬送することができる。図示はしないが、前処理ローラー20は、その全体がプラズマ前処理室12B内に位置するよう設けられていてもよい。
図示はしないが、前処理ローラー20は、前処理ローラー20の表面の温度を調整する温度調整機構を有していてもよい。例えば、前処理ローラー20は、冷媒や熱媒などの温度調整媒体を循環させる配管を含む温度調整機構を前処理ローラー20の内部に有していてもよい。温度調整機構は、前処理ローラー20の表面の温度を例えば-20℃以上100℃以下の範囲内の目標温度に調整する。
前処理ローラー20が温度調整機構を有することにより、プラズマ前処理時、熱による基材1の収縮や破損が生じることを抑制することができる。
前処理ローラー20は、少なくともステンレス、鉄、銅及びクロムのいずれか1以上を含む材料により形成される。前処理ローラー20の表面には、傷つき防止のために、硬質のクロムハードコート処理などを施してもよい。これらの材料は加工が容易である。また、前処理ローラー20の材料として上記の材料を用いることにより、前処理ローラー20自体の熱伝導性が高くなるので、前処理ローラー20の温度の制御が容易になる。
電極部21について説明する。図2及び図3に示す例において、電極部21は、前処理ローラー20に対向する第1面21cと、第1面21cの反対側に位置する第2面21dとを有する。図2及び図3に示す例において、電極部21は板状の部材であり、第1面21c及び第2面21dはいずれも平面である。電極部21は、前処理ローラー20との間で交流電圧を印加されることにより、前処理ローラー20との間においてプラズマを発生させる。電極部21は、好ましくは、前処理ローラー20との間において、発生したプラズマが、基材1の表面に向かうように、基材1の表面に対して垂直方向に運動するように、電場を形成する。これにより、効率的に基材1を前処理することができる。このため、プラズマ前処理を施した基材1の表面に蒸着膜2を形成した際に、基材1と蒸着膜2との界面に形成される元素結合CNのピークのピーク強度H1を、より大きくすることができる。
電極部21の数は、好ましくは2以上である。2以上の電極部21は、好ましくは、基材1の搬送方向に沿って並んでいる。図2及び図3に示す例においては、成膜装置10が2つの電極部21を有する例が示されている。また、電極部21の数は、例えば12以下である。
2以上の電極部21が基材1の搬送方向に沿って並んでいることの効果について説明する。上述の通り、プラズマは、電極部21と前処理ローラー20との間に発生する。プラズマが発生する領域は、搬送方向における電極部21の寸法が大きくなるほど拡大する。一方、電極部21が平坦な板状の部材である場合、搬送方向における電極部21の寸法が大きくなるほど、搬送方向における電極部21の、前処理ローラー20に対向する面である第1面21cの端部から前処理ローラー20までの距離が大きくなり、プラズマによる処理能力が低下してしまう。
成膜装置10においては、2以上の電極部21が基材1の搬送方向に沿って並んでいる。このため、基材1の搬送方向における電極部21の寸法が小さい場合であっても、搬送方向における広い範囲にわたってプラズマを発生させることができる。また、電極部21の寸法を小さくすることにより、搬送方向における電極部21の第1面21cの端部から前処理ローラー20までの距離を小さくすることができ、プラズマを搬送方向に均一に発生させることができる。
図2及び図3に示すように、電極部21は、電極部21の第1面21c上に位置する第1端部21e及び第2端部21fを有する。第1端部21eは、基材1の搬送方向における上流側の端部であり、第2端部21fは、基材1の搬送方向における下流側の端部である。上述のように、基材1の搬送方向における電極部21の寸法を小さくすることにより、搬送方向における電極部21の第1端部21e及び第2端部21fから前処理ローラー20までの距離を小さくすることができる。基材1の搬送方向における電極部21の寸法は、図3に示す角度θに対応する。角度θは、第1端部21e及び回転軸Xを通る直線と、第2端部21f及び回転軸Xを通る直線とがなす角度である。角度θは、20°以上90°以下となることが好ましく、60°以下となることがより好ましく、45°以下となることが更に好ましい。角度θが上記の範囲となることにより、電極部21の第1面21cが平面である場合に、電極部21と前処理ローラー20との間において、プラズマを搬送方向に均一に発生させることができる。
電極部21の材料は、導電性を有する限り、特に限定されない。具体的には、電極部21の材料として、アルミニウム、銅、ステンレスが好適に用いられる。
電極部21の第1面21cに垂直な方向に見た場合における電極部21の厚みL3は、特に限定されないが、例えば15mm以下である。電極部21の厚みが上記の値であることにより、磁場形成部23によって、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を効果的に形成することができる。また、電極部21の厚みL3は、例えば3mm以上である。
磁場形成部23について説明する。図2及び図3に示すように、磁場形成部23は、電極部21の、前処理ローラー20と対向する側とは反対の側に設けられている。磁場形成部23は、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成する部材である。前処理ローラー20と電極部21との間の磁場は、例えば、プラズマ前処理機構11Bを用いてプラズマを発生させる場合において、より高密度のプラズマの発生に寄与する。図2及び図3に示す磁場形成部23は、電極部21の第2面21d上に設けられている第1磁石231及び第2磁石232を有する。
磁場形成部23の数は、好ましくは2以上である。プラズマ前処理機構11Bが、2以上の電極部21と、2以上の磁場形成部23と、を有する場合においては、2以上の磁場形成部23のそれぞれは、2以上の電極部21のそれぞれの、前処理ローラー20と対向する側とは反対の側に設けられていることが好ましい。図2及び図3に示す例においては、2つの磁場形成部23のそれぞれが、2つの電極部21のそれぞれの第2面21d上に設けられている。
電極部21の第2面21dの法線方向における第1磁石231及び第2磁石232の構造について説明する。図2及び図3に示すように、第1磁石231及び第2磁石232はそれぞれ、N極及びS極を有する。図2及び図3に示す符号Nは、第1磁石231又は第2磁石232のN極を示す。また、図2及び図3に示す符号Sは、第1磁石231又は第2磁石232のS極を示す。第1磁石231のN極又はS極の一方は、他方よりも基材1側に位置する。また、第2磁石232のN極又はS極の他方は、一方よりも基材1側に位置する。図2及び図3に示す例においては、第1磁石231のN極が、第1磁石231のS極よりも基材1側に位置し、第2磁石232のS極が、第2磁石のN極よりも基材1側に位置する。図示はしないが、第1磁石231のS極が、第1磁石231のN極よりも基材1側に位置し、第2磁石232のN極が、第2磁石232のS極よりも基材1側に位置していてもよい。
続いて、電極部21の第2面21dの面方向における第1磁石231及び第2磁石232の構造について説明する。図4は、図2に示す電極部21及び磁場形成部23を、磁場形成部23側からみた平面図である。図5は図4のVIII-VIII線に沿った断面を示す断面図である。また、図4において、方向D1は、前処理ローラー20の回転軸Xが延びる方向である。
図4及び図5に示すように、第1磁石231は、第1軸方向部分231cを有する。図4に示すように、第1軸方向部分231cは、方向D1に沿って、すなわち前処理ローラー20の回転軸Xに沿って延びている。1つの電極部21に設けられた第1磁石231は、1つの第1軸方向部分231cを有していてもよく、2つ以上の第1軸方向部分231cを有していてもよい。図4に示す例においては、1つの電極部21に設けられた第1磁石231は、1つの第1軸方向部分231cを有している。
また、図4及び図5に示すように、第2磁石232は、第2軸方向部分232cを有する。図4に示すように、第2軸方向部分232cも、第1軸方向部分231cと同様に、方向D1に沿って、すなわち回転軸Xに沿って延びている。
第1磁石231及び第2磁石232がいずれも回転軸Xに沿って延びる部分を含むことにより、基材1の周囲に形成される磁場の強度の、基材1の幅方向における均一性を高めることができる。これにより、基材1の周囲に形成されるプラズマの分布密度の、基材1の幅方向における均一性を高めることができる。
1つの電極部21に設けられた第2磁石232は、1つの第2軸方向部分232cを有していてもよく、2つ以上の第2軸方向部分232cを有していてもよい。図4及び図5に示す例においては、1つの電極部21に設けられた第2磁石232は、2つの第2軸方向部分232cを有している。2つの第2軸方向部分232cは、電極部21の第2面21dの面方向のうち回転軸Xに直交する方向D2において第1軸方向部分231cを挟むように位置していてもよい。
図5に示す、基材1の搬送方向における第1軸方向部分231cの寸法L4、及び第2軸方向部分232cの寸法L5は、特に限定されない。また、基材1の搬送方向における第1軸方向部分231cの寸法L4と第2軸方向部分232cの寸法L5との比率は、特に限定されない。第1軸方向部分231cの寸法L4と第2軸方向部分232cの寸法L5とが等しくてもよく、第1軸方向部分231cの寸法L4が第2軸方向部分232cの寸法L5より大きくてもよい。
方向D2における第1軸方向部分231cと第2軸方向部分232cとの間隔L6は、第1軸方向部分231c及び第2軸方向部分232cによって生じる磁場が前処理ローラー20と電極部21との間に形成されるよう設定される。
第2磁石232は、電極部21の第2面21dの法線方向に沿って磁場形成部23を見た場合に、第1磁石231を囲んでいてもよい。例えば図4に示すように、第2磁石232は、2つの第2軸方向部分232cとともに、2つの第2軸方向部分232cを接続するように設けられた2つの接続部分232dを有していてもよい。
第1磁石231及び第2磁石232など、磁場形成部23として用いられる磁石の種類の例としては、フェライト磁石や、ネオジウム、サマリウムコバルト(サマコバ)などの希土類磁石などの永久磁石を挙げることができる。また、磁場形成部23として、電磁石を用いることもできる。
第1磁石231及び第2磁石232などの磁場形成部23の磁石の磁束密度は、例えば100ガウス以上10000ガウス以下である。磁束密度が100ガウス以上であれば、前処理ローラー20と電極部21との間に十分に強い磁場を形成することによって、十分に高密度のプラズマを発生させることができ、良好な前処理面を高速で形成することができる。一方、基材1の表面での磁束密度を10000ガウスよりも高くするには、高価な磁石又は磁場発生機構が必要となる。
図示はしないが、プラズマ前処理機構11Bは、プラズマ原料ガス供給部を有していてもよい。プラズマ原料ガス供給部は、プラズマの原料となるガスをプラズマ前処理室12B内に供給する。プラズマ原料ガス供給部の構成は特に限定されない。例えば、プラズマ原料ガス供給部は、プラズマ前処理室12Bの壁面に設けられ、プラズマの原料となるガスを噴出する穴を含む。また、プラズマ原料ガス供給部は、プラズマ前処理室12Bの壁面よりも基材1に近い位置においてプラズマ原料ガスを放出するノズルを有していてもよい。プラズマ原料ガス供給部によって供給されるプラズマ原料ガスとしては、例えば、アルゴンなどの不活性ガス、酸素、窒素、炭酸ガス、エチレンなどの活性ガス、又は、それらのガスの混合ガスを供給する。プラズマ原料ガスとしては、不活性ガスのうち1種を単体で用いても、活性ガスのうち1種を単体で用いても、不活性ガス又は活性ガスに含まれるガスのうち2種類以上のガスの混合ガスを用いてもよい。プラズマ原料ガスとしては、アルゴンのような不活性ガスと、活性ガスとの混合ガスを用いることが好ましい。一例として、プラズマ原料ガス供給部は、アルゴン(Ar)と酸素(O2)との混合ガスを供給する。
プラズマ前処理機構11Bは、例えば、プラズマ密度100W・sec/m2以上8000W・sec/m2以下のプラズマを前処理ローラー20と電極部21との間に供給する。
図2に示す例において、プラズマ前処理機構11Bは、基材搬送室12A及び成膜室1
2Cから隔壁によって隔てられたプラズマ前処理室12B内に配置されている。プラズマ
前処理室12Bを基材搬送室12A及び成膜室12Cなどの他の領域と区分することによ
り、プラズマ前処理室12Bの雰囲気を独立して調整しやすくなる。これにより、例えば、
前処理ローラー20と電極部21とが対向する空間におけるプラズマ原料ガス濃度の制御
が容易となり、積層フィルムの生産性が向上する。
本実施の形態において、プラズマ前処理機構11Bの前処理ローラー20と電極部21との間に印加される電圧は、交流電圧である。交流電圧の印加により、前処理ローラー20と電極部21との間にプラズマを発生させる。好ましくは、交流電圧の印加により、発生したプラズマが、基材1の表面に向かうように、基材1の表面に対して垂直方向に運動するように、電場が形成される。
前処理ローラー20と電極部21との間に印加される交流電圧の値は、250V以上1000V以下であることが好ましい。交流電圧が上記の値を有する場合には、十分なプラズマ密度を有するプラズマを、前処理ローラー20と電極部21との間に発生させることができる。ここで、交流電圧の値とは、実効値Veを意味する。交流電圧の実効値Veは、交流電圧の最大値をVmとした場合に、以下の式により求められる。
前処理ローラー20と電極部21との間に印加される交流電圧は、例えば20kHz以上500kHz以下の周波数を有する。
(成膜機構)
次に、成膜機構11Cについて説明する。図2に示す例において、成膜機構11Cは、成膜室12Cに配置された成膜ローラー25と、蒸発機構24とを有する。
成膜ローラー25について説明する。成膜ローラー25は、プラズマ前処理機構11Bにおいて前処理された基材1の処理面を外側にして基材1を巻きかけて搬送するローラーである。
成膜ローラー25の材料について説明する。成膜ローラー25は、少なくともステンレス、鉄、銅及びクロムのうちいずれかを1以上含む材料から形成されることが好ましい。成膜ローラー25の表面には、傷つき防止のために、硬質のクロムハードコート処理などを施してもよい。これらの材料は加工が容易である。また、成膜ローラー25の材料として上記の材料を用いることにより、成膜ローラー25自体の熱伝導性が高くなるので、温度制御を行う際に、温度制御性が優れたものとなる。成膜ローラー25の表面の表面平均粗さRaは、例えば0.1μm以上10μm以下である。
また、図示はしないが、成膜ローラー25は、成膜ローラー25の表面の温度を調整する温度調整機構を有していてもよい。温度調整機構は、例えば、冷却媒体又は熱源媒体を循環させる循環路を成膜ローラー25の内部に有する。冷却媒体(冷媒)は、例えばエチレングリコール水溶液であり、熱源媒体(熱媒)は、例えばシリコンオイルである。温度調整機構は、成膜ローラー25と対向する位置に設置されたヒータを有していてもよい。成膜機構11Cが蒸着法により膜を成膜する場合、関連する機械部品の耐熱性の制約や汎用性の面から、好ましくは、温度調整機構は、成膜ローラー25の表面の温度を-20℃以上200℃以下の範囲内の目標温度に調整する。成膜ローラー25が温度調整機構を有することによって、成膜時に発生する熱に起因する基材1の温度の変動を抑えることができる。
蒸発機構24について説明する。図6は、図2において符号IXが付された一点鎖線で囲まれた部分を拡大し、図5においては省略されていた蒸発機構24の具体的形態を示し、図2においては省略されていた、蒸着材料を供給する、蒸着材料供給部61を示した図である。なお、図6においては、減圧チャンバ12及び隔壁35b、35cの記載は省略している。蒸発機構24は、アルミニウムを含む蒸着材料を蒸発させる機構である。蒸発した蒸着材料が基材1に付着することにより、基材1の表面にアルミニウムを含む蒸着膜が形成される。本実施の形態における蒸発機構24は、抵抗加熱式を採用している。図6に示す例において、蒸発機構24は、ボート24bを有する。本実施の形態において、ボート24bは、図示しない電源と、電源に電気的に接続された図示しない抵抗体と、を有する。ボート24bは、基材1の幅方向に複数並んでいてもよい。
図6に示すように、成膜機構11Cは、蒸発機構24に蒸着材料を供給する蒸着材料供給部61を有していてもよい。図6においては、蒸着材料供給部61がアルミニウムの金属線材を連続的に送り出す例を示している。
図示はしないが、成膜機構11Cは、ガス供給機構を有する。ガス供給機構は、蒸発機構24と成膜ローラー25との間にガスを供給する機構である。ガス供給機構は、少なくとも酸素ガスを供給する。酸素ガスは、蒸発機構24から蒸発して成膜ローラー25上の基材1に向かっているアルミニウムなどの蒸発材料と反応又は結合する。これにより、基材1の表面に酸化アルミニウムを含む蒸着膜を形成することができる。
また、成膜機構11Cは、基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給するプラズマ供給機構50を備える。図2及び図6に示す例において、プラズマ供給機構50は、ホローカソード51を有する。本実施の形態において、ホローカソード51は、一部において開口した空洞部を有する陰極である。ホローカソード51は、空洞部内にプラズマを発生させることができる。図6に示す例において、ホローカソード51は、ホローカソード51の空洞部の開口がボート24bの斜め上に位置するように設けられている。また、図示はしないが、本実施の形態に係るプラズマ供給機構50は、ホローカソード51の空洞部の開口からプラズマを引き出す、開口と対向するアノードを有する。本実施の形態に係るプラズマ供給機構50は、ホローカソード51の空洞部内にプラズマを発生させ、そのプラズマを対向するアノードによって基材1の表面と蒸発機構24との間に引き出すことによって、基材1の表面と蒸発機構24との間に強力なプラズマを発生させることができる。対向するアノードの位置は、対向するアノードによってホローカソード51の空洞部の開口からプラズマを引き出し、基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給することができる限り、特に限られない。本実施の形態においては、対向するアノードが、ボート24bの、基材1の幅方向における両側に配置されている場合について説明する。この場合、成膜機構11Cは複数のボート24bと複数の対向するアノードとを有し、複数のボート24bと複数の対向するアノードとは、基材1の幅方向に交互に並べられていてもよい。図示はしないが、プラズマ供給機構50は、少なくともホローカソード51の空洞部内にプラズマ原料ガスを供給する、原料供給装置を有していてもよい。原料供給装置が供給するプラズマ原料ガスとしては、例えばプラズマ前処理機構11Bのプラズマ原料ガス供給部が供給するプラズマ原料ガスとして用いることのできるガスと同様のガスを用いることができる。
プラズマ供給機構50によって、基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給する、蒸着時のプラズマアシストを行うことにより、蒸発機構24において蒸発したアルミニウム、及び酸素ガスを活性化させ、アルミニウムと酸素ガスとの反応又は結合を促進することができる。これにより、基材1の表面に形成される蒸着膜2中のアルミニウムが酸化アルミニウムとして存在する比率を高めることができ、蒸着膜2の特性を安定化することができる。
図示はしないが、成膜装置10は、基材搬送室12Aのうち、成膜室12Cよりも基材1の搬送方向の下流側に位置する部分に、成膜機構11Cによる成膜に起因して基材1に発生した帯電を除去する後処理を行う基材帯電除去部を備えてもよい。基材帯電除去部は、基材1の片面の帯電を除去するように設けられていてもよく、基材1の両面の帯電を除去するように設けられていてもよい。
基材1に後処理を行う基材帯電除去部として用いられる装置は、特に限定されないが、例えばプラズマ放電装置、電子線照射装置、紫外線照射装置、除電バー、グロー放電装置、コロナ処理装置などを用いることができる。
プラズマ処理装置、グロー放電装置を用いて放電を形成することにより後処理を行う場合、基材1の近傍に、アルゴン、酸素、窒素、ヘリウムなどの放電用ガス単体、又はこれらの混合ガスを供給し、交流(AC)プラズマ、直流(DC)プラズマ、アーク放電、マイクロウェーブ、表面波プラズマなど、任意の放電方式を用いて後処理を行うことが可能である。減圧環境下では、プラズマ放電装置を用いて後処理を行うことが最も好ましい。
基材帯電除去部を、基材搬送室12Aのうち、成膜室12Cよりも基材1の搬送方向の下流側に位置する部分に設置し、基材1の帯電を除去することにより、基材1を成膜ローラー25から所定位置で速やかに離して搬送することができる。このため、安定した基材搬送が可能となり、帯電に起因する基材1の破損や品質低下を防ぎ、基材表裏面の濡れ性改善により後加工適正の向上を図ることができる。
(電源)
図2に示す例において、成膜装置10は、前処理ローラー20と、電極部21と、に電気的に接続された、電源32を更に備える。図5に示す例において、電源32は、電力供給配線31を介して、前処理ローラー20、及び電極部21に電気的に接続されている。電源32は、例えば交流電源である。電源32が交流電源である場合には、電源32は、例えば20kHz以上500kHz以下の周波数を有する交流電圧を前処理ローラー20と電極部21との間に印加することが可能である。電源32によって印加可能な投入電力(基材1の幅方向において、電極部21の1m幅あたりに印加可能な電力)は、特に限定されないが、例えば、0.5kW/m以上20kW/m以下である。前処理ローラー20は、電気的にアースレベルに設置されてもよく、電気的にフローティングレベルに設置されてもよい。
(バリアフィルムの製造方法)
次に、上述の成膜装置10を使用して、図1に示すバリアフィルムを製造する方法について説明する。まず、基材1の表面に蒸着膜2を成膜する成膜方法について説明する。成膜装置10を使用した成膜においては、上述の基材1の搬送経路に沿って基材1を搬送しつつ、プラズマ前処理機構11Bを用いて基材1の表面にプラズマ前処理を施すプラズマ前処理工程、及び成膜機構11Cを用いて基材1の表面に蒸着膜を成膜する成膜工程を行う。基材1の搬送速度は、好ましくは200m/min以上であり、より好ましくは400m/min以上1000m/min以下である。
(プラズマ前処理工程)
プラズマ前処理工程は、例えば以下の方法により行われる。まず、プラズマ前処理室12B内にプラズマ原料ガスを供給する。次に、前処理ローラー20と電極部21との間に、上述の交流電圧を印加する。交流電圧の印加の際には、投入電力制御、又はインピーダンス制御などを行ってもよい。
前処理において供給されるプラズマ原料ガスは、酸素単独又は酸素ガスと不活性ガスとの混合ガスが、ガス貯留部から流量制御器を介することでガスの流量を計測しつつ供給される。不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素なる群から選ばれる、1種又は2種以上の混合ガスが挙げられる。
プラズマ処理としては、酸素ガスと前記不活性ガスとの混合比率、酸素ガス/不活性ガスは、6/1~1/1が好ましく、5/2~3/2.5がより好ましい。
混合比率を6/1~1/1とすることで、樹脂基材上での蒸着アルミニウムの膜形成エネルギーが増加し、更に5/2~3/2とすることで、酸化アルミニウム蒸着膜の酸化度を上げて酸化アルミニウム蒸着膜と基材との密着性を確保することができる。
交流電圧の印加によりグロー放電と同時にプラズマが生成し、前処理ローラー20と磁場形成部23との間にプラズマPが高密度化する。このようにして、前処理ローラー20と磁場形成部23との間にプラズマPを供給することができる。このプラズマPによって、基材1の表面にプラズマ(イオン)前処理を施すことができる。
プラズマ処理における単位面積あたりのプラズマ強度として50W・sec/m2以上8000W・sec/m2以下であり、50W・sec/m2以下では、プラズマ前処理の効果がみられず、また、8000W・sec/m2以上では、樹脂基材の消耗、破損着色、焼成などプラズマによる樹脂基材の劣化が起きる傾向にある。特に、酸化アルミウム層とするためプラズマ前処理のプラズマ強度としては、100W・sec/m2以上1000W・sec/m2以下が好ましい。
前処理ローラー20と電極部21との間に交流電圧を印加する際のプラズマ前処理室12B内の気圧は、減圧チャンバ12によって、大気圧以下に減圧される。この場合、プラズマ前処理室12B内の気圧は、例えば、交流電圧の印加により前処理ローラー20と電極部21との間にグロー放電を生じさせることができるように調整される。前処理ローラー20と電極部21との間に交流電圧を印加する際のプラズマ前処理室12B内の真空度は、0.1Pa以上100Pa以下程度に設定、維持することができ、特に、1Pa以上20Pa以下が好ましい。
プラズマ前処理工程における磁場形成部23の作用について説明する。磁場形成部23は、前処理ローラー20と電極部21との間に磁場を形成する。磁場は、前処理ローラー20と電極部21との間に存在する電子を捕捉し加速させるよう作用し得る。このため、磁場が形成されている領域において、電子とプラズマ原料ガスの衝突の頻度を高め、プラズマの密度を高め、且つ局在化させることがきるので、プラズマ前処理の効率を向上させることができる。
(成膜工程)
成膜工程においては、成膜機構11Cを用いて、基材1の表面に成膜する。成膜工程の一例として、図6に示す蒸発機構24を有する成膜機構11Cを用いて、酸化アルミニウム蒸着膜を成膜する場合について説明する。
まず、蒸発機構24のボート24b内に、成膜ローラー25に対向するように、アルミニウムを含む蒸着材料を供給する。蒸着材料としては、アルミニウムの金属線材を用いることができる。図6に示す例においては、蒸着材料供給部61によってアルミニウムの金属線材を連続的にボート24b内に送り出すことにより、ボート24bに蒸着材料を供給している。
加熱により、アルミニウムをボート24b内で蒸発させる。図6には、便宜的に、蒸発したアルミニウム蒸気63を図示している。アルミニウムを酸化する酸素ガスは、酸素単体でも、アルゴンのような不活性ガスとの混合ガスでの供給でもよいが、酸素量を制御することにより、バリア性、透明性を両立できる。このときの真空度は0.05Pa以上8.00Pa以下が好ましい。
更に、プラズマ供給機構50によって基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給する方法、すなわち蒸着時のプラズマアシストについて説明する。本実施の形態においては、プラズマ供給機構50のホローカソード51の空洞部内でプラズマを発生させる。次に、ホローカソード51と対向するアノードとの間に放電を発生させ、ホローカソード51の空洞部内のプラズマを基材1の表面と蒸発機構24との間に引き出す。
本実施の形態において、ホローカソード51と対向するアノードとの間において発生させる放電は、アーク放電である。アーク放電は、例えば電流の値が10A以上であるような放電を意味する。
基材1の表面と蒸発機構24との間にプラズマを供給しつつ、アルミニウムを蒸発させることにより、アルミニウム蒸気63にプラズマが供給される。プラズマの供給により、アルミニウム蒸気63と酸素ガスとの反応又は結合を促進することができる。これにより、アルミニウム蒸気63が基材1の表面に到達する前に、アルミニウム蒸気63を酸化させることができる。蒸発し、酸化したアルミニウムが基材1に付着することによって、基材1の表面に酸化アルミニウム蒸着膜を成膜し、図1に示すバリアフィルムを製造ことができる。
プラズマ供給機構50で供給されるプラズマ原料ガスは、酸素単独又は酸素ガスと不活性ガスとの混合ガスが好ましい。
本実施の形態においては、成膜工程の前に、基材1の表面にプラズマを供給するプラズマ前処理工程を実施している。プラズマ前処理工程においては、電極部21と前処理ローラー20との間に交流電圧を印加する。また、電極部21の面のうち前処理ローラー20と対向する面とは反対側の面の側に位置する磁場形成部23を利用して、電極部21と前処理ローラー20との間の空間に磁場を生じさせる。このため、電極部21と前処理ローラー20との間の空間に効率良くプラズマを発生させたり、プラズマを前処理ローラー20に巻き掛けられている基材1の表面に対して垂直に入射させたりすることができる。したがって、成膜工程によって成膜される膜と基材1との間の密着性を高めることができる。
(有機被覆層形成工程)
有機被覆層3は、以下の方法で製造することができる。まず、上記金属アルコキシド、水溶性高分子、必要に応じて添加するシランカップリング剤、ゾルゲル法触媒、酸、及び溶媒としての水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロパノール等のアルコール等の有機溶媒を混合し、バリアコート剤を調製する。次いで、酸化アルミニウム蒸着膜の上に、常法により、上記のバリアコート剤を塗布し、乾燥する。この乾燥工程によって、上記金属アルコキシド、シランカップリング剤及び水溶性高分子の重縮合が更に進行し、塗膜が形成される。第一の塗膜の上に、更に上記塗布操作を繰り返して、2層以上からなる複数の塗膜を形成してもよい。更に、20~200℃、かつプラスチック基材の融点以下の温度、好ましくは、50~180℃の範囲の温度で、3秒~10分間加熱処理する。これによって、酸化アルミニウム蒸着膜の上に、上記バリアコート剤による有機被覆層3を形成することができる。
(積層体)
本実施の形態に係るバリアフィルムを用いることによって形成される積層体の例について説明する。図7は、本実施の形態に係るバリアフィルムを用いることによって形成される積層体40の一例を示す図である。積層体40は、図1に示すバリアフィルムと、シーラント層7とを備える。具体的には、積層体40は、図1に示すバリアフィルムの有機被覆層上に、更に接着剤層4と、ポリアミドなどで構成される第2基材5と、接着剤層6と、シーラント層7とを、この順に備える。本発明の積層体は、バリアフィルムに少なくとも1層のヒートシール可能な層を積層したものであって、ヒートシール可能な熱可塑性樹脂が、接着層を介して、あるいは介することなく、最内層として積層され、ヒートシールなどのシール性が付与されたものである。
シーラント層7を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレンーアクリル酸共重合体、エチレンーアクリル酸エチル共重合体、エチレンーメタクリル酸メチル共重合体、エチレンープロピレン共重合体、エラストマー等の樹脂の一種ないしそれ以上を含むフィルムが例示できる。シーラント層7の厚さとしては3~100μmが好ましく、15~70μmがより好ましい。
(包装材料)
上記の積層体は、食品などの内容物を収容する包装袋を作製するための包装材料として用いる場合に有用である。特に、熱処理を施した場合においても高い密着性が維持されるバリアフィルムは、包装袋の材料として好適に使用できる。上記のバリアフィルムは、バリアフィルムを材料として包装製品を作成した場合に、包装製品において、バリアフィルムを構成する層の剥離を抑制することができる。例えば、バリアフィルムを材料として作製した包装袋に対して、熱水を用いた加熱殺菌処理、例えばレトルト処理又はボイル処理を施した場合に、バリアフィルムを構成する層の剥離、特に蒸着膜2の基材1からの剥離を抑制できる。
なお、レトルト処理とは、内容物を包装袋に充填して包装袋を密封した後、蒸気又は加熱温水を利用して包装袋を加圧状態で加熱する処理である。レトルト処理の温度は、例えば120℃以上である。ボイル処理とは、内容物を包装袋に充填して包装袋を密封した後、包装袋を大気圧下で湯煎する処理である。ボイル処理の温度は、例えば90℃以上且つ100℃以下である。
<他の態様>
本発明の他の態様においては、
基材と、酸化アルミニウム蒸着膜と、有機被覆層と、がこの順に積層されているバリアフィルムであって、
前記酸化アルミニウム蒸着膜は、前記バリアフィルムの前記有機被覆層表面側から、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によりエッチングした際に、元素結合OH由来の強度が検出され、
前記元素結合OH由来の強度は下に凸のピークを有し、前記下に凸のピークは、前記酸化アルミニウム蒸着膜における、前記有機被覆層表面側から10%以上60%以下の深さ位置に存在する、バリアフィルムであってもよい。
本発明の他の態様においては、
前記有機被覆層は、金属アルコキシドと、水酸基含有水溶性樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物であってもよい。
本発明の他の態様においては、
前記樹脂組成物は、更にシランカップリング剤を含有してもよい。
本発明の他の態様においては、
上記のバリアフィルムと、シーラント層とを備える積層体であってもよい。
本発明の他の態様においては、
上記の積層体を備える包装製品であってもよい。
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。まず、本実施の形態に記載の成膜装置である製膜装置1、及び成膜方法を用いて、実施例1、2、参考例1、2、及び比較例1に係るバリアフィルムを製造した。前処理条件、蒸着条件などにつき、まとめて表1に示す。なお、以後の表において、「プラズマ前処理有無」における評価の「〇」はプラズマ前処理有り、「×」はプラズマ前処理無し、を意味する。また、「蒸着時プラズマアシスト有無」における評価の「〇」は蒸着時プラズマアシスト有り、「×」は蒸着時プラズマアシスト無し、を意味する。
(実施例1)
基材1として、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)を用い、図2に示す成膜装置10を用いて、プラズマ前処理工程、及び成膜工程を行った。
前処理工程においては、図2及び図3に示すプラズマ前処理機構11Bを用いて、基材1の表面にプラズマ前処理を施した。具体的には、まず、プラズマ前処理室12Bに、プラズマ原料ガス供給部を用いて酸素(O2):アルゴン(Ar)との混合ガス(O2:Ar=2.5:1)を供給しつつ、減圧チャンバ12を用いて、プラズマ前処理室12B内の気圧を調整した。次に、前処理ローラー20と電極部21との間に電圧を印加してプラズマを発生させ、基材1の表面にプラズマ前処理を施した。プラズマ前処理室12B内の気圧は6.2Pa、磁場形成部23として1000ガウスの永久磁石を用いた。プラズマ密度は417W・sec/m2であった。
成膜工程においては、図6に示すような蒸発機構24を用いて、真空蒸着法により、酸化アルミニウムを含む蒸着膜2を成膜した。具体的には、成膜室12C内の真空度を1.5Paに調整した上で、蒸着材料としてアルミニウムの金属線材をボート24b内に供給しつつ、抵抗加熱式の蒸発機構24を用い、ボート24b内の蒸着材料を加熱し、基材1の表面に到達するようにアルミニウムを蒸発させるとともに、12500sccmで酸素を供給しながら、基材1の表面に蒸着膜2を成膜した。
また、プラズマ供給機構50として、図6に示すホローカソード51と、ボート24bからみて、基材1の幅方向における両側に配置された、ホローカソード51の空洞部の開口と対向する図示しないアノードと、を有する形態を用い、ホローカソード51の空洞部にプラズマ原料ガス(O2:Ar=35:1)を供給し、放電させてプラズマを励起し、このプラズマを、対向するアノードによって、基材1の表面と蒸発機構24との間に引き出して、蒸着時のプラズマアシストを行った。
以上の方法により基材1上に蒸着膜2を積層した。このときの搬送速度600m/分であり、蒸着膜2の厚さは8nmであった。
更に、蒸着膜2上に有機被覆層3(表1、表2における有機被覆層A)を積層した。水307g、イソプロピルアルコール147g及び0.5N塩酸7.3gを混合し、pH2.2に調整した溶液に、金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン175gと、シランカップリング剤としてグリシドキシプロピルトリメトキシシラン8.7gを10℃となるよう冷却しながら混合させて溶液Aを調製した。水溶性高分子として、ケン価度99%以上の重合度2400のポリビニルアルコール14.7g、水324g、イソプロピルアルコール17gを混合した溶液Bを調製した。A液とB液を質量比6.5:3.5となるよう混合して得られた溶液をバリアコート剤とした。上記のPETフィルムの酸化アルミニウム蒸着膜上に、上記で調製したバリアコート剤をスピンコート法によりコーティングした。その後、180℃で60秒間、オーブンにて加熱処理して、厚さ約400nmのバリア性被覆層を酸化アルミニウム蒸着膜上に形成して、有機被覆層Aを形成し、実施例1のバリアフィルムを製造した。
(実施例2)
実施例1において、搬送速度480m/分、蒸着膜2の厚さを13nmとした以外は実施例1と同様にして、実施例2のバリアフィルムを製造した。
(参考例1)
表1に示すように、実施例1において、プラズマ前処理を行わず、抵抗加熱式の蒸発機構24に換えてEB(電子ビーム)方式の蒸発機構(図示せず)を用い、蒸着時のプラズマアシスト処理を行わず、酸素供給量を8500sccmとし、蒸着時の真空度を0.15Paとした以外は実施例1と同様にして、参考例1のバリアフィルムを製造した。
(参考例2)
表1に示すように、実施例1において、プラズマ前処理室12B内の気圧を3.5Paとし、蒸着時のプラズマアシスト処理を行わず、酸素供給量を10000sccmとし、蒸着時の真空度を0.02Paとした以外は実施例1と同様にして、参考例2のバリアフィルムを製造した。
(比較例1)
表1に示すように、参考例3において、搬送速度480m/分、蒸着膜2の厚さを13nmとした以外は参考例2と同様にして、比較例1のバリアフィルムを製造した。
(実施例3から5、比較例2)
上記の製膜装置1とは別の製膜装置2を用い、表2の製膜条件で、実施例3から5、比較例2のバリアフィルムを製造した。
なお、有機被覆層Bは、水197g、イソプロピルアルコール34g及び0.5N塩酸4.7gを混合し、pH2.2に調整した溶液に、金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン145gを15℃となるよう冷却しながら混合させて溶液Aを調製した。水溶性高分子として、ケン価度99%以上の重合度2400のポリビニルアルコール8.3g、水182g、イソプロピルアルコール9.6gを混合した溶液Bを調製した。A液とB液を質量比4.0:6.0となるよう混合して得られた溶液をバリアコート剤とした。上記のPETフィルムの酸化アルミニウム蒸着膜上に、上記で調製したバリアコート剤をスピンコート法によりコーティングした。その後、180℃で60秒間、オーブンにて加熱処理して、厚さ約400nmのバリア性被覆層を酸化アルミニウム蒸着膜上に形成して、有機被覆層Bを形成した。
[TOF-SIMS分析]
実施例1から5、比較例1、2のバリアフィルムについて、飛行時間型二次イオン質量分析計(ION TOF社製、TOF.SIMS5)を用いて、下記測定条件で、バリアフィルムの蒸着膜表面側から、Cs(セシウム)イオン銃により一定の速度でソフトエッチングを繰り返しながら、樹脂基材由来のC6(質量数72.00)、酸化アルミニウム蒸着膜由来のAl2O3(質量数101.94)、酸化アルミニウム蒸着膜由来のAl2O4H(質量数118.93)、有機被覆層由来のSi(質量数27.97)、OH(質量数17.00)の質量分析を行った。製膜装置1の測定結果のグラフ解析図を図8から図10に示す。図8は実施例1の測定結果であり、図9は実施例2の測定結果であり、図10は比較例1の測定結果である。製膜装置2の測定結果のグラフ解析図を図11から図14に示す。図11は実施例3の測定結果であり、図12は実施例4の測定結果であり、図13は実施例5の測定結果であり、図14は比較例2の測定結果である。図中、縦軸の単位(intensity)は、イオンの強度の常用対数であり、横軸の単位(Et times(s))は、エッチングを行った秒数である。
TOF-SIMS測定条件
・一次イオン種類:Bi3++(0.2pA,100μs)
・測定面積:150×150μm2
・エッチング銃種類:Cs(1keV、60nA)
・エッチング面積:600×600μm2
・エッチングレート:10sec/Cycle
また、測定された元素結合OH(質量数17.00)の強度ピークを表す位置をエッチング秒数で求め(ピーク位置Y)、その位置の蒸着膜の有機被覆層側表面からの深さ位置(図9におけるピーク位置Y/X、単位%)を求めた。これらの結果をまとめて表3、表4に示す。
(バリア性の評価)
上記の方法によって製造した実施例1から5、参考例1、2、比較例1、2のバリアフィルムのそれぞれについて、水蒸気透過率及び酸素透過率の値を測定した。
水蒸気透過率は、水蒸気透過率測定装置(モコン社製、製品名「パーマトラン」)を用いて、40℃、100%RHの測定条件で、JIS K 7129 B法に準拠し、測定した。また、酸素透過率は、酸素透過率測定装置(モコン社製、製品名「オクストラン(OXTRAN)」)を用いて、23℃、90%RHの測定条件で、JIS K 7126-2に準拠して測定した。結果を表5、表6に示す。
(密着性の評価)
上記の方法によって製造した実施例1、2、参考例1~3、比較例1のバリアフィルムの有機被覆層3上に、2液硬化型のポリウレタン系ラミネート用接着剤を、グラビアロールコート法を用いて厚さ4.0g/m2(乾燥状態)にコーティングして接着剤層4を形成し、次いで、接着剤層4の面に、第2基材5として厚さ15μmの二軸延伸ナイロン6フィルムを対向させ、ドライラミネートして積層した。次に、第2基材5の面に、上記の接着剤層4と同様に、ラミネート用の接着剤層6を形成し、次に、接着剤層6の面に、シーラント層7として厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルムをドライラミネートして積層して、図7に示すような層構成の積層体を製造した。
次に、この層構成の積層体を、シーラント層同士が向き合うように対向させ、ヒートシールすることによって、パウチに成形した。パウチに水を充填した後、135℃、40分のレトルト処理を行った。レトルト処理を行なった後の状態の積層体のそれぞれについて、水付け剥離強度の値を測定した。結果をまとめて表5、6に示す。
水付け剥離強度は、以下の方法によって測定した。まず、レトルト処理を行った後の状態の積層体のそれぞれを短冊切りし、幅15mmの矩形の試験片を得た。次に、試験片の蒸着膜と基材とを、試験片の長手方向(試験片の幅方向と直交する方向)に向かって部分的に引き剥がした。蒸着膜と基材との引き剥がしは、蒸着膜と基材とが、一部においては接合を維持するように行った。次に、テンシロン万能材料試験機を用いて、JIS Z6854-2に準拠し、蒸着膜と基材との界面の剥離強度を、剥離角度180°、剥離速度50mm/minの条件にて測定した。水付け剥離強度の測定においては、試験片の長手方向に沿ってみた場合における、蒸着膜と基材とが接合を維持している部分と、蒸着膜と基材とが引き剥がされている部分との境界部分にスポイトで水を滴下した状態で、30mmにわたって剥離を進行させるために要した引張力を測定し、引張力の平均値を算出した。実施例1から5、参考例1、2、比較例1、2のそれぞれについて、6個の試験片について引張力の平均値をそれぞれ算出し、その平均値を、実施例1から5、参考例1、2、比較例1、2のそれぞれにおける水付け剥離強度とした。結果を表5、表6に示す。
表5、表6より、元素結合OH由来の強度は下に凸のピークを有し、下に凸のピークが、蒸着膜における有機被覆層表面側から10%以上60%以下の深さ位置に存在する実施例1から5においては、比較例に比べて高いバリア性を有している。