JP2022000472A - 標的抗原に対する免疫応答を誘導する抗原結合分子 - Google Patents

標的抗原に対する免疫応答を誘導する抗原結合分子 Download PDF

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Abstract

【課題】外来性の生物種によって感染されたまたは癌に罹患した対象に投与することによって当該対象の免疫応答を誘導する抗原結合分子を有効成分として含む医薬組成物の提供。【解決手段】イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を有効成分として含む前記抗原に対する免疫応答を誘導する医薬組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、標的抗原に対する免疫応答を誘導する抗原結合分子を有効成分として含む医薬組成物または当該医薬組成物を用いる治療方法を提供する。また、上記の免疫応答を誘導するとともに、標的抗原を発現する細胞に対する傷害作用(細胞障害活性)または増殖抑制作用(細胞増殖阻害活性)を併せ持つ抗原結合分子を有効成分として含む医薬組成物または当該医薬組成物を用いる治療方法を提供する。
今日まで腫瘍細胞に向けられた複数の治療ワクチンの開発が試みられている。生体の免疫系によって認識され得る、腫瘍細胞と正常細胞の間にあると考えられる質的または量的な相違があるため、こうした相違(ネオエピトープ)を利用したワクチンによる能動的、特異的な感作によって刺激された免疫系が、腫瘍細胞を認識し、排除することができる、と考えられているためである。
こうした抗腫瘍応答を起こすためには、少なくとも2つの条件が満たされなければならないと考えられている。第一に、腫瘍細胞が正常細胞には出現しない抗原か、又は、正常細胞と腫瘍細胞とをもっぱら質的に区別できる程度の抗原を発現していなければならない。第ニに、ワクチン等によって免疫系が目的とする抗原と反応すべく活性化されなければならない。腫瘍の免疫療法における重大な障害は、腫瘍の免疫原性が、特にヒトでは弱いことであると考えられている。
近年、免疫系の攻撃対象を構成し得るこのようなネオエピトープを含む腫瘍関連および腫瘍特異的抗原が発見されている。それにもかかわらず免疫系がこれらのネオエピトープを発現している腫瘍を排除することができないというのは、ネオエピトープが存在しないためではなく、これらのネオエピトープに対する免疫応答が不十分であるためであると考えられている。
細胞を基礎とする癌の免疫療法を目的として、二つの一般的な戦略が開発されてきた。一方は、in vitroで拡大された腫瘍反応性Tリンパ球が患者に再移入される養子免疫療法であり、もう一方は、腫瘍抗原に対して新しい又はより強い免疫応答を引き起こし、全身性の腫瘍応答を導くことを目的として腫瘍細胞が使用される能動免疫療法である。
能動免疫療法を基礎とする腫瘍ワクチンは種々の方法により調製されている。腫瘍抗原に対する免疫応答を誘導するために、カルメット・ゲラン杵菌(Bacillus Calmette Guerin)(BCG)のような免疫刺激アジュバントと混合した放射線照射腫瘍細胞(非特許文献1)、例えばサイトカインを産生するように遺伝的に改変された腫瘍細胞(非特許文献2)、異質化された自家腫瘍細胞(非特許文献3)等が調製されている。しかしながら、腫瘍細胞の免疫原性は低く、その原因は腫瘍抗原の質的な問題ではなく、その量的な問題であると考えられている。
一方、抗体は結合した抗原を抗原提示細胞にcross presentationすることで、抗原に対する液性免疫応答(抗原に対する抗体産生)および細胞性免疫応答(抗原に対するCD8陽性T細胞産生)を誘導することが知られており、抗体投与により抗原に対する獲得免疫を誘導することが可能であることが報告されている(非特許文献4)。最近、マウスin vivoモデルにおいて、HER2に対する抗体による抗腫瘍効果は、投与した抗体の直接のADCCよりも抗体投与によって誘導されるHER2抗原に対する獲得免疫が重要な役割を果たしていることが示されている(非特許文献5)。実際、HER2に対するIgG1サブクラスの抗体医薬であるハーセプチンの臨床において、ハーセプチン投与によって獲得免疫が誘導され、HER2に対する液性免疫応答が認められた(非特許文献6)。ハーセプチン投与が奏功した患者において特にHER2に対する抗体価の上昇が認められたことから、ハーセプチン投与による獲得免疫誘導が抗腫瘍効果に重要な役割を果たしていると考えられた。
抗体は血中での安定性が高く、副作用も少ないことから医薬品として注目されている(非特許文献7、非特許文献8)。IgGクラスの抗体のエフェクター機能である抗体依存性細胞傷害活性(以下、ADCCと表記する)、補体依存性細胞傷害活性(以下、CDCと表記する)の研究は、これまでに多数行われ、ヒトIgGクラスの中では、IgG1サブクラスの抗体が最も高いADCC活性、CDC活性を有することが報告されている(非特許文献9)。また、IgGクラスの抗体を介した標的細胞のファゴサイトーシスである抗体依存性細胞介在性ファゴサイトーシス(ADCP)も抗体のエフェクター機能の一つとして示唆されている(非特許文献10、非特許文献11)。IgG1サブクラスの抗体は、これらのエフェクター機能を腫瘍に対して発揮させることが可能であるため、癌抗原に対するほとんどの抗体医薬としてIgG1サブクラスの抗体が用いられている。
IgG抗体がADCC、ADCP活性を媒介するためには、IgG抗体のFc領域と、キラー細胞、ナチュラルキラー細胞、活性化されたマクロファージ等のエフェクター細胞表面上に存在する抗体レセプター(以下、FcγRと表記する)との結合が必要である。ヒトでは、FcγRのタンパク質ファミリーとして、FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、FcγRIIIbのアイソフォームが報告されており、それぞれのアロタイプも報告されている(非特許文献12)。
ADCCとADCPなどの細胞傷害性のエフェクター機能の増強は、抗癌抗体の抗腫瘍効果を増強するための有望な手段として注目されている。抗体の抗腫瘍効果を目的とするFcγRを介したエフェクター機能の重要性は、マウスモデルを使って報告されている(非特許文献13、非特許文献14)。また、ヒトにおける臨床効果と、FcγRIIIaの高親和性多型アロタイプ(V158)と低親和性多型アロタイプ(F158)との間には相関が観察された(非特許文献15)。これらの報告から、特定のFcγRに対する結合が最適化されたFc領域を有する抗体は、より強力なエフェクター機能を媒介し、それにより効果的な抗腫瘍効果を発揮することが示唆される。FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIIa、FcγRIIIbを含む活性化受容体、FcγRIIbを含む阻害性受容体のそれぞれに対する抗体の親和性のバランスは、抗体のエフェクター機能を最適化する上で重要な要素である。活性化受容体に対する親和性を増強することによって、より強力なエフェクター機能を媒介する性質を抗体に付与する可能性があることから(非特許文献16)、癌抗原に対する抗体医薬の抗腫瘍活性を増強あるいは向上させる抗体エンジニアリングの手法としてこれまで様々な報告がされている。
Fc領域とFcγRの結合については、抗体のヒンジ領域及びCH2ドメイン内のいくつかのアミノ酸残基およびCH2ドメインに結合しているEUナンバリング297番目のAsnに付加される糖鎖が重要であることが示されている(非特許文献9、非特許文献17、非特許文献18)。この結合箇所を中心に、これまでに様々なFcγR結合特性を持つFc領域の変異体が研究され、より高い活性化FcγRに対する親和性を有するFc領域変異体が得られている(特許文献1、特許文献2)。例えば、Lazarらは、ヒトIgG1のEUナンバリング239番目のSer、330のAla、332のIleをそれぞれAsn、Leu、Gluに置換することによって、ヒトFcγRIIIa(V158)に対するヒトIgG1の結合を約370倍まで増加させることに成功している(非特許文献19、特許文献2)。この改変体は野生型と比べて、FcγRIIIaとFcγIIbに対する結合の比(A/I比)が約9倍になっている。また、ShinkawaらはEUナンバリング297番目のAsnに付加される糖鎖のフコースを欠損させることによって、FcγRIIIaに対する結合を約100倍まで増加させることに成功している(非特許文献20)。これらの方法によって、天然型ヒトIgG1と比較してヒトIgG1のADCC活性を大幅に向上させることが可能である。
上述のように抗体エンジニアリングによるADCCを増強する方法は多数報告されているが、これまでに抗体投与による獲得免疫の誘導を増強あるいは向上させる抗体工学の手法は報告されていなかった。癌抗原に対する獲得免疫を誘導する方法として、抗原提示細胞に発現しているDEC-205やハイマンノース受容体に結合する抗体に獲得免疫を誘導させたい癌抗原を融合させることによって、癌抗原の抗原提示細胞への取り込みと抗原提示を促進する方法が報告されている(非特許文献21)が、これらの方法は上述の抗HER2抗体のように抗体が結合する標的癌抗原ではない。すなわち、抗体自身に融合された癌抗原に対する獲得免疫を誘導する方法であることから、抗体自身は癌抗原に結合することができず、癌抗原に対して直接の作用を発揮することができないという欠点を有する。また、この方法では、抗体に融合された癌抗原だけでなく、抗原提示細胞にターゲットするための抗体自身に対する獲得免疫も誘導することから、抗薬剤抗体の出現により効果の減弱につながるため、治療を目的とするには本方法は好ましくないと考えられる。
以上のことから、標的抗原に対する結合活性を有する抗原結合分子を投与することにより、その標的抗原に対する獲得免疫を誘導することが望ましいにも関わらず、このような方法で獲得免疫を増強あるいは向上させるエンジニアリング手法は報告されていなかった。
WO2000/042072 WO2006/019447
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本発明は上記の情況に鑑みてなされたものであり、外来性の生物種によって感染されたまたは癌に罹患した対象に投与することによって当該対象の免疫応答を誘導する抗原結合分子を有効成分として含む医薬組成物または当該医薬組成物を用いる治療方法を提供することを目的とする。また、上記の免疫応答を誘導するとともに、感染した外来性の生物種または癌細胞に対する傷害作用(細胞障害活性)または増殖抑制作用(細胞増殖阻害活性)を併せ持つ抗原結合分子を有効成分として含む医薬組成物または当該医薬組成物を用いる治療方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子が投与された生体において、当該抗原に対する免疫応答が誘導されていることを見出した。さらに、本発明者らは、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子が投与された生体において、当該抗原に対する免疫応答が誘導されているとともに、当該抗原結合分子が結合する抗原を発現する外来生物種や癌細胞等に対する傷害作用または増殖抑制作用を併せ持つことが可能であることを見出した。本発明者らは、かかる発見に基づいて、本発明に係る抗原結合分子が、外来性の生物種によって感染されたまたは癌に罹患した対象に投与することによって、当該対象の免疫応答を誘導する医薬組成物として有用であることを明らかにした。また、本発明者らは、本発明に係る抗原結合分子が、外来性の生物種によって感染されたまたは癌に罹患した対象に投与することによって、当該対象の免疫応答を誘導するとともに、当該外来性の生物種や癌細胞に対する傷害作用または増殖抑制作用を併せ持つ医薬組成物として有用であることを明らかにした。また、これらの医薬組成物の製造方法を見出した。
すなわち、本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔47〕を提供するものである。
〔1〕イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を有効成分として含む前記抗原に対する免疫応答を誘導する医薬組成物。
〔2〕前記イオン濃度が、カルシウムイオン濃度である〔1〕に記載の医薬組成物。
〔3〕前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での当該抗原に対する結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高いという特徴を有する抗原結合ドメインである〔2〕に記載の医薬組成物。
〔4〕前記イオン濃度の条件が、pHの条件である〔1〕に記載の医薬組成物。
〔5〕前記抗原結合ドメインが、pH酸性域の条件下での当該抗原に対する結合活性よりもpH中性域の条件下での抗原に対する結合活性が高いという特徴を有する抗原結合ドメインである〔4〕に記載の医薬組成物。
〔6〕前記抗原結合分子が、前記抗原に対する中和活性を有する抗原結合分子である〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔7〕前記抗原結合分子が、前記抗原を発現する細胞に対する細胞傷害活性を有する抗原結合分子である〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔8〕前記FcRn結合ドメインが、抗体のFc領域を含む〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔9〕前記Fc領域が、Fc領域のEUナンバリングで表される部位のうち、257位、308位、428位および434位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が、天然型Fc領域の対応する部位のアミノ酸と異なるFc領域である〔8〕に記載の医薬組成物。
〔10〕前記Fc領域が、Fc領域のEUナンバリングで表される;
257位のアミノ酸がAla、
308位のアミノ酸がPro、
428位のアミノ酸がLeu、および
434位のアミノ酸がTyr、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸を含むFc領域である〔8〕または〔9〕に記載の医薬組成物。
〔11〕前記Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性が、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりも高いという特徴を有する〔8〕から〔10〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔12〕前記Fcγレセプターが、FcγRIa、FcγRIIa(R)、FcγRIIa(H)、FcγRIIb、FcγRIIIa(V)、またはFcγRIIIa(F)である〔11〕に記載の医薬組成物。
〔13〕前記Fc領域が、Fc領域におけるEUナンバリングで表される部位のうち、221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位および440位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が、天然型Fc領域の対応する部位のアミノ酸と異なるFc領域である〔11〕または〔12〕に記載の医薬組成物。
〔14〕前記Fc領域が、Fc領域におけるEUナンバリングで表される部位のうち;
221位のアミノ酸がLysまたはTyrのいずれか、
222位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
223位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはLysのいずれか、
224位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
225位のアミノ酸がGlu、LysまたはTrpのいずれか、
227位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
228位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
230位のアミノ酸がAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれか、
231位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
232位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
233位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
234位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
235位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
236位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
238位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
240位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
241位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
243位のアミノ酸がLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
244位のアミノ酸がHis、
245位のアミノ酸がAla、
246位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
247位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
249位のアミノ酸がGlu、His、GlnまたはTyrのいずれか、
250位のアミノ酸がGluまたはGlnのいずれか、
251位のアミノ酸がPhe、
254位のアミノ酸がPhe、MetまたはTyrのいずれか、
255位のアミノ酸がGlu、LeuまたはTyrのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、MetまたはProのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれか、
260位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
262位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれか、
263位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
264位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
265位のアミノ酸がAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
266位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
267位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
268位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
269位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
270位のアミノ酸がGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
271位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
272位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
273位のアミノ酸がPheまたはIleのいずれか、
274位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
275位のアミノ酸がLeuまたはTrpのいずれか、
276位のアミノ酸が、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
278位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、
280位のアミノ酸がAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
281位のアミノ酸がAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
282位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれか、
284位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
286位のアミノ酸がGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれか、
288位のアミノ酸がAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれか、
290位のアミノ酸がAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、291位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれか、
292位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれか、
293位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
294位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれか、
297位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
298位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
299位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
301位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
302位のアミノ酸がIle、
303位のアミノ酸がAsp、GlyまたはTyrのいずれか、
304位のアミノ酸がAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれか、
305位のアミノ酸がGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
313位のアミノ酸がPhe、
315位のアミノ酸がLeu、
317位のアミノ酸がGluまたはGln、
318位のアミノ酸がHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
320位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
322位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、
324位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
325位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
326位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
327位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
328位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
329位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
330位のアミノ酸がCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
331位のアミノ酸がAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
332位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
333位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
334位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれか、
335位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
336位のアミノ酸がGlu、LysまたはTyrのいずれか、
337位のアミノ酸がGlu、HisまたはAsnのいずれか、
339位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれか、
376位のアミノ酸がAlaまたはValのいずれか、
377位のアミノ酸がGlyまたはLysのいずれか、
378位のアミノ酸がAsp、
379位のアミノ酸がAsn、
380位のアミノ酸がAla、AsnまたはSerのいずれか、
382位のアミノ酸がAlaまたはIleのいずれか、
385位のアミノ酸がGlu、
392位のアミノ酸がThr、
396位のアミノ酸がLeu、
421位のアミノ酸がLys、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がPheまたはLeuのいずれか、
429位のアミノ酸がMet、
434位のアミノ酸がTrp、
436位のアミノ酸がIle、および
440位のアミノ酸がGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸を含むFc領域である〔11〕から〔13〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔15〕前記天然型Fc領域が、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖であるヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3またはヒトIgG4のいずれかのFc領域である〔11〕から〔14〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔16〕前記Fc領域が、Fc領域のEUナンバリング297位に結合した糖鎖の組成がフコース欠損糖鎖を結合したFc領域の割合が高くなるように、またはバイセクティングN-アセチルグルコサミンが付加したFc領域の割合が高くなるように修飾されたFc領域である〔11〕から〔15〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔17〕〔1〕から〔16〕に記載される抗原結合分子を生体内に投与する工程を含む当該生体の免疫応答を誘導する方法。
〔18〕イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子に含まれるFcRn結合ドメインに、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を付与することを含む免疫応答を誘導する抗原結合分子の製造方法。
〔19〕前記イオン濃度が、カルシウムイオン濃度である〔18〕に記載の方法。
〔20〕前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での当該抗原に対する結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高いという特徴を有する抗原結合ドメインである〔19〕に記載の方法。
〔21〕前記イオン濃度の条件が、pHの条件である〔18〕に記載の方法。
〔22〕前記抗原結合ドメインが、pH酸性域の条件下での当該抗原に対する結合活性よりもpH中性域の条件下での抗原に対する結合活性が高いという特徴を有する抗原結合ドメインである〔21〕に記載の方法。
〔23〕前記抗原結合分子が、前記抗原に対する中和活性を有する抗原結合分子である〔18〕から〔22〕のいずれかに記載の方法。
〔24〕前記抗原結合分子が、前記抗原を発現する細胞に対する細胞傷害活性を有する抗原結合分子である〔18〕から〔23〕のいずれかに記載の方法。
〔25〕前記FcRn結合ドメインが、抗体のFc領域を含む〔18〕から〔24〕のいずれかに記載の方法。
〔26〕Fc領域のEUナンバリングで表される部位のうち、239位、252位、257位、286位、307位、308位、428位および434位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸を置換する工程を含む〔25〕に記載の方法。
〔27〕Fc領域のEUナンバリングで表される部位のうち;
257位のアミノ酸のAlaへの置換、
308位のアミノ酸のProへの置換、
428位のアミノ酸のLeuへの置換、および
434位のアミノ酸のTyrへの置換、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸置換を行う工程を含む〔25〕または〔26〕に記載の方法。
〔28〕前記Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性を、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりも増強させる工程を含む〔25〕から〔27〕のいずれかに記載の方法。
〔29〕前記Fcγレセプターが、FcγRIa、FcγRIIa(R)、FcγRIIa(H)、FcγRIIb、FcγRIIIa(V)、またはFcγRIIIa(F)である〔28〕に記載の方法。
〔30〕Fc領域におけるEUナンバリングで表される部位のうち、221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位および440位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸を置換する工程を含む〔28〕または〔29〕に記載の方法。
〔31〕Fc領域におけるEUナンバリングで表される部位のうち;
221位のアミノ酸のLysまたはTyrのいずれかへの置換、
222位のアミノ酸のPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれかへの置換、
223位のアミノ酸のPhe、Trp、GluまたはLysのいずれかへの置換、
224位のアミノ酸のPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれかへの置換、
225位のアミノ酸のGlu、LysまたはTrpのいずれかへの置換、
227位のアミノ酸のGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれかへの置換、
228位のアミノ酸のGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれかへの置換、
230位のアミノ酸のAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれかへの置換、
231位のアミノ酸のGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれかへの置換、
232位のアミノ酸のGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれかへの置換、
233位のアミノ酸のAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
234位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
235位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
236位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
237位のアミノ酸のAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
238位のアミノ酸のAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
239位のアミノ酸のAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
240位のアミノ酸のAla、Ile、MetまたはThrのいずれかへの置換、
241位のアミノ酸のAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
243位のアミノ酸のLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
244位のアミノ酸のHisへの置換、
245位のアミノ酸のAlaへの置換、
246位のアミノ酸のAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれかへの置換、
247位のアミノ酸のAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれかへの置換、
249位のアミノ酸のGlu、His、GlnまたはTyrのいずれかへの置換、
250位のアミノ酸のGluまたはGlnのいずれかへの置換、
251位のアミノ酸のPheへの置換、
254位のアミノ酸のPhe、MetまたはTyrのいずれかへの置換、
255位のアミノ酸のGlu、LeuまたはTyrのいずれかへの置換、
256位のアミノ酸のAla、MetまたはProのいずれかへの置換、
258位のアミノ酸のAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれかへの置換、
260位のアミノ酸のAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれかへの置換、
262位のアミノ酸のAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれかへの置換、
263位のアミノ酸のAla、Ile、MetまたはThrのいずれかへの置換、
264位のアミノ酸のAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
265位のアミノ酸のAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
266位のアミノ酸のAla、Ile、MetまたはThrのいずれかへの置換、
267位のアミノ酸のAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
268位のアミノ酸のAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれかへの置換、
269位のアミノ酸のPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
270位のアミノ酸のGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
271位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
272位のアミノ酸のAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
273位のアミノ酸のPheまたはIleのいずれかへの置換、
274位のアミノ酸のAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
275位のアミノ酸のLeuまたはTrpのいずれかへの置換、
276位のアミノ酸の、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
278位のアミノ酸のAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれかへの置換、
279位のアミノ酸のAlaへの置換、
280位のアミノ酸のAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
281位のアミノ酸のAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれかへの置換、
282位のアミノ酸のGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれかへの置換、
283位のアミノ酸のAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれかへの置換、
284位のアミノ酸のAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれかへの置換、
285位のアミノ酸のAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
286位のアミノ酸のGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれかへの置換、
288位のアミノ酸のAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれかへの置換、
290位のアミノ酸のAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
291位のアミノ酸のAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれかへの置換、
292位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれかへの置換、
293位のアミノ酸のPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
294位のアミノ酸のPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
295位のアミノ酸のAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
296位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれかへの置換、
297位のアミノ酸のAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
298位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
299位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
300位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれかへの置換、
301位のアミノ酸のAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれかへの置換、
302位のアミノ酸のIleへの置換、
303位のアミノ酸のAsp、GlyまたはTyrのいずれかへの置換、
304位のアミノ酸のAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれかへの置換、
305位のアミノ酸のGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれかへの置換、
311位のアミノ酸のAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれかへの置換、
313位のアミノ酸のPheへの置換、
315位のアミノ酸のLeuへの置換、
317位のアミノ酸のGluまたはGlnへの置換、
318位のアミノ酸のHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれかへの置換、
320位のアミノ酸のAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
322位のアミノ酸のAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
323位のアミノ酸のIleへの置換、
324位のアミノ酸のAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
325位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
326位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
327位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
328位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
329位のアミノ酸のAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
330位のアミノ酸のCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
331位のアミノ酸のAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
332位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
333位のアミノ酸のAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれかへの置換、
334位のアミノ酸のAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれかへの置換、
335位のアミノ酸のAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれかへの置換、
336位のアミノ酸のGlu、LysまたはTyrのいずれかへの置換、
337位のアミノ酸のGlu、HisまたはAsnのいずれかへの置換、
339位のアミノ酸のAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれかへの置換、
376位のアミノ酸のAlaまたはValのいずれかへの置換、
377位のアミノ酸のGlyまたはLysのいずれかへの置換、
378位のアミノ酸のAspへの置換、
379位のアミノ酸のAsnへの置換、
380位のアミノ酸のAla、AsnまたはSerのいずれかへの置換、
382位のアミノ酸のAlaまたはIleのいずれかへの置換、
385位のアミノ酸のGluへの置換、
392位のアミノ酸のThrへの置換、
396位のアミノ酸のLeuへの置換、
421位のアミノ酸のLysへの置換、
427位のアミノ酸のAsnへの置換、
428位のアミノ酸のPheまたはLeuのいずれかへの置換、
429位のアミノ酸のMetへの置換、
434位のアミノ酸のTrpへの置換、
436位のアミノ酸のIleへの置換、および
440位のアミノ酸のGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれかへの置換、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸置換を行う工程を含む〔28〕から〔30〕のいずれかに記載の方法。
〔32〕前記天然型Fc領域が、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖であるヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3またはヒトIgG4のいずれかFc領域である〔28〕から〔31〕のいずれかに記載の方法。
〔33〕Fc領域のEUナンバリング297位に結合した糖鎖の組成がフコース欠損糖鎖を結合したFc領域の割合が高くなるように、またはバイセクティングN-アセチルグルコサミンが付加したFc領域の割合が高くなるように、前記Fc領域を修飾する工程を含む〔28〕から〔32〕のいずれかに記載の方法。
〔34〕以下(a)〜(f)の工程、
(a) 高カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性を得る工程、
(b) 低カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性を得る工程、
(c) (a)で得られた抗原結合活性が(b)で得られた抗原結合活性より高い抗原結合ドメインを選択する工程、
(d) (c)で選択された抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドを、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードするポリヌクレオチドに連結させる工程、
(e) (d)で得られたポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクターが導入された細胞を培養する工程、および
(f) (e)で培養された細胞の培養液から抗原結合分子を回収する工程、
を含む免疫応答を誘導する医薬組成物の製造方法。
〔35〕以下(a)〜(f)の工程、
(a) 高カルシウムイオン濃度の条件における抗体の抗原に対する結合活性を得る工程、
(b) 低カルシウムイオン濃度の条件における抗体の抗原に対する結合活性を得る工程、
(c) (a)で得られた抗原結合活性が(b)で得られた抗原結合活性より高い抗体を選択する工程、
(d) (c)で選択された抗体の抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドを、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードするポリヌクレオチドに連結させる工程、
(e) (d)で得られたポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクターが導入された細胞を培養する工程、および
(f) (e)で培養された細胞の培養液から抗原結合分子を回収する工程、
を含む免疫応答を誘導する医薬組成物の製造方法。
〔36〕以下(a)〜(f)の工程、
(a) pH中性域の条件における抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性を得る工程、
(b) pH酸性域の条件における抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性を得る工程、
(c) (a)で得られた抗原結合活性が(b)で得られた抗原結合活性より高い抗原結合ドメインを選択する工程、
(d) (c)で選択された抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドを、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードするポリヌクレオチドに連結させる工程、
(e) (d)で得られたポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクターが導入された細胞を培養する工程、および
(f) (e)で培養された細胞の培養液から抗原結合分子を回収する工程、
を含む抗原結合分子の製造方法。
〔37〕以下(a)〜(f)の工程、
(a) pH中性域の条件における抗体の抗原に対する結合活性を得る工程、
(b) pH酸性域の条件における抗体の抗原に対する結合活性を得る工程、
(c) (a)で得られた抗原結合活性が(b)で得られた抗原結合活性より高い抗体を選択する工程、
(d) (c)で選択された抗体の抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドを、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードするポリヌクレオチドに連結させる工程、
(e) (d)で得られたポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクターが導入された細胞を培養する工程、および
(f) (e)で培養された細胞の培養液から抗原結合分子を回収する工程、
を含む抗原結合分子の製造方法。
〔38〕前記抗原結合分子が、前記抗原に対する中和活性を有する抗原結合分子である〔34〕から〔37〕のいずれかに記載の方法。
〔39〕前記抗原結合分子が、前記抗原を発現する細胞に対する細胞傷害活性を有する抗原結合分子である〔34〕から〔38〕のいずれかに記載の方法。
〔40〕前記FcRn結合ドメインが、抗体のFc領域を含む〔34〕から〔39〕のいずれかに記載の方法。
〔41〕前記Fc領域が、Fc領域のEUナンバリングで表される部位のうち、257位、308位、428位および434位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が、天然型Fc領域の対応する部位のアミノ酸と異なるFc領域である〔40〕に記載の方法。
〔42〕前記Fc領域が、Fc領域のEUナンバリングで表される;
257位のアミノ酸がAla、
308位のアミノ酸がPro、
428位のアミノ酸がLeu、および
434位のアミノ酸がTyr、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸を含むFc領域である〔40〕または〔41〕に記載の方法。
〔43〕前記Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性が、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりも高いという特徴を有する〔40〕から〔42〕のいずれかに記載の方法。
〔44〕前記FcγレセプターがFcγRIa、FcγRIIa(R)、FcγRIIa(H)、FcγRIIb、FcγRIIIa(V)、またはFcγRIIIa(F)である〔43〕に記載の方法。
〔45〕前記Fc領域が、Fc領域におけるEUナンバリングで表される部位のうち;
221位のアミノ酸がLysまたはTyrのいずれか、
222位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
223位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはLysのいずれか、
224位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
225位のアミノ酸がGlu、LysまたはTrpのいずれか、
227位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
228位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
230位のアミノ酸がAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれか、
231位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
232位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
233位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
234位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
235位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
236位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
238位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
240位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
241位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
243位のアミノ酸がLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
244位のアミノ酸がHis、
245位のアミノ酸がAla、
246位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
247位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
249位のアミノ酸がGlu、His、GlnまたはTyrのいずれか、
250位のアミノ酸がGluまたはGlnのいずれか、
251位のアミノ酸がPhe、
254位のアミノ酸がPhe、MetまたはTyrのいずれか、
255位のアミノ酸がGlu、LeuまたはTyrのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、MetまたはProのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれか、
260位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
262位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれか、
263位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
264位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
265位のアミノ酸がAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
266位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
267位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
268位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
269位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
270位のアミノ酸がGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
271位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
272位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
273位のアミノ酸がPheまたはIleのいずれか、
274位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
275位のアミノ酸がLeuまたはTrpのいずれか、
276位のアミノ酸が、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
278位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、
280位のアミノ酸がAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
281位のアミノ酸がAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
282位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれか、
284位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
286位のアミノ酸がGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれか、
288位のアミノ酸がAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれか、
290位のアミノ酸がAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、291位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれか、
292位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれか、
293位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
294位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれか、
297位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
298位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
299位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
301位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
302位のアミノ酸がIle、
303位のアミノ酸がAsp、GlyまたはTyrのいずれか、
304位のアミノ酸がAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれか、
305位のアミノ酸がGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
313位のアミノ酸がPhe、
315位のアミノ酸がLeu、
317位のアミノ酸がGluまたはGln、
318位のアミノ酸がHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
320位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
322位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、
324位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
325位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
326位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
327位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
328位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
329位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
330位のアミノ酸がCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
331位のアミノ酸がAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
332位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
333位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
334位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれか、
335位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
336位のアミノ酸がGlu、LysまたはTyrのいずれか、
337位のアミノ酸がGlu、HisまたはAsnのいずれか、
339位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれか、
376位のアミノ酸がAlaまたはValのいずれか、
377位のアミノ酸がGlyまたはLysのいずれか、
378位のアミノ酸がAsp、
379位のアミノ酸がAsn、
380位のアミノ酸がAla、AsnまたはSerのいずれか、
382位のアミノ酸がAlaまたはIleのいずれか、
385位のアミノ酸がGlu、
392位のアミノ酸がThr、
396位のアミノ酸がLeu、
421位のアミノ酸がLys、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がPheまたはLeuのいずれか、
429位のアミノ酸がMet、
434位のアミノ酸がTrp、
436位のアミノ酸がIle、および
440位のアミノ酸がGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれか、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸を含むFc領域である〔43〕または〔44〕に記載の方法。
〔46〕前記天然型Fc領域が、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖であるヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3またはヒトIgG4のいずれかFc領域である〔43〕から〔45〕のいずれかに記載の方法。
〔47〕前記Fc領域が、Fc領域のEUナンバリング297位に結合した糖鎖の組成がフコース欠損糖鎖を結合したFc領域の割合が高くなるように、またはバイセクティングN-アセチルグルコサミンが付加したFc領域の割合が高くなるように修飾されたFc領域である〔43〕から〔46〕のいずれかに記載の方法。
本発明により、通常の抗体では成し得なかった、その生体内への投与により標的抗原に対する薬理作用を発揮するのみならず標的抗原に対する免疫応答を誘導することが可能な抗原結合分子を含む医薬組成物、および、その製造方法が提供された。これにより、通常のワクチンでは成し得なかった、標的抗原に対する結合活性および標的細胞に対する細胞傷害活性および細胞増殖抑制活性を有しつつ、標的抗原に対する免疫応答を誘導することで、有効な癌および感染症の治療が可能となる。
可溶型ヒトIL-6レセプター定常状態モデルにおける抗マウスCD4抗体非投与群と投与群におけるマウス血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度推移を表す図である。横軸は抗マウスCD4抗体投与からの経過日数、縦軸は血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度を表す。 ヒトIL-6レセプター免疫寛容ノーマルマウスモデルにおける通常抗IL-6レセプター抗体およびpH依存的IL-6レセプター抗体投与群におけるマウス血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度推移を表す図である。横軸は抗IL-6レセプター抗体の投与からの経過日数、縦軸は血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度を表す。黒丸は対照マウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度を示す。白抜きの丸はH54/L28-IgG1が投与されたマウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度、菱形はFv4-IgG1が投与されたマウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度を示す。 ヒトIL-6レセプター免疫寛容ノーマルマウスモデルにおけるpH7.4におけるFcRn結合を増強した通常抗IL-6レセプター抗体およびpH7.4におけるFcRn結合を増強したpH依存的IL-6レセプター抗体投与群におけるマウス血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度推移を示す図である。横軸は抗IL-6レセプター抗体の投与からの経過日数、縦軸は血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度を表す。黒丸は対照マウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度を示す。白抜きの丸はH54/L28-IgG1、菱形はFv4-IgG1、白抜きの三角はH54/L28-F157、Xおよび黒四角はFv4-F157がそれぞれ投与されたマウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度を示す。 イオン濃度依存的な抗原結合分子の可溶型抗原のライソソーム移行に対する非限定の作用モデルを示す図である。血漿中のイオン濃度の条件下(pH中性域、あるいは、高カルシウムイオン濃度の条件下)、血漿中で可溶型抗原に結合した抗原結合分子(A)は、非特異的なエンドサイトーシス等によって細胞内に取り込まれた(B)後に、移行した酸性エンドソームに発現するFcRnにFcRn結合ドメインを介して酸性pHの条件において結合するとともに、エンドソーム内のイオン濃度の条件下(pH酸性域、あるいは、低カルシウムイオン濃度の条件下)、抗原を解離する(C)。解離した抗原はライソソームに移行した後分解される(D)一方、抗原を解離した抗原結合分子はFcRnに結合した状態で細胞表面に移行し血漿中の中性pH条件下でFcRnから解離し血漿中に戻る(E)。 pH7.4におけるFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子の可溶型抗原のライソソーム移行に対する非限定の作用モデルを示す図である。血漿中イオン濃度の条件下(pH中性域、あるいは、高カルシウムイオン濃度の条件下)、血漿中で可溶型抗原に結合した抗原結合分子は、FcRn結合ドメインを介してpH中性性条件下でFcRnに結合した(A)後に、エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれる(B)。酸性エンドゾーム内に移行した抗原結合分子はエンドソーム内のイオン濃度の条件下(pH酸性域、あるいは、低カルシウムイオン濃度の条件下で抗原を解離せず(C)、抗原を結合した抗原結合分子はFcRnに結合した状態で細胞表面上にリサイクルされる(D)。 pH7.4におけるFcRn結合を増強したイオン濃度依存的な抗原結合分子の可溶型抗原のライソソーム移行に対する非限定の作用モデルを示す図である。血漿中イオン濃度の条件下(pH中性域、あるいは、高カルシウムイオン濃度の条件下)、血漿中で可溶型抗原に結合した抗原結合分子は、FcRn結合ドメインを介してpH中性性条件下でFcRnに結合した(A)後に、エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれる(B)。酸性エンドゾーム内に移行した抗原結合分子はエンドソーム内のイオン濃度の条件下(pH酸性域、あるいは、低カルシウムイオン濃度の条件下で抗原を解離する(C)。解離した抗原はライソソームに移行した後分解される(D)一方、抗原を解離した抗原結合分子はFcRnに結合した状態で細胞表面上にリサイクルされる(E)。 試験1の3匹のマウスにおけるFv4-F157投与個体(#7、8および9)の個体別の血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度推移およびマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価推移を示す図である。横軸は抗IL-6レセプター抗体の投与からの経過日数、左縦軸は血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度、右縦軸はマウス抗hsIL-6R抗体の抗体価の指標となるECL値を表す。実線は血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度、破線はECL値を表す。菱形、白抜き四角および三角はそれぞれ#7、8および9の個体の血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプター濃度の推移を示し、X、黒四角および黒丸はそれぞれ#7、8および9の個体におけるECL値の推移を示す。 試験2の3匹のマウスにおけるFv4-F157投与個体(#10、11および12)の個体別の血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度推移およびマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価推移を示す図である。横軸は抗IL-6レセプター抗体の投与からの経過日数、左縦軸は血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度、右縦軸はマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価の指標となるECL値を表す。実線は血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度、破線はECL値を表す。菱形、白抜き四角および三角はそれぞれ#10、11および12の個体の血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプター濃度を示し、X、黒四角および黒丸はそれぞれ#10、11および12の個体におけるECL値の推移を示す。 試験1の3匹のマウスにおけるFv4-F157投与個体(#7、8および9)の個体別のマウス抗hsIL-6R抗体の抗体価推移およびマウス抗Fv4-F157抗体の抗体価推移を示す図である。横軸は抗IL-6レセプター抗体の投与からの経過日数、縦軸はマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価およびマウス抗Fv4-F157抗体の抗体価の指標となるECL値を表す。実線はマウス抗Fv4-F157抗体の抗体価の指標となるECL値の推移、破線はマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価の指標となるECL値の推移を表す。菱形、白抜き四角および黒三角はそれぞれ#7、8および9の個体におけるマウス抗Fv4-F157抗体の抗体価の指標となるECL値の推移を示し、白抜き四角、黒四角および白抜き三角はそれぞれ#7、8および9の個体におけるマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価の指標となるECL値の推移を示す。 試験2の3匹のマウスにおけるFv4-F157投与個体(#10、11および12)の個体別のマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価推移およびマウス抗Fv4-F157抗体の抗体価推移を示す図である。横軸は抗IL-6レセプター抗体の投与からの経過日数、縦軸はマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価およびマウス抗Fv4-F157抗体の抗体価の指標となるECL値を表す。実線はマウス抗Fv4-F157抗体の抗体価の指標となるECL値の推移、破線はマウス抗hsIL-6R抗体の抗体価の指標となるECL値の推移を表す。菱形、白抜き四角および黒三角はそれぞれ#10、11および12の個体におけるマウス抗Fv4-F157抗体の抗体価の指標となるECL値の推移を示し、白抜き四角、黒四角および白抜き三角はそれぞれ#10、11および12の個体におけるマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価の指標となるECL値の推移を示す。 標的抗原が融合された抗体の癌細胞および抗原提示細胞に対する非限定の作用メカニズムのモデルを表す図である。 pH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有し、標的抗原に対してイオン濃度依存的な結合活性を有する抗原結合分子の癌細胞および抗原提示細胞に対する非限定の作用メカニズムのモデルを表す図である。 カルシウム依存的結合抗体の血漿中(Ca2+ 2mM)とエンドソーム内(Ca2+ 3μM)の抗原への相互作用の様式(i)およびpHおよびカルシウム依存的結合抗体の血漿中(pH7.4、Ca2+ 2mM)とエンドソーム内(pH6.0、Ca2+ 3μM)の抗原への相互作用の様式(ii)を示す図である。 ヒトVk5-2配列を含む抗体と、ヒトVk5-2配列中の糖鎖付加配列が改変されたhVk5-2_L65配列を含む抗体のイオン交換クロマトグラムを示す図である。実線はヒトVk5-2配列を含む抗体(重鎖:CIM_H、配列番号:45および軽鎖:hVk5-2、配列番号:50)のクロマトグラム、破線はhVk5-2_L65配列をもつ抗体(重鎖:CIM_H(配列番号:45)、軽鎖:hVk5-2_L65(配列番号:53))のクロマトグラムを表す。 Ca依存的に抗原に結合する抗体遺伝子ライブラリが導入された大腸菌から単離された290クローンの配列情報のアミノ酸の分布(Libraryと表示される)と設計されたアミノ酸分布(Designと表示される)との関係を示す図である。横軸はKabatナンバリングで表されるアミノ酸の部位が表される。縦軸はアミノ酸の分布の比率が表される。 高カルシウムイオン濃度の条件(1.2 mM)下における抗IL-6R抗体(トシリズマブ)、6RC1IgG_010抗体、6RC1IgG_012抗体および6RC1IgG_019抗体のセンサーグラムを表す図である。 低カルシウムイオン濃度の条件(3μM)下における抗IL-6R抗体(トシリズマブ)、6RC1IgG_010抗体、6RC1IgG_012抗体および6RC1IgG_019抗体のセンサーグラムを表す図である。 X線結晶構造解析で決定された6RL#9抗体のFabフラグメントの重鎖CDR3の構造を表す図である。(i)はカルシウムイオンが存在する結晶化条件で得られた結晶構造の重鎖CDR3、(ii)はカルシウムイオンが存在しない結晶化条件で得られた結晶構造の重鎖CDR3を示す図である。 H54/L28-IgG1抗体、FH4-IgG1抗体、および、6RL#9-IgG1抗体のノーマルマウスの血漿中の抗体濃度の推移を示す図である。 H54/L28-IgG1抗体、FH4-IgG1抗体、および、6RL#9-IgG1抗体のノーマルマウスの血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプター(hsIL-6R)の濃度推移を示す図である。 H54/L28-N434W抗体、FH4-N434W抗体、および、6RL#9-N434W抗体のノーマルマウスの血漿中の抗体濃度の推移を示す図である。 H54/L28-N434W抗体、FH4-N434W抗体、および、6RL#9-N434W抗体のノーマルマウスの血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプター(hsIL-6R)の濃度推移を示す図である。 pH依存的に抗原に結合する抗体遺伝子ライブラリが導入された大腸菌から単離された132クローンの配列情報のアミノ酸の分布(Libraryと表示される)と設計されたアミノ酸分布(Designと表示される)との関係を示す図である。横軸はKabatナンバリングで表されるアミノ酸の部位が表される。縦軸はアミノ酸の分布の比率が表される。 抗IL-6R抗体(トシリズマブ)、6RpH#01抗体、6RpH#02抗体および6RpH#03抗体のpH7.4におけるセンサーグラムを表す図である。横軸は時間、縦軸はRU値を示す。 抗IL-6R抗体(トシリズマブ)、6RpH#01抗体、6RpH#02抗体および6RpH#03抗体のpH6.0におけるセンサーグラムを表す図である。横軸は時間、縦軸はRU値を示す。 抗体非投与群、Fv4-mIgG1、Fv4-mIgG2a、Fv4-mF3、Fv4-mFa30およびH54/L28-mF3投与群の平均血漿中hsIL-6R濃度推移を示す図である。 Fv4-mIgG1投与群の各個体のマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体(抗hsIL-6R抗体)の抗体価の推移を示す図である。 Fv4-mIgG2a投与群の各個体のマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体(抗hsIL-6R抗体)の抗体価の推移を示す図である。 Fv4-mF3投与群の各個体のマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体(抗hsIL-6R抗体)の抗体価の推移を示す図である。 Fv4-mFa30投与群の各個体のマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体(抗hsIL-6R抗体)の抗体価の推移を示す図である。 H54/L28-mF3投与群の各個体のマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体(抗hsIL-6R抗体)の抗体価の推移を示す図である。 図32Aは、マウスインターロイキン−6受容体(Il6ra)遺伝子のゲノムDNAの構造(1)と、挿入されるノックインベクター(2)との関係を模式的に示す図である。ノックインベクターは、完全長ヒトインターロイキン−6受容体(hIL6R)cDNA、hp7配列、ポリA付加シグナル、およびネオマイシン耐性遺伝子を有する。 図32Bは、マウスインターロイキン−6受容体遺伝子のゲノムDNA(a)とノックインベクター(b)とが相同性組換えを起して、ノックインされたゲノムDNA(c)が生成される様子を模式的に示す図である。さらに(c)に組換酵素Creを作用させて、ネオマイシン耐性遺伝子カセットを除去することにより、ヒトインターロイキン−6受容体遺伝子ノックインアレル(d)を完成させる過程を示す。図中の矢印は、ヒトインターロイキン−6受容体遺伝子のノックインを検出するために使用したプライマーの設定位置を示す。 ヒトインターロイキン−6受容体遺伝子ノックインマウスの樹立の過程で得られた各遺伝子型を解析したPCRの代表例を示す。 ヒトインターロイキン−6受容体遺伝子ノックインマウスおよび野生型マウスにおけるインターロイキン−6受容体の遺伝子発現特性を示す図である。 ホモ型およびヘテロ型のヒトインターロイキン−6受容体遺伝子ノックインマウスおよび野生型マウスにおける血漿中の可溶型ヒトインターロイキン−6受容体(hsIL-6R)濃度の測定結果を示すグラフである。KI/KI,KI/+および+/+は、それぞれホモ型ノックインマウス、ヘテロ型ノックインマウスおよび野生型を示す。 野生型マウスおよびホモ型のヒトインターロイキン−6受容体遺伝子ノックインマウスでの、種特異的なインターロイキン−6(リガンド)に対する反応性を示したグラフである。
以下の定義および詳細な説明は、本明細書において説明する本発明の理解を容易にするために提供される。
アミノ酸
本明細書においては、たとえば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、Val/Vと表されるように、アミノ酸を1文字コードまたは3文字コード、またはその両方で表記する。
抗原
本明細書において抗原は特に限定されず、生体の免疫応答を誘導することによって当該生体の免疫系の攻撃対象となり得る分子であればどのような抗原でもよい。抗原の例としては、例えば、腫瘍細胞に特異的に発現し正常細胞に発現しない分子(ネオエピトープ)が好適に挙げられる。また、細菌、ウイルス等の生体に感染する外来性の生物種に発現し生体に発現しない分子もまた好適に挙げられる。「腫瘍細胞に特異的に発現し正常細胞に発現しない」または「生体に感染する外来性の生物種に発現し生体に発現しない」とは「腫瘍細胞と正常細胞」または「生体に感染する外来性の生物種と生体」との間において分子の質的または量的な相違があることを表す。例えば、仮に正常細胞に発現していても、腫瘍細胞に発現する量が当該正常細胞に発現する量よりも遥かに大きい分子であれば、本発明において当該分子は腫瘍細胞と正常細胞との間において分子の量的な相違があるといえる。また、仮に同一のアミノ酸配列からなるポリペプチドの腫瘍細胞および正常細胞における発現量が同程度であっても、腫瘍細胞に発現するポリペプチドがリン酸化等の翻訳後修飾等を受けているのに対して、正常細胞に発現するポリペプチドがそのような修飾等を受けていないときは、本発明において当該分子は腫瘍細胞と正常細胞との間において分子の質的な相違があるといえる。
当該分子としては、ALK受容体(プレイオトロフィン受容体)、プレイオトロフィン、KS 1/4膵臓癌抗原、卵巣癌抗原(CA125)、前立腺酸リン酸、前立腺特異的抗原(PSA)、メラノーマ関連抗原p97、メラノーマ抗原gp75、高分子量メラノーマ抗原(HMW-MAA)、前立腺特異的膜抗原、癌性胚抗原(CEA)、多型上皮ムチン抗原、ヒト乳脂肪球抗原、CEA、TAG-72、CO17-1A、GICA 19-9、CTA-1およびLEAなどの結腸直腸腫瘍関連抗原、バーキットリンパ腫抗原-38.13、CD19、ヒトBリンパ腫抗原-CD20、CD33、ガングリオシドGD2、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM2およびガングリオシドGM3などのメラノーマ特異的抗原、腫瘍特異的移植型細胞表面抗原(TSTA)、T抗原、DNA腫瘍ウイルスおよびRNA腫瘍ウイルスのエンベロープ抗原などのウイルスにより誘導される腫瘍抗原、結腸のCEA、5T4癌胎児トロホブラスト糖タンパク質および膀胱腫瘍癌胎児抗原などの癌胎児抗原α-フェトプロテイン、ヒト肺癌抗原L6およびL20などの分化抗原、線維肉腫の抗原、ヒト白血病T細胞抗原-Gp37、新生糖タンパク質、スフィンゴ脂質、EGFR(上皮増殖因子受容体)などの乳癌抗原、NY-BR-16、NY-BR-16およびHER2抗原(p185HER2)、多型上皮ムチン(PEM)、悪性ヒトリンパ球抗原-APO-1、胎児赤血球に認められるI抗原などの分化抗原、成人赤血球に認められる初期内胚葉I抗原、移植前の胚、胃癌に認められるI(Ma)、乳腺上皮に認められるM18、M39、骨髄細胞に認められるSSEA-1、VEP8、VEP9、Myl、VIM-D5、結腸直腸癌に認められるD156-22、TRA-1-85(血液群H)、精巣および卵巣癌に認められるSCP-1、結腸癌に認められるC14、肺癌に認められるF3、胃癌に認められるAH6、Yハプテン、胚性癌細胞に認められるLey、TL5(血液群A)、A431細胞に認められるEGF受容体、膵臓癌に認められるE1シリーズ(血液群B)、胚性癌細胞に認められるFC10.2、胃癌抗原、腺癌に認められるCO-514(血液群Lea)、腺癌に認められるNS-10、CO-43(血液群Leb)、A431細胞のEGF受容体に認められるG49、結腸癌に認められるMH2(血液群ALeb/Ley)、結腸癌に認められる19.9、胃癌ムチン、骨髄細胞に認められるT5A7、メラノーマに認められるR24、胚性癌細胞に認められる4.2、GD3、D1.1、OFA-1、GM2、OFA-2、GD2、およびM1:22:25:8ならびに4〜8細胞段階の胚に認められるSSEA-3およびSSEA-4、皮下T細胞リンパ腫抗原、MART-1抗原、シアリルTn(STn)抗原、結腸癌抗原NY-CO-45、肺癌抗原NY-LU-12変異体A、腺癌抗原ART1、腫瘍随伴性関連脳-精巣癌抗原(癌神経抗原MA2、腫瘍随伴性神経抗原)、神経癌腹部抗原2(NOVA2)、血液細胞癌抗原遺伝子520、腫瘍関連抗原CO-029、腫瘍関連抗原MAGE-C1(癌/精巣抗原CT7)、MAGE-B1(MAGE-XP抗原)、MAGE-B2(DAM6)、MAGE-2、MAGE-4a、MAGE-4bおよびMAGE-X2、癌-精巣抗原(NY-EOS-1)、YKL-40および上記ポリペプチドのいずれかの断片またはこれらに対して修飾された構造等(前記の修飾リン酸基や糖鎖等)が腫瘍抗原として好適に挙げられ得る。
外来性生物種の抗原としては、炭疽菌(Bacillus anthracis)(炭疽菌 、クロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)、エルシニア・ぺスティス(Yersinia pestis)、 バリオラ・メジャー(Variola major)(天然痘)および他のポックスウイルス、 野兎病菌(Francisella tularensis)(野兎病)、およびウイルス性出血熱を生じるもの、 LCM、フニンウイルス(Junin virus)、マチュポウイルス(Machupo virus)、 グアナリトウイルス(Guanarito virus)およびラッサ熱を生じるものなどのアレナウイルス(Arenavirus)、リフトバレー熱を生じるものなどのブンヤウイルス(Bunyavirus)およびハンタウイルス(Hantavirus)、カリシウイルス(Calicivirus)、 A型、B型およびC型肝炎、 西ナイルウイルス(West Nile Virus)、ラクロス(LaCrosse)、カリフォルニア脳炎(California encephalitis)、 VEE、 EEE、 WEE、 日本脳炎ウイルス(Japanese Encephalitis Virus)などのウイルス性脳炎、キャサヌール森林病ウイルス(Kyasanur Forest Virus)、 ダニ媒介性出血熱ウイルス(Tickborne hemorrhagic fever virus)、クリミア-コンゴ出血熱ウイルス(Crimean-Congo Hemorrhagic fever virus)、ダニ媒介性脳炎ウイルス(Tickborne encephalitis viruses)、黄熱病(Yellow fever)、多剤耐性TB、インフルエンザ、他のリケッチアおよび狂犬病、フラウイルス(Flavirus)、デング熱(Dengue)、フィロウイルス(Filovirus)、エボラ(Ebola)、マーブルグ類鼻疽菌(Marburg Burkholderia pseudomallei)、コクシエラ・ブルネッティ(Coxiella burnetii)(Q熱)、ブルセラ種(Brucella species)(ブルセラ症)、鼻疽菌(Burkholderia mallei)(鼻疽)、リシン毒素(ヒマ(Ricinus communis)由来)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)のε毒素、スタヒロコッカス・エンテロトキシンB(Staphylococcus enterotoxin B)、発疹チフス(Typhus fever)(発疹チフスリケッチア(Rickettsia prowazekii))、 食品および水媒介性病原体、下痢原性大腸菌(Diarrheagenic E.coli)、病原性ビブリオ(Pathogenic Vibrios)、シゲラ種(Shigella species)、サルモネラ(Salmonella)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)などの細菌およびクリプトスポリジウム・パルバム(Cryptosporidium parvum)、シクロスポラ・カヤタネンシス(Cyclospora cayatanensis)、ジアルジア・ランブリア(Giardia lamblia)、エンタモエバ・ヒストリチカ(Entamoeba histolytica)、トキソプラズマ(Toxoplasma)、微胞子虫(Microsporidia)などの原虫に発現する分子が含まれる。
抗原としては下記のような分子;17-IA、4-1BB、4Dc、6-ケト-PGF1a、8-イソ-PGF2a、8-オキソ-dG、A1 アデノシン受容体、A33、ACE、ACE-2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK-2、アクチビンRIB ALK-4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン、aFGF、ALCAM、ALK、ALK-1、ALK-7、アルファ-1-アンチトリプシン、アルファ−V/ベータ-1アンタゴニスト、ANG、Ang、APAF-1、APE、APJ、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン、抗Id、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、av/b3インテグリン、Axl、b2M、B7-1、B7-2、B7-H、B-リンパ球刺激因子(BlyS)、BACE、BACE-1、Bad、BAFF、BAFF-R、Bag-1、BAK、Bax、BCA-1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b-ECGF、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL-CAM、BLK、BMP、BMP-2 BMP-2a、BMP-3 オステオゲニン(Osteogenin)、BMP-4 BMP-2b、BMP-5、BMP-6 Vgr-1、BMP-7(OP-1)、BMP-8(BMP-8a、OP-2)、BMPR、BMPR-IA(ALK-3)、BMPR-IB(ALK-6)、BRK-2、RPK-1、BMPR-II(BRK-3)、BMP、b-NGF、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子、BPDE、BPDE-DNA、BTC、補体因子3(C3)、C3a、C4、C5、C5a、C10、CA125、CAD-8、カルシトニン、cAMP、癌胎児性抗原(CEA)、癌関連抗原、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/Z/P、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD28、CD29、CD30、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD80(B7-1)、CD89、CD95、CD123、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD164、CEACAM5、CFTR、cGMP、CINC、ボツリヌス菌毒素、ウェルシュ菌毒素、CKb8-1、CLC、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN-1、COX、C-Ret、CRG-2、CT-1、CTACK、CTGF、CTLA-4、CX3CL1、CX3CR1、CXCL、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC-SIGN、補体制御因子(Decay accelerating factor)、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-1)、Dhh、ジゴキシン、DNAM-1、Dnase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA-A1、EDA-A2、EDAR、EGF、EGFR(ErbB-1)、EMA、EMMPRIN、ENA、エンドセリン受容体、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン1、EpCAM、エフリンB2/EphB4、EPO、ERCC、E-セレクチン、ET-1、ファクターIIa、ファクターVII、ファクターVIIIc、ファクターIX、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、FcR1、FEN-1、フェリチン、FGF、FGF-19、FGF-2、FGF3、FGF-8、FGFR、FGFR-3、フィブリン、FL、FLIP、Flt-3、Flt-4、卵胞刺激ホルモン、フラクタルカイン、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、G250、Gas6、GCP-2、GCSF、GD2、GD3、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、GDNF、GDNF、GFAP、GFRa-1、GFR-アルファ1、GFR-アルファ2、GFR-アルファ3、GITR、グルカゴン、Glut4、糖タンパク質IIb/IIIa(GPIIb/IIIa)、GM-CSF、gp130、gp72、GRO、成長ホルモン放出因子、ハプテン(NP-capまたはNIP-cap)、HB-EGF、HCC、HCMV gBエンベロープ糖タンパク質、HCMV gHエンベロープ糖タンパク質、HCMV UL、造血成長因子(HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、Her2、Her2/neu(ErbB-2)、Her3(ErbB-3)、Her4(ErbB-4)、単純ヘルペスウイルス(HSV) gB糖タンパク質、HSV gD糖タンパク質、HGFA、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、HIV gp120、HIV IIIB gp 120 V3ループ、HLA、HLA-DR、HM1.24、HMFG PEM、HRG、Hrk、ヒト心臓ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(HGH)、HVEM、I-309、IAP、ICAM、ICAM-1、ICAM-3、ICE、ICOS、IFNg、Ig、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF-1R、IGFBP、IGF-I、IGF-II、IL、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-18、IL-18R、IL-23、インターフェロン(INF)-アルファ、INF-ベータ、INF-ガンマ、インヒビン、iNOS、インスリンA鎖、インスリンB鎖、インスリン様増殖因子1、インテグリンアルファ2、インテグリンアルファ3、インテグリンアルファ4、インテグリンアルファ4/ベータ1、インテグリンアルファ4/ベータ7、インテグリンアルファ5(アルファV)、インテグリンアルファ5/ベータ1、インテグリンアルファ5/ベータ3、インテグリンアルファ6、インテグリンベータ1、インテグリンベータ2、インターフェロンガンマ、IP-10、I-TAC、JE、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、KC、KDR、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラミニン5、LAMP、LAP、LAP(TGF-1)、潜在的TGF-1、潜在的TGF-1 bp1、LBP、LDGF、LECT2、レフティ、ルイス−Y抗原、ルイス−Y関連抗原、LFA-1、LFA-3、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L-セレクチン、LT-a、LT-b、LTB4、LTBP-1、肺表面、黄体形成ホルモン、リンホトキシンベータ受容体、Mac-1、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、MCAM、MCAM、MCK-2、MCP、M-CSF、MDC、Mer、METALLOPROTEASES、MGDF受容体、MGMT、MHC(HLA-DR)、MIF、MIG、MIP、MIP-1-アルファ、MK、MMAC1、MMP、MMP-1、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13、MMP-14、MMP-15、MMP-2、MMP-24、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MPIF、Mpo、MSK、MSP、ムチン(Muc1)、MUC18、ミュラー管抑制物質、Mug、MuSK、NAIP、NAP、NCAD、N-Cアドヘリン、NCA 90、NCAM、NCAM、ネプリライシン、ニューロトロフィン-3、-4、または-6、ニュールツリン、神経成長因子(NGF)、NGFR、NGF−ベータ、nNOS、NO、NOS、Npn、NRG-3、NT、NTN、OB、OGG1、OPG、OPN、OSM、OX40L、OX40R、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P-カドヘリン、PCNA、PDGF、PDGF、PDK-1、PECAM、PEM、PF4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIN、PLA2、胎盤性アルカリホスファターゼ(PLAP)、PlGF、PLP、PP14、プロインスリン、プロレラキシン、プロテインC、PS、PSA、PSCA、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、R51、RANK、RANKL、RANTES、RANTES、レラキシンA鎖、レラキシンB鎖、レニン、呼吸器多核体ウイルス(RSV)F、RSV Fgp、Ret、リウマイド因子、RLIP76、RPA2、RSK、S100、SCF/KL、SDF-1、SERINE、血清アルブミン、sFRP-3、Shh、SIGIRR、SK-1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、Stat、STEAP、STEAP-II、TACE、TACI、TAG-72(腫瘍関連糖タンパク質−72)、TARC、TCA-3、T細胞受容体(例えば、T細胞受容体アルファ/ベータ)、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、TERT、睾丸PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータ Pan Specific、TGF-ベータRI(ALK-5)、TGF-ベータRII、TGF-ベータRIIb、TGF-ベータRIII、TGF-ベータ1、TGF-ベータ2、TGF-ベータ3、TGF-ベータ4、TGF-ベータ5、トロンビン、胸腺Ck-1、甲状腺刺激ホルモン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFc、TNF-RI、TNF-RII、TNFRSF10A(TRAIL R1 Apo-2、DR4)、TNFRSF10B(TRAIL R2 DR5、KILLER、TRICK-2A、TRICK-B)、TNFRSF10C(TRAIL R3 DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4 DcR2、TRUNDD)、TNFRSF11A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF11B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK R FN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13C(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITR AITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF RI CD120a、p55-60)、TNFRSF1B(TNF RII CD120b、p75-80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIII、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF5(CD40 p50)、TNFRSF6(Fas Apo-1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3 M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4-1BB CD137、ILA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRST23(DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo-3、LARD、TR-3、TRAMP、WSL-1)、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-a コネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、TP-1、t-PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRANCE、トランスフェリン受容体、TRF、Trk、TROP-2、TSG、TSLP、腫瘍関連抗原CA125、腫瘍関連抗原発現ルイスY関連炭水化物、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR-1、ウロキナーゼ、VCAM、VCAM-1、VECAD、VE-Cadherin、VE-cadherin-2、VEFGR-1(flt-1)、VEGF、VEGFR、VEGFR-3(flt-4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、VLA、VLA-1、VLA-4、VNRインテグリン、フォン・ヴィレブランド因子、WIF-1、WNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、XCL1、XCL2、XCR1、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、HMGB1、IgA、Aβ、CD81, CD97, CD98, DDR1, DKK1, EREG、Hsp90, IL-17/IL-17R、IL-20/IL-20R、酸化LDL, PCSK9, prekallikrein , RON, TMEM16F、SOD1, Chromogranin A, Chromogranin B、tau, VAP1、高分子キニノーゲン、IL-31、IL-31R、Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3、Nav1.4、Nav1.5、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9、EPCR、C1, C1q, C1r, C1s, C2, C2a, C2b, C3, C3a, C3b, C4, C4a, C4b, C5, C5a, C5b, C6, C7, C8, C9, factor B, factor D, factor H, properdin、sclerostin、fibrinogen, fibrin, prothrombin, thrombin, 組織因子, factor V, factor Va, factor VII, factor VIIa, factor VIII, factor VIIIa, factor IX, factor IXa, factor X, factor Xa, factor XI, factor XIa, factor XII, factor XIIa, factor XIII, factor XIIIa, TFPI, antithrombin III, EPCR, トロンボモデュリン、TAPI, tPA, plasminogen, plasmin, PAI-1, PAI-2、GPC3、Syndecan-1、Syndecan-2、Syndecan-3、Syndecan-4、LPA、S1P、Acetylcholine receptor、AdipoR1、AdipoR2、ADP ribosyl cyclase-1、alpha-4/beta-7 integrin、alpha-5/beta-1 integrin、alpha-v/beta-6 integrin、alphavbeta1 integrin、Angiopoietin ligand-2、Angptl2、Anthrax、Cadherin、Carbonic anhydrase-IX、CD105、CD155、CD158a、CD37、CD49b、CD51、CD70、CD72、Claudin 18、Clostridium difficile toxin、CS1、Delta-like protein ligand 4、DHICA oxidase、Dickkopf-1 ligand、Dipeptidyl peptidase IV、EPOR、F protein of RSV、Factor Ia、F
asL、Folate receptor alpha、Glucagon receptor、Glucagon-like peptide 1 receptor、Glutamate carboxypeptidase II、GMCSFR、Hepatitis C virus E2 glycoprotein、Hepcidin、IL-17 receptor、IL-22 receptor、IL-23 receptor、IL-3 receptor、Kit tyrosine kinase、Leucine Rich Alpha-2-Glycoprotein 1 (LRG1)、Lysosphingolipid receptor、Membrane glycoprotein OX2、Mesothelin、MET、MICA、MUC-16、Myelin associated glycoprotein、Neuropilin-1、Neuropilin-2、Nogo receptor、PLXNA1、PLXNA2、PLXNA3、PLXNA4A、PLXNA4B 、PLXNB1、PLXNB2、PLXNB3 、PLXNC1 、PLXND1 、Programmed cell death ligand 1、Proprotein convertase PC9、P-selectin glycoprotein ligand-1、RAGE、Reticulon 4、RF、RON-8、SEMA3A、SEMA3B、SEMA3C、SEMA3D、SEMA3E、SEMA3F、SEMA3G、SEMA4A、SEMA4B、SEMA4C、SEMA4D、SEMA4F、SEMA4G、SEMA5A、SEMA5B、SEMA6A、SEMA6B、SEMA6C、SEMA6D、SEMA7A、Shiga like toxin II、Sphingosine-1-phosphate receptor-1、ST2、Staphylococcal lipoteichoic acid、Tenascin、TG2、Thymic stromal lymphoprotein receptor、TNF superfamily receptor 12A、Transmembrane glycoprotein NMB、TREM-1、TREM-2、Trophoblast glycoprotein、TSH receptor、TTR、Tubulin、ULBP2ならびにホルモンおよび成長因子のための受容体が例示され得る。
エピトープ
抗原中に存在する抗原決定基を意味するエピトープは、本明細書において開示される抗原結合分子中の抗原結合ドメインが結合する抗原上の部位を意味する。よって、例えば、エピトープは、その構造によって定義され得る。また、当該エピトープを認識する抗原結合分子中の抗原に対する結合活性によっても当該エピトープが定義され得る。抗原がペプチド又はポリペプチドである場合には、エピトープを構成するアミノ酸残基によってエピトープを特定することも可能である。また、エピトープが糖鎖である場合には、特定の糖鎖構造によってエピトープを特定することも可能である。
直線状エピトープは、アミノ酸一次配列が認識されたエピトープを含むエピトープである。直線状エピトープは、典型的には、少なくとも3つ、および最も普通には少なくとも5つ、例えば約8〜約10個、6〜20個のアミノ酸が固有の配列において含まれる。
立体構造エピトープは、直線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸の一次配列が、認識されたエピトープの単一の規定成分ではないエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が、必ずしもエピトープを規定する抗体により認識されないエピトープ)である。立体構造エピトープは、直線状エピトープに対して増大した数のアミノ酸を包含するかもしれない。立体構造エピトープの認識に関して、抗体は、ペプチドまたはタンパク質の三次元構造を認識する。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造を形成する場合には、立体構造エピトープを形成するあるアミノ酸および/またはポリペプチド主鎖は、並列となり、抗体がエピトープを認識するのを可能にする。エピトープの立体構造を決定する方法には、例えばX線結晶学、二次元核磁気共鳴分光学並びに部位特異的なスピン標識および電磁常磁性共鳴分光学が含まれるが、これらには限定されない。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology (1996)、第66巻、Morris(編)を参照。
結合活性
下記にIL-6レセプターに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子によるエピトープに対する結合の確認方法が例示されるが、IL-6レセプター以外の抗原に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子によるエピトープに対する結合の確認方法も下記の例示に準じて適宜実施され得る。
例えば、IL-6レセプターに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が、IL-6レセプター分子中に存在する線状エピトープを認識することは、たとえば次のようにして確認することができる。上記の目的のためにIL-6レセプターの細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状のペプチドが合成される。当該ペプチドは、化学的に合成され得る。あるいは、IL-6レセプターのcDNA中の、細胞外ドメインに相当するアミノ酸配列をコードする領域を利用して、遺伝子工学的手法により得られる。次に、細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状ペプチドと、IL-6レセプターに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子との結合活性が評価される。たとえば、固定化された線状ペプチドを抗原とするELISAによって、当該ペプチドに対する当該抗原結合分子の結合活性が評価され得る。あるいは、IL-6レセプター発現細胞に対する当該抗原結合分子の結合における、線状ペプチドによる阻害のレベルに基づいて、線状ペプチドに対する結合活性が明らかにされ得る。これらの試験によって、線状ペプチドに対する当該抗原結合分子の結合活性が明らかにされ得る。
また、IL-6レセプターに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が立体構造エピトープを認識することは、次のようにして確認され得る。上記の目的のために、IL-6レセプターを発現する細胞が調製される。IL-6レセプターに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子がIL-6レセプター発現細胞に接触した際に当該細胞に強く結合する一方で、当該抗原結合分子が固定化されたIL-6レセプターの細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状ペプチドに対して実質的に結合しないとき等が挙げられる。ここで、実質的に結合しないとは、ヒトIL-6レセプター発現細胞に対する結合活性の80%以下、通常50%以下、好ましくは30%以下、特に好ましくは15%以下の結合活性をいう。
IL-6レセプターに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子のIL-6レセプター発現細胞に対する結合活性を測定する方法としては、例えば、Antibodies A Laboratory Manual記載の方法(Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988) 359-420)が挙げられる。即ちIL-6レセプター発現細胞を抗原とするELISAやFACS(fluorescence activated cell sorting)の原理によって評価され得る。
ELISAフォーマットにおいて、IL-6レセプターに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子のIL-6レセプター発現細胞に対する結合活性は、酵素反応によって生成するシグナルレベルを比較することによって定量的に評価される。すなわち、IL-6レセプター発現細胞を固定化したELISAプレートに被験ポリペプチド会合体を加え、細胞に結合した被験抗原結合分子が、被験抗原結合分子を認識する酵素標識抗体を利用して検出される。あるいはFACSにおいては、被験抗原結合分子の希釈系列を作成し、IL-6レセプター発現細胞に対する抗体結合力価(titer)を決定することにより、IL-6レセプター発現細胞に対する被験抗原結合分子の結合活性が比較され得る。
緩衝液等に懸濁した細胞表面上に発現している抗原に対する被験抗原結合分子の結合は、フローサイトメーターによって検出することができる。フローサイトメーターとしては、例えば、次のような装置が知られている。
FACSCantoTM II
FACSAriaTM
FACSArrayTM
FACSVantageTM SE
FACSCaliburTM (いずれもBD Biosciences社の商品名)
EPICS ALTRA HyPerSort
Cytomics FC 500
EPICS XL-MCL ADC EPICS XL ADC
Cell Lab Quanta / Cell Lab Quanta SC(いずれもBeckman Coulter社の商品名)
例えば、IL-6レセプターに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子の抗原に対する結合活性の好適な測定方法の一例として、次の方法が挙げられる。まず、IL-6レセプターを発現する細胞と反応させた被験抗原結合分子を認識するFITC標識した二次抗体で染色する。被験抗原結合分子を適宜好適な緩衝液によって希釈することによって、当該抗原結合分子が所望の濃度に調製して用いられる。例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでの間のいずれかの濃度で使用され得る。次に、FACSCalibur(BD社)により蛍光強度と細胞数が測定される。当該細胞に対する抗体の結合量は、CELL QUEST Software(BD社)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、被験抗原結合分子の結合量によって表される被験抗原結合分子の結合活性が測定され得る。
IL-6レセプターに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が、ある抗原結合分子とエピトープを共有することは、両者の同じエピトープに対する競合によって確認され得る。抗原結合分子間の競合は、交叉ブロッキングアッセイなどによって検出される。例えば競合ELISAアッセイは、好ましい交叉ブロッキングアッセイである。
具体的には、交叉ブロッキングアッセイにおいては、マイクロタイタープレートのウェル上にコートしたIL-6レセプタータンパク質が、候補となる競合抗原結合分子の存在下、または非存在下でプレインキュベートされた後に、被験抗原結合分子が添加される。ウェル中のIL-6レセプタータンパク質に結合した被験抗原結合分子の量は、同じエピトープに対する結合に対して競合する候補となる競合抗原結合分子の結合能に間接的に相関している。すなわち同一エピトープに対する競合抗原結合分子の親和性が大きくなればなる程、被験抗原結合分子のIL-6レセプタータンパク質をコートしたウェルに対する結合活性は低下する。
IL-6レセプタータンパク質を介してウェルに結合した被験抗原結合分子の量は、予め抗原結合分子を標識しておくことによって、容易に測定され得る。たとえば、ビオチン標識された抗原結合分子は、アビジンペルオキシダーゼコンジュゲートと適切な基質を使用することにより測定される。ペルオキシダーゼなどの酵素標識を利用した交叉ブロッキングアッセイは、特に競合ELISAアッセイといわれる。抗原結合分子は、検出あるいは測定が可能な他の標識物質で標識され得る。具体的には、放射標識あるいは蛍光標識などが公知である。
候補の競合抗原結合分子会合体の非存在下で実施されるコントロール試験において得られる結合活性と比較して、競合抗原結合分子が、IL-6レセプターに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子の結合を少なくとも20%、好ましくは少なくとも20−50%、さらに好ましくは少なくとも50%ブロックできるならば、当該被験抗原結合分子は競合抗原結合分子と実質的に同じエピトープに結合するか、又は同じエピトープに対する結合に対して競合する抗原結合分子である。
IL-6レセプターに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が結合するエピトープの構造が同定されている場合には、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子とがエピトープを共有することは、当該エピトープを構成するペプチドにアミノ酸変異を導入したペプチドに対する両者の抗原結合分子の結合活性を比較することによって評価され得る。
こうした結合活性を測定する方法としては、例えば、前記のELISAフォーマットにおいて変異を導入した線状のペプチドに対する被験抗原結合分子及び対照抗原結合分子の結合活性を比較することによって測定され得る。ELISA以外の方法としては、カラムに結合した当該変異ペプチドに対する結合活性を、当該カラムに被検抗原結合分子と対照抗原結合分子を流下させた後に溶出液中に溶出される抗原結合分子を定量することによっても測定され得る。変異ペプチドを例えばGSTとの融合ペプチドとしてカラムに吸着させる方法は公知である。
また、同定されたエピトープが立体エピトープの場合には、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子とがエピトープを共有することは、次の方法で評価され得る。まず、IL-6レセプターを発現する細胞とエピトープに変異が導入されたIL-6レセプターを発現する細胞が調製される。これらの細胞がPBS等の適切な緩衝液に懸濁された細胞懸濁液に対して被験抗原結合分子と対照抗原結合分子が添加される。次いで、適宜緩衝液で洗浄された細胞懸濁液に対して、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子を認識することができるFITC標識された抗体が添加される。標識抗体によって染色された細胞の蛍光強度と細胞数がFACSCalibur(BD社)によって測定される。被験抗原結合分子と対照抗原結合分子の濃度は好適な緩衝液によって適宜希釈することによって所望の濃度に調製して用いられる。例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでの間のいずれかの濃度で使用される。当該細胞に対する標識抗体の結合量は、CELL QUEST Software(BD社)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、標識抗体の結合量によって表される被験抗原結合分子と対照抗原結合分子の結合活性を測定することができる。
本方法において、例えば「変異IL-6レセプター発現細胞に実質的に結合しない」ことは、以下の方法によって判断することができる。まず、変異IL-6レセプターを発現する細胞に対して結合した被験抗原結合分子と対照抗原結合分子が、標識抗体で染色される。次いで細胞の蛍光強度が検出される。蛍光検出にフローサイトメトリーとしてFACSCaliburを用いた場合、得られた蛍光強度はCELL QUEST Softwareを用いて解析され得る。ポリペプチド会合体存在下および非存在下でのGeometric Meanの値から、この比較値(ΔGeo-Mean)を下記の計算式に基づいて算出することにより、抗原結合分子の結合による蛍光強度の増加割合を求めることができる。
ΔGeo-Mean=Geo-Mean(ポリペプチド会合体存在下)/Geo-Mean(ポリペプチド会合体非存在下)
解析によって得られる被験抗原結合分子の変異IL-6レセプター発現細胞に対する結合量が反映されたGeometric Mean比較値(変異IL-6レセプター分子ΔGeo-Mean値)を、被験抗原結合分子のIL-6レセプター発現細胞に対する結合量が反映されたΔGeo-Mean比較値と比較する。この場合において、変異IL-6レセプター発現細胞及びIL-6レセプター発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値を求める際に使用する被験抗原結合分子の濃度は互いに同一又は実質的に同一の濃度で調製されることが特に好ましい。予めIL-6レセプター中のエピトープを認識していることが確認された抗原結合分子が、対照抗原結合分子として利用される。
被験抗原結合分子の変異IL-6レセプター発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値が、被験抗原結合分子のIL-6レセプター発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値の、少なくとも80%、好ましくは50%、更に好ましくは30%、特に好ましくは15%より小さければ、「変異IL-6レセプター発現細胞に実質的に結合しない」ものとする。Geo-Mean値(Geometric Mean)を求める計算式は、CELL QUEST Software User's Guide(BD biosciences社)に記載されている。比較値を比較することによってそれが実質的に同視し得る程度であれば、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子のエピトープは同一であると評価され得る。
抗原結合ドメイン
「抗原結合ドメイン」は目的とする抗原に結合するかぎりどのような構造のドメインも使用され得る。そのようなドメインの例として、例えば、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域、生体内に存在する細胞膜タンパクであるAvimerに含まれる35アミノ酸程度のAドメインと呼ばれるモジュール(WO2004/044011、WO2005/040229)、細胞膜に発現する糖たんぱく質であるfibronectin中のタンパク質に結合するドメインである10Fn3ドメインを含むAdnectin(WO2002/032925)、ProteinAの58アミノ酸からなる3つのヘリックスの束(bundle)を構成するIgG結合ドメインをscaffoldとするAffibody(WO1995/001937)、33アミノ酸残基を含むターンと2つの逆並行ヘリックスおよびループのサブユニットが繰り返し積み重なった構造を有するアンキリン反復(ankyrin repeat:AR)の分子表面に露出する領域であるDARPins(Designed Ankyrin Repeat proteins)(WO2002/020565)、好中球ゲラチナーゼ結合リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL))等のリポカリン分子において高度に保存された8つの逆並行ストランドが中央方向にねじれたバレル構造の片側を支える4つのループ領域であるAnticalin等(WO2003/029462)、ヤツメウナギ、ヌタウナギなど無顎類の獲得免疫システムとしてイムノグロブリンの構造を有さない可変性リンパ球受容体(variable lymphocyte receptor(VLR))のロイシン残基に富んだリピート(leucine-rich-repeat(LRR))モジュールが繰り返し積み重なった馬てい形の構造の内部の並行型シート構造のくぼんだ領域(WO2008/016854)が好適に挙げられる。本発明の抗原結合ドメインの好適な例として、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域を含む抗原結合ドメインが挙げられる。こうした抗原結合ドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
本発明の抗原結合分子における抗原結合ドメインは、同一のエピトープに結合することができる。ここで同一のエピトープは、例えば、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在することができる。あるいは、本発明の抗原結合分子における抗原結合ドメインは、互いに異なるエピトープに結合することができる。ここで異なるエピトープは、例えば、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在することができる。
特異的
特異的とは、特異的に結合する分子の一方の分子がその一または複数の結合する相手方の分子以外の分子に対しては何ら有意な結合を示さない状態をいう。また、抗原結合ドメインが、ある抗原中に含まれる複数のエピトープのうち特定のエピトープに対して特異的である場合にも用いられる。また、抗原結合ドメインが結合するエピトープが複数の異なる抗原に含まれる場合には、当該抗原結合ドメインを有する抗原結合分子は当該エピトープを含む様々な抗原と結合することができる。
抗体
本明細書において、抗体とは、天然のものであるかまたは部分的もしくは完全合成により製造された免疫グロブリンをいう。抗体はそれが天然に存在する血漿や血清等の天然資源や抗体を産生するハイブリドーマ細胞の培養上清から単離され得るし、または遺伝子組換え等の手法を用いることによって部分的にもしくは完全に合成され得る。抗体の例としては免疫グロブリンのアイソタイプおよびそれらのアイソタイプのサブクラスが好適に挙げられる。ヒトの免疫グロブリンとして、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMの9種類のクラス(アイソタイプ)が知られている。本発明の抗体には、これらのアイソタイプのうちIgG1、IgG2、IgG3、IgG4が含まれ得る。
所望の結合活性を有する抗体を作製する方法は当業者において公知である。以下に、IL-6レセプターに結合する抗体(抗IL-6レセプター抗体)を作製する方法が例示される。IL-6レセプター以外の抗原に結合する抗体も下記の例示に準じて適宜作製され得る。
抗IL-6レセプター抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として取得され得る。抗IL-6レセプター抗体としては、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好適に作製され得る。哺乳動物由来のモノクローナル抗体には、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞によって産生されるもの等が含まれる。なお本願発明のモノクローナル抗体には、「ヒト化抗体」や「キメラ抗体」が含まれる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、公知技術を使用することによって、例えば以下のように作製され得る。すなわち、IL-6レセプタータンパク質を感作抗原として使用して、通常の免疫方法にしたがって哺乳動物が免疫される。得られる免疫細胞が通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合される。次に、通常のスクリーニング法によって、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって抗IL-6レセプター抗体を産生するハイブリドーマが選択され得る。
具体的には、モノクローナル抗体の作製は例えば以下に示すように行われる。まず、配列番号:2にそのヌクレオチド配列が開示されたIL-6レセプター遺伝子を発現することによって、抗体取得の感作抗原として使用される配列番号:1で表されるIL-6レセプタータンパク質が取得され得る。すなわち、IL-6レセプターをコードする遺伝子配列を公知の発現ベクターに挿入することによって適当な宿主細胞が形質転換される。当該宿主細胞中または培養上清中から所望のヒトIL-6レセプタータンパク質が公知の方法で精製される。培養上清中から可溶型のIL-6レセプターを取得するためには、例えば、Mullbergら(J. Immunol. (1994) 152 (10), 4958-4968)によって記載されているような可溶型IL-6レセプターである、配列番号:1で表されるIL-6レセプターポリペプチド配列のうち、1から357番目のアミノ酸からなるタンパク質が、配列番号:1で表されるIL-6レセプタータンパク質の代わりに発現される。また、精製した天然のIL-6レセプタータンパク質もまた同様に感作抗原として使用され得る。
哺乳動物に対する免疫に使用する感作抗原として当該精製IL-6レセプタータンパク質が使用できる。IL-6レセプターの部分ペプチドもまた感作抗原として使用できる。この際、当該部分ペプチドはヒトIL-6レセプターのアミノ酸配列より化学合成によっても取得され得る。また、IL-6レセプター遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで発現させることによっても取得され得る。さらにはタンパク質分解酵素を用いてIL-6レセプタータンパク質を分解することによっても取得され得るが、部分ペプチドとして用いるIL-6レセプターペプチドの領域および大きさは特に特別の態様に限定されない。好ましい領域は配列番号:1のアミノ酸配列において20-357番目のアミノ酸に相当するアミノ酸配列から任意の配列が選択され得る。感作抗原とするペプチドを構成するアミノ酸の数は少なくとも5以上、例えば6以上、或いは7以上であることが好ましい。より具体的には8〜50、好ましくは10〜30残基のペプチドが感作抗原として使用され得る。
また、IL-6レセプタータンパク質の所望の部分ポリペプチドやペプチドを異なるポリペプチドと融合した融合タンパク質が感作抗原として利用され得る。感作抗原として使用される融合タンパク質を製造するために、例えば、抗体のFc断片やペプチドタグなどが好適に利用され得る。融合タンパク質を発現するベクターは、所望の二種類又はそれ以上のポリペプチド断片をコードする遺伝子がインフレームで融合され、当該融合遺伝子が前記のように発現ベクターに挿入されることにより作製され得る。融合タンパク質の作製方法はMolecular Cloning 2nd ed. (Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58(1989)Cold Spring Harbor Lab. press)に記載されている。感作抗原として用いられるIL-6レセプターの取得方法及びそれを用いた免疫方法は、WO2003/000883、WO2004/022754、WO2006/006693等にも具体的に記載されている。
該感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特定の動物に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましい。一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはウサギ、サル等が好適に使用される。
公知の方法にしたがって上記の動物が感作抗原により免疫される。例えば、一般的な方法として、感作抗原が哺乳動物の腹腔内または皮下に注射によって投与されることにより免疫が実施される。具体的には、PBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当な希釈倍率で希釈された感作抗原が、所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントと混合され、乳化された後に、該感作抗原が哺乳動物に4から21日毎に数回投与される。また、感作抗原の免疫時には適当な担体が使用され得る。特に分子量の小さい部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合した該感作抗原ペプチドを免疫することが望ましい場合もある。
また、所望の抗体を産生するハイブリドーマは、DNA免疫を使用し、以下のようにしても作製され得る。DNA免疫とは、免疫動物中で抗原タンパク質をコードする遺伝子が発現され得るような態様で構築されたベクターDNAが投与された当該免疫動物中で、感作抗原が当該免疫動物の生体内で発現されることによって、免疫刺激が与えられる免疫方法である。蛋白質抗原が免疫動物に投与される一般的な免疫方法と比べて、DNA免疫には、次のような優位性が期待される。
−IL-6レセプターのような膜蛋白質の構造を維持して免疫刺激が与えられ得る
−免疫抗原を精製する必要が無い
DNA免疫によって本発明のモノクローナル抗体を得るために、まず、IL-6レセプタータンパク質を発現するDNAが免疫動物に投与される。IL-6レセプターをコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成され得る。得られたDNAが適当な発現ベクターに挿入され、免疫動物に投与される。発現ベクターとしては、たとえばpcDNA3.1などの市販の発現ベクターが好適に利用され得る。ベクターを生体に投与する方法として、一般的に用いられている方法が利用され得る。たとえば、発現ベクターが吸着した金粒子が、gene gunで免疫動物個体の細胞内に導入されることによってDNA免疫が行われる。さらに、IL-6レセプターを認識する抗体の作製は国際公開WO2003/104453に記載された方法を用いても作製され得る。
このように哺乳動物が免疫され、血清中におけるIL-6レセプターに結合する抗体力価の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に供される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用され得る。
前記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択され得る。これらのピリミジンアナログをDNA中に取り込む正常な細胞は死滅する。他方、これらのピリミジンアナログを取り込めないこれらの酵素を欠損した細胞は、選択培地の中で生存することができる。この他G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
このようなミエローマ細胞として、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol.(1979)123 (4), 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、NS-1(C. Eur. J. Immunol.(1976)6 (7), 511-519)、MPC-11(Cell(1976)8 (3), 405-415)、SP2/0(Nature(1978)276 (5685), 269-270)、FO(J. Immunol. Methods(1980)35 (1-2), 1-21)、S194/5.XX0.BU.1(J. Exp. Med.(1978)148 (1), 313-323)、R210(Nature(1979)277 (5692), 131-133)等が好適に使用され得る。
基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて、前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、前記細胞融合が実施され得る。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤が添加されて使用される。
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定され得る。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用され、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が好適に添加され得る。
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温されたPEG溶液(例えば平均分子量1000から6000程度)が通常30から60%(w/v)の濃度で添加される。混合液が緩やかに混合されることによって所望の融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。次いで、上記に挙げた適当な培養液が逐次添加され、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去され得る。
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、係る十分な時間は数日から数週間である)上記HAT培養液を用いた培養が継続され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施される。
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択され得る。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞が選択的に増殖し得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、所望のハイブリドーマが選択され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施され得る。
所望の抗体のスクリーニングおよび単一クローニングが、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施され得る。例えば、IL-6レセプターに結合するモノクローナル抗体は、細胞表面に発現したIL-6レセプターに結合することができる。このようなモノクローナル抗体は、たとえば、FACS(fluorescence activated cell sorting)によってスクリーニングされ得る。FACSは、蛍光抗体と接触させた細胞をレーザー光で解析し、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞表面への抗体の結合を測定することを可能にするシステムである。
FACSによって本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングするためには、まずIL-6レセプターを発現する細胞を調製する。スクリーニングのための好ましい細胞は、IL-6レセプターを強制発現させた哺乳動物細胞である。宿主細胞として使用した形質転換されていない哺乳動物細胞を対照として用いることによって、細胞表面のIL-6レセプターに対する抗体の結合活性が選択的に検出され得る。すなわち、宿主細胞に結合せず、IL-6レセプター強制発現細胞に結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択することによって、IL-6レセプターモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが取得され得る。
あるいは固定化したIL-6レセプター発現細胞に対する抗体の結合活性がELISAの原理に基づいて評価され得る。たとえば、ELISAプレートのウェルにIL-6レセプター発現細胞が固定化される。ハイブリドーマの培養上清をウェル内の固定化細胞に接触させ、固定化細胞に結合する抗体が検出される。モノクローナル抗体がマウス由来の場合、細胞に結合した抗体は、抗マウスイムノグロブリン抗体によって検出され得る。これらのスクリーニングによって選択された、抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマは、限界希釈法等によりクローニングされ得る。
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは通常の培養液中で継代培養され得る。また、該ハイブリドーマは液体窒素中で長期にわたって保存され得る。
当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清から所望のモノクローナル抗体が取得され得る。あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖せしめ、その腹水からモノクローナル抗体が取得され得る。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに好適なものである。
当該ハイブリドーマ等の抗体産生細胞からクローニングされる抗体遺伝子によってコードされる抗体も好適に利用され得る。クローニングした抗体遺伝子を適当なベクターに組み込んで宿主に導入することによって、当該遺伝子によってコードされる抗体が発現する。抗体遺伝子の単離と、ベクターへの導入、そして宿主細胞の形質転換のための方法は例えば、Vandammeらによって既に確立されている(Eur.J. Biochem.(1990)192 (3), 767-775)。下記に述べるように組換え抗体の製造方法もまた公知である。
たとえば、抗IL-6レセプター抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、抗IL-6レセプター抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAが取得される。そのために、通常、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するための方法として、たとえば次のような方法を利用することができる。
−グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18 (24), 5294-5299)
−AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162 (1), 156-159)
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)等を使用して精製され得る。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)などのように、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。このようなキットを用いて、ハイブリドーマからmRNAが取得され得る。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAが合成され得る。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等によって合成され得る。また、cDNAの合成および増幅のために、SMART RACE cDNA 増幅キット(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85 (23), 8998-9002、Nucleic Acids Res. (1989) 17 (8), 2919-2932)が適宜利用され得る。更にこうしたcDNAの合成の過程においてcDNAの両末端に後述する適切な制限酵素サイトが導入され得る。
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが作製され、大腸菌等に導入されコロニーが選択された後に、該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製され得る。そして、該組換えベクターが目的とするcDNAの塩基配列を有しているか否かについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認される。
可変領域をコードする遺伝子を取得するためには、可変領域遺伝子増幅用のプライマーを使った5'-RACE法を利用するのが簡便である。まずハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型としてcDNAが合成され、5'-RACE cDNAライブラリが得られる。5'-RACE cDNAライブラリの合成にはSMART RACE cDNA 増幅キットなど市販のキットが適宜用いられる。
得られた5'-RACE cDNAライブラリを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列をもとにマウス抗体遺伝子増幅用のプライマーがデザインされ得る。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列である。したがって、サブクラスは予めIso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(ロシュ・ダイアグノスティックス)などの市販キットを用いて決定しておくことが望ましい。
具体的には、たとえばマウスIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1、γ2a、γ2b、γ3、軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーが利用され得る。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3'側のプライマーには可変領域に近い定常領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーには、5' RACE cDNAライブラリ作製キットに付属するプライマーが利用される。
こうして増幅されたPCR産物を利用して、重鎖と軽鎖の組み合せからなるイムノグロブリンが再構成され得る。再構成されたイムノグロブリンの、IL-6レセプターに対する結合活性を指標として、所望の抗体がスクリーニングされ得る。たとえばIL-6レセプターに対する抗体の取得を目的とするとき、抗体のIL-6レセプターに対する結合は、特異的であることがさらに好ましい。IL-6レセプターに結合する抗体は、たとえば次のようにしてスクリーニングされ得る;
(1)ハイブリドーマから得られたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をIL-6レセプター発現細胞に接触させる工程、
(2)IL-6レセプター発現細胞と抗体との結合を検出する工程、および
(3)IL-6レセプター発現細胞に結合する抗体を選択する工程。
抗体とIL-6レセプター発現細胞との結合を検出する方法は公知である。具体的には、先に述べたFACSなどの手法によって、抗体とIL-6レセプター発現細胞との結合が検出され得る。抗体の結合活性を評価するためにIL-6レセプター発現細胞の固定標本が適宜利用され得る。
結合活性を指標とする抗体のスクリーニング方法として、ファージベクターを利用したパニング法も好適に用いられる。ポリクローナルな抗体発現細胞群より抗体遺伝子を重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリとして取得した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結することによってシングルチェインFv(scFv)を形成することができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入することにより、scFvを表面に発現するファージが取得され得る。このファージと所望の抗原との接触の後に、抗原に結合したファージを回収することによって、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAが回収され得る。この操作を必要に応じて繰り返すことにより、所望の結合活性を有するscFvが濃縮され得る。
目的とする抗IL-6レセプター抗体のV領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のように消化された抗IL-6レセプター抗体のV領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターが取得され得る。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合されれば、キメラ抗体が取得される。ここで、キメラ抗体とは、定常領域と可変領域の由来が異なることをいう。したがって、マウス−ヒトなどの異種キメラ抗体に加え、ヒト−ヒト同種キメラ抗体も、本発明におけるキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入することによって、キメラ抗体発現ベクターが構築され得る。具体的には、たとえば、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを保持した発現ベクターの5'側に、前記V領域遺伝子を消化する制限酵素の制限酵素認識配列が適宜配置され得る。同じ組み合わせの制限酵素で消化された両者がインフレームで融合されることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
抗IL-6レセプターモノクローナル抗体を製造するために、抗体遺伝子が発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに組み込まれる。抗体を発現するための発現制御領域とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。また、発現した抗体が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に付加され得る。後に記載される実施例ではシグナル配列として、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:3)を有するペプチドが使用されているが、これ以外にも適したシグナル配列が付加される。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端部分で切断され、切断されたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌され得る。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換されることによって、抗IL-6レセプター抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞が取得され得る。
抗体遺伝子の発現のために、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAは、それぞれ別の発現ベクターに組み込まれる。H鎖とL鎖が組み込まれたベクターによって、同じ宿主細胞に同時に形質転換(co-transfect)されることによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子が発現され得る。あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAが単一の発現ベクターに組み込まれることによって宿主細胞が形質転換され得る(国際公開WO1994/11523を参照のこと)。
単離された抗体遺伝子を適当な宿主に導入することによって抗体を作製するための宿主細胞と発現ベクターの多くの組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明の抗原結合ドメインを単離するのに応用され得る。真核細胞が宿主細胞として使用される場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が適宜使用され得る。具体的には、動物細胞としては、次のような細胞が例示され得る。
(1)哺乳類細胞、:CHO、COS、ミエローマ、BHK (baby hamster kidney )、Hela、Vero、HEK(human embryonic kidney)293など
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など
あるいは植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞による抗体遺伝子の発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞が適宜利用され得る。
更に真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
−酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces )属、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属
−糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus )属
また、原核細胞を利用した抗体遺伝子の発現系も公知である。たとえば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌(E. coli )、枯草菌などの細菌細胞が適宜利用され得る。これらの細胞中に、目的とする抗体遺伝子を含む発現ベクターが形質転換によって導入される。形質転換された細胞をin vitroで培養することにより、当該形質転換細胞の培養物から所望の抗体が取得され得る。
組換え抗体の産生には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物も利用され得る。すなわち所望の抗体をコードする遺伝子が導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築され得る。乳汁中に分泌されるタンパク質として、たとえば、ヤギβカゼインなどを利用され得る。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、当該注入された胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁からは、所望の抗体が乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得され得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、ホルモンがトランスジェニックヤギに対して投与され得る(Bio/Technology (1994), 12 (7), 699-702)。
本明細書において記載されるポリペプチド会合体がヒトに投与される場合、当該会合体における抗原結合ドメインとして、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体由来の抗原結合ドメインが適宜採用され得る。遺伝子組換え型抗体には、例えば、ヒト化(Humanized)抗体等が含まれる。これらの改変抗体は、公知の方法を用いて適宜製造される。
本明細書において記載されるポリペプチド会合体における抗原結合ドメインを作製するために用いられる抗体の可変領域は、通常、4つのフレームワーク領域(FR)にはさまれた3つの相補性決定領域(complementarity-determining region ; CDR)で構成されている。CDRは、実質的に、抗体の結合特異性を決定している領域である。CDRのアミノ酸配列は多様性に富む。一方FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも、高い同一性を示すことが多い。そのため、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を、他の抗体に移植することができるとされている。
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、たとえばOverlap Extension PCRが公知である。Overlap Extension PCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードする塩基配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと同一性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と同一性の高いアミノ酸配列からなるヒトFRを利用するのが好ましい。
また連結される塩基配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーによってヒトFRが個別に合成される。その結果、各FRにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードする塩基配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、ヒト抗体遺伝子を鋳型として合成された産物のオーバーラップしたCDR部分を互いにアニールさせて相補鎖合成反応が行われる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDRの配列を介して連結される。
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結されたV領域遺伝子は、その5'末端と3'末端にアニールし適当な制限酵素認識配列を付加されたプライマーによってその全長が増幅される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト型抗体発現用ベクターが作成できる。当該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、当該組換え細胞を培養し、当該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、当該ヒト化抗体が当該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP239400、国際公開WO1996/002576参照)。
上記のように作製されたヒト化抗体の抗原に対する結合活性を定性的又は定量的に測定し、評価することによって、CDRを介して連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成するようなヒト抗体のFRが好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原に対する結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択され得る(Cancer Res., (1993) 53, 851-856)。
また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(国際公開WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫動物とし、DNA免疫により所望のヒト抗体が取得され得る。
さらに、ヒト抗体ライブラリを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域が一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製され得る。当該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより当該ヒト抗体が取得される。これらの方法は既に公知である(国際公開WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
また、抗体遺伝子を取得する方法としてBernasconiら(Science (2002) 298, 2199-2202)またはWO2008/081008に記載のようなB細胞クローニング(それぞれの抗体のコード配列の同定およびクローニング、その単離、およびそれぞれの抗体(特に、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)の作製のための発現ベクター構築のための使用等)の手法が、上記のほか適宜使用され得る。
EUナンバリングおよびKabatナンバリング
本発明で使用されている方法によると、抗体のCDRとFRに割り当てられるアミノ酸位置はKabatにしたがって規定される(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health, Bethesda, Md., 1987年および1991年)。本明細書において、抗原結合分子が抗体または抗原結合断片である場合、可変領域のアミノ酸はKabatナンバリングにしたがい、定常領域のアミノ酸はKabatのアミノ酸位置に準じたEUナンバリングにしたがって表される。
イオン濃度の条件
金属イオン濃度の条件
本発明の非限定の一つの態様では、イオン濃度とは金属イオン濃度のことをいう。「金属イオン」とは、水素を除くアルカリ金属および銅族等の第I族、アルカリ土類金属および亜鉛族等の第II族、ホウ素を除く第III族、炭素とケイ素を除く第IV族、鉄族および白金族等の第VIII族、V、VIおよびVII族の各A亜族に属する元素と、アンチモン、ビスマス、ポロニウム等の金属元素のイオンをいう。金属原子は原子価電子を放出して陽イオンになる性質を有しており、これをイオン化傾向という。イオン化傾向の大きい金属は、化学的に活性に富むとされる。
本発明で好適な金属イオンの例としてカルシウムイオンが挙げられる。カルシウムイオンは多くの生命現象の調節に関与しており、骨格筋、平滑筋および心筋等の筋肉の収縮、白血球の運動および貪食等の活性化、血小板の変形および分泌等の活性化、リンパ球の活性化、ヒスタミンの分泌等の肥満細胞の活性化、カテコールアミンα受容体やアセチルコリン受容体を介する細胞の応答、エキソサイトーシス、ニューロン終末からの伝達物質の放出、ニューロンの軸策流等にカルシウムイオンが関与している。細胞内のカルシウムイオン受容体として、複数個のカルシウムイオン結合部位を有し、分子進化上共通の起源から由来したと考えられるトロポニンC、カルモジュリン、パルブアルブミン、ミオシン軽鎖等が知られており、その結合モチーフも数多く知られている。例えば、カドヘリンドメイン、カルモジュリンに含まれるEFハンド、Protein kinase Cに含まれるC2ドメイン、血液凝固タンパク質FactorIXに含まれるGlaドメイン、アシアログライコプロテインレセプターやマンノース結合レセプターに含まれるC型レクチン、LDL受容体に含まれるAドメイン、アネキシン、トロンボスポンジン3型ドメインおよびEGF様ドメインがよく知られている。
本発明においては、金属イオンがカルシウムイオンの場合には、カルシウムイオン濃度の条件として低カルシウムイオン濃度の条件と高カルシウムイオン濃度の条件が挙げられる。カルシウムイオン濃度の条件によって結合活性が変化するとは、低カルシウムイオン濃度と高カルシウムイオン濃度の条件の違いによって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化することをいう。例えば、低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合が挙げられる。また、高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりも低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合もまた挙げられる。
本明細書において、高カルシウムイオン濃度とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適には100μMから10 mMの間から選択される濃度であり得る。また、別の態様では、200μMから5 mMの間から選択される濃度でもあり得る。また、異なる態様では500μMから2.5 mMの間から選択される濃度でもあり得るし、ほかの態様では200μMから2 mMの間から選択される濃度でもあり得る。さらに400μMから1.5 mMの間から選択される濃度でもあり得る。特に生体内の血漿中(血中)でのカルシウムイオン濃度に近い500μMから2.5 mMの間から選択される濃度が好適に挙げられる。
本明細書において、低カルシウムイオン濃度とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適には0.1μMから30μMの間から選択される濃度であり得る。また、別の態様では、0.2μMから20μMの間から選択される濃度でもあり得る。また、異なる態様では0.5μMから10μMの間から選択される濃度でもあり得るし、ほかの態様では1μMから5μMの間から選択される濃度でもあり得る。さらに2μMから4μMの間から選択される濃度でもあり得る。特に生体内の早期エンドソーム内でのイオン化カルシウム濃度に近い1μMから5μMの間から選択される濃度が好適に挙げられる。
本発明において、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低いとは、抗原結合分子の0.1 μMから30μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、100μMから10 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。好ましくは、抗原結合分子の0.5μMから10μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、200μMから5 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のカルシウムイオン濃度における抗原結合活性が、生体内の血漿中のカルシウムイオン濃度における抗原結合活性より弱いことを意味し、具体的には、抗原結合分子の1μMから5μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、500μMから2.5 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。
金属イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化しているか否かは、例えば前記の結合活性の項で記載されたような公知の測定方法を使用することによって決定され得る。例えば、低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高く変化することを確認するためには、低カルシウムイオン濃度および高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性が比較される。
さらに本発明において、「低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い」という表現は、抗原結合分子の高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性が低カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性よりも高いと表現することもできる。なお本発明においては、「低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い」を「低カルシウムイオン濃度条件下における抗原結合能が高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合能よりも弱い」と記載する場合もあり、また、「低カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合活性を高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低下させる」を「低カルシウムイオン濃度条件下における抗原結合能を高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合能よりも弱くする」と記載する場合もある。
抗原に対する結合活性を測定する際のカルシウムイオン濃度以外の条件は、当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、HEPESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合分子と抗原との結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原に対する結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原に対する結合活性を評価することが可能である。
本発明の抗原結合分子において、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性よりも弱い限り、低カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性と高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性の比は特に限定されないが、好ましくは抗原に対する低カルシウムイオン濃度の条件におけるKD(Dissociation constant:解離定数)と高カルシウムイオン濃度の条件におけるKDの比であるKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が40以上である。KD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。また、KD (Ca3μM)/KD (Ca 1.2 mM)の値でも特定され得る。すなわち、KD (Ca 3μM)/KD (Ca 1.2 mM)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD (Ca 3μM)/KD (Ca 1.2 mM)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD (Ca 3μM)/KD (Ca 1.2 mM)の値が40以上である。KD (Ca 3μM)/KD (Ca 1.2 mM)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
抗原に対する結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はKD(解離定数)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合は見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)を用いることが可能である。KD(解離定数)、および、見かけのKD(見かけの解離定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
また、本発明の抗原結合分子の低カルシウム濃度の条件における抗原に対する結合活性と高カルシウム濃度の条件における抗原に対する結合活性の比を示す他の指標として、例えば、解離速度定数であるkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)もまた好適に用いられ得る。結合活性の比を示す指標としてKD(解離定数)の代わりにkd(解離速度定数)を用いる場合、抗原に対する低カルシウム濃度の条件におけるkd(解離速度定数)と高カルシウム濃度の条件におけるkd(解離速度定数)の比であるkd(低カルシウム濃度の条件)/kd(高カルシウム濃度の条件)の値は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。Kd(低カルシウム濃度の条件)/kd(高カルシウム濃度の条件)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術常識において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
抗原結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はkd(解離速度定数)を用いることが可能であり、抗原が膜型抗原の場合は見かけのkd(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。kd(解離速度定数)、および、見かけのkd(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、フローサイトメーター等を用いることが可能である。なお本発明において、異なるカルシウムイオン濃度における抗原結合分子の抗原に対する結合活性を測定する際は、カルシウム濃度以外の条件は同一とすることが好ましい。
例えば、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗体のスクリーニングによって取得され得る。
(a) 低カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原結合活性を得る工程、
(b) 高カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原結合活性を得る工程、および
(c) 低カルシウム濃度の条件における抗原結合活性が、高カルシウム濃度の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体を選択する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗体もしくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) 高カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗体もしくはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗体を低カルシウム濃度条件下に置く工程、および
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗体を単離する工程。
また、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(d)を含む抗原結合ドメインまたは抗体若しくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) 低カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合しない抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程、
(c) 前記工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗体を高カルシウム濃度条件下で抗原に結合させる工程、および
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(c)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムに高カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗体を低カルシウム濃度条件下でカラムから溶出する工程、および
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムに低カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗体を回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメイン又は抗体を高カルシウム濃度条件下で抗原に結合させる工程、および
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 高カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗体を低カルシウム濃度条件下に置く工程、および
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
なお、前記の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明によって、上述のスクリーニング方法において、(a)〜(c)あるいは(a)〜(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含むスクリーニング方法によって取得された低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体が提供される。(a)〜(c)あるいは(a)〜(d)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
本発明のスクリーニング方法において、低カルシウム濃度条件下における抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、イオン化カルシウム濃度が0.1μM〜30μMの間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいイオン化カルシウム濃度として、0.5μM〜10μMの間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいイオン化カルシウム濃度として、生体内の早期エンドソーム内のイオン化カルシウム濃度が挙げられ、具体的には1μM〜5μMにおける抗原結合活性を挙げることができる。また、高カルシウム濃度条件下における抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、イオン化カルシウム濃度が100μM〜10 mMの間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいイオン化カルシウム濃度として200μM〜5 mMの間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいイオン化カルシウム濃度として、生体内の血漿中でのイオン化カルシウム濃度を挙げることができ、具体的には0.5 mM〜2.5 mMにおける抗原結合活性を挙げることができる。
抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、イオン化カルシウム濃度以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度定数)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度定数)等として評価することが可能である。これらは当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore (GE healthcare)、スキャッチャードプロット、FACS等を用いることが可能である。
本発明において、高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程は、低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性より低い抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程と同じ意味である。
高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性より高い限り、高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性と低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性の差は特に限定されないが、好ましくは高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
前記のスクリーニング方法によりスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗体はいかなる抗原結合ドメイン又は抗体でもよく、例えば上述の抗原結合ドメイン又は抗体をスクリーニングすることが可能である。例えば、天然の配列を有する抗原結合ドメイン又は抗体をスクリーニングしてもよいし、アミノ酸配列が置換された抗原結合ドメイン又は抗体をスクリーニングしてもよい。
ライブラリ
ある一態様によれば、本発明の抗原結合ドメイン又は抗体は、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。イオン濃度の例としては金属イオン濃度や水素イオン濃度が好適に挙げられる。
本明細書において「ライブラリ」とは複数の抗原結合分子または抗原結合分子を含む複数の融合ポリペプチド、もしくはこれらの配列をコードする核酸、ポリヌクレオチドをいう。ライブラリ中に含まれる複数の抗原結合分子または抗原結合分子を含む複数の融合ポリペプチドの配列は単一の配列ではなく、互いに配列の異なる抗原結合分子または抗原結合分子を含む融合ポリペプチドである。
本明細書においては、互いに配列の異なる複数の抗原結合分子という記載における「互いに配列の異なる」との用語は、ライブラリ中の個々の抗原結合分子の配列が相互に異なることを意味する。すなわち、ライブラリ中における互いに異なる配列の数は、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数が反映され、「ライブラリサイズ」と指称される場合もある。通常のファージディスプレイライブラリでは106から1012であり、リボゾームディスプレイ法等の公知の技術を適用することによってライブラリサイズを1014まで拡大することが可能である。しかしながら、ファージライブラリのパンニング選択時に使用されるファージ粒子の実際の数は、通常、ライブラリサイズよりも10ないし10,000倍大きい。この過剰倍数は、「ライブラリ当量数」とも呼ばれるが、同じアミノ酸配列を有する個々のクローンが10ないし10,000存在し得ることを表す。よって本発明における「互いに配列の異なる」との用語はライブラリ当量数が除外されたライブラリ中の個々の抗原結合分子の配列が相互に異なること、より具体的には互いに配列の異なる抗原結合分子が106から1014分子、好ましくは107から1012分子、さらに好ましくは108から1011分子、特に好ましくは108から1012存在することを意味する。
また、本発明の、複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリという記載における「複数の」との用語は、例えば本発明の抗原結合分子、融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド分子、ベクターまたはウイルスは、通常、その物質の2つ以上の種類の集合を指す。例えば、ある2つ以上の物質が特定の形質に関して互いに異なるならば、その物質には2種類以上が存在することを表す。例としては、アミノ酸配列中の特定のアミノ酸位置で観察される変異体アミノ酸が挙げられ得る。例えば、フレキシブル残基以外、または表面に露出した非常に多様なアミノ酸位置の特定の変異体アミノ酸以外は実質的に同じ、好ましくは同一の配列である本発明の2つ以上の抗原結合分子がある場合、本発明の抗原結合分子は複数個存在する。他の実施例では、フレキシブル残基をコードする塩基以外、または表面に露出した非常に多様なアミノ酸位置の特定の変異体アミノ酸をコードする塩基以外は実質的に同じ、好ましくは同一の配列である本発明の2つ以上のポリヌクレオチド分子があるならば、本発明のポリヌクレオチド分子は複数個存在する。
さらに、本発明の、複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリという記載における「から主としてなる」との用語は、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数のうち、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性 が 異なっている抗原結合分子の数が反映される。具体的には、そのような結合活性を示す抗原結合分子がライブラリ中に少なくとも104分子存在することが好ましい。また、より好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも105分子存在するライブラリから取得され得る。さらに好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも106分子存在するライブラリから取得され得る。特に好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも107分子存在するライブラリから取得され得る。また、好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも108分子存在するライブラリから取得され得る。別の表現では、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数のうち、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が異なっている抗原結合分子の割合としても好適に表現され得る。具体的には、本発明の抗原結合ドメインは、そのような結合活性を示す抗原結合分子がライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数の0.1%から80%、好ましくは0.5%から60%、より好ましくは1%から40%、さらに好ましくは2%から20%、特に好ましくは4%から10% 含まれる ライブラリから取得され得る。融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド分子またはベクターの場合も、上記と同様、分子の数や分子全体における割合で表現され得る。また、ウイルスの場合も、上記と同様、ウイルス個体の数や個体全体における割合で表現され得る。
カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性が変化するアミノ酸
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗体はどのように調製されてもよく、例えば、金属イオンがカルシウムイオン濃度である場合には、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリにカルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリ(カルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所にカルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である 。
前記のようにイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸の例として、例えば、金属イオンがカルシウムイオンである場合には、カルシウム結合モチーフを形成するアミノ酸であれば、その種類は問わない。カルシウム結合モチーフは、当業者に周知であり、詳細に記載されている(例えばSpringerら(Cell (2000) 102, 275-277)、KawasakiおよびKretsinger(Protein Prof. (1995) 2, 305-490)、Moncriefら(J. Mol. Evol. (1990) 30, 522-562)、Chauvauxら(Biochem. J. (1990) 265, 261-265)、BairochおよびCox(FEBS Lett. (1990) 269, 454-456)、Davis(New Biol. (1990) 2, 410-419)、Schaeferら(Genomics (1995) 25, 638〜643)、Economouら(EMBO J. (1990) 9, 349-354)、Wurzburgら(Structure. (2006) 14, 6, 1049-1058))。すなわち、ASGPR, CD23、MBR、DC-SIGN等のC型レクチン等の任意の公知のカルシウム結合モチーフが、本発明の抗原結合分子に含まれ得る。このようなカルシウム結合モチーフの好適な例として、上記のほかには配列番号:4、配列番号:9、配列番号:10に記載される抗原結合ドメインに含まれるカルシウム結合モチーフも挙げられ得る。
また、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化するアミノ酸の例として、金属キレート作用を有するアミノ酸も好適に用いられる得る。金属キレート作用を有するアミノ酸の例として、例えばセリン(Ser(S))、スレオニン(Thr(T))、アスパラギン(Asn(N))、グルタミン(Gln(Q))、アスパラギン酸(Asp(D))およびグルタミン酸(Glu(E))等が好適に挙げられる。
前記のアミノ酸が含まれる抗原結合ドメインの位置は特定の位置に限定されず、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる限り、抗原結合ドメインを形成する重鎖可変領域または軽鎖可変領域中のいずれの位置でもあり得る。すなわち、本発明の抗原結合ドメインは、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が重鎖の抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。また、別の非限定の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が重鎖のCDR3に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの非限定の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が重鎖のCDR3のKabatナンバリングで表される95位、96位、100a位および/または101位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
また、本発明の非限定の一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が軽鎖の抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。また、別の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が軽鎖のCDR1に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が軽鎖のCDR1のKabatナンバリングで表される30位、31位および/または32位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
また、別の非限定の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2のKabatナンバリングで表される50位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリが提供される。
さらに別の非限定の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3のKabatナンバリングで表される92位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
また、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が、前記に記載された軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3から選択される2つまたは3つのCDRに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから本発明の異なる態様として取得され得る。さらに、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のKabatナンバリングで表される30位、31位、32位、50位および/または92位のいずれかひとつ以上に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
特に好適な実施形態では、抗原結合分子の軽鎖および/または重鎖可変領域のフレームワーク配列は、ヒトの生殖細胞系フレームワーク配列を有していることが望ましい。したがって、本発明の一態様においてフレームワーク配列が完全にヒトの配列であるならば、ヒトに投与(例えば疾病の治療)された場合、本発明の抗原結合分子は免疫原性反応を殆どあるいは全く引き起こさないと考えられる。上記の意味から、本発明の「生殖細胞系列の配列を含む 」とは、本発明のフレームワーク配列の一部が、いずれかのヒトの生殖細胞系フレームワーク配列の一部と同一であることを意味する。例えば、本発明の抗原結合分子の重鎖FR2の配列が複数の異なるヒトの生殖細胞系フレームワーク配列の重鎖FR2配列が組み合わされた配列である場合も、本発明の「生殖細胞系列の配列を含む 」抗原結合分子である。
フレームワークの例としては、例えばV-Base(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)等のウェブサイトに含まれている、現在知られている完全にヒト型のフレームワーク領域の配列が好適に挙げられる。 これらのフレームワーク領域の配列が本発明の抗原結合分子に含まれる生殖細胞系列の配列として適宜使用され得る。生殖細胞系列の配列はその類似性にもとづいて分類され得る(Tomlinsonら(J. Mol. Biol. (1992) 227, 776-798)WilliamsおよびWinter(Eur. J. Immunol. (1993) 23, 1456-1461)およびCoxら(Nat. Genetics (1994) 7, 162-168))。 7つのサブグループに分類されるVκ、10のサブグループに分類されるVλ、7つのサブグループに分類されるVHから好適な生殖細胞系列の配列が適宜選択され得る。
完全にヒト型のVH配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVH1サブグループ(例えば、VH1-2、VH1-3、VH1-8、VH1-18、VH1-24、VH1-45、VH1-46、VH1-58、VH1-69)、VH2サブグループ(例えば、VH2-5、VH2-26、VH2-70)、VH3サブグループ(VH3-7、VH3-9、VH3-11、VH3-13、VH3-15、VH3-16、VH3-20、VH3-21、VH3-23、VH3-30、VH3-33、VH3-35、VH3-38、VH3-43、VH3-48、VH3-49、VH3-53、VH3-64、VH3-66、VH3-72、VH3-73、VH3-74)、VH4サブグループ(VH4-4、VH4-28、VH4-31、VH4-34、VH4-39、VH4-59、VH4-61)、VH5サブグループ(VH5-51)、VH6サブグループ(VH6-1)、VH7サブグループ(VH7-4、VH7-81)のVH配列等が好適に挙げられる。これらは公知文献(Matsudaら(J. Exp. Med. (1998) 188, 1973-1975))等にも記載されており、当業者はこれらの配列情報をもとに本発明の抗原結合分子を適宜設計することが可能である。これら以外の完全にヒト型のフレームワークまたはフレームワークの準領域も好適に使用され得る。
完全にヒト型のVK配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVk1サブグループに分類されるA20、A30、L1、L4、L5、L8、L9、L11、L12、L14、L15、L18、L19、L22、L23、L24、O2、O4、O8、O12、O14、O18、Vk2サブグループに分類されるA1、A2、A3、A5、A7、A17、A18、A19、A23、O1、O11、Vk3サブグループに分類されるA11、A27、L2、L6、L10、L16、L20、L25、Vk4サブグループに分類されるB3、Vk5サブグループに分類されるB2(本明細書においてはVk5-2とも指称される))、VK6サブグループに分類されるA10、A14、A26等(Kawasakiら(Eur. J. Immunol. (2001) 31, 1017-1028)、SchableおよびZachau(Biol. Chem. Hoppe Seyler (1993) 374, 1001-1022)およびBrensing-Kuppersら(Gene (1997) 191, 173-181))が好適に挙げられる。
完全にヒト型のVL配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVL1サブグループに分類されるV1-2、V1-3、V1-4、V1-5、V1-7、V1-9、V1-11、V1-13、V1-16、V1-17、V1-18、V1-19、V1-20、V1-22、VL1サブグループに分類されるV2-1、V2-6、V2-7、V2-8、V2-11、V2-13、V2-14、V2-15、V2-17、V2-19、VL3サブグループに分類されるV3-2、V3-3、V3-4、VL4サブグループに分類されるV4-1、V4-2、V4-3、V4-4、V4-6、VL5サブグループに分類されるV5-1、V5-2、V5-4、V5-6等(Kawasakiら(Genome Res. (1997) 7, 250-261))が好適に挙げられる。
通常これらのフレームワーク配列は一またはそれ以上のアミノ酸残基の相違により互いに異なっている。これらのフレームワーク配列は本発明の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」と共に使用され得る。本発明の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」と共に使用される完全にヒト型のフレームワークの例としては、これだけに限定されるわけではないが、ほかにもKOL、NEWM、REI、EU、TUR、TEI、LAY、POM等が挙げられる(例えば、前記のKabatら (1991)およびWuら(J. Exp. Med. (1970) 132, 211-250))。
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、生殖細胞系の配列の使用がほとんどの個人において有害な免疫反応を排除すると期待されている一つの理由は、以下の通りであると考えられている。通常の免疫反応中に生じる親和性成熟ステップの結果、免疫グロブリンの可変領域に体細胞の突然変異が頻繁に生じる。これらの突然変異は主にその配列が超可変的であるCDRの周辺に生じるが、フレームワーク領域の残基にも影響を及ぼす。これらのフレームワークの突然変異は生殖細胞系の遺伝子には存在せず、また患者の免疫原性になる可能性は少ない。一方、通常のヒトの集団は生殖細胞系の遺伝子によって発現されるフレームワーク配列の大多数にさらされており、免疫寛容の結果、これらの生殖細胞系のフレームワークは患者において免疫原性が低いあるいは非免疫原性であると予想される。免疫寛容の可能性を最大にするため、可変領域をコード化する遺伝子が普通に存在する機能的な生殖細胞系遺伝子の集合から選択され得る。
本発明の、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が前記のフレームワーク配列に含まれる抗原結合分子を作製するために部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。
例えば、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が予め含まれているフレームワーク配列として選択された軽鎖可変領域と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによって本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:4(Vk5-2)に記載された軽鎖可変領域配列に代表されるVk5-2ファミリーに属する軽鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。
また、前記のカルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が予め含まれているフレームワーク配列として選択された軽鎖可変領域の配列に、当該アミノ酸残基以外の残基として多様なアミノ酸が含まれるように設計することも可能である。本発明においてそのような残基は、フレキシブル残基と指称される。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、配列番号:4(Vk5-2)に記載された軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表1または表2に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。
Figure 2022000472
Figure 2022000472
本明細書においては、フレキシブル残基とは、公知のかつ/または天然抗体または抗原結合ドメインのアミノ酸配列を比較した場合に、その位置で提示されるいくつかの異なるアミノ酸を持つ軽鎖および重鎖可変領域上のアミノ酸が非常に多様である位置に存在するアミノ酸残基のバリエーションをいう。非常に多様である位置は一般的にCDR領域に存在する。一態様では、公知のかつ/または天然抗体の非常に多様な位置を決定する際には、Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institute of Health Bethesda Md.) (1987年および1991年)が提供するデータが有効である。また、インターネット上の複数のデータベース(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/、http://www.bioinf.org.uk/abs/index.html)では収集された多数のヒト軽鎖および重鎖の配列とその配置が提供されており、これらの配列とその配置の情報は本発明における非常に多様な位置の決定に有用である。本発明によると、アミノ酸がある位置で好ましくは約2から約20、好ましくは約3から約19、好ましくは約4から約18、好ましくは5から17、好ましくは6から16、好ましくは7から15、好ましくは8から14、好ましくは9から13、好ましくは10から12個の可能な異なるアミノ酸残基の多様性を有する場合は、その位置は非常に多様といえる。いくつかの実施形態では、あるアミノ酸位置は、好ましくは少なくとも約2、好ましくは少なくとも約4、好ましくは少なくとも約6、好ましくは少なくとも約8、好ましくは約10、好ましくは約12の可能な異なるアミノ酸残基の多様性を有し得る。
また、前記のイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによっても、本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:5(Vk1)、配列番号:6(Vk2)、配列番号:7(Vk3)、配列番号:8(Vk4)等の生殖細胞系列の特定の残基が、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基に置換された軽鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として軽鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。
前記のように、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR1中のKabatナンバリングで表される30位、31位、および/または32位のアミノ酸残基が挙げられる。また、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR2中のKabatナンバリングで表される50位のアミノ酸残基が挙げられる。さらに、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される92位のアミノ酸残基が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、カルシウム結合モチーフを形成し、および/または、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。また、複数個のカルシウムイオン結合部位を有し、分子進化上共通の起源から由来したと考えられるトロポニンC、カルモジュリン、パルブアルブミン、ミオシン軽鎖等が知られており、その結合モチーフが含まれるように軽鎖CDR1、CDR2および/またはCDR3を設計することも可能である。例えば、上記の目的でカドヘリンドメイン、カルモジュリンに含まれるEFハンド、Protein kinase Cに含まれるC2ドメイン、血液凝固タンパク質FactorIXに含まれるGlaドメイン、アシアログライコプロテインレセプターやマンノース結合レセプターに含まれるC型レクチン、LDL受容体に含まれるAドメイン、アネキシン、トロンボスポンジン3型ドメインおよびEGF様ドメインが適宜使用され得る。
前記のイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該軽鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表1または表2に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。
組み合わされる重鎖可変領域の例として、ランダム化可変領域ライブラリが好適に挙げられる。ランダム化可変領域ライブラリの作製方法は公知の方法が適宜組み合わされる。本発明の非限定な一態様では、特定の抗原で免疫された動物、感染症患者やワクチン接種して血中抗体価が上昇したヒト、癌患者、自己免疫疾患のリンパ球由来の抗体遺伝子をもとに構築された免疫ライブラリが、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。
また、本発明の非限定の一態様では、ゲノムDNA におけるV 遺伝子や再構築され機能的なV遺伝子のCDR配列が、適当な長さのコドンセットをコードする配列を含む合成オリゴヌクレオチドセットで置換された合成ライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。この場合、重鎖のCDR3の遺伝子配列の多様性が観察されることから、CDR3の配列のみを置換することもまた可能である。抗原結合分子の可変領域においてアミノ酸の多様性を生み出す基準は、抗原結合分子の表面に露出した位置のアミノ酸残基に多様性を持たせることである。表面に露出した位置とは、抗原結合分子の構造、構造アンサンブル、および/またはモデル化された構造にもとづいて、表面露出が可能、かつ/または抗原との接触が可能と判断される位置のことをいうが、一般的にはそのCDRである。好ましくは、表面に露出した位置は、InsightIIプログラム(Accelrys)のようなコンピュータプログラムを用いて、抗原結合分子の3次元モデルからの座標を使って決定される。表面に露出した位置は、当技術分野で公知のアルゴリズム(例えば、LeeおよびRichards(J.Mol.Biol. (1971) 55, 379-400)、Connolly(J.Appl.Cryst. (1983) 16, 548-558))を使用して決定され得る。表面に露出した位置の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェアおよび抗体から得られる三次元構造情報を使って行われ得る。このような目的のために利用できるソフトウェアとして、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が好適に挙げられる。一般的に、また好ましくは、アルゴリズムがユーザーの入力サイズパラメータを必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」は半径約1.4オングストローム以下に設定される。さらに、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用した表面に露出した領域およびエリアの決定法が、Pacios(Comput.Chem. (1994) 18 (4), 377-386およびJ.Mol.Model. (1995) 1, 46-53)に記載されている。
さらに、本発明の非限定の一態様では、健常人のリンパ球由来の抗体遺伝子から構築され、そのレパートリーにバイアスを含まない抗体配列であるナイーブ配列からなるナイーブライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして特に好適に使用され得る(Gejimaら(Human Antibodies (2002) 11,121-129)およびCardosoら(Scand. J. Immunol. (2000) 51, 337-344))。本発明で記載されるナイーブ配列を含むアミノ酸配列とは、このようなナイーブライブラリから取得されるアミノ酸配列をいう。
本発明の一つの態様では、「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が予め含まれているフレームワーク配列として選択された重鎖可変領域と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域とを組み合わせることによって本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリから、本発明の抗原結合ドメインが取得され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:9(6RL#9-IgG1)または配列番号:10(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。また、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域の代わりに、生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域の中から適宜選択することによって作製され得る。例えば、配列番号:9(6RL#9-IgG1)または配列番号:10(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列と生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。
また、前記の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が予め含まれているフレームワーク配列として選択された重鎖可変領域の配列に、フレキシブル残基が含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、配列番号:9(6RL#9-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、重鎖CDR1およびCDR2の全てのアミノ酸残基のほか重鎖CDR3のKabatナンバリングで表わされる95位、96位、および/または100a位以外のCDR3のアミノ酸残基が挙げられる。または配列番号:10(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、重鎖CDR1およびCDR2の全てのアミノ酸残基のほか重鎖CDR3のKabatナンバリングで表わされる95位および/または101位以外 のCDR3のアミノ酸残基もまた挙げられる。
また、前記の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された重鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせることによっても、複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、重鎖可変領域の特定の残基が、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基に置換された重鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。当該アミノ酸残基の非限定な例として重鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として重鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として重鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。当該アミノ酸残基が重鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、重鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される95位、96位、100a位および/または101位のアミノ酸が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、カルシウム結合モチーフを形成し、および/または、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。
前記の、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された重鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該重鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。また、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基以外の重鎖可変領域のCDR1、CDR2および/またはCDR3のアミノ酸配列としてランダム化可変領域ライブラリも好適に使用され得る。軽鎖可変領域として生殖細胞系列の配列が用いられる場合には、例えば、配列番号:5(Vk1)、配列番号:6(Vk2)、配列番号:7(Vk3)、配列番号:8(Vk4)等の生殖細胞系列の配列が非限定な例として挙げられ得る。
前記の、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸としては、カルシウム結合モチーフを形成する限り、いずれのアミノ酸も好適に使用され得るが、そのようなアミノ酸としては具体的に電子供与性を有するアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸が好適に例示される。
水素イオン濃度の条件
また、本発明の一つの態様では、イオン濃度の条件とは水素イオン濃度の条件またはpHの条件をいう。本発明で、プロトンすなわち水素原子の原子核の濃度の条件は、水素指数(pH)の条件とも同義に取り扱われる。水溶液中の水素イオンの活動量をaH+で表すと、pHは-log10aH+と定義される。水溶液中のイオン強度が(例えば10-3より)低ければ、aH+は水素イオン強度にほぼ等しい。例えば25℃、1気圧における水のイオン積はKw=aH+aOH=10-14であるため、純水ではaH+=aOH=10-7である。この場合のpH=7が中性であり、pHが7より小さい水溶液は酸性、pHが7より大きい水溶液はアルカリ性である。
本発明においては、イオン濃度の条件としてpHの条件が用いられる場合には、pHの条件として高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件が挙げられる。pHの条件によって結合活性が変化するとは、高水素イオン濃度または低pH(pH酸性域)と低水素イオン濃度または高pH(pH中性域)の条件の違いによって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化することをいう。例えば、pH酸性域の条件における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH中性域の条件における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合が挙げられる。また、pH中性域の条件における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH酸性域の条件における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合もまた挙げられる。
本明細書において、pH中性域とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適にはpH6.7からpH10.0の間から選択され得る。また、別の態様では、pH6.7からpH9.5の間から選択され得る。また、異なる態様ではpH7.0からpH9.0の間から選択され得るし、ほかの態様ではpH7.0からpH8.0の間から選択され得る。特に生体内の血漿中(血中)でのpHに近いpH7.4が好適に挙げられる。
本明細書において、pH酸性域とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適にはpH4.0からpH6.5の間から選択され得る。また、別の態様では、pH4.5からpH6.5の間から選択され得る。また、異なる態様ではpH5.0からpH6.5の間から選択され得るし、ほかの態様ではpH5.5からpH6.5の間から選択され得る。特に生体内の早期エンドソーム内でのイオン化カルシウム濃度に近いpH5.8が好適に挙げられる。
本発明において、抗原結合分子の高水素イオン濃度または低pH(pH酸性域)の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pH(pH中性域)の条件における抗原に対する結合活性より低いとは、抗原結合分子のpH4.0からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH6.7からpH10.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。好ましくは、抗原結合分子のpH4.5からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH6.7からpH9.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味し、より好ましくは、抗原結合分子のpH5.0からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH7.0からpH9.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。また、好ましくは抗原結合分子のpH5.5からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH7.0からpH8.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHにおける抗原結合活性が、生体内の血漿中のpHにおける抗原結合活性より弱いことを意味し、具体的には、抗原結合分子のpH5.8での抗原に対する結合活性が、pH7.4での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。
pHの条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化しているか否かは、例えば前記の結合活性の項で記載されたような公知の測定方法を使用することによって決定され得る。すなわち、当該測定方法に際して異なるpHの条件下での結合活性が測定される。例えば、pH酸性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH中性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高く変化することを確認するためには、pH酸性域およびpH中性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性が比較される。
さらに本発明において、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い」という表現は、抗原結合分子の低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性よりも高いと表現することもできる。なお本発明においては、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い」を「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合能よりも弱い」と記載する場合もあり、また、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低下させる」を「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合能よりも弱くする」と記載する場合もある。
抗原に対する結合活性を測定する際の水素イオン濃度またはpH以外の条件は、当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、HEPESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合分子と抗原との結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原に対する結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原に対する結合活性を評価することが可能である。
本発明の抗原結合分子において、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも弱い限り、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性の比は特に限定されないが、好ましくは抗原に対する高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件におけるKD(Dissociation constant:解離定数)と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件におけるKDの比であるKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が40以上である。KD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
抗原に対する結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はKD(解離定数)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合は見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)を用いることが可能である。KD(解離定数)、および、見かけのKD(見かけの解離定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
また、本発明の抗原結合分子の高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性の比を示す他の指標として、例えば、解離速度定数であるkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)もまた好適に用いられ得る。結合活性の比を示す指標としてKD(解離定数)の代わりにkd(解離速度定数)を用いる場合、抗原に対する高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件におけるkd(解離速度定数)と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件におけるkd(解離速度定数)の比であるkd(pH酸性域の条件における)/kd(pH中性域の条件における)の値は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。Kd(pH酸性域の条件における)/kd(pH中性域の条件における)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術常識において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
抗原結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はkd(解離速度定数)を用いることが可能であり、抗原が膜型抗原の場合は見かけのkd(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。kd(解離速度定数)、および、見かけのkd(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、フローサイトメーター等を用いることが可能である。なお本発明において、異なる水素イオン濃度すなわちpHにおける抗原結合分子の抗原に対する結合活性を測定する際は、水素イオン濃度すなわちpH以外の条件は同一とすることが好ましい。
例えば、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗体のスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH酸性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原結合活性を得る工程、
(b) pH中性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原結合活性を得る工程、および
(c) pH酸性域の条件における抗原結合活性が、pH中性域の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体を選択する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗体もしくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH中性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗体もしくはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗体をpH酸性域の条件に置く工程、および
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗体を単離する工程。
また、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(d)を含む抗原結合ドメインまたは抗体若しくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH酸性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合しない抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程、
(c) 前記工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗体をpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、および
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(c)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムにpH中性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗体をpH酸性域の条件でカラムから溶出する工程、および
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムにpH酸性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗体を回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメイン又は抗体をpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、および
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) pH中性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗体をpH酸性域の条件に置く工程、および
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
なお、前記の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明によって、上述のスクリーニング方法において、(a)〜(c)あるいは(a)〜(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含むスクリーニング方法によって取得されたpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体が提供される。(a)〜(c)あるいは(a)〜(d)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
本発明のスクリーニング方法において、高水素イオン濃度条件または低pHすなわちpH酸性域における抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、pHが4.0〜6.5の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいpHとして、pHが4.5〜6.6の間の抗原結合活性を挙げることができる。別の好ましいpHとして、pHが5.0〜6.5の間の抗原結合活性、さらにpHが5.5〜6.5の間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいpHとして、生体内の早期エンドソーム内のpHが挙げられ、具体的にはpH5.8における抗原結合活性を挙げることができる。また、低水素イオン濃度条件または高pHすなわちpH中性域における抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、pHが6.7〜10の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいpHとしてpHが6.7〜9.5の間の抗原結合活性を挙げることができる。別の好ましいpHとして、pHが7.0〜9.5の間の抗原結合活性、さらにpHが7.0〜8.0の間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいpHとして、生体内の血漿中でのpHを挙げることができ、具体的にはpHが7.4における抗原結合活性を挙げることができる。
抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、イオン化カルシウム濃度以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度定数)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度定数)等として評価することが可能である。これらは当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore (GE healthcare)、スキャッチャードプロット、FACS等を用いることが可能である。
本発明において、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程は、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程と同じ意味である。
低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い限り、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性と高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性の差は特に限定されないが、好ましくは低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
前記のスクリーニング方法によりスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗体はいかなる抗原結合ドメイン又は抗体でもよく、例えば上述の抗原結合ドメイン又は抗体をスクリーニングすることが可能である。例えば、天然の配列を有する抗原結合ドメイン又は抗体をスクリーニングしてもよいし、アミノ酸配列が置換された抗原結合ドメイン又は抗体をスクリーニングしてもよい。
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗体はどのように調製されてもよく、例えば、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリに側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリ(側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である。
動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗原結合ドメインまたは抗体から、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗体を取得する方法として、例えば、WO2009/125825で記載されるような抗原結合ドメインまたは抗体中のアミノ酸の少なくとも一つが、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異に置換されているもしくは抗原結合ドメインまたは抗体中に、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入されている抗原結合分子または抗体が好適に挙げられる。
側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異が導入される位置は特に限定されず、置換または挿入前と比較してpH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性より弱くなる(KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値が大きくなる、又はkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値が大きくなる)限り、如何なる部位でもよい。例えば、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体の可変領域やCDRなどが好適に挙げられる。側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸に置換されるアミノ酸の数、又は挿入されるアミノ酸の数は当業者が適宜決定することができ、側鎖のアミノ酸がpKaが4.0-8.0である1つのアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸によって置換され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である1つのアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入され得るし、側鎖のアミノ酸がpKaが4.0-8.0である2つ以上の複数のアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸によって置換され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である2つ以上のアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入され得る。又、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換又は側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の挿入以外に、他のアミノ酸の欠失、付加、挿入および/または置換などが同時に行われ得る。側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換又は側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の挿入は、当業者の公知のアラニンscanningのアラニンをヒスチジン等に置き換えたヒスチジン等scanning等の方法によってランダムに行われ得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換または挿入の変異がランダムに導入された抗原結合ドメインまたは抗体の中から、変異前と比較してKD(pH酸性域)/KD(pH中性域)又はkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値が大きくなった抗原結合分子が選択され得る。
前記のようにその側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異が行われ、かつpH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい例として、例えば、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異後のpH中性域での抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異前のpH中性域での抗原結合活性と同等である抗原結合分子が好適に挙げられる。本発明において、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後の抗原結合分子が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前の抗原結合分子と同等の抗原結合活性を有するとは、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前の抗原結合分子の抗原結合活性を100%とした場合に、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後の抗原結合分子の抗原結合活性が少なくとも10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることをいう。その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後のpH7.4での抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前のpH7.4での抗原結合活性より高くなってもよい。その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換または挿入により抗原結合分子の抗原結合活性が低くなった場合には、抗原結合分子中の1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入などによって、抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換又は挿入前の抗原結合活性と同等にされ得る。本発明においては、そのような側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換又は挿入後に1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入を行うことによって結合活性が同等となった抗原結合分子も含まれる。
さらに、抗原結合分子が抗体定常領域を含む物質である場合、pH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい他の態様として、抗原結合分子に含まれる抗体定常領域が改変された方法を挙げることができる。改変後の抗体定常領域の具体例としては、例えば配列番号:11、12、13、14に記載の定常領域が好適に挙げられる。
水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗体はどのように調製されてもよく、例えば、イオン濃度の条件が水素イオン濃度の条件もしくはpHの条件である場合には、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリに側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異を導入した抗体又はライブラリ(側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である 。
本発明の非限定の一つの態様として、「水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによっても、本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。
当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として軽鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。
前記のように、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR1中のKabatナンバリングで表される24位、27位、28位、31位、32位および/または34位のアミノ酸残基が挙げられる。また、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR2中のKabatナンバリングで表される50位、51位、52位、53位、54位、55位および/または56位のアミノ酸残基が挙げられる。さらに、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される89位、90位、91位、92位、93位、94位および/または95A位のアミノ酸残基が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。
前記の「水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該軽鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、水素イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表3または表4に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。また、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基やフレキシブル残基以外の軽鎖可変領域のアミノ酸配列としては、非限定な例としてVk1(配列番号:5)、Vk2(配列番号:6)、Vk3(配列番号:7)、Vk4(配列番号:8)等の生殖細胞系列の配列が好適に使用され得る。
Figure 2022000472
(位置はKabatナンバリングを表す)
Figure 2022000472
(位置はKabatナンバリングを表す)
前記の、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基としては、いずれのアミノ酸残基も好適に使用され得るが、そのようなアミノ酸残基としては、具体的に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、ヒスチジンまたはグルタミン酸等の天然のアミノ酸のほか、ヒスチジンアナログ(US20090035836)もしくはm-NO2-Tyr(pKa 7.45)、3,5-Br2-Tyr(pKa 7.21)または3,5-I2-Tyr(pKa 7.38)等の非天然のアミノ酸(Bioorg. Med. Chem. (2003) 11 (17), 3761-2768が好適に例示される。また、当該アミノ酸残基の特に好適な例としては、側鎖のpKaが6.0-7.0であるアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、ヒスチジンが好適に例示される。
抗原結合ドメインのアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
組み合わされる重鎖可変領域の例として、ランダム化可変領域ライブラリが好適に挙げられる。ランダム化可変領域ライブラリの作製方法は公知の方法が適宜組み合わされる。本発明の非限定な一態様では、特定の抗原で免疫された動物、感染症患者やワクチン接種して血中抗体価が上昇したヒト、癌患者、自己免疫疾患のリンパ球由来の抗体遺伝子をもとに構築された免疫ライブラリが、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。
また、本発明の非限定の一態様では、前記と同様に、ゲノムDNA におけるV 遺伝子や再構築され機能的なV遺伝子のCDR配列が、適当な長さのコドンセットをコードする配列を含む合成オリゴヌクレオチドセットで置換された合成ライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。この場合、重鎖のCDR3の遺伝子配列の多様性が観察されることから、CDR3の配列のみを置換することもまた可能である。抗原結合分子の可変領域においてアミノ酸の多様性を生み出す基準は、抗原結合分子の表面に露出した位置のアミノ酸残基に多様性を持たせることである。表面に露出した位置とは、抗原結合分子の構造、構造アンサンブル、および/またはモデル化された構造にもとづいて、表面に露出が可能、かつ/または抗原との接触が可能と判断される位置のことをいうが、一般的にはそのCDRである。好ましくは、表面に露出した位置は、InsightIIプログラム(Accelrys)のようなコンピュータプログラムを用いて、抗原結合分子の3次元モデルからの座標を使って決定される。表面に露出した位置は、当技術分野で公知のアルゴリズム(例えば、LeeおよびRichards(J. Mol. Biol. (1971) 55, 379-400)、Connolly(J. Appl. Cryst. (1983) 16, 548-558))を使用して決定され得る。表面に露出した位置の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェアおよび抗体から得られる三次元構造情報を使って行われ得る。このような目的のために利用できるソフトウェアとして、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が好適に挙げられる。一般的に、また好ましくは、アルゴリズムがユーザーの入力サイズパラメータを必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」は半径約1.4オングストローム以下に設定される。さらに、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用した表面に露出した領域およびエリアの決定法が、Pacios(Comput. Chem. (1994) 18 (4), 377-386およびJ. Mol. Model. (1995) 1, 46-53)に記載されている。
さらに、本発明の非限定の一態様では、健常人のリンパ球由来の抗体遺伝子から構築され、そのレパートリーにバイアスを含まない抗体配列であるナイーブ配列からなるナイーブライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして特に好適に使用され得る(Gejimaら(Human Antibodies (2002) 11,121-129)およびCardosoら(Scand. J. Immunol. (2000) 51, 337-344))。
FcRn
免疫グロブリンスーパーファミリーに属するFcγレセプターと異なり、FcRn特にヒトFcRnは構造的には主要組織不適合性複合体(MHC)クラスIのポリペプチドに構造的に類似しクラスIのMHC分子と22から29%の配列同一性を有する(Ghetieら,Immunol. Today (1997) 18 (12), 592-598)。FcRnは、可溶性βまたは軽鎖(β2マイクログロブリン)と複合体化された膜貫通αまたは重鎖よりなるヘテロダイマーとして発現される。MHCのように、FcRnのα鎖は3つの細胞外ドメイン(α1、α2、α3)よりなり、短い細胞質ドメインはタンパク質を細胞表面に繋留する。α1およびα2ドメインが抗体のFc領域中のFcRn結合ドメインと相互作用する(Raghavanら(Immunity (1994) 1, 303-315)。
FcRnは、哺乳動物の母性胎盤または卵黄嚢で発現され、それは母親から胎児へのIgGの移動に関与する。加えてFcRnが発現するげっ歯類新生児の小腸では、FcRnが摂取された初乳または乳から母性IgGの刷子縁上皮を横切る移動に関与する。FcRnは多数の種にわたって多数の他の組織、並びに種々の内皮細胞系において発現している。それはヒト成人血管内皮、筋肉血管系、および肝臓洞様毛細血管でも発現される。FcRnは、IgGに結合し、それを血清にリサイクルすることによって、IgGの血漿中濃度を維持する役割を演じていると考えられている。FcRnのIgG分子に対する結合は、通常、厳格にpHに依存的であり、最適結合は7.0未満のpH酸性域において認められる。
配列番号:15で表されたシグナル配列を含むポリペプチドを前駆体とするヒトFcRnは、生体内で(配列番号:16にシグナル配列を含むそのポリペプチドが記載されている)ヒトβ2-ミクログロブリンとの複合体を形成する。後に参考実施例で示されるように、β2-ミクログロブリンと複合体を形成している可溶型ヒトFcRnが通常の組換え発現手法を用いることによって製造される。このようなβ2-ミクログロブリンと複合体を形成している可溶型ヒトFcRnに対する本発明のFc領域の結合活性が評価され得る。本発明において、特に記載のない場合は、ヒトFcRnは本発明のFc領域に結合し得る形態であるものを指し、例としてヒトFcRnとヒトβ2-ミクログロブリンとの複合体が挙げられる。
FcRn結合ドメイン
本発明の一つの態様では、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を有効成分として含む前記抗原に対する免疫応答を誘導する医薬組成物が提供される。
本発明の抗原結合分子は、FcRn結合ドメインを有する。FcRn結合ドメインは、抗原結合分子がpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有していれば特に限定されず、また、直接または間接的にFcRnに対して結合活性を有するドメインであってもよい。そのようなドメインとしては、例えば、直接的にFcRnに対する結合活性を有するIgG型免疫グロブリンのFc領域、アルブミン、アルブミンドメイン3、抗FcRn抗体、抗FcRnペプチド、抗FcRn足場(Scaffold)分子等、あるいは間接的にFcRnに対する結合活性を有するIgGやアルブミンに結合する分子等が好適に挙げられる。抗FcRn足場(Scaffold)としては、FcRnに結合することを特徴とする先に記載された抗原結合ドメインのいかなる構造のドメインも使用されうる。本発明においては、pH酸性域およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するドメインが好ましい。当該ドメインは、あらかじめpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有しているドメインであればそのまま好適に使用され得る。当該ドメインがpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性がない若しくは弱い場合には、抗原結合分子中のアミノ酸を改変してFcRnに対する結合活性を付与することが可能である。また、あらかじめpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有しているドメイン中のアミノ酸を改変して、FcRn結合活性を高めてもよい。FcRn結合ドメインのアミノ酸の改変は、アミノ酸改変前と改変後のpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を比較することによって目的の改変を見出すことができる。
また、本発明の異なる一態様では、FcRn結合ドメインは低カルシウムイオン濃度の条件および高カルシウムイオン濃度の条件においてFcRnに対する結合活性を有するドメインも好適に用いられる。当該ドメインは、あらかじめ高カルシウムイオン濃度の条件においてFcRnに対する結合活性を有しているドメインであればそのまま好適に使用され得る。当該ドメインが高カルシウムイオン濃度の条件においてFcRnに対する結合活性がない若しくは弱い場合には、抗原結合分子中のアミノ酸を改変してFcRnに対する結合活性を付与することが可能である。また、あらかじめ高カルシウムイオン濃度の条件においてFcRnに対する結合活性を有しているドメイン中のアミノ酸を改変して、FcRn結合活性を高めてもよい。FcRn結合ドメインのアミノ酸の改変は、アミノ酸改変前と改変後の高カルシウムイオン濃度の条件におけるFcRnに対する結合活性を比較することによって目的の改変を見出すことができる。前記の、イオン濃度の条件の項において挙げられた、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインのスクリーニング方法および作製方法に準じた方法にしたがって、取得され得る。そのようなFcRn結合ドメインの例として、抗FcRn抗体、抗FcRnペプチド、抗FcRn足場(Scaffold)分子等が挙げられる。
FcRn結合ドメインは、直接FcRnと結合する領域であることが好ましい。FcRn結合ドメインの好ましい例として、抗体のFc領域を挙げることができる。しかしながら、アルブミンやIgGなどのFcRnとの結合活性を有するポリペプチドに結合可能な領域は、アルブミンやIgGなどを介して間接的にFcRnと結合することが可能である。そのため、本発明におけるFcRn結合領域としては、FcRnとの結合活性を有するポリペプチドに結合する領域が好適に使用され得る。Fc領域は、抗体重鎖の定常領域に由来するアミノ酸配列を含む。Fc領域は、EUナンバリングで表されるおよそ216のアミノ酸における、パパイン切断部位のヒンジ領域のN末端から、当該ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含める抗体の重鎖定常領域の部分である。
本発明におけるFcRn結合ドメインのFcRn特にヒトFcRnに対する結合活性は、前記結合活性の項で述べられているように、当業者に公知の方法により測定することが可能であり、pH以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合分子の抗原結合活性とヒトFcRn結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度)等として評価され得る。これらは当業者公知の方法で測定され得る。例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を使用され得る。
FcRn結合ドメインのFcRnに対する結合活性を測定する際のpH以外の条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、WO2009/125825に記載されているようにMESバッファー、37℃の条件において測定され得る。また、本発明のFcRn結合ドメインのFcRnに対する結合活性の測定は当業者公知の方法により行うことが可能であり、例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定され得る。FcRn結合ドメインとFcRnの結合活性の測定は、FcRn結合ドメインまたはFcRn結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子あるいはFcRnを固定化したチップへ、それぞれFcRnあるいはFcRn結合ドメインまたはFcRn結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子をアナライトとして流すことによって評価され得る。
本発明の抗原結合分子に含まれるFcRn結合ドメインとFcRnとの結合活性を有する条件としてのpH酸性域とは、通常pH4.0〜pH6.5を意味する。好ましくはpH5.5〜pH6.5を意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8〜pH6.0を意味する。また、本発明の抗原結合分子に含まれるFcRn結合ドメインとFcRnとの結合活性を有する条件としてのpH中性域とは、通常pH6.7〜pH10.0を意味する。pH中性域とは、好ましくはpH7.0〜pH8.0内の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくはpH7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0から選択され、特に好ましくは生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティがpH7.4で低いために結合アフィニティを評価することが難しい場合には、pH7.4の代わりにpH7.0を用いることができる。測定条件に使用される温度として、FcRn結合ドメインとFcRnとの結合アフィニティは、10℃〜50℃の任意の温度で評価してもよい。好ましくは、FcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティを決定するために、15℃〜40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、FcRn結合ドメインとFcRnとの結合アフィニティを決定するために使用される。25℃という温度は本発明の態様の非限定な一例である。
The Journal of Immunology (2009) 182: 7663-7671によれば、天然型ヒトIgG1のヒトFcRnに対する結合活性はpH酸性域(pH6.0)でKD 1.7μMであるが、pH中性域では活性をほとんど検出できていない。よって、好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性がKD 20μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性が天然型ヒトIgGと同等な抗原結合分子を含む、pH酸性域においてヒトFcRnに対する結合活性を有する本発明の抗原結合分子が使用され得る。より好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 2.0μMまたはそれより強い抗原結合分子を含む本発明の抗原結合分子が使用され得る。さらにより好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 0.5μMまたはそれより強い抗原結合分子が使用され得る。上記のKD値は、The Journal of Immunology (2009) 182: 7663-7671に記載された方法(抗原結合分子をチップに固定し、アナライトとしてヒトFcRnを流す)によって決定される。
本発明においては、pH酸性域においてFcRnに対する結合活性を有するFc領域が好ましい。当該ドメインは、あらかじめpH酸性域FcRnに対する結合活性を有しているFc領域であればそのまま用いられ得る。当該ドメインがpH酸性域においてFcRnに対する結合活性がない若しくは弱い場合には、抗原結合分子中のアミノ酸を改変することによって所望のFcRnに対する結合活性を有するFc領域が取得され得るが、Fc領域中のアミノ酸を改変することによってpH酸性域における所望のFcRnに対する結合活性を有する、または増強されたFc領域も好適に取得され得る。そのような所望の結合活性をもたらすFc領域のアミノ酸改変は、アミノ酸改変前と改変後のpH酸性域におけるFcRnに対する結合活性を比較することによって見出され得る。前記の抗原に対する結合活性を改変するために用いられる手法と同様の部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法を用いて当業者は適宜アミノ酸の改変を実施することができる。
本発明の抗原結合分子に含まれるpH酸性域におけるFcRnに対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH酸性域におけるFcRnに対する結合活性を有する、または増強されたFcRn結合ドメインが取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH酸性域におけるFcRnに対する結合活性を有する、もしくは酸性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域におけるFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、WO2000/042072に記載されるように、EUナンバリングで表される238位、252位、253位、254位、255位、256位、265位、272位、286位、288位、303位、305位、307位、309位、311位、312位、317位、340位、356位、360位、362位、376位、378位、380位、382位、386位、388位、400位、413位、415位、424位、433位、434位、 435位、436位、439位および/または447位のアミノ酸が好適に挙げられる。同様に、そのような改変が可能なアミノ酸として、例えばWO2002/060919に記載されているように、EUナンバリングで表される251位、252位、254位、255位、256位、308位、309位、311位、312位、385位、386位、387位、389位、428位、433位、434位および/または436位のアミノ酸も好適に挙げられる。さらに、そのような改変が可能なアミノ酸として、WO2004/092219に記載されているように、EUナンバリングで表される250位、314位および428位のアミノ酸も挙げられる。また、そのような改変が可能なアミノ酸として、例えばWO2010/045193に記載されているように、EUナンバリングで表される251位、252位、307位、308位、378位、428位、430位、434位および/または436位のアミノ酸も好適に挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH酸性域におけるFcRnに対する結合が増強される。
本発明においては、pH中性域においてFcRnに対する結合活性を有するFc領域が好ましい。当該ドメインは、あらかじめpH中性域FcRnに対する結合活性を有しているFc領域であればそのまま用いられ得る。当該ドメインがpH中性域においてFcRnに対する結合活性がない若しくは弱い場合には、抗原結合分子中のアミノ酸を改変することによって所望のFcRnに対する結合活性を有するFc領域が取得され得るが、Fc領域中のアミノ酸を改変することによってpH中性域における所望のFcRnに対する結合活性を有する、または増強されたFc領域も好適に取得され得る。そのような所望の結合活性をもたらすFc領域のアミノ酸改変は、アミノ酸改変前と改変後のpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を比較することによって見出され得る。前記の抗原に対する結合活性を改変するために用いられる手法と同様の部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法を用いて当業者は適宜アミノ酸の改変を実施することができる。
本発明の抗原結合分子に含まれるpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有する、または増強されたFcRn結合ドメインが取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有する、もしくは中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域におけるFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。pH中性域の条件におけるFcRnに対するKD値は、前記のようにThe Journal of Immunology (2009) 182: 7663-7671に記載された方法(抗原結合分子をチップに固定し、アナライトとしてヒトFcRnを流す)によって決定される。
改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有する、もしくは中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域におけるFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。そのような改変が加えられたFc領域を作製することを目的として、表5に示す様々な変異がVH3-IgG1(配列番号:17)に導入され、評価がなされた。作製された重鎖と軽鎖であるL(WT)(配列番号:18)とを各々含む改変体(IgG1-F1からIgG1-F1052)が、参考実施例1に記載された方法に準じて発現および精製された。
抗体とヒトFcRnとの結合が、実施例3−3に記載される方法に準じて解析された。すなわち、Biacoreを用いた中性条件下(pH7.0)におけるヒトFcRnに対する改変体の結合活性を表5(表5−1〜表5−33)に示した。
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本発明の非限定の一態様では、Fc領域のアミノ酸が、EUナンバリングで表される部位のうち、257位、308位、428位および434位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が、天然型Fc領域の対応する部位のアミノ酸と異なるFc領域が好適に使用される。そのようなFc領域の非限定の一例としてFc領域のEUナンバリングで表される;
257位のアミノ酸がAla、
308位のアミノ酸がPro、
428位のアミノ酸がLeu、および
434位のアミノ酸がTyr、
の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸を含むFc領域が好適に挙げられる。
Fcγレセプター
Fcγレセプターとは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合し得るレセプターをいい、実質的にFcγレセプター遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーのいかなるメンバーをも意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);およびアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、並びにいかなる未発見のヒトFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されるものではない。FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサルを含むが、これらに限定されるものではない、いかなる生物由来でもよい。マウスFcγR類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)およびFcγRIII-2(FcγRIV、CD16-2)、並びにいかなる未発見のマウスFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されない。こうしたFcγレセプターの好適な例としてはヒトFcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)、FcγRIIb(CD32)、FcγRIIIa(CD16)及び/又はFcγRIIIb(CD16)が挙げられる。FcγRIのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:19(NM_000566.3)及び20(NP_000557.1)に、FcγRIIaのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:21(BC020823.1)及び22(AAH20823.1)に、FcγRIIbのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:23(BC146678.1)及び24(AAI46679.1)に、FcγRIIIaのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:25(BC033678.1)及び26(AAH33678.1)に、及びFcγRIIIbのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:27(BC128562.1)及び28(AAI28563.1)に記載されている(カッコ内はRefSeq登録番号を示す)。Fcγ受容体が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合活性を有するか否かは、上記に記載されるFACSやELISAフォーマットのほか、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって確認され得る(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
また、「Fcリガンド」または「エフェクターリガンド」は、抗体のFc領域に結合してFc/Fcリガンド複合体を形成する、任意の生物に由来する分子、好ましくはポリペプチドを意味する。FcリガンドのFcに対する結合は、好ましくは、1つまたはそれ以上のエフェクター機能を誘起する。Fcリガンドには、Fc受容体、FcγR、FcαR、FcεR、FcRn、C1q、C3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、スタフィロコッカスのプロテインA、スタフィロコッカスのタンパク質GおよびウイルスのFcγRが含まれるが、これらに限定されない。Fcリガンドには、FcγRに相同なFc受容体のファミリーであるFc受容体相同体(FcRH)(Davis et al.,(2002)Immunological Reviews 190, 123-136)も含まれる。Fcリガンドには、Fcに結合する未発見の分子も含まれ得る。
FcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)は、IgGのFc部分と結合するα鎖と細胞内に活性化シグナルを伝達するITAMを有する共通γ鎖が会合する。一方、アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32)の自身の細胞質ドメインにはITAMが含まれている。これらのレセプターは、マクロファージやマスト細胞、抗原提示細胞等の多くの免疫細胞に発現している。これらのレセプターがIgGのFc部分に結合することによって伝達される活性化シグナルによって、マクロファージの貪食能や炎症性サイトカインの産生、マスト細胞の脱顆粒、抗原提示細胞の機能亢進が促進される。上記のように活性化シグナルを伝達する能力を有するFcγレセプターは、本発明においても活性型Fcγレセプターと呼ばれる。
一方、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)の自身の細胞質内ドメインには抑制型シグナルを伝達するITIMが含まれている。B細胞ではFcγRIIbとB細胞レセプター(BCR)との架橋によってBCRからの活性化シグナルが抑制される結果BCRの抗体産生が抑制される。マクロファージでは、FcγRIIIとFcγRIIbとの架橋によって貪食能や炎症性サイトカインの産生能が抑制される。上記のように抑制化シグナルを伝達する能力を有するFcγレセプターは、本発明においても抑制型Fcγレセプターと呼ばれる。
Fcγレセプターに対する結合活性
本発明のある一つの態様では、Fc領域のヒトFcγレセプターに対する結合活性がヒトFcγレセプターに対するヒトIgGのFcの結合活性よりも高いFc領域が含まれるFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を有効成分として含む免疫応答を誘導する医薬組成物が提供される。
Fc領域のヒトFcγレセプターに対する結合活性がFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性がこれらのヒトFcγレセプターに対するヒトIgGのFcの結合活性よりも高いか否かは、上記に記載されるFACSやELISAフォーマットのほか、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって確認することができる(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
ALPHAスクリーンは、ドナーとアクセプターの2つのビーズを使用するALPHAテクノロジーによって下記の原理に基づいて実施される。ドナービーズに結合した分子が、アクセプタービーズに結合した分子と生物学的に相互作用し、2つのビーズが近接した状態の時にのみ、発光シグナルを検出される。レーザーによって励起されたドナービーズ内のフォトセンシタイザーは、周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素はドナービーズ周辺に拡散し、近接しているアクセプタービーズに到達するとビーズ内の化学発光反応を引き起こし、最終的に光が放出される。ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子が相互作用しないときは、ドナービーズの産生する一重項酸素がアクセプタービーズに到達しないため、化学発光反応は起きない。
例えば、ドナービーズにビオチン標識されたFc領域を含む抗原結合分子が結合され、アクセプタービーズにはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)でタグ化されたFcγレセプターが結合される。競合する改変Fc領域を有する抗原結合分子の非存在下では、野生型Fc領域を有するポリペプチド会合体とFcγレセプターとは相互作用し520-620 nmのシグナルを生ずる。タグ化されていない改変Fc領域を有する抗原結合分子は、野生型Fc領域を有する抗原結合分子とFcγレセプター間の相互作用と競合する。競合の結果表れる蛍光の減少を定量することによって相対的な結合親和性が決定され得る。抗体等の抗原結合分子をSulfo-NHS-ビオチン等を用いてビオチン化することは公知である。FcγレセプターをGSTでタグ化する方法としては、FcγレセプターをコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドをインフレームで融合した融合遺伝子が作用可能に連結されたベクターに保持した細胞等において発現し、グルタチオンカラムを用いて精製する方法等が適宜採用され得る。得られたシグナルは例えばGRAPHPAD PRISM(GraphPad社、San Diego)等のソフトウエアを用いて非線形回帰解析を利用する一部位競合(one-site competition)モデルに適合させることにより好適に解析される。
相互作用を観察する物質の一方(リガンド)をセンサーチップの金薄膜上に固定し、センサーチップの裏側から金薄膜とガラスの境界面で全反射するように光を当てると、反射光の一部に反射強度が低下した部分(SPRシグナル)が形成される。相互作用を観察する物質の他方(アナライト)をセンサーチップの表面に流しリガンドとアナライトが結合すると、固定化されているリガンド分子の質量が増加し、センサーチップ表面の溶媒の屈折率が変化する。この屈折率の変化により、SPRシグナルの位置がシフトする(逆に結合が解離するとシグナルの位置は戻る)。Biacoreシステムは上記のシフトする量、すなわちセンサーチップ表面での質量変化を縦軸にとり、質量の時間変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムのカーブからカイネティクス:結合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)が、当該定数の比からアフィニティー(KD)が求められる。BIACORE法では阻害測定法も好適に用いられる。阻害測定法の例はProc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010において記載されている。
本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcγレセプターとの結合活性を測定するpHの条件はpH酸性域またはpH中性域の条件が適宜使用され得る。本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcγレセプターとの結合活性を測定する条件としてのpH中性域とは、通常pH6.7〜pH10.0を意味する。好ましくはpH7.0〜pH8.0の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくはpH7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0から選択され、特に好ましくは生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。本発明において、本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcγレセプターとの結合活性を有する条件としてのpH酸性域とは、通常pH4.0〜pH6.5を意味する。好ましくはpH5.5〜pH6.5を意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8〜pH6.0を意味する。測定条件に使用される温度として、Fc領域とヒトFcγレセプターとの結合アフィニティーは、10℃〜50℃の任意の温度で評価され得る。好ましくは、ヒトFc領域とFcγレセプターとの結合アフィニティーを決定するために、15℃〜40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、Fc領域とFcγレセプターとの結合アフィニティーを決定するために使用される。25℃という温度は本発明の態様の非限定な一例である。
本明細書において、Fc領域のヒトFcγレセプターに対する結合活性がFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性がこれらのヒトFcγレセプターに対するヒトIgGのFc領域の結合活性よりも高いとは、例えば、上記の解析方法に基づいて、対照とするヒトIgGのFc領域を含む抗原結合分子の結合活性に比較して被検Fc領域を含む抗原結合分子の結合活性が、105%以上、好ましくは110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、特に好ましくは150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、190%以上、200%%以上、250%以上、300%以上、350%以上、400%以上、450%以上、500%以上、750%以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上の結合活性を示すことをいう。
Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性がFcγレセプターに対する天然型Fc領域の結合活性よりも高いFc領域は、天然型Fc領域のアミノ酸を改変することによって作製され得る。ここで言う天然型Fc領域とは、EUナンバリング297位の糖鎖がフコース結合型の複合型糖鎖である天然型Fc領域を指す。Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性が、天然型Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性より高いか否かは、前記の結合活性の項で記載された方法を用いて適宜実施され得る。
本発明において、Fc領域の「アミノ酸の改変」または「アミノ酸改変」とは、出発Fc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列に改変することを含む。出発Fc領域の修飾改変体がpH中性域においてヒトFcγレセプターに結合することができる限り、いずれのFc領域も出発ドメインとして使用され得る。出発Fc領域の例としては、ヒトIgG抗体のFc領域、すなわちEUナンバリング297位の糖鎖がフコース結合型の複合型糖鎖である天然型のFc領域が好適に挙げられる。また、既に改変が加えられたFc領域を出発Fc領域としてさらなる改変が加えられたFc領域も本発明のFc領域として好適に使用され得る。出発Fc領域とは、ポリペプチドそのもの、出発Fc領域を含む組成物、または出発Fc領域をコードするアミノ酸配列を意味し得る。出発Fc領域には、抗体の項で概説された組換えによって産生された公知のIgG抗体のFc領域が含まれ得る。出発Fc領域の起源は、限定されないが非ヒト動物の任意の生物またはヒトから取得され得る。好ましくは、任意の生物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、および非ヒト霊長類から選択される生物が好適に挙げられる。別の態様において、出発Fc領域はまた、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから取得され得る。好ましくは、出発Fc領域は、ヒトIgG1から取得され得るが、IgGの特定のクラスに限定されるものでもない。このことは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域を出発Fc領域として適宜用いることができることを意味する。同様に、本明細書において、前記の任意の生物からのIgGの任意のクラスまたはサブクラスのFc領域を、好ましくは出発Fc領域として用いることができることを意味する。天然に存在するIgGのバリアントまたは操作された型の例は、公知の文献(Curr. Opin. Biotechnol. (2009) 20 (6), 685-91、Curr. Opin. Immunol. (2008) 20 (4), 460-470、Protein Eng. Des. Sel. (2010) 23 (4), 195-202、WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338)に記載されるがそれらに限定されない。
改変の例としては一以上の変異、例えば、出発Fc領域のアミノ酸とは異なるアミノ酸残基に置換された変異、あるいは出発Fc領域のアミノ酸に対して一以上のアミノ酸残基の挿入または出発Fc領域のアミノ酸から一以上のアミノ酸の欠失等が含まれる。好ましくは、改変後のFc領域のアミノ酸配列には、天然に生じないFc領域の少なくとも部分を含むアミノ酸配列を含む。そのような変種は必然的に出発Fc領域と100%未満の配列同一性または類似性を有する。好ましい実施形態において、変種は出発Fc領域のアミノ酸配列と約75%〜100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性、より好ましくは約80%〜100%未満、より好ましくは約85%〜100%未満の、より好ましくは約90%〜100%未満、最も好ましくは約95%〜100%未満の同一性または類似性のアミノ酸配列を有する。本発明の非限定の一態様において、出発Fc領域および本発明の改変されたFc領域の間には少なくとも1つのアミノ酸の差がある。出発Fc領域と改変Fc領域のアミノ酸の違いは、特に前述のEUナンバリングで特定されるアミノ酸残基の位置の特定されたアミノ酸の違いによっても好適に特定可能である。
Fc領域のアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法も採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
本発明の抗原結合分子に含まれるpH中性域におけるFcγレセプターに対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH中性域におけるFcγレセプターに対する結合活性を有するFc領域が取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域の好適な例として、ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が好適に使用され得る。これらのFc領域の構造を、配列番号:11(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、12(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、13(RefSeq登録番号CAA27268.1)、14(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載した。また、ある特定のアイソタイプの抗体を出発Fc領域として改変されたFc領域を有する抗原結合分子を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプのIgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子を対照として用いることによって、当該改変Fc領域を含む抗原結合分子によるFcγレセプターに対する結合活性に対する効果が検証される。上記のようにして、Fcγレセプターに対する結合活性が高いことが検証されたFc領域を含む抗原結合分子が適宜選択される。
他のアミノ酸への改変は、pH中性域におけるFcγレセプターに対する結合活性を有する、もしくは中性域におけるFcγレセプター結合に対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、ヒトFc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域におけるFcγレセプターに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。pH中性域の条件下でのFcγレセプターに対する結合活性を増強するためのアミノ酸改変としては、例えばWO2007/024249、WO2007/021841、WO2006/031370、WO2000/042072、WO2004/029207、WO2004/099249、WO2006/105338、WO2007/041635、WO2008/092117、WO2005/070963、WO2006/020114、WO2006/116260およびWO2006/023403などにおいて報告されている。
そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリングで表される221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位および440位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH中性域におけるFcγレセプターに対する結合が増強される。
本発明に使用するために、特に好ましい改変としては、例えば、Fc領域のEUナンバリングで表される;
221位のアミノ酸がLysまたはTyrのいずれか、
222位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
223位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはLysのいずれか、
224位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
225位のアミノ酸がGlu、LysまたはTrpのいずれか、
227位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
228位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
230位のアミノ酸がAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれか、
231位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
232位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
233位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
234位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
235位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
236位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
238位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
240位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
241位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
243位のアミノ酸がLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
244位のアミノ酸がHis、
245位のアミノ酸がAla、
246位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
247位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
249位のアミノ酸がGlu、His、GlnまたはTyrのいずれか、
250位のアミノ酸がGluまたはGlnのいずれか、
251位のアミノ酸がPhe、
254位のアミノ酸がPhe、MetまたはTyrのいずれか、
255位のアミノ酸がGlu、LeuまたはTyrのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、MetまたはProのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれか、
260位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
262位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれか、
263位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
264位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
265位のアミノ酸がAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
266位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
267位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
268位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
269位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
270位のアミノ酸がGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
271位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
272位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
273位のアミノ酸がPheまたはIleのいずれか、
274位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
275位のアミノ酸がLeuまたはTrpのいずれか、
276位のアミノ酸が、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
278位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、
280位のアミノ酸がAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
281位のアミノ酸がAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
282位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれか、
284位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
286位のアミノ酸がGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれか、
288位のアミノ酸がAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれか、
290位のアミノ酸がAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、291位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれか、
292位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれか、
293位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
294位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれか、
297位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
298位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
299位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
301位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
302位のアミノ酸がIle、
303位のアミノ酸がAsp、GlyまたはTyrのいずれか、
304位のアミノ酸がAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれか、
305位のアミノ酸がGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
313位のアミノ酸がPhe、
315位のアミノ酸がLeu、
317位のアミノ酸がGluまたはGln、
318位のアミノ酸がHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
320位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
322位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、
324位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
325位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
326位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
327位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
328位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
329位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
330位のアミノ酸がCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
331位のアミノ酸がAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
332位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
333位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
334位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれか、
335位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
336位のアミノ酸がGlu、LysまたはTyrのいずれか、
337位のアミノ酸がGlu、HisまたはAsnのいずれか、
339位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれか、
376位のアミノ酸がAlaまたはValのいずれか、
377位のアミノ酸がGlyまたはLysのいずれか、
378位のアミノ酸がAsp、
379位のアミノ酸がAsn、
380位のアミノ酸がAla、AsnまたはSerのいずれか、
382位のアミノ酸がAlaまたはIleのいずれか、
385位のアミノ酸がGlu、
392位のアミノ酸がThr、
396位のアミノ酸がLeu、
421位のアミノ酸がLys、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がPheまたはLeuのいずれか、
429位のアミノ酸がMet、
434位のアミノ酸がTrp、
436位のアミノ酸がIle、
440位のアミノ酸がGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれか、
が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表6(表6−1〜表6−3)に記載されるような組合せが挙げられる。
Figure 2022000472
Figure 2022000472
Figure 2022000472
糖鎖が修飾されたFc領域
本発明が提供するFc領域として、当該Fc領域に結合した糖鎖の組成がフコース欠損糖鎖を結合したFc領域の割合が高くなるように、またはバイセクティングN-アセチルグルコサミンが付加したFc領域の割合が高くなるように修飾されたFc領域も含まれ得る。抗体Fc領域に結合するN -グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN -アセチルグルコサミンからフコース残基を除去すると、FcγRIIIaに対する親和性が増強されることが知られている(非特許文献20)。こうしたFc領域を含むIgG1抗体は、後述するADCC活性が増強されていることが知られていることから、当該Fc領域を含む抗原結合分子は、本発明の医薬組成物に含まれる抗原結合分子としても有用である。抗体Fc領域に結合するN -グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN -アセチルグルコサミンからフコース残基が除去された抗体としては、例えば、次のような抗体;
グリコシル化が修飾された抗体(WO1999/054342等)、
糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(WO2000/061739、WO2002/031140、WO2006/067913等)、
バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(WO2002/079255等)が公知である。これらの抗体の製造方法は本発明のFc領域に結合した糖鎖の組成がフコース欠損糖鎖を結合したFc領域の割合が高くなるように、またはバイセクティングN-アセチルグルコサミンが付加したFc領域の割合が高くなるように修飾された改変Fc領域を含む抗原結合分子の製造方法にも適用することが可能である。
抗原結合分子
本発明において、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む分子を表す最も広義な意味として使用されており、具体的には、それらが抗原に対する結合活性を示す限り、様々な分子型が含まれる。例えば、抗原結合ドメインがFc領域と結合した分子の例として、抗体が挙げられる。抗体には、単一のモノクローナル抗体(アゴニストおよびアンタゴニスト抗体を含む)、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体等が含まれ得る。また抗体の断片として使用される場合としては、抗原結合ドメインおよび抗原結合断片(例えば、Fab、F(ab')2、scFvおよびFv)が好適に挙げられ得る。既存の安定なα/βバレルタンパク質構造等の立体構造が scaffold(土台)として用いられ、その一部分の構造のみが抗原結合ドメインの構築のためにライブラリ化されたスキャフォールド分子も、本発明の抗原結合分子に含まれ得る 。
本発明の抗原結合分子は、FcRnに対する結合およびFcγレセプターに対する結合を媒介するFc領域の少なくとも部分を含むことができる。例えば、非限定の一態様において、抗原結合分子は抗体またはFc融合タンパク質であり得る。融合タンパク質とは、天然ではそれが自然に連結しない第二のアミノ酸配列を有するポリペプチドに連結された第一のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含むキメラポリペプチドをいう。例えば、融合タンパク質は、Fc領域の少なくとも部分(例えば、FcRnに対する結合を付与するFc領域の部分やFcγレセプターに対する結合を付与するFc領域の部分)をコードするアミノ酸配列、および、例えばレセプターのリガンド結合ドメインまたはリガンドのレセプター結合ドメインをコードするアミノ酸配列を含む非免疫グロブリンポリペプチド、を含むことができる。アミノ酸配列は、一緒に融合タンパク質に運ばれる別々のタンパク質に存在できるか、あるいはそれらは通常は同一タンパク質に存在できるが、融合ポリペプチド中の新しい再編成に入れられる。融合タンパク質は、例えば、化学合成によって、またはペプチド領域が所望の関係でコードされたポリヌクレオチドを作成し、それを発現する遺伝子組換えの手法によって作製され得る。
本発明の各ドメインはポリペプチド結合によって直接連結され得るし、リンカーを介して連結され得る。リンカーとしては、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー(例えば、Protein Engineering (1996) 9 (3), 299-305)に開示されるリンカー等が使用され得るが、本発明においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、好ましい長さは5アミノ酸以上(上限は特に限定されないが、通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。
例えば、ペプチドリンカーの場合:
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:29)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:30)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:31)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:32)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:33)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:34)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:35)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:36)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:31))n
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:32))n
[nは1以上の整数である]等が好適に挙げられる。但し、ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
合成化学物リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられている架橋剤、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)などであり、これらの架橋剤は市販されている。
各ドメインを連結するリンカーが複数用いられる場合には、全て同種のリンカーが用いられ得るし、異種のリンカーも用いられ得る。
また、上記記載で例示されるリンカーのほか、例えばHisタグ、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ等のペプチドタグを有するリンカーも適宜使用され得る。また、水素結合、ジスルフィド結合、共有結合、イオン性相互作用またはこれらの結合の組合せにより互いに結合する性質もまた好適に利用され得る。例えば、抗体のCH1とCL間の親和性が利用されたり、ヘテロFc領域の会合に際して前述の二重特異性抗体を起源とするFc領域が用いられたりする。さらに、ドメイン間に形成されるジスルフィド結合もまた好適に利用され得る。
各ドメインをペプチド結合で連結するために、当該ドメインをコードするポリヌクレオチドがインフレームで連結される。ポリヌクレオチドをインフレームで連結する方法としては、制限断片のライゲーションやフュージョンPCR、オーバーラップPCR等の手法が公知であり、本発明の抗原結合分子の作製にも適宜これらの方法が単独または組合せで使用され得る。本発明では、用語「連結され」、「融合され」、「連結」または「融合」は相互交換的に用いられる。これらの用語は、上記の化学結合手段または組換え手法を含めた全ての手段によって、二以上のポリペプチド等のエレメントまたは成分を一つの構造を形成するように連結することをいう。インフレームで融合するとは、二以上のエレメントまたは成分がポリペプチドである場合に、当該ポリペプチドのの正しい読み取り枠を維持するように連続したより長い読み取り枠を形成するための二以上の読取り枠の単位の連結をいう。二分子のFabが抗原結合ドメインとして用いられた場合、当該抗原結合ドメインとFc領域がリンカーを介することなくペプチド結合によってインフレームで連結された本発明の抗原結合分子である抗体は、本願の好適な抗原結合分子として使用され得る。
中和活性
本発明の一態様では、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含み、抗原に対する中和活性を有する抗原結合分子を有効成分として含む免疫応答を誘導する医薬組成物が提供される。一般的に、中和活性とは、ウイルスや毒素など、細胞に対して生物学的活性を有するリガンドの当該生物学的活性を阻害する活性をいう。即ち、中和活性を有する物質とは、当該リガンド又は当該リガンドが結合するレセプターに結合し、当該リガンドとレセプターの結合を阻害する物質をさす。中和活性によりリガンドとの結合を阻止されたレセプターは、当該レセプターを通じた生物学的活性を発揮することができなくなる。抗原結合分子が抗体である場合、このような中和活性を有する抗体は一般に中和抗体と呼ばれる。ある被検物質の中和活性は、リガンドの存在下における生物学的活性をその被検物質の存在又は非存在下の条件の間で比較することにより測定され得る。
例えば、IL-6レセプターの主要なリガンドとして考えられているものは配列番号:37で表されるIL-6が好適に挙げられる。そのアミノ末端が細胞外ドメインを形成するI型膜タンパク質であるIL-6レセプターは、IL-6によってニ量体化が誘導されたgp130レセプターとともにヘテロ四量体を形成する(HEINRICHら(Biochem. J. (1998) 334, 297-314))。当該ヘテロ四量体の形成によって、gp130レセプターに会合しているJakが活性化される。Jakは自己リン酸化とレセプターのリン酸化を行う。受容体及びJakのリン酸化部位は、Stat3のようなSH2を持つStatファミリーに属する分子や、MAPキナーゼ、PI3/Akt、そのほかのSH2を持つタンパク質やアダプターに対して、結合部位の役割を果たす。次に、gp130レセプターに結合したStatが、Jakによってリン酸化。リン酸化されたStatは二量体を形成して核内に移行し、標的遺伝子の転写を調節する。JakまたはStatは他のクラスのレセプターを介してシグナルカスケードに関与することもできる。脱制御されたIL-6のシグナルカスケードは、自己免疫疾患の病態や炎症、多発性骨髄腫や前立腺癌などの癌で観察される。癌遺伝子として作用し得るStat3は、多くの癌において恒常的に活性化している。前立腺癌と多発性骨髄腫では、IL-6レセプターからのシグナルカスケードと、上皮成長因子受容体 (EGFR) ファミリーメンバーからのシグナルカスケードとの間にクロストークがある(Ishikawaら(J. Clin. Exp. Hematopathol. (2006) 46 (2), 55-66))。
こうした細胞内のシグナルカスケードは細胞種毎に異なるため、目的とする標的細胞毎に適宜標的分子を設定することができ、上記の因子に限定されるものではない。生体内シグナルの活性化を測定することにより、中和活性を評価することができる。また、生体内シグナルカスケードの下流に存在する標的遺伝子に対する転写誘導作用を指標として、生体内シグナルの活性化を検出することもできる。標的遺伝子の転写活性の変化は、レポーターアッセイの原理によって検出することができる。具体的には、標的遺伝子の転写因子又はプロモーター領域の下流にGFP(Green Fluorescence Protein)やルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子を配し、そのレポーター活性を測定することにより、転写活性の変化をレポーター活性として測定することができる。生体内シグナルの活性化の測定キットは市販のものを適宜使用することができる(例えば、Mercury Pathway Profiling Luciferase System(Clontech)等)。
更に、通常は細胞増殖を促進する方向に働くシグナルカスケードに作用するEGFレセプターファミリー等のレセプターリガンドの中和活性を測定する方法として、標的とする細胞の増殖活性を測定することによって、中和抗体の中和活性を評価することができる。例えば、例えばHB-EGF等その増殖がEGFファミリーの成長因子によって促進される細胞の増殖に対する、抗HB-EGF抗体の中和活性に基づく抑制効果を評価又は測定する方法として、以下の方法が好適に使用される。試験管内において該細胞増殖抑制活性を評価又は測定する方法としては、培地中に添加した[3H]ラベルしたチミジンの生細胞による取り込みをDNA複製能力の指標として測定する方法が用いられる。より簡便な方法としてトリパンブルー等の色素を細胞外に排除する能力を顕微鏡下で計測する色素排除法や、MTT法が用いられる。後者は、生細胞がテトラゾリウム塩であるMTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromide)を青色のホルマザン産物へ転換する能力を有することを利用している。より具体的には、被検細胞の培養液にリガンドと共に被検抗体を添加して一定時間を経過した後に、MTT溶液を培養液に加えて一定時間静置することによりMTTを細胞に取り込ませる。その結果、黄色の化合物であるMTTが細胞内のミトコンドリア内のコハク酸脱水素酵素により青色の化合物に変換される。この青色生成物を溶解し呈色させた後にその吸光度を測定することにより生細胞数の指標とするものである。MTT以外に、MTS、XTT、WST−1、WST−8等の試薬も市販されており(nacalai tesqueなど)好適に使用することができる。活性の測定に際しては、対照抗体として抗HB-EGF抗体と同一のアイソタイプを有する抗体で該細胞増殖抑制活性を有しない結合抗体を、抗HB-EGF抗体と同様に使用して、抗HB-EGF抗体が対照抗体よりも強い細胞増殖抑制活性を示すことにより活性を判定することができる。
活性を評価するための細胞として、例えば、その増殖がHB-EGFによって促進される細胞である、卵巣癌細胞であるRMG-1細胞株や、ヒトEGFRの細胞外ドメインとマウスGCSF受容体の細胞内ドメインをインフレームで融合した融合タンパク質であるhEGFR/mG-CSFRをコードする遺伝子を発現する様に結合したベクターによって形質転換されたマウスBa/F3細胞等も好適に使用され得る。このように、当業者は、活性を評価するための細胞を適宜選択することによって前記の細胞増殖活性の測定に使用することが可能である。
細胞傷害活性
本発明の一態様では、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含み、抗原を発現する細胞に対する細胞傷害活性を有する抗原結合分子を有効成分として含む免疫応答を誘導する医薬組成物が提供される。本発明において細胞傷害活性とは、例えば抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity:CDC)活性等が挙げられる。本発明において、CDC活性とは補体系による細胞傷害活性を意味する。一方ADCC活性とは抗原を発現する細胞の表面抗原に特異的抗原結合分子が付着した際、そのFc部分にFcγ受容体を発現する細胞(免疫細胞等)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に傷害を与える活性を意味する。目的の抗原結合分子がADCC活性を有するか否か、又はCDC活性を有するか否かは公知の方法により測定され得る(例えば、Current protocols in Immunology, Chapter7. Immunologic studies in humans、Coliganら編(1993)等)。
具体的には、まず、エフェクター細胞、補体溶液、標的細胞の調製が実施される。
(1)エフェクター細胞の調製
CBA/Nマウスなどから摘出された脾臓から、RPMI1640培地(Invitrogen)中で脾臓細胞が分離される。10%ウシ胎児血清(FBS、HyClone)を含む同培地で洗浄された当該脾臓細胞の濃度を5×106/mlに調製することによって、エフェクター細胞が調製され得る。
(2)補体溶液の調製
10% FBS含有培地(Invitrogen)によってBaby Rabbit Complement(CEDARLANE)を10倍に希釈することによって、補体溶液が調製され得る。
(3)標的細胞の調製
抗原を発現する細胞を0.2 mCiの51Cr-クロム酸ナトリウム(GEヘルスケアバイオサイエンス)とともに、10% FBS含有DMEM培地中で37℃にて1時間培養することにより該標的細胞が放射性標識され得る。放射性標識後、10% FBS含有RPMI1640培地にて3回洗浄された細胞の濃度を2×105/mlに調製することによって、当該標的細胞が調製され得る。
ADCC活性、又はCDC活性は下記に述べる方法により測定され得る。ADCC活性の測定の場合は、96ウェルU底プレート(Becton Dickinson)に加えられた各50μlずつの標的細胞と抗原結合分子が氷上にて15分間反応させられる。その後、エフェクター細胞100μlが加えられた当該プレートが、炭酸ガスインキュベーター内で4時間静置される。抗体の終濃度は例えば0または10μg/ml等の濃度が設定され得る。静置後、各ウェルから回収された100μlの上清の放射活性が、ガンマカウンター(COBRAII AUTO-GAMMA、MODEL D5005、Packard Instrument Company)を用いて測定される。測定値を用いて細胞傷害活性(%)が(A-C) / (B-C) x 100の計算式に基づいて計算され得る。Aは各試料における放射活性(cpm)、Bは1% NP-40(nacalai tesque)を加えた試料における放射活性(cpm)、Cは標的細胞のみを含む試料の放射活性(cpm)を表す。
一方、CDC活性の測定の場合は、96ウェル平底プレート(Becton Dickinson)に加えられた各50μlずつの標的細胞と抗原結合分子加が氷上にて15分間反応させられる。その後、補体溶液100μlが加えられた当該プレートが、炭酸ガスインキュベーター内で4時間静置される。抗体の終濃度は例えば0または3μg/ml等の濃度が設定され得る。静置後、各ウェルから回収された100μlの上清の放射活性が、ガンマカウンターを用いて測定される。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様に計算され得る。
免疫応答
本発明の非限定の一態様において、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を有効成分として含む前記抗原に対する免疫応答を誘導する医薬組成物が提供される。
免疫応答が誘導されたか否かは、抗原結合分子を有効成分として含む前記抗原に対する免疫応答を誘導する医薬組成物が投与された生体の応答反応を測定することによって評価され得る。生体の応答反応としては、主として細胞性免疫(MHCクラスIに結合した抗原のペプチド断片を認識する細胞障害性T細胞の誘導)と液性免疫(抗原に結合する抗体産生の誘導)の二つの免疫応答が挙げられる。液性免疫の誘導(免疫応答)を評価する方法としては、in vivoで抗原に対する抗体産生を評価する方法が挙げられる。
本発明の免疫応答を誘導する医薬組成物によって液性免疫が誘導されたか否かは、当該医薬組成物が投与された生体から単離された末梢血における当該医薬組成物に含まれる抗原結合分子の標的となる抗原に対する当該生体由来の抗体の検出によって評価され得る。抗原に対する抗体価の測定法は、当業者公知のELISA、ECL、SPRを用いた投与分子に対して特異的に結合する分子の測定方法を応用することでで実施可能である(J Pharm Biomed Anal. 2011 Jul 15;55(5):878-88)。
本発明の免疫応答を誘導する医薬組成物によって細胞性免疫が獲得されたか否かは、当該医薬組成物が投与された生体から単離された末梢血における当該医薬組成物に含まれる抗原結合分子の標的となる抗原に特異的なCD8を発現するメモリー型の表現型を有するT細胞サブセットの検出によって評価され得る。CD8を発現する細胞であるメモリー型の表現型を有する集団はヘテロな細胞集団である。すなわち、抗原に応答して急速に分裂するセントラルメモリー細胞と細胞傷害等のエフェクター機能の記憶を示すエフェクターメモリー細胞とを含む。これらのサブセットは相互に排他的ではない。すなわち細胞は急速に分裂することも可能であるが、抗原を提示する標的細胞を傷害することも可能である。こうした抗原特異的なCD8を発現する細胞であるメモリー型の表現型を有するT細胞のサブセットが拡大培養された結果産生されるサイトカインの検出キット(Cytokine Secretion Assay - Cell Enrichment and Detection Kit(Miltenyi Biotec))が市販されているとともに、こうした抗原特異的な当該集団を単離するためのプロトコールが提供されている。こうしたキットを使用することによって、抗原特異的なセントラルメモリー細胞とエフェクターメモリーT細胞の両者が効率的に試験管内において増殖され得る。これらのT細胞のサブセットの増殖を刺激することが可能な抗原提示細胞は、前記の免疫応答を誘導する医薬組成物が投与された生体から取得された末梢血から単離され得る。また、抗原によってパルスされた樹状細胞や抗原によってトランスフェクトされた樹状細胞(Overesら(J. Immunother. (2009) 32, 539-551))が抗原提示細胞として使用され得る。
医薬組成物
別の観点においては、本発明は、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を有効成分として含む前記抗原に対する免疫応答を誘導する医薬組成物を提供する。又、本発明の異なる一つの態様では、当該抗原結合分子を有効成分として含む前記抗原に対する免疫応答を誘導する細胞増殖抑制剤または抗癌剤に関する。本発明の医薬組成物、細胞増殖抑制剤または抗癌剤は、外来性の生物種の感染症または癌を罹患している対象または再発する可能性がある対象に投与されることが好ましい。
また、本発明の一態様において、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を有効成分として含む前記抗原に対する免疫応答を誘導する医薬組成物、細胞増殖抑制剤または抗癌剤は、当該医薬組成物、細胞増殖抑制剤または抗癌剤の製造における当該抗原結合分子の使用と表現することも可能である。
また、本発明の別の態様において、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を有効成分として含む医薬組成物、細胞増殖抑制剤および抗癌剤を投与する工程を含む、前記抗原に対する免疫応答を誘導する方法と表現することも可能である。
また、本発明の別の態様において、抗原に対する免疫応答の誘導において用いるための、イオン濃度の条件によって前記抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子と表現することも可能である。
また、本発明の別の態様において、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を使用する段階を含む、前記抗原に対する免疫応答を誘導する医薬組成物、細胞増殖抑制剤および抗癌剤を製造するためのプロセスと表現することも可能である。
本発明において、「イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を有効成分として含む」とは、当該抗原結合分子を主要な活性成分として含むという意味であり、当該抗原結合分子の含有率を制限するものではない。また、抗原を結合しない抗原結合分子のほか、抗原を予め結合した抗原結合分子を有効成分として含む、当該抗原に対する免疫応答を誘導する医薬組成物、細胞増殖抑制剤および抗癌剤が本発明によって提供され得るし、抗原を結合しない抗原結合分子のほか、抗原を予め結合した抗原結合分子を投与することを含む抗原に対する免疫応答を誘導する方法も本発明によって提供される。
更に本発明における医薬組成物、細胞増殖抑制剤または抗癌剤には、必要に応じて複数種類の抗原結合分子が配合され得る。たとえば、同一の抗原に結合する複数の本発明の抗原結合分子のカクテルとすることによって、当該抗原を発現する細胞に対する免疫応答の誘導作用や細胞傷害活性または中和活性を強化する結果、当該抗原を発現する細胞を病因とする疾病に対する治療効果を高める可能性がある。あるいは、治療の対象とする疾患の病因となる細胞が発現するある抗原に結合する抗原結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子に加えて、同じ疾患の病因となる細胞が発現する他の抗原に結合する抗原結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子が配合された本発明の医薬組成物、細胞増殖抑制剤または抗癌剤を投与することによって、当該疾患の治療効果が高められる。
また、必要に応じ本発明の医薬組成物、細胞増殖抑制剤または抗癌剤はマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入され、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とされ得る("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、当該方法は本発明の医薬組成物、細胞増殖抑制剤または抗癌剤に適用され得る(J.Biomed.Mater.Res. (1981) 15, 267-277、Chemtech. (1982) 12, 98-105、米国特許第3773719号、欧州特許公開公報EP58481号・EP133988号、Biopolymers (1983) 22, 547-556)。
本発明の医薬組成物、細胞増殖抑制剤または抗癌剤は、経口、非経口投与のいずれかによって患者に投与することができる。好ましくは非経口投与である。係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって本発明の医薬組成物、細胞増殖抑制剤または抗癌剤が全身または局部的に投与できる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001 mg/bodyから100000 mg/bodyの範囲で投与量が選択され得る。しかしながら、本発明の医薬組成物、細胞増殖抑制剤または抗癌剤はこれらの投与量に制限されるものではない。
本発明の医薬組成物、細胞増殖抑制剤または抗癌剤は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。更にこれらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として挙げることができる。
なお、本発明に記載するアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても当然のことながら本発明に記載するアミノ酸配列に含まれる。
医薬組成物の製造方法
本発明の非限定の一態様では、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子に含まれるFcRn結合ドメインに、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を付与することを含む免疫応答を誘導する抗原結合分子の製造方法が提供される。
本発明の製造方法においては、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子に含まれるFcRn結合ドメインのpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性が弱い、または確認されない場合には、FcRn結合ドメインに対してpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を付与することによって、本発明の抗原結合分子を創作することが可能である。
例えば、FcRn結合ドメインとして抗FcRn抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗原結合ドメインが用いられる場合には、前記のイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインの取得方法に準じて、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを取得することが可能である。また、FcRn結合ドメインとしてpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性が弱い、または確認されないFc領域が用いられる場合には、抗原結合分子に含まれるFc領域のアミノ酸を改変することによって所望のFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子が取得され得る。そのような所望の結合活性をもたらすFc領域のアミノ酸改変は、アミノ酸改変前と改変後のpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を比較することによって見出され得る。前記の抗原に対する結合活性を改変するために用いられる手法と同様の部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法を用いて当業者は適宜アミノ酸の改変を実施することができる。
本発明の抗原結合分子に含まれるpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有する、または増強されたFcRn結合ドメインが取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有する、もしくは中性域の条件下でヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。pH中性域の条件におけるFcRnに対するKD値は、前記のようにThe Journal of Immunology (2009) 182: 7663-7671に記載された方法(抗原結合分子をチップに固定し、アナライトとしてヒトFcRnを流す)によって決定される。
改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有する、もしくは中性域の条件下でヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、Fc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。そのような改変が加えられたFc領域として、前記の表5に挙げられるようなアミノ酸が置換されpH中性域での結合活性を有する改変Fc領域が挙げられる。
本発明の非限定の一態様では、以下(a)〜(f)の工程、
(a) 高カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性を得る工程、
(b) 低カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性を得る工程、
(c) (a)で得られた抗原結合活性が(b)で得られた抗原結合活性より高い抗原結合ドメインを選択する工程、
(d) (c)で選択された抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドを、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードするポリヌクレオチドに連結させる工程、
(e) (d)で得られたポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクターが導入された細胞を培養する工程、および
(f) (e)で培養された細胞の培養液から抗原結合分子を回収する工程、
を含む免疫応答を誘導する医薬組成物の製造方法が提供される。
また、本発明の別の非限定の一態様では、以下(a)〜(f)の工程、
(a) 高カルシウムイオン濃度の条件における抗体の抗原に対する結合活性を得る工程、
(b) 低カルシウムイオン濃度の条件における抗体の抗原に対する結合活性を得る工程、
(c) (a)で得られた抗原結合活性が (b)で得られた抗原結合活性より高い抗体を選択する工程、
(d) (c)で選択された抗体の抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドを、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードするポリヌクレオチドに連結させる工程、
(e) (d)で得られたポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクターが導入された細胞を培養する工程、および
(f) (e)で培養された細胞の培養液から抗原結合分子を回収する工程、
を含む免疫応答を誘導する医薬組成物の製造方法も提供される。
さらに、本発明の非限定の一態様では、以下(a)〜(f)の工程、
(a) pH中性域の条件における抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性を得る工程、
(b) pH酸性域の条件における抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性を得る工程、
(c) (a)で得られた抗原結合活性が(b)で得られた抗原結合活性より高い抗原結合ドメインを選択する工程、
(d) (c)で選択された抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドを、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードするポリヌクレオチドに連結させる工程、
(e) (d)で得られたポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクターが導入された細胞を培養する工程、および
(f) (e)で培養された細胞の培養液から抗原結合分子を回収する工程、
を含む抗原結合分子の製造方法が提供される。
また、本発明の別の非限定の一態様では、以下(a)〜(f)の工程、
(a) pH中性域の条件における抗体の抗原に対する結合活性を得る工程、
(b) pH酸性域の条件における抗体の抗原に対する抗原結合活性を得る工程、
(c) (a)で得られた抗原結合活性が(b)で得られた抗原結合活性より高い抗体を選択する工程、
(d) (c)で選択された抗体の抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドを、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードするポリヌクレオチドに連結させる工程、
(e) (d)で得られたポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクターが導入された細胞を培養する工程、および
(f) (e)で培養された細胞の培養液から抗原結合分子を回収する工程、
を含む抗原結合分子の製造方法も提供される。
本発明の非限定の一態様における抗原結合ドメインとしては、抗体断片ライブラリを構成する複数の抗原結合ドメインが好適に挙げられる。また、本発明の非限定の一態様における抗体としては、予めモノクローン化された一群の抗体パネル等が好適に挙げられる。これらのライブラリや抗体の作製方法は、前述の抗体の項に記載されている。
例えば、本発明の非限定の一態様である、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインを得る工程としては、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインを得る工程が好適に挙げられる。
(a) pH中性域の条件における抗原結合ドメインのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインのライブラリをpH酸性域の条件に置く工程、および
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインを単離する工程。
例えば、本発明の非限定の一態様である、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインを得る工程としては、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインを得る工程が好適に挙げられる。
(a) 高カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合ドメインのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインのライブラリを低カルシウムイオン濃度の条件に置く工程、および
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインを単離する工程。
さらに、本発明の非限定の一態様である、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインを得る工程としては、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインを得る工程が好適に挙げられる。
(a) 抗原を固定したカラムにpH中性域の条件で抗原結合ドメインのライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメインをpH酸性域の条件でカラムから溶出する工程、および
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメインを単離する工程。
さらに、本発明の非限定の一態様である、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインを得る工程としては、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインを得る工程が好適に挙げられる。
(a) 抗原を固定したカラムに高カルシウムイオン濃度の条件で抗原結合ドメインのライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメインを低カルシウムイオン濃度の条件でカラムから溶出する工程、および
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメインを単離する工程。
さらに、本発明の非限定の一態様である、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインを得る工程としては、以下の工程(a)〜(d)を含む抗原結合ドメインを得る工程が好適に挙げられる。
(a) 抗原を固定したカラムにpH酸性域の条件で抗原結合ドメインのライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメインを回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメインをpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、および
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメインを単離する工程。
さらに、本発明の非限定の一態様である、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインを得る工程としては、以下の工程(a)〜(d)を含む抗原結合ドメインを得る工程が好適に挙げられる。
(a) 抗原を固定したカラムに低カルシウムイオン濃度の条件で抗原結合ドメインのライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメインを回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメインを高カルシウムイオン濃度の条件で抗原に結合させる工程、および
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメインを単離する工程。
例えば、本発明の非限定の一態様である、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗体を得る工程としては、以下の工程(a)〜(c)を含む抗体を得る工程が好適に挙げられる。
(a) pH酸性域の条件における抗体の抗原結合活性を得る工程、
(b) pH中性域の条件における抗体の抗原結合活性を得る工程、および
(c) pH酸性域の条件における抗原結合活性が、pH中性域の条件における抗原結合活性より低い抗体を選択する工程。
例えば、本発明の非限定の一態様である、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗体を得る工程としては、以下の工程(a)〜(c)を含む抗体を得る工程が好適に挙げられる。
(a) 低カルシウムイオン濃度の条件における抗体の抗原結合活性を得る工程、
(b) 高カルシウムイオン濃度の条件における抗体の抗原結合活性を得る工程、および
(c) 低カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合活性より低い抗体を選択する工程。
さらに、本発明の非限定の一態様である、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗体を得る工程としては、以下の工程(a)〜(d)を含む抗体を得る工程が好適に挙げられる。
(a) pH中性域の条件で抗体を抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗体を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得したは抗体をpH酸性域の条件に置く工程、および
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗体を選択する工程。
さらに、本発明の非限定の一態様である、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗体を得る工程としては、以下の工程(a)〜(d)を含む抗体を得る工程が好適に挙げられる。
(a) 高カルシウムイオン濃度の条件で抗体を抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗体を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得したは抗体を低カルシウムイオン濃度の条件に置く工程、および
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗体を選択する工程。
なお、前記の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明によって、上述のスクリーニング方法において、(a)〜(c)あるいは(a)〜(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含むスクリーニング方法によって取得されたpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体が提供される。(a)〜(c)あるいは(a)〜(d)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
前記の工程において、低水素イオン濃度条件または低pHすなわちpH酸性域における抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、pHが4.0〜6.5の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいpHとして、pHが4.5〜6.5の間の抗原結合活性を挙げることができる。別の好ましいpHとして、pHが5.0〜6.5の間の抗原結合活性、さらにpHが5.5〜6.0の間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいpHとして、生体内の早期エンドソーム内のpHが挙げられ、具体的にはpH5.8における抗原結合活性を挙げることができる。また、高水素イオン濃度条件または高pHすなわちpH中性域における抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、pHが6.7〜10の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいpHとしてpHが6.7〜9.5の間の抗原結合活性を挙げることができる。別の好ましいpHとして、pHが7.0〜9.5の間の抗原結合活性、さらにpHが7.0〜8.0の間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいpHとして、生体内の血漿中でのpHを挙げることができ、具体的にはpHが7.4における抗原結合活性を挙げることができる。
前記の工程において、低カルシウム濃度条件下における抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、イオン化カルシウム濃度が0.1μM〜30μMの間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいイオン化カルシウム濃度として、0.2μM〜20μMの間の抗原結合活性を挙げることができる。他の一態様では、0.5μM〜10μMの間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいイオン化カルシウム濃度として、生体内の早期エンドソーム内のイオン化カルシウム濃度が挙げられ、具体的には1μM〜5μMにおける抗原結合活性を挙げることができるし、2μM〜4μMにおける抗原結合活性を挙げることができる。また、高カルシウム濃度条件下における抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、イオン化カルシウム濃度が100μM〜10 mMの間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいイオン化カルシウム濃度として200μM〜5 mMの間の抗原結合活性を挙げることができる。また異なる態様では500μM〜2.5 mMの間の抗原結合活性を挙げることもでき、別の態様では200μM〜2 mMの間の抗原結合活性を挙げることができる。異なる一態様では、400μM〜1.5 mMの間の抗原結合活性もまた挙げられる。より好ましいイオン化カルシウム濃度として、生体内の血漿中でのイオン化カルシウム濃度を挙げることができ、具体的には0.5 mM〜2.5 mMにおける抗原結合活性を挙げることができる。
pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメイン、およびFcγレセプターに対する結合活性が、EUナンバリング297位の糖鎖にフコースが結合した天然型Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりも高い改変Fc領域、ならびに当該FcRn結合ドメインおよび改変Fc領域を含むFc領域の製造方法は、前記のFcRn結合ドメインおよびFcRn結合ドメインの項に記載された方法によって取得される。各ドメインをコードするポリヌクレオチドは、この項において後述されるように公知の遺伝子組換え法によって取得され得る。
本発明の各ドメインはポリペプチド結合によって直接連結され得るし、リンカーを介して連結され得る。リンカーとしては、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー(例えば、Protein Engineering (1996) 9 (3), 299-305)に開示されるリンカー等が使用され得るが、本発明においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、好ましい長さは5アミノ酸以上(上限は特に限定されないが、通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。
例えば、ペプチドリンカーの場合:
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:29)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:30)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:31)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:32)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:33)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:34)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:35)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:36)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:31))n
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:32))n
[nは1以上の整数である]等が好適に挙げられる。但し、ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
合成化学物リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられている架橋剤、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)などであり、これらの架橋剤は市販されている。
各ドメインを連結するリンカーが複数用いられる場合には、全て同種のリンカーが用いられ得るし、異種のリンカーも用いられ得る。
また、上記記載で例示されるリンカーのほか、例えばHisタグ、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ等のペプチドタグを有するリンカーも適宜使用され得る。また、水素結合、ジスルフィド結合、共有結合、イオン性相互作用またはこれらの結合の組合せにより互いに結合する性質もまた好適に利用され得る。例えば、抗体のCH1とCL間の親和性が利用されたり、ヘテロFc領域の会合に際して前述の二重特異性抗体を起源とするFc領域が用いられたりする。さらに、ドメイン間に形成されるジスルフィド結合もまた好適に利用され得る。
各ドメインをペプチド結合で連結するために、当該ドメインをコードするポリヌクレオチドがインフレームで連結される。ポリヌクレオチドをインフレームで連結する方法としては、制限断片のライゲーションやフュージョンPCR、オーバーラップPCR等の手法が公知であり、本発明の抗原結合分子の作製にも適宜これらの方法が単独または組合せで使用され得る。
各ドメインをコードするポリヌクレオチドを単離する方法も公知の方法が適宜採用され得る。例えば、複数の抗原結合ドメインを含むライブラリから目的の抗原結合ドメインを提示するファージから、ライブラリの作製に使用されたプライマーやライブラリの構築に使用されたファージベクターの配列を有するプライマー等を用いるPCRによって抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチド配列が単離される。また、抗体の可変領域をコードする遺伝子を取得するためには、可変領域遺伝子増幅用のプライマーを使った5'-RACE法を利用するのが簡便である。まずハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型としてcDNAが合成され、5'-RACE cDNAライブラリが得られる。5'-RACE cDNAライブラリの合成にはSMART RACE cDNA 増幅キットなど市販のキットが適宜用いられる。
得られた5'-RACE cDNAライブラリを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列をもとにマウス抗体遺伝子増幅用のプライマーがデザインされ得る。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列である。したがって、サブクラスは予めIso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(ロシュ・ダイアグノスティックス)などの市販キットを用いて決定しておくことが望ましい。
具体的には、たとえばマウスIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1、γ2a、γ2b、γ3、軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーが利用され得る。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3'側のプライマーには可変領域に近い定常領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーには、5' RACE cDNAライブラリ作製キットに付属するプライマーが利用される。
前記のように単離された本発明の抗原結合ドメインまたは抗体のポリヌクレオチド配列が決定された後に、pH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードするポリヌクレオチドとインフレームで連結された融合遺伝子を含むポリヌクレオチドが作製される。作製された融合遺伝子を含むポリヌクレオチドは、所望の細胞で発現するように適切な発現ベクターに作用可能に連結される。
「細胞」、「細胞系」および「細胞培養」は本明細書では同義で使われ、そのような呼称には細胞または細胞系のすべての子孫が含まれ得る。このように、例えば、「形質転換体」および「形質転換細胞」のような用語には、継代数に関係なくそれらに由来する一次対象細胞および培養物が含まれる。また、故意または偶発的な突然変異によって、すべての子孫においてDNAの内容が正確に同一であるというわけではないこともまた理解される。当初の形質転換細胞でスクリーニングされたような、実質的に同じ機能または生物学的活性を有する変異体の子孫も含まれ得る。異なった呼称を意図する記載である場合は、当該記載の前後関係からそのような意図は明白となるであろう。
コード配列の発現に言及する場合の制御配列とは、特定の宿主生物で作用可能に連結したコード配列の発現のために必要なDNA塩基配列をいう。例えば原核生物に好適な制御配列には、プロモーター、場合によってはオペレーター配列、リボソーム結合部位、およびおそらくはまだよく理解されていない他の配列が含まれる。真核細胞ではコード配列の発現のために、プロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを利用することが公知である。
核酸に関して「作用可能に連結した」は、その核酸が他の核酸配列と機能的な関係にあることを意味する。例えば、プレシーケンス(presequence)または分泌リーダーのDNAは、あるポリペプチドの分泌に関わっている前駆体タンパク質として発現する場合は、そのポリペプチドのDNAと作動可能的に結合している。プロモーターまたはエンハンサーは、それがあるコード配列の転写に影響する場合はその配列と作用可能に連結している。または、リボソーム結合部は、それが翻訳を容易にする位置にある場合は作用可能にコード配列と連結している。通常、「作用可能に連結した」は、結合したDNA配列が連続しており、分泌リーダーの場合は連続して読取り枠内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは連続する必要はない。連結は適切な制限部位でライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の慣行に従って使用される。また前記のOverlap Extension PCRの手法によっても連結された核酸が作製され得る。
「ライゲーション」は、2つの核酸断片の間でリン酸ジエステル結合を形成する方法である。2つの断片のライゲーションのために、断片の末端は互いに適合していなければならない。場合によっては、この末端はエンドヌクレアーゼ消化の後に直ちに適合性を有する。しかし、ライゲーションに適合させるために、まずエンドヌクレアーゼ消化の後に一般的に形成される付着末端は平滑末端に変えられる必要がある。平滑末端にするためには、DNAが適切な緩衝液中で15℃にて少なくとも15分間、4つのデオキシリボヌクレオチド三リン酸の存在下でDNAポリメラーゼIまたはT4DNAポリメラーゼのクレノー断片の約10単位で処理される。次にDNAがフェノールクロロホルム抽出とエタノール沈殿、またはシリカ精製によって精製される。連結すべきDNA断片が溶液に等モル量加えられる。この溶液には、ATP、リガーゼ緩衝に加え、T4DNAリガーゼのようなリガーゼがDNA0.5 μgにつき約10単位含まれる。DNAをベクターに連結する場合は、ベクターは適当な制限エンドヌクレアーゼによる消化作用によってまず線状にされる。線状にされた断片を次に細菌のアルカリホスファターゼまたは仔ウシ腸管のホスファターゼで処理することによって、ライゲーションのステップの間の当該断片のセルフライゲーションが予防される。
本発明の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの作製、当該発現ベクターの細胞への導入、当該細胞における当該ポリヌクレオチドの発現、および発現した抗原結合分子の当該細胞の培養液からの取得方法は、前記の抗体の項に記載された方法に準じて実施される。
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を制限するものではない。
(実施例1)ヒトIL-6レセプター免疫寛容マウスモデルの作製
IL-6レセプターは、リガンドであるIL-6が増殖因子である骨髄腫に高発現していることから、抗ヒトIL-6レセプター抗体はヒト骨髄腫の免疫不全マウスxenograftモデルで抗腫瘍効果を発揮することが知られている(Eur. J. Immunol. 22, 1989-93 (1992))。抗IL-6レセプター抗体をマウスに投与することによって、マウス抗IL-6レセプター抗体の産生を誘導させることができれば、その抗IL-6レセプター抗体が獲得免疫を誘導し、その抗IL-6レセプター抗体が癌ワクチンとして有用であることを示すことが可能となる。
しかしながら、抗腫瘍モデルとして使用される免疫不全マウスにおいては、マウスの免疫機能が働かないことから獲得免疫を誘導することは不可能である。また、可溶型ヒトIL-6レセプターをノーマルマウスに投与しても、短期間のうちにマウスにとって異物であるヒトIL-6レセプターに対して、マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体が産生される。そのため、抗ヒトIL-6レセプター抗体の及ぼすマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体産生への影響(ヒトIL-6レセプターに対する獲得免疫)を評価する系としてノーマルマウスはそのままでは用いることができない。
一方、ヒトの臨床においては、抗体分子が標的とする抗原はヒト抗原であるため、ヒトはその自己の標的抗原に対して免疫寛容となっている。ヒトの臨床において、標的抗原に対する抗体を投与することで標的抗原に対する自己抗体の産生が誘導されている場合、免疫寛容が破られていることが想定される。
そのため、マウスに投与された抗体が当該マウスにおいて標的ヒト抗原に対する獲得免疫を誘導できるかどうかについてヒトの臨床を想定した評価を行うためには、マウスが標的ヒト抗原に対して免疫寛容に似た状態になっており(標的ヒト抗原をマウスに単に投与するだけでは、マウスが標的ヒト抗原に対する抗体を産生せず)、標的抗原に対する抗体を投与することによってその免疫寛容に近い状態が破られ標的抗原に対する自己抗体の産生が誘導されていることを評価する試験系が確立される必要がある。
そこで、標的ヒト抗原のマウスに対する投与によって、当該マウス中で標的ヒト抗原に対する自己抗体が産生されないようにするために、抗原提示から抗体産生を誘導するために必要なCD4陽性T細胞が抗マウスCD4抗体によって十分な量除去された試験系が構築された。
標的ヒト抗原である可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中濃度を定常状態(約20ng/mL)に維持するモデルとして以下の試験モデルが構築された。ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の背部皮下に可溶型ヒトIL-6レセプターを充填したinfusion pump(MINI-OSMOTIC PUMP MODEL2004、alzet)を埋め込むことで、血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度が定常状態に維持される動物モデルが作製された。
試験は2群(各群N=4)で実施された。免疫寛容が模倣された群のマウスに対して、可溶型ヒトIL-6レセプターに対するマウス抗体の産生を抑制するため、monoclonal anti-mouse CD4 antibody(R&D)がその尾静脈に20mg/kgで単回投与され、その後、10日に1回同様に投与された(以下、抗マウスCD4抗体投与群と呼ばれる)。もう一方の群は、対照群、すなわちmonoclonal anti-mouse CD4 antibodyが投与されない抗マウスCD4抗体非投与群として使用された。その後、92.8μg/mLの可溶型ヒトIL-6レセプターが充填されたinfusion pumpのマウス背部皮下への埋め込みが実施された。Infusion pump埋め込み後から経時的に採取された血液を、採取後直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。可溶型ヒトIL-6レセプター(hsIL-6R)の血漿中濃度は以下の方法で測定された。
マウスの血漿中hsIL-6R濃度は電気化学発光法にて測定された。2000、1000、500、250、125、62.5、31.25 pg/mLに調製されたhsIL-6R検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿測定試料を、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)およびTocilizumabと混合することによって37℃で1晩反応させた。Tocilizumabの終濃度は333μg/mLとなるように調製された。その後、反応液がMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに室温で1時間反応させた反応液を洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された。その後ただちにSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定が行われた。hsIL-6R濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定したノーマルマウスにおける個体別の血漿中hsIL-6R濃度推移を図1に示す。
その結果、抗マウスCD4抗体非投与群の全てのマウスにおいて、infusion pumpのマウス背部皮下への埋め込み14日後には、血漿中hsIL-6R濃度の低下が認められた。すなわち、マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体が産生されれば血漿中hsIL-6R濃度の低下が起こるため、これらの群ではマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体が産生されていることが示された。一方、抗マウスCD4抗体投与群の全てのマウスにおいて、血漿中hsIL-6R濃度の低下は観察されなかった。すなわち、infusion pumpの有効期間である28日間を通じて、ほぼ一定(約20ng/mL)の血漿中hsIL-6R濃度を維持したことから、マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体は産生されていないことが示された。
上記の結果より、事前に抗マウスCD4抗体を投与することによって、標的抗原であるヒトIL-6レセプター単独の投与がノーマルマウスにおいて獲得免疫を誘導しないことが確認された。以降の実施例において、抗マウスCD4抗体投与モデルが、抗ヒトIL-6レセプター抗体投与によるヒトIL-6レセプターに対する獲得免疫の誘導を評価する系として使用された。
(実施例2)ヒトIL-6レセプター免疫寛容ノーマルマウスモデルにおける通常抗IL-6レセプター抗体およびpH依存的抗ヒトIL-6レセプター抗体による獲得免疫誘導効果の比較
標的抗原に対する獲得免疫を誘導するためには、抗原提示細胞の細胞内に取り込まれた標的抗原が当該細胞中のライソソームで適度に分解された後に、MHCクラスI あるいはMHCクラスIIに結合することによって当該標的抗原の断片ペプチドが抗原提示される必要がある。抗原提示されるペプチドが多ければ多いほど、免疫がより強く誘導されると考えられることから、標的抗原に対する獲得免疫の誘導を増強する方法として、抗原提示細胞の細胞内により多くの標的抗原を送りこむ方法が考えられた。
通常、抗原が抗原提示細胞に非特異的に取り込まれると、そのままエンドソームからライソソームへ移行するため断片ペプチドが抗原提示される可能性がある。しかし、通常のIgG抗体が抗原に結合している場合、IgG抗体はFcRnに結合することによってエンドソーム内から細胞表面(血漿中)にリサイクルされることから、抗体に結合した抗原もライソソームに移行せず細胞表面(血漿中)にリサイクルされると考えられる。そのため、通常のIgG抗体を投与することによって標的抗原の分解が抑制されてしまう。その結果、抗原提示細胞中のライソソームで適度に分解された標的抗原の断片ペプチドが抗原提示されず、標的抗原に対する獲得免疫の誘導が逆に低下すると考えられる。そこで、血漿中のpH7.4では標的抗原に結合し、エンドソーム内の酸性条件下のpH5.0-pH6.5では抗原を解離するpH依存的結合活性を有するIgG抗体(WO2009/125825)が、抗原提示細胞の酸性エンドソーム内で標的抗原を解離することが出来るため、当該IgG抗体を用いることによって標的抗原のみが抗原提示細胞のライソソームに移行し、当該標的抗原の断片ペプチドが抗原提示され、抗原を解離したIgG抗体はFcRnに結合することによってエンドソーム内から細胞表面(血漿中)にリサイクルされ抗原提示されない可能性があると考えられた。
そこで、実施例1で確立されたヒトIL-6レセプター免疫寛容ノーマルマウスモデルを用いて、通常の抗ヒトIL-6レセプターIgG抗体とpH依存的抗ヒトIL-6レセプターIgG抗体の獲得免疫誘導効果が検証された。通常の抗ヒトIL-6レセプターIgG抗体として、WO2009/125825に記載されたH54-IgG1(配列番号:38)およびL28-CK(配列番号:39)からなるH54/L28-IgG1が用いられた。pH依存的抗ヒトIL-6レセプターIgG抗体として、VH3-IgG1(配列番号:17)とVL3-CK(配列番号:40)からなるFv4-IgG1が用いられた。抗体の調製は参考実施例1に記した方法を用いて実施された。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories(Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)から確立されたヒトIL-6レセプター免疫寛容マウスモデルを用いて、H54/L28-IgG1およびFv4-IgG1の獲得免疫誘導効果が検証された。H54/L28-IgG1およびFv4-IgG1がヒトIL-6レセプター免疫寛容マウスモデルに投与された。具体的には、実施例1と同様にInfusion pump埋め込みが行われた3日後に抗ヒトIL-6レセプター抗体が、その尾静脈に1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後経時的に採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。血漿中hsIL-6R濃度は実施例1に記した方法と同じ方法で測定された。
コントロール(抗ヒトIL-6レセプター抗体非投与群)、H54/L28-IgG1およびFv4-IgG1投与後の各群の平均血漿中hsIL-6R濃度の推移を図2に示した。コントロールの全動物において、実施例1と同様に血漿中hsIL-6R濃度がほぼ一定に維持されていることから、マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体は産生していないことが示された。H54/L28-IgG1が投与された群においては、コントロールと比較して、全動物の血漿中hsIL-6R濃度の大幅な上昇が認められ、上昇した状態が28日間持続した。これはhsIL-6Rは非特異的に細胞に取り込まれるとそのままライソソームで分解されるのに対して、IgG抗体に結合したhsIL-6Rは、FcRnによって抗体抗原複合体として血漿中にリサイクルされるため、hsIL-6Rのクリアランスが低下し、それに従って血漿中hsIL-6R濃度が上昇するためであると考えられた。この上昇した状態が28日間持続したことから、コントロールと同様、H54/L28-IgG1が投与された群ではマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の産生が誘導されていないことが示された。Fv4-IgG1が投与された群の全動物においては、コントロールと比較して血漿中hsIL-6R濃度が上昇したが、H54/L28-IgG1が投与された群よりは血漿中hsIL-6R濃度が上昇の程度が明らかに低下した。pH依存的結合抗体がエンドソーム内で抗原を解離するため、hsIL-6Rのクリアランスの低下が抑制され、それに従って血漿中hsIL-6R濃度の上昇も抑制されたためである。この結果からpH依存的結合抗体が通常抗体と比較してより多くの標的抗原を抗原提示細胞のエンドソームにおいて解離しライソソームへの標的抗原の移行を促進していることが考えられた。しかし、hsIL-6R濃度が上昇した状態が28日間持続したことから、H54/L28-IgG1と同様、Fv4-IgG1はマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の産生を誘導していないことが示された。
この結果から、通常のIgG抗体、および、抗原提示細胞のエンドソーム内で抗原を解離してライソソームに移行させるpH依存的結合IgG抗体を用いて、標的抗原に対する獲得免疫を誘導することは出来ないことが分った。
(実施例3)ヒトIL-6レセプター免疫寛容ヒトFcRnトランスジェニックマウスモデルにおけるpH依存的なIL-6レセプター結合とpH7.4におけるFcRn結合増強の及ぼす獲得免疫誘導効果に及ぼす影響
(3−1)概要
通常のIgG1抗体あるいはpH依存的結合IgG1抗体は、標的抗原に対する獲得免疫を誘導することは出来ないことが、実施例2において確認された。一方、T-cell epitope peptideの免疫原性を増強させる方法として、T-cell epitope peptideをFcと融合し、さらにそのFc部分のFcRnに対するpH7.4における結合を増強させることで、T-cell epitope peptideをよりライソソームに移行させる方法が、最近報告された(J. Immunol. 181, 7550-61 (2008))。FcRnは抗原提示細胞に発現していることから、Fc部分のFcRnに対するpH7.4における結合を増強させることで、T-cell epitope peptideの抗原提示が促進され得る。しかしながら、この方法で開示された抗原となるペプチドを直接Fcに融合させた分子は、抗原結合分子として癌抗原に結合することができないため、本分子が癌細胞に対して直接作用を発揮することはできない。さらに、Fc部分のFcRnに対するpH7.4における結合を増強する方法は、in vitroにおいてはT-cell epitope peptideの免疫原性を増強させているものの、in vivoにおいては逆に免疫原性を減少させており、in vivoに効果は示されなかった。このように、pH7.4におけるFcRn結合を増強させたFcと標的抗原とを直接融合させた分子は、標的抗原に対する結合活性を示すことができないため標的抗原に対する直接作用することができず、さらにin vivoにおいてFcRn結合を増強させることが逆に免疫原性を減少させる結果を示した。
実施例2およびこれまでの報告を踏まえて、通常のIgG1抗体(H54/L28-IgG1)に対してpH7.4におけるFcRn結合を増強させる改変を導入した抗体(H54/L28-F157)、および、pH依存的結合IgG1抗体(Fv4-IgG1)に対してpH7.4におけるFcRn結合を増強させる改変を導入した抗体(Fv4-F157)の投与により、標的抗原に対して獲得免疫を誘導することができるかどうかが検証された。
(3−2)抗体の作製
FcRn結合が増強された通常の抗ヒトIL-6レセプターIgG抗体として、H54-F157(配列番号:41)およびL28-CK(配列番号:39)からなるH54/L28-F157が用いられた。FcRn結合が増強されたpH依存的抗ヒトIL-6レセプターIgG抗体として、VH3-F157(配列番号:42)とVL3-CK(配列番号:40)からなるFv4-F157が用いられた。抗体の調製は参考実施例1に記した方法を用いて実施された。
(3−3)ヒトFcRnに対するアフィニティの測定
実施例2で作製されたFv4-IgG1とFv4-F157のFc部分(それぞれ、IgG1とF157と呼ぶ)のヒトFcRnに対するpH7.0におけるアフィニティを決定するために、VH3-IgG1(配列番号:17)とL(WT)-CK(配列番号:18)からなるVH3/L(WT)-IgG1およびVH3-F157(配列番号:42)とL(WT)-CK(配列番号:18)からなるVH3/L(WT)-F157のヒトFcRnに対するアフィニティが以下に示す方法で測定された。
Biacore T100(GE Healthcare)を用いて、ヒトFcRnと抗体との速度論的解析が行われた。Sensor chip CM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でprotein L(ACTIGEN)を適当量固定化し、そこへ目的の抗体をキャプチャーさせた。次に、FcRn希釈液とブランクであるランニングバッファーをインジェクトし、センサーチップ上にキャプチャーさせた抗体にヒトFcRnを相互作用させた。ランニングバッファーには50 mmol/L sodium phosphate、150 mmol/L NaCl、0.05% (w/v) Tween20、pH7.0を用い、FcRnの希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/L Glycine-HCl, pH1.5が用いられた。測定は全て25℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出された、カイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka(1/Ms)、および解離速度定数 kd(1/s)をもとに各抗体のヒトFcRnに対する KD(M)(アフィニティ) が算出された。各パラメーターの算出にはBiacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
IgG1とF157のヒトFcRnに対するアフィニティを表7に示した。F157のヒトFcRnへのアフィニティはIgG1と比較して約600倍向上していることが確認された。
Figure 2022000472
(3−4)抗体の投与試験における抗原(可溶型ヒトIL-6レセプター)の血漿中濃度の推移
つぎに、試験1において、ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)から確立されたヒトIL-6レセプター免疫寛容マウスモデルが用いられた。H54/L28-F157およびFv4-F157がヒトIL-6レセプター免疫寛容マウスモデルに投与された。具体的には、実施例1と同様にInfusion pump埋め込みが行われた3日後に抗ヒトIL-6レセプター抗体がその尾静脈に1 mg/kgで単回投与された(各群の個体数は3である)。マウスに対する抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後経時的に採血が行われた。さらに、試験2ではFv4-F157のみが同様に投与された後に経時的に採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。血漿中hsIL-6R濃度は実施例1に記した方法と同じ方法で測定された。
試験1のH54/L28-F157とFv4-F157および試験2のFv4-F157の投与後の各群の平均血漿中hsIL-6R濃度推移に加えて、実施例2で得られたコントロール(抗体非投与群)、H54/L28-IgG1およびFv4-IgG1投与後の各群の平均血漿中hsIL-6R濃度推移を図3に示した。H54/L28-F157の投与群においては、H54/L28-IgG1の投与群と同様に血漿中hsIL-6R濃度の上昇が認められたが、その上昇は一過的であり13日後には血漿中hsIL-6R濃度はコントロールと同等なレベルにまで低下した。その後もコントロールと同等なレベルを28日間維持したことから、H54/L28-IgG1同様、マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体は産生されていないことが示され、pH7.4におけるFcRnに対する結合の増強のみでは、標的抗原に対する獲得免疫を誘導することは出来ないことが分った。これはJ. Immunol. (2008) 181, 7550-7561に報告されているとおり、pH7.4におけるFcRnに対する結合の増強したFc領域にT-cell epitope peptideを融合した分子では、T-cell epitope peptideに対する獲得免疫の誘導を増強できないことと矛盾しない。それに対して、Fv4-F157の投与群においては、抗体の投与後に急激な血漿中hsIL-6R濃度の低下が認められ、投与1日後には検出限界以下(1.56ng/mL以下)までhsIL-6R濃度が低下した。
特定の理論に拘束されるものではないが、上記の現象は以下のように説明できる可能性がある。標的抗原に対する獲得免疫の増強は、投与した抗体によって抗原提示細胞に取り込まれる標的抗原の量に依存すると考えられる。取り込まれる標的抗原の量は、血漿中の標的抗原濃度がどれだけ低下したかによって評価が可能である。細胞に取り込まれた後にpH依存的結合抗体(Fv4-IgG1)は酸性エンドソーム内で標的抗原を解離させるものの、標的抗原が結合したpH依存的結合抗体が細胞に取り込まれる過程は非特異的なピノサイトーシスに依存しており、取り込み速度が遅いため、血漿中標的抗原濃度はコントロールより低いレベルに低下しない(図4)。またpH7.4におけるFcRn結合のみが増強された抗体(H54/L28-F157)は、pH7.4におけるFcRnに対する結合を利用して積極的に細胞内に取り込まれるものの、標的抗原が抗体に結合したままの状態、すなわち抗体と標的抗原との複合体として、大部分がそのままFcRnの本来の機能により細胞表面にリサイクルされるため、血漿中の標的抗原の濃度はコントロールより低いレベルに低下しない(図5)。それに対して、pH7.4におけるFcRnに対する結合を介して積極的に細胞内に取り込まれたpH7.4におけるFcRn結合が増強されたpH依存的結合抗体(Fv4-F157)は、エンドソーム内で標的抗原を解離させるため、抗原をライソソームに送り込むとともに、標的抗原を解離した抗体はFcRnの本来の機能により細胞表面にリサイクルされ、再び標的抗原に結合し、同様標的抗原をライソソームに再び送り込むことが可能である(図6)。このサイクルを繰り返すことによって、pH7.4におけるFcRn結合が増強されたpH依存的結合抗体のみが、血漿中の標的抗原の濃度をコントロールより大幅に低いレベルにまで低下させることが可能であると考えられた。
試験1および試験2における、Fv4-F157を投与したマウス6匹の個体別の血漿中hsIL-6R濃度をそれぞれ図7および図8に示した。Fv4-F157が投与された6匹のマウスのうち、#7、#8、#10の3匹のマウスにおいては、13日後以降にhsIL-6R濃度が上昇し、コントロールと同等レベルまで戻り、その後コントロールと同等なレベルが28日間維持された。一方、残りの#9、#11、#12の3匹のマウスにおいては、hsIL-6R濃度が戻ることなく、その後も28日間までその低値を維持したことから、これらの3匹のマウスにおいては、マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体が産生され、ヒトIL-6レセプターを血漿中から除去していることが考えられた。そこで、以下に示す方法でFv4-F157を投与したマウス6匹における、マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価が測定された。
(3−4)抗体の投与試験におけるマウスによる抗原(可溶型ヒトIL-6レセプター)に対するマウス抗体(マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体)の抗体価の推移
マウス血漿中のマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価が電気化学発光法により測定された。まずヒトIL-6レセプターをMA100 PR Uncoated Plate(Meso Scale Discovery)に分注し、4℃で1晩静置することによって、ヒトIL-6レセプター固相化プレートが作成された。50倍希釈されたマウス血漿測定試料が分注されたヒトIL-6レセプター固相化プレートが4℃で1晩静置された。その後、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したanti-mouse IgG (whole molecule) (Sigma-Aldrich)を室温で1時間反応させた当該プレートが洗浄された。当該プレートにRead Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された後に、ただちにSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定が行われた。
Fv4-F157投与群におけるマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体(抗hsIL-6R抗体)の抗体価の推移を図7および図8に示した。その結果、hsIL-6R濃度がコントロールと同等レベルまで戻った#7、#8、#10の3匹のマウスにおいては、マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価の上昇が認められなかったが、hsIL-6R濃度が28日まで低値を維持した#9、#11、#12の3匹のマウスにおいては、マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体(抗hsIL-6R抗体)の抗体価の上昇が認められた。上記の結果から、FcRnに対する結合が増強されたpH依存的抗ヒトIL-6レセプターIgG抗体であるFv4-F157をヒトIL-6レセプター免疫寛容ノーマルマウスモデルに投与することによって、3/6例において標的抗原であるヒトIL-6レセプターに対する獲得免疫を誘導することが可能であることが見出された。このことから、通常のIgG抗体(H54/L28-IgG1)、あるいは、標的抗原に対してpH依存的に結合するIgG抗体(Fv4-IgG1)、あるいは、pH7.4におけるFcRnに対する結合のみが増強されたIgG抗体(H54/L28-IgG1)をin vivoに投与しても標的抗原に対する獲得免疫を誘導することはできず、標的抗原に対してpH依存的に結合し、且つ、pH7.4におけるFcRnに対する結合が増強されたIgG抗体(Fv4-F157)のみが標的抗原に対する獲得免疫を誘導することが可能であることが見出された。
(3−5)抗体の投与試験におけるマウスによる投与した抗体(Fv4-F157)に対するマウス抗体(マウス抗Fv4-F157抗体)の抗体価の推移
標的抗原とpH7.4におけるFcRn結合を増強させたFcを直接融合させた分子を薬剤として用いる上述の方法(J. Immunol. (2008) 181, 7550-7561)によって、仮に標的抗原に対する抗体の産生が可能となっても、標的抗原に対する抗体は薬剤自体に対しても結合してしまうため、抗薬剤抗体として作用し、薬剤の作用を減弱させてしまうことにつながる。そのため、標的抗原が薬剤に直接融合されている分子(例えばJ. Immunol. (2008) 181, 7550-7561やJ. Immunol. (2011), 186, 1218-1227記載の分子)を用いることは、標的抗原に対する抗体産生の誘導、すなわち薬剤の作用を減弱させてしまう薬剤自体に対する抗薬剤抗体の誘導を意味するため、好ましくないと考えられた。
FcRnに対する結合が増強されたpH依存的抗ヒトIL-6レセプターIgG抗体(Fv4-F157)は、標的抗原であるヒトIL-6レセプターにpH依存的に結合する活性を有する薬剤であり、直接標的抗原が融合された分子ではない。そのため、Fv4-F157は、図7および図8に示したように、標的抗原であるヒトIL-6レセプターに対して抗体産生を誘導したが、薬剤自体(Fv4-F157)に対する抗薬剤抗体は産生していない可能性がある。そこで、Fv4-F157が投与されたマウス6匹におけるマウス抗Fv4-F157抗体の抗体価が、以下に示す方法で測定された。
マウス血漿中の抗Fv4-F157抗体の抗体価が電気化学発光法により測定された。まず抗ヒトIL-6レセプター抗体 をMA100 PR Uncoated Plate(Meso Scale Discovery)に分注し、4℃で1晩静置することによって、抗ヒトIL-6レセプター抗体固相化プレートが作成された。50倍希釈されたマウス血漿測定試料が分注された抗ヒトIL-6レセプター抗体固相化プレートが4℃で1晩静置された。その後、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したanti-mouse IgG (whole molecule) (Sigma-Aldrich)を室温で1時間反応させた当該プレートが洗浄された。当該プレートにRead Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された後に、ただちにSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定が行われた。
Fv4-F157投与群におけるマウス抗Fv4-F157抗体の抗体価の推移およびマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体(抗hsIL-6R抗体)の抗体価の推移を図9および図10に示した。Fv4-F157投与群においては、マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体(抗hsIL-6R抗体)の産生の有無に関わらず、いずれのマウスにおいてもマウス抗Fv4-F157抗体の産生は認められなかった。このことから、pH7.4におけるFcRnに対する結合が増強されたpH依存的抗ヒトIL-6レセプターIgG抗体(Fv4-F157)は、標的抗原(ヒトIL-6レセプター)に対する抗体産生を誘導する一方で、薬剤自身(Fv4-F157)に対する抗体産生は誘導しなかったことから、pH7.4におけるFcRnに対する結合が増強されたpH依存的(抗ヒトIL-6レセプター)IgG抗体は標的抗原に対する獲得免疫を誘導する薬剤として極めて有用であると考えられた。
これまでに癌抗原に対する獲得免疫を誘導する方法として、抗原提示細胞に発現している受容体に結合する抗体に獲得免疫を誘導させたい癌抗原を融合させた薬剤分子を用いる方法が報告されている(J. Immunol. (2011) 186, 1218-1227)。このような薬剤分子は、直接癌抗原に結合して作用を発揮することができない(図11)。そのため、このような薬剤分子は従来の抗体医薬のように癌抗原に対する機能阻害作用や癌細胞に対する直接的な細胞傷害活性作用を示すことはできない。さらにこのような分子は、薬剤分子全体が抗原提示細胞に取り込まれて分解されるため、薬剤分子の断片ペプチドがMHC class IIおよびMHC class Iに提示される。そのため癌抗原に対する液性免疫および細胞性免疫のみならず、薬剤自身に対する液性免疫も誘導してしまうと考えられ、容易に抗薬剤抗体の産生による効果の減弱につながるため好ましくないと考えられる(図11)。
それに対して、本実施例で見出されたpH7.4におけるFcRnに対する結合が増強され、且つ、pH依存的に標的癌抗原に結合する抗体は直接癌抗原に結合して作用を発揮することが可能である(図12)。そのため、従来の抗体医薬のように癌抗原に対する機能阻害作用や癌細胞に対する直接的な細胞傷害活性作用を示すことが可能である。さらにこのような抗体は、酸性エンドソーム内で標的癌抗原を解離し、抗体自身は細胞表面にリサイクルされることで、標的癌抗原が選択的に分解され、標的抗原の断片ペプチドがMHC class IIおよびMHC class Iに提示されるため、抗体自身に対する抗薬剤抗体の産生を誘導することなく、癌抗原に対して選択的に液性免疫および細胞性免疫を誘導することが可能である(図12)。
(実施例4)ヒトIL-6レセプターノックインマウスにおけるpH依存的なIL-6レセプター結合とpH7.4におけるFcRn結合増強の及ぼす内因性ヒトIL-6レセプターに対する獲得免疫の誘導効果に及ぼす影響
(4−1)概要
実施例3で示されたように、通常のIgG1抗体(H54/L28-IgG1)に対してpH7.4におけるFcRn結合を増強させる改変が導入された抗体(H54/L28-F157)のヒトIL-6レセプター免疫寛容ヒトFcRnトランスジェニックマウスモデルへの投与によって、当該マウスにおける標的抗原に対する獲得免疫が誘導されなかったが、pH依存的結合IgG1抗体(Fv4-IgG1)に対してpH7.4におけるFcRn結合を増強させる改変が導入された抗体(Fv4-F157)の当該マウスへの投与によって、同マウスにおける標的抗原に対する獲得免疫が誘導された。
しかしながら前記モデルは、外から投与されたヒト抗原に対する獲得免疫を誘導するモデルであるが、前記の獲得免疫の誘導の臨床への応用の検討に際しては、完全に免疫寛容となっている内因性の抗原に対して、その免疫寛容を破り、獲得免疫が誘導されるかが確認されることが好ましい。
そこで、ヒトIL-6レセプターを発現するヒトIL-6レセプターノックインマウスが内因性ヒトIL-6レセプターに対して免疫寛容であることを利用して、当該マウスに前記の抗体を投与することで内因性ヒトIL-6レセプターに対して獲得免疫を誘導することが可能かどうかが検証された。
(4−2)抗体の作製
マウスFcRnに対する結合が増強された通常の抗ヒトIL-6レセプター抗体として、H54-mF3(配列番号:124)およびL28-mCK(配列番号:125)を含むH54/L28-mF3が作製された。pH依存的抗ヒトIL-6レセプターIgG抗体として、VH3-mIgG1(配列番号:126)とVL3-mCK(配列番号:127)を含むFv4-mIgG1、および、VH3-mIgG2a(配列番号:128)とVL3-mCK(配列番号:127)を含むFv4-mIgG2aが作製された。マウスFcRnに対する結合が増強されたpH依存的抗ヒトIL-6レセプターIgG抗体として、VH3-mF3(配列番号:129)とVL3-mCK(配列番号:127)を含むFv4-mF3、および、さらにマウスFcγRに対する結合も増強されたVH3-mFa30(配列番号:130)とVL3-mCK(配列番号:127)を含むFv4-mFa30が作製された。これらの抗体は参考実施例1に記した方法を用いて調製された。
(4−3)マウスFcRnおよびマウスFcγRに対するアフィニティの測定
(3−3)で示された方法に準じて測定された値を用いて、作製されたFv4-mIgG1、Fv4-mIgG2a、Fv4-mF3、Fv4-mFa30のFc部分であるmIgG1、mIgG2a、mF3およびmFa30のマウスFcRnに対するpH7.0におけるアフィニティが決定された。
FcγRの細胞外ドメインが以下の方法で調製された。まずNCBIに登録されている配列情報にもとづきFcγRの細胞外ドメインの遺伝子が当業者公知の方法で合成された。具体的には、mFcγRIとしてNCBIのアクセッション番号NP_034316(バージョン番号NP_034316.1)、mFcγRIIとしてNCBIのアクセッション番号NP_034317(バージョン番号NP_034317.1)、FcγRIIIとしてNCBIのアクセッション番号NP_034318(バージョン番号NP_034318.2)、FcγRIVとしてNCBIのアクセッション番号NP_653142(バージョン番号NP_653142.2)で表される各ポリペプチドのC末端にHisタグが付加されたFcγRの細胞外ドメインをコードする各遺伝子が作製された。
得られた遺伝子断片が動物細胞発現ベクターに挿入された発現ベクターが作製された。当該発現ベクターがヒト胎児腎癌細胞由来FreeStyle293細胞(Invitrogen)に一過性に導入されて目的タンパク質が発現した形質導入細胞の培養上清を0.22μmフィルターを通して培養上清が得られた。得られた培養上清から各FcγRの細胞外ドメインが原則として次の4つの精製ステップ;第1ステップはイオン交換カラムクロマトグラフィー(第1ステップ)、Hisタグに対するアフィニティカラムクロマトグラフィー(HisTrap HP)(第2ステップ)、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200)(第3ステップ)、無菌ろ過(第4ステップ)によって精製された。第1ステップのイオン交換カラムクロマトグラフィーのカラムとして、mFcγRIの精製ではQ Sepharose HP、mFcγRIIおよびmFcγRIVの精製ではSP Sepharose FF、mFcγRIIIの精製ではSP Sepharose HPが使用された。また第3ステップ以降の精製では溶媒としてD-PBS(-)が使用されたが、mFcγRIIIの精製では、0.1M アルギニンを含むD-PBS(-)が使用された。精製されたFcγRの細胞外ドメインを含む溶液の280 nmでの吸光度が分光光度計を用いて測定された。PACE等の方法により算出された吸光係数を用いて前記吸光度の測定値から精製FcγRの細胞外ドメインの濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
各改変抗体と前記のように調製されたFcγレセプターの細胞外ドメインとの相互作用が、Biacore T100(GEヘルスケア)、Biacore T200(GEヘルスケア)、Biacore A100、Biacore 4000を用いて解析された。ランニングバッファーにはHBS-EP+(GEヘルスケア)を用い、測定温度は25℃で当該相互作用が測定された。Series S Sensor Chip CM5(GEヘルスケア)またはSeries S Sensor Chip CM4(GEヘルスケア)に、アミンカップリング法によりProtein L(ACTIGENまたはBioVision)が固定化されたチップが使用された。
各改変抗体をキャプチャーさせたセンサーチップに、ランニングバッファーで希釈されたFcγレセプターの細胞外ドメインを作用させて測定された当該各抗体に対する当該各ドメインの結合量が比較された。ただし、Fcγレセプターの細胞外ドメインの結合量はセンサーチップにキャプチャーさせた抗体の量に依存するため、各抗体のキャプチャー量でFcγレセプターの細胞外ドメインの結合量を除した補正値が比較された。また、10 mM glycine-HCl、pH1.5を反応させることで、センサーチップにキャプチャーした抗体が洗浄され再生されたセンサーチップが繰り返し用いられた。
また、以下の速度論的な解析方法にしたがって、各改変抗体のFcγレセプターの細胞外ドメインに対するKD値が算出された。上記のセンサーチップに目的の抗体をキャプチャーさせ、ランニングバッファーで希釈されたFcγレセプターの細胞外ドメインを相互作用させ、得られたセンサーグラムに対してBiacore Evaluation Softwareにより測定結果を1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせることで、結合速度定数ka(L/mol/s)、解離速度定数kd(1/s)が算出された。その算出値から解離定数KD(mol/L)が決定された。
mIgG1、mIgG2a、mF3およびmFa30のマウスFcRnに対するアフィニティを表8、マウスFcγRに対するアフィニティを表9に示した。
Figure 2022000472
Figure 2022000472
(4−4)抗体の投与試験における抗原(可溶型ヒトIL-6レセプター)の血漿中濃度の推移
つぎに、Fv4-mIgG1、Fv4-mIgG2a、Fv4-mF3、Fv4-mFa30およびH54/L28-mF3が投与されたヒトIL-6レセプターノックインマウス(参考実施例25)から経時的に採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。血漿中hsIL-6R濃度は実施例1に記した方法と同じ方法で測定された。
抗体非投与群、Fv4-mIgG1、Fv4-mIgG2a、Fv4-mF3、Fv4-mFa30およびH54/L28-mF3投与群の平均血漿中hsIL-6R濃度推移を図26に示した。Fv4-mIgG1、Fv4-mIgG2aの投与群の血漿において、hsIL-6R濃度の上昇が認められた。一方、マウスFcRnに対する結合が増強されたFv4-mF3、H54/L28-mF3および、マウスFcRnとマウスFcgRに対する結合が増強されたFv4-mFa30の投与群の血漿では、抗体非投与群と比較して、hsIL-6R濃度の顕著な減少が認められた。
(4−5)抗体の投与試験におけるマウスによる抗原(可溶型ヒトIL-6レセプター)に対するマウス抗体(マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体)の抗体価の推移
マウスの血漿中抗hsIL-6R抗体価は電気科学発光法にて測定された。50倍に希釈されたマウス血漿試料と、30μg/mLに調製された抗Fv4イディオタイプ抗体を混合し、室温で1時間反応させた。同イディオタイプ抗体はFv4-M73(WO2009/125825)をウサギに免疫した血清をイオン交換樹脂で精製後、Fv4-M73が固定化されたカラムでアフィニティ精製し、その後ヒト固定化カラムで吸収させて得られた。前記の混合溶液に対して、EZ-Link Sulfo-NHS-Biotin and Biotinylation Kits (Pierce)でビオチン化されたhsIL-6Rを1μg/mL, SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化されたSULFO-anti mouse IgG(H+L) antibody(BECKMAN COULTER)を2μg/mLを含む溶液 50μg/mLが添加、混合され、4℃で1晩反応させた。この際、測定試料中に含まれる投与検体がhsIL-6Rと結合し、投与検体に対するADAが検出されることを防ぐことを目的として、過剰量の抗Fv4イディオタイプ抗体が試料に予め添加された。その後、前記の反応液がMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに25℃で1時間反応させた後に洗浄された各ウエルに、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注され、ただちに各ウエル中の反応液の吸光度がSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)を用いて測定された。
抗体非投与群、Fv4-mIgG1、Fv4-mIgG2a、Fv4-mF3、Fv4-mFa30およびH54/L28-mF3投与群の各個体のマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体(抗hsIL-6R抗体)の抗体価の推移を図27から図31に示した。その結果、マウスFcRnへの結合増強されていないFv4-mIgG1とFv4-mIgG2a、および、マウスFcRnへの結合は増強されているがヒトIL-6レセプターに対してpH依存的に結合しないH54/L28-mF3が投与された群のいずれの個体においてもマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体(抗hsIL-6R抗体)の抗体価の上昇は認められなかった。一方、マウスFcRnへの結合が増強されたpH依存的結合抗体であるFv4-mF3、および、マウスFcRnへの結合の増強に加えさらにマウスFcgRへの結合が増強されたpH依存的結合抗体であるFv4-mFa30が投与された群では、マウス抗ヒトIL-6レセプター抗体(抗hsIL-6R抗体)の抗体価の上昇が認められる個体が存在したことが確認された。
以上のことから、標的抗原に対してpH依存的な結合活性を有し、且つ、pH7.4におけるFcRnに対する結合が増強された抗原結合分子は、免疫寛容となっている内因性の標的抗原に対しても獲得免疫を誘導することができることが示された。このことから、このような分子は、自己の癌抗原に対しても、獲得免疫を誘導することが可能であると考えられることから、癌治療薬として極めて有望である。
(参考実施例1)
抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。10 % Fetal Bovine Serum(Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)に懸濁されたヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)が、5〜6 × 105細胞/mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ播種された。当該細胞はCO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で一昼夜培養された後に、培地が吸引除去された当該ディッシュに、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLが添加された。調製されたプラスミドがlipofection法によって細胞へ導入された。回収された培養上清から遠心分離(約2000 g、5分間、室温)によって細胞が除去された。さらに培養上清を0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌することによって培養上清が得られた。得られた培養上清から発現した抗体がrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で精製された。精製抗体の濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度の測定値から、Protein Science (1995) 4, 2411-2423に記載された方法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度が算出された。
(参考実施例2)カルシウムイオンに結合するヒト生殖細胞系列配列の探索
(2−1)カルシウム依存的に抗原に結合する抗体
カルシウム依存的に抗原に結合する抗体(カルシウム依存的抗原結合抗体)はカルシウムの濃度によって抗原との相互作用が変化する抗体である。カルシウム依存的抗原結合抗体は、カルシウムイオンを介して抗原に結合すると考えられるため、抗原側のエピトープを形成するアミノ酸は、カルシウムイオンをキレートすることが可能な負電荷のアミノ酸あるいは水素結合アクセプターとなりうるアミノ酸である。こうしたエピトープを形成するアミノ酸の性質から、ヒスチジンを導入することにより作製されるpH依存的に抗原に結合する結合分子以外のエピトープをターゲットすることが可能となる。さらに、図13に示されるように、カルシウム依存性およびpH依存性に抗原に結合する性質を併せ持つ抗原結合分子を用いることで、幅広い性質を有する多様なエピトープを個々にターゲットすることが可能な抗原結合分子を作製することが可能となると考えられる。そこで、カルシウムが結合するモチーフを含む分子の集合(Caライブラリ)を構築し、この分子の集団から抗原結合分子を取得すれば、カルシウム依存的抗原結合抗体が効率的に得られると考えられる。
(2−2)ヒト生殖細胞系列配列の取得
カルシウムが結合するモチーフを含む分子の集合の例として、当該分子が抗体である例が考えられる。言い換えればカルシウムが結合するモチーフを含む抗体ライブラリがCaライブラリである場合が考えられる。
ヒト生殖細胞系列配列を含む抗体でカルシウムイオンが結合するものはこれまで報告されていない。そこで、ヒト生殖細胞系列配列を含む抗体がカルシウムイオンと結合するか否かを判定するため、Human Fetal Spleen Poly RNA(Clontech)から調製されたcDNAを鋳型としてヒト生殖細胞系列配列を含む抗体の生殖細胞系列の配列がクローニングされた。クローニングされたDNA断片は動物細胞発現ベクターに挿入された。得られた発現ベクターの塩基配列が、当業者公知の方法で決定され、その配列番号を表10に示した。配列番号:5(Vk1)、配列番号:6(Vk2)、配列番号:7(Vk3)、配列番号:8(Vk4)ならびに配列番号:43(Vk5)をコードするポリヌクレオチドが、PCR法によって天然型Kappa鎖の定常領域(配列番号:44)をコードするポリヌクレオチドと連結されたDNA断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれた。また、配列番号:46(Vk1)、配列番号:47(Vk2)、配列番号:48(Vk3)、配列番号:49(Vk4)ならびに配列番号:117(Vk5)をコードするポリヌクレオチドが、PCR法によって配列番号:11で表されるIgG1のC末端2アミノ酸が欠失したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと連結されたDNA断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれた。作製された改変体の配列は当業者公知の方法で確認された。
Figure 2022000472
(2−3)抗体の発現と精製
取得された5種類のヒト生殖細胞系列配列を含むDNA断片が挿入された動物細胞発現ベクターが動物細胞へ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ播種された。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入される。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(2−4)ヒト生殖細胞系列配列を含む抗体のカルシウムイオン結合活性の評価
精製された抗体のカルシウムイオン結合活性が評価された。抗体へのカルシウムイオンの結合の評価の指標として、示差走査型熱量測定(DSC)による熱変性中間温度(Tm値)が測定された(MicroCal VP-Capillary DSC、MicroCal)。熱変性中間温度(Tm値)は安定性の指標であり、カルシウムイオンの結合によってタンパク質が安定化すると、熱変性中間温度(Tm値)はカルシウムイオンが結合していない場合に比べて高くなる(J. Biol. Chem. (2008) 283, 37, 25140-25149)。抗体溶液中のカルシウムイオン濃度の変化に応じた抗体のTm値の変化を評価することによって、抗体へのカルシウムイオンの結合活性が評価された。精製された抗体が20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、2 mM CaCl2(pH7.4)または20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl, 3μM CaCl2(pH7.4)の溶液を外液とする透析(EasySEP、TOMY)処理に供された。透析に用いられた溶液を用いておよそ0.1 mg/mLに調製された抗体溶液を被験物質として、20℃から115℃まで240℃/hrの昇温速度でDSC測定が行われた。得られたDSCの変性曲線にもとづいて算出された各抗体のFabドメインの熱変性中間温度(Tm値)を表11に示した。
Figure 2022000472
その結果、hVk1、hVk2、hVk3、hVk4配列を含む抗体のFabドメインのTm値は、当該Fabドメインを含む溶液中のカルシウムイオンの濃度によらず変動しなかった。一方で、hVk5配列を含む抗体のFabドメインのTm値は、当該Fabドメインを含む抗体溶液中のカルシウムイオンの濃度によって変動したことから、hVk5配列がカルシウムイオンと結合することが示された。
(2−5)hVk5-2配列のカルシウム結合評価
参考実施例2の(2−2)においてVk5-2(配列番号:43にkappa鎖定常領域である配列番号:44が融合された配列番号:50)のほかにVk5-2に分類されるVk5-2バリアント1(配列番号:51)およびVk5-2バリアント2(配列番号:52)が得られた。これらのバリアントのカルシウム結合活性も評価された。Vk5-2、Vk5-2バリアント1およびVk5-2バリアント2のDNA断片がそれぞれ動物細胞用発現ベクターに組み込まれた。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定された。Vk5-2、Vk5-2バリアント1およびVk5-2バリアント2のDNA断片がそれぞれ組み込まれた動物細胞用発現ベクターは、重鎖としてCIM_H(配列番号:45)が発現するように組み込まれた動物発現用のベクターと、参考実施例2の(2−3)で記載した方法で共に動物細胞中に導入され、抗体が精製された。精製された抗体のカルシウムイオン結合活性が評価された。精製された抗体が20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、2 mM CaCl2(pH7.5)または20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl(pH7.5)の溶液(表12ではカルシウムイオン濃度0mMと表記)を外液とする透析(EasySEP、TOMY)処理に供された。透析に用いられた溶液を用いておよそ0.1 mg/mLに調製された抗体溶液を被験物質として、20℃から115℃まで240℃/hrの昇温速度でDSC測定が行われた。得られたDSCの変性曲線にもとづいて算出された各抗体のFabドメインの熱変性中間温度(Tm値)を表12に示した。
Figure 2022000472
その結果、Vk5-2、Vk5-2バリアント1およびVk5-2バリアント2の配列を含む抗体のFabドメインのTm値は、当該Fabドメインを含む抗体溶液中のカルシウムイオンの濃度によって変動したことから、Vk5-2に分類される配列を持つ抗体はカルシウムイオンと結合することが示された。
(参考実施例3)ヒトVk5(hVk5)配列の評価
(3−1)hVk5配列
Kabatデータベース中には、hVk5配列としてhVk5-2配列のみが登録されている。以下では、hVk5とhVk5-2は同義で扱われる。WO2010/136598では、hVk5-2配列の生殖細胞系列配列中の存在比は0.4%と記載されている。他の報告でもhVk5-2配列の生殖細胞系列配列中の存在比は0〜0.06%と述べられている(J. Mol. Biol. (2000) 296, 57-86、Proc. Natl. Acad. Sci. (2009) 106, 48, 20216-20221)。上記のように、hVk5-2配列は、生殖細胞系列配列中で出現頻度が低い配列であるため、ヒト生殖細胞系列配列で構成される抗体ライブラリやヒト抗体を発現するマウスへの免疫によって取得されたB細胞から、カルシウムと結合する抗体を取得することは非効率であると考えられた。そこで、ヒトhVk5-2配列を含むCaライブラリを設計する可能性が考えられるが、報告されている合成抗体ライブラリ(WO2010/105256やWO2010/136598)ではhVk5配列は含まれていなかった。さらに、hVk5-2配列の物性は報告されておらず、その可能性の実現は未知であった。
(3−2)糖鎖非付加型hVk5-2配列の構築、発現および精製
hVk5-2配列は20位(Kabatナンバリング)のアミノ酸にN型糖鎖が付加する配列を有する。タンパク質に付加する糖鎖にはヘテロジェニティーが存在するため、物質の均一性の観点から糖鎖は付加されないほうが望ましい。そこで、20位(Kabatナンバリング)のAsn(N)残基がThr(T)残基に置換された改変体hVk5-2_L65(配列番号:53)が作製された。アミノ酸の置換はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いる当業者公知の方法で行われた。改変体hVk5-2_L65をコードするDNAが動物発現用ベクターに組み込まれた。作製された改変体hVk5-2_L65のDNAが組み込まれた動物発現用ベクターは、重鎖としてCIM_H(配列番号:45)が発現するように組み込まれた動物発現用のベクターと、参考実施例2で記載した方法で共に動物細胞中に導入された。導入された動物細胞中で発現したhVk5-2_L65 およびCIM_Hを含む抗体が、参考実施例2で記載した方法で精製された。
(3−3)糖鎖非付加型hVk5-2配列を含む抗体の物性評価
取得された改変配列hVk5-2_L65を含む抗体が、改変に供されたもとのhVk5-2配列を含む抗体よりも、そのヘテロジェニティーが減少しているか否かが、イオン交換クロマトグラフィーを用いて分析された。イオン交換クロマトグラフィーの方法を表13に示した。分析の結果、図14に示したように糖鎖付加部位が改変されたhVk5-2_L65は、元のhVk5-2配列よりもヘテロジェニティーが減少していることが示された。
Figure 2022000472
次に、ヘテロジェニティーが減少したhVk5-2_L65配列を含む抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが、参考実施例2に記載された方法を用いて評価された。その結果、表14に示されるように、糖鎖付加部位が改変されたhVk5-2_L65を含む抗体のFabドメインのTm値も、抗体溶液中のカルシウムイオンの濃度の変化によって変動した。すなわち、糖鎖付加部位が改変されたhVk5-2_L65を含む抗体のFabドメインにカルシウムイオンが結合することが示された。
Figure 2022000472
(参考実施例4)hVk5-2配列のCDR配列を含む抗体分子に対するカルシウムイオンの結合活性の評価
(4−1)hVk5-2配列のCDR配列を含む改変抗体の作製、発現および精製
hVk5-2_L65配列はヒトVk5-2配列のフレームワークに存在する糖鎖付加部位のアミノ酸が改変された配列である。参考実施例3で糖鎖付加部位を改変してもカルシウムイオンが結合することが示されたが、フレームワーク配列は生殖細胞系列の配列であることが免疫原性の観点から一般的には望ましい。そこで、抗体のフレームワーク配列を、当該抗体に対するカルシウムイオンの結合活性を維持しながら、糖鎖が付加されない生殖細胞系列配列のフレームワーク配列に置換することが可能であるか否かが検討された。
化学合成されたhVk5-2配列のフレームワーク配列がhVk1、hVk2、hVk3および hVk4配列に改変された配列(それぞれCaVk1(配列番号:54)、CaVk2(配列番号:55)、CaVk3(配列番号:56)、CaVk4(配列番号:57)をコードするポリヌクレオチドが、PCR法によって天然型Kappa鎖の定常領域(配列番号:44)をコードするポリヌクレオチドと連結されたDNA断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれた。作製された改変体の配列は当業者公知の方法で確認された。上記のように作製された各プラスミドは、CIM_H(配列番号:45)をコードするポリヌクレオチドが組み込まれたプラスミドと共に参考実施例2で記載された方法で動物細胞に導入された。上記のように導入された動物細胞の培養液から、発現した所望の抗体分子が精製された。
(4−2)hVk5-2配列のCDR配列を含む改変抗体のカルシウムイオン結合活性の評価
hVk5-2配列以外の生殖細胞系列配列(hVk1、hVk2、hVk3、hVk4)のフレームワーク配列およびhVK5-2配列のCDR配列を含む改変抗体に、カルシウムイオンが結合するか否かが参考実施例2に記載された方法によって評価された。評価された結果が表15に示される。各改変抗体のFabドメインのTm値は、抗体溶液中のカルシウムイオン濃度の変化によって変動することが示された。よって、hVk5-2配列のフレームワーク配列以外のフレームワーク配列を含む抗体もカルシウムイオンと結合することが示された。
Figure 2022000472
さらに、hVk5-2配列以外の生殖細胞系列配列(hVk1、hVk2、hVk3、hVk4)のフレームワーク配列およびhVK5-2配列のCDR配列を含むように改変された各抗体のFabドメインの熱安定性の指標である熱変性温度(Tm値)は、改変に供されたもとのhVk5-2配列を含む抗体のFabドメインのTm値よりも増加することが明らかになった。この結果から、hVk1、hVk2、hVk3、hVk4のフレームワーク配列およびhVk5-2配列のCDR配列を含む抗体はカルシウムイオンと結合する性質を有する上に、熱安定性の観点でも優れた分子であることが見出された。
(参考実施例5)ヒト生殖細胞系列hVk5-2配列に存在するカルシウムイオン結合部位の同定
(5−1)hVk5-2配列のCDR配列中の変異部位の設計
参考実施例4に記載したように、hVk5-2配列のCDR部分が他の生殖細胞系列のフレームワーク配列に導入された軽鎖を含む抗体もカルシウムイオンと結合することが示された。この結果からhVk5-2に存在するカルシウムイオン結合部位はCDRの中に存在することが示唆された。カルシウムイオンと結合する、すなわち、カルシウムイオンをキレートするアミノ酸として、負電荷のアミノ酸もしくは水素結合のアクセプターとなりうるアミノ酸が挙げられる。そこで、hVk5-2配列のCDR配列中に存在するAsp(D)残基またはGlu(E)残基がAla(A)残基に置換された変異hVk5-2配列を含む抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが評価された。
(5−2)hVk5-2配列のAla置換体の作製ならびに抗体の発現および精製
hVk5-2配列のCDR配列中に存在するAspおよび/ またはGlu残基がAla残基に改変された軽鎖を含む抗体分子が作製された。参考実施例3で記載されるように、糖鎖が付加されない改変体hVk5-2_L65はカルシウムイオン結合を維持していたことから、カルシウムイオン結合性という観点ではhVk5-2配列と同等と考えられる。本参考実施例ではhVk5-2_L65をテンプレート配列としてアミノ酸置換が行われた。作製された改変体を表16に示した。アミノ酸の置換はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)、PCRまたはIn fusion Advantage PCR cloning kit(TAKARA)等の当業者公知の方法によって行われ、アミノ酸が置換された改変軽鎖の発現ベクターが構築された。
Figure 2022000472
得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定された。作製された改変軽鎖の発現ベクターを重鎖CIM_H(配列番号:45)の発現ベクターと共に、ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)、またはFreeStyle293細胞(Invitrogen)に一過性に導入することによって、抗体を発現させた。得られた培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(GEヘルスケア)を用いて当業者公知の方法で、抗体が精製された。精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が、分光光度計を用いて測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(5−3)hVk5-2配列のAla置換体を含む抗体のカルシウムイオン結合活性評価
得られた精製抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが参考実施例2に記載された方法によって判定された。その結果を表17に示した。hVk5-2配列のCDR配列中に存在するAspまたはGlu残基をカルシウムイオンの結合もしくはキレートに関与できないAla残基に置換することによって、抗体溶液のカルシウムイオン濃度の変化によってそのFabドメインのTm値が変動しない抗体が存在した。Ala置換によってTm値が変動しない置換部位(32位および92位(Kabatナンバリング))はカルシウムイオンと抗体の結合に特に重要であることが示された。
Figure 2022000472
(参考実施例6)カルシウムイオン結合モチーフを有するhVk1配列を含む抗体のカルシウムイオン結合活性の評価
(6−1)カルシウムイオン結合モチーフを有するhVk1配列の作製ならびに抗体の発現および精製
参考実施例4で記載されたAla置換体のカルシウムの結合活性の結果から、hVk5-2配列のCDR配列の中でAspやGlu残基がカルシウム結合に重要であることが示された。そこで、30位、31位、32位、50位および92位(Kabatナンバリング)の残基のみを他の生殖細胞系列の可変領域配列に導入してもカルシウムイオンと結合できるか否かが評価された。具体的には、ヒト生殖細胞系配列であるhVk1配列の30位、31位、32位、50位および92位(Kabatナンバリング)の残基がhVk5-2配列の30位、31位、32位、50位および92位(Kabatナンバリング)の残基に置換された改変体LfVk1_Ca(配列番号:66)が作製された。すなわち、hVk5-2配列中のこれらの5残基のみが導入されたhVk1配列を含む抗体がカルシウムと結合できるか否かが判定された。改変体の作製は参考実施例5と同様に行われた。得られた軽鎖改変体LfVk1_Caおよび軽鎖hVk1配列を含むLfVk1(配列番号:67)を、重鎖CIM_H(配列番号:45)と共に発現させた。抗体の発現および精製は参考実施例4と同様の方法で実施された。
(6−2)カルシウムイオン結合モチーフを有するヒトhVk1配列を含む抗体のカルシウムイオン結合活性の評価
上記のように得られた精製抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが参考実施例2に記載された方法で判定された。その結果を表18に示す。hVk1配列を有するLfVk1を含む抗体のFabドメインのTm値は抗体溶液中のカルシウムの濃度の変化によっては変動しない一方で、LfVk1_Caを含む抗体配列の、Tm値は、抗体溶液中のカルシウムの濃度の変化によって1℃以上変化したことから、LfVk1_Caを含む抗体がカルシウムと結合することが示された。上記の結果から、カルシウムイオンの結合には、hVk5-2のCDR配列がすべて必要ではなく、LfVk1_Ca配列を構築する際に導入された残基のみでも十分であることが示された。
Figure 2022000472
(参考実施例7)Ca濃度依存的に抗原に結合する結合抗体が効率よく取得できるように、カルシウムイオン結合モチーフが可変領域に導入された抗体分子の集団(Caライブラリ)の設計
カルシウム結合モチーフとして、例えばhVk5-2配列やそのCDR配列、さらに残基が絞られた30位、31位、32位、50位、92位(Kabatナンバリング)が好適に挙げられる。他にも、カルシウムと結合するタンパク質が有するEFハンドモチーフ(カルモジュリンなど)やCタイプレクチン(ASGPRなど)もカルシウム結合モチーフに該当する。
Caライブラリは重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成される。重鎖可変領域はヒト抗体配列が使用され、軽鎖可変領域にカルシウム結合モチーフが導入された。カルシウム結合モチーフが導入される軽鎖可変領域のテンプレート配列として、hVk1配列が選択された。hVk1配列にカルシウム結合モチーフのうちの一つであるhVk5-2のCDR配列が導入されたLfVk1_Ca配列を含む抗体は参考実施例5で示したように、カルシウムイオンと結合することが示された。テンプレート配列に複数のアミノ酸を出現させてライブラリを構成する抗原結合分子の多様性が拡げられた。複数のアミノ酸を出現させる位置は、抗原と相互作用する可能性が高い可変領域の表面に露出する位置が選択された。具体的には、30位、31位、32位、34位、50位、53位、91位、92位、93位、94位および96位(Kabatナンバリング)が、こうしたフレキシブル残基として選択された。
次に出現させるアミノ酸残基の種類とその出現率が設定された。Kabatデータベース(KABAT, E.A. ET AL.: 'Sequences of proteins of immunological interest', vol. 91, 1991, NIH PUBLICATION)に登録されているhVk1とhVk3の配列中のフレキシブル残基におけるアミノ酸の出現頻度が解析された。解析結果を元に、各位置で出現頻度が高いアミノ酸からCaライブラリで出現させるアミノ酸の種類が選択された。この際、アミノ酸の性質が偏らないように解析結果では出現頻度が少ないと判定されたアミノ酸も選択された。また、選択されたアミノ酸の出現頻度は、Kabatデータベースの解析結果を参考にして設定された。
以上のように設定されたアミノ酸および出現頻度を考慮することによって、Caライブラリとして、カルシウム結合モチーフを含み、当該モチーフ以外の各残基で複数のアミノ酸を含むような配列の多様性が重視されたCaライブラリが設計された。表1および2にCaライブラリの詳細なデザインを示した(各表中の位置はKabatナンバリングを表す)。また、表1および2に記載されるアミノ酸の出現頻度は、Kabatナンバリングで表される92位がAsn(N)の場合、94位はSer(S)ではなくLeu(L)とすることができる。
(参考実施例8)Caライブラリの作製
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型としてPCR法により抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリが増幅された。抗体軽鎖可変領域部分については、参考実施例7に記載されるように、カルシウム結合モチーフを維持しカルシウム濃度依存的に抗原に対して結合可能な抗体の出現頻度を高めた抗体可変領域軽鎖部分が設計された。また、フレキシブル残基のうちカルシウム結合モチーフが導入された残基以外のアミノ酸残基として、天然ヒト抗体でのアミノ酸出現頻度の情報((KABAT, E.A. ET AL.: 'Sequences of proteins of immunological interest', vol. 91, 1991, NIH PUBLICATION)が参考にされ、天然ヒト抗体の配列中で出現頻度の高いアミノ酸を均等に分布させた抗体軽鎖可変領域のライブラリが設計された。このように作製された抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリと抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリとの組合せがファージミドベクターへ挿入され、ヒト抗体配列からなるFabドメインを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリ(Methods Mol Biol. (2002) 178, 87-100)が構築された。
抗体遺伝子ライブラリが導入された大腸菌から単離された抗体遺伝子部分についての配列が確認された。得られた290種類のクローンの配列のアミノ酸分布と、設計したアミノ酸分布を、図15に示した。
(参考実施例9)Caライブラリに含まれる分子のカルシウムイオン結合活性の評価
(9−1)Caライブラリに含まれる分子のカルシウムイオン結合活性
参考実施例3に示したように、カルシウムイオンと結合することが示されたhVk5-2配列は生殖細胞系列配列中で出現頻度が低い配列であるため、ヒト生殖細胞系列配列で構成される抗体ライブラリやヒト抗体を発現するマウスへの免疫によって取得されたB細胞から、カルシウムと結合する抗体を取得することは非効率であると考えられた。そこで、参考実施例8でCaライブラリが構築された。構築されたCaライブラリにカルシウム結合を示すクローンが存在するか評価された。
(9−2)抗体の発現と精製
Caライブラリに含まれるクローンが、動物細胞発現用プラスミドへ導入される。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ播種された。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37℃、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(9−3)取得された抗体へのカルシウムイオン結合評価
上記のように得られた精製抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが実施例6に記載された方法で判定された。その結果を表19に示す。Caライブラリに含まれる複数の抗体のFabドメインのTmはカルシウムイオン濃度によって変動し、カルシウムイオンと結合する分子が含まれることが示された。
Figure 2022000472
(参考実施例10)Ca依存的にIL-6レセプターに結合する抗体の取得
(10−1)ビーズパンニングによるライブラリからのCa依存的に抗原に結合する抗体断片の取得
構築されたCa依存的にIL-6レセプターに結合する抗体ライブラリからの最初の選抜は、抗原(IL-6レセプター)への結合能をもつ抗体断片のみの濃縮によって実施された。
構築したファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われた。ファージ産生が行われた大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによって沈殿させたファージの集団をTBSにて希釈することによってファージライブラリ液が得られた。次に、ファージライブラリ液にBSA、およびCaCl2を添加することによって終濃度4%BSA、1.2 mMカルシウムイオンとなるよう調製された。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18(2) 212-20、Mol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。
具体的には、調製されたファージライブラリ液に250 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、当該ファージライブラリ液を室温にて60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温にて15分間結合させた。ビーズは1mLの1.2 mM CaCl2/TBST(1.2 mM CaCl2を含むTBST)にて3回洗浄された後、1 mLの1.2 mM CaCl2/TBS(1.2 mM CaCl2を含むTBS)にてさらに2回洗浄された。その後、1mg/mLのトリプシン0.5mLが加えられたビーズは室温で15分懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株ER2738に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は、225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリ液が調製された。
2回目のパンニングでは、抗原結合能もしくはCa依存的結合能を指標にファージの濃縮が行われた。
具体的には、抗原結合能を指標に濃縮を行った際には、調製したファージライブラリ液に40 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、ファージライブラリを室温で60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温で15分間結合させた。ビーズは1 mLの1.2 mM CaCl2/TBSTにて3回、1.2 mM CaCl2/TBSにて2回洗浄された。その後、1 mg/mLのトリプシン0.5 mLが加えられたビーズは室温で15分懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液に、100 mg/mLのトリプシン5μLを加えることによって、Fabを提示しないファージのpIIIタンパク質(ヘルパーファージ由来のpIIIタンパク質)が切断され、Fabを提示しないファージの大腸菌に対する感染能を失わせた。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株ER2738に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによってファージライブラリ液が回収された。
Ca依存的結合能を指標に濃縮を行った際には、調製したファージライブラリ液に40 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、ファージライブラリを室温で60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温で15分間結合させた。ビーズは1 mLの1.2 mM CaCl2/TBSTと1.2 mM CaCl2/TBSにて洗浄された。その後、0.1 mLの2 mM EDTA/TBS(2 mMのEDTAを含むTBS)が加えられたビーズは室温で懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液に、100 mg/mLのトリプシン5μLを加えることによって、Fabを提示しないファージのpIIIタンパク質(ヘルパーファージ由来のpIIIタンパク質)が切断され、Fabを提示しないファージの大腸菌に対する感染能を失わせた。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株ER2738に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによってファージライブラリ液が回収された。
(10−2)ファージELISAによる評価
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習い、ファージ含有培養上清が回収された。
BSAおよびCaCl2が加えられたファージを含有する培養上清が以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がビオチン標識抗原を含む100μLのPBSにて一晩コートされた。当該プレートの各ウェルをPBSTにて洗浄することによって抗原が除かれた後、当該ウェルが4% BSA-TBS 250μLにて1時間以上ブロッキングされた。4% BSA-TBSが除かれた各ウェルに調製された培養上清が加えられた当該プレートを37℃で1時間静置することによって、ファージを提示する抗体を各ウェルに存在する抗原に結合させた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された各ウェルに、1.2 mM CaCl2/TBSもしくは1 mM EDTA/TBSが加えられ、当該プレートは37℃で30分間静置しインキュベートされた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された後に、イオン化カルシウム濃度1.2 mMとしたTBSによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)が各ウェルに添加されたプレートを1時間インキュベートさせた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が、硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。
上記のファージELISAを実施したクローンに対し、特異的なプライマーを用いて増幅された遺伝子の塩基配列解析が行われた。ファージELISA、配列解析の結果を以下の表20に示した。
Figure 2022000472
(10−3)抗体の発現と精製
ファージELISAの結果、Ca依存的な抗原に対する結合能があると判断されたクローンが、動物細胞発現用プラスミドへ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ播種された。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(10−4)取得された抗体のヒトIL-6レセプターに対するCa依存的結合能の評価
参考実施例9で取得された抗体6RC1IgG_010(重鎖配列番号:90、軽鎖配列番号:91)、および、6RC1IgG_012(重鎖配列番号:92、軽鎖配列番号:93)、および、6RC1IgG_019(重鎖配列番号:94、軽鎖配列番号:95)のヒトIL-6レセプターに対する結合活性がCa依存的であるかどうかを判断するため、これらの抗体とヒトIL-6レセプターとの相互作用解析がBiacore T100(GE Healthcare)を用いて行われた。ヒトIL-6レセプターに対するCa依存性の結合活性を有しない対照抗体として、トリシズマブ(重鎖配列番号:96、軽鎖配列番号:97)が用いられた。高カルシウムイオン濃度および低カルシウムイオン濃度の条件として、それぞれ1.2 mMおよび3μMのカルシウムイオン濃度の溶液中で相互作用解析が行われた。アミンカップリング法でprotein A/G(Invitrogen)が適当量固定化されたSensor chip CM5(GE Healthcare)上に、目的の抗体がキャプチャーされた。ランニングバッファーには20 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% (w/v) Tween20、1.2 mM CaCl2(pH7.4)または20 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% (w/v) Tween20、3μM CaCl2(pH7.4)の2種類の緩衝液が用いられた。ヒトIL-6レセプターの希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。測定は全て37℃で実施された。
対照抗体であるトシリズマブ抗体、6RC1IgG_010抗体および6RC1IgG_012抗体および6RC1IgG_019抗体を用いた抗原抗体反応の相互作用解析に際して、IL-6レセプターの希釈液とブランクであるランニングバッファーを流速5μL/minで3分間インジェクトすることによって、センサーチップ上にキャプチャーさせたトシリズマブ抗体、6RC1IgG_010抗体および6RC1IgG_012抗体および6RC1IgG_019抗体にIL-6レセプターを相互作用させた。その後、10 mM Glycine-HCl(pH1.5)を流速30μL/minで30秒間インジェクトすることによって、センサーチップが再生された。
この方法により測定された高カルシウムイオン濃度におけるセンサーグラムを、図16に示した。
低カルシウムイオン濃度の条件下でのトシリズマブ抗体、6RC1IgG_010抗体および6RC1IgG_012抗体および6RC1IgG_019抗体についてのセンサーグラムも、同様の方法で取得した。低カルシウムイオン濃度におけるセンサーグラムを、図17に示した。
上記の結果から、6RC1IgG_010抗体および6RC1IgG_012抗体および6RC1IgG_019抗体は、バッファー中のカルシウムイオン濃度を1.2mMから3μMにすることで、IL6レセプターに対する結合能が大幅に低減することが観察された。
(参考実施例11)ファージディスプレイ技術を用いたヒト抗体ライブラリからのCa依存的にIL-6レセプターに結合する抗体の取得
(11−1)ナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリの作製
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型として当業者に公知な方法にしたがい、互いに異なるヒト抗体配列のFabドメインを提示する複数のファージからなるヒト抗体ファージディスプレイライブラリが構築された。
(11−2)ビーズパンニングによるライブラリからのCa依存的に抗原に結合する抗体断片の取得
構築されたナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリからの最初の選抜は、抗原(IL-6レセプター)への結合能をもつ抗体断片のみの濃縮、または、Ca濃度依存的な抗原(IL-6レセプター)への結合能を指標とした抗体断片の濃縮によって実施された。Ca濃度依存的な抗原(IL-6レセプター)への結合能を指標として抗体断片の濃縮は、CaイオンをキレートするEDTAを用いてCaイオン存在下でIL-6レセプターと結合させたファージライブラリからファージを溶出することによって実施された。抗原としてビオチン標識されたIL-6レセプターが用いられた。
構築したファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われた。ファージ産生が行われた大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによって沈殿させたファージの集団をTBSにて希釈することによってファージライブラリ液が得られた。次に、ファージライブラリ液に終濃度4%BSAおよび1.2mMカルシウムイオン濃度となるようにBSAおよびCaCl2が添加された。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18(2) 212-20、Mol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。
具体的には、調製されたファージライブラリ液に250 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、当該ファージライブラリ液を室温にて60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温にて15分間結合させた。ビーズは1 mLの1.2 mM CaCl2/TBS(1.2 mM CaCl2を含むTBS)にて1回洗浄された。その後、IL-6レセプターへの結合能をもつ抗体断片を濃縮する場合には、一般的な方法による溶出によって、Ca濃度依存的なIL-6レセプターへの結合能を指標として抗体断片を濃縮する場合には、2 mM EDTA/TBS(2mMEDTAを含むTBS)に懸濁されたビーズからの溶出によって、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株TG1に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は、225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリ液が調製された。
2回目以降のパンニングでは、Ca依存的結合能を指標にファージの濃縮が行われた。具体的には、調製したファージライブラリ液に40 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、ファージライブラリを室温で60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温で15分間結合させた。ビーズは1 mLの1.2 mM CaCl2/TBSTと1.2 mM CaCl2/TBSにて洗浄された。その後0.1 mLの2 mM EDTA/TBSが加えられたビーズは室温で懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株TG1に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによってファージライブラリ液が回収された。Ca依存的結合能を指標とするパンニングが複数回繰り返された。
(11−3)ファージELISAによる評価
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習い、ファージ含有培養上清が回収された。
終濃度4%BSAおよび1.2 mMカルシウムイオン濃度となるようにBSAおよびCaCl2が加えられたファージを含有する培養上清が以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がビオチン標識抗原を含む100μLのPBSにて一晩コートされた。当該プレートの各ウェルをPBSTにて洗浄することによって抗原が除かれた後、当該ウェルが1時間以上250μLの4%BSA-TBSにてブロッキングされた。4%BSA-TBSが除かれた各ウェルに調製された培養上清が加えられた当該プレートを37℃で1時間静置することによって、ファージを提示する抗体を各ウェルに存在する抗原に結合させた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された各ウェルに、1.2 mM CaCl2/TBSもしくは1 mM EDTA/TBSが加えられ、当該プレートは37℃で30分間静置しインキュベートされた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された後に、終濃度4%のBSAおよび1.2 mMのイオン化カルシウム濃度としたTBSによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)が各ウェルに添加されたプレートを1時間インキュベートさせた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が、硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。
上記のファージELISAの結果、Ca依存的な抗原に対する結合能があると判断される抗体断片を鋳型として特異的なプライマーによって増幅された遺伝子の塩基配列解析が行われた。
(11−4)抗体の発現と精製
ファージELISAの結果、Ca依存的な抗原に対する結合能があると判断されたクローンが、動物細胞発現用プラスミドへ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ蒔きこまれた。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われる。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(参考実施例12)取得された抗体のヒトIL-6レセプターに対するCa依存的結合能の評価
参考実施例11で取得された抗体6RL#9-IgG1(重鎖(配列番号:98にIgG1由来定常領域が連結された配列)、軽鎖(配列番号:99))、および、FH4-IgG1(重鎖配列番号:100、軽鎖配列番号:101))のヒトIL-6レセプターに対する結合活性がCa依存的であるかどうかを判断するため、これらの抗体とヒトIL-6レセプターとの抗原抗体反応の速度論的解析がBiacore T100(GE Healthcare)を用いて行われた。ヒトIL-6レセプターに対するCa依存性の結合活性を有しない対照抗体として、WO2009/125825に記載されているH54/L28-IgG1(重鎖配列番号:102、軽鎖配列番号:103)が用いられた。高カルシウムイオン濃度および低カルシウムイオン濃度の条件として、それぞれ2 mMおよび3μMのカルシウムイオン濃度の溶液中で抗原抗体反応の速度論的解析が行われた。アミンカップリング法でprotein A(Invitrogen)が適当量固定化されたSensor chip CM4(GE Healthcare)上に、目的の抗体がキャプチャーされた。ランニングバッファーには10 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% (w/v) Tween20、2 mM CaCl2(pH7.4)または10 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% (w/v) Tween20、3μmol/L CaCl2(pH7.4)の2種類の緩衝液が用いられた。ヒトIL-6レセプターの希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。測定は全て37℃で実施された。
H54L28-IgG1抗体を用いた抗原抗体反応の速度論的解析に際して、IL-6レセプターの希釈液とブランクであるランニングバッファーを流速20μL/minで3分間インジェクトすることによって、センサーチップ上にキャプチャーさせたH54L28-IgG1抗体にIL-6レセプターを相互作用させた。その後、流速20μL/minで10分間ランニングバッファーを流しIL-6レセプターの解離が観察された後、10 mM Glycine-HCl(pH1.5)を流速30μL/minで30秒間インジェクトすることによって、センサーチップが再生された。測定で得られたセンサーグラムから、カイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka(1/Ms)、および解離速度定数 kd(1/s)が算出された。これらの値を用いてH54L28-IgG1抗体のヒトIL-6レセプターに対する解離定数KD(M)が算出された。各パラメーターの算出にはBiacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
FH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体を用いた抗原抗体反応の速度論的解析に際しては、IL-6レセプターの希釈液とブランクであるランニングバッファーを流速5μL/minで15分間インジェクトすることによって、センサーチップ上にキャプチャーさせたFH4-IgG1抗体または6RL#9-IgG1抗体にIL-6レセプターを相互作用させた。その後、10 mM Glycine-HCl(pH1.5)を流速30μL/minで30秒間インジェクトすることによって、センサーチップが再生された。測定で得られたセンサーグラムからsteady state affinity modelを使って解離定数KD(M)が算出された。各パラメーターの算出には Biacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
この方法により決定された2 mM CaCl2存在下における各抗体とIL-6レセプターとの解離定数KDを表21に示した。
Figure 2022000472
Ca濃度が3μMの条件下でのH54/L28-IgG1抗体のKDは、2 mM Ca濃度存在下と同様の方法で算出することが可能である。Ca濃度が3μMの条件下では、FH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体は、IL-6レセプターに対する結合はほとんど観察されなかったため、上記の方法によるKDの算出は困難である。しかし、下記の式1(Biacore T100 Software Handbook, BR-1006-48, AE 01/2007)を用いることによって、Ca濃度が3μMの条件下でのこれらの抗体のKDを予測することが可能である。
(式1)
Figure 2022000472
上記(式1)中の各項目の意味は下記;
Req(RU): 定常状態結合レベル(Steady state binding levels)
Rmax(RU):アナライトの表面結合能(Analyte binding capacity of the surface)
RI(RU): 試料中の容積屈折率寄与(Bulk refractive index contribution in the sample)
C(M): アナライト濃度(Analyte concentration)
KD(M): 平衡解離定数(Equilibrium dissociation constant)
で表される。
上記の(式1)を用いた、Ca濃度が3μmol/Lの場合の各抗体とIL-6レセプターとの解離定数KDの予測される概算結果を表22に示した。表22中の、Req、Rmax、RI、Cは測定結果を基に仮定された値である。
Figure 2022000472
上記の結果から、FH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体は、バッファー中のCaCl2の濃度を2 mMから3μMに減少することで、IL-6レセプターに対するKDがそれぞれ約60倍、約120倍上昇(60倍、120倍以上アフィニティーが低減)すると予測された。
表23にH54/L28-IgG1、FH4-IgG1、6RL#9-IgG1の3種類の抗体の2 mM CaCl2存在下および3μM CaCl2存在下におけるKD値、および、KD値のCa依存性についてまとめた。
Figure 2022000472
Ca濃度の違いによるH54/L28-IgG1抗体のIL-6レセプターに対する結合の違いは観察されなかった。その一方、低濃度のCa条件下ではFH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体のIL-6レセプターに対する結合の著しい減弱が観察された(表23)。
(参考実施例13)取得された抗体へのカルシウムイオン結合評価
次に、抗体へのカルシウムイオンの結合の評価の指標として、示差走査型熱量測定(DSC)による熱変性中間温度(Tm値)が測定された(MicroCal VP-Capillary DSC、MicroCal)。熱変性中間温度(Tm値)は安定性の指標であり、カルシウムイオンの結合によってタンパク質が安定化すると、熱変性中間温度(Tm値)はカルシウムイオンが結合していない場合に比べて高くなる(J. Biol. Chem. (2008) 283, 37, 25140-25149)。抗体溶液中のカルシウムイオン濃度の変化に応じた抗体のTm値の変化を評価することによって、抗体へのカルシウムイオンの結合活性が評価された。精製された抗体が20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、2 mM CaCl2(pH7.4)または20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl, 3μM CaCl2(pH7.4)の溶液を外液とする透析(EasySEP、TOMY)処理に供された。透析に用いられた溶液を用いておよそ0.1 mg/mLに調製された抗体溶液を被験物質として、20℃から115℃まで240℃/hrの昇温速度でDSC測定が行われた。得られたDSCの変性曲線にもとづいて算出された各抗体のFabドメインの熱変性中間温度(Tm値)を表24に示した。
Figure 2022000472
表24の結果から、カルシウム依存的結合能を示すFH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体のFabのTm値はカルシウムイオンの濃度の変化により変動し、カルシウム依存的結合能を示さないH54/L28-IgG1抗体のFabのTm値はカルシウムイオンの濃度の変化により変動しないことが示された。FH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体のFabのTm値の変動は、これらの抗体にカルシウムイオンが結合し、Fab部分が安定化したことを示している。上記の結果より、FH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体にはカルシウムイオンが結合し、一方でH54/L28-IgG1抗体にはカルシウムイオンが結合していないことが示された。
(参考実施例14)6RL#9抗体のカルシウムイオン結合部位のX線結晶構造解析による同定
(14−1)X線結晶構造解析
参考実施例13に示されたように、6RL#9抗体はカルシウムイオンと結合することが熱変性温度Tm値の測定から示唆された。しかし、6RL#9抗体のどの部位がカルシウムイオンと結合しているか予想できなかったため、X線結晶構造解析の手法を用いることによって、カルシウムイオンが相互作用する6RL#9抗体の配列中の残基が特定された。
(14−2)6RL#9抗体の発現および精製
X線結晶構造解析に用いるために発現させた6RL#9抗体が精製された。具体的には、6RL#9抗体の重鎖(配列番号:98にIgG1由来定常領域が連結された配列)と軽鎖(配列番号:99)をそれぞれ発現させることが出来るように調製された動物発現用プラスミドが動物細胞に一過的に導入された。最終細胞密度1 x 106細胞/mLとなるようにFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)へ懸濁された800 mLのヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)に、リポフェクション法により調製されたプラスミドが導入された。プラスミドが導入された細胞はCO2インキュベーター(37℃、8%CO2、90 rpm)中で5日間培養された。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いた当業者公知の方法にしたがって、上記のように得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いて測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(14−3)6RL#9抗体からのFabフラグメントの精製
分子量分画サイズ10000MWCOの限外ろ過膜 を用いて6RL#9抗体が21 mg/mLまで濃縮された。L-Cystein 4 mM、EDTA 5 mM、20 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.5)を用いて5 mg/mLによって希釈された2.5 mLの当該抗体の試料が調製された。0.125 mgのPapain(Roche Applied Science)を加えて攪拌された当該試料が35℃にて2時間静置された。静置後、プロテアーゼインヒビターカクテルミニ、EDTAフリー(Roche Applied Science)1錠を溶かした10 mLの25 mM MES 緩衝液(pH6)をさらに当該試料に加え、氷中に静置することによって、Papainによるプロテアーゼ反応が停止された。次に、当該試料が、下流に1 mLサイズのProteinA担体カラムHiTrap MabSelect Sure(GE Healthcare)がタンデムにつながれた25 mM MES 緩衝液pH6で平衡化された1 mLサイズの陽イオン交換カラムHiTrap SP HP(GE Healthcare)に添加された。同緩衝液中NaCl濃度を300 mMまで直線的に上げて溶出をおこなうことで6RL#9抗体のFabフラグメントの精製画分が得られた。次に、得られた精製画分が5000MWCOの限外ろ過膜 により0.8 mL程度まで濃縮された。50 mM NaCl を含む100 mM HEPES緩衝液(pH 8)で平衡化されたゲルろ過カラムSuperdex 200 10/300 GL(GE Healthcare)に濃縮液が添加された。結晶化用の精製6RL#9抗体のFabフラグメントが同緩衝液を用いてカラムから溶出された。なお、上記のすべてのカラム操作は6から7.5℃の低温下にて実施された。
(14−4)6RL#9抗体の FabフラグメントのCa存在下での結晶化
予め一般的な条件設定で6RL#9 Fabフラグメントの種結晶が得られた。つぎに5 mM となるようにCaCl2が加えられた精製6RL#9抗体のFabフラグメントが5000MWCOの限外ろ過膜を用いて12 mg/mLに濃縮された。つぎに、ハンギングドロップ蒸気拡散法によって、前記のように濃縮された試料の結晶化が実施された。リザーバー溶液として20-29%のPEG4000を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)が用いられた。カバーグラス上で0.8μlのリザーバー溶液および0.8μlの前記濃縮試料の混合液に対して、29% PEG4000および5 mM CaCl2を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)中で破砕された前記種結晶が100-10000倍に希釈された希釈系列の溶液0.2μlを加えることによって結晶化ドロップが調製された。当該結晶化ドロップを20℃に2日から3日静置することによって得られた薄い板状の結晶のX線回折データが測定された。
(14−5)6RL#9抗体の FabフラグメントのCa非存在下での結晶化
精製6RL#9抗体のFabフラグメントが5000MWCOの限外ろ過膜 を用いて15 mg/mlに濃縮された。つぎに、ハンギングドロップ蒸気拡散法によって、前記のように濃縮された試料の結晶化が実施された。リザーバー溶液として18-25%のPEG4000を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)が用いられた。カバーグラス上で0.8μlのリザーバー溶液および0.8μlの前記濃縮試料の混合液に対して、25% PEG4000を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)中で破砕されたCa存在下で得られた6RL#9抗体のFabフラグメントの結晶が100-10000倍に希釈された希釈系列の溶液0.2μlを加えることによって結晶化ドロップが調製された。当該結晶化ドロップを20℃に2日から3日静置することによって得られた薄い板状の結晶のX線回折データが測定された。
(14−6)6RL#9抗体の FabフラグメントのCa存在下での結晶のX線回折データの測定
35% PEG4000および5 mM CaCl2を含む100mM HEPES緩衝液(pH7.5)の溶液に浸された6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下で得られた単結晶一つを、微小なナイロンループ付きのピンを用いて外液ごとすくいとることによって、当該単結晶が液体窒素中で凍結された。高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーのビームラインBL-17Aを用いて、前記の凍結結晶のX線回折データが測定された。なお、測定中は常に-178℃の窒素気流中に凍結結晶を置くことで凍結状態が維持された。ビームラインに備え付けられたCCDディテクタQuantum315r(ADSC)を用い、結晶を1°ずつ回転させながらトータル180枚の回折画像が収集された。格子定数の決定、回折斑点の指数付け、および回折データの処理がプログラムXia2(CCP4 Software Suite)、XDS Package(Walfgang Kabsch)ならびにScala(CCP4 Software Suite)によって行われた。最終的に分解能2.2Åまでの回折強度データが得られた。本結晶は、空間群P212121に属し、格子定数a=45.47Å、b=79.86Å、c=116.25Å、α=90°、β=90°、γ=90°であった。
(14−7)6RL#9抗体の FabフラグメントのCa非存在下での結晶のX線回折データの測定
35% PEG4000を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)の溶液に浸された6RL#9抗体のFabフラグメントのCa非存在下で得られた単結晶一つを、微小なナイロンループ付きのピンを用いて外液ごとすくいとることによって、当該単結晶が液体窒素中で凍結された。高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーのビームラインBL-5Aを用いて、前記の凍結結晶のX線回折データが測定された。なお、測定中は常に-178℃の窒素気流中に凍結結晶を置くことで凍結状態が維持された。ビームラインに備え付けられたCCDディテクタQuantum210r(ADSC)を用い、結晶を1°ずつ回転させながらトータル180枚の回折画像が収集された。格子定数の決定、回折斑点の指数付け、および回折データの処理がプログラムXia2(CCP4 Software Suite)、XDS Package(Walfgang Kabsch)ならびにScala(CCP4 Software Suite)によって行われた。最終的に分解能2.3Åまでの回折強度データが得られた。本結晶は、空間群P212121に属し、格子定数a=45.40Å、b=79.63Å、c=116.07Å、α=90°、β=90°、γ=90°であり、Ca存在下の結晶と同型であった。
(14−8)6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下での結晶の構造解析
プログラムPhaser(CCP4 Software Suite)を用いた分子置換法によって、6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下での結晶の構造が決定された。得られた結晶格子の大きさと6RL#9抗体のFabフラグメントの分子量から、非対称単位中の分子数が一個であると予想された。一次配列上の相同性をもとにPDB code: 1ZA6の構造座標から取り出されたA鎖112-220番およびB鎖116-218番のアミノ酸残基部分が、CLおよびCH1領域の探索用モデル分子とされた。次にPDB code: 1ZA6の構造座標から取り出されたB鎖1-115番のアミノ酸残基部分が、VH領域の探索用モデル分子とされた。最後にPDB code 2A9Mの構造座標から取り出された軽鎖3-147番のアミノ酸残基が、VL領域の探索用モデル分子とされた。この順番にしたがい各探索用モデル分子の結晶格子内での向きと位置を回転関数および並進関数から決定することによって、6RL#9抗体のFabフラグメントの初期構造モデルが得られた。当該初期構造モデルに対してVH、VL、CH1、CLの各ドメインを動かす剛体精密化をおこなうことにより、25-3.0Åの反射データに対する結晶学的信頼度因子R値は46.9%、Free R値は48.6%となった。さらにプログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いた構造精密化と、実験的に決定された構造因子Foとモデルから計算された構造因子Fcおよび位相を用い計算された2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップを参照しながらモデル修正を繰り返しプログラムCoot(Paul Emsley)上でおこなうことによってモデルの精密化がおこなわれた。最後に2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをもとにCaイオンおよび水分子をモデルに組み込むことによって、プログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いて精密化がおこなわれた。分解能25-2.2Åの21020個の反射データを用いることによって、最終的に3440原子のモデルに対する結晶学的信頼度因子R値は20.0%、Free R値は27.9%となった。
(14−9)6RL#9抗体のFabフラグメントのCa非存在下での結晶のX線回折データの測定
6RL#9抗体のFabフラグメントのCa非存在下での結晶の構造は、同型であるCa存在下結晶の構造を使って決定された。6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下での結晶の構造座標から水分子とCaイオン分子がのぞかれ、VH、VL、CH1、CLの各ドメインを動かす剛体精密化がおこなわれた。25-3.0Åの反射データに対する結晶学的信頼度因子R値は30.3%、Free R値は31.7%となった。さらにプログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いた構造精密化と、実験的に決定された構造因子Foとモデルから計算された構造因子Fcおよび位相を用い計算された2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップを参照しながらモデル修正を繰り返しプログラムCoot(Paul Emsley)上でおこなうことによってモデルの精密化がおこなわれた。最後に2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをもとに水分子をモデルに組み込むことによって、プログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いて精密化がおこなわれた。分解能25-2.3Åの18357個の反射データを用いることによって、最終的に3351原子のモデルに対する結晶学的信頼度因子R値は20.9%、Free R値は27.7%となった。
(14−10)6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在または非存在下での結晶のX線回析データの比較
6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下での結晶およびCa非存在下での結晶の構造を比較すると、重鎖CDR3に大きな変化がみられた。X線結晶構造解析で決定された6RL#9抗体のFabフラグメントの重鎖CDR3の構造を図18に示した。具体的には、Ca存在下での6RL#9抗体のFabフラグメントの結晶では、重鎖CDR3ループ部分の中心部分にカルシウムイオンが存在していた。カルシウムイオンは、重鎖CDR3の95位、96位および100a位(Kabatナンバリング)と相互作用していると考えられた。Ca存在下では、抗原との結合に重要である重鎖CDR3ループがカルシウムと結合することによって安定化し、抗原との結合に最適な構造となっていることが考えられた。抗体の重鎖CDR3にカルシウムが結合する例は今までに報告されておらず、抗体の重鎖CDR3にカルシウムが結合した構造は新規な構造である。
6RL#9抗体のFabフラグメントの構造から明らかになった重鎖CDR3に存在するカルシウム結合モチーフも、参考実施例7で記載されるようなCaライブラリのデザインの新たな要素となりうる。すなわち、参考実施例7では軽鎖可変領域にカルシウム結合モチーフが導入されたが、たとえば6RL#9抗体の重鎖CDR3を含み、軽鎖を含むそれ以外のCDRにフレキシブル残基を含むライブラリが考えられる。
(参考実施例15)ファージディスプレイ技術を用いたヒト抗体ライブラリからのCa依存的にIL-6に結合する抗体の取得
(15−1)ナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリの作製
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型として当業者に公知な方法にしたがい、互いに異なるヒト抗体配列のFabドメインを提示する複数のファージからなるヒト抗体ファージディスプレイライブラリが構築された。
(15−2)ビーズパンニングによるライブラリからのCa依存的に抗原に結合する抗体断片の取得
構築されたナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリからの最初の選抜は、抗原(IL-6)への結合能をもつ抗体断片のみの濃縮によって実施された。抗原としてビオチン標識されたIL-6が用いられた。
構築したファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われた。ファージ産生が行われた大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによって沈殿させたファージの集団をTBSにて希釈することによってファージライブラリ液が得られた。次に、ファージライブラリ液に終濃度4%BSAおよび1.2mMカルシウムイオン濃度となるようにBSAおよびCaCl2が添加された。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18(2) 212-20、Mol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。
具体的には、調製されたファージライブラリ液に250 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、当該ファージライブラリ液を室温にて60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温にて15分間結合させた。ビーズは1.2 mM CaCl2/TBST(1.2 mM CaCl2を含むTBST)にて3回洗浄された後、1 mLの1.2 mM CaCl2/TBS(1.2 mM CaCl2を含むTBS)にてさらに2回洗浄された。その後、0.5 mLの1 mg/mLのトリプシンが加えられたビーズは室温で15分懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株TG1に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は、225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリ液が調製された。
2回目以降のパンニングでは、Ca依存的結合能を指標にファージの濃縮が行われた。具体的には、調製したファージライブラリ液に40 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、ファージライブラリを室温で60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温で15分間結合させた。ビーズは1 mLの1.2 mM CaCl2/TBSTと1.2 mM CaCl2/TBSにて洗浄された。その後0.1 mLの2 mM EDTA/TBSが加えられたビーズは室温で懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液に100 mg/mLのトリプシン5μLを加えることによって、Fabを提示しないファージのpIIIタンパク質(ヘルパーファージ由来のpIIIタンパク質)が切断され、Fabを提示しないファージの大腸菌に対する感染能を失わせた。トリプシン処理されたファージ溶液から回収されたファージが、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株TG1に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによってファージライブラリ液が回収された。Ca依存的結合能を指標とするパンニングが3回繰り返された。
(15−3)ファージELISAによる評価
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習い、ファージ含有培養上清が回収された。
終濃度4%BSAおよび1.2 mMカルシウムイオン濃度となるようにBSAおよびCaCl2が加えられたファージを含有する培養上清が以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がビオチン標識抗原を含む100μLのPBSにて一晩コートされた。当該プレートの各ウェルをPBSTにて洗浄することによって抗原が除かれた後、当該ウェルが1時間以上250μLの4%BSA-TBSにてブロッキングされた。4%BSA-TBSが除かれた各ウェルに調製された培養上清が加えられた当該プレートを37℃で1時間静置することによって、ファージを提示する抗体を各ウェルに存在する抗原に結合させた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された各ウェルに、1.2 mM CaCl2/TBSもしくは1 mM EDTA/TBSが加えられ、当該プレートは37℃で30分間静置しインキュベートされた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された後に、終濃度4%のBSAおよび1.2 mMのイオン化カルシウム濃度としたTBSによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)が各ウェルに添加されたプレートを1時間インキュベートさせた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が、硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。
単離された96クローンを用いてファージELISA を行うことによって、IL-6に対するCa依存的な結合能を有する6KC4-1#85抗体が得られた。上記のファージELISAの結果、Ca依存的な抗原に対する結合能があると判断される抗体断片を鋳型として特異的なプライマーによって増幅された遺伝子の塩基配列解析が行われた。6KC4-1#85抗体の重鎖可変領域の配列を配列番号:10に、および、軽鎖可変領域の配列を配列番号:104に記載した。6KC4-1#85抗体の重鎖可変領域(配列番号:10)をコードするポリヌクレオチドが、PCR法によってIgG1由来配列をコードするポリヌクレオチドと連結されたDNA断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれ、配列番号:105で表される重鎖を発現するベクターが構築された。6KC4-1#85抗体の軽鎖可変領域(配列番号:104)をコードするポリヌクレオチドが、PCR法によって天然型Kappa鎖の定常領域(配列番号:44)をコードするポリヌクレオチドと連結されたDNA断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれた。作製された改変体の配列は当業者公知の方法で確認された。作製された改変体の配列は当業者公知の方法で確認された。
(15−4)抗体の発現と精製
ファージELISAの結果、Ca依存的な抗原に対する結合能があると判断されたクローン6KC4-1#85が、動物細胞発現用プラスミドへ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ播種された。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われる。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(参考実施例16)6KC4-1#85抗体のカルシウムイオン結合評価
ヒト抗体ライブラリから取得されたカルシウム依存的抗原結合抗体6KC4-1#85抗体がカルシウムと結合するか評価された。イオン化カルシウム濃度が異なる条件で、測定されるTm値が変動するか否かが参考実施例2に記載された方法で評価された。
6KC4-1#85抗体のFabドメインのTm値を表25に示した。表25に示したように、6KC4-1#85抗体のFabドメインのTm値はカルシウムイオンの濃度によって変動していることから、6KC4-1#85抗体がカルシウムと結合することが明らかになった。
Figure 2022000472
(参考実施例17)6KC4-1#85抗体のカルシウムイオン結合部位の同定
参考実施例16で示されるように、6KC4-1#85抗体はカルシウムイオンと結合することが示されたが、6KC4-1#85はhVk5-2配列の検討から明らかになったカルシウム結合モチーフを持たない。そこで、カルシウムイオンが6KC4-1#85抗体の重鎖に結合するのか、軽鎖に結合するのかまたは両者に結合するのかを確認するために、カルシウムイオンと結合しない抗グリピカン3抗体(重鎖配列GC_H(配列番号:106)、軽鎖配列GC_L(配列番号:107))の重鎖と軽鎖とそれぞれ交換した改変抗体に対するカルシウムイオンの結合が評価された。参考実施例2に示される方法に準じて測定された改変抗体のTm値を表26に示した。その結果、6KC4-1#85抗体の重鎖をもつ改変抗体のTm値がカルシウムイオンの濃度によって変化するため、6KC4-1#85抗体の重鎖でカルシウムと結合していると考えられた。
Figure 2022000472
そこで、さらに6KC4-1#85抗体の重鎖のどの残基とカルシウムイオンが結合しているか同定するために、6KC4-1#85抗体のCDRに存在するAsp(D)残基をカルシウムイオンの結合もしくはキレートに関与できないAla(A)残基に置換した改変重鎖(6_H1-11(配列番号:108)、6_H1-12(配列番号:109)、6_H1-13(配列番号:110)、6_H1-14(配列番号:111)、6_H1-15(配列番号:112))および改変軽鎖(6_L1-5(配列番号:113)および6_L1-6(配列番号:114))が作製された。改変抗体遺伝子を含む発現ベクターが導入された動物細胞の培養液から、改変抗体が参考実施例15に記載された方法にしたがって精製された。精製された改変抗体のカルシウム結合が、参考実施例2に記載された方法にしたがって測定された。測定された結果を表27に示した。表27に示したように、6KC4-1#85抗体の重鎖CDR3の95位または101位(Kabatナンバリング)をAla残基に置換することによって6KC4-1#85抗体のカルシウム結合能が失われることから、この残基がカルシウムとの結合に重要であると考えられる。6KC4-1#85抗体の改変抗体のカルシウム結合性から明らかになった6KC4-1#85抗体の重鎖CDR3のループ付け根付近に存在するカルシウム結合モチーフも、参考実施例7で記載されるようなCaライブラリのデザインの新たな要素となりうる。すなわち、参考実施例7では軽鎖可変領域にカルシウム結合モチーフが導入されたが、たとえば6KC4-1#85抗体の重鎖CDR3を含み、軽鎖を含むそれ以外のCDRにフレキシブル残基を含むライブラリが考えられる。
Figure 2022000472
(参考実施例18)ノーマルマウスを用いたCa依存性結合抗体の抗原の血漿中滞留性への影響の評価
(18−1)ノーマルマウスを用いたin vivo試験
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)にhsIL-6R(可溶型ヒトIL-6レセプター:参考実施例21にて作製)を単独投与もしくはhsIL-6Rおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体を同時投与した後のhsIL-6Rおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体の体内動態が評価された。hsIL-6R溶液(5μg/mL)、もしくは、hsIL-6Rと抗ヒトIL-6レセプター抗体の混合溶液が尾静脈に10 mL/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体としては、前記のH54/L28-IgG1、6RL#9-IgG1、FH4-IgG1が使用された。
混合溶液中のhsIL-6R濃度は全て5μg/mLであるが、抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度は抗体毎に異なり、H54/L28-IgG1は0.1 mg/mL、6RL#9-IgG1およびFH4-IgG1は10 mg/mL、このとき、hsIL-6Rに対して抗ヒトIL-6レセプター抗体は十分量過剰に存在することから、hsIL-6Rは大部分が抗体に結合していると考えられる。投与後15分、7時間、1日、2日、4日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、12,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫で保存された。
(18−2)ELISA法によるノーマルマウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度の測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度はELISA法にて測定された。まずAnti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度として0.64、0.32、0.16、0.08、0.04、0.02、0.01μg/mLの検量線試料および100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料のそれぞれが分注されたAnti-Human IgG固相化プレートが25℃で1時間インキュベーションされた。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)を25℃で1時間反応させた後にStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を25℃で0.5時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて発色反応が行われた。1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)によって発色反応が停止された後、マイクロプレートリーダーを用いて発色液の450 nmにおける吸光度が測定された。解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて、マウス血漿中濃度が検量線の吸光度を基準として算出された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおけるH54/L28-IgG1、6RL#9-IgG1、FH4-IgG1の血漿中の抗体濃度の推移を図19に示した。
(18−3)電気化学発光法による血漿中のhsIL-6R濃度の測定
マウスの血漿中hsIL-6R濃度は電気化学発光法にて測定された。2000、1000、500、250、125、62.5、31.25 pg/mLに調整されたhsIL-6R検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿測定試料と、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)およびトシリズマブ(重鎖配列番号:96、軽鎖配列番号:97)溶液との混合液を4℃で1晩反応させた。サンプル中のFree Ca濃度を低下させ、サンプル中のほぼ全てのhsIL-6Rが6RL#9-IgG1もしくはFH4-IgG1から解離し、添加したトシリズマブと結合した状態とするために、その際のAssay bufferには10 mM EDTAが含まれていた。その後、当該反応液がMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに25℃で1時間反応させたプレートの各ウェルが洗浄された後、各ウェルにRead Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された。ただちに反応液はSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)を用いて測定された。hSIL-6R濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。前記の方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおける血漿中のhsIL-6Rの濃度推移を図20に示した。
その結果、hsIL-6R単独では非常に早い消失を示したのに対して、hsIL-6RとCa依存的な結合が無い通常の抗体であるH54/L28-IgG1を同時に投与した場合は、hsIL-6Rの消失を大幅に遅くした。それに対して、hsIL-6Rと100倍以上のCa依存的な結合を有する6RL#9-IgG1あるいはFH4-IgG1を同時に投与した場合は、hsIL-6Rの消失が大幅に加速された。H54/L28-IgG1を同時に投与した場合と比較して、6RL#9-IgG1およびFH4-IgG1を同時に投与した場合は、一日後の血漿中のhsIL-6R濃度はそれぞれ39倍および2倍低減された。これよりカルシウム依存的結合抗体が血漿中からの抗原の消失を加速可能であることが確認された。
(参考実施例19)Ca依存的抗原結合抗体の抗原消失加速効果の向上検討(抗体作製)
(19−1)IgG抗体のFcRnへの結合に関して
IgG抗体はFcRnに結合することで長い血漿中滞留性を有する。IgGとFcRnの結合は酸性条件下(pH6.0)においてのみ認められ、中性条件下(pH7.4)においてその結合はほとんど認められない。IgG抗体は非特異的に細胞に取り込まれるが、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内のFcRnに結合することによって細胞表面上に戻り、血漿中の中性条件下においてFcRnから解離する。IgGのFc領域に変異を導入し、酸性条件下におけるFcRnへの結合を失わせると、エンドソーム内から血漿中にリサイクルされなくなるため、抗体の血漿中滞留性は著しく損なわれる。
IgG抗体の血漿中滞留性を改善させる方法として、酸性条件下におけるFcRnへの結合を向上させる方法が報告されている。IgG抗体のFc領域にアミノ酸置換を導入し、酸性条件下のFcRnへの結合を向上させることによって、エンドソーム内から血漿中へのIgG抗体のリサイクル効率が上昇する。その結果、IgG抗体の血漿中の滞留性が改善する。アミノ酸の置換を導入する際に重要と考えられているのは、中性条件下におけるFcRnへの結合を高めないことであった。中性条件下においてFcRnに結合するIgG抗体は、エンドソーム内の酸性条件下においてFcRnに結合することによって細胞表面上に戻ることはできても、中性条件下の血漿中においてIgG抗体がFcRnから解離せず血漿中にリサイクルされないために、逆にIgG抗体の血漿中滞留性は損なわれると考えられていた。
例えば、Dall' Acquaら(J. Immunol. (2002) 169 (9), 5171-5180)に記載されているように、マウスに投与された、アミノ酸置換を導入することによって中性条件下(pH7.4)においてマウスFcRnに対する結合が認められるようになったIgG1抗体の血漿中滞留性が悪化することが報告されている。また、Yeungら(J. Immunol. (2009) 182 (12), 7663-7671)、Datta-Mannanら(J. Biol. Chem. (2007) 282 (3), 1709-1717)、Dall' Acquaら(J. Immunol. (2002) 169 (9), 5171-5180)に記載されているように、アミノ酸置換を導入することによって酸性条件下(pH6.0)におけるヒトFcRnの結合が向上するIgG1抗体改変体は、同時に中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合が認められるようになる。カニクイザルに投与された当該抗体の血漿中滞留性は改善されず、血漿中滞留性に変化が認められなかったことが報告されている。そのため、抗体の機能を向上させる抗体工学技術においては、中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合を増加させることなく酸性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増加させることで抗体の血漿中滞留性を改善させることに注力されていた。すなわち、そのFc領域にアミノ酸置換を導入することによって中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合が増加したIgG1抗体の利点はこれまで報告されていない。
Ca依存的に抗原に結合する抗体は、可溶型の抗原の消失を加速させ、ひとつの抗体分子が複数回繰り返し可溶型の抗原に結合する効果を有することから、極めて有用である。この抗原消失加速効果をさらに向上させる方法として、中性条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を増強する方法が検証された。
(19−2)中性条件下におけるFcRnに対する結合活性を有するCa依存的ヒトIL-6レセプター結合抗体の調製
カルシウム依存的抗原結合能を有するFH4-IgG1、6RL#9-IgG1、および対照として用いられたカルシウム依存的抗原結合能を有しないH54/L28-IgG1のFc領域にアミノ酸変異を導入することによって、中性条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を有する改変体が作製された。アミノ酸の変異の導入はPCRを用いた当業者公知の方法を用いて行われた。具体的には、IgG1の重鎖定常領域に対して、EUナンバリングで表される434位のアミノ酸であるAsnがTrpに置換されたFH4-N434W(重鎖配列番号:115、軽鎖配列番号:101)と6RL#9-N434W(重鎖配列番号:116、軽鎖配列番号:99)とH54/L28-N434W(重鎖配列番号:117、軽鎖配列番号:39)が作製された。QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法を用いてそのアミノ酸が置換された変異体をコードするポリヌクレオチドが挿入された動物細胞発現ベクターが作製された。抗体の発現、精製、濃度測定は参考実施例11に記載された方法に準じて実施された。
(参考実施例20)ノーマルマウスを用いたCa依存性結合抗体の消失加速効果の評価
(20−1)ノーマルマウスを用いたin vivo試験
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)にhsIL-6R(可溶型ヒトIL-6レセプター:参考実施例20にて作製)が単独で投与された、もしくはhsIL-6Rおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体が同時投与された後のhsIL-6Rおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体の体内動態が評価された。hsIL-6R溶液(5μg/mL)、もしくは、hsIL-6Rと抗ヒトIL-6レセプター抗体の混合溶液が尾静脈に10 mL/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体として、上述のH54/L28-N434W、6RL#9-N434W、FH4-N434Wが使用された。
混合溶液中のhsIL-6R濃度は全て5μg/mLであるが、抗ヒトIL-6レセプター抗体の濃度は抗体毎に異なり、H54/L28-N434Wは0.042 mg/mL、6RL#9-N434Wは0.55 mg/mL、FH4-N434Wは1 mg/mLに調製された。このとき、hsIL-6Rに対して抗ヒトIL-6レセプター抗体は十分量過剰に存在するため、hsIL-6Rの大部分は抗体に結合していると考えられた。投与後15分、7時間、1日、2日、4日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、12,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫で保存された。
(20−2)ELISA法によるノーマルマウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体の濃度の測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度は参考実施例18と同様のELISA法によって測定された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおけるH54/L28-N434W、6RL#9-N434W、FH4-N434W抗体の血漿中の抗体濃度の推移を図21に示した。
(20−3)電気化学発光法による血漿中hsIL-6R濃度測定
マウスの血漿中hsIL-6R濃度が電気化学発光法にて測定された。2000、1000、500、250、125、62.5、31.25 pg/mLに調製されたhsIL-6R検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿測定試料と、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)との混合液を4℃で1晩反応させた。サンプル中のFree Ca濃度を低下させ、サンプル中のほぼ全てのhsIL-6Rが6RL#9-N434WもしくはFH4-N434Wから解離し、free体として存在する状態とするために、その際のAssay bufferには10 mM EDTAが含まれていた。その後、当該反応液がMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに25℃で1時間反応させたプレートの各ウェルが洗浄された後、各ウェルにRead Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された。ただちに反応液はSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)を用いて測定された。hSIL-6R濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。前記の方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおける血漿中のhsIL-6Rの濃度推移を図22に示した。
その結果、pH7.4におけるFcRnに対する結合活性を有する一方でhsIL-6Rに対するCa依存的な結合活性を有しないH54/L28-N434W抗体が同時に投与された場合は、hsIL-6Rが単独で投与された場合と比較して、hsIL-6Rの消失が大幅に遅延した。それに対して、hsIL-6Rに対して100倍以上のCa依存的な結合を有し、pH7.4におけるFcRnに対する結合を有する6RL#9-N434W抗体またはFH4-N434W抗体が同時に投与された場合は、hsIL-6Rが単独で投与された場合よりもhsIL-6Rの消失が加速された。hsIL-6Rが単独で投与された場合と比較して、6RL#9-N434W抗体またはFH4-N434W抗体が同時に投与された場合は、投与後一日での血漿中のhsIL-6R濃度がそれぞれ3倍および8倍低減した。この結果、カルシウム依存的に抗原に対して結合する抗体に対して、pH7.4におけるFcRnに対する結合活性を付与することによって、血漿中からの抗原の消失がさらに加速し得ることが確認された。
hsIL-6Rに対するCa依存的な結合を有しないH54/L28-IgG1抗体と比較して、hsIL-6Rに対して100倍以上のCa依存的な結合活性を有する6RL#9-IgG1抗体またはFH4-IgG1抗体は、hsIL-6Rの消失を増大させる効果が確認された。hsIL-6Rに対して100倍以上のCa依存的な結合を有し、pH7.4におけるFcRnに対する結合を有する6RL#9-N434W抗体またはFH4-N434W抗体は、hsIL-6Rの消失をhsIL-6R単独の投与よりも加速することが確認された。これらのデータは、pH依存的に抗原に結合する抗体と同様、Ca依存的に抗原に結合する抗体がエンドソーム内で抗原を解離することを示唆している。
(参考実施例21)可溶型ヒトIL-6レセプター(hsIL-6R)の調製
抗原であるヒトIL-6レセプターの組換えヒトIL-6レセプターは以下のように調製された。Mullberg ら(J. Immunol. (1994) 152, 4958-4968)で報告されているN末端側1番目から357番目のアミノ酸配列からなる可溶型ヒトIL-6レセプター(以下、hsIL-6R)のCHO定常発現株が当業者公知の方法で構築された。当該発現株を培養することによって、hsIL-6Rが発現した。得られた培養上清から、Blue Sepharose 6 FFカラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーによってhsIL-6Rが精製された。最終工程においてメインピークとして溶出された画分が最終精製品として用いられた。
(参考実施例22)pH依存的結合抗体ライブラリの設計
(22−1)pH依存的結合抗体の取得方法
WO2009/125825は抗原結合分子にヒスチジンを導入することにより、pH中性領域とpH酸性領域で性質が変化するpH依存的抗原結合抗体を開示している。開示されたpH依存的結合抗体は、所望の抗原結合分子のアミノ酸配列の一部をヒスチジンに置換する改変によって取得されている。改変する対象の抗原結合分子を予め得ることなく、pH依存的結合抗体をより効率的に取得するために、ヒスチジンが可変領域(より好ましくは抗原結合に関与する可能性がある位置)に導入された抗原結合分子の集団(Hisライブラリと呼ぶ)から所望の抗原に結合する抗原結合分子を取得する方法が考えられる。Hisライブラリから得られる抗原結合分子は通常の抗体ライブラリよりもヒスチジンが高頻度に出現するため、所望の性質を有する抗原結合分子が効率的に取得できると考えられる。
(22−2)pH依存的に抗原に結合する結合抗体が効率よく取得できるように、ヒスチジン残基が可変領域に導入された抗体分子の集団(Hisライブラリ)の設計
まず、Hisライブラリでヒスチジンを導入する位置が選択された。WO2009/125825ではIL-6レセプター抗体、IL-6抗体およびIL-31レセプター抗体の配列中のアミノ酸残基をヒスチジンに置換することでpH依存的抗原結合抗体が作製されたことが開示されている。さらに、抗原結合分子のアミノ酸配列をヒスチジンに置換することによって、pH依存的抗原結合能を有する、抗卵白リゾチウム抗体(FEBS Letter 11483, 309, 1, 85-88)および抗ヘプシジン抗体(WO2009/139822)が作製されている。IL-6レセプター抗体、IL-6抗体、IL-31レセプター抗体、卵白リゾチウム抗体およびヘプシジン抗体でヒスチジンを導入した位置を表28に示した。表28に示した位置は、抗原と抗体との結合を制御できる位置の候補として挙げられ得る。さらに表28で示された位置以外でも、抗原と接触する可能性が高い位置も、ヒスチジンを導入する位置として適切であると考えられた。
Figure 2022000472
重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成されるHisライブラリのうち、重鎖可変領域はヒト抗体配列が使用され、軽鎖可変領域にヒスチジンが導入された。Hisライブラリでヒスチジンを導入する位置として、上記で挙げられた位置と、抗原結合に関与する可能性がある位置、すなわち軽鎖の30位、32位、50位、53位、91位、92位および93位(Kabatナンバリング、Kabat EA et al. 1991. Sequence of Proteins of Immunological Interest. NIH)が選択された。またヒスチジンを導入する軽鎖可変領域のテンプレート配列として、Vk1配列が選択された。テンプレート配列に複数のアミノ酸を出現させてライブラリを構成する抗原結合分子の多様性が拡げられた。複数のアミノ酸を出現させる位置は、抗原と相互作用する可能性が高い可変領域の表面に露出する位置が選択された。具体的には、軽鎖の30位、31位、32位、34位、50位、53位、91位、92位、93位、94位および96位(Kabatナンバリング、Kabat EA et al. 1991. Sequence of Proteins of Immunological Interest. NIH)が、こうしたフレキシブル残基として選択された。
次に出現させるアミノ酸残基の種類とその出現率が設定された。Kabatデータベース(KABAT, E.A. ET AL.: 'Sequences of proteins of immunological interest', vol. 91, 1991, NIH PUBLICATION)に登録されているhVk1とhVk3の配列中のフレキシブル残基におけるアミノ酸の出現頻度が解析された。解析結果を元に、各位置で出現頻度が高いアミノ酸からHisライブラリで出現させるアミノ酸の種類が選択された。この際、アミノ酸の性質が偏らないように解析結果では出現頻度が少ないと判定されたアミノ酸も選択された。また、選択されたアミノ酸の出現頻度は、Kabatデータベースの解析結果を参考にして設定された。
以上のように設定されたアミノ酸および出現頻度を考慮することによって、Hisライブラリとして、ヒスチジンが各CDRで1つ必ず入るように固定されているHisライブラリ1とHisライブラリ1よりも配列の多様性が重視されたHisライブラリ2が設計された。Hisライブラリ1およびHisライブラリ2の詳細なデザインは表3および表4に示されている(各表中の位置はKabatナンバリングを表す)。また、表3および4で記載されるアミノ酸の出現頻度は、Kabatナンバリングで表される92位がAsn(N)の場合、94位はSer(S)を除外することができる。
(参考実施例23)pH依存的に抗原に結合する抗体を取得するためのヒト抗体ファージディスプレイライブラリ(Hisライブラリ1)の作製
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型としてPCR法により抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリが増幅された。参考実施例22に記載のHisライブラリ1として設計された抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリが、PCR法を用いて増幅された。このように作製された抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリと抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリとの組合せがファージミドベクターへ挿入され、ヒト抗体配列からなるFabドメインを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリが構築された。構築方法として、(Methods Mol Biol. (2002) 178, 87-100)が参考とされた。上記ライブラリの構築に際しては、ファージミドのFabとファージpIIIタンパク質をつなぐリンカー部分、および、ヘルパーファージpIIIタンパク遺伝子のN2ドメインとCTドメインの間にトリプシン切断配列が挿入されたファージディスプレイライブラリの配列が使用された。抗体遺伝子ライブラリが導入された大腸菌から単離された抗体遺伝子部分の配列が確認され、132クローンの配列情報が得られた。設計されたアミノ酸分布と、確認された配列中のアミノ酸の分布を、図23に示した。設計されたアミノ酸分布に対応する多様な配列を含むライブラリが構築された。
(参考実施例24)pH依存的にIL-6Rに結合する抗体の取得
(24−1)ビーズパンニングによるライブラリからのpH依存的に抗原に結合する抗体断片の取得
構築されたHisライブラリ1からの最初の選抜は、抗原(IL-6R)への結合能をもつ抗体断片のみの濃縮によって実施された。
構築したファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われた。ファージ産生が行われた大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによって沈殿させたファージの集団をTBSにて希釈することによってファージライブラリ液が得られた。ファージライブラリ液にBSAおよびCaCl2を添加することによって終濃度4% BSA、1.2mMカルシウムイオンとなるよう調製された。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18(2) 212-20、Mol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。
具体的には、調製されたファージライブラリ液に250 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、当該ファージライブラリ液を室温にて60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温にて15分間結合させた。ビーズは1 mLの1.2 mM CaCl2/TBST(1.2 mM CaCl2、0.1% Tween20を含むTBS)にて3回洗浄された後、1 mLの1.2 mM CaCl2/TBS(pH7.6)にてさらに2回洗浄された。その後、1mg/mLのトリプシン0.5mLが加えられたビーズは室温で15分懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株ER2738に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は、225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリ液が調製された。
2回目以降のパンニングでは、抗原結合能もしくはpH依存的結合能を指標にファージの濃縮が行われた。具体的には、調製したファージライブラリ液に40 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、ファージライブラリを室温で60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温で15分間結合させた。ビーズは1 mLの1.2 mM CaCl2/TBSTと1.2 mM CaCl2/TBSにて複数回洗浄された。その後抗原結合能を指標として濃縮する場合は、1mg/mLのトリプシン0.5mLが加えられたビーズは室温で15分懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。pH依存的抗原結合能を指標に濃縮する場合は、0.1mLの50mM MES/1.2mM CaCl2/150mM NaCl(pH5.5)が加えられたビーズは室温で懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、回収されたファージ溶液に、100mg/mLのトリプシン5μLを加えることによって、Fabを提示しないファージのpIIIタンパク質(ヘルパーファージ由来のpIIIタンパク質)が切断され、Fabを提示しないファージの大腸菌に対する感染能を失わせた。回収されたファージが、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株ER2738に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによってファージライブラリ液が回収された。抗原結合能もしくはpH依存的結合能を指標とするパンニングが2回繰り返された。
(24−2)ファージELISAによる評価
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習い、ファージ含有培養上清が回収された。
終濃度4%BSAおよびカルシウムイオン濃度1.2 mMとなるようBSAおよびCaCl2が加えられたファージを含有する培養上清が以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がビオチン標識抗原を含む100μLのPBSにて一晩コートされた。当該プレートの各ウェルをPBST(0.1%Tween20を含むPBS)にて洗浄することによって抗原が除かれた後、当該ウェルが4% BSA-TBS 250μLにて1時間以上ブロッキングされた。4% BSA-TBSが除かれた各ウェルに調製された培養上清が加えられた当該プレートを37℃で1時間静置することによって、ファージを提示する抗体を各ウェルに存在する抗原に結合させた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された各ウェルに、1.2 mM CaCl2/TBS(pH7.6)もしくは1.2 mM CaCl2/TBS(pH5.5)が加えられ、当該プレートは37℃で30分間静置しインキュベートされた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された後に4% BSAおよびイオン化カルシウム濃度1.2 mMとしたTBSによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)が各ウェルに添加されたプレートを1時間インキュベートさせた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が、硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。
抗原結合能を指標に濃縮した場合、パンニングを2回実施したものについてファージELISAを実施したところ、抗原特異的にELISA陽性となったものは96クローン中17クローンであったため、パンニングを3回実施したものが解析された。一方、pH依存的抗原結合能を指標に濃縮した場合、パンニングを2回実施したものについてファージELISAを実施したところ、ELISA陽性となったものは94クローン中70クローンであったため、パンニングを2回実施したものが解析された。
上記のファージELISAを実施したクローンに対し、特異的なプライマーを用いて増幅された遺伝子の塩基配列が解析された。
ファージELISAおよび配列解析の結果を以下の表29に示す。
Figure 2022000472
同様の方法により、ナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリから、pH依存的抗原結合能をもつ抗体取得が行われた。抗原結合能を指標に濃縮した場合、88クローン評価中13種類のpH依存的結合抗体が取得された。またpH依存的抗原結合能を指標に濃縮した場合、83クローン評価中27種類のpH依存的結合抗体が取得された。
以上の結果より、ナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリと比較し、Hisライブラリ1のほうが得られるpH依存的抗原結合能をもつクローンのバリエーションが多いことが確認された。
(24−3)抗体の発現と精製
ファージELISAの結果、pH依存的な抗原に対する結合能があると判断されたクローンが、動物細胞発現用プラスミドへ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ蒔きこまれた。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(24−4)取得された抗体のヒトIL-6レセプターに対するpH依存的結合能の評価
(24−3)で取得された抗体6RpH#01(重鎖配列番号:118、軽鎖配列番号:119)、および、6RpH#02(重鎖配列番号:120)、軽鎖配列番号:121)、および、6RpH#03(重鎖配列番号:122)、軽鎖配列番号:123)のヒトIL-6レセプターに対する結合活性がpH依存的であるかどうかを判断するため、これらの抗体とヒトIL-6レセプターとの相互作用がBiacore T100(GE Healthcare)を用いて解析された。ヒトIL-6レセプターに対するpH依存性の結合活性を有しない対照抗体として、トシリズマブ(重鎖配列番号:60、軽鎖配列番号:61)が用いられた。中性域pHおよび酸性域pHの条件として、それぞれpH7.4およびpH6.0の溶液中で抗原抗体反応の相互作用が解析された。アミンカップリング法でprotein A/G(Invitrogen)が適当量固定化されたSensor chip CM5(GE Healthcare)上に、目的の抗体がそれぞれ300RU程度キャプチャーされた。ランニングバッファーには20 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% (w/v) Tween20、1.2 mM CaCl2(pH7.4)または20 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% (w/v) Tween20、1.2mM CaCl2(pH6.0)の2種類の緩衝液が用いられた。ヒトIL-6レセプターの希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。測定は全て37℃で実施された。
対照抗体であるトシリズマブ抗体、6RpH#01抗体および6RpH#02抗体および6RpH#03抗体を用いた抗原抗体反応の相互作用の解析に際して、IL-6レセプターの希釈液とブランクであるランニングバッファーを流速5μL/minで3分間インジェクトすることによって、センサーチップ上にキャプチャーさせたトシリズマブ抗体、6RpH#01抗体および6RpH#02抗体および6RpH#03抗体にIL-6レセプターを相互作用させた。その後、10 mM Glycine-HCl(pH1.5)を流速30μL/minで30秒間インジェクトすることによって、センサーチップが再生された。
前記の方法により測定されたpH7.4におけるセンサーグラムを、図24に示す。また同様の方法で取得されたpH6.0の条件下でのセンサーグラムを、図25に示す。
前記の結果から、6RpH#01抗体、6RpH#02抗体および6RpH#03抗体は、バッファー中のpHをpH7.4からpH6.0にすることで、IL6レセプターに対する結合能が大幅に低減することが観察された。
(参考実施例25)ヒトIL-6レセプターノックインマウスの作製
(25−1)ノックインベクターの構築
マウスインターロイキン−6遺伝子(Il6ra)のゲノム領域がクローニングされている大腸菌人工染色体(BAC)クローンを用いた。このBAC上のマウスIl6ra遺伝子の標的領域に、ヒトインターロイキン−6受容体遺伝子のコーディング配列(GeneBank#NM_000565_)、hp7配列、ポリA付加シグナル、loxP配列、ネオマイシン耐性(neo)遺伝子カセットおよびloxPの順に接続したDNA断片を、Red/ETシステム(GeneBridges)を利用して相同組換にて挿入した。その際、BAC上のマウスIl6ra遺伝子のエクソン1に存在する翻訳開始点とヒトIL6R遺伝子の翻訳開始点を一致させるように挿入し、かつマウスIl6ra遺伝子のエクソン1内部の翻訳開始点以降の塩基配列を40塩基対だけ欠損させた。なお、薬剤耐性遺伝子であるneoにはpgk遺伝子のプロモータが付加されており、ES細胞内ではneo遺伝子が発現する。しかしながら、neo遺伝子は上流に導入したhIL6R遺伝子の発現を抑制する可能性が予測される。そこで、後に、neo遺伝子を除去できるように、neo遺伝子の両側にはloxP配列(ATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTAT(配列番号:131))を配置した。Creを作用させると組換えによって、loxP配列の間に挟まれたneo遺伝子が除去される仕組みになっている。次いで、ノックインベクターを線状化可能とするため、BAC上のマウスIl6ra遺伝子の5'側上流の領域に制限酵素NotI認識配列(GCGGCCGC)をアンピシリン耐性遺伝子とともに挿入した。
(25−2)ES細胞への導入
ES細胞(129SvEvマウス由来)に上記のhIL6Rノックインベクターをエレクトロポレーションにより導入し、G418による選択培養後に得られた薬剤耐性クローンより、相同組み換え体をPCR法によってスクリーニングした。ノックインベクターは、60μgをNotIで直鎖状化し、フェノール/クロロホルム抽出後、エタノール沈殿させPBSに溶解して用いた。
スクリーニングで用いるES細胞は96穴プレートで培養し、1ウェルあたり200μlのPBS溶液で2回洗浄後、以下の組成の細胞溶解緩衝液(5μl の10xLA緩衝液II(TAKARA LA Taq用)、5μlの5% NP-40、4μlのプロティナーゼK(TAKARA)(20mg/ml)、36μlの蒸留水)を加えて55℃にて2時間処理し、続いて95℃にて15分処理することで、プロティナーゼKを失活させてPCRサンプルとした。
PCR反応混合物は、1μlのサンプル、2.5μlの10xLA緩衝液II、2.5μlの25 mM MgCl2、4μlのdNTP(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTPが各2.5 mMずつ含まれる)、各0.2μlのプライマー(各50μM)、0.25μlのLA Taq(TAKARA)、および14.35μlの蒸留水を混合して全量25μlとした。また、PCR条件は、94℃にて5分間の前加熱、98℃にて10秒間、68℃にて3分30秒間の増幅サイクルを35サイクル、並びに68℃にて7分間の複加熱の条件とした。
プライマーとしてP6Ra1(フォワード)5'−ACAGGGCCTTAGACTCACAGC−3'(配列番号:132)およびhRLI6 11638R(リバース)5'−AACTTGCTCCCGACACTACTGG−3'(配列番号:133)が使用された。プライマーは、P6Ra1をノックインベクター上の相同アームよりも5'上流側のマウスIl6raゲノム領域に配置し、hRLI6 11638RをhIL6R cDNA内に配置した(図32を参照)。相同組換えを起こしたES細胞のサンプルでは、約2.2kbのバンドが増幅される。
(3)ノックインマウスの作出
相同組換えESクローンをトリプシン処理により浮遊させ、ES細胞培地で洗浄した。48時間間隔で5IUのウマ絨毛ゴナドトロピン(eCG)およびヒト絨毛ゴナドトロピン(hCG)を腹腔内投与することにより、過剰排卵処理を施したC57BL/6J(B6)の雌マウスを同系統の雄マウスと交配した。雌マウスのプラグが確認された日を0.5日とし、妊娠2.5日に子宮および卵管を灌流し、8細胞期から桑実期の胚を回収した。回収した胚を37℃にて一晩培養し、胚盤胞に発生した胚を宿主胚として10〜15個のES細胞を注入した。注入後の胚は、偽妊娠2.5日齢のICR系の受容雌の子宮内に移植し、17日後に産仔を得た。ES細胞の胚盤胞への注入により得られた産仔の毛色での判別により、組換えES細胞(野生色)とホスト胚盤胞由来の細胞(黒色)の混在したキメラマウスが得られた。雄キメラマウスは性成熟後にB6雌マウスと交配し、ノックインアレルの次世代マウスへの伝達を、次世代マウスの尾より抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCR法により確認した。PCRは上述の相同組換ES細胞のスクリーニングの際に利用した方法にて実施した。その結果、2.2kbのシグナルが検出された個体が得られ、これら個体にはノックインアレルが伝達していることが確認された。
(4)neo遺伝子の除去
ノックインアレルの伝達が確認された個体の繁殖により得た受精卵の前核に組換酵素Cre発現ベクターを顕微注入することによって、neo遺伝子カセットを除去した。すなわち、一過性にCreを発現させることによって、ノックインアレルに配置した2ヶ所のloxP間を組み換えが誘導され、neo遺伝子カセットが除去された。Cre発現ベクターの顕微注入後の受精卵は、偽妊娠0.5日のICR系受容雌の卵管内に移植し、19日後に産仔を得た。neo遺伝子カセットの除去は、産仔の離乳後に採取した尾より抽出したゲノムDNAを用いてPCR法によって確認された。
PCR反応液組成は、1μlのサンプル、12.5μlの2xGC緩衝液I、4μlのdNTP(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTPが各2.5 mMずつ含まれる)、各0.25μlのプライマー(各50μM)、0.25μlのLA Taq(TAKARA)、および6.75μlの蒸留水を混合して全量25μlとした。また、PCR条件は、94℃にて4分間の前加熱、94℃にて30秒間、62℃にて30秒間、72℃にて3分間の増幅サイクルを35サイクル、並びに72℃にて7分間の複加熱とした。
プライマーの設定位置は図32Bに示す。プライマーとしては、mRLI6 10355(5'−TCTGCAGTAGCCTTCAAAGAGC−3'(配列番号:134))およびmRLI6 11166R(5'−AACCAGACAGTGTCACATTCC−3'(配列番号:135))を使用した。PCR反応により、neoカセットが除去される前の個体のサンプルでは、ノックインアレルに由来する増幅産物として4.2 kbと野生型アレル由来の0.8 kbのシグナルが検出されるのに対して、neoカセットが除去された個体のサンプルでは約2.7 kbと野生型アレル由来の0.8 kbのシグナルが検出された(図33)。
(6)ヒトIL6RおよびマウスIL6raの発現確認
(6−1)組織RNAを用いたRT-PCR法での確認
ホモ接合体のノックインマウスおよび野生型マウスの組織RNAを用いてRT-PCR法によりヒトIL6RおよびマウスIL6raの発現を解析した。肝臓、脾臓、胸腺、腎臓、心臓および肺より組織RNAを調製した。各1μgの組織RNAを鋳型として、SuperScript II First Strand cDNA Synthesis Kit(Invitrogen)により、Oligo dT(20)プライマーを用いて逆転写反応を行なうことによってcDNAを合成した。合成されたcDNAを鋳型としてPCRを行なうことによって、ヒトIL6RおよびマウスIL6raを検出した。ヒトIL6Rの検出は、ノックインアレルにおけるhIL6R遺伝子の挿入位置である翻訳開始点よりも上流側の5'非翻訳領域に設定したフォワードプライマー6RIK-s1(5'−CCCGGCTGCGGAGCCGCTCTGC−3'(配列番号:136))およびヒトIL6R特異的なリバースプライマーRLI6-a1(5'−ACAGTGATGCTGGAGGTCCTT−3'(配列番号:137))の組合せを使用して実施した。一方、マウスIL6raの検出は、上述のフォワードプライマー6RIK-s1およびマウスIL6ra特異的なリバースプライマー6RLIcA2(5'−AGCAACACCGTGAACTCCTTTG−3'(配列番号:138))の組合せを使用して実施した。PCR反応液の組成は、12.5μlのサンプル、12.5μl の2xGC緩衝液I、4μlのdNTP(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTPが各2.5 mMずつ含まれる)、各0.25μlのプライマー(各50μM)、0.25μlのLA Taq(TAKARA)、および6.75μlの蒸留水を混合して全量25μlとした。また、PCR条件は、94℃にて2分間の前加熱、94℃にて30秒間、62℃にて30秒間、72℃にて1分間の増幅サイクルを30サイクル、並びに72℃にて5分間の複加熱とした。ヒトIL6Rの増幅産物は880 bp、マウスIL6raの増幅産物は846 bpに検出されるが、ホモ接合体のhIL6Rノックインマウスの各組織ではヒトIL6Rのみが検出され、マウスIL6raは検出されなかった。また、野生型マウスの各組織からはヒトIL6Rは検出されず、マウスIL6raのみが検出された(図34)。この結果より、デザイン通りにノックインベクターが相同組み換えを起こし、マウスIL6raのかわりにヒトIL6Rが発現するマウスが得られたことが確認された。
(6−2)血漿中のヒトIL-6R濃度の測定
イソフルラン吸入麻酔下にて開腹し、腹部大静脈より採取した血液より分離した血漿中の可溶型ヒトIL-6R濃度を、Quantikin Human IL-6sR Immunoassay Kit(R&D Systems)を用いて測定した。その結果、血漿中可溶型hIL-6R濃度は、ホモ型のノックインマウスでは22.1 + 5.0 ng/ml、ヘテロ型ノックインマウスでは11.5 + 4.1 ng/mlと定量された。なお、野生型マウスにおいては血漿中に可溶型hIL-6Rは検出されなかった(図35)。ホモ型ノックインマウスでは、ヒトにおいて報告されている血中濃度と同等の濃度(Blood (2008) 112, 3959-3969)であった。
(6−3)種特異的なリガンド反応性の確認
ホモ型ノックインマウスおよび野生型マウスに、4μg/体重kgとなるようマウスIL-6あるいはヒトIL-6を腹腔内投与し、その6時間後に採血して、血中の血清アミロイドA(SAA)濃度を、SAA ELISA Kit(Invitrogen)を用いて定量した。なお、投与用IL-6の溶媒としては、マウス血漿が0.5%となるようにリン酸緩衝生理食塩液(PBS)に添加した溶液を使用し、溶媒のみを投与する対照群を設けた。その結果、ホモ型ノックインマウスはヒとIL-6にのみ反応して血漿SAAレベルの上昇が認められたが、マウスIL-6に対する反応性は認められなかった(図36)。一方、野生型マウスはヒトIL-6にもマウスIL-6にも反応して血漿SAAレベルの上昇が認められた(図36)。マウスIL-6raはマウスIL-6にもヒトIL-6にも結合する一方、ヒトIL-6RはヒトIL-6に結合するがマウスIL-6には結合しないことが知られており、本実験の結果は、この知見に合致するものである。従って、ホモ型ノックインマウスでは、設計通り、マウスIL6raが発現せず、代わりにヒトIL6Rが発現し、かつ機能していることが明らかとなった。
本発明におけるノックインアレルより転写されたhIL6R遺伝子のmRNAは、スプライスアウトされない構造であるため、NMD機構によって分解を受けないが、その一方で、スプライスアウトされない遺伝子の発現量は低くなることが知られている。しかしながら、本発明のhIL6Rノックインマウスでは、血中の可溶型hIL-6R濃度が健常人における血中濃度と同等であり、さらに投与したヒトIL-6にも十分反応してSAAを産生することが確認された。このことは、ポリA付加シグナルとともに挿入したhp7が、スプライスアウトされない構造のために本来であれば低下するはずのhIL6R発現量の安定化に寄与したことを示す。

Claims (16)

  1. イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を有効成分として含む前記抗原に対する免疫応答を誘導する医薬組成物。
  2. 前記イオン濃度が、カルシウムイオン濃度である請求項1に記載の医薬組成物。
  3. 前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での当該抗原に対する結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高いという特徴を有する抗原結合ドメインである請求項2に記載の医薬組成物。
  4. 前記イオン濃度の条件が、pHの条件である請求項1に記載の医薬組成物。
  5. 前記抗原結合ドメインが、pH酸性域の条件下での当該抗原に対する結合活性よりもpH中性域の条件下での抗原に対する結合活性が高いという特徴を有する抗原結合ドメインである請求項4に記載の医薬組成物。
  6. 前記抗原結合分子が、前記抗原に対する中和活性を有する抗原結合分子である請求項1から5のいずれかに記載の医薬組成物。
  7. 前記抗原結合分子が、前記抗原を発現する細胞に対する細胞傷害活性を有する抗原結合分子である請求項1から6のいずれかに記載の医薬組成物。
  8. 前記FcRn結合ドメインが、抗体のFc領域を含む請求項1から7のいずれかに記載の医薬組成物。
  9. 前記Fc領域が、Fc領域のEUナンバリングで表される部位のうち、257位、308位、428位および434位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が、天然型Fc領域の対応する部位のアミノ酸と異なるFc領域である請求項8に記載の医薬組成物。
  10. 前記Fc領域が、Fc領域のEUナンバリングで表される;
    257位のアミノ酸がAla、
    308位のアミノ酸がPro、
    428位のアミノ酸がLeu、および
    434位のアミノ酸がTyr、
    の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸を含むFc領域である請求項8または9に記載の医薬組成物。
  11. 前記Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性が、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりも高いという特徴を有する請求項8から10のいずれかに記載の医薬組成物。
  12. 前記Fcγレセプターが、FcγRIa、FcγRIIa(R)、FcγRIIa(H)、FcγRIIb、FcγRIIIa(V)、またはFcγRIIIa(F)である請求項11に記載の医薬組成物。
  13. 前記Fc領域が、Fc領域におけるEUナンバリングで表される部位のうち、221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位および440位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が、天然型Fc領域の対応する部位のアミノ酸と異なるFc領域である請求項11または12に記載の医薬組成物。
  14. 前記Fc領域が、Fc領域におけるEUナンバリングで表される部位のうち;
    221位のアミノ酸がLysまたはTyrのいずれか、
    222位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
    223位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはLysのいずれか、
    224位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
    225位のアミノ酸がGlu、LysまたはTrpのいずれか、
    227位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
    228位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
    230位のアミノ酸がAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれか、
    231位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
    232位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
    233位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    234位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    235位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    236位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    237位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    238位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    239位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    240位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
    241位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
    243位のアミノ酸がLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
    244位のアミノ酸がHis、
    245位のアミノ酸がAla、
    246位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
    247位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
    249位のアミノ酸がGlu、His、GlnまたはTyrのいずれか、
    250位のアミノ酸がGluまたはGlnのいずれか、
    251位のアミノ酸がPhe、
    254位のアミノ酸がPhe、MetまたはTyrのいずれか、
    255位のアミノ酸がGlu、LeuまたはTyrのいずれか、
    256位のアミノ酸がAla、MetまたはProのいずれか、
    258位のアミノ酸がAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれか、
    260位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
    262位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれか、
    263位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
    264位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
    265位のアミノ酸がAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    266位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
    267位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    268位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
    269位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    270位のアミノ酸がGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
    271位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    272位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    273位のアミノ酸がPheまたはIleのいずれか、
    274位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    275位のアミノ酸がLeuまたはTrpのいずれか、
    276位のアミノ酸が、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    278位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
    279位のアミノ酸がAla、
    280位のアミノ酸がAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
    281位のアミノ酸がAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
    282位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
    283位のアミノ酸がAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれか、
    284位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれか、
    285位のアミノ酸がAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
    286位のアミノ酸がGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれか、
    288位のアミノ酸がAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれか、
    290位のアミノ酸がAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、291位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれか、
    292位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれか、
    293位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    294位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    295位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    296位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれか、
    297位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    298位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    299位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    300位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
    301位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
    302位のアミノ酸がIle、
    303位のアミノ酸がAsp、GlyまたはTyrのいずれか、
    304位のアミノ酸がAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれか、
    305位のアミノ酸がGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれか、
    311位のアミノ酸がAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
    313位のアミノ酸がPhe、
    315位のアミノ酸がLeu、
    317位のアミノ酸がGluまたはGln、
    318位のアミノ酸がHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
    320位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    322位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    323位のアミノ酸がIle、
    324位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    325位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    326位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    327位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    328位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    329位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    330位のアミノ酸がCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    331位のアミノ酸がAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    332位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    333位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
    334位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれか、
    335位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
    336位のアミノ酸がGlu、LysまたはTyrのいずれか、
    337位のアミノ酸がGlu、HisまたはAsnのいずれか、
    339位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれか、
    376位のアミノ酸がAlaまたはValのいずれか、
    377位のアミノ酸がGlyまたはLysのいずれか、
    378位のアミノ酸がAsp、
    379位のアミノ酸がAsn、
    380位のアミノ酸がAla、AsnまたはSerのいずれか、
    382位のアミノ酸がAlaまたはIleのいずれか、
    385位のアミノ酸がGlu、
    392位のアミノ酸がThr、
    396位のアミノ酸がLeu、
    421位のアミノ酸がLys、
    427位のアミノ酸がAsn、
    428位のアミノ酸がPheまたはLeuのいずれか、
    429位のアミノ酸がMet、
    434位のアミノ酸がTrp、
    436位のアミノ酸がIle、および
    440位のアミノ酸がGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれか、
    の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸を含むFc領域である請求項11から13のいずれかに記載の医薬組成物。
  15. 前記天然型Fc領域が、EUナンバリング297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖であるヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3またはヒトIgG4のいずれかのFc領域である請求項11から14のいずれかに記載の医薬組成物。
  16. 前記Fc領域が、Fc領域のEUナンバリング297位に結合した糖鎖の組成がフコース欠損糖鎖を結合したFc領域の割合が高くなるように、またはバイセクティングN-アセチルグルコサミンが付加したFc領域の割合が高くなるように修飾されたFc領域である請求項11から15のいずれかに記載の医薬組成物。
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